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15
2.2.1. チェック項目の調査方法(渓流型)
[解説]
土石流・流木等により荒廃した渓流を対象とした「次期降雨等により被害を与える蓋然性」
のチェックは、以下のチェックリストを用いて行う。チェック項目の①定義、②調査方法、③
留意点を、(1)~(10)に示す。
「次期降雨等により被害を与える蓋然性」のチェック (渓流型)
山地災害が発生した渓流について、「次期降雨等により被害を与える蓋然性」のチェッ
クを行い、客観的な判断をもとに実施事業を選定する。
項 目
(被害状況を記載)
・H=
・L=
・H/L= ・H/L=0.20(θ=11.3°)以上で危険度大
2. H / L ・θ=
° ・15°以上で危険度大
ha ・5.0ha以上で危険度大
・被害を与えるおそれのある荒廃渓流(土砂量=延長×平均幅×平均深)
・土砂量=500m3以上で危険度大
5.流木堆積量 m3流木対策
要 ・ 否・流木量=集積面積(延長×平均幅)×平均堆積厚×0.2~0.3(実容積率)
6.石礫・流木による塞止め 箇所 ・位置、状況を記載
7.既存施設の有無 ・有 ・無 基 ・工種:(コンクリート谷止工等)
・異常堆砂
有 ・ 無m3 ・袖部越流、放水路閉塞、計画勾配を大きく超える堆積等
・堆砂容量
有 ・ 無m3 ・堆砂容量がない場合は、通常堆積か
9.既存施設の健全性・損傷・破壊
有 ・ 無・機能は維持しているか
10.保全対象までの距離 m ・荒廃渓流の不安定土砂の下端から、おおむね200m以内で危険度大
8.既存施設の堆積状況
3.主たる荒廃渓流の渓床勾配
集水面積
4.不安定土砂量
(主たる荒廃渓流)m3
H:保全対象と不安定土砂上端との比高(m)
L:保全対象から不安定土砂上端までの水平距離(m)
数量・規模等 備 考
1.保全対象への土砂等の到達 ・有 ・無
θH
Lθ
H
L
16
(1) 保全対象への土砂等の到達
① 定義
対象とする災害により、渓流を介して保全対象区域へ到達した土砂・流木の有無とする。
② 調査方法
保全対象区域への、土砂・流木の到達の有無を調査する。
・到達している場合は、土質、構成物、被害状況等を記載する。
・到達していない場合は、保全対象までの距離、勾配等を調査し記載する。
チェック項目の調査方法(渓流)
17
(2) H/L
図 2.4 渓床に不安定土砂が堆積している場合の H/L 計測方法
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
保全対象から、渓床に堆積している不安定土砂上端を見通したときの高低差(H)と水平
距離(L)の比(H/L)として示す。
② 調査方法 1
崩壊土砂のほとんどが渓流に流入し堆積しており、次期降雨時には渓床の不安定土砂が移
動すると想定される場合
渓床に堆積している不安定土砂を対象に、保全対象と上端部の間の比高と水平距離(直線
距離)を計測し、その比を求める。
荒廃渓流(不安定土砂)上端
(標高H1)
渓流水平距離(L)
保全対象端部
(標高H2)
K.S
〇
〇
H/L=(H1-H2)/L
保全対象端部渓流水平距離 L
比高H
不安定土砂 上端
崩壊地
荒廃渓流
18
.
(※不安定土砂末端と保全対象端部との距離が 200m以下の場合は危険度大(チェック項目 10))
図 2.5 崩壊地に不安定土砂が残留している場合の H/L 計測方法
② 調査方法 2
崩土が崩壊地内に残留し、次期降雨時には崩壊地内の土砂が渓流に流入し、移動すると想
定される場合 崩土が残留している崩壊地を対象に、保全対象と上端部の間の比高と水平距離(直線距離)
を計測し、その比を求める。残留土砂が一部流出している場合も同様とする。
ア)崩壊土砂はほぼ斜面内に残留 イ)崩壊土砂の一部が渓流に流入
K.S
渓流水平距離(L2)
山腹水平距離(L1)
崩壊地上端
(標高H1) 〇
〇
保全対象端部
(標高H2)
H/L=(H1-H2)/(L1+L2)
K.S
H/L=(H1-H2)/(L1+L2)
〇
〇
崩壊地上端
(標高H1)
山腹水平距離(L1)
渓流水平距離(L2)
保全対象端部
(標高H2)
保全対象端部渓流水平距離
L2
比高H
不安定土砂
上端
合流
山腹水平距離 L1
崩壊地
渓流
K.S
19
図 2.6 不安定土砂の堆積が複数流域に分かれる場合の水平距離のとり方
チェック項目の調査方法(渓流)
② 調査方法 3
不安定土砂の堆積が複数流域に分かれる場合の渓流の水平距離(直線距離)は、
ア)上流の状況が同様の場合は、土砂量が多く、上流の集水面積の大きな渓流をとる。
イ)荒廃源となる崩壊斜面が存在するなどして、集水面積の大きな流域より次期降雨に
よる土砂の流出量が多くなると想定される場合は、主たる荒廃源が分布する渓流を
とる。
ア)上流の状況が同様の場合
土砂量が多く上流の集水面積の大きな渓
流をとる。
イ)支流に主要な荒廃源となる崩壊地が
存在する場合 集水面積の大きな流域より、主要荒廃地
が分布する渓流をとる。
荒廃渓流(不安定土砂)上端
渓流水平距離(L)
渓流水平距離(L)
〇
〇
