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民間収益施設の併設・活用に係る官民連携事業 平成287 国土交通省 総合政策局

平成28年7月 国土交通省 総合政策局 - MLIT · (1) 対象とする日本版「資本のリサイクル」の考え方 本業務では、日本版「資本のリサイクル」の考え方として、以下のように整理する。

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民間収益施設の併設・活用に係る官民連携事業

事 例 集

平成28年 7 月

国土交通省 総合政策局

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民間収益施設の併設・活用に係る官民連携事業 事例集

- 目 次 -

はじめに ............................................................................................................................... 1

対象事例の抽出・整理 .......................................................................................................... 2

事例 01:豊島区新庁舎整備事業 ....................................................................................... 6

事例 02:大阪府営吹田高野台(1丁目)住宅民活プロジェクト ................................... 27

事例 03:県営上安住宅(仮称)整備事業 ...................................................................... 46

事例 04:小松市営川辺町住宅建替事業 .......................................................................... 63

事例 05:海の中道海浜公園海洋生態科学館 改修・運営事業 ...................................... 77

事例 06:大阪城公園パークマネジメント事業 ............................................................... 89

事例 07:大濠公園飲食店設置管理者公募 .................................................................... 110

事例 08:創エネルギー・廃棄物処理事業 .................................................................... 122

事例 09:箕面市立箕面駅前駐車場・駐輪場等再整備運営事業 .................................... 135

事例 10:指宿地域交流施設整備等事業 ........................................................................ 151

事例 11:函南「道の駅・川の駅」PFI 事業 ................................................................. 168

事例 12:八木駅南市有地活用事業 ............................................................................... 191

事例 13:藤枝駅周辺にぎわい再生拠点施設整備事業 ................................................... 212

事例 14:(仮称)紫波町交流促進センター(オガールプラザ)整備事業 ......................... 229

事例 15:新松戸地域学校跡地有効活用事業 ................................................................. 250

事例 16:出石小学校跡地整備事業 ............................................................................... 266

事例 17:東村山市本町地区プロジェクト .................................................................... 281

事例 18:安城市中心市街地拠点整備事業 .................................................................... 299

事例 19:流山おおたかの森駅前市有地活用事業 .......................................................... 319

事例 20:(仮称)国立女性教育会館公共施設等運営事業 ................................................ 337

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はじめに

国土交通省では、経済財政運営と改革の基本方針2014(平成26年6月24日閣議決定)、日本再

興戦略改訂2014(平成26年6月24日閣議決定)、PPP/PFIの抜本改革に向けたアクション

プラン(平成25年6月6日民間資金等活用事業推進会議決定)等を踏まえ、財政状況が厳しさを

増す中で、真に必要な社会資本の整備・維持更新を的確に進めるとともに、民間の事業機会の

拡大による経済成長を実現していくため、新たな官民連携(PPP/PFI)事業に係る具体

的な案件の形成等を推進しているところです。

そこで、官民連携事業を推進するに当たって、民間の創意工夫を 大限活用し、公共施設の

整備等の一層の効率化等を実現するため、民間収益施設の併設・活用など事業収入等で公共事

業費を一部回収する手法等、日本版「資本のリサイクル」の実現に向けた方策について検討す

ることにしました。

本事例集は、地方公共団体等の職員が、民間収益施設の併設・活用等の検討・実施を進める

にあたり参考とできるよう、先行して取り組まれた20事例に関する基礎情報やノウハウなどを、

関係者の協力の下、取りまとめたものです。

掲載事例は、可能な限り多様な事例に基づき検討を行うため、国土交通省の所管事業を中心

としつつ、一部他分野の事例も取り入れました。

今後、地方公共団体等において民間収益施設の併設・活用等を推進するにあたって、本事例

集が参考とされ、積極的に官民連携手法の活用が図られることになれば幸いです。

後に、本事例集の作成にあたって多大なご協力を頂いた地方公共団体等や民間事業者の皆

様には、この紙面を借りて御礼申し上げます。

平成28年7月

国土交通省 総合政策局 官民連携政策課

(注) 本事例集は、事業を実施した地方公共団体や当該事業に参画した民間事業者の立場から事業内容を紹介し

て頂いたものです。文中の一部に執筆者の考え方や意見が示されている部分がありますが、調査を実施した国土

交通省としての見解を示すものではありませんので、ご注意下さい。

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対象事例の抽出・整理

(1) 対象とする日本版「資本のリサイクル」の考え方

本業務では、日本版「資本のリサイクル」の考え方として、以下のように整理する。

・ 資本のリサイクルは、オーストラリアなどで提唱されている概念で、インフラを民営化やコンセ

ッション(公共施設等運営権)といった手法により民間に活用させ、それにより得られた資金で

新たなインフラ形成を図る仕組・取組とされている。

・ 本業務で整理する日本版「資本のリサイクル」は、資本のリサイクルをより広義に捉え、民間事

業者が民間収益施設の併設・活用等(公共施設等の整備・運営事業や公有財産の活用等)

により収益事業を実施し、その収益を公共へ還元する(公共の収入増・支出減に資する)、又

は公共サービス等へ再投資する仕組・取組とした。

■(参考)オーストラリアでの「資本のリサイクル」の考え方

「資本のリサイクル(asset recycling)」

は、オーストラリアなどで、インフラの整備・

運営に関する議論の中で、用いられている

概念である。基本的に、既存のインフラを民

間に活用させて収益を上げ、そこから得ら

れた資金を活用することにより、税収を上げ

たり起債(借入)をしたりせずに、新たなイン

フラを整備していくという考え方である。

資本のリサイクルは、前述のとおり、政府が

新たなインフラ資産を構築するために既存

のインフラ資産を民間に売却等により資金

を得ているものであるが、課題として、得ら

れた資金が実際にインフラの整備・運営に

直接活用されているとは限らない(実際、イ

ンフラ以外の別の用途に資金が活用されて

いるとの指摘もある)等が挙げられている。こ

れ ら の 解 決 策 の 一 つ と し て 、 B C A

(Business Council of Australia)は、SPV

(Special Purpose Vehicles)の設立等を示

唆しているようである。

【図表 1】 資本のリサイクルの仕組みのイメージ

(資料)THE CONVERSATION http://theconversation.

・上図は、インフラへの再投資を促す仕組みが示さ

れている。

・州が保有する資産を売却し、新たなインフラに再投

資する場合には、州は政府からその再投資額の一

定割合(15%)を受け取ることができるとされてい

る。支払いのプロセスは、2つの段階で行われ、支

払額の50%は、資産売却の手続きが始まり、インフ

ラ計画が開始されたときに支払われ、残りは、資産

を売却し、インフラプロジェクトが開始されたときに支

払われるとされている。

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(2) 民間収益施設の併設・活用等の考え方

本業務では、民間収益施設の併設・活用等の取組について、以下のように定義する。

① 公共施設等の整備・運営事業としての基幹事業*1自体が収益を生み出す事業で、その収益

の一部を公共へ還元している事業

② 基幹事業(公共施設等)と合築・併設した民間収益事業*2 が収益を生み出し、その収益の一

部を公共へ還元している事業

③ 公有地や公共施設等を活用した民間収益事業が収益を生み出し、その収益の一部を公共

へ還元している事業

*1 基幹事業 :公共施設等〔公共施設(道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、上下水道等)、公用施

設(庁舎、宿舎等)、公益的施設等(賃貸住宅、教育文化施設、廃棄物処理施設、医療

施設、社会福祉施設、駐車場等)、その他施設(情報通信施設、熱供給施設、新エネル

ギー施設、リサイクル施設、観光施設、研究施設、船舶、航空機等の輸送施設及び人工

衛星等)〕の整備・運営事業と定義する。

*2 民間収益事業:民間が収益を得るために実施する事業で、公共への収益還元(地代、運営権対価の支

払い等)がある事業と定義する。

【図表 2】 民間収益施設の併設・活用等の取組の考え方(基幹事業、民間収益事業)

基幹事業 基幹事業 民間収益

事業

民間収益

事業 (独立採算型) (独立採算型)

(混合型)

(サービス購入型)

公有地、公共施設等 公有地、公共施設等 公有地、公共施設等

●基幹事業(公共施設等)自体が

収益を生み出す独立採算事業

で、その収益の一部を公共へ還

元している事業

●基幹事業(公共施設等)と合築・

併設した民間収益事業が収益を

生み出し、その収益の一部を公

共へ還元している事業

●公有地や公共施設等を活用した

民間収益事業が収益を生み出

し、その収益の一部を公共へ還

元している事業

【主な収益の源泉】

基幹事業の収益性

公共施設等からの副産物(消化

ガス、余熱等)

【主な収益の源泉】

民間収益事業の収益性

基幹事業の収益性(一部)

公有地の価値(立地等)

公共施設等の集客力

【主な収益の源泉】

民間収益事業の収益性

公有地や公共施設等の価値(立

地等)

①基幹事業の収益を還元する取組 ②基幹事業や民間収益事業の収

益を還元する取組

③民間収益事業の収益を還元する

取組

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(3) 公共への還元の仕組みの整理

公共への還元の仕組みについて、国内で実施されている取組を踏まえ、以下のように分類・整

理する。

【図表 3】 公共への還元の仕組み

*1 直接還元 :直接的に公共に収入として帰属するもの。帰属先としては、一般会計、特別会計、基

金等が想定される。

*2 間接還元 :公共の収入自体にはならないものの、実質的には公共の財政支出の削減につながる

ものや、収益の一部を公共サービスの維持・向上に資する事業・取組に還元されている

もの。

還元の仕組み 事業実施方法等

直接還元

*1

❶土地等の対価

売却代金 普通財産として売却

借地料・貸付料〔売上連動、固定〕 行政財産・普通財産の貸付

占用料・使用料〔売上連動、固定〕 行政財産の占用・使用許可

❷運営権対価 〔売上連動、固定〕 運営権の設定

❸納付・負担金 〔売上連動、固定〕 個別契約による事業実施

❹配当金 株式会社等への出資

間接還元

*2

❺再投資 個別契約による事業実施

❻控除 〔売上連動、固定〕 個別契約による事業実施

❼利用者還元 〔利用料金値下げ、サービス向上〕 個別契約による事業実施

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本業務で詳細に調査した事例としては、事業実施により得られた収益を直接的に公共の収入

として帰属する事業や、公共事業・サービスの維持向上に資する施設の整備・維持等に再投資

するといった取組を中心とし、主に上記❶~❺の取組を対象とした。

本業務で対象とする事例は以下のとおりである。

【図表 4】 調査対象事例一覧

事業分野 事例 立地*1 還元方法*2

❶ ❷ ❸ ❹ ❺

庁舎 豊島区新庁舎整備事業・豊島区旧庁舎跡地

活用事業〔東京都豊島区〕

三大都市圏

(首都圏/東京都区部) ○

公営住宅 大阪府営吹田高野台(1丁目)住宅民活プロジ

ェクト〔大阪府〕 三大都市圏(近畿圏) ○

県営上安住宅整備事業〔広島県〕 地方圏 ○

小松市川辺町住宅建替事業〔小松市〕

地方圏 ○

都市公園 海の中道海浜公園海洋生態科学館改修・運

営事業〔国土交通省九州地方整備局〕 地方圏 ○ ○

大阪城公園パークマネジメント〔大阪市〕

三大都市圏

(近畿圏/大阪市) ○ ○

大濠公園飲食店設置管理者公募(公園施設

の設置管理許可制度を活用した事業)〔福岡

県〕

地方圏 ○

下水道 創エネルギー・廃棄物処理事業〔鹿沼市〕 三大都市圏(首都圏) ○

駐車場 箕面市立箕面駅前駐車場・駐輪場等再整備

運営事業〔箕面市〕 三大都市圏(近畿圏) ○ ○ ○

道の駅 指宿地域交流施設整備等事業〔指宿市〕 地方圏 ○

函南「道の駅・川の駅 PFI 事業〔静岡県函南

町〕 地方圏 ○

観光施設 八木駅南市有地活用事業〔橿原市〕 三大都市圏(近畿圏) ○

教育・

文化施設 藤枝駅周辺賑わい再生拠点〔藤枝市〕 地方圏 ○

まちづくり オガールプラザ整備事業〔岩手県紫波町〕 地方圏 ○ ○

新松戸地域学校跡地有効活用事業〔松戸市〕 三大都市圏(首都圏) ○

出石小学校跡地整備事業〔岡山市〕 地方圏 ○

東村山市本町地区プロジェクト〔東京都〕 三大都市圏(首都圏) ○

安城市中心市街地拠点整備事業〔安城市〕 三大都市圏(中京圏) ○

流山おおたかの森駅前市有地活用事業〔流山

市〕 三大都市圏(首都圏) ○

その他 国立女性教育会館公共施設等運営事業〔独

立行政法人国立女性教育会館〕 三大都市圏(首都圏) ○

*1:網掛けは大都市部である東京都区部と大阪市の事例を示したもの。本業務の調査対象としては、基本的には大

都市中心部以外の事例を中心に抽出している。

*2:還元方法パターンとして、前述した❶土地等の対価、❷運営権対価、❸納付・負担金、❹配当金、❺再投資の

5 つのパターンに対応している。

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事例 01:豊島区新庁舎整備事業

事業分野:庁舎

事例 01:豊島区新庁舎整備事業 (南池袋⼆丁⽬ A 地区第⼀種市街地再開発事業による新庁舎整備)

豊島区旧庁舎跡地活⽤事業 事業場所

新庁舎整備 : 豊島区南池袋二丁目45・46 番地(一部) 旧庁舎跡地活用 : 豊島区東池袋一丁目18 番、19 番

公共主体 豊島区 民間主体

新庁舎整備事業:南池袋二丁目A地区市街地再開発組合

旧庁舎地活用事業:東京建物(株)を代表企業とするグルーープ

施設概要

公共施設

新庁舎整備事業 : ・庁舎、駐車場・駐輪場 旧庁舎跡地活用事業 : ・新ホール

民間施設

新庁舎整備事業 : ・店舗、事務所、共同住宅、駐車場 旧庁舎跡地活用事業 : ・オフィス、カンファレンスホール、シネマコンプレックス、飲食・物販店舗 ・劇場、飲食店舗

事業実施段階 新庁舎整備事業 : 供用開始済 旧庁舎地活用事業 : 事業者選定済(供用開始未済)

事業手法 新庁舎整備事業 : 第一種市街地再開発事業 旧庁舎地活用事業 : 定期借地権

公共への還元 新庁舎整備事業 : ― 旧庁舎地活用事業 : 土地等の対価(借地料・貸付料) 〔191 億円(一括前払い地代)〕

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、豊島区が新庁舎の整備を目的として、第一種市街地再開発事業に参画し、市街地再

開発組合が官民複合施設として整備し、新庁舎として権利床及び保留床の一部を取得し、官民

複合施設として整備したものである。

➤ また、豊島区は、旧庁舎敷地と公会堂敷地に定期借地権を設定して民間事業者に貸し付ける。

民間事業者は民間施設とともに新ホールを整備し、ホール部分は豊島区が買い取るものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 豊島区は、市街地再開発事業の対象区域に立地する旧小学校及び旧児童館の土地と建物によ

り権利床約 10,700 ㎡を得た。また、新庁舎に必要な専有面積約 25,500 ㎡に対して不足する約

14,800 ㎡は再開発組合から保留床として購入し、その対価等として約 136 億円を支払った。

➤ 豊島区は、旧庁舎敷地等の定期借地権設定に伴う対価として、一括前払い地代約 191 億円を受

け取り、新庁舎整備費用や旧庁舎解体費用等に充当するスキームとなっている。

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● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 民間収益施設に対する需要の高さ

・新庁舎整備における民間収益施設は主に分譲マンションであるが、立地場所の利便性、公共施

設との併設による安心感等の希少性から高い人気であった。

・旧庁舎跡地活用における民間収益施設は主にオフィスであるが、新規供給量が少ない地域であ

ること、立地場所の利便性等から需要は高いと見込まれている。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 財政負担を抑制した上での新庁舎整備に対する強い認識

・豊島区の新庁舎整備についての検討は、バブル崩壊により頓挫してしまい、施設整備費の捻出

にめどが立たなくなった。そのため、本新舎整備にあたっては、財政負担の抑制が強く求められ

ていた。

・旧庁舎敷地等については、定期借地権の設定による地代を上記の新庁舎整備費用の財源に充

当することと、池袋駅東口から約 300m という立地を生かして文化にぎわい拠点として整備するこ

とが強く求められていた。

◇ 官民間コミュニケーションの特徴・工夫

➤ 豊島区からの官民間コミュニケーションの実施

・旧庁舎敷地等については、豊島区が事業者公募前にアンケート形式や面談を通じて、民間事業

者に対して積極的に事業内容の周知を図り、民間事業者の意見を募集要項等に反映した。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 再開発事業のノウハウを持った担当者を配置

・豊島区は再開発事業や公有地活用のノウハウを持った職員を配置した。

・旧庁舎跡地活用事業では、新庁舎整備事業の担当者を配置した。

・新庁舎整備事業については、再開発事業の事業協力者のノウハウが活用できた。

● 効果

➤ 新たな財政負担ゼロでの新庁舎整備

・豊島区は、区有地を有効活用することにより、実質的には財政負担ゼロで新庁舎の整備が可能

となった。

➤ 中心市街地(旧庁舎跡地)における賑わいの創出

・官民複合施設により、土日、平日とも、賑わいが創出され、地域経済への効果も大きい。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 新庁舎整備事業実施の背景

・豊島区(以下「区」という。)では、昭和36年に建設された本庁舎の老朽化が著しく、窓口も分散し

ているなど、その改善が求められていたが、財政上の課題があり、長年に亘って区政の大きな課

題となっていた。

・平成 20 年 9 月には、現庁舎地(以下「旧庁舎跡地等」という。)の一部民間活用を図ることを前提

に、財政負担が小さく、使い勝手がよい南池袋二丁目地区の市街地再開発事業で新庁舎を整

備するとした「新庁舎整備の検討のまとめ(整備方針)」が策定された。

・その後、平成 21 年 11 月の「新庁舎整備基本計画」策定、平成 22 年 1 月の「南池袋二丁目地区

市街地再開発組合」設立、平成 23 年 4 月の「権利変換計画」認可、平成 24 年 2 月の本体工事

着工等を経て、平成 27 年 5 月に新庁舎開設となった。

イ 旧庁舎跡地活用事業における官民連携手法導入の背景

・区の財政状況が悪かったため、旧庁舎跡地の活用に関する検討は平成 15 年の公共施設の再

構築に関する検討の際から検討されていた。平成 18 年 5 月の「新庁舎整備の検討のまとめ-整

備方針(素案)—」でも、新庁舎整備場所は未決定であったが、新庁舎整備にあたって旧庁舎跡

地を活用することは既に想定されていた。その後、平成 20 年 9 月の「新庁舎整備の検討のまとめ

-整備方針-」では、新庁舎整備場所を旧日出小学校跡地等とすること、庁舎跡地を定期借地

権方式で活用することが決定された。

・平成 26 年 3 月の事業者公募プロポーザル実施要項の公表、平成 27 年 3 月の優先交渉権者選

定を経て、平成 27 年 7 月に基本協定、平成 28 年 3 月に定期借地権設定契約(地代一括受領)

及び既存建物無償譲渡契約を締結した。平成 31 年春頃に新ホール竣工、平成 32 年春頃に民

間施設竣工となる予定である。

・検討の過程では、土地信託や PFI 等の手法も検討されたが、庁舎整備費を一括して調達する方

法としては定期借地権方式が も確実と判断された。平成 17 年 1 月に国税庁から「定期借地権

の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」

が示され、民間事業者における税務上の処理が明確になっていたことも大きい。

ウ 民間事業者の応募の背景

・新庁舎整備事業については、平成 21 年 4 月に再開発事業の参加組合員予定者として事業協力

者の選定が行われ、(一財)首都圏不燃建築公社及び東京建物(株)が選定された。

・旧庁舎跡地活用事業については、平成 26 年 3 月に公表されたプロポーザルの結果、東京建物

(株)を代表とし、(株)サンケイビルと鹿島建設(株)を構成員とするグループが選定された。

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(2) 事業概要

ア 施設概要

・新庁舎整備事業の対象地と旧庁舎跡地活用事業の対象地は、ともに池袋駅東口に立地する。

区では、両対象地を活用してダンベル型の魅力的な動線を整備し、池袋全体の回遊性を高める

ことを検討している。

図表 位置図

出典:豊島区公表資料

・新庁舎整備事業では、敷地面積約 8,324 ㎡に地下 3 階・地上 49 階・塔屋 2 階の住宅、庁舎、

店舗、事務所、駐車場からなる官民複合施設(RC 造・SRC 造(一部 S 造))を整備する。新庁舎

は、建物の 1 階の一部及び 3~9 階(専有部分約 25,500 ㎡)と駐車場・駐輪場(専有部分約

1,100 ㎡)である。民間施設は、建物の 1~2 階が店舗・事務所、11~49 階が住宅(432 戸。ただ

し非分譲住宅 110 戸を含む。)である。

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図表 施設概要(新庁舎整備事業)

公共施設 ■新庁舎 ・地上1階の一部、3~9階 ・庁舎専有部 約 25,500 ㎡ その他 共有部持分比率換算面積約 8,100 ㎡所有

■駐車場・駐輪場 ・約 1,100 ㎡

民間施設 ■店舗・事務所 ・地上 1~2 階 ■共同住宅 ・地上 11~49 階 ■駐車場 ・地下 1 階~地上 2 階部分 (計約 68,800 ㎡)

出典:豊島区資料に基づき作成

図表 外観(新庁舎整備事業)

出典:南池袋二丁目A地区第一種市街地再開発組合ホームページ

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・旧庁舎跡地活用事業では、2 敷地合計面積 6,603.26 ㎡に、地上 33 階、延床面積約 68,700 ㎡

のオフィス、カンファレンスホール、シネマコンプレックス、店舗からなる民間施設と、地上 8 階、延

床面積約 10,900 ㎡の新ホール、劇場、店舗等からなる官民複合施設を整備する。なお、隣接す

る区民センター・生活産業プラザ用地では、区が従来手法で新区民センター等を整備する予定

になっている。

図表 施設概要(旧庁舎跡地活用事業)

A 敷地

(旧本庁舎跡地)

B 敷地

(旧分庁舎・公会堂跡地)

主な施設用途 オフィス、カンファレンスホール、シネ

マコンプレックス、店舗 新ホール(区所有)、 ライブ劇場、店舗

容積率 約 1,686% 約 314%

延床面積 約 68,700 ㎡ 約 10,900 ㎡

再考高さ・階数 約 158m 33 階 約 41m 8 階

竣工予定時期 平成 32 年春 平成 31 年春 出典:豊島区資料に基づき作成

図表 外観(旧庁舎跡地活用事業)

出典:豊島区公表資料

イ 事業方式

・新庁舎整備事業の事業方式は、第一種市街地再開発事業である。施行者は南池袋二丁目 A 地

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区市街地再開発組合(以下「再開発組合」という。)で、区は組合員となっている。参加組合員は、

再開発準備組合以前から事業協力を行っていた(一財)首都圏不燃建築公社と、プロポーザルで

選定された東京建物(株)となっている。

・(一財)首都圏不燃建築公社は、事業協力者として、再開発準備組合及び再開発組合においても

事務局業務を担当した。

・旧庁舎跡地活用事業の事業方式は、定期借地権方式である。具体的には、区が 2 敷地に定期

借地権を設定して民間事業者に貸し付け、地代を一括前払いで受け取る。また、民間事業者が

新ホールを整備し、区が取得して区分所有する。

ウ 事業期間

・新庁舎整備事業については、平成 22 年 8 月の事業計画認可から平成 27 年 5 月の新庁舎開設

を経て、平成 28 年度に再開発組合は解散する予定であり、事業認可から再開発組合解散まで

は約 7 年である。

・旧庁舎跡地活用事業については、平成 27 年 7 月の基本協定締結を経て、平成 28 年 3 月に定

期借地権設定契約等の締結し、土地と既存建物の引渡しを行い、平成 104 年に定期借地が終了

する。定期借地権設定期間は 76 年 6 か月である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・新庁舎整備事業における民間収益の公共への金銭面での直接的な還元はないが、再開発事業

による保有資産価値の向上等といった副次的な還元はある。

・旧庁舎跡地活用事業における民間収益の公共への還元の方法は、区有地への定期借地権設

定による借地料であり、区は定期借地権設定契約締結とともに、一括前払い地代(191 億円)と保

証金(6.3 億円)を受け取った。

・旧庁舎跡地活用事業における定期借地権設定契約は、区と東京建物とサンケイビルが連名で締

結する。借地料については、JV の代表企業である東京建物が 2 社分をまとめて区に支払った。

・民間事業者が投資法人等を活用する場合には、区が承諾すれば可能とされている。しかし、現

段階では官民双方とも、投資法人等の活用は想定していない。区としては 、民間事業者からは

責任を持って事業を実施するという表明を提案時に受けていることと、本事業の対象地は区政発

祥の地であり、池袋のまちづくりにおいて重要であることなどから、積極的に転貸を認めることは

考えていない。

・なお、旧庁舎跡地活用事業では、特別目的会社(以下「SPC」という。)の設立は任意提案とされ

ており、選定された民間事業者からは SPC の活用は提案されていない。

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図表 事業スキーム図

※補助金は、 終的に区からの支出であるが、約半分は国費、残りの

半分は都市計画交付金・都区財政調整交付金で措置される。

出典:豊島区公表資料、豊島区及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・財政調整基金と公共施設等再構築基金等に帰属する。

・区は新庁舎保留床購入費支払いに、財政調整基金から 110 億円、公共施設等再構築基金から

豊島区

民有地(持ち分)

不動産会社

保留床購入費 【約 136 億円】

地代 【191 億円】

(一括前払い) 保証金

【6.3 億円】

事業者グループ

施設買取代 【約 77 億円】

建設会社

解体費 【8 億円】

区有地

再開発事業 補助金

【約 106 億円】 ※

区有地(持ち分)

劇場、飲食店舗

オフィス、カンファレンスホール、シネマコンプレックス、飲食・物販店舗

民間施設【定期借地権】

市街地再開発組合

民間施設

増床負担金

【約 11 億円】

旧庁舎跡地活用事業 新庁舎整備事業

整備費

【不明】

公共施設

庁舎

分譲 マンション等

公共施設

新ホール

民間施設

参加組合員

負担金

【約 181 億円】

借家料

【不明】

施設整備段階

運営段階

総事業費

【約 434 億円】

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25.9 億円を支出している。そのため、区が旧庁舎跡地活用事業において受領した一括前払い地

代は、両基金に積み立てるとともに、旧庁舎等解体費に充当される計画である。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・新庁舎整備事業は、施設管理部庁舎建設室が担当している。

・同課は平成 17 年に設置され、8 人で担当している(平成 26 年度・他に担当部長 1 名)。同事業

の担当者数の推移は次のとおりである。

・権利変換計画に伴う第三者評価を外部に委託している。委託先は、(一財)日本不動産研究所

である。

・旧庁舎跡地活用事業は、施設管理部庁舎跡地活用課(旧 特命政策担当部現庁舎地活用担当

課)が担当している。

・平成 17 年度から平成 24 年度までは、庁舎建設室において同事業を検討していたが、事業スキ

ームが決まり、募集要項等を作成する段階である平成 25 年 4 月に新たな組織が設置され、5 人

で担当している。同事業の担当者数の推移は次のとおりである。

・区は、事業スキーム等に関する助言業務を(一財)日本不動産研究所に、ホールに関する助言

業務を(有)空間創造研究所に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・旧庁舎跡地活用事業の対象地は、従前は行政財産であったが、定期借地権設定時には普通財

産となっている。

イ 規制の変更等

・新庁舎整備事業の対象地は、第一種住居地域であり、容積率は 300%にとどまっていたが、東

京都の「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」を活用して、平成 16 年 12 月に容積率を 850%

まで引き上げることが可能だということが明確にされ、その上で平成 24 年 3 月の地区計画におい

て容積率 800%まで引き上げられた。

・旧庁舎跡地用事業では、選定された民間事業者の提案で、B敷地からA敷地に容積の移転が行

われているが、これは既存の総合設計と一団地認定の制度を活用して行われたものである。

・なお、池袋駅周辺は特定都市再生緊急整備地域に指定され、仕組みとしては容積率割増も可

能であるが、この仕組みを活用すると施設整備が 2 年は遅れると見込まれている。しかし、区は、

新庁舎整備費用の財源確保、老朽化したホールの建て替え、東京オリンピック前の施設整備完

了を目標としているため、その仕組みは活用しなかった。

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(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・旧庁舎跡地活用事業では、平成25年1月に、区の庁舎建設室が民間事業者に対してアンケート

調査を実施した。本事業への関心の有無等を確認する内容で、形式的にはアンケートであるが、

本事業の売り込みを意図したものである。

・平成 25 年夏に、区の現庁舎地活用担当課が民間事業者 300 社程度に対してアンケート調査を

実施した。こちらも形式的にはアンケートであるが、本事業の売り込みを意図したものである。加え

て、ヒアリングを 30~50 社に対して実施した。

・旧庁舎跡地活用事業については、立地場所がよいため、区は初期の段階では特に民間事業者

への売り込みは行っていなかったが、区長から積極的に民間事業者に対して売り込んでいくこと

を指示されたため、民間事業者に対して積極的にヒアリングやプロモーションを行った。

・ここで得られた民間事業者からの様々な意見を踏まえて、区は募集要項を作成した。

イ 民間発案の有無

・両事業とも、民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・新庁舎整備事業の事業用地は、JR 池袋駅の南東約 570m に位置し、東京メトロ有楽町線東池

袋駅やサンシャインシティから地下通路で直結している。従前は、旧日出小学校と旧南池袋児童

館が立地していた。それらの権利変換により、区は権利床として再開発ビルの約 10,700 ㎡を取

得した。

・平成18年5月の方針(素案)で示されているが、事業用地は利便性もあり、庁舎移転によりまちづ

くりが進むというメリットもあると評価された。

・旧庁舎跡地活用事業の対象地は、JR 池袋駅東口から約 300m に位置している。平成 27 年 5

月の新庁舎開設以前は区役所等として利用されていた。池袋副都心の発展に向けて、重要な役

割と大きな可能性を持つ場所に位置している。

・旧庁舎跡地についても、民間事業者からはオフィス、住宅、シネコン、飲食・物販施設としてのポ

テンシャルがあるとの声が聞かれ、様々なポテンシャルを有する土地と評価されている。オフィス

需要については、池袋は副都心と位置づけられているか近年オフィスの新規供給が少なく、空室

率も低いため、そのポテンシャルは高いと考えられている。

イ 施設要件及び業務内容

・旧庁舎跡地活用事業では、区と選定された民間事業者が新ホールの施設計画の詳細を協議し、

合意後、新ホールに係る建物売買契約を締結することになっている。新ホールは、「文化創造都

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市」のシンボルや「文化創造の拠点」となることが期待されており、施設構成としては次の事項が

示されている。

図表 施設構成(旧庁舎跡地活用事業の新ホール)

エリア 主な想定諸室

ホールエリア ・客席(1,300 席)、舞台、ホールホワイエ、楽屋、各調整室、搬入口・荷捌

き、楽屋口・楽屋事務室、楽屋倉庫等

管理エリア ・ホール事務室、事務室倉庫等

共用エリア ・エントランスホール/エントランスロビー等 出典:豊島区公表資料に基づき作成

・新ホールの規模については文化商工部が検討を行い、当初は 800 席程度のものを検討していた

が、平成 25 年度に 1,300 席程度に変更されている。

・また、同事業での民間施設の整備にあたっては、旧庁舎周辺のまちづくりに寄与する計画とする

こと、高度利用を図ること、にぎわいあふれる都市機能を導入することなどが求められている。民

間施設に対する主な要求水準は次のとおりである。

図表 民間施設に関する主な要求水準

要求事項 概要

現庁舎地周辺のま

ちづくりに関する事

・東池袋エリアの将来像や現庁舎地の位置づけを十分に理解のうえ、本事

業に反映させてください。 ・「現庁舎周辺まちづくりビジョン」を十分に踏まえ、現庁舎地周辺のまちづく

りに寄与する計画としてください。

全体の施設計画に

関する事項 ・A・B敷地の敷地活用にあたっては、都市開発諸制度を効率的に活用し、

土地の効用を 大限引き出すとともに、総合的な配慮により高度利用を図

るよう努めてください。 ・新ホールと民間施設の配置計画については、各施設機能の連携及び相乗

効果が期待でき、街のにぎわい創出に貢献できるよう、効果的な機能配置

としてください。

民間施設計画に関

する事項 ・当該地区の地区計画に基づき、にぎわいあふれる都市機能を導入してくだ

さい。 ・建物低層部への施設機能導入については、新ホールや周辺に展開される

民間店舗等との連携が図られ、まちの回遊性を高めるきっかけとなる施設

機能を導入してください。 ・また、A・B各敷地の建物低層部における施設導入にあたっては、池袋のも

つ個性を活かした、集客性が高く、にぎわい創出の効果が期待できる施設

(新ホールとは別のにぎわい施設)を、連続性を確保しつつ導入してくださ

い。 ・B敷地については、A敷地にかかる「池袋駅周辺・主要街路沿道エリア地

区計画」に準拠した計画としてください。なお、各敷地とも建築基準法第 48

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条第 5 項別表第 2(ほ)項第二号に掲げる建築物は避けてください。 出典:豊島区公表資料に基づき作成

・基本的には、高度利用を図った上で、にぎわいの創出を行うことが求められている。

・新ホール以外の施設については民間事業者の自由度が高く、民間事業者のノウハウを積極的に

活用できると考えられている。

ウ 事業期間

・新庁舎整備事業の事業期間は、平成 22 年 8 月の事業計画認可から平成 27 年 5 月の新庁舎

開設を経て、平成 28 年度に再開発組合は解散する予定であることから、事業認可から再開発組

合解散までは約 6 年である。

・旧庁舎跡地活用事業の事業期間は、平成 27 年 7 月の基本協定締結を踏まえて、平成 28 年 3

月に定期借地権設定契約を締結し、同月に土地の引渡しを行い、平成 104 年が定期借地権終

了となっており、定期借地権設定期間は 76 年 6 か月となる。

・旧庁舎跡地活用事業のプロポーザルでは、土地の貸付期間は施設運用期間 50 年以上 70 年以

下で、その前後の建築・解体期間を加えたうえで、民間事業者の提案とされた。選定された民間

事業者からの提案により、施設運用期間を 70 年、貸付期間を 76 年 6 か月とした。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 地代

・区は、民間事業者から、旧庁舎敷地等の定期借地権設定に伴う対価として、一括前払い地代を

受け取るほか、保証金も受け取る。

・旧庁舎跡地活用事業の地代については、区から一括前払い地代の目標額は示されているが、具

体的な単価は示されていない。

・区は、不動産鑑定を定期借地権設定契約締結前に実施したが、その鑑定結果は民間事業者の

提案した価格よりも低かった。鑑定結果の方が実際の価格より高い場合には、地方自治法上、契

約締結には区議会の議決が必要となる。本事業では、この件での議決は不要であったが、政策

的な重要性にかんがみ、区条例により「5,000 ㎡以上の定期借地権の設定」を議決事件とし、区

議会に付議し、議決を得た。

オ 参加条件

・旧庁舎跡地活用事業では、設計事業者、建設事業者、工事監理事業者、定期借地権者、不動

産開発事業者、民間施設等のマネジメント事業者について、参加条件が規定されている。このう

ち、不動産開発事業者については、過去 10 年以内に民間施設に係る提案規模と同等以上の延

床面積を有する業務・商業施設等を含む複合施設の不動産開発業務の実績を有することが求め

られている。

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カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

新庁舎整備事業 公共施設の再構築・区有財産の活用案 (素案の修正)

平成 15 年 10 月

開発事業協議会設立 平成 16 年 9 月 街並み再生地区指定

(東京のしゃれた街並みづくり推進条例) 平成 16 年 12 月

市街地再開発準備組合設立 平成 18 年 3 月 新庁舎整備方針(素案)公表

区が市街地再開発準備組合に加入 平成 18 年 5 月

新庁舎整備方針策定 平成 20 年 9 月 都市計画決定

(地区計画・第一種市街地再開発事業) 平成 21 年 7 月

新庁舎整備基本計画策定 平成 21 年 11 月 市街地再開発組合設立 平成 22 年 1 月 事業計画認可 平成 22 年 8 月 新庁舎整備推進計画策定 平成 22 年 11 月 庁舎位置変更条例可決 平成 22 年 12 月 定款・事業計画変更認可 平成 23 年 2 月 権利変換計画認可 平成 23 年 4 月 施設建築物工事着工 平成 24 年 2 月 都市計画変更

(地区計画・第一種市街地再開発事業) 平成 24 年 3 月

竣工 平成 27 年 3 月 新庁舎開設 平成 27 年 5 月 市街地再開発組合解散認可 平成 28 年 9 月(予定)

旧庁舎跡地活用事 実施要項公表 平成 26 年 3 月 業 参加表明 平成 26 年 5 月 審査委員会の設置 平成 26 年 7 月 審査項目及び配点の通知 平成 26 年 10 月 提案書の提出 平成 27 年 1 月 プレゼンテーション 平成 27 年 2 月 優先交渉権者の決定 平成 26 年 3 月 基本協定締結 平成 27 年 7 月 既存施設無償譲渡契約締結 平成 28 年 3 月 定期借地権設定契約締結(地代一括受領) 平成 28 年 3 月 既存施設の解体・撤去工事 平成 28 年 4 月

~12 月(予定)

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新ホール棟竣工 平成 31 年春(予定) オフィス棟竣工 平成 32 年春(予定) 定期借地権設定契約の終了 平成 104 年 9 月(予定)

出典:豊島区資料に基づき作成

キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・新庁舎整備事業の民間施設の中心は分譲マンションである。対象地における分譲マンションの

需要変動リスクは、主にマンション販売会社(東京建物(株)、(一財)首都圏不燃建築公社)が負

担している。しかし、対象地でのマンション需要は底堅く、その需要変動リスクの顕在化の可能性

は一般的には低いと想定されている。しかし、一般のマンション事業に比べて再開発事業は時間

を要するため、市況変動の影響を受けやすく、民間事業者においては一定のリスクがある事業と

評価されている。

・旧庁舎跡地活用事業の民間施設の中心はオフィスである。対象地におけるオフィスの需要変動リ

スクは、主に不動産会社(定期借地権者)が負担している。しかし、対象地でのオフィス需要は高

いと想定されており、その需要変動リスクの顕在化の可能性は低いと想定されていた。

(イ) 民間施設利用料金を変更する場合

・新庁舎整備事業も旧庁舎跡地活用事業も、民間施設の利用料金や販売料金の設定は民間事

業者の自由となっている。

(ウ) 地代を変更する場合

・旧庁舎跡地活用事業では、提案書の提出日から 12 ヵ月を経過した時点で、土地価格の変動そ

の他社会経済事情の変動等により、一括前払い地代に係る提案額が不適当となったときは、区と

優先交渉権者は、互いに地代の増減請求を行うことができる。ただし、定期借地権設定契約締結

後の借地期間内における地代の増減請求は認められていない。このため、同事業における地代

変更リスクは、基本的には民間事業者が負担していると考えられる。

(エ) 事業収支が悪化した場合

・新庁舎整備事業では、民間事業者が保留床取得後に経済環境の変化等があり、計画通りにマン

ション販売等ができなかった場合のリスクは、当該民間事業者が負担することになっている。

・旧庁舎跡地活用事業では、民間事業者が定期借地権設定契約締結後に経済環境の変化等が

あり、計画通りにオフィス賃貸等ができなかった場合のリスクは、当該民間事業者が負担すること

になっている。その場合、書面による区の承諾を得れば、民間事業者は定期借地権を第三者に

譲渡して、早期に資金回収を図ることも可能となっている。

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(オ) 契約上の地位の譲渡等

・旧庁舎跡地活用事業では、民間事業者が、やむを得ない事情によって民間施設における地位

又は権利義務を第三者に対して譲渡等を行う場合には、事前に区の書面による承諾を得ることが

求められている。

ク 事業終了時の取扱い

・旧庁舎跡地活用事業では、定期借地権終了時には原則更地返還としているが、建物等の取扱

いについて施設運用期間終了 5 年前から協議することになっている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・旧庁舎跡地活用事業では、事業計画に関する提案と資金面の提案(一括前払い地代の提案額

及び新ホールの提案額)の 2 つの面から評価が行われた。

・審査項目は、資金面だけでなく、賑わいの創出を誘導するような内容になっている。具体的には

次のような配点になっている。

図表 審査項目

審査の視点 配点

事業計画面(小計) 60 点

池袋東エリアのまちづくり 5 点

現庁舎地活用の基本的な考え方

A・B 両敷地の全体計画 20 点

低層部のにぎわい創出の関する計画 15 点

新ホールに関する計画(専有部) 10 点

民間施設に関する計画 5 点

安定的な推進体制(竣工まで) 5 点

全体施設の運営期間中における権利形態、管理運営体制

資金面(小計) 40 点

一括前払い地代と新ホール買取額との差額 30 点

新ホール買取額 10 点

にぎわいの創出等で特に優れた提案がある場合(加算点) 10 点

合計点 110 点 出典:豊島区公表資料に基づき作成

・旧庁舎跡地活用事業の一括前払い地代の提案額について、実施要項では、一括前払い地代に

係る区の目標額は 141 億円(新庁舎の保留床購入費等:約 136 億円、既存施設の解体・撤去費

用:約 5 億円)と示されている。

・民間事業者においても、資金面の提案よりも事業計画や賑わいの創出等の提案の評価割合が

高く、一括前払い地代の金額だけでは選定されないと考えられた。

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イ 選定事業者の提案内容と評価

・旧庁舎跡地活用事業には、8 グループから参加表明があり、6 グループが提案書を提出した。審

査の結果、東京建物(株)を代表とし、(株)サンケイビルと鹿島建設(株)を構成員とするグループが

選定された。

・優先交渉権者の提案は、開発コンセプトとして「誰もが輝く劇場都市」を掲げ、次のような考え方

で提案されている。

図表 優先交渉権者の基本的な考え方

副都心の中核を担う

ビジネスの舞台 ・池袋の新たなランドマークとなる高規格・大規模オフィスが、副都心の骨

格を形成するビジネス拠点を創出(オフィス延面積約 48,000 ㎡)

文化と賑わいの舞台 ・池袋で生まれ・育った様々な文化を、公園を囲む日本 大級となる収容

人数約 5,000 人の「7つの“劇場”」から世界に向けて発信 ・ 先端アート・カルチャーから伝統芸能まで、多彩なジャンルが 365 日

演じられる「7つの“劇場”」と、公園・ストリートが一体となった劇場空間が、

圧倒的なにぎわいを創出

エリアマネジメントの

舞台 ・国内を代表する企業グループが行うエリアマネジメントにより、エリアの価

値を 大化し、世界における「国際アート・カルチャー都市」の地位を確

固たるものとする 出典:豊島区公表資料に基づき作成

(6) モニタリング方法と実施状況

・旧庁舎跡地活用事業では、設計、施工、工事監理の各段階でモニタリングを行うものとしている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況

・旧庁舎跡地活用事業では、賑わいの創出(回遊性のひろがり)、文化拠点の創出(新ホールの整

備)、新庁舎整備費の財源を生み出すという 3 つの目標を立てていたが、いずれも計画の段階に

おいては達成できたと考えており、現在はその実行に向けて民間事業者と協議を重ねている。

イ 事業収支状況

(ア) 新庁舎整備事業

・一般に分譲マンション事業では、民間事業者は、売上から費用を引いた粗利が一定水準以上と

なることを目標としている。

・新庁舎上のマンションは平成 24 年 7 月の売り出しから、約 8 週間で完売となった。庁舎やその周

辺には様々な人が訪れるため、本マンションの販売前までは、庁舎と合築されたマンションを不安

視されることも想定されていた。しかし、平成 23 年 3 月の東日本大震災で地盤や構造の安定性が

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注目されたため、区庁舎と合築で躯体がしっかりとしていることから買い手に安心感があり、交通

利便性の良さと合わせ、また、マスコミに早くから取り上げられ、建物デザインも注目されていたこ

とから、高い評価に結びついたと考えられている。

(イ) 旧庁舎跡地活用事業

・一般にオフィスビル事業では、民間事業者は、基本的にはキャップレート(不動産の純収益(NOI、

総家賃収入から管理費や修繕費などを控除したもの)を不動産価格で除した率)が一定水準以

上となることを目標としている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

(ア) 旧庁舎跡地活用事業

・選定された事業者の提案に基づくと、旧庁舎跡地活用事業による集客力は約 650 万人/年(7 つ

の劇場その他賑わい施設の集客人員 300 万人+オフィスの集客人員 350 万人)、経済波及効果

(豊島区全域)は約 270 億円/年と想定されている。

・区が掲げている「国際アート・カルチャー都市構想」とも合致するとされている。

イ 課題

・公共事業との比較、官民連携手法を導入する目的が求められる。本事業では土地の有効利用の

点で官民連携手法が優れていると考えられている。

(3) 事業に対する評価

・議会では、民活反対、新ホール不要という反対派は少数であり、事業を推進する意見が多い。

・周辺住民の間では、本事業により、サンシャイン60の整備以降、本格的にまちづくりが動き出すと

いう期待が大きい。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

ア 事業用地の立地場所のよさ

・新庁舎整備事業が成功したのは、対象地が駅から近いこと、容積率が 800%まで拡大されて高度

利用が可能となったこと、そして地権者全員同意により、大地権者である豊島区も再開発事業の

事業推進を積極的に支援したことなどによると考えられている。

また、同様の事業を実施する場合は、検討の負担が大きく、他の権利者との共同事業であり、ス

ケジュールが不安定であることや保留床の売却が事業成立のカギとなることなどから、マンション

需要が高く、高度利用が可能な地域であることなどが必要で、場所は限定されると考えられてい

る。

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イ 地方公共団体の取組の本気度

・民間事業者に真剣に考えてもらうためには、公共が事業に対する本気度を示すことが必要である

と考えられている。官民間で意見交換した際にも、区の取組の本気度について民間事業者から

確認された。

・民間事業者に対して公共から積極的に事業を売り込むことが必要であると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 豊島区新庁舎整備事業

(南池袋二丁目 A 地区第一種市街地再開発事業)

事業分野 庁舎

発注者 南池袋二丁目 A 地区市街地再開発組合

施設概要

施設内容 施設全体:庁舎、店舗、事務所、共同住宅(432 戸)、駐車場

施設規模

施設全体:SRC 造・RC 造・S 造、地下 3 階/地上 49 階、延床面積

約 94,681 ㎡

(うち、庁舎部分は 1 階の一部と 3 階から 9 階、延床面積約 25,573

㎡、他に駐車場と駐輪場あり)

事業場所 東京都豊島区南池袋 2 丁目 45 番、46 番(一部)

寄駅:東京メトロ有楽町線東池袋駅直結(徒歩 1 分)

事業概要 事業概要 庁舎

民間収益施設 店舗、事務所、共同住宅、駐車場

事業

スキーム等

事業期間 -

事業方式 第一種市街地再開発事業

事業類型 -

事業規模 市街地再開発の総事業費:約 429 億円

区の保留床取得費:約 136 億円

民間事業者の

業務内容

市街地再開発組合が施設整備等を実施。

参加組合員が共同住宅用等に保留床を取得

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 -

予定価格 -

契約金額 -

応募グループ -

民間事業者 構成員 参加組合員:(一財)首都圏不燃建築公社、東京建物(株)

協力会社 -

スケジュール

組合設立認可 平成 22 年 1 月

権利変換計画認可 平成 23 年 4 月

新庁舎開設 平成 27 年 5 月

活用した

制度等

補助金 社会資本整備交付金(市街地再開発事業等)等

その他 -

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(参考)基礎データ

事業名

豊島区旧庁舎跡地活用事業

※公募時は「豊島区現庁舎地活用事業」であったが、新庁舎に移

転したこともあり、本調査では事業名を表記のものとしている。

事業分野 ホール

発注者 豊島区

施設概要

施設内容

A 敷地(旧本庁舎跡地):オフィス、カンファレンスホール、シネマコン

プレックス、飲食・物販店舗

B 敷地(旧分庁舎・公会堂跡地):新ホール(1,300 席)、劇場、飲食

店舗

施設規模 A 敷地:地上 33 階、延床面積約 68,700 ㎡

B 敷地:地上 8 階、延床面積約 10,900 ㎡

事業場所

A 敷地:東京都豊島区東池袋 1 丁目 18 番

B 敷地:東京都豊島区東池袋 1 丁目 19 番

寄駅:JR 池袋駅(徒歩 9 分)

事業概要

事業概要 ホール

民間収益施設 オフィス、カンファレンスホール、シネマコンプレックス、飲食・物販店

事業

スキーム等

事業期間 約 76.5 年(施設運用期間は 70 年)

事業方式 定期借地権方式

事業類型 -

事業規模 一括前払い地代:191 億円

民間事業者の

業務内容

民間施設の整備、維持管理、運営

公共施設(新ホール)の整備

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 プロポーザル方式

予定価格 一括前払い地代の目標額:141 億円

新ホールの購入費:約 50 億円(専有部分のみ)

契約金額 -

応募グループ 参加表明書提出:8 グループ

提案書提出:6 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎東京建物㈱(定期借地権者、不動産開発、民間施設等のマネジ

メント)、㈱サンケイビル(同)、鹿島建設㈱(設計、建設、工事監理)

協力会社 -

負担費用 ・施設整備費:不明

投資指標 キャップレート(不動産の純収益(NOI、総家賃収入から管理費や修

繕費などを控除したもの)を不動産価格で除した率)

スケジュール

実施要項公表 平成 26 年 3 月

提案受付 平成 27 年 1 月

優先交渉権者決定 平成 27 年 3 月

基本協定締結 平成 27 年 7 月

定期借地権設定契約等締結 平成 28 年 3 月

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事業名

豊島区旧庁舎跡地活用事業

※公募時は「豊島区現庁舎地活用事業」であったが、新庁舎に移

転したこともあり、本調査では事業名を表記のものとしている。

新ホール竣工 平成 31 年春(予定)

民間施設竣工 平成 32 年春(予定)

活用した

制度等

補助金 -

その他 -

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事例 02:大阪府営吹田高野台(1丁目)住宅民活プロジェクト

事業分野:公営住宅

事例 02:⼤阪府営吹⽥⾼野台(1丁⽬)住宅⺠活プロジェクト

事業場所 大阪府吹田市高野台1 丁目

公共主体 大阪府 民間主体 三菱地所レジデンス(株)を代表企業とするグループ

施設概要 公共施設 府営住宅

民間施設 分譲集合住宅

事業実施段階 事業者選定済

事業手法 府営住宅:PFI 手法・BT 方式 余剰地:民間事業者に売却

公共への還元 土地等の対価(売却代金) 〔46.1 億円〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ マンション用地として高い需要

・事業場所はマンション需要の大きい地域であり、民間事業者も購入に積極的な地域である。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 財政負担削減方針の明確化

・大阪府は、議会の意見も踏まえて、財政負担削減に重点を置いた審査基準とした。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 過去実施事例における経験の活用

・大阪府は、これまでに同様の事業を複数件実施しており、事業の枠組みが大きくは変わらない。

そのため、事業者を募集する大阪府も、事業に応募する民間事業者も、それらの経験を踏まえ

て検討を行うことができた。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、大阪府営住宅の再整備にあたり、府営住宅の高層化により創出した余剰地を民間事

業者に売却し、民間分譲住宅の整備も一体的に実施するものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 大阪府は、民間事業者から、土地売却代金として、46.1 億円を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・大阪府(以下「府」という。)では、平成 13 年度に策定した「大阪府営住宅ストック総合活用計画」

を平成 23 年度に改定し、平成 23 年度から平成 32 年度までの間に約 1 万 2 千戸の建替事業な

どの目標量を定めている。

・府が、同計画に基づいて府営住宅の建替を計画的に推進していくなかで、吹田高野台(1 丁目)

団地を建て替えることになったものである。

イ 官民連携手法導入の背景

・高度経済成長期に建設された府営住宅が一斉に更新期を迎えることから、できる限り早い時期か

ら計画的に建替事業を行う必要があるが、府の厳しい財政状況では整備費を上乗せし、事業化

を行うことは困難であり、新たな財政負担を伴うことなく、建替の前倒しを図ることが求められてい

る。

・そのため、府は、大阪市内や北摂地域など民間事業者が余剰地活用に関心を持ちそうな地域の

府営住宅の建替については PFI 手法を導入することにした。

ウ 民間事業者の応募の背景

・民間事業者は、事業用地が阪急千里線南千里駅から徒歩 5 分程度に位置し、高いマンション需

要が見込めるため、積極的に取り組むことになった。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業は、吹田市高野台1丁目にある府営吹田高野台住宅(1丁目)の建替事業である。平成25

年 12 月に落札者が決定し、平成 28 年以降に府営住宅等の供用が開始される予定である。

● 効果

➤ 財政負担の軽減

・大阪府は、府営住宅建替と余剰地活用を一体的に推進することし、余剰地の場所、面積等につ

いても民間事業者の提案に委ねた。これにより、民間事業者の提案面における裁量の幅が広が

り、大阪府が事前に想定していたよりも広い余剰地が創出され、余剰地の売却代金も事前の想

定より多くなった。

・本事業では、余剰地の民間事業者への売却代金が府営住宅整備費用を上回り、大阪府の財政

負担の軽減に効果があった

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・約3.25haの事業用地を府営住宅整備用地と民間事業者による住宅(以下「民間施設等」という。)

の整備用地(以下「活用用地」という。)に分割し、府営住宅整備用地において建替住宅の整備を

行うとともに、活用用地においては民間施設等の整備を行う予定である。

・民間施設としては、分譲集合住宅 330 戸が提案されている。

・本事業では、事業用地を第一工区と第二工区に区分して建て替える予定になっている。その手

順と建替住宅の内容は次のとおりである。

図表 位置図

出典:大阪府公表資料

図表 建替の手順

第一工区 ①既存府営住宅の解体・撤去

【H26 年度想定】

②建替住宅の整備

③建替住宅への本移転

【H28 年度想定】

第二工区 ①既存府営住宅の解体、撤去

【H28 年度想定】

②分筆と活用用地の所有権移転

【H28 年度想定】

③建替住宅の整備

④建替住宅への本移転

【H30 年度想定】

出典:大阪府公表資料に基づき作成

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図表 建替住宅の整備内容

住戸タイプ 住戸専用面積 第一工区 第二工区

1DK 約 36 ㎡ 4 戸 10 戸

2DK 約 49 ㎡ 51 戸 61 戸

3DK 約 60 ㎡ 105 戸 85 戸

4DK 約 72 ㎡ 6 戸 4 戸

MAIハウス 2DK 約 60 ㎡ 1 戸 1 戸

MAIハウス 3DK 約 72 ㎡ 1 戸 1 戸

合計 168 戸 162 戸 注:住戸専用面積には、バルコニー部分及び廊下に面するPS(Pipe Space)・MB(Meter Box)の面積は含まな

いものとする。 MAIハウスは、車いす常用者が居住する世帯を対象とした住宅。

出典:大阪府公表資料に基づき作成

図表 外観

出典:大阪府公表資料

図表 分譲マンションの概要(提案時)

・地下1階地上 10 階建、330 戸(予定)

・平均面積 76.3 ㎡(予定)

・平均価格 48,000 千円(予定)

・販売時期 2018 年 1 月以降予定

・顧客への引渡時期 2019 年 3 月予定

イ 事業方式

・事業方式は、PFI法に基づく、BT(Build Transfer)方式である。民間事業者が府の所有する土

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地に存在する既存府営住宅を解体撤去し、新たに府営住宅を整備した後に府に所有権を移転

する。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 26 年 3 月の特定事業契約の締結から、平成 30 年度の第二工区府営住宅の

供用開始・第二工区への本移転までの約 5 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は活用用地の対価(不動産売払収入)である。

・府への還元金額は、活用用地の対価の 46.1 億円である。具体的には次のようになっている。

図表 活用用地の対価の支払内容

時期 内容

契約の効力発生時まで ■契約保証金の支払

・活用用地の対価の 5%以上に相当する金員を、契約保証金として、府

の指定する金融機関の口座に振り込む。

活 用 用 地 の 所 有 権 移

転・引渡日まで

■残額の支払

・活用用地の対価から契約保証金を差し引いた金額を、府の発行する納

入通知書により、一括して府の指定する金融機関の口座に振り込む。 出典:大阪府公表資料に基づき作成

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図表 事業スキーム図

出典:大阪府公表資料、大阪府及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

・活用用地の対価は基本的には固定額であるが、土地価格の変動と、設計実施に伴う活用用地面

積の変動によって修正することになっている(詳細は後述)。

(イ) 帰属先と使途

・活用用地の売却金額は、府営住宅整備基金に積み立てられることになっている。同基金は、大

阪府基金条例(昭和 39 年 3 月 25 日大阪府条例第 4 号)に基づいて設置されており、府営住宅

の用地の取得及び既存の府営住宅の整備のための資金を積み立てることが目的とされている。

本事業で還元されたものも、府営住宅整備基金の目的に従い、府営住宅の計画修繕費や施設

整備費として使用されることになっている。

・なお、従来型手法で府営住宅の再整備を行った際に得られた未利用地の売却益についても、同

基金に積み立てられている。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、住宅まちづくり部公共建築室住宅設計課が担当している。

活用用地

民間事業者

府有地

府営住宅整備基金 補助金

府営住宅 分譲集合住宅

府営住宅 整備費

【約 45.7 億円】

不動産売払収入 【約 46.1 億円】

大阪府

施設整備費 【不明】

売却収入 【不明】

施設整備段階

運営段階

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・同課の体制は、課長、グループ長、担当者3名(いずれも技術職)となっており、1案件を担当者2

名体制とし、1 名が複数案件を担当している。担当者はいずれも PFI 事業以外の業務との兼務で

あり、担当者におけるPFI事業の業務量の割合は、PFI事業がほとんどの者、PFI事業と従来型事

業が半々の者、従来型の割合が高い者となっており、各担当者によって異なる。

・府は、PFI 導入可能性調査、事業者選定アドバイザー業務は外部に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・府営住宅用地は行政財産に区分されている。行政財産は原則として売却等を行うことができない

