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WWDジャパン 20 vol.1872 2015年(平成27年)7月27日(月曜日)発行 昭和54年4月24日第三種郵便物認可 週1回月曜日発行 WWDジャパン 2015年(平成27年)7月27日(月曜日)発行 vol.1872 昭和54年4月24日第三種郵便物認可 週1回月曜日発行 21 らはもともと雑誌のコンテンツに触れた読 者の「これ欲しい!」という気持ちと、購入の アクションを、シームレスにつなぎたくてEC 事業をスタートした。出版社はBtoCに 見えて、最終消費者との接点はほとんどな かった。例えば集英社の本に、まったく触 れず一生を終える人はかなり少ないと思う が、実は会社に、消費者の個人のデータは ほとんど残っていない。その意味でダイレ クトに消費者とつながるECにはものすご い面白さと可能性を感じている。ただ、在 庫連携によって、MD面での差別化が難し くなると感じている。どのモールもいろい ろなブランドと取引できるようになり、これ までモールの大きな特徴だった取り扱いブ ランドや商品が画一的になってしまう。 今井:在庫連携によるブランド側の一番の メリットは、 EC全体の在庫数をまとめるこ とで、自社ECサイトでも販売可能な在庫数 を多く持てる ようになったこと。そして、ど のモールでどれだけ商品が売れたかも把 握できるようになった。当社はブランド側 に管理画面を提供しており、モール別の販 売SKUや販売個数が見えるようになって おり、次の戦略を考える土台のデー タを得ることができる。 屬:ただ、大きな意味での在庫運 用を考えるとEC用(の在庫)と実 店舗(の在庫)を分ける今の考え方 を改める必要がある。その意味で は、まだまだ在庫を効率的に活用 し切れていないというのが実情だ。 在庫一元化はECだけでなく、実店 舗も含めた流通の仕組み全体で考 えるべきフェーズ に来ている。 石塚:ECの成功の可否は結局、 在庫をどれだけ有効活用できるか に尽きる。システム的にできるの がもちろんベストだけど、実際は人 的なオペレーションでなんとかな 略とは? 屬: ポイントは3つだ。一つは顧客一人一 人のニーズに寄り添っていくためのウェブ サービスの開発やパーソナライズ化。2つ 目はリアル店舗も含めたタッチポイントを 増やしていくこと。僕らはいま高島屋の店 舗で、あるブランドと組んで、タブレットでセ レクトスクエアのページを見せながら接客 をするサービスを始めている。試験的な運 用だが、より多くの商品を見せられるため、 結果的に試着などのため店頭にお客さま が戻ってきたと好評だ。3つ目はビッグデー タの活用だ。現在は親会社の高島屋とEC 上のログインID連携は実現しているが、顧 客情報・購買情報などの一元化は途上であ る。将来的には購買データなどさまざまな データを統合したビッグデータ を活用し、 モールが独自にコンシェルジュを立て、店頭 でもECでも接客することもあるかもしれ ない。そんな遠い未来の話ではなく、5年 以内にベースは整っていくだろう。 井町: 後はお客さまの多岐にわたるニーズ に応える解決策を持つことだろう。例えば 楽天だと、 楽天ID決済というサービスを提 供することで、決済情報の入力の手間を省 き、お客さまの利便性を高めるサービスを 提供している。これはモール、ブランド自 社サイトを問わずお客さまのニーズに応え られるサービスだと考えている。 石塚: 当社は現在62万人いる会員に向け、 オリジナルのカタログを作って配布してい る。4万〜 5万部を年2回発行してきたが、 次回からは10万部発行する予定だ。ダイ レクトにつながっている顧客に発信できる ため、カタログ自体がメディア化していける とも考えていて、今まで書店で流通してい た雑誌とは違うファッションコンテンツの 流通のさせ方として可能性を感じる。ま た、ほかの出版社とも協業し、メディアから 発信するECモールを盛り上げていきたい。 