76
5 【1】生体分子を化学的に理解するための基礎 問題1.エタンの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい. Lewis 構造 線結合構造 問題2.エチレンの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい. Lewis 構造 線結合構造 問題3.アセチレンの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい. Lewis 構造 線結合構造 問題4.ホルムアルデヒドの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい. Lewis 構造 線結合構造

【1】生体分子を化学的に理解するための基礎p.bunri-u.ac.jp/lab23/esumi/2009sibutuyuukitext.pdf5 【1】生体分子を化学的に理解するための基礎 問題1.エタンの化学構造をLewis構造と線結合構造を用いて示しなさい.

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5

【1】生体分子を化学的に理解するための基礎

問題1.エタンの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい.

Lewis 構造 線結合構造

問題2.エチレンの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい.

Lewis 構造 線結合構造

問題3.アセチレンの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい.

Lewis 構造 線結合構造

問題4.ホルムアルデヒドの化学構造を Lewis 構造と線結合構造を用いて示しなさい.

Lewis 構造 線結合構造

6

問題5.水分子とアンモニア分子の孤立電子対の軌道を以下の構造上に書き込みなさい.

また,それぞれの分子中で電気的に陰性な原子上にδ—,陽性な原子上にδ+を付記しなさ

い.

OH

HN

HHH

水 アンモニア

問題6.エタンの炭素-炭素結合,クロロメタンの炭素-塩素結合,メチルリチウムの炭素-

リチウム結合を対称的な共有結合,極性共有結合,イオン結合に分類しなさい.

X Y X Y YXδ+ δ-

イオン性

対称的な共有結合 極性共有結合 イオン結合

H3C CH3 H3C Cl H3C Liエタン クロロメタン メチルリチウム

問題7.アセトンを強塩基で処理して生じる二種の共鳴構造を書き,その機構を電子の動

きを示す矢印を用いて説明しなさい.

O OH 共鳴

アセトン

7

問題8.アセトンを酸性条件下メタノールと反応させると生じる化合物の構造を書き,そ

の機構を電子の動きを示す矢印を用いて説明しなさい.

O

アセトン

H+

CH3OH

問題9.アセトンを酸性条件下アニリンと反応させると生じる化合物の構造を書き,その

機構を電子の動きを示す矢印を用いて説明しなさい.

O

アセトンH+

NH2

アニリン

問題10.アセトンを強塩基で処理して発生させた化合物とベンズアルデヒドを反応させ

て生じる化合物の構造を書き,その機構を電子の動きを示す矢印を用いて説明しなさい.

O OH

アセトン

H

O

ベンズアルデヒド

問題11.乳酸に可能な二種の立体異性体の構造をくさびと波線を用いて書き,不斉炭素

上の立体化学を Rまたは Sを用いて示しなさい.

H3C COOH

OH

乳酸

8

【2】糖の基本構造

糖(炭水化物)とは一般に炭素 3個以上のポリヒドロキシアルデヒド類(アルドース)ま

たはケトン類(ケトース)またはその誘導体のことを指す.生命活動に必要なエネルギー

源としてだけでなく,種々の機能性分子として自然界に幅広く存在している.

単糖類

糖としてそれ以上加水分解できない最小単位.

1.グリセルアルデヒド

炭素数 3個からなる最も単純な構造を持つ単糖.2位炭素は不斉中心であり,鏡像異性

体を持つ.天然に存在する多くの糖の絶対配置は(R)であり,D体である.“D”とは“右”

を表す“dextro”の頭文字であり,Fischer 投影図においてアルデヒドから最も遠い不

斉中心の水酸基が右向きに配置していることを示す.逆に水酸基が左向きに配置している

場合は(S)で有り,“左”を表す“levo”の頭文字を取って L体と呼ぶ.

*D,L標記は旋光度の符号を表すものではない.

HO

CHOHO

(R)-(+)-グリセルアルデヒド

CHO

C

HO

OHH*

CHO

CH2OHOHH

D-グリセルアルデヒド

右*

Fischer 投影式

1

2

1

2

H1

2

講義メモ

9

2.D-リボース

炭素数 5 のアルデヒドを含む糖(アルドペントース)であり,核酸を構成する糖の一

つである.通常分子内アセタールの形成によって5員環のフラノース型で存在している.

CHO

CH2OH

H OHH OHH OH

D-リボース

O OHHO

HO OH

1

23

4

5

1

5フラノース型

OHO

HO OH

OH

Haworth 投影式Fischer 投影式

3.D-グルコース

炭素数 6 のアルデヒドを含む糖(アルドヘキソース)であり,生体内ではエネルギー

源としてだけではなく多糖類や脂質・タンパク質と複合体を作り,様々な機能を果たして

いる.通常分子内アセタールの形成によって6員環のピラノース型で存在している.

CHOH OH

HO HH OH

1

CH2OHOHH

D-グルコース6

O OHOH

HOHO

OH

ピラノース型

O

OH

OH

HO

CH2OH

OH

Haworth 投影式

123

4 5

6

Fischer 投影式

* 構造式中の波線はα体とβ体の混合物であることを示す.

4.D-マンノース

D-グルコースの 2位エピマー.

CHOHO HHO H

H OH

1

CH2OHOHH

D-マンノース6

O OHOH

HOHO

HO

ピラノース型

OHOOH

HO

CH2OH

OH

Haworth 投影式

2

22

Fischer 投影式

10

5.D-ガラクトース

D-グルコースの 4位エピマー.

CHOH OH

HO HHO H

1

CH2OHOHH

D- ガラクトース6

O OHOH

HO

HO OH

ピラノース型

O

OH

OHHO

CH2OH

OH

Haworth 投影式

4

Fischer 投影式

44

6.D-フルクトース

炭素鎖 6のケトンを含む糖(ケトヘキソース)である.砂糖(スクロース)の 2倍の

甘味を持ち,果物や蜂みつに多く含まれる.通常分子内アセタールの形成によって6員環

のピラノース型(72%)および 5員環のフラノース型(28%)で存在している.

Fischer 投影式

CH2OH

HO HH OH

1

CH2OHOHH

D-フルクトース

6ピラノース型

OHO

OHHO

OH

Haworth 投影式

C O

CH2OH1

6

OHOH2C

HO

HOOH

6

5 1

CH2OH

フラノース型

6

5

講義メモ

11

7.β-D-グルクロン酸: β-D-グルコースの 6位がカルボン酸に酸化された構造を持つ.

O OHCOOH

OH

OH

HO1

6

8.β-D-グルコサミン:β-D-グルコースの 2位水酸基がアミノ基に置換された構造を

持つ.

O OH

NH2

OH

HO

HO

12

9.N-アセチル-β-D-グルコサミン:β-D-グルコサミンのアミノ基がアセチル化され

た構造を持つ.

O OH

HN

OH

HO

HO

O

講義メモ

12

問題13.(S)-(–)-グリセルアルデヒドの立体構造をくさびと点線を使って描きなさい.

また,その Fischer 投影図を描き,D体または L体のどちらの配置か確認しなさい.

問題14.D-キシロースの Fisher 投影式およびHaworth 投影式を書きなさい

問題15.D-グルコースと L-グルコースの関係をなんと呼びますか.

問題16.D-グルコースとD-マンノースの関係をなんと呼びますか.

問題17.D-グルコースとD-ガラクトースの関係をなんと呼びますか.

問題18.D-マンノースとD-ガラクトースの関係をなんと呼びますか.

問題19.β-D-ガラクトサミンの構造をHaworth 投影式で書きなさい.

問題20.α-D-ガラクツロン酸の構造をHaworth 投影式で書きなさい.

問題21.D-フルクトースのフラノース型からピノース型への平衡を電子の動きを表す矢

印で説明しなさい.

問題22.自然界に L 型として存在する糖の例を三種挙げ,その構造式を Haworth 投影

式および Fisher 投影式で書きなさい.

13

【3】糖の化学的性質・反応

1.アセタール化

アルドース,ケトースは分子内アセタール結合形成(問題8.参照)により,直鎖のアル

デヒドまたはケト体から環状の分子内ヘミアセタールに変化する.この反応は可逆的であ

り,水溶液中ではある一定の平衡混合物を生じる.糖におけるヘミアセタール炭素(C1

位)は特にアノマー中心と呼ばれる.アノマー中心はキラル中心であり,水酸基がα配

置のものとβ配置のものはエピマーの関係にある.これらはアノマー異性体と呼ばれ,

水溶液中では直鎖構造を経由し,平衡混合物を生じる(アノマー混合物).

*アノマー位の水酸基と 6 位の置換基が trans の関係に有るものをα体,cis の関係に有

るものをβ体と呼ぶ.

CHOH OH

HO HH OH

1

CH2OHOHH

6

O OHO

HOHO

OH

1

6

O OHHO

HOHOHO

1

6

H

H+H

( 環状 = 分子内ヘミアセタール)D-グルコース( 鎖状 = アルデヒド)アノマー中心

O

OHHOHO

HOHO

β-体( cis) α-体( trans)

講義メモ

14

問題23.D-ガラクトースに可能な 2 種のピラノースアノマーの構造を Haworth 投影式

で書き,それらの異性化の反応機構を電子の動きを示す→で説明しなさい.

問題24.α-D-ガラクトピラノースの構造式を書き,アノマー炭素を→で示しなさい.

問題25.β-D-フルクトフラノースの構造式を書き,アノマー炭素を→で示しなさい.

問題26.以下に示す糖の名称および立体化学(Dか Lか,αかβか)を以下の例を参考

にして答えなさい.

例) α-D-グルコピラノース(グルコース)

O

OHOH

OHHO

HO

1) 2) 3)

O OH

OH

OHHOHO

O

OHOHHO

HO

HO

O OH

OHHO

HO

HO

問題27.以下に示す糖類のうち水に溶かすと変旋光を起こすものはどれか答えなさい.

