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Vol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 215-227 研究 2.3 相対測位用 GPS 受信機 木内 等* I 杉本裕二本2 亀山清信*3 (1993 1 25 日受理) 2. 3 DIFFERENTIALGPSRECEIVER By HitoshiKIUCHI,YujiSUGIMOTO, andKiyonobuKAMEYAMA Differentialmeasurementmethodisneverfailtohighaccuracygeodesy. Wediscussedabout differential method applied to the GPS receivers. Differential GPSintheearly stage, the receivedsignalfromGPSwasdealtwithnoiseandpseudorangewasmeasuredbycorrelation processing, justlikeasVLEI. A newdifferentialGPSreceiver, calledPRESTAR,hasbeen developedby CRL, andis designedto beusedinpositioningandionosphericmeasurement. PREST ARreproducesthesignalclocksandcarriersfromthereceivedsignal,andpseudo range is measuredby the phase ofthem. Wediscussed aboutthissystem appliedtothestability measurement of theatmosphere. [キーワード] 汎地球規J j 位システム,超長基線電波干渉計,相対測位 GPS ,擬似距離,電離層遅延. GPS,VLEI,Differential GPS,Pseudodelay,Ionospheric delay. 1 はじめに 字宙における電波源の位置や構造を干渉計によって測 定することは,電波天文学と共に長い歴史を持っている. しかし,人工の電波源を対象とした実験研究は, 1970 代に入ってから始まった.調J j 地を指向したものとして代 表的なものは,米国のアポロ計画で,月面上に置かれた 2GHz 帯の電波源(これは ALSEP: ApolloLunar SurfaceExperimentsPackageと呼ばれる実験機器 の一部である.)をカリフォルニア州南部の約 lOOkm 離れた受信局で構成する干渉計で観測するシステムであ (1976 年)ω .このシステムは,約50000 ジャンスキ (1ジャンスキは, 10 ーおw/m2Hz )と強力な電波を受 信するため,アンテナ直径が 2.5m 小型でミすみ,周波 数帯域幅が約 6kHz と狭いのでリアルタイムでデータ を伝送し,相関処理をすることが可能なものであった. VLEI で準星を観測し,精密測量を行うのと同じ原理で 1 関東支所宇宙電波応用研究室 企画部(現通信科学部) アンリツ株式会社 215 受信局の位置を求めることができる.ただし,電波源と 受信局(または基線ベクトル)との幾何学的な位置関係 の制限から,基線ベクトルの Z 成分(地球の赤道面に対 して垂直な方向成分)を求めることはできなかった. わが国においては,通信総合研究所が開発した最初の VLEI 観測システム(K-1 )を用いて,静止衛星 ATS-1 (米国の応用技術衛星 1 号)の 4GHz 帯の電波の干渉 観測が行われた(1977 年)ω .この実験は, K-1システ ムの VLEIとしての基本的性能を実証するためのもの であり,精密演J j 地を指向したものではなかった. 人工衛星(惑星)などの軌道測定を目的とした実験も 多数行われている.これは,地上の観測局の位置(或は 基線ベクトル)を既知として,電波源の位置を測定しよ うとするものである.静止衛星 ATS-3 を対象とした実 験は, 1970 年代の初めに米国内の観測局を用いて行われ た(1972 年){幻.この実験では,衛星までの距離を別途 測定し(レンジング),これらのデータを併用すること により,衛星の位置が約 70m の精度で得られた.最近 では,通信総合研究所と米国のジェット推進研究所 (JPL )は,共同で太平洋上空の静止衛星(DSCS-II)

2.3 相対測位用 GPS 受信機 - NICTVol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 215-227 研究 2.3 相対測位用GPS受信機 木内 等* I 杉本裕二本2 亀山清信*3

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Page 1: 2.3 相対測位用 GPS 受信機 - NICTVol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 215-227 研究 2.3 相対測位用GPS受信機 木内 等* I 杉本裕二本2 亀山清信*3

Vol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993

pp. 215-227

研究

2.3 相対測位用 GPS受信機

木内 等*I 杉本裕二本2 亀山清信*3

(1993年1月25日受理)

2. 3 DIFFERENTIAL GPS RECEIVER

By

Hitoshi KIUCHI, Yuji SUGIMOTO,

and Kiyonobu KAMEYAMA

Differential measurement method is never fail to high accuracy geodesy. We discussed about

differential method applied to the GPS receivers. Differential GPS in the early stage, the

received signal from GPS was dealt with noise and pseudo range was measured by correlation

processing, just like as VLEI. A new differential GPS receiver, called PRESTAR, has been

developed by CRL, and is designed to be used in positioning and ionospheric measurement.

PREST AR reproduces the signal clocks and carriers from the received signal, and pseudo range

is measured by the phase of them. We discussed about this system applied to the stability

measurement of the atmosphere.

[キーワード] 汎地球規Jj位システム,超長基線電波干渉計,相対測位 GPS,擬似距離,電離層遅延.

GPS, VLEI, Differential GPS, Pseudo delay, Ionospheric delay.

1 はじめに

字宙における電波源の位置や構造を干渉計によって測

定することは,電波天文学と共に長い歴史を持っている.

しかし,人工の電波源を対象とした実験研究は, 1970年

代に入ってから始まった.調Jj地を指向したものとして代

表的なものは,米国のアポロ計画で,月面上に置かれた

2GHz帯の電波源(これは ALSEP: Apollo Lunar

Surface Experiments Packageと呼ばれる実験機器

の一部である.)をカリフォルニア州南部の約 lOOkm

離れた受信局で構成する干渉計で観測するシステムであ

る (1976年)ω.このシステムは,約50000ジャンスキ

(1ジャンスキは, 10ーおw/m2Hz)と強力な電波を受

信するため,アンテナ直径が 2.5m小型でミすみ,周波

数帯域幅が約 6kHzと狭いのでリアルタイムでデータ

を伝送し,相関処理をすることが可能なものであった.

VLEIで準星を観測し,精密測量を行うのと同じ原理で

事1 関東支所宇宙電波応用研究室叫 企画部(現通信科学部)同 アンリツ株式会社

215

受信局の位置を求めることができる.ただし,電波源と

受信局(または基線ベクトル)との幾何学的な位置関係

の制限から,基線ベクトルのZ成分(地球の赤道面に対

して垂直な方向成分)を求めることはできなかった.

わが国においては,通信総合研究所が開発した最初の

VLEI観測システム(K-1)を用いて,静止衛星 ATS-1

(米国の応用技術衛星1号)の 4GHz帯の電波の干渉

観測が行われた(1977年)ω.この実験は, K-1システ

ムの VLEIとしての基本的性能を実証するためのもの

であり,精密演Jj地を指向したものではなかった.

