11
近年、ビッグデータという言葉に代表される電子的に処理可能なデータの飛躍的増大や、コンピュータの処理能 力の向上、人工知能等の技術革新が進んでいる。その根幹を担うのが「データ」であり、データの活用がこれまで 見過ごされてきた生産性向上や新たな需要の掘り起こしに繋がり、経済成長やイノベーションの促進に資すること が期待される。 我が国において、その環境は整いつつある。2016年末から2017年にかけて、官民データ活用推進基本法の制 定や改正個人情報保護法の全面施行などといった法整備が進められている。官民データ活用推進基本法は、データ の適正かつ効果的な活用の推進に関し、基本理念を定め、行政手続や民間取引のオンライン化等を目指すこととし ている。改正個人情報保護法では、個人情報を特定の個人を識別できないように加工した情報を匿名加工情報と新 たに定義し、個人情報の適正な流通のための環境を整備している。こういった法整備により、データの保護とのバ ランスを取りながら活用を促進する動きが加速することが見込まれる。もとよりデータ利活用のニーズは高かった が、こうした環境整備によって予見可能性が高まり、今後一気にデータ利活用が進み、本年は「ビッグデータ利活 用元年」となる可能性がある。 世界各国においても、G7香川・高松情報通信大臣会合以降、G7、G20等のあらゆる機会を捉えてデータの自 由な流通の重要性について確認されてきており、国際的な認識共有が進展しつつある。一方で、自国からのデータ の移転を制限しようとする所謂データローカライゼーションの動きも各国・地域で見られ、国際展開する企業の制 約要因になるとの懸念もある。データが国境を越えて流通する動きがますます加速する中、世界的にデータの活用 と保護とのバランスを図る動きが今後も継続すると考えられる。 もう一点懸念されるのは、自分のパーソナルデータを流通させられることに対する国民の不安や抵抗感である。 そのことは過去の情報通信白書のアンケート調査において明らかとなっており、同じアンケート調査で実施した国 際比較からも日本の利用者がパーソナルデータの提供を許容する度合いが低いという結果となっている。こういっ た国民の意識は、データの活用に対する企業の意欲を萎縮させ、ひいては今後の経済活動の抑制に繋がりかねな い。 本章では、こうした認識の下、データの流通・利活用に向けた課題を含む現状の整理を行い、さらに国民・企業 向けアンケート調査等を通じて、国民の不安の払拭及び企業の意識改革を促しながら今後の利活用の道筋について 展望する。 第 1 節ではデータ流通・利活用の前提として、対象とするデータの種類や、利活用モデルの整理等を行う。第 2 節では安心・安全なデータ流通のための環境整備状況とともに、企業関係者と個人への調査によるそれぞれの意識 及びギャップについて取り上げる。第 3 節ではデータの流通や保護に関する国際的な議論や各国・地域における対 応について、現状と課題を整理する。第 4 節では、これらを踏まえてデータ流通・利活用に関する将来を展望する とともに、提言をまとめる。 1 広がるデータ流通・利活用 データが主導する経済成長と社会変革の実現においては、ビッグデータの利活用が鍵を握る。そしてビッグデー タを収集するための手段がIoT(Internet of Things)であり、ビッグデータを分析・活用するための手段がAI (人工知能:Artificial Intelligence)である。これらの第 4 次産業革命を実現する構成要素の依存関係を念頭に、 本節ではデータ流通・利活用がもたらす「イノベーション創出」に着目し、その実現に向けた取組や課題、利活用 と保護のバランスと国際的整合性等について概観する。また、B to B(Business to Business)も含め広範囲な データ種別をみることで、日本が競争力を持つ分野やデータ種別などに着目し、データの活用と産業競争力につい て整理する。 ビッグデータ利活用元年の 到来 2 2平成 29 年版 情報通信白書 第1部 52

2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

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Page 1: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

近年、ビッグデータという言葉に代表される電子的に処理可能なデータの飛躍的増大や、コンピュータの処理能力の向上、人工知能等の技術革新が進んでいる。その根幹を担うのが「データ」であり、データの活用がこれまで見過ごされてきた生産性向上や新たな需要の掘り起こしに繋がり、経済成長やイノベーションの促進に資することが期待される。

我が国において、その環境は整いつつある。2016年末から2017年にかけて、官民データ活用推進基本法の制定や改正個人情報保護法の全面施行などといった法整備が進められている。官民データ活用推進基本法は、データの適正かつ効果的な活用の推進に関し、基本理念を定め、行政手続や民間取引のオンライン化等を目指すこととしている。改正個人情報保護法では、個人情報を特定の個人を識別できないように加工した情報を匿名加工情報と新たに定義し、個人情報の適正な流通のための環境を整備している。こういった法整備により、データの保護とのバランスを取りながら活用を促進する動きが加速することが見込まれる。もとよりデータ利活用のニーズは高かったが、こうした環境整備によって予見可能性が高まり、今後一気にデータ利活用が進み、本年は「ビッグデータ利活用元年」となる可能性がある。