O OH

OH

OHHOHO

O

OCH3OH

OHHO

HO

O O

OH

OHHOHO

O OH

OH

OH

HO

β-D-ガラクトース 1-O-メチル α-D-グルコピラノース

ラクトース

OO

OH

OHHO

HO

OOH

OHOH

OH

トレハロース

1) 2) 3) 4)

15

問題28.日本薬局方医薬品「ブドウ糖」はα-D-グルコピラノース (A) [α]D20

+112.2˚ (c = 10, H2O),β-D-グルコピラノース (B) [α] D20 +18.7˚ (c = 3.9, H2O) ま

たはその混合物であると規定されている.以下の問いに答えなさい.

O

HOHOHO

OHO

HOHOHO

OH

OH

OH1

1

A B

1)A と B の様な C1位の立体配置の相違に基づく異性体の関係を何と呼ぶか.

2)純粋なA と B をそれぞれ別々に水に溶かし,放置するとその比旋光度は +52.6 へと

変化する.この現象を何と呼ぶか.また,この現象が起こる理由を電子の動きを示す矢印

を用いて説明しなさい.

16

グリコシル化(アセタール化)

糖をアルコール存在下酸で処理すると C1 位の水酸基をアルキルオキシ基に置換できる.

その機構はルート 1 または 2 に示す様なアセタールの開裂-再形成により説明できる.

O OHOH

HOHO

OH

H+ O O+

OHHO

HO

OHH

H

O OHOH

HOHO

OH

H+ +O OOH

HOHOHO H

HO O+

HOHO

HOHO H

H

H

O OHO

HOHOHO H

H

OCH3

CH3OH

H+

O O+

HOHO

HOHO H

H

OCH3H

O O+

HOHO

HOHO H

H

OCH3H

O

O+HOHO

HOHO H

CH3

O OCH3OH

HOHO

OH

直鎖型中間体

O

HOHO

HO

OHCH3OH

O OCH3OH

HOHO

OH

ルート 1

ルート 2 環状中間体

問題29.D-グルコースを触媒量の硫酸酸性条件下メタノール中でアノマー炭素上の水酸

基をメトキシ基に置換する反応の機構を電子の動きを示す→で説明しなさい.

O

HOHOHO

OH

OH CH3OH

D-グルコース

cat. H2SO4

O

HOHOHO

OH

OCH3

講義メモ

17

2.酸化

アルドースは種々の酸化剤により容易に酸化されてカルボン酸(アルドン酸)を生じる.

この時,出発物の糖は還元剤として働くため,還元糖と呼ばれる.

a.Tollens 反応(銀鏡反応)

アルドースはアンモニア性硝酸銀で酸化され,カルボン酸に変換される.同時にAg0が析

出し,試験管やフラスコの表面に銀鏡を生じる.

CHOH OH

HO HHO H

CH2OHOHH

O

OH

HOCH2OHOH

HO

D-ガラクトースアルデヒド型

AgNO3

NH3

CO2HH OH

HO HHO H

CH2OHOHH

D- ガラクトン酸( カルボン酸)

Ag↓

11

b.Fehling 反応

アルドースはアルカリ性条件下銅(II)イオンで酸化され,カルボン酸に変換される.同時に

Cu2O の赤色沈殿が生じる.

CHOH OH

HO HOHH

CH2OHOHH

O

OHHO

CH2OHOHOH

α-D-グルコースアルデヒド型

Cu(OH)2NaOH

CO2NaH OH

HO HH OH

CH2OHOHH

Cu2O↓

D-グルコン酸

11

講義メモ

18

ケトースの酸化

一般的にケトンはそれ以上酸化されない.従って,ケトースは酸化されないと考えられる.

しかし,フルクトースのように直鎖型構造においてα-ヒドロキシケト構造をもつケトース

は 1,2-エンジオールを介してα-ヒドロキシアルドースとの平衡にある.(ケト-エノール

互変異性)したがって,この平衡混合物に酸化剤を加えると,アルドースが酸化され,カ

ルボン酸(アルドン酸)が生じる.ケトース⇄アルドースは平衡であるためアルドースの

消費に伴い,ケトースはアルドースへと変換され,ついには全てカルボン酸に酸化される.

O

OHHH

ケトース

H+OH

OH

HH+

エンジオール

OH

OH

アルドース

平衡 平衡OH

OHO

カルボン酸

AgNO3

NH3

α

D-フルクトース

O

HO

HOO

OH

HO HH+

1位水酸基

OH

HO

HO OOH

HO

H

H+OH

HO

HO OHO

HO

Hα-ヒドロキシケトース 1,2-エンジオール

HH+

OH

HO

HO OHO

HO

HH H

アルドース

OH

HO

HO OHO

HO

OHH

D-フルクトン酸

Ag+

Ag0

講義メモ

19

3.還元

アルドースおよびケトースを水素化ホウ素ナトリウムで還元すると,ホルミル基がヒド

ロキシメチル基に変換されたアルジトールが生じる.

CHOH OH

HO HOHH

CH2OHH OH

O

OHHO

CH2OHOH

OH

α-D-グルコース

NaBH4

CH2OHH OH

HO HH OH

CH2OHH OH

D-ソルビトール(  アルジトール)

講義メモ

20

問題30.D-グルコースを Fehling 試薬で処理すると生成する物質名と構造式を答えなさ

い.

問題31.ケトースである D-フルクトースは Tollens 反応や Fehling 反応に陽性である.

その理由を説明しなさい.

問題32.キシロースと水素化ホウ素ナトリウムの反応に関する以下の問いに答えなさい.

BH

H HH

NaCHO

CH2OH

OHHHHOOHH

キシロース 化合物名:

構造式

1)この反応で得られる物質の名称および構造を答えなさい.

2)反応機構を電子対の動きを示す→を用いて説明しなさい.

3)生成物は不斉中心をいくつ持っているか答えなさい.

4)生成物は光学不活性である.その理由を説明しなさい.

問題33.D-ガラクトースを水素化ホウ素ナトリウムで処理したところ,旋光度の値がが

±0 °となった.その理由を説明しなさい.

問題34.以下に示す糖類の構造を書き,そのうち,Tollens 反応陽性のものはどれか答

えなさい.

1)リボース,2)デオキシリボース,3)グルコース,4)ガラクトース,5)マンノース,

6)フルクトース,7)マルトース,8)スクロース,9)セロビオース,10)トレハロー

21

【4】デオキシ糖,アミノ糖,多糖類,配糖体および糖タンパク質

1.デオキシ糖

糖の構造において通常水酸基であるべき場所が水素に置換された構造を持つもの.代表的

な例は D-リボース(RNA の構成糖)と D-デオキシリボース(DNA の構成糖)の関係

である.

O

HO

HO OH

OH

β-D-リボース

O

HO

HO

OH

β-D-デオキシリボース

2.アミノ糖

糖の構造において通常水酸基であるべき場所がアミノ基に置換された構造を持つもの.代

表的な例としては D-グルコサミンや D-ガラクトサミンなどのヘキソサミン類やアミ

ノグリコシド系項生物質であるストレプトマイシンなどが有る.

HO

O

NH2HO

CH2OHOHOH

β-D-グルコサミン

O

NH2

HOCH2OHOHOH

β-D- ガラクトサミン

O

OHO

NHHN

OH

ONH

HO

O

OH

O

H3CHO

OHC

H3C

H2N NH2

NHNH

ストレプトマイシン

講義メモ

22

問題35.デオキシ糖の例を一つ挙げ,その特長について説明しなさい.

問題36.アミノ糖の例を一つ挙げ,その特長について説明しなさい.

講義メモ

23

4.多糖類(グリカン)

1) 二糖類

環状ヘミアセタール構造を持つ糖類はアルコールと縮合して環状アセタールを形成(アセ

タール化)する.この時生じる結合をグリコシド結合と呼ぶ.

*問題8.を復習しなさい.

O

O H

H+ OH

O

HH CH3O H

H+

OH

OH

HOCH3

H+

O

O

H

CH3

H

O

OCH3

H

グリコシド結合

二糖類とは単糖がグリコシド結合を介して2分子結合したものをいう.

O

O

O

OH

O

O O

HO OHOH

HO グリコシド結合グリコシド結合

1.マルトース(麦芽糖):小腸のα-アミラーゼによるデンプンの分解によって生成す

る.2分子のα-D-グルコースがα-1,4 結合により連結している.1種のアセタールと1

種のヘミアセタール構造を持つ.1’位のヘミアセタール部分はアルデヒド型と平衡にある.

従って,還元性,酸化性,変旋光を示す.

O

O

O

OHOH

OH

OH

HO HO

OH

OH1 1'4'

グリコシド結合

α(1→4)ヘミアセタール・ 還元性・ 酸化性・ 変旋光

マルトース

24

2.ラクトース(乳糖):ほ乳類の乳中の主な糖分である.β-D-ガラクトースとβ-D-

グルコースがβ-1,4 結合により連結している.1種のアセタールと1種のヘミアセター

ル構造を持つ.1’位のヘミアセタール部分はアルデヒド型と平衡にある.従って,還元性,

酸化性,変旋光を示す.

OO

OOH

OH

OHHOHO

HO

OH

OH

1

1'4'

グリコシド結合

β(1→4) ヘミアセタール・ 還元性・ 酸化性・ 変旋光

ラクトース

β-D-ガラクトース

β-D-グルコース

3.スクロース(砂糖,ショ糖,サッカロース):サトウキビから得られる甘味料であ

り,α-D-グルコースとβ-D-フルクトースがα-1,2-β結合している.ヘミアセタール構

造を含まないため,還元性,酸化性,変旋光を示さない.

O

O

OOH

OH

OH

OH

HO

1

1'

2'

グリコシド結合

α(1⇄2)β

スクロース

HO

OHOH

α-D-グルコース

β-D-フルクトース

問題35.以下の表を完成させなさい

二糖類 構成糖 1 構成糖 2 結合様式 起源

マルトース

セロビオース

トレハロース

ラクトース

スクロース

25

問題36.セロビオースに関する以下の問いに答えなさい.

OO

OOH

OH

OH

HO

HO

HO

OH

OH

セロビオース

1) セロビオースにおけるグリコシド結合の様式を説明しなさい.

2) セロビオースを Tollens 試薬で処理すると銀鏡(Ag0)と共に生成する物質の構

造を書きなさい.

3) セロビオースを希塩酸中で加水分解して得られる単糖の名称を答えなさい.

