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― 58 ― (2)社会の変化や時代のニーズに対応した県民の豊かな生活を実現するために必 要となる多様で質の高いサービスの提供 ③ バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野:「バイオ・ライフサイエンス クラスター」の形成 1)産業の特徴・現状と集積の特性 バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野における基礎研究は、応用研究や 産業化に向けて重要な役割を担っている。基礎研究を行う優れた大学や研究機関 を中心にして企業との共同研究・共同開発が行われ、国際的な研究開発交流が積 極的に展開される中で、大学や研究機関の周辺には、新たなベンチャー企業など が集まってくる。本県には、かずさ地域、東葛地域、千葉地域に、それぞれ特色 のある研究開発機能を持つ「バイオ・ライフサイエンスクラスター」がある。 バイオテクノロジーについては、従来から酒、味噌等の発酵、有機化学工業品 等の分野で利用されてきたが、近年、組替えDNA技術、細胞融合技術等の技術 開発の進展に伴い、その応用分野は、医療・創薬、DNA解析機器、情報処理技 術、食品、環境・エネルギー等幅広い分野に拡大しており、産業面において高い 成長が見込まれている。また、急速な高齢化に伴い、高齢者に適応した多様な医 療ニーズの増大が見込まれており、自宅療養・診断等に対応するための在宅・遠 隔医療サービス業や高度医療機器産業、福祉用具産業、健康機器・健康サービス 産業等の成長が期待されている。このように、バイオ・医療・福祉・健康サービ ス関連分野の市場規模は今後さらに拡大し、バイオテクノロジーに関係する分野 だけでも約25兆円にまで成長すると期待されている。 このような中、本県には、世界をリードする動植物や微生物のゲノム ※22 解析 研究が進んでいるかずさ地域、バイオベンチャー企業や高等教育機関の集積が進 んでいる東葛地域、医療研究機能の集積があり、ゲノム科学を活かしたオーダー メイド医療・予防の基礎・応用・臨床研究を目指す千葉地域があることから、バ イオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の企業が100社以上立地している。 特に、かずさ地域は、機能性食品、医薬品等の開発につながる植物・微生物の ゲノム研究や、医療・創薬、DNAチップ、診断薬などの開発につながるヒト遺 伝子等の研究において優れた特色を持ち、産学官連携の共同研究などが積極的に 展開されている。また、千葉地域、東葛地域では、大学、研究機関、バイオベン チャーなど、医療・創薬・診断薬、ナノテクノロジ-を活用した分析機器などの 研究開発が新領域融合のもと行われている。

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(2 )社会の変化や時代のニーズに対応した県民の豊かな生活を実現するために必要となる多様で質の高いサービスの提供

 ③  バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野:「バイオ・ライフサイエンスクラスター」の形成

 1)産業の特徴・現状と集積の特性

   バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野における基礎研究は、応用研究や産業化に向けて重要な役割を担っている。基礎研究を行う優れた大学や研究機関を中心にして企業との共同研究・共同開発が行われ、国際的な研究開発交流が積極的に展開される中で、大学や研究機関の周辺には、新たなベンチャー企業などが集まってくる。本県には、かずさ地域、東葛地域、千葉地域に、それぞれ特色のある研究開発機能を持つ「バイオ・ライフサイエンスクラスター」がある。

   バイオテクノロジーについては、従来から酒、味噌等の発酵、有機化学工業品等の分野で利用されてきたが、近年、組替えDNA技術、細胞融合技術等の技術開発の進展に伴い、その応用分野は、医療・創薬、DNA解析機器、情報処理技術、食品、環境・エネルギー等幅広い分野に拡大しており、産業面において高い成長が見込まれている。また、急速な高齢化に伴い、高齢者に適応した多様な医療ニーズの増大が見込まれており、自宅療養・診断等に対応するための在宅・遠隔医療サービス業や高度医療機器産業、福祉用具産業、健康機器・健康サービス産業等の成長が期待されている。このように、バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の市場規模は今後さらに拡大し、バイオテクノロジーに関係する分野だけでも約25兆円にまで成長すると期待されている。

