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2.2.4 持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)
(1) 概要(目的・内容)23
RSPO とは Roundtable on Sustainable Palm Oil(持続可能なパーム油のための円卓会議(ラ
ウンドテーブル))の略称である。環境への影響に配慮した持続可能なパーム油を求める世
界的な声の高まりに応え、WWFを含む 7 つの関係団体が中心となり 2004 年に設立された。 その目的は世界的に信頼される認証基準の策定とステークホルダー(関係者)の参加を通
じ、持続可能なパーム油の生産と利用を促進することにある。 RSPO は非営利組織であり、パーム油産業をめぐる 7 つのセクターの関係者(パーム油生
産業、搾油・貿易業、消費者製品製造業、小売業、銀行・投資会社、環境 NGO、社会・開発
系 NGO)の協力のもとで運営されている。 パーム油を生産するアブラヤシ・プランテーションに関しては、農園開発のための熱帯林
伐採だけでなく、その後の農園管理においても様々な問題が指摘されている。そのような現
実を踏まえ、RSPO は持続的なパーム油生産に求められる法的、経済的、環境・社会的要件
を「原則と基準」としてとりまとめた。具体的には、以下のような 8 つの原則と 43 の基準
を定め、新たに手付かずの森林や保護価値の高い地域にアブラヤシ農園を開発しないこと、
労働者・小規模農園との公平な関係等を求めている。 【RSPO の 8 つの原則】 ・ 透明性へのコミットメント ・ 適用法令と規則の遵守 ・ 長期的な経済・財政面における実行可能性へのコミットメント ・ 生産及び搾油・加工時におけるベストプラクティス(最善の手法)の採用 ・ 環境に対する責任と資源及び生物多様性の保全 ・ 農園、工場の従業員及び、影響を受ける地域住民への責任ある配慮 ・ 新規プランテーションにおける責任ある開発 ・ 主要活動分野における継続的改善へのコミットメント
パーム油の認証で生産段階だけでなく、その後の流通過程も併せて管理する必要がある。
RSPO では管理方式の違いによって、アイデンティティプリザーブド(IP)、セグリゲーシ
ョン(SG)、マスバランス(MB)、ブックアンドクレーム(B&C)の 4 通りのラベル表示
を定めている(表 9)。
23 「RSPO について」(WWF ジャパンホームページ)
(https://www.wwf.or.jp/activities/resource/cat1305/rsportrs/, 2018/03/15 閲覧)
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(2) 背景、経緯 24
「持続可能なパーム油の調達と RSPO」(WWF ジャパン、2017 年)によると、パーム油
は、1990 年代から急速に需要が伸び、今では大豆油を抜いて世界で最も生産される植物油
となっている(図 21)。しかし、急速なアブラヤシ農園の拡大や不適切な農園経営等によ
り、熱帯林、泥炭湿原林等の伐採、森林火災、生物多様性の消失、気候変動の環境問題や、
住民紛争、土壌侵食・汚染等の地域社会の問題が生じている。このような背景から、一刻も
早く、持続可能なパーム油産業への転換に向けたスタートが必要とされていた。
図 21 世界の油脂別生産量
出所)「RSPO Transforming the market to make sustainable palm oil the norm」
RSPO 認証制度のモデルは、ミグロ(スイス最大の小売業会社)によって生み出された。
ミグロが自社の認証制度を作るきっかけとして、ミグロの幹部社員がアブラヤシ産業の開
発の構造に対する批判記事を目にしたことや、スイスでは破壊的な森林伐採がよく知られ
ていたことが挙げられる。パーム油のヨーロッパへの輸出は森林伐採に大きな影響を与え
ることほどでなく、また、減少傾向にあったが、ミグロはあえて積極的に問題解決に対応す
る方針を選んだ。ミグロは初めに、事情に精通したパートナー探しを行い、WWF を最終的
に選んだ。背景には、WWF とは森林認証の事例で協働の経験があったこと、WWF がパー
ム油の持続可能な生産方法を示す必要性を認識していたことがある。ミグロとWWFは 2000年 5 月に最初のミーティングを行い、2000 年 11 月初旬に草案を仕上げた。 ここで、ミグロは認証による競合他社との差別化を成功したが、次の段階としてミグロは
標準化に目指した。具体的には、認証基準を広く普及するために、チームにプロフォレスト
という独立審査機関を受け入れ、認証に客観性を持たせたり、業界全体での危機感を共有さ
せるために、世界 3 大 NGO の WWF、グリーンピース、フレンズ・オブ・アースとともに
熱帯雨林破壊についての共同キャンペーンを実施したりした。これにより、スイスのビジネ
24 「東南アジアのアブラヤシ商業栽培における RSPO 認証制度誕生の経緯と現状」(日本の科学者 12 月
号、中西宣夫)
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ス業界は、キャンペーンの対象が自分たちであることに気づき、問題提示だけでなく、ミグ
ロのプロジェクトが現実的な対応策の事例として示されていることを知った。 その後、WWF とミグロが共同で開発したミグロの自社基準をもとに、国際基準の策定に
動き始めたのは 2002 年夏である。のちに協議を重ね、2004 年に RSPO が設立された。そし
て、2005 年に持続可能なパーム油生産の「原則と基準」が採択された。
(3) 適合性評価の仕組み
RSPO は ISEAL 加盟規格(2.4.1(4)で詳述)であり、第三者適合性評価の仕組みをとって
いる(図 22)。ISEAL(国際社会環境認定表示連合)が、ISO/IEC 17011(適合性評価機関
