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2006 年度 大学教育研究重点配分経費研究成果報告書 新しいイオン液体の創製:構造制御と機能制御 愛知教育大学理科教育講座 日野和之 研究成果の概要 本プロジェクトの研究成果は、以下の3つに分類される。 (1)イオン液体とジアゾ化合物の脱窒素反応による新規なメソイオン化合物の創製法お よび新規なインドール化合物の合成法の開発 (2)イオン液体化したシアノビフェニル系液晶分子の合成 (3)イオン液体化したシッフ塩基の合成 (1)カルボン酸のエステルを側鎖に有するジアゾ化合物とイオン液体(1–ブチル–3–メチ ルイミダゾリウムクロライド)の熱化学反応により、カルベン中間体とイオン液体の間で C–H 挿入反応が起こり、新規なメソイオン化合物が生成した。一方、芳香族アルコールの アミドを側鎖に有するジアゾ化合物(2– ジアゾN–(4– ヒドロキシフェニル) –Nメチル –2–(4–ニトロフェニル)アセトアミド)と3種類のイオン液体(1–ブチル–3–メチルイミダゾ リウムクロライド,1–ブチル–3–メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニ ル)イミド,1–エチル–3–メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イ ミド)の光化学反応により、カルベン中間体において分子内 C–H 挿入反応が起こり、ケト -エノール互変異性によって新規なインドール化合物が生成した。これらの反応は合成法 として有力であるだけでなく、側鎖を修飾して反応性を制御することによって、将来的に はペプチドやアミノ酸との反応をもとに酵素反応の反応活性中心の選択的検出につながる ものと考えている。 (2)シアノビフェニル系液晶分子(4’–オクチルオキシ–4–シアノビフェニル)のアルキル 末端をハロゲン化した後に、1メチルイミダゾールと反応させ、イミダゾリウム系イオン 液体化した。さらに、アニオンをビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに交換し、 融点が常温以下のイオン液体を得た。このイオン液体は、電場によって液晶部位が整列し、 イミダゾリウム部位が高い電気伝導性を示すことが期待できる。これからの応用として、 発光性の半導体ナノ粒子を液晶分子により配向を制御したイオン液体中にドープすること によって、電界発光を示し、さらに電場強度を変えることによって、液晶分子を介してカ ップルするナノ粒子の発光現象(強度・波長)を連続的に制御することができると考えて いる。 (3)アミノエタノールのアミノ基をトリクロロエトキシカルボニル(Troc)化し、ピリジ

2006 · シアノビフェニル系液晶分子のアルキル末端をジセレニド化して、還元条件下でカドミウムイオ ンと反応させ、液晶分子がSe原子を介して直接結合したCdSeナノ粒子を創製することを目的とす

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Page 1: 2006 · シアノビフェニル系液晶分子のアルキル末端をジセレニド化して、還元条件下でカドミウムイオ ンと反応させ、液晶分子がSe原子を介して直接結合したCdSeナノ粒子を創製することを目的とす

2006 年度 大学教育研究重点配分経費研究成果報告書

新しいイオン液体の創製:構造制御と機能制御

愛知教育大学理科教育講座 日野和之 研究成果の概要 本プロジェクトの研究成果は、以下の3つに分類される。 (1)イオン液体とジアゾ化合物の脱窒素反応による新規なメソイオン化合物の創製法お

よび新規なインドール化合物の合成法の開発 (2)イオン液体化したシアノビフェニル系液晶分子の合成 (3)イオン液体化したシッフ塩基の合成 (1)カルボン酸のエステルを側鎖に有するジアゾ化合物とイオン液体(1–ブチル–3–メチ

