12
-総説 SPECT による脳血流量の定量測定 松田博史 SPECT による脳血流測定に用いられるトレーサには現在,拡散性トレーサとして, 133Xe ガスまたは 注射液,蓄積型トレーサとして, 123I_IMP 9 h π I 血を必要とするものに,出I-IMP 持続動脈採血法, 123I_IMP オートラジオグラフィ法があり,採血を必 要としないものに, AO または蜘Tc-ECD によるパトラッ クプロット法がある.パトラックプロット法は簡便であり,得られる大脳半球の脳血流指数も他の観血 的測定法で得られた脳血流量と良好な相関を示す.従って,脳血流指数を他の測定法で得られた脳血流 量への換算式により大脳半球平均への血流量へ変換することができる.大脳平均の脳血流量から局所脳 血流量への分配には Lassen らの補正式を用いる.蜘Tc-HMPAO または蜘Tc-ECD は脳内における停滞 機序が酵素に関連するため,特有の分布を示し,脳血流との直線性が他のトレ}サに比べて劣る 1 'I-IMP l 回循環での脳内へのトレーサ摂取率が高く, トレーサ集積率と脳血流量の直線性が高いため,脳血 流を忠実に反映できることが最大の利点である.国I-IMP オ}トラジオグラフィ法では I 回の動脈採血 で測定が可能である 1 Xe 方、ス吸入または静注法は,繰返し測定が無採血で可能なものの,空間分解 能が低く,放射線被曝が多いことが欠点であり,使用頻度が減っている. (脳循環代謝 12: 2000) キーワード:脳血流, SPECT 1 I-IMP ,四mTc-ECD 99mTc_HMP AO 1. はじめに 脳血流 SPECT による定量的評価はびまん性脳 血流低下の検出,経過観察,治療効果の判定など に必須であり,半定量的評価法と真の定量的評価 法に分かれる.半定量的評価法とは脳血流分布を 数値化する手法であり,現在まで種々の報告がな されている.左右比が最も一般的であるが,小脳 または全脳平均に対する集積比の報告も多い.た だし,これらの方法では,ぴまん性の血流低下は 検出しえない.また,神経投射系を介して,ある 国立精神・神経センター武蔵病院放射線診療部 187-8551 小平市小川東町 4-1-1 -115 病変が他の遠隔部位に抑制または興奮を引き起こ すことがある.このため局所病変が神経親維連絡 のある他の部位に影響を及ぼすため,参照となる 健常部は必ずしも正常血流を有するとは言えな い.これらの半定量的評価法の欠点を克服するた め真の定量的評価法が必要となる.真の定量的評 価法とは,脳血流の絶対値もしくはそれに比例す る指数を求める方法である.また, トレーサの集 積率の変化が脳血流の変化率に比例するものであ れば,何らかの負荷を行った場合,前後でそれぞ れ脳血流の絶対値を求めなくても変化率を知るこ とができる. SPECT において脳血流の測定には 次の 2 種類のトレーサが用いられる.まず,血液 脳関門を自由に通過し,すみやかに脳組織に拡散

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-総 説

SPECTによる脳血流量の定量測定

松田博 史

要~ 国

SPECTによる脳血流測定に用いられるトレーサには現在,拡散性トレーサとして, 133Xeガスまたは

注射液,蓄積型トレーサとして, 123I_IMP, 99助hπ吋I

血を必要とするものに,出I-IMP持続動脈採血法, 123I_IMPオートラジオグラフィ法があり,採血を必

要としないものに, 133Xe ガス吸入または静注法および~9mTc-HMPAOまたは蜘Tc-ECDによるパトラッ

クプロット法がある.パトラックプロット法は簡便であり,得られる大脳半球の脳血流指数も他の観血

的測定法で得られた脳血流量と良好な相関を示す.従って,脳血流指数を他の測定法で得られた脳血流

量への換算式により大脳半球平均への血流量へ変換することができる.大脳平均の脳血流量から局所脳

血流量への分配には Lassenらの補正式を用いる.蜘Tc-HMPAOまたは蜘Tc-ECDは脳内における停滞

機序が酵素に関連するため,特有の分布を示し,脳血流との直線性が他のトレ}サに比べて劣る 1田'I-IMP

はl回循環での脳内へのトレーサ摂取率が高く, トレーサ集積率と脳血流量の直線性が高いため,脳血

流を忠実に反映できることが最大の利点である.国I-IMPオ}トラジオグラフィ法では I回の動脈採血

で測定が可能である 1四Xe方、ス吸入または静注法は,繰返し測定が無採血で可能なものの,空間分解

能が低く,放射線被曝が多いことが欠点であり,使用頻度が減っている.