人工衛星(惑星)などの軌道測定を目的とした実験も

多数行われている.これは,地上の観測局の位置(或は

基線ベクトル)を既知として,電波源の位置を測定しよ

うとするものである.静止衛星 ATS-3を対象とした実

験は, 1970年代の初めに米国内の観測局を用いて行われ

た(1972年){幻.この実験では,衛星までの距離を別途

測定し(レンジング),これらのデータを併用すること

により,衛星の位置が約70mの精度で得られた.最近

では,通信総合研究所と米国のジェット推進研究所

(JPL)は,共同で太平洋上空の静止衛星(DSCS-II)

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216

を日本,オーストラリア及び米国の観測局による VLBI

で観測した.この実験では,衛星とその近くに見える準

星とを交互に観測する差動(Differential)VLBI法に

より衛星の位置を数mの精度で求めることに成功してい

るω.また,アポロ16号プロジェクトでの月面車の動きを

VLBIで測定した例もある.この実験では,約4km程

度動き回った月面車の位置を VLBIで求めた結果と月

面車上の装置による測定結果との差は, 50m以内であっ

た.

更に遠方の人工電波源を観測した例も多い.例えば,

1979年から1980年代初めにかけて米国のポエジャ l号,

2号の軌道測定が JPLにより,深宇宙追跡網(DSN:

Deep Space Network,カリフォルニア州,オースト

ラリア及びスペインに地球局がある)のアンテナを用い

た VLBIによって行われた.ボエジャは,木星や土星

を探査し,太陽系の彼方の深字宙を航行したが,地上か

らの追跡ではどうしても地球とボエジャを結ぶ視線方向

に対して垂直な方向での位置決定誤差が大きかった.

VLBIを用いることにより,約0.01秒角の角度精度

(これは,従来の方法に比べ約5倍の改善になる)が達

成されたω.これらの例に示されるように,相対測位

(干渉)方式は高精度を必要とする分野において欠くこ

とのできない方式である.我々は,この相対測位方式を

信号の干渉により実現するのではなく,信号コードクロッ

ク,信号キャリア(搬送波)位相を測定する方式として

GPS調lj位に取り入れ,高精度を目指せるシステムの開

発を行った.

2. GPSによる測距方式の分類

近年,宇宙技術の導入により位置の測定の精度は,著

しく改善され,とりわけ長距離においては, VLBIや

SLRの出現により大陸聞においても訊Jj距精度は, 2cm

(相対精度10~s オーダ)にも達している.しかしなが

ら,測地,測量,地核変動など我々の生活に深く結びつ

いた中距離(lOkm~数lOOkm)における測距技術は,

一般に10-6程度であり,その測定も気象条件に大きく

左右されていた.ここで述べる装置は,中距離における

浪tl位,測距に宇宙技術(VLBI,衛星精密軌道測定など)

を応用し,米国の GPS衛星を利用した高精度測位シス

テムである.

GPS利用測位システムは,中,短距離において10-1

の高精度を期待でき,従来の測量機器に取って変わる可

能性がある.このシステムの特徴は,全天候,簡易,高

精度にあるが,位相の精密測定だけでは実用にならず,

伝嫌遅延などの各種補正を含む解析,高精度軌道推定と

通信総合研究所季報

そのための観測網を総合したシステムとして構築しなけ

ればならない.

NAVSTAR/GPSは,米国国防総省が開発を進めて

きた衛星航法システムで, NAVSTARは, Naviga-

tion System with Time and Ranging, GPSは,

Global Positioning Systemの略である.既に他章

において詳しく紹介されているので,ここでは概要を述

べるにとどめる.このシステムは,米国海軍及び空軍に

おいて別々に開発されてきたものを1973年に結合したも

のであり,現在運用段階に移行されている.

GPS衛星は,地表の任意の点から同時に少なくても

4つ観測できる.このシステムでは,米国の衛星航行シ

ステム NNSS(Navy Navigation Satellite System)

の欠点(1)衛星が上空にきた時以外測位ができない,(2)測

位に時間がかかる,等を克服し,更に測位精度を向上さ

せる(一般ユーザで絶対測位精度lOOm,軍事ユーザで

同16m,速度0.1m/sec,時刻情報100nsec)と共に,

耐妨害性も向上させようとするものである.

利用面は,単に地表の移動体の航法にとどまらず,宇

宙における航法や実用及び学術面での精密測位,時刻比

較,超高層大気の研究などに広がることが予想される.

各々の GPS衛星には, 数台の Rb発振器及び Cs

発振器を搭載しており,これらを基に衛星内の基準信号

が作られている.また, GPS衛星からは,後述のよう

に2つの周波数で時刻,衛星の軌道情報などが常時送信

されている.

2. 1 測定法による分類

GPS衛星を用いた測位には,原理的に異なる以下の

2つの方法が考えられる.

(1) 片道測距による絶対i.fllJ位(Oneway range)

第1図参照.GPS衛星の航法信号をデコードし GPS

衛星の時刻と位置と測定者の時刻を比較し測定者の位置

を求める方法である.この距離は,幾何学的に定まる距

離ではなくて伝搬媒質による遅延及び衛星と測定者の相

対的な誤差を含んだものである.これは,擬似距離

(Pseudo range)と呼ばれる量である.伝搬媒質の影

響は別途補正し,最低4個の GPS衛星について擬似距

離を測定すれば,測定者の位置及び時刻差を求めること

ができる.また, 3つの衛星を用いて観測者の時計誤差

を測定量に入れないと,旗I]位解は図中の影の部分となり

正しい位置が求まらない. 4つの GPS衛星の方向の独

立性が推定精度に直接影響する.

なお,浪tl定条件の近い 2地点については,推定値に含

まれる系統誤差(オフセット)が同じ性質を持つ場合が

予想される.このとき 2地点聞の距離は,各々の測定点

の絶対浪tl位精度より高い精度で得られることが予想され

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Vol. 39 No. 4 December 1993

~ 議ヲ犠ミ::inun

USER CLOCK OFFSET = tu USER CLOCK RANGE BIAS= CMu

Di'=Di+C・ AT a+C・(ATu-ATsvl

Di=SQR((X1-Xu)2+(Y1-Yu)2 +(Zl-Zu)勺

XI, YI, ZI, AT剖: GIVEN

第 1図片道測距による絶対測位

DELAY OBSERVABLE GENERATION

第 2 図差分測~!'!による相対測位

る.この応用として, 2局の絶対測位差を測定量とする

トランスロケーション法があげられる.絶対測位では,

航法情報を解読するためにコードの内容を理解していな

ければならない.

(Z.)相対(差分)測位(Differentialrange)

第 2図参照.この方式では, VLBIと同様に,複数

の測定点と GPS衛星との距離の差を観測値とする.得

られる観測l値は,(1)と同様に擬似距離と呼ぶべきもので

ある.ただし,伝搬媒質遅延や測定者の時計の影響は,

全てそれら 2測定者に関する差のみが意味を持つ.この

217

ため,衛星自身の持つ時計の影響などは2局で相殺され

る.

