Upload
dobao
View
226
Download
3
Embed Size (px)
Citation preview
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 147 ―
はじめに
『マツヤ・プラーナ』は、18のマハープラーナの1つであり、全291章からなる。252章か
ら270章が「建築論」に充てられている1。「建築論」の部分には、ヒンドゥー建築論では当
然の事ながら、建築に関する部分と尊像製作に関する部分からなり、建築の部分は257章ま
でであり、以降が尊像製作の部分になっている。
本稿が扱う253章は、「建物を建て始めるときの記述」という章名で、全体が51偈からな
り、第51偈を除きシュローカ韻律を用いている。51偈のみは、イレギュラーな端数が加わる
ため、通常2行のシュローカ韻律が3行となっている。253章の内訳を偈の番号も併せて記
せば、①建築開始時期によって引き起こされる事態について(1〜10)、②各ヴァルナに応
じた建築用地の様態について(11〜18)、③建築用地を81分割して描くヴァーストゥ・プル
シャ・マンダラVāstu-purus4
a-mand4 4
alaと各々に配されるヴァーストゥ・デーヴァターVāstu-
devatāについて(19〜36)、④ヴァーストゥ・プルシャ・マンダラの急所とそこに避けるべ
き構造物について(37〜38)、⑤ヴァーストゥ・プルシャVāstu-purus4
aの描き方について
(39〜46)、⑥64分割して描くヴァーストゥ・プルシャ・マンダラについて(47〜48)、⑦ト
ゲの除去(49〜51ab)、⑧254章で述べることの予告(51cdef)、となる。
また、刊本としてMatsyapurān4
a. Ananda Ashrama Sanskrit Series 54, Poona, 1981., H. H.
Willson(forworded), The Matsyapurān4
am. 2 vols., Delhi: Nag Publishers, 1983.,
Matsyapurān4
am. Vidyābhavana Prācyavidyā Granthamālā 119, Bastīrāma(Hindi note),
Vārān4
asī: Caukhambā Vidyābhavana, 2001.の3本がある。底本として、N.を使用し、他の
2本を適宜参照した。また、N.には不完全な英訳が付されているが、それと全く同じ英訳が
The Matsya puranam. The Sacred books of the Hindus 17, Srisa Chandra Vasu (edited), 2
vols., Allahabad, 1917. (Reprinted New York: AMS Press, 1974.)にもある。
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解─建築時期と建築用地
文学研究科仏教学専攻博士後期課程満期退学
出野 尚紀
― 148 ―
本文と和訳・注解
sūta uvāca /
スータ2は言った。
athâtah4
sampravaks4
yāmi3 gr4
ha-kāla-vinirn4
ayam /
yathā kālam4
śubham4
jñātvā sadā bhavanam ārabhet //1//
今これより私は建物の〔建築〕時季の決まり事を述べよう。以下のように良い時期を知
ってから、いつも建築を始めるべきである。
caitre vyādhim avāpnoti yo gr4
ham4
kārayen narah4
/
vaiśākhe dhenu-ratnāni jyaist4 4
he4 mrt4 4
yum4
tathaiva ca //2//
ās4
ād4
he bhr4
tya-ratnāni paśu-vargam avāpnuyāt /
śrāvan4
e bhr4
tya-lābhan5 tu hānim4
bhādrapade tathā //3//
patnī-nāśo ’śvine vindyāt6 kārtike dhana-dhānyakam /
mārgaśīrs4
e tathā bhaktam4
paus4
e taskarato bhayam //4//
lābhañ7 ca bahuśo vindyād8 agnim4
māghe vinirdiśet /
phālgune kañcanam4
putrān iti kāla-balam4
smr4
tam //5//
人(施主)が建物を建てるとなれば、チャイトラ月Caitraからでは病気になる。ヴァイ
シャーカ月Vaiśākhaからでは乳牛や宝石を、それからまた、ジュヤイシュタ月Jyaist4 4
haか
らでは死を、アーシャーダ月Ās4
ād4
haからでは執事や宝石、家畜たちを得るはずである。