〇
〇
崩壊地
荒廃渓流(不安定土砂)上端
K.S K.S
保全対象端部 保全対象端部
20
図 2.7 渓床の不安定土砂量と H/L の関係
③ 留意事項 1
渓流では、荒廃発生源の崩壊地に多量の土砂が残留しているか、あるいは渓流に流出し堆
積しているかで分けて考える必要がある。崩壊地内に多量の土砂が残留している場合、次期
降雨により渓流に流入して土石流化し、到達距離が長くなるおそれがある。
③ 留意事項 3
災害関連緊急治山事業で実施した事例は、H/Lが 0.20を超える傾向がみられることから、
H/L=0.2 以上を危険度大とする。
③ 留意事項 4
渓流では、多量の流水の供給により堆積物が流動化すると、緩勾配であっても移動距離が
長くなる場合もあるため、H/Lが 0.2 を下回る箇所であっても緊急的な対応を検討する。
※「H/L<0.2」の緊急対応例
・土砂・流木による塞き止め
・火山噴出物(軽石)の堆積地
・ほぼ皆伐地の流域
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
0.45
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000
H/L=0.20
不安定土砂量(㎥)
H/L
③ 留意事項 2
崩壊地内に残留している多量の土砂が次期降雨により渓流に流入した場合は、天然ダムの
形成・決壊、土石流・流木化等、土砂移動形態が様々に変化することに留意する必要がある。
◆ 災害関連緊急治山事業
◆ 上記以外
◆H28.8台風10号災害関連緊急治山
(北海道上富良野町)
③ 留意事項 5
災害直後の現況把握は、オルソ写真等の判読によることを想定し、保全対象と不安定土砂
との水平距離は直線距離とする。
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(3) 主たる荒廃渓流の渓床勾配、集水面積
図 2.8 荒廃渓流の勾配、集水面積のイメージ
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
保全対象に被害を与えるおそれのある荒廃渓流の平均渓床勾配、および荒廃渓流区間を含
む集水区域の面積とする。
② 調査方法
現地調査による場合は、不安定土砂が堆積する区間の渓床勾配を計測する。災害後の航空
レーザ計測データが取得されている場合は、延長と標高差から平均渓床勾配を算出すること
も可能である。
集水区域の面積は、等高線図、微地形表現図等の図面上で計測する。
③ 留意事項
土石流危険渓流は、渓床勾配 15°地点より上流の流域面積 5.0ha 以上としていること等を
参考に、渓床勾配 15°以上、集水面積 5.0ha 以上を危険度大とする。
荒廃渓流
集水区域 5.0ha 以上
で危険度大
●最高点 H1
最低点 H2●
延長 L
θ≧15°で危険度大
集水面積 A≧5.0ha で
危険度大
(H1-H2)/L:渓床勾配15°
以上で危険度大
(不安定土砂堆積)
被害を与えるおそれのある不安定土砂
荒廃渓流
θ
22
11.29.0
6.0 6.0
2.23.6
11.4
5.7
17.4 16.7
9.9
1.6
40.6
33.6
28.5
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
図 2.9 災害関連緊急治山事業実施箇所の流域面積(厚別川流域)
図 2.10 土石流の形態と渓床勾配
(出典:土石流・流木対策指針)
チェック項目の調査方法(渓流)
③ 留意事項(参考)
平成 15 年 8 月の台風 10 号災害で被災した日高南部森林管理署管内厚別川流域における
災害関連緊急治山事業実施箇所(渓流)の例では最小流域面積は 6.0ha であった。
③ 留意事項(参考)
土石流の発生区間の渓床勾配は、15°以上といわれている。
流域No
型区分流域面積
(ha)
1 渓流 11.2
2 渓流 9.0
3 渓流 6.0
4 山腹(0次谷) 6.0
5 山腹(0次谷) 2.2
6 渓流 3.6
7 渓流 11.4
8 山腹(0次谷) 5.7
9 渓流 17.4
10 渓流 16.7
11 渓流 9.9
12 山腹(0次谷) 1.6
13 渓流 40.6
14 渓流 33.6
15 渓流 28.5
流域面積(ha)
流域 No
5.0ha
■ 渓流型
■ 山腹型(0次谷)
23
(4) 不安定土砂量
図 2.11 現地調査による不安定土砂量の計測例
図 2.12 航空レーザ計測データの差分解析による堆積深算出例
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
渓床に不安定な状態で堆積している土砂・石礫で、次期降雨により移動することが見込ま
れる土砂量。
② 調査方法 1
不安定土砂量は、以下により算出する。
Vs(㎥)=延長(m)×平均幅(m)×平均深(m) 災害前後の航空レーザ計測データが取得されている場合は、地盤高の差分から平均堆積深
を推定し、不安定土砂量を算出することも可能である。
崩壊地下の
渓床堆積土砂
平均深
平均幅
24