世界各国においても、G7香川・高松情報通信大臣会合以降、G7、G20等のあらゆる機会を捉えてデータの自由な流通の重要性について確認されてきており、国際的な認識共有が進展しつつある。一方で、自国からのデータの移転を制限しようとする所謂データローカライゼーションの動きも各国・地域で見られ、国際展開する企業の制約要因になるとの懸念もある。データが国境を越えて流通する動きがますます加速する中、世界的にデータの活用と保護とのバランスを図る動きが今後も継続すると考えられる。

もう一点懸念されるのは、自分のパーソナルデータを流通させられることに対する国民の不安や抵抗感である。そのことは過去の情報通信白書のアンケート調査において明らかとなっており、同じアンケート調査で実施した国際比較からも日本の利用者がパーソナルデータの提供を許容する度合いが低いという結果となっている。こういった国民の意識は、データの活用に対する企業の意欲を萎縮させ、ひいては今後の経済活動の抑制に繋がりかねない。

本章では、こうした認識の下、データの流通・利活用に向けた課題を含む現状の整理を行い、さらに国民・企業向けアンケート調査等を通じて、国民の不安の払拭及び企業の意識改革を促しながら今後の利活用の道筋について展望する。

第1節ではデータ流通・利活用の前提として、対象とするデータの種類や、利活用モデルの整理等を行う。第2節では安心・安全なデータ流通のための環境整備状況とともに、企業関係者と個人への調査によるそれぞれの意識及びギャップについて取り上げる。第3節ではデータの流通や保護に関する国際的な議論や各国・地域における対応について、現状と課題を整理する。第4節では、これらを踏まえてデータ流通・利活用に関する将来を展望するとともに、提言をまとめる。

第1節 広がるデータ流通・利活用データが主導する経済成長と社会変革の実現においては、ビッグデータの利活用が鍵を握る。そしてビッグデー

タを収集するための手段がIoT(Internet of Things)であり、ビッグデータを分析・活用するための手段がAI(人工知能:Artificial Intelligence)である。これらの第4次産業革命を実現する構成要素の依存関係を念頭に、本節ではデータ流通・利活用がもたらす「イノベーション創出」に着目し、その実現に向けた取組や課題、利活用と保護のバランスと国際的整合性等について概観する。また、B to B(Business to Business)も含め広範囲なデータ種別をみることで、日本が競争力を持つ分野やデータ種別などに着目し、データの活用と産業競争力について整理する。

ビッグデータ利活用元年の到来第2章

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

平成29年版 情報通信白書 第1部52

情通29_02-01.indd 52 2017/07/14 10:05:27

Page 2: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

1 ビッグデータの定義及び範囲デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータ、すなわちビッグデータを効率的に収集・共有できる環境が実現されつつある。特に、近年ビッグデータが注目されているのは、従来のICT分野におけるバーチャル(サイバー空間)なデータから、IoTの進展などを始め、新たなICTにおけるリアルなデータへと、あるいはB to CのみならずB to Bに係るデータへと爆発的に流通するデータ種別へと拡大しているためである。図表2-1-1-1 本章のスコープ

第2章 第3章第1章

オープンデータ

パーソナルデータ

データ利活用に対する企業の期待

個人の不安や企業との認識ギャップの解消

越境データの流通、国際的議論の進展

オープンデータに関する取組の推進

産業データ

M2M

知のデジタル化

スマートフォンの利用高度化とデータ生成

ネットワークとデータが創造する新たな価値

第4次産業革命への期待

IoT時代のデータ収集・AI処理

本項ではこれらの背景を踏まえ、まずこれらのビッグデータの定義及び範囲について整理する。ビッグデータの種別に関する分類は様々な考え方があるが、本項では個人・企業・政府の3つの主体が生成しうるデータに着目し、大きく以下の4つに分類する。

1)政府:国や地方公共団体が提供する「オープンデータ」「オープンデータ」は、ビッグデータとして先行している分野であり、後述する『官民データ活用推進基本法』を踏まえ、政府や地方公共団体などが保有する公共情報について、データとしてオープン化を強力に推進することとされているものである。

2)企業:暗黙知(ノウハウ)をデジタル化・構造化したデータ(「知のデジタル化」と呼ぶ)「知のデジタル化」とは、農業やインフラ管理からビジネス等に至る産業や企業が持ちうるパーソナルデータ以外のデータとして捉えられる。今後、多様な分野・産業、あるいは身の回りに存在する人間のあらゆる知に迫る、様々なノウハウや蓄積がデジタル化されることが想定される。

3)企業:M2M(Machine to Machine)から吐き出されるストリーミングデータ(「M2Mデータ」と呼ぶ)M2Mデータは、例えば工場等の生産現場におけるIoT機器から収集されるデータ、橋梁に設置されたIoT機器からのセンシングデータ(歪み、振動、通行車両の形式・重量など)等が挙げられる。この「M2Mデータ」と2)の「知のデジタル化」の2つについては、情報の生成及び利用の観点から、主として産業データとして位置付けられる。よって、本章では「知のデジタル化」及び「M2Mデータ」をあわせて「産業データ」と呼ぶ。今後、特にこうした産業データに係る領域においては、我が国の競争力を発揮でき、産業力の強化が期待されるところである。

4)個人:個人の属性に係る「パーソナルデータ」「パーソナルデータ」は、個人の属性情報、移動・行動・購買履歴、ウェアラブル機器から収集された個人情報を含む。また、後述する『改正個人情報保護法』においてビッグデータの適正な利活用に資する環境整備の

