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ストック・オプション 1 回:会社法における取扱いと会計基準の概要 2007.11.27 新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡 1. はじめに 平成 17 12 月に企業会計基準委員会より、企業会計基準第 8 号「ストック・オプショ ン等に関する会計基準」(以下、会計基準)及び企業会計基準第 11 号適用指針「ストッ ク・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)が公表され、会社法 が施行された平成 18 5 月以後に付与されるストック・オプション及び交付される自社の 株式について適用されています。 2 .会社法におけるストック・オプションの取り扱い 会社法においては、会計基準の処理に対応して、募集新株予約権について、「割当日」 と「払込期日」を区分して、ストック・オプションを付与された者が、その割当日から新株予 約権者になることを明らかにしました。ただし、払込金額が存在する場合については、払 込期日までに払込金額全額の払い込みがなされない場合には、権利行使することがで きません(会社法第 245 条、第 246 条)。 また、新株予約権者は、株式会社の承諾を得れば、金銭の払い込みに代えて、払込金 額に相当する金銭以外の財産を給付し、又は当該株式会社に対する債権をもって相殺 することができます(会社法第 246 条第 2 項)。 3 .用語の定義 会計基準、及び適用指針においては、ストック・オプション特有の用語が数多く使用され ています。ここでは、会計基準第 2 項における用語の定義をまとめます。 用語 定義 自社株式オプション 自社の株式(財務諸表を報告する企業の株式)を原資産とするコール・オプション(一定の 金額の支払いにより、原資産である自社の株式を取得する権利)をいい、新株予約権はこ れに該当する。 ストック・オプション 自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等に報酬として付与するものをいう。 従業員等 企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役なら びにこれに準ずる者をいう。 報酬 企業が従業員等から受けた労働や業務執行などのサービスの対価として、従業員等に給 付されるものをいう。

1回:会社法における取扱いと会計基準の概要 · ストック・オプションの権利行使に当たり、払い込むべきものとして定められたストック・オプ

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ストック・オプション

第 1 回:会社法における取扱いと会計基準の概要

2007.11.27

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1. はじめに

平成 17 年 12 月に企業会計基準委員会より、企業会計基準第 8 号「ストック・オプショ

ン等に関する会計基準」(以下、会計基準)及び企業会計基準第 11 号適用指針「ストッ

ク・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)が公表され、会社法

が施行された平成 18 年 5 月以後に付与されるストック・オプション及び交付される自社の

株式について適用されています。

2.会社法におけるストック・オプションの取り扱い

会社法においては、会計基準の処理に対応して、募集新株予約権について、「割当日」

と「払込期日」を区分して、ストック・オプションを付与された者が、その割当日から新株予

約権者になることを明らかにしました。ただし、払込金額が存在する場合については、払

込期日までに払込金額全額の払い込みがなされない場合には、権利行使することがで

きません(会社法第 245 条、第 246 条)。

また、新株予約権者は、株式会社の承諾を得れば、金銭の払い込みに代えて、払込金

額に相当する金銭以外の財産を給付し、又は当該株式会社に対する債権をもって相殺

することができます(会社法第 246 条第 2 項)。

3.用語の定義

会計基準、及び適用指針においては、ストック・オプション特有の用語が数多く使用され

ています。ここでは、会計基準第 2 項における用語の定義をまとめます。

用語 定義

自社株式オプション

自社の株式(財務諸表を報告する企業の株式)を原資産とするコール・オプション(一定の

金額の支払いにより、原資産である自社の株式を取得する権利)をいい、新株予約権はこ

れに該当する。

ストック・オプション 自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等に報酬として付与するものをいう。

従業員等 企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役なら

びにこれに準ずる者をいう。

報酬 企業が従業員等から受けた労働や業務執行などのサービスの対価として、従業員等に給

付されるものをいう。

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行使価格 ストック・オプションの権利行使に当たり、払い込むべきものとして定められたストック・オプ

