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経済産業省 御中 平成28年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業 (インドネシアにおける省エネルギー・再生可 能エネルギー政策分析調査) 報告書 20172一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

平成28年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業 · 2017-12-13 · 経済産業省 御中 平成28年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業 (インドネシアにおける省エネルギー・再生可

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経済産業省 御中

平成28年度

国際エネルギー使用合理化等対策事業

(インドネシアにおける省エネルギー・再生可

能エネルギー政策分析調査)

報告書

2017年2月

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

II

はじめに

アジアを中心とした新興国では、堅調な経済成長に伴うエネルギー需要の急増が見込ま

れている。これらの国々におけるエネルギー需要の増加は、現行の世界のエネルギー需給

バランスに大きな影響をもたらし、日本のエネルギー安全保障のみならず、気候変動対策

からも重要な課題である。このため、これらの国々に省エネルギー技術及び再生可能エネ

ルギーの導入を一層促進させることが重要であり、それを実現可能とする制度や政策の構

築及びその根拠となる詳細な技術等の検証を実施することが有効である。

特に、東南アジアにおける最大のエネルギー消費国であり、日本の石油・石炭・天然ガ

スなどのエネルギー資源の輸入元であるインドネシアでは、国内におけるエネルギー需要

の増加により、2004 年に石油の純輸入国に転じるなどの資源の需給バランスに変化が生じ

ている。この状況を受け、インドネシアでは、省エネルギーと再生可能エネルギーの導入

促進に向けた目標及び各種政策や 2030 年までの温室効果ガスの排出削減目標を設定してい

る。これら目標の達成は当該国のエネルギー安全保障上重要であるだけでなく、エネルギ

ー資源を輸入する我が国のエネルギー安全保障にも資する。

このため、本調査では、日本のエネルギー安全保障の強化を図る目的で、現行の省エネ

ルギー及び再生可能エネルギーの各政策の効果等の分析を実施し、目標を達成する上での

課題の整理を実施するとともに、省エネルギーの部門別、産業別、技術別の削減ポテンシ

ャルや各再生可能エネルギーのポテンシャルの定量的な評価、目標達成に向けた具体的な

施策・技術の検討を行い、インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー目標

の達成に向けた具体的な制度の確立・技術普及に向けた政策提言ならびに日本の協力分野

を特定している。

本報告での調査分析ならびに分析から得られる示唆がインドネシアでの省エネルギー・

再生可能エネルギーの推進に向けた政策形成ならびにインドネシアでの省エネルギー及び

再生可能エネルギーの技術展開に向け貢献できれば幸いである。

平成 29 年 2 月

(一財)日本エネルギー経済研究所

III

報告書要旨

第 1 章 エネルギー需給とエネルギー政策の概要

インドネシアは、自国の資源で石油を賄えた時代とは異なり、国際的な原油価格の乱高

下が国家財政を悪化させているため、石油代替エネルギーと省エネルギーの推進が重要課

題であるとの認識が浸透しつつある。他方、石油製品に対する補助金改革は、インドネシ

アでは最も大きな政治的課題となっており、歴代政権は慎重な対応を強いられてきた 。イ

ンドネシアでは 2011 年および 2012 年の補正予算において、燃料価格の引き上げ案(約 30

~40%程度)が盛り込まれたものの、燃料値上げに対する国民のデモや暴動に配慮する形で

実行は見送られてきた。

このような状況を打破するために、2014 年 1 月の下院本会議において、2050 年までのエ

ネルギー政策の大枠を定めた「国家エネルギー政策(KEN: Kebijakan Energi Nasional)」に関

する大統領規定案を承認し、化石燃料への依存を低減させるとともに再生可能エネルギー

の普及促進ならびに省エネルギーの推進を目指している。 KEN で設定された目標を実現化

させるための具体的な措置を盛り込んだ国家エネルギー計画(RUEN)の策定も行っている。

KEN では、2025 年までにインドネシアにおける各エネルギーの割合は、石油を 49%から

22%以下へ低減させる目標を設定している。天然ガスを 20%から 22%、石炭を 24%から 32%、

再生可能エネルギーを 6%から 23%へそれぞれ増加させるとしている。また、原子力は最後

の選択と位置付けている。化石燃料の直接使用から電力への転換を促進し、発電設備容量

は現在の 44GW から 2025 年には 115GW に増加させるとしている。

また、次のような国家エネルギー政策目標を掲げた。

① エネルギー弾性値(エネルギー消費の伸び/経済成長率):経済成長目標に合うよう、

2025 年に弾性値を 1 以下とする。

② エネルギー原単位(GDP 当たりののエネルギー使用量):2025 年までに年 1%で改

善させる。

③ 電化率:2015 年に 85%、2020 年には 100%に近づける。

④ 家庭用ガスの使用率:2015 年に 85%とする。

⑤ 一次エネルギーに占める新・再生可能エネルギーの割合:2025 年までに 23%、2050

年までに 31%に引き上げる。

第 2 章 省エネルギー目標達成に向けた現状と課題

インドネシアの省エネルギー政策は、エネルギー政策を包括的に定める「国家エネルギ

ー政策」と整合的に形成されている。すなわちインドネシアのエネルギーミックスを中心

としたエネルギー政策の根幹をなす「国家エネルギー政策」の 2025 年および 2050 年の目

IV

標を実現する手段として、整合的な形で省エネルギーマスタープランである “RIKEN”が定

められている。国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN(2014))では、2025 年までにエネ

ルギー原単位を毎年 1%改善することと、同年までにエネルギーの GDP 弾性値を 1 以下と

する目標を設定しており、これらの目標を達成するために、部門別に様々な政策を実施し

ている。同じく、国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN(2014))によれば、基本計画策

定時から 2025 年までの各部門における省エネポテンシャルは、それぞれ、産業部門(17%)、

業務部門(15%)、運輸部門(20%)、家庭部門(15%)としている。

こうした目標を達成するために産業部門では、エネルギー管理制度を導入しており、年

間のエネルギー消費が 6,000 toe を超える事業者に対して、エネルギー管理者の任命や省エ

ネルギープログラムの策定、定期的な省エネルギー診断(エネルギー監査)の実施と省エ

ネルギー診断の結果に基づく提案の実施、そして省エネルギーの実施状況の定期報告義務

を設定している。省エネ法の執行状況は、エネルギー集約産業の 265 事業者のうち、101 事

業者がエネルギー使用状況を報告し、提出率は 38%と低い。2016 年 8 月現在で、エネルギ

ー管理士認証者は 306 名、エネルギー診断士認証者は 196 名となった。2016 年 2 月現在で

必要なエネルギー管理士数 827 名であり、その充足率が 27%(経済産業省 (2016a))だった

ものから 37%に向上中であるが、引き続き認証者数の拡大・育成が課題となっている。

運輸部門に関しては、インドネシア運輸省(Ministry of Transport)は 2013 年に第 201(2013)

省令を公布し、温室ガス削減のために「回避(avoid)、 代替(shift)、改善(improve)」の

方針を運輸部門に適用することを明確した上で、いくつかの政策を提示している。例えば

「自動車フリー週末」、「石油からガスへの燃料代替」、「公共交通開発(TOD)」、「非動力車

使用の奨励」などの実施行動が作成されている。エネルギー鉱物資源省でも公用車に対す

る補助金付き石油燃料の販売制限、ならびに鉱業・農園用の車に対する補助金付き石油燃

料の販売制限を決定した。この他に、首都ジャカルタで高級車を対象とした補助金付き石

油燃料の販売制限の実施が検討されていた。こうした政策がプログラムベースで実施され

てはいるものの、燃費規制の導入がなされていない上に、公共交通インフラの整備ならび

に道路延長工事が自動車保有台数の拡大にペースに追いつかず、これらが都市部における

慢性的な交通渋滞の原因となるとともに、インドネシア全体としても石油需要を押し上げ

ている。

家庭部門では、機器のエネルギー効率基準においては、蛍光灯電球およびエアコンの最低

エネルギー性能基準(MEPS:Minimum Energy Performance Standards)が導入されているが、

その他の機器のエネルギー効率基準は任意基準となっている。MEPS は今後、冷蔵庫、扇風

機、電子安定器、電気モーター、LED 電球、洗濯機、井戸のくみ上げに使うポンプ、アイ

ロン、テレビに拡大してゆく予定である。住宅に関しては、住宅の断熱性能、空調、照明、

建物のエネルギー監査に関する任意基準を策定しているが、基準の義務化には至っていな

い。

インドネシアの家庭部門における省エネ施策は、ASEAN 諸国と比較してラベリング制度

V

や MEPS の普及は圧倒的に低い状況にある。2015 年にエアコンの MEPS 導入が決定した以

外、エネルギー効率基準は自主取り組みであるため、効率改善に対する強制力が働かない。

これに加え、MEPS 対象機器は、ASEAN 諸国の中で最も少ないのが現状である上に、機器

の基準適合を評価する試験場に関して、人材面と導入技術の両面で改善余地の課題が指摘

できる。家庭の電気料金においても ASEAN 諸国と比較して、インドネシアの電気料金は平

均で、最も低い水準にあり、家庭部門の省エネ意識の醸成に向けた課題として指摘できる。

インドネシアにおける 6,000万世帯のうち、20%に対して電力供給がなされていないところ、

補助金支給対象となる世帯の契約アンペア 2A, 4A の世帯がそれぞれ全体の 35%、30%を占

めている。これらの契約世帯への補助金支給の撤廃が省エネルギー意識の醸成に向け重要

である。

業務部門の省エネルギー政策は、(1) 大規模業務ビルのエネルギー管理制度ならびに(2)

建築物の省エネルギー基準から構成される。

大規模業務ビルのエネルギー管理制度は、2009 年に制定された省エネルギーに関する法

律 No.70 によるもので、同法では年間エネルギー消費が 6,000 toe 以上の建築物ならびに産

業部門の事業者はエネルギー管理士を指名、省エネルギープログラムの実施ならびにエネ

ルギー監査の実施、そして省エネルギー計画と手段を政府に対して報告する義務が課され

る。他方、インドネシアの業務ビルは 98%が 3 万㎡以下である。エネルギー管理制度の対

象事業者を拡大するためにも、現行の年間エネルギー消費 6,000toe から 700toe 程度に引き

下げる必要がある。

建築物のエネルギー効率改善に向けて、建築物の国家省エネルギー基準(SNI)が策定さ

れている。他方、同基準の遵守は義務化されておらず、建築に際しての事業者に対するレ

ファレンスとして活用されている。現在のところ、外皮性能、室温、湿度、照明システム

ならびにエネルギー監査の手法に関する基準が策定されている。

こうした施策が実施されているものの、インドネシアの業務部門における床面積あたり

のエネルギー消費は日本の平均的な水準と比較して、10-20%程度改善余地がある。これに

は、電力等価格が国際的にみても低いことから、エネルギー管理プログラム実施に対する

インセンティブが不足、省エネルギーに対する認識が不足しているのと共に、ベンチマー

クデータベース等、正しいデータが提供されていないことも課題である。加えて、建築物

のエネルギー管理士やオーナーが省エネルギー対策手段に関する知識が足りない事、そし

て省エネルギー投資に対する融資メカニズムがないなど、様々な課題が指摘できる。

第 3 章 2030 年までの省エネルギーポテンシャル及び費用対効果分析

本章では、産業、家庭、業務、運輸部門を対象とし、2030 年までのエネルギー需要見通

しを作成するとともに、各部門における省エネルギーポテンシャルを試算した。また、産

業、家庭、業務部門に関しては技術別の費用対効果分析を行い、政策導入に関する示唆を

導出した。

VI

産業部門の省エネルギーポテンシャル

産業部門については、エネルギー需要の大きい紙パルプ、鉄鋼、繊維、セメントを対象

として分析を行った。分析対象業種のエネルギー需要は BaU ケースにおいて 2014 年の

12Mtoe から 2030 年には 28Mtoe へ年率 5%で増加する見通しである。2030 年時点でのエネ

ルギー需要を業種別にみるとセメントの 11Mtoe が最大であり、紙パルプ(9Mtoe)、鉄鋼

(5Mtoe)、繊維(3Mtoe)と続き、セメントおよび紙パルプのエネルギー需要が 2030 年に

おける 4 業種のエネルギー需要の 70%を占める見通しである。

一方、ALT ケースにおいては、2030 年時点の 4 業種のエネルギー需要は 22Mtoe となる見

通しで、BaU と比較して、約 20%(6Mtoe)の省エネルギーポテンシャルを有している。2030

年の省エネルギーポテンシャルを業種別にみると、セメントの 2.1Mtoe が最大であり、これ

に紙パルプ(1.7Mtoe)、鉄鋼(1.3Mtoe)、繊維(0.4Mtoe)と続く。

家庭部門の省エネルギーポテンシャル

2030 年における家庭部門のエネルギー需要(非商業用バイオマスを含む)は、2014 年か

ら年率 1.5%で増加、2014 年から 27%増の 78.5 Mtoe に達する見通しである。他方、電力、

ガス等の商業用エネルギー需要は、同 3.4%増とより急速なスピードでの増加が見込まれる。

機器別のインドネシアにおける省エネルギーポテンシャルとしては、2030 年の世帯当た

り保有台数を 0.38 台(2015 年の世帯当たり保有台数は 0.20 台)と見込むエアコンの省エネ

ルギーポテンシャルが最も大きく、1.3 Mtoe に上る。これに 2030 年の世帯当たり保有台数

が 0.89 台(2015 年の世帯あたり保有台数は 0.58 台)に上り年間稼働時間の高い冷蔵庫が続

く(0.38Mtoe)。普及率の高い照明の 2030 年における省エネルギーポテンシャルも 0.35 Mtoe

に上る。このほか、洗濯機の省エネルギーポテンシャルは 0.21 Mtoe、これに給湯器の 0.19

Mtoeが続く。これらの省エネルギーポテンシャル合計は、2030年において 2.6 Mtoeに上り、

同年の家庭部門における商業用エネルギー需要(非商業用バイオマスを除く)の 10%を占

める。

業務部門の省エネルギーポテンシャル

業務部門のエネルギー需要は、2014 年から 2030 年まで年率 5.5%で増加する見通しであ

る。同期間の GDP が年率 5.3%で拡大する見通しであるのと比較すると、それを超える急速

なスピードでの増加見通しであり、2014年の水準と比較すると 2030 年には 2.4 倍の 13 Mtoe

に達する。他方、インドネシアの業務部門の 2030 年における省エネルギーポテンシャルは

1.6Mtoe に上り、これは 2030 年の業務部門におけるエネルギー需要の 12%に相当する。技

術別では、照明の省エネルギーポテンシャルが最大で、0.58Mtoe、これに冷房の 0.39Mtoe、

OA 機器の 0.34Mtoe、冷蔵の 0.23Mtoe、換気の 0.052Mtoe が続く。特に家庭部門とは対照的

に照明や冷房の省エネルギーポテンシャルが相対的に大きいのは、普及率とともに事務所

VII

ビル等でのこうした技術の稼働時間が長いことを要因としている。

運輸部門の省エネルギーポテンシャル

途上国でも先進国でも見られるように、自動車の年間台たりのエネルギー消費量は自動

車普及率の増加に伴い減少する。インドネシアの場合、2014 年では 1.3toe であったが、2030

年に 1.0toe になると予測される。他方、燃費水準が現状のままと仮定した場合、台あたりの

エネルギー消費量が普及率の増加に従って減少するが、運輸部門のエネルギー需要は 2014

年の 40.7Mtoe から年率 2.6%で増加、2030 年には 61.7Mtoe と 51%の増加が見込まれる。

インドネシアでは販売台数上位 10 位の自動車の平均燃費(CO2 換算)が 180gCO2/l であ

り、ガソリンの品質を改善(現状の EURO2 基準から EURO4 基準に改善)した上で燃費基

準を導入と強化すれば、120gCO/l に改善できると予想される。本試算では 2017 年から新車

販売にこうした燃費基準が導入されることを仮定する。そうした場合、2030 年までに自動

車のエネルギー消費量が 42.7Mtoe に減少すると試算される。省エネルギーポテンシャルは

19.0Mtoe(31%)となる。これは自動車単体対策による自動車の省エネルギー量となる。

一方、ジャカルタを中心とした首都圏においては交通渋滞が蔓延している。JICA 専門家

の調査1ではジャカルタの平均時速が 30 キロ未満と報告されている。ジャカルタでは全国

60%の自動車が集中しているため、ジャカルタだけでも道路状況の改善や公共交通機関の

促進等の対策で交通渋滞を解消しエネルギー消費量を減少させるポテンシャルが多いと考

えられる。仮に首都圏道路交通環境が改善され、自動車の平均時速は 30 キロから 60 キロ

に向上した場合、これが燃費改善率に換算すると 26%2に相当する。本試算では上記の改善

率を仮定すると、道路交通状況の改善によるインドネシア全国のエネルギー消費量はさら

に 36.1Mtoe(11.0%)に低下すると試算される。

費用対効果分析

産業部門

高効率技術導入時の 2017 年から 2030 年までの累積費用 11 億ドルに対し、累積便益は 28

億ドルと見込まれる。費用から便益を差し引いたネットコストは負の値となる。すなわち、

予測期間における対象技術の省エネルギー量に基づく社会的な便益が費用を上回ることを

示す。なお、対象技術の合計では投資した費用の約 2.6 倍の便益が得られることになる。技

術別のネットコストでは、リジェネバーナー(鉄鋼)の▲9.4 億ドルが最大であり、回収ボ

イラー(紙パルプ、▲3.8 億ドル)、発電型排熱回収設備(セメント、▲3.2 億ドル)、貫流

ボイラー(繊維、▲0.6 億ドル)と続いており、全ての技術で費用よりも便益が上回る結果

となった。

家庭部門

1ジャカルタ新聞 http://www.jakartashimbun.com/free/detail/21150.html 2 内閣府資料:http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/max-speed/k_3/pdf/s9-1.pdf

VIII

高効率機器の導入にかかわる追加費用は、2030 年までの累積で 144 億ドルに及ぶ。これ

とは対照的に、省エネルギーによる社会的便益は、171 億ドルであり、追加的費用に対する

便益は、1.2 倍に上る。特に、将来的な世帯あたり普及率が現状の 0.2 台から 2030 年には

0.38 台へと拡大が見込まれるエアコンの省エネルギーによる社会的便益は、93 億ドルと最

大で、MEPS 基準の徹底遵守ならびに基準自体の向上が必要である。

業務部門

業務部門の高効率照明、冷房、冷蔵、換気に係る 2030 年までの追加費用は 38 億ドルに

及ぶ。これとは対照的に省エネルギーによって得られるインドネシアの社会的便益は 106

億ドルに上り、追加費用の 2.8 倍程度の便益が得られることになる。家庭部門での費用便益

分析と比較して、業務部門では追加費用に対する便益の大きさが顕著である。これは、業

務部門では技術の稼働時間が長いため、省エネルギー効果が相対的に大きいことを要因と

している。

分析対象技術のネットコスト比較

分析対象技術を省エネ量あたりのネットコストとしてまとめたところ、もっとも単位当

たりのネットコストが大きい(便益が費用を上回る)技術は業務用の照明であり、これに

業務用の冷蔵、鉄鋼のリジェネバーナー、紙パルプの回収ボイラが続く。省エネ量では、

家庭用の空調が最大のポテンシャルを有する。

インドネシアでは、家電製品を対象とし MEPS 対象範囲を拡大する予定であるが、ネッ

トコストの技術別比較をみると、業務部門または産業部門では、稼働時間の長さを踏まえ

高効率技術導入にかかわる便益の相対的大きさが明らかである。こうした点を踏まえ、業

務部門や産業部門における高効率技術の導入に向けた義務化や技術別の MEPS 導入の検討

に向けた作業が必要であると指摘できる。

第 4 章 再生可能エネルギーの導入目標達成に向けた現状と課題

2014 年策定された国家エネルギー政策では、一次エネルギー供給に占める新・再生可能

エネルギーの割合を 2025 年までに 23%、2050 年までに 31%に引き上げる目標が定められ

ている。国際エネルギー機関の統計によると、2014 年時点でインドネシアにおける一次エ

ネルギーベースの再生可能エネルギーの割合は 34%になっているものの、その大半が家庭

の調理等で使用される非商業バイオマスであり、国家エネルギー計画での目標の対象とな

っている新・再生可能エネルギーの割合は 6%(2014 年)に留まっている。

インドネシアは水力や、地熱、バイオマス、太陽光等豊富な再生可能エネルギー資源に

恵まれている。2004 年同国は石油純輸入国に転じて以来、インドネシア政府は国内再生可

能エネルギー資源の利用拡大に積極的に取り組んでいる。2006 年には国営電力会社 PLN 社

による再生可能エネルギー発電の買取を義務化、2009 年から再生可能エネルギー技術毎の

買取価格が相次いで設定された。2016 年時点で、小水力発電、バイオマス・バイオガス発

IX

電、廃棄物発電、地熱発電3、太陽光発電に対し、固定価格買取(FIT)の規則が公表され

ている。

諸外国で実施される FIT 制度では割高の FIT 買取価格と買取先の平均電力調達コストの

差額を電気料金に上乗せし、この追加コストを消費者に転嫁して回収できるような仕組み

をとるのが一般的である。インドネシアにおける電力の買取市場は国営電力会社 PLN 社に

よる独占であり、これは再生可能エネルギーにおいても同様である。しかしながらインド

ネシアでは、PLN 社が FIT の追加コストを電気料金に転嫁し回収することが出来ない上に

再生可能エネルギー発電の追加コストを政府補助で補填されることも保証されていない。

これに加え、国営企業として経営の健全化と一定の収益を保証する義務もある。結果とし

て、国営電力会社 PLN 社は FIT 価格での再生可能エネルギー発電の買取を行っておらず、

現在のところインドネシアでは再生可能エネルギー普及拡大に向けた FIT 制度が機能して

いない。

このような課題、ならびに再生可能エネルギー発電コストが急速に低下している世界的

な潮流に鑑み、インドネシア政府は 2017 年 1 月に新たな再生可能エネルギー発電の買取規

則(MEMR Regulation No. 12/2017)を発表した。新規則は国営電力会社 PLN 社の地域毎の

発電コストを再生可能エネルギー調達価格の上限価格としている。

インドネシアでは地域によって電源構成が異なるためそのコストは異なる。全国電力消

費量の約 8 割を占めるジャワ-バリ地域においては主要電源が安価な石炭発電であるため、

平均発電コストも他の地域と比較して相対的に安い。それに対し、離島・遠隔地ではディ

ーゼル発電に頼っており、高価なディーゼルの燃料コストの影響で、発電コストが高くな

る。PLN 社によれば石炭火力の平均発電コストが約 4¢/kWh に対して、ディーゼルの発電

コストがその 4 倍強(17.4¢/kWh)になっている4。これに対し再生可能エネルギーの中で

も高価とされる太陽光発電のライフサイクルコストがインドネシアにおいて14¢/kWhと試

算されていることから離島・遠隔地におけるディーゼル発電がいかに高価かが分かる。

第 5 章 2050 年までの再生可能エネルギー導入ポテンシャルおよび導入促進にむけた政策

の費用対効果分析

本章では、インドネシアの再生可能エネルギーの導入拡大策につきジャワ―バリ/スマト

ラ地域を中央地域、それ以外の地方・離島からなる東インドネシアを地方地域としてこれ

を分けて、定量的に分析している。東インドネシア地域5に関しては特に地方の電力供給に

おける再生可能エネルギー利用拡大の重要性からこれの検討については現状維持のレファ

レンスケースと再生可能エネルギー最大限利用ケースを設定し、電源開発モデルで 2050 年

までの電源構成ならびに総発電コスト等を試算している。地方電力供給の再生可能エネル

ギーの最大限活用を実現した場合、レファレンスケースと比較すると年間火力発電の代替

3 2014 年に買取価格の設定は固定価格から入札制に変更された。 4 国営電力会社 PLN (2016) “PLN Statistics 2015” 5 当該地域における電力消費量は全国の 8%強に占める

X

可能量は 2025年に 26.3TWh、2030年に 45.0TWh、2050年に 141.2TWhとなる見通しである。

再生可能エネルギー技術のコスト構造は初期費用が相対的に高価となる一方、燃料コスト

が殆どかからない6ことが特徴である。従って、再生可能エネルギーを最大限に利用した場

合、現状維持ケースと比べ、2025年までの累積総発電コストは約 80億ドル増加するものの、

2050 年まで約 540 億ドルの総発電コスト節約が期待できる。

本調査ではさらにスンバ島とパプア地域のケーススタディを通じて、太陽光によるディ

ーゼル発電を置き換える場合のコスト削減効果、ならびに地方電力系統の整備状況を加味

した市場ポテンシャルの推計を行っている。2015 年パプア地域におけるディーゼル発電量

の 10%を太陽光発電で代替すると、約 1 億 9 千万ドルの初期投資が発生するが、ライフサ

イクル全体で見ると 3 億 6,400 万のディーゼル燃料費が回避され、合計 1 億 7,400 万ドルの

総発電費用を節約できる7。なお、本調査においては蓄電設備の併設や地域間連系線の増設

を考慮しない場合を想定、ディーゼル発電量の最大 25.8%前後を太陽光発電により代替可能

であることが示された8。これを参考に 2015 年インドネシア全国のディーゼル発電量

(18,859GWh)を最大限太陽光発電で置き換えると、必要な太陽光発電の設備容量は

3,471MW に上ると推計された。

さらに本調査の試算では再生可能エネルギー導入目標を実現するためには地方地域のみ

ならず、全国電力需要の大半を占める中心地域における再生可能エネルギーの利用拡大が

不可欠であることが示された。例として 2050 年までのインドネシア全国の電力需要に対す

る電力供給の中で、FIT 制度9及び低金利融資(LIL: Low Interest Loan)の政策効果と影響を

評価するために、FIT+LIL 導入ケースと導入しないケース(レファレンス)を設定し、電源

開発モデルを用いそれぞれのケースにおいての電源構成を試算している。また、FIT 政策の

コストと電気料金に対する影響を推計するために、FIT のみ導入したケースの計算も行った。

FIT および LIL を実施すると、再生可能エネルギーの発電量は 2025 年に 28TWh、2030 年に

47TWh、2050 年に 98TWh の導入拡大効果があると見込んでいる。FIT 制度の導入によって

発生した追加コストは累積で 2025年まで 160億ドル、2030年まで 230億ドルに上る。一方、

FIT の導入ケースでは再生可能エネルギーの導入量が拡大するため化石燃料費の回避効果

や、学習効果による再生可能エネルギー初期費用の削減速度も大きくなる。全体として FIT

の導入によって発生した追加コストの累積は 2027 年頃にピークとなり、それ以降 FIT 導入

による発電コストの節約効果が現れ、FIT ケースの単年度平均発電コストは FIT なしケース

より安くなっていく。その結果、FIT 制度の導入ケースでは 2050 年まで FIT を実施しない

場合より 150 億ドルほどの総発電コストの節約が期待できる。なお、FIT 導入により発生し

た単年度の追加コストを全国の電力消費者に転嫁する場合、2025 年時点での消費者負担は

6 バイオマス・バイオガス発電以外 7 太陽光発電を導入後 8 年~9 年目時点で、回避されたディーゼルの累積コストの現在価値は太陽光発電設

備の初期投資と同等となると見込んでいる 8 スンバ島のケーススタディ 9 2016 年時点の買取価格水準を計算の前提とする

XI

約 0.003US$/kWh であると推計された。

第 6 章 日本企業の事業機会とリスクを含めた示唆・日本政府のインドネシアに向けた政

策支援項目

経済性の観点から見ると離島・遠隔地域のような地域はディーゼル発電をベースとした

既存電源の発電コストが比較的高いためより魅力的な再生可能エネルギー発電の投資先で

ある。しかし新規則のもとでは中央地域の再生可能エネルギーに対する買取価格は、従来

の FIT 制度における買取価格と比較して相対的に低くなる。したがって、太陽光発電など

高価な再生可能エネルギーは収益が低下するが、水力や地熱など比較的発電コストの安い

再生可能エネルギー発電プロジェクトであれば事業可能性があると見られる。なお、離島・

遠隔地域では電力負荷や系統整備状況によって、小規模分散型発電に比較的容易に対応可

能な再生可能エネルギー、例えばバイオマス発電や太陽光発電が適している。太陽光発電

に対しては出力変動への対策として蓄電設備やバックアップ調整電源の併設、及び総合的

な系統運用が必要となってくる。

離島・遠隔地域における再生可能エネルギーの導入拡大を促進するためには、技術面、

資金面、及び地域の電力供給事業者が長期的に事業を運営できるような水準での料金回収

制度または補助金支給といった制度構築が不可欠である。特に高品質ではあるが初期投資

費用が高くなる傾向にある日本製品の場合ライフサイクルを考えた長期的視点が収益の観

点から重要となってくる。そのため、初期費用を負担できるような融資メカニズムやビジ

ネスモデルについて、両国の政府、民間企業、金融機関等様々な分野を横断する解決方法

を検討する場を設けることが望まれる。

第 7 章 インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー推進に向けた政策提言

省エネルギー

インドネシアでは、国家エネルギー計画において省エネルギーの推進が重要な政策項目

として打ち出されており、2025 年までに 1%のエネルギー原単位改善目標ならびにエネルギ

ー弾性値を 2025 年に 1 以下とする目標を設定している。目標達成に向けたフォローアップ

メカニズムを構築すると共に、これらの目標を達成するためにも産業、運輸、家庭、業務

の各部門において省エネルギーを推進するためにも、長期的な視点から実施される政策や

プログラムがシナジーを発揮しうるように整合的に制度を構築することが必要である。

産業部門では、エネルギー管理を通じた省エネルギーを実施する事業所のエネルギー消

費量は年間石油換算 6,000toe であり、日本の 1500kL(石油換算 1,287toe)の 4 倍以上であ

り、同制度で対象となる事業場が大規模工場等に限定されることからも、カバー率を上げ

るなど、国内の産業部門におけるエネルギー効率改善を行うには裾野のさらなる拡大が必

XII

要である。高効率設備の導入に向け、事業者の技術に関する理解向上に資する技術リスト

を作成し、それらの導入に関して補助金支給や低利融資を行うなど政府支援の実現が必須

である。その際、原資として、現在電力や石油に付与される補助金をシフトさせるなど、

政策の転換が求められる。

運輸部門はエネルギー需要が最も伸びている部門として、燃費規制の導入支援を急ぐ必

要があり、これに関連した車検制度の導入と石油精製の品質向上も欠かせない。また現状

のインドネシア主要都市で起きている乗用車への過剰依存の低減し、渋滞を解消しつつエ

ネルギー消費を節減、LCGC に代表される低燃費車の性能が発揮できるよう、公共交通イン

フラ整備ならびに乗用車利用の適正化に向けた政策・制度形成の支援が必要である。

家庭部門の省エネルギー推進における最も根本的な課題は、電化率が低いことや低アン

ペア契約の世帯が全体の 65%を占める点にある。これは、家電全般、高効率家電製品の普

及の阻害要因の一つであると言える。その対策として、地方電化率の向上や 2A/4A 契約を

撤廃し、6A 契約への移行促進が必要である。その代わりに、これまで 2A/4A 契約世帯に支

給された補助金を電力インフラの形成や地域特有の再エネ資源の開発に資する目的で活用

すると共に、省エネ技術・機器への投資へシフトさせる必要もあるだろう。

電力・エネルギー価格が相対的に安価であるため、消費者の省エネ意識を喚起するため

には、電力料金の適正化、省エネ意識向上に向けた啓発活動や情報提供にさらに注力する

必要がある。定期的なエネルギー消費実態調査や省エネ意識調査に基づくモニタリングま

たは政策評価に資する情報収集も考えられる。

普及が進むテレビや冷蔵庫などの家電製品の省エネルギー推進に当たって、MEPS の導入

やラベリング制度の対象製品の拡大は不可欠である。また、基準に適合した製品が市場に

流通するために、試験場での適格な検査が必要されており、それに伴い、製品試験場での

人材育成や設備の充実化も求められる。

高効率家電機器の普及促進に当たって、優遇措置、補助金等の助成、日本のエコポイン

ト制度のような措置を創設、高アンペア契約への移行推進と共に実施されることも考えら

れる。住宅の断熱性能基準の導入による住宅の省エネ性能の向上も長期的には必要である。

インドネシアにおける業務部門の省エネルギー推進課題に対応するためにも、政策・規

制ならびに遵守メカニズムの構築、ならびに低利融資等のファイナンスメカニズムの構築

が必要である。具体的には、現行のエネルギー管理制度における業務部門のカバー率は全

体の 1%(35 事業者)と限定的であり、対象範囲を述べ床面積 5 万㎡、年間エネルギー消費

量 700toe に下げるなど、対象を拡大する必要がある。また、資金調達コストが膨大となる

ことを阻害要因として、省エネ投資は積極的に行われていないため、利子補給等の低利融

資に向けた政府支援が必要である。

インドネシアでは、CFL、エアコンに続いて今後、冷蔵庫、炊飯器、モーター、洗濯機な

どに拡大する予定である。業務部門の照明や冷蔵庫、産業部門のリジェネバーナー(鉄鋼)、

XIII

回収ボイラー(紙パルプ)など、2030 年の費用対効果分析ではエネルギー需要の石油換算

トン当たりの節減にかかるネットコストがマイナスとなる技術がある。すなわち、2030 年

に向けた省エネルギーによる社会的な便益を考慮すると、便益が費用を上回る技術がある

ことを踏まえ、コスト効果性に配慮した技術の導入が望まれる。こうした技術の導入促進

に向け、例えば産業部門での排熱回収技術導入の義務化といった制度の導入が期待される。

MEPS や省エネルギー技術導入、経済インセンティブ付与についてのモニタリングと検証

メカニズムの構築は、政策効果を把握する上で肝要である。エアコンの MEPS が 2016 年 7

月に導入されたところではあるが、同政策の省エネルギー効果を計測できるモニタリング

メカニズムはいまだ形成されていない。MEPS 制度下では、関連業界との協力を構築し、ラ

べリング制度と共に輸出や販売事業者が添付するラベルのデータを収集するメカニズムを

構築、MEMR 省エネルギー局の関連機関として収集したデータを評価する機能を有する機

関を形成することが必要である。

長期的な視点から省エネルギーはインドネシアのエネルギー安全保障と地球温暖化対策

として有効な手段を提示し得る。費用対効果の観点からも長期的に省エネ分を輸出に向け

ることにえられる便益が省エネ投資を上回る技術の導入に期待が寄せられるためこうした

技術の導入に向けエネルギー供給事業者の果たす役割は重要である。具体的には、電力供

給事業者である PLN が電力販売として有する消費者との直接のコンタクトを活用、省エネ

ルギーアドバイスや高効率技術導入に関するリベート付与といった役割を担うことが期待

される。

再生可能エネルギー

地方においては再生可能エネルギー発電技術を活用すると、ライフサイクル総発電コス

トの低減が期待できる。2016 年 12 月に発表された地方電化に関する新たな規則(MEMR

Regulation No. 38/2016)でも、地元の再生可能エネルギー資源の活用が推奨されている。本

規則の実施においてこれをさらに有効活用する施策として、例えば地方電化における一定

比率の再生可能エネルギーの導入を義務化することや、事業者への補助金(一定の利益率

を保証するような発電コストと電気料金の差額)を算出する際に利益率を再生可能エネル

ギーの利用と連動させるなどの再生可能エネルギー利用促進の措置が考えられる。

本規則はまた、マイクログリッド(1 カ所 50MW 以下)による電力供給事業者には PLN

社以外でも、他の事業団体、特に市民共同組合(cooperative)も地方の電力供給事業者とし

て認められる。地域に密着した市民共同組合を地方電化事業へ参入させることは、プロジ

ェクトの円滑な推進と持続可能な運営に繋がり地方の雇用創出にも貢献する。ただし地元

の市民共同組合が地方電化事業への参入を促進するためには技術面での政府サポートは不

可欠であり、定期的に研修セミナーの開催や専門家養成プログラムの実施等を検討する必

要がある。

地方の電力供給における再生可能エネルギーの利用拡大には、地方電化のみならず、既

XIV

存のディーゼル発電の再生可能エネルギーによる代替も推進すべきである。しかし地方で

は電力需要の増加へ対応するために、早急な電力供給設備の導入が必要となるため、限ら

れた設備投資の予算の中では、再生可能エネルギー技術に比べ初期投資が安いディーゼル

発電が優先される傾向にある。この課題に対しては、現在ディーゼル発電設備を所有して

いる事業者に対して、設備置き換えのための初期投資の回収年数(8~9 年と推計している)