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用 第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部 53

情通29_02-01.indd 53 2017/07/14 10:05:27

Page 3: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

ために「匿名加工情報」の制度が設けられたことを踏まえ、特定の個人を識別できないように加工された人流情報、商品情報等も含まれる。そのため、本章では、「個人情報」とは法律で明確に定義されている情報を指し、「パーソナルデータ」とは、個人情報に加え、個人情報との境界が曖昧なものを含む、個人と関係性が見出される広範囲の情報を指すものとする。

これらのデータに係る流通・利活用の観点からみると、例えばオープンデータは国や地方自治体が保有するデータをオープン化して、個人や企業等広く一般へ提供される。M2Mデータについては、企業が直接的に収集する他、個人が有する様々な機器(ICTデバイス、自動車、自宅等)から計測されるデータを収集し、付加価値をつけて財やサービスに変換し、企業(B to B)、個人(B to C / B to B to C)、政府(B to G)へ提供される。パーソナルデータについては、個人から企業へ提供され、企業は個人に対してB to Cあるいは企業間を経由したB to B to C等のビジネス形態を通じて財・サービス等が提供される。また、M2Mデータや匿名加工されたパーソナルデータについては、企業間のデータ連携やデータ関連ビジネス(B to B)の基盤となる。すなわち、こうした様々なデータを組み合わせることで、従来は想定し得なかった新たな課題解決のためのソリューションの実現につなげること、またそのソリューションの実現において異なる領域のプレーヤーが連携したイノベーションの実現が期待される。

このように、データ流通・利活用の促進において重要と考えられるのは多量かつ多様なデータが生成されることだけではなく、これらのデータをその提供者・利用者・受益者となる個人・企業・政府等の間で円滑かつ適正に循環させていくことで、イノベーションを加速させ、経済成長への貢献を高めていくことである。本章では、その循環が社会経済にもたらす便益やそれを実現するための手段や環境またデータ流通・利活用促進の妨げとなる壁等の課題について、政府と企業・個人間、個人と企業間といった関係性に着目しながら整理する(図表2-1-1-2)。

図表2-1-1-2 データ主導社会におけるデータの位置付け・定義

企業(B)

個人[C]

政府(G)(公的機関)

企業(B)企業内データ知のデジタル化

個人情報・パーソナルデータ(商業目的等)

個人が保有する機器等から収集するM2Mデータ等

企業が収集するM2Mデータ

公的機関が収集するM2Mデータ等

個人情報・パーソナルデータ(公共目的等)

in B

B to B

B to

B to

CB

to C

B to G

オープンデータ等

企業間連携データ

オープンデータ等

環境・空間、「知」等 匿名加工

情報漏えい対策

知財・ルール

同意 オープン化推進

G to C

データ流通の促進

データの流れ(提供先へ)

サービス等の流れ(受益者へ)

データの種別

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

これまでも様々なデータが共有・利活用されて社会発展の基礎となってきた。しかし、現在、膨大な計算処理能力を備えていない機器であっても、クラウド上で計算してデータの処理を行うことが可能となり、またAIの発展も相まって、計算環境が格段に向上しかつ低コストで利用できるような世界へ進化している。以降では、上述した4つのデータ種別がビッグデータ化されAI等を通じて処理されることで得られるネットワークとデータが創造する新たな価値について展望する。

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部54

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Page 4: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

2 データ流通・利活用の進展本項では、ビッグデータ利活用元年の到来を見据えた、データ流通・利活用の進展や現在起きている構造変化等

に着目する。

1 データ流通量の爆発的拡大ネットワークの高度化、センサー等の発達によるIoTの実現により、物理空間とデジタル空間の融合が加速して

いる。それに伴い様々な事象がデータ化され、データ流通・利活用の進展が今後期待されている。実際に、ネットワークを流通するデータトラヒックの量は飛躍的に増大している。スマートフォン・タブレットの普及や利活用拡大、LTE等の4Gの普及、HD(高精細)映像などの高品質なコンテンツの流通、医療や政府情報等を含む多様な情報のデジタル化など、あらゆる要因がデータトラヒック量の増大に寄与している。

我が国のデータトラヒックについてみてみると、ブロードバンドサービス契約者(FTTH/DSL/CATV/FWA)の総ダウンロードトラヒックは2014年以降急速に伸びており、直近では前年同月比52%増となっている。総アップロードトラヒックも直近1年で急激に伸びたことが特徴として挙げられる(図表2-1-2-1)。次に、我が国の移動体通信のトラヒックについても1年で約1.3倍というペースで堅調に拡大しており、総ダウンロードトラヒックについては前年同月比35%増となっている。これは、ブロードバンドサービスの総アップロードトラヒックの規模と直近1年の成長率ともに同水準となっている(図表2-1-2-1、図表2-1-2-2)。図表2-1-2-1 我が国のトラヒックの推移(左:ブロードバンド、右:移動体通信)

216

8,254

189

1,464

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

9 10 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 511 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11 11(月)2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(年)

(月)(年)

(Gbps)

57

1,412

6

225

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

6 9 12 3 9 3 9 3 9 3 9 3 9 3 96 12 6 12 6 12 6 12 6 12 6 122010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(Gbps)