(地方自治法 238 条の 4)。そのため、府は活用用地に該当する府有地を普通財産に変更した上

で売却を行っている。なお、その際には財務部等への所管替えは行っていない。

イ 規制の変更等

・公営住宅法第 44 条では、公営住宅若しくは共同施設がその耐用年限を勘案して国土交通大

臣の定める期間を経過した場合又は第 37 条第 1 項の規定(公営住宅建替事業に関する計

画)による国土交通大臣の承認を得た場合においては、公営住宅又は共同施設の用途を廃

止することができるとしている。府も上記手続を行った上で府営住宅用地の一部用途廃止

を行っている。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・PFI 導入可能性調査段階では、府側で平面プランを作成した上で、デベロッパーを中心としたヒ

アリングを実施して、想定される活用用地の場所、面積、形状、発生時期を聴取している。

・府は、このヒアリングにより、民間事業者における活用用地の評価、利用方法等が確認でき、事業

スキームの設定面等で有効と評価されている。また、民間事業者においても、事業実施のコストや、

民間事業者が適正と考える土地代の水準を府に伝えることができると評価されている。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間提案に基づいて実施されたものではない。

・府は、府営住宅の建替計画は、府営住宅全体の計画である「大阪府住宅まちづくりマスタープラ

ン」等を踏まえて府が検討すべきものと考えており、PFI 法第 6 条(実施方針の策定の提案)に基

づく民間提案等が行われることは特に期待していない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・府の活用用地を伴う府営住宅 PFI 事業を選定する際の主な視点は、府営住宅の場所と府営住宅

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整備費の金額である。

・このうち府営住宅の場所については、民間事業者の関心を高める観点から、府は活用用地の利

便性等が高いことが必要と考えており、これまでの PFI 事業は大阪市内か、大阪市外であっても

大阪北部に位置する府営住宅が中心になっている。

・また、府は府営住宅整備費が WTO 政府調達協定の対象金額(平成 26 年 4 月 16 日から平成 28

年 3 月 31 日における地方政府の建設サービスに適用される 20.2 億円)以上となるものを PFI 事

業として実施している。

・なお、府は、従来型手法で実施している事業でも余剰地が発生した場合には売却を行っている。

それらの事業においても、PFI 手法での事業化の可能性がないわけではないが、立地場所等の

観点から、府営住宅建替期間中の価格変動リスクが、これまでの PFI 事業に比べて高くなる可能

性もあると考えられている。

・民間事業者においては、事業用地は、阪急千里線南千里駅徒歩 10 分以内、敷地南側が公園と

いう得がたい立地で、マンション適地として判断されている。一般的に、大阪圏では、大阪市内及

び北摂地域で、主要駅徒歩 10 分以内で一定規模の用地が評価されているようである。

イ 施設要件及び業務内容

・本事業の民間収益施設に関する主な要求水準は、次のとおりである。

図表 民間収益施設の要求水準

土地利用 ・建替住宅用地及び活用用地の形状についてはできるだけ整形となるように

努める。 ・地域のまちづくりに資すること。 ・高さについては 31m 以下(10 層以下)となっていること。 ・施設用途について、商業施設は提案されていないこと。 ・敷地境界線から建築物までの水平距離が 3m 以上確保されていること。 ・道路境界線から建築物までの水平距離が 5m 以上確保されていること。

公 共・公益施 設

の設置

・民間事業者が、「千里ニュータウンのまちづくり指針」に基づき、地域に寄与

する福祉サービス施設等を整備し、当該施設の延床面積分の容積率緩和を

行おうとする場合には、事前に吹田市及び吹田市高野台自治会協議会等に

適否を確認する必要がある。 出典:大阪府公表資料に基づき作成

・府は、実施方針の前に、事業用地が所在する市、地元自治会、府営住宅入居者に対して、建替

住宅や民間施設等の施設計画に関する意見聴取を行い、地元からの要望を可能な範囲で落札

者決定基準等に反映している。本事業では、学校や近隣センターが近くにあることを踏まえて、

府は活用用地に設置する施設の用途として、商業施設の提案は認めないことにした。ただし、意

見のすべてが本事業に反映されているわけではない。なお、この意向確認は PFI 手法活用時に

特有のものではなく、府は従来型手法を採用する場合でも行っている。

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・また、過去の事例では、入札書類提出前に、府が民間事業者から地元自治体等との協議用の資

料を受け付け、府が地元自治体等の意向等の確認の上、入札参加希望者に対して容積率緩和

の適否を回答したこともあったが、本事業では、容積率の緩和に関する適否の事前確認は行わ

ないとされた。これは、事前の民間事業者ヒアリング等を通じて、そういった提案が提出される可

能性は低いと予想したためである。

・また、府は、事業用地を一体の敷地として建替住宅と民間施設等とを合築することは認めなかっ

た。この理由は、府営住宅の良好な住環境の確保、敷地内管理主体の明確化、余剰地面積の拡

大等のためである。

・民間事業者においては、マンションとの併設という観点からすると、併設が難しい公共施設は少な

いが、市役所、図書館などが望ましいと想定されている。なお、セキュリティライン等の観点から、

敷地については明確に区分してほしいとの要望が持たれている。

ウ 事業期間

・府営住宅の維持管理については、府が一定の地区ごとに選定する指定管理者が一括して行うこ

とが効率的であると考えられているため、PFI 事業の業務範囲は施設整備までとなっている。その

ため、施設整備が終了し、施設が府に引き渡されるまでが民間事業者の事業期間となっている。

そのため、本事業の事業期間は約 5 年となっている。

・民間事業者においては、特に望ましいとされる具体的な事業期間はないが、本事業のように 5 年

程度(事業契約締結から竣工引渡まで)は長いと考えられている。通常のマンション事業では 2~

3 年程度であり、それに比べると本事業は事業期間が長くて市況変化が読みづらくなるため、通

常よりもリスクは高まると考えられている

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 売却代金

・府は、民間事業者から、土地売却代金を受け取る。

・府は、活用用地の対価の参考価格を設定する場合には、PFI導入可能性調査段階における民間

事業者の意見も踏まえつつ、活用用地の場所、面積等を想定する。そのうえで、不動産鑑定士に

対して不動産の価格調査等を依頼し、その調査結果を踏まえて、活用用地の対価の参考価格

(入札説明書に記載)を設定している。

オ 参加条件

・入札参加者は、複数の企業で構成されるグループとするとされ、その代表企業は、建設企業か用

地活用企業とすることとされている。また、用地活用企業を代表企業として定める場合には、土地

の取得持ち分が 大のものに限られている。

・用地活用企業には、活用用地に係る提案内容と同等又は類似の事業に係る実績を有しているこ

とが求められている。

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・民間事業者の具体的な参加条件(概要)は以下のとおりである。

図表 民間事業者の参加条件(概要)

■入札参加者の構成

・入札に参加する者は、複数の企業で構成されるグループとし、入札手続を代表して行う企業(以

下「代表企業」という。)を定めるものとする。 ■代表企業

・代表企業は、本事業を遂行する上で中心的な役割を果たす企業とし、建設企業又は用地活用企

業に限るものとする。なお、建設企業が複数ある場合に建設企業を代表企業として定める場合

は、出資比率が 大のもの、用地活用企業が複数ある場合に用地活用企業を代表企業として定

める場合は、土地の取得持分が 大のものに限る。 ■用地活用企業

・用地活用企業は、活用用地に係る提案内容と同等又は類似の事業に係る実績を有していること。

複数の用地活用企業で業務を分担する場合、すべての用地活用企業が当該要件を満たしている

こと。

出典:大阪府公表資料に基づき作成

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針公表 平成 25 年 5 月 7 日 実施方針の説明会 平成 25 年 5 月 13 日 実施方針に関する質問・意見の受付 平成 25 年 5 月 13 日~同年 5 月 17 日 実施方針に関する質問・意見に対する回答・公表 平成 25 年 5 月 31 日 要求水準書(案)及び落札者決定基準(案)に関す

る質問・意見受付 平成 25 年 7 月 9 日~同年 7 月 16 日

要求水準書(案)及び落札者決定基準(案)に関す

る質問・意見に対する回答 平成 25 年 7 月 29 日

特定事業の選定 平成 25 年 8 月 8 日 入札公告 平成 25 年 8 月 8 日 入札説明書等に関する質問受付 平成 25 年 8 月 8 日~同年 8 月 30 日 入札説明書等に関する説明会及び現地見学会 平成 25 年 8 月 23 日 入札説明書等に関する質問に対する回答・公表 平成 25 年 9 月 13 日 提案受付 平成 25 年 11 月 19 日 落札者決定 平成 25 年 12 月 24 日 第一工区府営住宅の引渡 平成 28 年 7 月末(予定) 第一工区府営住宅の供用開始予定日 平成 28 年 8 月 1 日(予定) 活用用地の引渡予定日 平成 29 年 2 月下旬(予定) 第二工区府営住宅の引渡 平成 30 年 11 月末(予定) 第二工区府営住宅の供用開始予定日 平成 30 年 12 月 1 日(予定)

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出典:大阪府公表資料に基づき作成

・事業者選定アドバイザー段階では、府は実施方針と入札公告書類に対する質問回答のほかに、

実施方針公表から入札公告の間に、不動産鑑定士による評価(不動産の鑑定評価に関する法律

に基づく鑑定評価書ではなく、不動産の価格調査等)を行い、その結果を入札公告書類に反映

している。具体的には、本事業では、入札説明書において、「活用用地の対価の参考価格」とし

て公表(178 千円/㎡)している。

・府側から不動産鑑定士に評価を依頼する際には、実施方針と、府側で想定した活用用地の場所

を示した図面等を提示している。

・府は既に複数の類似事業を実施しており、民間事業者の事業に対する理解も進んでいることから、

競争的対話は必要ないと考えられている。

キ 官民のリスク分担

(ア) 土地価格が変動した場合(市況変動の場合)

・活用用地の引渡が可能となるのが第二工区既存住宅の解体・撤去後となるため、活用用地の対

価については、提案時点(平成 25 年 11 月)の 新路線価(活用用地の北側前面道路の市道南

千里駅高野線のうち市立高野台小学校の南側とし、平成 25 年の路線価は 160 千円/㎡)と、第二

工区の活用用地の売却時点(平成 28 年度中)での 新の路線価を比較し、その変動率を踏まえ

て改定することにしている。具体的には次の算定式で計算される。

図表 土地売却価格変更の計算式

■計算式

・路線価変動率>0.03 のとき

活用用地の対価=(活用用地の提案価格)×(1+(路線価変動率)-0.03)

・路線価変動率<-0.03 のとき

活用用地の対価=(活用用地の提案価格)×(1+(路線価変動率)+0.03)

・なお、路線価変動率=(売却時の 新路線価-提案時の 新路線価)/提案時の 新路線価と

し、小数点第 4 位を四捨五入とする。

■計算式の例

売却時の 新路線価:175 千円/㎡

提案時の 新路線価:160 千円/㎡

路線価変動率=(175-160)/160=0.09375

小数点第4位を四捨五入することにより、路線価変動率は 0.094

活用用地の対価=活用用地の提案価格×(1+0.094-0.03)=活用用地の提案価格×1.064

出典:大阪府公表資料に基づき作成

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・路線価の変動率については、府と事業者の双方で確認している。

・路線価が 3%を超えた変動となった場合にのみ、路線価の変動率から 3%を除いたもので調整を

行うことになっている。その理由としては、路線価と実勢価格の変動は必ずしも一致しないこと、民

間事業者が多少の変動では変更しないことを望んでいたことなどが挙げられる。

・本リスクについては、懸念している民間事業者は存在しているものの、事業への参加を断念する

ほどのリスクにまではなっていないと考えられている。民間事業者からは、一般に 3~4 年先の地

価を予測することは難しいため、こういった価格見直しの仕組みは有効という意見も聞かれた。一

方で、一定の市況変動リスクを回避できる仕組みではあるが、事業計画の不確定要素でもあるた

め、路線価によって対価を変動させる仕組みに対する評価は難しいとの意見も聞かれた。

・選定された民間事業者においては、必要に応じて分譲集合住宅の仕様や価格の見直しが行わ

れ、活用用地の価格変動リスクが共同住宅の買主に転嫁されることになるようである。

図表 土地売却価格変更の計算式(過去事例)

【ご参考:過去の事例での改定例】

・活用用地の対価の変動については、過去の事例でも同様の規定が設けられており、活用用地の

対価の修正が行われている。具体的な例としては、平成 20 年 9 月に入札公告された「大阪府営

豊中新千里東住宅民活プロジェクト」が挙げられる。

〔計算式〕

路線価変動率=(売却時の 新路線価-提案時の 新路線価)/提案時の 新路線価

={165 千円(H24 年)—180 千円(H20 年)}/180 千円)

=▲0.083

路線価変動率<-0.03 のとき

活用用地の対価=(提案価格)×(1+(路線価変動率)+ 0.03)

活用用地の対価=(提案価格)×(1+(路線価変動率)+0.03)

=1,726,600,000 円×(1-0.083+0.03)

=1,726,600,000 円×0.947

=1,635,090,200 円 →提案価格比▲91,509,800 円

出典:大阪府公表資料に基づき作成

(イ) 土地価格が変動した場合(財評審の判断が異なった場合)

・府は、公有財産に属する不動産を処分する際には、当該不動産の価格について、大阪府財産

評価審査会(以下「財評審」という。)の意見を聴かなければならないとされている。そのため、府

は、民間事業者からの提案に基づいて設定した事業契約書記載の活用用地の対価の適切性に

ついて、事業用地の引渡前に、鑑定等を参考に算定した価格に基づいて、財評審に対して諮問

を行う。その結果、府と選定された民間事業者の間で締結した事業契約書記載の金額が不適当

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とされるリスクがある。

・この場合には、府と民間事業者の間で財評審での評価額での売却の可否について協議を行う。

具体的には、府と民間事業者の協議開始後 3 ヶ月を経過しても協議が整わない場合には、府は

活用用地を売却しないこととし、当該 3 ヶ月を経過した日をもって、活用用地の売買に係る条項に

限り効力を失う。この場合、府及び民間事業者とも、当該効力の失効に伴う費用、違約金又は損

害金等を相手方当事者には請求しない。また、府は速やかに契約保証金を民間事業者が指定

する口座に返還する。

・民間事業者が、活用用地の対価の参考価格よりも低い価格で活用用地の対価を提案することは

可能とされるが、財評審において適正な価格と認められず、売却が困難となるリスクは高まると考

えられる。ただし、これまでの事例では、財評審で大きな課題が指摘されたことはない。

・本リスクについては、懸念している民間事業者は存在しているものの、事業への参加を断念する

ほどのリスクにまではなっていないと考えられている。しかし、民間事業者からは、民間事業者公

募時に財評審の判断についても示してほしいという意見も聞かれた。

(ウ) 施設内容を変更する場合

a 府と民間事業者間での協議の実施

・民間事業者は、活用用地を、事業契約、入札説明書等及び民間事業者提案書に従って整備す

ることが求められている。ただし、近隣住民との協議、行政協議による指導により修正する場合は、

この限りではないとされるほか、商品企画の変更により修正する場合は、府と民間事業者で協議

することになっている。実際に、過去事例においては、外観のデザイン変更、分譲住宅の戸数の

変更、サービス付き高齢者向け住宅の運営事業者の変更などが、府と民間事業者の間で協議さ

れている。

・具体的には、民間施設等の完成前に、活用用地の全部又は一部につき、やむをえない理由によ

り、整備条件の変更を必要等する場合には、予め府の書面による承諾を得なければならないとさ

れている。

・設計段階において、測量等により活用用地の面積の変更があった場合には、活用用地の売却価

格は提案単価に基づいて再算定されることになっている。

b 買戻し特約の設定による担保

・府は、用地活用事業が提案通りに実施されるようにするため、用地活用企業への所有権移転登

記と同時に、活用用地について、府の買戻し特約の設定登記を行っている。買戻し特約は、府か

ら用地活用企業への所有権移転登記をした日から 5 年間とされ、民間施設の完成後、府は買戻

し特約の抹消登記手続を行うことになっている。

・例えば、民間事業者の提案と著しく異なる施設が設置された場合等には、府は活用用地の対価

の 20%の違約金や損害賠償金を徴収するとともに、買戻し特約を実行することができる。この場

合、民間事業者は、活用用地を府による引渡時の原状に回復して府に引き渡さなければならな

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い。また、この場合、民間事業者は、府に対し、自ら負担した本契約の費用や活用用地の整備に

支出した費用等、一切の費用を請求することができない。

・なお、事業者の責に帰する事項で府が契約解除を行う場合でも、第一工区府営住宅整備業務、

第二工区府営住宅整備業務、用地活用業務について、当該業務の全部が終了している場合に

は、解除の効力は当該業務に関する契約には影響を及ぼさない。

(エ) 民間事業者が倒産した場合

・各構成企業は、事業契約で規定する民間事業者又はその構成企業の各債務の全てについて、

相互に連帯債務を負い、構成企業による当該業務の履行の確保が困難となった場合は、府の書

面による承諾の下、他構成企業が連帯して当該業務の履行を確保することになっている。

・入札説明書において、SPC の設置は可能とされている。しかし、府の住宅 PFI 事業では、BT 方式

でもあり、SPC が設立された事例はない。

(オ) 事業収支が悪化した場合

・民間事業者は、活用用地を、事業契約、入札説明書等及び民間事業者提案書に従って整備す

ることが求められている。

・民間施設等の完成前に、活用用地の全部又は一部につき、やむをえない理由により、整備条件

の変更を必要等する場合には、予め府の書面による承諾を得なければならないとされており、市

場環境の大幅な変更等があった場合における協議の余地がないわけではない。

・民間事業者側では、民間施設部分の工事費は、凡そ合意した金額はあるものの、工事費の動向

や、今後明確化する施設内容によって変動することになっている。民間事業者の事業採算性が

悪化した場合の対応策は、マンションの分譲価格への転嫁(値上げ)、マンション仕様への転嫁

(グレードダウン)、当社収益への転嫁(利益削減)であり、どれを採用するかは個別に判断される

ことになる

(カ) 契約上の地位の譲渡等

・本事業では、府の承諾のある場合を除き、民間事業者が本契約上の地位及び権利義務を第三

者に譲渡することは認められていない。

ク 事業終了時の取扱い

・本事業は府営住宅の整備と余剰地の売却・活用等を行うものであり、事業終了時における民間

収益施設の取扱いに関する規定はない。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・本事業の落札者決定基準では、 も総合判断点の高い者が 優秀提案者になるとされている。

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その総合判断点は次のように算定される。

図表 評価算式と加点付与基準

項目 概要 配点(満点)

中小企業との協力体制 参加グループの中の中小企業等の数 3 点

障がい者雇用の取組 法定雇用障がい者数を上回っている企業数 3 点

活用用地の地域貢献 地域の高齢者支援の支援に資する施設等 3 点

環境への配慮 CASBEE、太陽光発電等への取組 3 点

出典:大阪府公表資料に基づき作成

・府は、民間事業者から活用用地に整備する施設に係る事業計画を提案してもらい、事業手法、

事業主体、事業スケジュール、収支計画、資金計画(調達方法を含む)等が具体的に示されてお

り、それらの間で明らかな不整合がないことを基礎点評価の中で確認している。

・上記の仕組みでは、府の負担額を抑える提案が、総合判断点の増加につながりやすい。本事業

では、府の負担額のうち、府営住宅整備に係る対価の予定価格(4,379,161 千円(消費税等抜))

は、応募した民間事業者から見ると低めの設定であったため、総合判断点の増加のためには、活

用用地の対価を大きくする提案が求められた。

・なお、府の負担額がゼロ以下の数値の提案があった場合は、府の負担額がゼロ以下の提案の中

で、府の負担額が も少ない提案(府の収入が も多い提案)を 優秀提案とするとされている。

図表 過去事例での評価算式

・本事業よりも前の PFI 事業である「大阪府営吹田竹見台住宅民活プロジェクト」では、民間事業者

の得点は次のように算定されている。

得点 = 定量的事項の得点 + 定性的事項の得点

定量的事項の得点 = 50 点 × (府の予定負担額-提案された府の負担額)/(府

の予定負担額-提案されたうち 低の府の負担額)

定性的事項の得点 = 50 点 × 各提案の暫定点/提案の 高の暫定点

・上記の仕組みでは、施設計画等の定性的事項の評価と府の財政負担額の評価が同じ割合となっ

ている。活用用地の内容についても、定性的事項として、施設用途、まちづくりへの寄与、緑地等

確保が評価されることになっていた。その配点は 10 点であり、定性的事項の 2 割となっていた。

定性的事項の得点 { = 基礎点(満点:100 点) + 加算点(満点:12 点) }

府の負担額 { = 府営住宅整備に係る対価(消費税等込) + 活用用地の対価 }

総合判断点 =

×100,000,000

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・しかし、平成 22 年 6 月に事業契約が締結された同事業において、府の財政負担額が約 7.7 億円

低かった民間事業者が、定性的事項の得点で逆転されて落札できなかったことなどをきっかけと

して、府議会で落札者決定基準の見直しを求める意見が出された。その意見を踏まえて、同事業

の後の事業から、本事業のような府の財政負担額を重視した落札者決定基準が採用されるように

なった。

出典:大阪府公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 3 者が入札に参加した。各社の入札額等は次のとおりであり、活用用地の対価が府

への還元額となる。

図表 総合評価結果

東レ建設

グループ

NIPPO

グループ

三菱地所

レジデンスグループ

府営住宅整備に係る対価(税込)(①) 4,536,368,700 4,594,559,700 4,570,966,200

活用用地の対価(②) 3,351,500,000 4,600,000,000 4,610,000,000

府の負担額(①-②) 1,184,868,700 ▲5,440,300 ▲39,033,800

出典:大阪府公表資料に基づき作成

・本事業では、提案された府の負担額がゼロ以下の提案の中で、提案された府の負担額が も少

ない提案(府の収入が も多い提案)をした三菱地所レジデンスグループが 優秀提案者として

選定され、落札者となっている。

・加算点では、 優秀提案者よりも 2 点高いグループがあったが、府の負担額がマイナスの提案が

あったため、落札者決定基準に基づき、府の負担額が も少ない(府の収入が も多い) 優秀

提案者の提案が選定された。

・民間事業者は、府の財政負担を低減するために、府が整備を要求する府営住宅を効率よく配棟

することと、民間活用用地を可能な限り大きくすることを基本的な方針として提案の検討を行った

とされている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・民間事業者は、府が要請したときは、活用用地における民間施設等の整備状況について、府に

報告し、府の実施調査(民間施設等の整備状況が特定事業契約書等に定められた水準を満たし

ているか否かについての調査)に協力することが求められている。この調査は、活用用地の民間

事業者への所有権移転登記をした日から工事が完了するまでの間とされている。

・実務的には、先行事例では、府が府営住宅について現地で確認を行う際などに、活用用地にお

ける民間施設等の整備状況についても適宜確認を行っている。また、これまでに大きな指摘事項

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は特にないとされている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況

・府では、これまでの事業では、基本的は提案通りの金額で活用用地の売却が行われていることか

ら、本事業においても同様と考えられている。

・また、これまでの事業では、民間事業者の共同住宅の分譲等も、ほぼ計画通りに行われている模

様であり、本事業においても同様であると考えられている。

イ 事業収支状況

・一般的に、マンション分譲で目標とされる収益は、粗利(販売収入-直接物件費(土地取得費、設

計・建設費、現場事務所費、広告宣伝費等))10%程度とされている。これについては、PFI 事業

だから高くなるとから低くなることはないとされている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

(ア) 財政負担の軽減

・本事業では、活用用地の対価の額が、府営住宅整備の対価を上回り、実質的には府の財政負

担なしで府営住宅の建替が可能となった。

(イ) 事務負担の軽減

・入居者移転支援業務の民間委託により、府職員の負担が軽減されたと考えられている。

(ウ) 住民サービスの向上

・府が入居者移転支援業務を直接実施する場合には、府庁での電話対応等になるとともに、入居

者の移転先を斡旋することもできない。一方、民間事業者が同業務を実施する場合には、現地に

事務所を開設した上で移転先の斡旋も可能となり、住民サービス向上につながったと考えられて

いる。また、入居者移転が遅延すると工期にも影響することから、民間事業者も自らが実施する方

がよいと考えられている。

・民間事業者が工事等を発注することにより、包括的に業務を発注できる点、土曜日も工事が行い

やすい点、地元協議等の経験が豊富なことなどから、円滑な業務が実施され、工期が短縮された。

これにより、既存入居者の仮移転期間も短縮され、住民サービス向上につながったと考えられて

いる。

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(エ) 規模拡大による民間事業者の取組意欲の向上

・府営住宅整備と用地活用事業がセットになることにより事業規模が拡大し、民間事業者としても取

組意欲が増すという意見も聞かれた。

イ 課題

(ア) まちづくりへの影響

・民間事業者が提案した活用用地の面積(約16,000㎡)は、府側が活用用地の対価の参考価格を

想定するにあたっての設定条件(10,000 ㎡)よりも拡大している。これは、落札者決定基準の提案

価格の評価割合が高く、民間事業者が活用用地の面積を広くして、活用用地の購入価格を高く

しようとしたためである。

・その結果、府営住宅の敷地に余裕がなくなってきており、提案段階における府営住宅の平面計

画は、必ずしも府営住宅入居者の使い勝手がよいものとはなっていない。

(イ) 将来の維持管理費への影響

・将来の維持管理費削減の関する加算点評価がないため、LCCベースでのコストについては今後

確認が必要となる。

(3) 事業に対する評価

・府庁内での府営住宅建替事業に対する意見は特に聞かれていない。

・議会では、 近は特に府営住宅建替事業に対する意見は聞かれていない。

・市民の評価は特にない。入居者からは、入居者移転支援業務に対する評価は高いとされてい

る。

・地元企業は、WTO対象とならない従来型事業がそれなりの件数あるため、PFI事業に対しては関

心がないとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・民間事業者の土地活用意欲の有無が重要であるとされている。

・工期の短縮の点では、300~400 戸といった一定規模以上の公営住宅の整備となる大規模事業

を対象としたことがよかったとされている。

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(参考)基礎データ

事業名 大阪府営吹田高野台(1 丁目)住宅民活プロジェクト

事業分野 公営住宅

発注者 大阪府

施設概要

施設内容 公営住宅

活用用地:共同住宅(民間)

施設規模

第一工区:168 戸・延床面積:11,141 ㎡

第二工区:162 戸・延床面積:10,966 ㎡

活用用地:330 戸・延床面積:29,515 ㎡

事業場所 大阪府吹田市高野台 1 丁目

寄駅:阪急千里線南千里駅(徒歩約 5 分)

事業概要 事業概要

著しく老朽化した府営住宅や耐震性の低い府営住宅の建替に合わ

せ、活用用地の売却等によりまちづくりの促進を図る。

民間収益施設 有り(民間住宅)

事業

スキーム等

事業期間 約 5 年(含む全工程)

事業方式 BT 方式

事業類型 サービス購入型

事業規模 4,570,966,200 円(府営住宅整備に係る対価、税込)

民間事業者の

業務内容

事業計画の策定

府営住宅整備業務

入居者移転支援業務

用地活用業務(付帯事業)

VFM

特定事業選定時 7.1%

事業者提案 非公表

割引率 2.0%

審査結果

選定方式 総合評価一般競争入札

予定価格 4,379,161,000 円(府営住宅整備に係る対価、税抜)

契約金額 4,570,966,200 円(府営住宅整備に係る対価、税込)

4,610,000,000 円(活用用地の対価)

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎(株)三菱地所レジデンス(用地活用)、近鉄不動産(株)(同)、神

鋼不動産(株)(同)、(株)長谷工コーポレーション(建設、入居者移

転支援)、野村建設工業(株)(建設)、(株)カノンアソシエイツ(工事

監理)

協力会社 -

スケジュール

実施方針公表 平成 25 年 5 月 7 日

特定事業選定 平成 25 年 8 月 8 日

入札公告 平成 25 年 8 月 8 日

提案受付 平成 25 年 11 月 19 日

落札者決定 平成 25 年 12 月 24 日

契約締結 平成 26 年 3 月 24 日

供用開始 平成 28 年度(第一工区)

活用した

制度等

補助金 地域居住機能再生推進事業

その他 ―

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事例 03:県営上安住宅(仮称)整備事業

事業分野:住宅

事例 03:県営上安住宅(仮称)整備事業

事業場所 広島県広島市安佐南区上安2 丁目、高取北1 丁目

公共主体 広島県 民間主体 仁田商事(株)を代表企業とするグループ

施設概要

公共施設 県営住宅

民間施設 託児所、高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホーム)、商業施設(書籍販売及びビデオ CD レンタル事業)

事業実施段階 供用開始済

事業手法

公共施設(県営住宅):PFI 手法・BTO 方式:サービス購入型 民間施設(託児所):定期借地権方式・独立採算型 民間施設(高齢者福祉施設):売却・独立採算型 民間施設(商業施設):事業用定期借地権方式:独立採算型

公共への還元 土地等の対価(売却代金) 〔約3.6 億円〕 土地等の対価(借地料・貸付料) 託児所〔約0.3 億円〕、商業施設〔約2.7 億円〕

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、県営住宅建替事業と余剰地活用事業を一つの PFI 事業として実施したものである。民

間事業者は、県営住宅と託児所を合築により整備し、県営住宅部分は施設完成後広島県に引渡

し、託児所については約 50 年の定期借地権(50 年)に基づき、両施設を維持管理・運営してい

る。高齢者福祉施設は民間事業者が広島県から土地を購入の上、建設・維持管理・運営してい

る。商業施設は約 20 年の事業用定期借地権に基づき、建設・維持管理・運営している。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 広島県は、民間事業者から、高齢者福祉施設の整備用地として土地を売却する代金約 3.6 憶

円、託児所の整備用地として民間事業者に定期借地権方式で賃貸する借地料約 0.3 億円(約

0.5 百万円/年×50 年)、物販施設の整備用地として民間事業者に事業用定期借地権方式で賃貸

する借地料約 2.7 億円(約 13.5 百万円/年×20 年)を受け取る。

● 事業実施のポイント

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 用地活用における民間事業者の自由度の確保

・民間事業者の創意工夫を 大限発揮させるため、開発用地活用における土地の利用方法や活

用する余剰地の場所を提案に委ねる形とした。

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● 効果

➤ 事業用地の総合的な整備

・県営住宅の整備に PFI 手法を採用したことにより、従来手法であれば、分割して発注されていた

県営住宅の整備と余剰地活用事業を一括した事業として実施することが可能となった。その結

果、選定された民間事業者により、社会福祉施設を中心とした土地利用、高低差を利用した県

営住宅棟などの配置、イベント広場などの地区全体のコミュニティの形成など、事業用地の総合

的な活用プランの提案が行われた。また、民間事業者の全体的な工事のコーディネーションによ

る各施設の効率的な整備も実現された。

➤ 適切な競争環境整備

・土地の有効利用について民間事業者の提案自由度を高めた結果、4 グループの応募がある等

適切な競争環境を維持することができた。選定された事業者の提案に基づき、土地の民間事業

者への売却代金や定期借地料の合計として事業期間を通じて約 6.6 億円が広島県の収入とな

る見込みである。

➤ 県営住宅の買取額の削減

・広島県から選定された民間事業者へは、県営住宅の買取代金の支払いが行われた。県営住宅

の買取額については、広島県の提示額 16 億円に対し選定された民間事業者からは約 11.6 億

円の提案が行われた。PFI 手法の導入により、従来方式における広島県の財政支出に比べ、約

4.4 億円(約 27.4%)の VFM(コスト削減効果)が発揮された。

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 事前調査段階での市場調査

・本事業では、平成 13 年度に PFI 導入可能性調査を行い、県営住宅の整備及び余剰用地の一

体的開発についての可能性を確認し、整備されることが予想される民間施設を事前に確認して

いる。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の経緯

・広島県(以下「県」という。)では、民有地を県が借地して建設する借地県営団地が多く、その借地

料が県財政の負担となっていたこと、老朽化した県営住宅を整備することが課題となっていた。

・そのため、県は、平成 3 年から平成 6 年にかけて借地団地であった上安住宅の底地約 46,000

㎡を購入し、上安住宅の建替えを行うこととし、先ず、平成 8 年に購入した土地の約 7,000 ㎡を活

用し、新たな県営住宅(上安住宅)を建設した。

・その後、安佐南区にある他の借地団地3団地を上安地区に統合移転することとし、購入した土地

の残りの部分における県営住宅の整備を検討したが、事業地が約 39,000 ㎡と広大であったため、

先行して建替えをした上安住宅に引き続いての県営住宅統合整備及び余剰地の活用を一体的

に行うことを検討した。

イ 官民連携手法導入の経緯

・県では、平成 13 年に、PFI 導入のための指針を策定している。

・指針策定の背景もあり、県は平成 13 年に、約 39,000 ㎡の敷地活用について、県営住宅の統合

整備事業及び余剰地活用等の附帯事業も含めた PFI 導入可能性調査を実施した。

・調査の結果、PFI 手法の導入が可能であり、余剰地活用についても民間事業者から地域と調和

した事業提案を期待できるとの結論に至ったため、PFI 手法により、県営住宅整備事業と余剰地

活用事業を一体的に実施することとした。

図表 事業実施の経緯

年 内容

平成 3~6 年 民有地を借地をしている上安住宅の底地を購入(約 46,000 ㎡)

平成 8~11 年 新たな県営住宅(上安住宅)を建設(約 7,000 ㎡)

平成 13 年 広島県における PFI 導入のための指針を策定

平成 13 年 PFI 事業の導入可能性調査を実施

出典:広島県ヒアリングに基づき作成

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業では、広島市内にある県有地約 39,000 ㎡の中で、第 1 期県営住宅 110 戸、託児所、高

齢者福祉施設(特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホーム)、商業施設(書籍販売及び

ビデオ CD レンタルの店舗)が整備されている。

・敷地約 46,000 ㎡全体の中では、上記に加え、先行して整備された県営住宅及び本事業後に整

備される予定の第 2 期県営住宅 140 戸がある。

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図表 配置図

出典:広島県公表資料に基づき作成

図表 施設概要

県営住宅 託児所 高齢者福祉施設 商業施設

施設内容 県営住宅110戸

(第1期分)

託児所

(県営住宅と合築)

特別養護老人ホ

ーム、ケアハウス、

グループホーム

書籍販売及びビ

デオCDレンタル

の店舗

延床面積 7,703㎡ 204㎡ 8,747㎡(※) 3,432㎡(※)

(※)高齢者福祉施設・商業施設は敷地面積。

出典:広島県ヒアリングに基づき作成

第1期県営住宅 高齢者

福祉施設商業施設

託児所

県有地(託児所は定借) 売却 県有地(定借)

第2期県営住宅用

整備用地確保

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50

図表 外観

出典:広島県公表資料に基づき作成

イ 事業方式

・事業方式は、県営住宅部分は、PFI 法に基づく BTO(Build Transfer Operate)方式であり、サ

ービス購入型である。

・民間収益事業部分は、託児所は定期借地権方式、高齢者福祉施設は県有地の売却、商業施設

は事業用定期借地権方式である。いずれも事業者の独立採算により行われる。

ウ 事業期間

・本事業の基本協定は、平成 15 年 10 月 2 日に締結しており、その後、平成 17 年 8 月 31 日の

県営住宅引渡し日までの約 2 年間が整備期間となっている。

・県営住宅の維持管理期間は、平成 17 年 10 月 1 日の供用開始から平成 38 年 3 月 31 日まで

の約 20 年間である。

・定期借地権を設定している託児所の定期借地の期間は、平成 17 年 9 月 1 日から平成 67 年 8

月 31 日までの 50 年間である。

・事業用定期借地を設定している商業施設の定期借地の期間は、平成 17 年 7 月 20 日から平成

37 年 7 月 19 日までの 20 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、託児所の定期借地権設定契約に基づく貸付

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料、社会福祉施設用地の売却代金、商業施設の事業用借地権設定契約に基づく貸付料であ

る。

・県への還元額は、期間総額で約 6.6 億円である。

図表 事業スキーム図

※宅地造成工事請負代金額:309,750,000 円(税込)、県営住宅買取価格:1,161,300,000 円(税込)の合計

出典:広島県公表資料、広島県ヒアリングに基づき作成

県営住宅事業費特別会計

県有地 民有地 県有地

借地料 【約 2.7 億円】

商業施設 (書籍販売、

ビデオ CD レンタル店舗)

県営住宅

託児所

借地料 【約 0.3 億円】

整備費 【約 14.7 億円※】

(維持管理費は毎事業年度契約締結)

広島県

開発用地売却 【約 3.6 億円】

高齢者福祉施設 (特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホー

ム)

施設整備段階

運営段階

民間事業者

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(イ) 帰属先と使途

・県営住宅事業費特別会計に帰属し、県営住宅の整備に利用される。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、PFI 導入可能性調査から募集要項作成、事業者の選定まで、土木建築部

都市局建築総室住宅企画室・住宅管理室・住宅整備室でプロジェクトチームを組成して担当し

た。

・班長、契約担当、管理担当は事務職、残りのメンバーは技術職であり、通常業務と兼務をしなが

ら検討期間中は 5~7 名体制で検討を行った。

・県は、PFI 導入可能性調査業務、アドバイザー業務はともに、(財)国土開発技術センターに委託

している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続き

・提案された内容が、県営住宅と託児所の合築であったため、合築の部分について行政財産を普

通財産に転換している。

・なお、宅地造成工事完了前に開発用地(民間収益事業で使用する用地)を使用する場合は、民

間事業者は行政財産の使用許可に基づく使用料を負担する。ただし、県営住宅を建設するため

に使用する場合は使用料は不要とし、合築の場合等は専有面積按分とする条件としている。

イ 規制の変更等

・特になし。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

(ア) PFI 導入可能性調査の結果

・平成 13 年度に実施した PFI 導入可能性調査では、民間事業者への意向調査として、デベロッ

パー、住宅メーカー、福祉・医療関係、商業施設関係の各社に対して、余剰容積の活用及び想

定される事業フレーム案についてヒアリングを行っている。

・県営住宅の整備及び余剰用地の一体的開発については、余剰地の部分について、戸建住宅、

商業施設、医療等、スポーツ施設(スポーツクラブ)、社会福祉施設等の整備の可能性があるとい

う結果となった。

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イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・県の方針(県営住宅統合計画)に基づき、上安住宅の敷地(民有地)を県が買い取り、当該敷地

に新たな県営上安住宅を整備することとしたため、当該事業用地が選択された。

イ 施設要件及び業務内容

・県営住宅の整備を第 1 期、第 2 期と分け、本事業では、第 1 期分 110 戸の建設,維持・管理及

び修繕業務を業務範囲とし、第 2 期分は、関係法令との適合、第 1 期と同等の駐車場等の付帯

施設の確保を確認の上、140 戸の建設可能な敷地を第 2 期の県営住宅建設用地として確保する

という事業条件としている(第 2 期は用地の確保のみで、県営住宅の設計・建設等は事業外とす

る。)。

・上記要件となった理由は、各県営住宅の老朽化進行度、県営住宅統合計画等に基づき、新規の

県営住宅整備を一度に行わず、本事業前に建替えをした旧上安住宅も含め、複数回に分けて行

うこととしたためである。

・県営住宅の移転整備のイメージは次のとおりである。

図表 県営住宅統合計画に基づく上安住宅整備戸数

住宅名 管理戸数 入居世帯数

第 1 期整備 110 戸

上山本住宅 116 戸 72 世帯

岩谷住宅 39 戸 23 世帯

下大町住宅 76 戸 24 世帯

合計 231 戸 119 世帯

住宅名 管理戸数 入居世帯数 第 2 期整備 140 戸 下大町住宅 142 戸 141 世帯

出典:広島県ヒアリングに基づき作成

・民間事業者の創意工夫を 大限発揮させるため、開発用地活用における土地の利用方法や余

剰地の場所について、民間事業者の提案に任せることとしている。

・県は、民間事業者に余剰地の土地の権利を確保した上で収益事業を行うことを求めたが、この民

間事業者の土地の権利確保の方法として、県からの購入、事業用借地や定期借地による賃貸の

いずれも認める条件としている。

・また、民間施設と県営住宅を合築して整備することも認めている。事業の対象用地のどの部分を

余剰地とするかについては特定せず、民間事業者の提案に委ねた。

・県が支払う県営住宅整備費用については、県の示す予定価格を次のとおりとし、民間事業者の

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提案を求めている。

・また、県営住宅の維持管理費用については、事前に条件は定めず、事業者決定後に協議により

決定することとしている。

図表 県営住宅整備に関する提案条件・提案価格等

項目 提案条件 予定価格 提案価格

宅地造成 工事代金

予定価格以下の金額 350,555千円 (税込)

309,750千円 (税込)

県営住宅 買取価格

買取上限価格(予定価格)以下の金額 1,600,000千円 (税込)

1,161,300千円 (税込)

出典:広島県ヒアリングに基づき作成

ウ 事業期間

・事業期間は、前述したように、対象施設毎に異なっている。

・法令に基づき、事業用借地権は 10 年以上 20 年以下、定期借地権は 50 年以上 70 年以下とし

ている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 土地譲渡代金

・県は民間事業者から高齢者福祉施設部分の土地譲渡代金を受け取る。

・事業条件として県が定める譲渡単価は、事業用地内を複数のブロックに分割しているため異なる

が、不動産鑑定評価に基づき、59,100 円/㎡~128,000 円/㎡としている。

(イ) 土地貸付代金

・県は民間事業者から託児所と商業施設部分の定期借地権の対価を受け取る。

・事業条件として県が定める貸付単価は、譲渡単価と同様、事業用地内を複数のブロックに分割し

ているため異なるが、不動産鑑定評価に基づき、1,773 円/㎡~3,840 円/㎡としている。

・なお、県の他施設等の規定に合わせ、建物用途毎に次のように減免割合を定め、これに基づき

譲渡及び貸し付けを行っている。

図表 開発用地の利用(事業者の費用負担)に関する提案条件

項目 提案条件

譲渡 ・県が示す譲渡単価以上×建物用途毎の減免割合※

・譲渡単価は提示した宅地造成計画に基づくもので、鑑定評価に基づいて設定

貸付 ・県が示す貸付単価以上×建物用途毎の減免割合※

・貸付単価は、鑑定評価に基づいて設定

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※建物用途毎の減免割合

減免割合 県有地の譲渡 県有地の貸付

50%減免

社会福祉法第2条に規定する事

業の用途に供する施設であって

利潤を得ないで経営する施設そ

の他これらに類する施設

社会福祉法第2条第2項に規定する事業の用途

に供する施設、同条第3項に規定する保育所及

び児童厚生施設、同条第3項に規定する事業の

用途に供する施設(保育所及び児童厚生施設

を除く。)であって利潤を得ないで経営する施設

その他これらに類する施設

30%減免

社会福祉法第2条に規定する事

業の用途に供する施設であって

利潤を得て経営する施設その他

これに類する施設

社会福祉法第2条第3項に規定する事業の用途

に供する施設(保育所及び児童厚生施設を除

く。)であって利潤を得て経営する施設その他こ

れに類する施設

0%減免 上記以外 上記以外

出典:広島県ヒアリングに基づき作成

オ 参加条件

・県初の PFI 事業であったので、従来手法等の資格要件等を参考に、実績の条件等を設定した。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは次のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針等の公表 平成 14 年 3 月 29 日 実施方針等に関する質問・意見の受付 平成 14 年 4 月 8 日~平成 14 年 4 月 26 日 実施方針等に関する質問・意見に対する回答の 公表

平成 14 年 5 月 17 日

特定事業の選定 平成 14 年 6 月 19 日 募集要項等の公表 平成 14 年 7 月 29 日 募集要項に関する説明会 平成 14 年 8 月 5 日 募集要項等に関する質問受付(第1回) 平成 14 年 9 月 4 日~平成 14 年 9 月 6 日 応募希望表明の受付 平成 14 年 9 月 4 日~平成 14 年 10 月 9 日 募集要項等に関する質問受付(第2回) 平成 14 年 10 月 7 日~平成 14 年 10 月 9 日 募集要項等に関する質問に対する回答公表 (第 1 回)

平成 14 年 10 月 1 日

募集要項等に関する質問に対する回答公表 (第 2 回)

平成 14 年 11 月 7 日

提案書類の受付 平成 14 年 11 月 29 日 優先交渉権者の決定 平成 15 年 1 月 10 日 基本協定の締結 平成 15 年 10 月 2 日 設計・建設期間 平成 15 年 10 月~平成 17 年 8 月 県営住宅引き渡し日 平成 17 年 8 月 31 日

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県営住宅供用開始日 平成 17 年 10 月 1 日 県営住宅維持管理期間 平成 17 年 10 月 1 日~

平成 38 年 3 月 31 日(約 20 年間) 民間施設(託児所)の定期借地期間 平成 17 年 9 月 1 日~

平成 67 年 8 月 31 日(50 年間) 民間施設(商業施設)の事業用定期借地期間 平成 17 年 7 月 20 日~

平成 37 年 7 月 19 日(20 年間)

出典:広島県公表資料に基づき作成

キ 官民のリスク分担

(ア) リスク分担の体制

・本事業では、民間事業者の出資による特別目的会社の設立が義務付けられていない。民間事業

者と県との契約は、特別目的会社を設立して契約すること、構成員からなる共同企業体で契約す

ること、各構成員が契約することのいずれも可能とされていたが、選定された民間事業者の提案

は、各構成員が契約することであり、それぞれの業務における民間事業者のリスクは各構成員が

負担している。

・また、県営住宅及び託児所が合築となっているが、県営住宅の維持管理を行う事業者及び託児

所を運営する事業者の間において、契約関係等はなく、県が全体のコントロールを行っている。こ

のように提案として県営住宅とその他の施設の合築を認めると管理が複雑になりかねないため、

事業スキーム検討時に排除する意見もあったが、多様な事業者の提案を受け付ける観点から、こ

れを認めることとしている。

(イ) 需要が変動した場合

・民間施設(託児所、高齢者福祉施設、商業施設)はいずれも独立採算型事業であり、需要変動リ

スクは民間事業者が負担している。

(ウ) 土地の利用・用途を変更する場合

・民間事業者が提案した開発用地の利用・用途について、真にやむを得ないと認められる場合に

は、県はその用途変更を承認することができるとしている。

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図表 開発用地の利用・用途の変更に関する規定

1 用途の変更の承認 (1) 事業者から用途変更の承認について申請があった場合においては,その理由が真にやむを

得ないと認められるときに限り,次に掲げるところにより,追徴金を徴し,または貸付料を変更して開

発用地の全部または一部について,県は用途の変更を承認することができる。 ① 減免を適用して売却した場合については,当該開発用地を変更しようとする用途に供するもの

として処分するときの価格(A)が,当該開発用地を当初の用途で処分した時の価格(B)をこえると

きは,次の算式により算出された金額を徴する。 追徴金=(A-B)×(N-n)/N

N 用途変更及び転売が禁止されていた期間 n 変更前の用途に供した期間(この期間に,1月未満の端数があるときは,その端数は,切り

捨てるものとする。) ② 減免を適用して貸し付けた場合については,当該開発用地を変更しようとする用途に供するも

のとして貸し付ける場合の賃貸料(A)が,当該開発用地を当初の用途で貸し付けた時の賃貸料

(B)をこえるときは,指定用途の変更を承認した日から当該開発用地の賃貸料を(A)に変更する。 (2) 用途の変更を承認する場合の指定期間は,次の算式により算出された期間とする。ただし,貸

付の場合の指定期間は,残りの貸付期間とする。 指定期間=M×(N-n)/N

M 変更しようとする用途に供するものとして譲渡する場合の指定期間 N 変更前の用途に対する指定期間 n 変更前の用途に供した期間(この期間に1月未満の端数があるときは,その端数は切り捨

てるものとする。)

出典:広島県公表資料に基づき作成

(エ) 契約上の地位の譲渡等

・県及び共同事業体の各構成員は、この協定及び各契約に別段の定めのあるほか、他のすべて

の者の事前の承諾がない限り、この協定及び各契約上の地位及び権利義務を他の共同事業体

の構成員若しくは第三者に対して譲渡し、又はその他の処分をしてはならないとされている。

ク 事業終了時の取扱い

・県は、県営住宅の維持管理については、期間終了後も何らかの形で民間事業者に維持管理業

務を依頼すると想定している。

・託児所(及び県営住宅)については、50 年先の話であるため、現時点では県による確定した想定

はない。将来人口も勘案し、住宅として残していくか異なる用途とするかを検討する方針である。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・配点は次のとおりであり、4 者からの提案があった(選定された民間事業者は No.4)。

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図表 審査配点及び各社の点数

定性的事項 配点 No.1 No.2 No.3 No.4

ア 土地利用計画に関する評価

12.0 7.6 6.0 9.2 9.6 1) 地区全体の土地利用計画に関する提案

2) 県営住宅の配置計画に関する提案

3) 民間施設の配置計画に関する提案

イ 県営住宅の計画に関する評価

8.0 4.8 6.4 4.8 6.4 1) 県営住宅の住棟や住戸の計画に関する提案

2) 県営住宅の維持・管理及び修繕計画に関する提案

ウ 事業実施の確実性の評価

12.0 8.8 8.8 9.6 9.6 1) 県営住宅整備及び宅地造成工事の実施の確実性

2) 県営住宅の維持・管理及び修繕の実施の確実性

3) 民間施設整備・運営の確実性

エ 定性的事項の総合的な評価

8.0 4.8 4.8 6.4 6.4 1) 本事業の社会的・公共的意義の評価

2) 本事業提案全体としての総合的なバランス等の評価

合計 40.0 26.0 26.0 30.0 32.0

出典:広島県公表資料に基づき作成

・県初の PFI 事業であり、基準及び配点はアドバイザーの意見を参考にして作成している。定性面

を上記のとおり 40 点とし、定量面を 60 点としている。定量面については、提案された金額を点数

化して評価している。

イ 選定事業者の提案内容と評価

・選定された民間事業者からは、県営住宅第 1 期分(110 戸)、県営住宅第 2 期分(140 戸)、高齢

者福祉施設(特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホーム等)、託児所、物販施設(書籍・

ビデオ・CDレンタル販売等)の提案がされている。

・選定された提案内容に対し、民間収益施設部分に関して、定性的事項で評価された内容は次の

とおりである。

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図表 選定事業者の提案内容(定性的事項の審査)

・社会福祉施設を中心とした民間施設の用途設定・計画の完成度合い、イベント広場等の地区全

体のコミュニティ形成の工夫、高低差を利用した住棟等の配置構成などについて、非常に高く評

価される。

・事業実施の確実性の面からは、実績、体制等から見て特段支障はないと思われ、また、社会福祉

施設等の民間施設に対する社会的需要も高いものと思われる。

・総合的な観点から見ると、高齢化社会に対応して社会福祉施設を中心とした土地利用のバラン

ス、公共性・社会性への配慮の観点で高く評価される。また、住棟や施設・機能の設定と配置構成

等のバランスが良く、対象敷地全体の中心性を演出するイベント広場、集会所などの設定も効果

的である。

・なお、審議の過程において、コミュニティ空間の運営上や北側宅地の高度利用について議論があ

ったが、それらを加味しても、全体として、 高得点となったものである。

出典:広島県公表資料に基づき作成

(6) モニタリング方法と実施状況

・県営住宅部分については、県は選定事業者から提出される月報及び年報を確認することとして

いる。

・余剰地活用事業については、県は土地の売却や賃貸を行うのみで、経営状況などについてのモ

ニタリングは行っていない。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・事業期間中に、当初想定しているよりも事業環境が変化している。福祉施設については、運営は

堅調であると考えられている。一方、書籍販売及びビデオ CD レンタルの店舗については、インタ

ーネット通販の台頭等により、経営環境としては厳しいと考えられている。

・ただし、敷地全体の運営としては、調和が取れ順調であると考えられている。

イ 事業収支状況

・具体的な収益状況については、認識されていない。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・民間事業者に興味を持ってもらえる事業となるか否かは、魅力的な場所における余剰地活用業

務が含まれているかだと考えられている。本事業では、余剰地活用も含め、民間事業者の創意工

夫により地区全体のコミュニティ形成に資する提案がなされたと考えられている。

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イ 課題

・官民連携事業を検討する際に、地元への発注等を要件とすることもあるが、そのような要件を付

けることにより、純粋な競争環境になりにくいと考えられている。

(3) 事業に対する評価

・県初の PFI 事業であったこともあり、議会や市民等に対しての説明を丁寧に行うことで事業に対

する理解が相応に進んだと考えられている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・民間事業者にとって収益機会が比較的多い土地活用業務を官民連携事業の中に含むことは、

民間事業者の参入意欲向上につながるものと考えられている。

・事業成功に向けた前向きな姿勢を継続させたことが、本事業の成功の要因の一つであったと考

えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 県営上安住宅(仮称)整備事業

事業分野 住宅

発注者 広島県

施設概要

施設内容

公共施設:県営住宅(第 1 期分 110 戸) 7,703 ㎡

民間施設:託児所(公営住宅に合築) 204 ㎡、高齢者福祉施設

(特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホーム等)、商業施設

施設規模 鉄筋コンクリート造 10 階建て(県営住宅)

事業場所 広島県広島市安佐南区上安 2 丁目他

寄駅:広島高速鉄道アストラムライン 上安駅(徒歩 3 分)

事業概要 事業概要 県営住宅及び民間収益施設の整備

民間収益施設 託児所、高齢者福祉施設、商業施設

事業

スキーム等

事業期間

県営住宅:整備・維持管理・運営:約 22 年(維持管理・運営期間は

約 20 年)

託児所:約 50 年、商業施設:約 20 年

事業方式

県営住宅:BTO 方式

託児所:定期借地権方式

高齢者福祉施設:売却

商業施設:事業用定期借地権方式

事業類型

県営住宅:サービス購入型

託児所:独立採算型

高齢者福祉施設:独立採算型

商業施設:独立採算型

事業規模

【県の支払額】

宅地造成工事予定価格:309,750,000 円(税込)

県営住宅買取上限価格:1,161,300,000 円(税込)

維持管理費は毎事業年度交渉により決定

【民間事業者の支払額】

開発用地(社会福祉施設用地)売却代金:359,769,977 円

開発用地定期借地権設定契約に基づく貸付料(託児所):

26,623,000 円(532,460 円×50 年間)

開発用地事業用借地権設定契約に基づく貸付料(商業施設):

270,006,760 円(13,500,338 円×20 年間)

民間事業者の

業務内容

県営住宅の整備、維持管理など(設計、施工、工事監理、維持管

理、修繕、入居者管理業務)〔以上 PFI 事業〕

宅地造成工事、余剰地の活用事業の実施

VFM

特定事業選定時 約 19%

事業者提案 約 4.4 億円、約 27.4?%

割引率 -

審査結果

選定方式 公募型プロポーザル方式

予定価格 宅地造成工事予定価格:350,055,300 円(税込)

県営住宅買取上限価格:1,600,000,000 円(税込)

契約金額 宅地造成工事予定価格:309,750,000 円(税込)

県営住宅買取上限価格:1,161,300,000 円(税込)

応募グループ 4 グループ

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事業名 県営上安住宅(仮称)整備事業

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎仁田商事(株)(ファイナンス斡旋等)、(株)K 構造研究所(県営住

宅の設計)、(株)砂原組(宅地造成、県営住宅の建設)、合同産業

(株)(県営住宅の維持管理)、社会福祉法人慈光会(開発用地の買

取・高齢者福祉施設・託児所の整備・運営)、(株)フタバ図書(開発

用地の借地・商業施設の整備・運営)

協力会社 ―(本事業は SPC を組成せず、応募者の構成員のみ)

スケジュール

実施方針公表 平成 14 年 3 月 29 日

特定事業選定 平成 14 年 6 月 19 日

募集要項公表 平成 14 年 7 月 29 日

提案受付 平成 14 年 11 月 29 日

優先交渉権者の決定 平成 15 年 1 月 10 日

落札者決定 平成 15 年 1 月 17 日

基本協定締結 平成 15 年 10 月 2 日

県営住宅の供用開始 平成 17 年 10 月 1 日

活用した

制度等

補助金 ―

その他 ―

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事例 04:小松市営川辺町住宅建替事業

事業分野:公営住宅

事例 04:⼩松市営川辺町住宅建替事業

事業場所 石川県小松市川辺町3-60,3-64,4-1 の一部、4-2,4-3,4-4,4-5,4-8,4-9,4-34

公共主体 小松市 民間主体 (株)トーケンを代表企業とするグループ

施設概要 公共施設 公営住宅110 戸

民間施設 分譲宅地43 区画

事業実施段階 供用開始済

事業手法 市営住宅:PFI 手法:BT 方式 余剰地:民間事業者に売却

公共への還元 土地等の対価(売却代金)

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、老朽化した低層の市営住宅を集約化し、中層の新しい市営住宅への建替移転を行う

とともに、事業により生み出される余剰地の一部を民間事業者に売却し、周辺のまちづくりと連携し

ながら地域の活性化に貢献することを目指したものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 小松市は余剰地の対価を民間事業者から受け取る

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 余剰地活用の対象は民間事業者が開発可能な土地のみに設定

・小松市は、民間事業者への意向調査により、民間事業者が開発可能な土地のみを余剰地活用

業務の対象とした。

➤ 公営住宅整備事業と一体化による民間事業者の参画意欲の向上

・小松市は、本事業の目的は余剰地を有効に活用することであり、公営住宅の整備と一体事業と

することで、余剰地活用のハードルが多少高くても、民間事業者の取組意欲が増すと考え、PFI

手法を採用した。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 適正な余剰地の売却予定価格の設定

・余剰地の売却予定価格の設定には、民間事業者側で負担する整備費や利益等を勘案した開

発法を用い、 終的に当該宅地が周辺相場で販売できるような設定としている。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・小松市(以下「市」という。)では、老朽化が著しく居住水準が低い市営住宅の建替を進めている。

川辺町住宅も、昭和 36 年~40 年後半に建設されたもので、老朽化が進んでいた。

・事業実施にあたっては、周辺のまちづくりとの連携や、事業性の高い余剰地を生み出し、分譲住

宅地整備を関連事業として実施することで、新たな地域コミュニティづくりを推進することを目的と

していた。

イ 官民連携手法導入の背景

・建替を検討するにあたり、市の財政状況が逼迫していたことや、当時の住宅が 2 階建ての低層住

宅であり、中高層で建て替えると余剰地が発生するため、PFI 手法により余剰地活用も含めた一

体的な事業とすることで、公営住宅の建替とともに、周辺のまちづくりと一体となった余剰地活用

が可能ではないかと考えられ、本事業は実施された。

・市は、当初は余剰地の一部に福祉施設の整備なども検討していたため、BTO 方式も検討したが、

事前検討の中で事業採算性の観点から整備が難しいと分かったことや、公営住宅の戸数も少な

く、運営・維持管理業務が極めて少ないことから、それらの業務を PFI 事業に含めるメリットがない

と判断し、BT 方式が採用された。なお、市の公営住宅の管理はすべて市が直営で実施してい

る。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・事業場所は、JR 小松駅より車で 10 分程度に位置している。市営住宅を 110 戸整備するとともに、

