29
1 1次元ドップラーレーダ観測と 粒子融解モデルによる融解中の 降水粒子鉛直分布の推定 越田智喜(いであ㈱)、宮崎真[1] 、小森大輔、小池雅洋、 鼎信次郎、沖大幹(東京大学生産技術研究所) [1] 現所属:国立環境科学研究所地球環境研究センター

1次元ドップラーレーダ観測と 粒子融解モデルによ …hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/~koshida/activity09/suikou09/...-2 02 46 8 ドップラ速度[m/s] 600m高度 Zeスペクトル(dBZe)

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1

1次元ドップラーレーダ観測と

粒子融解モデルによる融解中の降水粒子鉛直分布の推定

越田智喜(いであ㈱)、宮崎真[1]、小森大輔、小池雅洋、鼎信次郎、沖大幹(東京大学生産技術研究所)

[1] 現所属:国立環境科学研究所地球環境研究センター

2

はじめに• 気象レーダは地上降水量を、広範囲・高分解

能で定量観測できることに特長がある。→ダム・河川の流域雨量の測定に有効

• ただし、初春・晩秋には融解層(レーダのブライトバンド)を観測することがあり、誤差要因となる。→融解層の降水定量評価が重要

• 融解層を含むVPR (vertical profile of reflectivity)を表現するモデルを開発中

→よい一致が見られたので報告する

3

今回の報告1. 雪から雨への観測の整理

MRRによる融解状況の観測

2. 雪から雨への粒子変化の計算融解モデルによる計算

3. 融解過程におけるレーダ反射強度因子の計算

4. 観測と計算の比較

5. 今後の課題

4

1.融解状況の観測;解析対象降雨

• 天気図2004年12月29日9時

日本の南岸を低気圧が通過

降りだしが雨で後に雪に変わる

6:10~6:20JSTの10分を解析対象とする

5

MRRの概観1次元ドップラーレーダ

・地上100mから上空2900mを100m間隔で

観測

・1分平均値を記録

今回は10分平均値を

用いた

6

1.データ:時間高度断面図反射強度因子(Ze)

800m~300mブライトバンド

0300 0400 0500 0600 0700 0800 0900JST

0℃高度は、気象庁GPVから1000mであることが解析されている

7

1.融解状況;MRRの観測結果2004/12/29 6:01-6:10JST spectrum prof.

0

5

10

15

20

25

-2 0 2 4 6 8 10

Doppler Velocity(m/s)

Pow

er(d

B(Z

/(m

/s)

)

100m

200m

300m

400m

500m

600m

700m

800m

900m

1000m

1100m

1200m

8

2.融解モデル

0

100

200

300

400

500

600

0 2 4 6 8

粒径(mm)

0℃

高度

から

の距

離(m

)

diameter2.86(mm)diameter4.64(mm)diameter6.84(mm)

0

100

200

300

400

500

600

0 2 4 6 8

落下速度(m/s)

0℃高

度か

らの

距離

(m)

diameter2.86(mm)diameter4.64(mm)diameter6.84(mm)

• 松尾と佐粧(1981)によるモデル。

粒径・落下速度・含水率

• 初期の雪粒子の密度は0.04mg/cm3とした。

• 雨の粒径分布が上空まで同じとした。

9

3.融解粒子の反射強度因子の計算

• 初期の雪密度は、考えている全粒子一定

• 粒子の衝突併合、分裂(今回は考慮せず)• 雲粒付着による粒子成長(今回は考慮せず)• 降雨減衰の効果(今回は考慮せず)

降水強度1mm/hで0.2dB/ km• 粒子形状の効果・姿勢の効果(球形を仮定)• MIEの過程 (Rayleighとの比で補正)• 融解中の誘電率変化(後述)• 乱流の効果を考察(後述)

10

3.①融解粒子の誘電率

• Wienerの理論(西辻1971)

