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米国の量的金融緩和縮小とその影響第2節
世界経済危機に際して米連邦準備制度理事会(FRB)が 2008 年以降に講じた金融緩和策 10 は、金融市場の動揺を緩和するとともに経済の下支えに大きな役割を果たした。一方、緩和マネーが膨らんだことによる副作用についても指摘されていた。こうした中、2013 年 5 月に、FRB のバーナンキ議長が量的金融緩和第 3 弾(2012 年 9 月開始)の縮小可能性について
示唆したことをきっかけに、通貨ドルの窮迫懸念が生じ、新興国を中心に金融市場は大きく動揺した。 ここでは、2013 年 5 月下旬から 2014 年 1 月にかけて、米国が量的金融緩和の縮小に向かうプロセスにおける新興国の資本流出及び通貨下落の状況を中心に見ていく。
世界経済危機に際して、主要国は、量的金融緩和や低金利政策等の金融政策及び財政政策を通じて大規模な景気刺激策を講じた 11。 世界経済危機の震源地となった米国においても、FRB が、2008 年 11 月から 2013 年 12 月までの間に 3段階にわたり、3 兆 5,050 億ドル(約 335 兆円)にのぼる大規模な量的緩和策を講じた(第Ⅰ-1-2-1 表)。 米国をはじめとする主要国の潤沢な資金供給から生じた余剰資金は、投資先を求めて、高い成長力及び高金利を有する新興国へと流入した。こうした活発な緩和マネーの流入は、世界経済危機後の新興国における高い経済成長を支えてきたが、その一方で、いくつかの新興国において、経常赤字が大幅に拡大又は経常黒字が大幅に縮小した(第Ⅰ-1-2-2 図)。
2013 年 5 月 22 日、米 FRB のバーナンキ議長の発言をきっかけに、量的金融緩和の縮小観測が高まると、市場では通貨ドルの窮迫懸念が生じた。新興国では、膨らむ経常赤字を対外資金によってファイナンスしてきたことから、ドル窮迫懸念により対外債務の返済能力が改めて不安視された。加えて、米国の長期金利の上昇が見込まれる中、新興国との間の金利差縮小によって投資の魅力が低下すること、中国において金融市場の引締めによる資金窮迫懸念が高まり、景気の先行き不安が高まったこと等もあり、投資家のリスク回避姿勢が強まった。こうした背景から、2013 年 5 月下旬から 6 月末にかけて新興国は大幅な資本流出に見舞われた(第Ⅰ-1-2-3 図)。 なお、2013 年に入って以降、新興国経済への懸念
1.新興国の資本フローへの影響
第Ⅰ-1-2-1 表 米国 FRB による量的金融緩和の実施及び第 3弾縮小の状況
第1弾(QE1)(2008 年 11 月~
2010 年 6月)
第2弾(QE2)(2010 年 11 月~
2011 年 6月)
第3弾(QE3)(2012 年 9月~
2013 年 12 月)
緩和逓減(2014 年 1月)
緩和逓減(2014 年 2~3月)
緩和逓減(2014 年 4月)
米国債 3,000 億ドル 6,000 億ドル 5,400 億ドル (毎月 450 億ドル(*)) 毎月 400 億ドル 毎月 350 億ドル 毎月 300 億ドル
MBS(**) 1 兆 2,500 億ドル 6,400 億ドル (毎月 400 億ドル) 毎月 350 億ドル 毎月 300 億ドル 毎月 250 億ドル
その他 1,750 億ドル
計 1 兆 7,250 億ドル 6,000 億ドル 1 兆 1,800 億ドル (毎月 850 億ドル(*)) 毎月 750 億ドル 毎月 650 億ドル 毎月 550 億ドル
備考:(*) 第 3 弾(QE3)における米国債購入は 2013 年 1 月より開始。 (**)MBS とは"Mortgage Backed securitiy"の略で貸し出した住宅ローン債権を裏付けとする住宅ローン担保証券のこと。資料:FRB 公表資料より作成。�10 政策金利の実質的なゼロ水準への引下げ(いわゆる「異例な低金利」政策)、「異例な低金利」政策の将来的な解除に関するガイダンスの
提示(いわゆる時間軸政策)、大規模な資産購入(いわゆる第1~3弾量的緩和策(QE1~3))を指す。11 通商白書 2010 版。IMF “WEO April 2010” によれば、各国が講じた景気刺激策は、全体で約 20 兆ドル、世界 GDP のおよそ 30%にのぼっ
た。
18 2014 White Paper on International Economy and Trade
第1章 世界経済危機後の世界経済の動向
CW6_A6372D112_M.indd 18 2014/07/31 8:58:48