ルイミダゾリウムクロライド)の熱化学反応により、カルベン中間体とイオン液体の間で

C–H 挿入反応が起こり、新規なメソイオン化合物が生成した。一方、芳香族アルコールの

アミドを側鎖に有するジアゾ化合物(2–ジアゾ–N–(4–ヒドロキシフェニル) –N–メチル

–2–(4–ニトロフェニル)アセトアミド)と3種類のイオン液体(1–ブチル–3–メチルイミダゾ

リウムクロライド,1–ブチル–3–メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニ

ル)イミド,1–エチル–3–メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イ

ミド)の光化学反応により、カルベン中間体において分子内 C–H 挿入反応が起こり、ケト

-エノール互変異性によって新規なインドール化合物が生成した。これらの反応は合成法

として有力であるだけでなく、側鎖を修飾して反応性を制御することによって、将来的に

はペプチドやアミノ酸との反応をもとに酵素反応の反応活性中心の選択的検出につながる

ものと考えている。 (2)シアノビフェニル系液晶分子(4’–オクチルオキシ–4–シアノビフェニル)のアルキル

末端をハロゲン化した後に、1–メチルイミダゾールと反応させ、イミダゾリウム系イオン

液体化した。さらに、アニオンをビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに交換し、

融点が常温以下のイオン液体を得た。このイオン液体は、電場によって液晶部位が整列し、

イミダゾリウム部位が高い電気伝導性を示すことが期待できる。これからの応用として、

発光性の半導体ナノ粒子を液晶分子により配向を制御したイオン液体中にドープすること

によって、電界発光を示し、さらに電場強度を変えることによって、液晶分子を介してカ

ップルするナノ粒子の発光現象(強度・波長)を連続的に制御することができると考えて

いる。 (3)アミノエタノールのアミノ基をトリクロロエトキシカルボニル(Troc)化し、ピリジ

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ンおよびイミダゾール存在下で無水トリフルオロメタンスルホン酸と反応させて、ピリジ

ニウム系およびイミダゾール系イオン液体を合成した。この後の展開として、Troc 基を脱

保護し、アルデヒドとシッフ塩基を形成させ、配位子を合成することを考えている。それ

から、金属塩との錯形成によりイオン液体化した金属錯体を創製する予定である。金属と

イオン液体の組み合わせによって発現される機能の中でも、特にその触媒能を追究したい。 以上の研究成果については、学会発表および学術誌への投稿を行って、メッセージを発

信し、特定領域研究に研究グループとして参画することを考えている。研究計画について

も早期に実験を完了して、その成果を還元するために、例えば新規物質群として物質特許

をとることや、企業とチームを組んで材料提供を企画するなどの方策を考えている。

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ジアゾ化合物から生じる活性種を用いた反応中心の選択的検出の試み 物理化学研究室 2030888 富田 大介

[序論]

ジアゾカルボニル化合物は、光照射や加熱によって窒素分子が脱離し、カルベン中間体を生成

する。カルベンは非常に反応性が高いため、水やアルコールが存在する場合には、エノールやカ

ルボカチオン中間体を経由して O-H 挿入反応を示す。水やアルコールが存在しない系において

は、カルベンはケテンへ転位する。このとき、求核試薬と反応するとエノールとなり、その後ケ

トン化されてエステルを生成する。 本研究では、以上のようなジアゾ化合物の特異な反応性を利用して、触媒反応や酵素反応など

の反応活性中心の選択的検出を試みることを目的としている。そのために今回は基質との相互作

用が異なると考えられる 2 種類のジアゾ化合物を合成した。そして、それぞれの反応性を調べる

ためにイオン液体中で光分解を行い、同時により単純なジアゾ化合物を用いて熱分解を行った。

[結果と考察]

芳香族アルコールのアミドを側鎖に有するジアゾ化合物、2-ジアゾ

-N-(4-ヒドロキシフェニル)-N-メチル-2-(4-ニトロフェニル)アセトア

ミドを用いて、3種類のイオン液体、①1-ブチル-3-メチルイミダゾリウ

ム クロライド(bmim Cl)、②1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス

(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(bmim TFSI)、③1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド

(emim TFSI)をそれぞれ溶媒として、高圧水銀灯の光を照射することに

より光分解を行った。その結果、窒素が脱離してカルベン中間体となり、

その後分子内 C-H 挿入反応が起こり、最終的にケト-エノール互変異性

によってインドール化合物が生成した(図 1)。ここで、bmim Cl の場合

に、最も高い収率でインドール化合物が生成し、青色の副生成物が確認

され-るなど特徴的な結果が得られた。

N

OH

MeOH

O2N

図 1

NN

O2N

O

OMe+○

-○

そこで、bmim Cl を溶媒として、カルボン酸のエステルを側鎖に有す

るより単純なジアゾ化合物の熱分解を行った。その結果、窒素が脱離し

てカルベン中間体となり、その後イオン液体との間で C-H 挿入反応が起

こり、メソイオンが生成した(図 2)。 今後、側鎖の違いによる反応性の変化を調べるために、脂肪族アルコ

ールのアミドを側鎖に有するジアゾ化合物を用いた光分解を行う必要が

ある。また、光分解と熱分解の反応性を比較し、将来的にはペプチドや

アミノ酸との反応をもとに触媒反応や酵素反応などの反応活性中心の選

択的検出を試みたいと考えている。

図2

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1P025 液晶化イオン液体中の電界発光性ナノ粒子の創製