をカバーするような長期融資スキームや、太陽光発電設備費用の分割払いメカニズム等の

支援措置を検討する価値がある。

一方、発電コストの低い中央地域では、再生可能エネルギープロジェクトの事業性が相

対的に低くなるため、高い価格水準で再生可能エネルギーを調達する FIT 制度や、再生可

能エネルギーの初期費用を低減させるための政策措置が求められる。インドネシアでは、

再生可能エネルギー買取の新規則が打ち出されているもののこれまでの固定価格買取(FIT)

制度は廃止されることとなっていない。しかし FIT 制度の円滑な施行を保証するためには

FIT による発生した追加費用を回収できるような仕組みの導入が必要である。例えば現在

PLN 社が利用している非補助対象の電力消費者に対するする電気料金調整メカニズムを活

用し、電気料金調整の算定式に再生可能エネルギーの買取費用を織り込まれることも一策

であろう。

XV

目次

第 1 章 エネルギー需給とエネルギー政策の概要 ......................................................................... 1

1.1. エネルギー需給動向............................................................................................................... 1

1.2. エネルギー政策の概要........................................................................................................... 2

[参考文献] ........................................................................................................................................ 5

第 2 章 省エネルギー目標達成に向けた現状と課題 ..................................................................... 7

2.1. 省エネルギー政策の位置づけならびに長期目標 ............................................................... 7

2.2. 省エネルギー政策................................................................................................................... 9

2.3. 省エネルギー政府機関の役割 ............................................................................................. 11

2.4. 他省庁との協力 .................................................................................................................... 13

2.5. 気候変動対策目標における省エネルギーの役割 ............................................................. 14

2.6. エネルギー原単位の推移 ..................................................................................................... 16

2.7. エネルギー弾性値の推移 ..................................................................................................... 17

2.8. 省エネルギー導入目標・温暖化目標達成に向けた現状把握及び課題 ......................... 18

2.8.1. 産業部門 ......................................................................................................................... 18

2.8.2. 運輸部門 ......................................................................................................................... 36

2.8.3. 家庭部門 ......................................................................................................................... 39

2.8.4. 業務部門 ......................................................................................................................... 45

[参考文献] ...................................................................................................................................... 53

第 3 章 2030 年までの省エネルギーポテンシャルおよび費用対効果分析 .............................. 55

3.1. 省エネルギーポテンシャルの試算方法 ............................................................................. 55

3.1.1. 概要(全部門共通) ...................................................................................................... 55

3.1.2. サブモデルの活用(家庭部門・業務部門・運輸部門) .......................................... 57

3.1.3. 省エネルギー政策の効果分析(全部門共通) .......................................................... 57

3.1.4. 産業部門 ......................................................................................................................... 58

3.1.5. 家庭部門 ......................................................................................................................... 62

3.1.6. 業務部門 ......................................................................................................................... 67

3.1.7. 運輸部門 ......................................................................................................................... 70

3.2. 費用対効果分析 .................................................................................................................... 79

3.2.1. 費用対効果分析の概要(全部門共通) ...................................................................... 79

3.2.2. 費用 ................................................................................................................................. 80

3.2.3. 便益 ................................................................................................................................. 80

3.2.4. 産業部門 ......................................................................................................................... 80

XVI

3.2.5. 家庭部門 ......................................................................................................................... 85

3.2.6. 業務部門 ......................................................................................................................... 86

3.2.7. 費用対効果分析のまとめ .............................................................................................. 87

[参考文献] ...................................................................................................................................... 89

第 4 章 再生可能エネルギーの導入目標達成に向けた現状と課題 ........................................... 91

4.1. 再生可能エネルギー導入量の現状 ..................................................................................... 91

4.2. 再生可能エネルギー導入目標 ............................................................................................. 92

4.2.1. 電力分野 ......................................................................................................................... 93

4.2.2. バイオ燃料...................................................................................................................... 94

4.3. 再生可能エネルギーに関連する政府機関 ......................................................................... 95

4.4. 再生可能エネルギー政策とその課題 ................................................................................. 96

4.4.1. 再生可能エネルギー導入促進に関連する政策 .......................................................... 96

4.4.2. 再生可能エネルギーの導入拡大に係る課題 ............................................................ 106

4.4.3. 技術別課題の抽出 ........................................................................................................ 107

[参考文献] .................................................................................................................................... 111

第 5章 2050年までの再生可能エネルギー導入ポテンシャルと導入促進に向けた政策の費用

対効果分析 ...................................................................................................................................... 113

5.1. 再エネ資源ポテンシャル ................................................................................................... 113

5.2. 地方電力供給における再生可能エネルギーの導入量に関する分析 ........................... 113

5.2.1. 東インドネシアの地方電力供給における再生可能エネルギーの活用 ................ 114

5.2.2. 系統の整備状況が再エネ導入量に対する影響(スンバ島のケーススタディ) 117

5.2.3. 太陽光発電によるディーゼル発電の置き換えに関するケーススタディ ............ 120

5.3. 再生可能エネルギーのコスト競争力を向上させるための政策措置に関する分析 ... 122

5.3.1. FIT メカニズムと低金利融資の政策効果 .................................................................. 123

5.3.2. FIT 制度の費用と便益に関する分析 .......................................................................... 125

5.4. 再エネ導入目標の実現可能性の検証 ............................................................................... 126

[参考文献] .................................................................................................................................... 128

第 6 章 日本企業の事業機会とリスクを含めた示唆・日本政府のインドネシアに向けた政策

支援項目 .......................................................................................................................................... 129

6.1. 現行再生可能エネルギー促進政策のもとでの日本企業の事業機会リスク ............... 129

6.2. SWOT 分析による日本政府のインドネシアに向けた支援項目の検討 ........................ 129

XVII

第 7 章 インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー導入普及に向けた政策提

言 ...................................................................................................................................................... 131

7.1. 省エネルギー ...................................................................................................................... 131

7.1.1. 部門別の省エネルギー推進 ........................................................................................ 131

7.1.2. 費用対効果を考慮した省エネルギー技術の導入拡大 ............................................ 132

7.1.3. 新たな政策導入の検討 ................................................................................................ 133

7.1.4. 省エネルギー推進におけるエネルギー供給事業者の役割 .................................... 133

7.2. 再生可能エネルギー........................................................................................................... 134

7.2.1. 地方電力供給における再生可能エネルギーの導入拡大 ........................................ 134

7.2.2. 再生可能エネルギーのコスト競争力の向上について ............................................ 135

XVIII

略語表

略語 正式名称

(インドネシア語・英語)

日本語名称

および訳

ADB Asian Development Bank アジア開発銀行

ALT Alternative Case 代替ケース(省エネルギー対策実施ケ

ース)

BAPPEAS National Development Planning Agency 国家開発計画庁

BaU Business as Usual Case 従前のエネルギー改善趨勢が維持さ

れる現状維持ケース

BPPT Agency for Assessment and Application of Technology 研究技術庁

CEMBUREAU European Cement Association 欧州セメント協会

DEN Dewan Energi Nasional 国家エネルギー委員会

DJK Direktorat Jenderal Ketenagalistrikan 電力総局

EBTKE Direktorat Jenderal Energi Baru Terbarukan dan

Konservasi Energi

新・再生可. 能エネルギー及び省エネ

ルギー総局

ECCJ Energy Conservation Center, Japan 省エネルギーセンター

FAO Food and Agriculture Organization of the United

Nations

国連食糧農業機関

FIT Feed-in Tariff 固定価格買取制度

GHG Greenhouse Gas 温室効果ガス

IEA International Energy Agency 国際エネルギー機関

IEEJ Institute of Energy Economics, Japan 日本エネルギー経済研究所

IGA Investment Grade Audit 投資対象診断(省エネ)

JETRO Japan External Trade Organization 日本貿易振興機構

JICA Japan International Cooperation Agency 国際協力機構

KEN Kebijakan Energi Nasional 国家エネルギー計画

LBNL Lawrence Berkeley National Laboratory ローレンス・バークレー国立研究所

LCGC Low Cost Green Car 環境への負担が少ない自動車

注 1:本文中ではインドネシアの機関や計画名についてはインドネシア語の略称を用いる。ただし、省庁に

ついては英語の略称を使用する。

注 2:正式名称がインドネシア語の場合は斜体で表している。

XIX

略語表

略語 正式名称

(インドネシア語・英語)

日本語名称

および訳

MEMR Ministry of Energy and Mineral Resources エネルギー鉱物資源省

MEPS Minimum Energy Performance Standards 最低エネルギー消費効率基準

MoEF Ministry of Environment and Forestry 環境森林省

MoF Ministry of Finance 財務省

MoI Ministry of Industry 工業省

MoNE Ministry of National Education 国家教育省

MoPW Ministry of Public Works 公共事業省

MoT (a) Ministry of Transport 運輸省

MoT (b) Ministry of Trade 通商省

NAMA Nationally Appropriate Mitigation Actions 途上国における適切な緩和行動

NDC Nationally Determined Contribution 各国の決定された貢献(旧約束草案)

NEDO New Energy and Industrial Technology Development

Organization

新エネルギー・産業技術総合開発機構

PLN PT. PLN (Persero), Perusahaan Listrik Negara 国営電力会社

RIKEN Rencana Induk Konservasi Energi Nasional 国家省エネルギーマスタープラン

RUED Rencana Umum Energi Daerah 地方エネルギー総合計画

RUEN Rencana Umum Energi Nasional 国家エネルギー総合計画

RUKN Rencana Umum Ketenagalistrikan Nasional 国家電力総合計画

RUPTL Rencana Usaha Penyediaan Tenaga Listrik 電力供給事業計画

UNFCCC United Nations Framework Convention on Climate

Change

国連気候変動枠組条約

WB World Bank 世界銀行

WSA World Steel Association 世界鉄鋼協会

注 1:本文中ではインドネシアの機関や計画名についてはインドネシア語の略称を用いる。ただし、省庁に

ついては英語の略称を使用する。

注 2:正式名称がインドネシア語の場合は斜体で表している。

XX

1

第1章 エネルギー需給とエネルギー政策の概要

1.1. エネルギー需給動向

図 1-1 は、インドネシアの一次エネルギー総供給の推移である。インドネシアはアジアの

中でも有数の産油国であり、豊富な自国の資源のもと、一次エネルギー供給量は約 35Mtoe

(1971 年)から 226Mtoe(2014 年)と約 6 倍も増加している10。2014 年の一次エネルギー

供給量の内訳は、石油が 33%と最も大きく、次いでバイオマス・廃棄物が(26%)、天然ガ

ス(16%)・石炭(16%)となっている。化石燃料間の代替においては、原油生産の縮小お

よび天然ガスの増産に伴い、石油から石炭とガスへの転換が積極的に図られている。さら

に非商業用から商業用への再生エネルギーへの代替は今後の課題である。

出典: International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”より作成

図 1-1 インドネシアの一次エネルギー総供給の推移

図 1-2 は部門別の最終エネルギー消費の推移である。インドネシアの最終エネルギー消費

量は約 165Mtoe(2014 年)であり、内訳は家庭部門が 39%、次いで運輸部門が 28%、産業

部門が 24%、、業務部門とその他で 4%であり、農村等で使われる非商業用バイオマスを含

む家庭部門のエネルギー消費の割合が最大である。

102004 年には純輸入国に転換している。

0

50

100

150

200

250

71 80 90 00 10 14

バイオマス・廃棄物

太陽光・風力・その他

地熱

水力

天然ガス

石油

石炭

Mtoe

2

出典: International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”

より作成

図 1-2 インドネシアの部門別最終エネルギー消費の推移

注:家庭部門のエネルギー消費のほぼ 78%(2014 年)は農村で使われる非商業用バイオマスである点には

注意が必要である。

インドネシアは2009年の金融危機の影響が相対的に小さく、GDP成長率は2009年に4.6%

とゆるやかな増加に転じたものの、2010 年には 6.2%増に回復し、金融危機前の水準を上回

った。

出典:World Bank (2016) “World Development Indicators”

図 1-3 経済成長率の推移

1.2. エネルギー政策の概要

インドネシアは、自国の資源で石油を賄えた時代とは異なり、国際的な原油価格の乱高

下が、国家財政を悪化させているため、石油代替エネルギーと省エネルギーの推進が重要

課題であるとの認識が浸透しつつある。他方、石油製品に対する補助金改革は、インドネ

シアでは最も大きな政治的課題となっており、歴代政権は慎重な対応を強いられてきた 。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

71 80 90 00 10 14

非エネルギー

その他

漁業

農業

業務

家庭

運輸

産業

Mtoe

4.9

3.6

4.5 4.8

5.0

5.7 5.5

6.3 6.0

4.6

6.2 6.2 6.0 5.6

5.0 4.8

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

0

200

400

600

800

1000

1200

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

20

15

GD

P成

長率

(%

GD

P(

10

億ド

ル)

GDP成長率 GDP

3

インドネシアでは 2011 年および 2012 年の補正予算において、燃料価格の引き上げ案(約

30~40%程度)が盛り込まれたものの、燃料値上げに対する国民のデモや暴動に配慮する形

で実行は見送られてきた。

このような状況を打破するために、2014 年 1 月の下院本会議において、2050 年までのエ

ネルギー政策の大枠を定めた「国家エネルギー政策(KEN)」に関する大統領規定案を承認

し、化石燃料への依存を低減させるとともに再生可能エネルギーの普及促進ならびに省エ

ネルギーの推進を目指している。 KEN で設定された目標を実現化させるための具体的な措

置を盛り込んだ国家エネルギー計画(RUEN)の策定を予定している。

2025 年までにインドネシアにおける各エネルギーの割合は、石油を 49%から 22%以下へ

低減させる目標を設定している。天然ガスを 20%から 22%、石炭を 24%から 32%、再生可

能エネルギーを 6%から 23%へそれぞれ増加させるとしている。また、原子力は最後の選択

と位置付けている。化石燃料の直接使用から電力への転換の促進。発電設備容量は現在の

44GW から 2025 年には 115GW に増加させる。

また、次のような国家エネルギー政策目標を掲げた。

① エネルギー弾性値(エネルギー消費の伸び/経済成長率):経済成長目標に合うよう、

2025 年に弾性値を 1 以下とする。

② エネルギー原単位(GDP 当たりののエネルギー使用量):2025 年までに年 1%で改

善させる。

③ 電化率:2015 年に 85%、2020 年には 100%に近づける。

④ 家庭用ガスの使用率:2015 年に 85%とする。

⑤ 一次エネルギーに占める新・再生可能エネルギーの割合:2025 年までに 23%、2050

年までに 31%に引き上げる。

原子力発電所に対する姿勢:原子力発電は最終的な選択肢と位置づけ、導入の可能性を

残した。長期的には原発の導入が必要という従来からの政府認識を踏襲した形となってい

る。

資源の輸出に関しては、国内で産出する石炭や天然ガスは、国内の需要の増加を見込み

段階的に輸出を減少させ、最終的に完全に停止する方針である。これは、将来的なエネル

ギー資源生産の低迷を見据え、現在の資源輸出する一方で、加工製品を輸入する経済構造

には限界があるため、国内での製造業を振興した上で、国内需要の増加を見込むことが長

期的な経済政策の方針として掲げられている。

インドネシアの国家エネルギー計画における 2025 年までのエネルギー需要見通しを図

1-4 に示す。図が示すとおり、インドネシアの一次エネルギーは、2013 年から 2025 年まで

年率 10.3%で増加、2013 年の水準から 2025 年には 3.2 倍の 602 Mtoe にまで達するとしてい

る。これに対して、目標水準は、省エネルギーの貢献が大きく、需要増ペースが BaU と比

4

較してペースが低い同年率 6.6%で推移、2025 年には 2013 年の 2.2 倍の水準である 400 Mtoe

に達するとしている。

出典:National Energy Commission(2014)「国家エネルギー政策」より作成

図 1-4 国家エネルギー政策における 2025 年までのエネルギー需要見通し

2013 2015 2020

23%NRE

25%天然ガス

22%石油

30%石炭

省エネ(33.6%)

186 Mtoe

602 Mtoe

400 Mtoe

石炭

石油

天然ガスNRE 10%

18%

41%

31%

3%

21%

42%

35%

2025

エネルギー源

の多様化

5

[参考文献]

• International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”

• World Bank (2016) “World Development Indicators”

• 国際協力機構 (2014) 「平成 25 年度 国際即戦力育成インターンシップ事業 インドネ

シアの電力事情 報告書」

6

7

第2章 省エネルギー目標達成に向けた現状と課題

2.1. 省エネルギー政策の位置づけならびに長期目標

インドネシアの省エネルギー政策は、エネルギー政策を包括的に定める国家エネルギー

政策(KEN: Kebijakan Energi Nasional)と整合的に形成されている。すなわちインドネシア

のエネルギーミックスを中心としたエネルギー政策の根幹をなす国家エネルギー政策の

2025 年および 2050 年の目標を実現する手段として、整合的な形で省エネルギーマスタープ

ランである “RIKEN”が定められている。

なお、 KEN は、国家エネルギー委員会(National Energy Council or DEN: Dewan Energi

Nasional)と呼ばれる省庁を横断した組織が担当しており、議会の承認ならびに大統領の信

任を経て、制定するものである。エネルギー法(Law No.30 of the Year 2007 regarding Energy

or Energy Law)で定める通り、インドネシアでは、国家エネルギー委員会を形成し、KEN

を作成、石油ガスならびに石炭の開発、電源開発、再生可能エネルギーならびに省エネル

ギーに関する各政策の基礎となる将来のインドネシアにおけるエネルギー需給の指針が提

示されている。

国家エネルギー委員会は 2008 年に形成されたもので、大臣 7 名と議会が選出する非政府

メンバー8 名から構成される。大統領が国家エネルギー委員会の委員長であり、エネルギー

鉱物資源大臣(Minister of Energy and Mineral Resources)が実質的な省庁間の議論を橋渡し

する “Daily Chairperson”の役割を果たしている。

出典:Asia Pacific Energy Research Centre (2012). “Peer Review on Energy Efficiency in Indonesia”

より作成

図 2-1 国家エネルギー計画の策定過程と省エネルギー局の関係

議会 大統領

国家エネルギー政策

国家エネルギー政策

(案)

国家エネルギー政策

(案)

国家エネルギー委員会(DEN)

草案の提示

承認

国家エネルギー政策

制定

エネルギー鉱物資源省

再エネ・省エネ総局

その他の総局

DEN議長

DEN「Daily」議長

DEN事務局

大統領の任命

DEN委員 (関係者)

7名

DEN委員 (大臣と政府関係者)

8名

大統領の承認

8

2014 年 1 月、国家エネルギー政策(KEN:Kebijakan Energi Nasional)が国会で承認され、

同年 10 月から大統領令として施行された。この中で、石油依存度の低減と、再生可能エネ

ルギーの利用最大化の方針が示された他、石炭を信頼できる国産エネルギーとして位置付

け、発電・産業部門向けに利用していく方針も示された。

エネルギー法上、国家エネルギーマスタープランである RUEN(Rencana Umum Energi

Nasional)が KEN の下に位置づけられ、KEN で提示されたインドネシアの将来に関するエ

ネルギー需給の指針を実現する細則を提示する。そして、KEN と RUEN の方針と整合的に

省エネルギーを含む各マスタープランが作成される。

インドネシアの省エネルギーマスタープランである RIKEN は、2005 年に策定された。同

マスタープランの目標は、2025 年までにエネルギー原単位11を毎年 1%改善することであり、

その実現に向けた政策手段としての情報提供、規制やインセンティブ、価格形成について

規定している。2005 年には 2025 年までにエネルギーの GDP 弾性値12を 1 以下とする大統領

令(No.5/2006)が策定された。

出典:Asia Pacific Energy Research Centre (2012). “Peer Review on Energy Efficiency in Indonesia”より作成

図 2-2 国家エネルギー政策と国家省エネルギーマスタープランの関係

11 エネルギー原単位とは、エネルギー消費量を GDP で除し、一単位の GDP に必要なエネルギー消費量に

関する指標で値が小さいほどエネルギーを効率的に活用した経済活動が行われていることを表す。インド

ネシアが目標として掲げるエネルギー原単位の分子について、一次エネルギー需要か最終エネルギー需要

かといった点についての定義は明らかにされていない。 12 GDP のエネルギー弾性値とは、特定期間のエネルギー消費の伸び率を GDP の伸び率で除した指標であ

る。同指標が 1 以下とは、特定期間のエネルギー消費の伸び率が GDP の伸び率を下回ることを指す。

大統領国家エネルギー委員会(DEN)

国家エネルギー政策

エネルギー鉱物資源大臣

(3) 制定 国家エネルギー政策と整合化

国家エネルギーマスタープラン(RUEN)

国家エネルギーマスタープラン(RUEN)

(案)

国家エネルギーマスタープラン(RUEN)

(2) 承認(1) 提出

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN)

9

表 2-1 主要な省エネルギー目標のまとめ

発行年・発行

元・目標期間 概要 目標

国家エネル

ギー計画

(KEN)

2014・国家エネ

ルギー委員会・

2025, 2050

インドネシアのエネルギー政策の

基本方針であり、その主な内容は①

燃料と電力部門への補助金を減ら

し、最終的には廃止、②石炭と天然

ガスの輸出量を減らし、国内の需要

を優先、③原子力は導入目標値こそ

定めないものの、最終的な選択肢と

して残し、再生可能エネルギーの開

発が限界に達した時にその導入を

検討。

地熱・バイオ燃料・石

炭液化・その他-23%(そ

の他には水力・太陽

光・風力・コールベッ

ドメタン・原子力を含

む)。エネルギー原単

位の年率 1%改善を目

標値として設定。エネ

ルギーのGDP弾性値を

2025 年までに 1 以下に

する。

国家省エネ

ルギーマス

タープラン

(RIKEN)

1995・2005(改

定)・エネルギ

ー鉱物資源省・

2025

大規模エネルギー消費者でのエネ

ルギー管理士の任命、省エネルギー

プログラムの実施、エネルギー監査

の実施、省エネルギープログラムの

報告、エネルギー原単位の年率 1%

改善を目途として、2005 年に策定。

中央政府と地方政府が省エネルギ

ー活動に参加する際の指針。

エネルギー原単位の年

率 1%改善を目標値と

して設定。これを達成

するための部門別省エ

ネ目標を設定。部門別

の省エネ目標は 2025年

で産業 17%、業務 15%、

家庭 15%としている。

旧 国家エネ

ルギー政策

(KEN)

2006・国家エネ

ルギー委員会・

2006-2025

2006 年に策定された旧国家エネル

ギー政策。エネルギーミックス以外

にエネルギー弾性値の目標を導入。

エネルギーのGDP弾性

値を 2025年までに 1以

下にする。

各国が決定

する貢献

(旧約束草案,

NDC)

2015・国家開発

企画庁

BAPPENAS)・

2030

2030 年までの GHG 削減目標 2030 年に BaU 比 29%

減、国際支援が得られ

れば 41%減

出典:各種資料より作成

2.2. 省エネルギー政策

インドネシアの省エネルギー政策形成が本格化したのは、前述の通り 2004 年の国家エネ

ルギー政策策定以降である。背景には、同年にインドネシアが石油の純輸入国に転じたこ

と、そしてエネルギー補助金に対する支払いの国家財政への圧迫が挙げられる。他方、そ

れ以前にも大統領令や省エネルギープログラムは実施されていた。以下の通り、主な省エ

ネルギー政策の変遷をまとめる。

1. 主なエネルギー政策

表 2-2 省エネルギー関連政策のまとめ

年 法令・計画

主な内容

1991 国家省エネルギー基本計画 エネルギー管理、優遇措置

10

1991 省エネに関する大統領令

No.43/1991

全てのエネルギー使用者(工業、電力、輸送、産業、

公共事業、貿易、不動産、ホテル、商業ビル、一般

家庭)に対してエネルギー効率改善の実施を義務付

ける

1991 省エネ政策に関する大臣令No.43

1991

啓発、宣伝、教育・訓練、パイロットプロジェクト、

研究、開発、省エネ診断、エネルギー効率の標準化

等に関する省エネ政策の指示

1993 省エネルギーに関する規則

No.30.K/48/MPE/1993

エネルギー管理士、省エネ・プログラム、診断の運

用ガイドラインを規定している

1994 政府機関に関する省エネルギー指

令No.15-12/48/600.1/1994

政府機関の省エネを指示している。

2004 国家エネルギー政策(KEN2004) エネルギー原単位(単位 GDP のエネルギー消費量)

を年 1%低減

2005 国家省エネルギーマスタープラン

(RIKEN、2005)

基本計画策定時から2025年までの各部門における省

エネポテンシャルは、それぞれ、産業17%、業務15%、

運輸20%、家庭20%としている

2005 省エネルギーに関する規則

No.0031/2005

庁舎、商業ビル、産業、運輸、家庭等での省エネ実

施手順を規定している。省エネ実施のモニタリング

を実施する

2006 省エネルギーに関する大統領令

No.5・2006

2025年の目標として、エネルギー弾性値を1以下に

押さえる;エネルギーミックスとして石油20%以下、

ガス30%以上、石炭33%以下;バイオ5%以上、地熱

5%以上、原子力5%以上

2007 エネルギー法(DEN)(2008) 省エネは政府、地方政府、事業者、国民の責務であ

ると規定している。 同法によって「国家エネルギー

委員会」が設置されている。

2008 省エネ・節水指令 省エネと節水活動の具体的推進を促す規定;政府、

地方政府が率先実行する。

2008 電力省エネ・ブループリメント

(案)

電力分野の省エネアクションプラン 2008-2009 お

よびロードマップ目標を提示

2009 省エネルギーに関する政府規則

No. 70/2009

工場エネルギー管理、全国民責任論、省エネ義務化、

インセンティブ, 2009-2015開始

11

2009 省エネルギー規則 大企業1%省エネ、エネルギー監査13

2009 CO2削減目標 G20開催時目標:767Mt-CO2のGHGを削減(26%削

減)

2010 エネルギービジョン25/25 エネルギーミックス:再生可能25 %、石炭22 %、ガ

ス23 %、石油30%

2011 省エネルギーと節水の大統領指示

No. 13/2011

政府機関の目標節約率:電力20 %、水10 %、ガソリ

ン10%

2014 国家エネルギー政策(KEN2014) 石油を49%から22%以下に削減させる;天然ガスを

20%から22%、石炭を24%から32%に向上;再生可能

エネルギーを6%から23%へ

2016 国家エネルギー計画(RUEN) 化石燃料および電力に対する補助金の撤廃

出典:各種資料より作成

2.3. 省エネルギー政府機関の役割

インドネシアの省エネルギー政策は、エネルギー鉱物資源省の新再生可能エネルギー・

省エネルギー総局の省エネルギー局が担当している。以下の通り、エネルギー鉱物資源省

の組織図を提示する。

13【省エネルギー規則】省エネルギー法に基づき、2009 年には具体的な施策を定めた省エネルギー規則が

策定された。省エネ規則の概要は以下の通りである。エネルギー源利用者とエネルギー利用者によるエネ

ルギー利用は、効率と節約が義務付けられている。特に、年間石油換算 6000 トン以上のエネルギー源及び

/或いはエネルギーを利用するエネルギー源利用者とエネルギー利用者は、エネルギー管理を通じた省エネ

ルギーを行う義務を負う。

12

出典: Ministry of Energy and Mineral Resources ホームページ. http://www.esdm.go.id/

図 2-3 エネルギー鉱物資源省の組織図

出典: Ministry of Energy and Mineral Resources 再エネ・省エネ局ホームページ .

http://ebtke.esdm.go.id/structure

図 2-4 エネルギー鉱物資源省・省エネルギー局の組織図

エネルギー鉱物資源大臣

石油ガス総局

電力総局 石炭資源総局

新再生可能エネルギー・省エネルギー総局

地質庁 研究開発庁

教育訓練庁

新再生可能エネルギー局

省エネルギー局

バイオエネルギー局

地熱局 計画・インフラ開発局

Dr.Dadan (事務局長)

Ir. Farida Zed省エネルギー局長

Ir. Rida Mulayana新再生可能エネルギー・省エネルギー総局長

Ir. Maritje Hutapea新再生可能エネルギー局長

Ir. Santono再エネ・省エネ技術次長

Dr. Sudjoko Harsonoバイオエネルギー局長

Ir. Yunus Saefulhak地熱局長

Dr. Ir. Hendra計画・インフラ開発局長

Ir. Harris省エネビジネス開発次長

Andriah Feby Misna省エネプログラム次長

Gita Lestari技術支援協力次長

Ir. Mustofa Said省エネ開発次長

13

5 つの部署から形成される省エネルギー局の役割は、政策形成とガイドラインの作成、そ

して、啓発活動などの以下の 10 項目から構成される。

1. 省エネルギーに関する政策、戦略、国家プログラムを形成する。

2. 省エネルギーに関する規制と実施の調整を行う。具体的には、①省エネルギーマスタ

ープラン、②エネルギー管理制度、③省エネルギー基準、④省エネルギーの Functional

Position の準備、⑤経済インセンティブの形成、⑥ESCO 事業者の形成についての規制

に関し関連省庁との調整を行う。

3. 省エネルギー手法に関する教育を行う。

4. エネルギー管理やエネルギー管理士の任命ならびにエネルギー監査、そして省エネ基

準やラべリングに関するガイドラインを作成する。

5. 政府、地方政府、エネルギー消費者ならびにエネルギー供給事業者の省エネルギーに

関する対話を促進する。

6. 経済インセンティブ付与に適した省エネルギー機器や省エネルギープロジェクトを提

案する。

7. 産業、運輸、業務ビルにおけるエネルギー効率とエネルギー原単位に関するベンチマ

ークを策定する。

8. 地方政府における省エネルギー推進に対する技術支援を行う。

9. 省エネルギー実施に係るモニタリングと評価を行う。

10. 省エネルギーのガイダンスと管理を行う。

2.4. 他省庁との協力

国家省エネルギーマスタープランである RIKEN に規定される通り、省エネルギー局は他

の省庁と協力し、インドネシアにおける省エネルギー政策を推進している。省エネルギー

に関する他の省庁の役割は以下の通りである。

表 2-3 他の省庁における省エネルギー政策に関する役割

省庁 省エネルギーに関する役割

工業省(Ministry of Industry) 産業部門における省エネルギー推進に関するガイドライ

ンの策定、産業部門のエネルギー効率改善と製造業の振

興、そして高効率技術の製造振興、エネルギー原単位ベ

ンチマークの策定、省エネ基準の策定。

公共事業省(Ministry of Public

Works)

建築物に係るエネルギー効率規制の策定、建築物の省エ

ネルギー推進に係るガイドラインの策定、建築物の省エ

ネルギー推進にかかわる大臣イニシアティブの策定、エ

ネルギー原単位ベンチマークの策定。

運輸省(Ministry of Transport) 運輸システムの効率改善に向けたに関する計画、運営、

管理の実施、自動車の試験手法の構築、エネルギー効率

改善に資する排ガステスト手法の構築、運輸システムと

自動車燃費の改善に向けた大臣イニシアティブの策定。

14

通商省(Ministry of Trade) エネルギーラベルなど消費者の省エネ製品への啓発に資

する規制の形成と高効率技術の市場普及に向けた大臣イ

ニシアティブの策定。

財務省(Ministry of Finance) 省エネルギー推進に向け全ての部門に対して資金を提供

し、中央及び地方政府における省エネプログラムへの資

金提供に係るガイドラインの策定、省エネ製品普及に向

けたインセンティブの付与に係る国家予算の提供。

国 家 開 発 計 画 庁 ( National

Development Planning Agency,

BAPPENAS)

国家開発計画への省エネルギーの反映、国家開発プロジ

ェクトにおける省エネルギー推進に向けた計画ガイドラ

インの策定。

国家教育省(Ministry of National

Education)

初等教育から高等教育まで、省エネルギーを教育プログ

ラムに統合、大臣イニシアティブを策定し、省エネルギ

ー啓発を実施。

研究技術庁(Agency for Assessment

and Application of Technology -

BPPT)

省エネ技術に関する情報の発信、省エネルギー評価、省

エネルギープロセス、技術や機器の実証事業の実施。

地方政府 省エネ情報の提供、産業と業務部門への省エネルギー規

制実施、インセンティブの付与、建築物の省エネルギー

基準適合に係る審査。

出典: Asia Pacific Energy Research Centre (2012). “Peer Review on Energy Efficiency in Indonesia”より作成

2.5. 気候変動対策目標における省エネルギーの役割

インドネシアはパリ協定への国際公約として、2030 年までの目標期間に GHG 排出量を

BaU と比較して、29%削減(国際支援が無い場合:CM1)するとの目標を設定している。ま

た、国際支援がある場合の目標としては、GHG 排出量を BaU と比較して 41%削減するとし

ている(CM2)。2016 年 11 月 4 日にインドネシアはパリ協定を批准しており、UNFCCC に

対して、排出削減目標としてエネルギー、廃棄物、IPPU(工業プロセスと製品利用)、農業、

森林による対策を実施するとしている(表 2-4 を参照)。

表が示す通り、インドネシアの CO2削減目標達成に向け、森林の果たす割合が CM1 にお

いて全体の 60%と最大になっており、エネルギー部門の割合はこれに次いで 38%と大きい。

表 2-4 2030 年の CO2削減への部門別目標

GHG Emissions in 2010 (M ton CO2)

GHG Emissions

in 2030 (M ton CO2)

GHG Emissions

Reduction in 2030 (M ton CO2)