   このような中、本県には、世界をリードする動植物や微生物のゲノム※22解析研究が進んでいるかずさ地域、バイオベンチャー企業や高等教育機関の集積が進んでいる東葛地域、医療研究機能の集積があり、ゲノム科学を活かしたオーダーメイド医療・予防の基礎・応用・臨床研究を目指す千葉地域があることから、バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の企業が100社以上立地している。

   特に、かずさ地域は、機能性食品、医薬品等の開発につながる植物・微生物のゲノム研究や、医療・創薬、DNAチップ、診断薬などの開発につながるヒト遺伝子等の研究において優れた特色を持ち、産学官連携の共同研究などが積極的に展開されている。また、千葉地域、東葛地域では、大学、研究機関、バイオベンチャーなど、医療・創薬・診断薬、ナノテクノロジ-を活用した分析機器などの研究開発が新領域融合のもと行われている。

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 2)バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の成長可能性

   本県には、バイオ・医療・福祉・健康サービス関連の産業を支える化学、食品、ナノテク、精密機器、環境、農業、健康・福祉等多様な応用分野の産業集積があるほか、(財)かずさDNA研究所、(独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部、東京大学大学院新領域創成科学研究科、千葉大学医学・薬学部、国立がんセンター研究所支所、千葉県産業支援技術研究所等の公設試験研究所などの多くのバイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の研究開発交流拠点が存在しており、他の産業分野に比べて将来性・優位性は高いものがある。

   これらのバイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の企業、大学・研究機関が相互に連携することにより、国際的な競争に負けないような多くの研究実績を残し、産業化に結び付けていくために、県が中心となって「千葉県バイオ・ライフサイエンス・ネットワーク会議」が設置されており、最も産学官の連携が進んでいる分野であると言える。今後は、さらにこれらの活動内容の充実・強化を図ることにより、バイオベンチャーの創出・育成、知的財産の保護・活用等の面において成果を出していくことが期待される。

   バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野は、安全性確保が重要であるとともに事業活動の円滑化に向けた情報公開等によるパブリックアクセプタンス※23

の確保と向上、安全性評価システムの一層の充実、知的財産の保護等をさらに推進することにより、事業者がこの分野に積極的に挑戦できるような環境整備を行うことが重要である。

   また、医療機器・福祉機器・福祉サービスの分野については、社会保障に係る財政制約が強まる状況において、医科系の大学、医療機関、福祉施設等の需要に対応した研究開発のもと、医療機器・福祉機器の製造・販売、医療支援サービス等の独自事業を展開する既存企業やベンチャー企業等の関連産業と医療機関とがこれまで以上に連携を促進し、地域発の医療・福祉関連産業群を創造していくことが必要となっている。

   さらに、医薬品産業については、各国で凌ぎを削って行われているバイオテクノロジーやゲノム等の最先端の研究成果をいかに効率よく利用し、いかに迅速に臨床開発を行い各国で医薬品として承認を取得し、いかに各国で販売活動を拡大し収益の最大化を図るかが重要となっており、ボーダレスに展開している研究開発・販売等の事業活動を効果的に支援することが必要となっている。

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 3 )バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の競争力強化のための方向性・具体策

   バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の成果は、医療・創薬、IT、食品、農業、環境、ナノテク、素材、加工技術など、産業の裾野が広いことから、産学官連携のもと、かずさ地域、東葛地域、千葉地域それぞれの地域・産業特性を活かしたバイオ・ライフサイエンスクラスターの形成をこれまで以上に積極的に推進していくこととする。

   バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の研究開発を推進していくため、基礎研究から応用研究への橋渡しが重要である。さらに、バイオベンチャーの成長には、初期段階における資金調達や販路開拓などが重要な課題となる。

   このことから、バイオ・医療・福祉・健康サービス関連産業の一層の成長のため、大学、研究機関、製薬・食品関連等の大手企業、ベンチャーキャピタルなどとの交流・連携の場となるクラスターの形成を積極的に推進していくこととする。