(愛知教育大P

1P,分子研P

2P)○新谷理恵P

1P,日野和之P

1P,中野博文P

1P,西信之P

2P

【序】化合物半導体のナノ粒子は、発光量子収率が高く、粒子サイズにより発光波長が劇的に変

化するため、これまで数多く研究されている。セレン化カドミウム(CdSe)ナノ粒子の合成反応

スキームは、セレンとカドミウム塩を作用させて、CdSe核をつくり、界面活性剤の存在下で成長

させる方法である。しかしながら、この方法では、サイズが小さくなると粒子表面が完全に保護

されず、その表面欠陥の影響で量子収率が上がらない問題がある。最近、イオン液体中にテルル

化カドミウム(CdTe)ナノ粒子をドープすると発光効率が増大することが報告された。そのメカ

ニズムはよく分かっていないが、励起状態のCdTeナノ粒子の周りをイオン液体分子が取り囲み、

粒子間衝突による無輻射緩和過程を効果的に妨げて、発光効率が上がったと考えられる。これは、

イオン液体の高い溶解性と高い分散性の性質に基づく。一方、CdSeナノ粒子はポリマーと層構造

を形成させることにより、電界発光の性質を示すことが明らかにされている。ここで、CdSeナノ

粒子だけでは電界発光を示さないことから、ナノ粒子の電界発光にとって重要なのは効率的に電

子とホールを注入して再結合させることであることが分かる。

我々は金属ナノ粒子の光学現象を外部電場を利用して制御する取り組みを進めてきた。このた

めに、電場応答性が高い液晶分子に着目し、そのアルキル末端をチオール化して金ナノ粒子に結

合させ、散乱特性の制御を試みてきた。しかし、発光については量子収率が小さく、外部電場に

よる制御は追究できなかった。以上の研究背景により、CdSeナノ粒子を液晶分子と組み合わせて、

その発光現象(強度・波長)を外部電場を利用して連続的に制御することを着想した。CdSeナノ

粒子は(CdSe)B3B

を核として成長する。核の段階で表面欠陥が生じないようにするためには、Se原子

を含んだ配位子を用意し、CdSeナノ粒子合成の段階で核の構成要素とすればよい。本研究では、

シアノビフェニル系液晶分子のアルキル末端をジセレニド化して、還元条件下でカドミウムイオ

ンと反応させ、液晶分子がSe原子を介して直接結合したCdSeナノ粒子を創製することを目的とす

る。また、イオン液体については、ナノ粒子の分散媒体として用いるだけでなく、その高い電気

伝導性を利用する。液晶分子が結合したイオン液体を開発すれば、電場によって液晶部位が整列

し、イミダゾリウム部位が高い電気伝導性を示すことが期待できる。

【実験】≪CdSeナノ粒子の創製≫(1)ジセレニド化した

シアノビフェニル系液晶分子の有機合成:ジブロモオク

タンをシアノビフェニルオールとカップルさせ、ジセレ

ン化ナトリウムと作用させて、ジセレニド化したオクチルオキシシアノビフェニル(Se8OBPCN)B2 B

を合成した。(2)CdSeナノ粒子の合成:塩化カドミウムのエタノール溶液に、(Se8OBPCN)B2 B

を加え、

高圧水銀灯を照射した。≪液晶化イオン液体の創製≫ブロモアルキルオキシシアノビフェニル

BrnOBPCNと1–メチルイミダゾールを反応させ、アルキルオキシシアノビフェニルが結合したメ

ルイミダゾリウムブロマイド(NCBPOn)mimBrを合成

した。続いて、アニオン[X]P

–PをBF

B4 PB

–P,PF

B6PB

–P,CF

B3 B

SOB3 PB

–P,

(CFB3 B

SOB2 B

)B2B

NP

–Pなどに交換し一連の誘導体を得た。

(Se8OBPCN) B2B

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【結果と考察】塩化カドミウムと(Se8OBPCN)B2 Bの

混合溶液に高圧水銀灯を照射すると、溶液の色が

黄色から桃色に変化した。遠心分離により赤褐色

沈殿を集め、DMFに溶解した。図 1 に、紫外・可

視吸収スペクトルを示す。(Se8OBPCN)B2 Bは 340 nm

よりも短波長領域にビフェニル骨格に起因する吸

収を示す(図 1a)。一方、今回得られた赤褐色沈殿

はビフェニル骨格に起因する吸収に加えて、それ

よりも長波長領域にブロードな吸収を示す(図 1b)。

このブロードな吸収はCdSeナノ粒子に特徴的なも

のである。したがって、シアノビフェニル系液晶

分子がSe原子を介して直接結合したCdSeナノ粒子

が生成したと考えられる。図 2 にCdSeナノ粒子の

電子顕微鏡像を示す。粒子サイズは直径約 4 nmで

あり、CdSe合金による明瞭な格子像が観測されて

いる。図 3 に電子顕微鏡像とCdとSeの特性X線を

モニターして得られた元素マッピング像を示す。

粒子集合体領域に両元素が集中して分布している

ことが分かる。さらに、図 2 中に丸印で示した領

域のEDX分析を行った。CおよびCuの信号が強く

観測されたが、これらは有機物や電子顕微鏡観察

用のコロジオン支持膜付銅グリッドによるもので

ある。その他、わずかにSiやClが観測されたが、

主成分はCdとSeであり、その構成比は 1 : ~0.7 で

Seがいくぶん不足していることが分かった。蛍光

スペクトルの観測から、ビフェニル由来以外の発

光バンドを 540 nm近傍に観測したが、発光強度は

小さかった。これは、構成比から示唆されるナノ

粒子の構造欠陥によるものと考えられる。これを

改善するために、Se源としてジセレン化ナトリウ

ムを添加してCdSeナノ粒子を合成することを考え

ている。さらに、粒子サイズ制御の検討と発光特

性の調査を行って基本的なデータをまとめ、外部

電場による発光特性の制御へと繋げていきたい。

同時に、液晶化イオン液体の電気特性の解明を進

める予定である。

【謝辞】CdSe ナノ粒子の合成・分析機器を使用させていただきました分子科学研究所佃グループに感

謝いたします。本研究は文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトの一環として行われまし

た。

Abs

orb

ance

800700600500400300Wavelength / nm

(a)

(b)