シュラーヴァナŚrāvan4
a月からでは執事の獲得を、またそれから、バードラパダ月
Bhādrapadaからでは〔執事の〕喪失を〔もたらし〕、それから、アーシュヴィナ月Āśvina
からでは妻の死があると知るべきであり、カールティカ月Kārtikaからでは富や穀物を〔も
たらす〕。それから、マールガシールシャ月Mārgaśīrs4
aからでは穀物を、パウシャ月
Paus4
aからでは泥棒による恐怖を〔もたらす〕。そして、マーガ月Māghaからでは多くの
ものを獲得すると知られているが、火災〔の発生〕をも指摘している。パールグナ月
Phālgunaからでは富や息子を〔もたらす〕」というように、〔建築開始〕時季から〔発生
する〕力が伝承されている9。
aśvinī-rohin4
ī-mūlam10 uttarā-trayam aindavam /
svātī-hasto ’nurādhā ca gr4
hârambhe praśasyate //6//
〔星宿では、〕アシュヴィニーAśvinī、ローヒニーRohin4
ī、ムーラMūla、3つのウッタ
ラ〔がつく星宿〕11、ムリガシラスMr4
gaśiras12、スヴァーティーSvātī、ハスタHasta、そし
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 149 ―
て、アヌラーダーAnurādhāが建築を始めるときと言われる。
āditya-bhauma-varjyās13 tu sarve vārāh4
Subhâvahāh4
/
日曜日から火曜日〔の間〕14を避けるべきであり、また、残り全て〔の曜日〕は吉をもた
らす。
varjyam4
15 vyāghāta-śūle ca vyatīpātâtigand4 4
ayoh4
//7//
vis4
kambha16-gand4 4
a-parigha-vajra-yoges4
u kārayet /
〔ヨーガyoga17において、〕ヴィヤーガータVyāghāta、シューラŚūla、ヴィヤティーパー
タVyatīpāta、アティガンダAtigand4 4
aから〔建て始めることを〕避け、ヴィシュカンバ
Vis4
kambha、ガンダGand4 4
a、パリガParigha、ヴァジュラVajraのヨーガから建て〔始め〕
るべきである。
śvete18 maitre ’tha māhendre gāndharvâbhijiti rauhin4
e //8//19
tathā vairāja-sāvitre muhūrte gr4
ham ārabhet /
今、シュヴェータŚveta、マイトラMaitra、マーヘーンドラMāhendra、ガーンダルヴ
ァGāndharva、アビジットAbhijit、ローヒニーRohin4
ī、それから、ヴァイラージャ
Vairāja、サーヴィトラSāvitraというムフールタmuhūrta20〔のとき〕から建築を始めるべ
きである。
candrâditya-balam4
labdhvā śubha-lagnam4
nirīks4
ayet //9//
stambhôcchrāyâdi-kartavyam anyat tu parivarjayet /
prāsādes4
v evam evam4
syāt kūpa-vāpīs4
u caiva hi //10//
月と太陽の力を得てから、吉となる時間を観察するべきである。〔その上で、〕柱の組み
上げから造り出すべきである。また、他の〔行為から始めること〕は避けるべきである。
寺院など〔諸建築〕においてそのようにするべきである。また、井戸や溜池においてもそ
のように〔するべきである〕。
pūrvam4
bhūmim4
parīks4
eta paścād vāstum4
prakalpayet /
śvetā raktā tathā pītā krsn4 4 4
ā caivânupūrvaśah4
//11//
viprâdeh4
śasyate bhūmir atah4
kāryyam4
21 parīks4
an4
am /
始めに土地を調べるべきである。その後で建築用地を決定するべきである。〔土地の色
が〕白色、赤色、黄色、そして、黒色という順番で、ブラーフマナ等々〔に用いられるべ
き〕土地が説明される22。このゆえに、試行をするべきである。
― 150 ―
viprān4
ām4
madhurā svādā kat4
ukā ks4
atriyasya tu //12//
tiktā kas4
āyā ca tathā vaiśya-śūdres4
u śasyate /
ブラーフマナ達〔に適した土地は土が〕甘い味がする。また、クシャトリヤの〔土地
は〕辛い。ヴァイシュヤでは苦みがして、シュードラでは渋いとすると説明される。
aratni-mātre vai garte svanulipte ca sarvaśah4
//13//
dhr4