総ダウンロードトラヒック総アップロードトラヒック

ダウンロードトラヒックアップロードトラヒック

(出典)総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算」より作成

世界のトラヒックの状況についてみると、米Ciscoによれば2015年から2020年にかけて年平均成長率22%(5年間で約2.7倍)でさらに増加していくことが予想されている。2020年には1か月あたり194エクサバイト(EB)、年間にすると2.3ゼタバイト(ZB)に達する。特に、モバイルデータは年平均成長率53%(5年間で約7.8倍)で増加し、全体の伸びを牽引していくことが予想される。

世界のトラヒックをコンシューマ及び企業等のビジネスの2つのセグメントの別でみると、コンシューマが全体の約8割とトラヒック全体の大半を占めていることがわかる。Ciscoによれば、2015年のコンシューマのトラヒックの70%はビデオトラヒックであり、2020年までに82%ま

*1 「モバイル」:携帯端末、ノートPCカード、モバイルブロードバンドゲートウェイで生成されたモバイルデータおよびインターネットトラヒック

「固定インターネット」:インターネットバックボーンを通過するすべてのIPトラヒック 「マネージドIP」:企業のIP-WANトラヒック、テレビおよびVoDのIPトランスポート

図表2-1-2-2 世界のトラヒックの推移及び予測(トラヒック種別)*1

23 31 35 40 49 60 73 89108

131

711 15 17

1922

2528

31

33

11 1 3

46

1015

22

31

3144 51 60

7389

109132

161

194

0

50

100

150

200

2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

予想

(エクサバイト/月間)

固定インターネットマネージドIPモバイルデータ

(出典)Cisco VNI Mobile

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用 第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部 55

情通29_02-01.indd 55 2017/07/14 10:05:28

Page 5: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

で拡大する(図表2-1-2-3)。

2 データの処理速度を高める技術革新の進展データ主導型社会における経済成長への貢献には4つの「V」の視点がある。すなわち、データ流通量(Volume

of Data)、データの速度(Velocity of Data)、データの種別(Variety of Data)、データの価値(Value of Data)である。前項ではデータ流通量について概観した。以降では残りのVに基づいて概観する*3。ここでは、まずデータ速度(Velocity of Data)についてみてみる。

デジタル・ネットワークの発達とスマートフォンやセンサー等IoT機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報や、小型化したセンサーから得られる膨大なデータ(ビッグデータ)を効率的に収集・共有できる環境が実現され、膨大な計算処理能力を備えていない機器であってもクラウド上で計算を行うことが可能となり、計算環境が進化している。特に、AI等によるデータ処理の高付加価値化・自律化によって爆発的に拡大するデータ流通を、AI等によってデータの分析技術が高度化されることで、データの利活用による付加価値やイノベーションの創出が加速している。

データの生成・流通・処理・消費などデータのサプライチェーンを踏まえ、この流れをより効率的に実装するための考え方として、データの集中化と分散化による流通(フロー)の仕組みも進展している。具体的には、ビッグデータ化してAIなどで処理して付加価値を創出するデータの集中化と、必要なデータを必要な領域で局所的に処理してフィードバックするいわゆるデータの分散化(エッジ・コンピューティング等)の両面から技術革新が進んでいる。「データの集中化」は、クラウド上に集約したビッグデータの機械学習・深層学習が行われ、良質な学習データを集約することで競争上優位となるデータ集約型社会の典型的な形態である。「データの分散化」は、IoT時代の膨大なデータ量を見据え、その価値の密度に応じた最適な処理を行う観点から、クラウドにおけるデータ処理のみならず、より端末に近いネットワーク階層であるエッジ側にAIも活用したデータ処理を分担することで、その課題を解決しようとする形態である(図表2-1-2-4)。例えば、AIをエッジ側に実装することで、センサー等のデバイスから得られる連続的なデータの中から価値のあるデータのみ抽出して上位層へ伝送する、あるいはエッジ側のAIで複数のセンサーから収集されたデータに基づきデバイスやアクチュエータに制御等の指示を出すことが可能となる。さらに、機械学習できるAIを用いれば、「現場」に近い場所で「知識」を吸収して判断や処理能力を高めることが可能となる。また、エッジ側に実装されたAI間でその「知識」を共有することで協調しながら学習させる研究も進んでいる。

*2 「コンシューマ」:家庭、大学、インターネットカフェで生成された固定IPトラヒック 「ビジネス」:企業および政府機関で生成された固定IP-WANまたはインターネットのトラヒック*3 MayruceE.StuckeandAllenP.Grunes,“Bigdataandcompetitionpolicy”,OxfordPress,2016

図表2-1-2-3 世界のトラヒックの推移及び予測(セグメント別)*2

予想

26 35 41 48 59 72 89109

134162

59 10 12

1416

1923

27

32

3144 51 60

7389

109132

161

194

0

50

100

150

200

2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

(エクサバイト/月間)