付帯事業として住宅を集約化することによって生じる 0.97ha の余剰地に、良質な住宅用宅地や、

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 事前調査段階での意向把握

・小松市は、余剰地の活用可否について、市内の建設業者を中心にアンケート調査やヒアリング

調査を実施し、綿密に調査した。

● 効果

➤ まちの賑わいの創出

・余剰地を 43 区画の宅地として売却できたことで、若い世代が定住し、まちに活気がうまれた。ま

た、公営住宅整備と一体的な事業としたことで一体的な街並みが実現した。

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地域の活性化に資する施設等を整備するものである。

図表 位置図

出典:小松市公表資料

事業予定地

本事業において売却する余剰地

(約 0.97ha)

市が別途売却

第 1 期工事

第 2 期工事

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図表 施設概要

【建替住宅の整備内容】

住戸タイプ 住戸専用面積 第一工区 第二工区 合計

1DK 約 47 ㎡ 25 戸 25 戸 50 戸

2DK 約 61 ㎡ 25 戸 10 戸 35 戸

3DK 約 83 ㎡ 20 戸 5 戸 25 戸

合計 - 70 戸 40 戸 110 戸

【民間収益施設の整備内容】

分譲宅地 43 区画 出典:小松市公表資料に基づき作成

図表 外観

【従前の公営住宅】

【建替後の公営住宅】

出典:小松市資料に基づき作成

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イ 事業方式

・事業方式は、PFI 法に基づく、BT(Build Transfer)方式である。民間事業者が市の所有する土

地に存在する既存市営住宅を解体撤去し、新たに市営住宅を整備した後に市に所有権を移転

する。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 20 年 12 月の事業契約の締結から、平成 24 年度の第二工区市営住宅の所

有権移転・引渡しに係る一切の手続が完了し、余剰地上に整備される民間施設等の整備が完了

し、かつ、余剰地に設定された買戻し特約の抹消登記手続が完了するまでの約 4 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は余剰地の売却対価である。

・なお、余剰地の対価の支払い方法は次のようになっている。

図表 余剰地の売却対価の支払内容

時期 内容

契約の効力発生時まで 【契約保証金の支払】 ・余剰地の対価の 10%に相当する金員を、契約保証金として、市の指定

する金融機関の口座に振り込む。

余剰地の所有権移転・

引渡し日まで 【残額の支払】 ・余剰地の対価から契約保証金を差し引いた金額を、市の発行する納入

通知書により、一括して市の指定する金融機関の口座に振り込む。

出典:小松市公表資料に基づき作成

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図表 事業スキーム図

出典:小松市公表資料に基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属し、使途は特に決まっていない。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、都市建設部建築住宅課の 2 名が担当した。

・市は基本構想を自ら策定し、PFI 導入可能性調査および事業者選定アドバイザー業務を(株)長

大に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・余剰地について、行政財産から普通財産への変更のうえ売却している。

イ 規制の変更等

・特になし。

一般会計

余剰地【売却】

余剰地の対価

小松市

市営住宅整備費 【約 19.1 億円】

市有地

市営住宅

収入 整備費

宅地分譲用地

民間事業者

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(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・市は、事業化を検討するにあたって、PFI 導入可能性調査の段階で、市内の建設業者にアンケ

ート調査を行い、反応があった民間事業者を中心にヒアリング調査を実施している。なお、市内に

営業所を構える大手ゼネコンにもヒアリングは実施している。

・余剰地については、当初は福祉施設を整備することが望ましいと考えていたが、民間事業者への

意向調査の結果に基づき、宅地分譲用地として公募することとした。なお、宅地分譲用地とする

にあたって、市で需要予測は実施していない。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模の設定

・市は、本事業を実施するにあたって、余剰地を高く売却することではなく、公営住宅と一体的に余

剰地も開発することで、周辺と一体となったまちづくりが可能になるという点を重視している。

・市が従来型手法で実施している公営住宅建替事業においても余剰地が発生した場合には売却

を行っている。本事業においても、D ブロックについては、整備計画地から離れているため対象

外とした。

イ 施設要件及び業務内容

・市は、建替住宅や民間施設等の施設計画に関して、地元説明として町内会や町内会の中に設

置されている整備委員会と意見交換を実施したほか、市営住宅入居者への説明も実施している。

意見交換の結果は可能な限り事業計画に盛り込んでいる。

・民間収益施設の整備に関する条件は、次のような内容となっている。

図表 民間収益施設の整備に関する条件

整備の条件 ・周辺地域との調和に配慮し、良質な宅地形成に資するため、住宅用宅地

の整備を行うものとする。 ・事業者は、余剰地において戸建て住宅や地域の活性化に資する施設等を

整備することができる。民間戸建て住宅と利便施設等を合わせて民間施設

等とする。

土地利用計画 (省略) ・余剰地の売却面積と開発区域が異なるので注意すること。また、開発工事

の条件は以下とすること。

・開発許可申請については、事業者の責において適切に実施すること。 ・民間施設等を建設する場合は、開発区域面積(公共施設部分を除く)

の 30%以下の土地については、利便施設等に利用する事ができるも

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のとする。 ・公共施設の整備のうち、市が指定する緑地を計画すること。

整備にあたっての

配慮 ・民間施設等の用途は、建築基準法、都市計画法等に適合し、良好な都市

空間を生み出すものとなるよう、以下の事項に十分配慮すること。

・建築住宅と民間施設等相互の計画について配慮し、良好なコミュニテ

ィ形成がなされるよう配慮すること。 ・家族世帯の居住に配慮した良質な住宅や地域の活性化につながる施

設とし、社会的資産として有効に活用されるものとすること。 ・(以下、省略)

公共施設等の整備 ・事業者は本事業における余剰地活用業務として自らの提案に基づき、余

剰地の整備完了までに道路等公共施設の整備を行うこと。整備した公共施

設等は協議により市に移管すること。 ・また、入札説明書にて市が提示する余剰地の売却予定価格は、上記緑地

を含み、余剰地の戸建て住宅地の開発に係ると想定される公共施設整備

費用を事業者が負担することを見込んだ金額である。なお、市の指定した

開発計画は開示しない。 ・(以下、省略) 余剰地の売却予定価格=余剰地面積の評価額‐既存住宅解体費および

想定される公共施設整備費

出典:小松市公表資料に基づき作成

・また、要求水準書の中では、地場産材の使用への配慮が求められており、実際の提案では小松

瓦を使用する提案がなされているが、当該項目は市から発注する工事にはすべて盛り込まれて

いるものである。

ウ 事業期間

・事業期間は、事業契約締結日より第二工区市営住宅の所有権移転・引越しに係る手続が完了し、

余剰地に整備される民間施設等の整備が完了するまでの約 4 年間である。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 余剰地売却代金

・市は民間事業者から余剰地売却代金を受け取る。

・市は余剰地売却予定価格を、開発法(想定した事業によって将来得られる販売総額を価格算定

時点に割り戻した額から、これから支出する建物建築費、造成費等、開発者が直接負担すべき費

用を控除して、事業採算に見合う土地価格を求める手法)に基づき算出し、それ以外の要素も加

味したうえで金額を決定している。そのため、売却予定価格には、既存住宅解体費および想定さ

れる公共施設整備費として、道路や防火水槽、緑地などを整備する費用が含まれている。

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・市は、余剰地の売却価格について、不動産鑑定評価等を参考にその適正性を審査している。

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件として、市内の不動産開発を担当する民間事業者が参画可能で、かつノ

ウハウを有する事業者が受託できるような要件とした。

・建設企業の参加条件として、「建設業法第 3 条第 1 項の許可に係る営業所の所在地が小松市内

にあること」という地域要件が含まれている。これは、地元企業の育成を念頭に入れて発注すると

いう公共事業の原則に則ったためである。

・余剰地活用企業には、余剰地に係る提案内容と同等又は類似の事業に係る実績を有しているこ

とが求められている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 20 年 3 月 24 日 実施方針に対する質問・意見への回答 平成 20 年 4 月 23 日 実施方針修正版の公表 平成 20 年 4 月 23 日 特定事業の選定 平成 20 年 5 月 21 日 入札公告 平成 20 年 6 月 5 日 入札説明書類等に関する質問締切(第 1 回) 平成 20 年 6 月 27 日 入札説明書類修正版の公表 平成 20 年 7 月 11 日 入札説明書類等に関する質問回答(第 1 回) 平成 20 年 7 月 11 日 参加表明書の受付 平成 20 年 7 月 18 日 現地見学会 平成 20 年 7 月 30 日 入札説明書類等に関する質問締切(第 2 回) 平成 20 年 8 月 6 日 入札説明書類等に関する質問回答(第 2 回) 平成 20 年 8 月 25 日 入札書類提出期限 平成 20 年 9 月 18 日 落札候補者の決定 平成 20 年 10 月 31 日 事業者選定結果の公表 平成 20 年 11 月 21 日 事業契約の締結 平成 20 年 12 月 17 日 市営住宅団地第一期工事竣工 平成 22 年 7 月 30 日 市営住宅団地第二期工事竣工 平成 24 年 1 月 31 日

出典:小松市公表資料に基づき作成

・実施方針の説明会には地元金融機関を含む 7~8 社が参加した。

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キ 官民のリスク分担

(ア) 土地価格が変動した場合

・余剰地の売却が可能となるのが第二工区既存住宅の解体・撤去後となるため、事業契約締結より

4 年程度の期間があるが、土地価格変動リスクを回避する仕組みは盛り込んでいない。そのため、

市況変動により土地価格が変動した場合のリスクは民間事業者が負担している。

・設計段階において、測量等により余剰地面積の変更があった場合には、余剰地の売却価格は提

案単価に基づいて再算定されることになっている。

(イ) 施設内容を変更する場合

・民間事業者が、民間施設等の完成前に、余剰地の全部又は一部につき、やむをえない理由によ

り、整備条件の変更を必要とする場合には、予め市の書面による承諾を得なければならないとさ

れているが、実際に、変更等は生じていない。

(ウ) 民間収益施設が提案と異なる施設となった場合

・市は、余剰地活用企業への所有権移転登記と同時に、余剰地について、市の買戻し特約の設

定登記を行う。買戻し特約は、余剰地活用企業への所有権移転登記をした日から 5 年間とされ、

民間施設の完成後、市は買戻し特約の抹消登記手続を行うことになっている。

・民間収益施設が、市の承諾なく提案と異なる施設となった場合には、市は上記の買戻し特約を

実行することも想定される。

(エ) 契約上の地位の譲渡等

・本事業では、事業者グループが本契約上の地位及び権利義務を第三者に譲渡することは認め

られていない。

ク 事業終了時の取扱い

・本事業は余剰地の売却であり、事業終了時の取扱いに関する規定はない。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・本事業の落札者決定基準では、まちづくりという観点から質の高い提案を選定するため、定量点

と定性点の比率が 7:3(総合評点(100 点)=定性点(70 点)+定量点(30 点))とされている。

・なお、定量点の審査方法は以下のようになっている。

図表 定量点の審査方法

定量点は、入札参加者が入札する「市営住宅整備に係る対価(消費税及び地方消費税を

含む)」から「余剰地の対価」を減じた「市の負担額」を用いて算定する。

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その算定式は「市が設定した市営住宅整備に係る対価」(予定価格×1.05)から「市が設定し

た余剰地の対価」(※)を減じて得られる「市の予定負担額」と同額の場合を 0 点、市の負担額

が も小さい場合を 30 点となるようにし、この算定結果をもって定量点とする。 なお、得点は小数点第3位を四捨五入して求めるものとし、0点を下回った場合は 0点とする。

※「市の予定負担額」=「市が設定した市営住宅整備に係る対価」‐「市が設定した余剰地の

対価」

出典:小松市公表資料に基づき作成

・また、定性点では「地域への貢献」の項目が設けられ、定性点 70 点のうち 5 点の配点となってい

る。

図表 審査項目および配点

審査項目 配点

全体計画 22

市営住宅と余剰地の相互の配慮 8

景観等への配慮 8

環境への配慮

近隣への配慮 施設計画等

6 施行計画

建替住宅 23

施設計画 配置・動線計画 8

機能性・安全性 7

管理面への配慮 8

余剰地 10

計画

全体計画・まちづくりへの貢献 5

安全性、緑地等の確保 5

事業実施体制 10

事業実施体制 5

地域への貢献 5

総合評価 5

提案内容の総合評価 5

合計 70

出典:小松市公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業の応募者は地元企業を中心としたグループの 1 者であった。

・選定された民間事業者の提案では、余剰地活用事業は分譲宅地として 43 区画を整備し、戸建

て住宅が整備される計画となっていた。なお、店舗等併設住宅を誘致したいという提案について

は実現していない。

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・余剰地活用としての戸建て住宅の販売については、若い世代や新婚世代の購入に配慮した分

譲価格や区画広さの提案が評価された。また、地元の各専門業者の参加や地元産資材の使用

への配慮等についても評価された。

(6) モニタリング方法と実施状況

・民間事業者は、市が要請したときは、余剰地における民間施設等の整備状況について、市に報

告し、市の実施調査(民間施設等の整備状況が事業契約書等に定められた水準を満たしている

か否かについての調査)に協力することが求められている。この調査は、余剰地の民間事業者へ

の所有権移転登記をした日から工事が完了するまでの間とされている。

・市は余剰地を引渡した後は特にモニタリング等は実施していない。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・宅地分譲は好調でありすべての区画が売却された。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・余剰地を 43 区画の宅地として売却できたことで、若い世代が定住し、まちに活気がうまれたと考

えられている。余剰地を市が売却しようとすると、宅地開発までは出来たとしても分譲までは出来

ないが、本事業では民間のノウハウを活用し 43 区画すべてを分譲することができた。また、公営

住宅整備と一体的な事業としたことで一体的な街並みが実現したと考えられている。

・余剰地を宅地として販売し、住民が増えれば市の税収が増え、まちも活性化するため、メリットは

十分にあると考えられている。

イ 課題

・PFI 手法とすることで様々な外部アドバイザーの選定手続なども含め、事務手間が多いことが課

題として考えられている。

(3) 事業に対する評価

・公共としては余剰地を一括して売却できたため、効率性や土地の有効活用策の点で評価されて

いると考えられている。また、議会の視察も多く、民間ノウハウを活用し地域活性化に繋げた事例

として注目されている。

・市民からは、若い世代の流入によりまちに活気がでたという点や、老朽化した公営住宅が新しく

建て替わり街並みが美しくなったという点において評価の声が聞かれている。

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4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・余剰地活用業務が含まれているため、立地条件は重要になると考えられている。本事業地は決し

て良好な立地ではないとされていたが、民間事業者の意向を確認し、事業成立が可能な活用用

途等も把握したうえで事業化されている。市では、今後も PFI 手法での市営住宅の建替を検討し

ているが、各事業において民間事業者の意向を確認することが重要視されている。

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(参考)基礎データ

事業名 小松市営川辺町住宅建替事業

事業分野 公営住宅

発注者 小松市

施設概要

施設内容 公共施設(公営住宅 110 戸)

民間施設(分譲宅地 43 区画)

施設規模 総敷地面積:6,860.78 ㎡

事業場所 石川県小松市川辺町 3-60

寄駅: JR 小松駅より車で 10 分/川辺町バス停より徒歩 3 分

事業概要 事業概要

老朽化した市営住宅を建て替えるとともに、余剰地を宅地分譲用

地として活用する事業

民間収益施設 分譲宅地

事業

スキーム等

事業期間 約 4 年間

事業方式 BT 方式

事業類型 -

事業規模 -

民間事業者の

業務内容

・市営住宅整備業務

・余剰地活用業務

VFM

特定事業選定時 約 7.0%

事業者提案 -

割引率 4.0%

審査結果

選定方式 総合評価一般競争入札

予定価格 市営住宅整備に係る対価:1,793,400 千円(杭工事除く)

余剰地の対価:105,632 千円

契約金額 市営住宅整備に係る対価:1,708,000 千円(杭工事除く)

市営住宅整備に係る対価:1,912,950 千円(杭工事含む)

応募グループ 1 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎(株)トーケン(建設・余剰地活用)、篠岡建設(株)(建設)、志乃

丘商事(株)(余剰地活用)、(株)アール・アイ・エー(設計・工事監

理)

協力会社 -

スケジュール

実施方針公表 平成 20 年 3 月 24 日

募集要項公表 平成 20 年 6 月 5 日

提案受付 平成 20 年 9 月 18 日

落札者決定 平成 20 年 10 月 31 日

契約締結 平成 20 年 12 月 17 日

供用開始 平成 22 年 7 月 30 日(第 1 期工事引渡し)

平成 24 年 1 月 31 日(第 2 期工事引渡し)

活用した

制度等

補助金 -

その他 -

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事例 05:海の中道海浜公園海洋生態科学館 改修・運営事業

事業分野:都市公園

事例 05:海の中道海浜公園海洋⽣態科学館 改修・運営事業

事業場所 福岡県福岡市東区西戸崎18-28

公共主体 国土交通省 九州地方整備局

民間主体 マリンワールド PFI(株)

施設概要 公共施設 海洋生態科学館(マリンワールド)、駐車場

民間施設 -

事業実施段階 事業者選定済(本事業での維持管理運営開始は未済)

事業手法 PFI手法:RO方式

公共への還元 土地等の対価(占用料・使用料)〔3.36 億円(0.17 億円/年)〕

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、開館から 25 年が経過し、老朽化が進行している海の中道海浜公園海洋生態科学館

(マリンワールド)について、民間事業者が民間ノウハウを 大限活用し、効率的に改修を行うとと

もに、維持管理・運営を行う事業である。民間事業者が民間資金を活用して改修を行い、本施設

の運営から得られる収入により投資費用を回収する。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 国は、民間事業者より本施設の土地・施設使用料として約 3.36 億円を受け取る。

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 実績に基づく事業収支の想定

・本施設は開業から 25 年が経過し、事業収支に関する実績があることから、将来の事業収支に

ついて比較的確度のある想定が可能であった。

➤ 対象事業に駐車場を追加

・隣接する駐車場の運営を業務範囲に含めることで、施設運営に関する民間事業者の裁量度合

いが向上。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 国における独立採算型方式採用の方針

・国は予算面での制約から、独立採算型での事業実施を強く志向。

➤ 事業者における水族館経営についての強い意志

・本事業の事業者が属する民間事業者グループは本施設の運営を社会貢献活動の一環とも位

置づけており、本事業の実施について強い意志を持っていた。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・国営海の中道海浜公園の公園施設である海洋生態科学館は、平成元年 4 月に部分開館し、平

成 7 年に全面開館を行っている。本施設は、設置以来、都市公園法に基づく国土交通省九州地

方整備局(以下「九州地方整備局」という。)と独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という。)

による設置管理協議の下、URが管理運営を行ってきたが、平成 19 年 2 月に閣議決定された独

立行政法人整理合理化計画により、UR が本施設の管理を継続しないことが決定したため、九州

地方整備局では UR に代わる新たな運営者を選定する必要があった。

・また、開館後 25 年が経過し、施設の老朽化が進行し、来館者数もやや減少傾向にあったことか

ら、展示も含めた施設のリニューアルの必要があったことから、九州地方整備局では、財政負担を

極力軽減しつつ施設の改修及び管理運営が図られることを目的に、独立採算による事業実施を

検討した。

イ 官民連携手法導入の背景

・UR が本施設の管理業務を継続しないことが決定したことを受け、九州地方整備局は平成 23 年

に本施設の運営業務について PFI 導入可能性調査を実施した。その結果、施設の改修および

運営について、PFI 手法の独立採算型 RO 方式を導入することが望ましいとの結果になった。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・対象施設は国営海の中道海浜公園の公園施設に位置する海洋生態科学館と駐車場である。

● 効果

➤ 財政負担なく、公共施設のリニューアルおよび維持管理・運営を実施

・国は官民連携手法を活用することで、財政負担なく課題であった施設改修を実現することができ

たほか、維持管理・運営面においても今後のサービス水準向上が期待できる。

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図表 位置図

出典:㈱海の中道海洋生態科学館公表資料

図表 施設概要

①海洋生態科学館(現在の愛称は「マリンワールド海の中道」)

施設用途 水族館

竣工 Ⅰ期工事:平成元年、Ⅱ期工事:平成 7 年

構造 (躯体)RC 造 一部 S 造、SRC 造 (屋根)膜構造

延床面積 21,400 ㎡

建築規模 地上 4 階、地下 1 階

利用料金※ 大人 2,160 円、年間パスポート 4,420 円

その他団体割引等あり

項目 主な施設・設備

建築本体 躯体(RC 造 一部 S 造、SRC 造)・膜屋根・外部タイル仕上げ

衛生設備 受水槽、湧水槽、汚雑排水槽、消火水槽、トイレ衛生機器、消火設備

熱交換器 熱交換器、冷凍機

電気設備 受変電設備、放送・映像設備、配電盤、自家発電機設備

エレベーター3 基(油圧式)、自動火災報知設備、中央監視設備

水槽 総水槽数 78 槽、総水槽容量約 6,500 ㎥

空調設備 空調設備、冷却塔

ろ過設備 ろ過槽数 171 槽(圧力式、重力式)、総ろ過槽容積約 610 ㎥

海水貯留槽(容量 600 ㎥×2)、海水受水槽・排水槽、水質調整設備

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②駐車場

駐車可能台数 大型 18 台、普通 382 台、身障者 8 台

駐車料金※ 大型車 1,550 円、普通車 520 円、原付自動車・自動二輪車 260 円

面積 約 15,000 ㎡

注:利用料金は平成 26 年 12 月現在のものであり、今後は応募者の提案に基づき、九州地方整備局との協議及

びその承諾を経て設定される。 出典:九州地方整備局公表資料に基づき作成

図表 外観

出典:㈱海の中道海洋生態科学館公表資料

イ 事業方式

・事業方式は、PFI 法に基づく RO(Rehabilitate Operate)方式である。

・事業者は、本事業に必要な事業費は、本施設の運営から得られる収入により回収するものとし、

九州地方整備局から事業者への費用の支払いはない。

ウ 事業期間

・事業期間は、事業契約の締結日から平成 48 年 3 月 31 日までの約 20 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・民間事業者は、国に都市公園法に基づく土地・施設使用料を納める。

・事業者が納める本施設の土地・施設使用料は 16,783,000 円(税抜き)/年となっている。事業期間

中に金額の変更は予定されていない。

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図表 事業スキーム図

※1 金額は現事業者である(株)海の中道海洋生態科学館と事業者(SPC)との協議による。

※2 海洋生態科学館の利用料金収入は約 1,130 百万円(平成 23 年度)、駐車場収入は約 5,970 千円/月(平成

25 年度)である。

(イ) 帰属先と使途

・事業者が納める本施設の土地・施設使用料は国の一般会計の歳入となるため、その使途は決ま

っていない。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、建政部が担当している。

・九州地方整備局は、PFI 導入可能性調査、事業者選定支援業務を(株)パシフィックコンサルタン

ツに委託している。

国土交通省 九州地方整備局

公共施設

土地・施設使用料 【約 3.36 億円】

(16,783 千円/年)

施設改修段階

運営段階

海洋生態科学館 駐車場

施設 改修費

利用料金 収入※2

一般会計

生物資産 譲受費※1

事業者

現事業者

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(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・本施設は九州地方整備局が所有し、事業者は九州地方整備局から都市公園法第 5 条に基づく

本施設の管理許可を受けることになっている。管理許可期間は 10 年が上限となっているため、

PFI 事業として長期契約を交わすとともに、特段の理由がない限り更新を認めることが示されてい

る。

イ 規制等の変更

・本事業の実施にあたり、都市計画の変更等は行っていない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・九州地方整備局は、平成 23 年に国営公園内の有料施設(海の中道海浜公園海洋生態科学館

(マリンワールド、駐車場)、国営吉野ヶ里歴史公園(佐賀県)(売店、レストラン、駐車場))の運営

に関して PFI 導入可能性調査を実施している。その中で全国の水族館運営会社や金融機関を

対象に意向調査を実施した。

・独立採算型 RO 方式は前例がなかったため、本事業の実施にあたっては、独立採算の事例とし

て直轄駐車場維持管理・運営事業や水族館 PFI 事業、RO 方式の案件等を参考とした。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・事業用地は国営公園海の中道海浜公園の中にある。

イ 施設要件及び業務内容

・施設の改修業務については、九州地方整備局が実施した事前調査結果を踏まえて、施設の修

繕・更新が必須と判断された項目が業務内容に盛り込まれている。また、事業者の提案により、施

設・設備の耐用年数以内に更新を行うことも、九州地方整備局と協議の上で認められる内容とな

っている。

・運営業務については、本施設の営業時間にフレキシブルに対応できることなどから、駐車場につ

いても業務範囲に含まれた。これにより、事業者は、水族館および駐車場運営、飲食物販業務に

おいて、利用者の動向に見合った適切な営業時間、利用料金を設定することが可能とされてい

る。

・事業者は、現在の運営者との間で合意した金額で生物資産を譲受することになっており、生物資

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産の譲受金額は74,000,000円(税抜き)程度と見込まれることが示されている。なお、この金額は

九州地方整備局が現在の運営者へのヒアリング等をもとに設定している。

図表 生物資産の譲受条件

SPC は、維持管理・運営業務の実施に先立ち、本施設の営業を現在行っている事業者(以下、「現

事業者」という。)が所有する生物資産等を譲り受けるものとする。生物資産の譲受金額は

74,000,000 円(税抜き)程度を見込んでおり、募集要項等公表後の生物資産の増減分にかかる譲

受金額の見直し及び生物資産以外の譲受金額については、SPC と現事業者との間で協議を行う

ものとする。SPC は、現事業者との間で合意した金額で売買契約を締結する。譲受けに係る費用

は、本施設の運営から得られる収入により回収するものとする。

出典:九州地方整備局公表資料に基づき作成

ウ 事業期間

・事業期間は、事業契約の締結日から平成 48 年 3 月 31 日までの約 20 年間(現事業者からの引

継期間は平成 28 年 1 月~3 月)である。また、維持管理・運営期間(改修工事期間を含む。)の

開始予定日は平成 28 年 4 月 1 日とされている。

・本事業を独立採算事業とするためには、運営期間 10 年では投資に見合った回収が得られず、

一方で 30 年間とした場合には施設の更新に関する不確定要素が増してリスクが過大となることが

考えられため、20 年間程度の事業期間とされた。

エ 民間収益の還元の内容

・民間事業者は、国に都市公園法に基づく土地・施設使用料を納める。

・事業者が納める本施設の土地・施設使用料は 16,783,000 円(税抜き)/年となっている。事業期間

中に金額の変更は予定されていない。

オ 参加条件

・本事業は水族館の運営が主要な業務となるため、事業者の参加条件として水族館の運営実績が

求められている。

・また、応募者の構成員に改修工事業務を担当する企業は含めないとする要件となっている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 25 年 6 月 17 日 実施方針に関する質問回答公表 平成 25 年 7 月 26 日 特定事業の選定 平成 25 年 8 月 22 日 募集要項の公表 平成 26 年 12 月 11 日

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募集要項等に関する現地見学会 平成 26 年 12 月 18 日 第一次審査に関する質問回答 平成 27 年 1 月 9 日 第一次審査資料の提出期限 平成 27 年 1 月 19 日 募集要項に関する質問回答公表(第 1 回) 平成 27 年 1 月 30 日 第一次審査結果の通知 平成 27 年 2 月 3 日 募集要項に関する質問回答公表(第 2 回) 平成 27 年 2 月 27 日 第二次審査資料の提出期限 平成 27 年 3 月 30 日 選定事業候補者の決定 平成 27 年 7 月 15 日

基本協定の締結 平成 27 年 7 月 30 日

事業契約の締結 平成 27 年 10 月 21 日

出典:九州地方整備局公表資料およびヒアリングに基づき作成

・公募にあたっては、九州地方整備局は本施設に関する各種データの提示や、施設見学会を実

施している。

・本事業の選定プロセスの中で個別対話等は実施していない。

キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・本施設は事業者が独立採算で運営するものとし、運営に関わるリスクは基本的に事業者が負担

することとなっている。

(イ) 入場料等を変更する場合

・事業者は、九州地方整備局の承諾があった場合、入場料や営業時間を変更することも可能とさ

れており、九州地方整備局は、公共サービスの水準の向上等の合理的な説明があれば入場料を

上げることについて承諾するとしている。

(ウ) 事業収支が悪化した場合

・本事業の継続が困難となった場合の措置としては、金融機関による介入権(ステップイン)のほか、

九州地方整備局が第三者の新事業者を選定し、事業者と新事業者との間で有償による事業譲

渡を行うなどの措置が考えられている。

・また、九州地方整備局が本契約を解除した場合、事業者は 47 百万円の違約金を支払うことにな

っている。なお、これは次の事業者が決まるまでの生物の維持管理費用に充てることが想定され

ている。

・さらに、事業継続性を確保するため、金融機関等が SPC の株式および生物資産等に担保を設

定しない際には、九州地方整備局が担保権を設定できる仕組みとなっている。

(エ) 契約上の地位の譲渡等

・本事業では、事前に九州地方整備局の書面による承諾を得た場合を除き、第三者に権利義務を

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譲渡等することは認められていない。

(オ) 事業終了時の取扱い

・本事業の終了時において、事業者が修繕・更新を実施した施設・設備(事業者の提案により導入

された施設・設備も対象となる)については、引渡しから 1 年以内に大規模修繕を要しない状態で

引渡すものとされている。

・事業者の所有する生物資産等については、九州地方整備局と協議を行い、事業終了時の措置

を決定することになっている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・事業の実施方針・実施体制、資金調達・収支計画、施設・展示計画、企画・営業計画、教育・研

究計画の項目を 100 点満点で評価する内容となっている。

・事業者にとっては改修費の負担を、利用料金収入で賄うというリスクの高い事業となっているため、

審査項目の評価の視点に「予備的資金の確保」を含むことで、事業者が安定した財務基盤を保

つ仕組みを盛り込むなど、事業継続性に留意した審査項目となっている。

・事業継続性の確保及び公共サービス水準の向上を重視した配点となっており、事業者が多くの

収益をあげて、公共側に収益が還元されることは積極的には評価されていない。

図表 審査項目および配点

審査項目 配点

事業の実施方針及び実施体制 15 事業実施方針 3

実施体制・スタッフ教育 5

リスクへの対応 3

セルフモニタリング方策 2

地域や環境への配慮 2

資金調達及び収支計画 25 収入及び支出の見込み 10

資金調達・償還計画 5

出資者の構成・出資条件 5

資金不足時の対応 5

施設・展示等計画 30

修繕・更新計画及び改修工事 10

維持管理 3

展示 10

生物の飼育 5

ユニバーサルデザインへの配慮 2

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企画・営業計画 10

利用促進・広報 8

その他の収益活動 2

教育・研究計画 20

教育プログラム 10

研究活動 5

博物館機能の発揮 5

合計 100

出典:九州地方整備局公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・選定された事業者の提案内容は、海中リボーンという、九州周辺の豊かな自然の展示に積極的

に取り組む提案や展示生物の解説について、フィールドラボなど参加型の新しい解説方法も取り

入れるものである。

・また、本事業の特徴への理解が高いこと、過去の運営実績を踏まえた収支の想定がなされており、

一定の信頼性が認められること、初年度に大規模改修工事を実施し、その後も小規模の改修工

事を行い、集客力の維持を図っていくこと、集客の維持を念頭においた計画となっていることなど

が評価された。

・また、事業継続性の確保の点においても代表企業の親会社である西日本鉄道(株)のグループフ

ァイナンス制度への加入等という具体的な方策等が提示されているほか、親会社による追加貸付、

増資の検討がなされており、事業安定性に寄与すること等が優れていると認められた。

(6) モニタリング方法と実施状況

・九州地方整備局は、事業者の業務内容が本契約、要求水準書、事業提案に示す内容を満足し

ていないと判断した場合、是正勧告、モニタリング違約金の請求等の措置を取るものとされている。

具体的には、今後定められるモニタリング実施要領にもとづき実施される予定となっている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・現在、リニューアル計画の策定中である。

イ 事業収支状況

・事業者は本事業に必要な資金を、代表企業の親会社や (株)民間資金等活用事業推進機構より

調達する予定である。

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(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・PFI 法に基づく事業とすることで、長期の契約が可能となり、民間事業者の柔軟な運営が可能と

なったと考えられている。

・事業者選定プロセスの客観性や透明性が担保されると考えられている。

イ 課題

・独立採算でかつコンセッション方式を採らない事業の場合、事業者選定基準には価格点が

無く、提案のみで評価することになるため、審査結果の客観性をいかに担保するかが、課

題となったとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・20 年に亘る事業期間において、発注者側の担当者は 2~3 年毎に変わるため、発注者側で綿密

に情報を引き継いでいく必要があると考えられている。

・水族館のように他の公共施設と比べて比較的収益性の高い施設であれば、本事業のような独立

採算型の事業が成立する可能性はあると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 海の中道海浜公園海洋生態科学館 改修・運営事業

事業分野 都市公園

発注者 国土交通省 九州地方整備局

施設概要

施設内容 公共施設(海洋生態科学館、駐車場)

施設規模 ・海洋生態科学館 延床面積:21,400 ㎡

・駐車場 面積:約 15,000 ㎡/駐車可能台数:408 台

事業場所 福岡県福岡市東区西戸崎18-28

寄駅:JR海ノ中道駅(徒歩 5 分)

事業概要 事業概要

民間ノウハウを活用して施設を改修し、維持管理及び運営業務

を独立採算事業として実施する。

民間収益施設 ―

事業

スキーム等

事業期間 約 20 年間

事業方式 PFI手法:RO方式

事業類型 独立採算型

事業規模 ―

民間事業者の

業務内容

設計業務、改修工事業務、工事監理業務、維持管理業務、運

営業務

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 公募型プロポーザル方式

予定価格 -

契約金額 土地・施設使用料 16,783,000 円(税抜き)/年

応募グループ 1 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎(株)海の中道海洋生態科学館、西鉄ビルマネージメント(株)、(株)

九電工

協力会社 大成建設(株)、(株)日建設計

スケジュール

実施方針公表 平成 25 年 6 月 17 日

募集要項の公表 平成 26 年 12 月 11 日

提案受付 平成 27 年 3 月 30 日

選定事業候補者決定 平成 27 年 7 月 15 日

契約締結 平成 27 年 10 月 21 日

運営開始 平成 28 年度

活用した

制度等

補助金 -

その他 -

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事例 06:大阪城公園パークマネジメント事業

事業分野:都市公園

事例 06:⼤阪城公園パークマネジメント事業

事業場所 大阪府大阪市中央区大阪城

公共主体 大阪市 民間主体 大阪城パークマネジメント共同事業体

施設概要 公共施設

大阪城公園、大阪城野球場、大阪城西の丸庭園、豊松庵、大阪城天守閣、大阪城音楽堂

民間施設 上記施設を指定管理者として運営

事業実施段階 指定管理期間開始

事業手法 公共施設:(基本的な施設は大阪市が整備済) 民間施設:大阪市が整備した施設を民間事業者が指定管理者として運営。また、民間事業者の提案により新たに整備した施設を市に寄付した上で指定管理者として運営。

公共への還元 納付・負担金(売上連動・固定) 〔固定:約 51 億円(2.26 億円/年(平成 27~29 年度)、2.6 億円/年(平成 30 年度以降))、変動:4~18 億円(0.2~0.9 億円/年)〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 多額の収入の見込める大阪城天守閣を対象施設として追加

・本事業では、事業者の公募に先がけて、平成 25 年に民間事業者から事前事業提案を募集して

いる。そこでの提案内容や提案事業者からのヒアリングなどを受けて、大阪市は多額の収入(平

成 24 年度実績は約 8.9 億円)が見込める大阪城天守閣も対象施設に追加した。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、大阪市から地方自治法の指定管理者の指定を受けた事業者が、大阪城公園及び大

阪城公園内の複数の公共施設の管理運営・維持管理に関する業務と、魅力向上事業に関する業

務を行うものである(Park Management Organization 事業(以下「PMO 事業」という))。

➤ 指定管理施設の中には大阪城天守閣や駐車場といった有料施設が含まれていること、事業者に

対して新たな収益事業の実施を認めたことなどから、大阪市は事業者に対して指定管理料を支払

わない(独立採算型事業)。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 大阪市は、事業者から、基本納付金(固定額)として 2.26 億円/年(平成 27 年度から平成 29 年度

まで。平成 30 年度以降は 2.6 億円/年)を受け取るとともに、事業者の収益の 7%の変動納付金

(約 0.2 億円~0.9 億円/年)を受け取る。

➤ 平成 30 年度以降の基本納付金及び変動納付金については、事業期間における収支状況を踏ま

えて、3 年ごとに大阪市と事業者の間で協議して決定する。

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➤ 既存施設の収益施設化及び新規収益施設の整備

・民間事業者の提案により、旧第四師団司令部庁舎(もと大阪市立博物館)と、西の丸庭園内の

大阪迎賓館がカフェ、レストラン、パーティースペースとして活用され、収益の見込める施設とな

る予定である。また、同じく民間事業者の提案により、JR 大阪城公園駅前エリアや JR・大阪市

営地下鉄森ノ宮駅前エリアにおいて新たな公園施設が整備されることになっている。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 大阪財界における取組

・平成 22 年に、大阪商工会議所から「大阪城周辺の魅力向上に関する提言」提言が出されるな

ど、大阪財界においても、大阪城公園の活性化は「国際観光都市 大阪」の創生に必要な事業

と見なされている。

➤ 大阪府と協調した取組

・平成 24 年に、大阪市は大阪府とともに「大阪都市魅力創造戦略」を策定し、大阪城公園を重点

エリアのひとつに位置づけ、新たな魅力を備えた世界的な歴史観光の拠点として管理運営及び

整備を推進することにした。また、その際には、「民が主役、行政はサポート役」という基本的な考

え方を示し、民間事業者の柔軟かつすぐれたアイデアや活力を取り入れることを明確にした。

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 事前事業提案の募集

・大阪市は、平成 26 年の事業者の公募に先がけて、平成 25 年に民間事業者から事前事業提案

を募集している。これにより、大阪市は、民間事業者の本事業への参画意向や事業ニーズを把

握できたほか、それらを踏まえて都市公園や文化財の活用に関して関係省庁との事前協議を具

体的に行うことができた。

➤ 大阪商工会議所を通じた民間事業者の意見聴取

・大阪商工会議所は、毎年度、観光客を誘引する提言を行っており、平成 22 年には大阪城周辺

の活性化に向けた提言も出されている。大阪市は、大阪商工会議所を通じて、民間事業者の意

向を聞くことができた。

◇ 人材面での特徴・工夫

・指定管理者制度といった既存の仕組みの活用であり、基本的には特別なノウハウを持つ人材の

配置は必要がなかった。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の経緯

・約105.5haの広大な敷地を持つ大阪城公園は、公園のシンボルである天守閣を中心に、歴史的

建造物である旧第四師団司令部庁舎(もと大阪市立博物館)のほか、大阪迎賓館、野外音楽堂

等、様々な施設を有している。また、平成 24 年度の天守閣の入場者数は約 151 万人であり、そ

の周辺である本丸エリアはその 3 倍程度、公園全体であればさらにその 2 倍程度の来場者数が

あるものと想定され、一大集客エリアとなっている。

・一方で、大阪市(以下「市」という。)の公園や公園施設の管理や運営に関する部署・形態が異な

っていること、旧第四師団司令部庁舎(もと大阪市立博物館)のように使用されていない施設があ

ること、文化財保護の観点から一部の売店等の撤去が求められていること、市が負担する維持管

理・運営コストの縮減も求められていることなどの課題も抱えていた。

・係る背景を踏まえて、平成 22 年に大阪商工会議所が公表した「大阪城公園の魅力向上に関す

る提言 ~ 「大阪城を世界に誇る名城にする会」の発足に向けて ~」では、グランドデザインの

策定、強力な推進体制の確立が提言された。

イ 官民連携手法導入の経緯

・市は平成 23 年に国土交通省総合政策局の補助金(先導的官民連携支援事業)を得て、「大阪

城公園パークマネジメント事業及び「もと市立博物館」等の民間活用事業に関する調査業務」を

実施し、パークマネジメントを実現するための課題として、自由な施設の設置を可能とする枠組み、

自由な権限の行使を可能とする枠組み、収益性に応じた柔軟な使用料の支払いの枠組み、投資

回収が可能な事業期間の設定の枠組みの必要性が示されている。

・その後、市は、大阪府とともに、平成24年12月に「大阪都市魅力創造戦略」を策定し、大阪城公

園を民間事業者の柔軟かつすぐれたアイデアや活力を導入する重点エリアのひとつに位置付け、

新たな管理運営及び大阪城公園の魅力向上に資する施設整備を検討した。また、平成 25 年 3

● 効果

➤ 大阪城公園における魅力向上事業の実現

・本事業の開始までは、大阪城公園内の施設については、大阪市、指定管理者(大阪城天守閣)

等が混在し、施設ごとに管理主体が異なっていた。そのため、大阪城公園全体を歴史観光拠点

としてアピールしていく力が不足していたが、本事業により、公園全体と公園施設とを総合的、戦

略的に一括管理していくことにより、大阪城公園をさらに魅力ある歴史公園として、より多くの観

光客や公園利用者を呼び込めるよう、公園の特徴を活かした様々な魅力あふれる事業や新たな

施設の設置・運営、既存施設の活用などを実施していくこととなった。

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月には「特別史跡大阪城跡保存管理計画」を策定し、その歴史的文化的資産を適正に保存する

方針も決定した。

・以上を踏まえ、市は「民が主役、行政はサポート役」との基本的な考えのもと、民間事業者の柔軟

かつ優れたアイデアや活力を導入し、世界的な観光拠点に相応しいサービスの提供や新たな魅

力の創出を図るため、民主体の事業者が総合的かつ戦略的に公園及び公園施設を一体管理す

る「パークマネジメント事業」を平成 27 年度より導入することにした。事業者の募集に先がけて、平

成 25 年度に民間事業者から事前事業提案の募集を行い、民間事業者の本事業への参画意向

や事業ニーズを把握するとともに、文化財保護法、国有財産法、都市公園法などの関係法令に

沿って設置可能な施設及び実施可能な事業を把握するために市が関係省庁との事前協議を行

う際の参考とした。その上で平成 26 年度に事業者の公募を行い、平成 27 年 4 月から事業者が

指定管理者として活動を行っている。

ウ 民間事業者の応募の背景

・在阪企業を中心にして、地元への貢献の観点から応募した。施設開発、コンテンツ企画、公園の

維持管理や植栽の管理など、それぞれの分野を得意とする企業でグループを構成した。新たな

施設を整備・運営できることが魅力と感じられている。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・大阪城公園は大阪市中心部に立地する面積約 105.5ha の広大な公園である。本事業では、事

業者が、大阪城公園と、公園内に設置されている施設の多くを指定管理者として管理する。

図表 位置図

出典:大阪城パークセンター ホームページ

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図表 施設概要

分類 施設名 備考 事業者の 1 大阪城野球場 有料施設 管理対象の施設 2 太陽の広場 3 大阪城西の丸庭園 有料施設 4 大阪迎賓館 5 豊松庵(茶室) 有料施設 6 少年野球場 7 駐車場(城南) バス、普通自動車 8 旧第四師団司令部庁舎 旧大阪市立博物館 9 大阪城音楽堂(もと音楽団事務所含む) 有料施設 10 大阪城天守閣 有料施設 既存売店等 10 棟 重要文化財 13 棟 事業者の 11 修道館 管理対象外の施設 12 大阪城弓道場 13 大阪城公園事務所 管理ヤードを含む 14 大阪城ホール 15 駐車場(森ノ宮) H27~29 年度まで対象外 16 水上バス関連施設 17 顕彰塔 18 教育塔 19 国際平和センター 公園外施設 20 豊国神社 公園外施設、民有地、市所管外 21 貯水池、配水場 公園外施設

出典:大阪市公表資料に基づき作成

図表 配置図

出典:大阪市公表資料

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図表 外観

出典:大阪城パークセンターホームページ

・また、民間事業者の判断により施設が新設され、既存の施設と合わせて事業者が管理運営・維

持管理を行うことが予定されている。選定された民間事業者の提案内容は次のとおりである。

図表 選定された民間事業者の提案内容(概要)

① 旧第四師団司令部庁舎(もと大阪市立博物館)

・大阪城を訪れる観光客をはじめとした多くの方々を満足させる、大型利便施設。

1 階 … 物販、カフェ、レストラン 2・3 階 … パーティースペース、国際会議場、多目的スペース

屋上 … テラス(カフェバー、緑化) 地下 … レストラン

② 大阪迎賓館

・パーティースペースとして活用、通常はカフェ、レストランとして活用

③ もと音楽団事務所

・事業者の拠点となる総合事務所として活用、パークコンシェルジュなど観光案内機能を充実させ

る。

④ 大阪城公園駅前エリア

・サムライ体験テーマパーク … 歴史体験できる施設、本丸、天守閣に通じる動線として、大阪城

の持つ歴史的文化的魅力を増幅させる施設。

・仲見世事業 … 江戸・上方を再現した店舗による物販・飲食事業。

⑤ 森ノ宮駅前エリア

・森の屋台村 … 公園の景観に配慮しながら、仮設のテントを用いた屋台群、テーマを変えながら

魅力を創出する。世界中の文化・歴史を体感できる。

⑥ その他事業

・公園内外をつなぐルートと園内ルートでの巡回バス事業、重要文化財をめぐる櫓めぐりの道事業、

ランニングステーション。

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出典:大阪市公表資料

・現段階で、選定された民間事業者の提案により具体化したものとしては駐車場の増設があげられ

る。今後は、選定された民間事業者の提案内容を踏まえつつ、市と民間事業者の間で協議しな

がら、施設の具体化を図っていくことになっている。

イ 事業方式

・事業方式は、地方自治法に基づく指定管理者制度である。

・事業者が、魅力向上事業に関する業務の一環として新たに整備した施設については、市に引き

渡し(寄付)後、公園施設として指定管理者として管理運営を実施する。

・指定管理者については、指定管理者制度の導入及び運用にかかるガイドラインに掲載されてい

る指定管理者制度の協定書例(以下「モデル協定書」という。)に基づき、大阪城公園パークマネ

ジメント事業 大阪城公園及びほか5施設管理運営業務基本協定書(以下「基本協定書」という。)

と、平成 27 年度大阪城公園パークマネジメント事業 大阪城公園及び他 5 施設管理運営業務年

度協定書(以下「年度協定書」という。)が締結されている。

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・公共施設等運営権については、指定管理者(利用料金制)でも対応可能と考えられたことから、

採用されなかった。

ウ 事業期間

・指定管理期間は、平成 27 年 4 月 1 日から、平成 47 年 3 月 31 日までの 20 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、事業者が市に対して支払う納付金である。

・事業者が市に対して支払う納付金は、選定された民間事業者の提案により、基本納付金(固定額

で、平成 27 年度から平成 29 年度までは 2.26 億円/年、平成 30 年度以降は 2.6 億円/年となっ

ている。)と変動納付金(大阪城パークマネジメント事業税引後損益の 7%で、0.2~0.9 億円/年を

想定。当該損益が負の額となる場合は 0 円)の組み合わせとなっている。

・4 年目以降の基本納付金及び変動納付金については参考額の扱いとされ、収支状況を踏まえて、

市と事業者の間で 3 年ごとに協議のうえ決定することになっている。

・また、市が施設の目的外使用許可、都市公園法等に基づく許可を事業者や施設利用者に対し

て行った場合には、所定の使用料を市に支払うことになっている、

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図表 事業スキーム図

※4 年目以降の基本納付金及び変動納付金については参考額の扱い

出典:大阪市公表資料等に基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属する。何かの使途に充当されることが決まっているわけではない。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、経済戦略局観光部観光課が担当している。

・本事業に関する各検討段階における庁内の事業実施体制は以下のとおりである。いずれも兼務

であるが、本事業の兼務割合は時期により変動している。なお、関連部局(建設局、教育委員会)

の関係者は含んでいない。

大阪市

一般会計

市有地、国有地等

施設整備費 【約 30 数億円/5 年】

納付金 【固定:51 億円

(2.26~2.6 億円/年)】 【変動:4~18 億円

(0.2~0.9 億円/年)】

事業者

都市公園事業費 文化財事業費 (石垣修復費、文化財調査

費等)

公園占用料 【実績払い】

既存施設

新設施設

公共施設【指定管理者】

利用料金等

施設整備段階

運営段階

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図表 発注者の検討体制

可能性調査~ 平成 23 年度~ 3 人(技術職 1 人、事務職 2 人)

指定管理者選定段階~ 平成 25 年度~ 5 人(技術職 2 人、事務職 3 人)

指定管理開始~ 平成 27 年度~ 5 人(技術職 2 人、事務職 3 人)

出典:大阪市ヒアリングに基づき作成

・市は PFI 導入可能性調査はプライスウォーターハウスクーパース(株)に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続き

・事業用地や既存施設は行政財産で、事業者により新たに整備される施設も行政財産となる。また、

既存施設は地方自治法上の公の施設となっており、新規施設もそのようになる予定である。

イ 規制の変更等

・事業用地は、市有地、国有地、民有地からなっており、大部分が国有地である。国有地について

は、国有財産法第 22 条の規定により、市が国から無償で借り受けている。公園の国有地上には

市以外の第三者所有の施設は設置できないため、公園の国有地上に設置される公園施設につ

いては市に無償譲渡してもらうことになっている。なお、公園の国有地以外の市有地は特別史跡

の指定地、もしくは既に施設が整備されているため、新たな施設整備はできない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

(ア) PPP 導入可能性調査段階

・平成 23 年度に実施した PPP 導入可能性調査(先導的官民連携支援事業)では、民間事業者 9

社(デベロッパー2 社、マネジメント企業 3 社、運営企業 3 社、金融機関 1 行)に対してヒアリング

を行った。

・ヒアリングの内容は、パークマネジメント等の事業スキーム、官民の役割・リスク分担、民間参入の

ために必要な要素、課題等である。

・民間事業者へのヒアリングにより、民間事業者のニーズの掘り起こしができた。

・なお、大阪城公園内施設に関する需要調査は実施されていない。

(イ) 事前提案募集段階

・市は、平成 26 年の事業者の公募に先がけて、平成 25 年に民間事業者から事前事業提案を募

集している。

・提案募集の目的は、民間事業者の本事業への参画意向や事業ニーズを把握することのほか、文

化財保護法、国有財産法、都市公園法などの関係法令に沿って設置可能な施設及び実施可能

な事業を把握するためである。

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・市が民間事業者に対して求めた内容は、個別事業ごとの事業コンセプト提案書、事業計画図提

案書、収支計画提案書である。

・市は、提案受付前後に、提案事業者と個別に複数回ヒアリングを行った。それにより、提案内容の

詳細や事業者の意向を聞き取り、事業ニーズ等を、本事業の公募条件設定に繋げることができ

た。

・応募者数、応募内容等は非公表となっている。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間提案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・大阪城公園は、大阪の中央部に位置し、総面積は約105.5haの広大な公園である。大阪城天守

閣をはじめとして各種の施設が設置されているほか、梅や桜などの樹木も多い。

・JR 大阪環状線や大阪市地下鉄の駅からも徒歩圏に位置し、公園までの交通の利便性もよい。

・こういった環境にあることから来園者も多い。平成 24 年度の天守閣の入場者数は約 151 万人で

あり、その周辺である本丸エリアはその 3 倍程度、公園全体であればさらにその 2 倍程度の来場

者数があるものと想定されている。このように、市においても、民間事業者においても、大阪城公

園の集客力は高いと考えていた。

イ 施設要件及び業務内容

・本事業では、事業者が行うべき業務として、管理運営・維持管理に関する業務と、魅力向上事業

に関する業務が示されている。市が要求水準で示している事項は次のとおりである。

図表 要求水準(概要)

・魅力向上事業に関する事項

・一般園地の管理運営に関する事項(大阪城公園)

・大阪城西の丸提案、豊松庵(茶室)、大阪城野球場の管理運営に関する事項

・大阪城天守閣の管理運営に関する事項

・大阪城音楽堂の管理運営に関する事項

・大阪城公園及び他 5 施設電気機械設備維持管理に関する事項 出典:大阪市公表資料に基づき作成

・魅力向上事業に関する事項以外の事項については、基本的には現在の指定管理者及び業務

委託の仕様が踏襲されている。

・一方、魅力向上事業に関する業務では、次の事業区分に関して提案が求められている。

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図表 民間事業者に提案が求められている内容

事業区分 対象施設 備考 既存建築物の活用 旧第四師団司令部庁舎

(旧大阪市立博物館)【必須提案】 ・多くの観光客の飲食等の需要を満たす

便益施設の機能が求められている。 ・耐震補強、改修にかかる費用は事業者

の負担。 大阪迎賓館 ・庭園の広大な芝生広場で、大阪城天守

閣を間近で眺望できる立地を活用した提

案が求められている。 音楽堂管理事務所

(もと音楽団事務所) ・事業者の管理運営業務の拠点となる管

理事務所としての使用等が求められてい

る。 新たな公園施設の設置

及び管理運営 森ノ宮駅前エリア ・公園のエントランスとしてのロケーションを

活かした新たな魅力を創出し、来園者の

サービス向上に資する公園施設の設置

及び管理運営の提案が求められている。 大阪城公園駅前エリア ・同上 駐車場の新設 ・特別史跡の指定地外であれば事業者の

費用負担で新たに設置可能。 ・他の公園施設の設置や事業の提案を踏

まえて、その必要性の説明が必要。 回遊性向上や新たな賑

わいづくり事業 新たな園内交通システム ・鉄道駅前エリアや駐車場等から、本丸エ

リアへのアクセス向上を図ることできる、交

通システムの手段、ルート、料金設定等

の提案が求められている。 新たなイベント実施や観光案内 ・独創性豊かな催しやイベントを企画し、公

園利用者や観光客の新たなニーズを掘り

起こすような魅力ある事業提案が求めら

れている。 出典:大阪市公表資料に基づき作成

・民間事業者は、全ての事業区分について提案を行う必要はないが、3 つの事業区分以外の提案

はできない。また、事業開始当初でなく、事業期間中に実施する提案も可能であるが、事業開始

から 5 年目までに実現できる提案で、開始予定年度を示すことが求められた。6 年目以降に、新

たな施設を整備する際には、別途市との協議が必要とされている。

・事業者が魅力向上事業で得た収益は、新たな魅力向上事業へと積極的に活用することされ、収

益の再投資による整備の考え方を示すことが求められている。

・都市公園法の規定と、大阪城公園内にある既存建物の面積を考慮し、事業者が新たに提案でき

る建築物の建築面積の合計の上限は 10,000 ㎡とされている。

ウ 事業期間

・事業期間(指定管理期間)は、平成 27 年 4 月 1 日から平成 47 年 3 月 31 日までとされ、20 年

間である。

・市は、事業者は公園の指定管理者となるだけでなく、公園内の既存施設の改修や、新たな公園

施設の設置についても実施することから、投資したコストの回収期間などを考慮し、事業期間を

20 年間としている。

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・議会では、事業期間に関して、長期にわたるため、適正に事業を評価し、場合によっては見直す

こともできるようにするなど、リスクをチェックできる体制を整えることを求める意見があった。

・民間事業者も、魅力向上事業の施設整備に伴う投資が必要であり、事業期間(指定管理期間)が

20 年というのは適切な期間と考えられている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 納付金

・事業者(指定管理者)は市に対して納付金を支払う。納付金は、基本納付金(固定額)と事業者

の収益に連動する変動納付金からなり、平成 27 年度の基本納付金は 2.26 億円、変動納付金は

大阪城パークマネジメント事業の税引後損益の 7%とされている。

・平成 24 年度における大阪城公園の主要施設の収入と維持管理経費の実績を見ると、約 2 億円

のプラスとなっている。また、このうち大阪城天守閣については、(公財)大阪市博物館協会を指

定管理者としていた平成 25 年度には市に対して約 1.4 億円/年の納付金があったこと、本事業実

施後には同協会が負担していた学芸員人件費を市が負担することになること、新規事業の収入

等も見込めることなどから、上記の基本納付金、変動納付金は実現可能と想定されている。

・主な対象施設の収支実績は次のようになっている。

図表 平成 24 年度 大阪城公園維持管理経費実績

注:公園内売店等の収入は管理許可に係る公園使用料。市職員の人件費は計上されていない。

出典:大阪市公表資料等に基づき作成

(イ) 公園使用料

・イベント等で一時的に設置する占用物等については、都市公園法第 6 条に基づき、物件の占用

にかかる市への占用許可申請が必要となる。その場合、飲食・物販・有料興業等、収益性のみを

求めるものについては公園使用料が発生し、それらは市の収入となる。

オ 参加条件

・応募者の構成については連合体による応募も可能となっているが、代表企業については特に指

定はない。

収入 支出 差引

(収入-支出)

大阪城公園 約 166 百万円 約 245 百万円 ▲約 79 百万円

公園内売店等 約 63 百万円 ― 約 63 百万円

大阪城天守閣 約 886 百万円 約 657 百万円 約 229 百万円

大阪城音楽堂 約 15 百万円 約 20 百万円 ▲約 5 百万円

合計 約 1,130 百万円 約 922 百万円 約 208 百万円

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・民間事業者の参加条件の概要は、以下のとおりである。

図表 応募者の構成等

■類似実績

・公園や公園施設及び音楽ホール類似施設の運営実績が申請時において 3 年以上あること。

■連合体に関する条件

・複数の法人等による連合体により申請することができる。 ・連合体は2以上の法人等により構成された任意団体、JV(共同企業体や合弁企業)、SPC(特定

目的会社)などとする。連合体により新たな法人を設立する予定であるときは、PMO事業予定者

(指定管理予定者)として選定された後、指定管理者として指定を受けるまでの間に設立してくだ

さい。 出典:大阪市公表資料に基づき作成

・事業の効率を高めるため、「新たな法人」として大阪城パークマネジメント(株)が連合体によって

設立された。同社が収益と支出全般を取り扱い、魅力向上事業に伴う投資もすべて行うことにな

っている。

カ 実施スケジュールの設定

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

募集要項の公表 平成 26 年 6 月 25 日 説明会及び現地見学会 平成 26 年 7 月 8 日 説明会資料の配布及び文書の閲覧 平成 26 年 7 月 10 日~9 月 10 日 質問の受付 平成 26 年 7 月 8 日~7 月 11 日 質問への回答 平成 26 年 7 月 14 日 申請書類の提出 平成 26 年 9 月 8 日~9 月 10 日 指定管理予定者の選定 平成 26 年 10 月 16 日 指定管理に関する基本協定書の締結 平成 27 年 3 月 26 日 指定管理に関する年度協定書の締結 平成 27 年 3 月 31 日 指定管理開始 平成 27 年 4 月 1 日 維持管理期間 平成 27 年 4 月 1 日~平成 47 年 3 月 31 日