M ton CO2 BaU CM1 CM2 CM1 CM2 エネルギー 453.2 1,669 1,335 1,271 314 398 廃棄物 88 296 285 270 11 26 IPPU(工業プロセ

スと製品利用) 36 69.6 66.85 66.35 2.75 3.25

農業 110.5 119.66 110.39 115.86 9 4 森林 647 714 217 64 497 650 合計 1,334 2,869 2,034 1,787 834 1,081

出典:Republic of Indonesia (2016) “First Nationally Determined Contribution”

15

エネルギー部門の CO2削減目標達成に向けた内訳としては、2030 年において再生可能エ

ネルギーが全体の 54%を占め、これに省エネルギーが 31%と続く。すなわち、2030 年にお

ける CO2削減目標達成に向けた省エネルギーの寄与は、12%となる。なお、省エネルギーに

よる CO2削減目標は、国家エネルギー計画の年間 1%のエネルギー原単位改善が算定の根拠

となっている。

表 2-5 エネルギー部門の CO2削減目標

目標(10 億トン CO2)

2017 2020 2025 2030

再生可能エネルギー 9.39 28.79 108.69 170.42

省エネルギー 20.78 33.01 57.27 96.33

クリーンエネルギー発電 3.02 8.19 15.74 31.80

燃料転換 10.02 10.02 10.02 10.02

鉱業の採掘地修復 1.94 2.72 4.08 5.46

合計 45.14 82.74 195.80 314.03

出典:Republic of Indonesia (2016) “First Nationally Determined Contribution”

省エネルギーの CO2 削減目標達成に向けた政策・プログラム別の貢献として、以下の表

2-6 にまとめられる通り、現在インドネシアが推進する MEPS/ラべリング制度や産業・業務

部門を対象としたエネルギー管理に関する制度の寄与が大きく見積もられている。

表 2-6 政策・プログラム別の省エネルギーによる CO2削減への貢献

目標(1,000 トン CO2)

2017 2020 2025 2030

産業・業務部門でのエネル

ギー管理(6,000 toe以上) 3,099 5,355 13,325 33,157

省エネ監査と Investment

Grade Audit 472 628 1,011 1,628

公共部門での省エネルギー

と節水 0.8 1.7 6.5 24.1

太陽光発電による街灯 0.5 1.3 3.4 4.8

高効率照明への転換 3.4 8.8 22.2 40.4

CFL/LED のラベリング 16,111 24,843 39,397 53,951

エアコンの MEPS/ラベリ

ング 545 1,089 1,753 5,765

その他機器の MEPS/ラベ

リング 545 1,089 1,753 5,765

合計 20,777 33,015 57,272 96,335

出典:Republic of Indonesia (2016) “First Nationally Determined Contribution”

16

2.6. エネルギー原単位の推移

インドネシア政府の省エネルギー目標として、毎年 1%のエネルギー原単位を改善すると

の目標を国家省エネルギーマスタープランに掲げている。ここでは、その進捗を把握し課

題を抽出するために、2000 年以降のエネルギー原単位の改善率がどのように推移してきた

かを分析する。

出典: Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”より作成

図が表わす通り、2000 年以降の非商業用バイオマスを含まないインドネシアデータでは

エネルギー原単位の改善率は一次エネルギーのGDP原単位ならびに最終エネルギーのGDP

原単位がいずれも年平均で 0.6%程度の改善に留まっている。

原単位1%改善の目標を踏襲し、実績データを踏まえ今後目標の妥当性を評価すること

が必要である。また、非商業エネルギーを含むのか、含まないのか、一次エネルギー原単

位か、最終エネルギー原単位か、あるいは分母の GDP は何年の物価水準をベースとするの

かといった定義の明確化も必要である。

政策手段別では、指定管理工場の企業数が全産業の 2 割弱となっているため、指定管理

工場制度の強化次第で目標の大幅超過達成も可能であろう。また化石燃料と電力への補助

金削減の加速が必要である。このほか、火力発電の効率化は一次エネルギー原単位の改善

に大きく寄与し得る。そして、MEPS 対象製品とラベリングの拡充と強化、省庁間横断的に

税や補助金による省エネ助成制度の構築が必要であると指摘できる。

-10.0%

-8.0%

-6.0%

-4.0%

-2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

2001 2005 2010 2013

一次エネルギー原単位

最終エネルギー原単位

17

2.7. エネルギー弾性値の推移

出典: Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”より作成

インドネシアでは、エネルギー弾性値を 2025 年までに 1 以下とする目標を設定している。

すなわち、インドネシアでは、エネルギー効率の改善により、エネルギー消費の伸びが GDP

の伸びを下回る緩やかなペースで推移させることを目標として設定している。

ここでは、目標実現に向けた進捗を把握する目的で、2000 年以降のデータを活用し、エ

ネルギーの GDP 弾性値を一次エネルギー供給、最終エネルギー消費、そして電力消費に関

して分析し示唆を得る。なお、ここでは非商業用のバイオマスを除くエネルギー消費につ

いて推移をみている。

図が示す通り、インドネシアのエネルギーの GDP 弾性値は、年によって水準が異なるこ

とが分かる。他方、2000 年から 2015 年の平均では、一次エネルギー供給および最終エネル

ギー消費の GDP 弾性値が 0.76、0.63 と既に 1 を下回る水準になっている。対照的に電力消

費の GDP 弾性値は、2000 年から 2015 年の平均で 1.2 となっており、GDP の伸びを上回る

急速なスピードで増加していることが分かる。

バイオマスを除く一次エネルギー供給ならびに最終エネルギー消費の GDP 弾性値が 1 を

下回る水準となっているのは、必ずしも効率改善によるものではなく、石炭から電力やガ

スへの燃料代替、産業活動状況等に大きく影響される。特にインドネシアの産業部門のエ

ネルギー消費が 2014 年に大きく落ち込んでいるが、これは、世界的な資源価格の低迷によ

る鉱業の生産活動の低迷によるものと指摘できる。

こうした点を踏まえ、必ずしもエネルギーの GDP 弾性値がエネルギー効率改善に関する

適切な指標とは限らないため、より詳細なデータの収集による部門別、業種別のエネルギ

ー消費動向を把握した上でエネルギー効率改善動向に関する評価指標を構築する必要があ

るだろう。

(2.5)

(2.0)

(1.5)

(1.0)

(0.5)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

一次エネルギー

最終エネルギー

電力

18

2.8. 省エネルギー導入目標・温暖化目標達成に向けた現状把握及び課題

2.8.1. 産業部門

1. エネルギー消費の推移

産業部門のエネルギー消費は、IEA (2016)によれば、1990 年から 2014 年までの間に年率

3.3%で増加し、2014 年には 1990 年と比べ 2.2 倍に増加した。最終エネルギー消費に占める

産業部門のエネルギー消費は、1990 年の 32%から 2014 年の 30%でほぼ横ばいで推移してい

る。産業部門の燃料別のエネルギー消費量は、約 39Mtoe(2014 年)であり、燃料種別内訳

は天然ガス 33%、石油 20%、再生可能エネルギー・廃棄物等 17%、石炭 17%、電力 14%と

なっている(図 2-5)。

出典: International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”

より作成

図 2-5 産業部門の燃料別エネルギー消費の推移

産業部門の業種別のエネルギー消費量は、2014 年の業種種別内訳は他製造業 53%、電力

14%となっており、業種が特定できている割合は 33%に留まっている(図 2-6)。業種が把

握できているエネルギー消費量は、約 13Mtoe(2014 年)であり、この中での内訳はガラス・

陶磁器・セメントなど非金属鉱物工業 31%、非鉄金属工業 13%、紙パ・印刷業 10%、繊維・

皮革工業 7%、金属鉱業・砕石業 6%、鉄鋼業 5%、食料品・タバコ工業 4%、などとなってい

る(図 2-7)。

2014 年における産業部門の業種別燃料別エネルギー消費をみると、電力および天然ガス

の約 8 割が、他の製造業に計上されている。この両者を合計すると 16Mtoe となり、産業部

門のエネルギー消費 39Mtoe の 41%に相当する(表 2-7)。

石炭

石油

天然ガス再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

71 75 80 85 90 95 00 05 10 14

(Mtoe)

19

出典: International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”より作成

図 2-6 産業部門の業種別エネルギー消費の推移

出典: International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”より作成

図 2-7 産業部門の業種別エネルギー消費の推移(他製造業、電力を除く)

鉄鋼業

化学・石油化学工

ガラス・陶磁器・セメ

ントなど非金属鉱

物工業

他製造業

電力(産業合計)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

71 75 80 85 90 95 00 05 10 14

(Mtoe)

鉄鋼業

化学・石油化学工

非鉄金属工業

ガラス・陶磁器・セメ

ントなど非金属鉱

物工業

金属製品・一般・電

気機械工業

金属鉱業・砕石業

食料品・タバコ工業

紙パ・印刷工業

建設業

繊維・皮革工業

0

2

4

6

8

10

12

14

16

71 75 80 85 90 95 00 05 10 14

(Mtoe)

20

表 2-7 産業部門の業種別燃料別エネルギー消費(2014 年)

出典: International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”より作成

産業分野のエネルギー消費状況は、公表されている機関の間でデータが不整合・未整備

であるために正確に把握することは困難な状況となっている。工業省(MoI(2012))によれ

ば、産業部門のエネルギー消費の 60~70%はエネルギー多消費産業の主要 7 業種(化学肥

料、紙パ、繊維、セメント、鉄鋼、窯業、食品(パームオイル精製))が占めているとされ

ている。この主要 7 業種のエネルギー消費量の伸びは BaU ケースで 2012 年から 2025 年で

2.1 倍(90.1TWh→188.4TWh)の見通しで、これに対する省エネ量は、22.1TWh (BaU 比 11.7%)

となっている(図 2-8)。また、2012 年時点でエネルギー消費量が多い産業は紙パ、繊維と

なっている。しかし、表 2-7 に見られるように IEA(2016)ではその他産業部門に電力及

び天然ガスの消費量の大部分が計上されている等、必ずしも主要 7 業種の正確なエネルギ

ー消費量は把握されていない模様である。

(単位: Mtoe)

石炭 石油 天然ガス再生可能エネルギー・廃棄物等

電力 熱 合計

鉄鋼業 0.18 0.34 0.17 0.00 - 0.00 0.69

化学・石油化学工業

0.00 0.45 2.27 0.00 - 0.00 2.73

非鉄金属工業 1.71 0.00 0.00 0.00 - 0.00 1.71

ガラス・陶磁器・セメントなど非金

属鉱物工業3.39 0.64 0.00 0.00 - 0.00 4.02

金属製品・一般・電気機械工業

0.00 0.06 0.00 0.00 - 0.00 0.06

金属鉱業・砕石業

0.00 0.79 0.00 0.00 - 0.00 0.79

食料品・タバコ工業

0.00 0.48 0.00 0.00 - 0.00 0.48

紙パ・印刷工業 1.28 0.00 0.00 0.00 - 0.00 1.28

建設業 0.00 0.27 0.00 0.00 - 0.00 0.27

繊維・皮革工業 0.00 0.88 0.00 0.00 - 0.00 0.88

他製造業 0.01 3.79 10.43 6.60 - 0.00 20.82

電力(産業合計)

- - - - 5.67 - 5.67

合計 6.57 7.68 12.87 6.60 5.67 0.00 39.39

21

出典:Ministry of Industry (2012) “Industrial Energy Efficiency Initiatives & Standards”

図 2-8 エネルギー多消費産業の業種別エネルギー需要予測(BaU ケース)

2. 経済活動の推移

インドネシアの 2015 年の名目 GDP は 8,619 億ドルで、そのうち製造業 21%、農林水産業

14%、鉱業 8%を占めている。また、近年の経済成長率(実質)は、5~6%程度で推移して

いる。

2015 年の粗鋼生産量は、世界鉄鋼協会(WSA: World Steel Association)によれば 4,854 千ト

ン(図 2-9)で 91 ヶ国中 30 位となっている。2015 年の紙・板紙生産量は、国連食糧機関(FAO:

Food and Agriculture Ogranization)が 10,470 千トンと推定している(図 2-10)。2013 年のセメ

ント生産量は、欧州セメント協会(CEMBUREAU: The European Cement Association)によれば、

56,000 千トンである。

0

20

40

60

80

100

2012 2015 2020 2025

TWh

鉄鋼

繊維

化学肥料

紙パ

パームオイル精製

セメント

窯業

5% 5% 6% 6%

23% 24% 25% 27%

5% 5% 6% 6%

59% 57% 51% 46%

0% 0% 0% 0%

7% 7% 10% 12%1% 1% 2% 2%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2012 2015 2020 2025

窯業

セメント

パームオイル精製

紙パ

化学肥料

繊維

鉄鋼

22

出典:World Steel Asociation (2016) “Steel Statistical Yearbook”

図 2-9 インドネシアの粗鋼生産量の推移

出典:Food and Agriculture Organization of the United Nations “FAOSTAT”

図 2-10 インドネシアの紙・板紙生産量の推移

出典:European Cement Association “World Statistical Review”

図 2-11 インドネシアのセメント生産量の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

76 80 85 90 95 00 05 10 15

(kt)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

71 76 80 85 90 95 00 05 10 15

(kt)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

67 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15

(kt)

23

3. 省エネルギー目標

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN(2005))によれば、基本計画策定時から 2025

年までの各部門における省エネポテンシャルは、それぞれ、産業部門(17%)、業務部門(15%)、

運輸部門(20%)、家庭部門(20%)としている。産業部門における省エネ目標は、2025 年

に BaU 比 17%削減としているが、技術別の目標が不明である。

工業省(MoI(2012))に基づけば、経済加速ケースのエネルギー多消費産業の主要 7 業種

の 2025 年における省エネ率は 12.4%と算出されている。BaU ケースにも同様な業種別省エ

ネ率を想定した場合は、2025 年における省エネ率は 11.7%と算出されている。しかしなが

ら、RIKEN(2005)の産業分門の 17%目標を満たしていない状況である。

4. 省エネルギー政策とその課題

産業部門の省エネ関連法令

産業部門の省エネ関連法令は、エネルギー法、省エネルギー政令、新国家エネルギー政

策、エネルギー管理に関する規則、国営電力会社(PLN)の電力料金に関する規則、エネルギ

ー管理士・エネルギー診断士の国家能力基準に関する規則が主たる法制度となっている。

表 2-8 産業部門の省エネ関連法令

関連法令 内容

エネルギー法 2007 年 30 号 エネルギー部門を統括管理するための法律。国家エ

ネルギー委員会(DEN)の設置、国家エネルギー政策

の策定のほか省エネルギー政策を規定。

省エネルギー政令 2009 年 70 号 エネルギー法に基づいて制定。省エネルギーマスタ

ープランの策定、エネルギー管理制度、省エネ基

準・ラベルを規定。

新国家エネルギー政策(政令)2014 年 79 号 2025 年におけるエネルギー弾性値を 1 以下。2025

年までにエネルギー原単位を 1%で減少。

エネルギー管理に関する MEMR 省令 2012 年 14 号 省エネルギー政令の第 13 条(5)項、第 19 条(3)項、第

21 条(2)項、および第 27 条のエネルギー管理制度の

実施細則

国営電力会社(PLN)の電力料金に関する MEMR 省

令 2014 年 19 号

国営会社(PLN)の電力料金の設定に関する省令

産業部門のエネルギー管理士の能力基準に関する

MEMR 省令 2010 年 13 号

エネルギー管理士およびエネルギー診断士の国家

能力基準

産業部門のエネルギー管理士の国家職業技能適性

基準に関する MOM&T 省令 2011 年 321 号

24

エネルギー診断士の国家職業技能適性基準に関す

る MOM&T 省令 2012 年 614 号

出典:エネルギー鉱物資源省 WEB サイト(法規集14)など各種資料より作成

エネルギー管理制度

省エネルギー政令でエネルギー管理者の任命などのエネルギー管理制度が定められてお

り、実施細則はエネルギー管理に関する規則で定められている。また、エネルギー管理士

およびエネルギー診断士の国家能力基準が定められている。

(1). エネルギー多消費事業者(6,000toe 以上)

年間 6,000toe 以上のエネルギーを使用するエネルギー多消費事業者は、以下のエネルギ

ー管理を通じた省エネルギーを実施することが求められている。

• エネルギー管理者の任命

• 省エネルギープログラムの策定

• 定期的な省エネルギー診断(エネルギー監査)の実施

• 省エネルギー診断の結果に基づく提案の実施

• 省エネルギーの実施状況の定期報告

(2). エネルギー管理士、エネルギー診断士

任命されるエネルギー管理者は、エネルギー管理士認証が義務付けられている。省エネ

ルギー診断は、内部のエネルギー診断士または認定機関が実施し、この省エネルギー診断

を実施するエネルギー診断士もエネルギー診断士認証が義務付けられている。

(3). 省エネルギー実施の成功基準

省エネルギー実施の成功基準は、一定期間にエネルギー原単位(SEC: Specific Energy

Consumption)、またはエネルギー消費弾性値が減少することである。エネルギー管理に関す

る規則では、一定期間の間に連続して 3 年間、エネルギー原単位の年 2%以上の改善と定め

られている。

(4). インセンティブ、ディスインセンティブ

定期報告の評価結果が省エネルギー実施の成功基準を満たしている時、以下のインセン

ティブを申請することができる。

• 省エネ設備の税制優遇

• 省エネ設備の地方税の減免または免除

• 輸入省エネ設備の関税免除

• 省エネ投資の低利融資

• 政府による財政支援されたパートナーシップによる省エネルギー診断

また、エネルギー管理を通じた省エネルギーを実施していない場合、以下のディスイン

センティブが科される。

14 http://jdih.esdm.go.id/?page=home

25

• 書面による警告

• マスメディアでの公表

• 罰金

• エネルギー供給の削減

5. 省エネ施策の実施状況と課題

省エネ施策の実施状況と課題の概要

省エネ法の執行状況は、エネルギー集約産業の 265 事業者のうち、101 事業者がエネル

ギー使用状況を報告し、提出率は 38%と低い。法の執行強化が課題となっている。

2016 年 8 月現在で、エネルギー管理士認証者は 306 名、エネルギー診断士認証者は 196

名となった(表 2-11、表 2-12)。2016 年 2 月現在で必要なエネルギー管理士数 827 名であ

り、その充足率が 27%(経済産業省 (2016a))だったものから 37%に向上中であるが、引き

続き認証者数の拡大・育成が課題となっている。2011~2014 年に、517 事業者(発電、化学

工業、紙パ、食品・飲料、繊維、鉄鋼、農産業)の省エネ診断が実施された。低コストの

省エネ対策の提案は、ほぼ実施済みとなっている。2014~2015 年に、10 事業者(繊維、化

学工業、鉄鋼)の省エネ設備導入などの省エネ投資を目的とした投資対象省エネ診断(IGA:

Investment Grade Audit)15が実施された。中高コストの省エネ投資に対する財政支援、これ

ら投資対象省エネ対策(IGA)に対する専門知識の不足が課題である(表 2-9)。外部機関

からも同様指摘がなされており、これらに加えて、エネルギー管理システムの未構築、省

エネ対策の具体化能力が低いことなどが指摘されている(表 2-10)。

表 2-9 2015 年時点での MEMR の省エネ施策の実施状況と課題の概要(産業部門)

省エネ施策 現 状 課 題

政府予算による省エネ

診断の実施

• 2011年~2014年の間に 517件(火力発電

所、化学、紙パ、食品飲料、繊維、鉄鋼、

農産業)に対して省エネ診断を実施

• コスト負担が無い、または低コストの省

エネ対策の提案は、ほぼ実施済み

• 中高コストの省エネ対策提案の実施

のための財政支援の不足

• 自覚の不足

• 認証エネルギー診断士の人数の不足

政府予算による投資対

象省エネ診断(IGA)の

実施

2014年~2015年にかけて 10件の投資対象省エ

ネ診断(IGA)の実施(繊維、化学、鉄鋼)

投資対象省エネ診断(IGA)を実施する国

内専門家の不足

エネルギーマネジメン

トシステム(ISO50001)

の実施:UNIDOサポート

• 2012年~2017年目標:繊維、紙パ、食品

飲料、化学

• エネルギーマネジメントシステムおよび

• 工場経営層のエネルギーマネジメン

トシステムに関する自覚および情報

の不足

15 投資対象省エネ診断(IGA)とは、省エネ投資を要する省エネプロジェクトベースの詳細診断のことで、計

測診断や経済性分析が実施される。

26

事業 システム最適化の認証国内専門家 25名

• 国内専門家による ISO50001 実施予定の

11企業

• ISO50001 適合済み 5企業

• 技術スタッフおよびオペレーターの

力量の不足

エネルギー管理士・診断

士の認証

(2016年 8月現在)

認証エネルギー管理士 306名

認証エネルギー診断士 196名

• 法執行の不足

• エネルギー管理士受験者の力量不足

エネルギー管理の指定

(>6,000toe)

エネルギー集約企業 265社のうち 101社がエネ

ルギー使用状況の報告済み

• 法執行の不足

出典:Farida Zed (2015) “Indonesia Energy Efficiency and Conservation Status, Gaps, and Opportunities”及び経済

産業省 (2016a) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギー人材育成事業)」

表 2-10 外部機関からの指摘事項

指摘事項

1.省エネ政策及び法制度上の課題

1-1.エネルギー管理制度の整備が不十分

・エネルギー管理士およびエネルギー診断士の不足

・エネルギー管理者の実施すべき職務の指針や基準が未設定

1-2.省エネ推進の支援制度が未設定

・省エネ投資を促進するための補助金などの支援制度が未設定

・金融支援の対象となる有効な省エネ技術や設備の指針が未整備

2.民間における省エネ推進の課題

2-1.多くの企業でエネルギー管理システムが未構築

・経営者の省エネや環境保全に対する理解が不足

・エネルギー管理システムを構築するための具体的なガイドラインが未整備

・エネルギー管理システムを構築するための知識を有する人材の不足

・プロセスや設備の省エネ指針およびデータベース等の管理ツールが未整備

・多くの企業でエネルギー管理従事者の教育カリキュラムが未整備のため自社内の教育訓練が未実施

・結果として、エネルギー管理担当者の具体的な改善策を策定する能力のバラツキが大

2-2.省エネ対策のプロジェクト化が困難(有効な省エネ対策提案の低実施率)

・金利が高いなどの制約があるため投資回収 2年超の設備投資が困難

・BATやベストプラクティスの情報が非共有

・省エネ案件を具体化するプロジェクト形成能力の不足

2-3.ESCO等の外部の省エネ支援団体の不足

・ESCO等支援団体の技術能力の不足

27

・顧客や金融機関が ESCOに関して低理解

出典:経済産業省 (2016a) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギー人材育成事

業)」

エネルギー使用状況報告

省エネ法の執行状況は、エネルギー集約産業の 265 社のうち 101 社がエネルギー使用状

況を報告し、提出率は 38%と低く、法の執行強化が課題となっている。2014 年から利便性

の向上のためにエネルギー使用状況報告はオンラインで提出することができるようになっ

たため、2014 年の報告数は増加している(図 2-12、図 2-13)。

一方で、エネルギー多消費事業者の数は、800 事業所に上るとの調査結果もあり16、相当

数の事業所が把握されていない可能性がある。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

図 2-12 エネルギー使用状況の報告数

16 国際協力機構 (2009)によれば、6,000toe 以上の産業部門の事業者数は、710 事業所であった。ECCJ(2016)

では、必要エネルギー管理士数は 827 名である。

0

10

20

30

40

50

60

70

2011 2012 2013 2014

213

21

61

02

2

0

報告

産業部門 業務部門

28

出典:オンラインエネルギー管理報告 Web サイト17

図 2-13 オンラインエネルギー使用状況報告

エネルギー管理士、エネルギー診断士、国内専門家

年間 6,000toe 以上のエネルギーを使用する大口事業者は、エネルギー管理者の任命および

省エネルギー診断(エネルギー監査)の定期的な実施が義務付けられている。任命される

エネルギー管理者は、エネルギー管理士認証が義務付けられている。省エネルギー診断は、

内部のエネルギー診断士または認定機関が実施し、この省エネルギー診断を実施するエネ

ルギー診断士もエネルギー診断士認証が義務付けられている。

2016 年 8 月現在で、エネルギー管理士認証者は 306 名、エネルギー診断士認証者は 196

名となった(表 2-11、表 2-12)。2016 年 2 月現在で必要なエネルギー管理士数 827 名であ

り、その充足率が 27%(経済産業省 (2016a))だったものから 37%に向上中であるが、引き

続き認証者数の拡大・育成が課題となっている。

国内専門家は、2015 年 1 月 30 日現在で 49 名が登録されている。このうち、圧縮空気シ

ステム最適化の専門家が 18 名、蒸気システム最適化の専門家が 17 名、ポンプシステム最

適化の専門家が 5名、エネルギーマネジメントシステム(ISO50001)の専門家が 22名である。

17 http://aplikasi.ebtke.esdm.go.id/pome/

29

表 2-11 エネルギー管理士認証の取得状況

出典:オンラインエネルギー管理報告 Web サイトのエネルギー管理士リストおよび、Ministry of

Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

表 2-12 エネルギー診断士認証の取得状況

出典:オンラインエネルギー管理報告 Web サイトのエネルギー診断士リスト

省エネルギー診断

2003 年~2014 年の間に、産業部門および商業ビル部門に対して官民パートナージップ省

エネプログラムに基づく政府出資の省エネ診断が 1,274件実施された(表 2-13)。2011~2014

年の産業部門 517 件(発電、化学工業、紙パ、食品・飲料、繊維、鉄鋼、農産業)の省エ

ネ診断の実施結果は、低コストの省エネ対策の提案は、ほぼ実施済みとなっている(前出

表 2-9)。2014~2015 年には、10 事業者(繊維、化学工業、鉄鋼)の投資対象省エネ診断(IGA)

2012 2013 2014 2015* 2016*

産業部門 42 29 52 59 112 294

エネルギー供給 0 6 26 5 55 92

化学・石油化学 3 7 7 21 22 60

セメント 23 0 0 0 6 29

繊維・織物 2 0 0 9 3 14

鉄鋼、鉱業 4 0 2 5 7 18

農業、食品・飲料 6 5 6 6 6 29

紙・パルプ 0 2 3 2 11 18

加工 2 9 4 2 0 17

その他 2 0 4 9 2 17

商業ビル部門 8 0 0 2 2 12

モール 2 0 0 0 0 2

大学 6 0 0 0 2 8

集合住宅 0 0 0 2 0 2

合計 50 29 52 61 112 306

*2015年は2015年10月現在、2016年は2016年8月現在の数値を使用。

セクター

/サブセクター認証年

合計

2013 2014 2015 2016

内部 29 19 54 40 142

外部 1 0 1 0 2

内部 1 1 0 0 2

外部 21 10 14 4 49

商業ビル部門 内部 0 0 0 1 1

52 30 69 45 196

合計セクター 診断員種類認証年

合計

産業部門

産業部門

/商業ビル部門

30

が実施された。

表 2-13 官民パートナージップ省エネプログラムに基づく政府出資の省エネ診断

注:2005 年および 2008 年は未実施

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

金融環境

インドネシア中央銀行は、今年 6 回目の政策金利の引き下げを実施した。これは、銀行

融資の伸び悩みおよび国内景気の刺激を狙ったものである18。しかし、インドネシアの実質

金利は、この利下げにもかかわらず高止ったままとなっている。インドネシアの最大手銀

行である国営マンディリ銀行の 2017 年 1 月 31 日現在のプライムローン(信用度の高い借

り手への短期融資)の金利は年 9.95%、リテール(消費者向け小口金融)は 9.95%、マイク

ロローン(少額融資)は 18.75%となっている19。

このように融資金利が 9.95%を超えるなど資金調達コストが膨大となることが阻害要因

となって、省エネ投資は積極的に行われていない。これにより投資回収年数 1 年程度の技

術への投資が主体となっている(図 2-14)。

18 http://www.bi.go.id/en/ruang-media/siaran-pers/Pages/sp_188416.aspx 19 http://www.bankmandiri.co.id/english/resource/prime_lending_rate.asp

2003 2004 2006 2007 2009 2010 2011 2012 2013 2014

10億ルピー - - 2.4 25 4 20 22 18.5 14.7 28

- (PT. PLN) (PT. PLN) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算) (国家予算)

産業部門 5 3 21 138 16 105 125 104 108 180

商業ビル部門 6 6 11 62 24 55 70 55 60 120

GWh 78.4 14.8 40.7 519 34 725 837 1,532 556 515

10億ルピー 50.8 6.9 40.4 289 23.8 450 512 624 449 391

ktCO2 70.6 13.32 36.6 467.1 30 645 646 1,380 500 463

GWh 34.4 14.1 30.1 307 15 175 128 46 18410億ルピー 22.2 8.2 19.9 168.8 10.7 100 82 - 184

ktCO2 40 12.7 27.1 276.3 13.6 157 94 41.4 163

獲得省エネ量

省エネポテンシャル

参加者

資金

31

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-14 業種別省エネ投資の現状

今後の予定

対象事業所の拡大のために、エネルギー使用量のしきい値の引き下げ(産業部門:4,000toe、

業務部門:2,000toe)が計画されている。事業所のエネルギー管理状況のランク付けも計画

される。エネルギー管理士等の資格者の充足数を満たすために、新たな認証機関や新たな

トレーニングスキームに基づくトレーニングセンターが設立される予定となっている。こ

れらによって、2020 年までに、エネルギー管理士有資格者の総数を直近の 306 名から 900

名に増加させる目標を掲げている(表 2-14)。

69%

20%

0%

0%

25%

36%

27%

60%

67%

50%

59%

4%

20%

33%

100%

25%

5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ビル

製造業

食品

セメント

鉄鋼

繊維

1億ルピア以下 1-10億ルピア10億ルピア以上

32

表 2-14 エネルギー管理制度の目標

現状 2017 2018 2019 2020 合計

エネルギー管理士 306 150 150 150 144 900

エネルギー診断士 196 100 100 100 104 600

資格認証機関 1 1 1 1 1 5

関連法規改正 - ○ - - -

トレーニングセンター - ○ - - -

出典:Kusuma (2016) “Improvement of the existing energy manager training & certification system with

roadmap plan of energy management system”

6. 他省庁における省エネ関連施策

工業省

インドネシアの産業政策においても、「環境、省エネ技術の強化」が位置付けられている

(図 2-15)。新工業法 2014 年 3 号では、産業部門のエネルギーに関して、効率的、環境融

和的で持続可能なプロセスおよび使用、および企業等に対してエネルギー管理の実施を要

求している。また、産業のグリーン化を推奨しており、意識の向上の取組として、インド

ネシアグリーン産業表彰(Green Industry Award)を実施しており、2014 年には 112 社の応

募があり 101 社が表彰されている。

省エネ政策の整備は、エネルギー鉱物資源省が実施しているが、産業部門の省エネ対策

は工業省が策定している。工業省の省エネ量(BaU ケース)は 11.7%である一方、RIKEN

の省エネ目標は 17%。両省の政策整合化が必要である(図 2-16)。

出典:経済産業省 (2015) 「平成 26 年度アジア産業基盤強化等事業 インドネシアの現地中小企業の実態調

査」

図 2-15 工業省の産業政策

33

図 2-16 エネルギー鉱物資源省と工業省の省エネ関連政策の関係

環境省

環境省は、環境政策の策定・環境基準の設定・省庁間の調整などを担当している。各部

門の具体的な政策・規則の策定は各省庁に権限があり、エネルギー部門はエネルギー鉱物

資源省が、産業部門は工業省が管轄している。エネルギー部門にはエネルギー需要管理(省

エネ)が含まれているため、産業部門の政策・規則は、エネルギー鉱物資源省と工業省の

管轄がオーバーラップしている(表 2-15)。

表 2-15 国家温室効果ガス削減行動計画(RAN-GRK)における実施機関

出典:大統領令 2011 年 61 号より作成

7. 課題のまとめ

インドネシアの産業部門では、エネルギー管理制度の法整備、政府による省エネ診断の

実施などが着実に推進されてきているものの、規制対象事業者のカバー率が低い、エネル

ギー管理者の不足などの課題があり、改善に向けた取組が実施されてきているところであ

る。政府の省エネルギー推進体制は、エネルギー鉱物資源省が省エネルギー全般の監督官

庁であるが、産業部門は工業省が管轄しており、関係省庁間の連携が重要になる。官民パ

ートナージップ省エネプログラムに基づく政府出資の省エネ診断が実施されており、省エ

新工業法2014年3号エネルギー法2007年30号

エネルギー鉱物資源省(MEMR)

工業省(MOI)

国家省エネルギーマスタープラン

(RIKEN)

省エネルギー規則2009年70号(省エネ義務)

政策整合化

国家工業開発マス

タープラン(RIPIN)Green

Industry

産業部門の省エネ対策省エネ政策制度の整備

農業 公共事業省、農業省

森林・泥炭地 森林省、公共事業省、 農業省

エ ネ ル ギ ー・運輸エネルギー鉱物資源省、運輸省、

財務省、DKIジャカルタ州政府

産業 工業省

廃棄物 公共事業省、環境省

実施機関セクター

34

ネポテンシャルが把握されているものの、この提言に基づく省エネ対策の実施は低コスト

なものにとどまっている。高コストの省エネ対策の実施率は低い状況であり、政府による

財政支援が必要となっている。また、設備投資適格な省エネ対策案件を抽出するための投

資対象省エネ診断(IGA)を実施できる専門家の不足も課題となっている。

8. 課題を解決する技術の提案

インドネシアの産業部門エネルギー原単位は、過去の省エネ診断の報告結果や JICA(2009)

の調査事業によると、各国と比較して大きく、省エネポテンシャルは 20%~30%あると推定

されている(表 2-16)。また、国連主導の技術ニーズ評価である Technology Needs Assessment

(TNA)が 2010 年に実施され、インドネシア国内の省エネ技術ニーズが把握された。セメン

トで 17 技術(第 1 優先技術:7、第 2 優先技術:7、第 3 優先技術:5)、鉄鋼で 23 技術(第

1 優先技術:8、第 2 優先技術:8、第 3 優先技術:7)、紙パで 16 技術(第 1 優先技術:10、

第 2 優先技術:6)が特定されている(表 2-17)。

表 2-16 産業部門エネルギー原単位の各国比較

産業部門 国 エネルギー原単位

鉄鋼 インドネシア

インド

日本

650 kWh/Ton

600 kWh/Ton

350 kWh/Ton

セメント インドネシア

日本

800 kcal/kg clinker

773 kcal/kg clinker

窯業 インドネシア

ベトナム

16.6 GJ/Ton

12.9 GJ/Ton

ガラス インドネシア

韓国

12 MJ/ton

10 MJ/ton

繊維 インドネシア

インド

Spinning : 9,59 GJ/Ton

Weaving : 33 GJ/Ton

Spinning : 3,2 GJ/Ton

Weaving : 31 GJ/Ton

出典: Indarti (2011) “Energy Efficiency Indicators in Indonesia”20

20 2003 年~2010 年に実施された省エネ診断および国際協力機構 (2009)の調査事業

35

表 2-17 産業部門の省エネ技術のニーズ(TNA)

出典:Republic of Indonesia (2010) “Indonesia's Technology Needs Assessment on Climate Change Mitigation -

Updated Version -“

No. First Priority Second Priority Third Priority

1 Use of limestone with low CaCO3. Alternative fuels Kiln burner modification

2Reducing clinker-to-cement ratio bysubstituting clinker with materials such as flyash, etc.