(脳循環代謝 12 : 115~126, 2000)

キーワード:脳血流, SPECT, 1田I-IMP,四mTc-ECD,99mTc_HMP AO

1. はじめに

脳血流 SPECTによる定量的評価はびまん性脳

血流低下の検出,経過観察,治療効果の判定など

に必須であり,半定量的評価法と真の定量的評価

法に分かれる.半定量的評価法とは脳血流分布を

数値化する手法であり,現在まで種々の報告がな

されている.左右比が最も一般的であるが,小脳

または全脳平均に対する集積比の報告も多い.た

だし,これらの方法では,ぴまん性の血流低下は

検出しえない.また,神経投射系を介して,ある

国立精神・神経センター武蔵病院放射線診療部

〒187-8551 小平市小川東町4-1-1

-115

病変が他の遠隔部位に抑制または興奮を引き起こ

すことがある.このため局所病変が神経親維連絡

のある他の部位に影響を及ぼすため,参照となる

健常部は必ずしも正常血流を有するとは言えな

い.これらの半定量的評価法の欠点を克服するた

め真の定量的評価法が必要となる.真の定量的評

価法とは,脳血流の絶対値もしくはそれに比例す

る指数を求める方法である.また, トレーサの集

積率の変化が脳血流の変化率に比例するものであ

れば,何らかの負荷を行った場合,前後でそれぞ

れ脳血流の絶対値を求めなくても変化率を知るこ

とができる. SPECTにおいて脳血流の測定には

次の 2種類のトレーサが用いられる.まず,血液

脳関門を自由に通過し,すみやかに脳組織に拡散

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脳循環代 謝 第 12巻 第 2号

し洗い出される拡散性トレーサとして, 133Xeガ

スまたは注射液がある.一方,血液脳関門を通過

しすみやかに脳組織に拡散した後,脳内に長く

とどまる蓄積型トレーサとして, N-isopropyl-[凶1]

p-iodoamphetamine (!23I_IMP) , 田町、Tc-hexamethy-

lpropylene amine oxime (99mTc・HMPAO), 蜘 Tc-

ethyl cysteinate dimer (田町、Tc・ECD)がある.脳

血流測定用のトレーサは,血液脳関門をなるべく

自由に通過しなければならない.この通過性の指

4票として, permeability surface area product (PS

product)がある.これは, 単位断面体積あたり

の透過率 (permeability)と通過する血管の総表

面積 (surfacearea)の積で表される.PS product

が高いほど,初回循環でのトレーサの脳内摂取率

(Extraction Fraction ; EF)が高くなり,高血流

域でも忠実に脳血流量を反映することができる.

脂溶性の高いトレーサほどPSproductは高 く,

水溶性になるに従って低下する.fを脳血流量と

すると, EF = 1 -exp ( -PS/白という関係が想

定されているυ.

2.脳血流トレーサの特徴

現在使用されている脳血流用トレーサの特徴を

以下に述べる.

a) I33Xe

133Xeは組織内で産生も代謝もされない不活性

ガスであり血液脳関門を自由に通過しうる拡散性

物質である.その動態モデルを図 1に示す. 1979

年, KannoとLassen2)により, 133Xeクリアラン

ス法による従来の2次元の脳血流測定を SPECT

を用いた 3次元測定に応用しようという試みが報

告された.この方法では採血することなく非侵襲

的に脳血流量を算出することが可能で、ある 133Xe

の投与量は吸入法で1.85GBq強必要で、あり,放

射線被曝が多い.統計雑音軽減のため画像マトリ

クスが粗く解像力に劣るのが最大の欠点である.

また,高速に投影データを収集するダイナミ ック

SPECT装置が必要である.利点は,非侵襲的に

繰り返し脳血流測定が可能なことである.

133Xe, 123トIMPの脳内挙動

血液脳関門

Blood ! Brain K咽(1211-1MP)

K,(1ぷ:

図 1.133Xeと123I_IMPの脳内動態モデル.

123I_IMPのKlはk2に比べて大きく,脳血液分配係数

が高い.

b) 1231・IMP

1980年に開発された N-isopropyl-p-[123日iodoa-

mphetamine ('23I_IMP)は中性の脂溶性物質であ

るの.静注後,ほとんどが肺に取り込まれ,その

後,動脈血中に放出される.血液中の間I-IMPは,

血液脳関門を通過し,最初の循環でほぼ100%脳

内に取り込まれる.投与量の約 8%が脳に取り込

まれ,以後長時間脳内に停滞する.脳の放射能は

投与後 20~30 分でピークに達する.脳内での代

謝産物は脂溶性の p-[吋]iodoamphetamineであ

るが,この物質の脳内挙動は123I_IMPとほぼ同等

である.血液中には p-[1231] iodobenzoic acidなど

の水溶性代謝産物が存在するが血液脳関門が正常

の場合には脳内には取り込まれない.その動態モ

デルを図 lに示す. 123I_IMPの脳内停滞機序に関

しては大容量で親和性の低い細胞成分に結合して

いるという説が有力である 4) 123I_IMPの脳内分

布は時間とともに緩徐に変化する.静注後 1時間

以内の早期像では脳血流の多寡に応じて皮質およ

び中心灰白質で高く,白質で低い脳内分布を示す.