図 1. (a) (Se8OBPCN)B2Bおよび(b) CdSe–8OBPCNナノ粒

子DMF溶液のUV-Visスペクトル

図 2. CdSe–8OBPCN ナノ粒子の TEM 像

図 3. CdSe–8OBPCN ナノ粒子集合体の O Kα, Se Kα, Cd Lαをモニターした元素マッピング像

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4P035 シアノビフェニル系液晶分子が結合したイミダゾリウム塩の結晶構造

(愛教大1,分子研2)○新谷理恵1,日野和之1,赤平晃治1,粕谷勇太1,中野博文1, 中島清彦1,西信之2

【序】イオン液体は、常温で液体の塩であり、蒸気圧がほとんどなく、イオンの組み合わせによ

り、溶解性や粘性を制御できるため、有機溶媒に代わる環境調和型反応溶媒への応用や、イオン

から構成されていて、高いイオン伝導性を示すために電気化学的デバイスへの応用が期待されて

いる。我々はその高いイオン伝導性を外場によって制御するために、外場応答性の高い液晶分子

と組み合わせることを着想した。これまでに、東京農工大の大野らや東京大学の加藤らが液晶を

イオン液体と組み合わせて、イオンが流れる通り道を整列させることにより次元性をもった高い

伝導性のイオン液体を開発している。我々は、シアノビフェニル系液晶分子が結合したイミダゾ

リウムを対象とし、そのブロマイド塩の結晶構造を詳細に検討することにより、高いイオン伝導

性の起源を明らかにすることを目的としている。

【実験】ジブロモアルカンとシアノビフェニルオールを加熱還流し、ブロモアルキルオキシシア

ノビフェニルBrnOBPCN(炭素原子数:n=3~10)を合成した。引き続いて、1-メチルイミダゾー

ルと反応させると、アルキルオキシシアノビフェニルが結合

したメチルイミダゾリウムブロマイド(NCBPOn)mimBrが生

成した。再結晶により得られた単結晶に対して、X線結晶構造

解析および融点測定を行った。 図 1. (NCBPOn)mimBr の構造

NNO n

[Br]- n=3-10

+NC

【結果と考察】アルキル鎖の立体配座は、その炭素原子数 nに依存して大きく異なる。n=3, 4 で

は、trans 配置と gauche 配置が混在している。シアノビフェニル側から、n=3 は gauche-trans 型で

あり、n=4 には結晶格子中の独立な分子に gauche-trans-gauche 型と trans-trans-gauche 型が共存して

いる。炭素原子数が大きくなると trans 配置をとりやすくなり、n=5~8 ではすべて trans 配置をと

る。しかしながら、n=9 ではイミダゾリウム末端でのみ gauche 配置となる。イミダゾリウムの 2

位の炭素原子、1 位の窒素原子、それに結合するメチレン炭素原子、および、2 位の水素原子に最

図 2. n=4 の結晶構造 図 3. n=5 の結晶構造
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近接するメチレン水素原子の4つの原子がなす二面角を