ta-māma-śarāva-stham4
kr4
tvā varti-catust4 4
ayam /
jvālayed bhū-parīks4
ârtham4
tat pūrn4
am4
sarva-din4 -mukham //14//
dīptau pūrvâdi gr4
hn4
īyād varn4
ānām anupūrvaśah4
/
vāstuh4
sāmūhiko nāma dīpyate sarvatas tu yah4
//15//
śubhadah4
sarva-varn4
ānām4
prāsādes4
u gr4
hes4
u ca /
確実に肘まで届く深さの穴に完全に油を塗ってから、円形や正方形を作り、自分が持つ
〔土製の〕盆とする。全ての方角に向かって、それを揃えて、土地の〔適否を〕調べるた
めに火を灯すべきである。東から〔盛んに〕燃えている〔方角の〕順番に各ヴァルナの
〔土地を〕取得するべきである23。また、様々な建物の用地において確かに全て〔の方角〕
で〔同じように〕燃えているときは、全てのヴァルナの寺院と建物として吉になる。
aratni24-mātram adho garte parīks4
yam4
khāta-pūran4
e //16//25
adhike śriyam āpnoti nyūne hānim4
same samam /
肘まで届く深さで穴を順番に掘って試行をするべきである。〔戻した土の量が〕より多
ければ富を手にする。減っていれば〔富を〕失う。同じ量であれば同じままである。
phālakrst4 4 4
e ’thavā deśe sarva-bījāni vāpayet //17//
tri-pañca-sapta-rātre ca yatrârohanti tany api /
jyest4 4
hôttamā-kanist4 4
hā-bhūr varjanīyatarā sadā //18//
さてまた、耕された土地に色々な種を蒔くべきである。3夜、5夜、7夜と経って、そ
れら(種)が芽吹くと、それぞれ、ジュイェーシュターJyest4 4
hā、ウッタマーUttamā、カ
ニシュターKanist4 4
hā〔という名前の〕の土地である26。それ以上〔の日数がかかる所〕は
常に避けるべきである。
pañcagavyaus4
adhi-jalaih4
parīks4
itvā ca secayet /
ekāśīti-padam4
kr4
tvā rekhābhih4
kanakena ca //19//
paścāt pist4 4
ena vâlipya27 sūtren4
âlod4
ya sarvatah4
/
daśa-pūrvâyatā lekhā daśa caivôttarâyatāh4
//20//
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 151 ―
sarva-vāstu-vibhāges4
u vijñeyā navakā nava /
ekāśīti-padam4
kr4
tvā vāstuvit sarva-vāstus4
u //21//
〔土地についての〕調査をしてから、パンチャガヴィヤpañcagavya28と香と水を撒き、
清めるべきである。何本もの金の線29によって81のマス目を作り、裏側を擦ったり、擦り
つけたりし、また、糸を両側から震わせて〔マス目を作る〕。東に向かう10本の線と北に
向かう10本の線からなる〔縦横〕9ずつの〔マス目〕は、全て建築用地の区域であると知
るべきである。81のマス目に作れば、全ての建築用地にヴァーストゥ・デーヴァター30が
いることになる。
padasthān pūjayed devām4
s trim4
śat31-pañca-daśaiva tu /
dvātrim4
śad bāhyatah4
pūjyāh4
pūjyāś cântas trayodaśah4
//22//
マス目にいる45柱の神々を崇拝するべきである。外側の32柱を崇拝するべきである。そ
して〔内〕隣の13柱を崇拝するべきである。
nāmatas tān pravaks4
yāmi sthānāni ca nibodhata /
īśāna-kon4
âdis4
u tān pūjayed dhavis4
ā narah4
//23//
それぞれの名前を告げよう。そして、それぞれの場所を理解せよ。北東の角から人はそ
れらに供物を捧げて崇拝するべきである。
śikhī caivâtha parjanyo jayantah4
kuliśâyudhah4
/
sūrya-satyau32 bhr4
śaś caiva 33ākāśo vāyur eva ca //24//
pūs4
ā ca vitathaś caiva gr4
haks4
ata34-yamāv ubhau /
gandharvo bhr4
n4garājaś ca mr4
gah4
pitr4