現在複数の出版社にラブコール中です!! 固定ファン以外にもアプローチできるトラ フィックの多さは大きな魅力だ。 屬健 太 郎セレクトスクエア社長(以下、 屬): セレクトスクエアのスタートは、2001 年。ファッションECとしてはかなり早い 時期にスタートした。ファッションECを長 く見てきた立場から、これまでの流れを簡 単に整理すると、ファッションECが立ち上 がったばかりの2000年代前半までは受注 から出荷までに1週間かかっていた。そこ でサービスの質を上げようと、ブランドの在 庫をモールの倉庫に入れ、モールが出荷作 業までを手掛け、翌日配送につなげるとい う流れが出てきた。また同時に、いわゆる ささげ(撮影・採寸・原 稿) などの、より売れる ためのノウハウや仕組 みも内製化した。た だ、そうなると今度は 各モールに在庫や商 品情報が分散し、売 れ残りや売り逃しとい う課題に直面すること になった。 今井: そこで4年前に 当社が提唱したのが、 データ上で在庫を一 元化 して、できるだけ効率的に在庫を運用 しようという考え方だった。モール側にとっ ても売り逃しをできるだけ抑えられるとい うメリットがあった。 井町知永・楽天スタイライフ事業営業部 ストアプランニンググループ マネージャー (以下、井町):持ち上げるわけではない が(笑)、DHさんの啓蒙活動のおかげで ファッション業界では在庫連携の考えが 浸透していると思う。在庫データを一元化 することで、 これまでだったら“売り切れ”で 販売できなかった商品が、データ上の在庫 で販売できる ようになった。 機会損失が軽 減し、コンバージョンがアップ している実感 トラフィックと、さらには優良な顧客を持つ ECモールの存在が浮かび上がってきた独自のコンテンツを作って発信するにして も、本当はECモールと密に連携活用すべ きだなあというのが、僕の率直な印象だ。 井町: 最終的には、お客さまに使い分けて もらえばいいこと。お客さまの立場か らすると、僕らモールの強みは比較購 買が可能なこと。幅広い品ぞろえの 中から好みのブランド、商品を見ても らった上でご購入いただいたり、いか にお客さまに満足してもらうかが大事 だと思っている。僕らは「スタイライ フ」 「Rakuten BRAND AVENUE」 「au Brand Garden」を通じて幅広い お客さまに商品を届けているが、それ ぞれのサイトにポイントプログラムをは じめとした独自のサービスもお客さま に提供している。また、デザイナーズ、 コレクションブランドに特化したサイト 「ニュアン(NUAN)」をリニューアルし たが、ここではコレクションのランウエ イ動画やルックブックな ど、ブランドの持つクオ リティーの高いコンテン ツも発信している。 屬: 商品の見せ方一つ をとっても、モールは白 いアイテムが売れるとし てもあえてモデル撮り にはデザイン性の高い ものを着せるなど、地道 に蓄積してきたノウハウ がある。一方、受注した商品をモールの倉 庫から出荷するこれまでのフローと比べ、 ブランド倉庫からモール倉庫に取り寄せて からお客さまに出荷するというフローにな り、配送にタイムラグが出る点は今後、改善 が必要だ。 石塚雅延・集英社ブランド事業部ダイレク トマーケティング室主任(以下、石塚): がある。先行予約会機能を使って、商品の 売れ行きをテストするのもいい。モールの 持つ機能を一緒になって活用して販売して いってもらいたい。 石塚: 僕らからすると、 今後はコンテンツの 拡充がキーになる と思う。僕らは雑誌と連 動したコンテンツを武器に、売る力をもっと 磨きたい。一方で個々の商品に関するビ ジュアルや動画の制作など、ささげ系のク オリティーに関しては、実はブランドが一番 お金を掛けられる。今後はお互いの役割 と強みを明確にしながら、モールは独自の 武器や個性をより磨くという風になってい くだろう。 