炭素

原子数角度

3 7.02

4 42.27 20.45 23.58 41.20

5 35.08 43.98

6 0.98 24.97

7 7.00

8 8.37

9 42.04

表 1. イミダゾリウム環とアルキル鎖の

ねじれ角度 表 1 に示す。メチレン鎖がすべて trans 配置をとる n=5~8

のうち、n=5 の二面角は他のものと比べて大きく、イミ

ダゾリウム環がアルキル鎖に対してねじれていることが

分かる。n=4, 9 のようにイミダゾリウム末端で gauche 配

置をとるものは二面角が大きい。n=5 は末端で trans 配置

をとるにもかかわらず二面角が大きい。イミダゾリウム

と近接するブロモイオンの立体配置については、n=3, 4, 7,

9 では 2 位の水素原子と面内で水素結合する配置にあり、

n=5 では 4 位または 5 位の水素原子と面内で水素結合す

る配置、さらに 2 位の水素原子と面外で水素結合する配

置をとる。n=6, 8 は単位格子中に水分子が含まれ、イミ

ダゾリウムと強く水素結合するために、単純にイミダゾ

リウムとブロモイオンの間の相互作用だけではあらわせ

ず、ブロモイオンが面内にも面外にも配置した関係とな

っている。結晶構造を決定する要因として、オキシシア

ノビフェニルの水素原子とブロモイオンの間の水素結合

相互作用が挙げられる。n=3, 6~9 では、シアノ基に隣接

表 2. ビフェニル環のねじれ角度

したビフェニル水素原子と水素結合を形成しており、n=4 で

素原子と水素結合を形成している。n=5 については、その両

いる。炭素原子数が大きくなると、ビフェニル環のねじれ角

(表 2)。特に、n=4 から 5、n=6 から 7、n=8 から 9 の間で急

晶形は、n=3, 4 では板状結晶であるが、n=5 以上では針状結

環の平面性が高くなることによって、分子間のスタッキング

の結晶形に反映した可能性が考えられる。n=7 の場合に最も特

カチオン

次元に配

オンが流

伝導度を

ては、融点

示してい

示唆され

っている

かもしれ

り調査す

図 4. n=7 の結晶構造

炭素

原子数角度

3 47.84

4 42.66 47.99 48.23 42.36

5 25.67 20.08

6 25.45 24.55

7 9.64

8 9.77

9 1.87

は酸素原子に隣接したビフェニル水

方の水素原子と水素結合を形成して

度は小さくなり、平面性が高くなる

激に小さくなっている。バルクの結

晶となる。結晶格子中のビフェニル

相互作用が強くなり、それがバルク

徴的な結晶構造が観測されている。

のケージの中にブロモイオンが一

列し

れる

示す

るこ

る。

ない

る予

ている(図 4)。この系では、イ

通り道が整列され、高いイオン

ことが期待される。n=7 につい

定においてブロードな相変化を

とから、複数の液晶相の存在が

結晶構造が一次元の層構造とな

めに複数の液晶相が出現するの

。相転移に関しては熱測定によ

定である。

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サリ

チリ

デン

-2-ア

ミノ

エタ

ノー

ル配

位子

を用

いた

キュ

バン

型錯

体の

合成

と電

子状

(愛教大化)○日野和之・虎山 怜・中野博文・中島清

を 属

状態

であ

る。

今回

、我

々は

酸素

とフ

ェノ

ール

酸素

がと

核錯

体(

[Ni 4(

L1 ) 4(O

Ac)

2])