一方,静注後 3時間以降の晩期像では灰白質と白

質の放射能の差は軽減し,より均一な集積様式を

示す. J23I-IMPの早期像で集積低下を示した部位

が晩期像で他の部位と集積の差がなくなる現象を

再分布と呼んで、いる.当初この現象は脳組織の生

存能力を示し,脳代謝とも関連するのではないか

phv

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SPECTによる脳血流量の定量測定

99mTc-ECD,99rnTc-HMPAOの脳内挙動

血液脳関門

Blood Brain

k3

k2 脂溶性 (k,,)

つ k可 (Tc-蜘 ECDのみ、 Tc羽 m..J HMPAOでは考慮しない)

図2.蜘 Tc-HlvIPAOと99mTc_ECDの脳内動態モデル.

kl, k,は無視してよい.蜘Tc-ECDでは脳内で水溶性代謝物に変化した後もわずかで

はあるが,脳内から血液内へ逆拡散する.

と報告されていた5)が,否定的な結果もみられ

るべしかし,高血流域においても123I-1MPの脳

放射能と血流量の比例直線性は良好であり, mL

1MPは優れた脳血流トレーサーである. 1231_1MP

の脳血液分配係数は 20以上と極めて高く,血液

中の放射能が低い.また,血球中では代謝されな

い. このことにより札, lm泊勺1-1目-1MPでで、は脳血流の絶対

値を採血により測定することが可能である円

c) 99蜘町mTc-HMPAO

SPECT用の脳血流シンチグラフィ用剤として

重要な条件は脳組織への高い集積率と,長時間に

わたる脳への停滞である.この条件を満たす開mTc

標識薬剤として蜘Tc-hexamethyl-propyleneami

ne oxime (蜘'Tc-HMPAO)が開発された8) 的mTc_

HMPAO は蜘Tc標識キットであり緊急時にも対

応しうる.調製直後の標識率は 90%前後であり,

徐々に低下していく.投与された99mTc四HMPAO

は,その約 5%が脳に集積する.初回循環での脳

への摂取率は 80~90% である. 99mTc-HMP AO

の血中濃度は高く,血球内での代謝および血清蛋

白との結合のためとされている.脳血液量は脳実

質の 4%前後であり,通常は脳血流シンチグラ

117

フィにおいて脳血液プールは無視できる.しかし,

脳動静脈奇形など脳血管床が増大した場合には脳

血液プール像が脳血流像を修飾することが報告さ

れている9) 99mTc_HMP AOは脳実質内において

速やかに脂溶性化合物から水溶'性化合物に代謝さ

れる.この代謝にはグルタチオンが関与すると推

定されている 10) この脳内での水溶性化合物への

代謝速度は一定であり脳血流に対して充分に速い

わけではない.従って,特に高血流の場合には脂

溶性の蜘Tc-HMPAOの一部は脳内で代謝されず

に血液中へ逆拡散する.この静注後ごく初期の逆

拡散により脳組織内での停滞率は高血流の場合ほ

ど低下する.このことが蜘Tc-HMPAOの脳血流

シンチグラフイにおいて健常部と血流低下部位の

濃度コントラストが低下する原因となる.その動

態モデルを図 2に示す.この逆拡散を数学的に補

正しようという試みがLassenら11)により開発さ

れた.その式は以下のごとくである.

Fi=肝 α・(Ciバヤ) ……・…・…・…(1)[1十α一(α/Cr)]

ここで Fiは領域iの脳血流量, Frは参照部の

脳血流量, Ciは領域iのSPECT像での再構成カ

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脳循環代謝第 12巻第2号

ウント, Crは参照部の再構成カウントである.α

は補正係数であり,参照部位として小脳を選んだ、

場合には1.5,全脳平均を選んだ場合には 2.0が

至 適 値 であると報告され て い る12) 曲mTc-

HMPAOは静注後ごく初期にはこのように逆拡

散を示すものの,その後の脳放射能は長時間安定

であり再分布という現象はみられない.この脳内

分布が静注後数分以内のごく初期に決定し,以後

不変という性質は脳血流トレーサーとして臨床的

に極めて有用である.何故なら,投与さえしてお

けば後に撮像はいつでも可能なため緊急時や種々

の負荷検査に適するからである.

d) 99mTc_ECD

123I_IMPは剤型が標識済み注射液のため緊急時

に対応することができず,また前述のとおり蜘Tc-

HMPAOは標識キットであるものの標識率が低

く,しかも経時的に劣化するという欠点を有する.