WWD: モールとして次の成長に向けた戦 WWDジャパン(以下、WWD): ファッショ ンブランドが自社ECの取り組みを強化して いるが、あらためてECモールの強みとは? 今井貴志ダイアモンドヘッド(DH)取締役 (以下、今井): 当社は、ファッションブラン ドのEC全般をサポートするフルフィルメン トという立場で、ブランドとECモールの関 係では、ちょうど中間的な立場。自社 EC のサービス向上の取り組みと併せて、EC モール内での販売においてもブランド側の 求めるクオリティーの高いサービスを、効 率良く提供できる仕組みの開発を行ってき た。われわれから見ても、ECモールの集 客力と情報の発信力、それからブランドの る部分も多い。そう いった手間を惜しまな いブランドは売れ行き がかなりいい。 今井: 実店舗も含めた シームレス化=オムニ チャネル化は、高額な 基幹ソフトの導入や改 修をせずとも、ある程 度まではSCSシステムの導入で対応で きる。当社は現在、取り組みやすい方 法として倉庫にある 実店舗用のフリー 在庫(ストック)を夜間だけECに振り 分ける仕組み を推奨している。これは バイヤーが在庫を移動せず、かつEC の売り上げが高い夜間(22時〜2時)の 時間帯に、自社 ECや各モールにバー チャル在庫としてフリーの在庫を配分 するやり方だ。お客さまが買いたいと きに在庫切れにならずに販売できる環 境を作ることで、効率良く販売でき、結 果的に顧客満足度も上がっていると確 信している。 井町: 在庫情報の一元化は同時に、商 品マスタや商品情報、商品、モデル画像 といったささげデータの連携にもなる。ブ ランド側には、ブランドイメージや世界観 を統一できるというメリットがあるが、商品 撮影の手法や見せ方、スタイリング、キャプ ションなど、モール側も売るための細かいノ ウハウを集積している。データ連携による 標準化、効率化によって、モール側はそれら のノウハウを活用しつつ、さらにはMDや マーケティングにより注力できる環境も作 れる。 石塚: 僕も標準化に賛成だ。リソースが限 られている中で、なるべく余分な手間を省 きたいというのが正直なところ。売り方、見 せ方という意味では、当社は雑誌コンテン ツを活用できるということも大きいと思う。 今井: 少なくとも 画像や採寸などの商品マ スタを標準化するメリットは大きい。特に 商品マスタ入力は手間がかかり、それだけ で売り上げ規模が小さいECモールからは 退店したいという残念な話もあるほどだ。 今後もできる部分は共通化・標準化を促進 していきたい。 WWD:結局のところ、ブランドにとって モールに出店するメリットは何か? 今井: この数年、ブランドは一生懸命自社 ECサイトを作って、運用してきた。そこで気 付いたのが、 集客がどれだけ難しいか という こと。ECサイトを訪れた100人に1人が買 うとして、相当の売上高を立たせようとした ら、何十万人も連れてこないといけない。独 自コンテンツを作っても、それを見てもらっ たり、振り向かせるのにはかなりの労力とノ ウハウが必要だ。そこであらためて、 膨大な PROFILE:さっか・けんたろう 2001年に総合商社である丸紅 の社内ベンチャーとしてスタート。12年に高島屋の子会社に。 30代から40代を主要ターゲットに、セレクト系ブランドから百 貨店ブランドまで幅広く扱う EC成長のカギは、自社ECとモールとの連携! 自社 ECを強化するファッションブランドが増えている。一方でファッション系 ECモールも、最大手モールや携帯キャリアとつながったり、出版社が運営するモールが出て きたりとさまざまな施策を打ち出し、進化を続けている。そうした中で、これまで立場が違うと見られてきた自社 ECとECモールが、実は互いの成長を加速するという新しい 状況が生まれている。その背景を探るべく、それぞれ独自の強みを持つモール3社と自社 EC の運営をサポートするダイアモンドヘッドを交え、緊急座談会を開催した。 