問題37.トレハロースに関する以下の問いに答えなさい.

O

O O

OH

HO

OH

OHHO OH

OH

OH

トレハロース

1)トレハロースにおけるグリコシド結合の様式を説明しなさい.

2)トレハロースは Fehling 反応陽性か陰性か答え,その理由を説明しなさい.

3)トレハロースを希塩酸中で加水分解して得られる単糖の名称を答えなさい.

26

2)代表的な多糖類

単純(ホモ)多糖類

1 種類の糖から構成されるオリゴ糖.グルコースからなるものをグルカン,ガラクトース

からなるものをガラクタンと呼ぶ.

1.デンプン:穀類に多く含まれる多糖類の一種で,ひとはこれを消化し(アミロペク

チンによって分解)グルコースを得る事ができる.アミロース(20%)とアミロペク

チン(80%)の 2種に分かれる.アミロースはα(1→4) グリコシド結合により,グル

コースが直鎖状に重合(ポリメリ化)したものであり,不規則な左巻きらせん構造をと

る.水に若干溶ける.一方,アミロペクチンはグルコースがα(1→4) グリコシド結合

して形成する直鎖に加え,24~30 個に 1 個の割合で α(1→6) グリコシド結合を形成

し,分岐構造をとっている.水に難溶である.

OHO

HOHO

OHOHOOH

OHO

O

OOH

OHOH

O

OH

HO

OHO

OOHHO

HO

O

OOH

HO

HO

O6

O OHO

HOHO 1

α (1→6)

α (1→4)

アミロースアミロペクチン

1

OHO

OOHHOOO

OHOHO

O

HO

OHO

HO

α (1→4)O

1

4

O

O

HO

O

HO

HO 4

講義メモ

27

2.グリコーゲン:α(1→4) およびα(1→6)グリコシド結合によってグルコースが

連結したアミロペクチンとよく似た分岐構造をとるが,アミロペクチンよりはるかに枝分

かれが多い.余剰なグルコースを一時的に保管するため肝臓,骨格筋で産生・貯蔵される.

3.セルロース: β(1→4) グリコシド結合により,グルコースが直鎖状に重合した

もの.植物の細胞壁の主成分である.隣りあった糖同士の環内酸素原子と 3 位水酸基,

2 位と 6 位水酸基の間で水素結合を形成するため,直線的な繊維状分子構造となる.そ

れら棒状の分子がさらに寄り添って各々の水酸基同士で水素結合を形成するため,非常に

強固な構造体を形成する.ひとの持つα-グリコシダーゼでは加水分解できない.

OHO

OO

OO

O

OHHOO O

HO

OOO

HH

H

OHO

OO

OO

O

OOO O

O

OOO

HH H

H H

H

β(1→4)

水素結合D-グルコース

4.シクロデキストリン(CD):グルコース6~8分子がα(1→4)グリコシド結合で連

なって環状となった化合物はシクロデキストリンと呼ばれる.代表的な水溶性ホスト分子

である.

OHO

HOOH

O

HO

HOHOO

OO

HOOH

OHO

O

O OH

OH OHO

OH

HOOH

O

OOHHO

HO

On = 1: α-シクロデキストリンn = 2: β-シクロデキストリンn = 3: γ-シクロデキストリン

n

疎水性

親水性

28

5.キチン:N-アセチル-β-D-グルコサミンがβ(1→4)グリコシド結合で連なったもの.

甲殻類の殻に多く含まれる.

問題38.グルコースからなる単純多糖類をなんと呼びますか.

問題39.ガラクトースからなる単純多糖類をなんと呼びますか.

問題40.単純多糖類に関する以下の表を完成させなさい.

名称 構成糖 結合様式 起源

1 アミロース

2 アミロぺクチン

3 セルロース

4 グリコーゲン

5 キチン

6 マンナン

問題41.アミロースの構造を書き,その特徴を述べなさい.

問題42.セルロースの構造を書き,その特徴を述べなさい.

問題43.キチンの構造を書き,その特徴を述べなさい.

講義メモ

29

複合(ヘテロ)多糖類

グリコサミノグリカン(ムコ多糖)

ウロン酸とヘキソサミンがグリコシド結合により,交互に連結した直鎖状の多糖類であ

り,粘性,弾性が大きい粘液状の物質である.軟骨,腱,皮膚,血管などの結合組織に

おける細胞間物質として働く.以下にその代表例を示す.

1.ヒアルロン酸:D-グルクロン酸の 1 位と N-アセチル-D-グルコサミンの 3 位が

β(1→3)グリコシド結合で連結した二糖単位がβ(1→4)結合で連なったもの.細胞外マ

トリックスにあって関節の潤滑や細菌の侵入を防ぐ役割をする.カルボキシレート

(COO-)を多く含むため,陽イオンと強く結合する.

O

–OOC

OH

OH

O

HN

O

HO

O

HO 3

O–OOC

OH

OH

O

O O

HN

O

HO

O

HO 3

4

1

1

基本単位

1

講義メモ

30

2.コンドロイチン硫酸:D-グルクロン酸の 1位と N-アセチル-D-ガラクトサミン

4-硫酸または N-アセチル-D-ガラクトサミン 6-硫酸の3位がβ(1→3)グリコシド結

合で連結した二糖単位がβ(1→4)結合で連なったもの.腱や軟骨に存在.人工皮膚とし

ても用いられる.

OHOOC

OH

OH

O

HN

O

O

O

3

OHOOC

OH

OH

O

O O

HN

O

HO

O

O

3

4

1

1

基本単位

1

HO

OHOOC

OH

OH

O

HN

O

O

HO

3

OHOOC

OH

OH

O

O O

HN

O

O

O

HO

3

4

1

1

基本単位

1

HOOSO

OHOOSO

HOOSO

HOOSO

コンドロイチン 4-硫酸 コンドロイチン 6-硫酸

4

4

6

6

3.ヘパリン:2-硫酸-D-グルクロン酸または 2-硫酸-L-イズロン酸が 2,6-ビス硫酸-D-

グルコサミンがグリコシド結合で連なったもの.

OOCOO–

O

OH

O O

HN

OOSO

O–

OSO

O–

O–

OS

O

O OCOO–

O

OH

O O

HN

OOSO

O–

OSO

O–

O–

OS

O

L-イズロン酸D-グルクロン酸

4

1

OH 4

1または

OH

α(1→4)β(1→4)

31

問題44.ヘテロ多糖類に関する以下の表を完成させなさい.

名称 結合様式 存在場所

1 ヒアルロン酸

構成糖 構造式

名称 結合様式 存在場所

2 コンドロイチン 6-硫酸

構成糖 構造式

名称 結合様式 存在場所

3 ヘパリン

構成糖 構造式

講義メモ

32

糖タンパク

プロテオグリカン:プロテオグリカンとはグリコサミノグリカンと種々のタンパク質

が共有結合または非共有結合で連結したものの総称である.基底膜物質を構成する.コラ

ーゲンなどと共同して組織の形態を決定したり,種々の分子をふるい分けるフィルターの

役目やシグナル伝達にかかわるタンパクの調節などを行っている.

*基底膜とは動物の上皮細胞と下層の細胞の間にある膜のこと.

糖タンパクにおいて糖はタンパク質のセリンまたはスレオニン残基の水酸基またはア

スパラギンのアミド窒素原子と C-O(O-グリコシド)または C-N(N-グリコシド)

グリコシド結合を形成して糖タンパクを形成する.一般に O-グリコシド結合はα型,

N-グリコシド結合はβ型である.

O

OHO

OH

HO

HO

タンパク質

O N

HO

OH

HO

HO Hタンパク質

R

O

R = H: セリン残基R = CH3: スレオニン残基 アスパラギン残基

C–O グリコシルC–N グリコシル

HN HN

O O

α

β

問題45.糖とタンパク質が結合するとき使用されるアミノ酸残基を三種挙げ,その結合

様式を構造式で説明しなさい.

講義メモ

33

糖ペプチド

ペプチドグリカン:ペプチドグリカンは N-アセチルグルコサミン(NAG)と N-アセ

チルムラミン酸(NAM)が交互にβ(1→4)グリコシド結合で連なった主鎖がペプチド

鎖で架橋した編み目構造をとっている.細菌の細胞壁を構成する.

OO

HO

N

O

H Ac

OOH

HO

N

O

H Ac

NAG NAM

H3C

HN

O

L-Ala

D-isoGluL-Lys

D-Ala

OO

HO

N

O

H Ac

OOH

HO

N

O

H Ac

H3C

HN

O

L-Ala

D-isoGluL-Lys

D-Ala

OO

HO

N

O

H Ac

OOH

HO

N

O

H Ac

H3C

HN

O

L-Ala

D-isoGluL-Lys

D-Ala

HN

HNO

O

乳酸

架橋部分( ペプチド)

主鎖(  グルコサミン)

OO

HO

N

O

H Ac

H3C

HOOCHO

OOH

HO

N

OH

H AcHO

NAG

主鎖

架橋部分

β(1→4)

問題46.糖タンパク質および糖ペプチドに関する以下の表を完成させなさい.

構成成分 結合様式 存在場所 役割

プロテオグリカン

ペプチドグリカン

34

配糖体:種々のアルコールと糖が種々のアルコールと結合したものを配糖体と呼ぶ.生理

活性天然物の中には配糖体であるものも多い.配糖体の糖以外の部分をアグリコンと呼ぶ.

O

O

O

OH

H

O

OO

OMeOO

OMeO

HO

アベルメクチン B1a

OH

O

O

HOH

H

O

OH

O O

OH

OO

OH

HO

ジギタリス

問題47.アベルメクチン B1およびジギタリスのアグリコン部分を赤ペンで囲みなさい.

問題48.アベルメクチン B1 を塩酸酸性の水溶液で処理して生じる糖の構造を書きなさ

い.

問題49.ジギタリスをメタノール中トシル酸で処理して生じる糖の構造を書きなさい.