などから、既に新興国への資本は細ってきており、こうした流れが米国の量的金融緩和の縮小観測によって加速されたとみられる。
2013 年 5 月 22 日及び 6 月 19 日、米 FRB のバーナンキ議長が量的金融緩和の縮小の可能性に言及したことを受けて、同年 5 月下旬から 6 月下旬にかけて、ほぼ全ての新興国で一斉に通貨が下落した(第Ⅰ-1-2-4 図)。この際、FRB が、「量的金融緩和を縮小しても、ゼロ金利政策は継続する」、「量的金融緩和の終了と金融引締め(利上げ)は異なる」との趣旨のメッセージを発したこともあり、市場は徐々に落ち着きを取り戻した。同年 8 月中旬頃には、米国経済指標に改善が見られたことなどを背景に、再び量的金融緩和の縮小が意識され、新興国通貨は下落した。その後、同年 9 月 18 日、市場の予想に反して、FOMC(連邦公開市場委員会)が量的金融緩和の維持を発表すると、新興国通貨は上昇した後、やや下落した。同年 10 月1 日には、米国において、暫定予算案及び債務上限引
上げのための法案について与野党が合意に至らず、政府機関が閉鎖されたことから、量的金融緩和の早期縮小の可能性が低くなったとの見方が高まり、新興国通貨は上昇した。 5 月下旬から 6 月下旬にかけては、ほぼ全ての新興国で一斉に通貨が下落したが、その後は、経常収支、成長率、外貨準備、インフレ率等の状況に応じて投資家による選別の動きが表れ、国によってその強弱に差が生じた(第Ⅰ-1-2-5 図~第Ⅰ-1-2-10 図)。特に下落率が大きいのは、インド、インドネシア、トルコ、ブラジルである(第Ⅰ-1-2-11 図)。 第Ⅰ-1-2-12 図は、第Ⅰ-1-2-11 図の期間における新興国通貨の下落幅と、経常収支の対 GDP 比との相関を示している。対外債務の返済能力への懸念が意識されやすい経常赤字国ほど通貨の下落幅が大きくなっている。
2. 新興国の通貨への影響
第Ⅰ-1-2-2 図 主要新興国におけるリーマン・ショック後の経常収支の黒字縮小又は赤字拡大状況
2008 2013経常収支の変化額
(10億ドル)中国 420.6 188.7 231.9(黒字縮小)
ロシア 103.9 33.0 70.9( 〃 )
マレーシア 39.4 11.8 27.6( 〃 )
ブラジル -28.2 -81.4 53.2(赤字拡大)
インドネシア 0.1 -28.5 28.6( 〃 )
トルコ -40.4 -65.0 24.6( 〃 )
インド -27.9 -37.2 9.3( 〃 )
資料:IMF WEO April 2014 から作成。
資料:IMF 「WEO, April 2014」から作成。
2008 2009 2010 2011 2012 2013
(経常収支、10 億ドル)
(年)
(経常収支、10 億ドル)
-100-80-60-40-20020406080100120
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
ロシア マレーシア インドネシア インドトルコ ブラジル 中国(右軸)
第Ⅰ-1-2-3 図 新興国ファンドへの資本フロー(ネット)
資料:IMF WEO April 2014 から作成。
(10 億ドル)
2014 年 1月、―米 FRB が量的金融緩和縮小開始。―中国の景気減速懸念加速。―アルゼンチン通貨急落発生。
量的金融緩和縮小の開始に向けて、市場のドル逼迫懸念上昇。
1 2 3 1 2 34 5 6 7 8 9 102013 2014
11 12-30
-20
-10
0
10
20
30
株式債券
2013 年 5 月 22 日及び 6月 19 日、米 FRB バーナンキ議長が、量的金融緩和縮小の可能性に言及、市場においてドル逼迫懸念上昇。
20 1 3 年 1 2 月 17 ― 1 8 日、FOMC(連邦公開市場委員会)にて、2014 年 1 月から量的金融緩和縮小の実施を決定。
(年月)
第1章
第Ⅰ部
通商白書 2014 19
第2節米国の量的金融緩和縮小とその影響
CW6_A6372D112_M.indd 19 2014/07/31 8:58:48
資料:Thomson Reuters EIKON から作成。データは対 US ドル。
767880828486889092949698
100102
106108
104
(指数、2013 年 5 月はじめ=100)
マレーシア
メキシコ
フィリピンタイ
ブラジル
インド
ロシア
インドネシア
トルコ
通貨高(ドル安)
通貨高(ドル安)
通貨高(ドル安)
通貨安(ドル高)
通貨安(ドル高)
6月2日
5月2日
7月2日
8月2日
9月2日
10月2日