出典:大阪市公表資料、大阪市ヒアリングに基づき作成

・募集要項公表後には、市は民間事業者から質問の受付と回答は行っているが、個別対話は行っ

ていない。

キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・需要変動リスクは事業者が負担している。

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(イ) 物価が変動した場合

・物価変動リスクは基本的には事業者が負担しているが、収支計画に多大な影響を及ぼす場合に

ついては協議事項となっている。

(ウ) 不可抗力が発生した場合

・不可抗力発生時は、復旧が可能な場合には、市は復旧に要する経費について事業者と協議す

ることになっている。なお、市は事業者に対して休業補償は行わないことになっている。

(エ) 施設が損傷した場合

・通常の利用に基づく施設の損傷は事業者が負担することになっている。

・既存施設の隠れた瑕疵等や、市の責によるものについては市が負担することになっている。また、

第三者の責によるものは協議事項となっている。

・施設の大規模改修・大規模補修については市が実施する。ただし、事業者が新たに設置した施

設や改修・改築を行った施設については、指定管理者が実施することになっている。

(オ) 施設利用料金を変更する場合

・利用料金(消費税込み)は、公園条例、天守閣条例及び音楽堂条例の定める範囲内で、市長又

は教育委員会委員長の承認を得て、事業者が定めることになっている。

・なお、今後、消費税率の引き上げがある場合は、利用料金の改定を検討されることになってい

る。

(カ) 納付金を変更する場合

・事業者が市に支払う基本納付金については、市が募集要項で示した基本納付金の金額以上と

することを原則としつつ、事業期間における収支状況を踏まえ、3 年ごとに市と協議の上で決定す

ることになっている。これについては、市と民間事業者の間で、施設の利用状況等を踏まえて協

議していく予定となっている。

(キ) 指定管理者の指定を中途で解除する場合

・市は、指定期間中に欠格事項に該当または市長及び教育委員会委員長が管理を継続すること

が適当でないと認めるときは、指定管理者の指定を取り消すことができる。この場合、市は事業者

の損害に対して賠償は行わず、取り消しに伴って市に損害が発生する場合には事業者に対して

損害賠償を請求することがある。

【民間事業者の見解】 ・上記のリスク分担については、基本協定書締結時に協議を行って、内容の詰めを行ってい

る。

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(ク) 事業収支が悪化した場合

・魅力向上事業については、他の事業に比べると事業収支の振れ幅が大きいと想定され、提案し

た事業が実行不可能となった場合の事業者の辞退の可否等については、事業者公募時の質問

でも取り上げられていた。

・本事業では、市が、事業者の辞退の申出がやむをえないものと認める場合には、指定管理者の

指定を取り消すことができるとされ、事業者が管理を行わないこととなる日の 1 年以上前までに市

に申し出ていれば、ペナルティはなしとされている。

(ケ) 契約上の地位の譲渡等

・事業者(指定管理者)は、あらかじめ書面により市の承諾を得た場合を除き、市と事業者の間で締

結した協定又は年度協定により生ずる権利又は義務を第三者に譲渡し、承継させ、またはその

権利を担保の目的に供することはできないとされている。

ク 事業終了時の取扱い

・事業者は、指定期間の満了または指定の取消により当該業務が終了したときは、市と事業者との

協議の上、施設の原状回復を行うことになっている。また、市や新たな指定管理者に対して引継

を行うことが求められている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・指定管理者としての得点(100 点満点)と魅力向上事業者としての得点(50 点満点)を合計したも

のが提案者の得点となる。

・具体的には下記の選定基準に照らして総合的に考慮し、基準点を上回ったもののうち、 も得点

が高い法人等が指定管理予定者に選定される。

・なお、「指定管理者としての評価の得点が 60 点、魅力向上事業者としての評価の得点が 30 点を

基準点とします。」とされ、一定の提案内容に至らない提案は選定されないことになっている。

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図表 審査基準

分野 大項目 配点

指定管理者 施設の設置目的の達成及びサービスの向上 45 点

管理経費の縮減 30 点

応募団体に関する事項 15 点

応募団体の取組みとして評価すべき事項 10 点

(合計) 100 点

魅力向上事業者 事業コンセプト 10 点

空間構成・デザイン 15 点

機能構成・運営計画 15 点

業務実施計画 10 点

(合計) 50 点 出典:大阪市公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 2 者が提案書を提出した。各者の評価結果は次のとおりである。

図表 評価結果

大阪城パークマネジ

メント共同事業体

大阪城新都市公園化

事業推進共同体

■指定管理者【配点】 69.7 60.3

・施設の設置目的の達成及びサービスの向上 45 点 30.1 31.9

・管理経費の縮減 30 点 22.0 13.1

・応募団体に関する項目 15 点 10.7 7.9

・応募団体の取組みとして評価すべき事項 10 点 6.9 7.4

■魅力向上事業者【配点】 30.7 35.0

・事業コンセプト 10 点 6.3 8.1

・空間構成・デザイン 15 点 8.9 10.3

・機能構成・運営計画 15 点 8.3 10.4

・業務実施計画 10 点 6.3 6.1

■合計 100.4 95.3 出典:大阪市公表資料に基づき作成

・選定された大阪城パークマネジメント共同事業体は、代表者が(株)電通関西支社、構成員が讀

賣テレビ放送(株)、大和ハウス工業(株)大阪本店、大和リース(株)、(株)NTT ファシリティーズの 5

者の連合体となっている。

・選定された民間事業者の提案については、指定管理者については、大阪城公園の 3 つの大きな

特徴をよく踏まえた施設の管理運営方針となっていること、既存施設の活用については公園利用

者のレクリエーションや便益等に資すること、市への納付金について十分な提案があり安定的な

管理運営が期待できることが評価されている。

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・魅力向上事業についても、大阪城の歴史をテーマにした施設など大阪城公園の歴史的・文化的

価値を活かした計画となっており、特別史跡大坂城跡の文化財を重視した提案となっているとさ

れているが、さらに市と協議しながら、より発展させていく必要があると付記されている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・平成 27 年 4 月 1 日より指定管理期間が始まり、市の事業者に対するモニタリングも開始している。

具体的には、施設ごとに毎月実施されており、事業者が管理運営状況の報告を行い、市が今後

の予定や魅力向上事業の実施状況等を聞き取り、適宜指導監督を行っている。

・事業者は、地方自治法第 244 条の 2 第7項の規定により、指定管理者として一事業年度が終了

するごとに、施設管理運営業務について、施設の運営に係る収支の報告とともに、当該年度事業

の内容を報告する書類を市に提出することになっている。

・事業者から市への報告内容としては、管理業務の実施状況、各施設の利用状況、事業の実施状

況、利用料金収入、事業収入などの収入の実績と管理・事業に要した経費等の収支状況、管理

運営実績に対する自己評価などの事項が想定されている。

・市は、事業者からの報告内容等を踏まえて、事業者による管理運営が適切に行われ、制度の目

的が実現されているかどうかを、5 年ごとに、外部有識者の意見を踏まえて評価することになって

いる。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況

・事業者は適切に管理運営しており、施設の利用者数等も増加しているとされている。

・事業者が管理運営を行うなかで、小さな課題は出てくるものの、特に深刻化しているものはないと

されている。市も事業者から状況等を聞き取りし、事業者と協議を重ねながら課題解決に努めて

いるとされている。

イ 事業収支状況

・事業収支状況については、天守閣入場者数の増加など、当初よりも収益性が伸びている部分も

あるとされている。

・民間事業者が採算性の目標としている指標については、各社により目標値があるものの、個別に

は開示できないとされている。

・新たな投資計画については市と事業者の間で協議中であるとされている。既存施設の図面がな

いとか、実施にあたって制約があるとか、実現に向けて検討するべき事項が出てきているが、現段

階では、提案した施設が大きく変わることはないと考えられている。

・既存施設(例.旧第四師団司令部)の改修については、現在設計を行うための耐震診断調査中

である。改修費用については代表企業である大阪城パークマネジメント(株)が負担することにな

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っている。

・今後の共同企業体の資金収支は、新たに設立した大阪城パークマネジメント(株)が管理する。

現在の出資者は 3 者であるが、当面は配当は行わず、設備投資に充当する予定とされている。

出資者以外の民間事業者に対しては、業務委託という形態で資金が流れているところもあるとさ

れている。

・大阪城パークマネジメント(株)が共同企業体の代表になる前の利益は、駐車場の整備及び市へ

の寄付で 0 となる見込みであるとされている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・公園全体及び公園施設を総合的に管理運営することで、市費投入なしに管理運営が可能となっ

たと考えられている。

・事業開始年度であり、評価することは難しいが、一定の賑わいの創出は図られていると考えられ

ている。

・事業者側では、単に指定管理者制度を導入しただけでは民間事業者にはメリットがないが、新し

い施設を整備運営できることで、利益を上げることも可能と考えられている。

イ 課題

・課題は少なくないが、事業推進に関わるような課題はなく、それぞれの状況に応じて課題解決が

図られていると考えられている。

(3) 事業に対する評価

・指定管理期間は始まったが、まだ従前と大きく変わっているところはなく、庁内、議会、市民とも特

に意見は聞かれないとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・各地方公共団体によって状況は異なると思われため、具体的な案件や課題がないと、ポイントに

ついて助言することは難しいと考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 大阪城公園パークマネジメント事業

(大阪城公園及び他 5 施設の指定管理者)

事業分野 都市公園

発注者 大阪市

施設概要

施設内容

都市公園

文化施設

観光施設

施設規模 (施設毎によって異なる)

事業場所

大阪府大阪市中央区大阪城

寄駅:JR 大阪城公園(公園入口まで徒歩すぐ)

JR・市営地下鉄森ノ宮(公園入口まで徒歩すぐ)

事業概要 事業概要

大阪城公園等の管理運営・維持管理と、大阪城公園内の既存施設

の改修や新規施設整備による魅力向上事業の実施。

民間収益施設 指定管理者として、独立採算で運営を行う。

事業

スキーム等

事業期間 20 年(指定管理期間)

事業方式 指定管理者

事業類型 独立採算

事業規模 (サービス購入料なし)

民間事業者の

業務内容

管理運営・維持管理に関する業務

魅力向上事業に関する業務

VFM

特定事業選定時 ―

事業者提案 ―

割引率 ―

審査結果

選定方式 プロポーザル方式

予定価格 ―

契約金額 ―

(市への納付金は、固定:2.26 億円/年、変動:0.2~0.9 億円/年)

応募グループ 2 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎大阪城パークマネジメント(株)(大和ハウス工業(株)、讀賣テレビ

放送(株)、(株)電通の共同出資。事業の収益と支出の管理を行

う。)、(株)電通(集客戦略立案、イベント企画等)、讀賣テレビ放送

(株)(天守閣をはじめとする集客事業、イベント企画等)、大和ハウス

工業(株)(公園全体の運営管理と駐車場運営。共同事業体の運営

マネジメント。)、大和リース(株)(公園内の緑地管理全般)、(株)NTT

ファシリティーズ(公園施設の維持管理全般)

※応募時の代表企業は(株)電通であったが、平成 28 年 7 月から大

阪城公園パークマネジメント(株)が JV に加わり、代表企業となってい

る。

協力会社 -

スケジュール

募集要項公表 平成 26 年 6 月 25 日

提案受付 平成 26 年 9 月 10 日

指定管理予定者選定 平成 26 年 10 月 16 日

指定管理協定書締結 平成 27 年 3 月 26 日

指定管理開始 平成 27 年 4 月 1 日

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事業名 大阪城公園パークマネジメント事業

(大阪城公園及び他 5 施設の指定管理者)

活用した

制度等

補助金 ―

その他 ―

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事例 07:大濠公園飲食店設置管理者公募

事業分野:都市公園

事例 07:⼤濠公園飲⾷店設置管理者公募

事業場所 福岡県福岡市中央区大濠公園1-2

公共主体 福岡県 民間主体 ロイヤルホールディングス(株) (実際の運営はアールアンドケーフードサービス(株))

施設概要 公共施設 -

民間施設 レストラン、飲食・物販施設、貸ボート

事業実施段階 供用開始

事業手法 都市公園法第5 条に基づく公園施設の設置許可

公共への還元 土地等の対価(設置・管理許可使用料) 〔約0.6 億円(10 年間総額)〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 県内有数の集客ポテンシャルのある立地

・大濠地区は、県内における有数の高級住宅街かつ人気エリアであり、公園内でランニングや散

策を楽しむ市民も多く、日常的に集客が可能なエリアである。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 各種必要インフラ等の改修を公共で実施

・福岡県は、民間事業者を募集するにあたり、事業に関係があると考えられる各種インフラ設備の

修繕を前倒しで実施し、整備が完了した状態で民間事業者が使用できるようにしている。

◇ 官民間でのコミュニケーションの特徴・工夫

➤ 既存施設の利用データ等を適宜開示

・福岡県は、既存施設の利用データ等を適宜開示し、民間事業者が事業計画を立てやすくした。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、福岡市中央区の大濠公園で、都市公園法第 5 条の設置・管理許可に基づき、飲食店

等の便益施設の建替を行い、その便益施設及び関連する遊戯施設(貸ボート)の運営を行うもの

である。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 福岡県は、民間事業者から、福岡県都市公園条例に基づく使用料を 10 年間総額で約 5,558 万

円を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・大濠公園では、昭和 4 年の公園開園時から公園池を活用した貸船事業が行われており、昭和 9

年に福岡県(以下「県」という。)が貸船事業の施設を買収し、直営とした。その後、当該施設の建

替において県の財政支出が困難であった際、博多土産物商業協同組合の組合員が結成した

(有)大濠観光会館から建設費の寄付を受けて建て替えた。建替後の施設は、ボート発着場、土

産品売店、食堂からなるボートハウス(以下「旧ボートハウス」という。)であった。

・この経緯を踏まえ、県は、昭和 37 年に(有)大濠観光会館に旧ボートハウスの管理許可を与えるこ

ととなった(土産品販売事業、食堂事業(県直営であった貸船事業を昭和 45 年に追加))。

・しかし、平成 23 年頃、旧ボートハウスの老朽化が問題となり、早急に建替が必要となったため、県

は新たに施設整備や運営を行う民間事業者を募集することにした。

イ 官民連携手法導入の背景

・上記のとおり、以前から県が管理許可を与えて民間事業者が運営を行ってきた経緯があること、

平成 21 年度に同公園内で、スターバックスコーヒージャパン(株)に飲食店の設置・管理の許可を

した経緯があることから、本施設についても、民間事業者に設置・管理許可を与えて店舗の建設

及び運営を任せる手法を採用することにした。

ウ 民間事業者応募の背景

・ロイヤルホールディングス(株)は、福岡空港において機内食を納品開始したことが原点の、福岡

を拠点とする企業である(現在は本社機能を東京に移転している)。

・また、ロイヤルホールディングス(株)の大きな柱である外食事業の原点としては、福岡市東中洲に

フレンチレストラン「ロイヤル中洲本店」を出店した点にある。同店舗は、その後、大濠公園内本事

業敷地に移転し、「花の木」として運営を行ってきた。

・ロイヤルホールディングス(株)が特別な位置づけとしてきた「花の木」を含む旧ボートハウスが老朽

化に伴い、建替となり、運営等を行う民間事業者が公募されることになったため、新規事業者とし

て応募し、同じ土地でリニューアルした「花の木」を運営するという判断になった。

● 効果

➤ 県の財政負担なしでの公園施設を建て替え

・民間事業者の提案により、公共事業とは異なる魅力的な建物の整備やサービスの提供を、福岡

県の財政負担なしで実現できた。

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(2) 事業概要

ア 施設概要

・大濠公園内の「ボートハウス大濠パーク」は次の 4 店舗からなる。

図表 施設概要

店名 業態 備考

レストラン 花の木 フレンチレストラン ダイニング 40 席、個室 6 席

ロイヤルガーデンカフェ カフェ&レストラン ダイニング 90 席、テラス 62 席

パークショップ 軽食&物販 インナー席 18 席、テラス席 22 席

レンタルボート

貸ボート 営業期間:3 月~11 月

白鳥ボート:30 分 1,000 円(超過 300 円/10 分)

手こぎボート:30 分 600 円(超過 200 円/10 分)

あめんぼボート:

1 人用:30 分 600 円(超過 200 円/10 分)

2 人用:30 分 1,000 円(超過 300 円/10 分)

出典:ボートハウス大濠パークホームページに基づき作成

図表 位置図

出典:福岡市ホームページ

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図表 外観

出典:大濠・西公園管理事務所ホームページ

出典:福岡県資料

イ 事業方式

・事業方式は、都市公園法第 5 条の規定に基づく便益施設の設置・管理許可及び遊戯施設の管

理許可である。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 26 年度の許可の日から平成 36 年 3 月 31 日までの約 10 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、福岡県都市公園条例に基づく使用料であ

る。

・その金額は合計約 5.6 百万円/年であり、金額は定額である。具体的には次のようになっている。

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図表 使用料

項目 金額(年額) 根拠

土地使用料 1,487,520 円/年 ①建築物 215 円/㎡・月×569 ㎡=122,335 円/月 ②非建築物 65 円/10 ㎡・月×250 ㎡=1,625 円/月 月額①122,335 円/月+②1,625 円/月=123,960 円/月 年額 123,960 円/月×12 か月=1,487,520 円

ライフライン使用料 4,080 円/年 上下水道管、電気通信線用埋設管の合計

貸ボート水面使用料 4,066,380 円/年 月額 舟遊施設 41 円/10 ㎡・月×99,180 ㎡=406,638 円/月 年額 406,638 円/月×10 か月=4,066,380 円 ※貸ボートの使用期間は 2 月~11 月の 10 か月

合計 5,557,980 円/年 - 出典:福岡県ヒアリングに基づき作成

図表 事業スキーム図

出典:福岡県及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

福岡県

一般会計

県有地

非建築物 ライフライン 貸ボート水面 建築物

土地使用料 (建築物)

【約 1,468 万円】 (約 147 万円/年)

土地使用料 (非建築物) 【約 20 万円】

(約 1.9 万円/年)

ライフライン使用料 【約 4 万円】

(約 0.4 万円/年)

貸ボート水面使用料 【約 4,066 万円】

(約 407 百万円/年)

民間事業者

施設整備段階

運営段階

国有地

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(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属する。

・県に還元された資金の使途の決定部署は財政部署であるが、還元された資金は、県営都市公園

の維持管理(修繕)に使用されている。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、建築都市部公園街路課管理係が担当している。

・基本的には、民間事業者公募段階では、1 名をほぼ専任としていたが、必要に応じて建築都市部内

で意見交換を行い、スキームや公募要領にその意見を反映させる体制としている。

・外部アドバイザーは活用していない。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・県は、都市公園法第 5 条の規定に基づき、公園管理者(県)以外の者の公園施設の設置を認め

た。

イ 規制の変更等

・本事業の実施にあたり、地区計画による都市計画の変更等は実施していない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・特に実施していない。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・本事業は、大濠公園内の指定されたエリア(既存施設の設置場所)内で実施されている。前面園

路、周辺の樹木等により概ね利用できる範囲は決まっており、詳細面積は事業者の提案に委ね

る形とされている。

・民間事業者からは、ポテンシャルが高い事業地と判断されており、実際に 9 グループが本事業に

応募している。

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イ 施設要件及び業務内容

・公募条件では、レストラン、貸ボートを必須とした上で、その他サービスの提案を求めている。具

体的には次のとおりである。

図表 主な公募条件

1 営業内容 今回公募する施設は公園施設であり、県内外からの来園者に当公園の環境を楽しんでいただく

ためのサービスを提供すること。 (1) レストラン(必須) ・登録文化財である公園池の景色を楽しみながら食事ができる場を提供すること。 ・広く県内外や海外からの来訪者をもてなす場としての利用にも対応できるサービスを提供するこ

と。 (2) 貸ボート(必須) ・ボート桟橋、切符売場及び水面の利用について別途県の許可を受け、貸ボートを行うこと。 ・水面利用区域は現行どおりとし、現行と同数以上のボートを供すること。 ・事故防止のため、監視や乗客の乗降の手助け等を行い、また事故発生時の救助活動等、適切に

実施すること。 (3) その他のサービスの提案 ・近隣の店舗との競合等、周囲の状況に配慮すること。 ・売店等、物販を行う場合における販売品目は、菓子、飲み物、みやげ物等、公園利用者の利便

に資するものに限り、衣料品や食材等、公園利用と関係ないものは認めない。具体的な販売品目

は、選定後、あらかじめ県と協議すること。 ・飲み物の自動販売機の屋外設置は現状(4 台)以上は認めない。設置する場合は省エネルギー

及びバリアフリーに配慮した機種を修景に配慮して配置し、空き缶等が散乱しないよう対策を講じ

ること。 ・コインロッカーの屋外設置は認めない。

出典:福岡県公表資料に基づき作成

・その他、利用者アンケートや従業員の接遇教育等によりサービスの向上に努めること、園内の美

化等、大濠公園の指定管理者による公園管理に積極的に協力することが求められている。

・なお、新たに運営等を行う民間事業者を募集するにあたり、民間事業者に関係があると考えられ

る各種インフラ設備の修繕を前倒しで実施し、整備が完了した状態で民間事業者が使用できるよ

うにしている。

ウ 事業期間

・事業期間は、都市公園法第 5 条の規定により、公園管理者以外の者が公園施設を設置・管理す

る期間は 10 年を超えることができないとされることから、10 年間とされている。ただし、以後、運営

に問題がなければ原則として 10 年毎の更新許可を行うことになっている。

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エ 民間収益の還元の内容

(ア) 使用料

・県は、福岡県都市公園条例に基づく使用料を受け取る。

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件として、県内に事務所又は事業所を置く法人であることと、今回提案する

レストランを 3 年以上継続して営業していることを求めている。これらは、県の指定管理者の公募

要項などを参考に設定された。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

募集要項(公募要領)の公表 平成 25 年 6 月 4 日 事業者募集要項等の説明会 平成 25 年 7 月 4 日 質問の受付 平成 25 年 7 月 5 日

~平成 25 年 7 月 12 日 質問への回答 平成 25 年 7 月 22 日

~平成 25 年 7 月 31 日 応募書類(提案書等)の受付 平成 25 年 8 月 7 日

~平成 25 年 8 月 12 日 プレゼンテーション及びヒアリング 平成 25 年 8 月 19 日

選定結果の通知及び公表(事業予定者の決定) 平成 25 年 10 月 8 日

飲食店等の設計 平成 25 年 11 月 ~平成 26 年 5 月

公園施設の設置許可 平成 26 年 6 月 9 日

飲食店等の建設工事 平成 26 年 7 月 ~平成 27 年 1 月

開業 平成 27 年 2 月 6 日

キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・独立採算型事業であり、需要変動リスクは民間事業者が負担する。

(イ) 設置許可が取り消された場合

・設置許可を取り消された場合は、これにより民間事業者に損失が生じても県は補償を行わない。

また、福岡県知事から建物等の撤去の指示があったときは、速やかに民間事業者の負担により行

うことが求められている。ただし、県の都合による許可取消しの場合はこの限りではない。

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(ウ) 店舗を改装したい場合

・民間事業者が改装等を行う場合は、事前に県と協議し、許可を得ることが必要となっている。また、

店舗の老朽化等による再建築は、自然災害等、設置管理者の責めに帰することができない事由

による場合を除き、認められないことになっている(改めて設置管理者を公募する。)。

(エ) 契約上の地位の譲渡等

・営業する権利の第三者への譲渡は認められていない。レストラン業務については、再委託は認め

られていない(設置管理者が直接営業する(子会社への委託は可。)ものとし、フランチャイズ制に

よりテナントの営業者を募集する方式は認められていない。)。一方で、レストラン以外の業務につ

いては、業務委託を認めている。

ク 事業終了時の取扱い

・原則として、事業終了時は更地返還とされているが、運営に問題がなければ原則として 10 年毎

の更新許可を行うことも想定している。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・審査の評価項目としては、基本的な応募資格要件のほかに、以下をポイントとしている。

図表 審査評価項目

大項目 評価項目 重要度

大濠公園へのふさわしさ 店舗のコンセプト 重要

店舗の外観 重要

店舗の内装及び店舗内のレイアウト 普通

公園利用者へのサービス レストラン 重要

貸ボート 重要

その他のサービス 普通

安定的、継続的な店舗運営 業務実施体制 重要

衛生管理、施設管理 重要

自己評価 普通

収支計画 重要

応募者の経営状況 重要

運営能力 重要 出典:福岡県ヒアリングに基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 9 者から応募があった。各者の評価結果は次のとおりである。

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図表 評価結果

項 目 ロイヤルホールデ

ィングス株式会社

A社

B社

C社

D社

E社

F社

G社

H社

大濠公園への

ふさわしさ

店舗のコンセプト

A B B C C C D D D 店舗の外観

店舗の内装及び店舗

内のレイアウト

公園利用者へ

のサービス

レストラン

A B C C C C D D D 貸ボート

その他のサービス

安定的、継続的

な店舗運営

業務実施体制

B B B B B B C D D

衛生管理、施設管理

自己評価

収支計画

応募者の経営状況

運営能力

(A:特に優れている B:優れている C:普通 D:劣っている)

・選定された民間事業者からは、喫茶から食事まで提供できるカフェレストランと上質な料理を提供

できるレストラン(新生・花の木)が提案されている。建物は、公園の景観・水辺空間と調和した開

放的な計画で、自然・環境・人に優しい工夫や地域活動に利用できるコミュニティテラスなど多く

の優れた提案がなされている。

・食事のサービスは、福岡での地産地消を中心とし、旬の食材と豊富なメニュー、幅広い価格設定

の提案がなされ、県内外や海外からの来園者の多様な利用に対応できる優れた内容とされてい

る。テイクアウトカウンターの設置やあめんぼボートの導入、地域イベントの誘致など、サービス全

般に関して優れた提案であると評価されている。

・業務体制は、既存店舗支配人経験者を配置するなど充実しており、研修体制も充実した内容とさ

れている。収支計画は堅実で、経営状況も安定しており、運営能力は十分にあると認められ、安

定的、継続的な店舗運営に関して優れた内容と評価されている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・県は、飲食店の運営開始後、民間事業者に対して、施設の利用状況及び決算状況について、会

計年度終了後 3 ヶ月以内の文書報告を求めている。

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3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・2015 年の来店者数(貸ボートを含む。)は、旧ボートハウス閉店前の 2012 年実績比で 147%とな

っており、県においては、大濠公園の活性化にも寄与していると判断されている。

イ 事業収支状況等

・2015 年の売上高(貸ボートを含む。)は 2012 年実績比で 171%となっている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・民間事業者の提案により、公共事業とは異なる魅力的な建物の建設、サービスの提供が実現し

たと考えられている。

・公共が資金負担をすることがなく、新たに建物を建設することができた。

・都市公園法の制約はあるものの、当該立地条件での使用料は安価であると考えられている。

・市民に大きく受け入れられており、新規オープンした際には、地元から多くの歓迎の声があったと

されている。

イ 課題

・民間の間でのやり取りと比較すると、各種手続や許可等が必要になることが多いとされている。

(3) 事業に対する評価

・市民及び議会からは概ね良好な反応であるとされている。

・第 28 回福岡県美しいまちづくり建築賞(一般建築の部)を受賞している。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・公共がどのような施設、サービスを求めるかを明確にすることが重要であると考えられている。

・公共が提案書に何を書いてほしいのかを明確に示す必要があり、その点が曖昧であると、各応募

者の記載内容がバラバラになり、比較及び評価が困難になると考えられている。

・公共として譲れない条件や制約条件を後出しすることは困難であるため、漏れがないように整理

する必要があると考えられている。

・公共が評価基準、評価方法を明確に設定することが重要であると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 大濠公園飲食店設置管理者公募

事業分野 都市公園

発注者 福岡県

施設概要

施設内容 レストラン、飲食・物販施設、貸ボート

施設規模 設置許可面積 819 ㎡(うち建築物 569 ㎡、非建築物 250 ㎡)

事業場所 福岡県福岡市中央区大濠公園1-2

寄駅:福岡市地下鉄空港線大濠公園駅(徒歩約 2 分)

事業概要 事業概要

大濠公園利用者のための便益施設であるボートハウスが老朽化

したため解体撤去することに伴い、これに代わる飲食店を新たに

設置、運営する。

民間収益施設 レストラン、飲食・物販施設、貸ボート

事業

スキーム等

事業期間 約 10 年間

事業方式 -

事業類型 -

事業規模 -

民間事業者の

業務内容 民間収益施設の運営

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 -

予定価格 -

契約金額 -

応募グループ 9 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

ロイヤルホールディングス(株)

協力会社 アールアンドケーフードサービス(株)

スケジュール

【福岡県スケジュール】

募集要項公表 平成 25 年 6 月 4 日

提案受付 平成 25 年 8 月 12 日

選定結果の通知 平成 25 年 10 月 8 日

公園施設の設置許可 平成 26 年 6 月 9 日

【民間事業者スケジュール】

飲食店等の設計 平成 25 年 11 月~平成 26 年 5 月

公園施設の設置許可 平成 26 年 6 月 9 日

飲食店等の建設工事 平成 26 年 7 月~平成 27 年 1 月

開業 平成 27 年 2 月 6 日

活用した

制度等

補助金 -

その他 -

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事例 08:創エネルギー・廃棄物処理事業

事業分野:下水道

事例 08:創エネルギー・廃棄物処理事業

事業場所 栃木県鹿沼市上殿町695

公共主体 鹿沼市 民間主体 月島機械(株)、サンエコサーマル(株)

施設概要 公共施設 下水処理場

民間施設 発電設備

事業実施段階 供用開始済

事業手法 公共施設:(基本的な施設は市が整備済) 民間施設:BOO 方式(民設民営)

公共への還元 納付・負担金(売上連動) 〔約1 億円(約0.05 億円/年)〕(見込)

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ し尿汚泥や食品系バイオマスの活用

・下水汚泥のみでは消化ガス発生量が少なく、発電事業の事業性が低かった。これに対して、鹿

沼市の判断でし尿を、民間事業者の提案で一般廃棄物(食品系バイオマス)を投入して消化ガ

ス量を増やすことを予定しており、民設民営の独立採算型での事業化が可能となった。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 鹿沼市における官民連携手法の採用方針が明確

・鹿沼市は、自ら設備投資額を調達することは困難と判断し、鹿沼市の財政負担がない方式を採

用したいという意向が強かった。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、鹿沼市と民間事業者が共同で、下水汚泥とともに廃棄物(し尿汚泥等バイオマス)を

処理し、それから発生する消化ガスにより、再生可能エネルギーを創出するものである。

➤ 鹿沼市は、発電設備の設置場所の提供、バイオマスの受け入れ、消化ガスの供給を担っている。

発電設備の整備・維持管理・運営、電力会社等の調整は民間事業者が行っている。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 鹿沼市は、民間事業者から、民間事業者が電力会社に販売する電力代の一定割合を、納付金と

して受け取る。

➤ 納付金は、現段階の発電量では約0.05億円/年にとどまるが、今後、発電量の増加に応じて増加

することが見込まれている。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・本事業は、鹿沼市(以下「市」という。)は、第三次鹿沼市環境基本計画及び鹿沼市地球温暖化

対策地域 J 推進計画等を踏まえ、地球環境保全、市のコストの削減(収入アップ)等を目的に実

➤ グループに地元企業を有する民間事業者の強い取組意向

・民間事業者はグループに市内に本社のある地元企業を有し、当該企業は従前より鹿沼市と一

定の取引実績があった。そのため、民間事業者が他社に先駆けて取組始めていた独立採算型

の消化ガス発電事業を拡大したいという意向だけでなく、下水汚泥の活用に悩む鹿沼市を支援

したいという意向も強く持っていた。

◇ 官民間でのコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 民間提案の活用

・鹿沼市は、民間事業者から提案された民設民営型の事業手法を踏まえて、提案を行った民間

事業者と事業化に向けた協議を行った。

・鹿沼市は、自市の事業が小規模で、民間事業者にとっての魅力も大きくないこと十分認識して

おり、民間事業者の応募意欲が高まるように、民間事業者の意向を踏まえて事業化を進める必

要があるという意識を持っていた。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 過去に同様の事業を検討した担当者を配置

・鹿沼市は、10 年以上前に下水汚泥の活用を検討した際の担当者を、本事業を担当するグルー

プの上席者として起用し、過去の検討経験の活用を図った。

➤ 特命随意契約による事業者公募関連作業負担の軽減

・鹿沼市は、鹿沼市がヒアリングを行った民間事業者の中で、民間提案を行った民間事業者のみ

が民設民営が可能としていたことと、FIT 制度の条件変更前における事業化を優先することか

ら、民間提案を行った民間事業者と特命随意契約を行うことにした。これにより、公募書類作成

等の事業者選定に関する業務がなくなり、鹿沼市の事務負担が大きく削減された。

● 効果

➤ 廃棄していたものから新たな資金の流れを創出

・鹿沼市は、一般廃棄物等の活用や官民連携手法の活用といった工夫を行うことにより、これまで

廃棄していた消化ガスから、自己資金なしで、新たな資金の流れを創出することに成功した。

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施している。

・市は、消化ガスの利活用については 10 年以上前にも検討していた。平成 15 年度の事業計画に

も記載し、有識者会議も設置して検討を行った。その時の結論は、天然ガス化してゴミ収集車の

燃料に使用するというものだったが、市で設備投資に必要な資金手当てができなかったことから、

実現しなかった。民間事業者に委ねることも検討したが、下水汚泥からでは消化ガスの発生量が

少なく、実現しなかった。

・その後、し尿処理施設が老朽化したことから、平成25年6月頃から、部内でし尿の下水道施設で

の処理の可能性について検討することになった。その結果、下水道施設の水処理系には投入で

きないが、汚泥処理系には投入できるのではないかということになった。これにより、し尿処理施設

の更新が不要になった。

・し尿処理施設は下水道施設の隣であり、実質的には同じ敷地内にある。また、し尿処理施設の担

当課は下水処理場担当課と同じ部で、席も近く、話はしやすい関係にあった。

・下水道施設におけるし尿の受入については、下水道施設の目的外使用となるため、平成 23 年

度から 2 年間かけて国土交通省と調整を行った。

・さらに、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下「FIT」という。)ができたこと、県も下水汚

泥の消化ガスの発電事業を開始したこと、平成 25 年夏に月島機械(株)(以下「月島」という。)から

生ごみを加えた上での事業化の提案があったことから、事業化することになった。

イ 官民連携手法導入の背景

・月島からの提案の前(平成 25 年夏前)に、市は月島以外の民間事業者 5 社程度に対して、事業

手法に関してヒアリングを行ったが、「国庫補助を受けて施設整備を行い、発電した電力は場内

で自己消費する」という提案しかなく、民設民営を提案したのは月島のみであった。

・月島からの提案については、市としては当初は聞いておく程度の位置づけであったが、市におけ

る建設費の捻出が難しいこと、民活で行うことが望ましいという庁内の方向性から、月島の提案を

採用することにした。

ウ 民間事業者の応募の背景

・月島は、本事業の事業場所である黒川終末処理場では元請での設備機器納入実績はなかった

が、ごみ処理部署と取引実績のある月島の子会社であるサンエコサーマル(株)(以下「サンエコサ

ーマル」という。)が市の下水汚泥活用意向を把握したことから、検討を開始した。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業は、市の黒川終末処理場内に発電施設(鹿沼市黒川消化ガス発電所)を整備し、黒川終

末処理場で発生する消化ガスを燃料として発電するものである。

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・下水汚泥だけでなく、し尿処理、食品系バイオマス等も受け入れて混合消化を行い、消化ガス発

生量を増加し、発電量を増加させることを予定している(混合消化は平成 28 年度以降実施予

定)。

・市は、発電設備設置場所の提供、バイオマス収集スキームの構築、バイオマスの受け入れ・混合

処理、消化ガスの供給を行う。民間事業者は、発電設備の整備・維持管理・運営、バイオマス液

化装置の設置(一般廃棄物を受け入れる場合に設置予定)、バイオマスの収集運搬、バイオマス

の投入、電力会社との調整・契約を行う。

・発電した電力は、民間事業者が FIT を利用して、電力会社(新電力 大手)に売却する。

図表 施設概要

設備容量 250kw (ガスエンジン 250kw×1 台)

年間発電量 平成 27 年度:約 900,000kWh (一般家庭約 250 世帯相当)

平成 28 年度以降:約 1,600,000kWh (一般家庭約 450 世帯相当)

出典:月島機械公表資料に基づき作成

図表 施設外観

出典:鹿沼市公表資料

イ 事業方式

・事業方式は、PFI法に基づかない、BOO(Build Own Operate)方式(民設民営)である。

・市は、事業実施時の費用を、建設費約 2 億、20 年運転費用(メンテナンス費用)で 2 億と想定し

たが、市が直営で行うには資金的に厳しかった。また、市には発電事業の経験者がおらず、市だ

けでの実現性に懸念もあった。そのため、民設民営を採用することにした。

・また、FIT を利用して、発電した電力を全量外部に売電したほうが、電力を場内利用するよりも、

市にも売電収入が入り、市の努力の内容がわかりやすいとも考えた。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 26 年 10 月の官民連携事業協定(市、月島、サンエコサーマルの 3 者協定)

の締結から、平成 27 年 6 月の発電開始を経て、平成 47 年 11 月末までの約 21 年間である。

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・平成 25 年 12 月には、市と月島で基本協定を締結した。

・市は、月島に対して、経済産業省の形式承認と電力の接続協定を早期に締結し、FIT の当初 3

年間の間で実現できることを求めた。実際に、それが実現可能ということになり、平成 26 年 10 月

22 日に官民連携事業協定(市、月島、サンエコサーマルの 3 者協定)を締結し、平成 27 年 6 月

1 日に営業を開始した。

・官民連携事業協定の終期は平成 47 年 11 月 30 日である。平成 47 年 5 月 31 日まで FIT で発

電を行い、その後更地に戻す期間を見込んでいる。なお、施設の状態がよければ、そのまま市が

引き継ぐことも想定している。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、民間事業者が売電により得た電力販売代金

の一部を市に支払う納付金である。

・電力販売代金から、一部の費用(例.税理士費用)を引いたものを、市が 15%、月島が 85%とい

う比率で、4 半期ごとの実績に応じて結果を分配している。市は、会計上は雑入の発電分配金と

して受け入れている。民間事業者は、上記の85%の中から、初期投資額やメンテナンス費用を回

収する。

・今後、し尿受入で消化ガス発生量が変動(増加)する。その際には、分配割合も見直すことができ

るように、事業契約書に見直しを行うことができる旨の条項も規定されている(市の割合を増やす

ことを想定)。本事業は他の類似事業に比べて消化ガス発生量が少ない。そのため、他市と同程

度の消化ガス単価にすると、民間事業者が事業として成立しなくなってしまうため、このような規定

とされている。もともと、余剰ガスとして燃やしていたものなので、市としては売電代金の一部が入

ってくることでメリットがあると考えられた。

・市への分配金の当初の見通しは年間 500 万円程度と予想していたが、平成 27 年 6~8 月の市

への分配金は 1,635,820 円(約 50 万円/月)となっており、当初予想を上回る方向で推移してい

る。

・8 月の発電量は 78,000 キロワット、9 月の発電量は 65,000 キロワットである。ただし、夏季は気温

が高く消化ガスが発生しやすいが、冬季は気温が低く、下水道施設側で加温に使用する消化ガ

スが増えるため、売電にまわせる消化ガスは減り、秋以降の金額は減少すると想定されている。年

間で単純に 4 倍となるわけではない。

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図表 事業スキーム図

出典:鹿沼市及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・公共下水道事業費特別会計に帰属し、公共下水道の事業費、借入金の償還金及び利子その他

の諸支出に充当される。

・具体的な使途については環境部だけでは判断できない。下水道事業には一般会計からの繰り入

れもあることから、財務部の承認が必要となる。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、環境部下水道施設課が担当している。

・担当者 3 名が兼務で対応している。

・公募で事業者を選定している他の地方公共団体に比べると、市の業務量は限定されていると考

えられている。

鹿沼市

公共下水道事業費特別会計

整備費 【約 3 億円】

納付・負担金 (売上連動) 【約 1 億円

(約 500 万円/年】

発電機

民間施設

民間事業者

維持管理費 【9 円/kWh】

売電収入

施設整備段階

運営段階

市有地

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・市は外部にアドバイザー業務は委託していない。市に営業に来た民間事業者に対して、サービ

スベースで意見を求めたことがある程度である。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・発電設備は民間事業者の所有であり、市の財産ではない。

・行政財産の使用許可とすると 1 年ごとに更新する必要があり、発電期間 20 年の本事業とは整合

しにくい。そのため、協定で使用を認めるということにしている。

イ 規制の変更等

・下水道施設のうち、発電設備を設置している部分は国庫補助を活用していないため、補助金の

目的外使用の問題は発生しない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・市では PFI 導入可能性調査は実施していない。

・平成 25 年 12 月の市と民間事業事業者との間での基本協定は、事業化を行うことで合意したもの

であるため、民間事業者による事業化検討調査は、それよりも前の段階で実施されている。

イ 民間発案の有無

・市でも消化ガスの事業化については検討していたが、平成 25 年夏の民間事業者の提案を受け

て事業化が進んだ。

・民間事業者の提案内容は、実績紹介、類似事例の紹介、事業スキーム案、簡単な収支に加え、

人口 10 万人規模での民設民営での消化ガス発電の実施事例はないので、一緒に共同研究をし

ないかというものだった。

・なお、民間事業者の提案は PFI 法に基づいた提案ではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・市内には、下水処理場と集落排水処理施設が 4 か所ずつある。この中で、黒川終末処理場は人

口 5 万人規模(他は 2,000 人規模)で、同処理場にのみ消化槽が設置されている。そのため、事

業実施場所として本処理場が選定された。

イ 施設要件及び業務内容

・本施設の仕様は民間事業者の提案による。発電機の能力(250kW)についても、月島の提案で

決定した。

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・市が官民連携事業協定の中で求めたのは、基本的には、下水処理場内において適正な維持管

理を行うこと、下水処理過程等、他に影響が出る場合には事前に市に通知することを求めている

こと程度である。

ウ 事業期間

・事業期間は、FIT での買取期間を参考として設定した。

・事業期間に対する議会の意見は特にない。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 納付金

・市は、民間事業者から、発電収入の分配金を納付金として受け取る。発電収入の分配の割合は、

民間事業者の提案を踏まえて、市 15%、月島 85%となっている。

オ 参加条件

・特命随意契約であり、特に参加条件は設定されていない。

・本事業は、実現性等について不確定要素も残っているため、民間事業者との「研究事業」という

位置づけにされている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

月島による提案 平成 25 年夏 基本協定の締結 平成 25 年 12 月 官民連携事業協定の締結 平成 26 年 10 月 22 日 設計・建設期間、試運転 平成 26 年 10 月~平成 27 年 5 月末 営業開始 平成 27 年 6 月 1 日 運転終了 平成 47 年 5 月 31 日 契約終了 平成 47 年 11 月 30 日

出典:鹿沼市及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

キ 官民のリスク分担

(ア) 発電量が変動した場合

・基本的には民間事業者が負担している。

・発電収入の分配により市も一定の発電量変動リスクを負担しているほか、大幅に変動した場合に

は分配割合の変更も協議することになっている。

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(イ) 売電単価が変更された場合

・基本的には民間事業者が負担している。

・発電収入の分配により市も一定の売電単価変動リスクを負担しているほか、大幅に変動した場合

には分配割合の変更も協議することになっている。ただし、FIT の活用により、売電単価変動リス

クは小さいと考えられている。

(ウ) 消化ガス量が変動した場合

・市の民間事業者に対する消化ガス供給量は、基本的には 1,500m3/日を目途とした消化の状況

に応じたものである。現在は、市が消化ガスを供給できなくてもペナルティはなく、消化ガス量変

動リスクは民間事業者が負担している。

・今後、市が実施している下水道施設の改修が終われば、消化ガスを 1,700~1,800m3/日供給で

きるようになると想定されているため、その際には、1,500m3/日の供給量を民間事業者に対して

約束することも考えられている。

・ただ、下水道施設の改修時期は国の交付金が措置され次第であるため、現状進んでいない(劣

化診断済、長寿命化の耐震診断は未実施)。

(エ) 不可抗力・法令変更が発生した場合

・基本的には民間事業者が必要な費用負担等を行うことになっている。

・市と民間事業者の間で発電収入の分配割合の変更について協議するほか、それでも事業が継

続できない場合には、民間事業者は契約解除を申し出ることができる。

・契約解除時においては、相手に及ぼす直接損害のみを補償し、間接損害や逸失利益について

は補償しないことになっている。

(オ) 事業収支が悪化した場合

・基本的には民間事業者の負担となるが、分配金の減額を通じて、市も影響を受ける。

・契約書上は、維持管理が 2 年間できない場合、市が協定に違反した場合、施設の運営が著しく

困難になった場合(例.消化ガス供給量が半減、地震等による被災)、契約を解除できることにな

っている。

(カ) 契約上の地位の譲渡等

・第三者への権利義務の譲渡は、契約書上は、基本的には認められていないが、市の事前の書

面承諾を得た場合はこの限りではないということになっている。ただし、加温設備については、事

業の根幹でもあり、譲渡、質権設定等は禁止されている。いずれも、民間事業者による事業継続

が前提となっているためであるが、例外を認めたのは、民間事業者の分社化などが発生すること

を想定したためである。

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ク 事業終了時の取扱い

・事業終了時には発電設備は撤去が予定されている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・本事業では作成していない。

【民間事業者の見解】

・他の事例では、消化ガスの買取価格が上がり、事業性が低下してきている。消化ガスの買取価格

だけでなく、技術的な部分をもっと評価してほしい。

イ 選定事業者の提案内容と評価

・市において、本事業における月島の提案は、民設民営方式と事業化までのスピードという点で評

価された。そのため、市は月島とサンエコサーマルと特命随意契約を締結している。

(6) モニタリング方法と実施状況

・市は毎月、民間事業者から消化ガス使用量、発電量、発電料金収入等を記載した業務報告書の

提出を受け、その内容を確認することができる(消化ガスの流量計は発電施設側に設置されてい

る)。

3 事業実施による効果 (1) 実際の運営状況

ア 運営状況

・平成 28 年度からし尿を受け入れることは決定されているが、一般廃棄物を受け入れることは、ま

だ決定されているわけではない。今後は、まずし尿の受入を行い、施設能力的に余裕があれば

受け入れることになっている。具体的には次のとおりである。

ステップ 1 し尿等

ステップ 2 廃棄物等(学校給食の端材、残飯等。市の公設市場から出るものは、既に肥料化と

いうリサイクルの仕組みが出来上がっており、本事業に持ってくるのは難しい。)

・市の一般ごみの収集は、燃えるごみと燃えないごみに分けているだけであり、生ごみを分別する

ことになると、市民負担が生じ、実現のハードルは高いと考えられている。

・本施設は、一般廃棄物の中間処理施設となり、廃掃法の適用を受けることになる。産業廃棄物の

受入は未定である。一般廃棄物もまだ検討中で完全に受け入れ可能となっているわけではなく、

産業廃棄物受入の検討は、それが解決してから行うことになる。

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イ 事業収支状況

・下水汚泥だけによる現在の発電量では、投資額の回収は事業期間終了時頃となる見込みである。

し尿を加えても、し尿のボリュームが小さいため、事業性を高めるためには、一般廃棄物の投入が

必要と考えられている。

・一般廃棄物の投入については、月島と市のほか、サンエコサーマルも加えて 3 者で検討を行って

いるとされている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・市にとっては、①低いリスクと少ない負担(市の設備投資や運転管理が不要)、②大きな既存設備

の改造が発生しない(発電事業者に市がなるか、民間事業者になるかで、FIT での設備認定の

範囲が異なり、市が発電事業者になると範囲が広くなる。)、③速やかな発注・協定締結が可能

(市の予算措置が不要)といった点がメリットであると考えられている。公設公営に比べると、大幅

に発注や事業者選定の準備・作業が短縮化できるとされている。FIT では、制度が変わる前に手

続を進める必要があるが、市は迅速な事業化が可能となると考えられている。

・民設民営であり、事業化にあたって市の財政負担はない。予算の制約なしに検討が可能となった

こと、公募手続が不要となったことから、事業化までのスピードを速めることができたと考えられて

いる。また、市に実績のない発電業務について民間事業者のノウハウを活用できたことなどにより、

市の各種検討負担が軽減されたと考えられている。

・市が直営で実施する方がメリットがあるという意見はなかったとされている。それよりも、市は 20 年

間の職員の確保、技術の維持にも不安を抱えており、官民連携の方がよいというふうに考えられ

ていたとされている。

イ 課題

・市では、事業者への安定的な消化ガス供給という義務を負うため、これまでと同じように下水汚泥

処理を行えばよいというわけでなくなる。これに関して職員の意識改革も必要と考えられている。

・一般廃棄物の受け入れにより、今後は廃掃法の適用を受ける。そのため、同法に関しての習熟が

必要となると考えられている。

・電力の買取価格が下がった場合に、事業の採算が悪くなるため、2 者(市と民間事業者)が収益

を分配するパターンの場合は、バランスをどのようにとるかが課題となると考えられている。

(3) 事業に対する評価

・庁内は、財務部等からは下水道部署が収益事業に取り組み、一般会計からの繰入金が減る可能

性があると評価されている。今後、下水道が企業会計を進めるためには、財源確保も一つのポイ

ントとなるが、それにも資するとの評価を受けている。庁内では、特命随意契約の適否についての

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意見もあったが、FIT の当初 3 年の内容(例.発電単価等)に間に合わせるためには、PFI 手法

を導入して各種資料を作成している時間的余裕がないと判断された。

・議会からは、もともと焼却処分をしていた消化ガスを有効に利用し、環境へも好影響など、下水道

部署は工夫してやっていると評価を受けている。特命随意契約を含めて、反対する意見はないと

されている。

・市民は、周辺住民を含めて、特に意見はないとされている。

・地元企業は、本事業は新たな分野ということや、月島という大手企業が行っているせいか、特に

意見は聞かれないとされている。ただ、今後、サンエコサーマルが本事業に関連して一般廃棄物

等の収集業務を行うようになると、市内の廃棄物業者から自分たちも同社のポジションに対応でき

るとの意見が出てくる可能性はあると考えられている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等) (1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

ア 民間事業者のアイディアによる事業化

・民間事業者の提案は大きかった。民間事業者の提案がなければ、まだ庁内で事業化に向けた検

討を行っている段階にとどまっていたと考えられている。

イ 庁内関連部署の意思疎通

・市は、同じ部で、下水道、し尿処理、一般廃棄物処理を扱っており、担当者間や組織間の意思疎

通もスムーズであったとされている。

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(参考)基礎データ

事業名 創エネルギー・廃棄物処理事業

事業分野 下水道

発注者 鹿沼市

施設概要

施設内容 下水道施設(発電施設)

施設規模 250kW (ガスエンジン 250kW×1 台)

事業場所 栃木県鹿沼市上殿町 695 黒川終末処理場内

寄駅:JR 鹿沼駅(車で約 10 分)

事業概要 事業概要

下水処理場内において、下水汚泥やバイオマスの混合消化を行い、

発生した消化ガスを燃料とする発電設備の整備・維持管理・運営を

行い、発電した電力は FIT を活用して売却する。

民間収益施設 発電設備

事業

スキーム等

事業期間 約 21 年(運営期間は約 20 年)

事業方式 BOO 方式(民設民営)

事業類型 独立採算型

事業規模 市の初期投資額の負担なし

民間事業者の

業務内容

施設整備業務

維持管理業務

運営業務

VFM

特定事業選定時 算出せず

事業者提案 算出せず

割引率 なし

審査結果

選定方式 特命随意契約

予定価格 なし

契約金額 なし

応募グループ なし

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎月島機械(株)(設計・建設・維持管理・運転)、サンエコサーマル

(株)(廃棄物の収集・運搬)

協力会社 なし

スケジュール

実施方針公表 なし

特定事業選定 なし

募集要項公表 なし

提案受付 なし

優秀提案者決定 なし

基本協定締結 平成 25 年 12 月

官民連携事業契約締結 平成 26 年 10 月 22 日

営業開始 平成 27 年 6 月 1 日

活用した

制度等

補助金 ―

その他 ―

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事例 09:箕面市立箕面駅前駐車場・駐輪場等再整備運営事業

事業分野:駐車場

事例 09:箕⾯市⽴箕⾯駅前駐⾞場・駐輪場等再整備運営事業

事業場所 大阪府箕面市箕面6 丁目地内他

公共主体 箕面市 民間主体 箕面駅前パーキングサービス(株)

施設概要 公共施設 複合施設(駐車場、駐輪場、地域活性化施設)、第二駐車場

民間施設 複合施設、第二駐車場の運営

事業実施段階 施設整備段階(供用開始未済)

事業手法 公共施設:PFI 手法・BTO 方式 民間施設:市が整備した施設を事業者が賃借等して運営

公共への還元 土地等の対価(借地料・貸付料)、納付・負担金

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 一定の集客が期待できる場所での事業の実施

・事業場所は、箕面駅前という好立地であり、また周辺には既存の商業施設がある。そのため、本

事業の実施により、これらの商業施設との相乗効果による回遊性創出、需要の確保が見込まれ

ている。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、既存の第一駐車場及び自転車駐車場を解体・撤去し、地域活性化施設も含めた複合

施設として再整備するものである。また、第二駐車場についても大規模修繕を実施し、整備された

複合施設と一体的に運営を行うものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 箕面市は、複合施設の整備に係る費用の一部を整備期間中に年度払で支払う。その後、複合施

設の整備に係る費用の残額及びその他の施設の整備費用等を、割賦払で支払う。事業者は、駐

車場・駐輪場の利用料金及びテナントからの賃貸料を自身の収入とする。

➤ 箕面市は、事業者から、箕面市が割賦払で事業者に支払う金額を、負担金及び賃貸料として受

け取る。また、箕面市は、事業者から、第二駐車場の収入から維持管理運営費及び負担金を差し

引いた金額を、納付金として受け取る。

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◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 駅前中心市街地活性化と民間ノウハウの活用維持

・箕面市では、本事業を施設の再整備という単体の事業ではなく、駅前中心市街地の活性化とい

う観点から検討を行っていた。また、それまでの施設の運営については、指定管理者制度を導入

し、民間ノウハウの活用を行っていた。

・これらの点を踏まえ、本事業ではそれまで活用していた民間ノウハウを維持すること、駅前中心

市街地の活性化に対しても民間ノウハウを活用することを目指した。

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 実施方針公表後の事業スキームの変更

・事業方式については、実施方針の段階では BTO 方式を基本としつつ、BOT 方式により実施す

ることも選択肢のひとつとしていたが、民間事業者の意見等を踏まえ、 終的に BTO 方式として

事業を実施することにした。

・事業期間についても、実施方針の段階では運営期間を 20 年と設定していたが、その後の民間

事業者の意見等を踏まえ、 終的には運営期間を 10 年として事業を実施することにした。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 必要に応じた職員の追加

・建築関係の部分を検討する際には専門知識を有する担当者を配置した。

・追加職員の配置により、効率的な職員数での検討を行うことができた。

● 効果

➤ 民間ノウハウの活用による質の高い提案

・複合施設のうち駐車場部分については、当初箕面市が想定した規模を超える質の高い提案を

受け付けることができた。

・また、地域活性化の観点から、複合施設のみならず、近隣の民間商業施設のテナントに対する

テナントリーシングの提案も受けることができた。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・箕面駅前第一駐車場、自転車駐車場は昭和 55 年に、また箕面駅前第二駐車場は昭和 63 年に

開設され、地域住民の利便性の向上や行楽期の観光客に多く利用されている。しかし、これらの

施設は整備後約 30 年が経過し、機能等の老朽化が進んでいるほか、景観面でも課題を抱えて

いた。

・また、この時期に箕面市(以下「市」という。)では、市域の市街化進行による都市機能の外延的拡

大や、駅前中心市街地の活性化を課題として捉えており、これらの改善に向けた取組として平成

16 年 12 月に平成 17 年度から平成 26 年度までを対象とした「箕面市中心市街地活性化基本計

画」を定め、改善への取組に着手した。また、具体的な取組として、平成 18 年度より「箕面駅周辺

整備方針検討調査事業」を実施し、地域の商業者や利用者と懇話会やワークショップを開催し、

またアンケート調査やパブリックコメントの募集等を行った。これらの結果を踏まえ、平成 19 年 7

月に平成 20 年度から平成 25 年度を実施期間とする「箕面駅周辺整備のあり方について〔箕面

駅周辺整備計画〕」を策定した。

・これらの経緯を踏まえ、本事業では、第一駐車場・自転車駐車場を含めた複合施設の整備及び

第二駐車場の大規模修繕を行うと共に、駅前中心市街地の活性化を図る機能も事業に含める方

針が決定された。

イ 官民連携手法導入の背景

・本事業の対象施設では、従前より運営に指定管理者制度が導入されていたため、引き続き運営

に民間事業者のノウハウを活用する観点から官民連携手法を導入することが検討された。

・本事業では、当初は公共施設等運営権の導入も視野に検討が行われており、国土交通省の「先

導的官民連携支援事業」(平成23年度)の中で具体的な検討が行われたが、本事業規模におい

てはメリットが少ないことなどから、導入されなかった。

・その後、整備手法については BTO 方式、BOT 方式、DB 方式、リース方式、定期借地方式の 5

つの手法の比較検討を実施した結果、BTO 方式が も優れていると考えられたことから、本事業

では BTO 方式を基本とする PFI 事業として事業化することとなった。

・PFI 導入可能性調査で BTO 方式を選定した理由としては、民間事業者からの要望が多かったこ

とのほか、社会資本整備総合交付金(以下「交付金」という。)の活用に関する観点からも優位で

あることが挙げられた。本事業では、交付金の活用を念頭に置いていたが、特に定期借地方式の

場合には交付金が活用できない可能性がある点が懸念された。また、PFI の中でも BOT 方式の

場合には、施設整備後も所有権が事業者であることから、交付金が活用できない可能性がある点

が懸念された。

・しかし、BOT 方式については、民間事業者から導入を望む意見が一定程度あった。このため、実

施方針の公表段階では BTO 方式を基本としつつ、BOT 方式についても加えて検討することとし、

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公表後の民間事業者との質問回答等を踏まえて 終的な事業方式を BTO 方式に決定した。