gan4
as tathā //25//
dauvāriko ’tha sugrīvah4
pus4
padanto jalādhipah4
/
asurah4
śos4
a-pāpau ca rogo ’hir mukhya35 eva ca //26//
bhallāt4
ah4
soma-sarpau ca36 aditiś ca ditis tathā /
bahir dvātrim4
śad ete tu tad-antas tu tatah4
śrn4 4
u //27//
そして、ここに①シキンŚikhin、②パルジャンヤParjanya、③ジャヤンタJayanta、④
雷を武器とするもの(インドラIndra)、⑤スーリヤSūrya、⑥サティヤSatya、⑦ブリシ
ャBhr4
śa、⑧アーカーシャĀkāśa、⑨ヴァーユVāyu、⑩プーシャンPūs4
an、⑪ヴィタタ
Vitatha、⑫グリハクシャタGr4
haks4
ata、⑬ヤマYama、⑭ガンダルヴァGandharva、⑮ブ
リンガラージャBhr4
n4garāja、⑯ムリガMr4
ga、⑰ピトリガナPitr4
gan4
a、⑱ダウヴァーリカ
Dauvārika、⑲スグリーヴァSugrīva、⑳プシュパダンタPus4
padanta、�水の神(ヴァル
ナVarn4
a)、�アスラAsra、�ショーシャŚos4
a、�パーパPāpa、�ローガRoga、�アヒ
― 152 ―
Ahi、�ムキャMukhya、�バッラータBhallāt4
a、�ソーマSoma、�サルパSarpa、�ア
ディティAditi、それから、�ディティDiti。これらが外側の32柱である。また、それらの
〔内〕隣については、次のように聴きなさい。
īśānâdi-catus4
kon4
a-sam4
sthitān pūjayed budhah4
/
āpaś caivâtha sāvitro jayo rudras tathaiva ca //28//
智者は、北東から始めて〔その内側の〕四つ角に配される〔ヴァーストゥ・デーヴァタ
ー〕を崇拝するべきである。ここに、アーパĀpa、サーヴィトラSāvitra、ジャヤJaya、
そして、ルドラRudraが〔いる〕。
madhye nava-pade brahmā tasyâst4 4
au ca samīpagān /
sādhyān ekāntarān vidyāt pūrvâdyān nāmatah4
śrn4 4
u //29//
aryyamā savitā caiva vivasvān vibudhādhipah4
/
mitro ’tha rājayaks4
mā ca tathā pr4
thvīdharah4
smr4
tah4
37 //30//
ast4 4
amaś câpavatsas tu parito brahman4
ah4
smr4
tah4
38 /
中央の9マスにブラフマーBrahmanがおり、その隣の8〔方向〕に、〔以下のヴァース
トゥ・デーヴァターがいる〕。隣の神々を知るべきである。東側から名前を聴きなさい。
①アルヤマンAryaman、②サヴィトリSavitr4
、③ヴィヴァスヴァトVivasvat、④ヴィブダ
ーディパVibudhādhipa、⑤ミトラMitra、⑥ラージャヤクシュマンRājayaks4
man、それか
ら、⑦プリトゥヴィーダラPr4
thvīdhara、また、8番目に⑧アーパヴァツァがĀpavatsa、
伝承されいる。ブラフマーの周りについて〔以上のように〕伝承されている。
āpaś caivâpavatsaś ca parjanyo ’gnir39 ditis tathā //31//
padikānān40 tu vargo ’yam evam4
kon4
es4
v aśes4
atah4
/
tan-madhye tu bahir vim4
śad-vipadās te tu sarvaśah4
//32//
aryyamā41 ca vivasvām4
ś ca mitrah4
pr4
thvīdharas tathā /
brahman4
ah4
parito diks4
u tri-padās te tu sarvaśah4
//33//
アーパ、アーパヴァツァ、パルジャンヤ、アグニ、そして、ディティ〔など〕は、全て
角にいて、1マスとなるグループである。また、その間には外側から2マスを〔占めるヴ
ァーストゥ・デーヴァター〕20が囲んでいる。アルヤマン、ヴィヴァスヴァト、ミトラ、
それから、プリトゥヴィーダラがブラフマーの周りの各方角に、どれも3マスずつ〔配さ
れる〕。(図1)
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 153 ―
1 2 3 4 5 6 7 8 9
32 33 34 10
31 37 38 39 11
30 12
29 44 45 40 13
28 14
27 43 42 41 15