在庫一元化はECだけ でなく、実店舗も含めた 流通の仕組み全体で考 えるべきフェーズに 屬健太郎/セレクトスクエア社長 石塚雅延/集英社ブランド事業部ダイレクト マーケティング部主任 モールとの密な連携が 今後の自社ECの成長には不可欠 今井貴志/ダイアモンドヘッド取締役 PROFILE:ダイアモンドヘッドは2006年設立。ファッショ ンEC に特化し、ECサイトの企画・制作・システム開発&提供・商 品撮影・運営を請け負う、フルフィルメントの日本最大手 PROFILE:集英社の ECサイト「フラッグショップ」は2007年 にスタート。 「モア」 「シュプール」などの 雑 誌と連 動した EC の 15年5月期の売上高は45億円。会員数62万人 PROFILE:2000年5月スタイライフ設立。ファッション ECサイト「スタイライフ」をスタート。15年4月楽 天に事 業 譲 渡。現在は「スタイライフ」 「Rakuten BRAND AVENUE」 「au BRAND GARDEN」の運営、協業を行い、500以上のショップ を展開している さっか 健太郎 セレクトスクエア社長 石塚雅延 集英社ブランド事業部ダイレクト マーケティング室主任 今井貴志 ダイアモンドヘッド取締役 井町知永 楽天スタイライフ事業営業部ストア プランニンググループ マネージャー 「セレクトスクエア」のサイト 集英社の「フラッグショップ」 「スタイライフ」サイト 商品データと在庫を、バーチャルに一元管理する ことで、在庫データを効率的に運用できる。ある 一定の時間で情報を同期するバッチ連携と、タイ ムリーに同期するリアルタイム連携の2種類があ る。 商品マスタ 3 商品 ID・商品名・商品カテゴリ・販売価格など、 商品を管理するための基本情報。各ECモールと の連携やデータ分析のためには、必要不可欠な 情報である。 “ささげ”は「撮 影」 「採寸」 「原稿」の頭文字を 取ったもの。ECに不可欠なこれらの商品マスタ や画像を、自社 ECサイトや各 ECモールがそれぞ れ制作するのではなく、共通のデータを使うとい う動き。 在庫データの一元化 2 自社ECや各ECモールなどに散らばっていた ささげの標準化 1 SCS(ストックコントロールシステム) 4 在庫データの共有化システムの略。販売可能 な在庫を、需要のある自社 ECと各 ECモールに効 率的に振り分けることができるシステム。 ビッグデータ 5 オンラインショッピングサイトやブログサイトに 蓄積される購入履歴やエントリー履歴のほか、 ソーシャルメディア・GPS・ICカードで検知される 情報、会員カードデータなど、さまざまな分野にわ たる膨大なデータ。今後は各データの連携させ、 個人個人の最適な商品を勧めたり、タイムリーな 広告を表示するなどの付加価値の創出が期待さ れている。 ID 決済 6 会員登録したサイト内で、クレジットカード情報 を登録すると、次回利用以降 IDとパスワードの入 力でオンライン決済ができるサービス。利用ごと に支払い方法を入力する手間が省け、スムーズな ネットショッピングを実現する。 キーワード解説 自社ECとモールはそれ ぞれの強みを補完する。 最終目的はお客さまに満 足してもらうこと 井町知永/楽天スタイライフ事業営業部ストアプランニング グループ マネージャー 他の出版社とも協業し メディア発のECモール を盛り上げたい ダイアモンドヘッド 社名:ダイアモンドヘッド/設立:2006年6月/本社所在地:東京都港区三田2-7-13 TDS三田ビル6&7階/支社:北海道札幌市中央区南1条西2-5 南一 条Kビル9階/業務内容:ファッション&ブランドのサイト構築・商品&広告撮影・システム開発&提供など/URL:http://diamondhead.jp/ ダイアモンドヘッド PRESENTS 緊急座談会 PART 1 問い合わせ先:ダイアモンドヘッド 03 - 5876 - 4160 [email protected]/企画・制作:WWDジャパン

