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247 7 部 世界動向 地域別動向 インドのインターネット利用最新動向 7 2 1 234 5 6 7 インドの人口統計は、同国におけるインターネットの 拡大や地位の上昇、また、近い将来の成長の評価の基 本になっている。 最新の統計によると、インドは、12 億 1000 万人の人 口、333 万 m 2 にわたる国土、1 兆 7200 億米ドルの GDP、 国民1人当たり1219米ドルの収入があり、識字率は 74%である。22 の言語が話され、人口の 72%が都市部 以外のインフラの十分ではない地域に居住している。こ れらの統計からは、インドが今後、インターネットを大幅 に成長させることが可能という展望が読み取れる。しか しそれらは、限られたインフラや物資不足、そして現地 語によるインド国内向けのコンテンツ・アプリを手に入れ るプラットフォームの不足などの問題を伴っている。 インド電気通信規制庁(TRAI:Telecom Regulatory Authority of India)によると、電話の加入者数は9億 600 万に上り、テレデンシティー(人口 100 人当たりの電 話回線数)は 77 となっている。これは過去数年のインド における携帯電話の爆発的普及によるものである。国内 の携帯電話加入者(GSM および CDMA)数の合計は 9 億に迫っている一方で、有線の固定電話加入者は増加 がない、あるいは過去数四半期において減少傾向でさえ ある。このような携帯電話加入者の急激な増加は、次の 点を象徴している。①加入者の潜在的需要は、固定電 話サービスでは満たされていなかった、②インドの地理 的特性から、非常に広い提供エリアを実現する無線技術 により、サービス開始までの時間が大幅に短縮された、 ③インドの国民性として通信サービスに対するコストは 非常に重要とされており、提供者は必要とされるサービ スを的確な価格で提供する必要がある、④価値体系な らびにビジネスモデルの変革は、マーケットの持続的発 展と収益性の鍵となる。加入者の価格に対する手頃感 が低いことが収益の低下につながるわけではない。 インドの携帯電話加入者の 67%は都市部に住んでお り、それ以外は 33%だけである。このことは、インドの 非都市部において、今後大きな成長が期待できること を意味するが、そのためには地方において通信インフラ を構築し、現地語による手軽なサービスを行わなくては ならない。インドでは明確に携帯電話を優先した経済 を進めてきた。インドの挑戦は、携帯電話事業の成功 を、インターネットにおいても再び実現することである。 インドのインターネット利用状況 インドのテレコミュニケーションは成功したが、インド のインターネットの発展はそれと比較して華々しくな い。最新の統計によると、インターネット加入者数は 2300 万に達し、ISP の大手 10 社が 95%のシェアを占め ている。256kbps 以上のブロードバンドサービスの加入 者数は約 1400 万であり、そのうち 85%のブロードバン ド加入者が DSL 技術を使ったアクセス回線を使用して いる。しかし、近年の携帯電話の急速な普及によって携 帯端末によるデータ通信サービスの加入者が急増し、そ の加入者数は約 4 億 3200 万に上ると推測されている。 SMS や CRBT(加入者が独自の呼び出し音を設定でき るサービス)、音楽やゲームといったモバイルエンターテ インメント、そして、モバイルアプリ(コミュニティー、 ゲームなど)が付加価値サービス(Value Added Ser- インターネット加入者は 2300 万、携帯データ通信は 4 3200 2020 年にはブロードバンド接続数 6 億を目指す アーヴィンド マトゥール Cisco India プリンシパルエンジニア インドのインターネット利用最新動向

2300 4 3200 2020 6...248 第7世界動向 7 –2 地域別動向 [ インドのインターネット利用最新動向 ]第1 部 第2 部 第3 部 第4 部 第5 部 第6 部 第7 部

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247第7部 世界動向

地域別動向 [ インドのインターネット利用最新動向 ] 7–2

第1部

第2部

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第6部

第7部第7部

インドの人口統計は、同国におけるインターネットの拡大や地位の上昇、また、近い将来の成長の評価の基本になっている。

最新の統計によると、インドは、12億1000万人の人口、333万m2にわたる国土、1兆7200億米ドルのGDP、国民1人当たり1219米ドルの収入があり、識字率は74%である。22の言語が話され、人口の72%が都市部以外のインフラの十分ではない地域に居住している。これらの統計からは、インドが今後、インターネットを大幅に成長させることが可能という展望が読み取れる。しかしそれらは、限られたインフラや物資不足、そして現地語によるインド国内向けのコンテンツ・アプリを手に入れるプラットフォームの不足などの問題を伴っている。

インド電気通信規制庁(TRAI:Telecom Regulatory Authority of India)によると、電話の加入者数は9億600万に上り、テレデンシティー(人口100人当たりの電話回線数)は77となっている。これは過去数年のインドにおける携帯電話の爆発的普及によるものである。国内の携帯電話加入者(GSMおよびCDMA)数の合計は9億に迫っている一方で、有線の固定電話加入者は増加がない、あるいは過去数四半期において減少傾向でさえある。このような携帯電話加入者の急激な増加は、次の点を象徴している。①加入者の潜在的需要は、固定電話サービスでは満たされていなかった、②インドの地理的特性から、非常に広い提供エリアを実現する無線技術により、サービス開始までの時間が大幅に短縮された、③インドの国民性として通信サービスに対するコストは非常に重要とされており、提供者は必要とされるサービ