Energy management and process controlsystem

Conversion to grate cooler

3 Mineral components in Cement (MIC)Waste heat recovery of cement kiln exhaustgas for raw meal pre-heater

Install meter in every section and “reroute”power cable

4Preventative maintenance (insulation,compressed air system, maintenance)

High-efficiency classifiers Optimization of hydraulic roller crusher

5 Install variable speed drive Optimization of compressed air systems Install vibrating screen cement pre-grinder

6 Kiln shell heat loss reduction Refractories

7 Minimize ingress of false air High-efficiency motor drives

No. First Priority Second Priority Third Priority

1 Slabs/ billets hot charging Preventative maintenanceVariable speed drive: flue gas control, pumps,fans

2 Thin slab mills technology (hot rolling) Energy monitoring and management systemDe-dusting system optimization(steelmaking)

3 Optimization in laddle pre-heating Zero reformer Energy-efficient drives (rolling mill)

4Oxygen lancing at electric arc furnace(steelmaking)

Waste heat recovery Heat recovery on the annealing line

5 Scrap pre-heater (steelmaking) Process control in hot strip mill Reduced steam use (pickling line)

6 Power demand control Recuperative burners Automated monitoring and targeting system

7 Fuel substitution Insulation of furnacesControlling oxygen levels and VSDs oncombustion air fans

8 Adopt continuous casting Energy Control Center

No. First Priority Second Priority

1Changing paper press surface from grooveto drill/ groove type

Waste heat recovery

2Refiner improvement: Refiner bladereplacement

Optimization of regular equipment

3 Using shoe press machine Blow-down steam recovery

4 Use chemicals in pulp refinery system Steam trap maintenance

5 Steam traps treatment Increase use of recycled paper

6 Condensate heat recoveryEnergy management and process controlsystem

7 Continuous digesters

8 Continuous digester modifications

9 Boiler maintenance

10 Leak repair

Cement

Iron & Steel

Pulp & Paper

36

2.8.2. 運輸部門

1. エネルギー消費の推移

運輸部門のエネルギー消費は 2000 年に 20.5Mtoe であり、2005 年まで 20Mtoe 台前半で推

移していたが、2007 年から増加速度が GDP と同程度に加速しはじめた。2015 年に 2000 年

比倍以上の 48.4Mtoe に増加した。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”

図 2-17 運輸部門のエネルギー消費量の推移

2. 運輸部門のエネルギー消費のシェア

運輸部門のエネルギー消費は 2015 年現在、最終部門の 39%を占め、産業の 24%よりも

多い。ちなみに、バイオマスを除いた場合、同比率が 40%である。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”

図 2-18 運輸部門のエネルギー消費のシェア(2015 年)

20.5 21.8 22.3 23.026.2 26.2 25.0 26.3

29.0

33.1

37.640.8

45.347.5

49.1 48.4

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.020

00

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

エネ

ルギ

ー消

費(M

toe)

運輸 産業 家庭

業務 その他 非エネ利用

産業, 24%

家庭, 33%

業務, 3%

運輸, 29%

その他, 1%非エネ利

用, 9%

37

1)道路部門のエネルギー消費量

インドネシアが公表したガソリンや軽油等のエネルギー消費量のデータ(上記 Handbook

2016)に基いて推計すると、道路部門のエネルギー消費量は 2000~2015 年までの平均とし

て運輸部門の 92.5%を占めており、また 2015 年 92.5%を占めている。一方、IEA データに

基いて計算すると同比率が 88.2%であった。本試算は IEA の統計データを利用する。

出典:International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”,

Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016”

図 2-19 道路部門のエネルギー消費量(左・インドネシアデータと右・IEA データ)

3. 省エネルギー目標

国家エネルギー省エネプログラム(National Energy Conservation Programme:RIKEN)(2011

年)では運輸部門の省エネ目標として 2025 年 BaU 比で 20%の省エネとしている。同プロ

グラムにおける運輸部門の省エネプログラムとして、公共交通機関の開発と交通システム

の改善の 2 つのプログラムを実施することが計画されている。

一方、インドネシア運輸省(Ministry of Transport)は国家輸送システムの企画、運用管理

における省エネ原則の実施、道路車両品質のテスト、燃焼完全性(エネルギー効率)を含

めた排気ガスのテスト、効率的な国家輸送システムと高効率自動車製造等の業務を管轄す

る中央行政機関となっている。運輸省は 2013 年に第 201(2013)省令を公布し、温室ガス

削減のために「回避(avoid)、 代替(shift)、改善(improve)」の方針を運輸部門に適用す

ることを明確した上で、いくつかの政策を示した。例えば「自動車フリー週末」、「石油か

らガスへの燃料代替」、「公共交通開発(TOD)」、「非動力車使用の奨励」などの実施行動が

作成されている。

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

2014

エネ

ルギ

ー消

費量

(M

toe)

運輸部門

道路部門

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

2014

エネ

ルギ

ー消

費量

(M

toe)

運輸部門

道路部門

38

4. 省エネルギー政策とその課題

全般

1991 年に発令された省エネに関する大統領令No.43/1991 では、全てのエネルギー使用者

(工業、電力、輸送、産業、公共事業、貿易、不動産、ホテル、商業ビル、一般家庭)に

対してエネルギー効率改善の実施を義務付ける。2007 年 8 月に公布された「エネルギー法」

でも「省エネは政府、地方政府、事業者、国民の責務である」と規定している。

2012 年 6 月には追加的に、省エネ関連のエネルギー鉱物相規定「公用車と鉱業・農園用

の車に対する補助金付き石油燃料の販売制限に関する 2012 年第 12 号規定」の規定の交付

を行った。本規定では、公用車に対する補助金付き石油燃料の販売制限、ならびに鉱業・

農園用の車に対する補助金付き石油燃料の販売制限を決定した。この他に、首都ジャカル

タで高級車を対象とした補助金付き石油燃料の販売制限の実施が検討されていた。

2015 年はガソリンとディーゼルに対する補助金が撤廃された。

LCGC(Low Cost Green Car)への減税措置

2013 年 5 月、インドネシア政府は低価格かつ低燃費の LCGC 車(Low Cost Green Car)

に対し、優遇策の導入を開始した。以下の条件を満たすことで、LCGC 適合車として奢侈

販売税 10%減免が認められる。

① 燃費効率:20km /ℓ 以上走行可能

② 排気量:ガソリン車 1,200cc 以下、ディーゼル車 1,500cc 以下

③ 機動性:4.6m 未満の最小回転半径

④ 現地調達率:部品の現地調達率は 80%以上

⑤ その他:エアバックなど安全装置抜きの場合、9,500 万ルピア以下に抑える

LCGC が実施した結果、 環境に比較的に優しい自動車は消費者が優先的に選択されるよ

うになった一方、自動車メーカーも競って規格に合った自動車を多く生産するようになっ

た。実際 LCGC 車の販売が好調であった。インドネシア自動車協会によれば、2016 年上期

インドネシアの新車販売台数が 1%増にとどまっていたにも関わらず LCGC 車は 10%も増

加した。

道路整備と交通システムの改善

インドネシアは道路整備を急速に進めている模様である。アジア開発銀行によるクラス

区分別の道路延長の推移をみると、2004 年には最低限の基準を満たす「クラスⅢ」が約半

数を占めていたが、2012 年には「クラスⅢ」がほとんどなくなり、「クラスⅠ」もしくは

「クラスⅡ」に変わっており、道路整備が急速に進展していることが伺わせる21。

インドネシアの途上国における適切な緩和行動(NAMA: Nationally Appropriate Mitigation

Actions, 2010)は財政面における投資コストや投資内容が明確に示している。そのうち運輸

21 経済産業省 (2016b) http://www.data.go.jp/data/dataset/meti_20160907_0012

39

部門では年率 9.5%で投資の拡大の必要があるとし、2010~2014 年の間に総額 19 京 9,495 兆

ルピアの投資を見込んでいた。

5. 課題を解決する技術の提案

インドネシアは国内石油生産の低迷に伴い、石油消費を抑制する方針を打ち出している。

具体的には一次エネルギー消費に占める石油の割合を現状(2013 年)の 46%から 2025 年

に 25%までに削減する計画となっている。 自動車は石油消費の 80%以上を占めているた

め、石油消費の削減の担い手となっている。自動車普及台数は 2025 年に 2 倍程度増加する

と試算されているため、自動車の石油消費の削減が課題である。しかし、燃費基準等の規

制措置が形成されていない。ただし、燃費基準の導入は燃料品質の向上、とりわけ硫黄分

の減少が急務となっている。現状では EURO2 にも満たさない場合があるから、燃料品質の

向上にとって最大のネックとなっている。

一方、既存の自動車に関しては、車検制度の導入により大量にある年式の自動車の廃止

が期待されている。また、自動車単体の省エネルギー政策のほか、公共交通機関の整備、

道路状況の改善、道路交通信号の合理化も重要な省エネルギー政策となっている。

2.8.3. 家庭部門

1. エネルギー消費の推移

家庭部門のエネルギー消費は、1990 年から 2014 年までの間に年率 2%で増加し、2014 年

には 1990 年と比べ 1.5 倍に増加した。最終エネルギー消費に占める家庭部門のエネルギー

消費は、経済成長や産業開発に伴い、1990 年の 52%から 2014 年の 37%までに減少したもの

の、依然として最大のエネルギー消費部門である。家庭部門の燃料別のエネルギー消費を

見ると、所得水準の向上に伴い、非商業バイオマスから転換し、電力・石油・ガス等への

商業エネルギーの需要が拡大しつつある。2014 年家庭部門エネルギー消費に占める電力消

費は、1990 年の 2%から 2014 年の 11%までに増加した(図 2-20)。

40

出典:International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”より作成

図 2-20 家庭部門のエネルギー消費の推移

2. 省エネルギー目標

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN、2005)によれば、家庭部門における省エネ

目標は、2025 年に BaU 比 15%削減としているが、技術別の目標が不明である。

3. 省エネルギー政策とその課題

インドネシアでは、家電製品の省エネラベリング制度が策定され、2011 年 10 月より蛍光

灯電球に対する省エネラベルが開始された。エネルギー効率基準はワット当たりの照度を 4

段階(同量のエネルギーで最も明るいものを 4 星)に分けている。冷蔵庫、エアコン、テ

レビ等にも順次導入する予定である。図 2-21 にインドネシアの省エネラベリングを示す。

出典:Edi Hilman and Mustafa Said(2009)”Energy Efficiency Standard and Labeling Policy in Indonesia”

図 2-21 インドネシアの省エネラベリング

機器のエネルギー効率基準においては、蛍光灯電球およびエアコンの最低エネルギー性

能基準(MEPS:Minimum Energy Performance Standards)が導入されているが、その他の機

器のエネルギー効率基準は任意基準となっている。MEPS は今後、冷蔵庫、扇風機、電子安

0

1

2

3

4

5

6

71 75 80 85 90 95 00 05 10 14

(Mtoe)

石油

再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

天然ガス

41

定器、電気モーター、LED 電球、洗濯機、井戸のくみ上げに使うポンプ、アイロン、テレ

ビに拡大してゆく予定である。住宅に関しては、住宅の断熱性能、空調、照明、建物のエ

ネルギー監査に関する任意基準を策定しているが、基準の義務化には至っていない。

インドネシアの家庭部門における省エネ施策は、ASEAN 諸国と比較してラベリング制度

やMEPSの普及は圧倒的に低い状況にある。2016年にエアコンのMEPSが導入された以外、

エネルギー効率基準は自主取り組みであるため、効率改善に対する強制力が働かない。

MEPS 対象機器は、ASEAN 諸国の中で最も少ない(表 2-18)。

表 2-18 ASEAN 諸国における MEPS 対象機器

国 MEPS 対象機器

インドネシア 2 機器:蛍光灯電球、エアコン

フィリピン 8 機器:蛍光灯安定器、小型蛍光ランプ、冷凍庫、冷凍冷蔵

庫、冷蔵庫、モーター、室外機付エアコン、窓型エアコン

タイ 6 機器:蛍光灯、CFL、3 相モーター、エアコン、LPG ガス

ストーブ、冷蔵庫

マレーシア 5 機器:冷蔵庫、エアコン、テレビ、家庭用ファン、照明(蛍

光灯、CFL、LED と白熱灯)

出典:各資料より作成

ラベリングは 2014 年に照明ランプが義務化された後、エアコンの省エネ規制導入ととも

にラベリングについても義務化されているがその他は自主ベースとなっている。また、図

2-22 の製品試験場の人材と設備を見ると、ASEAN 諸国と比較して、インドネシアのエアコ

ン試験場の能力は、人材、設備、マネジメント、維持、手法において圧倒的に立ち遅れて

おり、キャパビルと共に MEPS、ラベリングの義務化を推進する必要がある。

42

出典:日本電機工業会 (2016) “Summary of the Result of Mutual Evaluation Test and Training”

図 2-22 ASEAN 諸国の製品試験場の能力比較

そのほか、省エネ機器の普及促進に欠かせない優遇措置や補助金などの助成も実施され

ておらず(表 2-19)、一般消費者は初期費用が高い高効率型機器の長期的な経済メリットに

対する認識が足りない。これが高効率型機器の普及が進まない一因である。

表 2-19 ASEAN 諸国での省エネ経済助成制度の比較

国 経済助成制度

インドネシア なし。

フィリピン (1) 省エネ事業に対し、税制面での優遇措置を実施

(2) 固定資産税の還付(ケソン市)

(3) 省エネルギー設備・機器の投資資金ローン支援

タイ (1) ENCON Fund

(2) 省エネルギー標準設備基準 30%援助プログラム

(3) 省エネ税優遇制度

(4) 省エネ型電気機器の普及促進の為の DSM プログラム

(5) 省エネ循環基金

マレーシア (1) 省エネ機器の免税措置

(2) 環境に優しい建物を対象とした免税措置

(3) 省エネ家電割り戻し制度

出典:各資料より作成

住宅の断熱性の基準においては、ASEAN 諸国全般的に、住宅の断熱性の等省エネルギー

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/System

タイ PJ2013 / 92%

PJ2014 / 94%

PJ2015 / 96%

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/System

インドネシア PJ2013 / 52%

PJ2014 / 55%

PJ2015 / 57%

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/System

マレーシア PJ2013 / 86%

PJ2014 / 91%

PJ2015 / 93%

0%

50%

100%Engineer

Method

MaintenanceManagement

Facility/Syste

m

フィリピン PJ2013 / 67%

PJ2014 / 77%

PJ2015 / 83%

エンジニア

設備

管理 維持

手法

43

化に向けた基準は、表 2-20 に示した通り義務化されていない。インドネシアにおいても建

築基準法に省エネルギー基準が適用されておらず、高断熱化等の強制力が働かない。

表 2-20 ASEAN 諸国の住宅の断熱性能基準

国 住宅の断熱性能

インドネシア 断熱性能、空調、照明、建物のエネルギー監査に関する任

意基準を設定。

フィリピン 建築物の省エネルギー推進に関するガイドラインを設定。

タイ 業務部門のビルディングコードは 2009 年に発効している

が、住宅向けの省エネ基準は策定されていない。

マレーシア 住宅を含む建築物の省エネルギーガイドラインを策定し

て、いるが基準の義務化には至っていない。

出典:各資料より作成

また、家庭の電気料金において、ASEAN 諸国と比較して、インドネシアの電気料金は平

均で、最も低い水準にあり(表 2-21)、家庭部門の省エネ意識の醸成に向けた課題として指

摘できる。インドネシアにおける 6,000 万世帯のうち、20%に対して電力供給がなされてい

ないところ、補助金支給対象となる世帯の契約アンペア 2A, 4A の世帯がそれぞれ全体の

35%、30%を占めている(図 2-23)。これらの契約世帯への補助金支給の撤廃が省エネルギ

ー意識の醸成に向け重要である。

表 2-21 ASEAN 諸国の電気料金比較

国 家庭向け電気料金比較

インドネシア 758.16(ルビア/kWh)or 6 円/kWh

フィリピン 5.69(ペソ/kWh)or 13 円/kWh

タイ 2.15-4.58(バーツ/kWh)or 7-14 円/kWh

マレーシア 0.34(リンギット/kWh)or 10 円/kWh

出典:日本貿易振興機構ホームページ「投資コスト比較」

低アンペア契約(2A/4A)の世帯は、全体の 65%を占めており、電力供給容量の制限があ

る中で、低ワット、低コスト家電製品の方が好まれている。家電の同時運転は不可能であ

り、エネルギー消費の高いエアコンの普及率は、まだ 15%しかない。また、エアコン販売

量に占めるインバータ機の割合は 3%程度、ASEAN 諸国の中で最も低く、省エネ性能も低

い契約電力の制限でうまく発揮できない。

44

出典:現地ヒアリング調査資料より作成

図 2-23 インドネシアにおける 6,000 万世帯の電力契約アンペアの現状

4. 課題を解決する対策ならびに技術の提案

家庭部門の省エネルギー推進における最も根本的な課題は、電化率が低いことや低アン

ペア契約の世帯が大勢にいる点にある。これは、家電全般、高効率家電製品の普及の阻害

要因の一つであると言える。その対策として、地方電化率の向上や 2A/4A 契約を撤廃し、

6A 契約への移行促進が必要である。その代わりに、これまで 2A/4A 契約世帯に支給された

補助金を電力インフラの形成や地域特有の再エネ資源の開発に資する目的で活用すると共

に、省エネ技術・機器への投資へ還流させる必要もあるだろう。

電力・エネルギー価格が相対的に安価であるため、消費者の省エネルギー意識を喚起す

るためには、電力料金の適正化、省エネルギー意識向上に向けた啓発活動や情報提供にさ

らに注力する必要がある。定期的なエネルギー消費実態調査や省エネ意識調査に基づくモ

ニタリングまたは政策評価に資する情報収集も考えられる。

普及が進むテレビや冷蔵庫などの家電製品の省エネルギー推進に当たって、MEPS の導入

やラベリング制度の対象製品の拡大は不可欠である。また、基準に適合した製品が市場に

流通するために、試験場での適格な検査が必要されており、それに伴い、製品試験場での

人材育成や設備の充実化も求められる。

高効率家電機器の普及促進に当たって、優遇措置、補助金等の助成、日本のエコポイン

ト制度のような措置を創設し、高アンペア契約への移行推進と共に実施されることも考え

られる。住宅の断熱性能基準の導入による住宅の省エネルギー性能の向上も長期的には必

要である。

技術面での対策としては、照明の LED 化、ならびに 2016 年に MEPS が導入されたエア

コンの更なる基準向上、そして今後 MEPS 導入が予定されている冷蔵庫、テレビ、洗濯機、

炊飯器の高効率化が望まれる。

電力供給なし20%

450W (2A)35%

900W (4A)30%

1300W (6A)10%

>2200W (10A)5%

45

2.8.4. 業務部門

1. エネルギー消費の推移

業務部門のエネルギー消費は、インドネシアの最終エネルギー消費に占める割合が 3.1%

と最も小さいものの、近年急速に消費量が拡大しており、インドネシアにおける将来的な

省エネルギー推進を考える上で重要な部門である。実際、1990 年から 2014 年の間に業務部

門のエネルギー消費は年率 8.2%で増加しており、同期間の最終エネルギー消費が年率 3.1%

で増加したのと対比をなす。エネルギー源別では、電力消費が 1990 年から 2014 年の間に

年率 10.3%で急速に拡大しており、業務部門に占める割合も 1990 年の 50.1%から 2014 年に

は 78.4%へと増加した(図 2-24)。これとは対照的に、ディーゼルや重油等の石油製品を活

用したオンサイトの発電用途で利用される石油製品の消費量は 1990 年には業務部門のエネ

ルギー消費のうち、40.1%を占めていたのが、国内の電化が進展したことを受けて、年率 3.7%

増で推移、2014 年にはその割合は 14.1%へと縮小している。

出典:International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”,

World Bank (2016) “World Development Indicators”より作成

図 2-24 業務部門のエネルギー消費の推移

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0

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71 75 80 85 90 95 00 05 10 14

石油

再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

天然ガス

石油

再生可能エネル

ギー・廃棄物等

電力

天然ガス

サービス産業GDP

(2010年価格, 10億ドル)

最終エネルギー消費

(Mtoe)

46

出典:International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”,

World Bank (2016) “World Development Indicators”より作成

図 2-25 ASEAN 諸国の業務部門エネルギー消費比較(左)、ASEAN 諸国の一人当た

り業務部門エネルギー消費比較(右)の推移

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」より作成

図 2-26 診断対象となった業務用ビルの用途別電力消費

0

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2

3

4

5

6

7

19

71

19

74

19

77

19

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19

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92

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95

19

98

20

01

20

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10

20

13

インドネシア

マレーシア

フィリピン

タ イ

ベトナム

Mtoe

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

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92

19

95

19

98

20

01

20

04

20

07

20

10

20

13

インドネシア

マレーシア

フィリピン

タ イ

ベトナム

toe/人

65%57% 57% 55%

47%

15%16% 22% 27%

25%

3% 14% 5% 4% 22%

17% 13% 16% 14%6%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

空調 照明 エレベーター その他

47

出典:Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy Efficiency Development in Indonesia”より作成

図 2-27 業務建築物の業種別床面積あたりエネルギー原単位の比較

業種別床面積あたりのエネルギー消費では、インドネシアの水準は、日本と比較して、

10~20%程度多くエネルギーを消費している。日本の水準と床面積あたりエネルギー消費

に乖離がある理由として、インドネシアにおける導入される技術の効率水準が高くはない

こと、建築物のエネルギー効率基準遵守にかかわる課題や年間を通した冷房需要の必要性

が指摘できる。

出典:Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy Efficiency Development in Indonesia”より作成

図 2-28 業務用チラーのエネルギー効率比較

導入技術の効率水準として、業務用チラーの効率をインドネシアとシンガポールに関し

て比較した例を図 2-28 に示す。図が示す通り、インドネシアの業務用チラーのエネルギー

効率は、シンガポールの最良水準と比較して 27%多くエネルギーを消費している。シンガ

ポールの平均的なチラーの効率水準と比較しても 13%多くエネルギーを消費している。

kWh/m2

0.75

0.550.65

00.10.20.30.40.50.60.70.8

インドネシア シンガポール

(最良水準)

シンガポール

(平均水準)

kW/Rton

27%

48

2. 省エネルギー目標

国家省エネルギーマスタープラン(RIKEN、2005)によれば、基本計画策定時から 2025

年までの各部門における省エネポテンシャルは、それぞれ、産業(17%)、業務(15%)

運輸(20%)、家庭(15%)としている。同マスタープランにおける業務部門における省エ

ネ目標は、2025 年に BaU 比 15%節減としている。他方、前提となる技術別の目標は明らか

にされていない。

3. 省エネルギー政策とその課題

業務部門の省エネルギー政策は、(1) 大規模業務ビルのエネルギー管理制度ならびに(2)

建築物の省エネルギー基準から構成される。

(1) 大規模業務ビルのエネルギー管理制度は、2009 年に制定された省エネルギーに関する

法律 No.70 によるもので、同法では年間エネルギー消費が石油換算で 6,000 トン以上の建築

物ならびに産業部門の事業者は、エネルギー管理プログラムを実施することが規定されて

いる。具体的には、同法の 12 条において対象事業者はエネルギー管理士を指名、省エネル

ギープログラムの実施ならびにエネルギー監査の実施、そして省エネルギー計画と手段を

政府に対して報告する義務が課される。

表 2-22 業務部門の省エネルギーに関連する法律

業務部門の省エネルギーに関連する法律 内容

エネルギーに関する法律 Law No.

30/2007

国家エネルギー委員会の形成と国家エネルギー計画

の策定に関する法律

省 エ ネ ル ギ ー に 関 す る 法 律

No.70/2009 Article 12

年間エネルギー消費 6,000 toe 以上の事業者に対す

るエネルギー管理規制

節電に関するエネルギー鉱物資源省

規制 No.13/2012

全ての政府建物、公共施設、街灯、看板照明は、前

の 6 ヶ月間の電力消費の平均から 20%節減する規

エネルギー管理に関するエネルギー

鉱物資源省規制 No.14/2012

年間エネルギー消費 6,000 toe 以上の事業者に対す

るエネルギー管理規制

エネルギー管理士の適格性に関する

エ ネ ル ギ ー 鉱 物 資 源 省 規 制

No.13/2010 及び No.14/2010

エネルギー管理士ならびにエネルギー監査士の適格

性を定めた規制

出典:各種資料より作成

49

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-29 業務建築物における延べ床面積と年間エネルギー消費の関係

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-30 業務ビルの床面積別全体に占める割合

業務部門におけるエネルギー管理制度の課題として対象事業者の数が圧倒的に小さいこ

とが指摘できる。年間エネルギー消費が石油換算トンあたり 6,000 トン程度の業務ビルの床

面積は 40 万 m2以上の建物に相当する。他方、インドネシアの業務ビルは 98%が 3 万㎡以

下である(図 2-29 および図 2-30)。エネルギー管理制度の対象事業者を拡大するためにも、

現行の年間エネルギー消費 6,000石油換算トンから 700石油換算トン程度に引き下げる必要

がある。

国内のエネルギー管理士・診断士の数が不足していることも課題として挙げられる。国

内におけるエネルギー管理士ならびに監査士の有資格者数は、2016 年の時点でそれぞれ 278

名、163 名である。エネルギー管理士については、産業部門の同人数が 266 名である一方で、

業務部門のエネルギー管理士はわずかに 12 名にとどまり、エネルギー管理にかかわる人材

数が圧倒的に不足していることが分かる。

01000200030004000500060007000

年間エネルギー消費(toe)

5万㎡

以上,

0%

3万~5

万㎡,

2%

3万㎡

以下,

98%

50

表 2-23 エネルギー管理士・監査士の有資格者数(単位:人)

エネルギー管理士 エネルギー監査士

2012 50 0

2013 29 36

2014 52 38

2015 96 75

2016 51 14

合計 278 163

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “ASEAN-Japan Energy Efficiency Partnership - Indonesia”

より作成

業務部門の省エネ投資の現状として、JICA(2009)が行った調査では、投資額の規模割

合でみても、1億ルピア以下の省エネ投資が全体の 69%を占めており、1年以下の投資回

収年数の省エネ投資がほぼ 70%を占めている。国内の融資金利が 12%を超えるなど、資金

調達コストが大きい中で、省エネルギー投資に対するインセンティブが低いことが課題と

して指摘できる。

出典:国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」

図 2-31 業務部門の省エネ投資の現状

(2)建築物のエネルギー効率改善に向けて、建築物の国家省エネルギー基準(SNI)が策

定されている。他方、同基準の遵守は義務化されておらず、建築に際しての事業者に対す

るレファレンスとして活用されている。現在のところ、外皮性能、室温、湿度、照明シス

テムならびにエネルギー監査の手法に関する基準が策定されている。

69%

27%

4%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

業務ビル

10億ルピ

ア以上

1-10億ル

ピア

1億ルピア

以下 70%

27%

3%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

業務ビル

2年以上

1-2年

1年以下

51

表 2-24 建築物の省エネルギー基準

建築物の省エネルギー基準 SNI

建築物の外皮性能(OTTV & RTTV < 35 W/m2) SNI 03-6389-2011

建築物におけるエアコン利用にかかわる省エネルギ

ー(室温:24-27 度、湿度:60%±5%)

SNI 03-6390-2011

建築物の照明システムにかかわる省エネルギー(事

務所、家庭、産業、病院、ショッピングセンター)

SNI 03-6197-2011

建築物のエネルギー監査に関する手法 SNI 03-6196-2011

注:OTTV (Overall Thermal Transfer Value), RTTV (Roof Thermal Transfer Value)の略

出典:Andriah Feby Misna (2014) “Energy Efficiency of Buildings in Indonesia”より作成

建築許可ならびに運用、管理、解体に関しては、「建築物の法律 No.28/2002」に規定され

ており、オーナーまたは建築事業者が地方自治体に申請し、地方自治体の担当部局が適宜

指示、監督、規制を行う。

ジャカルタ首都特別州(DKI Jakarta)では、グリーンビルに関する知事令(Governor

Regulation No.38/2012)が公布され、建築物の省エネルギーと環境に関する規制が義務化さ

れた。グリーンビルは計画、建設、利用、維持、解体まで環境と資源の効率利用に配慮す

るものであり、ジャカルタ首都特別州では、新築ならびに既築改修に際して同法令の規定

に従う必要がある。なお、同法令の対象となるのは、以下の通りである。

• 集合住宅、事務所、複合施設で床面積が 50,000 ㎡以上の建築物

• ホテル、公共文化施設、医療・健康関連施設で床面積が 20,000 ㎡以上の建築物

• 社会文化施設、教育サービス施設で床面積が 10,000 ㎡以上の建築物

同法令での規制内容は、①省エネルギーの推進、②水資源の効率的利用、③室内環境

の改善、④土地・廃棄物利用、⑤建築に際しての環境への配慮である。

インドネシアでは建築物の省エネルギー基準が整備されており、ジャカルタ首都州では

グリーンビルディング基準の遵守が義務化されているものの、こうした基準の遵守を徹底

するメカニズムが導入されておらず、先の出典:Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy

Efficiency Development in Indonesia”より作成

図 2-27 でもみたように、床面積あたりのエネルギー消費として、日本の平均的な水準と

比較すると 10~20%程度改善余地があると指摘できる。

52

また、業務部門の省エネルギー推進に対する課題として以下が指摘できる。

• 電力等価格が国際的にみても低いことから、エネルギー管理プログラム実施に対す

るインセンティブの不足

• 省エネルギーに対する認識が不足しているのと共に、ベンチマークデータベース等、

正しいデータの不足

• 建築物のエネルギー管理士やオーナーが省エネルギー対策手段に関する知識の不足

• 省エネルギー投資に対する融資メカニズムの不足

4. 課題を解決する対策ならびに技術の提案

インドネシアにおける業務部門の省エネルギー推進課題に対応するためにも、政策・規

制ならびに遵守メカニズムの構築、ならびに低利融資等のファイナンスメカニズムの構築

が必要である。具体的には、現行のエネルギー管理制度における業務部門のカバー率は全

体の 1%(35 事業者)と限定的であり、対象範囲を述べ床面積 5 万㎡、年間エネルギー消費

量 700toe に下げるなど、対象を拡大する必要がある。また、資金調達コストが膨大となる

ことを阻害要因として、省エネ投資は積極的に行われていないため、利子補給等の低利融

資に向けた政府支援が必要である。

課題を解決するための技術としては、業務部門における用途別の電力消費調査結果が示

す通り、インドネシアにおいては空調の占める割合が事務所の場合 47%、ホテルでは 65%

と圧倒的に大きいことから、高効率チラーならびにパッケージエアコンのインバータ化、

そして建築物の省エネルギー基準の遵守による断熱性能の改善が鍵である。断熱性能の向

上に資する Low-E ガラスや複層ガラスの導入は、空調需要の低減に向けて極めて重要であ

る。加えて、換気の熱ロス改善も空調需要が大きいインドネシアでは有効な省エネルギー

手段である。同様に、照明の LED 化や IT を活用した照明制御機器の導入も業務部門の効率

改善に資する。

53

[参考文献]

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Indonesia”

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• Farida Zed (2015) “Indonesia Energy Efficiency and Conservation Status, Gaps, and

Opportunities”

http://www.energyefficiencycentre.org/-/media/Sites/energyefficiencycentre/Workshop%20Pres

entations/Global%20EE%20Workshop,%20Nov%202015/Day%204/Indonesia.ashx?la=da

• Food and Agriculture Organization of the United Nations “FAOSTAT”

http://www.fao.org/faostat/en/#data

• Indarti (2011) “Energy Efficiency Indicators in Indonesia”

• International Energy Agency (2016) “World Energy Statistics and Balances 2016”

• Kusuma (2016) “Improvement of the existing energy manager training & certification system

with roadmap plan of energy management system”

• Lee Siew Eang (2015) “A Review of Building Energy Efficiency Development in Indonesia”

• Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Statistik EBTKE 2015”

http://ebtke.esdm.go.id/post/2016/02/02/1105/statistik.ebtke.2015

• Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “ASEAN-Japan Energy Efficiency

Partnership - Indonesia”

• Ministry of Industry (2012) “Needs for Energy Planning for the Industry Sector towards the

Acceleration of Industrialization”

• Ministry of Industry (2015) “Industrial Energy Efficiency Initiatives & Standards”

http://www.switch-asia.eu/fileadmin/user_upload/Events/Jakarta_EE_event15/Theme_2_presen

tations/Industrial_energy_efficiency_initiatives___standards_Indonesia_Mrs_Shinta_Sirait.pdf

• National Center of National Action Plan for Greenhouse Gas reduction (Sekretariat RAN-GRK)

http://www.sekretariat-rangrk.org/english/

• Republic of Indonesia (2010) “Indonesia's Technology Needs Assessment on Climate Change

Mitigation– Updated Version –“

• Statistics Indonesia (BPS) (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia 2016”

• World Steel Association “Steel Statistical Yearbook”

https://www.worldsteel.org/steel-by-topic/statistics/steel-statistical-yearbook-.html

• オンラインエネルギー管理報告 Web サイト

http://aplikasi.ebtke.esdm.go.id/pome/

• 経済産業省 (2015) 「平成 26 年度アジア産業基盤強化等事業 インドネシアの現地中小

企業の実態調査」 (委託先:日本経済研究所)

54

http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/001103.pdf

• 経済産業省 (2016a) 「平成 27 年度エネルギー使用合理化委託促進基盤整備委託費(新

興アジア諸国における自動車の需要動向等調査事業)調査報告書」 (委託先:三菱

UFJ 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング証券株式会社株式会社)

• 経済産業省 (2016b) 「平成 27 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業(省エネルギ

ー人材育成事業)」 (委託先:省エネルギーセンター)

• 国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」(委託先:電源開

発株式会社)

• 日本電機工業会 (2016) “Summary of the Result of Mutual Evaluation Test and Training”

• 日本貿易振興機構ホームページ「投資コスト比較」

55

第3章 2030 年までの省エネルギーポテンシャルおよび

費用対効果分析

3.1. 省エネルギーポテンシャルの試算方法

3.1.1. 概要(全部門共通)

分析にあたっては、日本エネルギー経済研究所のエネルギー需給分析モデル(IEEJ モデル)