・なお、検討の過程では、当初は駅前中心市街地活性化の観点や施設整備を伴う施設を対象と

する観点から、当初の対象施設は第一駐車場及び自転車駐車場とされていた。しかし、当時導

入されていた指定管理者制度は対象施設を第一駐車場及び第二駐車場としており、第二駐車

場を業務範囲としない場合には、それまで実施されていた「第一駐車場と第二駐車場の一体管

理による運営の効率化」が保たれなくなることが懸念された。

・このため、 終的には第二駐車場の大規模修繕も含めた業務を PFI 事業の業務範囲とし、一体

的な運営を事業者に委ねることにした。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・事業用地は阪急電鉄箕面線箕面駅前にあり、商業機能や公共機能が集積している地区にある。

・複合施設の事業用地は既存の駅前第一駐車場及び自転車駐車場が整備されているエリアであ

り、敷地面積は 3,492 ㎡である。

・第二駐車場については施設の再整備は実施せず、大規模修繕により営業を継続するため、現在

と同じ場所にて事業を行う。敷地面積は 2,938 ㎡である。

図表 位置図

出典:箕面市公表資料

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・本事業により整備される複合施設のうち、駐車場、駐輪場に係る施設の概要は次のとおりである。

なお、第二駐車場は大規模修繕のみであり、既存の施設内容からの変更はない。

図表 施設概要(複合施設)

施設名 概要

駐車場 普通車:285台(二輪車:27台) 自走式立体駐車場

駐輪場 自転車:864台 原動機付自転車の駐輪スペース含

図表 外観(複合施設)

出典:箕面市公表資料

イ 事業方式

・事業方式は、PFI 法に基づく、BTO(Build Transfer Operate)方式である。

・地域活性化施設については、市が事業者に対して定期建物賃貸借契約により賃貸する。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 25 年 10 月から平成 27 年 3 月までは設計期間とし、平成 27 年 4 月から平成

28 年 3 月までは第一駐車場及び自転車駐車場の解体及び複合施設の整備を行うと共に、第二

駐車場の維持管理運営業務を行う期間としている。

・その後、平成 28 年 4 月から平成 38 年 3 月までの間、複合施設の維持管理運営業務を実施す

る。なお、第二駐車場については平成 28 年 4 月以降に大規模修繕を実施し、完了後平成 38 年

3 月までの間、維持管理運営業務を行う。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、対象施設の賃借料、負担金、納付金である。

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・施設整備費のうち、市が割賦で支払う金額を事業者が負担金及び賃貸料として市に支払う。

・また、第二駐車場の収入のうち、維持管理運営費及び負担金相当額を除いた金額を納付金とし

て市に支払う。

・複合施設の整備費については、交付金の活用金額及び市の地方債対象金額については、施設

の整備期間中に市が分割して支払う。残額(=事業者が資金調達を行う金額及びそれに係る利

息相当額)は市が割賦で支払うこととするが、負担金として市に還元することとされている。

・関連資本整備費、第二駐車場の施設整備、大規模修繕等に係る費用についても、市が割賦で

支払うこととしているが、それぞれ負担金として市に還元することとされている。

・また、地域活性化施設の整備に係る費用については、その他の施設と同様、施設整備費を市が

支払うこととしているが、一方で当該施設の賃貸料として市に還元することとされている。

・この他、第二駐車場における収入については、負担金を控除した金額を市に還元することとされ

ている。

・総じて、施設整備費については、交付金の活用金額及び市の地方債対象金額以外については、

負担金により実質的には相殺されることとなる。加えて、賃貸料における市の利益相当額及び第

二駐車場に関する納付金額が、市の純粋な利益部分として還元されるスキームとなっている。

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図表 事業スキーム図

出典:箕面市公表資料、箕面市ヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属する。

・市に還元された資金の使途は決まっていない。市の財政の中で、包括して活用される予定となっ

ている。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、地域創造部交通政策室が担当している。

・また、事業実施の過程で、建築関連の検討を行う際には、それらの知識を有する職員が 2 名、追

加で検討に加わった。

箕面市

市への 賃借料

事業者

整備費(交付金及び地方債

対象)

関連資本 整備

負担金②

負担金 ③

納付金

整備費(SPC借入金,利息

相当額)

整備費 (関連整備費

相当額)

整備費(SPC借入金,利息

相当額)

複合施設 (地域活性化施設を除く)

負担金①

一般財源

整備費(SPC借入金,利息

相当額)

施設整備段階

運営段階

第二駐車場 地域活性化 施設

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・本事業の PFI 導入可能性調査業務及び事業者選定アドバイザー業務を外部へ委託した。

・PFI 導入可能性調査から事業者選定アドバイザリーへ進める段階では、事業内容に対する理解

度や事業スケジュールの過密性を勘案し、随意契約により事業者選定アドバイザリー契約を締結

した。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・地域活性化施設の占有部分は行政財産となるが、市の行政財産の賃貸借契約に関する条例で

は、行政財産の貸付は 長 5 年と定められていた。

・本事業の事業期間は供用開始後 10 年であるため、この点については当該部分の貸付期間を 5

年とするものの、1 度限りの延長を許容するということで、事業期間中の貸付を行えることにした。

イ 規制の変更等

・本事業を実施する上では、用途変更に係る規制は特段発生しなかった。

・ただし、交付金を申請する段階では、「駐車場」が基幹事業の要件に直接該当しなかったため、

本事業を「道路」事業の一環として実施することにし、申請を行った。この点については、大阪府

も検討に積極的に参加し、 終的には大阪府と共同で申請した。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

(ア) PFI 導入可能性調査の結果

・PFI導入可能性調査は、国土交通省の実施した「先導的官民連携支援事業」(平成23年度)を活

用し、実施した。

・この中では、当初は公共施設等運営権の導入について検討を行った。しかし、事業規模等の観

点から公共施設等運営権の導入は相応しくないとの結論が出されたため、BTO方式、BOT方式、

DB方式、リース方式、定期借地方式の5つの手法の比較検討を実施した。

・比較検討の方法は、第一段階として民間事業者へのヒアリング調査を実施し、そこで特に有効で

あるとされた手法と従来手法との詳細な比較検討を第二段階として実施した。

・第一段階では、建設事業者6社、デベロッパー4社、駐車場事業者3社に対してヒアリングを行っ

た。この結果、特にBTO方式と定期借地方式が有効との意見が挙げられたことから、第二段階で

はこれら2つの手法に従来手法を加えた3つの手法の比較検討を行った。

・第二段階における比較の観点は、収支、資金調達、市の経営リスク負担の回避、事業継続リスク、

施設のグレードの5つを設定した。この結果、BTO方式が も優れているとの結論に至った。

・なお、事前調査の段階では、これらの事業手法の検討のほか、事業実施時の施設規模や民間事

業者の参画意向等についても、合わせて調査を行った。

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イ 民間発案の有無

・本事業は民間提案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・本事業では、対象施設の老朽化や景観等に課題を抱えており、当該場所における機能性につい

ては問題とされていなかった。

・また、「箕面駅周辺整備のあり方について〔箕面駅周辺整備計画〕」においても、第一駐車場及び

自転車駐車場の機能は維持する前提で検討が行われており、これらの点から事業用地の場所及

び規模については既存施設と同一の場所とすることで大きな議論にはならなかった。

イ 施設要件及び業務内容

(ア) 施設要件

・施設の規模のうち、新設する第一駐車場や自転車駐車場の規模については、PFI 導入可能性

調査段階における市場調査に基づき、条件設定を行った。

・また、地域活性化施設については、駅前中心市街地活性化の観点から必須の機能であったため、

整備することを要件として設定した。特に、市が目指す活性化の方針と合うような提案が得られる

よう、実施方針の段階から「飲食の提供や飲食物その他の物品の販売など、回遊性を創出し、地

域の活性化に資する施設とする」と施設内容を例示する等の工夫を行った。

図表 複合施設における各機能別の要求水準

項目 概要

駐車場 普通車:275 台以上

二輪車:25 台以上

※本施設に中型車・大型車の駐車は想定しない。

駐輪場 自転車:719 台以上

原動機付自転車:115 台以上

地域活性化機能 業種は、地域の回遊性を効果的に生み出すようなものとし事業者の提案による。

設置場所は「箕面駅周辺における回遊性と整備計画の方向性」における考え方を踏まえ

て、「地域活性化施設想定位置図」に示す範囲を想定している。

連絡通路 施設とみのおサンプラザ 1 号館(別紙-6「みのおサンプラザ 1 号館に関する図面」)の二

階以上をつなぐ連絡通路を設置することで、施設利用者等の利便性を図るとともに、地

域の回遊性を創出する。

なお、設置場所は事業者の提案による。

その他 管理事務室、エレベーター、男子便所、女子便所、多目的便所

出典:箕面市公表資料に基づき作成

(イ) 業務内容

・本事業では、箕面市の目指す駅前中心市街地活性化の観点や第一駐車場及び第二駐車場の

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一体的な民間ノウハウの活用継続の観点、またこれらに基づく PFI 導入可能性調査段階におけ

る市場調査の結果を踏まえて業務内容を決定した。

・具体的には、新たに整備する複合施設については、既存施設の解体・撤去から複合施設の設計

建設、整備後の維持管理運営業務までを対象としており、第二駐車場については大規模修繕業

務及びその後の維持管理運営業務を業務範囲としている。

図表 事業者の業務内容

事業の範囲

複合施設 第二駐車場

駐車場 駐輪場 地域活性化

施設 駐車場

施設整備業務

設計業務 ○ ○ ○ ○

建設業務 ○ ○ ○ ―

工事監理業務 ○ ○ ○ ○

施設建設に伴う各種申請等の業務 ○ ○ ○ ○

既存施設の解体業務 ○ ○ ○ ―

備品等整備業務 ○ ○ ― ―

大規模修繕業務 ― ― ― ○

その他これらを実施する上で必要な関連業務 ○ ○ ○ ○

施設維持管理業務

建物保守管理業務 ○ ○ ○ ○

設備保守管理業務 ○ ○ ○ ○

清掃業務 ○ ○ ○ ○

植栽・外構維持管理業務 ○ ○ ○ ○

廃棄物処理業務 ○ ○ ○ ○

その他これらを実施する上で必要な関連業務 ○ ○ ○ ○

施設運営業務

駐車場施設運営業務 ○ ― ― ○

駐輪場施設運営業務 ― ○ ― ―

地域活性化施設運営業務 ― ― ○ ―

安全管理業務 ○ ○ ○ ○

その他これらを実施する上で必要な関連業務 ○ ○ ○ ○ 出典:箕面市公表資料に基づき作成

・なお、本事業では、市に還元する負担金の金額を民間事業者の提案に委ねることとしている。こ

れにより、民間事業者が想定する事業収支の状況に合わせた金額の設定が可能となっている。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 25 年 10 月から平成 27 年 3 月を設計期間、平成 27 年 4 月から平成 28 年

3 月を第一駐車場及び自転車駐車場の解体及び複合施設の整備を行うと共に、第二駐車場の

維持管理運営業務を行う期間としている。

・その後、平成 28 年 4 月から平成 38 年 3 月までの間、複合施設の維持管理運営業務を実施す

る。なお、第二駐車場については平成 28 年 4 月以降に大規模修繕を実施し、完了後平成 38 年

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3 月までの間、維持管理運営業務を行う。

・本事業期間は、実施方針公表の段階では事業期間を平成 48 年 3 月まで(複合施設の維持管理

運営期間 20 年)としていたが、これに関する質問回答や民間事業者からの意見募集の中で、複

合施設の維持管理運営期間を 10 年としてほしいとの意見が挙げられた。

・これを受け、市では入札説明書の段階で事業期間を平成 38 年 3 月まで(複合施設の維持管理

運営期間 10 年)とし、民間事業者の意向を反映させた内容へ修正を行った。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 負担金

・市は事業者から複合施設整備に係る割賦支払相当額、提案事業に係る関連資本整備費相当額、

第二駐車場整備に係る修繕費等相当額を受け取る。

(イ) 賃貸料

・市は事業者から地域活性化施設の事業者の専有部分の賃貸料を受け取る。

・市は賃貸料の設定にあたっては、不動産の鑑定は行わず、周辺の賃貸料相場に基づき、類似の

水準として設定している。また、賃貸料の改定についても、設定時と同様、周辺賃貸料相場の変

動に応じて設定することになっている。

(ウ) 納付金

・市は事業者から第二駐車場における収入額から第二駐車場整備に係る修繕費等相当額の負担

金を控除した額を控除した額を受け取る。

オ 参加条件の設定

・民間事業者の参加条件として、複数の企業で構成されるグループとすることが挙げられているが、

このグループは、設計企業、工事監理企業、建設企業、駐車・駐輪場施設管理運営企業、地域

活性化施設管理運営企業により構成されることが条件とされている。

・また、市では民間事業者の過去の実績を重視する観点から、上記のそれぞれの企業について、

過去 10 年以内に本事業と同種類似の事業を実施した実績があることを参加条件としている。

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カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。なお、現在は複合施設の建設中であり、本施設は

平成 28 年 4 月に開業を予定している。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 24 年 9 月 10 日 実施方針に関する質問等の受付 平成 24 年 9 月 10 日

~平成 24 年 9 月 19 日 実施方針に関する質問等の回答 平成 24 年 12 月 28 日 特定事業の選定 平成 24 年 12 月 28 日 入札公告 平成 25 年 3 月 1 日 入札説明書等に関する質問受付 平成 25 年 3 月 1 日

~平成 25 年 3 月 15 日 入札説明書等(入札参加資格に関するもの)に関する質

問・回答の公表 平成 25 年 4 月 23 日

入札説明書等(入札参加資格に関するもの)に関する再

質問・回答の公表 平成 25 年 5 月 10 日

入札書類等の提出 平成 25 年 6 月 26 日 ~平成 25 年 6 月 28 日

プレゼンテーション及びヒアリング 平成 25 年 7 月 30 日 事業者の選定 平成 25 年 7 月 30 日 基本協定の締結 -(非公表) 仮契約の締結 -(非公表) 事業契約の締結 -(非公表) 引渡し期限 平成 28 年 3 月 31 日 開業 平成 28 年 4 月 1 日 維持管理・運営・運営マネジメント 開業日~平成 38 年 3 月 31 日

出典:箕面市公表資料に基づき作成

キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・複合施設の駐車場、駐輪場における利用料金収入及び地域活性化施設におけるテナントからの

賃貸料収入は、事業者の収入となる。一方、事業者の支出の中には施設の維持管理運営業務

に係る費用が含まれていること、地域活性化施設の専有部分に対する賃借料は周辺賃借料相場

の変動により改定され、需要動向とは必ずしも一致しないことになっており、複合施設の需要変動

リスクは事業者が負担するスキームとなっている。

・第二駐車場についても、納付金の金額が提案時点のもので固定されるため、需要変動リスクは事

業者が負担する。なお、事業契約上でも「赤字となったとしても、減額しないものとする」と定めら

れている。

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(イ) 大規模修繕が発生した場合

・本事業では、第二駐車場における大規模修繕業務が事業者の業務範囲に含まれており、事業

者がリスクを負担することになっている。

・事業契約上では、事業者が施工方法等の当該大規模修繕業務に係る一切の方法を、自己の責

任において定めることとされている。ただし、参考として市が想定する修繕項目及び数量を要求

水準で公表している。なお、これらの修繕項目に対しては、事業者が他に必要と考えられる項目

を追加することも認めている。

(ウ) 事業収支が悪化した場合

・本事業の納付金の金額は事業者の提案に委ねる一方、収益悪化時においても金額の変更は行

わないこととしている。

・事業者が撤退する事態となった場合には対しては、事業契約上では前年度における事業者の第

一、第二駐車場及び駐輪場の利用料金収益並びに地域活性化施設の賃料の総額の 20%に相

当する額を違約金として市に支払うことになっている。

・これに加え、地域活性化施設の専有部分については、当初の 5 年間は解約できないことになっ

ている。

・なお、事業者が撤退した場合の次の事業者の選定等については、市と金融機関との直接協定に

より対応することが想定され、事業契約上では事業者のペナルティについて言及される予定にな

っている。

(エ) 契約上の地位の譲渡等

・本事業では、市の事前の書面による承諾のある場合を除き、事業者が本契約上の地位又は権利

を第三者に譲渡、担保提供、その他処分することは認められていない。

ク 事業終了時の取扱い

・事業終了時に、施設内に事業者が所有または管理する工事材料、建設・業務機械器具、仮設物

その他の物件があるときは、その処置については市の指示に合理的な範囲で従うとされている。

・また、事業者は市に対して施設の維持管理・運営行うために必要な資料の全てを市に提出するこ

ととされている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・評価点は、提案金額に関する評価、団体及び施設管理共通事項に関する評価、施設の整備及

び維持管理運営に関する評価の 3 つの項目に分かれており、それぞれ 100 点満点(合計 300

点満点)と設定されている。

・提案金額に関する評価については、市が定める「指定管理者制度の運用に係る指針」に基づく

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計算式が採用されている。市では、この他にもう 1 通りの標準的な計算式を定めているが、本事業

では提案の内容を重視する観点から、提案金額による評価の差がつきにくくなるように配慮した。

図表 審査基準

審査項目 配点(点)

(1)提案金額に関する評価 100

(2)団体及び施設管理共通事項に関する評価 100

(3)施設の整備及び維持管理運営に関する評価 100

共通 事業の実施方針 5

施設整備業務

駐車場・駐輪場等複合施設

45 整備計画

第二駐車場大規模修繕計画

施工計画

施設維持管理・ 運営業務

施設維持管理計画

30 駐車・駐輪場施設の運営計画

地域活性化施設の運営計画

提案事業 ハード面(関連社会資本の整備)の事業計画

20 ソフト面(自主事業)の事業計画

合計点(小数点以下切捨) 300

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 3 者から入札提案書類の提出があった。各者の総合評価結果は次のとおりである。

図表 総合評価結果

グループ A グループ B グループ C

合計点(300 満点) 193.00 163.00 181.00 出典:箕面市公表資料に基づき作成

・本事業において選定された民間事業者の評価は、提案金額に関する評価は も低かったものの、

それ以外の提案内容に関する評価は も高かった。

・例えば、代表企業と構成企業のそれぞれに駐車場運営ノウハウを有する民間事業者が参画して

おり、事業継続性の観点で高く評価された。

・また、地域活性化施設の運営を行う民間事業者として関西圏の民間事業者が参画しており、地

場の状況に精通した民間事業者として評価された。

・この他、複合施設の耐震性や動線計画等の面も評価が高かった。

(6) モニタリング方法と実施状況

・本事業は供用開始前の段階ではあるが、提案募集の段階で民間事業者から年 4 回のモニタリン

グを実施する旨の追加提案があった。

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3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

・本事業では、複合施設は供用開始前の段階であり、運営は開始されていない。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・従来手法では想定していなかった、大規模な駐車場施設の提案を受け付けることができたと考え

られている。

・また、これらの維持管理運営方法についても、施設規模に応じた効率的な内容の提案を受け付

けることができたと考えられている。

イ 課題

・PFI 事業として事業を行う場合の、省庁等の対応窓口が明確でなく、方針を決定するための情報

収集に時間を要したと考えられている。

・事務量が従来方式と比べて多く発生したと考えられている。

・提案内容については選定の直前まで不明であるため、職員としては心理的な負担があったとされ

ている。

(3) 事業に対する評価

・議会等からの意見は特にないとされている。本事業では実施方針の段階から入札公告の段階で

事業方式や事業期間について変更等を行ったが、この点について事業者が実施しやすい事業と

する観点の変更であり、大きな議論とはならなかった。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・PFI 事業では、事業契約から供用開始までに一定の期間が空くため、提案時に協議した内容が

事業終了まで引き継がれない可能性があると考えられている。このため、契約内容についてはこ

れらの協議内容も含めて詳細に定め、事業期間終了まで事業契約をベースに事業を遂行するこ

とが重要であると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 箕面市立箕面駅前駐車場・駐輪場等再整備運営事業

事業分野 駐車場

発注者 箕面市

施設概要

施設内容 複合施設(駐車場/駐輪場/地域活性化施設)

第二駐車場

施設規模 複合施設:敷地面積 3,492 ㎡

第二駐車場:敷地面積 2,938 ㎡

事業場所 大阪府箕面市箕面 6 丁目地内他

寄駅:阪急電鉄箕面線箕面駅(徒歩 4 分)

事業概要 事業概要

既存第一駐車場、自転車駐車場の解体撤去を行い、複合施設の

整備及び維持管理運営を行う。

既存第二駐車場については大規模修繕を実施し、維持管理運営を

行う。

民間収益施設 複合施設内の地域活性化施設を事業者が専有し、事業を行う。

事業

スキーム等

事業期間 平成 25 年 9 月~平成 38 年 3 月

事業方式 BTO 方式

事業類型 サービス購入型

事業規模 1,199,892,726 円(提案金額、税込)

民間事業者の

業務内容

既存施設の解体撤去業務

複合施設の設計・建設業務

第二駐車場の大規模修繕業務

複合施設、第二駐車場の維持管理・運営業務

VFM

特定事業選定時 約 38.3%

事業者提案 非公表

割引率 2%

審査結果

選定方式 総合評価一般競争入札

予定価格 -

契約金額 1,199,892,726 円(税込)

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎白青舎(株)(駐車場・駐輪場施設の運営管理、運営マネジメン

ト)、(株)大建設計(設計、工事監理)、前田建設工業(株)(建設)、

(株)日本駐車場サービス(駐車場・駐輪場施設の運営企画)、 (株)

大丸コム開発(地域活性化施設の管理運営)

協力会社 箕面都市開発(株)

スケジュール

実施方針公表 平成 24 年 9 月 10 日

特定事業選定 平成 24 年 12 月 28 日

入札公告 平成 25 年 3 月 1 日

提案受付 平成 25 年 6 月 28 日

落札者決定 平成 25 年 7 月 30 日

契約締結 非公表

供用開始 平成 28 年 4 月 1 日(予定)

活用した

制度等

補助金 社会資本整備総合交付金

その他 ―

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事例 10:指宿地域交流施設整備等事業

事業分野:道の駅

事例 10:指宿地域交流施設整備等事業

事業場所 鹿児島県指宿市小牧字磯52 番地他

公共主体 指宿市 民間主体 (株)サニーケープ

施設概要 公共施設 地域交流施設、都市公園、道の駅

民間施設 地域交流施設の運営

事業実施段階 供用開始済

事業手法 公共施設:PFI 手法・BTO 方式 民間施設:市が整備した施設を民間事業者が使用して運営

公共への還元 土地等の対価(占用料・使用料) 〔約2 億円(0.13 億円/年(過去12 年間の平均)〕〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 一定の集客が期待できる場所での事業の実施

・国道 226 号線沿いで指宿市の玄関口に立地する観音崎に新たに整備する道の駅内に設置する

地域交流施設での特産品販売業務等であり、一定の集客が期待できた。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 道の駅整備と民間委託方針の明確化

・指宿市は、地元からの強い要望に基づき地域交流施設を整備することとし、事業者選定から事

業実施に到るまで、地元産業の活性化や地域振興を重視した。販売を目的とすることから、民間

活力の積極的な導入を図ることとし、販売手数料制を採用することや、自主運営事業の実施を認

めることで、売上増に向けた民間事業者のインセンティブが働きやすいように工夫している。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、指宿市の都市公園内において、民間事業者が地域交流施設を整備し、維持管理・運

営業務を行うものである。事業者は、特産品販売業務に加え、自主運営事業を実施し、多様な店

舗・施設の賑わいを実現している。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 指宿市は、民間事業者から、地域交流施設内における特産品販売業務等の施設使用料として、

約 0.13 億円/年(過去 12 年間の平均)、事業期間 15 年の累計で約 2 億円を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の経緯

・指宿市(以下「市」という。)は、日本本土の 南端に位置し、地域・観光資源に恵まれた南九州

地域観光の拠点都市である。

・市は、第四次指宿市総合振興計画(平成 13 年~平成 22 年)に地場産業振興を図る観点から、

国道 226 号線沿いで市の玄関口に立地する観音崎に、都市公園、道の駅と合わせて、物産セン

ターや物産館等の機能を持った地域交流施設を整備することにした。

・事業用地は従前すべてが民有地であり、本事業実施にあたっては、民家 3 軒の移転補償を含め、

用地取得に 3 年ほど要した。その間、市長が自ら用地交渉を行うなど、道の駅の必要性を訴え、

実現にすることになった。

・整備された施設は、現在、道の駅いぶすき彩さ

花か

菜な

館かん

という名称で宣伝が行われている。

イ 官民連携手法導入の背景

・地域交流施設については物産品等の販売を目的とすることから、民間活力の積極的な導入を図

ることが も地域振興に寄与すると考え、その整備・維持管理・運営に PFI 手法を導入することに

した。また、併せて、市が設置・管理を行う都市公園と、国土交通省が設置して市が管理を行う道

の駅の維持管理業務についても民間事業者に委ねることにした。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本施設は指宿と鹿児島を結ぶ国道 226 号線沿いに位置している。

● 効果

➤ 安定した経営の継続

・施設供用開始後 12 年が経過するが、指宿市への還元額は各年度とも計画時の目標を上回って

おり、好調に推移している。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ アドバイザー業務の継続的な委託

・事業者選定アドバイザー業務を委託した際に、事業者選定後のモニタリング業務も継続して委

託している。

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図表 位置図

出典:指宿市公表資料

・道の駅いぶすきの全体面積は 14,600 ㎡であり、地域交流施設、都市公園・駐車場、24 時間利用

できるトイレ、駐車場、道路情報案内装置からなる。このうち、PFI 手法で整備されたのは地域交

流施設である。

・施設の概要は次のとおりである。

図表 施設概要

都市公園・駐車場 公園整備面積:12,136㎡

全体事業費:483,600千円

施設概要:駐車場44台(大型4台、普通34台、身障者用2台、軽自動車

1台)、芝生広場(約3,000㎡)、展望台(東屋)1基、パーゴラ1基、ベ

ンチ、屋外ステージ他

地域交流施設 鉄骨2階建、建築面積611㎡、延べ床面積809.55㎡

全体事業費:364,904千円

施設整備費:206,086千円(15年間の金利を含む)

維持管理費:158,818千円(都市公園、道の駅分を含む)

道の駅 整備面積:2,600㎡

整備額:380,000千円

施設概要:駐車場25台(普通23台、身障者用2台)、駐輪場1箇所、ト

イレ、情報提供施設 出典:指宿市ヒアリングに基づき作成

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図表 外観

出典:道の駅いぶすきホームページ

イ 事業方式

・事業方式は、PFI 法に基づく、BTO(Build Transfer Operate)方式である。

・事業方式は、PFI 導入可能性調査報告書の結果に基づいて選定された。もともと、市は特産品

販売所を開設したと考えていたが、市には財政的な余裕がなかったため、都市公園に関する補

助金を使用することが必要だった。そのため、建物は市が整備し、維持管理運営は民間事業者

に行ってもらう方式として BTO 方式が想定された。

・同方式で整備した施設において、民間事業者は、漁協や農産加工組合等からなる出荷者協議

会から委託された特産物の販売を行い、委託された特産物の売上高の 40%以内を手数料として

受け取ることができる。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 15 年 11 月 27 日の特定事業契約の締結から、平成 16 年 10 月 1 日の施設供

用開始を経て、平成 31 年 9 月末までの約 16 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元の方法は、市が整備した地域交流施設の施設使用料

である。その金額は同施設中で行われる特産物販売業務については委託販売売上額の 5%、自

主運営業務(例.レストラン)については使用場所の面積に応じた額(850 円/m3・月)である。

・当初、特産品販売業務の還元額の予想は約 7.8 百万円/年(売上高:156,275,000 円×5%=

7,813,750 円/年)、自主運営業務の還元額の予想は約 2.0 百万円/年(面積:200.55 ㎡×850 円

×12 か月=2,045,610 円/年)、合計約 9.8 百万円/年(9,859,360 円/年)であった。

・これに対して、事業開始後 12 年間の実績の平均は、約 12.6 百万円/年(12,605,631 円/年)であ

り、事前の予想額を上回っている。

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図表 事業スキーム図

出典:指宿市公表資料及び指宿市ヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属するが、財政課との間では、公園の維持管理費等に充当することになっている。

・公園の維持管理費や修繕費まで含めると、一般会計から繰り入れを行っていることになる。その

ため、民間事業者からの還元額が増えると、一般会計から公園の維持管理費等への繰入額が削

減されることになる。

指宿市

一般会計

市有地等

公共施設

事業者

物産販売所

地域交流施設

サービス対価 約 3.6 億円

【施設:約 2 億円】 【運営:約 1.6 億円】

施設整備費 【約 2 億円】

都市公園

駐車場

施設整備段階

運営段階

管理・運営費 【約 1.6 億円】

施設使用料 (売上連動)

土地等の対価 (使用料)

特産物販売: 【約 1.5 億円】 (約 1,000 万円/年)

(想定)

飲食施設

施設使用料 (固定)

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2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、現在は産業振興部商工水産課が担当している。

・本事業の当初の担当は、総務部企画課(現 総務部市長公室)である。構想段階から、事業者選

定、その後のモニタリングも 1 名で担当していた。

・その後、事業も軌道に乗ったとことから、産業振興部商工観光課(現 商工水産課)が担当するこ

とになった。担当者は 1 名である

・PFI 導入可能性調査業務については、国土交通省の直轄調査(国土交通省都市・地域整備局公

園緑地課・(社)日本公園緑地協会「平成 12 年度 都市公園と観光施設の一体整備手法検討調

査」(平成 13 年 3 月))で実施されている。

・市は、事業者選定アドバイザー業務は(財)都市経済研究所に委託した。

・市は、事業者選定後のモニタリング業務も(財)都市経済研究所に委託していたが、同研究所が解

散することになったため、平成 24 年度から(株)日立建設設計に委託している。同社の担当者は、

同研究所に出向して本業務を行っていたため、アドバイザー側の担当者は変わらない。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・事業用地、地域交流施設とも、行政財産である。

・民間事業者の入札公告時点(平成 15 年 5 月)では指定管理者制度は導入されていなかったが、

その後指定管理者制度が導入され、事業者が都市公園の指定管理者に指定されている。

・都市公園法では、第 5 条第 2 項により、市が許可することで、民間事業者が公園施設を設置する

ことも可能であるが、その場合、同条第 3 項により、公園管理者以外の者が公園施設を設け、又

は管理する期間は、10 年を超えることができないとされている。これについては、平成 15 年 6 月

の地方自治法改正によって、指定管理者制度が創設され、都市公園法上の問題は特に生じてい

ないと考えられている。

・なお、地域交流館等の施設と国道を挟んで反対側にある第 2 駐車場は、民間事業者が自ら借り

上げている施設であり、公有財産ではない。

イ 規制の変更等

・都市公園の整備にあたって、都市公園等統合補助事業を活用したが、補助金の活用は PFI 事

業を実施する上で特に問題にはなっていない。

・公衆トイレと駐車場の一部は国土交通省が整備し、国土交通省との協定に基づいて市が管理し

ており、道路扱いである。この部分の維持管理については、PFI 事業の中に含められている。修

繕については、2 万円以下/件は民間事業者が実施し、2 万円超/件は市から要望した上で、国土

交通省が実施することになっている。

・イベントで、都市公園部分を使用する計画はあるが、道路扱いの部分を使用する際には道路法

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の占用許可等が必要となるため、道路扱いの部分はイベント等で使用しない運用とされている。

・公園部分をイベント等で使用する場合は、事業者が指定管理者である事業者に対して申請する

ことになる。本来は、そういった手続が必要であるが、イベントは通常短期間でもあることから、そう

いった手続を行うことは特に求めていないとされている。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・平成12年度に国土交通省直轄事業として実施したPFI導入可能性調査で需要想定が行われて

いる。これらの考え方は特定事業選定時にも活用されている。その概要は次のとおりである。

図表 需要想定

・年間47万人の観光客の内、0.35%が本施設を利用し、物品等を1人当り950円購入すると想

定した。

・年間47万人は観光統計から設定した。

・立ち寄り率0.35%は、県外貸切バス・県内バスの利用者数の25%と、それ以外に道路交通

量から一般車が一定数立ち寄る(立寄率17.5%)と整理して設定した。

・1人当り消費額950円は類似施設の実績から設定した。

・これらによると、特産品の売上高の想定は156.3百万円/年となった(参考:11年目の実績

は180.7百万円/年)。

出典:指宿市ヒアリングに基づき作成

・上記の調査結果自体は、民間事業者の公募時には、その位置づけが難しいと判断されて、公表

はされなかった。ただし、予想立寄者数については参考資料として公表されている。

・なお、同調査で、VFM=24.41%(従来型手法:671,784 千円、PFI-LCC:507,826 千円)、

EIRR=8.41%(6~10%必要と想定)、LLCR=1.57(1.2 以上が必要と想定)と一定の評価が

得られたため、PFI 事業での整備を決定された。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・事業用地は、指宿市の北の玄関口であり、隼人松原と呼ばれる松林と海岸線がきれいな景勝地

であったことから選定された。

イ 施設要件及び業務内容

・要求水準では、地域交流施設の建築計画は、延べ面積(法定床面積)650 ㎡以上とされ、構造と

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階数は民間事業者の提案とされている。

・地域交流施設の床面積については、都市公園法上で都市公園内に建物を建てられる面積が決

まっており、その上限で設定されている。そのため、市としては平屋での整備を希望していたが、2

階建ということになった。レストランは2階に設置されているが、2階だと集客面に課題があるとされ

ている。

・地域交流施設内で行われる特産物販売業務についての要求水準の設定にあたっては、民間収

益事業を成り立たせることが重要であり、自主運営業務を含めて、事業者が事業を行いやすくな

るように留意されている。具体的には次のとおりである。

図表 特産物販売業務の要求水準

機能 内容

業務内容 ① 出荷者協議会の会員が持ち込む特産物(生鮮品・加工品)の販売代行を行うこと。

② 特産物については、荷受、値札発行、陳列・整理、レジ業務(販売代行)及び売上の管理

を行うこと。なお、特産物の包装(ラッピング)、値札付け及び残品の引取りは出荷者が行う。

③ 特産物の持込みは、出荷者が行う。ただし、生鮮品等の特産物が不足する場合は、事業

者が直接仕入れることも可とする。また、荷受時間等その他必要な事項については、運営

協議会で別途定めるものとする。

④ 出荷者への販売代金は半月分を一括して精算し、速やかに会員の指定口座に振り込む

こと。なお、振込手数料は、出荷者の負担とする。

⑤ 市への施設使用料は3か月分を一括して精算し、速やかに市の指定口座に振り込むこ

と。

⑥ 出荷者が持込んだ農産物等の包装用フィルム及び値札は事業者が準備し、出荷者に販

売すること。

要求水準 ① 商品については衛生的に取扱い、荷姿についても傷まないよう工夫すること。

② 商品に応じた販売方法、保存方法を行うこと。

③ 商品に事故が生じた場合は、原則、委託者の責任とする。ただし,明らかに事業者が善

良なる管理者の注意義務を怠った場合は、事業者の責任とする。

④ 指宿地区の特産品を優先して販売するよう努めること。

⑤ 出荷者協議会の会員が持ち込む特産品については、品質等の劣化及び商品に不具合

がある場合を除き、受入を拒むことはできないものとする。

⑥ 利用者に対し、不快な印象を与えないように服装、態度及び言動等には十分に留意する

こと。(従業員教育を行うこと。)

出典:指宿市公表資料に基づき作成

・上記のほか、事業者は、自らの提案により、特産物販売業務や地域情報発信業務に支障が出な

い限りにおいて、自主運営事業を実施することができ、その際には市に対して施設使用料を支払

うことになっている。この施設資料料は、初年度は 850 円/㎡・月とされ、3 年毎に物価変動を勘案

して見做しを行うことになっている(現在も 850 円/㎡・月)。

・事業者の提案に基づく自主事業は、レストラン、パン、ジュースやぬいぐるみ等のナショナルブラ

ンド商品の販売、地域交流館出入口付近での屋台となっている。

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・市はレストラン業務は収益性が安定せずリスクが大きいと判断したことから、運営業務の要求水準

には含めなかったが、民間事業者から自主運営業務として提案があり、現在も実施されている。

ウ 事業期間

・事業期間は、事業契約締結日(平成 15 年 11 月 27 日)から平成 31 年 9 月末日までとされ、約 16

年間である。維持管理・運営期間は 15 年間となっている。

・当初は、20 年から 30 年を想定していたが、ヒアリング先の金融機関が消極的であった。そのため、

20 年以上にすると、金利が上がること、金融機関の金利設定が困難となり融資自体が受けにくく

なること、民間事業者の倒産リスクが上がることなどから、15 年とされている。

・議会からは、事業期間に関する意見は特になかった。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 施設使用料

・市は事業者から地域交流施設の施設使用料を受け取る。平成 26 年 4 月の消費税引上げに合わ

せて、事業者が出荷者から受け取る販売手数料は各 1%ずつ引き上げたが、市への還元割合は

変更していない。

・現時点での、販売する特産物の種類、事業者の収入となる販売手数料及び市の収入となる施設

使用料は次のようになっている。

図表 施設使用料等の内容

区分 分類 事業者の

販売手数料

施設使用料

(市の収入)

市・郡内の生

鮮品

・指宿市郡内で生産される農林水産物

・指宿市郡内で生産される花卉・観葉

植物類

売上の 21%以内

(契約時は 20%以内)

※ 保 冷 庫 使 用 の 場 合 は

5%上乗せ

売上の 5%以上

※左記の内数

市・郡内の加

工品

・市郡内で製造され,許可を受けた加

工食品

・指宿ブランド産品協会に加盟してい

る会員の生産品

・市郡内で生産される工芸品・民芸品

・農産加工組合が製造する商品

売上の 26%以内

(契約時は 25%以内)

※ 保 冷 庫 使 用 の 場 合 は

5%上乗せ

売上の 5%以上

※左記の内数

県 内 の 加 工

・県内で生産される観光土産品 売上の 41%以内

(契約時は 40%以内)

※ 保 冷 庫 使 用 の 場 合 は

5%上乗せ

売上の 15%

以上

※左記の内数

出典:指宿市公表資料に基づき作成

・市は、民間事業者の公募時に、各区分に当てはまる具体的な特産物を示したリストを公表してい

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るが、その更新は行っていない。

・市が、施設使用料の条件を設定するにあたっては、民間の収益施設におけるテナント料の仕組

みを参考とした。その際には、特産物の販売が増えれば民間事業者の収益も増える仕組みとし、

民間事業者の販売意欲が増す仕組みにすることが目標とされた。

・要求水準では、民間事業者の販売手数料を上記割合以内で提案することとしていたが、民間事

業者からは上限の割合で提案されている。

・出荷者協議会に対する説明は基本的には市が行った。本施設の出荷者協議会は本施設だけを

対象とした出荷者協議会である。事務局は市の商工水産課(担当は PFI 事業とは別)が担ってい

る。市内の他の道の駅(道の駅山川港活お海道)にも出荷者協議会があるが、その事務局は道の

駅が担っている。なお、そちらも指定管理者制度を導入している。

・市内の他の道の駅(道の駅山川港活お海道)では、民間事業者の販売手数料は 15%とし、そこ

からの市への還元はない。これは、当該道の駅の立地条件(本事業よりも交通量等で劣る)を考

慮して設定したとされている。

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件では、応募者の構成は定められているが、代表企業や運営企業の資格

要件に関する指定は特に設定されていない。

・応募者構成に関する参加条件の概要は以下のとおりである。

図表 応募者の構成等

■応募者の構成

・① 応募者は、必要な資金の確保を自ら行った上で、地域交流施設の設計、建設,維持管理、運

営及び都市公園及び道の駅の維持管理を行う能力を有した単独企業(以下「応募企業」という。)

又は、これらの能力を有する者を含むグループ(以下「応募グループ」という。)とします。

② 応募企業又は応募グループは、施設を設計する企業(以下「設計企業」という。)、施設を建設

する企業(以下「建設企業」という。)、施設の維持管理を行う企業(以下「維持管理企業」という。)

及び施設の運営を行う企業(以下「運営企業」という。)により構成されるものとします。(これらの企

業を以下「構成員」という。)ただし、設計企業及び維持管理企業については、協力企業とすること

も建設企業が兼ねることも可とします。

■運営企業の資格要件

・規定なし。

出典:指宿市公表資料に基づき作成

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

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図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 15 年 1 月 14 日 実施方針の説明会開催 平成 15 年 1 月 28 日 実施方針に関する質問等の受付 平成 15 年 1 月 29 日~同年 2 月 7 日 実施方針に関する質問等の回答 平成 15 年 2 月 25 日 特定事業の選定 平成 15 年 3 月 26 日 入札公告 平成 15 年 5 月 19 日 入札説明書等に関する説明会開催 平成 15 年 5 月 23 日 参加表明及び資格審査申請書受付 平成 15 年 6 月 26 日 資格審査結果の通知 平成 15 年 7 月 11 日 入札(提案書提出) 平成 15 年 7 月 29 日 落札者の選定 平成 15 年 9 月 24 日 仮契約の締結 平成 15 年 11 月 17 日 事業契約の締結 平成 15 年 11 月 27 日 設計・建設期間 平成 16 年 1 月~平成 16 年 9 月 供用開始 平成 16 年 10 月 1 日 維持管理・運営期間 平成 16 年 10 月~平成 31 年 9 月

出典:指宿市公表資料に基づき作成

・市は実施方針と入札説明書等に対する質問回答を実施しているが、個別対話等は実施していな

い。

キ 官民のリスク分担

(ア) 委託販売売上高が変動した場合

・基本的には民間事業者が負担しているが、施設使用料の変動を通じて、市にも影響がある。

・特産物販売業務における委託販売売上額の変動リスクのうち、下振れリスクについては、市が地

域交流施設の運営業務の費用を市が負担していることから、民間事業者の負担は限定的と考え

られている。一方、上振れリスクについては、民間事業者の手数料収入が増えるだけでなく、市に

支払う施設使用料も増加することから、市と民間事業者の間で分担されていると考えられている。

(イ) 施設使用料を変更する場合

・民間事業者が自主運営事業を行う際の施設使用料は、運営開始初年度は 850 円/㎡・月とされ、

以降 3 年毎に物価変動を勘案して見直しを行うことになっている。具体的には、平成 15 年度の企

業向けサービス価格指数(不動産)の平均と、当該事業年度の前年度の同指数の平均を比較し、

指数の変動率を反映させることになっている。しかし、実際は現在も契約時と同じである。

・なお、市には、市有財産の貸付等の可否を検討する市有財産検討委員会的なものは存在してな

い。

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(ウ) 施設内容を変更する場合

・民間事業者が自主運営業務の内容を変更しようとする場合には、事前に市の許可が必要である。

内容次第であるものの、基本的には認める可能性が高いとされている。

(エ) 民間事業者が倒産した場合

・募集要項において、事業者(SPC)の設立が求められている。

・なお、本事業では、応募時に代表企業であった大木建設(株)が、設計・建設期間中(着工直前の

段階)である平成 16 年 3 月に民事再生法を申請した。その際、今後は運営業務が中心になること

から、(有)ファインサプライが代表企業となった。これについては、事業者に対して融資を行う鹿児

島相互信用金庫も承諾している。これにより、本事業はほとんど影響を受けず、ほぼ計画通りに施

設整備・供用開始に至った。SPC による倒産隔離が有効に機能した事例となっている。

・(有)ファインサプライは、当時はコンビニエンスストアを 2、3 店舗運営していた。今は、居酒屋や焼

肉店等を運営している。従前は市には縁がなかった。

(オ) 収益悪化時の取扱い

・事業契約では、事業者の意向だけでは事業契約を解除することはできない。

・事業者が業務を放棄すれば、市は事業契約を解除することができる。

・事業者の損益分岐点は、市では把握していない。

(カ) 契約上の地位の譲渡等

・本事業では、市の事前承諾のある場合を除き、事業者が本契約上の地位を第三者に譲渡するこ

とは認められていない。

ク 事業終了時の取扱い

・事業期間終了時には、事業者が用いた維持管理業務及び運営業務の実施に関する業務実施

要領、申し送り事項その他の資料を提供するほか、引継に必要な協力を行うことが求められてい

る。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・市は、本事業のうち施設整備業務と維持管理業務についてはサービス購入型であるが、運営業

務で努力してくれる民間事業者を評価したいと考えて、審査基準を作成した。

・得点総合計は、入札価格に関する得点と事業計画提案書に関する定性的審査得点の合計とな

っている。後段の事業計画提案書に関する定性的審査得点(配点 70 点)のうち、特産物物販業

務と自主運営業務に関連する主な内容(小計 13 点)については、性能点の約 19%の割合となっ

ている。

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図表 評価算式

得点総合計(満点 100 点)=入札価格に関する得点(配点 30 点)

+事業計画提案書に関する定性的審査得点(配点 70 点)

入札価格に関する得点= 低入札価格/評価対象の入札価格 × 配点(30 点)

図表 宿泊施設と飲食物販等施設の主な審査項目

対象業務等 概要 配点

特産物販売業務 ・特産物販売業務の具体的業務内容を理解し、具体的な提案がなされて

いるか。

・売上向上への具体的な提案がなされているか。

4 点

自由提案による自主

運営業務

・地域活性化や市民の利用性向上等に寄与した具体的な提案がなされて

いるか。

・特産物販売業務及び地域情報発信業務と明確に区分されているか。

4 点

特産物販売手数料及

び施設使用料

・特産物販売手数料が要求水準を満たしており, 適かどうか。

・施設使用料が要求水準を満たしており、 適かどうか。

5 点

出典:指宿市公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 3 者から入札提案書類の提出があった。各者の総合評価結果は次のとおりである。

図表 総合評価結果

秋栄

グループ

大木建設

グループ

サンシャインゲート

グループ

■事業計画提案書に関する定性的審査得点【配点】 33.88 47.46 40.11

・特産物販売業務 4 点 2.00 3.00 2.00

・自由提案による自主運営業務 4 点 1.75 3.25 2.50

・特産物販売手数料及び施設使用料 5 点 3.44 3.13 3.13

■入札価格点 27.51 29.60 30.00

・金額(サービス購入料) 392,554 千円 364,904 千円 359,999 千円

■得点総合計 61.39 77.06 70.11

出典:指宿市公表資料に基づき作成

・事業計画提案書に関する定性的審査得点が一番高かった大木建設グループが落札者となって

いる。

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・落札者の運営業務に対する提案については、物販販売戦略の現状適合性、自主運営業務の明

確さ、関係機関との連携、地元への利益還元等が評価されている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・市は、事業者に対して、事業契約書に基づいて定期モニタリングと随時モニタリングを実施し、要

求水準で規定されているサービスが提供されていることを確認している。

・市が、要求水準等の内容を逸脱しているとは判断した場合には事業者に対して是正を指導する

ことになっている。また、それが是正期間内に改善されない場合には、是正の指導を繰り返すとと

もに、事業者に対して支払うサービス購入料の減額や支払停止を行うことになっている。

・実務的には、四半期毎に、市担当部署の課長、係長、担当者と、公園担当の土木の係長の合計

4 人が現地に出向き、1 時間程度かけて確認と質疑を行っている。過去には、公園の草刈り、トイ

レや側溝の清掃が十分でないことなどと指摘したことがある。その際、減額ポイントは付与したが、

サービス購入料の減額までには至っていない。

・施設利用者の苦情では、GW との施設利用者が増える時期に、トイレが汚いといったものが多い。

・また、市は事業者に対して決算書の市への提出を義務付けている。これによると、事業者の損益

計算書上は赤字ではないようだが、市で経営内容を判断するのは難しいと考えられている。

・市は、モニタリングの一部を、事業者選定時のアドバイザー業務の委託先に委託している。外部

委託先には、年2回、現地を確認してもらっている。以前は年4回であったが、費用削減のため年

2 回となった。費用は格安である(注.具体的な金額については言及なし)。市の担当者は事務系

であるため、施設や維持管理の指摘は有益である。また、視点が公平と評価されている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・平成 20 年(本施設の 4~5 年目)に放映された NHK 大河ドラマの篤姫ブームもあり、来館者数、

特産品売上額、施設貸付料とも基本的には順調に推移している。

・ 近は来館者数等が減少傾向にある。この理由としては、これまでがよすぎたこと、九州新幹線

鹿児島ルート全線開通(平成 23 年)により観光特急(乗車率 80%以上と言われている)の利用者

が増えて、車から JR に人が移行したことなどと想定されている。

図表 運営等の実績

来館者数

(年間)

特産品売上額

(年間)

客単価 施設貸付料

(歳入)

維持管理費

(歳出)

当初予測値 468,000人 156,276,000円 950円 - -

1年目(~H17/9) 631,839人 208,871,140円 996円 13,179,420円 10,876,834円

2年目(~H18/9) 671、658人 246,010,350円 1,097円 13,990,542円 10,764,368円

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3年目(~H19/9) 707、460人 255,051,550円 1,079円 15,510,114円 10,836,761円

4年目(~H20/9) 693、252人 253,913,060円 1,094円 15,559,422円 10,858,229円

5年目(~H21/9) 731、061人 266,200,610円 1,091円 15,550,650円 10,883,690円

6年目(~H22/9) 653,445人 237,650,542円 1,087円 13,928,628円 10,752,382円

7年目(~H23/9) 631,395人 236,006,090円 1,119円 13,845,904円 10,501,991円

8年目(~H24/9) 610,377人 218,584,140円 1,071円 12,974,807円 10,282,308円

9年目(~H25/9) 592,905人 211,067,650円 1,064円 12,598,982円 10,201,926円

10年目(~H26/9) 562,425人 200,019,860円 1,064円 12,046,594円 10,289,798円

11年目(~H27/9) 540,096人 180,733,340円 1,002円 11,082,519円 10,808,796円

注:1 年目は平成 16 年 10 月から平成 17 年 9 月まで。以下同様。

出典:指宿市公表資料に基づき作成

・PFI 事業は平成 31 年 9 月に終了するが、事業自体は指定管理者制度で継続すると考えている。

その際には、現在の事業者である(株)サニーケープが指定管理者となる可能性もあるが、公募す

る可能性もある。現段階では市の方針は決まっていない。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・売上高が事前の想定を超えたことがよかったとされ、これについては、民間事業者による運営努

力が大きいと考えられている。

・本事業の VFM は、特定事業選定では 23.4%であったが、優秀提案者の提案では 36.7%となり、

財政負担の軽減につながっている。

イ 課題

・市の担当者は数年で異動するため、事業者の担当者の方が、本事業に関して長い経験を持って

いることが課題と考えられている。

・事業契約に書かれていないことは、市の一存では決められないことが課題と考えられている。

・事業者からも、市に対して照明を LED 化してほしいなどの要望が提出されるが、費用面で対応が

難しいことが多いことも課題と考えられている。

(3) 事業に対する評価

・庁内では、財政部署からは、施設貸付料が地域交流館の維持管理費を上回っており、成功して

いると評価を受けている。市長からは、もっと公園を活用するようにとの指示を受けている。

・議会では、本事業が好調であるため、成功事例と認識されており、質問も出されていない。

・本施設の近隣の市民も、魚など生鮮品の買い物場所として利用しており、「いいよ」という声が多

い印象が持たれている。「売れているみたいだね」という意見も聞かれいるとされている。

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・地元企業からは、自らに PFI に関するノウハウがないと思っているのか、特に意見は聞かれないと

されている。ただ、今後指定管理者制度のみとなった場合には、何か意見が出てくるかもしれな

いと想定されている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

ア 事業場所の立地条件

・事業場所の立地が重要であると考えられている。

イ 民間事業者のインセンティブの活用

・民間事業者に対するインセンティブを与えるなど、運営中心で考える必要があると考えられてい

る。

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(参考)基礎データ

事業名 指宿地域交流施設整備等事業

事業分野 道の駅

発注者 指宿市

施設概要

施設内容 地域交流施設

(道の駅の物産館)

施設規模 鉄骨 2 階建

床面積 809 ㎡

事業場所 鹿児島県指宿市小牧字磯 52 番地他

寄駅:JR 生見駅(徒歩約 15 分)

事業概要

事業概要 地域交流施設の整備・維持管理・運営のほか、隣接する都市公園

と道の駅の維持管理を行う。

民間収益施設 事業者は、民間交流施設において、特産物販売業務を行うほか、

自主運営業務(飲食、物販)を行う。

事業

スキーム等

事業期間 約 16 年(運営期間は約 15 年)

事業方式 BTO 方式

事業類型

サービス購入型

事業者は特産物販売業務で売上高に応じて手数料収入を行うとと

もに、独立採算で自主運営事業を行う。

事業規模 9,655,693,160 円(サービス購入料、税込)

民間事業者の

業務内容

施設整備業務

維持管理業務

運営業務

VFM

特定事業選定時 23.4%

事業者提案 36.7%

割引率 3.5%

審査結果

選定方式 プロポーザル方式

予定価格 非公表

契約金額 364,904,000 円(サービス購入料、税抜き)

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎(有)ファインサプライ(運営)、指宿湊建設(株)(設計・工事監理・建

設)、(株)南日本総合サービス(維持管理)

(提案時の代表企業は大木建設(株))

協力会社 —

スケジュール

実施方針公表 平成 15 年 1 月 14 日

特定事業選定 平成 15 年 3 月 26 日

入札公告 平成 15 年 5 月 19 日

提案受付 平成 15 年 7 月 29 日

落札者決定 平成 15 年 10 月 1 日

契約締結 平成 15 年 11 月 27 日

供用開始 平成 16 年 10 月 1 日

活用した

制度等

補助金 都市公園等統合補助事業

その他 ―

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事例 11:函南「道の駅・川の駅」PFI 事業

事業分野:道の駅

事例 11:函南「道の駅・川の駅」PFI 事業

事業場所 静岡県田方郡函南町塚本字西穴田、大久保及び王子地内他

公共主体 静岡県函南町 民間主体 いずもんかんなみパートナーズ(株)

施設概要 公共施設

交通安全機能施設、広域情報発信機能施設、地域活性化機能施設、防災機能施設、展望歩道橋

民間施設 付帯施設

事業実施段階 事業者決定後(供用開始未済)

事業手法 公共施設:PFI 手法・BTO 方式 民間施設:町の土地を民間事業者が賃借して整備

公共への還元 土地等の対価(借地料・貸付料) 〔約3.4 億円(約0.2 億円/年)〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 一定の集客が期待できる場所での事業の実施

・事業用地は伊豆半島の玄関口にあたる地域にあり、東名高速道路及び新東名高速道路に接続

する東駿河湾環状道路の IC 近くの立地で、周辺道路の交通量も多い。また、隣接地に既存の

物販施設があり、一定の集客を実現している。そのため、飲食・物販施設として一定の集客が期

待できる場所と考えられた。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、東駿河湾環状道路の起終点となる函南塚本インターチェンジ近くの町有地等におい

て、PFI 手法にて道の駅等を整備し、その中の地域活性化機能の物産販売所、飲食施設を民間

事業者が独立採算で運営するものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 函南町は、民間事業者に対して、道の駅等の施設整備費・維持管理費として約 23.6 億円を支払

う。

➤ 函南町は、民間事業者から、物産販売所、飲食施設、付帯施設(コンビニエンスストア)の施設使

用料として、約 0.2 億円/年、事業期間 15 年の累計で約 3.4 億円を受け取る。

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◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 道の駅整備と民間経営の方針の明確化

・函南町では、東駿河湾環状道路により、町内が分断され、観光客等の素通りが増えることが懸念

されていた。また、居住人口の増加が期待できない中で、交流人口の増加が必要とされ、道の駅

の整備は函南町の発展に必要と位置づけられていた。

・函南町は、有識者の助言を受けて、道の駅の物販施設と飲食施設については民間経営が適切

と判断し、官民連携手法を採用することを比較的早期に明確化した。

➤ 民間事業者の業務実施意欲

・選定された民間事業者は隣接市に本社を有する建設会社で、飲食・物販施設も運営し、地域貢

献意欲も強い。本事業については、地域貢献の観点からも取り組みたいという意向が強かった。

◇ 官民間でのコミュニケーションの特徴・工夫

➤ 官民間の対話の早期実施

・函南町は、基本計画段階と PFI 導入可能性調査後に民間事業者への説明会を実施し、早期に

町の方針を発信した。また、適宜来庁する民間事業者と意見交換を実施した。

➤ 需要調査結果の公表

・函南町は道の駅の需要調査結果を入札公告段階で公表し、民間事業者の検討に役立った。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ PFI に接点のある職員の配置

・函南町では、過去の事業で PFI に関する情報を収集するなど、PFI に接点のあった職員 2 名が

事業担当部署に配属されていた。

➤ 早期段階における有識者等による助言

・函南町は、基本計画及び PFI 導入可能性調査段階で、有識者・実務者等からなる小委員会を

設置し、道の駅への PFI 手法導入や、民間事業者との早期対話実施等の助言を受けた。

➤ 民間事業者における類似事業の経験

・選定された民間事業者は、静岡県東部で類似施設を運営しており、道の駅の運営に有効なノウ

ハウや人脈を有していた。

● 効果

➤ 地元企業による道の駅の事業化

・地元企業による道の駅の事業化により、地元密着型の運営が期待される。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・静岡県函南町(以下「町」という。)は、伊豆半島の玄関口にあたり、観光資源にも恵まれている。