て報告する。

図2 四核ニッケル錯体の

ORT

EP図

ル(

0.2

g, 0

.8 m

mol)、サリ

をエタノール

10 m

lに溶解

ビス

(サ

リチ

ルア

ルデ

ヒダ

て、

2-ア

ミノ

エタ

ノー

還流した後に、濃縮して析

し、暗緑色微結晶を得た(収

の構

造解

析に

より

、図

2の

晶溶

媒分

子を

省略

し、単

子を

比較

のた

めに

並べ

てい

ール

酸素

2個

がそ

れぞ

れ3

個のニッケルイオンを架橋し、

Ni 4O

4キュバン型骨格を形成す

る。

さら

に上

下の

軸方

向か

ら酢

酸イ

オン

が2

個の

ニッ

ケル

オン

を架

橋し

てい

る。

この

上下

の軸

方向

から

の酢

酸イ

オン

よる架橋構造は、サリチリデン-3-アミノプロパノール配位子

を用

いた

二核

マン

ガン

錯体

で報

告さ

れて

いる

。M

n 2O

2架橋

造中

の酸

素原

子は

、と

もに

アル

コー

ル酸

素で

ある

。そ

れに

して、今回のサリチリデン-2-アミノエタノール配位子を用い

た四核ニッケル錯体の部分構造

Ni 2O

2中の酸素原子は、アルコ

ール

酸素

、フ

ェノ

ール

酸素

1個

ずつ

であ

る。

錯体

は全

体と

て電

荷を

もた

ない

こと

から

、ニ

ッケ

ルイ

オン

は2

価と

3価

態で

混合

して

いる

と考

えら

れる

。ま

た、

独立

な錯

体2

分子

鏡像関係にあり、結晶はラセミ混合物となっている。

なかのひろふみ・なかじまきよひこ

コール酸素が金属イオン

している。また、単一金

OH

CH

NOH

1 サリチリデン-2-アミノ

エタノール(

H2L

1 )の構造

【緒

言】

これ

まで

に報

告さ

れた

サリ

チリ

デン

-2-ア

ミノ

エタ

ール(

H2L

1 )やサリチリデン-3-

アミ

ノプ

ロパ

ノー

ル(

H2L

2 )配

位子

を用

いた

キュ

バン

型四

核錯

体(

[M4(

Ln ) 4(R

OH

) 4](

n=1,

2,

R=M

e, E

t))の構造は、4個のアル

架橋した

M4O

4キュバン型骨格を有

から

なる

場合

、金

属イ

オン

は2

H2L

1 配位

子を

用い

て、

アル

コー

もに

キュ

バン

型骨

格に

含ま

れる

を合成したので、その構造につい

【結果と考察】

合成 酢酸ニッケ

チルアルデヒド(

0.2

g, 1

.6 m

mol)

し、

攪拌

しな

がら

85℃

で還

流し

ト)ニ

ッケ

ル(

II)を

合成

した

。続

(0.

098

g, 1

.6 m

mol)を加え、加熱

出した結晶をアセトンから再結晶

量 0

.023

g,収率

12.

5 %)。

X線

結晶

構造

解析

緑色

微結

ORT

EP図

が得

られ

た。こ

こで

、結

格子

中に

含ま

れる

独立

な錯

体2

る。

アル

コー

ル酸

素2

個と

フェ

○ひのかずゆき・とらやまれい・

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1P032 N-サリチリデン-2-アミノエタノール配位子を用いた

キュバン型錯体の構造と磁性 (愛教大1,岡山大理2)○日野和之1,虎山怜1,中野博文1,砂月幸成2,小島正明2,中島清彦1

【序】強磁性記録材料を高密度化するために、ナノメートルスケールにサイズダウンしようとす

ると、磁化がフリップフロップして、磁区構造を保持できなくなり、いわゆる超常磁性体となる。

これは、上向きの磁化状態と下向きの磁化状態の間に KV(K:異方性パラメーター,V:体積)