20 WWD EC成長のカギは、自社ECとモールとの連 …WWD:モールとして次の成長に向けた戦 WWDジャパン(以下、WWD):ファッショ ンブランドが自社ECの取り組みを強化して

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WWDジャパン20 vol.1872 2015年(平成27年)7月27日(月曜日)発行 昭和54年4月24日第三種郵便物認可 週1回月曜日発行 WWDジャパン 2015年(平成27年)7月27日(月曜日)発行 vol.1872昭和54年4月24日第三種郵便物認可 週1回月曜日発行 21

らはもともと雑誌のコンテンツに触れた読者の「これ欲しい!」という気持ちと、購入のアクションを、シームレスにつなぎたくてEC事業をスタートした。出版社はBtoCに見えて、最終消費者との接点はほとんどなかった。例えば集英社の本に、まったく触れず一生を終える人はかなり少ないと思うが、実は会社に、消費者の個人のデータはほとんど残っていない。その意味でダイレクトに消費者とつながるECにはものすごい面白さと可能性を感じている。ただ、在庫連携によって、MD面での差別化が難しくなると感じている。どのモールもいろいろなブランドと取引できるようになり、これまでモールの大きな特徴だった取り扱いブランドや商品が画一的になってしまう。今井:在庫連携によるブランド側の一番のメリットは、EC全体の在庫数をまとめることで、自社ECサイトでも販売可能な在庫数を多く持てるようになったこと。そして、どのモールでどれだけ商品が売れたかも把握できるようになった。当社はブランド側に管理画面を提供しており、モール別の販売SKUや販売個数が見えるようになって

おり、次の戦略を考える土台のデータを得ることができる。屬:ただ、大きな意味での在庫運用を考えるとEC用(の在庫)と実店舗(の在庫)を分ける今の考え方を改める必要がある。その意味では、まだまだ在庫を効率的に活用し切れていないというのが実情だ。在庫一元化はECだけでなく、実店舗も含めた流通の仕組み全体で考えるべきフェーズに来ている。石塚:ECの成功の可否は結局、在庫をどれだけ有効活用できるかに尽きる。システム的にできるのがもちろんベストだけど、実際は人的なオペレーションでなんとかな

略とは? 屬:ポイントは3つだ。一つは顧客一人一人のニーズに寄り添っていくためのウェブサービスの開発やパーソナライズ化。2つ目はリアル店舗も含めたタッチポイントを増やしていくこと。僕らはいま高島屋の店舗で、あるブランドと組んで、タブレットでセレクトスクエアのページを見せながら接客をするサービスを始めている。試験的な運用だが、より多くの商品を見せられるため、結果的に試着などのため店頭にお客さまが戻ってきたと好評だ。3つ目はビッグデータの活用だ。現在は親会社の高島屋とEC上のログインID連携は実現しているが、顧客情報・購買情報などの一元化は途上である。将来的には購買データなどさまざまなデータを統合したビッグデータを活用し、モールが独自にコンシェルジュを立て、店頭でもECでも接客することもあるかもしれない。そんな遠い未来の話ではなく、5年以内にベースは整っていくだろう。井町:後はお客さまの多岐にわたるニーズに応える解決策を持つことだろう。例えば楽天だと、楽天ID決済というサービスを提供することで、決済情報の入力の手間を省き、お客さまの利便性を高めるサービスを提供している。これはモール、ブランド自社サイトを問わずお客さまのニーズに応えられるサービスだと考えている。石塚:当社は現在62万人いる会員に向け、オリジナルのカタログを作って配布している。4万〜5万部を年2回発行してきたが、次回からは10万部発行する予定だ。ダイレクトにつながっている顧客に発信できるため、カタログ自体がメディア化していけるとも考えていて、今まで書店で流通していた雑誌とは違うファッションコンテンツの流通のさせ方として可能性を感じる。また、ほかの出版社とも協業し、メディアから発信するECモールを盛り上げていきたい。現在複数の出版社にラブコール中です!!