11月2日
12月2日
1月2日
2月2日
3月2日
4月2日
5 月 22 日FRB 議長、QE3 縮小の可能性に言及
6 月 19 日FRB 議長、年内縮小開始及び 14 年半 ば 終 了 の 可 能性に言及
FRB、量的緩和とゼロ金利政策を継続するとのメッセージ
9 月 18 日FOMC、QE3 縮小見送り
10 月 1 日米国政府機関の一部閉鎖
11 月 14 日イエレン次期FRB 議長、議会証言で金融緩和維持を表明
1 月 24 日中国景気減速
2 月 3 日イエレンFRB 議長就任
12 月 18 日FOMC、2014 年1 月からの QE3縮小を発表
米国経済指標の改善
第Ⅰ-1-2-4 図 新興国の為替の推移(対ドル)
第Ⅰ-1-2-6 図 ASEAN 主要国の実質GDP成長率第Ⅰ-1-2-5 図 主要新興国の実質GDP成長率
資料:CEIC データベースから作成。
-16
02
64
8
141210
16
-2-4-6-8-10-12-14
(前年同期比、%)
中国 インド トルコ ブラジル南アフリカ ロシア メキシコ
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (年期)
4.64.4
2.02.00.7
Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3
7.7
2.2
第Ⅰ-1-2-7 図 主要新興国の外貨準備高
資料:世銀「Global Economic Monitor 」から作成。
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 20142014
中国トルコ 南アフリカ メキシコ
ロシア ブラジル インド
1 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 1010 1(年月)
0
10
15
20
30
25
35
5
22.5
15.816.7
7.7
5.15.55.6
(輸入の何か月分)
-10-8-6-4-2
2
1012
864
1416
0
(前年同期比、%)
フィリピン インドネシア マレーシア タイ
5.76.3
0.6
5.1
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (年期)Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3
資料:CEIC データベースから作成。
第Ⅰ-1-2-8 図 ASEAN 主要国の外貨準備高
資料:世銀「Global Economic Monitor 」から作成。
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 20142014
インドネシア マレーシア フィリピン タイ
1 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 10101 4 7 1010 1(年月)
0
6
4
10
8
12
16
14
18
2
(輸入の何か月分)
6.37.9
14.6
8.4
20 2014 White Paper on International Economy and Trade
第1章 世界経済危機後の世界経済の動向
CW6_A6372D112_M.indd 20 2014/07/31 8:58:49
多額の経常赤字を抱える国には注意が必要であるが、その一方で、各国とも外貨準備を積み増すなど、過去の危機時と比べてリスクへの耐性を強めてきている。第Ⅰ-1-2-13 図は、主要新興国として、インド、ASEAN 主要国、ブラジル、メキシコ、トルコの 8 か国についての、対外債務残高、外貨準備高、短期対外債務残高の関係を見たものである 12。外貨準備高の適正水準については、様々な見解があるが、ここでは対外ファイナンスが困難になった場合の当該年に支払期限が来る債務に対する外貨準備保有高での支払能力として、1をベンチマークとする見解を参考に両指標をみることとする。8 か国の外貨準備高を見ると、いずれの国においても増加している。また、8 か国における外貨準備高の短期対外債務残高比を 2012 年時点でみると、ブラジルが 11.5 倍、フィリピンが 9.9 倍と高