ションの単位当たりの金額をいう。

付与日 ストック・オプションが付与された日をいい、会社法における募集新株予約権の割当日(会

社法第 238 条第 1 項第 4 号)がこれに当たる。

権利確定日 権利の確定した日をいう。権利確定日が明らかではない場合には、原則として、権利行使

期間の開始日の前日を権利確定日と見なす。

権利行使期間 ストック・オプションを付与された従業員等がその権利を行使できる期間をいう。

権利行使日 ストック・オプションを付与された者がその権利を行使したことにより、行使価格に基づく金

額が払い込まれた日をいう。

対象勤務期間 ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間であり、付与日から権利確定日

までの期間をいう。

勤務条件 ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、従業員等の一定期間の勤務や業務

執行に基づく条件をいう。

業績条件 ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、一定の業績(株価を含む)の達成ま

たは不達成に基づく条件をいう。

公正な評価額

市場価格に基づく価額をいう。市場価格がない場合でも、当該ストック・オプションの原資産

である自社の株式の市場価格に基づき、合理的に算定された価額を入手できるときには、

その価額は公正な評価額と認められる。

公正な評価単価 単位当たりの公正な評価額をいう。

失効 ストック・オプションが付与されたものの、権利行使されないことが確定することをいう。

公開企業 株式を証券取引所に上場している企業又はその株式が組織された店頭市場に登録されて

いる企業をいう。

未公開企業 公開企業以外の企業をいう。

条件変更

付与したストック・オプションに係る条件を事後的に変更し、ストック・オプションの公正な評

価単価、ストック・オプション数又は合理的な費用の計上期間のいずれか一つ以上を意図

して変動させることをいう。

上記の用語のうち、時系列に関係する用語を図示すると、下記のとおりになります。

4.適用する取引の範囲

会計基準は、以下の取引に対して適用します(会計基準第 3 項)。

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(1)企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引

(2)企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社株式オプションを付与す

る取引であって、(1)以外のもの

(3)企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社の株式を交付する取引

ストック・オプション取引の性質のうち会計的に重要な部分は、企業がサービス等を取得

する際の対価として自社株式オプションを用いるという点であり、取得するサービスの相

手方が従業員であるか否か、また、サービスの内容が労働サービスであるか否かは会計

処理の観点からは問題となりません。よって、(2)のとおり、広い意味での自社株式オプ

ションを対価として用いる取引を適用範囲としています。

また、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプションに代わり自社株式を交

付する取引の場合には、権利の行使や失効に係る会計処理の問題は生じません。しか

し、対価の内容が自社株式の交付に結び付くという共通点があることから、財貨または

サービスの取得の対価として自社株式を交付した場合についても、上記(3)のとおり、会

計基準・適用指針の適用範囲に含められています。

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ストック・オプション

第 2 回:権利確定日以前の会計処理について(1)

2007.11.30

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1.権利確定日以前の会計処理の概要

(1) 会計処理の考え方

企業がその従業員等に対してストック・オプションを付与する場合、それに応じて企業が

従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額

を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資

産の部に新株予約権を計上します(会計基準第 4 項)。

(2) 各会計期間における費用計上額

各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤

務期間(ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間)を基礎とする方法そ

の他合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額となります。ここでいうストッ

ク・オプションの公正な評価額(A)とは、公正な評価単価(B)×ストック・オプション数(C)

として算定されます(会計基準第 5 項)。

<費用計上の仕訳処理>

ストック・オプションの公正な評価単価(B):5,000 円/個

ストック・オプションの数(C):6,000 個

対象勤務期間:2 年(期間に応じて発生。期首に付与)

権利行使や権利の失効その他については度外視

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(3) 各会計期間における費用計上額算定上のポイント

各会計期間における費用計上額の算定においてポイントとなるのは、ⅰ公正な評価単

価(B)をどのように算定するか、ⅱストック・オプション数(C)をどのように算定するか、ⅲ

ストック・オプションの公正な評価額(A)を各会計期間にどのように費用配分するか、とい

えます。

2.ストック・オプションの公正な評価単価(B)の算定方法

(1) ストック・オプションの公正な評価単価(B)の算定時点

ストック・オプションの付与日現在で算定し、その後の見直しは行いません。ただし、行使

価格を変更するなどの条件変更があった場合は除きます(会計基準第 6 項(1))。

(2) ストック・オプションの公正な評価単価(B)の算定技法が満たすべき要件

ストック・オプションの公正な評価単価(B)は、本来はストック・オプションの市場価格をい

いますが、ストック・オプションは通常、譲渡が禁止されており、市場で取引されていない

ため、市場価格を観察することができません。そこで、ストック・オプションの公正な評価

額を見積るため、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている株

式オプション価格算定モデルなどの算定技法を利用することが必要になりますが、次の

要件を満たす算定技法でなければなりません(会計基準第 6 項(2)、適用指針第 5 項、

第 38 項)。

確立された理論を基礎としており、実務で広く適用されていること

算定の対象となるストック・オプションの主要な特性(※)や条件を適切に反映するよ

う必要に応じて調整を加えていること(ただし、失効の見込数については、ストッ

ク・オプション数(C)に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない)