• 、 、 :降雪粒子の複素誘電率、質量、密度

• 、 、 :氷の複素誘電率、質量、密度

• 、 、 :水の複素誘電率、質量、密度

• 、 、 :空気の複素誘電率、質量、密度

• :形状因子(電場の方向と氷の形状・向きで決まる氷が球状で一様に分布した場合は2)

um

um

um

um

a

a

a

a

w

w

w

w

i

i

i

i

s

s

s

s

+−

++−

++−

=+−

εε

ρεε

ρεε

ρεε

ρ1111

sε sm sρim iρiε

wε wm wρaε am aρ

u

11

3.②乱流の効果の推定

• 乱流による観測スペクトル分布の広がりを考慮Wakasugi et, al (1986)

• 畳み込み和を実施1200m高度観測のスペクトル分布を説明する速度幅(標準偏差)=0.6m/s、速度=0m/sを採用

• 乱流の確率分布は、0~8m/sで正規分布を仮定

)()(*)()( 222110 wSPwSwSPws +=

∑ −⋅=n

ZeZe nmSnsms )()()( 210

P2:大気エコー強度

乱流は融解層全層均一

12

-10

-5

0

5

10

15

20

25

-2 0 2 4 6

ドップラ速度[m/s] 1200m高度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.03

0.06

0.09

0.12

0.15

0.18

0.21

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

3.上空の観測値の再現乱流の考慮 1200m高度

13

4.観測と計算の比較

14

1000m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8ドップラ速度[m/s] 1000m高度

Zeス

ペク

トル

[dB

(Ze/(m

/s)

)]

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

15

900m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

16

800m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

17

700m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8ドップラ速度[m/s] 700m高度

Zeス

ペク

トル

[dB

(Ze/(m

/s)

)]

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)Zeスペクトル(観測値)Zeスペクトル(畳込後)乱流の確率分布

18

600m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度[m/s] 600m高度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

19

500m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

20

400m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

21

300m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度[m/s] 300m高度

Zeス

ペク

トル

[dB

(Ze/(m

s/))

]

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)Zeスペクトル(観測値)Zeスペクトル(畳込後)乱流の確率分布

22

200m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

23

100m

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度

Zeス

ペク

トル

(dB

Ze)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)

Zeスペクトル(観測値)

Zeスペクトル(畳込後)

乱流の確率分布

24

4.観測と計算の比較

0

200

400

600

800

1000

0 1 2 3 4 5 6平均ドップラ速度[m/s]

高度

[m]

観測されたν

モデルによるν

0

200

400

600

800

1000

0 5 10 15 20 25 30反射強度因子[dBZe]

高度

[m]

観測されたZe

モデルによるZe

0

200

400

600

800

1000

0 1 2 3 4 5 6平均ドップラ速度[m/s]

高度

[m]

観測されたν

モデルによるν

25

4.観測と計算の比較

① 融解層上端である1000m高度でのZeはモ

デルによる計算が観測値より大きい→現実には粒子が併合しており、Zeが減少

② Zeの極大値が出現する高度は観測値より

上方である→熱交換の効率(全粒子が均一でない)

③ 融解層下部に対応する300m高度では観測

値より大きい→現実には粒子が併合しており、Zeが減少

26

6まとめ

• ① MRRは降水粒子の融解状況の観測に有効である。

• ② 融解粒子のモデルは弱い降水についてMRR観測とよい一致を示した。

• ③ 融解層より上の雪の粒径分布は乱流の影響がありドップラスペクトルによる直接観測は難しい。この点については数値モデルの結果や人工衛星の観測値を利用するなどの工夫が必要である。

27

今後の課題

④ 粒子融解の熱交換の効率を考慮する。

⑤ 融解層の上部と直下で、計算によるZeは観

測に比べて大きい。併合の結果、観測では、Zeが減少している

と考えられ、モデルでも併合・分裂を考慮する。

28

5③300m高度での違い

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

-2 0 2 4 6 8

ドップラ速度[m/s] 300m高度

Zeス

ペク

トル

[dB

(Ze/(m

s/))

]

0

0.05

0.1

0.15

0.2

乱流

の確

率密

Zeスペクトル(計算値)Zeスペクトル(観測値)Zeスペクトル(畳込後)乱流の確率分布

29

5.①③レイリー散乱の補正係数

0.00

0.01

0.10

1.00

10.00

0 2 4 6 8 10

粒径(mm)

MIE

/R

ayle

igh