これらの欠点を補うべく,新しいキット製剤であ

る99mTc-ethylcysteinate dimer (99mTc-ECD)が開

発された13) 蜘Tc-ECDはエステル基を導入した

diamine-dithiol (DADT)化合物である.本剤は

血液脳関門を通過して脳実質内に取り込まれ,エ

ステラーゼの作用により酵素的分解を受け水溶性

化合物に代謝される.このため,血液脳関門通過

性を失い,脳実質に保持される.血液中でも蜘Tc-

HMPAOと同じく水溶性化合物に代謝される.田m

Tc-ECDの初回循環における脳の摂取率は蜘Tc-

HMPAO よりやや低く,約 60~80% である.放

射化学的純度は調整後徐々に上昇し, 30分以後

は 97~98% 台とプラトーに達し, 24時間後にお

いても劣化しない.このため,投与時点が不確定

なてんかん発作時の検査などには最も適したト

レーサである.投与量の約 6%が脳に集積し,以

後 1 時間あたり平均約 4~6% の割合でゆっくり

と洗い出される.その動態モデルを図 2に示す.

脳以外の組織での洗い出しはよりすみやかであり

主に腎尿路系より排世される.血液中の放射能

も田mTひHMPAOより速く洗い出される.このた

めパックグラウンドの少ない良好な画質が得られ

る14) 静注後ごく初期の脳から血液中への逆拡散

が蜘Tc-HMPAOと同様に存在するが,その速度

は蜘Tc-HMPAOより低い.このため血液脳分配

係数は蜘Tc-HMPAOより高い.前述の Lassen

らによる SPECT像の逆拡散の補正において至適

のα値は蜘'Tc-HMPAOより高く 2.59と報告され

ている 15) 他の薬剤との比較では,血流低下部位

と健常部位との濃度コントラストの比は,皮質で

は123I_IMPよりも劣るが,中心灰白質では123I_IMP

よりも優れ,また,いずれの部位においても蜘Tc-

HMPAOより優ると報告されている16) 一方,開m

Tc-HMPAOや123I_IMPで捉えられるぜいたく潅

流が蜘'Tc-ECDでは検出できないとされており,

その部位におけるエステラーゼ活性の欠如による

ものと考えられている1ぺ脳放射能は投与後2分でプラトーに達し,脳内

分布は投与後 1時間程度までほぼ不変であり,脳

実質外の放射能が洗い出されるため,投与直後よ

り良好な画質の像が得られる.その後は軽微なが

ら脳内分布は変化し,中心灰白質の相対的集積増

加が認められる.逆に大脳皮質の集積は相対的に

減少する.しかしこの変化の程度はlおI-IMPに比

べればごく僅かで、ある.この脳内分布が緩やかに

変化する点において蜘Tc-ECDは,脳内分布が経

時的にほとんど変化しない蜘'Tc-HMPAOと異な

る.しかし,各部位の放射能はすべて経時的に徐々

ではあるが脳血流量とは無関係に減少し,吋-IMP

でみられるような再分布は示さない.これは田mTc-

ECDが血液中でも代謝され,もはや血液脳関門

を通過しえないからである.

これらのトレーサの脳内分布には特徴がみら

れ,田mTc-HMPAOは小脳や基底核で集積が高

く,蜘'Tc-ECDでは後頭葉で集積が高い.また,田m

Tc-ECDでは内側側頭部で集積が低い傾向にあ

る凶(図 3).

3.脳血流の定量測定法

以下に, SPECTによる代表的な脳血流測定法

について述べる.

(a) 133Xe吸入または静注法

前述の KannoとLassenによる133Xeクリアラ

ンス法による 3次元測定ではペ測定単位となる

。。

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SPECTによる脳血流量の定量測定

図3. 蜘 'Tc-ECD.蜘 Tc・HMPAO.および123I_IMPの SPECTi象での脳内分布と150-H20

のPET{象の比較.

蜘 Tc-ECDでは後頭葉で集積が高く,鴨川Tc-HMPAOは小脳や基底核で集積が高い.