の認定を行う機関に対する一般要求事項)に基づいて、認定機関を承認し、認定機関が認証
機関を認定する。
図 22 適合性評価の仕組み(RSPO)
出所)三菱総合研究所作成
(4) 効果、影響
事業者にとっての規格策定のメリットは、NGO の批判等によるレピュテーション悪化の
回避といったリスクマネジメント、顧客へのブランドアピール、リスクの低いサプライチェ
ーンの確立等が考えられる。 一方、規格策定のデメリットとして、規格内容をめぐった対立がある。実際に、規格の内
容をめぐり RSPO とインドネシア政府・マレーシア政府が対立し、規格が乱立した。加え
て、品薄のパーム核油の価格が高騰する事態になった。インドネシアパーム油協会は 2011年に RSPO を脱退し、インドネシア政府が農家に遵守を義務化させる ISPO(Indonesia Sustainable Palm Oil)を策定した。また、マレーシアにおいても、マレーシアパーム油協会
が RSPO の脱退を示唆し、マレーシア政府が MSPO(Malaysia Sustainable Palm Oil)を策定
することとなった。 また、RSPO 認証には生産現場までトレーサブルでないという課題がある。これに対して、
NGO の一部が批判しており、一層の信頼性の確保が必要となる。 認証農園では、現場の状況は改善していると考えられるが、森林保全を一層進めていくに
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は、消費者のさらなる意識改革が必要といえる。 RSPO 認証油販売量を見ると、ブックアンドクレームによる量が減少し、セグリゲーショ
ンの量が増えている。これは、消費者の要求レベルが高く、トレーサビリティについて、厳
しいコミットメントも出している EU の動向を反映している可能性がある。
図 23 RSPO 認証油販売量(トン)
出所)「持続可能なパーム油調達とその課題」(WWF ジャパン南氏資料)
(5) 普及・浸透策
「持続可能なパーム油調達とその課題」(WWF ジャパン南氏資料、2017 年)によれば、
日本では、78 会員が RSPO に加盟している。認証の取得は増えてきているが、製品に認証
マークを付けているのは、玉の肌石鹸、サラヤ株式会社等の数社に留まる 24。更なる普及の
ため、WWF ジャパンや企業が実行委員会を構成し、2016 年 9 月に RSPO で日本初となる公
式イベント「RSPO ジャパン・デー2016」が開催されている。
(6) 活用事例
1) サラヤ株式会社 25
2005 年にRSPO に参画したサラヤ株式会社がRSPO 認証パーム油を使用するきっかけは、
2004 年、マレーシアのボルネオ島における熱帯林破壊の問題がテレビ番組に取り上げられ、
その番組に同社社長が出演したことである。サラヤ株式会社は周辺環境に配慮した原料調
達のため、2005 年この問題を解決するアプローチの 1 つとして、RSPO へ参画した。 また、2004 年からボルネオの現地調査に入り、現地では RSPO だけでは解決できない課
題があることに気付いた。そこで、2006 年から、ボルネオでの生物多様性保全活動と環境
25 「サラヤ|経営トップが動く!現場主義の CSR」(おしえて!アミタさん、2016 年 11 月 8 日)
(http://www.amita-oshiete.jp/column/entry/010883.php, 2018/03/15 閲覧)
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保護活動を行うために「ボルネオ保全トラスト」という NGO を現地で立ち上げ、RSPO 認
証パーム油の利用に加え、ボルネオで環境保全活動を行っている。具体的には、動物たちの
自由な移動と生態系維持のため、プランテーションの開発でとぎれとぎれになってしまっ
た約 20,000 ha の熱帯雨林を野生動物が自由に行き来できるようにつなげる「緑の回廊プロ
ジェクト」や、2007 年から「ヤシノミ洗剤」をはじめとする対象商品の売り上げの 1%をボ
ルネオ保全トラストに支援金として拠出する、コーズマーケティングを行っている。 また、「持続可能性レポート 2017」(サラヤ株式会社)によると、2010 年 11 月発売の
「ヤシノミ洗濯用パウダーネオ」 にセグリゲーションの RSPO 認証パーム油を使用し、そ
れ以来、2012 年 4 月から 2013 年 10 月まで、国内で自社生産されるパーム油・パーム核油
(誘導体原料含む)を使用するすべての製品について、RSPO 認証(セグリゲーション RSPO 認証または GreenPalm 認証)の原料を使用していた。2020 年を目標として、すべての自社
製品に分離方式の RSPO 認証油を使用することを目指している。
図 24 RSPO 認証油(サラヤ株式会社)
出所)「持続可能性レポート 2017」(サラヤ株式会社)
2) 花王グループ
花王グループは、企業理念である「花王ウェイ」を基本に、世界の人々の喜びと満足のあ
る豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献する
ことを使命としている。その基本となる方向性を、「花王サステナビリティステートメント」
にまとめており、花王サステナビリティステートメントの重点領域として位置づけられて
いる「エコロジー」領域の中で、「持続可能なパーム油の調達活動」を目指している。 具体的には、パーム油・パーム核油の調達において「原材料調達ガイドライン」に基づい
た調達に取り組んでいる。また、RSPO メンバーとして活動し、追跡可能なサプライチェー
ンの構築に努めている。「花王サステナビリティデータブック 2017」を参考に、表 10 で
「原材料調達ガイドライン」における目標と実績を記述する。
「原材料調達ガイドライン」に基づく取組みによって、花王グループの認証油の購入実績
は増加傾向にある(図 25)。