を活用する。本モデルでは、図 3-1 に示すように回帰分析によって、社会経済指標とエネル

ギー需要との相関を分析、需要部門から転換部門、供給部門までを整合的に分析できるモ

デルとなっている。以下、IEEJ モデルによる分析の枠組みをまとめる。

IEEJ モデルは、①マクロ経済モデルと②部門別・エネルギー源別の分析を行うパー

トから構成される。①の結果である GDP・人口・エネルギー価格といった変数や、

気温や世帯構成、産業構造の変化は②の部門別・エネルギー源別の分析に活用する。

また、③家庭部門と業務部門に対してサブモデルを構築、①の GDP や人口、エネル

ギー価格等のマクロ経済モデル結果を活用し、機器・技術の販売とストックの変化

を分析、それらのエネルギー効率改善を分析し、②の部門別・エネルギー源別分析

に変数として活用する。

①、②、③の分析を通して、技術保有とエネルギー効率の改善など様々な社会経済

変数との相関を分析する。

省エネルギーポテンシャル分析にあたっては、図 3-2 に示すように BaU ケースと高

効率技術が普及する Alternative ケース(以降、ALT ケース)の 2 ケースを設定し、

それらの差分を省エネルギーポテンシャルとして提示する。

業務部門以外では、最終エネルギー需要は、家庭、産業(12 業種)、運輸(2 部門、

4 輸送機関)を分析、他方供給面では、事業用発電、産業用自家発、地域電力・熱供

給の分析を行う。

最終需要の業種別・用途別省エネ効果分析と、分析対象として選定した政策・制度

の省エネ効果を機器・技術別に試算できる。

需要面のみならず、供給面も分析できるため、省エネルギー分析で選定した政策・

制度の省エネルギー効果を一次エネルギー換算し、それらの CO2 削減効果も分析可

能である。

①社会経済的側面とエネルギー需要の関係、及び②技術的側面とエネルギー需要の

関係の両方から省エネルギー効果の分析が可能である。

56

出典:日本エネルギー経済研究所作成

図 3-1 IEEJ モデルの概要

出典:日本エネルギー経済研究所作成

図 3-2 省エネルギーポテンシャルのイメージ図

人口、世帯、労働力人口、為替レート等

原油価格、石炭価格、LNG価格等

石油製品、電力、都市ガス価格

エネルギー価格モデル

エネルギー需給モデル

需 要最終エネルギー消費

・産業(12業種)・家庭(5用途)、業務(9業種)・運輸(2部門、4輸送機関)

供 給一次エネルギー供給

・エネルギー源別・転換部門(発電、石油精製、ガスプロセス、自家発)

バランス

○部門毎に詳細に積み上げ

○エネルギー源毎に需要と供給を整合させるので、需要家、供給事業者双方に対して数値の提示が可能

技術積み上げモデル

エネルギーバランス表

CO2排出量

【モデル前提】各ケース共通

GDP、物価、産業別生産量、生産指数、床面積等

マクロ経済モデル

一般普及機器導入ケース

①BaU エネルギー需要

省エネルギ-ポテンシャル

(①-②)

②Alternative エネルギー需要

高効率機器導入ケース

規制導入年 1986 年 2030 年

57

3.1.2. サブモデルの活用(家庭部門・業務部門・運輸部門)

上記の様にエネルギー需要と社会経済指標との相関を求める以外にも、家庭部門や業務

部門の様にエネルギー需要の多くが一部の機器によって生じる場合については、分析内容

を精緻化するためにサブモデルを活用する。技術・機器の販売とストックを推計、インド

ネシア全体の技術・機器別エネルギー効率をストックレベルで分析し、それらとエネルギ

ー需要との相関を分析する。

具体的には、以下の手順でサブモデルの分析を進める。すなわち、機器・技術別に経済

や人口、床面積などを参照し、販売数を求める。特定年に販売された機器・技術の残存率

をワイブル分布に従い推計、これにより特定年に存在する機器・技術のストックが推計可

能となる。これらの特定年に販売された機器・技術の販売レベルでの効率を想定、フロー

での効率が決定される。特定年に販売された機器・技術の残存率を求めることから、スト

ックでのエネルギー効率を求め、これを指標化し、IEEJ モデルで変数として活用し、エネ

ルギー需要との相関を分析する。

3.1.3. 省エネルギー政策の効果分析(全部門共通)

ここまで述べた分析に加え、インドネシアにおいて追加的な省エネルギー政策が導入さ

れた場合の定量的な効果についても分析を実施する。具体的には 2017 年以降にそれぞれの

部門にふさわしい省エネルギー政策を検討した上で、同政策が導入された際の省エネルギ

ー効果を分析している。

なお、詳細な試算方法や前提については、部門毎の特性を考慮して分析を実施している

ため、各部門の項目を参照されたい。

58

3.1.4. 産業部門

本項では、エネルギー効率の改善が現状程度にとどまる 2030 年までのエネルギー需要

見通し(BaU ケース)を作成、その上でエネルギー多消費産業を対象とした業種別の省エ

ネルギーポテンシャルを分析する。さらに、インドネシアに日本の省エネルギー政策が導

入された場合の効果を試算する。

1. 業種別省エネルギーポテンシャルの推計

試算方法の補足

産業部門の省エネルギーポテンシャルの試算においては、3.1 の試算方法に記載の通り、

IEEJ モデルを活用して業種別に分析する22。BaU ケースは IEEJ モデルを活用し、計量経済

の手法を用い、生産量とエネルギー需要との相関を考慮し将来需要見通しを作成する。一

方、ALT ケースでは高効率機器が最大限導入されたと仮定した場合におけるエネルギー原

単位を 2030 年に亘って想定、IEEJ モデルにより導出された生産活動量に乗じることでエネ

ルギー需要見通しを作成する。ALT ケースにおけるエネルギー原単位の想定は、日本エネ

ルギー経済研究所 (2016)『世界・アジアエネルギーアウトルック 2016』の技術進展ケース

や International Energy Agency (2012,2014)を参考に業種別の改善率を想定している。

試算対象業種

試算対象業種は第 1 章で特定した様に鉄鋼・セメント・紙パルプ・繊維である。図 3-3 は、

インドネシア工業省による 7 業種(鉄鋼・セメント・紙パルプ・繊維・食品・化学)を対

象とした 2012 年時点のエネルギー消費量である。本節では、このエネルギー消費統計に基

づき、エネルギー消費量の上位 5 業種のうち、化学肥料業を除く 4 業種を試算対象とする。

22 なお、一部、モデルに用いるデータの前提を国際協力機構 (2015)における業種ごとの燃料種別消費量や

インドネシア中央統計庁のデータに変更している。

59

出典:Ministry of Industry (2012) “Needs for Energy Planning for the Industry Sector towards the

Acceleration of Industrialization”より作成

図 3-3 業種別エネルギー消費量(2012 年)

2. エネルギー需要見通し

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-4 部門別省エネルギーポテンシャルの試算結果(Mtoe)

紙パ, 5,000, 60%繊維, 1,927, 23%

セメント, 552, 7%

化学肥料,

389, 5%

鉄鋼, 268, 3%セラミック,

103, 1%

食品, 43, 1%

単位:ktoe

出所:MOI(2012)

20% 2030年

Mtoe Mtoe

実績値 予測値実績値 予測値鉄鋼

セメント

紙パルプ

繊維

BAUケース

ALTケース

セメント 紙パ鉄鋼 繊維

60

産業部門における分析対象業種のエネルギー需要は BaU ケースにおいて 2014 年の

12Mtoe から 2030 年には 28Mtoe へ年率 5%で増加する見通しである。2030 年時点でのエネ

ルギー需要を業種別にみるとセメントの 11Mtoe が最大であり、紙パルプ(9Mtoe)、鉄鋼

(5Mtoe)、繊維(3Mtoe)と続き、セメントおよび紙パルプのエネルギー需要が 2030 年に

おける 4 業種のエネルギー需要の 70%を占める見通しである。

一方、ALT ケースにおいては、2030 年時点の 4 業種のエネルギー需要は 22Mtoe となる見

通しで、BaU と比較して、約 20%(6Mtoe)の省エネルギーポテンシャルを有している。2030

年の省エネルギーポテンシャルを業種別にみると、セメントの 2.1Mtoe が最大であり、これ

に紙パルプ(1.7Mtoe)、鉄鋼(1.3Mtoe)、繊維(0.4Mtoe)と続く。

3. 省エネルギー政策の効果

本項では、試算した省エネルギーポテンシャルを達成するために必要な政策措置を検討、

それらの定量的な効果を分析する。具体的には、日本の省エネルギー政策を整理・検討し、

これらの政策がインドネシアへ導入された場合の政策効果を試算する。

インドネシアで導入される省エネルギー政策の検討

出典:日本エネルギー経済研究所作成

図 3-5 日本の省エネルギー政策の概要と政策効果のフロー

産業部門における省エネルギー政策は、規制や補助金等の多様な政策手法を、技術・事

業者・業種といった階層ごとに組み合わせることで、効果的な対策の実施が可能である。

実際に日本の省エネルギー政策は多層的に実施されており、個々の技術ではトップランナ

ー制度、事業者別では省エネ法に基づくエネルギー管理制度やベンチマーク制度、業種で

は低炭素社会実行計画が実施されている。そのため、インドネシアへ日本の省エネルギー

政策を導入する際は個別の政策ではなく、エネルギー管理制度やベンチマーク制度、低炭

素社会実行計画など複数の政策をパッケージ化することにより各制度が補完的に機能する

ため、省エネルギーポテンシャルの実現に向け有効であると考えられる。

機器・技術

省エネ基準・ラべリング•MEPS(機器等のエネルギー消費効率規制)•トップランナー

事業者

エネルギー管理制度

ベンチマーク制度

業種

低炭素社会実行計画(業界目標)

61

試算方法

出典:日本エネルギー経済研究所作成

図 3-6 政策効果のイメージ図

インドネシアに日本の省エネルギー政策を導入した際の効果(以降、導入効果)は、BaU

ケースのエネルギー需要と政策導入時のエネルギー需要の差分として表される最大の省エ

ネルギー効果の内数となる。政策の導入効果を試算することにより、最大の省エネルギー

ポテンシャルを達成するために必要な政策措置が明らかにできる。

検討対象とする政策導入時のエネルギー需要は、省エネルギー政策を導入したことによ

り改善したエネルギー原単位に、BaU ケースと同じ生産活動量を乗じることで求める。政

策効果としては、低炭素社会実行計画の実績値を参照する。具体的には紙パルプ業23におけ

るエネルギー原単位の改善実績を、カバー率に一定の想定をした上24で試算する。

また、導入効果のみでは前節で試算した省エネルギーポテンシャルを達成できない可能

性がある。その際、不足分については補助金や低利融資、税控除等のインセンティブ措置

の必要性を表すものと見なす。

23紙パルプ業界では 1990 年から 2015 年の 26 年間でエネルギー原単位を 33%ほど改善しているため、年平

均の原単位改善率は 1.3%となる。なお、低炭素社会実行計画には今回の分析対象である 4 業種すべてが参

加しているが、製造工程の違いや業界団体のバウンダリーの不一致等から、本分析では紙パルプ業のエネ

ルギー原単位を用いた。 24 低炭素社会実行計画は業界団体の取組であるため、カバー率が低い場合は業界団体と業種全体の改善率

が一致しない。加えて、政策導入当初より分析対象業種の事業者が網羅されることは困難である。従って、

政策導入対象が段階的に増えると想定した。なお、カバー率については推計開始年である 2017 年から段階

的に拡大し、2030 年時点で 60-70%になると想定した。

一般普及技術導入ケース

①BaU エネルギー需要

1) 省エネ政策による効果

2) インセンティブ(不足分)

②Alternative エネルギー需要

高効率技術導入ケース

2017 年

(制度導入年)

2000 年 2030 年

62

分析結果

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-7 産業部門における政策効果の分析結果

日本の省エネルギー政策を導入した場合の政策効果を図 3-7 に示す。低炭素社会実行計画

やエネルギー管理制度、ベンチマーク制度等の日本の省エネルギー政策を総合的に導入し

た場合、2030 年時点で 3.8Mtoe の省エネルギー効果が得られ、BaU ケース比で 14%の節減

となる。一方で、日本の省エネルギー政策の導入効果のみでは、1 で試算された省エネルギ

ーポテンシャルを満たすには不十分であるため、BaU ケース比で約 6%、経済インセンティ

ブ措置が必要となる。

3.1.5. 家庭部門

インドネシアの家庭部門におけるエネルギー消費の 76%を木材など農村地で活用される

非商業用バイオマスが占めている(2014 年)。このため、2000 年以降の家庭部門における

エネルギー需要の伸びは、年率 1.1%とゆるやかであるが、電力やガスなどの商業用エネル

ギー消費は、2000年以降所得水準の拡大とインフラ形成に下支えされ、それぞれ年率 7.3%、

28.2%と急速なペースで拡大してきている。将来的にも家庭部門における更なる所得水準の

拡大に伴う世帯当たりの機器保有増やインフラ形成にともなう商業用エネルギー需要の増

加が見込まれる。

Mtoe

1. 低炭素社会実行計画2. エネルギー管理制度3. ベンチマーク制度

14% 省エネ政策

6% インセンティブ

実績値 予測値

省エネルギー政策

インセンティブ

BAUケース

ALTケース

63

1. 省エネルギーポテンシャル分析の枠組み及び前提条件

インドネシアの家庭部門における省エネルギーポテンシャルの分析の枠組みは前述の通

り、計量経済手法を用い BaU ケースの将来の需要見通しを作成している。省エネルギーポ

テンシャルは、機器の販売ならびに普及見通しを作成した上で、それぞれの機器が現状の

効率水準を維持した場合を BaU ケースとする一方、2017 年以降の新規販売機器が先進国並

みのエネルギー効率水準を達成した場合を ALT ケースとして、その差分を省エネルギーポ

テンシャルとして分析を行った。

本分析で対象とした機器は、第 1 章の「課題を解決する技術」で指摘した将来的普及が

見込まれる機器であるエアコン、冷蔵庫、照明、洗濯機、給湯器、テレビを対象とした。

これらの 2030 年までの効率改善に関する前提は以下の通りである。なお、前提の設定に関

しては、LBNL (2008) ならびに日本エネルギー経済研究所(2016)を参照した。

表 3-1 分析の前提

2013 年の効率 BaU(2030 年) ALT(2030 年)

エアコン(COP) 2.9 3.16 4.73

冷蔵庫(kWh/年) 548 462 374

洗濯機(kWh/年) 190 190 145

照明(kWh/年/個) 57 46 34

給湯器(kWh/年) 0.76 0.76 年率 1.5%で改善

テレビ(kWh/年) 187 158 140

出典: 日本エネルギー経済研究所

2. エネルギー需要見通し

インドネシアの家庭部門におけるエネルギー需要は、非商業用バイオマスを含む場合、BaU

ケースにおける年率 1.5%で増加、2014 年の 61.4 Mtoe から 2030 年には 78.5 Mtoe と 25%増

加する見通しである。他方、非商業用バイオマスを除く家庭部門の商業用エネルギー需要

は、2030 年まで年率 3.4%で増加、とりわけ電力と天然ガスの需要は、同 5.2%増、13.4%増

の見通しである。特に天然ガスは、現状ではガス供給インフラが形成されるジャカルタ周

辺に家庭部門での利用は限定されるが、供給網の拡大を見込み、予測期間の GDP 成長率の

5.2%/年を上回る急速なペースで拡大する見通しである。

64

出典:日本エネルギー経済研究所

図 3-8 家庭部門のエネルギー需要見通し(BaU)(Mtoe)

図 3-9 に 2030 年における機器別のインドネシアにおける省エネルギーポテンシャルを示

す。図が示す通り、2030 年の世帯当たり保有台数を 0.38 台(2015 年の世帯当たり保有台数

は 0.20 台)と見込むエアコンの省エネルギーポテンシャルが最も大きく、1.3 Mtoe に上る。

これに 2030 年の世帯当たり保有台数が 0.89 台(2015 年の世帯あたり保有台数は 0.58 台)

に上り年間稼働時間の高い冷蔵庫が続く(0.38Mtoe)。普及率の高い照明の 2030 年における

省エネルギーポテンシャルも 0.35 Mtoe に上る。このほか、洗濯機の省エネルギーポテンシ

ャルは 0.21 Mtoe、これに給湯器の 0.19 Mtoe が続く。

これらの省エネルギーポテンシャル合計は、2030 年において 2.6 Mtoe に上り、同年の家

庭部門における商業用エネルギー需要(非商業用バイオマスを除く)の 10%を占める。

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

2000 2010 2015 2020 2030

石油 天然ガス 電力 非商業用バイオマスMtoe

実績 予測

65

出典:日本エネルギー経済研究所

図 3-9 家庭部門の省エネルギーポテンシャル(2030 年, Mtoe)

3. 省エネルギー政策の効果分析

本項では機器の効率基準改善以外の政策効果を検討する。具体的には、欧米諸国で実施

されるエネルギー供給者への省エネルギー義務制度の省エネルギー効果を試算する。エネ

ルギー供給者義務制度 (EEO: Energy Efficiency Obligation) とは、電力やガス等のエネルギー

供給事業者に対して、年間販売エネルギーの特定割合を節減する目標を設定、原資を主に

消費者から徴収した資金を活用し、エネルギー供給事業者が需要サイドにおいて、様々な

省エネルギープログラムを実施するものである。

具体的には、消費者の電力・ガス料金に上乗せした費用を原資として活用し、家庭部門

の消費者が高効率機器を導入するにあたっての費用の一部を負担、高効率機器の導入を促

進するプログラムなどがある。インドネシアにおける省エネルギー機器導入にあたっては、

初期投資が高額となることが障壁として指摘できる。この点を踏まえ、エネルギー供給者

義務制度による効果を検討することとする。

2,569

1,329

375

351

207

193

114

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

テレビ

給湯器

洗濯機

照明

冷蔵庫

エアコン

ktoe

66

図 3-10 エネルギー供給者義務制度の概要

なお、同制度の導入にあたっては、欧米諸国では原資の消費者負担が一般的であるが、

インドネシアでは、電力や石油事業者に支払われる補助金の一部をこうした需要サイドで

の省エネプログラム実施費用にシフトさせるといったことが検討される必要がある。また、

同制度の導入にあたっては、エネルギー供給事業者に対する省エネルギー目標の設定、プ

ログラムの運営と達成した省エネ量の報告や検証といった様々な制度の構築が必要である

点には注意が必要である。他方、消費者への直接のコミュニケーションの窓口としてコン

タクトを有するエネルギー供給事業者の省エネルギー推進における果たすべき役割を考慮

し、同制度の省エネルギーポテンシャルを検討する。

出典:日本エネルギー経済研究所作成

図 3-11 家庭部門のエネルギー需要見通し(BaU ケースと ALT ケース比較)

エネルギー供給事業者

需要家

エネルギー供給

省エネルギー情報・アドバイスの提供

• 消費者が負担する原資に基づく省エネプログラムの実施

• 目標達成に伴うインセンティブと株主への還元

• 省エネルギーに伴う販売減少分の補てん

料金支払い、省エネ機器購入

• 省エネルギーにともなう電力・ガス料金

の節減

費用対効果の高い省エネ技術導入による① エネルギー安定供給の確保② CO2削減への貢献

を達成。

実績 予測Mtoe

67

分析にあたっては、米国東海岸地域におけるエネルギー供給者義務制度で電力事業者が

達成する省エネルギーの電力販売に占める割合の平均値である 1.3%を活用、2017 年の導入

から 2030 年までの効果を検討した。

図 3-11 が示す通り、エネルギー供給者義務制度の家庭部門における省エネルギーポテン

シャルは、2.8 Mtoe であり、前項での MEPS 導入による省エネルギー効果とほぼ同水準の省

エネルギー効果に上る。

3.1.6. 業務部門

インドネシアの業務部門におけるエネルギー消費は、最終エネルギー消費の 3.2%と占め

る割合は小さい。他方、同部門における2000年以降のエネルギー消費の伸びは年平均で5.4%

であり、最終エネルギー消費の伸びが同 2.3%であるのと比較すると同部門の伸びの高さが

分かる。将来的にも産業構造のサービス化や、OA 機器の普及をふまえ、インドネシアの業

務部門におけるエネルギー需要拡大が見込まれるため、特に用途別の需要として占める割

合が大きい空調や照明を中心とした効率改善に取り組むべき部門である。

1. 省エネルギーポテンシャル分析の枠組み及び前提条件

ここでは、技術別の効率改善によるインドネシアの業務部門における省エネルギーポテ

ンシャルを照明、冷房、機器、冷蔵、換気について行った。同分析の手法としては、前述

の通り LBNL (2008)を参照し、インドネシアにおける業務建築物の床面積を推計した上で、

各機器の床面積あたり導入量を想定、それぞれの耐用年数から毎年の販売台数を推計して

いる。販売台数の推計とともに、各機器の効率を下記の通り想定し、効率が現状程度に留

まる BaU ケースと効率改善が進む ALT ケースについて推計、両者のストック効率に活動量

を乗じたエネルギー需要の差分を省エネルギー量として推計している。

2. エネルギー需要見通し

業務部門のエネルギー需要は、2014 年から 2030 年まで年率 5.5%で増加する見通しであ

る。同期間の GDP が年率 5.3%で拡大する見通しであるのと比較すると、それを超える急速

なスピードでの増加見通しであり、2014年の水準と比較すると 2030 年には 2.4 倍の 13 Mtoe

に達する。エネルギー源別では、電力の伸びが年率 6.5%での増加見通しであり、その占め

る割合は 2014 年の 77%から 2030 年には 89%へと拡大する。予測期間における天然ガスの

伸びは年率 6.1%増と急速に拡大する見通しであるが、2030 年における業務部門のエネルギ

ー需要に占める割合は、4%に留まる。

68

出典:日本エネルギー経済研究所

図 3-12 業務部門のエネルギー需要見通し(BaU)(Mtoe)

出典:日本エネルギー経済研究所

図 3-13 業務部門の省エネルギーポテンシャル(2030 年, Mtoe)

0

2

4

6

8

10

12

14

2000 2010 2015 2020 2030

電力 天然ガス 石炭 再生可能エネルギー

予測

Mtoe

実績

1,595

580

387

341

234

52

0 500 1,000 1,500

省エネ量

換気

冷蔵

機器

冷房

照明

Mtoe

69

図が示す通り、上記技術を対象としたインドネシアの業務部門の 2030 年における省エネ

ルギーポテンシャルは 1.6Mtoe に上り、これは 2030 年の業務部門におけるエネルギー需要

の 12%に相当する。技術別では、照明の省エネルギーポテンシャルが最大で、0.58Mtoe、こ

れに冷房の 0.39Mtoe、OA 機器の 0.34Mtoe、冷蔵の 0.23Mtoe、換気の 0.052Mtoe が続く。特

に家庭部門とは対照的に照明や冷房の省エネルギーポテンシャルが相対的に大きいのは、

普及率とともに事務所ビル等でのこうした技術の稼働時間が長いことを要因としている。

3. 省エネルギー政策の効果

家庭部門と同様に、政策効果を分析するためにエネルギー供給者義務制度の業務部門に

おける省エネルギー効果を試算した。前項と同様に、米国東海岸地域でのエネルギー供給

者義務制度の実施による電力の販売に占める省エネルギーの割合を 1.3%と想定、2017 年か

ら 2030 年の累積分をエネルギー供給者義務制度の省エネルギー効果として試算した。結果

として、エネルギー供給者義務制度の省エネルギー効果は 2030 年で 2.1Mtoe と業務部門の

エネルギー需要の 16%に上る。

前項でも記した通り、エネルギー供給者義務制度の実施にあたっては、原資の確保や目

標設定、省エネルギー効果の検証に関する詳細なシステムの構築が必要である点には留意

が必要である。他方、業務部門の消費者に対して電力販売により直接のコンタクトを有す

る PLN による需要家における省エネルギーの推進を考慮することは、将来的なインドネシ

アにおける電力需要の拡大と供給インフラ形成ニーズを考慮した際、需要サイドにおける

省エネルギーがこうしたインフラ形成を回避しうるオプションを提示することから、検討

の余地を有すると考えられる。

70

出典:日本エネルギー経済研究所

図 3-14 業務部門のエネルギー需要見通し(BaU ケースと ALT ケース比較)

3.1.7. 運輸部門

本節では、インドネシアの自動車の普及台数を予測した上、燃費改善による省エネルギ

ーの可能性を試算する。

1. 自動車普及と販売状況

自動車保有台数

2014 年インドネシアの自動車保有台数の内訳として、乗用車 1,260 万台、バス 240 万台、

トラック 624 万台、バイク 9,298 万台、合計 1 億 1,421 万台となった。自動車保有台数は

1990~2014 年までの年平均増加率が 11%と高い。とりわけ、1990 年~2000 年までの増加率

は 8%であったが、2000 年~2010 年では 15%と倍以上に加速した。2010 年インドネシアの

一人あたりの GDP が 3,000 ドルを突破したため、今後引き続き高い乗用車の普及速度が予

想される。

Mtoe実績 予測

71

出典:Statistics Indonesia (BPS)

図 3-15 自動車保有台数の推移

新車販売台数

2012 年よりインドネシアの乗用車販売台数は 100 万台に乗った。2014 年には 120.8 万

台に増加、10 年前の 2005 年比倍以上となった。ちなみに、インドネシアは ASEAN 国中

初の 100 万台に達した国である。

出典:International Organization of Motor Vehicle Manufacturers (2016) “2012-2016 HALF-YEAR

SALES STATISTICS”

図 3-16 新車販売台数の推移

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

100,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

19

80

19

81

19

82

19

83

19

84

19

85

19

86

19

87

19

88

19

89

19

90

19

91

19

92

19

93

19

94

19

95

19

96

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

バイ

ク保

有台

数(千

台)

自動

車保

有台

数(千

台)

バイク 乗用車 バス 貨物車

364222

315425 359

541 602781

880 879170

97

119

179127

223292

335

350 329

534

319

433

604486

765

894

1,116

1,230 1,208

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

販売

台数

(千

台)

トラック

乗用車

72

ブランド別トップ 10 の販売シェア(2015 年)

ブランド別の販売シェアのトップ 10 としては、アバンザ(トヨタ)10%、グランマッ

クス ピックアップ(ダイハツ)5%、アギア(トヨタ)4%、キャリイ ピックアップ(ス

ズキ)4%、イノーバ(トヨタ)3%、セニア(ダイハツ)3%、アイラ(ダイハツ)3%、

ブリオ・サティヤ(ホンダ)2%、エルティガ(スズキ)2%、HR-V(ホンダ)2%となっ

ている。いずれも日系メーカーである。これらの自動車はいずれも MPV であり、インド

ネシアの多人数の家族構成に適したものである。

出典:各種資料より作成

図 3-17 ブランド別トップ 10 の自動車販売シェア(2015 年)

2. 国別販売シェア(2014 年)

国別の販売シェアとしては、日本が 96.3%を占め、ほぼ 100%が日本車となっている。

出典:Association of Indonesia Automotive Industries (2016) “Domestic Auto Market by Brand

(2010-2014)”

図 3-18 国別別トップ 10 の自動車販売シェア(2015 年)

10%

5% 4%4% 3% 3% 3% 2% 2% 2%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

アバ

ンザ

・T

グラ

ンマ

ック

スピ

ック

アッ

プ・

D

アギ

ア・

T

キャ

リイ

ピッ

クア

ップ

・S

イノ

ーバ

・T

セニ

ア・

D

アイ

ラ・

D

ブリ

オ・サ

ティ

ヤ・

H

エル

ティ

ガ・

S

HR

-V・

H

96.3%

1.9% 0.9% 0.7% 0.1% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

73

3. 自動車燃費の状況

インドネシアの乗用車燃費は新車ベースでは 2013 年 6.9l/km で、2005 年に比べて 4%改善

した。通常先進国でも燃費改善率が 1~2%であることから、インドネシアの改善率が低い。

表 3-2 インドネシアの乗用車燃費(2005~2013)

出典:Global Fuel Economy Initiative (2011) “Working Paper 5/10, International comparison of light-duty vehicle

fuel economy and related characteristics”, Global Fuel Economy Initiative (2015) “GFEI Working Paper 11,

International comparison of light-duty vehicle fuel economy: Evolution over 8 years from 2005 to 2013”

4. 自動車普及台数の予測

乗用車の普及台数の予測

旅客部門の保有台数の予測はロジスティック曲線に当てはめて定式化した。

)(1 bxae

kp

(5)

ただし、 xは一人あたり所得、 kは普及率の上限値、aは所得間の自動車普及率の最大段

差率、bは普及率が上限値 k の半分における所得水準である。この曲線は次のように線形変

換を行い、回帰分析からパラメータを求めることができる。

abaxr (6)

2005 2008 2012 2013Japan 6.7 6.7 5.2 4.9France 6.6 6.6 5.2 5.0Italy 6.4 6.4 5.5 5.3Turkey 7.2 7.2 5.5 5.3

UK 7.3 7.3 5.6 5.4

Germany 7.5 7.5 5.9 5.7Mexico 7.5 7.5 7.3 7.4

Chile 7.5 7.5 7.1 7.1

Australia 9.8 9.8 8.3 8.0USA 9.7 9.7 9.2 9.0India 5.6 5.6 5.7 5.7Thailand 8.3 8.3 6.2 6.3

South Africa 7.7 7.7 6.6 6.4

Egypt 7.3 7.3 6.7 6.8

Argentina 7.6 7.6 6.7 6.7Malaysia 7.6 7.6 6.8 6.8Brazil 7.3 7.3 7.0 6.9

Indonesia 7 .2 7 .2 7 .0 6 .9

Ukraine 7.8 7.8 7.0 7.0China 7.8 7.8 7.6 7.5Russia 8.3 8.3 7.7 7.7World Average 7.5 7 .5 6 .7 6 .6

74

ただし、

)log(pk

pr

(7)

回帰に用いたデータ xは国連が公表した人口統計、弊所・日本エネルギー経済研究所が発

行したエネルギー経済統計要覧の GDP 統計による算出、実績自動車普及率は世界自動車統

計年報等による算出した。

表 3-3 所得水準と普及台数の関係

出典:各種資料より作成

推計結果として、 kを 50%とした場合に、aは 0.000284、bは 16057.88 として推計結果が

得られる。一方、将来の人口は国連の中位人口見通しを使用した。その結果として、2030

年の普及台数が 3,533 万台に増加し、2000 年比 4.0 倍、2014 年比 2.8 倍となる。

表 3-4 乗用車の普及台数の普及予測

出典:日本エネルギー経済研究所試算

トラック台数の推計

トラック台数(バスを含む)の推定は GDP の弾性値 0.85(2000 年~2014 年の実績値)を

利用して行った。その結果、2030 年に 1,421 万台に増加し、2000 年比 2.0 倍、2014 年の 1.6

人口 GDP一人あたり

GDP乗用車保有

台数

百万(2000年pB.USD)

ドル/人 千台

UN 統計要覧 計算値世界自動車統計年報等

Japan 127 5,094 40,002 58,366EU27 501 9,713 19,370 245,601US 312 11,548 36,983 130,892China 1,360 3,246 2,387 58,616India 1,206 989 821 13,300Indonesia 241 275 1,142 5,625S. Africa 51 188 3,647 5,100Brazil 195 920 4,710 31,258Russia 144 415 2,892 34,350

指標 人口 GDP GDP成長率人当たりGDP(2010年価格)

人当たりGDP(2000年価格)

乗用車普及率 自動車保有台数

単位 百万 (2010年価格十億米ドル)

% ドル/人 ドル/人 台/100人 千台

出所 UN 統計要覧 IEA等 計算値 計算値 計算値 実績は中央統計庁

2010 241 755 4.9% 3,137 1,126 3.7 8,891

2020 269 1,352 6.0% 5,019 1,802 6.9 18,713

2030 293 2,141 4.7% 7,294 2,618 12.0 35,331

75

倍となる。

表 3-5 トラック普及台数の普及予測

出典:日本エネルギー経済研究所試算

バイクの普及台数の推定

バイク普及率の推定は下記ロジスティクス曲線を利用して推計した。その結果、バイク

の普及台数は 2030 年に 1 億 8,412 万台で、2000 年比 3.0 倍、2014 年の 2 倍となると試算さ

れる。

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-19 バイク普及率の推定

指標 GDP成長率 GDP 普及台数対GDP弾性値 トラック保有台数

単位 % 2010年価格十億米ドル 千台

出所 IEA等 実績はWB 2000~2014年実績 計算値

2010 4.9% 755 0.85 6,938

2020 6.0% 1,352 0.85 10,561

2030 4.7% 2,141 0.85 14,210

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

19

80

19

83

19

86

19

89

19

92

19

95

19

98

20

01

20

04

20

07

20

10

20

13

20

16

20

19

20

22

20

25

20

28

20

31

20

34

バイ

ク普

及率

(台/

千人

)

推定値

実績(1980~2014)

76

表 3-6 バイク普及台数の普及予測

出典:日本エネルギー経済研究所試算

自動車の普及台数の合計

動車の普及台数の合計は 2030 年に 2.3 億台と予測される。

表 3-7 自動車普及台数の普及予測(合計)

出典:日本エネルギー経済研究所試算

5. 自動車省エネルギーポテンシャルの試算

台あたりのエネルギー需要及び 2030 年の運輸部門のエネルギー需要見通し

途上国でも先進国でも見られるように、自動車の年間台たりのエネルギー消費量(乗用

車換算、詳細は下表を参照)は自動車普及率の増加に伴い減少する。インドネシアの場合、

2014 年では 1.3toe であったが、2030 年に 1.0toe になると予測される。

指標 人口 普及率 バイク保有台数

単位 百万 台/千人 千台

出所 UN 実績と計算値 実績と計算値

2010 241 254 61,078

2020 269 509 137,192

2030 293 627 184,117

指標 乗用車 トラック バイク 合計

単位 千台 千台 千台 千台

2010 8,891 6,938 61,078 76,907

2020 18,713 10,561 137,192 166,466

2030 35,331 14,210 184,117 233,659

77

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-20 台あたりのエネルギー消費

省エネルギーポテンシャルの推計

燃費水準が現状のままと仮定した場合、台あたりのエネルギー消費量が普及率の増加に

従って減少するが、エネルギー消費量は 2030 年に 61.7Mtoe に増加するとされる。

資料25によればインドネシアでは販売台数上位 10 位の自動車の平均燃費(CO2換算)が

180gCO2/l であり、ガソリンの品質を改善(現状の EURO2 基準から EURO4 基準に改善)