平成 26 年 2 月には東駿河湾環状道路(伊豆縦貫自動車道の一部を構成。以下「環状道路」とい

う。)の起終点となる函南塚本インターチェンジが開通し、町の持つ魅力をこれまで以上に発揮す

ることが期待されている。

・町は中心市街地活性化に力を入れていたが、環状道路の高架橋により町が分断されることにな

った。また、これに伴って一般道を通過する自動車が減少し、観光客等が町を素通りすることが懸

念された。これへの対策を検討する過程で町民ワークショップ等を開催したところ、平成 20 年度

頃に町民から、環状道路を通過する観光客等を町に引き込む方策を検討してはどうかという意見

が出された。

・その後、町民ワークショップを重ねた結果を町長への提言書としてまとめた中に道の駅の設置の

検討が盛り込まれた。それを受けて、町長から道の駅の設置について具体的に検討するようにと

の指示が出され、検討が始まった。

・町西側の主要幹線道路沿い等には大きな交流施設がないこと、大規模災害に備える新たな防災

拠点の整備が課題となっていることから、交通安全、観光振興・地域活性化、防災拠点の各機能

を兼ね備えた道の駅を整備することにした。

・また、町は道の駅計画地に隣接して川の駅を整備することを計画していたことから、道の駅と川の

駅を連結する展望歩道橋の整備・運営も道の駅 PFI 事業の中で実施することにした。これは、道

路管理者や交通管理者との協議の結果、伊豆半島南部からの自動車が国道 136 号バイパスを

右折し道の駅の駐車場に入ることができないことから、川の駅の駐車場も一体的に活用して改善

を図るためである。

・平成 23 年度には、町、国土交通省、静岡県による計画検討作業部会を設立するとともに、函南

町地域活性化施設基本構想を、平成 24 年度には函南町地域活性化基本計画を策定した。

イ 官民連携手法導入の背景

・町長は、国や県との連携を重視しており、道の駅の整備にあたっても、平成 23 年度に町、国土交

通省、静岡県で係長レベル 25 人程度からなる検討作業部会を、作業部会の上には課長レベル

からなる整備推進協議会を設置することになった。これらの部会・協議会で道の駅の基本計画を

検討している際に、国から PFI の検討を薦める意見が出された。

・また、町が基本計画の策定を依頼していたコンサルタント会社の担当者が香取市で道の駅の

PFI 事業(佐原広域交流拠点 PFI 事業)を検討した経験があり、本事業においても PFI の検討

を行った方がよいとの助言を受けた。

・町が、国土交通省総合政策局の平成 24 年度の先導的官民連携支援事業に応募したところ、選

定されて、PFI 導入可能性について検討を行うことになった(「函南町地域活性化・交流・防災拠

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点整備事業調査業務」(以下「PFI 導入可能性調査」という。))。町は、PFI 導入可能性調査と並

行して、企業の社長、他の道の駅の駅長、県の職員、証券会社社員、町長5名からなる小委員会

を組成して事業化に向けての検討を行ったところ、物販といった事業の内容を踏まえると、PFI で

事業化したほうがよいという意見が出された。

・町は、従来方式で道の駅を整備することを想定していたが、これらを踏まえて PFI 手法を採用す

ることに方針を変更し、函南「道の駅・川の駅」整備推進協議会を開催して PFI 導入に向けて調

整する方針を打ち出した。

・平成 27 年 3 月に落札者が決定し、平成 29 年 5 月に施設が開業する予定になっている。

ウ 民間事業者の応募の背景

・代表企業となった民間事業者は、本事業は地元にとって重要な事業であり、地元企業こそが実

施するべきと考えた。当初は、他の民間事業者と連携して工事を受注することを中心に考えてい

たが、地元で代表企業になる民間事業者が見つからないこと、同社が三嶋大社近くで運営してい

る飲食物販施設である「大社の杜」の経験や人脈が活用できそうであることから、自ら代表企業と

なることにした。

・応募グループの組成にあたっては、コンサルタント会社と協議して設計事務所を選定し、維持管

理会社については金融機関から紹介を受けた。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・事業場所は、環状道路の起終点となる函南塚本インターチェンジ近くに位置する。その敷地は道

の駅を整備する予定の町有地約 13,280 ㎡と、展望歩道橋整備のために占用する予定の国有地

約 8,700 ㎡の、合計約 21,980 ㎡である。

図表 位置図

出典:函南町資料

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・道の駅を整備する敷地は、町道 2-2 号線を挟んで北側の敷地(以下「北側敷地」という。)と南側

の敷地(以下「南側敷地」という。)に分かれており、北側敷地には物産販売所や飲食施設等を整

備し、南側敷地にはコミュニティ広場や防災倉庫等を整備する予定になっている。

・選定された民間事業者の提案に基づき、本事業で整備される施設の概要は次のとおりである。

図表 施設概要

施設名 概要(今後詳細設計により変更あり)

北側 駐車場 115台(大11、中99、身障者3、EV2)、バイク20、自転車10、そ

の他従業員駐車場あり

トイレ 男(大3、小5、多機能1)、女(大7、多機能1、ベビーベッド1)、そ

の他施設内トイレあり(営業時間内)

交通安全機能施設 広域情報発信施設

道路・防災デジタル表示機器、エントランス併設観光情報案内

施設(ラジオ放送施設、情報案内板等設置)

物産販売所 地元産品(生鮮・加工品)等販売

飲食施設 施設① ベーカリーカフェ(1F) 施設② レストラン(1F) 施設③ マウントビューレストラン(2F)

交流施設 貸出施設(教室、展示会等で利用可)※営利不可

自由通路 露店等貸出施設(建物軒下スペース)

防災備蓄倉庫・非常用

発電室 災害時対応施設(食糧備蓄、72時間対応非常用発電設備)

イベント広場 建物中央広場(SPCイベント、貸出施設)

付帯事業施設 コンビニエンスストア

共用部・その他 階段、エレベーター等

南側 防災倉庫・ステージ・ト

イレ 災害時対応施設(平常時イベント等で利用可)

コミュニティ広場 イベント等貸出施設、臨時駐車場、防災拠点

展望歩道橋 道の駅と川の駅を結ぶ横断歩道橋(自転車通行可) 出典:函南町公表資料に基づき作成

図表 外観

出典:函南町公表資料

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イ 事業方式

・事業方式は、PFI法に基づく、BTO(Build Transfer Operate)方式である。町が、PFI 導入可

能性調査において、コンサルタント会社の意見を踏まえて決定した。

・町としても、税金等で整備する施設であるため、BTO 方式のように、施設所有権が町となる方式

が取組やすかった。なお、有識者等からなる小委員会においては、事業方式については特に意

見は出されなかった。

・整備する施設のうち地域活性化機能の物産販売所と飲食施設については、町が躯体部分まで

の施設整備費を負担するが、町と事業者との間で定期建物賃貸借契約を締結した上で、事業者

が物産販売所等の設備(空調設備を含む)、内装、什器・備品の費用を負担し、独立採算で運営

することになっている。

・また、民間事業者は提案により付帯事業が実施できることになっているが、その施設は事業用定

期借地権を活用して施設整備が行われることになっている。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 27 年 11 月 17 日の事業契約締結日から、平成 29 年 5 月 1 日の施設開業を

経て、平成 44 年 4 月 30 日までの約 17 年間である。

・維持管理運営期間は、平成 29 年 5 月 1 日の施設開業日から、平成 44 年 4 月 30 日までの約

15 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、町が整備する地域活性化機能施設の中の物

産販売所と飲食施設の施設使用料である。町と事業者の間で定期建物賃貸借契約を締結し、事

業者が町に対して賃料を支払う。また、事業者が付帯事業を実施する場合は、町と事業者の間で

定期借地権設定契約を締結し、事業者が町に対して地代を支払う。

・具体的には次のようになっている。

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図表 事業スキーム図

出典:函南町公表資料、函南町及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属する。

・町に還元された資金の使途は決まっていないが、維持管理運営期間終了後に町が実施する大

規模修繕のために、還元資金の一部を積み立てる案も検討されている。

函南町

一般会計

町有地等

公共施設

事業者

飲食施設 付帯施設 交流施設等物産販売所

土地等の対価 (占用料・使用料) 指定管理事業:

【0 億円】 (想定)

土地等の対価 (借家料) 飲食施設:

【約 1.4 億円】 (約 920万円/年)

(想定)

民間施設

地域活性化施設

独立採算型

サービス対価 約 23 億円

(税抜) 【施設:約 14 億円】 【運営:約 9 億円】

施設整備費 (本体)

【約 14 億円】

広域情報発信 機能施設

交通安全 機能施設

防災機能施設

土地等の対価 (借地料) 付帯施設:

【約 0.09 億円】 (約 60 万円/年)

(想定)

施設整備段階

運営段階

施設整備費 (付帯)

【約 0.4 億円】

管理・運営費 (本体)

【約 9 億円】

販売手数料 (生鮮品:売上高

の 18%以内)

借家料 【約 1.9 億円】

土地等の対価 (借家料)

物産販売所: 【約 1.9 億円】 (約 1,200 万円/年)

(想定)

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2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、建設経済部都市計画課が担当している。

・基本計画策定段階までは係長 1 名(事務職)が兼務で対応し、課長と課長補佐が必要に応じて

支援していた。

・平成 25 年度の事業者公募段階以降は、ほぼ専任の主査(事務職)が担当している。

・町では過去に美術館の整備を行う際に PFI の情報収集やセミナー参加を行ったが、本事業を担

当している課長と課長補佐がそれらを担当していた。また、町長が職員研修に力を入れているこ

とから、PFI の勉強会等を行っていた。こういったことで、PFI に関して一定の知見を有していたこ

とも有効であった。

・町は、道の駅の基本構想策定業務、基本計画策定業務、PFI導入可能性調査、事業者選定アド

バイザー業務は、国際航業(株)に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・事業用地と、事業用地上に整備される地域活性化機能施設とも、行政財産とする予定である。

・また、町は、事業者から、独立採算で運営する施設以外の公共施設から使用料を徴収する提案

がある場合は、事業者を指定管理者に指定し、指定管理者が使用料を収入として収受できる利

用料金制度を導入することにしている。

イ 規制の変更等

・事業用地のこれまでの用途は農地で、水田と畑(ハウス栽培)として利用されていた。

・事業用地は市街化調整区域で、農業振興地域内農用地区域内農地であり、町は道の駅整備に

あたっては農用地区域に含まれる農地の除外手続をとった。これについては、民間事業者では

対応できなかったか、対応できたとしても 2~3 年を要し、施設のオープンに間に合わなかったと

想定されている。

・本事業の実施にあたり、都市計画上の緩和措置は実施されていない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

(ア) PFI導入可能性調査の実施

・平成24年度に、基本計画策定と並行して実施されたPFI導入可能性調査における主な項目は

次のとおりである。

①官民連携事業検討のための条件設定

②公共施設等運営権事業・付帯事業事例調査

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③民間独立採算事業市場調査

④民間独立採算事業に関する検討

⑤小規模事業における官民連携手法導入の検討

⑥災害対策併用施設運用リスクへの対応検討

⑦業務要求水準書(素案)、事業契約書(素案)の検討

⑧官民連携事業実施の課題と方向性

・このうち、「④民間独立採算事業に関する検討」では、「平成23年度地域活性化施設条件調査

業務」の結果が引用され、物販施設については非常に好条件の立地であること、飲食施設につ

いては、ロードサイド型で地元農産物を活用した地産地消型のビュッフェレストランを整備し、テナ

ント形式で定期的に業者を入れ替えていけば一定の可能性があると整理されている。

・また、PFI手法導入した場合のVFMは10.12%と想定されている。

(イ) 小委員会からの助言

・町は、PFI導入可能性調査と並行して、企業の社長、他の道の駅の駅長、証券会社社員、県の

職員、町長の 5 名からなる小委員会を組成して検討を行った。そこでは、物販といった事業の内

容を踏まえると、PFI で事業化したほうがよいという意見が出された。

(ウ) 早期の説明会開催

・PFI 導入可能性調査の中では、民間事業者アンケートとヒアリングを実施されており、情報の早期

開示を望む意見が多かった。これを踏まえて、町は平成 25 年度に民間事業者への説明会を 2 回

開催することになった。

・町が早期に説明会を開催したのは、地元企業を含めた早期のグループ組成と、要求水準に対す

る意見聴取が狙いであった。説明の質疑応答では、要求水準に対する質問や意見は出されなか

ったが、その後に数社が来庁し、町と意見交換等を行った。

・町では、民間事業者に対する説明会や対話は有効であるが、公共で事業の諸条件を決めてしま

ってから実施しても効果は薄いため、公共が事業条件を決めすぎる前に実施するほうがよいと考

えられている。

・民間事業者からも、実施方針公表前に説明会が行われたことは、検討の時間が確保できて非常

によかったとの意見が聞かれた。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・道の駅の事業用地の候補は 3 か所あったが、川の駅との連携も図ることができることから、現在の

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場所が選定されている。

・事業用地は、環状道路が高架から平面に変わったところに位置し、周辺道路の交通量も一定量

の水準となっている(平成 22 年度一般交通量調査で、一般国道 136 号の起点:伊豆の国市・函

南町境、終点:御園伊豆仁田停車場線で、昼間 12 時間自動車類交通量が 19,495 台)。伊豆半

島の玄関口に位置し、富士山も眺望することができ、町では道の駅の立地場所としてポテンシャ

ルがあると考えられている。

・しかし、道路管理者や交通管理者との協議の結果、伊豆半島南部からの自動車が国道 136 号バ

イパスを右折し道の駅の駐車場に入ることができない。そのため、それらの自動車の進行方向左

側に位置する川の駅の駐車場を利用してもらい、高架歩道橋で道の駅に来てもらうことが想定さ

れている。

・施設整備上の課題としては軟弱地盤であることで、これに関する民間事業者からの質問も多かっ

た。軟弱地盤によるコストアップを理由として 終的には応募しなかった民間事業者も存在すると

言われている。

イ 施設要件及び業務内容

・業務要求水準では、交通安全機能、広域情報発信機能、地域活性化機能、防災機能の整備が

求められている。このうち、北側敷地に整備する地域活性化機能の物産販売所の面積は 256 ㎡

程度、飲食施設は 336 ㎡程度とされ、構造は木造、階数は 1~2 階で民間事業者の提案とされて

いる。

・各居室の面積要件は次のとおりである。

図表 各居室の面積要件

機能 施設名 面積要件 延べ床面積

交通安全機

北側敷地内の建築

施設

トイレ 72 ㎡以上 1,475 ㎡以上

交通安全情報施設 20 ㎡程度

広域情報発

信機能

観光情報案内施設 30 ㎡程度

地域活性化

機能

物産販売所 256 ㎡程度

飲食施設 336 ㎡程度

交流施設 80 ㎡程度

事務室・共用部 354 ㎡程度

施設内トイレ 35 ㎡程度

自由通路(一部に屋根付き) 243 ㎡程度

防災機能 非常用発電室 30 ㎡程度

防災備蓄倉庫 19 ㎡以上

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南側敷地内の建築

施設

コミュニティ広場/公衆トイレ 50 ㎡程度 150 ㎡以上

コミュニティ広場/防災倉庫 100 ㎡以上

注:延べ床面積は、プラスマイナス 10%以内。

「程度」は面積要件の示す面積のプラスマイナス 10%以内。

ただし、物産販売所及び飲食施設の面積はプラスマイナス 30%以内。

「以上」は面積要件に示す値のプラス 10%。 出典:函南町公表資料に基づき作成

・業務要求水準書において、物産販売所と飲食施設については、次のような要求事項も示されて

いる。

図表 物産販売所と飲食施設の要求事項

施設名 要求事項

物産販売所 ・主として函南町及び静岡東部・伊豆地域で生産された農林水産物(生鮮品、加工品)、特産

品等を販売する施設。一部に、加工品や日用品を販売する施設を併設する。

・本施設は事業者の独立採算事業により運営される施設として、町は躯体部分までの施設整

備にかかる費用をPFI事業費として支払い、販売施設の設備(空調設備を含む)、内装、什

器・備品は事業者の独立採算事業で整備する。

・農林水産物販売スペース、特産品等を販売するスペースの維持管理運営にあたり必要とな

るバックヤード、倉庫等は事業者の提案により配置する。

■(仮称)出荷者協議会の設立支援等

・町内特産品の出荷を促すため、町は「(仮称)出荷者協議会」を設立する準備を行い、事業

者は町と協力して「(仮称)出荷者協議会」を設立し、会員と連携を図り運営業務を行う。

■販売方法

・「(仮称)出荷者協議会」から調達された町内特産品の販売スペースは、販売スペース床面

積全体の概ね 3/10 以上を、また「(仮称)出荷者協議会」から調達された町内特産品及び

静岡県東部・伊豆地域の地域特産品は販売スペース床面積全体の 7/10 以上を目標とす

る。

・事業者は、町内特産品及び地域特産品以外の全国(海外を含む)の特産品等を自らが仕

入れ、販売することができるものとするが、それについては、販売スペース床面積の 3/10 を

上回らないものとする。

・天候不順などの要因により町内特産品及び地域特産品を合わせた販売スペース床面積比

率の 7/10 以上を確保することが困難な場合は、上記販売スペース比率によらないことがで

きるものとする。

飲食施設 ・施設利用者に食事を提供する飲食施設を整備する

・メニュー構成、施設形態は事業者の提案による

・本施設は事業者の独立採算事業により運営される施設として、町は躯体部分までの施設整

備にかかる費用をPFI事業費として支払い、販売施設の設備(空調設備を含む)、内装、什

器・備品は事業者の独立採算事業で整備するものである

・大型観光バス2台分の利用者が同時に利用可能な程度の席数とすることが望ましい

・厨房施設、サービスルーム、専用のトイレ等は事業者の提案により配置する

出典:函南町公表資料に基づき作成

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・地域活性化機能施設内の飲食施設の運営業務については、事業者の独立採算事業として実施

すること以外に、物産販売所との連携が求められている。

・基本計画段階では、飲食施設は軽食とレストランに分けて設置することが想定されていたが、小

委員会やコンサルタントから提案の自由度を増す方がいいとの意見が出たことから、それらを踏ま

えて、平成 25 年度以降は一体化されている。

・町では、川の駅にも飲食施設等を設置することが検討されている。しかし、道の駅との競合を懸念

する質問もあったため、両施設の相乗効果が得られるように、選定された民間事業者と協議する

と回答している。

・なお、町および事業者が業務要求水準書の内容の変更が必要と考える場合には、相手方に通

知の上、協議を行うことができる。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 27 年 11 月 17 日の事業契約締結から平成 44 年 4 月 30 日までとされ、約

17 年間である。維持管理・運営期間は、平成 29 年 5 月 1 日の施設開業から平成 44 年 4 月 30

日までの約 15 年間となっている。

・町では、維持管理運営期間中における大規模修繕を回避する観点から、維持管理・運営期間は

15 年としている。大規模修繕については、PFI 事業終了後に町が実施することが予定されてい

る。

・議会では、事業期間に関する意見は特に示されていない。

・民間事業者からも、設備投資内容に見合った適切な期間と考えられている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 地代

・町は事業者から付帯施設の地代を受け取る。この地代は事業者と町の協議により定められること

になっている。

・事業者は、500 円/月・坪程度で借地する予定である。

(イ) 施設使用料

・町は、事業者から地域活性化機能施設内の物産販売所と飲食施設の施設使用料を受け取る。

また、付帯事業の施設使用料は、選定された民間事業者と町との協議により定めることになって

いる。

・物産販売所の施設使用料は、総売上 2 億円以下は固定制、総売上 2 億円超は(固定+変動)制

となっている。

・飲食施設の施設使用料は、民間事業者の提案による客席、レジ、厨房、食材ストック倉庫等、関

連施設を含めた施設面積あたりの固定制で、原則 2,000 円/㎡・月となっている。ただし、町内の

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民間事業者を入店させた場合には、当該部分は 1,500 円/㎡・月となっている。

・道の駅の供用開始から川の駅の供用開始までの間は、飲食施設の施設使用料は 2 割減免され

ることになっている。

・業務要求水準において、販売する物産の種類等と、事業者が得る販売手数料、町の収入となる

施設使用料は次のように示されている。

図表 施設使用料等の内容

品目区分 事業者が得る

販売手数料

施設使用料(町の収入)

総売上 2

億円以下

(固定制)

総売上 2 億円超

固定部分 変動部分

(総売上 2 億円超過分)

a.「(仮称)出

荷者協議会」

会員が持ち込

む生鮮品

売上の 18%

以内 ※ 保 冷 庫 使

用の場合は

2 % 以 内 で

の上乗せ可

売 上 の

3% (固定)

売上の 3% (固定)

・総売上2億円以上3億円未満=売上の 2.5% ・総売上3億円以上4億円未満=売上の 2.0% ・総売上4億円以上5億円未満=売上の 1.5% ・総売上5億円以上6億円未満=売上の 1.0% ・総売上6億円以上=売上の 0.5%

b.「(仮称)出

荷者協議会」

会員が持ち込

む加工品、そ

の他特産品

売上の 23%

以内 売 上 の

5% (固定)

売上の 5% (固定)

・総売上2億円以上3億円未満=売上の 4.5% ・総売上3億円以上4億円未満=売上の 4.0% ・総売上4億円以上5億円未満=売上の 3.5% ・総売上5億円以上6億円未満=売上の 3.0% ・総売上6億円以上=売上の 2.5%

c.事業者の仕

入れ品のうち

静岡県東部・

伊 豆 地 域 の生鮮品

― 売 上 の

5% (固定)

売上の 5% (固定)

・総売上2億円以上3億円未満=売上の 4.5% ・総売上3億円以上4億円未満=売上の 4.0% ・総売上4億円以上5億円未満=売上の 3.5% ・総売上5億円以上6億円未満=売上の 3.0% ・総売上6億円以上=売上の 2.5%

d.事業者の仕

入れ品のうち

静岡県東部・

伊 豆 地 域 の

加 工 品 及 び

特産品

― 売 上 の

7% (固定)

売上の 7% (固定)

・総売上2億円以上3億円未満=売上の 6.5% ・総売上3億円以上4億円未満=売上の 6.0% ・総売上4億円以上5億円未満=売上の 5.5% ・総売上5億円以上6億円未満=売上の 5.0% ・総売上6億円以上=売上の 4.5%

e . 上 記 a ~ d

以 外 の 事 業

者 の 仕 入 れ

― 売 上 の

10% (固定)

売 上 の

10% (固定)

・総売上2億円以上3億円未満=売上の 9.5% ・総売上3億円以上4億円未満=売上の 9.0% ・総売上4億円以上5億円未満=売上の 8.5% ・総売上5億円以上6億円未満=売上の 8.0% ・総売上6億円以上=売上の 7.5%

出典:函南町公表資料に基づき作成

・町が上記の案を作成するにあたって留意したのは、町民が有利になる仕組みと、民間事業者の

拡販意欲を増す仕組みである。前者については販売手数料や施設使用料の低減、後者につい

ては一定の売上高を超えた場合の施設使用料の引き下げなどで実現されている。なお、表中の、

売上高と総売上高は同じである。

・インターネットでの売上に関する施設使用料については、上表の「総売上に合算し合計の料率に

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準拠し、町・事業者の協議により決定する」とされているが、具体的にはこれから町と事業者の間

で協議の上で決定することになっている。

・本事業に応募した 2 グループとも、町が示した販売手数料等と同率の提案であった。ただ、農協

等と比べると、事業者が得る販売手数料率は高めの水準にあると言われている。そのため、今後

は、出荷者協議会の設立(平成 28 年 5 月予定)に合わせて、地元の相場を踏まえて見直される

ことになると想定されている。

(ウ) 占用料

・町は、事業者から、独立採算で運営する施設以外の公共施設から使用料を徴収する提案がある

場合は、事業者を指定管理者に指定し、指定管理者が使用料を収入として収受できる利用料金

制度を導入することにしている。また、事業者の提案により運営期間中にイベント等の企画を実施

する場合の使用料については、町と事業者との協議により決定することになっている。

・選定された民間事業者からも指定管理者制度を活用する提案も出されているが、その収入は

419 千円/年と、町から見ると低い水準に設定されている。また、事業者側から提案されている計

画では、維持管理運営期間中に道の駅の来場者数は増加することになっているが、この使用料

収入は増加していない。

・事業者がどのようなイベントを開催するかについては、今後町と事業者の間で協議することになっ

ている。

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件として、施設整備業務、維持管理業務、運営業務及び運営マネジメント

業務の全部または一部を行う能力を有した単独企業若しくは、これらの能力を有する者を含むグ

ループとして応募することが挙げられている。

・運営業務を行う者については、複数の企業で実施する場合、少なくとも 1 社は一定の経験、実績

等を有することが求められている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 26 年 8 月 8 日 実施方針に関する質問等の受付 平成 26 年 8 月 25 日 実施方針に関する質問等の回答 平成 26 年 9 月 16 日 特定事業の選定 平成 26 年 11 月 10 日 入札公告 平成 26 年 11 月 10 日 入札説明書等に関する質問受付 (入札参加資格に関するもの)

平成 26 年 11 月 10 日~ 平成 26 年 11 月 21 日

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入札説明書等に関する質問受付 (事業提案書作成に関するもの)

平成 26 年 11 月 10 日~ 平成 26 年 12 月 5 日

付帯事業(付帯施設)実施に関わる個別協議 平成 26 年 11 月 10 日 ~平成 27 年 2 月 6 日

入札説明書等(入札参加資格に関するもの)に関する質

問・回答の公表 平成 26 年 12 月 5 日

第一次(資格)審査書類(事業計画概要を含む)受付 平成 26 年 12 月 17 日 第一次(資格)審査結果の通知 平成 26 年 12 月 26 日 入札説明書等(事業提案書作成に関するもの)に関する

質問・回答の公表 平成 27 年 1 月 16 日

事業計画概要に関する個別対話(書面ベース) 平成 27 年 1 月中旬 第二次(提案書)審査書類受付 平成 27 年 2 月 20 日 事業提案書に関するヒアリングの実施、 優秀提案の選

定、入札価格の確認(開札) 平成 27 年 3 月 23 日

落札者の決定 平成 27 年 3 月 24 日 基本協定の締結 平成 27 年 5 月 19 日 仮契約の締結 平成 27 年 11 月 11 日 事業契約の締結 平成 27 年 11 月 17 日

(当初は平成 27 年 6 月を予定) 引渡し期限 平成 29 年 3 月 31 日

(当初は平成 28 年 12 月 26 日を予

定) 開業 平成 29 年 5 月 1 日

(当初は平成 29 年 2 月 1 日を予定) 維持管理・運営・運営マネジメント 開業日~平成 44 年 4 月 30 日

(当初は開業日~平成 44 年 1 月 31日を予定)

・事業者選定アドバイザー段階では、町は入札説明書等に対する質問回答を1回実施しているほ

か、付帯事業(付帯施設)実施に関する個別協議と、事業計画概要に関する個別対話を実施し

ている。町は、付帯事業実施に関する個別協議は 2 グループと面談ベースで、事業計画概要に

関する個別対話は 2 グループと書面ベースで行っている。後者は、民間事業者における要求水

準の理解度を確認することを目的に実施し、民間事業者からの質問に答えることが中心だった。

・事業契約の締結と引渡し期限が当初予定よりも遅延したのは、代表企業が起こした労災死亡事

故が原因である。町は、平成 27 年 9 月議会において、それに関して代表企業が起訴された場合

には事業契約を締結しないと回答したが、同社は起訴されなかった。そのため、不起訴決定後、

平成 27 年 11 月に開催された臨時議会で議決を受け、約 6 か月遅れで事業契約の締結に至っ

た。

・町が占有する予定の河川防災ステーションについては、国の設計が終了している。そのため、町

は平成 28 年度以降に、建物の設計の委託を行うことを予定している。

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キ 官民のリスク分担

(ア) 販売手数料等が変動した場合

・物産販売所と飲食施設は、事業者が独立採算事業により運営される施設として、町は躯体部分

までの施設整備にかかる費用を PFI 事業費として支払い、販売施設の設備(空調設備を含む)、

内装、什器・備品は事業者が独立採算事業として整備する。また、物産販売所と飲食施設におけ

る運営・運営マネジメント費も PFI 事業費の対象となっておらず、事業者が販売手数料や売上等

で調達する必要がある。

・上記より、販売手数料等の変動リスクは基本的には事業者が負担しているが、事業者の設備投

資額は限定的であること、物産販売所と飲食施設以外の地域活性化機能施設の運営・運営マネ

ジメント費は PFI 事業費の対象となっていることから、事業者の負担するリスクは比較的限定され

ていると考えられている。

・販売手数料等の変動は、施設使用料の変動を通じて、町にも影響を与える。

・入札公告時に公表された業務要求水準書の添付資料として、下表のような主要施設の利用者数

の想定(参考値)が示されているが、これを下回った場合の官民間の取決めは特に行われていな

い。

図表 利用者数等想定

①立ち寄り台数の設定

「道の駅」のみの供用時は、下り線からの利用者は迂回をして立ち寄ることになるため、立ち寄り台

数の低下を見込み(下り線の立ち寄り率を「道の駅」「川の駅」供用時の 70%と仮定)下記のように想定

している。

国道 136 号 BP 計画交通量

立ち寄り台数 「道の駅」「川の駅」供用 「道の駅」のみ供用 小型 平日 13,222 台/12h 798 台 660 台 休日 13,134 台/12h 1,057 台 862 台 大型 休日 1,393 台/12h 54 台 44 台 平日 550 台/12h 30 台 25 台

②本施設の年間利用者数

中部・関東・近畿3地方整備局管内の直轄国道沿い「道の駅」39 駅の実績値を参考に、本施設の

年間利用者数を下記のように想定している。

「道の駅」「川の駅」供用 「道の駅」のみ供用

年間利用者数 平日 約 42.5 万人/年 約 35.1 万人/年 休日 約 26.7 万人/年 約 21.8 万人/年 全体年間利用者数 約 69.1 万人/年 約 56.9 万人/年

③地域振興施設物販施設利用者数

中部・関東・近畿3地方整備局管内の直轄国道沿い「道の駅」26 駅の実績値を参考に、物販施設

レジ通過者数を下記のように想定している。

「道の駅」「川の駅」供用 「道の駅」のみ供用

レジ通過者数 平日 約 12.3 万人/年 約 10.2 万人/年

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休日 約 12.2 万人/年 約 10.0 万人/年 物販施設全体レジ通過者数 約 24.5 万人/年 約 20.1 万人/年

④飲食施設利用者数

中部・関東・近畿3地方整備局管内の直轄国道沿い「道の駅」26 駅の実績値を参考に飲食施設利

用者数を下記のように想定している。

「道の駅」「川の駅」供用 「道の駅」のみ供用

レジ通過者数 平日 約 6.1 万人/年 約 5.0 万人/年 休日 約 5.8 万人/年 約 4.7 万人/年 物販施設全体レジ通過者数 約 11.9 万人/年 約 9.7 万人/年

出典:函南町公表資料に基づき作成

(イ) 施設使用料を変更する場合

・事業者が物産販売所や飲食施設を運営する際の施設使用料については、供用開始後 3 年が経

過した後、施設使用料が、市場環境の変化(不可抗力又は法令変更による場合も含む。)、その

他諸般の経済情勢の変動により、又は近隣の類似施設の賃料に比較して著しく不相当となったと

きは、甲、乙は 3 年に 1 度、将来に向かってその増減を請求することができる。

(ウ) 不可抗力が発生した場合

・地震等の災害発生時には、道の駅の南側敷地については町が防災拠点として利用する場合が

あり、北側敷地についても公共施設として必要な災害対応を行うことが求められている。そのため、

事業者には、災害発生時には、一定期間にわたり道の駅の全施設又は一部施設が利用不能に

なることは所与のものとして業務を行うことが求められている。

・災害発生日から 4 日目以降の一時避難受入れによる施設破損の修復や、清掃、光熱水費等の

維持管理費用は町が負担することになっている。また、災害発生日から 4 日目以降の営業損失

額は町が補償するが、補償の内容については、町と事業者が協議の上で定めることになってい

る。

(エ) 事業収支が悪化した場合

・町は、事業者が事業契約の解除を申し出たとき、事業者が本事業の実施において業務要求水準

を達成できず、かつ改善措置を講じても業務要求水準を達成することができないときは、事業契

約の全部又は一部を解除することができる。その場合、事業者は、完成検査合格通知書の交付

後においては、契約解除時点での支払い済みの分を除く維持管理・運営等に係るサービス対価

に相当する額の 10%に相当する額を違約金として町に支払う。

・このリスクに対して、町は、実務的にはしっかりとしたモニタリングを実施することが重要と考えてい

るほか、直接協定を締結する予定の融資金融機関(静岡銀行等)に事業者の財務面での変化の

把握を期待している。

・民間事業者からはバックアップ企業の提案も行われている。

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(オ) 契約上の地位の譲渡等

・事業者は、あらかじめ町の承諾を得た場合を除き、事業契約により生ずる権利又は義務を第三者

に譲渡等してはならないとされている。

ク 事業終了時の取扱い

・事業終了時には、事業者は、設備機器、什器・備品等の改修や更新の必要性を検討し、業務要

求水準を達成した状態で引き継ぎを行うことになっている。

・独立採算部分の什器備品については、事業者が撤去することが原則となっているが、町と事業者

の間の協議により、町が必要と認めた場合は買い取ることもできるとされている。

・付帯施設の扱いについては、町および事業者で協議の上、決定することになっている。協議が整

わない場合等は、事業者は付帯施設内の動産類(「付帯施設」を構成する施設・設備を除く)を撤

去した上で、同施設を町に明け渡すことになっている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・本事業の事業者選定基準では、評価点(総合点)は、提案内容評価(PFI 事業・付帯事業)の得

点(満点 70 点)と価格評価の得点(満点 30 点)の合計となっている。

図表 評価算式と評価項目

分類 項目 審査項目 配点

PFI 事業 事業方針 公共性 14 点 事業実施体制 リスク管理 地域活性化への配慮 資金調達計画 事業収支計画 施設整備業務 施設整備計画 20 点 工程計画 施設のデザイン 施設の使いやすさ 安全性の確保 LCC、環境負荷の削減 情報提供に対する工夫 防災拠点としての配慮 維持管理業務 維持管理計画 8 点 事業実施体制 防災拠点としての配慮 運営業務・運営マネジメント業務 運営・運営マネジメント計画 22 点 事業実施体制 地域連携 防災拠点としての配慮 情報提供の工夫 独立採算事業の工夫 付帯事業 事業計画 財務計画 6 点

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(付帯施設) 施設整備業務 施設整備計画 運営業務 運営計画

価格評価点 30 点 合計 100 点

出典:函南町公表資料に基づき作成

・上記のうち、運営業務・運営マネジメント業務の「独立採算事業の工夫」では、評価の視点として、

次のような項目が挙げられている。

独立採算事業の工夫 ・物産販売所について、持続的な運営・経営を実施し、かつ出荷者の利益となる提案

がされているか。

・地元産品の販売を重視した具体的な提案となっているか。

・近隣販売施設、類似施設等との差別化が図れる具体的な提案となっているか。

・年間、時間帯を通じて安定した物品の販売が可能な提案となっているか。

・飲食施設は、具体的に提案されているか。

・審査基準の作成にあたり、町が留意したのは、付帯施設の提案に重きを置くことと、運営に重きを

置くこととされている。

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 2 者から入札提案書類の提出があった。各者の総合評価結果は次のとおりである。

図表 総合評価結果

加和太建設

グループ

シダックス

大新東ヒューマンサービス

グループ

■事業提案書の評価点【配点:70 点】 25.26 24.00

事業方針 14 点 5.313 5.813

施設整備業務 20 点 10.875 5.500

維持管理業務 8 点 3.125 1.625

運営業務・運営マネジメント業務 22 点 6.250 10.688

付帯事業(付帯施設) 6 点 0.000 0.375

■入札価格の得点【配点:30 点】 29.73 30.00

・金額(サービス購入料) 2,358,299,026 円 2,337,192,374 円

■得点総合計 55.29 54.00

出典:函南町公表資料に基づき作成

・施設整備業務の得点が高かった加和太建設グループが落札者となっている。

・選定された民間事業者の提案は、本事業の目的や主旨を十分に理解した上で提案された施設

整備業務が特に優れているとされている。選定された民間事業者が提案した施設はロの字型で、

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付帯施設も公共施設と一体(合築)のようになっているが合築ではない。行政ではそのような形の

施設を整備する発想にはならなかったと考えられている。

・運営業務・運営マネジメント業務では、観光バスの積極的な誘客、地域の特色を活かした飲食・

物販等の提供、町内主要施設への観光客の誘導などが重要な評価項目として議論され、落札者

についても、その実現に向けて取り組むことが期待されている。

・町としては、函南ブランドなどの商品開発が重要と考えていたため、本事業の付帯施設としては、

新商品開発施設、加工販売施設、加工体験施設等の提案があることを期待していた。実際に民

間事業者から提案のあったコンビニエンストアは想定していなかった。

・両グループの提案は非常に僅差の評価だった。なお、評価点が全体的に低いのは、要求水準

書記載の事項を満たすという提案では加点なしとし、それを上回る提案を行った場合に加点する

という採点方針にしたためとされている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・町は事業者に対して、定期モニタリングと随時モニタリングを実施し、業務要求水準で規定されて

いるサービスが提供されていることを確認する。

・町は、書面による確認だけでなく、事業用地は町役場から近いため、現地の状況、苦情の有無等

を自ら確認したいと考えている。

・町は、モニタリングの一部については、コンサルタントに業務委託することも検討している。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・現在は設計協議中であり、順調に行けば、平成 28 年 1 月末に基本設計終了、5 月に実施設計

終了、夏に建築確認申請を行うことが想定されている。

・施設の設計に反映する必要があるため、早期にテナントを決定する必要があるとされている。そ

のため、事業者による飲食施設へ入居するテナントの公募説明会が開催される予定である。町が

町内事業者の優先的活用を求めているため、公募形式で選定が行われることになった。町は、民

間事業者が応募段階で想定していたテナント候補が存在するとは想定されているものの、競合し

た場合には地元の民間事業者を優先してもらうことを期待している。

・また、町としても道の駅の PR に努めることを想定している。例えば、町が年に 1 回程度、何周年

記念というキャンペーンの開催、マスコットやキャラクターへの支援、町の費用負担による追加の

情報発信設備の設置、屋外への町内観光マップ設置等を検討している。

イ 事業収支状況

・事業者の計画においては、事業期間中に亘って来場者数は増加することが見込まれているが、

売上高は一定の金額で提案されている。

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・一般に、不動産開発事業等では投資利回りとして 10%程度が必要とされる場合があるが、本事

業では、そのような利回りは見込まれていない。基本的には事業期間中には配当は行わず、事業

期間終了時に残余財産があれば配当することが想定されている。選定された民間事業者では、

地元貢献の事業と位置づけられ、将来的に自社のブランド構築や人材採用等で効果が表れれ

ばよいと考えられている。

・事業者の資金調達は、プロジェクトファイナンス方式で、地元金融機関と民間資金等活用事業推

進機構から調達する予定とされている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・落札率は小さいが、施設整備費も削減できたと考えられている。

イ 課題

・町として初めての PFI 事業であり、担当者が勉強しながら実施することになり、負担が重いと考え

られている。

・従来方式に比べて、発注までの期間が長いと考えられている。

・債務負担額の取得と、入札の時期が一致しておらず、入札価格が 新の情報に基づくものでは

なかったと考えられている。

・事業者が決定するまでの時間が長いと考えられている。

(3) 事業に対する評価

・PFI 手法活用により財政支出の平準化が図られるため、財政部署の評価は高かったとされてい

る。

・議会は、本契約の議決では全会一致ではなかったが、賛成しなかった議員は少数である。

・地元町民は、道の駅を設置することが必要との意見が多く、用地買収にも協力的だったとされて

いる。環状道路の整備により町の状況が一変したことから、道の駅の設置に反対という大きな声は

なかったとされている。

・地元の商工会の道の駅に対する期待は大きいとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

ア ターゲット層の選定

・道の駅の整備にあたっては、ターゲット層の選定と、それを踏まえた機能設定が重要であると考え

られている。

イ 建物面積の自由度

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・官民間の対話は有効であるが、準備期間が必要と考えられている。

・建物面積の設定について民間事業者の裁量の範囲を広げると、より自由な提案が可能となり、結

果として町への還元額も増加する可能性があると考えられている。

ウ 官民対話の促進

・公共が PFI 手法の導入を予定しているのであれば、施設整備方針だけでなく、PFI 手法に関す

る説明も早期に実施する方が、民間事業者の中での検討が進むと考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 函南「道の駅・川の駅」PFI 事業

事業分野 道の駅

発注者 静岡県田方郡函南町

施設概要

施設内容

交通安全機能施設、広域情報発信機能施設、地域活性化機能施

設、防災機能施設、展望歩道橋

施設規模

木造(一部鉄骨造)

北側敷地:地上 2 階建、延床面積 1,734 ㎡

南側敷地:地上 1 階建、延床面積 152 ㎡

事業場所 静岡県田方郡函南町塚本字西穴田、大久保及び王子地内

寄駅:伊豆箱根鉄道駿豆線伊豆仁田駅(徒歩 30 分)

事業概要

事業概要 道の駅の整備・維持管理・運営を行う。

民間収益施設

事業者は、地域活性化機能施設のうち、物産販売所と飲食施設に

ついては、運営を独立採算で行う。付帯施設の整備・維持管理・運

営を行う。

事業

スキーム等

事業期間 約 17 年(維持管理・運営期間は 15 年)

事業方式 BTO 方式

事業類型

基本的にはサービス購入型。

ただし、事業者は、設備・内装等の一定の設備投資を行った上で、

物産販売所と飲食施設の運営を独立採算で行う。

事業規模 2,358,299,026 円(サービス購入料の落札価格、税込)

民間事業者の

業務内容

施設整備業務

維持管理業務

運営・運営マネジメント業務

VFM

特定事業選定時 約 7.6%

事業者提案 約 8.9%

割引率 4.0%

審査結果

選定方式 総合評価一般競争入札

予定価格 2,374,560,000 円(税込み)

契約金額 2,358,299,026 円(サービス購入料、税抜き)

応募グループ 2 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎加和太建設(株)(建設、運営、運営マネジメント)、(株)日総建(設

計、工事監理(建築))、(株)JM(維持管理)、(株)長大(設計(展望

歩道橋)、工事監理、運営マネジメント)

協力会社 —

スケジュール

実施方針公表 平成 26 年 8 月 8 日

特定事業選定 平成 26 年 11 月 10 日

入札公告 平成 26 年 11 月 10 日

提案受付 平成 27 年 2 月 20 日

落札者決定 平成 27 年 3 月 24 日

契約締結 平成 27 年 11 月 17 日

供用開始 平成 29 年 5 月 1 日

活用した

制度等

補助金 社会資本整備総合交付金

その他 ―

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事例 12:八木駅南市有地活用事業

事業分野:庁舎、観光施設

事例 12:⼋⽊駅南市有地活⽤事業

事業場所 奈良県橿原市内膳町1 丁目357 番地

公共主体 橿原市 民間主体 PFI 八木駅南市有地活用(株)

施設概要 公共施設

庁舎、観光施設(宿泊施設、コンベンション施設、展望施設、飲食物販等施設、観光振興支援施設)、付帯施設(開放型交流スペース、駐車場、駐輪場)

民間施設

事業実施段階 事業者選定済(供用開始未済)

事業手法

公共施設:PFI 手法・BTO 方式 観光施設(宿泊施設及び飲食物販等施設を除く)、付帯施設の維持管理運営:サービス購入型 宿泊施設及び飲食物販等施設の運営:独立採算型

公共への還元 土地等の対価(貸付料) 宿泊施設:約8 億円(約0.4 億円/年)他

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 橿原市が宿泊施設を所有して民間事業者の事業リスクを分担

・公共施設等である観光施設に宿泊施設、飲食物販等施設等を含めることとし、BTO 方式で施設

を整備する。その上で、橿原市が観光施設所有者となって、定期建物賃貸借契約を締結して、

事業者に対して観光施設を賃貸する方法を採用した。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、橿原市がPFI手法の BTO 方式で庁舎、観光施設、付帯施設を整備し、その上で、観

光施設の中の宿泊施設(ホテル)と飲食物販等施設を事業者に貸し付けて、事業者が施設利用

者からの利用料金等により運営を行うものである。

➤ 橿原市は、総合窓口機能のある分庁舎を整備して市民の利便性向上を図るとともに、中南和地域

の観光拠点として宿泊施設等の観光施設を整備するため、本事業を実施することにした。

➤ 事業用地では、過去 2 回、公共施設等の整備が図られたが、民間事業施設の内容について地域

団体等との調整や、事業主体の財務面の確認が十分できなかったことなどにより、中止となってい

る。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 橿原市は、橿原市が所有する観光施設(宿泊施設)を事業者に貸し付けることにより、賃料として約

0.4 億円/年を受け取る。

➤ 宿泊施設の賃料は、固定賃料(2,500 円/坪・月)と歩合賃料の組み合わせとなっている。

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➤ 施設稼働率連動型賃料の採用

・宿泊施設の賃料については、施設の稼働率や売上高に依らず一定額とする固定賃料と、施設

の稼働率等に応じて変動する歩合賃料の組み合わせとした。

・橿原市は、固定賃料には下限金額を設定し、具体的な固定賃料の額や歩合賃料の仕組みにつ

いては、民間事業者の提案を受けることにした。

➤ 宿泊施設賃料水準の設定

・橿原市に入る賃料収入は客室稼働率 70%で約 4,000 万円/年と言われており、20 年間の運営期

間に得られる収入は約 8 億円となることが想定されている。それは、本事業に出来るだけ多くの事業

者に参加していただき、宿泊施設を整備したいと言うことである。

➤ 橿原市の観光振興策の強化

・橿原市は観光の総需要を高めることとし、地方創生の補助制度を活用した市内宿泊施設利用者

への助成(平成 27 年 8 月 1 日~平成 28 年 2 月 29 日)、インバウンド対応(外国語ホームペー

ジ設立等)の補助金などを行った。。

➤ 宿泊施設運営事業者等への事業継続性の配慮

・宿泊施設部分等については、実績に基づく採算性により、3 年ごとの賃料の見直し協議ができる

こととしており、20 年間の長期運営に対する配慮を行っている。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 観光振興における宿泊施設の必要性に対する強い認識

・橿原市は、中南和地域における観光振興のためには、新しい宿泊施設が観光客誘致の拠点と

して必要であるとの強い認識を持っていた。

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 多段階での官民間のコミュニケーションの実施

・橿原市は、事業化検討業務でホテル運営事業者へのアンケート(平成 24 年)、公募型意見聴取

(平成 24 年)、市長によるホテル運営事業者に対するトップセールス(平成 25 年)、実施方針公

表後と募集要項公表後(いずれも平成26年)における個別対話の実施など、官民間のコミュニケ

ーションを多段階に実施した。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・橿原市(以下「市」という。)では、奈良県中南和地域の交流都市拠点を形成するため、中心市街

地及びその周辺の歴史文化資源を含む地域を中心に、都市の再生を推進している。

・本事業は、商業・業務・行政機能が集積する市の玄関口である近鉄大和八木駅周辺のうち、近

鉄大和八木駅南側市有地の活用において、市民が関連する複数の手続を行う総合窓口機能を

提供する分庁舎を整備して市民の利便性の向上を図るとともに、中南和地域の観光の拠点として

宿泊施設等の観光施設を整備し、中南和地域の広域拠点にふさわしい都市機能を形成し、内外

の観光客の誘致を図るものである。

・大和八木駅前にある本事業用地(約 1,100 坪)は、昭和 62 年から平成 19 年にかけて行われた

土地区画整理事業において、市が換地として取得したものである。平成 13 年には現在の形状に

造成され、その使途が課題となっていた。

イ 官民連携手法導入の背景

・市が事業用地の活用を図るのは、平成 13 年以降、今回が 3 回目である。

・1 回目は平成 13 年で、「近鉄八木駅前南地下駐車場等施設整備事業」という PFI 事業として、

BTO 方式で地下駐車場・駐輪場を整備するとともに、民間事業者が当該用地を活用して賑わい

形成や地域の活性化に資する民間収益施設を整備する事業を公募した。平成 14 年 2 月には

優先交渉権者との覚書を締結するに至ったが、その後の本契約締結に向けた市と優先交渉権者

との交渉過程において、民間事業施設の内容について地域団体等との調整が整わず、契約交

渉が不調に終わった。また次点交渉権者との契約交渉も整わず、平成 15 年に PFI 事業は中止

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 過去の検討経緯を熟知した担当者を配置

・橿原市が本事業の事業用地の活用を図るのは、平成 13 年以降、3 回目である。本事業では、1

回目の事業実施時の担当者を本事業担当部署の上席者として起用し、過去の官民連携検討ノ

ウハウの活用を図った。

● 効果

➤ 定期借地権方式では困難であった宿泊施設の事業化

・橿原市が一定の事業リスクを負担することにより、定期借地権方式等、民間事業者が施設整備ま

で含めて独立採算型で事業化することは困難であった事業場所において、観光振興に必要な

宿泊施設の事業化が可能となった。

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となった。

・2 回目は平成 20 年である。1 回目の後、事業用地の活用方法を検討する委員会が学識経験者と

市民も加えて設立され、ホテルと公共公益施設の組み合わせとし、民間事業者から事業提案を

求めることが望ましいという提言が出された。これを受けて、平成20年に、市はホテル100室程度

と公共公益施設の整備を行う民間事業者を募集した。しかしリーマンショックの影響もあって応募

者が 1 社にとどまり、その 1 社についても書類内容不充分で不特定となり、事業は中止となった。

なお、この公募においては、民間収益施設部分の事業方式は、民間事業者への土地貸付とし

た。

・3 回目が平成 26 年で本事業である。2 回目の後、民間収益事業の可能性を高めるために、都市

計画で定められていた高さ制限31mを、平成24年に地区計画により高さ制限45mに緩和した。

平成 24 年に、市有地活用検討委員会を設立するとともに、ホテルと庁舎への PFI 導入可能性調

査を実施し、可能性があるとの結論を得た。この結論を得て、PFI 手法で事業化を図ることとし、

平成 26 年 3 月に債務負担行為を取得、4 月に実施方針を公表し、12 月に優先交渉権者を決定

した。

ウ 民間事業者の応募の背景

・民間事業者では、本件 PFI 事業案件について、応募可否を検討した結果、本事業の事業リス

クの引受けが可能と判断した。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業では、近鉄大和八木駅前の市有地(3,794.76 ㎡)に、庁舎、観光施設、付帯施設を整備

する。

・市の本庁舎は昭和 36 年竣工で、現在の耐震基準を満たしていない。そのため、市民が訪れる部

署については、新分庁舎に移転させることが市の方針となっている。また、市は観光振興に注力

することにしており、そのために宿泊施設等の設置は必須と考えられている。そのため、庁舎と宿

泊施設等からなる複合施設を整備することになった。

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図表 位置図

出典:橿原市公表資料

図表 施設概要(要求水準)

施設区分 延べ面積(許容範囲) 備考

庁舎 6,950 ㎡(-10~+10%) 総合窓口、事務部門、屋内交流スペース

観光施設 宿泊施設 提案による 客室 140 室程度、ホテルフロント、浴場

コンベンション施設 提案による 会議室 200 ㎡(100 人利用)程度

展望施設 提案による

飲食物販等施設 提案による 飲食施設

観光振興支援施設 提案による

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付帯施設 開放型交流スペース 200 ㎡以上

駐車場 提案による 70 台程度、車いす用、荷捌き用含む

駐輪場 提案による 100 台程度、自動二輪含む

出典:橿原市公表資料に基づき作成

図表 外観イメージ

出典:橿原市公表資料

イ 事業方式

・事業方式は、PFI法に基づく、BTO(Build Transfer Operate)方式である。その上で、同方式

で整備した施設の一部の運営業務を、事業者が独立採算で実施する。

・具体的には、市が整備費用を負担して整備した施設(宿泊施設と飲食物販等施設)を定期建物

賃貸借契約で事業者に貸し付け、事業者が独立採算で運営を行う。

・過去 2 回の事業化検討時は、民間事業者は市有地を借り受け、民間収益施設の施設整備費を

含んだ独立採算型の実施が求められた。しかし、本事業では、事業化検討段階における市と民

間事業者との対話において、ホテル運営事業者が宿泊施設を保有し運営する可能性はないが、

市がホテル施設を保有するならホテル運営を行う可能性はあるとの意見があったことなどから、上

記のような事業方式が採用された。

ウ 事業期間

・事業期間は、平成 27 年 3 月の事業契約の締結から、平成 30 年 4 月の施設供用開始を経て、

平成 50 年 3 月末までの約 23 年間である。維持管理・運営期間は約 20 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、市が整備した観光施設の中の宿泊施設と飲

食物販等施設の賃料である。

・定期建物賃貸借契約を締結し、宿泊施設の賃料は固定賃料(2,500 円/坪・月)と歩合賃料の組

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み合わせとしている。敷金、保証金は求められていない。

・市議会では、選定された民間事業者から提案された賃料について、客室稼働率 70%で約 4,000

万円/年、100%で約 5,000 万円/年と、歩合賃料については稼働率によって変動することを説明

されている。

図表 事業スキーム図

出典:橿原市公表資料、橿原市及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

・ホテル利用料金収入については、ホテル運営事業者の収入となる。ホテル運営事業者は、そこ

から事業者に対して賃貸料を支払うとともに、人件費等の必要経費を賄う。

・飲食物販等施設の利用料金収入については、飲食物販店舗運営事業者の収入となる。飲食物

販店舗運営事業者は、そこから事業者に対して賃貸料を支払うとともに、人件費等の必要経費を

賄う。

橿原市

一般会計

市有地

整備費 【約62億円】

賃料 宿泊【約 8 億円

(約 0.4 億円/年)】 (稼働率 70%時)

飲食【約 0.06 億円/年】 (10 千円/月・坪)

宿泊施設 飲食物販等施設

民間施設【定期建物賃貸借契約】

事業者

賃料 【約 8 億円

(約 0.4 億円/年)】 (稼働率 70%時)

公共施設等

庁舎 観光施設

サービス購入料 (施設整備費・維持管理費等)

約 97 億円

賃料 【約 0.06 億円/年】

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(イ) 帰属先

・歳入は、一般会計に帰属する。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業は、総務部(平成 28 年 4 月 1 日より総合政策部)八木駅周辺整備課が担当している。

・同課は平成 25 年に設置され、6 人で発足した。同課は、本事業以外に本庁舎の整備等も担当し

ているが、本事業に充当している時間の割合は、平成25年度から平成26年度にかけては、ほぼ

100%である。

・市は、事業化検討業務はランドブレイン(株)に、事業実施のアドバイザリー業務は(株)長大に委

託した。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・事業用地は行政財産であり、本事業で整備される施設も行政財産となる。

・PFI法により、行政財産である観光施設(宿泊施設等)を民間事業者に長期契約で貸し付けるこ

とが可能となっている。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

(ア) 事業化検討業務でアンケートを実施(平成 24 年)

・市は平成 24 年に事業化検討業務を委託し、その中でホテル運営事業者 50 社に対してアンケー

トを実施した。ホテル運営事業者が宿泊施設を所有することを前提としたところ、1 社から厳しいと

の回答があっただけで、残りの 49 社からは回答すらなかった。

(イ) 公募型意見聴取(平成 24 年)

・市は、事業方式決定の参考とするべく、実施方針公表前の平成24年12月に公募型で民間事業

者との対話を実施した。応募があったのは 8 社(ゼネコン、コンサル会社、リース会社、不動産会

社)であり、ホテル運営事業者の応募はなかった。応募者からは、事業用地に宿泊施設を整備す

る場合、ホテル運営事業者も自社も宿泊施設の所有者にはなれないという意見が聞かれた。

(ウ) 市長によるトップセールスを実施(平成 25 年)

・この状況を踏まえて、事業化検討業務の受託者の意見と市の希望を踏まえてホテル運営事業者

4 社を選定のうえ、市長が自らトップセールスを実施し、事業成立の条件整理を行った。

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(エ) アドバイザリー業務でのホテル需要調査を実施(平成 25 年)

・平成25年度に委託したアドバイザリー業務の中で、ホテル需要に関する調査を実施した。実施し

たのは、(株)長大の再委託先である(株)日本ホテルアプレイザルである。同調査では、類似市町

村の経済規模から一定のビジネス需要(70 室程度)は見込めるとされた。一方、観光需要につい

ても 70 室程度が見込めるとされた。

・既存宿泊事業者にも波及効果があるように、市は本施設の整備と合わせて、観光振興策を実施

することにした。

・ADR(ADR とは Average Daily Rate の略称で、平均客室単価のこと。販売客室に支払われた

平均料金の指標で、客室売上高を販売客室で割って計算する。ADR = 客室売上高 / 販売客

室)は 8、000 円とし、グレード(料金)を A~D の 4 段階に区分して、本事業では基本的には BC

の間を目指すことにした。

グレード A : 10,000 円以上

グレード B : 8,000~10,000 円

グレード C : 6,000~8,000 円

グレード D : 6,000 円以下

・需要調査では、ホテル運営事業者に対して各室の面積は示していない。その後内部で検討を行

って、要求水準で示している「シングル 18 ㎡程度、ツイン 24 ㎡程度」の面積を決定した。なお、選

定された大林組グループの提案は、ツイン 20 ㎡程度、ダブル 17 ㎡程度とされている。

・また、公共の民間事業者ヒアリングが早ければ早いほど検討の時間が確保できるため、難しい案

件ほど早く実施してほしいとの意見が聞かれた。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間提案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・事業用地は、昭和 62 年から平成 19 年にかけて行われた土地区画整理事業において、市が換

地として取得したものである。

・近鉄大和八木駅前に位置しており、市の顔となる場所であるが、民間事業者が施設所有者となっ

てホテル等の運営を独立採算型で行うことは難しい場所と認識している(前述の「1(1)事業実施の

経緯」参照)。

イ 施設要件及び業務内容

・本施設は、総合窓口機能を備えた分庁舎と、宿泊施設等を備えた観光施設の複合施設として計

画することとされ、施設の配置方法は民間事業者の提案とされている。

・市有地活用検討委員会で、検討した内容を議会にも報告し、要求水準を設定している。

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・市は、分庁舎への来訪者の利便性も考慮し、飲食物販等施設の内容は自由であるが、飲食施設