26 36 35 16
25 24 23 22 21 20 19 18 17
①シキン②パルジャンヤ③ジャヤンタ④インドラ⑤スーリヤ⑥サティヤ⑦ブリシャ⑧アーカーシャ⑨ヴァーユ⑩プーシャン⑪ヴィタタ⑫グリハクシャタ⑬ヤマ⑭ガンダルヴァ⑮ブリンガラージャ⑯ムリガ⑰ピトリガナ⑱ダウヴァーリカ⑲スグリーヴァ⑳プシュパダンタ�ヴァルナ�アスラ�ショーシャ
�パーパ�ローガ�アヒ�ムキャ�バッラータ�ソーマ�サルパ�アディティ�ディティ�アーパ�サーヴィトラ�ジャヤ�ルドラ�アルヤマン�サヴィトリ�ヴィヴァスヴァト�ヴィブダーディパ�ミトラ�ラージャヤクシュマン�プリトゥヴィーダラ�アーパヴァツァ�ブラフマン
図181マスのヴァーストゥ・プルシャ・マンダラ
vam4
śān idānīm4
vaks4
yāmi r4
jūn api pr4
thak pr4
thak /
vāyum4
yāvat tathā rogāt pitr4
bhyah4
śikhinam4
punah4
//34//
mukhyād42 bhr4
śam4
tathā śos4
ād vitatham4
yāvad eva tu /
sugrīvād aditim4
yāvan mr4
gāt parjanyam eva ca //35//
ete vam4
śāh4
samākhyātāh4
kvacic ca jayam eva tu /
etes4
ām4
yas tu sampātah4
padam4
madhyam4
samam4
tathā //36//
ここで、どれもが真っ直ぐなヴァンシャvam4
sa43のことを述べよう。それというのは、
ローガからヴァーユに、また、ピトリガナからアグニに、ムキャからブリシャに、ショー
シャからヴィタタに、スグリーヴァからアディティに、ムリガからパルジャンヤに、そし
てまた、あるところでは〔ムリガから〕ジャヤに〔引かれる〕これらがヴァンシャである
と言われる。また、これらの接点はパダpada、マディヤmadhya、サマsama〔と言われ
る〕。
marma caitat samākhyātam4
triśūlam4
kon4
agañ ca yat /
stambham4
nyāses4
u varjyāni tulā-vidhis4
u sarvadā //37//
kīlôcchist4 4
ôpaghātâdi varjayed yatnato janah4
/
sarvatra vāstur nirdist4 4
ah4
44 pitr4
-vaiśvānarâyatah4
45 //38//
そして、この急所が三叉戟を持つもの(シヴァŚiva)と棍棒を持つもの(ヴィシュヌ
Visn4 4
u)46とに言われる。配置する時に柱を避け、常に釣合を取るという決まりがある。人
が試みるならば、不浄なトゲ47による破壊などを避けるべきである。建築用地はどこでで
― 154 ―
も父祖と最高神に注意することが指摘されている。
mūrdhany48 agnih4
samādist4 4
o mukhe câpah4
samāśritah4
/
pr4
thvīdharo ’ryamā caiva stanayos49 tāv adhist4 4
hitau //39//
vaks4
asthale50 câpavatsah4
pūjanīyah4
sadā budhaih4
/
netrayor51 diti-parjanyau52 śrotre ’diti-jayantakau //40//
sarpêndrāv am4
sa-sam4
sthau tu pūjanīyau prayatnatah4
/
sūrya-somâdayas tadvad53 bāhvoh4
54 pañca ca pañca ca //41//
rudraś ca rājayaks4
mā ca vāma-haste samāsthitau /
sāvitrah4
savitā tadvad dhastam4
daks4
in4
am āsthitau //42//
vivasvān atha mitraś ca jat4
hare sam4
vyavasthitau /
pūs4
ā ca pāpayaks4
mā ca hastayor man4
ibandhane //43//
tathaivâsura-śos4
au ca vāma-pārśvam4
samāśritau /
pārśve tu daks4
in4
e tadvad55 vitathah4
sa-gr4
haks4
atah4
56 //44//
ūrvor yamâm4
bupau57 jñeyau jānvor gandharva-pus4
pakau /
jan4ghayor bhr4
n4ga58-sugrīvau sphik-sthau dauvāriko mr4
gah4
//45//
jaya-śakrau tathā med4