(※)特性

1) 株式オプションに共通する特性

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2) ストック・オプションに共通する特性

3) 算定対象である個々のストック・オプションに固有の特性

上記 1)および 2)に関するそれぞれの特性を公正な評価単価の算定に用いる算定技法

に反映するために考慮すべき基礎や方法については、それぞれ適用指針第 6 項(下記

(3)参照)、第 7 項(下記(4)参照)に示されています。

算定技法については、今後も進化していくものと考えられるため、会計基準等においては、

公正な評価単価の算定技法について、特定の方法の採用を具体的に定めず、このよう

に一般的な条件が示されています(適用指針第 39 項)。

(3) 株式オプションに共通する特定の算定技法への反映

株式オプションに共通する特性を、ストック・オプションの公正な評価単価の算定に用い

る算定技法に反映するためには、使用する算定技法において少なくとも次の基礎数値

が考慮されている必要があります(適用指針第 6 項)。

i . オプションの行使価格

i i. オプションの満期までの期間

i ii. 算定時点における株価(算定時点は付与日または条件変更日)

iv. 株価変動性(将来の予想値に関する最善の見積値)

v. オプションの満期までの期間における配当額(将来の予想値に関する最善の見

積値)

vi. 無リスクの利子率(割引率)

(4) ストック・オプションに共通する特性の算定技法への反映

ストック・オプションに共通する、譲渡が禁止(又は制限)されているという特性は、次の方

法により、公正な評価単価の算定に用いる算定技法に反映します。

ブラック・ショールズ式などの連続時間型モデルによる算定技法を用いる場合には、

上記(3)のⅱ オプションの満期までの期間に代えて、算定時点から権利行使され

ると見込まれる平均的な時期までの期間(予想残存期間)を用いるとされています

(適用指針第 7 項(1))。

二項モデルなどの離散時間型モデルによる算定技法を用いる場合には、算定時点

から上記(3)のⅱ オプションの満期までの期間全体の株価変動を想定した上で、

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株価が一定率以上に上昇した時点で権利行使が行われるなど、従業員等の権利

行使などに関する行動傾向を想定するとされています(適用指針第 7 項(2))。

(5) その他ストック・オプションの公正な評価単価の算定について留意すべき事項

算定技法の変更

算定技法の変更が認められるのは、従来と異なる特性を有するストック・オプショ

ンを新たに付与する場合や新たにより優れた算定技法が開発されたことで、より

信頼性の高い算定が可能となる場合など、一部のケースのみとなります(適用指

針第 8 項)。

基礎数値の見積り

算定技法で用いる基礎数値の見積りに当たっては、原則として、客観的な過去

の情報を基礎としつつ、個別のケースに応じて合理的な調整を行うことになりま

す(適用指針第 9 項)。

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ストック・オプション

第 3 回:権利確定日以前の会計処理について(2)

2007.12.04

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

3.ストック・オプション数の算定方法

(1) ストック・オプションの付与数の算定方法の原則

付与されたストック・オプション数から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定します(会

計基準第 7 項(1))。

(2) ストック・オプションの付与数の見直しが必要な場合

付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効(勤務条件や業績条件が達成

されないことによる失効)の見積数に重要な変動が生じた場合(条件変更による場合を除く)には、

これに応じてストック・オプション数を見直す必要があります。

これに伴い、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づ

き、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに費用計上した額との差額を見直した期の

損益として計上します(会計基準第 7 項(2))。

(3) 権利確定日における会計処理

権利確定日には、ストック・オプション数を権利の確定したストック・オプション数(権利確定数)と

一致させます。すなわち、修正後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評

価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を

権利確定日の属する期の損益として計上します(会計基準第 7 項(3))。

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4.ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定

(1) 業務執行や労働サービスとの対応関係の認定における基本的な考え方

各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤

務期間(付与日から権利確定日までの期間)を基礎とする方法その他の合理的な方法

に基づき当期に発生したと認められる額として算定することとされています(会計基準第

5 項)。

すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領

に対応させて、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を基礎とする方法そ

の他の合理的な方法に基づいて費用計上することになります。対象勤務期間の終了時

点となる権利確定日については、権利確定条件により以下のとおり判定されます(適用

指針第 17 項、第 18 項)。

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(2) 複数の権利確定条件が付されている場合の権利確定日の判定

複数の権利確定条件が付されている場合には、権利確定日は次のように判定します

(適用指針第 19 項)。

※なお、株価条件など、条件の達成に要する期間が固定的でなく、権利確定日を合理

的に予測することが困難な権利確定条件が付されているため、予測を行わない場合に

ついては、当該権利確定条件は付されていないと見なして、この判定を行います。

(3) 段階的に権利行使が可能となるストック・オプションの会計処理

付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプション

が含まれているため、時の経過とともに付与されたストック・オプションの一定部分ごとに

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段階的に権利行使が可能となる場合には、次のとおり会計処理を行います(適用指針