画素ごとの計数率が非常に低く統計雑音が大きい

ために,画素ごとの時開放射能曲線を直接解析す

ることは困難である.彼らはこの問題を解決する

ために, 1O~15 分の測定時間を l 分ごとに区切

り,各区間ごとに時間積分した統計雑音の小さい

データより解析する方法を開発した.この方法は

時間積分法と呼ばれている.この方法の概要は以

下のごとくである.脳の時開放射能曲線を約 1分

ごとに積分し,それを全測定時間の曲線下面積で

除す.これを各ピクセル単位で行い,各々の正規

化した計数値時系列 Q1, Q 2…Qnを得る.一方,

各ピクセルの時開放射能曲線は,日3Xe吸入また

は静注法の場合,入力曲線Ca(t)と脳よりのクリ

アランス曲線。ktの重畳積分Ca(t) *ke"ktで表さ

119

れる.この式を用いて,被験者の入力曲線に対し

てk値を変化させることにより多数のシュミ

レーショ ン曲線を作成する.このシュミレーショ

ン曲線を前述のごとく区間積分して正規化すれ

ば,同曲線の正規化された多数の時系列 q1, q 2

…qnが得られる. これらの実測値の時系列 Q1,

Q2…Qnとシュミレーションによる時系列 ql,

q2"・qnを最小自乗法で比較し最適の k値を求め

る.血流量は,得られた k値に133Xeの脳血液分

配係数入を乗ずることにより計算できる.この

ように,各ピクセルすべての血流量を計算し,そ

れを画像として表示する.本法は sequentialpic-

tures 法と呼ばれている.これに対して時開放射

能曲線の初期部分のみを用いる earlypicture 法

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脳循環代謝第 12巻第2号

がある.入力曲線 Ca(t)は,実際には終末呼気曲

線より推定される.肺が正常機能を有する場

合,日3Xeの動脈血中濃度と終末呼気曲線は相似

形となることが知られている.このことにより採

血することなく非侵襲的に脳血流量を算出するこ

とが可能である.局所の脳血液分配係数は全脳平

均の報告値1.15を,全測定時間での局所の総計

数率を全脳平均の総計数率で除した値を用いて比

例配分することにより求めている.133Xeの投与

量は静注法で1.48GBq弱,吸入法で1.85GBq強

必要である.静注法の場合,入力曲線をなるべく

正確にとらえるため 30秒間ぐらいのゆっくりと

した投与が望ましい.吸入法の場合, 133Xeの吸

入時間は 1分である.呼吸状態が不良の場合は静

注法の方が効率よく!33Xeを体内に送り込めるた

め有利である.画像マトリクスは,統計雑音軽減

のため 32x32または 64x64である.このため解

像力に劣るのが最大の欠点である.一方,利点は,

非侵襲的に繰り返し脳血流測定が可能なことであ

り,二酸化炭素や種々の薬剤に対する血管反応性

を負荷前後で評価しうる.

(b) 123トIMP持続動脈採血法

I田I-IMPによる脳血流の定量化法としては,持

続動脈採血によるマイクロスフェアに準じた方

法7)がある.脳組織において代謝を受けない拡散

性トレーサーを用いた場合,脳血流値は一般に次

式により求められる.

F=--,-;;;ACP(Tlmu・ ・・……H ・H ・..…・・ (2)

ここで Fは脳血流量 (mν100g/ min) , Cbは

測定時間 Tにおける脳の放射能濃度(Bq/100g),

Ca は時間 Tにおける動脈血中の真の凶I-IMP濃

度 (Bq/ml), kは脳から血液への逆拡散定数(/

min)である.kはF/100を123I_IMPの平衡状態

における脳組織と血液の物質濃度比(脳血液分配

係数,入)で除したものに等しい.123I_IMPのλ

は,ヒトの脳において 20以上と高く,測定時間

Tが短ければ脳組織よりの逆拡散をほぼ無視しう

るため,式(2)は次のごとく簡略化しうる.

F=一旦但L ……H ・H ・......・H ・.....・H ・..(3) ん,TCa(t)dt

120

さらに式 (3) は動物実験でマイクロスフェア

により臓器血流値を測定する際に用いられる次式

と同等である.

F=Rニ旦 ..........・H ・...・H ・...…H ・H ・..…・ (4) N.A

ここで, Rは持続採血ポンプによる採血速度

(ml/min), Aは採取した全動脈血の放射能(Bq),

N は動脈血中の未代謝の国I-IMPの割合を示し,

オクタノール抽出法により算出しうる.この式(4)

では動脈血の放射能測定が 1回で済むので実用的

である.測定時間 Tは5分が妥当である.高速

に断層像を得ることができる SPECT装置を用い

た場合は,静注5分後における脳の放射能 Cbを

得ることができる.しかし,通常のガンマカメラ

回転型 SPECT装置を用いた場合は脳の放射能濃

度がプラトーに達した 20~30 分後からしか撮像

できない.このため 2次元測定により脳の時開放

射能曲線を得, 5分後と SPECT撮像開始直前の

放射能比から断層像における 5分後の脳局所の放

射能を推定する方法1明τ一般的である.

本法で脳血流値を求める際には SPECT装置と

血液カウント計測用のウェルカウンター聞の相対

的感度の較正を行う必要がある.これをクロス

キャリプレーションと呼ぶ.脳 SPECT測定時の

SPECT像 1voxelあたりの計数値が,ウェルカ

ウンターでは何cps/gに当たるかを決定するも

のである.実際には直径 16cmぐらいの円筒ファ

ントムに約 0.01MBq/mlぐらいの濃度の123I_IMP

クエン酸緩衝液 (O.lmol/Z)を満たす.このファ

ントムを通常の脳 SPECT検査と同一条件でス

キャンする.ついで、,ファントム内溶液を約 1ml

とり,その重量を正確に測定した後,ウェルカウ

ンターにて計測する.このようにして得られた

SPECTカウントとウェルカウンタの値からクロ

スキャリプレーションファクタを求める.この較

正は通常は月 1~2 回程度で十分である.

(c)刊・IMP-ARG(オートラジオグラフィ法)

前述のl回目MP持続動脈採血法では,その原理

がマイクロスフェア法に準ずるため,無視できな

い程度のトレーサの脳組織からの洗い出しのため

に,脳血流量の過小評価を生ずる可能性がある.