   具体的には、「千葉県バイオ・ライフサイエンス・ネットワーク会議」や「千葉県福祉・医療機器研究会(「同DNA工学研究会」、「同ナノ・バイオ研究会」)などの場を活用し、バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野における広域的・地域横断的な産学官連携の充実・強化を図り、西洋医学と東洋伝統医療との融合による統合医療の推進、新たな共同研究の推進やバイオベンチャーの株式公開・上場などを目指した取組みを展開していくこととする。

   バイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野の研究開発における国際的な競争は、知的フロンティアの開拓に基づく新たな価値の形成を巡る知的競争であり、優秀な人材の集積が、成功の鍵を握る。

   このため、本県のバイオ・医療・福祉・健康サービス関連分野における東京大学、千葉大学、東京理科大学、かずさDNA研究所、放射線医学総合研究所、製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部などの知の集積、研究開発力を産業化に結びつけていくために、様々な取組みを通じて人材の育成・集積に一層努め、国際拠点としての優位性を形成することが重要である。

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   また、海外に目を向けると、アメリカや欧州には、生命科学の国際的な研究機能と研修機能を備えた拠点がある。現在、日本には、アジア・環太平洋地域の大学や研究機関の研究者・技術者を受け入れて国際的なゲノムの共同研究開発を実施したり、海外の優秀な研究者・技術者の人材育成を行うことができる拠点としての役割を果たせる機能・施設がないのが現状である。

   日本において圧倒的な研究・産業集積を誇る東京圏において、本県が激しいゲノム科学の国際競争に打ち克ち、東京圏のゲノム科学の国際拠点の一翼を担うためには、アジア・環太平洋地域の優秀な人材が集まり、海外に流出している優秀な研究者・技術者が還流し、知的財産を活かした国際的な共同研究開発を実施するハブ機能を果たす拠点を形成することが課題となっている。

   このため、かずさ地域、東葛地域、千葉地域の3つのバイオ・ライフサイエンスクラスターにおける優れた特色を生かして、国際的なポテンシャルと優位性をさらに高める取組みを進めていくこととする。

   具体的には、特にかずさ地域を中心に、国際的なバイオ・ライフサイエンスクラスターの形成に向けた取組みを進めていくこととし、構造改革特区や「知の拠点再生プロジェクト」などを活用しつつ、「東京圏ゲノム科学国際研究開発交流センター(仮称)」(かずさアカデミアパーク)、「柏国際キャンパス」(柏地域)の整備促進、本県の姉妹州である米国のウィスコンシン州をはじめとする国内外の大学・研究機関等との研究交流、国際的なバイオベンチャーなどの誘致を進める。

   さらに、海外との優秀な研究者との研究・人材交流を促進するため、国際的なシンポジウムの開催・誘致や外国人研究者が国際レベルの住環境で研究開発が行える「国際研究者村」(かずさアカデミアパーク)などの整備を進めていく。

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DNA

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 ④  素材・環境・新エネルギー関連分野:「グリーンケミストリー・クラスター」の形成

 1)産業の特徴・現状と集積の特性

   本県は、京葉臨海コンビナートを中心とする石油精製、石油化学、鉄鋼等の素材型産業が大きなウエイトを占めるという首都圏でも特徴的な産業構造を持っている。京葉臨海地域は、我が国でも有数の重化学工業の一大工業集積を形成し、高度経済成長期を中心に成長してきたわけであるが、これらの京葉臨海部の素材型産業は、近年の国内需要の立ち直りやアジア地域、とりわけ中国需要の急激な伸びにより空前の活況を呈している。

   化学産業は、プラスチック、合成ゴム等の石油化学製品、化粧品、洗剤、写真用フィルム、タイヤ等のゴム製品といった広範な分野にわたる素材や最終製品を供給しており、研究開発や品質管理面で高い能力を有する層の厚い企業集積となっている。また、鉄鋼業は、建設、自動車、産業機械、電機、造船等、幅広い分野に高品質の鉄鋼材料を安定的に供給しており、造船、自動車、産業機械等の生産拡大等を背景に、近年、収益が大幅に回復している。