第 19 項、第 58 項)。

原則 : 権利行使期間開始日の異なるごとに別個のストック・オプションとして会計処理

を行う。

例外 : 付与された単位でまとめて会計処理を行うこともできる。この場合、最後に到来

する権利行使期間開始日の前日までの期間にわたって費用計上する。

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ストック・オプション

第 4 回:権利確定日以後の会計処理について

2007.12.10

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1.権利確定日前後における会計処理の違い

会計基準及び適用指針では、権利確定日前後で明確に会計処理を区別していますが、

その理由は、権利確定日前後でストック・オプションの性格が異なることに起因していま

す。権利確定日前後におけるストック・オプションの性格と会計処理の違いを整理すると、

下記表のようになります。

ストック・オプションの性 格 会 計 処 理

権利確定日以前

従業員等がストック・オプションを行使する権利

が確定しておらず、従業員等の労働サービスに

対するインセンティブ効果が期待される期間で

ある。付与されたストック・オプションは、勤務対

象期間(付与日から権利確定日までの期間)に

おいて提供された労働サービスに対する報酬と

考えられる。

ストック・オプションの公正な評価額を対象勤

務期間にわたり費用計上する。

権利確定日

権利確定日に、ストック・オプションの権利不確

定による失効数及び権利確定数が決定する。

従って、権利確定日をもって従業員等に付与さ

れたストック・オプションに対応する労働サービ

スが完了したと考えられる。

ストック・オプション数を権利確定数(権利の確

定したストック・オプション数)に一致させる。ま

た、修正後のストック・オプション数に基づい

て計算された権利確定日までに費用計上す

べき額と、すでに費用計上された累計額との

差額は、権利確定日の属する期の損益に計

上する。

権利確定日後

権利確定日後は、従業員等がストック・オプショ

ンを行使する権利は確定しており、従業員等

は、現在及び将来の株価動向などを勘案して、

権利行使及びその時期を判断する。従って、従

業員等は権利確定日後、潜在的株主としての

地位を有していると考えられる。

(ア) ストック・オプションが権利行使され、新

株が発行された場合

払込金額と新株予約権のうち、権利行使に対

応する部分の合計額を払込資本に振り替え

る。

(イ) 権利不確定により失効した場合

失効部分に対応する新株予約権を特別利益

に振り替える。

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2.設例による解説

権利確定日前後の会計処理を以下の設例により解説します。

【設 例】

<前提条件>

A 社 (決算日 3 月 31 日 )は X1 年 6 月末の株主総会において、以下のとおりストック・オ

プションの付与を決定した。

付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価:5,000 円/個

付与されたストック・オプションの数:600 個(従業員 60 人に対し 10 個/人)