した上で燃費基準を導入と強化すれば、120gCO/l に改善できると予想される。本試算では

2017 年から新車販売にこうした燃費基準が導入されることを仮定する。そうした場合、2030

年までに自動車のエネルギー消費量が 42.7Mtoe に減少すると試算される。省エネルギーポ

テンシャルは 19.0Mtoe(31%)となる。これは自動車単体対策による自動車の省エネルギー

量となる。

一方、ジャカルタを中心とした首都圏においては交通渋滞が蔓延している。JICA 専門家

の調査26ではジャカルタの平均時速が 30 キロ未満と報告されている。ジャカルタでは全国

60%の自動車が集中しているため、ジャカルタだけでも道路状況の改善や公共交通機関の促

進等の対策で交通渋滞を解消しエネルギー消費量を減少させるポテンシャルが多いと考え

られる。仮に首都圏道路交通環境が改善され、自動車の平均時速は 30 キロから 60 キロに

向上した場合、これが燃費改善率に換算すると 26%27に相当する。本試算では煩雑の試算を

避けて単純に上記の改善率を仮定する。この場合、道路交通状況の改善によるインドネシ

ア全国のエネルギー消費量はさらに 36.1Mtoe(11.0%)に減少すると試算される。

25第 1 章 TCC Expert Presenting at the 11th Indonesia International Automotive Conference (IIAC) http://transportandclimatechange.org/news-events/iiac-2016/ 26ジャカルタ新聞 http://www.jakartashimbun.com/free/detail/21150.html 27 内閣府資料:http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/max-speed/k_3/pdf/s9-1.pdf

y = 2.5229x-0.297

R² = 0.6962

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

20

00

20

02

20

04

20

06

20

08

20

10

20

12

20

14

20

16

20

18

20

20

20

22

20

24

20

26

20

28

20

30

台当

たり

エネ

ルギ

ー消

費(t

oe/台

・年) 台あたり実績値

台あたり

エネルギー消費

78

表 3-8 自動車のエネルギー消費量の推計と結果

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-21 エネルギー需要の予測

インドネシアの運輸部門(本試算では道路部門)における省エネルギーポテンシャルは

上図に示したとおりである。

指標乗用車

保有台数トラック

保有台数バイク

保有台数乗用車換算保有台数計

エネルギー需要

(Bau)

台あたりエネルギー

消費

推計新車販売

2017年以降累計新車販売

2017以前保有台数

燃費改善後のエネルギー需要

道路対策で燃費改善率

道路対策後のエネルギー需要

単位 千台千台

(1.5台換算)

千台(0.05台換

算)千台 Mtoe toe/台 千台

千台(廃車率1/25)

千台180gco2/l→120gco2/l

燃費指数85→115(首都30km→60km)

Mtoe(首都エネ60%)

2000 3,039 3,560 678 8,413 18.6 2.2 681 0 0 18.6 0.0 18.6

2010 8,891 10,407 3,054 24,654 29.8 1.2 2,283 0 0 29.8 0.0 29.8

2014 12,599 12,951 4,649 32,258 40.7 1.3 2,828 0 0 40.7 0.0 40.7

2020 18,713 15,842 6,860 42,819 43.7 1.0 3,667 14,037 28,781 39.0 0.06 37.5

2030 35,331 21,315 9,206 67,765 61.7 0.9 5,834 62,341 5,424 42.7 0.26 36.1

61.7

42.7

40.736.1

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

20

00

20

03

20

06

20

09

20

12

20

15

20

18

20

21

20

24

20

27

20

30

エネ

ルギ

ー消

費量

(Mto

e)

BAU 燃費改善 交通流対策

燃費

改善

31%

交通

流策11%

79

3.2. 費用対効果分析

本節では、政策の優先順位や日本企業の事業機会を明らかにするために、各部門にお

ける高効率技術・機器導入時の費用対効果分析を実施する。

3.2.1. 費用対効果分析の概要(全部門共通)

費用対効果分析はある事業を実施する際に生じる費用と便益を比較することによって、

その事業の経済性を評価する手法である。費用対効果分析を各部門における高効率技術の

導入に対して行い、技術毎の経済性を比較・評価を行う。

出典:日本エネルギー経済研究所作成

図 3-22 費用対効果分析のフロー

費用対効果分析は図 3-22 にあるように、まず、予測期間(2017 年~2030 年)の省エネル

ギー量と費用、便益の合計を計算する。次に推計した省エネルギー量当たりの費用と便益

を求め、その差分である省エネ量当たりのネットコストを計算する。省エネルギー量当た

便益費用

総便益÷

省エネルギー量

省エネルギー量あたりのネットコスト

省エネルギー量

エネルギー価格

電力は以下の変数を用いて、一次エネルギーに換算。

・電源構成・発電効率・送電ロス

エネルギー価格はIEEJモデルで用いられている将来見通し価格を使用。

総便益

導入台数

IEEJモデル等から導入台数を推計する。機器・技術・部門ごとの特性を考慮した上で、導入数を試算。

費用

機器・技術の導入および運転に係る費用を考慮。・導入費用・維持補修費等

総費用÷

省エネルギー量

総費用

80

りのネットコストを評価指標として用いることによって、導入費用や省エネルギー効果、

耐用年数が異なる機器を比較することが可能になる。なお、省エネルギー量当たりのネッ

トコストは以下の様に定式化することができる。

(式 1)

MC =省エネルギー当たりのネットコスト, n = 評価期間, Ct = t年次の費用, Bt = t年次の便益, Energy Savingst = t年次

の省エネルギー量

式 1 から読み取れるように、費用を便益が上回る場合は負のコストとして表される。な

お、費用および便益の想定はそれぞれ以下の通りである。

3.2.2. 費用

総費用は高効率技術の導入数に対して技術当たりの導入費用を乗じることにより求める。

なお、各部門の想定については、以下を参照されたい。

3.2.3. 便益

総便益は省エネルギーポテンシャルにエネルギー価格を乗じることによって求める。た

だし、本節で求める便益は政策形成の検討材料としてより適した結果を得るために、事業

者がプロジェクト分析に用いる最終エネルギーベースの便益ではなく、分析して得られた

省エネルギー量を一次エネルギーに換算した石油、石炭、天然ガスを輸出した場合に得ら

れる社会的便益として分析している。すなわち、節減されるエネルギー源が電力の場合は、

電源構成・発電効率・送電ロスを考慮し28、一次エネルギーに換算した省エネルギー量を求

める。その上で日本エネルギー経済研究所が『世界・アジアエネルギーアウトルック 2016』

で想定する国際エネルギー価格(石油、石炭、天然ガス)を乗じ、2030 年までの社会的便

益として計算している。

3.2.4. 産業部門

本項では、第 3 章では部門レベルの試算であったため、新たに分析対象技術を特定した

上で費用対効果分析を行う。

産業部門における費用対効果の分析手法

産業部門では費用対効果分析を以下の様な前提に基づき試算する。

28 なお、省エネルギーポテンシャルを一次エネルギーに換算する際に用いる電源構成・発電効率・送電ロ

スはいずれも IEEJ モデルによって得られた結果を採用している。ただし、電源構成については、インドネ

シアにおける発電電力量の大部分が化石燃料由来の電源であるため、1 次エネルギーに換算する際は全て

化石燃料が節減されると仮定している。

81

(1) 導入台数

分析対象技術の導入台数は生産規模に比例して導入されると想定する。すなわち、高効

率技術の導入台数は工場数や生産能力といった規模によって制約が存在するため、以下の

手順で導入台数を導出する。

① 参考文献に基づき生産能力ならびに稼働率の実績値を推定する。

② ①を用いて、生産活動量(例:粗鋼生産量)あたりに必要な生産能力の比を算出

する。

③ 2030 年までの生産活動量を推計する。

④ ②と③を乗じて、年次毎に必要生産能力を求める。

⑤ 該当年の必要生産能力が前年の生産能力を上回った場合に、一定規模の新たな工

場が新設されると想定し、その際に対象機器が導入される。

⑥ ①~⑤までの手順により、毎年の導入台数が試算されるため、2030 年まで積み上

げる。導入台数に関してはワイブル分布に基づく残存率を用いる。

(2) 省エネルギーポテンシャルおよび費用・便益等

省エネポテンシャルや費用・便益は導入台数にそれぞれの値を乗じることによって求め

た。なお、費用のうち、維持補修費については毎年計上している。その他の想定について

は、3.2.1 と同様である29。

分析対象技術

分析対象技術はリジェネバーナー(鉄鋼)、発電型排熱回収設備(セメント)、回収ボイ

ラー(紙パルプ)、貫流ボイラー(繊維)とする。これらの技術の特定にあたっては、次の

条件を満たす技術を選出した。すなわち、①インドネシアで将来的に需要拡大が見込まれ

るエネルギー多消費産業での導入を対象、②インドネシア側の技術ニーズ、③途上国への

導入実績がある日本が優位性を有する技術を考慮して選定した。具体的には第 2 章と同様

にインドネシアにおいてエネルギー需要が大きい鉄鋼・セメント・紙パルプ・繊維を対象

業種とした。これらの業種のインドネシアにおける省エネルギー技術ニーズ(Republic of

Indonesia 2010)や、途上国への日本の省エネルギー技術の導入実績(JCMFS調査およびNEDO

実証事業)を踏まえて、分析対象技術を特定した。各技術の概要については図 3-23 に、試算

に用いた生産活動量の詳細や生産容量、技術の関連データ等の出所については表 3-9 に示す。

29 なお、セメントセクターの発電型排熱回収設備は電力需要を節減する機器であるため、省エネルギーポ

テンシャルを一次エネルギーに換算している。

82

注:効率改善率は既存技術と比較した場合の値である。

出典:各社 HP(画像)および各種参考文献・ヒアリング結果(値)より日本エネルギー経済研究所作成

図 3-23 産業部門の費用対効果分析における対象技術および概要

リジェネバーナー (鉄鋼) 発電型排熱回収設備 (セメント)

回収ボイラー (紙パルプ) 貫流ボイラー (繊維)

初期投資(億円)

2.7

効率改善(%)

30

省エネ量(ktoe/y)

4.5

耐用年数(年)

10

初期投資(億円)

54.0

効率改善(%)

20

省エネ量(ktoe/y)

14.2

耐用年数(年)

15

初期投資(億円)

0.6

効率改善(%)

10

省エネ量(ktoe/y)

0.3

耐用年数(年)

15

初期投資(億円)

13

効率改善(%)

20

省エネ量(ktoe/y)

21

耐用年数(年)

20出典:Kawasaki Heavy Industries HP

出典:NEDO HP 出典:JFE Engineering Corporation HP

出典:MIURA CO.,LTD HP

83

表 3-9 各技術の試算に用いたデータおよび出所

セクター 技術 生産活動量 出所

鉄鋼 リジェネバーナー 粗鋼生産量

国際協力機構 (2009),

日本エネルギー経済研究所 (2010),

Indonesia Investment (2016),

World Steel Association

セメント 発電型排熱回収

設備 セメント生産量 地球環境センター (2013)

紙パルプ 回収ボイラー

製紙

および

パルプ生産量

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2008),

Center for International Forestry Research (2012),

宇部興産株式会社(2013),

Food and Agriculture Organization of the United Nations

繊維 貫流ボイラー 付加価値額

(GDP)

三浦工業株式会社(2014) およびヒアリング結果,

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2015),

Statistics Indonesia (BPS)

分析結果

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-24 産業部門における技術別の累積費用および累積便益

10億ドル

0

1

2

3

Cumulative Additional Costs(USD, Billion)

Cumulative Benefits(USD, Billion)

Once‐Through Boiler

Recovery Boiler

Waste Heat Recovery

Regenerative Burner

累積費用(10億ドル)

累積便益(10億ドル)

貫流ボイラー

回収ボイラー

発電型排熱回収

リジェネバーナー

84

産業部門における技術別の累積費用および累積便益を図 3-24 に示す。高効率技術導入時

の2017年から2030年までの累積費用11億ドルに対し、累積便益は28億ドルと見込まれる。

費用から便益を差し引いたネットコストは負の値となる。すなわち、予測期間における対

象技術の省エネルギー量に基づく社会的な便益が費用を上回ることを示す。なお、対象技

術の合計では投資した費用の約 2.6 倍の便益が得られることになる。技術別のネットコスト

では、リジェネバーナー(鉄鋼)の▲9.4 億ドルが最大であり、回収ボイラー(紙パルプ、

▲3.8 億ドル)、発電型排熱回収設備(セメント、▲3.2 億ドル)、貫流ボイラー(繊維、▲

0.6 億ドル)と続いており、全ての技術で費用よりも便益が上回る結果となった。

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-25 産業部門における技術別の投資回収年数

各技術の投資回収年数を図 3-25 に示す。投資回収年数が最短の技術は、リジェネバーナ

ーの 2.3 年である。続いて回収ボイラー(紙パルプ、3.2 年)、貫流ボイラー(繊維、3.6 年)、

発電型排熱回収(セメント、5.9 年)との結果を得られた。なお、この投資回収年数は、2017

年から 2030 年までの累積費用を 2030 年時点の便益で除した簡易的な手法を用いたため、

必ずしも一般的な投資回収年数の結果と一致しない点について留意が必要である。

2.3

5.9

3.2

3.6

0

1

2

3

4

5

6

7

Regenerative Burner

Waste Heat Recovery

Recovery Boiler Once‐Through Boiler

リジェネバーナー(鉄鋼)

発電型排熱回収(セメント)

回収ボイラー(紙パルプ)

貫流ボイラー(繊維)

85

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-26 産業部門における技術別の省エネルギーポテンシャル(ktoe)

技術別の省エネルギーポテンシャルはリジェネバーナー(鉄鋼)の 222 ktoe が最大であり、

続いて、発電型排熱回収設備(セメント、119 ktoe)、回収ボイラー(紙パルプ、95 ktoe)、

貫流ボイラー(繊維、25 ktoe)である。この分析結果から産業部門全体の省エネルギーポテ

ンシャルの内、リジェネバーナー(鉄鋼)による節減量が約 50%を占めていることがわか

る。高い経済成長を背景に粗鋼需要が増加する見通しを背景とし、経済性の高いリジェネ

バーナーの導入が進む事を背景としている。

3.2.5. 家庭部門

他国と同様、インドネシアにおける高効率機器導入に関してはその初期コストの高さが

ハードルとなっている。他方、高効率機器の導入は、インドネシアの外貨獲得手段として

貴重なエネルギー資源の節減に資するため、ここでは高効率機器の導入による省エネルギ

ー効果に対して国際エネルギー価格を乗じて、省エネルギーがもたらす社会的便益を検討

する。

高効率機器の導入にかかわる追加費用は、2030 年までの累積で 144 億ドルに及ぶ。これ

とは対照的に、省エネルギーによる社会的便益は、171 億ドルであり、追加的費用に対する

便益は、1.2 倍に上る。特に、将来的な世帯あたり普及率が現状の 0.20 台から 2030 年には

0.38 台へと拡大が見込まれるエアコンの省エネルギーによる社会的便益は、93 億ドルと最

大で、MEPS 基準の徹底遵守ならびに基準自体の向上が必要である。

460

222

25

95

119

0 100 200 300 400 500

Energy Savings

Once‐Through Boiler

(Textile)

Recovery Boiler(Paper & Pulp)

Waste Heat Recovery

(Cement)

Regenerative Burner

(Iron & Steel)

Ktoe

リジェネバーナー(鉄鋼)

発電型排熱回収(セメント)

回収ボイラー(紙パルプ)

貫流ボイラー(繊維)

省エネ量

86

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-27 家庭部門の高効率機器導入の追加投資額と便益の比較(2030 年までの累積)

3.2.6. 業務部門

家庭部門と同様に、ここでは業務部門の高効率技術導入に係る費用と便益を試算する。

具体的には、BaU 技術から追加的に必要な高効率技術導入にかかわる費用を追加費用とし

て、2030 年までの累積を試算、これを省エネルギー効果に国際エネルギー価格を乗じて省

エネルギーがもたらす社会的便益を検討する。

図が示す通り、業務部門の高効率照明、冷房、冷蔵、換気に係る 2030 年までの追加費用

は 38 億ドルに及ぶ。これとは対照的に省エネルギーによって得られるインドネシアの社会

的便益は 106 億ドルに上り、追加費用の 2.8 倍程度の便益が得られることになる。家庭部門

での費用便益分析と比較して、業務部門では追加費用に対する便益の大きさが顕著である。

これは、業務部門では技術の稼働時間が長いため、省エネルギー効果が相対的に大きいこ

とを要因としている。

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

累積追加投資 (10億ドル) 累積便益 (10億ドル)

給湯器

洗濯機

テレビ

冷蔵庫

照明

エアコン

10億ドル

87

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-28 業務部門の高効率機器導入の追加投資額と便益の比較(2030 年までの累積)

3.2.7. 費用対効果分析のまとめ

図 3-29 は上記分析を省エネ量あたりのネットコストとして技術別にまとめたものである。

ネットコストとは、予測期間の高効率技術導入に関する費用から便益を控除し、省エネ量

で除したものである。ネットコストがマイナスの値として推計される技術は、予測期間に

おける同技術の導入による便益が費用を上回ることを示す。また、エネルギー単位当たり

(石油換算トン)のネットコストとして分析した技術を比較することにより、技術別の導

入にかかわる優先順位といった政策的な示唆を得ることができる。

同図では、Y 軸に石油換算トンあたりの技術別の省エネルギーにかかわるネットコストを

表示し、X 軸に技術別の省エネルギー量を提示している。

分析から明らかな通り、もっとも単位当たりのネットコストが大きい(便益が費用を上

回る)技術は業務用の照明であり、これに業務用の冷蔵、鉄鋼のリジェネバーナー、紙パ

ルプの回収ボイラが続く。省エネ量では、家庭用の空調が最大のポテンシャルを有する。

インドネシアでは、家電製品を対象とし MEPS 対象範囲を拡大する予定であるが、ネッ

トコストの技術別比較をみると、業務部門または産業部門では、稼働時間の長さを踏まえ

高効率技術導入にかかわる便益の相対的大きさが明らかである。こうした点を踏まえ、業

務部門や産業部門における高効率技術の導入に向けた義務化や技術別の MEPS 導入の検討

に向けた作業が必要であると指摘できる。

0

2

4

6

8

10

12

14

16

累積追加投資 (10億ドル) 累積便益 (10億ドル)

換気

冷蔵

照明

機器

冷房

10億ドル

88

出典:日本エネルギー経済研究所試算

図 3-29 機器別のネットコストと省エネポテンシャル

Net cost (unit: thousand, US$ / toe)

Energy Savings (unit: ktoe)

①②

⑧ ⑨

⑪ ⑫ ⑬⑭⑥

89

[参考文献]

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(2010-2014)”

http://www.gaikindo.or.id/en/domestic-auto-market-by-brand-2013-2014/

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• Food and Agriculture Organization of the United Nations “FAOSTAT”

http://www.fao.org/faostat/en/#data

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https://www.globalfueleconomy.org/media/44069/wp5-iea-fuel-economy-report.pdf

• Global Fuel Economy Initiative (2015) “GFEI Working Paper 11, International comparison of

light-duty vehicle fuel economy: Evolution over 8 years from 2005 to 2013”

http://www.theicct.org/sites/default/files/ICCT_PVStd_Aug2011_web.pdf

• Indonesia Investment (2016) “Steel Industry Indonesia: Infrastructure Projects & China

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ucture-projects-china-production-cuts/item6867?

• International Energy Agency (2012) “Energy Technology Perspectives 2012”

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• International Organization of Motor Vehicle Manufacturers (2016) “2012-2016 HALF-YEAR

SALES STATISTICS”

http://www.oica.net/category/sales-statistics/

• Ministry of Industry (2012) “Needs for Energy Planning for the Industry Sector towards the

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• Statistics Indonesia (BPS)

https://www.bps.go.id/

• World Steel Association

https://www.worldsteel.org/

• JFE エンジニアリング株式会社 ホームページ (画像引用:発電型排熱回収設備)

http://www.jfe-eng.co.jp/news/2013/20131111112327.html

• 宇部興産株式会社 (2013) 「インドネシアの製紙業者に関する調査 最終報告書」

• 川崎重工業株式会社 ホームページ (画像引用:回収ボイラー)

https://www.khi.co.jp/kplant/business/energy/boiler/soda.html

90

• 経済産業省 産業構造審議会 産業技術環境分科会 地球環境小委員会 各種WG資料

http://www.meti.go.jp/committee/gizi_1/30.html

• 国際協力機構 (2009) 「インドネシア国省エネルギー普及促進調査」(委託先:電源開

発株式会社)

• 国際協力機構 (2015) 「省エネ施策の新手法開発(マージナル・アベイトメント・コス

ト・カーブ)」 (委託先:三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社)

• 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ホームページ (画像引用:

リジェネバーナー)

http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201203jifma/

• 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2008) 「地球温暖化対策技術

移転ハンドブック 2008 年改訂版 温暖化対策技術」

• 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2015) 「地球温暖化対策技術

普及等推進事業 JCM プロジェクト実現可能性調査/ タイ国における超高効率技術小

型貫流ボイラーおよび関連技術普及プロジェクト案件調査」(委託先:三浦工業株式会

社、日本手ピア株式会社)

• 地球環境センター (2013) 「セメント工場における排熱利用発電」(委託先:JFE エンジ

ニアリング株式会社)

• 日本エネルギー経済研究所 (2010) 「インドネシアにおける省エネルギーの現状と今後

の課題」

• 日本エネルギー経済研究所 (2016) 「世界・アジアエネルギーアウトルック 2016」

• 三浦工業株式会社 ホームページ (画像引用:貫流ボイラー)

https://www.miuraz.co.jp/product/boiler/gas_sq01.html

• 三浦工業株式会社 (2014) 「決算説明会資料 三浦工業株式会社 会社説明会 ミウラ

の成長戦略」

http://www.miuraz.co.jp/ir/pdf/setsumeikai/201405_re.pdf

91

第4章 再生可能エネルギーの導入目標達成に向けた現状と課題

4.1. 再生可能エネルギー導入量の現状

2014 年にインドネシアの一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合は 34%

に達している。しかし、地熱(7.65%)、水力(0.58%)とバイオディーゼル(0.56%)を除

けば、その殆どが固体バイオマス(25.75%)である。なお、固体バイオマスの大半は、農

業廃棄物、薪、木材などの直接燃焼であり、いわゆる非商業用エネルギーとして利用され

ている。

発電部門においては、全発電量に占める再生可能エネルギーの割合が 11.44%に達してい

る。水力発電は 6.63%と最も大きなシェアを占め、地熱発電(4.39%)が続く。近年では、

バイオマス発電が徐々に増えてきており、再生可能エネルギーの利用が多様化し始めてい

る。水力発電と地熱発電の設備容量および発電量の推移を図 4-2 と図 4-3 に示す。

出典:International Energy Agency (2016) “ World Energy Statistics and Balances 2016”より作成

図 4-1 再生可能エネルギー電源構成および発電量に占める割合の推移

16.0%17.5%

15.0%13.6%13.6%13.6%

12.3%12.9%13.3%13.2%

15.9%

12.0%11.2%

12.3%11.4%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

20%

0

5

10

15

20

25

30

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(TWh)

水力 バイオマス 風力 太陽 地熱 海洋 再エネシェア

92

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”より作成

図 4-2 水力発電設備容量と発電量の推移

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”より作成

図 4-3 地熱発電設備容量と発電量の推移

4.2. 再生可能エネルギー導入目標

第 1 章でも述べられたように、2014 年に成立した「国家エネルギー計画(KEN: Kebijakan

Energi Nasional)」では、一次エネルギーに占める新・再生可能エネルギー30の割合を 2025

30 新・再生可能エネルギーの対象は再生可能エネルギーのみならず、Coal Bed Methane や石炭スラリー(coal

13741

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

18000

20000

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

GW

h

MW

中小水力

一般水力

発電量

5079

183

525 785 785 805 820 850 850 980 1052 1189

118912261336

1344 1404

1439

26492982 3187 2959 3147

6604 66587021

8309

9295

9357

9371

9417

9414

10038

10048

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

GW

hMW

容量

発電量

93

年までに 23%、2050 年までに 31%に引き上げる目標が掲げられている31。国家エネルギー

委員会

国家エネルギー計画で設定された目標を受けて、エネルギー鉱物資源省は 2025 年までの

新・再生可能エネルギーロードマップを作成した(表 4-1)。2025 年目標達成に向けて、バ

イオ燃料、廃棄物、地熱、水力の利用拡大が期待されている。

表 4-1 新・再生可能エネルギー導入目標の詳細(2025 年)

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2015) “Roadmap for Accelerated Development of New and

Renewable Energy 2015-2025”より作成

出典:各種資料により作成

図 4-4 インドネシアにおけるエネルギー政策・目標の関係図

4.2.1. 電力分野

電力分野では、エネルギー鉱物資源省(MEMR: Ministry of Energy and Mineral Resources)

傘下の電力総局(DJK: Direktorat Jenderal Ketenagalistrikan)が国家電力総合計画(RUKN:

slurry)、原子力発電等も含まれている 31 2014 年同割合は 6%である

新・再エネ技術 割合一次エネルギー

(MTOE)

地熱 7% 28

バイオ燃料 5% 20

都市ゴミ 5% 20

水力 3% 12

その他 3% 12

合計 23% 92

エネルギー法

(No.30/2007)

各界の有識者

が RUEN と

RUED の作成

に参加

電力法

(No.30/2009)

国家エネルギー政策

(NEP)

国家エネルギー総合計画

(RUEN)

国家電力総合計画

(RUKN)

地方

エネルギー総合

計画(RUED)

市・県

エネルギー総合

計画(RUED)

電力供給事業計画

(RUPTL)

DEN 作成

バイオ燃料混入率目標

再エネロードマップ

エネルギー鉱物資源省(MEMR)作成

国営電力会社(PLN)作成

国家エネルギー審議会(DEN)作成

94

Rencana Umum Ketenagalistrikan Nasional)を策定し、国営電力会社(PT. PLN (Persero):

Perusahaan Listrik Negara)はそれに基づき、電力供給事業計画(RUPTL: Rencana Usaha

Penyediaan Tenaga Listrik)を作成、実施する。RUKN は 20 年間の計画であり、国会での承

認が必要である。他方、RUPTL は国営電力会社 PLN 社の 10 年間事業計画であり、毎年更

新され、国会での承認は不要である。

2015 年に公表された RUKN のドラフト版(RUKN2015-2034 Draft)は、2025 年までに総

発電量に占める新・再生可能エネルギーのシェアを 25%に引き上げる計画を立てている。

国営電力会社 PLN 社の最新の電力供給事業計画「RUPTL2016-2025」では表 4-2 に示すよう

に、再生可能エネルギーの導入計画が策定された。

表 4-2 PLN の再生可能エネルギー導入計画(年間新規導入量)

出典: PLN (2016) “RUPTL2016-2025”より作成

国家エネルギー委員会が発表した 2050 年までのインドネシアエネルギー需給見通し32で

は、上記の KEN で定められた新・再生可能エネルギー目標を実現した場合、新・再生可能

エネルギーによる発電量は2025年に128TWh、2050年に466TWhに達すると見込んでいる。

4.2.2. バイオ燃料

バイオ燃料については、2008 年のエネルギー・鉱物資源省の大臣令による導入義務化の

行政令により主な政策の枠組が決められた。その後、バイオ燃料の混入義務化目標は複数

回にわたって見直しされ、最近では(MEMR Regulation 12/2015)によって目標が修正され

た。なお、インドネシアは野心的なバイオ燃料の混合率義務化に関する目標を設定してい

るものの、目標未達成の状況が続いている。

32 Dewan Energi Nasional 国家エネルギー委員会 (2016) “Outlook Energi Indonesia 2016”

単位 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 合計

地熱発電 MW 85 350 320 590 580 450 340 935 1,250 1,250 6,150

水力発電 MW 45 57 175 1,405 147 330 639 2,322 2,031 5,950 13,100

小水力発電 MW 32 78 115 292 81 86 196 26 257 201 1,365

太陽光発電 MWp 26 122 70 50 118 11 10 17 10 10 444

風力発電 MW - 70 190 165 195 10 - 5 - 5 640

バイオマス・廃棄物発電 MW 125 142 135 11 21 11 - 21 15 6 488

海洋エネルギー発電 MW - - - - - - - - - - -

発電用バイオ燃料利用量 1000kL 812 594 365 261 230 170 173 179 189 191 3165

合計 MW 312 819 1,005 2,513 1,142 898 1,185 3,326 3,563 7,422 22,186

95

表 4-3 バイオ燃料混入義務化の目標

出典:United States Department of AgricultureForeign Agricultural Service (2015) “Indonesia Biofuels Annual

Report 2015”33 より作成

4.3. 再生可能エネルギーに関連する政府機関

インドネシアでは、再生可能エネルギー促進政策に関してはエネルギー鉱物資源省傘下の

新・再生可能エネルギー及び省エネルギー総局(EBTKE: Direktorat Jenderal Energi Baru

Terbarukan dan Konservasi Energi)によって立案する。政策の実施主体も同局である。なお、

水力や地熱発電等再生可能エネルギー資源開発や、土地利用などに関しては環境森林省

(MOEF: Ministry of Environment and Forestry)や地方政府が関わっている。再生可能エネル

ギー発電の唯一の売電先は国営電力会社 PLN 社である。再生可能エネルギー発電プロジェ

クトの系統接続、関連する系統運用に関してはエネルギー鉱物資源省傘下の電力総局によ

って規制されている。しかしながら国営電力会社 PLN 社を含め電力供給事業における採算

のとれない部分のコスト負担、例えば固定価格買取制度(FIT: Feed-in Tariff)など再生可能

エネルギー政策の実施に必要な資金(補助金)については、貧困層への電力価格を低く据

え置くことによる電力供給事業者収入不足分への補助金と同様、エネルギー鉱物資源省で

はなく財務省(MOF: Ministry of Finance)により管理されている。

33 http://gain.fas.usda.gov/Recent%20GAIN%20Publications/Biofuels%20Annual_Jakarta_Indonesia_7-31-2015.pdf

2016年 2020年 2025年

輸送用(公共交通機関) 20% 30% 30%輸送用(一般) 20% 30% 30%産業用 20% 30% 30%発電用 30% 30% 30%

輸送用(公共交通機関) 2% 5% 20%輸送用(一般) 5% 10% 20%産業用 5% 10% 20%

バイオディーゼル

バイオエタノール

96

出典:各種資料により作成

図 4-5 インドネシアにおける再生可能エネルギーに関連する政府組織の関係図

4.4. 再生可能エネルギー政策とその課題

4.4.1. 再生可能エネルギー導入促進に関連する政策

1. 固定価格買取制度(FIT)(2009 年34から 2016 年まで適用)

2002 年の大臣令 No.1122 K/30/MEM/2002 によって、1MW 以下の小型の再生可能エネルギ

ー電源からの電力を系統に売電することが可能となった。2004 年にインドネシアは石油の

純輸入国に転じ、政府は本格的に再生可能エネルギーの導入拡大に取り組むようになった。

2006 年に発行されたエネルギー鉱物資源省令 Regulation No.2/2006 によって、10MW まで再

生可能エネルギー発電設備が買取義務化の対象となった。2009 年から、再生可能エネルギ

ー技術毎の買取価格が相次いで設定されるようになった。2016 年時点で、小水力発電、バ

イオマス(バイオガス)発電、都市ごみ発電、太陽光発電が固定価格買取制度の対象とな

っている。2014 年に、地熱発電に対する買取価格の決定方式は固定価格から入札制へ移行

した。海外投資家による投資を促進するために、小水力、都市ごみ発電、太陽光発電、地

34 2006 年から再生可能エネルギーの買取を義務化し、2009 年に買取価格を設定(その後買取価格が数回見

直し)

97

熱発電の買取価格(または買取上限価格)の設定はドル建てとなっている。2016 年時点の

買取価格(または買取上限価格)水準を表 4-4~表 4-8 に示す。

表 4-4 小水力買取価格(US¢/kWh)(2016 年)

注:基準価格かける係数“F”の価格は該当地域における小水力発電の買取価格である

出典:Nah’R Murdono Law Office ウェブサイト35より作成

表 4-5 バイオマス発電の買取価格(ルピア/kWh)(2016 年)

注:基準価格かける係数“F”の価格は該当地域におけるバイオマス発電の買取価格である

出典:International Energy Agency “Policies and Measures Database”及び インドネシア政府発表資料などより

作成

都市ごみ発電の最新の買取価格は 2015 年に設定されたものである(MEMR Regulation

No.44/2015)。都市ごみ発電の買取対象となるのは、都市ごみの埋立てガス(埋立地発生し

たメタンガス)発電とごみ焼却発電である。

表 4-6 都市ごみ発電の買取価格(US¢/kWh)(2016 年)

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2015) “MEMR Regulation No. 44/2015”より作成

35 http://murdonolaw.com/feed-in-tariff-for-mini-hydro-power-projects-has-been-denominated-in-us-dollar-per-kwh/

1~8年目 9~20年目 1~8年目 9~20年目 1~8年目 9~20年目 1~8年目 9~20年目

Java, Bali Region 1 12*F 7.5*F 10.8*F 6.75*F 14.4*F 9*F 13*F 8.1*F

Sumatra 1.1 12*F 7.5*F 10.8*F 6.75*F 14.4*F 9*F 13*F 8.1*F

Kalimantan, Sulawesi Region 1.2 12*F 7.5*F 10.8*F 6.75*F 14.4*F 9*F 13*F 8.1*F

West Nusa Tenggara, andEast Nusa Tenggara

1.25 12*F 7.5*F 10.8*F 6.75*F 14.4*F 9*F 13*F 8.1*F

Maluku, and North Maluku 1.3 12*F 7.5*F 10.8*F 6.75*F 14.4*F 9*F 13*F 8.1*F

Papua, and West Papua 1.5 12*F 7.5*F 10.8*F 6.75*F 14.4*F 9*F 13*F 8.1*F

係数F 流れ込み式 多目的ダム或いは灌漑用水 流れ込み式 多目的ダム或いは灌漑用水中圧 低圧

中圧 低圧 中圧 低圧

Java Island 1 1150*F 1500*F 1050*F 1400*F

Sumatra Island 1.15 1150*F 1500*F 1050*F 1400*F

Sulawesi Island 1.25 1150*F 1500*F 1050*F 1400*F

Kalimantan Island 1.3 1150*F 1500*F 1050*F 1400*F

Bali, Bangka Belitung,Lombok

1.5 1150*F 1500*F 1050*F 1400*F

Riau archipelago, Papua,rest of the islands

1.6 1150*F 1500*F 1050*F 1400*F

係数F地域バイオマス バイオガス

埋立てガス発電

20MW以下 20MW以下 20MW<設備容量≤50MW 50MW以上

高圧 (75/150/275/500 kV) 15.95 13.14中圧 (20kV) - -低圧 (380V) 20.16 22.43 - -

16.55 18.77

ごみ焼却発電

98

太陽光発電に対しては入札で買取価格を決める方針であった36が、2016 年 7 月インドネシ

ア政府は太陽光発電の買取価格を公表し、固定価格買取制度に移行することとなった。買

取する予定の総枠は 5,000MW であるが、第一段階の買取枠が 250MW と段階的な買取を実

施することになっている。なお、事業者は登録先着順で再生可能エネルギー・省エネルギ

ー総局の審査によって決定される。

表 4-7 太陽光発電の買取枠と買取価格(第一段階、US¢/kWh)

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “MEMR Regulation No. 19/2016”より作成

地熱発電の買取価格の設定方式と価格水準については数回の見直しが行われてきた。

2014 年37の改正によって、地熱発電の買取価格は固定価格から入札制度に移行した。投資を

促進するため、入札の上限価格は 2025 年まで設定している(上限価格の適用は商業運転開

始日に準ずる)。また、地域によって上限価格は異なる。買取価格は第一号機の商業運転か

ら 30 年間有効である。

36 Ministerial Regulation No. 17/2013 37 Ministerial Regulation No. 17/2014

地域買取枠(MW)