く、いずれの国もベンチマークの 1.0 倍を超える水準を保っている。 また、新興国は通貨防衛のため、政策金利の引上げ、投資優遇政策等の対策を講じた。第Ⅰ-1-2-14 表は、通貨が大きく下落したインド、インドネシア、トルコ、ブラジルについて、新興国の金融市場が大きく動揺した2013 年 5 月末から 9 月末までに講じられた政策対応をまとめたものである。さらに、第Ⅰ-1-2-15 図では、インド及びインドネシアにおける株価及び為替の推移を通じて、2013 年 8 月から 9 月にかけて両国で講じられた対策とその効果を見ている。政策金利の引上げに伴う景気減速の影響などに注意が必要であるが、これらの対策により、通貨の下支えに一定程度成功した。 2014 年 1 月から、FRB による量的金融緩和の縮小が開始された。今後の状況により、経常収支の赤字国
第Ⅰ-1-2-10 図 ASEAN 主要国の消費者物価指数
資料:CEIC データベースから作成。
-5
5
10
15
20
25
0
(前年同月比、%)
インドネシア フィリピン タイマレーシア ベトナム
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (年月)20141 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 15 9
7.3
4.1
2.43.5
4.4
第Ⅰ-1-2-9 図 主要新興国の消費者物価指数
資料:CEIC データベースから作成。
-4
02
64
8
141210
16
-2
(前年同月比、%)
トルコ ブラジル メキシコ 南アフリカインド ロシア 中国
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (年月)20141 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 15 9
9.4
6.3
3.56.0
8.67.3
1.8
第Ⅰ-1-2-11 図通貨のぜい弱な新興国における為替推移(対ドル)
資料:Thomson Reuters EIKON から作成。データは対 US ドル。
通貨高(ドル安)通貨高
(ドル安)通貨高
(ドル安)通貨安
(ドル高)通貨安
(ドル高)
76
100102104(指数、2013 年 5 月 1日=100)
6月 1日5月 1日 7月 1日 8月 1日 9月 1日 10 月 1日
7880828486889092949698
ブラジル インド インドネシアトルコ
第Ⅰ-1-2-12 図新興国の経常収支対GDP比と為替変化率
資料: IMF「WEO, April 2013」(インド及びトルコの経常収支 GDP 比は推計値)、Thomson Reuters EIKON から作成。
-18
-16
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0(%)
-10 -5 0 5 10
経常収支 GDP比(2012 年)
マレーシア
ロシアフィリピンタイ
メキシコ
インドネシア
トルコ
ブラジル
インド
赤字 黒字
為替の対米ドル変化率(2013年5/1→10/1)
�12 統計の制約上、データは 2012 年までとなっている。
第1章
第Ⅰ部
通商白書 2014 21
第2節米国の量的金融緩和縮小とその影響
CW6_A6372D112_M.indd 21 2014/07/31 8:58:50
備考: 網掛けは、1991 年インド経済危機、1994 年メキシコ通貨危機、1997-99 年アジア・ブラジル通貨危機他、2008 年リーマン ・ ショック、2011-12 年欧州債務危機を示す。
資料:世銀 World Development Indicator から作成。
第Ⅰ-1-2-13 図 主な新興国の対外債務残高、外貨準備高、短期対外債務残高の推移
0
(10 億ドル)
3.250
100
150
200
250
300
350
400
450
0
5
10
15
20
25
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
1
(倍)インド
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
0
(10 億ドル)
0
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
1
(倍)
50
100
150
200
250
300
2.5
0.5
1.5
2
2.5
3
3.5
4インドネシア
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
0
(10 億ドル)
0
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(倍)
20406080100120140160180200