固定ファン以外にもアプローチできるトラフィックの多さは大きな魅力だ。屬健太郎セレクトスクエア社長(以下、屬):セレクトスクエアのスタートは、2001年。ファッションECとしてはかなり早い時期にスタートした。ファッションECを長く見てきた立場から、これまでの流れを簡単に整理すると、ファッションECが立ち上がったばかりの2000年代前半までは受注から出荷までに1週間かかっていた。そこでサービスの質を上げようと、ブランドの在庫をモールの倉庫に入れ、モールが出荷作業までを手掛け、翌日配送につなげるという流れが出てきた。また同時に、いわゆる

ささげ(撮影・採寸・原稿)などの、より売れるためのノウハウや仕組みも内製化した。ただ、そうなると今度は各モールに在庫や商品情報が分散し、売れ残りや売り逃しという課題に直面することになった。今井:そこで4年前に

当社が提唱したのが、データ上で在庫を一元化して、できるだけ効率的に在庫を運用しようという考え方だった。モール側にとっても売り逃しをできるだけ抑えられるというメリットがあった。井町知永・楽天スタイライフ事業営業部ストアプランニンググループ マネージャー

(以下、井町):持ち上げるわけではないが(笑)、DHさんの啓蒙活動のおかげでファッション業界では在庫連携の考えが浸透していると思う。在庫データを一元化することで、これまでだったら“売り切れ”で販売できなかった商品が、データ上の在庫で販売できるようになった。機会損失が軽減し、コンバージョンがアップしている実感

トラフィックと、さらには優良な顧客を持つECモールの存在が浮かび上がってきた。独自のコンテンツを作って発信するにしても、本当はECモールと密に連携活用すべきだなあというのが、僕の率直な印象だ。井町:最終的には、お客さまに使い分けてもらえばいいこと。お客さまの立場からすると、僕らモールの強みは比較購買が可能なこと。幅広い品ぞろえの中から好みのブランド、商品を見てもらった上でご購入いただいたり、いかにお客さまに満足してもらうかが大事だと思っている。僕らは「スタイライフ」「Rakuten BRAND AVENUE」

「au Brand Garden」を通じて幅広いお客さまに商品を届けているが、それぞれのサイトにポイントプログラムをはじめとした独自のサービスもお客さまに提供している。また、デザイナーズ、コレクションブランドに特化したサイト

「ニュアン(NUAN)」をリニューアルしたが、ここではコレクションのランウエイ動画やルックブックなど、ブランドの持つクオリティーの高いコンテンツも発信している。屬:商品の見せ方一つをとっても、モールは白いアイテムが売れるとしてもあえてモデル撮りにはデザイン性の高いものを着せるなど、地道に蓄積してきたノウハウ

がある。一方、受注した商品をモールの倉庫から出荷するこれまでのフローと比べ、ブランド倉庫からモール倉庫に取り寄せてからお客さまに出荷するというフローになり、配送にタイムラグが出る点は今後、改善が必要だ。石塚雅延・集英社ブランド事業部ダイレクトマーケティング室主任(以下、石塚):僕

がある。先行予約会機能を使って、商品の売れ行きをテストするのもいい。モールの持つ機能を一緒になって活用して販売していってもらいたい。石塚:僕らからすると、今後はコンテンツの拡充がキーになると思う。僕らは雑誌と連動したコンテンツを武器に、売る力をもっと磨きたい。一方で個々の商品に関するビジュアルや動画の制作など、ささげ系のクオリティーに関しては、実はブランドが一番お金を掛けられる。今後はお互いの役割と強みを明確にしながら、モールは独自の武器や個性をより磨くという風になっていくだろう。WWD:モールとして次の成長に向けた戦