基線長や基線ベクトル,さらには各測定点の絶対位置

の推定に関する可観測性は,やはり GPS衛星の個数及

び分布に依存し, VLBIにおける観測の最適化の手法

と全く同じ様に検討できる.GPS衛星は,準星を対象

とする場合に比べ信号形式が既知であること,電波強

度が大であることなどの利点があるが,電波源の位置を

高精度で求めるのに努力がいるという難点もある.

ここでは主に(2)の方式に絞って説明を行う.

2. 2 GPS衛星による相対測位

宇宙の人工電波源を観測することの利点は電波が強力

でかっその性質が既知であることである.このことは,

信号の干渉処理操作が一般に簡単になることを意味して

いる.ところが,精密測地を目的とする場合には, 2つ

の重要な必要条件がある. lつは用いる電波源の位置が

高い精度で求められることであり,他は,人工電波源が

天空上のいろいろな方向に,しかも短時間の内に現れる

ことである.

GPS衛星は,その位置さえ高精度で得られるならば,

上記の必要条件を満たし,本格的な精密測地に利用でき

る.

GPSを利用して精密測地を行うシステムに関する研

究は, 1970年代の終わり頃から JPLやマサチューセッ

ツ工科大学の研究者によって開始された.当初は,

GPS衛星の発射電波を VLBI方式で干渉観測するも

の(JPLの SERIES: Satellite Emission Radio

Interfer官 neticEarth Surveying方式, 1979平6うか

ら始まった.ついで, GPS衛星の既知の信号の性質を

利用する方式が開発された.例えば,同じ JPLの

SERIES-X : Satellite Emission Range Interferred

Earth Survey (1979~19sW1>方式では, GPS衛星の

航樹言号の変調に利用されている周波数拡散符号のクロッ

ク信号を再生し,これの干渉観測(クロックの位棺差の

計測)を行う.更に,その後マサチューセッツ工科大学

などのグループにより航法信号の搬送波を再生し,その

位相差を計測する方法も研究開発されたω.現在では,

これらを総合的にデジタル的に行う方式が主流になりつ

つある.

以下では,これらの各種方式について原理及び特徴に

ついて検討する.

3. VLBI型 GPSレシーパ

この方式は,現在用いられていないが, GPS衛星か

らの信号をデコードしない方法として,最も初期に考案

された方法であり,既存の VLBI技術を応用した測位

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通信総合研究所季報

VLBI型では, 2局の受信データから遅延時間らを

決定するのにまず相互相関関数を求め,そのフーリエ変

換から相互相関スベクトルを求める.そしてこの虚部と

実部の比の arctanとして位相スベクトル 8(w)を求

め,これからら= d8(w) I dwを決定する.従って遅

延時間の決定精度は,データの周波数帯域が広いほど高

くなる.決定される遅延時間には,不確定性及びサイク

ルスリップ(後述)などは存在しない利点がある.実際

の VLBIでは受信帯域幅が 500MHzにも達し高精度

を達成している.また 1チャネルあたりのサンプルレー

トは, 4MHz, 16chにも達する.このためシステムは,

大型・複雑化している.

3次元的に 0.5~3cmの精度を 2~200kmのベース

ラインで 2時間以内で得ょうという目標で考案された例

として SERIESがあげられる.

3.2 電離層補正

宇宙からの電波を受信するシステムでは,電離層の影

響を無視できない. Ll信号は, L2信号より 348MHz

高い周波数であり,電離層のような分散性の媒質を通過

した場合,周波数の自乗に反比例した遅延を受ける.こ

のため2周波を用いて電離層の補正が可能となる.

t -..A:.L c (c・j2)

A: 40.34

I : columnar electron content [electron/m5]

f : frequency [Hz] c : speed of light [m/s]

t8 : ionospheric time delay [s]

LlとL2の2波による遅延差 Tuは,

T8= t82-t81

・・・(1)

AI c[(l/ /2)2ー(1/ /1)2]

T8 : min 1. 75 ns at I=O. 5Xl017 el/m2

max 87. 50 ns at 1=2. 5×101s el/m2

fl (1575.42 MHz), f2 (1227.60 MHz)を代入すると,

Llでの電離層遅延は,

・・・(2)

原理を理解するには最も都合がよい方式である.

この方法では,衛星に対する制限は殆どなく,変調方

式,コードなどはいっさい問題とならない.これは,

GPS衛星からの信号を準星からの信号のように擬似ノ

イズとして扱うためである. VLBIとの相違点として

は,電波源の他に,

1. 受信波が平面波ではなく球面波である.

2. 信号強度が強いため相関積分時間が短くてすむ.

3. 受信帯域幅が狭い.

等があげられる.欠点としては, VLBI同様システム

が高価で大がかりになることがあげられる.

3. 1原理

人工衛星などからの電波を2地点で独立にかっ同時に

受信をして,受信データを持ち寄って相関処理をするこ

とにより,電波の 2地点への到達時間差(遅延時間)を

高精度で決定する. VLBI型 GPSレシーパでは,各

受信局が,それぞれ高安定な時計を保有し,時刻やロー

カル周波数を供給するため,アンテナ聞の距離を数100

km程度までとることが可能となる.

VLBIでは,星からの信号は星と地球間距離が遠い

ため平面波として扱え,原理的には基線長によらず,距

離測定の相対精度は,基線長に比例して高くなる.一方,

GPSの視lj距では,衛星からの信号は球面波となるため

基線長に依存した項が入り込み,単純に基線長に比例し

て精度は高くはならない.測定値からベースライン決定

については,本特集号2.7. PREST AR実験結果に詳

細があるのでそちらを参照して頂きたい.

VLBIとは使用周波数,周波数帯などでいくつかの

相違がみられる. VLBIの場合は, Xバンド(8180~

8600MHz), Sバンド(2200~2320MHz)と広帯域で

ある.一方 GPSでは, Llバンド (1575.42±10. 23

MHz), L2バンド (1227.60± 10. 23 MHz)と VLBI

に比べるとかなり狭帯域であり,第3図にあるような信

号スベクトルを持っている.準星からの信号は,ホワイ

ト雑音であるが非常に弱く, GPSからの信号は,狭帯

域ではあるが準星からの信号の105倍程度強力である.

218

巳/AMODULATION

FREQ. ト-20MH斗

活主O&

VLBI型干渉法による電離層補正第4図GPSスベクトノレ第3図

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Vol. 39 No. 4 December 1993

tg= 1.54・Tg ・・・・・・(3)

となる.

LlとL2のPコードは,コヒーレントであるために

先に到達した Llにディレイをかけて L2と相関をとる

(第4図).これにより,相関値が最も大きくなるところが

電離層の遅延量 Tsとなる.電離層遅延補正において

も不確定性は存在しない.これを式(3)に代入して Llバ

ンドの電離層遅延量を求めることができる.