3.2
1
2
3
4
5
6タイ
0
(10 億ドル)
0
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(倍)
1.2
0.20.40.60.811.21.41.61.82
50
100
150
200
250
300
350トルコ
0
(10 億ドル)
0
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(倍)
9.9
10
20
30
40
50
60
70
80
90
2
4
6
8
10
12
1
フィリピン
0
(10 億ドル)
0
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(倍)
11.511.5
50
100
150
200
250
300
350
400
450
2
4
6
8
10
12
14
1
ブラジル
0
(10 億ドル)
0
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(倍)
20406080100120140160180200
3.0
1
2
3
4
5
6
7
8マレーシア
0
(10 億ドル)
0
対外債務残高 外貨準備高 外貨準備高/短期対外債務残高(右軸)
1985
1986
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2000
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2008
2009
2010
2011
2012
(年)
(倍)メキシコ
2.3
50
100
150
200
250
300
350
400
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
22 2014 White Paper on International Economy and Trade
第1章 世界経済危機後の世界経済の動向
CW6_A6372D112_M.indd 22 2014/07/31 8:58:51
を始め一部の新興国において短期的な動揺が生じる可能性はあるが、過去の危機時と比較してリスク耐性を強めてきていること、迅速な政策対応が図られていること、FRB のイエレン議長が、量的金融緩和の縮小
はゆっくり進め、金利引上げは当分先であると発言していること、米国の景気回復によるプラスの影響などから、過去の経済危機において見られたような大きな混乱が生じる可能性は低いと見られている。
政策対応とその効果
インド7 月 15 日中銀ルピーの安定化策(民間銀行への貸出金利の一部引き上げ等)公表。7、 8 月政府追加外資規制緩和策、経常赤字縮小策(金輸入抑制等)公表。8 月 29 日国営石油会社を通じたドル売り介入。9 月 4 日中銀ラジャン新総裁就任。20 日政策金利引き上げ(7.25 → 7.50%)。
インドネシア 6、 7 月連続で政策金利引き上げ(6.5%)。8 月 23 日政府「緊急経済政策パッケージ」公表。8 月 29 日臨時会合で政策金利引き上げ(6.5 → 7.0%)。9 月 12 日政策金利引き上げ(7.0 → 7.25%)
トルコ 7 月 23 日、8 月 20 日上限貸出金利を引き上げ。しかし、輸出への悪影響等を考慮し、8 月 27 日にこれ以上の引き上げをしないと表明したところ、リラと株価低下、国債利回り上昇。
ブラジル 5 月 29 日に政策金利引き上げ(7.5 → 8.0%)。7 月 10 日に政策金利引き上げ(8.0 → 8.5%)。8 月 23 日年内に 600 億ドル(週あたり 30 億ドル、1 日あたり 5 億ドルの)通貨介入表明。8 月 28 日政策金利引き上げ(8.5 → 9.0%)。
資料:各国政府公表資料、報道資料等から作成。
第Ⅰ-1-2-14 表 新興国における通貨下支えのための政策対応
第Ⅰ-1-2-15 図 新興国の政策対応による通貨下支えの効果
資料:Thomson Reuters EIKON から作成。データは対 US ドル。
88
110112
(指数、2013 年 7 月はじめ=100)
90
102104106108
100
92949698
株価(月日)
為替(対ドル)
8/16
8/18
8/20
8/22
8/24
8/26
8/28
8/30 9/
19/
39/
59/
79/
99/
119/
139/
159/
179/
199/
219/
23
通貨高(ドル安)
通貨高(ドル安)
通貨高(ドル安)
通貨安(ドル高)