スを的確な価格で提供する必要がある、④価値体系ならびにビジネスモデルの変革は、マーケットの持続的発展と収益性の鍵となる。加入者の価格に対する手頃感が低いことが収益の低下につながるわけではない。

インドの携帯電話加入者の67%は都市部に住んでおり、それ以外は33%だけである。このことは、インドの非都市部において、今後大きな成長が期待できることを意味するが、そのためには地方において通信インフラを構築し、現地語による手軽なサービスを行わなくてはならない。インドでは明確に携帯電話を優先した経済を進めてきた。インドの挑戦は、携帯電話事業の成功を、インターネットにおいても再び実現することである。

インドのインターネット利用状況インドのテレコミュニケーションは成功したが、インド

のインターネットの発展はそれと比較して華々しくない。最新の統計によると、インターネット加入者数は2300万に達し、ISPの大手10社が95%のシェアを占めている。256kbps以上のブロードバンドサービスの加入者数は約1400万であり、そのうち85%のブロードバンド加入者がDSL技術を使ったアクセス回線を使用している。しかし、近年の携帯電話の急速な普及によって携帯端末によるデータ通信サービスの加入者が急増し、その加入者数は約4億3200万に上ると推測されている。SMSやCRBT(加入者が独自の呼び出し音を設定できるサービス)、音楽やゲームといったモバイルエンターテインメント、そして、モバイルアプリ(コミュニティー、ゲームなど)が付加価値サービス(Value Added Ser-

インターネット加入者は2300万、携帯データ通信は4億3200万2020年にはブロードバンド接続数6億を目指す

アーヴィンド マトゥール Cisco India プリンシパルエンジニア

インドのインターネット利用最新動向

248 第7部 世界動向

地域別動向 [ インドのインターネット利用最新動向 ]7–2

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vice:VAS)の主な収益源であり、なかでもSMSは非音声通信市場の38%を占める。

この携帯端末によるデータ通信サービスの普及は、インドにおける、無線のインターネット接続サービスおよびブロードバンドの今後の成長を示す重要な指標である。3G、4Gのネットワークが整備され、これらのネットワークを利用したブロードバンドサービスが入手可能になり、より太い帯域や多くのアプリを求めていたが提供されてこなかった層の加入者を取り込もうとしている。

コンシューマー市場における無線とDSLによるインターネットに加え、企業顧客はメタル回線やファイバーを使用した“インターネット専用線”でインターネットにアクセスしている。TRAIの推定によれば、5万を超えるインターネット専用線の顧客がいるとされている。インドのパソコン普及率は5%以下と低いため、サイバーカフェのような人々にインターネットアクセスを提供する設備が、パソコンを家に持たない層に対して普及している。

インターネットの今後の成長インド国内には約190のISPが存在し、うち155がブ

ロードバンドサービスを提供している。しかし、ブロードバンド加入者数においては、そのうち28社の合計シェアが99%に達している。この偏りは、手に入れやすい価格帯のブロードバンドサービスを提供するためのインド国内のインフラ不足を示すものだ。それらはまた、インターネットの手軽さやコンテンツに関する加入者の理解不足ともいえる。TRAIの報告によると、2011年第3四半期のISPの収益は6億米ドルである。大規模で多様な加入者層を持ち、競合の激しいインドのISPは、下降

するARPU(加入者1人当たりの月間売上高)から、経営上の考慮が必要となっている。革新的な付加価値サービスは、インドにおけるインターネットの成長のための重要な要素である。健康や教育分野などの垂直統合サービスのための支援プログラムなどによっても、付加価値サービスの開発が推進されている。

インド政府の目標は、2012年においては7500万世帯(1200万世帯のDSL、3000万世帯のデジタルケーブルテレビ、2800万世帯の無線)のブロードバンドインターネット普及を、2014年には1億6000万世帯(2200万世帯のDSL、7800万世帯のケーブルテレビ、6000万世帯の無線)まで引き上げることである。これは、無線技術がインドのインターネットアクセスにおける重要な役割を果たし続けることに基づいている。さらに、有線アクセスネットワークにおいても、ケーブルテレビオペレーターにケーブルテレビネットワークをデジタル化するよう義務付ける段階的な規制が最近導入され、政府の目標を後押ししている。

インドでは、携帯電話の設備の多くが2Gであり、3Gネットワークは展開段階にある。一方、LTEを主とした4Gネットワークによるサービスは2012年のスタートが予定されている。

購買能力に注目すると、インドの携帯電話加入者数の伸びは、低価格な50米ドル以下の携帯端末や、100米ドル以下になりつつある2Gと3Gのスマートフォン、そして2G、3G並びに近日発売予定の4GのUSBドングルなどに支えられている。インド政府は、Aakash(アーカッシュ)などの100米ドル以下のインド発の低価格国内向けタブレット端末がモバイルブロードバンドインターネット普及の重要なプラットフォームになると見ている。