買取価格(¢/kWh)

DKI JakartaWest Java BantenCentral Java and YogyakartaEast JavaBali 5 16Lampung 5 15South Sumatra, Jambi, and Benkulu 10 15Aceh 5 17North Sumtatra 25 16West Sumatra 5 15.5Riau and Kep. Riau 4 17Bangka-Belitung 5 17West Kalimantan 5 17South Kalimantan and Central Kalimantan 4 16East Kalimantan and North Kalimantan 3 16.5North Sulawesi, Central Sulawesi, and Gorontalo 5 17South Sulawesi, Southeast Sulawesi, and West Sulawesi 5 16West Nusa Tenggara 5 18East Nusa Tenggara 3.5 23Maluku and North Maluku 3 23Papua and West Papua 2.5 25Total 250 -

150 14.5

99

表 4-8 地熱発電の入札上限価格(US¢/kWh)

出典:International Energy Agency “Policies and Measures Database”より作成

2. 新たな買取規制(MEMR Regulation No.12/2017)

インドネシアでは、固定価格買取制度が導入されているものの、実際にこの制度の実施

は難航している(その理由は後述)。太陽光発電等再生可能エネルギーの発電コストが急速

的に低下している世界的な潮流を鑑み、インドネシア政府は割高価格で再生可能エネルギ

ー発電を買取る制度を、より経済性重視の再生可能エネルギー調達制度に移行する方針と

なり、2017 年 1 月にインドネシア政府は新たな包括的な再生可能エネルギー買取規制

(MEMR Regulation No.12/2017)を発表した。新制度では、各再生可能エネルギー発電技術

に対し、国営電力会社 PLN 社の平均発電コストを上限価格とした買取価格を設定した。技

術別の調達価格決定方式の詳細と旧 FIT 制度との対照を表 4-9 に示す。

2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025

Sumatra, Java, Bali 11.8 12.2 12.6 13.0 13.4 13.8 14.2 14.6 15.0 15.5 15.9

Sulawesi, Nusa Tenggara Barat, NusaTenggara Timur, Halmahera, Maluku,Irian Jaya and Kalimantan

17.0 17.6 18.2 18.8 19.4 20.0 20.6 21.3 21.9 22.6 23.3

上記地域における石油火力による電力をしている遠隔地

25.4 25.8 26.2 26.6 27.0 27.4 27.8 28.3 28.7 29.2 29.6

100

表 4-9 再生可能エネルギー調達価格決定方式の詳細と旧 FIT 制度との対照

注: PLN は再生可能エネルギー発電入札の運営を第三者に委託することも可能

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources ( 2017) “MEMR Regulation No.12/2017”およびその他各種資料

をもとに作成

3. 地方電化政策

電力総局の統計によると、2015 年時点でインドネシアの電化率は約 88.3%(世帯数ベース)

に達しているが、電化率が最も低い地域は西パプア地域(45.9%)であり、未電化世帯数が

最も多い地域は東ジャワ州である。そのほか、スマトラ地域、西ジャワ州、中央ジャワ州

においても多くの未電化世帯が分布している。インドネシア政府の政策では、地方電化を

含めた貧困層への補助に対し高い優先順位が与えられている。前述の KEN では 2020 年ま

でにほぼ 100%の電化率を達成するために必要な地方電化の目標も盛り込まれている。

2009 年の新電力法によって、PLN 以外の事業者が地方電化事業へ参入する法的基盤が整

えられた。しかしながら、現状はインドネシアにおける地方電化を実施する主体は依然と

対象技術 対照項目 旧 新

調達価格決定方式 固定価格(MEMR設定) 入札

調達価格水準最大:25¢/kWh(パプア地域)最小:14.5¢/kWh(ジャカルタ等中央地域)

上限価格:・PLN総発電コスト*85%(総発電コスト>全国平均水準の地域)

・PLN総発電コスト*100%(総発電コスト≤全国平均水準の地域)*2015年PLNディーゼル発電コスト:17.4¢/kWh*全国平均発電コスト:8~9¢/kWh

風力発電 買取対象外買取対象太陽光と同様のスキーム

調達価格決定方式 固定価格(MEMR設定) PLNと価格交渉

調達価格水準遠隔地域(平均):12.56¢/kWh~16.74¢/kWh中央地域(平均):8.37¢/kWh~11.16¢/kWh

上限価格:・PLN総発電コスト*85%(総発電コスト>全国平均水準の地域)・PLN総発電コスト*100%(総発電コスト≤全国平均水準の地域)*2015年PLNディーゼル発電コスト:17.4¢/kWh*全国平均発電コスト:8~9¢/kWh

調達価格決定方式 固定価格(MEMR設定) PLNと価格交渉

調達価格水準遠隔地域:12.6¢/kWh~18¢/kWh中央地域:7.88¢/kWh~11.25¢/kWh

上限価格:・PLN総発電コスト*85%(総発電コスト>全国平均水準の地域)・PLN総発電コスト*100%(総発電コスト≤全国平均水準の地域)*2015年PLNディーゼル発電コスト:17.4¢/kWh*全国平均発電コスト:8~9¢/kWh

バイオマス・バイオガス発電(>10MW)

調達価格決定方式 PLNと価格交渉 数社見積

調達価格決定方式固定価格(MEMR設定)

・固定価格(PLN平均発電コスト)(総発電コスト>全国平均水準の地域)・PLNと価格交渉(総発電コスト≤全国平均水準の地域)

調達価格水準埋立てガス:16.55¢/kWh~20.16¢/kWh焼却処理:13.14¢/kWh~22.43¢/kWh

・2015年PLNディーゼル発電コスト:17.4¢/kWh・全国平均発電コスト:8~9¢/kWh

調達価格決定方式 入札/PLNと価格交渉

・固定価格(PLN平均発電コスト)(総発電コスト>全国平均水準の地域)・PLNと価格交渉(総発電コスト≤全国平均水準の地域)

調達価格水準2015年上限価格:25.4¢/kWh(ディーゼルによる電力供給地域)11.8¢/kWh(ジャカルタ等中央地域)

・2015年PLNディーゼル発電コスト:17.4¢/kWh・全国平均発電コスト:8~9¢/kWh

水力発電

太陽光発電

地熱発電

都市ゴミ発電

バイオマス・バイオガス発電(<=10MW)

101

して国営電力会社 PLN 社である。同社社は自社資金(電気料金による収入と政府から受け

取る電気料金に対する補助金(Public Service Obligation: PSO 補助金))を用いて、地方電化

を含めた設備投資を行う。この毎年の中央政府予算では PLN社に対する PSO補助金以外に、

地方電化設備投資用の資金が確保されており、同社を通じた地方電化が進められている。

国営電力会社 PLN 社の他に、エネルギー・鉱物資源省傘下の新・再生可能エネルギー及

び省エネルギー総局や、地方政府等がオフグリッドの電化プログラムを実施している。

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources and Asian Development Bank (2015) “Achieving Universal

Electricity Access in Indonesia”及びヒアリング調査により作成

図 4-6 インドネシアにおける地方電化に関連する資金の流れ

インドネシア政府は地方電化への民間投資を促進するために、2016 年 12 月に新たな規則

(MEMR Regulation 38/2016)を発表した。本規則は離島や遠隔地等、既存の送配電ネット

ワークが届かない村落に対し、国営電力会社 PLN 社以外の事業者でも電力供給(発電と送

配電)事業に参入させる仕組みを整備した。本規則に基づき、地方政府は一箇所 50MW 以

下の電力供給事業を国営電力会社 PLN 社以外の事業者に委託することが可能となる。なお、

国営電力会社 PLN 社が当該地域の電化を行う余裕がないと判断した場合を委託実施の条件

とする。本規則では再生可能エネルギーを活用した電力供給が推奨されている。また、地

方電化における電気料金は割安の規制料金であるため、電気料金と電力供給コストとの差

額は中央政府予算で補填される。

102

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “MEMR Regulation 38/2016”をもとに作成

図 4-7 地方電化に関する新規則の流れ

4. スンバ島プロジェクト(Sumba Iconic Island)

(1) プロジェクト概要

スンバ島はインドネシアの東ヌサ・トゥンガラ(East Nusa Tenggara (NTT))省の管轄であ

る。人口は約 650,000 人、一人当たり収入は約 2,213,104 ルピア(約 17,217 円)である。

2009 年オランダの NGO、Hivos がインドネシアの中央政府機関、地方政府機関、国際パ

ートナー、技術専門家等の協力を得ながら、スンバ島電化計画の調査を始めた。目標は 2025

年までに 100%の再生可能エネルギーによる 95%の電化率を実現することである。また、ス

ンバ島プロジェクトで得られた経験をインドネシア全土および世界中に活用することも期

待されている。この活動は現在インドネシア政府から SII プログラムとして再エネ促進の象

徴的プロジェクトとして認めこれをモデルとし、ここで得られた経験を他の島電化にも応

用することを期待している。すなわち、2015 年 6 月 1 日、インドネシア政府は SII プロジェ

クトを推進するための行政令(MEMR Decree No. 556 K/73/DJE/2015)を発表し、正式的に

SII プロジェクトの管轄機関をエネルギー鉱物資源省傘下の新・再生可能エネルギー及び総

局に指名した。ほかの主要パートナーは 国営電力会社 PLN 社、アジア開発銀行(ADB: Asian

Development Bank)、ノルウェー大使館、Hivos、と 5 つの地方政府である。

103

出典:http://en.スンバ iconicisland.org/program/ をもとに作成

図 4-8 スンバ島プロジェクトの概要

(2) 電力需給現状

現在スンバ島の電化率は約 30%で、電力需要のピークロードは約 10.8MW である。電力

供給システムは Waikabubak-Waitabula と Waingapu の二つの主要系統と数カ所の独立システ

ムで構成されている。

表 4-10 スンバ島における電力需給状況概要(2015 年)

出典:PLN (2016) “RUPTL2016-2025”をもとに作成

Hivos の調査によると、電力需要の 75%が家庭用、20%が業務用、5%がその他となってい

る。家庭電力消費の内、約 7 割は照明需要である。電力需要のピーク時間帯は夜の 18 時~

22 時である。

ピークロード(MW)

発電設備容量(MW)

発電設備タイプ

Waingapuシステム(東Sumba)

5.2 8.2 ディーゼル発電(PLN)

Waikabubak-Waitabulaシステム(西Sumba)

5.4 10.4ディーゼル発電/小水力発電/太陽光発電(PLN)

独立システム 0.2 0.8ディーゼル発電/小水力発電(PLN/IPP)

104

出典:Kema and Hivos Report (2011) “Grid Connected Electricity Generation”をもとに作成

図 4-9 スンバ島における電力需要の内訳

出典:Kema and Hivos Report (2011) “Grid Connected Electricity Generation”をもとに作成

図 4-10 スンバ島における電力負荷曲線(2010 年時点)

(3) 再生可能エネルギー資源量

スンバにおける年平均日射量は約 5.54kWh/m2/day である。日射量が最も多い時期の日射

量は 6.38~6.45kWh/m2/day、最も少ない時期の日射量は約 6.38~6.65kWh/m

2/day である38。

風力資源については最も風況が良い地域の年平均風速は 6.5m/s~8.2m/s である。経済性が

あると思われる風力資源サイトは Hambapraing/Tanjung Mondu、Palakahembi/Laepori、および

Lawola である。3 か所合計で 130MW~181MW の風力資源量があると推計されている(現

38 Asian Development Bank (prepared by Castlrock consulting) (2014) “Scaling Up Renewable Energy Access in

Eastern Indonesia – Delierable B: Energy Resources for Grid Supply & Electricity Demand Analysis for スンバ”ス

ンバ

105

在ディーゼル発電設備の容量は約 11MW)39。

スンバ島は豊富な水力発電資源を有しており、既に水力発電所が導入されている。PLN

社の RUPTL2016-2025 によると、同社は今後もスンバで合計 40MW の水力発電設備を導入

すると計画している。

また、スンバ島におけるバイオマス由来の発電に関してはバイオガス発電(農業廃棄物

を発酵させて発生したメタンガスを燃料にした発電)のポテンシャルが約 10MW であると

推計されている40。

(4) 今後の計画

PLN 社のスンバ島電力供給システムの整備計画を表 4-11 にまとめる。

表 4-11 PLN 社によるスンバ島の電力システム整備計画

出典:PLN (2016) “RUPTL2016-2025”をもとに作成

出典: PLN (2016) “RUPTL2016-2025”

図 4-11 スンバ島における高圧送電線の建設計画

39 National Renewable Energy Laboratory (NREL) (2015) “Sustainable Energy in Remote Indonesian Grids:

Accelerating Project Development” 40 Asian Development Bank (prepared by Castlrock consulting) (2014) “Scaling Up Renewable Energy Access in

Eastern Indonesia – Delierable B: Energy Resources for Grid Supply & Electricity Demand Analysis for Sumba”

予定現状

(2016年時点)

Waigapu小水力 (10MW) 2018年運転開始 調達段階

Waigapu2小水力 (30MW) 2019年運転開始 計画段階

バイオマス発電(1MWのパイロットプロジェクト)

- 計画段階

送電 150kV送電線 2019年導入予定

Waingapu:150/20kV 30MVA 2019年運転開始 計画段階

Waitabula:150/20kV 30MVA 2019年運転開始 計画段階

発電

変電所

プロジェクト

106

SIIプロジェクトの当初の目標は 2025年までに 95%の世帯に電力供給(現状は 37.4%程度)

と 100%の再エネ発電(現状は 15%程度)の実現に設定したが、2015 年エネルギー鉱物資源

省が打ち出した行政令(MEMR Decree No. 556 K/73/DJE/2015)ではこの目標を 2020 年に前

倒しにすることにした(再生可能エネルギーによるエネルギーアクセスの比率を 95%にす

る41)。

他方、アジア開発銀行の調査42では、2020 年までに 95%の電化率を達成した場合、2020

年の電力需要は国営電力会社 PLN 社想定の 2.5 倍に上り43、これを再生可能エネルギー発電

のみで賄うことは困難と判断された。このため 2020 年までに 95%の電化率を達成するため

にはディーゼル発電や場合よっては小規模 LNG 発電を利用せざるを得ない。しかしながら

2020 年までに最大 51%の電化率までであるならば 100%の再生可能エネルギー電力供給が

実現可能である。95%の電化率達成と 100%の再生可能エネルギーによる電力供給は両立で

きないとの調査結果を受けて、インドネシア政府は電化率の達成を優先することにした44。

4.4.2. 再生可能エネルギーの導入拡大に係る課題

インドネシアでは、地域によって発電コストは異なる。電力需要が最も大きいジャワ-

バリ地域では、電源構成の半分以上は安価な石炭火力発電である一方、東インドネシア等

離島・遠隔地域における電力供給の大半は高価なディーゼル発電である。国営電力会社 PLN

社によれば石炭火力の平均発電コストが約 4¢/kWh に対して、ディーゼル発電の発電コス

トがその 4 倍強(17.4¢/kWh)になっている45。全国平均水準では約 8~9¢/kWh であり、ジ

ャワ-バリ地域に限っては約 6¢/kWh である。

発電コストの低いジャワ-バリ地域では、平均発電コストよりも高い価格水準で再生可

能エネルギー発電を買取ることが必要となるため、平均の発電コストを太陽光発電等発電

コストの高い再生可能エネルギーの調達価格とすると、プロジェクトの事業性は成り立た

ない。従って、ジャワ―バリ地域に再生可能エネルギーを導入するには固定価格買取(FIT)

制度のような導入政策が必要である。FIT 制度では割高の FIT 買取価格と買取先の平均電力

調達コストの差額を電気料金に上乗し、この追加コストを消費者に転嫁して回収できるよ

うな仕組みが諸外国の経験から見ると一般的である。ところでインドネシアでは、再生可

能エネルギー電力の唯一な買取先(off taker)は国営電力会社 PLN 社である。同社はインド

ネシア全国で発電設備の約 75%、送配電設備の殆どを所有し運営している。しかしながら

インドネシア政府は電気料金の設定を規制しているため、再生可能エネルギー発電の買取

先である国営電力会社 PLN 社が FIT の追加コストを電気料金に転嫁し回収することが出来

ない上に、追加コストが政府補助金で補填されることも保証されていない。国営電力会社

41 MEMR Decree No. 556 K/73/DJE/2015 42 Castlerock consulting 社により実施 43 国営電力会社 PLN 社の電力事業開発計画 RUPTL2015-2024 における予測をベースケースとした試算 44 Hivos ヒアリング 45 PLN (2016) “PLN Statistics 2015”

107

PLN 社は FIT 制度で規定された同社の役割を果たすことが求められるものの、国営企業と

して経営の健全化と一定の収益を保証する義務もある。結果として、同社は FIT 価格での

再生可能エネルギー発電の買取を行われておらず、インドネシアでは FIT 制度が機能して

いない。

このような課題を受けて、インドネシア政府は 2017 年 1 月に新たな再生可能エネルギー

発電の買取規則(4.4.1 で詳述)を発表した。新規則は国営電力会社 PLN 社の地域毎の発電

コストを再生可能エネルギー調達価格の上限価格としていることで、再生可能エネルギー

の買取は同社の負担にならないこととなって、再生可能エネルギーの売電契約がより容易

に成立することが期待できる。他方、新規則における再生可能エネルギーの調達価格が FIT

の買取価格より安くなっており、再生可能エネルギーへの投資が更に鈍化することも懸念

されている。

地方では、ディーゼル発電の燃料費が高いため、ライフサイクルの総発電を比較すると、

太陽光発電は比較的に安価46である。電力供給コストと規制電気料金との差額は政府予算で

補填されるため、太陽光発電でディーゼル発電を置き換えることは政府の補助金削減にも

繋がる。ただし、地方の電力需要を対応するために、早急に電力供給設備の導入が必要と

なるため、限られた設備投資の予算の中で、初期投資が安いディーゼル発電が選択されて

しまうことになる。

4.4.3. 技術別課題の抽出

(1)水力発電

インドネシアの水力発電の潜在資源量は約 75GW と推計されている47。カリマンタンや、

スマトラ、スラウェシ等大きい島では豊富な水力資源が分布される一方、電力需要が最も

大きなジャワ-バリ地域における水力資源は比較的に少ない。

表 4-12 インドネシアにおける水力資源の分布

出典:Asian Development Bank (2015) “Summary of Indonesia’s Energy Sector Assessment” より作成

46 総発電コストは約 14¢/kWh 47 Ministry of Energy and Mineral Resources (2015)“Roadmap for Accelerated Development of New and Renewable

Energy 2015-2025”

地域資源量推計

(MW)

ジャワ-バリ 4,531スマトラ 15,804カリマンタン 21,611スラウェシ 10,203その他 23,475全国 75,624

108

水力発電プロジェクトの開発に係る課題としては土地利用と開発権許可手続きの煩雑さ

が挙げられる。インドネシアでは土地登録システムは整備されておらず、同一の土地に対

する所有権を主張する地権者が複数存在する場合もある。また、水力資源は森林地域に位

置する場合、資源開発許可が承認されるまで数年かかる可能性がある。

(2)地熱発電

インドネシアの地熱資源量は 29,544MW と推計されるが、確認資源量は 2,200MW に留ま

る。このうち 2015 年末時点の地熱発電設備の導入量は 1,438.5MW48である。

地熱資源はカリマンタン、マルク諸島とパプア州を除き、ほぼ全国各地に分布している

が、特にポテンシャルが高いのは、スマトラ島とジャワ島である。国家地質庁のデータに

よると、全国の地熱資源のポテンシャルはその半分近く 12,912 MW(43.7%)がスマトラ島

に分布しており、ジャワ島では 9,795 MW(33.2%)となっている。

表 4-13 インドネシアにおける地熱資源の分布

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”より作成

インドネシアでは、森林地域における鉱業活動に対する規制が厳しく、地熱資源が鉱業

資源と位置付けられていたため、地熱鉱区が森林地域に位置する場合、開発の許可を取得

するために環境森林省の承認だけではなく、国会の承認が必要するケースもあった。また、

これまでは 2003 年の地熱法によって、地熱鉱区開発の入札は地方政府中心で行われること

とされたが地方政府は入札を実施・運営する能力が十分に整えておらず、地熱開発の停滞

を招いた一因となった。こうした地熱資源開発の停滞状況を打開するための新地熱法(Law

No. 21 of 2014)は 2014 年に成立された。新地熱法では地熱開発を鉱業として捉えないよう

にしており、森林地区における地熱鉱区の開発に対して規制緩和された。さらに新地熱法

によって地熱発電を目的にした地熱鉱区開発入札の実施・運営が地方政府から中央政府に

移った49。また、入札管理を中央政府に移管することにより、地方政府が事業者から受け取

48 Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016” 49 地熱直接利用を目的にした地熱資源開発は地方政府の管轄

地域資源量推計

(MW)

スマトラ 12,912

ジャワ 9,795バリ-ヌサ・トゥンガラ 1,920スラウェシ 3,208マルク 1,451カリマンタン 183パプア 75

全国合計 29,544

109

るロイヤルティ収入の減少に伴う地方政府の抵抗を対応するために、Production Bonus 制度

を導入することになった(Government Regulation No. 28/2016)。

ライフサイクルで見ると、地熱発電プロジェクトに係る事業リスクは地熱鉱区の探査・

開発段階に集中している。インドネシアでは、財政力と技術力の制約で、表層地熱資源の

データしか整備されておらず、これは地熱開発の高リスクにも繋がる。2011 年に財務省は、

地熱資源の上流開発を支援するために地熱ファンド(Geothermal Fund)を立ち上げた。し

かし、ファンドの運用規則詳細は定まらず、同ファンドはまだ十分活用されていない状態

である。

(3)バイオマス・廃棄物

インドネシアにおけるバイオマス資源量は約 32,654MW であると推計されている50。2014

年末時点、インドネシアにおけるバイオマス発電設備の導入量は 1,717.9MW、その内の大

半はパーム油の精製工場に設置されたオフグリッドの自家発設備である(1,626MW)。グリ

ッドに接続した発電設備(91.9MW)の内、77.4MW がパーム生産廃棄物を原料とした設備、

残った 14.5MW が都市ごみ発電設備である51。

バイオマス発電に関する最も大きな懸念事項はバイオマス燃料の安定供給の確保である。

都市ごみ発電の場合、ごみ量の確保は地方自治体の責任範囲である。ただし、ごみの焼却

発電は事業として成り立つために、ごみの処理費用(ティッピングフィー)を処理事業者

に支給する必要があるが、都市ごみ処理の責任主体である地方自治体はティッピングフィ

ーを負担する財政力がない。また、インドネシアでは 2016 年大統領令 18 号で指定された 7

都市ではごみ発電プロジェクトが進められているものの、ごみ発電に関する技術規則や環

境規制はまだ整備段階である。

(5)太陽光発電

インドネシアの平均日射量は全国平均で 4.8 kWh/m2/日52であると推計されている。2015

年末まで、インドネシアにおける太陽光発電の導入量は 14.2MW53に達している。

離島や遠隔地域では、太陽光発電がディーゼル発電より経済性があるものの、太陽光発

電の初期費用はディーゼル発電機より高額であり、それを負担できるような資金調達スキ

ームを整える必要がある。また、離島や遠隔地域における送配電グリッドは独立した系統

50 Ministry of Energy and Mineral Resources (2015) “Roadmap for Accelerated Development of New and

Renewable Energy 2015-2025” 51 エネルギー鉱物資源省発表資料

(http://biooekonomierat.de/fileadmin/international/Indonesia__Bioenergy_Policies_and_regulations.pdf) 52 International Energy Agency (2008) “Energy Policy Review of Indonesia” 53 Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”

110

であるため、安定な電力供給を維持するために、太陽光発電設備と合わせて調整電源の併

設は必要となる。

ジャワ-バリ地域では、平均発電コストは約 6¢/kWh であり、全国平均水準よりも安い。

従って、4.4.1 で述べた新たな再生可能エネルギー買取規則によると、この地域において太

陽光発電に対する買取の上限価格は平均発電コストの 6¢/kWh となる。2016 年に公表した

ジャワ-バリ地域における太陽光発電に対する固定買取価格(14.5¢/kWh)と比較すると、

新たな買取メカニズムのもとで、ジャワ-バリ地域では太陽光発電の導入拡大が当面困難

であることは予想される。

(5)風力発電

インドネシア全土の詳細な風力資源量評価データはまだ整備されていない。エネルギー

鉱物資源省は、インドネシアの風力エネルギーポテンシャルは約 9GW と推定しており、主

に東部地域に分布している54。

2015 年時点では、稼働している風力発電設備は小規模のパイロットシステムのみで、設

備容量が計 0.6MW である55。風力発電は固定価格買取制度の対象外であったが、2017 年に

発表された新規則では風力発電が調達対象に含まれるようになった。調達価格の決定方式

は太陽光発電と同様になっている。

54 Asian Development Bank (2015) “Summary of Indonesia’s Energy Sector Assessment” 55 Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia

2016”

111

[参考文献]

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• Asian Development Bank (2015a) “Summary of Indonesia’s Energy Sector Assessment”

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• Ministry of Energy and Mineral Resources (2014)

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• Ministry of Energy and Mineral Resources (2015a) “Roadmap for Accelerated Development of

New and Renewable Energy 2015-2025”

• Ministry of Energy and Mineral Resources (2015b) “Regulation No. 44/2015” (in Indonesian)

• Ministry of Energy and Mineral Resources (MEMR) (2016a) “Handbook of Energy &

Economic Statistics of Indonesia 2016”

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• Nah’R Murdono Law Office (2015)

http://murdonolaw.com/feed-in-tariff-for-mini-hydro-power-projects-has-been-denominated-in-

us-dollar-per-kwh/

• National Renewable Energy Laboratory (NREL) (2015) “Sustainable Energy in Remote

Indonesian Grids: Accelerating Project Development”

• PLN (2016a) “RUPTL2016-2025” (in Indonesian)

• PLN (2016b) “Statistik PLN 2015”

• Sumba Iconic Island HP http://en.Sumbaiconicisland.org/program/

• United State Department of Agriculture Foreign Agricultural Service (2015) “Indonesia

Biofuels Annual Report 2015”

113

第5章 2050 年までの再生可能エネルギー導入ポテンシャルと導入促

進に向けた政策の費用対効果分析

5.1. 再エネ資源ポテンシャル

インドネシアにおける再生可能エネルギーの資源ポテンシャルを表 5-1 にまとめる。

表 5-1 インドネシアにおける再生可能エネルギー資源ポテンシャル

出典:Ministry of Energy and Mineral Resources (2015) “Roadmap for Accelerated Development of New and

Renewable Energy 2015-2025”、Ministry of Energy and Mineral Resources (2016) “Handbook of Energy &

Economic Statistics of Indonesia 2016”、 Asian Development Bank (2015) “Summary of Indonesia’s Energy Sector

Assessment”より作成

再生可能エネルギー発電の導入量は、資源ポテンシャルによる制約されるほか、電力需

要市場の規模や、電力系統整備の状況、既存の電源構成、再生可能エネルギー促進政策等

にも影響される。

前述したように、インドネシアでは各地の電源構成と総発電コストは地域によって異な

る。特に、離島や遠隔地地域等においては、電力供給の主要手段がディーゼル発電であり、

発電コストも全国平均水準より高い。一方で、このような地域における電気料金水準は最

も安価な規制料金であるため、高価なディーゼル発電コストと規制電気料金との差額に対

する政府補助は膨大である。再生可能エネルギーの導入拡大策に対する分析を行う際に、

地方地域と中心地域を分けて検討する必要がある。

5.2. 地方電力供給における再生可能エネルギーの導入量に関する分析

地方の電力供給に再生可能エネルギーを最大限に活用した場合の再生可能エネルギーの

導入量、および発電コスト等に対する影響を評価するために、インドネシアにおける電化

率が最も低い東インドネシア地域を対象にし、電源開発モデルによる定量化分析を行った。

その上、太陽光発電にフォーカスし、二つのケーススタディを行う。一つは、前述のスン

バ島を例にし、系統の整備状況が太陽光発電の導入量に与える影響の評価である。もう一

資源量推計

水力資源 75,624MW

地熱発電 29,544MW

バイオエネルギー 32,654MW

太陽エネルギー 4.8kWh/m2/day

風力 9,000MW (3-6 m/s)

海洋エネルギー 49,000MW

114

つは、太陽光発電によるディーゼルを置き換える場合の費用と便益の評価、および市場ポ

テンシャルの推計である。

5.2.1. 東インドネシアの地方電力供給における再生可能エネルギーの活用

この分析では、東インドネシア地域を対象にし、同地域における 2050 年までの電力需要

を推計し、それに対して電力供給を再生可能エネルギーの導入が進まないレファレンスケ

ース(ELectr_Ref)と再生可能エネルギー最大導入ケース(Electr_RE)の二つのケースを想

定し、電源開発モデルでそれぞれのケースにおいての電源構成を分析する。

試算で用いた化石燃料の価格想定と主な再生可能エネルギー技術の設備コストの想定を

図 5-1 に示す。2050 年にかけて、石炭価格は据え置き、天然ガス価格は年率 1.2%、ディー

ゼルの価格は年率 2.2%で伸びていくと想定している。なお、地方発電用のディーゼルにつ

いて、燃料の運搬費用が高いため、調達価格は全国レベルより大幅に上回っている。再生

可能エネルギーに関して、バイオマス発電の設備コストを一定にし、太陽光発電と風力発

電の設備コストは今後引き続き低減していくことを想定している。特に太陽光発電はこれ

からもコスト削減の余地が大きい。水力発電と地熱発電については、サイトによって初期

コストが異なる。水力発電の初期コストは 2,300~3,100US$/kW、地熱発電の初期コストは

2,567~5,000US$/kW と想定しており、将来には安易に開発できるサイトが段々減っていくた

め初期コストも上がっていくを前提としている。

出典:各種資料により想定

図 5-1 化石燃料コスト(左)と主な再生可能エネルギー技術の設備コスト(右)の想定

東インドネシアにおける電力需要は 2025 年に 45TWh、2030 年に 67TWh、2050 年に

227TWh になると予測している。同地域における電力需要はインドネシア全国需要の 8%強

に占める。

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

2015 2050

US$/kW

風力

バイオマス

太陽光0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

2015 2050

US$/toe地方発電

用ディーゼル

ディーゼル

ガス

石炭

115

2050 年までの電力需要に対して、前述二つのケースにおける電源構成と再生可能エネル

ギー発電量の見通し結果を図 5-2 と図 5-3 に示す。再生可能エネルギーの最大限活用を実現

した場合、レファレンスケースと比較すると年間火力発電の代替可能量は 2025 年に

26.3TWh、2030 年に 45.0TWh、2050 年に 141.2TWh となる。

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-2 地方電力供給の電源構成見通し(レファレンスケースと再生可能エネルギー最大導

入ケース)

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-3 レファレンスケースと再生可能エネルギー最大導入ケースにおける再生可能エネ

ルギー発電量見通し

26%

8% 5% 7% 3% 4% 2%

36%

56%

10%

58%

5%

53%

7%

24% 22%

11%

22%

11%

26%

12%

14% 14%

74%

13%

81%

17%

79%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

Electr_Ref

Electr_RE

Electr_Ref

Electr_RE

Electr_Ref

Electr_RE

2015 2025 2030 2050

再エネ

ガス

石油

石炭

5.9 6.3

32.6

8.8

53.638.3

179.1

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

Electr_Ref

Electr_RE

Electr_Ref

Electr_RE

Electr_Ref

Electr_RE

2015 2025 2030 2050

TWh

116

再生可能エネルギー技術の初期コストが高いため、同じ電力需要を供給する場合、火力

発電と比べると、短期~中期的に総発電コストは増加する。Electr_RE ケース(再生可能エ

ネルギー促進ケース)と ELectr_Ref ケース(レファレンスケース)における累積総発電コ

ストを見ると、2025 年まで前者の方は約 80 億ドルほど高い(図 5-4)。他方、バイオマス以

外の再生可能エネルギー発電技術は殆ど燃料費がかからないため、運転費が火力発電より

安い。また、将来には化石燃料価格の上昇傾向に対し、太陽光や風力発電など再生可能エ

ネルギー発電技術の設備コストが低減し続けることが予想される。実は地方における化石

燃料の調達コストが高いため、再生可能エネルギー技術の導入による燃料費回避の経済効

果はより早期に現れる。単年度の発電コストを比較すると、2025 年時点でも Electr_RE ケー

スにおける平均発電コストは ELectr_Ref より下回っている(図 5-5)。累積でみると、2030

年まで Electr_RE ケースのコスト増は 2025 年までより減少している。さらに 2050 年までの

時点には、火力発電の代わりに再生可能エネルギー技術を導入すると、総発電コストの節

約が期待できる。Electr_RE ケースにおける 2050 年までの累積発電コストは ELectr_Ref よ

り 540 億ドルほど安くなる。

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-4 再生可能エネルギー導入拡大による追加発電コストの累積(現在価値に換算)の見

通し

8 4

-54

-60

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

~2025 ~2030 ~2050

brillion US$ (2015 value)

117

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-5 年平均 kWh あたり発電コストの変化の見通し

5.2.2. 系統の整備状況が再エネ導入量に対する影響(スンバ島のケーススタディ)

地方電力供給における再生可能エネルギーの接続可能量は、再生可能エネルギーの種類

のみならず、電力負荷や系統の整備状況、既存の電源構成等にも影響される。特に、太陽

光発電や風力発電等出力変動型再生可能エネルギーが増加すると、電力の需給バランスを

維持するために、調整電源の確保や地域間連系線による電力融通などの措置が必要となる。

4.4.1 紹介したスンバ島を例に、蓄電設備と地域間連系線が太陽光発電の接続可能量に与

える影響に関する分析を行った。なお、スンバ島は、島東部にある Waingapu 系統(Region1)

と、中央及び西部にある Waikabubak-Waitabula 系統(Region2)に分かれている。また、太

陽光発電の最大出力は昼間であるが、ピーク電力は夕方から夜の時間帯に発生している。

(1)蓄電池の導入による効果

出力抑制を実施しない前提で、かつ地域間(Region1 と Region2)の電力融通を行わない

場合において、蓄電池の設置容量が太陽光発電の接続可能量に与える影響を分析する。図

5-6 は、蓄電池がある場合と無い場合の 1 週間における電源構成の変化を示す。蓄電池が導

入される場合は、より多くの太陽光発電が導入され、発生する余剰電力を蓄電池に充電し、

その後放電していることがわかる。図 5-7 は、蓄電池容量と太陽光発電の接続可能量の関係

を示す。蓄電池容量の増加に伴い、太陽光発電の接続可能量が増えることがわかる。

0.19 0.18 0.19 0.15

0.23

0.12

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

Electr_Ref Electr_RE Electr_Ref Electr_RE Electr_Ref Electr_RE

2025 2030 2050

US$/kWh

-0.0008

-0.11

-0.04

118

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-6 蓄電設備がない場合(左)とある場合(右)の電源構成(Region1)

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-7 蓄電設備容量と接続可能太陽光発電容量の関係(スンバ島の場合)