re pādayoh4
pitaras tathā /
madhye nava pade brahmā hr4
daye sa tu pūjyate //46//
頭にアグニが割り当てられる。そして、口にはアーパが与えられる。プリトゥヴィーダ
ラとアルヤマンは両乳房に存在する。そして、胸ではアーパヴァツァが常に賢者によって
崇拝される。両目にはディティとパルジャンヤが、〔また、〕両耳はアディティとジャヤン
タである。サルパとインドラが両肩におり、特に崇拝される。スーリヤやソーマなどが同
じように両腕に5体ずつおり、ルドラとラージャヤクシュマンが左手にいる。サーヴィト
ラとサヴィターが同じように右手にいる。そしてヴィヴァスヴァトとミトラが臍にいる。
プーシャンとパーパヤクシュマンが両手首になり、それから、アスラとショーシャが左の
体側に集まり、また、右の体側に同じようにヴィタタとグリハクシャタがいる。両腿には
ヤマとヴァルナ〔の存在〕が知られ、両膝にはガンダルヴァとプシュパカがいる。両脛は
ブリンガラージャとスグリーヴァであり、尻にいるのは、ダウヴァーリカとムリガであ
る。それから、ジャヤとシャクラが男性器に、それから、両足にはピトリガナなどがいる。
中央の9マスではブラフマーが心臓として崇拝される。
catuhs4 4
ast4 4
i-pado vāstuh4
prāsāde brahman4
ā smr4
tah4
/
brahmā carus4
-padas tatra kon4
es4
v ardha-padās tathā //47//
bahih4
59 kon4
es4
u vāstau tu sārdhāś côbhaya-sam4
sthitāh4
/
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 155 ―
vim4
śati dvi-padāś caiva catuhs4 4
ast4 4
i pade smr4
tāh4
//48//
ブラフマーによる64マスの建築用地が寺院において〔用いられるべきであると〕伝承さ
れている。このとき、ブラフマーは4マスで、〔二重の〕角では半マスとなる。また、建
築用地の外側の角では1.5マス〔のヴァーストゥ・デーヴァター〕が両側に隣接する。20
の〔ヴァーストゥ・デーヴァターが〕2マスであると、64マスでは伝承されている。(図
2)
32 1 2 3 4 5 6 7 8 9
31 10
30 33 37 38 34 39 11
29 44 40 12
28 13
27 43 36 42 41 35 14
26 15
25 24 23 22 21 20 19 18 17 16
45
①シキン②パルジャンヤ③ジャヤンタ④インドラ⑤スーリヤ⑥サティヤ⑦ブリシャ⑧アーカーシャ⑨ヴァーユ⑩プーシャン⑪ヴィタタ⑫グリハクシャタ⑬ヤマ⑭ガンダルヴァ⑮ブリンガラージャ⑯ムリガ⑰ピトリガナ⑱ダウヴァーリカ⑲スグリーヴァ⑳プシュパダンタ�ヴァルナ�アスラ�ショーシャ
�パーパ�ローガ�アヒ�ムキャ�バッラータ�ソーマ�サルパ�アディティ�ディティ�アーパ�サーヴィトラ�ジャヤ�ルドラ�アルヤマン�サヴィトリ�ヴィヴァスヴァト�ヴィブダーディパ�ミトラ�ラージャヤクシュマン�プリトゥヴィーダラ�アーパヴァツァ�ブラフマン
図264マスのバーストゥ・プルシャ・マンダラ
gr4
hârambhes4
u kand4 4
ūtih4
svāmy-an4ge yatra jāyate /
śalyam4
tv apanayet tatra prāsāde bhavane tathā //49//
sa-śalyam4
bhayadam4
yasmād aśalyam4
śubha-dāyakam /
hīnâdhikām4
60 gatâvāstah4
61 sarvathā tu vivarjayet //50//
nagara-grāma-deśes4
u sarvatraivam4
vivarjayet /
建築開始に際して、かゆみが主の身体にあると勝利する。また、トゲ(急所)を寺院、
建物から運び出すべきである。トゲのある恐れがあるときはトゲがないように幸運になる
ものを付与するべきである。少しでも多く取り除き、薫蒸を行い、また、完全に避けるべ
きである。町、村、土地ではどこであっても避けるべきである。
catuh4
-śālam4
tri-śālañ ca dvi-śālam4
caika-śālakam /
nāmatas tān pravaks4
yāmi svarūpen4
a dvijôttamāh4
//51//
最高のバラモンたちよ。4部屋、3部屋、2部屋、そして、1部屋、私はそれらの名称
― 156 ―
をそのままに告げよう。
テキストと略号
The Matsyapurān4
am. H. H. Willson(forworded), 2vols., Delhi: Nag Publishers, 1983.(N.)