(トシル酸 = p-トルエンスルホン酸)

講義メモ

35

【6】糖の代謝(解糖系)

糖(グルコース,フルクトース)は解糖系による代謝を受け,ピルビン酸を生じる.ピル

ビン酸はアセチル CoA に変換された後,トリカルボン酸サイクル(TCA cycle,クレブ

ス回路)へと送られエネルギー産生に使用される.一般にグルコースまたはフルクトース

からピルビン酸に至る過程を解糖系という.また,その逆の過程を糖新生という.

リボース( 5炭糖) フルクトース 6-リン酸

フルクトース

グリコーゲン

ピルビン酸

アセチル CoA

TCA サイクル

グルコース 6-リン酸

グルコース

5)

1)1)

2)

グリセルアルデヒド

3) 4)グリセルアルデヒド 3-リン酸

4)

6)

ペントースリン酸回路

講義メモ

36

1)グルコース→フルクトース 6-リン酸(2 段階)

1 段階目:グルコースはヘキソキナーゼの作用により,6 位水酸基がリン酸化され,グ

ルコース 6-リン酸を生じる.リン酸はATPから供給される.解糖系制御反応の一つ.

O

OH

OH

HOOH

O

OH

OH

HOOH

HO OHOHO

PO

ヘキソキナーゼ

アデノシン 5'-三リン酸( ATP) アデノシン 5'-二リン酸( ADP)

O

HO

N

NN

N

NH2

HOO P

O

OH

OHO

PO

HOHO

PO

O

HOO P

OHO

HOPO

O

グルコース グルコース 6-リン酸

6

1

2 段階目:グルコース 6-リン酸はグルコース 6-リン酸イソメラーゼの作用により,

フルクトース 6-リン酸に異性化する.

O

HO

OHHOHO P

O

HO

OO

OH

OH

HOOH

OHOHOPO

1

OH

グルコース 6-リン酸

22

1

フルクトース 6-リン酸

66グルコース 6-リン酸イソメラーゼ

講義メモ

37

2)フルクトース→フルクトース 6-リン酸(1 段階)

フルクトースはヘキソキナーゼの作用により,6 位水酸基がリン酸化され,フルクトー

ス 6-リン酸を生じる.リン酸はATPから供給される.

ヘキソキナーゼ

ATP ADPフルクトース

6O

HO

OHHOHO P

O

HO

O

OH

2

1

フルクトース 6-リン酸

O

HO

OHHO

HO

OH

6

3)フルクトース 6-リン酸→グリセルアルデヒド 3-リン酸(筋肉中,2 段階)

1 段階目:フルクトース 6-リン酸はホスホフルクトキナーゼの作用によりフルクトー

ス 1,6-ビスリン酸を生じる.リン酸はATPから供給される.解糖系制御反応の一つ.

ホスホフルクトキナーゼ

ATP ADP

6O

HO

OHHOHO P

O

HO

O

O

2

1

フルクトース 1,6-ビスリン酸

OHOHPO

6O

HO

OHHOHO P

O

HO

O

OH

2

1

フルクトース 6-リン酸

2 段階目:フルクトース 1,6-ビスリン酸はアルドラーゼによってジヒドロキシアセト

ンリン酸およびD-グリセルアルデヒド 3-リン酸を生じる.

6O

HO

OHHOHO P

O

HO

O

O

2

1

フルクトース 1,6-ビスリン酸

OHOHPO

アルドラーゼHO O

OOH

OHPO

CHO

OH

HOHO P

OO

D-グリセルアルデヒド 3-リン酸13

ジヒドロキシアセトンリン酸

トリオースリン酸イソメラーゼ

講義メモ

38

4.1)フルクトース→グリセルアルデヒド→グリセルアルデヒド 3-リン酸(肝臓

中,6 段階)

1 段階目:フルクトースはフルクトキナーゼの作用によりフルクトース 1-リン酸を

生じる.リン酸はATPから供給される.

フルクトキナーゼ

ATP ADP

6O

HO

OHHO

HO

O

2

1

フルクトース 1-リン酸

OHOHPO

6O

HO

OHHO

HO

OH

2

1

フルクトース

2 段階目:フルクトース1-リン酸はフルクトース 1-リン酸アルドラーゼの作用により

グリセルアルデヒドおよびジヒドロキシアセトンリン酸を生じる.

6O

HO

OHHO

HO

O

2

1

フルクトース 1-リン酸

OHOHPO

フルクトース 1-リン酸アルドラーゼ

HO OO

OHOHPO

CHO

OHHO

D-グリセルアルデヒド13

ジヒドロキシアセトンリン酸

3 段階目:グリセルアルデヒドはアルコールデヒドロゲナーゼの作用によりグリセロ

ールを生じる.NADH が補酵素として必要である.

CHO

OHHO

グリセルアルデヒド

アルコールデヒドロゲナーゼ

NADH NAD+

OHHO OH

グリセロール

HOOH

OH不斉炭素ではない

講義メモ

39

4 段階目:グリセロールはグリセロールキナーゼの作用によりグリセロール 3-リン酸

を生じる.リン酸はATPから供給される.

HOOH

OH グリセロールキナーゼ

ATP ADP

HOOHHOP(O)(OH)2

グリセロール グリセロール 3-リン酸

5 段階目:グリセロール3-リン酸はグリセロールリン酸デヒドロゲナーゼの作用によ

り,ジヒドロキシアセトンリン酸を生じる.

HOOHHOP(O)(OH)2

グリセロール 3-リン酸

グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ

NADHNAD+

HO OO

OHOHPO

ジヒドロキシアセトンリン酸

6 段階目:ジヒドロキシアセトンリン酸はトリオースリン酸イソメラーゼの作用により,

グリセルアルデヒド 3-リン酸を生じる.

トリオースリン酸イソメラーゼO

O

ジヒドロキシアセトンリン酸

PHOHO

O

CHO

OHO

グリセルアルデヒド 3-リン酸

PHOHO

O

OH

講義メモ

40

4.2)グリセルアルデヒド→グリセルアルデヒド 3-リン酸(肝臓中,1 段階)

グリセルアルデヒドはグリセルアルデヒドキナーゼの作用によってグリセルアルデヒ

ド 3-リン酸を生じる.リン酸はATPから供給される.

CHO

OHHO

グリセルアルデヒド

グリセルアルデヒドキナーゼ

ATP ADP

CHO

OHO

グリセルアルデヒド 3-リン酸

PHOHO

O

5)グリセルアルデヒド 3-リン酸→ピルビン酸(5 段階)

1 段階目:グリセルアルデヒド 3-リン酸はグリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲ

ナーゼの作用により,1,3-ビスホスホグリセリン酸を生じる.NAD+が補酵素として必

要である.リン酸は無機リン酸から供給される.

グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ

NAD+ + H3PO4 NADH

CHO

OHO

グリセルアルデヒド 3-リン酸

PHOHO

O OHO

1,3-ビスホスホグリセリン酸

PHOHO

OO

O

OHOHP

O

2 段階目:1,3-ビスホスホグリセリン酸はホスホグリセリン酸キナーゼの作用によ

り,3-ホスホグリセリン酸を生じる.リン酸はADPに転移し,ATP を生じる.

OHO

1,3-ビスホスホグリセリン酸

PHOHO

OO

O

OHOHP

O

OHOPHO

HO

OOH

OADP ATP

ホスホグリセリン酸キナーゼ

3-ホスホグリセリン酸

3

講義メモ

41

3 段階目:3-ホスホグリセリン酸はホスホグリセリン酸ムターゼの作用により,2-

ホスホグリセリン酸を生じる.

OHO OH

O

ホスホグリセリン酸ムターゼ

2-ホスホグリセリン酸

OHOPHO

HO

OOH

O3-ホスホグリセリン酸

3

HOHO P

O

4 段階目:2-ホスホグリセリン酸はエノラーゼの作用によりホスホエノールピルビ

ン酸を生じる.

OOH

O

エノラーゼ

ホスホエノールピルビン酸

HOHO P

O

OHO OH

O2-ホスホグリセリン酸

HOHO P

O

5 段階目:ホスホエノールピルビン酸はピルビン酸キナーゼの作用により,ピルビン

酸を生じる.リン酸はADPに転移し,ATP を生じる.

ADP ATP

ピルビン酸キナーゼOOH

Oホスホエノールピルビン酸

HOHO P

OO

OH

Oピルビン酸

講義メモ

42

6)ピルビン酸→アセチル CoA

ピルビン酸は好気的条件下でピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の作用により,補酵

素 A(CoA)と縮合し,アセチル CoA と二酸化炭素を生じる.NAD+が補酵素として

必要である.

OOH

Oピルビン酸

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体HS-CoA

NAD+ NADH

O

SCoA

アセチル CoA

CO2

一方,嫌気的条件下では乳酸を生じる.

OOH

Oピルビン酸

乳酸デヒドロゲナーゼ

NAD+NADH L-乳酸

OHOH

O

問題50.グルコース代謝経路の一つペントースリン酸経路は NADPH の産生や核酸の生

合成に重要な役割を果たす.この経路は以下の2段階の反応からなっている.

O

OH

OH

HO

OHOHO

HOPO

グルコース 6-リン酸

グルコース 6-リン酸デヒドロゲナーゼ O

OH

OH

HOO

OHOHOPO

6-ホスホグルコノラクトナーゼ

H2O H+

6-ホスホグルコノラクトン

補酵素

CO2H

OP(O)(OH)2OHHOHHHHOOHH

ホスホグルコン酸

OP(O)(OH)2OHHOHHOOH

リブロース 5-リン酸(Ru5P)

ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ

補酵素

CO2

リブロース 5-リン酸イソメラーゼ

CHO

OP(O)(OH)2OHHOHHOHH

リボース 5-リン酸(R5P)

1)2度の酸化で要求される共通の補酵素名を答え,その反応機構を説明しなさい.

2)第 2 段階目はケトース-アルドース平衡によって進行する.その反応機構を電子の動

きを表す→を用いて説明しなさい.

43

問題51.以下のグルコースおよびフルクトースの代謝経路(解答系)に関するカスケー

ドを完成させ,以下の問いに答えなさい.

1)グルコースから何分子のピルビン酸が得られますか.

2)グルコースから何分子のATPが得られますか.

3)嫌気的な条件下ではピルビン酸は何に変換されますか.また,同時に生成する補酵素

は何ですか.