3.3 相関検出感度およびハードウェア

VLBIでは,品質の良い相聞を得ることが第一に必

要であり, VLBI観測システムに要求される基本機能

となる. しかし電波源からの信号は微弱であるため受信

データのうちかなりの部分は相聞のない2局のシステム

雑音などで占められる.検出される相関の大きさに比例

して遅延決定精度が良くなることから,限られた電波強

度の中でいかに大きな相闘を検出できるかが VLBI観

測システムの性能指標となり,これを相関検出感度と呼

ぶ.

受信データの内,相聞の取れる信号の全信号に対する

割合(通常相関振幅と呼ばれ, ρで記述される.)は,

次式で書き表すことが出来る.

ρ= Ta1Ta2

( T .i+T a1XT s2+T a2) ・・・(4)

ここで, Tai• Ta2は,等価雑音温度で表された2局

での電波受信強度, T.1,T.2は2局の受信系システム

雑音温度である.受信信号雑音温度, TaiCi= 1,2)

[K]は,電波源の電波放射強度 ScCwm-2Hz 1)から

次式で与えられる.

T 一生生ial- 2k

=委D;2ηt ・…・(5)

A.;: 2局の実効アンテナ開口面積(i=l,2)[m2]

D;: 2局のアンテナ開口径(i=l,2)[m]

仇: 2局のアンテナ関口能率(i=l,2)

h:ボルツマン定数[wK1Hz-1]

この式を(4)式に代入し, T.;》Ta;(i=l,2)を考慮する

と,

nSc I D1D2η1可2ρ=Bk..! 寸τて7 ・・・・・・(6)

上式で表される相関振幅は,受信系が熱雑音を発生す

る以外は理想的な場合で有り,実際にはローカルなどの

影響により相関係数の低下を招く.この相関係数の低下

を LeCO三五 Le孟 1)とすると上式は,次式のように書

き換えられる.

πSc p=百五ー

但し, Le=Lc1・Lc2・.

219

・・・(7)

ここで Leは,コヒーレンスファクタと呼ばれ各装置

やデータ処理過程で生じる相関振幅の低下 Le;の積と

なる. Scは, GPS衛星からの信号の強度として与え

られる.

SINは,

SIN= "12l:fT ・p B:周波数帯域幅

T:積分時間

として与えられる.

・・伶)

VLBI型の受信装置(SERIES)のフ’ロック図を第5

図に示す.この方式では,マイクロストリップ・フェー

ズドアレイアンテナが用いられる.利得は, 27dBi.信

号は, LNA通過後 IFに周波数変換され,ビデオコン

パータ部によってビデオ信号に変換される.このビデオ

チャネルは時分割,周波数分割されており,それぞれス

イッチによって切り替えられサンプリングされる.バン

ド幅合成には,キャリア周波数を中心として lOMHz

離れたノてンド幅100~2.4kHzの2つのチャネルが用い

られている.この信号は, 4.8kHzでlbitサンプリン

グされる.これにより, lOkbpsほどのデータで 10

MHz相当の等価受信帯域が得られる.このサンプリン

グされた信号は, 1とOがランダムに並んだ擬似ノイズ

と考えられる.この信号に時刻ラベルなどが付加されて

フォーマッティングされる.これらは,記録後基地局に

集められて相関処理が施される.

バンド幅合成のために, LNAの前面から Phase

caliblation信号を入力する.この信号は,受信器の相

対遅延量を補正するばかりか,周波数特性をも補正する

ことがで、きる.この信号を基準とし,時分割,周波数分

第5図 VLBI型 GPS受信器プロック図

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220

割されたチャネルのバンド幅合成が行われる.

VLBI型 GPSレシーパは, VLBIと原理的にも方

式的にも殆ど代わりのないシステムであり,得られる測

定量は全て群遅延量として扱える.

実際には, 4秒間で 1つの単位をなし,この聞に時分

割で4つの衛星を各4チャネルで観測が行われる.つま

りチャネルあたり0.25 secの観測時間であり, 1200bits

データが得られる.このときの SINは, 24程度を得て

いる.

このように,システムの考え方はシンプルで不確定性

無しに高精度が期待できる.式(7),(8)より高精度化には,

アンテナ径を大きくする,雑音温度を下げる,積分時間

を長くする,帯域を広くするなどが考えられるが,帯域

については GPS信号拡散帯域などで制限を受ける.こ

の方式では,どうしても大型なものになってしまい現在

ではこの方式のものは存在しない.

4. クロック,キャリア再生型 GPSレシーパ

信号のクロック,キャリアを再生し位相測定すること

で,相関処理という複雑な処理を省け小型化を可能にし

たのが PRESTARであり,当所において開発された

GPS受信システムである.このシステムでは, VLBI

裂の GPSレシーパのように GPS衛星からの信号を全

くの擬似信号として扱うのではなく,各コードのクロッ

ク(チップレート)及びキャリアを再生し,このタイミ

ングをもとに測定を行う.このため,コード情報を再生

する必要はなく,コードレスシステムでも運用可能であ

る.ただし,プロトタイプ PRESTARはキャリア再

生の容易さから CIAコードを用いている.

また,データは VLBI方式のように生の信号を記録

するのではなく,地上局の基準クロックと GPSからの

受信クロックとのタイミング差を計測してこれを記録す

る.取得されるデータ量は VLBI方式に比べて格段に

少なくなる.ただし測定される量は,コードクロック或

いはキャリアの l波長分での端数に相当する量である.

このため波数(2n)の整数倍の不確定性が残り,データ

処理時にこの波数の整数倍に相当する不確定性を取り除

かなくてはならない.

4. 1原 理

GPS衛星より発せられた電波は,第6図のように球

面波として伝搬する.いま, 2局のベースラインベクト

ルを B,局 lでの GPSの方向の単位ベクトルを Sと

し,さらに図のように ρt> P2を定めると次式が成立す

る.

ρ22=ρi2+B2-2ρ1・B・cose

ここで, -S・Bを求めて変形すると,

・・・(9)

通信総合研究所季報

dρ=ρ2ρ1

{(ρ,一ρ,)2-B2) = -S・B+ '且……( 10)

(2ρ1)

が求められる.ここで側式の最後の項は,平面波と球面

波との補正の意味を持っている.平面波を用いる VLBI

では,この項は,ゼロである.実際の観測においては,

GPSの時計および局 l, 2の時計は,同期していない

のでクロックオフセットの項が入り,さらに伝離層,対

流圏での遅延などを含めた擬似距離を観測することとな

る.

dρ=ρ2一ρ1

{(ρ2ρi)2 B2) =-S・B+ “

(2ρ1)

+cCLJら-Llt1)+ctr M ……仙

(II)式において (Llt2-Llt1)は, 2局の時刻差であり trM

は,伝搬媒質遅延である.この式において GPS衛星の

時計の影響が入ってこないのは, 2局での同時観測によっ

て共通な項として相殺されるためである.