付与日:X1 年 7 月 1 日

権利確定日:X3 年 6 月 30 日

ストック・オプションの行使時の払込金額:7,500 円/個

ストック・オプションの権利行使期間:X3 年 7 月 1 日~X5 年 6 月 30 日

ストック・オプションの付与時点における失効見込数はゼロであった。

(1) 権利行使時の処理

<追加条件>

・ X3 年 12 月 31 日に 40 人(行使数 400 個)のストック・オプション行使があった。

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(2) 権利失効時の処理

<追加条件>

・ 権利行使期間終了に伴い、権利不行使として確定した失効数は 150 個(15 人×10

個)であった。

3.ストック・オプションの行使に伴い自己株式を処分した場合

ストック・オプション行使に伴い、自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と

権利行使に伴う払込金額の合計額の差額は、自己株式の処分差額であり、「自己株式

及び準備金の減少等に関する会計基準」により会計処理を行います。具体的には、スト

ック・オプションの帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額と処分した自己株式

の取得原価との差額は、自己株式処分差損益として処理します。自己株式処分差益は

その他資本剰余金に計上し、自己株式処分差損はその他資本剰余金から減額します。

その他資本剰余金の残高が負の値となった場合は、会計期間末において、その他資本

剰余金をゼロとし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額しま

す。

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ストック・オプション

第 5 回:条件変更があった場合の会計処理

2007.12.11

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1.条件変更の意義

ストック・オプションに係る条件変更とは、「付与したストック・オプションに係る条件を事後

的に変更し、ストック・オプションの公正な評価単価、ストック・オプション数又は合理的な

費用の計上期間のいずれか一つ以上を意図して変動させること」をいいます(会計基準

第 2 項(15))。ここで、ストック・オプションの条件変更に関するポイントをまとめると、以下

のように整理することができます。

(1) 「意図的な」変更であること

ストック・オプションの条件変更は、ストック・オプションを付与した企業が当初の条件を「意図的に」

変更する場合をいいます。例えば、ストック・オプションの付与日から権利確定日までに、ストック・

オプションの失効の見積数に重要な変動が生じた場合でも、企業の意図によらない変動の場合

には条件変更とはせず、その影響額は失効の見積数の見直しを行った期の損益として計上しま

す(会計基準第 7 項(2))。

(2) 「公正な評価単価」、「ストック・オプション数」、「合理的な費用の計上期間」の一つ以上の変

更であること

ストック・オプションの条件変更は、以下の 3 類型の変更に区分できます。

ストック・オプションの公正な評価「単価」

ストック・オプション「数」

合理的な費用の計上「期間」

従って、ストック・オプションの条件変更に関する会計処理は、上記 3 類型のうちどの変

更に該当するかを判断することが重要です。

2.ストック・オプションの公正な評価単価を変動させる条件変更

ストック・オプションの公正な評価単価は付与日現在の価値で算定し、原則としてその後

の価値の見直しは行いません(会計基準第 6 項(1))。しかし、ストック・オプションの行使

価格の変更のように、公正な評価単価を変動させた場合には、前提とされる付与日にお

ける公正な評価単価の修正が行われたと考えられます。この場合、条件変更による公

正な評価単価と付与日における公正な評価単価との関係により、以下のように区別され

ます。

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(1) 「条件変更日における公正な評価単価>付与日における公正な評価単価」のケース

このケースの場合、会計処理は以下の 2 段階の処理を行います(会計基準第 10 項

(1))。

a) 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価に基づく公正な評価額(A)に

よる条件変更前からの費用計上を継続して行う。

b) 条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が、付与日における公正

な評価単価を上回る部分に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の増加額(B)

につき、以後追加的に費用計上を行う。

上記の説明を図示すると、以下のようになります。

(2) 「条件変更日における公正な評価単価≦付与日における評価単価」のケース

このケースの場合、会計処理は(1)a)の処理のみを行います(会計基準第 10 項(2))。

例えば、行使価格を引き下げることにより、ストック・オプションの条件を従業員により価

値のあるものにした場合であっても、条件変更後のストック・オプションの公正な評価単

価が、なお付与日における公正な評価単価の水準までは回復しないケースが考えられ

ます。この場合、(1)のケースと同じ会計処理を求めるとすると、ストック・オプションの条

件を、従業員等にとってより価値のあるものとすることにより、かえって費用を減額させる

という矛盾が生じます。このような矛盾を回避するために、条件変更前からの処理のみを

継続して行うことになります。

3.ストック・オプション数を変動させる条件変更

このケースは、例えば、権利確定条件を緩和することにより、権利不確定による失効見

込数が変動した場合が該当します。

ストック・オプションの公正な評価額は、付与日における公正な評価単価にストック・オプ

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ション数を乗じて算定されますが、ここでいうストック・オプション数は、権利不確定による