4)化合物 2 の構造式を Fischer 投影式で書きなさい.

グルコース フルクトース

酵素 1ATP

ADP 酵素 2

酵素 3

フルクトース 6-リン酸

ATP

ADP

化合物 1

酵素 4

グルコース 6-リン酸

ホスホフルクトキナーゼ

化合物 2ジヒドロキシアセトンリン酸

酵素 5 酵素 6

1,3-ビスホスホグリセリン酸

補酵素 1

補酵素 2

無機リン酸

酵素 7化合物 3

化合物 4

化合物 5

ホスホグリセリン酸ムターゼ

化合物 6エノラーゼ

化合物 7

酵素 8

化合物 9

化合物 8

化合物 10

TCA サイクル

アセチル CoA

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体

NAD+

NADH

44

【7】脂質

脂質:脂肪酸誘導体(ワックス,油脂),コレステロール,エイコサノイドなどの細胞や

組織内に含まれる無極性物質の総称.エネルギー貯蔵体,生体膜構成成分,ホルモン,細

胞内化学メッセンジャーなど多岐に渡る機能を持つ.

1.脂肪酸:長鎖のカルボン酸(C4–C36)であり,一般に偶数個の炭素原子を含む直

鎖構造を持つが,三員環やメチル側鎖を含むものもある.直鎖飽和のもの以外にも不飽和

結合を含むもがあり,その幾何配置は一般にシス型である.このため不飽和度の高い脂

肪酸は融点が低く,常温では液体である.直鎖脂肪酸は炭素数と二重結合の数をコロン

(:)で区切り,二重結合の位置をΔに炭素番号を上付きで付記して表される.

COOH1

16

COOH19

18

例)パルミチン酸 = 16:0 オレイン酸 = 18:1(Δ9)

代表的な脂肪酸

名称 炭素数 不飽和度 構造 融点(˚C)

(飽和 )

ラウリン酸 12 0 CH3(CH2)10CO2H 44

ミリスチン酸 14 0 CH3(CH2)12CO2H 58

パルミチン酸 16 0 CH3(CH2)14CO2H 63

ステアリン酸 18 0 CH3(CH2)16CO2H 70

(不飽和)

オレイン酸 18 1 CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7CO2H 4

リノール酸* 18 2 CH3(CH2)4CH=CHCH2CH=CH(CH2)7CO2H -5

リノレイン酸* 18 3 CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7CO2H

-11

アラキドン酸* 20 4 CH3(CH2)4(CH=CHCH2)4(CH2)2CO2H -50

*必須脂肪酸

45

問題52.リノール酸,リノレイン酸を構造式で書きなさい.

問題53.不飽和度の高い脂肪酸が低い融点を持つ理由を説明しなさい.

問題54.アラキドン酸の構造を記号で表記しなさい.

COOH

アラキドン酸

講義メモ

46

2.ワックス:長鎖カルボン酸 (C16-36,偶数個) と長鎖アルコール (C24-36,偶数

個) がエステル結合した構造を持つ.→果実や葉などの防護被覆.

O

O

ヘキサデカン酸トリアコンチル

OHトリアコンタノール

O

OH

ヘキサデカン酸

エステル

3.油脂:三つのカルボン酸(脂肪酸)とグリセロールがエステル結合したトリアシル

グリセロール(トリグリセリド,脂肪,中性脂肪)である.グリセロールの全ての水

酸基に同じ脂肪酸が結合している場合には単純トリアシルグリセロールと呼ぶ.実際に

は自然に存在するトリアシルグリセロールは異なったアシル基が結合していることが多

い(混合トリアシルグリセロール).アシル基部分は動物性の場合,飽和度が高く,植

物性の場合飽和度が低い(不飽和体が多い)である.このため動物性の脂肪は常温で固体

になりやすく,植物性の脂肪は常温で液体である場合が多い.

トリアシルグリセロールをアルカリ性加水分解(ケン化)するとセッケン(カルボキシ

ラート)が生じる.水溶液中でセッケンは内部に疎水性部分,外部に親水性部分を向けて

球状のミセルを形成する.ミセルは疎水性化合物をその内部に取り込み可溶化する.

O

O

O

R

R

R

CO

CO

CO

NaOHHO

HO

HO

ONa

ONa

ONa

R

R

R

CO

CO

CO

O−Na+R C

O

無極性部 極性部ミセル

H2O

H2O H2O

H2OH2O

カルボキシラート

oil

oil

( 石けん)

47

トリアシルグリセロールは動物脂肪(バター,ラード)や植物油(オリーブ油,トウモロ

コシ油などのサラダ油)など生体内における貯蔵エネルギーの一つである.食物から摂取

したトリアシルグリセロールは十二指腸においてリパーゼによって加水分解され,2-モノ

アシルグリセロールと脂肪酸となり,小腸で吸収される.吸収後,これらはアシルトラン

スフェラーゼにより再びトリアシルグリセロールへと再合成される.トリアシルグリセロ

ールは脂溶性であるため,血液に解け難いためリポタンパク質の一種であるキロミクロ

ンに取り込まれ可溶化され,血液およびリンパ液を介して各組織に輸送され,エネルギー

源として利用・貯蔵される.

O

O

O

R

R

R

CO

CO

CO

HO

HO

HOグリセロールTAG

OHR CO

3 xカルボン酸

βー酸化

O

HO

O32-PO

グリセルアルデヒド3-リン酸

解糖系

TCA サイクル体脂肪として貯蔵

O

O

O

R

R

R

CO

CO

CO

トリアシルグルセロール( TAG)

HO

O

HO

R CO

2-モノアシルグルセロール( 2-MAG)

OHR CO

2 xカルボン酸

リパーゼ

十二指腸

小腸膜吸収

2-モノアシルグルセロール カルボン酸

リパーゼ

1) 2-MAGアシルトランスフェラーゼ2) 1,2-DAGアシルトランスフェラーゼ

講義メモ

48

リポタンパク質

種類 比重 直径 主成分 機能

キロミクロン 小 大 トリアシルグリセロール 食事性脂質運搬

VLDL(超低密度リポタンパク質) トリアシルグリセロール 貯蓄性脂質運搬

IDL(中間密度リポタンパク質) トリアシルグリセロール,コレステロール

LDL(低密度リポタンパク質) コレステロール 肝臓から筋・脂肪組

織へのコレステロール運搬

HDL(高密度リポタンパク室) 大 小 タンパク質 肝臓へのコレステロール運搬

問題55.バターとマーガリンの違いを化学構造に基づいて説明しなさい.また,マーガ

リンはどの様にして製造されるか説明しなさい.

問題56.最近,厚生労働省許可の特定保健用食品として1,3-ジアシルグリセロールを主

成分とする食用油が人気を集めている.そのキャッチコピーは『体に脂肪がつきにくい』

であるが,その理由を考察しなさい.

講義メモ

49

4.リン脂質:長鎖アルコールのリン酸エステルの総称である.リン酸が3価であるた

め,一リン酸(モノエステル),二リン酸(ジエステル)および三リン酸(トリエステル)

が存在する.天然に存在するリン脂質は,主としてホスホグリセリドおよびスフィンゴリ

ン脂質とに大別される.

HO OHORP

O

モノエステル

HO OR'ORP

O

ジエステル トリエステル

R"O OR'ORP

O

HO OHOHP

OROH

– H2Oリン酸

1)ホスホグリセリド(グリセロリン脂質)はジグリセリドとリン酸がエステル結合

によって連結した構造を持つ.代表的なグリセロリン脂質の例を以下に示す.これらはい

ずれも疎水性のジアシル部分と極性官能基を同時に持つ両親媒性の分子である.また,生

体内においては細胞内シグナル伝達におけるメッセンジャーとして重要な役割を担って

いる.

O

O

R

R'

CO

CO

O XPO

OH

X = OH; ホスファチジン酸

X = O N+;ホスファチジルコリン

X = O NH3+;ホスファチジルエタノールアミン

X = O CO2H

NH2

;ホスファチジルセリン H

OHHO

HH

OHH

OHOH

OHHX = ;ホスファチジルイノシトール

講義メモ

50

グリセロリン脂質はホスホリパーゼによって加水分解される.ホスホリパーゼはA1, A2, B,

C, D の 5種に分類され,それぞれ位置特異的である.

O

O

O

C

CR2

O

R1

O–O

O

PO N+Me3

ホスホリパーゼ A1

ホスホリパーゼ A2

ホスホリパーゼ B

ホスホリパーゼ C ホスホリパーゼ D

講義メモ

51

2)スフィンゴリン脂質はジグリセリドの代わりにスフィンゴシンがリン酸とエステル

結合した構造を持つ.代表的なスフィンゴリン脂質であるスフィンゴミエリンは神経軸索

を取り巻くミエリン鞘に特に豊富に含まれており,絶縁体として働いている.また,最近

ではその代謝物が様々な細胞内シグナル分子(メッセンジャー)として働くことが明らか

となっており,その起点物質としても興味が持たれている.

O

OH

HNOOH

PO

N+

O

スフィンゴシン スフィンゴミエリン

セラミド

コリン

リン酸

スフィンゴミエリナーゼ

–OOC

スフィンゴシン 1-リン酸OH

NH2O–O O–

PO

スフィンゴシンキナーゼ

OH

OH

HNOOH

PO

N+

O

HO

セラミドホスホリルコリン

セラミダーゼ

OH

OH

NH

スフィンゴシン パルミチン酸

・細胞アポトーシス・細胞分化誘導

・プロテインキナーゼ C (PKC) 阻害作用→細胞分化誘導阻害,細胞成長阻害

・プロテインキナーゼ C (PKC) 活 性化作用→細胞分化誘導,細胞成長促進

講義メモ

52

5.ステロイド:極性官能基である水酸基とそれ以外の疎水性部分を分子内に持ち,ほ

とんどの真核生物の細胞膜を構成する成分の一つである.平面構造を成すステロイド骨

格は強固で直線的な疎水性部分を形成している.コレステロールは動物組織中に見られ

る主要なステロールの一つであるが,C20–C27 側鎖部を真っ直ぐに延ばすとパルミチン

酸の脂溶性部分とほぼ同じ長さとなる.生体内においては細胞膜の構成成分であると同時

にステロイドホルモンとしてシグナルの伝達に重要な役割を果たすものも多い.