の設置は必須とした。

・また、市は独立採算業務施設の利用料金については、要求水準書において民間事業者からの

提案に委ねるとしている。

・市が、宿泊施設と飲食物販等施設について設定している要求水準は次のとおりである。

図表 宿泊施設と飲食物販等施設の要求水準

機能 要求水準

宿泊施設 ・開業時間と休業日は次のとおり。

開業時間 事業者提案による

休業日 事業者提案による

・通年で需要が見込めるビジネス需要のほか、観光振興の起爆剤として観光シーズ

ンを中心にレジャー需要も取り込む運営形態を想定した宿泊施設とすること。 ・あらゆる人がゆったりと快適に過ごすことができる施設とし、滞在型観光・宿泊客の

増員を促す宿泊施設とすること。 ・客室、浴場、ロビー及びホテルフロントを整備すること。 ・宿泊施設利用者に対して飲食物を提供する設備の整備は、事業者の提案によ

る。 ・140 室程度の客室を確保する。客室タイプはシングルとツイン等の組み合わせと

すること。 ・現在市では、客室1室あたりの面積を、シングル 18 ㎡程度、ツイン 24 ㎡程度と

想定し、シングルとツインの客室数の割合は5:5程度、延べ面積として 5,400 ㎡程

度を想定しているが、事業者の提案とする。 ・将来の改修工事に対応できるよう、間仕切り壁等が容易に変更できる施設計画と

すること。また、施設の一部に改修工事が発生した場合、改修工事中に他のエリア

に及ぼす影響が 小限となるような設備計画とすること。

飲食物販等 施設

・開業時間と休業日は次のとおり。

飲食施設 物品販売店等

開業時間 10:00~17:00(コアタイム) ※事業者提案により時間延長可能

事業者提案による

休業日 事業者提案により週 1 日程度の休

業日の設定可能 事業者提案による

・庁舎や宿泊施設等利用者が利用することを想定した飲食施設を設けること。 ・庁舎や宿泊施設等利用者の利便性の向上を図る物品販売店等を事業者提案に

より設けることができる。

注:コアタイム:必ず運営することが必要な時間帯

出典:橿原市公表資料に基づき作成

・宿泊施設については、次表に示すとおり、費用を負担する。空調設備については質疑で意見が

出され、施設共用部分は市が費用負担し、民間事業者の占用部分は民間事業者の判断で実施

することになった。

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・施設の模様替え(壁紙の貼り換え等)は民間事業者の費用負担で変更可能とした。

・宿泊施設と飲食物販等施設の具体的な費用負担者は次のようになっている。

図表 業務毎の費用負担者

施設整備業務 維持管理業務 運営業務

宿泊施設 ・市が負担(建築躯体、外

装、設備、建具、内装等)

・民間事業者負担(その他)

・市が負担(建築躯体、外装、設

備(一次側まで)等に関する費

用)

・民間事業者負担(その他)

・ 民 間 事 業

者負担

飲食物販等施

・市が負担(建築躯体、外

装、設備(一次側まで))

・民間事業者負担(その他)

同上 ・ 民 間 事 業

者負担

出典:橿原市公表資料に基づき作成

ウ 事業期間

・事業期間は、事業契約締結日(平成 27 年 3 月 26 日)から平成 50 年 3 月末日までとされ、約 23

年間である。

・市は、サービス購入料の平準化を踏まえて、維持管理・運営期間は 20 年とした。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 賃料

・市は事業者から宿泊施設と飲食物販等施設の賃料を受け取る。その内容は次のとおりである。

図表 賃料の内容

対象施設 内容

宿泊施設 ■全体

・施設の稼働率や売上に依らず一定額とする固定賃料と、施設の稼働

率等に応じて変動する歩合賃料で構成する。 ■固定賃料

・宿泊需要調査の結果等を参考に設定した 低賃料(2,500 円/坪・月

(消費税込み。廊下等の共用部含む。))を踏まえて、民間事業者が提

案する。 ■歩合賃料

・年間平均稼働率に応じて増加する歩合賃料を加算して市へ支払う賃

料形態を民間事業者が提案する。

飲食物販等施設

・施設稼働率や売上高に依らず一定額とする固定賃料である。 ・近隣の類似施設等の賃料も参考に、1 階に整備する場合は 10,000円/坪・月(消費税込み。廊下等の共用部含む。以下同じ。)、2 階に整

備する場合は 8,000 円/坪・月、3 階より上の階に整備する場合は

5,000 円/坪・月となっている。 出典:橿原市公表資料に基づき作成

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・選定された民間事業者の提案は、固定賃料は 2,500 円/坪・月で、市が示した 低金額への上乗

せはなかった。歩合賃料は客室稼働率 70%以下の場合は 0 円で、70%を超えると客室稼働率

に応じて加算されていくことになっている。・市議会では、選定された民間事業者から提案された

賃料について、客室稼働率 70%で約 4,000 万円/年、100%で約 5,000 万円/年と、歩合賃料に

ついては稼働率によって変動することを説明されている。

・なお、社会経済情勢の変化等に伴い、3 年毎に賃料の見直しについて協議を行うことになってい

る。

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件としては、応募者の構成と設計・建設・維持管理・運営業務の実績等が

各々求められている。

・民間事業者の参加条件の概要は、以下のとおりである。

図表 応募者の構成等

■応募者の構成

・応募者は、本施設を設計する企業(以下「設計企業」という。)、本施設を建設する企業(以下「建

設企業」という。)、本施設を工事監理する企業(以下「工事監理企業」という。)、本施設を維持管

理する企業(以下「維持管理企業」という。)及び本施設の運営を行う企業(以下「運営企業」とい

う。)を含む企業により構成されるグループ(以下「応募グループ」という。)とすること。 ・応募グループは、構成企業から代表となる企業(以下「代表企業」という。)を定めるとともに、当該

代表企業が応募手続を行うこと。

■宿泊施設の運営業務を行う者の資格要件

a 平成 26 年度橿原市入札参加資格者名簿のうち、役務提供等のいずれかに登載されているこ

と。 b 運営業務の遂行において必要となる資格(許認可、登録等)を取得していること。 c 客室 70 室以上の宿泊施設の運営を継続して 5 年以上実施した実績を有すること。 d 宿泊施設の運営業務を複数の企業で実施する場合、全ての企業が a から c の要件を満たすこ

と。 出典:橿原市公表資料に基づき作成

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針等の公表 平成 26 年 4 月 30 日 実施方針等に関する質問・意見の受付 平成 26 年 5 月 7 日~同年 5 月 21 日 実施方針等に関する説明会及び現地見学会の実

施 平成 26 年 5 月 19 日

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第 1 回個別対話の受付 平成 26 年 5 月 20 日~同年 5 月 21 日 実施方針等に関する質問・意見に対する回答の公

表 平成 26 年 6 月 5 日

第 1 回個別対話の実施 平成 26 年 6 月 9 日~同年 6 月 10 日 特定事業の選定 平成 26 年 6 月 30 日 募集要項等の公表 平成 26 年 7 月 29 日 募集要項等に関する質問受付(第 1 回) 平成 26 年 7 月 29 日~同年 8 月 11 日 募集要項等に関する説明会及び現地見学会の実

施 平成 26 年 8 月 4 日

第 2 回個別対話の受付 平成 26 年 8 月 18 日~同年 8 月 19 日 募集要項等に関する質問に対する回答の公表(第

1 回) 平成 26 年 8 月 25 日

参加表明書及び資格確認申請書類の受付 平成 26 年 8 月 25 日~同年 8 月 29 日 第 2 回個別対話の実施 平成 26 年 9 月 2 日~同年 9 月 3 日 資格審査結果通知 平成 26 年 9 月 4 日 第 2 回個別対話の質問・意見に対する回答の公表 平成 26 年 9 月 16 日 募集要項等に関する質問受付(第 2 回) 平成 26 年 9 月 16 日~同年 9 月 24 日 募集要項等に関する質問に対する回答の公表(第

2 回) 平成 26 年 10 月 8 日

提案書類の受付 平成 26 年 11 月 17 日 事業者提案内容ヒアリングの実施 平成 26 年 12 月 20 日~同年 12 月 21 日 優先交渉権者の決定 平成 26 年 12 月 24 日 基本協定の締結 平成 27 年 1 月 9 日 仮契約の締結 平成 27 年 2 月 23 日 事業契約の締結 平成 27 年 3 月 26 日 設計・建設期間 平成 27 年 3 月 26 日~平成 30 年 2 月末 開業準備期間 本施設の引渡し日~平成 30 年 3 月末 供用開始 平成 30 年 4 月 1 日 維持管理期間 本施設の引渡し日の翌日~平成 50 年 3 月

末 運営期間 本施設の供用開始日~平成 50 年 3 月末

出典:橿原市公表資料に基づき作成

・市は、実施方針公表後と、募集要項公表後に、書面による質問回答以外に、市と民間事業者の

間の個別対話を開催した。

・実施方針公表後の個別対話は、応募者数は 9 社で、要求水準の設定内容、独立採算型事業か

らの撤退条件(違約金額)、独立採算型事業の事業スキームなどに関する意見が出された。このう

ち、 後の事業スキームでは、市とホテル運営事業者が直接契約を締結することを求める意見が

多かったが、市としては採用しなかった。

・募集要項公表後の個別対話は 5 グループ・社で、いずれも提案書の書き方など、個別具体的な

事項が中心だった。

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キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・宿泊施設と飲食物販等施設の需要変動リスクは事業者が負担している。

・本リスクに関する事業者の負担を軽減する方法としては、宿泊施設については、宿泊料金の設定

が事業者の提案に委ねられていること、建物の賃料の一部が歩合賃料になっていることが挙げら

れる。飲食物販等施設については、業務実施日、詳細な業務実施時間、価格等が事業者の提

案に委ねられていることが挙げられる。

・また、収益施設部分の施設整備費は市が負担した。その上で、収益施設部分の建物賃料を固定

賃料と歩合賃料の組み合わせにするなど、需要変動に配慮したものとなっている。

(イ) 施設利用料金を変更する場合

・事業者は、利用料金の設定及び見直しを行うときには、60 日前までに市に書面にて届け出ること

が求められている。

・宿泊施設と飲食物販等施設の利用料金については、事業者は合理的で適正な水準となるように

努力することが求められている。

(ウ) 宿泊施設における運営期間中の賃料設定

・宿泊施設の歩合賃料については、直近 12 か月の客室稼働率をもとに算定し、次年度の賃料に

反映する。初年度の賃料については、客室稼働率 70%として算定し、初年度終了後の客室稼働

率の実績が 70%と異なる場合には、当該稼働率の差に応じた賃料を次年度の賃料に加減する。

(エ) 収益悪化時の取扱い

・宿泊施設と飲食物販等施設の賃料については、社会経済情勢の変化等に伴い、3 年毎に、市と

事業者が見直しについて協議することができる。

・上記に加えて、事業者が合理的努力を尽くしてもなお採算性の確保が困難な場合には、事業者

は市と事業継続の是非について協議することができる。この場合、市は、協議開始から 6 か月以

内に、独立採算業務の当該部分を解除し、または当該協議内容に基づいて独立採算業務の条

件を変更する。

・また、市は、運営期間中、事業者が事業契約に違反して独立採算業務に係る募集要項等の規定

や提案書の内容を満足することができない場合等には、事業者に対して書面で通知した上で、

独立採算業務に関する部分の全部または一部を解除することができる。

・独立採算業務部分の解除等の後、ホテル部分をどうするかは、市が別途検討することになる。

・事業者は施設をホテル運営事業者に転貸するため、宿泊施設の収益が減少した場合でも、事業

者に入る賃貸料は変わらない。

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(オ) 契約上の地位の譲渡等

・本事業では、市の書面による承諾のある場合を除き、事業者が本契約上の地位を第三者に譲渡

することは認められていない。

ク 契約終了時の取扱い

・事業期間終了時において、施設のすべてが要求水準で示している性能及び機能を発揮でき、損

害がない状態で市に引き継げるようにすることや、事業期間終了後も継続して 1 年に亘り本施設

を使用することに支障のない状態であるよう維持管理に努めることが求められている。

・また、事業期間終了時には、運営業務等を実施する者の所有または管理する物品等を自己の責

任及び費用により撤去することが求められている。

・そのほか、事業契約書第 94 条で、民間事業者が宿泊施設等部分を市から買い取ることを協議で

きる。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・市は、審査基準の設定に関しては、サービス対価が高くてよい提案と、安くて悪い提案が同じよう

な評価になることや、サービス対価の引き下げ合戦になることは避けたいと考えていた。

・複合施設を効率的・経済的に事業実施できるかという点や、提案価格等について、総合的に評

価を行った。

・上記を踏まえた本事業の優先交渉権者選定基準は次のとおりである。

図表 評価算式

総合評価値(配点 205 点)=性能点(配点 145 点)+価格点(配点 60 点)

価格点= 低提案価格/提案価格 × 価格点(60 点)

出典:橿原市公表資料に基づき作成

・性能点 145 点のうち、宿泊施設と飲食物販等施設に関連する主な内容(小計 44 点)は次のとお

りであり、性能点の約 30%の割合となっている。

図表 宿泊施設と飲食物販等施設の主な審査項目

対象業務

審査項目 審査の視点 配点

施 設 整 備

業務

観 光 施 設

建 築 計 画

( 宿 泊 施

設)

・あらゆる人がゆったりと快適に過ごすことができる客室、浴場

等となるための優れた提案がなされているか。

・宿泊室の室内環境向上のための優れた提案がなされている

か。

8 点

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・中南和の広域拠点としての観光施設にふさわしい設えとなる

よう優れた提案がなされているか。

・将来的なレイアウト変更等柔軟性と拡張性を確保するための

優れた提案がなされているか。

同(飲食物

販等施設)

・飲食物販等施設について、利用者の利便性に配慮し、地域

のにぎわい創出を促すための優れた提案がなされているか。

8 点

運営業務 宿 泊 施 設

の 運 営 業

・安定した経営とするための長期的な計画について優れた提

案がなされているか。

・観光振興を促すための取組みについて優れた提案がなされ

ているか。

・広域観光拠点としてふさわしいサービスの提供について優れ

た提案がなされているか。

12 点

飲 食 物 販

等 施 設 の

運営業務

・他施設と連携し利用者のニーズに応じたサービスを提供する

ための優れた提案がなされているか。

・地域の活性化に貢献する取組に対して優れた提案がなされ

ているか。

8 点

宿 泊 施 設

の賃料

宿 泊 施 設

賃 料 の 提

【固定賃料】

・市の財政負担の軽減に寄与する宿泊施設の賃料について、

要求水準で定める 低の 2,500/坪・月より、高く設定されて

いるか。

【歩合賃料】

・事業者提案により設定される上記で提案された固定賃料を上

回り、年間平均稼働率に応じて増加する歩合賃料の提案が

なされているか。

・宿泊室の年間平均稼働率を x とし、年間平均稼働率に応じ

た賃料(固定賃料と歩合賃料を合わせた賃料)を算出するた

めの計算式を f(x)とする。年間平均稼働率 0%~100%の f(x)

の積分値と宿泊施設の延床面積を乗じた値を提案賃料とす

る。以下に、提案賃料の算出式を示す。

8 点

出典:橿原市公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 4 者から参加表明があり、3 者が提案書を提出した(1者は提案書提出を辞退)。各者

の総合評価結果は次のとおりである。

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図表 総合評価結果

大林組

グループ

大和リース

グループ

淺沼組

グループ

■性能点【配点】 95.52 73.74 72.12

・観光施設建築計画(宿泊施設) 8 点 5.75 4.50 4.50

・宿泊施設の運営業務 12 点 8.63 7.13 5.25

・飲食物販等施設の運営業務 8 点 6.00 4.00 3.00

・宿泊施設の賃料に関する提案 8 点 4.82 8.00 6.69

・提案の実現可能性 3 点 2.25 1.59 1.50

■価格点 60.00 49.88 51.56

・金額(サービス購入料) 8,978,644,600 円 10,800,474,732 円 10,448,689,353 円

■総合評価値 155.52 123.62 123.68 出典:橿原市公表資料に基づき作成

・性能点も価格点も一番高かった大林組グループが優秀提案者に選定されている。

・優秀提案者の提案のうち、宿泊施設と飲食物販等施設に関する性能点に関する主な評価として

は次のようなものが示されている。

図表 性能点に関する評価

項目 概要

観光施設建築計画 (宿泊施設)

・客室部分は廊下を含めて柱の無い空間とし、客室レイアウト変更や将来

の用途変更を考慮した計画であり、また、エレベーターはストレッチャー対

応とする等、事業期間以降の建物の利活用についても柔軟に対応できる

提案であった点が高く評価できる。 ・南北に長い宿泊施設としたことですべての客室の眺望が東西に確保され

た提案であった点が高く評価できる。

宿泊施設の運営業

務 ・国内観光、国内ビジネス、インバウンド観光の 3 分野にそれぞれ異なる販

売促進を図り、需要変動に対応する運営計画であった点が高く評価でき

る。 ・独自の市場調査結果に基づいた収支計画を行い、開業後の安定経営に

向けた具体的な方針を示した提案であった点が高く評価できる。

飲食物販等施設の 運営業務

・飲食物販等施設の具体的な入居テナントからの関心表明を提示するなど

実現性の高い提案であった点が高く評価できる。 ・飲食店の地元食材を活用した多様なメニューの提案やオープンキッチン

による賑わい感の創出など具体的な提案であった点が高く評価できる。

提案の実現可能性 ・20 年間の事業期間中及び事業期間終了後において発生する施設利用

形態の変更を考慮し、可変性を持たせた施設整備計画とし、修繕予備費

の確保や宿泊施設運営企業のバックアップサービサーの確保や宿泊施

設の用途変更への配慮等状況に応じて計画を変更する余地を残した提

案であり、施設整備業務、維持管理業務、運営業務のすべてにおいて具

体的な提案がなされ実現可能性が高い提案であった。 出典:橿原市公表資料に基づき作成

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(6) モニタリング方法の基本的な考え方

・市は、宿泊施設の運営業務と飲食物販等施設の運営業務について、事業者に対してモニタリン

グを実施する。

・独立採算業務部分については、事業者が市に対して施設の賃料を支払い、事業者は宿泊施設

と飲食物販等施設の利用者から利用料金を受領して業務を実施する形態となることから、サービ

ス購入型のように減額対象となる対価は存在しない。しかし、モニタリングの結果、減額ポイントが

加算されると、当該対象業務を行う者の変更請求や、市の解除権の実行につながる場合がある。

・本事業のモニタリングの詳細な内容は今後協議されることになっている。また、市ではモニタリン

グ業務のを外部に委託することも検討されている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・本事業の実施にあたっては、市として次のような配慮を行っている。

(ア) 市による施設の所有

・市は、収益施設部分の施設整備費を負担し、宿泊施設と飲食物販等施設の賃料を徴収する。現

在の賃料の水準(20 年間で約 8 億円見込)では施設整備費は回収できないが、本事業で宿泊施

設ができれば、地域振興、税収、地元雇用等に大きな効果があるというのが市の判断である。

・市は、経済波及効果までは算出していないが、県の調査では観光消費額は 26,000 円/日になっ

ており、仮に観光客が 5 万人/年であれば観光消費額は 13 億円/年となるとされている。

(イ) 観光振興

・市は観光の総需要を増加させるための施策を講じている。

・市は地方創生の補助制度を活用して、市内宿泊者に対して 大 5,000 円の助成を行った(平成

27 年 8 月 1 日から平成 28 年 2 月 29 日まで)。

・市の観光推進施策は、これまでイベント中心主義であったが、一過性のものにとどまっていた。そ

のため、東京圏や中京圏での宣伝活動を強化した。これについては、市は既存のホテル運営事

業者に対しても一緒に活動しようと呼びかけている。

・市は(特非)日本 PFI・PPP 協会とも連携して、平成 26 年 9 月に、全国初のモデル事業となる「橿

原市観光資源創造官民連携事業部会」を立ちあげた。また、(一社)日本の寺子屋を設立し、市の

魅力を、英語、韓国語、中国語、インドネシア語等で発信している。

・市は研修旅行の受け入れにも熱心であり、韓国・釜山市の釜山経商大学校と協定を締結し、約

1,000 人/年の大学生の研修旅行を受け入れることになっている。

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(ウ) PFI 推進機構からの融資等の可能性確認

・市と銀行が個別対話を行った際、銀行から PFI 推進機構の関心表明がある方が動きやすいとい

う話があったため、市から同機構に対して融資等の可能性を照会し、本事業は融資の条件に合

致することが確認できたので、PFI 推進機構のことを募集要項に追記した。その結果、同機構か

ら 3 億円の融資が予定されている。

イ 事業収支状況

・本事業では、応募グループの代表企業がゼネコンであり、PFI 事業への応募の可否は、ゼネコン

の立場で判断(事業者から受注できる工事費の額、利幅等)された。なお、その際に目標とされる

水準は、案件の位置づけ、競合状況等によって異なるとされている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・本事業の VFM は、特定事業の選定では 14%であったが、優秀提案者の提案では 29.8%となり、

財政負担の軽減につながっている。また、PFI 手法の採用により、財政支出の平準化の面でも効

果があったと考えられている。なお、VFM 算定にあたっては、宿泊施設や飲食物販等施設の収

入は PSC にも PFI—LCC にも反映せず、支出のみが比較されている。

・駅前の 1,100 坪の土地が活用され、賑わいが生まれる見通しが立ったことが評価されている。

イ 課題

・官民連携の対象施設が宿泊施設というのは、過去の事例において応募者が少なかったため、市

では民間事業者に実際に応募してもらえるよう検討をしたとされている。

(3) 事業に対する評価

・議会では、宿泊施設整備が民業圧迫につながることを懸念する意見があるとされている。

・本契約の議決では、共産党が反対で、議決結果は 14 対 2、6 人が退席だった。

・市が各種の観光推進施策を実施することについて、議会ではそれが効果を生んでから本施設を

整備すればよいという意見もあったが、市としては本施設と観光推進施策は車の両輪ということで

説明をしている。

・市民の間では、本事業に対してプラスとマイナスの評価が混在している。平成 27 年 10 月 25 日

に市長選があり、本事業が争点となったが、推進派の現職が僅差で勝利した。対立候補は、公費

で宿泊施設を整備することについて反対&白紙撤回ということを主に主張していた。

有権者 約 10 万人

投票者 約 4.3 万人

得票数 現職 21,087 票

対立候補 20,724 票(363 票差)

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・市では、反対票を投じた市民に対しては、実績を示していくしかないと考えられている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

ア 地方公共団体としての取組方針の明確化

・本事業では、観光等を通じた地域振興のためにはホテルが必要であるという市の方針があるとと

もに、民間事業者の市場環境に対する認識を市が認識したことから、市がホテルの所有者となる

仕組みが採用された。このように、地方公共団体としての取組方針が明確であったことが、民間事

業者の応募につながったと考えられている。

イ 民間事業者が十分に検討できるスケジュールの確保

・民間事業者からは、難しい案件ほど検討するのに時間がかかるため、十分な検討ができるスケジ

ュールを確保してほしいといった意見が出されている。

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(参考)基礎データ

事業名 八木駅南市有地活用事業

事業分野 複合施設(庁舎及び観光施設)

発注者 橿原市

施設概要

施設内容

庁舎

観光施設(宿泊施設、コンベンション施設、展望施設、飲食物販等

施設、観光振興支援施設)

付帯施設(開放型交流スペース、駐車場、駐輪場)

施設規模 鉄骨造(地上 10 階、地下 1 階)

事業場所 奈良県橿原市内膳町 1 丁目 357 番地

寄駅:近鉄大和八木駅(徒歩 2 分)

事業概要

事業概要 庁舎と宿泊施設等の観光施設を整備する。

民間収益施設 事業者は、整備した宿泊施設と飲食物販等施設を賃借して、独立

採算で運営を行う。

事業

スキーム等

事業期間 約 23 年(運営期間は約 20 年)

事業方式 BTO 方式

事業類型 サービス購入型

事業者は一部の運営業務を独立採算で実施

事業規模 9,655,693,160 円(サービス購入料、税込)

民間事業者の

業務内容

施設整備業務

維持管理業務

運営業務

VFM

特定事業選定時 14%程度

事業者提案 29.8%

割引率 4.0%

審査結果

選定方式 プロポーザル方式

予定価格 11,766 百万円(税込)

契約金額 9,655,693,160 円(サービス購入料、税込)

応募グループ 参加表明書提出:4 グループ

提案書提出:3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎(株)大林組(設計・建設)、(株)梓設計(設計・工事監理)、(株)東

急コミュニティー(維持管理・運営)

協力会社 (株)カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント(運営)

スケジュール

実施方針公表 平成 26 年 4 月 30 日

特定事業選定 平成 26 年 6 月 30 日

募集要項公表 平成 26 年 7 月 29 日

提案受付 平成 26 年 11 月 17 日

優先交渉権者選定 平成 26 年 12 月 24 日

契約締結 平成 27 年 3 月 26 日

供用開始 平成 30 年 4 月 1 日(予定)

活用した

制度等

補助金 ―

その他 ―

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事例 13:藤枝駅周辺にぎわい再生拠点施設整備事業

事業分野:教育・文化施設

事例 13:藤枝駅周辺にぎわい再⽣拠点施設整備事業

事業場所 静岡県藤枝市前島一丁目7 番6 号 他4 筆

公共主体 藤枝市 民間主体 大和工商リース(株) (現 大和リース(株))

施設概要 公共施設 市立図書館

民間施設 商業施設、シネマコンプレックス、駐車場、駐輪場

事業実施段階 供用開始済

事業手法 事業用定期借地権方式

公共への還元 土地等の対価(借地料・貸付料) 〔約8.5 億円(約0.4 億円/年)〕 (固定資産税・都市計画税〔約8.0 億円(約0.4 億円/年)〕)

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、中心市街地活性化の一環として藤枝駅南口の市有地市立病院跡地を活用し、商業

施設と市立図書館を複合的に整備したものである。民間事業者は事業用定期借地権(20 年間)

により、藤枝市から土地を賃借して施設を整備し、図書館部分は藤枝市に賃貸している。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 藤枝市は、民間事業者から、活用用地の地代として、20 年間の累計で約 8.5 億円を受け取る。ま

た、藤枝市は、民間事業者が施設を所有することから、税収(固定資産税・都市計画税)として、20

年間の累計で約 8.0 億円を受け取る。

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 一定の集客が期待できる場所及び内容での事業の実施

・事業用地は JR 藤枝駅前に立地し、施設内容は一定の集客が見込める図書館と複合させた民

間収益施設の開発であり、相応の集客が見込まれた。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・藤枝市(以下「市」という。)は、本事業の検討が行われていた平成 18 年当時、平成 21 年 6 月の

「富士山静岡空港」の開港に向け、藤枝駅周辺を「志太・榛原広域都市圏の玄関口」と位置付け、

中核都市の中心市街地にふさわしい「にぎわい創出」と「都市機能高度化」を目指し、民間活力

導入による市有地の有効活用等も視野に入れ各種の検討を進めていた。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 公共の整備方針の明確化

・藤枝市は、まちづくりのコンセプトが「賑わい創出」と明確であり、民間事業者募集時に民間施設

の内容に一定の条件を付与するなど、その希望が明確だった。

・藤枝市は上記の希望を実現するために、地代基準価格の変更、容積率の変更等、事業条件の

緩和等も併せて行った(下記「事前調査結果に基づく各種条件の変更」参照)。

➤ 補助金の有効活用

・藤枝市が中心市街地活性化法に基づく認定基本計画への申請し、それが採用されたことによ

り、民間事業者が戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助を受給できる環境が整い、

民間事業者の参入意欲の向上につながった。

◇ 官民間でのコミュニケーションの特徴・工夫

➤ 事前調査結果に基づく各種条件の変更

・藤枝市は、参入が想定される民間事業者に対するヒアリング等により得た意見を踏まえ、地代や

藤枝市が求める施設整備グレードの変更等、民間事業者の応募意欲に直結する条件の変更を

行っている。

● 効果

➤ 財政負担の軽減及び平準化

・藤枝市が単独で図書館を整備する場合と比較して、藤枝市の支出を約 1/3 から 1/2 程度とするこ

とができた。また、図書館の設計・建設相当部分の費用を民間事業者への賃料として支払うこと

で、藤枝市のイニシャルコストを削減し支出を平準化することが可能となった。

➤ 藤枝市が想定する賑わいの実現

・図書館単独ではなく民間商業施設も一体となり整備したことで、当該エリアの集客に大きく寄与

し、当初想定を大幅に上回る年間 170 万人を集客することができた。

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・平成 18 年度に策定された「第四次藤枝総合計画・後期計画」(平成 18 年度から平成 22 年度)

では、「未来をみつめた、活力みなぎるまちづくり」のコンセプトのもと、「駅周辺のにぎわい創出や

楽しさと魅力ある商業地づくりに取り組む」と「まちづくり分野別方針」を定め、各種事業を推進し

ていた。

・「まちづくり分野別方針」では、「すこやかな心を育むまちづくり」を施策の一つとして掲げ、この施

策の具体的な案件として、新図書館の整備が検討された。同時に、平成 18 年の「藤枝市新図書

館整備基本計画」において、新図書館の立地については、中心市街地を形成する志太病院跡

地を活用することが有効という記載がなされた。

イ 官民連携手法導入の背景

・市は、新図書館の整備とにぎわい創出の相乗効果を生み出すため、当該跡地に図書館と民間

収益施設の複合施設を整備することが望ましいという意見に基づき、「藤枝駅周辺にぎわい再生

拠点施設整備事業」の募集に至った。

・なお、市は本事業の実施にあたり、中心市街地活性化法に基づく基本計画への認定申請を行い、

平成 20 年度に内閣総理大臣の認定を受けた。これにより、民間事業者が戦略的中心市街地商

業等活性化支援事業費補助を受給できる環境を整え、民間事業者の経済的負担が軽減される

よう努めた。

ウ 民間事業者の応募の背景

・市から、大和工商リース(株)(現 大和リース(株))が運営する官民複合の別施設に関するヒアリン

グがあり、同社としても、官民複合施設の展開も考えていたため、本格的に検討をするようになっ

た。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業は、静岡県藤枝市の藤枝駅南口の駅前約 10,980 ㎡の市有地に、公共施設(図書館)及

び民間収益施設を整備するものである。

・平成 21 年 2 月の施設オープン当時のテナントは以下のとおりである(随時入れ替えを実施)。

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図表 テナント一覧(施設オープン当時)

屋号 業種

1 BiVi 藤枝生鮮館 スーパー

2 あかのれん BiVi 藤枝店 ファッション衣料

3 ブラウンシュガー ケーキ&カフェ

4 サーティワンアイスクリーム アイスクリーム

5 マサモリ INDEXBiVi 藤枝店 化粧品

6 洋服・バッグお直し 「おしゃれ工房」 洋服・鞄お直し

7 時屋 BiVi 藤枝店 時計

8 ブレッドファクトリー&カフェ 「パン・タパス」 ベーカリー

9 ゲオ BiVi 藤枝店 レンタルDVD他

10 パステル藤枝店 ファンシー雑貨

11 ジーンズ&カジュアル 「アウトレットJ」 カジュアル衣料

12 小学館アカデミーBiVi 藤枝教室/小学館の幼児教室ドラキッズ BiVi 藤枝教室 教室

13 ピアセレ インテリア雑貨

14 オンデーズ 眼鏡

15 ジェイエステティック藤枝店 エステ

16 のっけ家 飲食

17 バタフライライフ セイオー藤枝店 フィットネス

18 BUFFET&BEER Phoenix 飲食

19 保険ショップ「Qualis」クオリス 保険

20 靴 チヨダ 靴

21 藤枝江﨑書店 書店

22 藤枝市立駅南図書館 図書館

23 藤枝シネ・プレーゴ 映画

出典:藤枝市公表資料に基づき作成

イ 事業方式

・事業方式は、市が事業用地に 20 年間の事業用定期借地権を設定し、民間事業者に図書館を含

む官民複合商業施設を整備、運営させるものである。民間事業者は施設を整備後、20 年間にわ

たり施設を継続保有する一方で、市は民間事業者から公共施設(図書館)部分を賃借する。

ウ 事業期間

・事業期間は、事業契約に定める竣工日となる平成 21 年 2 月 28 日から平成 41 年 2 月 27 日ま

での 20 年間(建設期間中の土地の使用については別途「土地一時賃貸借契約書」を締結)であ

る。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、活用用地の対価(事業用定期借地権契約に

定める地代)である。具体的には次のようになっている。

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図表 活用用地の対価の支払内容

時期 内容

建設期間 (本事業期間外)

・本事業契約期間中に支払われる事業用地の月額地代の 1/3。

契約期間 ・市は、市が発行する納入通知書の指定する場所に、20 年間にわたり

事業用地の月額地代 280 円/㎡を受領。 ・敷金等の支払いはなし。

出典:藤枝市ヒアリングに基づき作成

・市が民間事業者から受け取る地代は、基本的に事業者が提案した額に基づいた固定額となって

いる。ただし、固定資産評価額を基に改定する規定を設けている(詳細は後述)。

・市の本事業における事業期間 20 年間の総収入は、民間事業者から受け取る地代(活用用地の

対価)約 8.5 億円のほか、税収(固定資産税・都市計画税)約 8.0 億円も想定されている。一方、

市の支出は民間事業者へ支払う賃料約 21 億円であり、総収入と総支出を比較すると、支出が約

4.5 億円多くなっている。

・本事業では、市は、本事業を中心市街地活性化法に基づき基本計画を認定申請し、平成 20 年

度に内閣総理大臣の認定を受けている。これにより民間事業者は戦略的中心市街地商業等活

性化支援事業費補助金の受給対象となり、対象事業は補助金(5.3 億円)を受けることができるよ

うになった。

・他方、市が民間事業者へ支払う賃料は、公共施設整備費用相当額となっている。市は、その整

備費用相当額を 20 年間の賃料として支払うことでイニシャルコストを抑え、市の財政支出の平準

化が実現している。また、民間事業者が整備した建物に図書館が入居することで、1 棟全てを公

共施設として建設するよりも安価で整備することが可能となっている。

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図表 事業スキーム図

※1 市と民間事業者と事業用借地権設定契約(借地借家法第 24 条)を締結

(月額地代単価:280 円/㎡)

※2 市と民間事業者と建物賃貸借契約を締結(市立図書館部分)

(公共施設賃料総額:2,099,616,000 円(20 年間:共益費込み))

出典:藤枝市ヒアリング及び公表資料に基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・市が民間事業者から収受する地代及び税収を公共施設の賃料に充当させるイメージであるが、

いずれも市の一般会計の中で処理されている。本事業に関する基金等は設置されていない。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、現在は中心市街地活性化推進課が担当している。

・本事業に関する、各検討段階における庁内の事業実施体制は、次のとおりである。

藤枝市

民間事業者

収入

地代※1 【約 8.5 億円】 (約 0.4 億円/年)

戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助

補助 【約5.3億円】

シネマコンプレックス(4F)

商業施設(2F)

商業施設(1F)

BiVi藤枝(民間所有)

市立図書館(3F)

賃料※2 【約 21 億円】

(約1億円/年)

一般財源

市有地

固定資産税・都市計画税 【約 8.0 億円】 (約 0.4 億円/年)

施設整備段階

運営段階

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図表 事業実施体制

構想段階~ 選定・基本契約締結

平成 17 年 ~平成 18 年

企画政策課 事務職 2 名 注 1

事業契約協議・設計協議 平成 19 年 企画政策課 事務職 2 名、建築職 1 名 ※1

着工~竣工 平成 20 年 中心市街地活性化推進室 事務職 2 名 ※1 ※2

運営~ 平成 21 年 中心市街地活性化推進室 事務職 1 名

※1 教育委員会図書館の職員も 2 名協議等に参加。

※2 施工期間中の工程会議には、建築住宅課から 1 名参加。 出典:藤枝市ヒアリング及び公表資料に基づき作成

・市は、事業者選定支援業務について独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という。)を、事業

契約締結支援業務については八千代エンジニヤリング(株)に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・事業用地は、市制施行以前の旧村町の共立病院として存続していた場所であり、移転のため空

き地となったものを市が買い戻したものである。

・事業用地は、長期間にわたり市民医療の拠点であったことから市民の思い入れが強く、売却等を

行うのは困難であった。そのため、市は資産を所有したままで有効活用をすることとし、対象用地

を普通財産化した上で、事業用借地権を設定し、本事業の実施に至った。

イ 規制の変更等

・市は、本事業の実施にあたり、地区計画による都市計画の変更を行い、容積率を 300%から

400%に緩和した。都市計画の変更内容は、次のとおりである。

図表 都市計画の変更内容

■ 都市計画の変更について 1)地区計画変更

文化・商業地区(約 1.3ha)新設 2)地区整備計画

a.容積率 高限度:400% 低限度:200% b.建ぺい率 高限度:80%(角地加算 10%有) c.建築面積の 低限度 1,000 ㎡ d.壁面制限 道路境界線(道路に面する部分)から 2m以上の後退。ただし、梁下の高さが 4m

以上のピロティ状とすることは可 e.地区施設 民有地との境界から 4~5.48mの公共空地(通路・緑地等)を配置 ※壁面後退部及び公共空地部は建築敷地に含まれる

3)変更時期 平成 19 年 3 月末(予定)

出典:藤枝市ヒアリング及び公表資料に基づき作成

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(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・市は、進出意向等のアンケート調査(約500社)、企業訪問、ヒアリング(合計約20社)、事業実施

方針案のダイレクトメール送付(約 80 社)を行ったほか、本事業に興味を示した民間事業者に対

しては、提案競技条件の把握のためのヒアリングを実施している。

・ヒアリング及びダイレクトメール先は、業務委託先と協議し、導入したい業種をリストアップした上で、

出店の可能性がありそうな業種や企業を選定した。

・上記のとおり事前調査を実施した結果、進出意向を 12 社から得たため、それらの民間事業者に

対して更にヒアリングを実施し、その内容を募集要項に反映させている。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・事業用地は、平成 7 年に市立病院が郊外に移転したことにより空き地となった病院跡地であり、

JR 藤枝駅前に位置している。

・市は、中心市街地に位置する当該跡地を活用した「賑わい創出と都市機能高度化」、「財政負担

の軽減」を土地利用の基本方針とし、「公共文化・学習施設と民間施設の複合化による、賑わい

創出と中心市街地活性化の拠点ゾーン」と位置付け、事業条件を設定している。

・市は、エリア一体としての賑わい創出を求めることから、当該跡地は分割せずに、一体的に整備

することを基本として考えている。

・市に旧市街地として既に発展している駅の北側と商業地域として今後開発を進めていく南側をつ

なぐ通路を作る構想があったこと、本件以外にも南側に開発の構想があったこと、焼津市と藤枝

市を結ぶ道路が開通することにより商圏が広がると見込めたことを理由に、民間事業者からは事

業性が見込めると判断された土地であった。

イ 施設要件及び業務内容

・市立病院の移転により、駅周辺の歩行者通行量が激減し周辺の商業状況が大きく悪化していた

中、駅周辺の賑わい創出に寄与する施設を整備し運営することが民間事業者に求められ、それ

に応じた施設要件となっている。

・同時に、市民の強い要望もあり、当該エリアに図書館を整備することが決定していたため、図書館

と親和性の高い教育施設等の整備も期待されていたため、それらも考慮した要件となっている。

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図表 施設要件

民間施設及び施設

計画全般、土地

利用に関する条件

・市民各層はもとより周辺地域からも人が集いにぎわう、中心市街地活性化

の核となる集客施設を導入すること。

・文化・学習、娯楽、ショッピング、飲食、健康・福祉等の都市サービスを担

い、藤枝市の都市イメージ向上に寄与する施設を導入すること。

・土地利用、施設計画及び運営等においてユニバーサルデザインを導入

すること。

・市の玄関口にふさわしい良質な都市景観を創出すること。

・風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第 2 条第 1 項に規

定する風俗営業、同条第 5 項に規定する性風俗特殊営業その他これらに

類するものを含まない計画とすること。

・住宅を含まない施設計画とすること。

・都市計画の変更を前提とした土地利用、施設計画とすること。

その他共用施設等

に関する条件

・事業者は、駐車・駐輪場利用者から利用料を徴収することができ、利用料

は事業者の収入とする。(市の負担はなし) 出典:藤枝市公表資料に基づき作成

・市が、民間収益施設に住宅を含まない施設計画を求めた理由は、まちの賑わい創出という効果

を 大に求める場合に、住宅はふさわしくないと判断したためである。

・なお、市は、事前の市場調査による民間事業者の意見を踏まえて、各種の事業条件を次のとおり

当初案から変更している。

図表 市場調査を踏まえた事業条件の変更内容

変更項目 変更内容(概要)

地代基準価格の変更 1,500 円/坪から 925 円/坪に抑制

事業用借地権の開始期 建設工事期間を除外

建設工事期間の地代の変更 提案地代の 1/3 に変更

公共施設(図書館)のグレードの見直し 必要 低限のグレードに変更

容積率の変更 300%から 400%に変更

周辺道路の整備 アクセス道路の一部未整備区間を 1 年前倒しで整備 出典:藤枝市ヒアリングに基づき作成

ウ 事業期間

・事業期間は、本事業の検討当時は、事業用定期借地権の 長設定期間が 20 年間と制約があっ

たため、20 年間としている(現在は 長 50 年間)。

・また、民間事業者へのヒアリングの結果、事業期間として 20 年程度を希望する民間事業者が多

かったこと、市として時代に合った施設を整備し賑わいを創出していく観点から 20 年程度を一区

切りとする意見があったことなども、20 年間と設定した根拠となっている。

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エ 民間収益の還元の内容

(ア) 地代

・市は民間事業者から事業用定期借地権設定の対価として地代を受け取る。

・地代は当初は不動産鑑定に基づいた 1,500 円/坪としていたが、民間事業者へのヒアリングで

1,000 円/坪以下としないと採算が合わないという意見が多数であった。そのため、応募者確保の

観点から基準価格を引き下げが必要であると市長に訴え、 終的な条件を 925 円/坪(280 円/㎡)

としている。

・また、基本的には民間事業者が提案した額に基づいた固定額であるが、固定資産評価額を基に

毎年度見直しをする規定を設けている。実際に、平成 24 年、平成 27 年には、規定に基づき地代

の改定を実施している。改定時にはその都度、覚書を締結している。

図表 土地の評価額の基づく改定方法

使用する指標 算定式

土地の評価額

(固定資産評価額)

(1) 本契約契約日から平成 24 年 3 月までの地代額 ■算定式 : P i=p×【10980.42】 ㎡(事業用地面積) p : 提案時における地代単価(㎡・年)。 P i : 平成[ i ] 年 4 月から翌年 3 月の地代額(20≦ i ≦23) (2) 平成 24 年 4 月以降における改定 ■算定式 : P t = P r ×(W t/W r) ・ (24≦ t ≦40、 3 年ごと) (改定率 : W t/W r) P r(=P t-3) : 前回改定時の地代額。 P t : 土地評価額に基づく改定後の平成[ t ]年 4 月から翌年 3 月の地代

額。W t : 左記に示す指標の平成[ t ]年 4 月の評価額。 W r(=W t-3) : 左記に示す指標の前回改定時の評価額。

1 出典:藤枝市公表資料に基づき作成

(イ) 家賃

・市は民間事業者に対して図書館部分の賃借料として家賃を支払う。その一方で、事業期間中の

建物の修繕費等は民間事業者が負担する。

・市が負担する家賃については、不動産鑑定のほか、アドバイザーによる建設シミュレーションによ

る設計・建設コストの評価額を参考に、基準価格を算定している。建設シミュレーションによるコス

ト等も含めた家賃設定としていることから、不動産鑑定では約 9,000 円/坪であった基準価格を、

約 9,700 円/坪と変更している。

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オ 参加条件の設定

・20 年間にわたり安定的に民間商業施設を運営できる民間事業者であることが念頭におかれ、参

加条件が設定されている。

・参加条件の設定にあたり、図書館に関する利便性や蔵書数等は重要視されたが、その他は通常

の公共図書館と同水準程度の内容が求められた。そのため、図書館等に関する特別の深い知見

や幅広い提案等を求める資格要件とはなっていない。

・参加条件の概要は、以下のとおりである。

図表 応募者の資格、構成等

①応募者は、事業者として土地賃借、建物の所有・賃貸を行う者で、提案施設の設計・建設及び事

業期間中に継続した運営ができる十分な資金力と経営能力、優れた企画力を有し、かつ、計画

の実現について過去の経歴及び実績並びに社会的信用を有する法人又は複数の法人で構成

されるグループであること。 ②グループで応募する場合は、構成員の中から代表法人(土地を賃借する法人)を定めること。 ③一つの法人が複数の応募をすることはできないこと。グループで応募する場合も一法人とみな

し、一つの提案を行うものとすること。 ④応募法人及び応募グループの構成員は、他の応募グループの構成員になることはできないこ

と。 ⑤施設の運営業務を行う法人は、民間施設の提案内容と同等の事業運営実績を有すること。

出典:藤枝市公表資料に基づき作成

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

募集要項・要求水準書等の公表 平成 18 年 9 月 29 日 事業者への説明会開催 平成 18 年 10 月 11 日 質疑書の受付締切 平成 18 年 10 月 18 日 応募書類(提案書等)の受付締切 平成 19 年 1 月 12 日 審査委員会による事業者ヒアリング 平成 19 年 2 月 7 日

審査結果の公表(優先交渉権者選定) 平成 19 年 2 月 19 日

基本協定の締結・事業者決定 平成 19 年 3 月 28 日

事業用借地権契約等の締結 平成 21 年度初頭まで 出典:藤枝市公表資料に基づき作成

・平成 18 年 10 月の民間事業者への説明会には、23 社が参加し、その後の質疑回答では 8 社か

ら 60 問の質問が出された。

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キ 官民のリスク分担

(ア) テナント収入が変動した場合

・本事業については、施設全体の所有及び管理は民間事業者が実施し、市は民間施設の一部を

図書館として賃借するものであるため、収入変動リスク及びテナントリスク等は全て民間事業者が

負うものとなっている。

(イ) 事業収支が悪化した場合

・要求水準を満たすテナントであることを条件に、市はテナントリーシングに関して関与をせず、全

て民間事業者のリスクで行われている。そのため、事業契約書においても、収益悪化時の対応に

関する記載はない。

・民間事業者が営業停止等を受けた場合、市は民間事業者と本件事業の継続方法等について協

議を行うことができ、協議の結果、民間事業者による事業継続の見込みがないと判断した場合は、

契約を解除することができる旨規定されている。

・契約解除による途中終了の場合、民間事業者は 48 か月分の地代を違約金として支払う旨が規

定されている。

(ウ) 契約上の地位の譲渡等

・事業契約に別段の定めのあるほか、市の事前の承諾がない限り、本契約及び本件事業関連契

約上の地位及び権利義務を第三者に対して譲渡し、又はその他の処分をしてはならないとされ

ている【事業契約書 第 59 条】。

ク 事業終了時の取扱い

・本事業における事業期間終了時の取扱いは、契約期間満了日までに民間事業者が本施設を撤

去し土地を市へ変換することとなっている。ただし、市の承諾があった場合には民間事業者は施

設を無償で市に譲渡できるとされている。

・また、市は、事業契約と同時に、民間事業者が新たな事業用借地権の再設定契約を申し出た場

合には、1 回に限りそれに応じる旨の覚書を締結している。

・また、ハードだけではなくソフト面も含めた円滑な事業終了又は継続を実現する観点から、民間

事業者は、市または市の指示する者に対して必要な引き継ぎを実施しなくてはならない旨の規定

がされている。

・なお、市と民間事業者は、本契約の期間満了日の 3 年前から、本契約の終了に関して必要な事

項を決定するための協議を実施することにしている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・評価基準は下記のとおり、民間施設に関する評価が 40 点、公共施設に関する評価が 30 点、価

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格に関する評価が 30 点となっている(100 点満点)。

図表 評価項目

1 事業提

案評価 (民間施設

全般)

Ⅰ 計画内容に関する評価 ①施設計画 ・市の顔としてふさわしく、にぎわいづくりに資する計画であること。 ・地域の環境や風紀を阻害しない広域的な集客施設を導入した計画である

こと。 ・市の都市イメージ向上に寄与する都市サービスを含む計画であること。 ・民間施設、公共施設の複合化による相乗効果が発揮できる計画であるこ

と。 ・市民や周辺地域住民への貢献性が高い計画であること。 ・敷地内駐車・駐輪場が十分確保された計画であること。 ・安全で快適な交通動線が確保できる施設配置であること。 ・②建築計画・外構計画 ・地域の環境に配慮した、駅前にふさわしい良質な景観、デザインであるこ

と。 ・道路や外部空間との関係に配慮した計画であること。 ・ユニバーサルデザイン、環境、防災、防犯などに配慮した計画であること。

~中略~ Ⅲ その他総合的評価 ・市総合計画(駅周辺のまちづくり)に整合していること。 ・長期的な事業継続性が高く、公共施設の継続運営に安定性があること。 ・提案に企画力、独自性があること。 ・市政への貢献や周辺まちづくりへの波及効果等が期待できること。 ・雇用の創出や周辺事業者等への経済効果が期待できること。 ・事業実施に向けた熱意や誠実さが感じられること。

40 点

2 事 業 提

案評価(公

共施設)

~略~ 30 点

3 価格評

価 Ⅰ 地代及び賃料 ・地代ができるだけ高額であり、かつ、賃料ができる限り低額であること。 Ⅱ 市財政への貢献性 ・税収効果が高い建築物及び施設内容であること。

30 点

出典:藤枝市公表資料に基づき作成

・市は、要求水準を満たす施設であれば、基本的には民間事業者の提案に委ねることとしている。

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業への応募は、大和工商リース(株)(現 大和リース(株))1 者であった。

・平成 21 年 2 月に開業した際には、映画館、スーパー等の他、書店やアカデミー、外国語教室等、

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図書館との連動性が高いテナントが入居している。

・また、広域からの集客を実現するため、468 台の駐車場及び 183 台の駐輪場が整備されている。

駐車場及び駐輪場の利用料金は全て民間事業者の収入となるが、図書館の利用者で 30 分以

内の駐車場及び駐輪場を利用者からは利用料金を徴収してはならないとの条件を付されてい

る。

・集客性が比較的高いとされる図書館と相乗効果が期待できる、広域集客力の高い民間施設及び

関連施設の提案となっている。特に、周辺地域に立地しないシネマコンプレックスの導入や、公

開空地(オープンスペース)を確保し、緑あふれるプロムナード等の提案は審査委員会の中でも

高い評価を受けている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・市は、本事業では、要求水準に規定する施設をテナントとすることを条件にしているが、運営等に

関する要求水準等は存在しないため、定期的なモニタリング等は実施していない。任意で月に 1

回、市と民間事業者との間で情報交換を実施し、施設の運営状況等について共有をしている。

・なお、市は、本事業では、民間事業者選定の際に、応募書類の事業収支計画について、公認会

計士の資格を有する審査委員中心に内容を精査している。また、別途民間調査会社へ企業経営

状況分析、収支分析を実施している。その結果、民間事業者の信用力は十分かつ事業計画は妥

当なものであるという判断の下、安定的な事業継続が期待できるとして民間事業者を選定してい

る。このような方法で、一定のスクリーニングをかけることとしている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・当初想定した賑わいの創出に寄与する施設ができていると考えられている。

・近年は、商業施設には立ち寄らず、直接映画館や図書館に行く利用者も多いようで、商業施設

の集客が苦戦している面もあると考えられている。

イ 事業収支状況等

・現状においては事業収支の面においていくつかの課題はあるものの、官民連携手法を活用して

の官民複合施設整備の事例はまだ少なく、官民双方が協力しながら課題を解決するべく事業を

行っているとされている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

(ア) 財政負担の軽減及び平準化

・本スキームを採用することにより、市が単独で図書館を整備する場合と比較して、市の支出を約

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1/3 から 1/2 程度とすることができたとされている。また、図書館の設計・建設相当部分の費用を民

間事業者への賃料として支払うことで、市のイニシャルコストを削減し支出を平準化することが可

能となったとされている。

(イ) 賑わいの創出

・図書館単独ではなく民間商業施設も一体となり整備したことで、当該エリアの集客に大きく寄与し、

当初想定した年間 120 万人の集客見込から上振れし、年間 170 万人を集客することができたとさ

れている。また、前面道路の歩行者通行量が 41.3%増加したとされている。その結果、周辺飲食

店の売上向上及び新規出店の促進等の波及効果が生じ、当該エリアの賑わい創出につながっ

たと考えられている。

(ウ) 市民の要望に沿った施設の設置

・本事業用地における新図書館整備について、市民から強い要望があったこともあり、議会を含め

て本手法による早期整備についても全面的に支持された。

・商業施設内のテナントについても、書店、学習塾、外国語教室等、公共施設である図書館と連動

性の高い施設も多く入居している。また、映画館で上映している映画の内容に関連したコーナー

を図書館や書店に設置する等、民間施設と公共施設の連携が生まれ、相乗効果が高くなってい

ると考えられている。

(エ) ノウハウの蓄積

・本事業の実施により、民間事業者に官民複合施設運営のノウハウが蓄積されると考えられてい

る。

・また、民間事業者にとっては、本事業を実施したことが宣伝効果となっていると考えられている。

イ 課題

(ア) 運営面での行政の関与余地の小ささ

・本手法を通じて、施設計画としては市の求めるコンセプトに沿ったものを誘導することが可能とな

っている。ただし、その後の施設の運営については民間事業者主導で行われるため、市が施設

の魅力向上や集客の施策に主体的に関与できない点がデメリットであると考えられている。

(イ) 期間中の想定外の競合施設

・事業期間が長期になる程、近隣に競合施設が開業するなど、計画当初には想定をしていなかっ

た事象が発生するといったリスクが高まる点も含めて、どのように事業計画を立案するかは課題で

あると考えられている。

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(3) 事業に対する評価

・早期に新たな図書館を整備することは、署名が提出されるほど市民の強い要望であった。そのた

め、事業計画に対しては好意的な意見が多かったとされている。また、PFI 手法にて事業を実施

するよりも短期間で施設の整備が完了すると思われた本手法については、議会を含めて全面的

に支持されたとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・単に借地借家法に基づく賃貸借契約とせず、あらゆるリスクを想定した事前のリスク分担と、それ

に基づく事業全体を総括する事業契約が必要であると考えられている。

・事業契約の作成にあたっては、PFI 手法における事業契約作成ノウハウが求められ、また弁護士

を含めたリスク回避が肝要であると考えられている。

・事業用借地権を活用する場合、存続期間( 大 50 年)終了後、賃借人は建物を収去して土地を

返還することが義務化されるため、公共がこの制度を活用して公共施設整備を行う場合は、存続

期間終了後の施設のあり方を議会を含め決定する必要があると考えられている。

・施設計画としては本手法により公共の求めるコンセプトに沿ったものを誘導することが可能だが、

その後の施設の運営や持続性は民間任せとなることから、商業施設としての魅力と集客の維持が

課題であると考えられている。

・運営やテナントリーシングに公共が関与すると、事業のキャッシュフローや経営面で公共にも責任

が発生してしまう点に留意が必要であるとされている。

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(参考)基礎データ

事業名 藤枝駅周辺にぎわい再生拠点施設整備事業

事業分野 教育・文化施設

発注者 静岡県藤枝市

施設概要

施設内容 公共施設(図書館)

民間施設(商業店舗・シネマコンプレックス・駐車場・駐輪場)

施設規模 総敷地面積:約 7,670 ㎡

事業場所 静岡県藤枝市前島一丁目 7 番 6 号他 4 筆 (JR藤枝駅徒歩

3 分)

事業概要 事業概要

図書館と民間施設(商業施設)を合築し、にぎわい創出と市街地

活性化を行う事業。

民間収益施設 有り(テナント施設・駐車場)

事業

スキーム等

事業期間 20 年間(事業用借地権)

事業方式 -

事業類型 -

事業規模 2,099,616,000 円(公共施設賃料/ 20 年間総額)

民間事業者の

業務内容

公共施設と民間施設の合築施設の整備・公共施設フロアの床の

貸付。

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 提案協議

予定価格 -

契約金額 2,099,616,000 円(公共施設賃料・20 年間総額)

応募グループ 1 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

大和工商リース(株)(現大和リース(株))

協力会社 -

スケジュール

【藤枝市スケジュール】

公表 平成 18 年 8 月

募集要項・要求水準書等の公表 平成 18 年 9 月 29 日

提案受付 平成 19 年 1 月 12 日

優先交渉権者選定 平成 19 年 2 月 19 日

事業契約締結 平成 19 年 10 月 2 日

供用開始 平成 21 年 2 月 28 日

【民間事業者スケジュール】

中心市街地活性化基本計画認定 平成 20 年 3 月

補助金申請・認定(平成 19 年度) 平成 20 年 3 月

補助金申請(平成 20 年度) 平成 20 年 3 月

地鎮祭 平成 20 年 3 月

補助金認定(平成 20 年度) 平成 20 年 4 月

建物竣工・検査 平成20年12月実施方針

活用した

制度等

補助金 戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助金

その他 -

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事例 14:(仮称)紫波町交流促進センター(オガールプラザ)整備事業

事業分野:まちづくり

事例 14:(仮称)紫波町交流促進センター(オガールプラザ) 整備事業

事業場所 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前1丁目1番1、2

公共主体 紫波町 (オガール紫波(株)が町の代理人となり本事業を検討)

民間主体

オガールプラザ(株) (RFP では別途(株)近代建築研究所+(株)中居敬一都市建築設計+佐々木建設(株)が選定)

施設概要

公共施設 情報交流センター(延床面積1,252 ㎡)、図書館(延床面積1,441 ㎡)

民間施設 子育て支援センター(延床面積約496㎡)、商業テナント(医療、産直、飲食、学習塾等)(延床面積 約1,849 ㎡)

事業実施段階 供用開始済

事業手法 事業用定期借地権方式

公共への還元 土地等の対価(借地料・貸付料)〔11.1 億円(347.8 万円/年)〕

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、未利用となっていた紫波中央駅前の町有地(約 107,000 ㎡)の中に、官民の複合施設

(オガールプラザ)を整備・運営するものであり、紫波町において複数の公民連携事業を行う「オガ

ールプロジェクト」の一つである。

➤ オガール紫波(株)が、紫波町の代理人となり、紫波町の全面的支援のもと、公共施設整備も含め

た本事業全体の企画、設計、建築、運営を一貫して主導した点に特徴がある。主として民間収益

施設からの収益に依拠し、町の実質的な財政負担僅少で公共施設整備が可能となった。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 紫波町はオガールプラザ(株)に対して、一部出資を行うとともに町有地を定期借地権にもとづき賃