コンシューマビジネス

(出典)Cisco VNI Mobile第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部56

情通29_02-01.indd 56 2017/07/14 10:05:28

Page 6: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

図表2-1-2-4 データの集中化と分散化

ネットワーク

データデータ

アプリ アプリ

データ

インターネット

端末 端末

データデータ

アプリ アプリ

データ

データ データアプリ

実行基盤実行基盤実行基盤

ネットワーク

アプリ

エッジコンピューティング

数100ms

数ms

より高速に処理

分散処理

アプリ

アプリ

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

このように、エッジ側でのデータ処理を従来の上位層であるクラウドでのデータ処理と組み合わせて役割分担を図ることによって、システム全体として最適なデータ処理が可能となる。また、多様なデータ流通(フロー)が実現することで、後述するプライバシーやデータローカライゼーション等に係る課題解決も期待される。

3 データ種別の多様化本節の冒頭にデータ種別として大きく4つに分類して定義付けを行った。これらの4つのデータをさらに分解し

ていくと、実に多種多様なデータが存在しうる。特に近年は、構造化されたデータが機械的に増大して新たな科学的知見の発見やビジネスの創出に利用されている。今後は多種で大規模だが形式が整っていない非構造化データがリアルタイムに蓄積され、IoTの進展も相まって、ネットワークを通じて相互につながり、指数関数的に成長する演算能力を用いて分析されることで、社会システムを大きく変えていくことが想定される。ガートナー社によれば、現在、自動車、建物、家電、産業機器等、490億個に及ぶ様々なコネクテッドデバイスが存在し、2025年までにはあらゆる分野に跨り、250億個まで拡大すると予想されている。すなわち、データの量だけではなく、その種類、すなわちデータの質の広がりが社会経済へのインパクトにつながると考えられる。これまでデータ化されていなかった情報が、デジタル化され、「可視化」される結果、新規ビジネスの誕生、科学的知見の発見、リスク回避などが実現することが期待されている。我が国も含め、各国政府で先行的に進展している公共保有データの公開政策(オープンデータ政策)についてもこうした期待が背景にある。

トラヒックの増大やこうしたデータ種別の多様化は、データの生成・保存に係るコストの大幅な低減が背景にある。実際にデータを保存するためのストレージの大幅なコスト低減とトラヒックの爆発的な増大の関係性がみてとれる(図表2-1-2-5)。今後は、こうしたデータの保存に加え、AI等データを処理するコストの低減が、さらに多様なデータ種別の流通を生み出す要因になるであろう。図表2-1-2-5 トラヒックとストレージコストの推移

R² = 0.9798

R² = 0.919

0.01

0.10

1.00($)

1,000

10,000

100,000

月間トラヒック量(PB) ストレージコスト(単価)

月間トラヒック量

ストレージコスト(単価)

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用 第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部 57

情通29_02-01.indd 57 2017/07/14 10:05:28

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4 データ流通・利活用の価値の増大最後に、データ流通・利活用を推進するメリットや意義を確認する。この点については世界中の関心が高まって

おり、いわゆる「インターネット経済(Internet Economy)」の新たなステージとしての「デジタル経済(Digital Economy)」の観点から言及されることが多い。すなわち、デジタルのデータは非競合、複製の限界費用がゼロに近いことから、減耗・枯渇がないという特色があるため、データの蓄積とその利活用が競争力の源泉となり、経済貢献にも寄与するというものである。2016年9月に開催されたG20杭州サミットにおいても、「デジタル経済」が成長の鍵となるという理解のもと、デジタル経済を発展させるための原則として、①イノベーション、②協力、③シナジー、④柔軟性、⑤包摂性、⑥オープンなビジネス環境、⑦経済成長、信頼と安全のための情報の流通*4、⑧重要な価値の共有、について言及がなされた。

これまでも様々なデータの共有・利活用が社会発展の基礎となってきた。しかしながら、膨大なデータが集積されてそれを分析することや他者が保有している他のデータと掛け合わせて利活用されることで、さらに前述のとおり、AIなど低コストで高速な計算処理が可能な環境が整いつつあることから、産業競争力強化に資する新サービスが創出されることが期待され、データは企業の経営や研究開発の資源として従来よりも大きな価値を持つようになってきており、我が国の産業力の原点になるとの言及もなされてきたところである。またマクロ経済の供給面からはデータ流通により生産性を高め、潜在的な経済成長率の向上を図るといった見方がなされている。需要面からみると、新たな商品やサービスの創造(プロセス・プロダクト・組織・マーケティングのイノベーション等)を通じて持続的な需要創出を実現することが期待されている。図表2-1-2-6 データ流通・利活用による社会経済へのインパクトに関する研究事例

切り口 タイトル・出典 分析・評価の視点

ビッグデータの解析や活用による経済効果

Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity (McKinsey Global Institute)

産業・業界を分析対象として、ビッグデータ活用による経済効果を計測。コスト削減効果及び生産性向上効果を設定し、例えば、ヘルスケア産業では、2260億$~3330億$のヘルスケアに関する支出の減少、0.7%のアメリカのヘルスケアセクターの生産性の増加をもたらすと予測。

Data equity: Unlocking the value of big data 、SAS/CEBR(2012年4月)

英国における産業・業界を分析単位として、ビッグデータ解析技術が増加した場合の経済価値を算出。ビッグデータの解析技術によって付加価値が増加し、民間及び公共セクターにおいて2017年までに年間407億ポンドの経済効果をもたらすと予測。