各局で観測される衛星までの距離は,

局l:ρ1=Cf1T1)clf+N1cl f

局2・ρ2=Cf2T2)clf+N2cl f ……問

と表すことができる.ここで Ji,/2は,局l,局2で

観測されるクロックレートであり, T1,T2は,局の基

準クロックとのタイミング差である.式(12)より次式を求

SPHERICAL WAVEFRONT

p2

D.p=p2-pl ~AVELENGTH AMBIGUITY

D.p’=%<t2T2-f1T1)+予(N2-N1)

D.p =一三百一(勺fザ+c(Mu1:Mu2)+cτTM

USER CLOCK DIFFERENTIAL /

TRANSMISSION MEDIA ERRO

第6図相対損lj位原理図

Page 7: 2.3 相対測位用 GPS 受信機 - NICTVol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 215-227 研究 2.3 相対測位用GPS受信機 木内 等* I 杉本裕二本2 亀山清信*3

Vol. 39 No. 4 December 1993

めることができる.

dρ=ρE一ρI

= C/2・T2-f1・T,)c/f+Nc!f ……(13)

式(JD及び式(13)と衛星の位置情報よりベースラインベク

トルと時刻差が求められる・ trMについては,別途測

定可能である(電離層補正参照).また, N について

は, ドップラ周波数より不確定性なしに求めることがで

きる.

以上より,未知数は B CB引 By,B,), C1t2-L1t,)

の4つである.よって衛星を4つ以上観測する必要があ

る.

この方法では, Pコードで 29.7 m/2, Cl Aコードで

297 m/2の不確定性がある.

4. 2 GPS信号構造

PREST ARの場合,受信信号はランダムノイズとし

て扱われるのではなし信号中の拡散クロックレート

(コードチップ〕の抽出を行う. このため信号構造を知っ

ておく必要がある.ここでいう信号構造とは,コードの

内容の事ではなく,キャリアとクロックとのタイミング\

変調方式などの事である.

GPS衛星より送信される信号は, Llバンドに於て

次のような形をしている.

SL1(t)= APID(t)P(t) cos[wLlt+ゆLI]

+ Ac1AD(t)C(t)sin[wL1t+ゆLI]……(I品

ここで右辺第1項はPコード情報であり,右辺第2項

は CIAコード情報である Pコードのベースパンド信

号 P(t)は,

P(t)= 2:.PkB合(t-kT.) … … ( ! 日k

Pk : ±1 Pseudo random variables

Bρ(t-kTρ:Box function Tp= (10.23 MHz)ーl

CIAコードのベースパンド信号 C(t)は,

i P baso band

C唱 baseband

vVv~川、川川ハlJ\V\fv~vい

し附川川川¥JW¥Mi川.;\へi¥第7図 GPS信号構造

221

C(t)= 2:.CkB.(t kT.) ……閥

Ck : ±1 Pseudo random variable

T. = (l.023 MHz)ー1

である.また Ap,Ac1Aは振幅を示している.D(t)

は, 50Hzのデータコードであり Pコード, CIAコー

ドに同じものが入っている.またPコード成分と CIA

コード成分は,全く独立に作られ, 2相 PSK信号2つ

の和の形をとっている.APIとんIAには,レベル差

(3dB: Ap1くAc/Aがあり,第7図に示されるような

信号形式である.L2バンド(L2=1227.6MHz)には,

CIAコードはのっていない.このため, Llバンドの

式凶の右辺第l項のみで次式のようになる.

Sdt)= AP2D(t)P(t) cos[wL2t+ゆL2J ……(17)

上記の 2つの式で示した信号の Ll,P, CIA, L2は,

すべて送信時に同期されており,この精度は2nsより

もよいものである.また, GPS衛星に搭載されたクロッ

クは,打ち上げ前に固定的に入る相対論的効果を除くた

め発振周波数を 10.23MHzに対して 0.00455 Hz だけ

低くしてある.

4.3 信号処理

プロトタイプ PRESTARブロックダイアグラムを

第8図に示す. Ll, L2バンドの信号は,マイクロスト

リップアンテナで受信される.

ここで, Llバンドの信号処理について説明する(L2

バンドについても等価). GPS衛星からの遅延じを考

慮して式(14)を変形すると,

V Ll(t)

= Ap1D(tーら)P(t一九)cos[wL1Ctーら〉+ゆLI]

+Ac1AD(t一τ•)C(tーら)sin[wLl(t一τ,)+ゆLI]

... (18)

となる.なお, τsには GPS衛星から受信アンテナま

での遅延として伝搬媒質遅延,さらに GPS衛星と地上

第8図 PREST ARブロック図

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222

局との時刻差が含まれている.ただし,局内遅延及び周

波数変換による位相変化は,この式から省いてある.

PREST ARの場合,これらの量はアンテナ直下で挿入

される DelayCalibration信号で校正される.受信信

号は, 1stローカル Cl440MHz)により周波数変換さ

れた後 IFフィルタ(BPF)を通り 3分配される.

まず信号クロック再生について述べる. l番目の分岐

は,フィルタ通過後半クロック遅延検波が施されて

CIAベースパンドクロックが再生される. CIAコード

の半クロックは, 490nsに相当する. 2番目の分岐で

は, 49nsの半クロック遅延検波が施されてPコードク

ロックが再生される.

遅延検波についてもうすこし詳しくみてみる.上式聞

を IF得での信号に書き直す.遅延を受けない側の信号

は,

V Ll(t)

= Ap1D(t)P(t) cosゆ+Ac,AD(t)C(t) sinゆ

ゆ= LlwLlt-wL山+ゆLI一仇,-¢>11

LfWLI = WLI一wh1

t=tーら一τII

τII:局内遅延

ゆ'II:局内における移相量

whl : 1stローカル周波数。hi: 1司波数変換による付加位相

・・・・・・09)

遅延を受けた側の信号は, tを t-r:q(τq:半クロッ

ク)で置き換えたものに等しい.また, Pコードと

CIAコードは無相関関係にあるので検波信号は,

< v Ll(t)V L1Ctーら)>

= Ap2 < D(t)D(tーら)>・cosφcos[φ-LlwLlr:q]

+Ac1A2くD(t)D(tーら)> < C(t)C(tーら)>•sinφsin [ゆ-LfwLIτqJ …ClO)

と表される. pコード, CIAコードの 1チップは,デー

タレートの lチップ(20ms)に比べて非常に小さい.

このことより, D(t)はD(tーら)と等価と考えられ

< D(t)D(t-r:q) >は,ほぼ1.0とみなせる.