失効見積数を控除して算定されます。また、付与日から権利確定日までの間に、権利不

確定による失効見積数に重要な変動が生じた場合には、これに応じてストック・オプショ

ン数を見直す必要があります(会計基準第 5 項、第 7 項)。

ただし、上記の失効見積数の重要な変動とは、企業が「意図しない」変動であり、企業が

意図的にストック・オプション数を変動させる条件変更とは、会計処理が異なることが重

要です。

ストック・オプション数を変動させる条件変更の場合には、以下の 2 段階の会計処理を行

います(会計基準第 11 項)。

a)条件変更前から行われてきた費用計上を継続して行う。

b)条件変更によるストック・オプション数の変動に見合う、ストック・オプションの公正な評

価額の変動額を、条件変更日以降残存期間にわたり継続して計上する。

上記をまとめると、下表のとおりです。

ストック・オプション数の変

動に対する企業の意図 会計処理

あり

a)条件変更前から行われてきた費用計上を継続して行う。

b)条件変更によるストック・オプション数の変動に見合う、ストック・オプションの公正

な評価額の変動額を、条件変更日以降残存期間にわたり継続して計上する。

なし

失効数の見積数の重要な変動に基づいて見直されたストック・オプション数に基づい

て計算された、費用として計上すべき額と、それ以前に費用計上された累計額の差

額を、見直しが行われた期の損益として計上する。

4.費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更

このケースは、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を変更した場合が該

当します。

費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更は、厳密に言えば、企業と従業員等の

間で締結された契約の対象である役務サービスの内容そのものが変更されてしまうため、

取引としての同一性を失い、別の報酬に置き換わるとも考えられます。

しかし、行使価格引き下げの際に合わせて対象勤務期間の延長が行われることも考え

られるため、対象勤務期間の延長や短縮の場合には、条件変更の問題として取り扱うこ

ととしました(会計基準第 58 項)。

費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更の場合には、以下の会計処理が必要

になります(会計基準第 12 項)。

・当該条件変更前の残存期間に計上すると見込んでいた額を、合理的な方法に基づき、

新たな残存期間にわたって計上する。

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5.複合的な条件変更

会計基準及び適用指針では、ストック・オプションに係る条件変更を、「公正な評価単価」

「ストック・オプション数」「合理的な費用の計上期間」の 3 類型に区分して整理しています

が、実際には 3 類型の条件変更が同時に存在するといった複合的な条件変更も存在す

ると考えられます。例えば、行使価格の引き下げと対象勤務期間の延長といった複数の

条件変更が同時に行われる場合以外にも、対象勤務期間の延長が費用の合理的な計

上期間を変動させるほか、権利確定条件の変更を通じてストック・オプション数(失効見

積数)を変動させる場合も想定されます。

このような、複合的な条件変更が行われた場合でも、会計基準では、上記 3 類型に分解

し、各類型別に変動の影響を算定するよう求めています(会計基準第 59 項)。

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ストック・オプション

第 6 回:未公開企業における取り扱い

2007.12.18

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1.ストック・オプション等に関する会計基準の適用会社

ストック・オプション等に関する会計基準は一般に公正妥当と認められる会計基準である

ため、原則としてすべての会社に適用されます。従って、公開企業のみならず未公開企

業においても、ストック・オプションを付与した場合には、当該会計基準が適用されること

になります。

(注)「公開企業」とは、株式を証券取引所に上場している企業またはその株式が組織さ

れた店頭市場に登録されている企業をいい、「未公開企業」とは、公開企業以外の

企業をいいます(会計基準第 2 項(14))。ここでは、企業の株式がグリーン・シート市

場において取引されている場合は、公開企業には該当しません。

2.未公開企業の公正な評価単価の計算

ストック・オプション等に関する会計基準は、公開企業のみならず、未公開企業も含めた

全ての会社に適用されますが、未公開企業では、評価単価の計算基礎となる自社の株

価情報が収集不可能であるため、ストック・オプションの公正な評価額について、適切な

費用計上額の算定の基礎とするだけの信頼性をもって見積ることが困難である場合が

多いと考えられます。

そこで、未公開企業では、一般投資家が存在しないことも考慮し、ストック・オプションの

公正な評価単価に代えて、その単位当たりの本源的価値の見積りによることも認められ

ることとしました。ストック・オプションの本源的価値とは、算定時点においてストック・オプ

ションが権利行使されると仮定した場合の価値であり、以下の算式によって計算されま

す(会計基準第 13 項)。

ここで、ストック・オプションは、一般に、将来の株価の上昇を期待して従業員等に付与さ

れるものであり、行使価格は付与時点の株式の評価額よりも高く設定されます。

従って、原資産である自社株式の評価額よりも低い行使価格を設定した場合を除き、付

与時点におけるストック・オプションの本源的価値は、ゼロ評価(本源的価値の算定結果

がマイナスの場合は、ゼロとして評価)される場合が多いと考えられます。

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3.本源的価値の見直しと注記

ストック・オプションの本源的価値は、公開企業における公正な評価単価と同様に、付与

日時点で計算され、その後の見直しは行われません。

ただし、ストック・オプションの公正な評価額を本源的価値により計算した場合には、以下

の注記が必要となります(会計基準第 16 項(5)、適用指針第 31 項、第 73 項)。

会計期間末における本源的価値の合計額

各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的

価値の合計額