オープンデータの活用 Predicts 2017: Government CIOs Are Caught Between Adversity and Opportunity,Gartner(2016年11月)

2019年までに、数百万人規模の都市の50%以上の市民が、IoTやソーシャルネットワークを通じて自らのデータ共有に応じ、データマーケットプレイスを通じて、全ての自治体の20%が、付加価値のあるオープンデータにより収入を獲得すると予測。

パーソナルデータの活用

The Value of Our Digital Identity, BCG(2012年11月)

2020年になると、マクロ経済価値は9,970億ユーロ(内訳は消費者が6,690億ユーロ、企業が3,280億ユーロ)まで増加(EU27カ国の GDPの8%に相当)。企業サイド・セクター別では、公的サービス・医療分野でもっとも大きな経済価値が発生

Evaluation of economics value incurred from using big data (JIPDEC)

パーソナル情報等のビッグデータを「資産」として捉え、企業の付加価値に及ぼす効果について、3つの手法を用いて定量的に分析。生産関数アプローチによる推計では、、企業の付加価値成長に対するビッグデータ資本の寄与度を61%と推計。

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

3 新たなデータ流通・利活用の潮流本項では、近年議論されている新たなデータ流通モデルも含めて利活用促進の潮流を体系的に整理した上で、各

モデルについて代表的な国内外事例を紹介する。

1 新たなデータ利活用・流通モデルの進展平成28年(2016年)版情報通信白書でみたように、ICT産業をビジネスエコシステム*5としてみると、イン

ターネット普及後はオープン・イノベーションの時代となり、エコシステムやそれを変化させるイノベーションの中核となる事業者が、レイヤー1「ネットワーク要素事業者」やレイヤー2「ネットワーク事業者」から、レイヤー3「プラットフォーム・コンテンツ・アプリケーション・事業者」へシフトしている点を指摘した。

IoT・AI等による第4次産業革命の到来に向けては、上記のシフトに加え、エコシステムに新たな要素が加わ

*4 G20首脳会合におけるタスクフォース付属文書では、「G20は情報、思考、知識の自由な流通がデジタル経済に不可欠であり、発展に資することを認識」と記載されている。

*5 分業と協業によって共生するビジネスのネットワークを生態系のアナロジーで分析した概念

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部58

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Page 8: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

る。具体的には、ICT利用産業の事業者とICTの各レイヤーの事業者との関係の重要性が増し、異業種連携等によるICTを活用した新たなサービスやビジネスモデルの創出が進展する。これにより、従来のICT産業では主としてICT産業の事業者と消費者との関係性で成り立っていたが、これからはICT利用産業の事業者と消費者との新たな関係性が生まれ、提供されるサービスや流通するデータは多様なステークホルダーが介在する。例えば、B to CやB to B to Cサービスを通じたパーソナルなデータの流通が想定される。さらにICT利用産業に属する様々な「モノ」(例えば、自動車産業における自動車、エレクトロニクス産業における家電等)がネットワークを経由して、消費者とICT産業の事業者に介在し、M2Mなどパーソナル以外のデータの流通が想定される。こうした変化に伴い、図表2-1-1-2で着目した「個人」と「企業」の間のデータ流通の在り方は大きく変わろうとしている。図表2-1-3-1 IoTの進展を踏まえた新しいエコシステム

インターネット普及後

レイヤ3:プラットフォーム・

コンテンツ・アプリケーション事業者

レイヤ2:ネットワーク事業者

レイヤ1:ネットワーク要素事業者

消費者

消費者

インターネット普及前

レイヤ3:プラットフォーム・

コンテンツ・アプリケーション事業者

レイヤ2:ネットワーク事業者

レイヤ1:ネットワーク要素事業者

消費者

消費者

消費者

IoT時代

消費者

消費者

ICT利用産業・事業者

レイヤ3:プラットフォーム・

コンテンツ・アプリケーション事業者

レイヤ2:ネットワーク事業者

レイヤ1:ネットワーク要素事業者

②⑤

モノ ④

ICT産業

消費者

消費者

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

データ流通を、データの「提供」、「流通」、「利用」の3段階に分けると、現在は一般にデータの提供側が直接企業等の利用側にデータを提供する、あるいはデータを集約するデータアグリゲータ等を通じて利用側へ提供されるものである。しかしながら後者の場合、データの提供側からは最終的にどのようなデータ利用者へ提供されたかを知ることができない。

そこで、近年では、新たな流通モデルが提案されつつある(図表2-1-3-2)。具体的には、「個人情報を含むパーソナルデータ」について、「パーソナルデータストア(PDS)*6」や「情報銀行*7」など、個人の関与を高め本人の

「納得感」を得ながらデータの利活用を目指す新たなアプローチが提唱されている*8。これらのモデルでは、個人からデータを取得して企業等が一箇所に集約するのではなく、データは個人の「手元」に置き、その意思により管理可能とした上でデータを必要に応じて提供するモデルである。個人の「手元」とは、例えばスマートフォンなどのローカルで管理することも含むが、個人が管理可能なクラウドに分散して保存することも想定される。この時、

「情報銀行」の考え方は、個人をサポートしてデータを本人に代わり集約・管理し、本人のニーズに沿って第三者に提供するエージェントとしての役割を担う「受託型」のパーソナルデータストアとなる。