く P(t)P(t一九時)>をフーリエ展開してみると

くP(t)P(t一τq)> =ap+bρcos[wρt+φρ] +higher harmonics

αρ=1ーτqiTp

bp= (2 I n)sin[πτq I TqJ

め=n(l一(τqIT p))

・・・・・・削

第2項が我々が求めたい成分であり,第1項と第3項

以上は,フィルタで除ける.ここで得られた信号は,

通信総合研究所季報

PLL狭帯域ループフィルタを通過する.この PLL回

路はデジタル構成となっており,出力周波数(位相)が

リアルタイムでモニタできる.この値が信号位相そのも

のとして測定される.27Hzが GPS衛星からのドップ

ラ周波数の最大値である.これより求められるPコード

チップは,

SP;LI = Ap12bρcos(LlwL1τq)

・cos[L/wpt一Wp(τII一τPl+九〕+φp+φPl(wp)]

・・・悶

のようになる.これは, 10.23MHzの拡散された信号

が潰されて SIN波になったことを意味している.我々

は,この得られた SIN波(クロック)と地上局の基準

クロックとの差から擬似遅延を求めることができる.ク

ロックは,群遅延量としての性質を示す物理量である.

次にキャリア再生について説明を行う.

受信信号は, 1stローカル(1440MHz)により周波

数変換された後, IFフィルタ(BPF)を通り 3分配さ

れた 1つを用いる.フィルタ通過後 Frequency

doublerにより 2倍のキャリア周波数が取り出される.

搬送波周波数が 2倍にされるのは,変調方式が2相

PSKのためである.また,フィルタは, CIAコード

で拡散された搬送波を取り出すために必要である.注意

すべきは,キャリアは位相遅延量としての振る舞いをす

ることであり,コードクロックとは解析時の扱いが異な

る.

4. 5 電離層補正

電離層による遅延は, Ll(1575.42 MHz), L2 (1227.60

MHz)の 2周波の変調クロックのタイミングを用いて

補正することができる.LlとL2の変調タイミングは,

一致しているか一定のオフセットがあるかのどちらかで

ある.オフセット分については, 2局で共通に入り込む

量であること,時間と共に変化しない量であることなど

から除くことができる.この場合も3.2.章のところで述

べた電離層の式を用いることができる.ただし 2周波の

遅延差を求める方法は,相関によるものではなくて Ll,

第9図 PREST AR電離層補正

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L2バンドのクロック差(再生コードチップ)によって

求められる(第9図). Pコードのクロックレートは,

10. 23MHz (約 100ns)なので電離層の影響(MAX

87.5 ns)より大きく,不確定性なしに電離層の影響を求

めることができる.相関法により求める場合, 0.1ns

で決定するのは帯域幅が狭いためかなり厳しいものであ

るが,この方法を用いれば可能である.

4.6 ハードウエア

GPSレシーパは,アンテナ方式によって次の 2つに

分類される.

I. アンテナとしてオムニディレクショナルアンテナを

用い水平線上にある GPS衛星を全て同時に受信する方

この場合,複数衛星からの信号は,同時に受信される

ので,信号上では混在した形となる.各 GPS衛星から

の信号は,拡散コードの違いによりお互いに無相関の擬

似雑音であり受信信号聞での悪影響はない. GPS衛星

と局との位置関係により相関信号(フリンジ)のドップ

ラ偏移による回転周波数が各衛星により異なる事を利用

して衛星の分離が行われる.この方法では,アンテナの

ゲインが殆ど無いため相関積分に時間がかかる.また,

アンテナの位相中心を正確に把握する必要がある.

II. ある程度指向性を持った利得の高いアンテナを用い

て衛星のプログラム追尾を行う方式.

指向性アンテナで衛星の分離と信号の SINをかせぐ.

衛星は,時聞を追って順にアクセスされる.この方法で

は, SINが高いため Iの方法に比べて信号の積分時間

が短くてすむ.記録された信号に複数個の衛星の信号が

同時に入った場合でもドップラの違いで容易に分離でき

る.マルチパス,フェージングによる影響をオムニディ

レクショナルアンテナより少なく抑えることができ,利

得の仰角依存性がない.アンテナは駆動されるので

VLBI同様測位の基準となる不動点(アンテナ駆動2

紬の交点)が明確になりオムニアンテナでのアンテナの

位相中心(測位基準点)の問題が生じない,などの利点

がある.

これら 2つの方式のどちらを選択するかでシステムの

性格が決定される.

PREST ARでは, Eの方式を採用した.Ll, L2バ

ンドの信号は,マイクロストリップアレイアンテナを用

いて受信される.一般にマイクロストリップアンテナは,

利得,円偏波率(紬比),インピーダンス特性が狭帯域

という欠点がある.マイクロストサップアンテナの広帯

域化については,いろいろな方法が提案されているが,

1.5 GHz帯には給電位相を変えてアレーを構成する

“シーケンシャルアレー”方式を, 1.2 GHz帯には二

223

素子をベアにしてアレーを構成する方式の 2方式を採用

した.その結果,利得は 1.5 GHz帯で 18.7 dBi, 1. 2

GHz帯で13.1dBi,軸比は 1.5 GHz帯で 1.6dB,1.2

Hz帯で 1.4dBとなり,特に 1.5GHz帯においては,

直径 67cmのパラボラアンテナ(関口効率60%)に相

当する利得が得られた.詳細については前章を参照され

fこい.

アンテナにより受信された信号は,増幅後帯域制限さ

れる.Llバンドの信号は, 1575.42MHzを中心とし±

10. 23MHzの帯域を持った信号のみが切り出される.

一方, L2バンドの信号は, 1227.6MHzを中心とした

帯域±10.23MHzの信号として取り出される.

Llバンドの信号は, Pコードと CIAコード, L2

バンドの信号はPコード拡散されているので,上記の遅

延検波により, LlバンドPコードクロック, CIAコー

ドクロック, L2バンドPコードクロックを得zることが

できる.これらの信号は,局内基準信号発振器より得ら

れた基準周波数と位相比較(実際は,デジタル PLL発

振位相として測定されるゆ= τ・/)され瑚3を用いて各々

の擬似遅延を測定する.

2相 PSK変調の場合,コードを知らなくても半クロッ

ク遅延検波によってクロックが再生可能である.この様

子は,上述したがさらに図に表したのが第10図である.

図中の信号は,アンテナにより受信され周波数変換され

た IF信号であるので,本来 PSK変調された信号で示

哨|門||「J し」||

川 I~"h I l L_ー

ベ-・・n-・・11n〔_J L」LJ LJ L __

nr・n n n n. n

1£5

〉、ぜ.. t

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PLUS

叩|附A附{P(~

第10図 クロック再生原理図

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224

すべきであるが,理解を得易くするためにベースパンド

信号で示しである.半クロック(T/2)遅延とは, CIA

コード 1/2チップ(T=498ns), Pコード 1/2チップ

(T=49.8ns)の遅延量である.この遅延量(図中 τq)

がコードの1/2チップからずれた場合(図中 Tρ/2=τq

でない場合)は,出力の基本波(SIN波)の強度が弱まる

ことはフーリエ変換の原理からも容易に想像がつく.基

本波以外の部分は,ノイズとしての性格しか持たない.バ

ンドパスフィルタは, Pコードでは 10.23MHzを中心

としたデジタル PLLフィルタで構成され, CIAコー

ドの場合は,中心周波数は 1.023 MHzとなる.つまり

この信号処理では, 20.46 MHzの拡散された信号がコー

ドクロック基本波の SIN波まで潰される.