HO

A B

C D

ステロイド骨格H

コレステロール

H

H

講義メモ

53

コレステロールの生合成

コレステロールはアセチル CoA とアセトアセチル CoA からメバロン酸,スクワレン

を経由する以下の経路で生合成される.特にHMG-CoA 還元酵素を阻害する薬物はコレス

テロールの生合成を抑制ことから抗高脂血症薬として汎用される.コレステロールは胆汁

酸(コール酸)やビタミン D の生合成原料として重用である.

SCoA

Oチオラーゼ

2 x

アセチル CoASCoA

OO

アセトアセチル CoAHS-CoASCoA

OOHHOOC

HMG-CoAシンターゼ

HS-CoA β-ヒドロキシ-β-メチルグルタリル CoA( HMG-CoA)

HMG-CoAレダクターゼ

2 NADPH + 2 H+ 2 NADP+OH

OHHOOC

メバロン酸

『  Claisen 縮合』 『 Aldol 反応』

HS-CoA

O O O–

O– O–PO

PO

O O O–

O– O–PO

PO

Δ3-イソペンテニルピロリン酸

3 段階

3 ATP

ジメチルアリルピロリン酸

O O O–

O– O–PO

PO

ゲラニルピロリン酸

プレニルトランスフェラーゼ

O O O–

O– O–PO

PO

O O O–

O– O–PO

PO

PPi

PPiファルネシルピロリン酸

スクアレンシンターゼ

2 PPi

NADPH + H+

NADP+

スクアレン

『  二量化』

O

スクアレンモノオキシゲナーゼ

スクアレン 2,3-エポキシド

シクラーゼ

HO

ラノステロール

コレステロール

NADPH + H+ NADP+

+ O2 + H2O

54

6.エイコサノイド:炭素数20の不飽和脂肪酸=アラキドン酸から多段階の酵素反応を

経て生合成される化合物群で,合成された部位の近傍で化学メッセンジャーとして働く.

例えば,アラキドン酸は細胞膜中のグリセロールにエステル結合して蓄えられているが,

細胞が損傷を受けると,ホスホリパーゼ A2(加水分解酵素)が活性化され,エステル結

合が切断されてアラキドン酸が細胞内に遊離される.次いでアラキドン酸はシクロオキシ

ゲナーゼ(酸化酵素)によって酸化され,プロスタグランジン E2へと変換され,これが炎

症を引き起こす.ちなみに,抗炎症薬として用いられるアスピリンはシクロオキシゲナー

ゼをアセチル化し,不活性化することで抗炎症作用を示す.

CO

O

H

HO

OOOH

COOH

アラキドン酸

COOH

ホスホリパーゼ A2

細胞膜

遊離

プロスタグランジン E2: 炎症

シクロオキシゲナーゼ

エイコサノイドは5員環を含むプロスタグランジン類と5員環を含まないロイコトリエン

類に分類される.

COOH

COOH

アラキドン酸

158

11 1420

10

18

12 20

プロスタグランジン E1

COOH

S

OH

HN COOH

NH2

O

ロイコトリエン D4

110

20

OHHO

O

55

7.脂質二重膜の構造

上記の脂質はいずれも分子内に無極性部分と極性部分を同時に持つことから,集合してミ

セル形成しやすいが,特にリン脂質やステロイドは親水性部分と疎水性部分の断面積が近

いので脂質二重層からなるリポソームを形成し易く,生体内では細胞膜を構成している.

親水性部分疎水性部分 集合

脂質二重膜

親水性部分

親水性部分

疎水性部分

リポソーム( 小胞)

疎水性部分

親水性部分

親水性部分

講義メモ

56

脂質二重層は細胞膜に整然としたシート状の構造を与えると同時に柔軟性も持っている.

また,リン脂質同士は弱い分子間力で引きあっているだけなので,流動性があり,ダメー

ジを受けた場合にも容易に修復可能である.また,その流動性のため無極性低分子(多く

の医薬品)はリン脂質の間を通過して細胞内に進入することができる.その流動性の程度

は不飽和脂肪酸の含有量によって制限されている.脂質二重層にはコレステロール,タン

パク質が取り込まれている.コレステロールはその強固な構造のために脂質二重膜の構造

を維持するのに役立っている.脂質二重層のタンパク質には部分的に膜に入り込んでいる

周辺タンパク質と膜を貫通している内在性タンパク質とがある.内在性タンパク質の中に

は数回膜を貫通しながら往復し,チャネルと呼ばれるトンネルを形成し,栄養物質を細胞

内に取り込んだり,受容体とよばれる細胞間シグナルの受信装置を形成したりしている.

受容体

チャネル

コレステロール

糖タンパク質

酵素

リン脂質二重層

細胞膜を構成する分子

糖脂質

講義メモ

問題57.油脂に関する以下の問いに答えなさい.

57

1)動物性油脂と植物性油脂の融点の違いについて説明しなさい.

2)トリグリセリドの消化・吸収の過程について説明しなさい.

3)キロミクロンとは何か説明しなさい.

4)トリグリセリドの代謝(エネルギー産生)について説明しなさい.

5)油脂を加水分解して得られるカルボキシラートの化学的性質について説明しなさい.

問題58.リン脂質に関する以下の問いに答えなさい.

1)ホスホグリセリド(グリセロリン脂質)とスフィンゴリン脂質の化学構造的な違いに

ついて説明しなさい.

2)代表的なホスホグリセリドを5種類挙げ,その生物学的な役割について説明しなさい.

3)脂質二重膜の構造について説明しなさい.

4)ホスホグリセリドの加水分解酵素5種を挙げ,それらの特異的な切断箇所を示しなさ

い.

5)スフィンゴミエリンからスフィンゴシン1-リン酸に至る3段階の代謝に関わる酵素名

と代謝産物およびその代謝産物の細胞内シグナルとしての役割を答えなさい.

問題59.ミセルとリポソームの違いについて説明しなさい.

問題60.コレステロールの生合成について以下の問いに答えなさい.

1)2分子のアセチル CoAを縮合させる酵素名,生成物の名称,構造式を書きなさい.

2)HMG-CoA 合成酵素によって生じるHMG-CoA の正式名および構造式を書きなさい.

3)HMG-CoA 還元酵素によって生成する物質の名称と構造式を答えなさい.

4)血中コレステロール増加は動脈硬化を引き起こす要因となる.このため,高脂血症患

者の治療には「プラバスタチン」,「シンバスタチン」,「フルバスタチン」といったコレス

テロールの生合成を抑制する薬物が用いられる.その標的となる酵素の名称を答えなさい.

問題61.以下の脂肪酸の炭素数不飽和結合の数と位置および常温での状態(固体または

液体)の関係を表にまとめなさい.

パルミチン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレイン酸,アラキドン酸

58

問題62.次の脂質の構造を下から選びなさい.

1)ヘキサデカン酸トリアコンチル(ワックス)

2)トリアシルグリセロール(油脂)

3)ホスファチジルコリン(グリセロリン脂質)

4)スフィンゴリン脂質

5)コレステロール

6)プロスタグランジン E1

O

O

R

R'

CO

CO

O OPO

OH N+

O

O

O

R

R

R

CO

CO

CO

HOHH

H

AB C

O

OH

HNO

OHP

ON+

R OE

O

O

D

COOH

OHHO

O

F

問題63.アラキドン酸はホスホリパーゼ A2 の作用により,細胞内に遊離してくる.こ

の事よりアラキドン酸はホスホグリセリドの何位に結合していたことになるか.答えなさ

い.

問題64.ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)からイノシトール三リン酸(IP3)

を遊離させる酵素名を答えなさい.

問題65.リポタンパク質の種類と生物学的な役割の違いを説明しなさい.

59

【8】アミノ酸の構造と分類

1.α–アミノ酸の一般的な化学構造

α–炭素上にカルボキシル基,アミノ基およびアルキル基(H または種々の官能基)を持

つ.

CHRNH2

COOH*

カルボキシル基( 酸性)

アミノ基( 塩基性)

不斉炭素( グリシンを除く)

アルキル基

グリシンを除くアミノ酸のα–炭素は不斉炭素であり,光学活性体である.細菌の細胞壁

を構成するペプチドグリカンを除き,一般に天然に存在するアミノ酸は L-体であり,シス

テインを除き S-配置をとる.

HO

C

C O

H

C

NH

HO

C

C O

H

C

NH

HO

C

CO

H

C

NH

HO

C

O C

H

C

NH

CCH3

NH2

HOOC H CH

NH2

HOOC CH3 CH3C

NH2

COOHH

(S)-体 (R)-体

問題66.システインの立体配置を示しなさい.

問題67.β-アミノ酸はどの様な構造を持つか説明しなさい.

講義メモ

60

2.α–アミノ酸の一般的な化学的特徴

カルボキシル基(酸性置換基)とアミノ基(塩基性置換基)を同一炭素上に持つため,分

子内で酸–塩基反応を行い,主として双性イオン(双極性イオン)として存在する.

CHRNH2

COOH CHRN+H3

COO–

双性イオン( 水に溶けやすい)

同じ理由から,酸とも塩基とも反応する.(両性電解質)

NaOHCHRNH2

COO–Na+

HClCHRN+H3

COOH

Cl–

カルボキシレート

アンモニウム塩

(塩基性)

(酸性)

CHRN+H3

COO–

CHRN+H3

COO–

塩基性置換基

酸性置換基

講義メモ

61

3.通常アミノ酸の分類と化学的特徴

天然に存在するアミノ酸のうち,20 種を通常アミノ酸と呼ぶ.成人はそのうちの 9 種を

生合成出来ず,食物から必ず摂取しなければならないため,これらを必須アミノ酸と呼ぶ.

(別表1参照)

問題68.次の表を完成させ,以下の問いに答えなさい.