   また、同時に、これらの素材型産業は、他の産業と同様に、地球温暖化問題、廃棄物・リサイクル問題や有害化学物質への対応等の様々な環境制約、中国を始めとする途上国の経済成長を背景とした国際的な資源制約に直面しており、本県でも、素材型産業が集積している京葉臨海地域を中心に、環境・新エネルギー関連分野の技術革新の加速化、環境・新エネルギー産業の集積のための環境整備が進められている。

   このように、廃棄物の発生を極力抑えて、原料や生成物の再利用を図る循環型社会の構築を目指し、設計段階から化学製品の環境負荷を最小にする予防の精神と無駄のない合成、安全な合成、省エネの重要性を踏まえて、環境に優しいものづくりの化学技術を推進する考え方を「グリーンケミストリー」といい、十数年前にアメリカ国家環境保護局から提案され、世界中から注目されている概念となっている。

   本県の京葉臨海地域を中心に既に始まっている環境・新エネルギー関連分野の研究・技術開発においても、我が国を代表する化学産業、鉄鋼業といった素材産業との連携を強化しながら、グリーンケミストリーの普及促進と素材・環境・新エネルギー産業のさらなる成長と発展を促進していくことが期待される。

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 2)素材・環境・新エネルギー関連分野の成長可能性

   近年、素材型産業分野に関しては、今後本格稼動を始める中東、アジア諸国における大型最新鋭石油化学プラントや石油製品の輸入自由化、関税の大幅引下げ等により、本コンビナートの中核をなす石油化学産業を取り巻く環境は厳しさを増していくことが予想されている。とりわけ、原油等原材料の高騰が、エネルギー多消費型経済の脆弱性を改めて浮き彫りにしており、今後、さらに環境と経済性の両面から、我が国が得意とする省エネ技術・商品や高効率エネルギー技術への世界的な需要が高まるものと見込まれる。

   このため、本県の石油精製、石油化学、鉄鋼等の素材型産業が国内外の厳しい環境変化に対応し、今後とも国際競争力を維持できるために、これまで以上の企業間連携の促進と技術開発・設備投資などによる高付加価値化といった取り組みを不断に支援していくことが必要である。

   また、石油化学では、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、環境、ITなど今後、世界をリードしていくことが期待される新規産業分野に対して、高機能な素材・部材を供給することによりこれらの産業を下支えしていく基幹産業としての役割を果たすことが期待されている。このため、情報電子材料分野や自動車材料分野などの機能性化学品分野において、より高度な性能・機能を有する材料を迅速に開発・提供することが求められている。

   一方、京葉臨海地域を中心に、エコタウン事業によるリサイクル産業や環境に優しい新エネルギーによる新しい環境ビジネスの創出・拡大を図る各種の構想・計画があり、高度な廃棄物処理・リサイクル施設および関連設備の開発・製造・施工業、環境エンジニアリング業、新エネルギー産業等の成長が期待されている。特に、木更津港は広域的なリサイクル施設の立地に対応した静脈物流ネットワークの拠点となるリサイクルポートに指定されるとともに、後背地の富津地区工業用地に環境関連施設の専用誘致地区を有するなど環境関連産業の立地に大きなインセンティブを有している。

   また、京葉臨海地域の素材型産業を中心とする燃料電池やその燃料となる水素製造の研究開発や「バイオマス立県ちば」推進方針に基づくバイオマスタウン実現への取組み、小型風力発電等のベンチャー企業のシーズ等があり、新エネルギー関連分野についても、高いポテンシャルを有していると言える。

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 3)素材・環境・新エネルギー産業の競争力強化のための方向性・具体策

   今後も素材型産業を中心とした京葉臨海地域の活性化と競争力の強化を図ることは、当該立地企業ばかりでなく本県経済全体にとって大変重要な意味を持っている。このため、平成16年6月に認定された「京葉臨海コンビナート活性化特区」やコンビナート構成企業で組織する「千葉県臨海南部工場地帯工場連絡協議会」における検討会を通して、合理的な事業活動に影響を与えている各種規制や工業用水料金の問題等を検討していく。また、コンビナートにおける企業間の連携を強め、省エネルギー・省資源を図り、生産性・効率性の向上につなげるための協議会を平成17年度に設置したところである。当協議会の活動を通して、中核人材の育成など立地企業が共通して取り組める施策を推進し、コンビナート全体の活性化を図っていくこととする。