観測値はコードクロックの端数であり,波数の整数倍

の不確定性が「大下駄」として見積もらなければならな

い.そこで, CIAコードはPコードの, Pコードはキャ

リアの不確定性を除くために用いられる.さらに CIA

コードの不確定性除去には,不確定性のないドップラ周

波数測定値を用いて行われる.不確定性除去時には,マ

ルチパスの影響やフェージングなどの影響でサイクルス

リップと呼ばれる 2πの整数倍の位相不連続の影響を考

通信総合研究所季報

慮しなければならない.この除去には,サイクルスリッ

プの起こった前後関係から位相不連続位置を判断する必

要がある.サイクルスリップの起こりにくさ,推定作業

を行う容易さからも高利得アンテナシステムは有利であ

る.

また,電離層補正は, LlバンドPコードと L2バン

ドPコードのクロック差として測定され,これを用いて

式(3)より電離層の遅延を求めることができる.

4. 7 遅延決定精度

このシステムにおける SINは,

P.CεG) SNR,= 一一一一 一…倒

I kT,W,

P. : nominal power

(孟5xl0-17w: -133 dBm in P-code at

Ll)

εG: Antenna Gain

k: Boltzman’s constant

T. : System temperature

W, : IF band width遅延検波前

と表される.

積分によって改善される SINは,

第1表 PREST AR遅延決定精度

受信バンド LI L2 LI L2

周波数 [MHz] 1575.42 1227. 60 1575.42 i 1227. 60 コード p CIA p Carrier Carrier

再生方式 ,1. /2 delay ,1. /2 delay ,1. /2 delay Decode x 2

波長 え[田] 29.3 293 29.3 o. 19 0 a. 122

最大ドップフ周波数Hz 27 2.7 27 4158

受信レベル [dBmj -133 ー130 ! -136 ー130 I -136 フィード損失 [dB]

アンテナ利得 [dBj 18. 7 18. 7 13. I 18. 7 13. 1

受信電力 [dBm] ーl15. 3 ー112.3 -123.9 -112.3 ー123.9

システム雑音温度[K] 155 155 155 155 155

雑音電力密度[dB田/Hz] ー177.7 177. 7 -1 77. 7 ー177.7 -1 77. 7

信号密度 C/No[dB-Hz] 62.4 65. 4 53. 8 65.4 53.8

拡散手普域幅 官i[dB] 73. 1 63. 1 73. 1 63. 1 73. 1

s N RI [dB] ー1o. 7 2. 3 ー19.3 2. 3 ー19.3

量子化係数 Kc [dB] a. 2 -0. 2 -0. 2 。 。I F帯域幅 ¥II I [dB] 73. 1 63. I 73. I 63. 1 73. 1

PLL;帯域幅 WPLL [dB) 17 1 0 17 37 37 r c2引 IWPLc)[dB] 29.6 28. 0 29. 6 14.6 19. 6 SNRT(lsec) [dB] 8. 0 32. 4 -9. 2 19. 2 -I 9. 0

σT(lsec) [rad] o. 09 5. 3E-3 o. 65 o. 024 I 2. 0

決定精度 [,1. ] o. 014 8. 5E-3 0. 1 0 3. 9E-3 a. 32 [田] 0.42 o. 25 3. 0 7. 5E-4 i o. 039

lOOsec決定精度 [皿] o. 042 : 0. 025 0.30 7. SE 5 ! 3. 9E-3

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225 1993 December No.4 Vol. 39

については,次章を参照されたい.

5. PRESTARの大気位相シンチレーション測

定への応用

30

人工衛星あるいは,電波星からのマイクロ波やミリ波

を用いて地上の種々の量を測定する場合,大気中の伝搬

特性を予め知っておく必要がある.これらの周波数帯で

は,大気中を伝搬する際に大気,雲,雨などによって減

衰すると同時に波長の変化,屈折,位相変動などを受け

る.GPS, VLBI等による測地においてこれらの量は,

到来波面のアンテナへの到達時刻が揺らぐことによって

遅延時間の測定に直接影響を及ぼし,また,位相の揺ら

ぎはコヒーレンスロスを招き間接的に SINの影響を増

大させる.このため,この大気による影響を測定するこ

とは,精密測位において重要であるのみならず,大気自

身の物理という意味からも興味の持たれる分野である.

大気による電磁波の吸収は既に数多くの測定結果が報

告されているが,位相または伝搬時聞の変動の測定例は

少ない.地上間伝搬においては特殊な方法が用いられて

いるが電離層を含む地球大気を通過する伝搬路について

は測定が難しかった.

VLBIの出現により 8GHz帯での位相シンチレーショ

ン測定がアメリカ及び通信総合研究所において行われた.

VLBIでは,電波星という非常に弱い電波源を用いる

ため信号の相関を得るため大口径のアンテナと長時間の

積分を必要とした.このため VLBIで測定できない領

域(時間,空間)が残った.そこで, GPSを用いた位

相シンチレーション旗u定を今回提案する.これは,

PREST ARを用いた測定法であり,大型アンテナによ

る平滑効果,長時間積分による効果などで VLBIで測

定できない部分も測定可能である.

まず, GPSを用いた測定に於いて大気の位相を検出

できるかどうかを見積もるために, VLBIによる測定

法を考察し,位相揺らぎのオーダ評価をしてみる.

5.1 VLBIによる方法

電波星から放出される電波を 2局で同時に受信し,両

信号の相関を求めることにより 2つの信号聞の遅延時間

及び位相差を精密に求める.両アンテナで同時に受信さ

れた信号を X(t), Y(t)とする相互相関関数 R,,y(τ)

とそのフーリエ変換対である相互スペクトラム関数

Szy(w)は,次式によって表される.

Rz/τ)= S x(t)・y(t+τ)dt

=2Bcos(8+w。τ。+nBr')*(sinnBτ) I nBτ

Sz/w)= SR,,y(τ)・exp(-jwτ)dτ

= Su(w)・exp{jφ(ω)}

20

10

-Eu-Z』’目Z凶

Jz-一EZOZ凶

O凶ト

42F帥凶

・・・聞

・・・l'ITJ

SNR AND CLOCK INCLUDED

SNRT=SNR丸 J市戸子T:積分時間

Kc: 2/n at Pl, P2, CIA

1 at Ll, L2

J2育-;T:積分による改善量

と表される.SINを遅延決定精度に換算すると

a _ _l_~昼-T一2π ♂万五

と求められる.以上より求められる遅延決定精度を第1

表に示す.これより求められる基線長対遅延決定精度を

第11図に示す. GPSの場合,基線決定精度が基線長に

依存することは既に述べた(式問).今回の見積もりで

は,衛星の軌道誤差を±lOmと仮定して計算を行った.

また, PRESTARの基準となる源振には,ルピジウム

或いはセシウムを用いるものと仮定している.