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SPECTによる脳血流量の定量測定

-E,.hr

o-Tぃ

B-A

Patlak Plot A(t) :大動脈弓部の放射能

B(t) :大脳半球の放射能

Vnl'

BPI=100・10・ROI size ku aona

ROl brain size

τE

Au-

、、,,.τ-竹リ

川町-一判

-4

凸0

『EEJ-

8PI : 8rain Perfusion Index

図4. 9合nTc-ECDおよび.,mTc-HMPAOによるパトラックプロット法の測定原理.

パトラックプロットによる傾き kuが脳血流の指数となる.kuをROIの大きさで補

正することにより BrainPerfusion Index (BPI)が求められる.

この欠点を克服するために考案されたのが国L

IMP静注後 1回のみの動脈採血と SPECT測定に

て,簡便に脳血流量が測定できるようにした方法

であるべ前述の (2)式において脳血液分配係数

(入)はトレーサの分布容積 (distributionvolume ;

Vd)と同等である.脳への入力関数である Ca(t)

とVdが与えられていたとすれば,脳血流量Fは

実測される SPECT値 Cb(T)から式(2)にて計算

できる.Ca (t)は実際には,様々な被検者 12例

にて,出'I-IMPを肘静脈より一定速度にて 1分間

で静注した後,細かいサンプリング間隔で動脈採

血しトレーサ濃度を実測して求めたものの平均値

を標準入力曲線としている.実際にこの入力曲線

を用いる場合には,各被検者にて入力関数の縦軸

のキャリプレーションを行う必要がある.それに

は最も誤差が最小となる静注目分後の 1回の動

脈採血にて行われる.もう一つの定数である Vd

は本法と同様の手続きで行われる“tablelook Up"

法21)によれば求めることができる.ただし,約 40

ml/mlの固定値でも特に脳血流の低値を評価する

際には差し支えないとされている.SPECT計算

値と脳血流量の関係を,式(2)によりあらかじめ

計算しノモグラムを作製しておけば,脳 SPECT

の計測データから血流量を求めることが可能であ

る.

この方法でも, l幻I-IMP持続動脈採血法と同様

にSPECT装置と血液カウント計測用のウェルカ

ウンタ聞の相対的感度の較正を行う必要がある.

本法で問題となる点は,すべての症例で標準入

力曲線を用いることと,固定した Vd値を用いる

ことである.前者では肺疾患を持つ症例などで,

脳への入力曲線が極端に標準入力曲線と異なる可

能性があり,脳血流量値に誤差を生じる恐れがあ

る. Vd値は厳密には脳組織各々に固有で、ある.

その固定は,高血流域では有意な誤差の要因とな

る.しかし,臨床的に問題となることの多い低血

流域ではかなりの Vd値の変動がみられでも計算

される脳血流量には Vd値の固定による影響は少

ない.

121-

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脳循環代謝第 12巻第2号

(d) 99mTc四 HMPAOおよび99mTc_ECDパトラッ

クプロット法

99mTc_HMP AOおよび羽mTc-ECDによる脳血流

の絶対値測定は報告されてはいるものの,頻回の

動脈血採血を必要とし日常臨床への応用は困難で

ある.また,このトレーサは脳組織内のみならず

血液中でも速やかに,血液脳関門に対して脂溶性

の拡散性物質から水溶性の非拡散性物質に代謝さ

れる.このため脳への入力となるトレーサ濃度を

正確に測定するためには採血後迅速な脂溶性成分

の抽出操作が必要となり,非常に煩雑である.し

かし,われわれの開発した方法によれば,採血す

ることなく解像力を保ったままで簡便に精度よく

脳血流を測定することができる.

血液と脳組織の聞のトレーサー交換モデルに基

づくと,血液から脳への一方向性のトレーサー移

行は次式のごとく表わされる22)

B (t) = ku. J~ A (τ)dτ+ Vn.A(t) ……H ・H ・ (5)

ここで A(t)は測定時間(t)における動脈血中濃

度, tは時間, kuは血液から脳への一方向性の流

入速度定数, Vnはトレーサーの非特異的初期分

布容積である.式(5)の両辺を A(t)でわると,

互主上=ku .J~主企迎工+Vn …H ・H ・....・H ・.(6) A(t) .... A(t)

B(t)/ A (t)をX軸に,J~ A(τ)dτjA(t)をY軸

にグラフ上で、フ。ロットすると,直線の傾きがku

となり Y切片がVnとなる(図 4).