   さらに、21世紀産業として環境・新エネルギー産業を本県に本格的に集積・振興促進していくために、まず、京葉臨海地域の素材型産業を中心に民間主導での産学官連携による研究会・推進協議会を設置し、環境・新エネルギー産業の集積環境の整備を行っていくこととする。

   具体的には、環境配慮・省エネ型の素材・部品・商品といったエコマテリアル、廃棄物の回収・処理・再資源化のためのプラント・装置、土壌浄化、水質浄化、都市緑化等の環境修復技術、再生資源の利用技術、バイオマス・太陽光発電等の新エネルギー、燃料電池やコジェネレーション※24等の高効率エネルギーなどの技術開発・共同研究を促進し、次々と産業化が図れる支援と環境整備を行っていくこととする。

   特に、木更津港後背地では直接溶融施設、廃木材・廃プラスチックリサイクル施設、塩ビ系廃棄物リサイクル施設等の集積が始まっており、今後さらなる集積を促進する。

   また、我が国を代表する素材産業が集積する京葉臨海地域に立地する民間研究機関等が進める省エネルギー・省資源、環境負荷低減等の環境・エネルギー分野の研究を(財)千葉県産業振興センターに配置する環境・新エネルギー関連分野のプロジェクト・コーディネーターや千葉県産業支援技術研究所が中心となって、県内の中堅・中小企業とも連携しながら行い、資源循環型社会の総合的な構築と素材・環境・新エネルギー分野での総合的なポテンシャルを向上させていくこととする。

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 ⑤ 物流関連分野:「物流産業クラスター」の形成

 1)産業の特徴・現状と集積の特性

   物流関連分野は、技術革新とニーズ変化を捉えた事業者の新規参入や事業拡大による市場活性化、ニーズの多様化に対応する新規業態・サービスの開拓による市場拡大、情報化・機械化等による一層の効率化などにより、付加価値を高めていくことが求められている。

   具体的には、規制緩和を前提に、多様化するニーズに対応して、航空フォワーダー※25、宅配便サービス等の既存分野のみならず、サード・パーティ・ロジスティクス(荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する業務)等の新たな業態・サービス分野において高い成長が期待されている。

   また、本県において、道路、港湾、鉄道、空港等の物流に関連した社会資本については、都市部における慢性的な交通混雑等が依然として見られることから、今後も効率的なヒトとモノの流れの円滑を図るため社会資本整備が必要である。

   本県は、人口・企業集積の大きな首都圏に位置しており、産業向け・個人向けともに流通・物流の需要が大きく、東葛地域、東京湾臨海地域及び成田空港周辺地域それぞれの幹線道路を中心に物流施設が立地している。特に、国際空港としての成田空港、港湾貨物取扱量の多い千葉港が所在する等、国際的・広域的な流通・物流基盤に優れ、具体的な立地意向企業も多くなっている。

   日本の国際航空貨物の6割以上を取り扱っている我が国最大の国際空港がある成田周辺地域においては、近年、暫定平行滑走路が供用したことにより、貨物取扱量が大幅に上がっており、物流関連である運輸業の事業所が大きく増加している。また、空港機能の強化に加え、北千葉道路をはじめとした幹線道路ネットワークの充実や成田新高速鉄道の整備を進めること等により、物流関連産業の立地の可能性がますます高まっている。

   最近では、暫定滑走路の供用に伴い国際線の容量拡大とともに国内線ネットワークが充実されてきた成田国際空港や千葉港の物流基盤や大消費地である首都圏への近接性という立地優位性を反映して、成田周辺地域にはプロロジス・ジャパン等の国際物流関連企業が多数進出している。