(底本)
Matsyapurān4
a. Ananda Ashrama Sanskrit Series 54, Poona, 1981.(A.)
Matsyapurān4
am. Vidyābhavana Prācyavidyā Granthamālā 119, Bastīrāma(Hindi note),
Vārān4
asī: Caukhambā Vidyābhavana, 2001.(C.)
参考文献
出野尚紀、2007、「ヒンドゥー古典建築論書におけるVāstupurus4
amand4 4
alaの形態の展開」、
『東洋大学大学院紀要』第42集、東洋大学大学院、pp. 123-134。
小倉泰、1999、『インド世界の空間構造−ヒンドゥー寺院のシンボリズム』、春秋社。
宮本久義、2006、「『マツヤ・プラーナ』所収の「ヴァーラーナスィー・マーハートミヤ」に
ついて」、『東洋大学文学部紀要』第59集インド哲学科編XXXI、東洋大学、pp.
1-20。
宮本久義、2007、「『マツヤ・プラーナ』第183章:和訳と注解」、『東洋大学文学部紀要』第
60集インド哲学科編XXXII、東洋大学、pp. 158-135(L)。
矢野道雄、1976、「古代インドの暦法」、『科学史研究』第2期第15巻(No. 118)、日本科学
史学会、pp. 93-98.
矢野道雄、1986、『密教占星術』、東京美術。
矢野道雄・杉田瑞枝訳注、1995、『占術大集成1−古代インドの前兆占い−』、東洋文庫589、
平凡社。
Dagens Bruno(ed. and trans.), Mayamatam Treatise of Housing Architecture and
Iconography vol. 1, 3rd. print, New Dheli, Indira Gandhi National Centre for the
Arts.
YANO Michio,1986,“Knowledge of Astronomy in Sanskrit Text of Architecture
(Oritentation Methods in the Īśāna śivagurudevapaddhati)”,Indo-Iranian
Journal 29,D. Reidel Publishing Company,pp. 17-29.
1. C.は全290章であり、他の2版の160章が章として立てられていないため、1つずつずれ、建築分野は251章から269章となる。
2. 252章から、リシがスータの理解度を確認するために述べさせる、という設定である。
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 157 ―
3. C. sam4
pra°.4. C. jyest
44
he.月名はJyaist44
haであり、Jyest44
haでは星宿の名称となる。5. C. °lābham
4
.6. C. °nāśaś câśvayuje.「知る」の語がない。7. C. lābham
4
.8. N. vindyāt.連声法の規則によりA., C.を採る。9. 1類動詞語根√smr
4
の過去受動分詞smr4
taは、引用を示すitiと共に「〜とスムリティに記されている」の意味で用いられることがあるが、この規定を示す事柄が法典類に見付からないので、具体的な文献を念頭に置いていないということで、smr
4
taを「伝承されている」と訳した。10. N. mūlam
4
.連声法の規則によりA., C.を採る。11. ウッタラ・パールグニーUttara-phālugnī、ウッタラ・アーシャーダーUttara-āśādh
4 4
ā、ウッタラ・バードラパダーUttara-bhādrapadāの3つ。
12. aindavaは、男性名詞であれば、「星宿」の意味もあるが、英訳により、中性名詞として星宿であるmr
4
gaśirasの別称ととる。但し、英訳に、ウッタラ・バードラパダーはない。13. A. varjam
4
.14. varjyaが複数であることから日、月、火の3日となる。15. A. varjam
4
.16. C. vis
4
kumbha°.17. 黄経上において、太陽と月の運動を合計して13度20分になるまでの時間の単位であり、星宿と同
じように、27種類からなる。18. A. svātau.19. シュローカ韻律には、Dパーダが一音多い。20. ムフールタは1日を百等分した時間の長さで、1つのムフールタは48分間。日本の天文における「刻(こく)」にあたる。
21. A. kāryam4
.22. ブラーフマナ→白色、クシャトリヤ→赤色、ヴァイシュヤ→黄色、シュードラ→黒色となる。23. 東方→ブラーフマナ、南方→クシャトリヤ、西方→ヴァイシュヤ、北方→シュードラとなる。24. A. ratni°.25. シュローカ韻律には、Cパーダが一音多い。Aを採れば、韻律が正しくなるが、13偈で「肘」の