通貨安(ドル高)
9/6 日印二国間通貨スワップ協定 150 億ドルから 500 億ドルに拡充
8/29 国営石油会社通じたドル売り介入
9/4 中銀ラジャン新総裁就任
7,8 月政府追加外資規制緩和策公表8/12 経常赤字縮小策公表(金輸入抑制等)
9/20 金融政策決定会合
インドの株価及び為替(対ドル)の推移
資料:Thomson Reuters EIKON から作成。データは対 US ドル。
8688
108(指数、2013 年 8 月 16 日=100)
90
102104106
100
92949698
株価(月日)
為替(対ドル)
8/16
8/18
8/20
8/22
8/24
8/26
8/28
8/30 9/
19/
39/
59/
79/
99/
119/
139/
159/
179/
199/
219/
23
通貨高(ドル安)
通貨高(ドル安)
通貨高(ドル安)
通貨安(ドル高)
通貨安(ドル高)
8/16 第 2Q 経常赤字GDP 比前期より拡大2.6→4.4%
8/29 政策金利 6.5→7.0%(臨時会合)日銀との 120億ドル規模の二国間スワップ協定更新(8/31発効)。
8/23 政 府 「 緊 急 経 済 政 策パッケージ」公表
9/12 政策金利7.0→7.25%
9/2 過去最大貿易赤字(7 月)
8/2 第 2QGDP5.8%3 年ぶり 6%下回る
政策金利6/13 5.75→6.0%7/11 6.0→6.5%
インドネシアの株価及び為替(対ドル)の推移
第1章
第Ⅰ部
通商白書 2014 23
第2節米国の量的金融緩和縮小とその影響
CW6_A6372D112_M.indd 23 2014/07/31 8:58:52
2013 年 12 月 17~18 日開催の FOMC(連邦公開市場委員会)における決定に従い、2014 年 1 月、米 FRB による量的金融緩和(いわゆる QE3)の縮小が開始された。新興国からの資金流出懸念に加えて、中国における景気指標の悪化 13 や「理財商品」を巡って具体的にデフォルトが懸念される案件 14 の発生、アルゼンチンにおける通貨急落、トルコやウクライナにおける政情不安等が重なり、新興国の通貨や株価の下落が生じた。これに対して、新興国は、市場介入、金利引上げ等を講じ、また、中国において生じたデフォルトが懸念された案件についても、直前で債務不履行が回避された。さらに、量的金融緩和縮小開始後も、イエレン FRB 議長が、緩和縮小はゆっくり進めること、また、金利引上げは当分先であることを、繰り返しメッセージとして発したことも奏功し、一部新興国における通貨・株価下落は一応の落ち着きを見せた。2013 年 5 月から 6 月にかけて見られたような大量の資金流出や、株、国債、通貨が一斉に下落するいわゆる「トリプル安」といった状況は生じず、2014 年 1月の量的金融緩和の縮小開始による新興国金融市場への影響は、比較的小幅にとどまった。 新興国通貨に関しては、2013 年 5 月以降、下落傾向で推移していたが、2014 年 1 月末以降、全般的に上昇傾向に転じ、特に同年 3 月中旬頃からは、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカといった、通貨がぜい弱とされる国の回復が目立つ(コラム 1-1 図)。その背景を見ると、ブラジルは、2013 年 4 月に中央銀行が政策金利引上げを開始して以降、2014 年 4 月の通貨政策委員会まで 9 会合連続で政策金利を引き上げた。インド、インドネシアについては、外貨準備の増加、利上げによる物価抑制に加えて、貿易収支の拡大が経常赤字の縮小をもたらしていること、選挙後の新政権下において構造改革が推進されると期待されていること等を背景に通貨が上昇している。トルコについても、閣僚の汚職疑惑等による政情不安から、2014 年 1 月にはリラが過去最安値となったが、大幅な利上げを実施しており、さらに、3 月 30 日の統一地方選挙における与党(AKP)勝利によって政治的混乱が安定化するとの見方から通貨が上昇している。南アフリカは、2014 年1月、通貨防衛のために 5 年半ぶりに利上げを実施した。
コラム
1 量的金融緩和の縮小開始後の市場動向
�13 中国の経済指標が鈍化していく中で、特に英国大手金融機関が発表している中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値が 49.6 と、
景気の改善・悪化の節目となる 50 を半年ぶりに下回った。14 中国の大手銀行が販売し、信託会社が運用していた理財商品が、投資先の山西省の民営採炭会社の資金繰り行き詰まりにより、2013 年 1