WWDジャパン(以下、WWD):ファッションブランドが自社ECの取り組みを強化しているが、あらためてECモールの強みとは?今井貴志ダイアモンドヘッド(DH)取締役

(以下、今井):当社は、ファッションブランドのEC全般をサポートするフルフィルメントという立場で、ブランドとECモールの関係では、ちょうど中間的な立場。自社ECのサービス向上の取り組みと併せて、ECモール内での販売においてもブランド側の求めるクオリティーの高いサービスを、効率良く提供できる仕組みの開発を行ってきた。われわれから見ても、ECモールの集客力と情報の発信力、それからブランドの

る部分も多い。そういった手間を惜しまないブランドは売れ行きがかなりいい。今井:実店舗も含めたシームレス化=オムニチャネル化は、高額な基幹ソフトの導入や改修をせずとも、ある程度まではSCSシステムの導入で対応できる。当社は現在、取り組みやすい方法として倉庫にある実店舗用のフリー在庫(ストック)を夜間だけECに振り分ける仕組みを推奨している。これはバイヤーが在庫を移動せず、かつECの売り上げが高い夜間(22時〜2時)の時間帯に、自社ECや各モールにバーチャル在庫としてフリーの在庫を配分するやり方だ。お客さまが買いたいときに在庫切れにならずに販売できる環境を作ることで、効率良く販売でき、結果的に顧客満足度も上がっていると確信している。井町:在庫情報の一元化は同時に、商品マスタや商品情報、商品、モデル画像といったささげデータの連携にもなる。ブランド側には、ブランドイメージや世界観を統一できるというメリットがあるが、商品撮影の手法や見せ方、スタイリング、キャプションなど、モール側も売るための細かいノウハウを集積している。データ連携による標準化、効率化によって、モール側はそれらのノウハウを活用しつつ、さらにはMDやマーケティングにより注力できる環境も作れる。石塚:僕も標準化に賛成だ。リソースが限られている中で、なるべく余分な手間を省きたいというのが正直なところ。売り方、見せ方という意味では、当社は雑誌コンテンツを活用できるということも大きいと思う。今井:少なくとも画像や採寸などの商品マスタを標準化するメリットは大きい。特に商品マスタ入力は手間がかかり、それだけで売り上げ規模が小さいECモールからは退店したいという残念な話もあるほどだ。今後もできる部分は共通化・標準化を促進していきたい。WWD:結局のところ、ブランドにとってモールに出店するメリットは何か?今井:この数年、ブランドは一生懸命自社ECサイトを作って、運用してきた。そこで気付いたのが、集客がどれだけ難しいかということ。ECサイトを訪れた100人に1人が買うとして、相当の売上高を立たせようとしたら、何十万人も連れてこないといけない。独自コンテンツを作っても、それを見てもらったり、振り向かせるのにはかなりの労力とノウハウが必要だ。そこであらためて、膨大な

PROFILE:さっか・けんたろう 2001年に総合商社である丸紅の社内ベンチャーとしてスタート。12年に高島屋の子会社に。30代から40代を主要ターゲットに、セレクト系ブランドから百貨店ブランドまで幅広く扱う

EC成長のカギは、自社ECとモールとの連携! 自社ECを強化するファッションブランドが増えている。一方でファッション系ECモールも、最大手モールや携帯キャリアとつながったり、出版社が運営するモールが出てきたりとさまざまな施策を打ち出し、進化を続けている。そうした中で、これまで立場が違うと見られてきた自社ECとECモールが、実は互いの成長を加速するという新しい状況が生まれている。その背景を探るべく、それぞれ独自の強みを持つモール3社と自社ECの運営をサポートするダイアモンドヘッドを交え、緊急座談会を開催した。