自社の株式の評価方法

ここでは、各会計期間末及び権利行使日における本源的価値の算定の基礎となる株式

価値の評価方法については、その開示を条件として、その時点において企業価値を最も

よく表し得ると考えられる方法を採用すればよく、必ずしも評価方法の継続性は求められ

ていません(適用指針第 61 項)。

4.公開直後の企業の取り扱い

公開直後の企業では、ストック・オプションの公正な評価単価を見積もる際に、過去の株

価の推移など、過去の一定期間の情報を利用するとしても、入手した情報の信頼性(株

価の参照期間が短く、株価の乱高下も多いため、株価変動性が非常に大きくなる)に疑

問があるとの考え方があります。

しかし、ストック・オプション等に関する会計基準では、公開直後の企業にあっても、本源

的価値による計算は認められず、観察される株価情報に基づき公正な評価単価を計算

することが要求されています(会計基準第 63 項)。

公正な評価単価を計算する場合には、可能な範囲で収集される自社の株価情報を基

礎としながらも、当該企業の類似の株式オプションの市場価格から株価変動性を逆算す

る方法や、類似企業の株価変動性を参考にすることで、不足する情報を補足するとして

います(適用指針第 12 項、第 47 項)。

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ストック・オプション

第 7 回:親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合

2007.12.21

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1.個別財務諸表上の会計処理

親会社が、自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合も、このような取引

はグループ経営上の観点から行われます。企業集団として見た場合、ストック・オプショ

ン等に関する会計基準が適用される取引となります。親会社が、自社株式オプションを

子会社の従業員等に付与した場合には、親会社や子会社の個別財務諸表上、以下の

会計処理を行うことに留意が必要です。

(1) 親会社が自社株式オプションを付与した場合

親会社が自社株式オプションを子会社に付与する場合とは、親会社自身の子会社に対する投資

価値を結果的に高めることを目的としていると考えられるため、取引における対価性が認められ

るとの判断から、親会社の個別財務諸表においてストック・オプション等に関する会計基準に準拠

した処理が必要とされます(会計基準第 24 項)。

(2) 子会社の報酬体系に組み入れられているなどの場合

子会社の従業員等に対する当該親会社株式オプションの付与と引き換えに従業員等から提供さ

れた上記サービスの消費を、子会社の個別財務諸表においても費用として計上します(「給料手

当」などの科目名称を用いる)。この場合、子会社の個別財務諸表においては、同時に、報酬の

負担を免れたことによる利益を特別利益として計上します(「株式報酬受入益」などの科目名称を

用いる)(適用指針第 22 項(2))。

(3) 子会社の報酬としては位置付けられていな い場合

子会社の個別財務諸表において会計処理を行う必要がありません(適用指針第 22 項(3))。

これらの会計処理の内容をまとめると、以下のとおりです。

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2.連結財務諸表上の会計処理

親会社のストック・オプションが子会社の従業員等に対する報酬として位置付けられてお

り、子会社の個別財務諸表で親会社のストック・オプションが費用計上される場合には、

親会社の連結財務諸表では、親会社の従業員等に付与されているものと変わりません。

そのため、親会社の連結財務諸表の作成に際して、子会社がその個別財務諸表で計

上した給与手当と株式報酬受入益が相殺消去されます。

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ストック・オプション

第 8 回:自社株式オプションまたは自社の株式を用いる取引

2007.12.25

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

ストック・オプションの会計処理は、取引の相手方や取得する財貨又はサービスの内容

に関わらず、原則として、取得の対価として自社株式オプションを用いる取引一般に適

用されます。

取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社株式オプション

(又は対価として用いられた自社の株式)の公正な評価額もしくは取得した財貨又はサ

ービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額によ

り、算定することとされています(会計基準第 14 項(2)、第 15 項(2))。高い信頼性をもっ

て測定可能な評価額を入手できるかどうかは、公開企業と非公開企業で異なります。

公開企業と未公開企業のケースに区分して取得した財貨またはサービスの取得価額を

どのような評価額で算定するかを以下に示します(適用指針第 23 項)。

取得した財貨又はサービスの対価の内容 適用される評価額

<公開企業のケース>

自社株式オプション

公開企業の場合、通常、自社の株式の市場価格を基礎として、自社

株式オプションの公正な評価額を信頼性をもって測定することが可能

であり、自社株式オプションの公正な評価額に基づいて算定を行う。

ただし、特に取得する財貨等が市場価格とより直接的に結び付いて

いるような場合には、財貨等の市場価格で測定することで、より信頼

性の高い測定が可能となる場合があり得る。

自社の株式 公開企業の場合、通常、自社の株式の市場価格による信頼性のある

測定が可能であり、これに基づいて算定する。

<未公開企業のケース>

自社株式オプション

自社株式オプションと対価関係にある財貨又はサービスの市場価格

を参照できる場合には、その市場価格で算定を行う。財貨又はサー

ビスの市場価格を直接参照できない場合にも、その市場価格を合理

的に見積ることにより、自社株式オプションよりも信頼性の高い測定

が可能となる場合が多く、そのような場合には、その合理的に見積ら

れた市場価格で算定を行う。

自社の株式 財貨又はサービスの取得の対価として自社の株式を用いた場合であ

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って、第三者割当増資や株式の売買がなされており、これらの情報を