*6 他者保有データの集約を含め、個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理するための仕組み(システム)であって、第三者への提供に係る制御機能(移管を含む)を有するもの。

*7 個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。

*8 2016年5月、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の下に、「データ流通環境整備検討会」を開催することが決定された。さらに、その内部の「AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ」では、2017年2月に中間取りまとめを公表している。その中で、「個人情報を含むデータ」については、企業や業界を超えた流通及び活用が十分に進んでいないとした上で、次のような提言を行っている。

・分野横断的なデータ流通を阻害する課題を解決するためには、個人の関与の下でデータの流通・活用を進める仕組であるPDS(パーソナルデータストア)、情報銀行、データ取引市場が有効。

・PDS、情報銀行、データ取引市場の事業を営む者等が取り組むことが望ましい事項(セキュリティ、透明性の確保、苦情・紛争処理手段等)を推奨指針として取りまとめ。

・今後、官民が連携した実証実験の結果等を見ながら、実態に合わせて、分野横断的なデータ流通・活用を促進するための法制度整備を検討していくことが必要。

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用 第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部 59

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その他、データの提供者と利用者がデータの交換や売買を行う場を提供したり、データ提供者によって公開された情報を仲介事業者が集約、加工し、統合的に利用者へ公開、提供したりする「データマーケットプレイス*9」も登場している。

こうした新たなデータ流通・利活用モデルのメリットとしては、各産業分野や企業等にバラバラに存在する同種データを統合することのみならず、時系列的にデータを収集し、異種データの横断的な組み合わせを実現することで、データの価値向上が期待できることが挙げられる。図表2-1-3-2 データ流通・利活用のモデル

メーカー 金融 小売 その他企業

企業等

企業ヒト

センサー等

データアグリゲータ等

利用

流通

提供

メーカー 金融 小売 その他企業

企業等

データベース

企業等

○ × ×第三者提供、加工情報等

直接提供・収集 PDS

消費者が自身のパーソナルデータを管理し、流通をコントロールする

公開

提供

集約・管理等

メーカー 金融 小売 その他企業

企業等

企業ヒト

センサー等

データマーケットプレイス

現状 新たな流通モデル

カタログ・ポータルサイト等

データ提供に関する取り決めを行い、仲介を行う

パーソナルデータストア(PDS) データマーケットプレイス

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

2 データ流通・促進に係る具体的事例・先行事例ここでは、データ流通・促進に係る具体的な事例についてみてみる。前述の現状のデータ流通・利活用のモデル

について、データ種別や分野別をみてみると、それぞれデータを収集・分析・処理等を通じて、付加価値をつけてサービスを提供する、または他の企業が同様のサービスを提供できる環境を構築しているといえる(図表2-1-3-3)。図表2-1-3-3 主なデータ利活用事例

データ種別・分野 事例 事例概要

位置情報 NTTドコモ「モバイル空間統計」NTTドコモが提供する「モバイル空間統計」は、NTTドコモの携帯電話を保有する個人の位置情報等を、個人が特定できないように非識別化処理等を行い、人口統計データとして事業者や地方自治体等に提供。

自動車の走行等の情報トヨタ自動車 テレマティクスサービス

テレマティクスサービスを通じて収集・蓄積した車両の位置や速度、走行状況などの情報を含むビッグデータを基に加工した交通情報や統計データなどを、交通流改善や地図情報の提供、防災対策などに活用できる情報提供サービス。

ソニー損保 テレマティクス保険 顧客の急発進・急ブレーキの発生状況に関するデータを取得し、分析することで、安全な運転かを判別し、保険料のキャッシュバックを2014年から実施。

人体情報 ドコモ・ヘルスケア「ムーヴバンド3」、オムロン・ヘルスケア「Wellness LINK」

ウェアラブル端末等を利用したヘルスケアサービスは、ウェアラブル端末をつけている個人から活動量(移動距離、睡眠時間等)や身長・体重などのデータを収集することで、見える化サービスや当該データを分析、又は医療機関等への提供を通じて、生活習慣改善サービス等を提供。

金融関連情報 日立製作所「金融API連携サービス」 個人資産管理サービスなどにおいて、ネットバンキングの契約者IDにひもづく各種預金などの複数の口座情報の参照・管理を可能化。

(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

次に、近年注目を浴びている新たなデータ流通モデルとして「パーソナルデータストア型」及び「データマーケットプレイス型」について事例から動向を説明する。

*9 データマーケットプレイス(データ取引市場)とは、データ保有者と当該データの活用を希望する者を仲介し、売買等による取引を可能とする仕組み(市場)。

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部60

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Page 10: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

ア パーソナルデータストア型本モデルを踏まえたサービス提供は、我が国では構想又は実証段階であるが、欧米では実用化も進みつつある。

例えば、米国の「Datacoup」やイギリスの「Datarepublic」などが挙げられる。「Datacoup」では、消費者がDatacoupのサイト上で提供してもよいデータ(SNSデータ、クレジットカード

履歴等)を選択し、当該データの保有企業とアカウント連携することができる。Datacoup側は、これらデータを他者のデータと混ぜて匿名化してマーケターに販売し、消費者が報酬を受け取る仕組みとなっている。「Datarepublic」では、消費者が売買したい自身のデータ(クレジットカード履歴、購買履歴、バイタルデー