PREST ARの当初の計画においては,コードクロッ

クのみのコードレスシステムであった.この時点で回線

設計と基本設計がなされた.その後キャリア再生回路及

び CIAコードデコーダが付加され製作された.L1の

キャリア再生にはアンテナゲインが十分なうえコードを

逆拡散するので擬似距離測定精度は十分に高精度となっ

た.また, C/A, P,キャリアという順で不確定性を取

り除くことが容易であった. L2においては, Pコード

クロックによる決定精度が十分でないため, P,キャリ

アという順で不確定性を除くのが容易ではない.また,

キャリア再生で2乗回路を用いるため大きなドップラ周

波数を追尾できる程高 SINを得られず, L2の PLL

フィルタ回路が不安定動作を起こしてしまった.そこで,

キャリア再生においてより低 SINでも動作可能なデジ

タルサンプリング方式を採用する事となった.この方式

・・・幽

・・・悶

PREST AR遅延決定精度

100 200

BASELINE LENGTH[Km]

EPHEMERIDES :l:IOm ACCURACY

第11図

Page 12: 2.3 相対測位用 GPS 受信機 - NICTVol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 215-227 研究 2.3 相対測位用GPS受信機 木内 等* I 杉本裕二本2 亀山清信*3

通信総合研究所季報

50

実に大気の位相変動を捕らえることができるが固定され

た大関口径アンテナのために大気の揺らぎ自身もアンテ

ナ関口面に於いて平滑化される可能性もある.また,相

関検出に必要な積分時間以下の揺らぎは検出できない.

また,長時間の観測では膨大な生データがいる.そこで,

今回は, GPSを用いた方法を提案しておく.

5.2 GPSによる方法

GPSからは,電波星よりも1Q4~1Cl5倍程度強力な電

波が放出されている.このため VLBIの様な大型のア

ンテナを必要とせず高 SINを得ることが可能である.

また,小さなアンテナのためにアンテナ面での位相平滑

効果が起こらない.測定は,積分を行わないためにはリ

アルタイムで衛星からの電波と地上局の基準時計との差

を求めることが可能である.

GPS測定値の位相の揺らぎ内は, VLBIと同様に,

a/= Os1N2+0atm2 -…・・閣

と表すことが出来る.ここで, as1Nは,雑音によるも

のであり,

astN2= 1/ SNR2

と表される量である.

高 SINであることは, astNが小さいことを意味す

る.(a5tN2=2. 7E-27 at 0.005sec). GPS衛星には,

Cs, Rbなどの原子時計が搭載されているといっても

それからの安定度は大気と同程度からそれ以下であり,

l局で衛星からの電波を測定しでも有意義な結果は得ら

れない.そこで干渉型 GPS受信方式として,局部発振

器には水素メーザを用いれば aoscを小さくすること

・・・闇

,〆・v、Thermal Noise '

貴.Atmospheric 、J・l~~t~:t~~.λ-ー__J~ _ i _:_~: Iー

CRL-NRO

17Dec1984

3C273b

8.26GHz

10

積分時間(秒)

VLBIで測られた大気の位相安定度

、、、‘ 、.、、

「E‘

第12図

握ボ10唱

,\

lトト

nu

恒川官邸

226

ここで τ’=τ+τ。

φ(ω)=ωτ。+。

也Jo:ローカJレ

B : Band width

τ。:遅延時間

。:ローカル信号間位相差

これより遅延時間及びフリンジフェーズを求めること

ができる.ここで, τ。には,局内遅延,両局時間同期

誤差,電波星と 2局の距離差による幾何学的遅延時間,

伝搬遅延が含まれている.ここで,局内遅延は一定量で

あり,時刻同期誤差も水素メーザを使用しているので観

測期間中一定量であるとみなせる.また,幾何学的遅延

時間は, VLBI観測によりベースライン長より求める

ことができる.よって伝搬媒質による遅延変動を求めら

れる.

VLBI測定値の位相の揺らぎ a;は,

。/= σS!N2+σosc2+aa1m2 …・・仰

と表すことができる.ここで, astNは,熱雑音による

のもであり,

astN2= 11 SNR2

と表される量である.

SNR= (2/π)ρSQRT(N) ……(3())

Oocsは,局部発振器によるものである. aa加は,我々

が求めたい大気による位相シンチレーションである.

実際には, aa加を検出するためには他の 2つの量を

十分に小さくするか,正確に測定しなければならない.

相関検出感度の高い大関口径アンテナ対で,強い電波源

の観測を行えば高い SINが得られ, astN2を十分小さ

くすることができる.また, VLBIでは,局部発振器

として水素メーザを使用しており, σ。Jは, 25×10-11)

程度に抑えることができる.すると,

a/=-aatm2

とおくことができる.このようにして,フリンジフェー

ズの揺らぎから直接大気の揺らぎを測定することができ

る.

次にこの様にして実際に8GHzにおいて測定された

例を示す(第12図).これは,鹿島26m-野辺山45m

間 VLBI実験で得られた相関位相から直接大気の位相

安定度の算出を行ったもので 3C273Bという強力な準

星を用いたものである(E139・, 23°).また,相関振幅

の低下からコヒーレンスロスを見積もりそれから大気の

位相揺らぎを求めることもできる.また,受信系の熱雑

音による SINの低下は,人工衛星という強い電波源を

観測することで回避している.これらによると大気がフ

リッカ成分をもち Uyは, 0.8~1.4×10-13程度である

ことが分かる.VLBIを用いた方法は高精度であり確

・・・捌

・・・(31)

Page 13: 2.3 相対測位用 GPS 受信機 - NICTVol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 215-227 研究 2.3 相対測位用GPS受信機 木内 等* I 杉本裕二本2 亀山清信*3

Vol. 39 No. 4 December 1993

ができ,近距離の場合は共通ローカルとすれば 10sec

以下の大気の揺らぎを求められる可能性がある また,

大気と同様に電離層による影響が考えられるが, GPS

から送られてくる 2周波を用いて電離層の補正をおこな

えばよい.

この方法により,これまで得られていない lHz~10

Hz聞の位相揺らぎが検出できる大気の位相変動を検出

できるであろう.

6. まとめ

今回の報告では,栢対測位 GPS受信機とはどのよう

なものか,それを実現するにはどのようにしたらよL、か

について,原理の理解しやすい VLBI型 GPS受信機

とコードクロックとキャリア位相から損lj位解を求める

PREST ARについて報告を行った.また応用例として

GPSによる大気の位相シンチレーションの測定の可能

性を探った.VLBIのよる結果を基にして大気の安定

度のオーダ評価の結果, GPSを用いた測定方法は,大

気の揺らぎを空間的にも時間的にも今までより高い分解

能で検出できうる能力を持つことが分かった.

謝 辞

最後に,適切なご助言を頂いた塩見関西支所長に御礼

申し上げます.また,コード逆拡散方式のプロトタイプ

PREST AR製作を行われたアンリツ側各位に感謝いた

します.

227

参考文献

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