資料7-2-2 インドのブロードバンドと電話の加入者数の推移

98.41140.32

205.86300.49

429.72

621.28846.32

0.18 1.35 2.5 3.87 6.22 8.77 11.89

2005年3月

2006年3月

2007年3月

2008年3月

2009年3月

2010年3月

2011年3月

0

電話加入者

ブロードバンド加入者

900800

700

600

500

400

300

200

100

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90100

電話加入者数

ブロードバンド加入者数

(百万) (百万) Monthly broadband subscriber growth is just about 0.25 mn as compared to 18 mn of telephony subscribers : 月ごとの電話の新規加入者が 1800万であるのに対し、ブロードバンド加入者の伸びは 25万にすぎない

出所 参考文献 2参照

249第7部 世界動向

地域別動向 [ インドのインターネット利用最新動向 ] 7–2

第1部

第2部

第3部

第4部

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第6部

第7部第7部

ビジネスチャンスインドのインターネットにおけるビジネスのチャンス

には、主に以下のようなものがある。①電話会社、ケーブルテレビプロバイダー、携帯電話会社(特に3Gと4Gのネットワークが成長しつつある。また、ケーブルテレビに対する規制が実施されている)。そしてISP(多くの周波数や設備、顧客を持っている)など。②インド政府によって提案された「バーラトブロードバンドネットワーク」(Bharat Broadband Network)。有線や無線などアクセスネットワークの技術方式にはとらわれず、ネットワークの基幹や集約部分に共通のファイバーネットワークを使用し、すべてのタイプのサービスプロバイダー(地域・地方および全国的な電話会社、ISP、ケーブルテレビプロバイダー、コンテンツサービスプロバイダー)に対して手頃な価格かつ公平な帯域へのアクセスを提供するために、重要な役割を果たす。③現地語によってサポートされる、インド国内向けのコンテンツとアプリの開発。

全国テレコムポリシー現在、インド政府との承認のための最終認調整中であ

る全国テレコムポリシー(National Telecom Policy:NTP 2012)では、インドのインターネット利用に関して前向きな数値的目標が設定されている。内容は下記のとおり。①ブロードバンドインターネットの展望:都市部以外のエリアでのテレデンシティーを現在の35から、2017年には60、2020年には100に増加させる。2015年には、手の届く価格で信頼性の高いブロードバンドサービスを提供する。②ブロードバンド接続数の目標:2017年に1億7500万、

2020年には6億(最低2Mbpsのダウンロード速度があり、100Mbps以上の高速回線も選択可能であること)。③教育、健康と同程度に、通信・電話およびブロードバンドインターネット接続が必需品であることを認識する。また、“ブロードバンドの権利”に向けて取り組む。④将来にわたって政府の施策とのシナジーを目指す。

まとめインドのインターネットは転換点にあり、マーケットは

爆発的な普及の段階に入りつつある。以下のようなさまざまな関係者の取り組みやマーケットの状況が組み合わさることにより、さらに勢いを増している。①政府による取り組みとして、周波数、政策、権限、国規模のブロードバンドネットワーク普及への支援と規制、②業界による取り組みとして、3Gと4Gのネットワーク、ファイバーアクセス、官民のパートナーシップ、コンテンツ・アプリの開発、新しいビジネスモデルの普及など、③コンシューマー側の状況として、ソーシャルネットワーキングやエンターテインメントサービスに対する強い要求による加速、スマードデバイスの普及など、④企業の状況として、インターネットを使用するビジネスサービス、コラボレーション、クラウドサービスなど。

技術の進歩とユーザーのニーズの高まりが、インドのインターネットの新しい地平を切り開こうとしている。

参考文献1. ‘The Indian Telecom Services Performance Indicators, October-

December 2011’. Published by Telecom Regulatory Authority of India., New Delhi(April 13, 2012)

2. ‘Convergence & Broadband in the Digital Era’ by Rajkumar Upad-hyay, Advisor, Telecom Regulatory Authority of India(April 2012)

資料7-2-3 地域別のテレデンシティーの推移

0.31.34.0

1.64.8

1.95.8

2.36.9

2.98.2

3.610.4

4.312.2 5.1

14.3

0.3 0.4 0.5 0.7 0.9 1.2 1.51.7 1.8 4.0 5.8 9.2 14.9

24.533.8 37.5

7.0 9.1 12.8 18.226.2

37.052.7

70.9 76.9

21.3 26.238.0

47.3

65.9

89.4

119.9

157.3167.9

1996年3月

1997年3月

1998年3月

1999年3月

2000年3月

2001年3月

2002年3月

2003年3月

2004年3月

2005年3月

2006年3月

2007年3月

2008年3月

2009年3月

2010年3月

2011年12月

2011年3月

0

都市部

都市部以外

180

160

140

120

100

80

60

40

20

合計

出所 参考文献 2参照