在庫一元化はECだけでなく、実店舗も含めた流通の仕組み全体で考えるべきフェーズに屬健太郎/セレクトスクエア社長

石塚雅延/集英社ブランド事業部ダイレクトマーケティング部主任

モールとの密な連携が今後の自社ECの成長には不可欠今井貴志/ダイアモンドヘッド取締役

PROFILE:ダイアモンドヘッドは2006年設立。ファッションECに特化し、ECサイトの企画・制作・システム開発&提供・商品撮影・運営を請け負う、フルフィルメントの日本最大手

PROFILE:集英社のECサイト「フラッグショップ」は2007年にスタート。「モア」「シュプール」などの雑誌と連動したECの15年5月期の売上高は45億円。会員数62万人

PROFILE:2000年5月スタイライフ設 立。ファッションECサイト「スタイライフ」をスタート。15年4月楽天に事業譲渡。現在は「スタイライフ」「Rakuten BRAND AVENUE」「au BRAND GARDEN」の運営、協業を行い、500以上のショップを展開している

座談会出席者

屬さっか

健太郎セレクトスクエア社長

石塚雅延集英社ブランド事業部ダイレクトマーケティング室主任

今井貴志ダイアモンドヘッド取締役

井町知永楽天スタイライフ事業営業部ストアプランニンググループ マネージャー

「セレクトスクエア」のサイト

集英社の「フラッグショップ」

「スタイライフ」サイト

商品データと在庫を、バーチャルに一元管理することで、在庫データを効率的に運用できる。ある一定の時間で情報を同期するバッチ連携と、タイムリーに同期するリアルタイム連携の2種類がある。

商品マスタ3

 商品ID・商品名・商品カテゴリ・販売価格など、商品を管理するための基本情報。各ECモールとの連携やデータ分析のためには、必要不可欠な情報である。

 “ささげ”は「撮影」「採寸」「原稿」の頭文字を取ったもの。ECに不可欠なこれらの商品マスタや画像を、自社ECサイトや各ECモールがそれぞれ制作するのではなく、共通のデータを使うという動き。

在庫データの一元化2

 自社ECや各ECモールなどに散らばっていた

ささげの標準化1 SCS(ストックコントロールシステム)4

 在庫データの共有化システムの略。販売可能な在庫を、需要のある自社ECと各ECモールに効率的に振り分けることができるシステム。

ビッグデータ5

 オンラインショッピングサイトやブログサイトに蓄積される購入履歴やエントリー履歴のほか、ソーシャルメディア・GPS・ICカードで検知される情報、会員カードデータなど、さまざまな分野にわ

たる膨大なデータ。今後は各データの連携させ、個人個人の最適な商品を勧めたり、タイムリーな広告を表示するなどの付加価値の創出が期待されている。

ID決済6

 会員登録したサイト内で、クレジットカード情報を登録すると、次回利用以降IDとパスワードの入力でオンライン決済ができるサービス。利用ごとに支払い方法を入力する手間が省け、スムーズなネットショッピングを実現する。

キーワード解説

自社ECとモールはそれぞれの強みを補完する。最終目的はお客さまに満足してもらうこと井町知永/楽天スタイライフ事業営業部ストアプランニンググループ マネージャー

他の出版社とも協業しメディア発のECモールを盛り上げたい

ダイアモンドヘッド 社名:ダイアモンドヘッド/設立:2006年6月/本社所在地:東京都港区三田2-7-13 TDS三田ビル6&7階/支社:北海道札幌市中央区南1条西2-5 南一条Kビル9階/業務内容:ファッション&ブランドのサイト構築・商品&広告撮影・システム開発&提供など/URL:http://diamondhead.jp/

ダイアモンドヘッド PRESENTS

緊急座談会 PART 1

問い合わせ先:ダイアモンドヘッド 03-5876-4160 [email protected]/企画・制作:WWDジャパン