月末の償還が危ぶまれた。本件は直前で債務不履行が回避された。ただし、理財商品に対する懸念はその後も続いていくことになる。
767880828486889092949698100102104(指数、2013 年 5 月はじめ=100)
マレーシアメキシコフィリピンタイブラジルインドロシア南アフリカインドネシアトルコ
通貨高(ドル安)通貨高
(ドル安)通貨高
(ドル安)通貨安
(ドル高)通貨安
(ドル高)
5月22日
5月1日
6月12日
7月3日
7月24日
8月14日
11月6日
10月16日
9月25日
9月4日
11月27日
12月18日
1月29日
1月8日
3月12日
2月19日
4月2日
コラム第 1-1 図 新興国の通貨動向(2013 年 5月~2014 年 4月)
資料:Thomson Reuters EIKON から作成。データは対 US ドル。
24 2014 White Paper on International Economy and Trade
第1章 世界経済危機後の世界経済の動向
CW6_A6372D112_M.indd 24 2014/07/31 8:58:52
2013 年 5 月以降の大幅な資金流出に伴い、主要新興国・地域においては株価、国債スプレッドのボラティリティが拡大した(コラム第 2-1 図、第 2-2 図)。また、通貨も大幅に下落するなど、新興国は、いわゆる株、国債、通貨の「トリプル安」に見舞われ、資金流出を背景に金融市場の不安定さが際立った。 ただし、株価指数、国債スプレッドのいずれも、世界経済危機、欧州債務危機の際の状況と比較して小幅な変動にとどまっている(コラム第 2-1 図、第 2-2 図)。また、2014 年 3 月時点で見た場合、株価指数は、アジア新興国(除中国)において、世界経済危機前の最大値(2007 年 10 月時点、130.2)に迫る水準まで回復している。国債スプレッドについても、アジア新興国、ラテンアメリカ、中国は 2014年に入って低下しており、落ち着きが見られる。IMF は 15、「これまでのところ、新興国からの資金流出が継続する兆しはみられない。実際、2013 年の夏に資金流出が最大となって以降、同年後半には新興国への資金流入が緩やかに回復している」と指摘している。
新興国における株、国債、通貨の「トリプル安」についてコラム
2
�15 IMF WEO April 2014
10 10 10 10 10 10 101 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 14 7 10(年月)
(2007=100)
20
40
60
80
100
120
140
160
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
欧州新興国 ラテンアメリカ 中国 アジア新興国(除中国)
98.487.586.5
127.1
コラム第 2-1 図 主要新興国・地域の株価指数の推移
資料:IMF "WEO April 2014" から作成。
(年月)
(ベーシスポイント)
0
欧州新興国 ラテンアメリカ 中国 アジア新興国(除中国)
01/05/2007
03/30/2007
06/22/2007
09/14/2007
12/07/2007
02/29/2008
05/23/2008
08/15/2008
11/07/2008
01/30/2009
04/24/2009
07/17/2009
10/09/2009
01/01/2010
03/26/2010
06/18/2010
09/10/2010
12/03/2010
W02/25/2011
05/20/2011
08/12/2011
11/04/2011
01/27/2012
04/20/2012
07/13/2012
10/05/2012
12/28/2012
03/22/2013
06/14/2013
09/06/2013
11/29/2013
02/21/2014
1002003004005006007008009001,000
323.0212.3
163.0207.7
コラム第 2-2 図 主要新興国・地域の国債スプレッドの推移
備考:データは、J.P. Morgan EmergingMarket Volatility Index の値。資料:IMF "WEO April 2014" から作成。
第1章
第Ⅰ部
通商白書 2014 25
第2節米国の量的金融緩和縮小とその影響
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