通常アミノ酸(20 種)

中性アミノ酸(15種)

名称 略号 構造式

1.グリシン

2.アラニン

3.ロイシン

4.イソロイシン

5.バリン

6.フェニルアラニン

62

名称 略号 構造式

7.チロシン

8.トリプトファン

9.セリン

10.トレオニン

11.システイン

12.メチオニン

13.アスパラギン

14.グルタミン

15.プロリン

63

酸性アミノ酸(2種)

名称 略号 構造式

1.アスパラギン酸

2.グルタミン酸

塩基性アミノ酸(3種)

名称 略号 構造式

1.リシン

2.ヒスチジン

3.アルギニン

1)中性アミノ酸の構造を比較し,その違いについて置換基名を使って説明しなさい.

2)芳香族アミノ酸の芳香環部分を緑ペンで囲みなさい.

3)塩基性アミノ酸の構造式における塩基性を示す置換基を青ペンで囲みなさい.

4)酸性アミノ酸の構造式における酸性を示す部分を赤ペンで囲みなさい.

5)必須アミノ酸の名称を蛍光ペンでマークしなさい.

6)イミノ基(二級アミノ基)をもつアミノ酸はどれですか.

7)チオール基(メルカプト基,スルフヒドリル基)をオレンジペンで囲みなさい.

64

塩基性アミノ酸の一つであるヒスチジンに含まれる3種の窒素原子のうちイミダゾール環

上の一つ(—N(H)—)はその孤立電子対が他の二重結合のπ電子と重なり合って安定な芳

香環を形成している.この時,4π+2n = 6e で芳香環の定義であるHückel 則(各原子上

に p軌道をもった単環状共役系の平面分子であり,全部で4n+2個のπ電子を持つ場合の

み芳香族である.ただし,nは整数である.)にも合致する.もし,この孤立電子対がプロ

トンの様な求電子剤との反応に使用されると,芳香族性が壊れてしまい,不安定となる.

従って,塩基性を示さない.同様な理由からトリプトファンのインドール窒素も塩基性を

示さない.

NNH

ヒスチジン

非局在化

塩基性

非塩基性

塩基性N

NH

イミダゾール環 = 芳香環 (安定)

局在化

SP2SP2COOH

NH2NNH

孤立電子対

システイン同士はチオール基部分で酸化的に脱水素化されてジスルフィド結合を形成し,

シスチンを生じる.システイン残基同士のジスルフィド結合形成はタンパク質の三次構造

を規定する上で重要な役割を果たす.

NH2

COOHHS

チオール基

システイン (Cys, C)

NH2

HOOCSH

– (2H+ + 2e–)

NH2

COOHS

NH2

HOOCS

ジスルフィド結合

+ (2H+ + 2e–)

『  酸化』

『  還元』 シスチン

講義メモ

65

問題68.トリプトファンのインドール環上の窒素原子が塩基性を示さない理由を説明し

なさい.

NH

CO2H

NH2

トリプトファン

問題69.必須アミノ酸の一種であるヒスチジンは三つのアミノ基を持つが,その内の一

つは塩基性を示さない.その部分を示し,その理由を説明しなさい.

NHN

ヒスチジン

COOH

NH2

問題70.通常アミノ酸のうちチオール基を持つものはどれか.また,その酸化的処理に

よって生成する二量体の構造式,名称および生じる結合名を示しなさい.

問題71.分岐鎖アミノ酸(Branched Chain Amino Acids: BCAA)は筋肉を構成する主

要な成分であると同時に,運動時にエネルギー源として利用されることから最近スポーツ

飲料の成分として用いられ,ヒット商品となっている.その分岐鎖アミノ酸3種の構造式,

名称および略号を答えなさい.ただし,構造式は立体化学が分るように書くこと.参考URL,

http://www.otsuka.co.jp/a-v/

66

4.等電点(pI)

アミノ酸は分子内に酸性官能基と塩基性官能基が存在する双性イオンであるが,ある pH

においてマイナスの電荷とプラスの電荷がつり合う.この時の pHを等電点(pI)と呼ぶ.

中性アミノ酸であるアラニンは酸性領域ではプラスに荷電し,塩基性領域ではマイナスに

荷電するが,中性領域ではプラスとマイナスが釣り合い,正味の電荷が無くなる.従って,

アラニンの等電点はほぼ・ ・

中性付近にある.等電点は各段階の解離定数(pKa1および pKa2)

の平均値として求めることが出来る.[Henderson-Hasselbalch の式:弱酸と弱塩基が反

応して出来た塩の水溶液は pH = 1/2・(pKa1 + pKa2)で表される]

CH3 COO–

NH3+

CH3 COOH

NH3+

CH3 COO–

NH2

酸性 中性 塩基性

プラスに荷電 マイナスに荷電

H+

OH–

H+

OH–

正味の電荷が±0

等電点 (pI)

A B

CA B

0

100%比率

50

pKa1 pKa2 pHpI2.34 9.69

pI = 1/2•(2.34 + 9.69) = 6.015

Ka1 Ka2

問題72.フェニルアラニンは pKa1 1.83 (COOH) および pKa2 9.13 (NH2) である.

フェニルアラニンの等電点 (pI) を求めなさい.

講義メモ

67

アスパラギン酸のような酸性アミノ酸の場合,その等電点は pKa1と pKa2の平均となり酸

性側にある.

COO–

NH3+

COOH

NH3+

COO–

NH2

酸性 中性 塩基性

プラスに荷電 マイナスに2倍荷電

H+

OH–

H+

OH–

正味の電荷が±0

等電点 (pI)

A B

CA B

0

100%比率

50

pKa1 pKa2 pHpI1.88 3.65

pI = 1/2•(1.88 + 3.65) = 2.77

HOOCCOO–

NH3+

HOOCH+

OH–

微酸性

–OOC –OOC

C Dマイナスに荷電

D

pKa39.60

Ka1 Ka2 Ka3

一方,アルギニンの様な塩基性アミノ酸の場合,その等電点は pKa2と pKa3の平均となり

塩基性側にある.

COO–

NH3+

COOH

NH3+

COO–

NH3+

酸性 微塩基性 塩基性

プラスに2倍荷電

H+

OH–

H+

OH–

正味の電荷が±0

等電点 (pI)

A B

CA B

0

100%比率

50

pKa1 pKa2 pHpI2.18 8.95

pI = 1/2•(8.95 + 10.53) = 9.74

COO–

NH3+ H+

OH–

中性

C Dマイナスに荷電

D

pKa310.53

Ka1 Ka2 Ka3

H3N+( )3

H3N+( )3

H2N( )3

プラスに荷電

H2N( )3

講義メモ

68

問題73.グルタミン酸の pKa は 2.19, 4.25,9.67 である.等電点(pI)を求めなさ

い.

問題74.アルギニンの pKa は 2.17, 9.04, 12.48 である.等電点(pI)を求めなさい.

69

5.電気泳動

リシン(塩基性アミノ酸),バリン(中性アミノ酸)およびアスパラギン酸(酸性アミノ

酸)が溶けている溶液を pH7に調整し,両端に電極を置くと,リシンがマイナス極,アス

パラギン酸がプラス極に移動する.これは中性でリシンはプラスに荷電し,アスパラギン

酸はマイナスに荷電しているからである.この様な原理を応用し,物質を分離する方法を

電気泳動と呼ぶ.

COO–

NH3+

COOH

NH3+

COO–

NH3+H+

OH–

H+

OH–COO–

NH3+ H+

OH–

H3N+( )3

H3N+( )3

H2N( )3

H2N( )3

COO–

NH3+

COOH

NH3+

COO–

NH2

酸性 中性 塩基性

H+

OH–

H+

OH–

COO–

NH3+

COOH

NH3+

COO–

NH2H+

OH–

H+

OH–

HOOCCOO–

NH3+

HOOCH+

OH––OOC –OOC

Val

Asp

Lys

±0

マイナスに荷電

プラスに荷電

COO–

NH3+

COO–

NH3+

–OOCCOO–

NH3+H3N+

( )3ー +

マイナスに荷電プラスに荷電 ±0

移動 移動

電気泳動

問題75.リシン,バリンおよびアスパラギン酸を含む酸性溶液の電気泳動を行った時,

陰極側に移動しやすい順番を答えなさい.

問題76.リシン,バリンおよびアスパラギン酸を含む塩基性溶液の電気泳動を行った時,

陽極側に移動しやすい順番を答えなさい.

70

【9】ペプチドの構造と化学的特徴

1.ペプチドの構造

アミノ酸 2分子が脱水縮合すると,ジペプチドとよばれる重合体が生じる.さらに,もう

1 分子のアミノ酸が脱水縮合すると,トリペプチドとなる.同様な脱水縮合が繰り返し起

り,アミノ酸残基3~10個ならオリゴペプチド,それ以上でポリペプチド,50個以上に

なるとタンパク質とよばれる.

CHR1

HN OHC

OH CH

R2

HN OHC

OH CH

R1

HN C

OH CH

R2

HN OHC

O

アミド結合( ペプチド結合)

– H2O

ジペプチド

– H2O

CHR1

HN C

OH CH

R2

HN C

O

CHR3

HN OHC

OH

CHR3

HN OHC

O

トリペプチド タンパク質

CH

R1

H2NHNC

OCH

Rx

HN OHC

OCO

N 末端C 末端

ペプチドは通常N末端を左側に書き,C末端を左に書く.また,その名称はN末端側を~

yl とし,C末端のアミノ酸名につなげる.

H2N

CH3

O

HN COOH

(N 末端) (C 末端)

Ala Gly

H2NO

HN COOH

(N 末端) (C 末端)

Gly Ala

L-アラニルグリシン(L-alanylglycine)

CH3

グリシル-L-アラニン(glycyl-L-alanine)

問題77. L-アスパラギン酸と L-フェニルアラニンからなるジペプチドのうち,L-アス

パラギン酸がN末端で C末端がメチルエステルとなったものの構造と名称を書きなさい.

71

2.ペプチド結合の化学的性質

アミド結合の窒素上の孤立電子対は隣接するカルボニル基のπ電子と相互作用し,非局在

化している.このため,アミド結合の窒素は塩基性を示さず,また,平面性を持っている.

R1 CO

R2HN R1 C

O–

R2NH共鳴

R1N

–O R2

HR1N

R2H

O sp3sp2

問題78.γ-L-glutamyl-L-cysteinylglycine の構造を書き,その慣用名を答えなさい.