(2)地域間連系線増強による効果

現在、Region1 と Region2 の系統連系は非常に限定的である。そこで、連系線を増強する

ことでどの程度太陽光発電の接続可能量が増加するかを分析する。図 5-8 は、地域間連系線

が増強された場合の Regio1 と Region2 の 1 週間の電源構成を示す。地域間連系線の増強に

よって、Region1 の太陽光発電の余剰電力が Region2 に融通されていることがわかる。

0

1

2

3

4

5

6

7

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

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0

12

:00

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0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

[MW]

Hydro Biomass Geothermal

Fossil fuel interconnection in Wind

PV RE storage in interconnection out

RE storage out Ele demand

0

1

2

3

4

5

6

7

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0

12

:00

0:0

0

12

:00

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0

12

:00

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0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

[MW]

Hydro Biomass Geothermal

Fossil fuel interconnection in Wind

PV RE storage in interconnection out

RE storage out Ele demand

0

5

10

15

20

25

0 10 20 30

太陽

光の

最大

導入

可能

量(M

W)

蓄電設備(MWh)

Region1

Region2

Total

119

(Region1) ( Region2)

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-8 地域間連系線による電力融通の状況

図 5-9 は、地域間連系線の増強が Region1 における太陽光発電の接続可能量に与える影響

を示す。まず、議論の単純化のため、Region2 の太陽光発電導入量を 0 としている。地域間

の電力融通がない場合でもRegion1においては、約 5MWの太陽光発電が接続可能であるが、

地域間連系線を増強することで、接続可能量は増加する。ただし、連系線がある一定規模

(ここでは 1.5MW)を超えるとRegion1における接続可能量の更なる増加は見込まれない。

これは、Region2 において、Region1 から融通される電力を受け入れる上限に達することに

起因する。

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-9 地域間連系線の増強が太陽光発電の接続可能量に与える影響(Region1)

0

1

2

3

4

5

6

7

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

[MW]

Hydro Biomass Geothermal

Fossil fuel interconnection in Wind

PV RE storage in interconnection out

RE storage out Ele demand

0

1

2

3

4

5

6

7

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

0:0

0

12

:00

[MW]

Hydro Biomass Geothermal

Fossil fuel interconnection in Wind

PV RE storage in interconnection out

RE storage out Ele demand

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

0 1 2 3 4

太陽

光発

電の

最大

導入

可能

量(M

W)

系統連系線(MW)

120

5.2.3. 太陽光発電によるディーゼル発電の置き換えに関するケーススタディ

5.2.1では東インドネシア地域における 2050年までの地方電力供給における再生可能エネル

ギー発電技術の導入可能量とその場合の費用と便益をディーゼル発電の場合と比較、分析

した。なお、本節では再生可能エネルギーの中でも近年そのコスト低下の著しい太陽光発

電に焦点を当て、太陽光発電によるディーゼル発電を置き換える場合の費用と便益を評価

し、インドネシアにおけるディーゼル発電を代替するための太陽光発電の市場ポテンシャ

ルを推計する。パプア地域における現在ディーゼル発電量(2015 年 1,107GWh)の 10%を

太陽光発電による代替場合、ライフサイクルの費用と便益の変化を図 5-10 に示す。試算の

主要前提条件を表 5-2 に纏める。

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-10 太陽光発電によるディーゼル発電を置き換える際にライフサイクルの費用と便益

の変化

表 5-2 太陽光発電とディーゼル発電コスト試算の主要な前提条件

出典:各種資料による想定

190

-25 -50

-74 -96

-118 -139

-159 -179

-198 -216

-233 -250

-266 -282

-297 -311 -325 -338 -351 -364

164 140

116 93

71 50

30 11

-8 -26 -44

-60 -77

-92 -107

-122 -135 -149 -162 -174

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

Year 1 Year 2 Year 3 Year 4 Year 5 Year 6 Year 7 Year 8 Year 9 Year 10

Year 11

Year 12

Year 13

Year 14

Year 15

Year 16

Year 17

Year 18

Year 19

Year 20

PV Initial Cost Cumulative Diesel Fuel Cost Avoided Net Cost of PV

million US$ (2015 value)

太陽光発電 ディーゼル発電

初期投資 2400 US$/kW 400 US$/kW

運転維持費(燃料費以外) 4 US¢/MWh 3.8US¢/MWh

燃料費 0 0.75US$/L

設備稼働率 16% 80%

熱効率 - 30%

耐用年数 20 20

121

2015 年パプア地域におけるディーゼル発電量の 10%を太陽光発電による代替すると、約

80MW の太陽光発電設備を設置する必要がある。太陽光発電設備の導入によって発生した

初期投資は約 1 億 9 千万ドルである。他方、太陽光発電の導入によって年間約 34,061kL の

発電用ディーゼルは削減される。将来ディーゼル価格の上昇も加味して、太陽光発電を導

入後 8 年~9 年目時点で、回避されたディーゼルの累積コストの現在価値は太陽光発電設備

の初期投資と同等となる。

結論としてパプア地域におけるディーゼル発電量の 10%を太陽光発電による置き換える

と、約 1 億 9 千万ドルの初期投資が発生するが、ライフサイクル全体で見ると 3 億 6400 万

のディーゼル燃料費が回避され、1 億 7400 万ドルの総発電費用が節約できる。

太陽光発電を用いてディーゼル発電を代替すると、ライフサイクルの総発電コスト削減

に繋がる一方、5.2.2 にも説明したように、太陽光発電だけではディーゼル発電を全部置き

換えることができない。太陽光発電によるディーゼル発電の代替可能量は、電力の負荷パ

ターン、既存の電源構成などにも影響される。5.2.2 の分析対象地域であるスンバ島は大き

く 2 つの地域、Region1 と Region2 に分けられ、Region2 ではディーゼル発電に加え水力発

電も用いているのが特徴である。こうした電力の負荷パターンと既存の再生可能エネルギ

ーを有効利用すること、ならびに蓄電設備の設置や地域間の電力融通を考慮しないことを

前提としてスンバ島での、太陽光発電によるディーゼル発電を置き換えられる最大可能量

を推計するとディーゼル発電量の 25.8%前後56となる。なお、これをインドネシア全体に例

えると、2015 年インドネシア全国のディーゼル発電量は 18,859GWh57であり、その内の最

大 25.8%を太陽光による代替可能だとする場合、必要な太陽光発電の設備容量は 3,471MW

であると推計される。

本節(5.2)では東インドネシア地域を対象に、2050 年までに地方電化における再生可能

エネルギーの導入可能量ならびに、再生可能エネルギーを最大限導入する場合の費用と便

益について定量的な評価を行った。また、蓄電設備や地域間電力連系線の設置状況が太陽

光発電の導入可能量に対する影響と太陽光発電によるディーゼル発電の置き換えに関する

ケーススタディを実施した。

結論として地方の電力供給における再生可能エネルギーの導入可能量は2025年で33TWh、

2050 年で 179TWh になると推計された。他方、KEN で定められた新・再生可能エネルギー

導入目標を実現するために、2025 年と 2050 年における再生可能エネルギーによる発電量は

それぞれ 128TWh と 466TWh に達すとインドネシアの国家エネルギー委員会が予測してい

56 地域によって電力負荷パターンが異なり、太陽光発電によるディーゼル発電の最大代替可能比率も多少

差がある。 57 総発電量の 11%に占める

122

る(図 5-11)58。再生可能エネルギーの導入目標を達成するために、地方の電力供給以外で

も再生可能エネルギーの導入拡大に取り組む必要がある。

出典:Dewan Energi Nasional 国家エネルギー委員会 (2016) “Outlook Energi Indonesia 2016”, 日本エネルギー

経済研究所推計

図 5-11 地方における再生可能エネルギーの導入可能量と再生可能エネルギー目標との比

較(2025 年(左)、2050 年(右))

5.3. 再生可能エネルギーのコスト競争力を向上させるための政策措置に関する分析

再生可能エネルギーの導入目標を実現するために、離島や遠隔地域での電力供給のみな

らず、ジャワ―バリ等中心地域においても再生可能エネルギーの導入拡大が不可欠である。

ジャワ―バリ地域では、電源構成の大半は安価な石炭火力発電であり、経済性を見ると再

生可能エネルギー技術が選択される可能性が低い。従って、再生可能エネルギーへの投資

回収保証メカニズムや、経済性向上措置などが必要となる。

再生可能エネルギーの投資保証メカニズムとして固定価格買取制度(FIT)は世界中多数

の国で導入されている。前述したように(第 4 章)、インドネシアでも制度実施面で様々な

課題が存在しているものの、FIT 制度の導入はされている。また、現在インドネシア政府が

取り組んでいる再生可能エネルギープロジェクトの開発に関わる行政手続きの合理化と迅

速化措置は再生可能エネルギーの発電コスト削減にも繋がる。ここではさらに再生可能エ

ネルギー技術全般の特徴である燃料費が少ない点からの施策、低金利融資を考えてみる。

バイオマス発電以外の再生可能エネルギー技術は燃料費が殆どかからないため、総発電コ

ストの大半は初期費用と資金調達コストである。インドネシアでは、再生可能エネルギー

プロジェクトがリスクの高い投資案件と見られ、融資金利も高い。このような状況に踏ま

58 DEN, Outlook Energi Indonesia 2016

128

33

0 50 100 150

地方電力供給

における再エ

ネ活用

再エネ目標2025

TWh

466

179

0 200 400 600

地方電力供給

における再エ

ネ活用

再エネ目標2050

TWh

123

え、低金利融資は再生可能エネルギー発電コスト削減の有効な措置であると考えられる。

FIT メカニズムおよび低金利融資を導入した場合の再生可能エネルギーの導入拡大効果

に対する定量化評価を 5.3.1 で、その内 FIT メカニズムの費用と電気料金への影響等に関す

る分析を 5.3.2 に示す。

5.3.1. FIT メカニズムと低金利融資の政策効果

分析の対象地域はインドネシア全国である。インドネシア全国における電力需要は 2025

年に 527TWh、2030 年に 785TWh、2050 年に 2,607TWh になっていくと予測している。それ

に対する電力供給の中で、2050 年までの再生可能エネルギーの導入拡大効果を推計するた

めに、FIT と低金利融資(Low Interest Loan, LIL)を導入しないレファレンスケース(Ref)

と導入するケース(FIT+LIL)を想定した。電源開発モデルを用い、それぞれのケースにお

いての電源構成と総発電コスト等を計算する。

化石燃料価格と再生可能エネルギー設備コストに関しては、太陽光発電以外、図 5-1 と同

様の想定をしている。太陽光発電の設備コストについては、地方に設置される場合、設備

の運搬コストを考慮し、全国平均より割高であることを想定している。太陽光発電の設備

コストの試算前提を図 5-12 に示す。

出典:各種資料による想定

図 5-12 太陽光発電の設備コストに関する想定(地方に設置する場合と全国平均レベル)

FIT+LIL ケースにおける再生可能エネルギー買取価格と買取期間は 2016 年時点の政策に

基づいて想定している(表 5-3)が,本制度は 2025 年以降にフェーズアウトされることを仮

定している。また、低金利融資(LIL)における再生可能エネルギープロジェクトに対する

融資金利は 1%~4%59にあると設定している。

59 再生可能エネルギー発電技術によって異なる融資金利を想定

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

2015 2050

地方電力供

給PV

全国平均レベ

ルPV

US$/kW

124

表 5-3 FIT の買取価格と買取期間の想定

出典:各種資料による想定

Ref ケースと FIT+LIL ケースにおける 2050 年までの電源構成と再生可能エネルギー発電

量の見通し結果を図 5-13 と図 5-14 に示す。2030 年以降再生可能エネルギーのシェアは下が

っているが、発電量は引き続き伸びている。FIT および再生可能エネルギーに対する低金利

融資を実施すると、再生可能エネルギーの発電量は 2025 年に 28TWh、2030 年に 47TWh、

2050 年に 98TWh の導入拡大効果が期待される。

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-13 インドネシア全国の電源構成見通し(Ref ケースと FIT+LIL ケース)

買取価格(¢/kWh)

買取期間(年)

地熱発電 11.8 30

小水力 8.73 20バイオマス発電 8.6 20太陽光発電 16 20

58% 60%54% 59%

52%

76% 74%

9% 6%6%

7%7%

3% 3%21%17%

17%18%

18%

11% 9%

11% 17% 23% 16% 23%10% 14%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

Ref

FIT+LIL

Ref

FIT+LIL

Ref

FIT+LIL

2015 2025 2030 2050

再エネ

ガス

石油

石炭

125

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-14 Ref ケースと FIT+LIL ケースにおける再生可能エネルギーの発電量見通し

5.3.2. FIT 制度の費用と便益に関する分析

5.3.1 と同様な前提条件で、FIT 制度のみ導入したケースの試算結果をレファレンスケー

ス(FIT 制度導入しない)と比較し、累積発電コストの差を図 5-15、FIT 制度が消費者負担

に対する影響を図 5-16 に示す。FIT 制度の導入によって発生した追加コストは累積で 2025

年まで 160 億ドル、2030 年まで 230 億ドルほどに上る。他方、FIT 制度を導入した場合の

再生可能エネルギーの導入拡大効果で、火力発電の代替効果、すなわち化石燃料費の回避

効果も大きい。また、FIT を実施すると、中心地域でも発電コストが比較的に高い太陽光発

電が導入されるようになり、導入量の増加に伴い、学習効果による発電コストの低減がス

ピードアップすることは期待できる。FIT 制度は 2025 年以降にフェーズアウトされても、

前述の理由によって、FIT 制度の導入のおかげで、2050 年まで FIT を実施しない場合より

150 億ドルほどの総発電コストの節約が期待できる。

FIT の導入によって発生した追加コストの累積は 2027 年頃にピークとなり、それ以降 FIT

導入による発電コストの節約効果が現れ、FIT ケースの単年度平均発電コストは FIT なしケ

ースより安くなっていく。FIT 導入により発生した単年度の追加コストを全国の電力消費者

に転嫁する場合、2025 年時点での消費者負担は約 0.003US$/kWh である(図 5-16)。

27.0

76.7 104.5 114.0

160.8

241.5

339.6

0

50

100

150

200

250

300

350

400

Ref

FIT+LIL

Ref

FIT+LIL

Ref

FIT+LIL

2015 2025 2030 2050

126

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-15 FIT の導入によって発生した追加発電コストの累積見通し(現在価値に換算)

出典:日本エネルギー経済研究所推計

図 5-16 FIT の導入によって消費者負担の変化見通し

5.4. 再エネ導入目標の実現可能性の検証

地方電力供給における再生可能エネルギーを最大限に導入した場合、および FIT と低金

利融資が予想通りに実施された場合における再生可能エネルギー導入量を合わせると、イ

ンドネシアにおける再生可能エネルギーの導入可能量は 2025 年に 128.4TWh、2050 年に

493.0TWh に達すると予想できる(図 5-17)。すなわち、インドネシアの再生可能エネルギ

ー導入目標を実現することができる。なお、そのために、一定の政策取組みが求められる。

16

23

-15

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

~2025 ~2030 ~2050

billion US$

0.12 0.13 0.12 0.12

0.09 0.07

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

Ref FIT Ref FIT Ref FIT

2025 2030 2050

US$/kWh

0.003

-0.003

-0.02

127

特に、2050 年における再生可能エネルギー導入可能量は目標よりも超える見通しとなって

おり、足元に実施した促進政策の長期的な効果が期待できる。

出典:国家エネルギー委員会 (2016) “Outlook Energi Indonesia 2016”, 日本エネルギー経済研究所推計

図 5-17 再生可能エネルギー導入目標実現可能性の検証

128

33

95.4

0 50 100 150

2025年再エネ目標

地方電力供給での再

エネ最大活用

再エネコスト競争力向

上(東インドネシア以

外地域)

TWh

466

179

314

0 200 400 600

2050年再エネ目標

地方電力供給での再

エネ最大活用

再エネコスト競争力向

上(東インドネシア以

外地域)

TWh

128

[参考文献]

• Dewan Energi Nasional (DEN) (2016) “Outlook Energi Indonesia 2016”

• Fraunhofer (2015) “Current and Future Cost of Photovoltaics”

http://costing.irena.org/media/9984/Simon_Philipps_Fraunhofer_Institute_for_Solar.pdf

• International Bank for Reconstruction and Development (IBRD) (2014) “Scaling-Up

Renewable Geothermal Energy in Indonesia”

• International Energy Agency (IEA-PVPS) (2015) “National Survey Report of PV Power

Applications in Malaysia 2015”

• International Renewable Energy Agency (IRENA) (2012) “Renewable Energy Technologies:

Cost Analysis Series – Biomass for Power Generation”

• International Renewable Energy Agency (2016) “The Power to Change: Solar and Wind Cost

Reduction Potential to 2025”

• PLN (2016) “Statistik PLN 2015”

• World Bank, Ministry of Energy and Mineral Resources and Asian Development Bank (2015)

“Unlocking Indonesia’s Geothermal Potential”

• 経済産業省、 Ernst & Young Shin Nihon LLC、日本貿易振興機関 (2015) “Study on Karai

Mini-Hydro Power Project in the Province of Sumatera Utara, The Republic of Indonesia”

129

第6章 日本企業の事業機会とリスクを含めた示唆・日本政府のインド

ネシアに向けた政策支援項目

6.1. 現行再生可能エネルギー促進政策のもとでの日本企業の事業機会リスク

2017 年 1 月に発表されたエネルギー鉱物資源省の新規則(MEMR Regulation No.12/2017)

によると、再生可能エネルギー発電買取の上限価格を地域毎の平均発電コストの 85%また

は 100%としている。発電コストを考えるとき、再生可能エネルギーにおいては燃料費がほ

ぼゼロであるのに対し化石燃料においては燃料コストが大きな比重を占める。インドネシ

アは、離島・遠隔地域における主要な電源は燃料費が高いディーゼル発電である一方、ジ

ャワ-バリ等中心地域では燃料費が安い石炭火力発電が大量に導入されている。このよう

に既存電源の発電コストは使用される燃料によって地域差が大きいものの、高価なディー

ゼル燃料の比重の高い離島・遠隔地域の発電コストがジャワ―バリ地域よりも高い。その

ため、再生可能エネルギーの買取価格も離島・遠隔地域の方が高くなることが予想され、

経済性の観点から見るとこのような地域はより魅力的な投資先である。

他方、技術的な制約を見ると、離島や遠隔地では、電力負荷が小規模であるため出力変

動の大きな大規模再生可能エネルギー発電システムの導入には適していない。また、電力

供給システムは独立しているケースが多いため、小規模分散型発電に比較的容易に対応可

能な再生可能エネルギー、例えばバイオマス発電や太陽光発電が適している。一方で、太

陽光発電に対しては出力変動への対策として蓄電設備やバックアップ調整電源の併設、及

び総合的な系統運用が必要となってくる。

ジャワ―バリ地域では、新規則のもとで、再生可能エネルギーに対する買取価格が低く、

太陽光発電など高価な再生可能エネルギーは困難であるが、水力や地熱など比較的発電コ

ストの安い再生可能エネルギー発電プロジェクトの事業可能性があると見られる。特にイ

ンドネシアの地熱資源の大半はジャワ島とスマトラ島に位置しているため、両地域におけ

る地熱発電の開発は期待できる。更に、これらの地域では電力負荷の規模が大きく、送配

電システムも整備されているため、太陽光発電の出力変動性への対応ポテンシャルも高い。

従って、太陽光発電の設備コストの低減に伴い、長期的にはジャワ―バリ、スマトラ地域

においても太陽光発電の普及拡大が考えられる。

6.2. SWOT 分析による日本政府のインドネシアに向けた支援項目の検討

インドネシアの再生可能エネルギーの事業展開に対する日本企業の立場を不利・有利×

内部要因(企業がコントロール可能)・外部要因(企業がコントロール不可能)で分けて、

S(Strength)-W(Weakness)-O(Opportunity)-T(Threat)に当てはまって整理した結果を

表 6-1 に示す。

130

表 6-1 日本の再エネ企業に関する SWOT 分析

有利 不利

強み(Strength)

• 技術力を有する

• 設備の耐用性が優れている

弱み(Weakness)

• 設備コストは比較的に高い(より高額な初

期投資が必要)

機会(Opportunity)

• 豊富な再生可能エネルギー資源

を有する

• 離島・遠隔地では太陽光発電コ

ストはディーゼル発電より安い

脅威(Threat)

• 中心地域における再生可能エネルギーの

買取価格が安い

• 高価な発電設備を負担する財政力がない

• 政策の安定性に対する懸念

• 土地取得や資源開発等に関する手続きが

煩雑

出典: 日本エネルギー経済研究所

本 SWOT 分析ならびに前述の分析からは、短期的には離島・遠隔地が再生可能エネルギ

ー発電技術の有望市場であることが分かる。こういった地域で、再生可能エネルギー発電

技術を展開するためには技術面、資金面、及び持続可能なビジネスモデルの構築が不可欠

である。特に長期的持続可能性の観点からはライフサイクルを通じた発電コストの低減と

発電施設の長期的な安定運転を維持することが重要となる。この観点からは日本企業の競

争優位性が評価されるところであるものの初期費用が高いことが課題である。逆にインド

ネシアにとっては資金調達の観点から初期費用の高いことが最も大きな障害となる。日本

製品を導入するには長期的な便益を受けるために、まず初期費用を負担できるような融資

メカニズムやビジネスモデルが求められる。この課題に対しては、両国の政府、民間企業、

金融機関等様々な分野を横断する解決方法を検討する場を設けることが望まれる。

131

第7章 インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー導入

普及に向けた政策提言

7.1. 省エネルギー

7.1.1. 部門別の省エネルギー推進

インドネシアでは、国家エネルギー計画において省エネルギーの推進が重要な政策項目と

して打ち出されており、2025 年までに 1%のエネルギー原単位改善目標ならびにエネルギー

弾性値を 2025 年に 1 以下とする目標を設定している。目標達成に向けたフォローアップメ

カニズムを構築すると共に、これらの目標を達成するためにも産業、運輸、家庭、業務の

各部門において省エネルギーを推進するためにも、長期的な視点から実施される政策やプ

ログラムがシナジーを発揮しうるように整合的に制度を構築することが必要である。以下

の通り、これらの部門における政策提言を提示する。

産業部門

エネルギー管理を通じた省エネルギーを実施する事業所のエネルギー消費量は年間石油

換算 6,000toe であり、日本の 1500kL(石油換算 1,287toe)の 4 倍以上であり、同制度で対

象となる事業場が大規模工場等に限定されることからも、カバー率を上げるなど、国内の

産業部門におけるエネルギー効率改善を行うには裾野のさらなる拡大が必要である。また

高効率設備の導入に向け、事業者の技術に関する理解向上に資する技術リストを作成し、

それらの導入に関して補助金支給や低利融資を行うなど政府支援の実現が必須である。

運輸部門

エネルギー需要が最も伸びている部門として、燃費規制の導入支援を急ぐ必要があり、

これに関連した車検制度の導入と石油精製の品質向上も欠かせない。現状のインドネシア

主要都市で起きている乗用車への過剰依存の低減し、渋滞を解消しつつエネルギー消費を

節減、LCGC に代表される低燃費車の性能が発揮できるよう、公共交通インフラ整備ならび

に乗用車利用の適正化に向けた政策・制度形成の支援が必要である。

家庭部門

家庭部門の省エネルギー推進における最も根本的な課題は、電化率が低いことや低アン

ペア契約の世帯が全体の 65%を占める点にある。これは、家電全般、高効率家電製品の普

及の阻害要因の一つであると言える。その対策として、地方電化率の向上や 2A/4A 契約を

撤廃し、6A 契約への移行促進が必要である。その代わりに、これまで 2A/4A 契約世帯に支

給された補助金を電力インフラの形成や地域特有の再エネ資源の開発に資する目的で活用

すると共に、省エネ技術・機器への投資へシフトさせる必要もあるだろう。

電力・エネルギー価格が相対的に安価であるため、消費者の省エネ意識を喚起するため

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には、電力料金の適正化、省エネ意識向上に向けた啓発活動や情報提供にさらに注力する

必要がある。定期的なエネルギー消費実態調査や省エネ意識調査に基づくモニタリングま

たは政策評価に資する情報収集も考えられる。

普及が進むテレビや冷蔵庫などの家電製品の省エネルギー推進に当たって、MEPS の導入

やラベリング制度の対象製品の拡大は不可欠である。基準に適合した製品が市場に流通す

るために、試験場での適格な検査が必要されており、それに伴い、製品試験場での人材育

成や設備の充実化も求められる。

高効率家電機器の普及促進に当たって、優遇措置、補助金等の助成、日本のエコポイン

ト制度のような措置を創設し、高アンペア契約への移行推進と共に実施されることも考え

られる。住宅の断熱性能基準の導入による住宅の省エネ性能の向上も長期的には必要であ

る。

業務部門

インドネシアにおける業務部門の省エネルギー推進課題に対応するためにも、政策・規

制ならびに遵守メカニズムの構築、ならびに低利融資等のファイナンスメカニズムの構築

が必要である。具体的には、現行のエネルギー管理制度における業務部門のカバー率は全

体の 1%(35 事業者)と限定的であり、対象範囲を述べ床面積 5 万㎡、年間エネルギー消費

量 700toe に下げるなど、対象を拡大する必要がある。また、資金調達コストが膨大となる

ことを阻害要因として、省エネ投資は積極的に行われていないため、利子補給等の低利融

資に向けた政府支援が必要である。

7.1.2. 費用対効果を考慮した省エネルギー技術の導入拡大

インドネシアでは、CFL、エアコンに続いて今後、冷蔵庫、炊飯器、モーター、洗濯機な

どに拡大する予定である。他方、第 3 章で行った分析では、業務部門の照明や冷蔵庫、産

業部門のリジェネバーナー(鉄鋼)、回収ボイラー(紙パルプ)など、2030 年の費用対効果

分析ではエネルギー需要の石油換算トン当たりの節減にかかるネットコストがマイナスと

なる技術があった。すなわち、2030 年に向けた省エネルギーによる社会的な便益を考慮す

ると、便益が費用を上回る技術があることを踏まえ、コスト効果性に配慮した技術の導入

が望まれる。具体的には、家庭部門を対象とした機器のみならず、産業や業務部門を対象

とした技術は稼働時間が長いことから省エネルギーによる社会的便益が相対的に大きく、

コスト回収年数が数年と短い場合がある。こうした技術の導入促進に向け、例えば産業部

門での排熱回収技術導入の義務化といった制度の導入が期待される。

インドネシアの省エネルギーマスタープランである RIKEN では、高効率技術の導入に向

けた経済インセンティブの付与が重要であり、制度構築が重要であるとの認識が提示され

ているものの、現状では高効率技術導入に係る経済インセンティブは提供されていない60。

60 インドネシア財務省の機関である OGK が環境ファイナンスを行っており、Investment Grade Audit 事業に

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エネルギー管理対象事業者である産業や業務部門での省エネ技術導入に関するガイドライ

ンを策定、ガイドラインに記載された技術に対して補助金や低利融資等の経済インセンテ

ィブを付与するといったシステムの構築が求められる。その際、原資として、現在電力や

石油に付与される補助金をシフトさせるなど、政策の転換が求められる。

MEPS や省エネルギー技術導入、経済インセンティブ付与についてのモニタリングと検証

メカニズムの構築は、政策効果を把握する上で肝要である。エアコンの MEPS が 2016 年 7

月に導入されたところではあるが、同政策の省エネルギー効果を計測できるモニタリング

メカニズムはいまだ形成されていない。MEPS 制度下では、関連業界との協力を構築し、ラ

べリング制度と共に輸出や販売事業者が添付するラベルのデータを収集するメカニズムを

構築、MEMR 省エネルギー局の関連機関として収集したデータを評価する機能を有する機

関を形成することが必要である。同様に、ガイドラインにリストとして記載された技術に

対する経済インセンティブの付与についても、同様の機能を有する独立機関が経済インセ

ンティブの付与から省エネルギー効果の検証を担うことが期待される

7.1.3. 新たな政策導入の検討

産業部門の分析から示唆として得られる通り、高効率技術の導入にあたっては、現行の

エネルギー管理制度に加え、日本で実施されるベンチマーク制度や自主行動プログラム、

ならびに経済インセンティブの付与等、様々な施策の実施が望まれる。特にベンチマーク

制度や自主行動プログラムなど、日本の場合は同業種内での高効率技術導入に関する知見

の水平展開が行われている点を事業者ごとに真摯な省エネルギー推進に向けた取組みに加

えて共有することも重要である。

7.1.4. 省エネルギー推進におけるエネルギー供給事業者の役割

長期的な視点から省エネルギーはインドネシアのエネルギー安全保障と地球温暖化対策

として有効な手段を提示し得る。前述の通り、費用対効果の観点からも長期的に省エネ分

を輸出に向けることにえられる便益が省エネ投資を上回る技術の導入に期待が寄せられる。

加えて、こうした技術の導入に向けエネルギー供給事業者の果たす役割は重要である。具

体的には、国営電力会社である PLN 社が電力販売として有する消費者との直接のコンタク

トを活用、省エネルギーアドバイスや高効率技術導入に関するリベート付与といった役割

を担うことが期待される。インドネシアにおける将来的な電力需要の拡大を見込み、発電

から送配電インフラの形成に必要な投資と省エネルギーへの投資の比較、将来的に必要と

なる負荷平準化に向けた対応としても高効率技術の導入を行うことは、PLN 社にとっても

経済合理性の高い投資となりうる点への認識が共有される必要がある。

関連した融資が実施されることになっている。

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7.2. 再生可能エネルギー

インドネシアの再生可能エネルギー導入拡大においては、地域差を考慮した促進策を検

討する必要がある。離島や遠隔地域においてはライフサイクルで見ると再生可能エネルギ

ー電源は経済性があるものの、高額な初期費用と、限られた導入実績は障壁である。他方、

ジャワ―バリ地域では、競合技術が安価な石炭火力発電であるため、再生可能エネルギー

プロジェクトの事業性を向上させるためには買取の保証や初期投資の低減に繋がる政策措

置が求められる。

7.2.1. 地方電力供給における再生可能エネルギーの導入拡大

5.2 に示した分析結果によると、地方の電力供給に再生可能エネルギー発電技術を活用す

ると、ライフサイクル総発電コストの低減が期待できる。2016 年 12 月に発表された地方電

化に関する新たな規則61でも、地元の再生可能エネルギー資源の活用が推奨されている。本

規則の実施では、地方電化における一定比率の再生可能エネルギーの導入を義務化するこ

とや、事業者への補助金(一定の利益率を保証するような発電コストと電気料金の差額)

を算出する際に利益率を再生可能エネルギーの利用と連動させるなどの再生可能エネルギ

ー利用促進の措置が考えられる。

本規則(MEMR Regulation No.38/2016)によると、マイクログリッド(1 カ所 50MW 以下)

による電力供給事業者には国営電力会社 PLN 社以外でも、他の事業団体が参入することが

できる。特に市民共同組合(cooperative)も地方の電力供給事業者として認められる。これ

は地元住民の協力を得る上で重要である。すなわち、電力供給システムの整備と持続可能

な電力供給事業の運営を維持するために、発電施設や送配電施設用の土地確保や、電気料

金徴収体制の立ち上げ等の課題を解決しなければならない。この意味で、地域に密着した

市民共同組合に電力供給事業に参入させることは、地方電化事業の円滑な推進に繋がると

考えられる。更に、地元のコミュニティで立ち上げられた共同組合が現地の電化事業を実

施することによって、地方の雇用創出効果も期待できる。

他方、電力供給事業を運営するために、専門知識が求められる。従って、地元の市民共

同組合が地方電化事業への参入を促進するために、技術面での政府サポートは不可欠であ

る。市民共同組合での電力供給事業の関係者を集めて、地方電化事業に係る技術や、金融、

プロジェクト企画管理、行政手続き等様々な課題をテーマにしたセミナの定期的な開催、

施設の運営管理を担当する技術者の専門家養成プログラムや、定期的な専門家の派遣など

支援措置が考えられる。

地方の電力供給における再生可能エネルギー利用拡大には、地方電化のみならず、既存

の地方電力供給におけるディーゼル発電の置き換えも推進すべきである。特に、近年太陽

61 MEMR Regulation No.38/2016

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光発電の設備コストが急速に低減しており、太陽光発電施設の設置も他の再生可能エネル

ギー発電技術より簡易であり、短期間で導入することができる。

前述(4.4.2)したように、限られた予算で電化を急ぐあまり、「安かろう、悪かろう」な

技術、例えば長期的に見れば安価な再生可能エネルギーよりも短期的に安価に購入できる

ディーゼル発電を選択してしまうかもしれない。第 5 章での試算によると、太陽光発電に

よる既存のディーゼル発電を置き換えるための初期投資は、設備導入後の 8~9 年目で回収

できると見込んでいる。従って、現在ディーゼル発電設備を所有している事業者に対して、

設備置き換えのための初期投資の回収年数をカバーするような長期融資スキームや、太陽

光発電設備費用の分割払いメカニズム等の支援措置を検討する価値がある。

7.2.2. 再生可能エネルギーのコスト競争力の向上について

再生可能エネルギー買取の新規則(MEMR Regulation No.12/2017)の実施に当たって、既

存電源の発電コストが安いジャワ―バリ地域における再生可能エネルギーの買取価格が大

幅に低下することが予想される。この地域においての再生可能エネルギーの利用拡大を促

進するためには、プロジェクトの事業性を向上させるための政策措置を導入する必要があ

る。買取価格が安くなっていくことに従って、更にプロジェクトのコスト低減に繋がる措

置が必要である。例えば、再生可能エネルギー事業者の資金調達コストを減らせるための

融資保証や 5.3.1 の分析対象でもある低金利融資等の制度化は一策として挙げられる。

他方、再生可能エネルギー買取の新規則が打ち出されても、これまでの固定価格買取(FIT)

制度は廃止されることとなっていない。FIT 制度は再生可能エネルギーの投資を促進するた

めの有効な政策措置である。なお、FIT 制度の円滑な施行を保証するために、off-taker であ

る国営電力会社 PLN 社に対し、FIT による発生した追加費用を回収できるような仕組みの

導入が必要である。ドイツや日本等では、FIT の追加費用を電気料金に上乗せし、一般電力

消費者がこれを負担する。インドネシアでは、電気料金が政府により設定され、消費者が

負担する仕組みになってはいない。しかしながら電気料金体制改革に伴い、PLN 社が非補

助対象62である消費者に課す電気料金を調整できるようになっている63。すなわち、石油価

格、ルピア対米ドルの為替レート、及び国内インフレ水準を変数にし、電気料金の調整額

を算定している。この調整メカニズムを活用し、例えば、電気料金調整の算定式に再生可

能エネルギーの買取費用を織り込まれることによって、新たな体制を作らなくても PLN 社

の費用回収が整えるような仕組みも考えられる。

62 非補助対象の消費者による電力需要は国営電力会社 PLN 社の全販売量の 66%前後占めている 63 http://energy-indonesia.com/04newarticle/0141205denki.pdf

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