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 2)物流関連分野の成長可能性

   本県は、東京圏において安価で豊富な土地があることや4千万人を超える大消費地に位置していること、成田国際空港が世界第2位の国際航空貨物量を取り扱っており、今後もさらに増大が見込まれること、特定重要港湾である千葉港や重要港湾である木更津港等7つの港湾や漁港に囲まれ、取扱貨物量が全国トップレベルにあることのほか、東関東自動車道、東京湾アクアライン等により東京方面へのアクセスの良さ等も強みとなり、今後さらに本県における物流関連分野の成長が期待されている。

   一方で、近年、荷主企業の在庫削減をはじめとするサプライチェーンマネジメント(商品供給に関する全ての企業連鎖を統合管理し、消費者の購買情報を関係企業が共有できるようにし、リードタイムの短縮、適時・適量の商品供給の実現・全体最適化を目指すこと)への意識の高まり、消費者ニーズの多様化・高度化、情報化の推進、環境対策の重要性等、物流システムをめぐる環境は大きく変化してきている。これらの環境の変化に対応し、物流システムの全体最適化を図るためには、荷主と物流事業者の連携・協調による情報共有とこれまで以上のコーポラティブな取引関係を築いていくことが重要となる。

   このため、本県の物流産業がこれらの環境の変化に的確に対応していくためには、大企業のみならず、物流システムに関わる多くの中小企業とともにシステム改革や標準化に取り組んでいく必要があると考えられる。

   また、国際競争力の強化を図る多くの企業がグローバル化を進め、アジア等の国際市場と国内市場とを一体化させた経営戦略を展開していることを踏まえ、国際物流と国内物流が一体となったスピーディーで低廉かつ効率的な物流システムを構築することが、本県の物流産業クラスターの形成・発展に不可欠である。

   本県の物流関連分野のさらなる発展を実現するためには、成田国際空港や千葉港等の機能向上に加え、これらの空港・港湾、物流拠点等へのアクセスの改善、幹線道路の整備、貨物の積替え拠点である物流施設におけるロジスティクス※26

機能の高度化等、貨物の一連の流れを踏まえた横断的な取組みを、関係者が連携・協働して推進していく必要がある。

   以上のことから、本県の物流産業の成長を支援するために、行政内部での連携、官民連携、民間の業種を超えた協調体制を強化していくこととする。

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 3)物流産業の競争力強化のための方向性・具体策

   本県の物流産業クラスターの形成・発展を促進していくためには、まず、県と関係市町村、荷主企業、物流事業者等の参画による協議の場を設け、主要港湾・空港・道路・鉄道等のアクセスも含めた効率化等の取組みを進めながら、ボトルネック※27の解消のための具体化を図り、物流産業が集積しやすい環境を整備する必要がある。

   また、このような物流産業の推進協議会を活用して、EDI(電子データ交換)や電子タグを始めとする情報技術をいかに活用して効率的物流システムを構築していくか、どのようにすればジャストインタイムに対応した物流管理や輸配送、多頻度少量輸送等を実現できるか、環境負荷の低減を推進し、環境調和型の物流効率化をさらに進めていくためには、どのような企業間の連携が必要なのか等を広く関係者間において検討し、情報を共有することで、顧客視点での効率的な物流システムづくりが実現でき、本県の物流産業の発展と消費者利益の増進を図ることができるものと考える。

  さらに、成田国際空港の国際物流拠点としての機能を最大限に生かした物流産 業クラスターの形成・発展を進めるために、道路網の整備等を中心に社会資本の 整備が不可欠である。このため首都圏中央連絡自動車道や北千葉道路等の早期整 備が必要である。また、県工業団地のほか民間の保有する工業系用地の活用を図 り、臨空産業、国際物流関連産業等の誘致を積極的に行っていくこととする。

   今後も、成田国際空港株式会社や周辺市町村と連携しながら、輸送の効率化の障害となる諸規制の緩和のため特区の活用等について検討し、成田周辺地域におけるさらなる物流産業の集積・活性化を促進していくこととする。

   また、東京湾臨海地域や東葛地域は、都市内物流業務及び消費財系配送拠点立地ニーズが十分見込まれる地域であり、遊休産業施設用地の活用や分譲残の工業団地、市街化調整区域の遊休地の活用等により物流施設の立地促進を図ることとする。

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