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
0.45
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500
図 2.13 不安定土砂量と H/L の関係(事業別)
② 調査方法 2
・不安定土砂に流木が比較的多く混入している場合は、以下を参考にして堆積中の流木量を
算出する。
Vr= Vd×β
Vr:流木実材積(㎥)
Vd:見かけの捕捉容量(ここでは、不安定土砂量(㎥):Vsとなる)
β:流木容積率(%)
(参考:遮水型治山ダムの流木容積率は、既往の捕捉事例によるほかβ=0.01~0.02(土石
流区間で 0.02、掃流区間で 0.01)とする,土石流・流木対策指針)
③ 留意事項
災害関連緊急治山事業で実施した事例では、被害を与えるおそれのある荒廃渓流の不安定
土砂量が 500 ㎥を超える傾向がみられたことから、不安定土砂量=500 ㎥以上を危険度大と
する。
チェック項目の調査方法(渓流)
H/L
不安定土砂量(㎥)
500 ㎥
◆ 災害関連緊急治山事業
◆ 上記以外
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(5) 流木堆積量
図 2.14 現地調査による流木堆積量の計測例
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
次期降雨により流木化して、保全対象に被害を与えるおそれのある渓床の倒流木量。
② 調査方法
・倒流木が集積した箇所が複数ある場合は、位置、箇所を把握する。 ・流木堆積の実材積(Vt)は、以下により空隙込みの体積に実容積率を乗じて算出する。 Vt(㎥)=集積面積(延長(m)×平均幅(m))×平均堆積厚(m)×実容積率(β) ここに、実容積率β=0.2~0.3 とする。 (参考 1:透過型治山ダムの流木容積率(β)の考え方については、平均的な値としてβ=0.2とする,土石流・流木対策指針) (参考 2:流木集積の実容積率は、流木集積の解体調査で得られた平均値 0.30 を用いる ,「流木と災害」p43,技報堂出版)
③ 留意事項 2
流木捕捉式治山ダムを計画する場合は、設計因子となる単木の流木長、直径を計測する。
平均幅
延長
平均堆積厚
③ 留意事項 1
倒流木の量、分布状況等から、通常の土砂流出対策のほか土石流・流木対策の要否を検討
する。
26
(6) 石礫、流木による塞き止め
図 2.15 倒流木に塞き止められた流下土砂の例
図 2.16 堆積中の巨石の例
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
災害によって発生した土砂・流木が、渓床に堆積する石礫や倒流木により一時的に塞き止
められ、次期降雨により決壊・流出し、保全対象に被害を与えるおそれのあるもの。
② 調査方法
・位置、箇所数、状況を把握する。
・塞き止められている土砂量は、不安定土砂量の一部として扱う。
③ 留意事項
堆積物の中に被害を大きくする要素(巨石等)がある場合は、施設設計の際に考慮する場
合があるため、その有無、規模を把握する。
27
(7) 既存施設の有無
図 2.17 不安定土砂と保全対象との間に治山ダムがある例
(8) 既存施設の堆砂状況
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
チェック対象とする既存施設は、不安定土砂と保全対象との間に配置されている治山ダム、
砂防ダム等の防災施設とする。
チェック区間
① 定義
既存施設における堆砂容量の有無および袖部の越流、放水路の閉塞、計画勾配を大きく超
える不安定堆積等の異常堆積の状況とする。
② 調査方法 1
既存施設が、次期降雨時の土砂流出に対して、継続して抑止・調節機能を発揮しうるかを
把握する。
② 調査方法 2
異常堆積のみられる既存施設の箇所数および次期降雨時に流出するおそれのある土砂・流
木量を算出する。算出方法は、不安定土砂量、流木堆積量の算出方法と同様とする。
保全対象 荒廃渓流
(不安定土砂) 治山ダム
28
図 2.18 計画勾配を超える異常堆積、袖部越流、放水路閉塞により、次期降雨時に抑止・
調節機能を十分に発揮しえない例。
図 2.19 堆砂容量があり、次期の土砂流出があった場合でも、抑止・調節する機能を有
している例(写真左)、計画勾配程度で堆砂し、調節機能を有している例(右)。
② 調査方法 3
既存施設に堆砂容量がある場合は、想定される抑止可能土砂量を算出する。堆砂容量がな
い場合は、通常の堆積状況であるかを把握する。
チェック項目の調査方法(渓流)
29
(9) 既存施設の健全性
図 2.20 堤体本体が破損し、次期降雨時の土砂流出防止機能を有していないと考えられる例
チェック項目の調査方法(渓流)
① 定義
災害によって発生した既存施設の損傷・破壊の有無、災害後の機能維持の可否とする。
② 調査方法
既存施設本体に、機能維持を困難とする損傷や破壊が発生しているかを、目視を基本とし
て調査する。次期降雨時の土砂流出に対して、機能を維持しうるかを判断する。