仰臥位にて 370~555MBq の99mTc-HMPAO ま

たは蜘Tc-ECDを右肘静脈に静注する.静注直後

より大視野ガンマカメラにて心臓から脳へのト

レーサの通過を前面から 128x 128のマトリクス

サイズにて 1 秒毎 80~110 フレーム記録する.不

正形の関心領域を大動脈弓 (ROIaorta size, 128

x 128のマトリクスサイズの場合約 55ピクセル)

と大脳半球 (ROIbrain size,約 300ピクセル)に

設定し, 1秒毎の時開放射能曲娘を得る.関心領

域設定にあたっては,大動脈弓と左右大脳半球の

関心領域設定を容易にするためにフレームを適宜

加算する.それぞれの曲線にスムージング処理を

行う.大動脈弓の時開放射能曲線と大脳半球のそ

れには時間的ずれが存在するため,両者のピーク

122

時間または立ち上がりの時間を合わせるべく脳の

時開放射能曲線を左方へ偏位させる.各パラメー

タの単位は, B(t)が大脳半球の関心領域におけ

る毎秒あたりの総計数率, kuが ROIbrain size/

ROI aorta size/秒, A(t)が大動脈弓の関心領域に

おける毎秒あたりの総計数率, VnがROIbrain

size/ROI aorta sizeである.式(6)をグラフ上に

プロットするとトレーサ投与後 30秒以内の 8~

14秒間において直線部分が得られる.このこと

は,この方法が蜘Tc-HMPAOおよび99mTc-ECD

にも応用可能であり,しかも血液から脳への一方

向のみの動態を示す時間帯が短いながら存在する

ことを示唆するものである.投与後約 30秒以降

では測定点が直線から下方にはずれるようにな

る.この時間以降では脳から血液へのトレーサの

逆拡散が生じてくること,および血液内での拡散

性トレーサから非拡散性トレーサへの代謝が生じ

てくるために式(6)の仮定が成り立たなくなるこ

とを示すものと考えられる.グラフ上のプロット

から得られた傾き kuは脳と大動脈弓と関心領域

の大きさの比に依存する.以下の式により両者の

関心領域の大きさの比を 1:10と正規化し関心領

域の大きさに依存しない指数を求め,これを

Brain Perfusion Index (BPI) とした.

BPI=loo-hu.10・(ROIGf)出臨) …...・H ・..… (7)(ROlbrain卿)

BPIと133Xe-SPECTのearlypicture法で得られ

た脳血流量の相関係数は r=0.926,直糠回帰式は

Y = 2.75 X + 17.7であったお.24) また,別の 11人

の患者において,田川Tc-HMPAOと99mTc_ECDの

BPIを比較したところ,両者には r=0.935と極

めて高い相闘が得られ,この両者の直線回帰式と

前述の99mTc_HMPAOのBPIと133Xe-SPECT脳血

流測定法による直線回帰式から,蜘Tc-ECDの

BPIをY= 2.60 + 19.8の直線回帰式で133Xe-SPECT

のearlypicture法で得られた脳血流量に換算す

ることが可能である 25) さらに, 15人の被験者で

行われた,本法で得られた BPIとPETでの 150

標識水を用いたオートラジオグラフィ法により得

られた脳血流量の相関は 0.951と良好であり,直

線回帰式は H/50-g1obalCBF = 5.02 X (ECD -

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SPECTによる脳血流量の定量測定

60

ECD・BPIversus PET-gCBF

55

n

u

R

d

n

u

E

u

n

(Eg¥OOOZE} u.. 835 P

E30 25 • •

-J

・〆

圃〆

20 6 8 13 7 9 10

ECD・BPI

11 12

図5.99mTc_ECDによるパトラックプロット法で求められた BrainPerfusion Indexと

PETでの150標識水を用いたオートラジオグラフィ法により得られた脳血流量との

相関と直線回帰式.

BPI) -6.25となった(図 5).この方法により 16

~87 歳の 95 人の健常正常人から得られた大脳平

均血流量は133Xe-SPECT換算で 48.8:t5.3 ml/lOO

g/min, H 215 O-PET換算で 49.7:t10.2 ml/lOO g

/minであり,加齢と弱い負の相闘を示した田)

この大脳平均血流量から局所脳血流量を算出す

るために,式(1)で示される Lassenらの提唱し

た蜘Tc-HMPAOによる SPECT画像の濃度コン

トラスト補正法山を用いる.補正係数αは理論的

には次の式により求められる.

α=乞 ω)

k2γ=

孟L=互二Fr ....・ H ・'"・ H ・...… H ・H ・...(9) A A

ここで k3は脳組織内で脂溶性のトレーサーが

水溶性に代謝される速度定数, k"は参照部にお

いて脳内から血液中へトレーサーが代謝されない

まま逆拡散する速度定数,入は脂溶性トレーサー

の血液脳分配係数, KI'は参照部での血液中から

脳内へのトレーサー移行速度定数であり,式(9)

のごとく 1回循環での血液から脳への摂取率 E

と参照部の脳血流量 Frの積で表わされる. 1回

循環での血液から脳への摂取率は脳血流量Fが

高くなるほど低下することが報告されているが,

通常この補正は行なわれていない.Lassenらの

コントラスト補正法においては,脳血液分配係数

λおよびk3は一定と仮定されており,田mTc-

HMPAOではそれぞれ報告値 0.67ml/gおよび

0.80/minをlぺ蜘Tc-ECDではそれぞれ報告値

l.33 ml/gおよび0.57/minを15)代入する.このよ

うにして求められる補正係数αは,参照部の脳

血流量が 20~60ml/lOO g/minと変化した場

合, 99mTc-HMPAO では 3.2~l.2に分布し,田mTc_

ECD では 6.3~2.lに分布する.この補正係数が

高くなればなるほど,逆拡散補正の程度が少なく

なる.α値が低い田mTc-HMPAOでは参照部脳血

流量に依存した変動α値を用いるべきであるが,

α値が高い蜘Tc・ECDでは報告されている平均 α

値の 2.59を固定値として用いても得られる局所

脳血流値の誤差は少なく,臨床的に十分な精度を

-123

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脳循環代謝第 12巻第2号

有する.