のエネルギー障壁が存在し、サイズダウンすることによってこの障壁が低下して、熱エネルギー

によりこれら2つの状態を自由に行き来することができるようになるためである。

同様に、分子レベルでは、上向きのスピン状態と下向きのスピン状態の間にDS2(D:ゼロ磁場

分裂パラメーター,S:スピン多重度)のエネルギー障壁が存在する。したがって、磁気異方性と

スピン多重度の高い系を実現することができれば、単分子レベルでの磁気記録が可能になる。こ

のような系を単分子磁石と呼ぶ。単分子磁石はMn12核の系で報告されて以来、集積型金属錯体に

対して多く研究されてきた。

サリチリデン-2-アミノエタノール(H2L1)やサリチリデン-3-アミノプロパノール(H2L2)配位子を

用いたキュバン型四核錯体( [M4(Ln)4(ROH)4] ( n=1,2, R=Me,Et) )の

OH

CH N OH

構造は、4個のアルコール酸素が金属イオンを架橋したM4O4キュ

バン型骨格を有しており、単分子磁石となる系が報告されている。

本研究ではH2L1配位子を用いて、アルコール酸素だけでなくフェ

ノール酸素でも架橋したキュバン型ニッケル錯体を合成し、その

構造と磁気的性質の関係について考察することを目的とする。

図 1. サリチリデン-2-アミノ

エタノール(H2L1)の構造

【実験】(経路1)酢酸ニッケル(Ⅱ)四水和物、サリチルアルデヒドをエタノールに溶解し、攪拌

しながら加熱還流し、ビス(サリチルアルデヒダト)ニッケル(Ⅱ)を合成した。続いて、2-アミノ

エタノールを加え、加熱還流した後に、減圧濃縮して析出した結晶をアセトンから再結晶し、暗

緑色微結晶を得た。(経路2)サリチルアルデヒド、2-アミノエタノールをエタノールに溶解した

後、酢酸ニッケル(Ⅱ)四水和物を加え、攪拌しながら加熱還流した。減圧濃縮して析出した結晶を

アセトンから再結晶し、暗緑色微結晶を得た。

【結果と考察】暗緑色結晶の X 線結晶構造解析により、

図2のORTEP図が得られた。アルコール酸素2個とフ

ェノール酸素2個がそれぞれ3個のニッケルイオンを

架橋し、Ni4O4キュバン型骨格を形成している。さらに

上下の軸方向から酢酸イオンが2個のニッケルイオン

を架橋している。一方、χT曲線の温度変化から錯体中

のニッケルイオン間に全体として反強磁性的な相互作

用が働いていることが分かる(図3)。300 Kにおける

χT値は約 4.8 cm3 K mol-1であり、スピン・オンリー値と 図 2. [Ni4(L1)4(OAc)2]のORTEP図

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の比較からニッケルの原子価は全て2価であると結論

した。また、キュバン錯体の磁気交換相互作用はM-O-M

結合角がその指標となり、98-99°よりも大きければ反強

磁性的な、小さければ強磁性的な相互作用が働くこと

が明らかにされている。[Ni4(L1)4(OAc)2]錯体の場合、キ

ュバンの上下の面内のNi-O-Ni角は 98-99°よりも著しく

小さいのに対して、上下の面間では8つのNi-O-Ni角の

うち、6つが 98-99°よりも極めて大きくなっている。

このことから、上下の面内ではニッケル原子間にスピ

ンが同じ方向を向く強磁性相互作用が働き、面間では

スピンが逆向きに並ぶ反強磁性相互作用が働き、錯体

分子全体としては反強磁性体になると考えられる。 図 3. [Ni4(L1)4(OAc)2]のχT vs T曲線

図4に合成経路をまとめる。経路1および経路2では、アルコール酸素2個とフェノール酸素

2個がキュバン骨格を形成する。一方、経路2でシッフ塩基配位子としたところに、アルカリを

加え、その後に酢酸ニッケルを加えた場合、常温で反応させるとすべてアルコール酸素で配位し

たキュバン錯体が生成し、加熱還流するとキュバン構造が分解した単核錯体が生成する。

今回の実験から、アルコール酸素とフェノール酸素がニッケルイオンを架橋したキュバン型錯

体においては、強い強磁性相互作用と強い反強磁性相互作用が共存することが分かった。今後は、

例えば、シュウ酸塩を用いることによって、キュバン型錯体を一次元に配列させるなど、多次元

に集積させ、ニッケル以外の金属を導入することにより、異方性およびスピン多重度を高めたフ

ェリ磁性分子磁石の実現に取り組みたい。

Ni(CH3COO)2・4H2O

Ni(CH3COO)2・4H2O

加熱還流

加熱還流

加熱還流

OH

HO

OH

HO

H2N OHH2N OHO

HO O

OH

NiO

HO O

OH

Ni

H2N OHH2N OH OH

NH

OH

OH

NH

OH

加熱還流

NaOH

O Ni

Ni O

O Ni

Ni O

N

O

N

O

O

O

NN

OO

O

ONi

HO

OHN

O

O

N

O Ni

Ni O

O Ni

Ni O

O

NN

N

O

O

N

O

O

OO

O

Ni(CH3COO)2・4H2O

常温

図 4. 合成経路のまとめ