タ、位置情報、アンケート、服薬状況等)を指定し、当該データについて匿名化の有無、利用期間等も指定でき、報酬を含めて条件が折り合った場合にのみデータが提供される仕組みを提供している。

イ データマーケットプレイス型本モデルも欧米諸国で先行的にサービス化が進んでいる。例えば米国の「Factual」は、主に位置情報のデータ

セットを提供するマーケットプレイスである。飲食店一覧や、飲食店チェーンの店舗一覧など、世界各国の6,000万の地域情報や65万の製品情報等のデータを提供し、地図アプリ、チェックイン系アプリのベンダーなどが活用しているとされる。

日本では、エブリセンスジャパンがIoT機器等を通じて取得したデータをデータ利用者に対して販売することができる「IoTデータ流通マーケットプレイス」を2016年10月に商用化した。IoTデータ流通マーケットプレイスは、提供されているデータとそのデータを利用して事業開発や新サービス等を提供したい企業・研究機関が求める希望情報をマッチングし、データの売買を仲介するプラットフォームである(図表2-1-3-4)。当該サービスは、プラットフォームを運営するエブリセンスジャパン自体はデータを保有せず、データ売買の仲介のみを行う特徴を有している。また、サービス提供にあたって、提供されるデータの利用範囲や利用条件、精度、頻度などは、データ提供者が自由に設定し、コントロールすることを可能としている。図表2-1-3-4 IoTデータ流通マーケットプレイス概要

EverySenseServer

報酬(ポイント)

メタ化されたデータ

ヘルスケアデータ

車から得られるデータ

位置情報

企業が持つ独自データ

あらゆるデバイスがつながる

欲しいデータがいつでも集められる

需要と供給でデータの価格が

決まる

(出典)高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 データ流通環境整備検討会 AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ

4 IoT推進コンソ―シアム(ITAC)の取組前述まででみてきたように、データ流通・利活用の促進に向けては、データを企業・個人・政府とその提供者・

利用者・受益者となる個人・企業・政府等の間で、円滑かつ適正に循環させていくことが重要になる。そのため、我が国ではデータ流通・利活用の促進に係る環境整備等に向け官民での対応を加速させている。

2015年10月、「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」に基づき、IoT/ビッグデータ/人工知能時代に対応し、企業・業種の枠を超えて産学官で利活用を促進するため、民主導の組織として「IoT推進コンソーシアム(IoT Acceleration Consortium、以下ITAC)」が設立された。ITACでは、IoT等に関する技術の開発・実証や新たなビジネスモデルの創出等の取組を通じて、内外のIoT関連の投資を呼び込み、我が国の関連産業がグローバル経済の中で存在感を発揮することを目指している。また、技術開発、利活用、政策課題の解決に向けた提言等を実施しており、その一環として、分野・産業の壁を超えたデータ流通取引の活性化を目的とした

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用 第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部 61

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Page 11: 2 ビッグデータ利活用元年の...1 ビッグデータの定義及び範囲 デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、またスマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低

データ流通促進WGを設置し、業界を横断したデータ利活用を後押ししている。第4次産業革命の到来に向け、多くの企業が積極的にITACに参加しており、3,097社(2017年6月13日現在)

にも及ぶ会員数を有している。IoTデータ流通・利活用に対する関心・意識が高く、また課題解決に向けた取組も進めていることから、次節では、我が国の一般企業に加えて、ITAC会員を対象とした同様の調査を実施し、比較分析を行うことで我が国企業が抱える課題等について深掘りする。図表2-1-4-1 IoT推進コンソーシアム(ITAC)組織概要

IoTセキュリティWG

IoT機器のネット接続に関するガイドラインの検討等

先進的モデル事業推進WG(IoT推進ラボ)

ネットワーク等のIoT関連技術の開発・実証、標準化等

技術開発WG(スマートIoT推進フォーラム)

先進的なモデル事業の創出、規制改革等の環境整備

総 会

運営委員会(15名)

 会長 副会長

総務省、経済産業省 等

協力 協力

村井 純 慶應義塾大学 環境情報学部長 教授鵜浦 博夫 日本電信電話株式会社 代表取締役社長中西 宏明 株式会社日立製作所 取締役会長 代表執行役

会長

副会長

データ流通促進WG

データ流通のニーズの高い分野の課題検討等

(出典)IoT推進コンソーシアム図表2-1-4-2 IoT推進コンソーシアム(ITAC)の会員企業概要

52

0.2

23

5

7

103

情報通信 農林水産業・鉱業 製造業エネルギー・インフラ 商業・流通 サービス業その他

36

911

5

9

14

511

50人未満 50人~ 100人未満100人~ 300人未満 300人~ 500人未満500人~ 1,000人未満 1,000人~ 5,000人未満5,000人~ 1万人未満 1万人以上

n=892 n=888

業種 従業員数

(%) (%)

※業種、従業員数は任意回答のため、会員総数とは一致しない。(出典)IoT推進コンソーシアム

第2章ビッグデータ利活用元年の到来

広がるデータ流通・利活用第 1節

平成29年版 情報通信白書 第1部62

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