語にaratniを使用しているので、N., C.に従う。26. 3夜→ジュイェーシュター、5夜→ウッタマー、7夜→カニシュターとなる。ちなみにジュイェ
ーシュターは「最も優れた」、ウッタマーは「最高の」、カニシュターは「最も小さい」の意。27. A., C. câlipya.28. 牛が身体から出す、乳・凝乳・バター・尿・糞の5つのもの。29. 金製の線を使うことには、見栄えの他に「金」という金属が持つ安定性により、温度による伸び
縮みなどが少ないことも考えられる。30. 建築論書において、vāstuvidより、vāstudevatāが多く使われる。31. N. triśat-, A., C.を採る。32. A. sūryah
4
satyo, C. sūryya°.33. パーダの境のため連声をしていない。34. C. br
4
hatks4
ata°.
― 158 ―
35. N. °go hir makhya, A. °go ’hi-mukhya.36. パーダの境のため連声をしていない。37. A. kramāt.38. A. smr
4
tāh4
.39. N. paryagno ’gnir, C. parjjanyo ’gnir.40. A. padikānām
4
.41. A. aryamā.42. N. °khyāt, A., C.を採る。43. ヴァーストゥマンダラ内に引く線。44. N., A., C.とも°st
44
oとあるのを文法規則に従って°st44
ah4
とする。45. C. purus
4
o ’dhomukhas tathā.46. kon
4
agaという単語は、サンスクリット語辞典を調べる限り存在しないが、文脈上、ヴィシュヌが存するべきであり、kon
4
aに「棍棒」という意味もあるので、意訳した。47. kīlaは、「くさび・トゲ・針先」などの意味で場所を汚すもの。建築論書Mayamataなどでは、こ
の「トゲ」にmarmanという語を使用する。48. A. による、N., C.はmūrddhany.49. A. skandhayos.50. N. vaks
4
ah4
sthale.51. N. netrayo. A., C.を採る。52. C. parjanyo.53. 文法規則に従ってテキスト°vatを°vadとする。54. テキストvāhvoh
4
.55. N., C. tadvat. A.を採る。56. C. °br
4
hatks4
atah4
.57. N., C. °mâm
4
bupau, A.を採る。58. N. bhr
4
ga°, C. mr4
ga°.スグリーヴァに対応する位置にあるのは、ブリンガラージャであるため、A.のbhr
4
n4gaを採る。59. A. bahis
4
.60. A. °dhikān4.61. 文法規則に従ってN., C.°stoを°stah
4
とする。A. gatām vāstoh4
.
『マツヤ・プラーナ』253章;和訳と注解
― 159 ―
This paper is to present a Japanese translation with notes, and critical text of the
chapter 253 in the Matsyapurān4
a. This chapter has the title “the ascertaining of Vāstu
(site) to construct buildings”, and has eight contents, namely ① some problems to start
the construction caused by seasonal reasons; ② the types of auspicious construction sites
for four Varun4
as; ③ a Vāstu Purus4
a Mand4 4
ala forming eighty-one grids and their Vāstu-
devatās; ④ the Marmans (weak points) of Vāstu Purus4
a Mand4 4
ala and the structures to be
averted; ⑤ the ways of drawing Vāstu Purus4
a Mand4 4
ala; ⑥ Vāstu Purus4
a Mand4 4
ala forming
sixty-four grids; ⑦ the ways of removing Marmans; ⑧ the brief introduction of the next
chapter 254.
A Japanese Translation and Notes of Chapter 253 in the Matsyapurāna
─ Suitable Seasons and Sites for the Architecture
IDENO, Naoki