田illTc-ECDを用いての本法による大脳平均血流

量の経目的再現性において 21-86歳の種々の精

神・神経疾患患者37人における 3カ月以内に施

行した 2回の大脳平均血流量の測定では,変動係

数が2.7:1:1.6% (平均±標準偏差)と良好な値を

示した部).2回目の大脳平均血流量の 1回目に対

する絶対値の変化は一0.05:1:1.7 mlであった.こ

の結果から有意の変化を 2標準偏差以上とすれ

ば,大脳平均血流量が 3.4ml以上変化すれば有

意の変化といえる.

本法の利点と欠点をまとめると以下のようにな

る.

利点

①全く,採血操作を必要としない.

①従来の SPECT撮像に 2分以内の脳と大動脈

弓部の時間放射能データ採取が加わるのみ.

①再現性が高い.

@Patlakプロットにより得られる BPIは,用

いるガンマカメラ装置の違いの影響を受けず,各

施設で同様の値が得られる.

①静態SPECT像の解像力を保ったままで局所

脳血流量が測定できる.

欠点

①両側大脳半球後方部に広範囲の血流欠損が存

在する場合に,得られる局所脳血流量に誤差が生

じる恐れがある.

①参照部の平均SPECTカウントの算出が,得

られる局所脳血流値に影響を与える.

①BPIを換算式により脳血流量に変換している

ため,用いる換算式が異なれば得られる局所脳血

流量も異なる.

④BPIを2次元の前面像から求めているため,

外頚動脈成分の放射能が内頚動脈成分のそれより

も極めて大の脳死に近いような病態の場合,脳実

質の血流量が正確に算出できない恐れがある.

①小児のように大動脈弓が細い症例では,この

方法は誤差を生じやすい.また,大動脈弓に動脈

癌のある症例などでは,正確な入力が決定できず,

誤差を生じる恐れがある.

-124

4. おわりに

上述のごとく,種々の脳血流定量法が日常臨床

で行われている.最近の他施設共同研究27)では,

脳血流の定量により定性画像のみでは指摘できな

かった異常が数多くみられ,全体として SPECTの異常検出率を 10%程度向上させていることが

判明した.また, 6割強の症例で診断または治療

方針の決定,さらには治療の効果判定において定

性画像に定量解析を加えた方が有用であるとの結

論が得られた.今後も各測定法の理論,限界を十

分理解した上で, SPECTによる脳血流測定を日

常臨床においてルーチン化させる必要があると考

えられる.

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脳循環代謝第 12巻第2号

Abustract

Cerebral blood flow measurements using SPECT

Hiroshi Matsuda

Department of Radiology, National Center Hospital for Mental, Nervous, and

Muscular Disorders, National Center ofNeurology and Psychiatry

Two kinds of tracers are used to measure cerebral blood flow : di百usibletracers (133Xe) , and accumu-

lative tracers (悶1-1MP,99mTc_HMPAO and 99mTc_ECD). Continuous blood sampling and autoradiography

methods for悶'I-1MPrequire arterial blood samples to be taken. On the other hand, the Patlak plot method

for 99mTc_HMP AO and 99mTc_ECD and the 133Xe inhalation method do not require any blood sampling.

Hemispheric brain perfusion indices obtained from the Patlak plot method are easy to produce and corre-

late well with cerebral blood flow values measured by invasive methods. The hemispheric brain perfusion

index can be converted to the hemispheric cerebral blood flow value using this relationship. Regional

cerebral blood flow values can be calculated from the hemispheric cerebral blood flow value using Las-

sen' s correction algorithm. The brain distribution patterns for蜘 Tc-HMPAO and田mTc-ECDare partially

determined by an enzymatic activity that converts lipophilic tracers to hydrophilic tracers in the brain.

Therefore, 99mTc-labeled tracers exhibit a characteristic distribution pattern with a lower degree of linear-

ity between tracer accumulation in the brain and cerebral blood flow than that of the distribution for 1231_

1MP. The 1231_1MP autoradiography method requires only one arterial blood sample to be taken. Although

the 133Xe-inhaltion and intravenous infusion methods have the advantage of enabling repetitive cerebral

blood flow measurements to be performed without requiring blood sampling, these methods have a low

spatial resolution even with large doses of radiation.

-126