問題79.ペプチド結合の窒素が塩基性を示さない理由を説明しなさい.

問題80.ペプチド結合が平面性をもつ理由を説明しなさい.

講義メモ

72

【10】タンパク質の構造と化学的性質

タンパク質の構造

タンパク質は 50 個以上のアミノ酸がペプチド結合により連結した高分子化合物である.

従って,一般的な有機分子と比べ,巨大な分子であり,「構造」という言葉の指す意味が

広い.そこで,タンパク質の構造は以下の四つの異なったレベルに分類されている.

1.一次構造:アミノ酸配列(シークエンス)

タンパク質はアミノ酸がペプチド結合によって結ばれた一本の鎖の様な構造を持つ.鎖の

輪一つ一つがアミノ酸1分子に相当する.

アミノ酸1分子

ペプチド結合 ペプチド (タンパク質)

二種類以上のアミノ酸がペプチド結合する場合,その結合する順次によって異なるペプチ

ドが生じる.例えば,グリシンとアラニンが結合する場合以下の二種類のジペプチドが可

能である.これらジペプチドはアミノ基側(N 末端)を左に置き,カルボキシル基側(C

末端)を右において略号を用いて表記される.50 個以上のアミノ酸が連なってできてい

るタンパク質には連結する順序の違いによって無数の構造が可能である.この順序のこと

をアミノ酸配列(シークエンス)と呼ぶ.また,構成しているアミノ酸を残基と呼ぶ.

CH2HN OHC

OH CH

CH3

HN OHC

OH CH2

HN C

OH CH

CH3

HN OHC

O

Gly Ala Gly Ala

CH2HN OHC

OHCH

CH3

HN OHC

OH CH

HN C

OH CH2

HN OHC

O

GlyAla Ala Gly

CH3

73

問題81.グルタチオンはグリシン,システイン,グルタミン酸から成るトリペプチドで

あり,生体内ではグルクロン酸抱合,グルタチオンペルオキシダーゼの補酵素として過酸

化物の還元反応,ジスルフィド結合の非酵素的還元反応によるチオール基の再生などを行

う重要な生理活性物質である.その構造はグリシンを C末端とし,システインのアミノ基

とグルタミン酸のγ-カルボキシル基が縮合していることが特徴である.グルタチオンの構

造を示しなさい.

講義メモ

74

2.二次構造:タンパク質分子のある部分について観測される規則正しい立体構造

1)αへリックス:ペプチド鎖が右巻きにねじれてらせんを巻いた構造であり,一巻き

に約3.6個のアミノ酸残基が含まれる.アミノ酸残基の側鎖はらせんの外側を向いている.

1番目のアミノ酸残基のアミド酸素原子と5番目のアミノ酸残基のアミド窒素上の水素原

子の間で水素結合形成することで固定さていれる.

N

N

N

OO

O

H

HH

N

NN

OO

O

H

HH

N

NN

OO

O

HH

H

R

R

R R

RR

R

R

右巻きらせん構造水素結合 主鎖

N

NNO

OO

H

HH

N

NNO

O

O

H

HH

N

NNO

O

O

HH

H

R

R

R R

R

R R

R

C

N1

5

問題82.αヘリックスの構造的特徴を説明しなさい.

講義メモ

75

2)βプリーツシート:二本のペプチド鎖が並行に並んだ時,お互いのカルボニル基

(C=O)とアミノ基(H–N)が水素結合(C=O • • • H–N)によって引きつけられてひだ

(プリーツ)状の平面を形成したもの.ペプチド鎖の向きにより平行型と逆並行型の2種

が存在する.平行型はどちらもN末端→C末端の方向で並ぶ.逆平行は一方がN末端→C

末端でもう一方が C末端→N末端の方向で並ぶ.逆平行型に比べ,平行型は水素結合にひ

ずみがかかっているため不安定であり,一般に5本以上のペプチド鎖が並んでいることが

多い.βシートは全体として右にねじれ,長く伸びたものは右巻きらせん構造を取る.

N

N

N

O

HO

OH

H

N

N

N

O

HO

OH

H

N

N

N

O

HO

OH

HN

N

O

OH

H

NH

O

平行 逆平行

R

R

R

R

R

R7.0 Å

C

N

C

N

C

N C

N

水素結合

主鎖

NHO

N

O

NHO

N

O

NHO

N

O

NHO

N

H

H

H

HHN

ON

O

HNO

N

O

HNO

N

O

HNO

N

H

H

H

H

NN

CC

C

C

N

N

R R

R R

R R

プリーツ ( ヒダ状 ) 構造 右巻きシート構造

問題83.βシートの立体構造について説明しなさい.

76

3)ループ,ターン:αへリックスやβプリーツシートの間に位置し,U 字型のループ

を形成する部分.プロリンはα-アミノ基が5員環に含まれる構造を持ち,Cα—Nの回転

が起らないため,非常に硬い構造をとる.そのためβターンの構成アミノ酸(特に2番目)

としてプロリンを含むことが多い.

N C

α–α ループ

Ω ループ 平行 β ターン

NN

CC

逆平行 β ターン

C

C

N

N

RCα3 N

Cα4

N

Cα2N Cα1

HO

OR

O

H

H

RCα3 N

Cα4

N

Cα2N Cα1

HO

OR

O

H

H

I 型βターン II 型βターン

RN

N

N

HO

OH

O

H

RN

N

N

HO

O

O

H H

L-Pro L-Pro

問題84.あるタンパク質の構成アミノ酸にプロリンが含まれるとU字型の屈曲構造を形

成しやすい.その理由について考察しなさい.

講義メモ

77

3.三次構造:タンパク質 1 分子(単量体)の立体構造.三次構造中ではαヘリックス

やβプリーツシート,βターンなどの二次構造がジスルフィド結合,水素結合,イオン結

合(塩橋),疎水生相互作用などによって固定され特異な立体構造が構築されている.

ミオグロビンの三次構造 オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質 (GFP)の三次構造

この様に単なる1本の鎖であるタンパク質が折り畳まれて三次元的な構造をとることをフ

ォールディングという.タンパク質はその形状の違いから繊維状タンパク質と球状タンパ

ク質に分けられる.前者はケラチンやコラーゲンが属し,一般に水に不溶である.多くの

タンパク質は後者に属するが,一般に親水性側鎖が表面に配置し,水に可溶なものが多い.

繊維状タンパク質 球状タンパク質

folding

問題85.タンパク質の三次構造について説明しなさい.

78

4.四次構造:複数の単量体タンパク質(サブユニット)が水素結合,イオン結合(塩

橋),疎水生相互作用などによって凝集(会合)し,多量体(オリゴマー,複合体)とな

ったものの立体構造.

Na+チャネルサブユニット (単量体) x 5

H2NCO2H

Na+チャネル (5 量体)

H2N CO2H

H2N CO2H

H2N H2NCO2H

HO2C H2N CO2H

H2NCO2H

H2NCO2H

H2NCO2H

H2NCO2H

会合

Na+チャネル内蔵型アセチルコリン受容体

Cartoon モデル CPK モデル

チャネル

問題87.タンパク質の四次構造について説明しなさい.

問題86.讃岐うどんは特定の種類の小麦粉を使用し,混捏(水を加えて混ぜ合わせる操

作),熟成(静置する),圧延(手打ち,足踏みなどでよく捏ねる)の三工程で製造される.

一般にうどんの味はデンプン,食感(粘りやコシ)はグルテンと呼ばれるタンパク質によ

るものとされる.グルテンはグリアジンとグルテニンを主成分としたシステインを多く含

有するタンパク質である.このことから讃岐うどんのコシが強い理由を考察しなさい.

79

タンパク質の化学的性質(変性)

タンパク質は以下の処理が施されると,非共有結合性の相互作用が阻害され立体構造(二

~四次構造)が破壊される.このことを変性という.変性したタンパク質は一次構造は保

持しているため,原理的には・ ・ ・ ・ ・ ・

元の三・四次構造に再生可能である.

i)熱:50 ˚C 以上の加熱で側鎖間の弱い相互作用が破壊される.

例)卵をゆでると固まる.火傷.

ii)機械的撹拌

例)卵白を撹拌して泡立てる

iii)洗剤(界面活性剤):側鎖の疎水性相互作用を破壊する.

iv)有機物質:アセトンやエタノールは水素結合を破壊する.

例)エタノール消毒により細菌のタンパク質が変性し殺菌される.

チオールなどの還元剤はジスルフィド結合を還元的に切断する.

例)パーマネントウェーブ

v)pH変化:H+またはOH–によって塩橋を破壊する.

例)牛乳が腐ると酸性になり固まる.(ヨーグルト)

vi)無機塩:塩橋が破壊される.

講義メモ

80

問題88.インシュリンの構造に関する以下の問いに答えなさい.

Gly–Ile–Val–Glu–Gln–Cys–Cys–Thr–Ser–Ile–Cys–Ser–Leu–Tyr–Gln–Leu–Glu–Asn–Tyr–Cys–Asn

Phe–Val–Asn–Gln–His–Leu–Cys–Gly–Ser–His–Leu–Val–Glu–Ala–Leu–Tyr–Leu–Val–Cys–Gly–Glu–Arg–Gly–Phe–Phe–Tyr–Thr–Pro–Lys–Ala

21

30

10

10 20

A–鎖

B–鎖

a

b c

インシュリンの一次構造

1)上記の構造を一文字表記に変換しなさい.

2)上記構造の傍線 a~c はいずれも同様な化学結合を示している.この結合の名称を答

え,その構造を書きなさい.また,その結合は共有結合・イオン結合・水素結合のうちど

れか答えなさい.

3)A-鎖の 21番目のアミノ酸の構造を分子型で書きなさい.

4)B-鎖の 10 番目のアミノ酸は酸性・中性・塩基性のいずれの性質を示すか.その理

由も合わせて答えなさい.

5)B-鎖の 28番目のアミノ酸の構造式を書き,その特徴を述べなさい.

6)インシュリンに含まれる全ての酸性アミノ酸を列挙しなさい.