基に、一定程度の信頼性をもって自社の株式の公正な評価額を見積

ることができる場合には、これに基づいて算定する。

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ストック・オプション

第 9 回:開示

2007.12.27

新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡

1.ストック・オプションに関する注記事項(会計基準第 16 項(1)、適用指針第 24 項)

(1)サービスを取得した場合、当該会計期間において計上した費用の額とその科目名称

ストック・オプションを付与した場合は、「サービスの取得」に該当します。開示対象と

なる費用の額は、当該会計期間に新たに付与したストック・オプション等に係る当期

の費用計上額と、当該会計期間より前に付与されたストック・オプション等に係る当

期の費用計上額の双方を含みます。

(2)財貨を取得した場合、その取引による当初の資産計上額(又は費用計上額)と科目

名称

(3)権利不行使による失効が生じた場合、利益として計上した額

2. 各会計期間において存在したストック・オプションの内容、規模及びその変動状況

(会計基準第 16 項(2)、適用指針第 25、26 項)

(1)付与対象者の区分(役員、従業員などの別)および人数

(2)ストック・オプションの数※

権利行使された場合に交付することとなる株式の数で表示します。また、当該企業

が複数の種類の株式を発行している場合には、株式の種類別に記載を行います。

(3)付与日

(4)権利確定条件

付されていない場合には、その旨を記載します。

(5)対象勤務期間

定めがない場合には、その旨を記載します。

(6)権利行使期間

(7)権利行使価格

(8)付与日における公正な評価単価

会社法施行日以後に付与されたストック・オプションにつき記載します。

(9)権利行使時の株価の平均値

当該会計期間中に権利行使されたものを対象とします。

※(2)のストック・オプションの数に関しては、下記の区分ごとに記載します。

ア)付与数

イ)権利不確定による失効数

Page 26: 1回:会社法における取扱いと会計基準の概要 · ストック・オプションの権利行使に当たり、払い込むべきものとして定められたストック・オプ

ウ)権利確定数

エ)権利未確定残数

オ)権利行使数

カ)権利不行使による失効数

キ)権利確定後の未行使残数

なお、イ)、ウ)、オ)及びカ)については、当該会計期間中の数を記載し、エ)及びキ)

については、期首及び期末の数を記載します。

3.ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法 (基準第 16 項(3)、適用指針第

29、31 項)

当該会計期間中に付与されたストック・オプション及び当該会計期間中の条件変更によ

り公正な評価単価が変更されたストック・オプションにつき、公正な評価単価の見積方法

として使用した算定技法、使用した主な基礎数値及びその見積方法を記載します。使用

した算定技法と使用した主な基礎数値の見積方法に関し、内容が同一のものについて

は集約して記載することができます。

未公開企業においてストック・オプションを付与している場合には、ストック・オプションの

公正な評価単価の見積方法として、その価値算定の基礎となる自社の株式の評価方

法についても注記します。

4.ストック・オプションの権利確定数の見積方法 (会計基準第 16 項(4)、適用指針 30

項)

ストック・オプションの権利確定数の見積方法として、勤務条件や業績条件の不達成に

よる失効数の見積方法を記載します。

5. ストック・オプションの単位当たりの本源的価値による算定を行う場合には、当該ス

トック・オプションの各期末における本源的価値の合計額及び各会計期間中に権利行

使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額 (会計基準第

16 項(5)、適用指針第 32 項)

各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値

の合計額の計算は、月中の平均株価を基礎として算定するなどの簡便で合理的な算定

方法によることが可能です。

6.ストック・オプションの条件変更の状況 (会計基準第 16 項(6)、適用指針第 33 項)

ストック・オプションの条件変更を行った結果、ストック・オプションの内容として注記した

事項に変更が生じた場合は、その変更内容について注記します。条件変更日における

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ストック・オプションの公正な評価単価が付与日の公正な評価単価以下となったため、公

正な評価単価の見直しを行わなかった場合にも、その旨を注記します。

7. 自社株式オプション又は自社の株式に対価性がない場合には、その旨及びそのよ

うに判断した根拠 (基準第 16 項(7)、適用指針第 34 項)

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いた場

合には、該当する項目につき、ストック・オプションの場合の注記に準じて開示を行います。

この場合、取得した財貨又はサービスの内容及び財貨又はサービスの取得価額の算定

を当該財貨又はサービスの公正な評価額によった場合には、その旨を併せて注記しま

す。