貸し、借地料総額約 1.1 億円(347.8 万円/年)を受け取る。

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 民間事業者の事業成立性の重視

・オガールプラザ(株)が施設整備に先行して(民間収益施設の)テナントを募集し決定しておくこと

で、テナント賃料総額を確定させ、その収入の範囲で採算が見込める施設規模とした。

➤ 区分所有にすることで民間事業者の投資負担を軽減

・公共施設部分を紫波町が購入し区分所有建物とすることにより、民間事業者(SPC)の負担する

固定資産税や借地料が軽減されている。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

「オガールプロジェクト」とは、「紫波中央駅前都市整備事業」のことをいう。本項目「事業実施の経緯」

では、オガールプロジェクト全体の経緯を記載する。

➤ 民都機構からの出資をベースにした安定資金の確保

・(一財)民間都市開発推進機構から 60 百万円の出資を受けることにより、市中銀行からの借入交

渉が円滑になった。

◇ 官民の事業への取り組み方針での特徴・工夫

➤ オガール紫波(株)による事業推進

・オガール紫波(株)は紫波町と協定を結び、町の代理人として、プロジェクトに投資をする、または

興味を持つ民間事業者との調整、協議等を行っている。

・本事業に関しては、整備事業者選定、特別目的会社であるオガールプラザ(株)への出資、不動

産事業等の役割も担っている。

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 住民理解の推進

・オガールプロジェクトでは、土地活用のメリットなどについて町民に十分に説明をするため、平成

19 年度、平成 20 年度の 2 年間で約 90 回の説明会を行った。

◇ 人材面での工夫

➤ 公費による町職員の大学院入学

・紫波町は、東洋大学大学院公民連携専攻に職員 1 名を 2 年間公費入学させて、公民連携に関

する知識の習得を図っている(現在、紫波町とオガール双方の実務責任者が東洋大学への派遣

経験者である)。

● 効果

➤ 公共単独では困難であった広域商圏からの集客及び不動産価値の向上

・紫波町の支援のもと、民間事業者ならではのプロジェクトマネージメントが奏功し、紫波中央駅前未

利用町有地の有効活用を図ることができている。更に、人口 3 万人程度の紫波町及びその周辺の

盛岡市、花巻市等を含む人口約 60 万人の広域商圏から集客が可能な魅力のある都市空間が創

出され、交流人口の増大、紫波町の不動産価値向上に寄与している。

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ア 事業実施の背景

(ア) 紫波町公共施設整備の期待の高まり

・紫波町(以下「町」という。)役場本庁舎は昭和 38 年に建築されたものであり、老朽化が進んでい

る状態であるとともに、駐車場は狭隘であった。また、町内 5 カ所で業務を行っている状況であり、

1 カ所への集約及び新役場建設の期待が高まっていた。

・また、従前の図書施設となる町中央公民館「胡堂文庫」は蔵書数や設備等の面で不十分であり、

町民満足度調査で図書館が 60 項目中 59 番目の低さである等、住民から図書館設置の強い要

望が出されていた。

(イ) 紫波中央駅前町有地の取得及び紫波中央駅の開業

・住民から、利便性の向上を目的として JR 日詰駅及び JR 古館駅の 2 駅間の空白地域に新駅を

開業してほしいという声が高まり、設置に向けた住民運動が行われていたが、新駅開業にあたっ

ては乗客の増加を見込むことが必要であった。

・町は、上記のとおり町役場庁舎や図書館等の公共施設整備の期待が高まりつつあったことをふ

まえ、平成 10 年 2 月に「日詰西地区土地利用基本計画」を策定し、役場庁舎、保健・福祉施設、

図書館、生涯学習センター、町民ホール、スポーツ施設を日詰西地区(現紫波中央駅前)に一体

的に整備し、乗客増加を図ることを計画した。

・一体的整備のため、町は、平成 10 年 7 月に岩手県住宅供給公社(現在は解散)から「日詰西地

区公共公益施設用地」約 107,000 ㎡を 28 億 5,000 万円で取得し、町有地とした。

・住民運動及び寄付活動もあり、平成 10 年 3 月、日詰駅及び古館駅の間に、紫波中央駅が開業

した。なお、設置費用 2 億 7,000 万円は全て住民による寄付により行われた。

イ 官民連携手法導入の背景

(ア) 東洋大学との連携

・町有地取得後、紫波中央駅前の開発は、平成 11 年 10 月のサン・ビレッジ紫波(多目的スポーツ

施設)整備、平成 13 年 11 月の紫波中央駅待合施設整備、パーク&ライド駐車場整備と進められ

てきたが、町の財政が厳しくなったことから、以降の各種整備事業が事実上凍結となった。

・そのような中、東洋大学社会人入学修士課程(公民連携専攻)に所属し町内企業に勤務する岡

崎氏(現オガールプラザ(株)代表取締役)から、町に対して、「地方自治体の財政事情が厳しいの

であれば、民間の様々な力を導入して公共目的を達成できるのではないか」という提言がもたれ

された。

・提言を踏まえ、町は、平成 19 年 1 月に東洋大学根本教授から公民連携の基本及び現状に関す

る講演を受けた。

・講演を契機に東洋大学との連携が強化され、町は、「平成 19 年度を公民連携元年とする」ことを

掲げ、平成 19 年 4 月には東洋大学との間で「公民連携の推進に関する協定」を締結するとともに、

同大学社会人入学修士課程(公民連携専攻)に町職員を公費で派遣し、連携を深めた。

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(イ) 紫波町公民連携基本計画(案)の策定

・「公民連携の推進に関する協定」締結後、東洋大学は、「地域再生支援プログラム」として、庁舎・

図書館・学校・給食センターの 3 施設を紫波中央駅前の公有地に整備することについての可能

性調査を行った。町は、平成 19 年 8 月に「整備の可能性あり」との調査結果を公表した。

・東洋大学の調査結果を受け、町は、平成 19 年 11 月に「紫波町 PPP 推進協議会」を設立した。

5 回の協議会を経て、平成 20 年 6 月、同協議会は町長に対し、提言書「町有地を活用した公民

連携手法による公共施設等整備及び経済開発に係る提言について」を提出した。

・これらの経緯を経て、町は、平成 20 年 6 月、公民連携基本計画(案)を策定した。

(ウ) 紫波町公民連携基本計画の策定

・公民連携基本計画(案)策定時期と並行して、TMO 構想に基づき設立された第三セクターであり

公民連携手法に詳しい人材を登用して事業を推進していた(株)よんりん舎から、「町とともにまち

づくりを進めたい」という申し出があった。

・平成 20 年 7 月、(株)よんりん舎の申し出を受け、町は同社へ「紫波町公民連携事業構築に係る

アドバイザリー業務」を委託した。

・(株)よんりん舎は、公民連携事業全体の事業化を目指し、町内外企業 32 社が参加する「企業立

地研究会」を設置している。企業立地研究会の目的及び検討内容は次のとおりであり、民間事業

者の発想で検討を進めることに主眼を置いたものとなっている。

図表 企業立地研究会の目的及び研究内容

目的 ・町のあるべき姿を民間事業者の発想で検討する。 ・民間事業者から見て市場性や採算性を見込むことができる整備計画の検討。 ・それに基づいたイメージ図を作成する。

主な研究内容 民間事業者と町の損得(リスクとリワード)の設計、利益配分の方法、 公有地を売買する場合の単価あるいは賃料のレベル・官民の役割分担の方法、 民の立地条件の官への伝達、町に必要な収益施設の検討

出典:オガールプロジェクト資料(オガール紫波(株))に基づき作成

・これらの検討をふまえ、平成 20 年 10 月には公民連携基本計画(案)が改訂された。改定された

計画(案)は、市民からの意見公募や意見交換会等により更なる検討がなされ、平成 21 年 2 月に

完成し、平成 21 年 3 月に議決された。

(エ) オガール紫波(株)の設立

・「紫波町公民連携基本計画」では、町有地を活用して財政負担を 小限に抑えながら、公共施

設整備と民間施設等の立地による経済の複合開発を行うことを目的に、公民が連携して進めるこ

とを計画している。

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・しかし、行政組織は、民間事業者と比較して効率的、弾力的な事業運営が困難な仕組みになっ

ていると判断した町は、平成21年6月、官と民が連携するためのエージェントの役割を担う組織と

して、オガール紫波(株)を 100%出資(資本金 3,900 千円)により設立した。

・オガール紫波(株)は、平成22 年6月に10,000千円に増資したことにより、町の出資割合は 39%

となり、第三セクターとなっている(現在の株主は、法人 8 者及び個人 2 名となっている。)。

・オガール紫波(株)は、町と「オガールプロジェクトの企画立案に関する包括協定」を締結しており、

当初設立の目的のとおり、オガールプロジェクトにおける民間投資誘導を目的とし、民間事業者と

町とをつなげる「町の代理人(エージェント)」を果たしている。

図表 オガール紫波(株)概要

会社名 オガール紫波株式会社

創立年月日 平成21年6月1日

資本金 10,000千円(創立時3,900千円)

出資者 紫波町39%、(株)紫波まちづくり計画12%、JA岩手中央10%、(株)岩手畜産流通セ

ンター10%、(株)テレビ岩手10%、(株)東北銀行5%、(株)北日本銀行5%、盛岡信用

金庫5%、八重嶋雄光2%、岡崎正信2%。(創立時は紫波町による出資が100%)

出典:オガール紫波(株)ヒアリングに基づき作成

(オ) オガールプラザ整備事業の決定及び発注

・オガールプロジェクト推進の中、(仮称)紫波町情報交流促進センターの整備が計画され、平成

19 年から町と有識者との間で事業手法等の検討が重ねられてきたが、その検討の延長線上で、

(株)よんりん舎により、「企業立地研究会」が設置された(前述)。

・企業立地研究会の場において、(仮称)紫波町情報交流促進センターを官民複合施設として整

備することが決定された。

・(仮称)紫波町情報交流促進センター整備事業(以下「本事業」という。)の事業者選定は、町と

「オガールプロジェクトの企画立案に関する包括協定」を締結しており、町の代理人であるオガー

ル紫波(株)が行うこととなった。

・なお、(仮称)紫波町情報交流促進センターは、平成 22 年 8 月に正式名称を「オガールプラザ」

と決定している(以降、本施設の記載を「オガールプラザ」と統一する。)。

・オガールプラザの施設を所有するのは、町やオガール紫波(株)等の出資により設立された特別

目的会社(SPC)であるオガールプラザ(株)であり、維持管理については、オガールプラザ(株)及

び町によるオガールプラザ管理組合により行われている。

・また、オガールプラザの設計・建設を行う民間事業者はオガール紫波(株)が別途選定している

(後述)。

・なお、オガールプラザ(株)は、オガールプラザの設計・建設を行う民間事業者が決定した後、平

成 22 年 9 月に設立されている。

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図表 町による事業実施の経緯(主要なもの)

年 月 内容

平成 10 年 2 月 日詰西地区土地利用基本計画を策定

平成 10 年 3 月 紫波中央駅開業

平成 10 年 7 月 岩手県住宅供給公社(現在は解散)から「日詰西地区公共公益施設用地」

107,000 ㎡を 28 億 5,000 万円で取得

平成 19 年 4 月 東洋大学と「公民連携の推進に関する協定」を締結

平成 19 年 7 月 よんりん舎(株)へ「紫波町公民連携事業構築に係るアドバイザリー業務」を委託

平成 19 年 11 月 紫波町 PPP 推進協議会を設立

平成 20 年 6 月 公民連携基本計画(案)を策定

平成 21 年 3 月 公民連携基本計画の議決

平成 21 年 6 月 オガール紫波(株)を設立

平成 21 年 10 月 官民複合施設であるオガールプラザの事業化開始

出典:オガールプロジェクト資料(オガール紫波(株))に基づき作成

以降、本資料ではオガールプラザ整備事業を中心に記載し、適宜【参考】として町及びオガールプラ

ザ(株)間の契約等についても記載する。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・オガールプラザは、JR 紫波中央駅前に、東棟、西棟、中央棟からなる公共施設 2,693.53 ㎡、民

間施設 2,344.28 ㎡の官民複合施設である。

・公共施設として図書館、紫波町情報交流館、民間施設として子育て応援センター、紫波マルシェ

(産直物販)、飲食施設、クリニック、学習塾等がある。

図表 位置図

出典:紫波町公表資料より作成

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図表 施設概要

施設名 概要

公共所有 (2,693.53㎡)

紫波町情報交流館 (2693.53㎡)

地域交流センター(1,252.32㎡) 町図書館(1,441.21㎡)

民間所有 (2,344.28㎡)

紫波町子育て支援センタ

ー(495.60㎡) 紫波町子育て支援センター(495.60㎡) (紫波町がオガールプラザ(株)から賃貸)

医療施設等(423.70㎡) 眼科クリニック(276.6㎡) 歯科クリニック(114.5㎡)、調剤薬局(32.6㎡)

商業施設等(1,084.80㎡) 眼鏡ショップ(31.5㎡)、カフェ(195.3㎡)、産直施設

(620.4㎡)、学習塾(167.6㎡)、居酒屋(70.0㎡)

その他(340.18㎡) 事務室等

共用部等(784.53㎡) 通路等

出典:オガールプロジェクト資料(オガール紫波(株))に基づき作成

図表 外観

出典:紫波町ホームページ、公表資料に基づき作成

イ 事業方式

・事業方式は、町が町有地に事業用借地権を設定し、オガールプラザ(株)に図書館を含む官民複

合商業施設を整備、運営させるものである。

ウ 事業期間

・事業用定期借地権設定契約の契約期間は、平成 23 年 8 月 22 日から平成 55 年 8 月 21 日ま

での 32 年間である。

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施設整備段階

運営段階

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、活用用地の対価(事業用定期借地権契約に

定める地代)である。具体的には、町は、オガールプラザ(株)から、事業用定期借地権設定契約

に基づいた借地料を毎年約 3,478 千円(32 年の総額で約 1.1 億円)を受け取っている。

図表 事業スキーム図

※1 町はオガールプラザ(株)の株主であるが、オガールプラザ(株)からの配当

を受け取らない代わりに子育て支援センターの賃料を引き下げている。

※2 当初契約額は約 10.0 億円。東日本大震災の影響により工期が延長する

等の理由で、 終的な契約額は 10.7 億円となっている。

出典:紫波町公表資料、民間事業者ヒアリングに基づき作成

町有地

借地料 【約 1.1 億円】

(約 350 万円/年)

公共施設の 買取代金 【8.4 億円】

公共施設

民間施設

商業テナント(医療、産直、飲食、学習塾等)

紫波町

出資※1 【0.7 億円】

一般会計

子育て 支援センター

賃料(子育て支援 センター)※1

オガール 紫波(株)

「(仮称)紫波町交流促進センター(オガールプラザ) 整備事業」の業務範囲

民間事業者 (RFP にて選定された事業者)

総事業費 【約 11.0 億円】

整備費 【約 10.7 億円】※2

オガールプラザ(株) (民間施設保有)

出資 【0.2 億円】

情報交流 センター

図書館

出資 【0.04 億円】

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(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属する。具体的な資金使途は決まっていない。

【参考】

・オガールプラザ整備にあたり、SPC であるオガールプラザ(株)を設立したのは、金融機関から資金

調達を円滑に行うことが大きな目的であった。

・先ずオガール紫波(株)が 20 百万円を出資して設立し、その後紫波町が 70 百万円を、一般財団法

人民間都市開発推進機構(以下「民都機構」という。)が 60 百万円を出資した。

・その他に整備に必要な資金は市中銀行から借入した。

図表 オガールプラザにおける資金調達

出典:民都機構公表資料に基づき作成

以降、本資料ではオガールプラザ整備事業における事業者選定コンペ(RFP)について記載する。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・前述のとおり、本事業の募集は、町と「オガールプロジェクトの企画立案に関する包括協定」を締

結し、町の代理人となっているオガール紫波(株)により行われている。

・オガール紫波(株)において、本事業の主たる検討者はほぼ 1 名であったが、構想段階では他職

務兼務者も含め 大 5 名程度が検討に関与していた。

・また、経済金融評論家・投資銀行家である山口正洋氏にファイナンシャルアドバイザーを委嘱し

ているほか、各分野における専門家と連携して本事業の検討を行った。

工事費

1,081.50

紫波町に売却840.00

オガールプラザ整備費 資金調達

(単位:百万円)

開発経費 18.00

公租公課 33.77

銀行借入 135.05

敷金・保証金 8.22

出資(民都) 60.00

出資(紫波町) 70.00

出資(オガール紫波) 20.00

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(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・事業用地は普通財産である。

イ 規制の変更等

・都市計画の変更等は行っていない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

(ア) 総投資額の先行検討

・オガールプロジェクト全体及び本事業の計画にあたっては、平成 19 年から町と有識者との間で

事業手法等の検討が重ねられてきた。また、その過程で、有識者及び町の企業等参加をする「企

業立地研究会」が設置された。

・本事業では、テナント入居者(民間施設)が「当該賃料以上は払うことができない」と考える賃料の

条件(オガール紫波(株)ではこれを「絶対家賃」という。)を先行して確認し、これらをもとに総投資

額を想定した上で、事業計画策定に反映させている。前述の企業立地研究会に参加する企業等

40 社程度にヒアリングを行い、絶対家賃の水準の確認を行っている。

(イ) 「設計業務に関するアイディア提案の募集(Request For Qualification;RFQ)」の実施

・平成 21 年 10 月に、本事業に関する「設計業務に関するアイディア提案の募集(Request For

Qualification;RFQ)」(以下「RFQ」という。)を公表し、提案の公募及び事業者資格審査を行っ

ている。

・平成 21 年 9 月 19 日に行われた RFQ 募集説明会には 12 社が参加し、実際の提案は 3 グル

ープからなされている。

・RFQ では、「提案者の提案するプランが不動産開発事業として成立するプランか否か」を見極め

ることが目的であると同時に、これまでにオガール紫波(株)が想定してきたプランが実現可能なも

のであるかを見極めるものでもあった。

・RFQ 審査の結果、3 グループともに課題はあるものの、実現可能性が認められるプランであった

ことから、オガールプラザの検討を継続している。

(仮称)紫波町交流促進センター整備事業アイディア提案(RFQ)審査結果について【一部抜粋】 平成 21 年 12 月 オガール紫波㈱

今回の RFQ(資格審査)では、不動産開発事業として成立するプラン(設計)を提案してくれるかどうか

を見極めることが第一の目的であり、オガール紫波株式会社がディベロッパーとして運営可能な不動産

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プランかどうかが評価の 大のポイントとなりました。 ~各グループへの評価中略~ 【今後の予定】 オガール紫波では、テナント構成などの検討を進め、来年 2 月~3 月頃に RFP 発出の予定です。 今回の提案を参考とさせていただき、オガール紫波が資金調達できる不動産事業プラン(案)を作成

し、12 月 26 日に開催されるオガールプロジェクト発表会(仮称)にて、広く発表させていただきます。

出典:オガール紫波(株)公表資料に基づき作成

イ 民間発案の有無

・民間発案に基づくものではではない。

・また、本事業の経緯については、「1(1)事業実施の経緯」も併せて参照。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・本事業は、住民の要望等に応える形で策定した「日詰西地区土地利用基本計画」に基づき、日

詰西地区(現紫波中央駅前)における、役場庁舎、保健・福祉施設、図書館、生涯学習センター、

町民ホール、スポーツ施設等の一体的整備の一環となる事業である(詳細の経緯は、「1(1)ア

事業実施の背景」を参照。)。

・事業用地の場所は前述の経緯及び「紫波町公民連携基本計画」に基づいて決定したものである

が、規模等については、事前の市場調査等も参考にし、事業が成立する規模とすることに留意し

て決定している。

第5編 公共施設整備 5-2 公共施設

紫波町総合計画後期基本計画(平成 18 年 3 月)に基づき、紫波中央駅前地区内に、町民から

の要望が多い図書館と分散する行政機能を集積した役場新庁舎を整備します。公共施設の整備

にあたっては、施設の共用や複合施設としての一体的整備等についても検討します。また、隣接地

には、公共施設を利用する人たちだけでなく、周辺住民を呼び込む賑わいの中心となる新しい事

業者の進出を促します。 (1)図書館(紫波情報交流プラザ(仮称))

図書館は、図書館機能と交流機能で構成され、知識や情報を町民の財産として共有し、未来へ

つなぐ役割を果たす賑わいのある情報交流拠点として整備します。図書館は、民間施設との複合

施設としての整備も可能です。複合施設とする場合は、それぞれの施設目的の調和など施設同士

がお互いの魅力を損なうことのないような配慮が必要です。図書館は、「図書館基本構想・基本計

画」及び「紫波情報交流プラザ(仮称)整備計画」に基づき、次の7つの使命を持つものとします。 ①「たくさんの情報に出会える場」であること。 ②「次代を担う人づくりの場」であること。

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③「まちの歴史・風土・文化に出会える場」であること。 ④「活力あるまちづくりを支援する場」であること。 ⑤「協働の推進に寄与する場」であること。 ⑥「人に出会える場」であること。 ⑦「新しい自分を発見できる場」であること。

施設は、情報交流の核として、駅利用者にも便利なように町有地内の紫波中央駅側に整備しま

す。

出典:「紫波町公民連携基本計画」

イ 施設要件及び業務内容

・前述の RFQ を踏まえ、オガール紫波(株)は、平成 22 年 5 月「(仮称)紫波町交流促進センター

整備事業事業者選定コンペ募集要項(Request For Proposal ;RFP)」(以下「RFQ」という。)

を公表し、RFQ に提案した 3 グループ(設計のみ)を対象に、建設会社を加える形で、オガール

プラザの整備事業者を募集している。

・RFP では、オガール紫波(株)における事前市場調査、RFQ 結果等を参考に、整備する施設を

次のとおり条件付けている。

図表 施設整備条件

規模 条件

土地

・事業棟エリアに係る敷地:約 5,650 ㎡(内 事業棟敷地 約 3,500 ㎡) ・駐車場敷地:約 2,000 ㎡ ・緑地及び公開空地:約 150 ㎡

建物 ・2 階建て、地上 12m 以下とする。

・事業棟延床面積:約 6,000 ㎡

予定価格 980,000 千円(税込)

事業棟内容 条件

情報交流プラザ ・事業棟の核としての位置づけ ・面積 2,600 ㎡(図書館 1,300 ㎡、地域交流館 1,300 ㎡)程度 ・蔵書規模 陛下書庫を含み、 大 190,000 冊を収容できる規模

子育て応援センター ・機能 託児所、放課後児童クラブ、調理実習室、団体活動室、研修室ほか

民間収益施設 ・オガール紫波(株)が進める募集テナントの意向に沿った配置とする ・想定テナント コンビニエンスストア、カフェ、珈琲焙煎工場、ATMコーナー、店舗(3 店

舗)、事務所(3 事務所)、病院等、産直マルシェ、宿泊施設、子育て応援

センター

共用部分 ・公共施設と民間施設の間に、施設全体を効率的に管理するための共用部

分を設定 ・面積 400 ㎡程度 ・対象 機械設備等管理に必要な施設、階段、エレベーター等の縦動線、

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各種防火防災設備、非常用階段、テナント共用トイレ、その他の共用部 ・アーケード 幅員 4m、概ね 500 ㎡

出典:オガールプロジェクト公表資料等に基づき作成

・なお、民間収益施設部分については、本事業のために設立したオガールプラザ(株)が所有して

いる。

・本事業では、不動産賃貸事業として成立するか否かを念頭に置き各事業条件を設定しているた

め、施設要件の特徴として、事前の絶対家賃額調査等を参考に、建設費用や償却費用が嵩む一

方それに見合う賃料収入の収受が見込みづらい 3 階建てとすることを認めないものとしている。

・また、民間収益施設の条件として、既に想定するテナントを示し、「オガール紫波(株)が進める募

集テナントの意向に沿った配置とする」という条件としている。

ウ 事業期間

・RFQ から RFP に至る一連の次公募プロセスは、オガールプラザの設計・施工事業者を募集する

ものであり、その期間は約 3 年である(契約後の実際の設計・建設期間は約 2 年間)。

【参考】

・オガールプラザ(株)におけるオガールプラザの運営については、不動産事業の収益性及び街並み

の維持等を考慮し、事業用定期借地権設定契約の 長期間である 30 年としている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 借地料

・町は、オガールプラザ(株)から、事業用定期借地権設定契約に基づいた借地料を毎年約 3,478

千円(32 年の総額で約 1.1 億円)を受け取っている。

・借地料は、不動産鑑定価格を基に、議会の承認を経て決定している。

(イ) 配当

・町は、オガールプラザ(株)から配当を得る代わりに、オガールプラザ(株)が所有する民間施設部

分に入居する子育て支援センターに係る賃料を引き下げることとしている。

オ 参加条件

(ア) RFQ

・RFQ における設計会社の参加条件の主な内容は次のとおりである。

・地元の活性化等にも配慮し、地域要件を設定している。

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図表 RFQ 参加条件

要件 代表企業 条件 備考

資格要件 必須 建築士法第 23 条の規定に基づく一級建

築士事務所の登録を受けていること。

必須 応募者と意匠主任担当者は、同一の組織

に属していること。

実績要件 必須 平成 11 年 4 月以降に、元請けとして床面

積 5,000 ㎡以上の公共建築物新築時の

建築設計を行った実績を有すること。

日本国内の実績に限る

必須 平成 11 年 4 月以降に、日本建築学会賞

やグッドデザイン賞等全国的な建築設計

受賞歴を有すること。

表彰状等の写しを添付するこ

と。

地域要件 建築士法第 23 条の規定に基づく一級建

築士事務所の登録を受け、且つ、平成 11年 4 月以前より、岩手県内に主たる事務

所を構えていること。

グループの場合は、構成員

が県内企業でも構わない。

実績要件 図書館の運営経験又は設計業務に関わ

ったことがある者を配置すること。 配置者の職務経歴書を添付

すること。

出典:「(仮称)紫波町交流促進センター整備事業 設計業務に関するアイディア提案の募集について」

(イ) RFP

・RFQ 参加の設計グループ及び次に示す要件を満たす建設会社で構成されたグループとするこ

とを要件としている。RFQ 同様、地域要件等を設定している。

図表 RFP 参加条件(建設会社)

要件 代表企業 条件 備考

地域要件 必須 ・平成 12 年 4 月以前より、岩手県内に主

たる事務所(本店等)または営業所を構

え、特定建設業(建築)許可を受けてい

ること。ただし、代表企業の本店が、紫波

町外の場合は、必ず紫波町内に本店を

構える特定建設業許可(建築)を受けて

いる者と JV を組むこと。

・紫波町内に籍を置く特定建

設業許可(建築)を受けてい

る者同士が JV 及び構成員

として組むことはできない。

ただし応募者が一者の場合

は別途協議する場合もあ

る。

施工実績 必須 ・平成 12 年 4 月以降に、元請けとして床

面積 1,000 ㎡以上の公共建築物の新築

建築工事を行った実績を有すること。

・岩手県内の実績に限る。

施工実績 ・平成 12 年 4 月以降に、元請けとして床

面積1,000㎡以上の複数のテナントを有

する商業用商業不動産ビルの建築を行

った実績を有すること。

・日本国内の実績に限る。設

計グループを構成する者に

同様の条件を満たす施設の

設計実績がある場合は、必

要としない。

出典:「(仮称)紫波町交流促進センター整備事業 事業者選定コンペ募集要項」

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カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは、次のとおりである。

設計業務に関するアイディア提案の募集(RFQ)開始 平成 21 年 10 月 13 日

設計業務に関するアイディア提案の結果公表 平成 21 年 12 月 13 日

オガールプラザの公民連携事業ストラクチャーを公表 オガールプラザのテナント公募を開始

平成 21 年 12 月 26 日

事業者選定コンペの募集(RFP)を開始 平成 22 年 5 月 10 日

RFP の結果公表 平成 22 年 7 月 13 日

オガールプラザ(株)及び RFP 選定事業者間において基本協定締結

(※) 平成 22 年 9 月 10 日

オガールプラザ(株)及び RFP 選定事業者が設立した特定建設工事

共同企業体間においてオガールプラザ整備の事業契約を締結 平成 22 年 11 月 1 日

紫波町及びオガールプラザ(株)間において事業用定期借地権契約

を締結 平成 23 年 8 月 22 日

オガールプラザの起工 平成 23 年 9 月 26 日

オガールプラザの完成引渡 平成 24 年 6 月 1 日

オガールプラザの開業 平成 24 年 6 月 20 日 (※)オガールプラザ(株):オガールプラザ整備事業について、施設整備目的会社として設立した会社

RFP 選定事業者:公募型プロポーザル方式選定手続により優先交渉権者となった(株)近代建築研究所、(株)

中居敬一都市建築設計、佐々木建設(株)、橘建設(株)特定建設工事共同企業体

キ 官民のリスク分担

・本事業は、オガール紫波(株)及び選定事業者との間における契約であり、その内容はオガール

プラザの設計・施工事業者を募集するものである。また、事業期間は約 2 年であり、通常の建設請

負契約に準じた契約内容となっている。

【参考】

・オガールプラザ(株)におけるオガールプラザの運営に関する、町とオガールプラザ(株)の契約に

おいては、町は事業用地をオガールプラザ(株)に賃貸しているのみであり、町は基本的に各種リ

スクは負担しない。 ・オガールプラザ(株)から第三者へ権利義務等を譲渡することは想定されていない。テナントリスク

等はオガールプラザ(株)が負担するが、同社は金融機関から3ヶ月に一度のモニタリングを受ける

ことで事業収支悪化を防ぐようにされている。

ク 事業終了時の取扱い

・現時点においては、具体的な想定をしていない。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・RFQ から RFP に至る評価プロセスは次のとおりである。RFQ は、オガール紫波(株)において事

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業成立の可能性を確認するプロセスであったと同時に、RFP 前のいわば第一次審査としての役

割も果たしている。

図表 審査プロセス

出典:オガール紫波(株)公表資料に基づき作成

・RFP の事業提案審査における審査項目・内容及び配点は次のとおりである。

図表 RFP 審査基準

審査項目 審査内容 配点

1.提案概要説明書 事業コンセプト 10

施設計画に関する提案 5

施設維持に関する提案 5

事業計画に関する提案 5

地域経済への配慮に関する提案 5

事業実施体制に関する提案 5

2.提案者の業務実績 代表企業及び各構成員の関連業務実績 ―

業務責任者の関連実績 ―

3.施設計画説明書 土地利用計画に関する提案 5

建築計画に関する提案(平面図) 10

建築計画に関する提案(立面図) 5

建築計画に関する提案(断面図) 5

建築計画説明書 1(建築計画のコンセプト、各テナント類の配置の

考え方及び動線の考え方、ユニバーサルデザインの実現方策) 10

建築計画説明書 2(意匠の考え方と具体的内容、環境配慮の方

策、ライフサイクルコスト削減方策) 10

建築計画説明書 3(子育て応援センターについて(平面図、情報

交流プラザとの連携など)) ―

外観スケッチ 5

内観スケッチ 5

家具、備品リスト 5

建築仕様に関する提案 5

4.施工 施工及び監理に関する提案 5

工程表 5

事業費内訳書 10

A社グループ

B社グループ

C社グループ

アイディア提案募集RFQ

審査A社アイディア

B社アイディア

C社アイディア

得点=持ち点

募集要項発行RFP

A社+建設会社

B社+建設会社

C社+建設会社

提案審査インセンティブ加点

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融資関心表明書 ―

合計 120

出典:オガール紫波(株)公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・RFP には 1 グループが応募し、審査の結果、優先交渉権者に選定された。

図表 審査結果

提案者 (株)近代建築研究所+(株)中居敬一都市建築設計+佐々木建設(株)

審査結果 評価点:RFP 87 点 + RFQ 23.5 点 = 110.5 点>100 点(合格点)

出典:オガール紫波(株)公表資料に基づき作成

・選定事業者の提案内容は、図書館を含む情報交流プラザ全体のレイアウトであること、建物を分

棟形式とし、設備関係を公共施設と民間収益施設の共用部分に集約したことで、施設管理区分

に配慮されている計画であること等が評価されている。また、外観、内観デザインについても、シ

ンプル且つ木質的なデザインを採用した点は、紫波町にふさわしい内容であると評価されてい

る。

・一方で、事業費等については追加的な計画提出が求められている。

○提案内容とコストの評価について 提案者は、RFP に示されている事業費(980 百万円)の中で実現できる内容を提案されたとは思

われるものの、審査委員からは提案書に記載されている具体的な説明の無い補助金の活用などの

コメントに対して、不安視する意見が出されました。また、事業費内訳書には、事業者の利益として

の経費、建中資金調達に掛る金利負担経費、不測の事態に対応する予備費が計上されていませ

んでした。また、具体的な下請企業、協力企業名を記載しないままに事業費を積み上げていること

への危険性も指摘されました。 今回のコンペは、設計者の構想や思いを真に実現する事が可能であることを示してもらうため

に、発注者からは事前に事業予算を示し、施工会社との共同提案を必須とさせていただきました

が、審査員には、そのような発注者の意向を提案者が十分に理解しているのか疑問として残りまし

た。 よって、優先交渉権者には、2010 年7月 30 日までに、木造棟 3 棟、RC 棟 2 棟、計 5 棟それ

ぞれの工事内訳書(細かな経費区分を含む)を裏付け資料として添付した上で提出することを義務

付けます。また、厳しい事業予算の中で、どのようなコスト圧縮策を講じたのかを具体的に書面で説

明していただきます。 ○図書館平面計画について

図書館を含む情報交流プラザ全体のレイアウトについては評価できます。また、建物を分棟形式

とし、設備関係を公共施設と民間収益施設の共用部分に集約したことは、施設管理区分に配慮さ

れた計画であると判断します。外観、内観デザインについても、シンプル且つ木質的なデザインを

採用した点は、紫波町にふさわしい内容といえます。 一方、情報交流プラザ、とりわけ図書館内におけるコンテンツや内部配置に関しては、いくつか

の課題が残されます。例えば、カウンターや事務室などバックヤードの配置、ウォールや高書架に

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よる仕切り、閲覧室内の段差と床材の選択、書架周りの照明など、管理者及び利用者の観点から

留意すべき点が挙げられます。 図書館の基本レイアウトやコンテンツに対する変更意見を、実施設計にどの程度反映することが

できるかが、優先交渉権者と弊社とが今後プロジェクトを進めていく上での大切なポイントになると

考えます。

出典:「(仮称)紫波町交流促進センター事業者選定コンペ RFP 審査結果について」

(6) モニタリング方法と実施状況

・本事業としては、特段のモニタリングは実施していない。

【参考】

・オガールプラザ(株)におけるオガールプラザの運営に関する、町とオガールプラザ(株)の契約に

おいては、年度決算書を提出することとなっている。 ・また、前述のとおり、同社は金融機関から3 ヶ月に一度のモニタリングを受けることとなっており、事

業収支悪化を防ぐ工夫がなされている。

3 事業実施による効果

(以下は、本事業だけではなく、一連のオガールプロジェクトにおけるものを記載している。)

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・町の未利用地が活用され、若者の交流人口が増加している。また、「行ってみたい、住んでみた

い」町になり、エリア価値が向上しているとされている。

・人口 3 万人強の町に、年間 60 万人以上の来訪者が訪れるようになった。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・未利用町有地の活用に着手することができ、開発が進むことでエリア価値(不動産価値)の向上

が図られ、周辺地域へも民間投資を招くことができたと考えられている。

・構想段階から市民も参加した町立図書館及び民間収益施設の複合施設を新設することができた。

事業化にあたっては、民間事業者の視点を十分に加えることができ、身の丈に合った(不必要な

投資を抑制する)事業とすることができたほか、地元企業による施工が実現し、地域内での再投

資サイクルをつくることができたと考えられている。

・公民連携を熟知する人材を確保することができ、エージェント組織となるオガール紫波(株)を創

設することができた。オガール紫波(株)の存在により、人的ネットワークを広げることができ、官民

の資金調達及び事業開発に際し柔軟な対応をすることができるようになったと考えられている。

・また、不動産価値が向上することにより生じる民間収益施設の収益を、公共施設の維持管理に充

て、公共の負担軽減に寄与することができていると考えられている。

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イ 課題

・現時点においては特にないと考えられている。

(3) 事業に対する評価

・当初公民連携を掲げた際には、議会や市民等から不安の声も聞かれたが、町民説明会、各コミ

ュニティ等との意見交換及び座談会、ワークショップ、フォーラム等を通じてオガールプロジェクト

に関する説明を継続した結果、述べ 1,000 人以上の町民が参加し、プロジェクトに対する理解が

深まったとされている。

・それ以降は、大きな不安の声や反対意見等は出ていないとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・計画の実施にあたっては、事業に参加しようとする民間事業者が、町の開発理念を充分に理解し

た上で、自由な発想により事業を進めていくことが重要であると考えられている。

・公共事業において想定されることが少ない、「事業収支」を念頭に置き、身の丈に合った投資計

画を策定する事が大切であると考えられている。

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(参考)基礎データ

【参考】は、オガールプラザの運営に関して記載したもの。

事業名 (仮称)紫波町交流促進センター整備事業

事業分野 まちづくり

発注者 オガール紫波(株)

施設概要

施設内容

公共施設:情報交流センター、図書館

民間施設:子育て支援センター、商業テナント(医療、産直、飲食、

学習塾等)

施設規模 木造 延床面積 5,822.34 ㎡(公共施設 2,693.53 ㎡、民間施設

2,344.28 ㎡)

事業場所 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前 2 丁目 3-3

事業概要

事業概要

民間事業者が事業用に定期借地した土地にて公共施設と民間施

設(官民複合施設)を一体的に整備するもの

【参考】

整備後、オガールプラザ(株)により民間施設を運営

民間収益施設 【参考】

約 30 年間にわたり民間施設のテナント管理及び運営を行う

事業

スキーム等

事業期間

約 2 年

【参考】

オガールプラザ運営期間は約 30 年(事業用定期借地の期間は約

32 年)

事業方式 事業用定期借地権

事業類型

事業者選定コンペ(RFP)

※事業者選定は、オガール紫波(株)が町の代理人となり実施

【参考】

オガールプラザ運営に関しては、事業類型はなし

事業規模

総事業費:10 億 9,500 万円

町による公共施設の買取価格:8 億 1,026 万円

【参考】

オガールプラザ(株)が町に支払う借地料(年間)347.8 万円

民間事業者の

業務内容

提案した施設等の設計、建設

【参考】

完成したオガールプラザの維持、運営その他関連業務

VFM

特定事業選定時 ―

事業者提案 ―

割引率 ―

審査結果

選定方式

事業者資格審査(RFQ)実施後に、事業者選定コンペ(RFP)を実施

するという2段階で設計・施工事業者を決定

RFPでの選定方式は公募型プロポーザル

予定価格 【施設全体】980,000 千円(税込)

契約金額

1,073,500 千円(税込)(契約変更後の 終金額)

【参考】

【町への公共施設部分引渡し額】840,000 千円(税込)

応募グループ 1 グループ

民間事業者 構成員 佐々木建設グループ((株)近代建築研究所,(株)中居敬一都市建

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事業名 (仮称)紫波町交流促進センター整備事業

◎は代表企業

()内は担当業務

築設計,佐々木建設(株),橘建設(株))

協力会社 -

スケジュール

設計業務のアイディア提案募集(RFQ) 平成 21 年 10 月 13 日

事業者選定コンペ(RFP)開始 平成 22 年 5 月 10 日

事業者選定コンペ(RFP)結果公表 平成 22 年 7 月 13 日

基本協定締結 平成 22 年 9 月 10 日

事業契約締結 平成 22 年 11 月 1 日

事業用定期借地権設定契約締結 平成 23 年 8 月 22 日

活用した

制度等

補助金 -

その他 事業用定期借地権

民間都市再生整備事業(財団法人民間都市開発機構の出資)

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事例 15:新松戸地域学校跡地有効活用事業

事業分野:まちづくり

事例 15:新松⼾地域学校跡地有効活⽤事業

事業場所 千葉県松戸市新松戸七丁目192 番地の 1、193 番地 千葉県松戸市新松戸五丁目179 番地の 1、180 番地の 1

公共主体 松戸市 民間主体 シダックス大新東ヒューマンサービス(株)を代表とするグループ

施設概要 公共施設

屋内施設、防災施設を備えた空地、屋内運動施設、屋外運動場、駐車場、地域交流広場

民間施設 戸建住宅

事業実施段階 施設整備段階(供用開始未済)

事業手法 事業用地の売却

公共への還元 土地等の対価(売却代金)〔13.84 億円〕

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、廃校となった近接する松戸市立の小学校、中学校の両跡地を対象に、PPP 手法の導

入により、公共的施設の整備と民間施設の整備を民間事業者が一体的に行うものである。

➤ 両跡地において、公共的施設と民間施設(戸建住宅)を開発するほか、地域交流プログラムの実

施や景観協定の締結による、まちなみを維持するための取組等、ソフト面においても積極的な提

案がなされている。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 松戸市は、民間施設を整備する市有地の売却代金として約 13.84 億円を受け取る。

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 民間事業者の参画意欲を高めるための工夫

・松戸市は、民間施設用地部分の売却価格や地代の 低価格については、開発法に基づき、民

間事業者も適切と考える水準で設定している。また、民間事業者の参画意欲を高めるため、2 校

あわせた事業とし、スケールメリットを確保している。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 民間ノウハウ活用のための事業条件上の工夫

・松戸市は、公共的施設および民間施設に導入する機能については、基本計画を基づいて明確

かつ必要 小限の条件提示とするなど、民間事業者の提案に委ねる範囲を広くし、創意工夫を

発揮しやすい仕組みとしている。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・松戸市(以下「市」という。)は、首都圏のベッドタウンとして発展し、昭和 35 年以降に人口が急激

に増加した。それに伴い、児童・生徒数も増加し、小中学校が増え続けてきた。しかし、その後の

少子化の進行によって、児童・生徒数は減少に転じ、小学校 3 校、中学校 1 校を廃校することに

なった。

・本事業の対象となる新松戸地域においては、平成 17 年 3 月に新松戸北小学校が、平成 21 年 3

月に新松戸北中学校が廃校となった。

・両校の敷地は、合計で 30,000 ㎡を超える大規模な土地であり、市民にとって貴重な財産である

ことから、跡地の活用については、慎重に検討することが求められた。そこで、新松戸地域学校跡

地有効活用検討会議(有識者・市民会議)を設置し、約 1 年間の検討を行い、議会や市民からの

幅広い意見をとりいれた「新松戸地域学校跡地有効活用基本計画」(以下「基本計画」という。)を

策定した。

イ 官民連携手法導入の背景

・当該用地の活用にあたっては、地域住民のニーズを考慮するとともに、財政状況を勘案し、後年

➤ 跡地の一部の売却または定期借地権の活用による必要な事業費の確保

・松戸市は、公共施設の整備費等、事業実施にあたり必要な事業費を起債発行等により賄うので

はなく、跡地の一部を売却することや、定期借地権を設定することで確保することを明確にした。

・また、資金収支の流れの「見える化」を図るため、基金を設置し、必要な費用を基金から繰り出す

ことにしている

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 事前の綿密な意向調査

・松戸市は、事前調査段階より地域住民の意見交換を頻繁に実施し、その意見も積極的に吸い上

げて事業条件等に反映した。また、市の HP で広く対象者を募集した民間事業者へのヒアリング

を行うなど、積極的なコミュニケーションを図っている。

● 効果

➤ 新たな財政負担なく、必要な公共的施設の整備やまちの賑わいを創出

・松戸市は、跡地の一部を売却して必要な事業費を賄うことで、財政負担なく、自らが求める機能

を満たした公共的施設を整備が可能となったほか、民間施設として戸建住宅が整備されることで

まちの賑わいが生まれると期待されている。

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度負担を軽減できるような方策や、一般会計に極力負担をかけないような仕組みを検討した。そ

して、基本計画の中で、両校跡地が果たすべき役割や整備すべき機能を定め、その実現にあた

っては、民間ノウハウを活用することにした。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業は、つくばエクスプレス南流山駅より徒歩 10 分に位置する、近接する 2 つの学校跡地約

33,192 ㎡が対象である。

図表 位置図

出典:松戸市公表資料

図表 施設概要

新松戸北小学校跡地 新松戸北中学校跡地

所在地 千葉県松戸市新松戸七丁目 191、192 番

地 千葉県松戸市新松戸五丁目 179、180 番

地 敷地面積 公共用地:7,072 ㎡

売却面積:6,300 ㎡ 合計:13,372 ㎡

公共用地:10,070 ㎡ 売却面積:9,750 ㎡ 合計:19,820 ㎡

公共施設

・屋内施設 (階数1階、延床面積:約 1,400 ㎡) ・防災施設を備えた空地 ・屋外運動場 ・駐車場 ・地域交流広場

・屋内運動施設 (体育館改修:延床面積約 1,400 ㎡) ・屋外運動場 ・駐車場 ・防災施設を備えた空地

民間施設 ・戸建住宅 ・戸建住宅

出典:松戸市公表資料に基づき作成

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図表 外観

【新松戸北小学校跡地】

【新松戸北中学校跡地】

出典:松戸市公表資料

イ 事業方式

・市は民間施設部分の事業用地を売却した上で、事業者は市が求める機能を有した公共的施設と

民間施設を整備する。

・また、市は公共的施設の維持管理業務に指定管理者制度を導入し、竣工後 4 年間は選定事業

者を指定管理者とする。

ウ 事業期間

・事業期間は、設計・施工の約 3 年間、供用開始後の維持管理期間 4 年間の計約 7 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、民間施設を整備する事業用地の売却代金で

ある。

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・市は民間事業者から事業用地の売却代金として 1,384,990 千円を受け取り、そこから既存施設

の解体撤去費、公共的施設の整備費、1 年間分の管理代行料等を支払い、その支払額の合計

は事業用地の売却代金と同額になっている。

図表 市の総収入および総支出

総収入 総支出

土地売却代金 1,384,990 千円 既存施設の解体費 342,000 千円

公共的施設の設計費 81,000 千円

公共的施設の整備費 878,000 千円

工事監理費 23,000 千円

管理代行料(1年間)分 未定

設備・備品購入費 未定

合計 1,384,990 千円 合計 1,384,990 千円

出典:松戸市公表資料およびヒアリングに基づき作成

・事業用地の売却代金は分割払いとなっており、事業者は仮契約締結と同時に契約保証金(売買

代金の100分の10に相当する金額)を納付し、残りの金額は本契約締結後の指定期限までに納

付することになっている。

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図表 事業スキーム図

※1 「公共的施設の整備に係る契約」を締結

※2 「既存施設の解体撤去に係る契約」を締結

※3 指定管理者制度に基づく管理代行料の竣工後 初の1年間分及び開設時に必要な設備、備品等

の購入費等。管理代行協定を締結

※4 土地売買契約を締結

出典:松戸市公表資料に基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・市は、収支の流れの見える化を図るために、「新松戸地域学校跡地有効活用事業基金」を設置し、

事業者

○管理代行(代表企業):シダックス大新東ヒューマンサービス(株) ○解体撤去・建設 :新日本建設(株) ○設計・工事監理 :パシフィックコンサルタンツ(株)

松戸市

同額 ・公共的施設の整備費※1 ・既存施設の解体撤去費※2 ・公共的施設の維持管理費(1年間)※3

【13.84 億円】

防災機能 スポーツ機能 (屋外運動場)

市民活動拠点機能 誰もが憩える機能 子どもを育む機能

学ぶ機能 (屋内施設)

地域交流広場

防災機能(防災施設を備えた空地)

市有地

開発費

事業用地の売却※4 【13.84 億円】

施設整備段階

運営段階

開発費

○民間施設開発 :(株)中央住宅

新松戸地域学校跡地有効活用事業基金

公共的施設

戸建住宅

民間施設

事業用地(売却)

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事業用地の売却収入を積み立て、以降に発生する費用を基金から繰り出すこととしている。

・基金に積み立てられた事業用地の売却収入の使途は条例で定められており、既存施設の解体

撤去費、公共的施設の設計費、建設費、工事管理費や、1 年間分の管理代行料、設備・備品購

入費等に充当されることになっている。

・なお、市が基金から繰り出す支出の中に含まれる管理代行料は 1 年間分だけであり、残りの 3 年

間分の管理代行料は一般会計から支出することになっている。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業は、現在街づくり部街づくり課新松戸学校跡地担当室が担当している。各検討段階にお

ける庁内の事業実施体制は以下のとおりである。

図表 検討体制

年度 担当部署 内容

平成 19~22 年度 総務企画本部 政策調整課 学校跡地担当室

市内 4 校の学校跡地の有効活用案の検討

平成 23 年度 総務企画本部 政策調整課 学校跡地担当室

新松戸地域の学校跡地 2 校の有効活用に関

する基本計画案を策定

平成 24 年度 総務企画本部 政策調整課 学校跡地担当室

事業者の募集及び選定、基本協定の締結

平成 25 年度 財務部 財産活用課 事業に係る契約の締結 ・土地売買契約 ・既存施設の解体撤去工事請負契約 ・新施設の設計委託契約

平成 26 年度 街づくり部 街づくり課 新松戸学校跡地担当室

解体撤去工事の実施 新施設の設計協議 新施設の建設工事請負契約等の締結

平成 27 年度 街づくり部 街づくり課 新松戸学校跡地担当室

新施設の建設工事等の実施

出典:松戸市ヒアリングに基づき作成

・市は、導入可能性調査及び事業者選定支援業務を、(株)日本経済研究所、(株)現代建築研究

所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・市が学校跡地を民間事業者に宅地として有償譲渡する場合に留意することが必要な国庫補助相

当額を国に納付する財産処分手続の免除要件は、「国庫補助金を受けずに保有している当該学

校や関連校の学校用地と換地する場合」のみであったことから、教育委員会等と連携して、新松

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戸北中学校及び小学校の関連校について調査した。換地による補助金免除は、千葉県内でも事

例がなかったことから、県と密に連絡を取り合い、国に確認しながら対応した。

イ 規制の変更等

・特になし

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・市は、平成 21 年度に実施した「学校跡地有効活用調査検討」の中で大手の住宅開発事業者に

対してアンケートでの意向調査を実施している。なお、公共施設と併設可能な民間事業者として、

社会福祉法人を対象にアンケートを送付したが、回答は得られなかった。

・市は、平成 24 年には市場調査として HP 上で民間企業へのヒアリング調査を実施している。

図表 事前調査等の実施内容

平成 21 年度 学校跡地有効活用調査検討を実施

平成 22 年 2 月~ 平成 23 年 3 月

計 8 回の「新松戸地域学校跡地有効活用検討会議」を開催

平成 23 年 8 月 26 日 子どもを対象としたワークショップ

平成 23 年 10 月 1 日 大人を対象としたワークショップ

平成 24 年 3 月 1 日~30 日 基本計画(案)についてのパブリックコメント募集 ➜18 名から 99 件の意見あり

平成 24 年 7 月 17 日~25 日 民間事業者へのヒアリング調査(HP 上で募集) 【主なヒアリング事項】(所要時間:1 時間) ・この跡地への評価について ・導入が想定される民間施設や公共施設との一体整備に伴う

注意点について ・本事業への参画可能性と参画条件等について ・事業スキーム(事業手法、事業期間等)について ・その他、市に対してのご要望、ご意見

出典:松戸市公表資料に基づき作成

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・市は、平成 17 年 3 月に新松戸北小学校、平成 21 年 3 月に近接する新松戸北中学校が廃校と

なったことによる跡地の活用という行政課題のもと、本事業を実施している。

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・市は、民間事業者がスケールメリットを活かせるよう、当該跡地は分割せずに一体的に整備するこ

ととし、それぞれの事業用地において、必ず公共施設を整備するものとした。なお、事業用地面

積は、売買または賃貸する部分が少ない提案、つまり公共施設を整備する事業用地面積が大き

いことを高く評価することにした。

イ 施設要件及び業務内容

・市は、当該跡地の活用にあたって以下の 5 点を基本的な考え方とし、事業条件を設定している。

図表 基本的な考え方

① 地域の防災拠点としての機能を維持するとともに、積極的に地域において防災活動を行うた

めの基盤となるように跡地を活用します。

② 今後急速に進むことが予想される少子高齢化を見据え、未来を担う子どもたちが元気に楽しく

過ごせ、高齢者とも交流でき、双方がいきいきと過ごせるような場所を設置します。

③ 若い世代が積極的に松戸市に住むことを選択するような魅力のある子育てしやすい施設と仕

組みを整備します。

④ 若い世代が松戸市に定住し、その子どもたちもその地域で生活できるような住環境を整備する

ために跡地の一部を売却し、または定期借地権を設定するなどして居住地として整備します。

⑤ 跡地の活用にあたっては、民間からの提案を活かし、松戸市の財政的負担を十分に考慮する

とともに、 大の効果を引き出すことを目指します。

出典:松戸市公表資料に基づき作成

・市は、上記の基本的な考え方に沿った具体的な施設、機能を有する公共施設および民間施設

の整備を民間事業者に対して求めた。市が民間事業者に対して提示した施設要件は以下の通り

である。

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図表 施設要件

ア 公共的施設 次の機能を取り入れた公共的施設を整備する。ただし、想定される施設はあくまで例示であり、こ

れに限定するものではない。 公共的施設は、過剰、華美なものではなく、市民のニーズにあったものとし、初期整備費用だけ

でなく修繕計画を見据えたライフサイクルコストの低減策を取り入れ、管理運営についても費用の

節減に努めるように考慮するものとする。 ①両方の事業用地に整備するもの

機能 想定される施設

a 防災機能

②事業用地に整備する公共施設の機能

機能 想定される施設

a 市民活動拠点機能 多目的室、ホールなど

b 誰もが憩える機能 フリースペースなど

c 子どもを育む機能

子どもを育成する機能 室内遊具、絵本、ほふく室など

子どもが楽しむ機能 大型遊具、砂場、水遊び場など

子どもの活動支援機能 自習室、スポーツ器具(サッカーやバスケットゴール、壁打ち

連取の壁など)、防音室など

子どもが集う機能 フリースペースなど

d 学ぶ機能 自習室等

e スポーツ機能 屋外運動施設、屋内運動施設など

③その他 ・両方の事業用地に駐車場、駐輪場等の施設等を整備する。 イ 民間施設

次の機能を取り入れた民間施設の導入を図る。ただし、想定される施設はあくまで例示であり、こ

れに限定するものではない。 導入に当たっては、事業の背景及び目的、別途公表されている新松戸地域学校跡地有効活用

検討会議からの答申、基本計画等をよく理解した上で提案すること。

機能 想定される施設

a 若い世代を呼び込む機能 子育てに優しい住居、住居が交流を図れる共有スペース、保

育施設、ベビー用品や日用品を売っている小規模商店、小

児科などの医療施設等

b 新松戸に定住したくなる機能 住み替え時に選ばれるような戸建住居、高齢者になっても住

みやすい住居など

出典:松戸市公表資料に基づき作成

・公共的施設は、市が示した機能を満たす施設であれば、整備する場所や具体的な施設内容、諸

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室構成・面積等についても民間事業者の提案に委ねることとしている。また、既存施設の活用有

無についても選択制となっており、一定の条件を満たせば活用することも可能としている。

ウ 事業期間

・事業期間は、施設の設計・建設期間を約 3 年、公共施設の維持管理運営業務を竣工後 4 年間と

している。なお、市では指定管理者の指定期間は原則 4 年としている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 売却代金・地代

・市は、売却や定期借地権を設定する面積は、以下の費用を確保する分だけとし、可能な限り

小限に留めるものとした。これは、売却対象とならなかった土地が新規の公共施設用地となる事

業であり、可能な限り公共施設用地を大きく残したいという市の考えに基づくものである。

図表 土地売却代金等の支出の対象となる費用

①既存施設の解体及び公共的施設の整備にあたり必要な費用

②公共的施設の維持管理運営に必要な費用(指定管理者制度に基づく管理代行料の竣工後

初の1年間分及び開設時に必要な設備、備品等の購入費等をいう。)

出典:松戸市公表資料に基づき作成

・なお、民間事業者の提案により、事業用地の一部に定期借地権を設定する場合は、貸付けは一

般定期借地権と事業用定期借地権のいずれかによるものとされており、期間は事業者提案により

協議のうえ設定されることになっていた。

・事業用地の 低売買単価及び 低貸付単価は開発法(想定した事業によって将来得られる販

売総額を価格算定時点に割り戻した額から、これから支出する建物建築費、造成費等、開発者

が直接負担すべき費用を控除して、事業採算に見合う土地価格を求める手法)に基づき算出さ

れた不動産鑑定評価額をもとに以下のように定められている。

図表 事業用地の 低売買単価及び 低貸付単価

低売買単価(円/㎡) 低貸付単価(円/㎡/年)

新松戸北小学校跡地 85,200 1,020

新松戸北中学校跡地 77,400 930

出典:松戸市公表資料に基づき作成

・事業用地を売却するにあたっては、議会の議決を経て処分が行われている。

・なお、提案時の金額は確定ではなく、その後、市と民間事業者が締結する売買契約において明

確化されることになっている。

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オ 参加条件の設定

・民間事業者の参加条件としては、公共的施設の設計、建設、維持管理運営における類似実績の

ほか、一定以上の経営状況(例.過去 3 期連続で事業キャッシュフロー規模がマイナスになって

いないこと)であることが求められている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 24 年 9 月 現地見学会 平成 24 年 9 月 実施方針に関する質問回答公表 平成 24 年 9 月 募集要項の公表 平成 24 年 11 月 募集要項に関する質問回答公表 平成 24 年 11 月 参加表明書の提出 平成 24 年 11 月 30 日 提案書の受付 平成 25 年 1 月 11 日

審査結果の公表(優先交渉権者選定) 平成 25 年 2 月

基本協定の締結 平成 25 年 3 月 土地売買契約 平成 25 年 10 月 既存施設の解体撤去に係る契約 平成 25 年 10 月 公共的施設の整備に係る契約 平成 27 年 3 月 公共施設設置条例等の制定 平成 27 年度中に予定 指定管理者の指定(行政処分) 平成 28 年度中に予定

管理代行協定締結 平成 28 年度中に予定

出典:松戸市公表資料に基づき作成

・市は事業者選定プロセスの中でヒアリングを実施し、評価の対象としている。

キ 官民のリスク分担

(ア) 民間施設の整備・販売計画等が変更となった場合

・本事業については、民間施設の整備・販売等のリスクは全て民間事業者が負うものとなっている。

・民間施設については、事業開始後において、募集要項に明記した条件は変更できないが、募集

要項を元にした民間事業者からの提案内容については、市との協議により変更は可能とされてい

る。

・公共的施設の所有及び管理は市が行うため、基本的には民間事業者が負うリスクはない。

(イ) 地価の変動があった場合

・地価の変動等、本事業における経済的リスクは原則的に全て民間事業者が負うことになってい

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る。

(ウ) 契約上の地位の譲渡等

・第三者への権利義務譲渡について、売却の場合は可能であるが、定期借地権の場合は権利義

務は譲渡できないとされている。

ク 事業終了時の取扱い

・公共的施設の管理代行業務の期間は竣工後 4 年間となっており、その後の取扱いは未定である

が、引き続き、指定管理者制度を利用し、管理運営を行う可能性が高い。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・評価基準は 100 点満点のうち、公共施設に関する評価が 50 点、民間施設に関する評価が 10

点、価格に関する評価が 10 点となっている。

図表 評価項目

提案審査の評価項目 配点

①事業計画に関する提案 85

事業について 事業コンセプト 5

15 事業スキームと事業実施体制 5

事業のリスク 5

公共的施設の整備について 施設全体について 5

50 導入機能について 30

業務の実施体制 10

維持管理に関する費用 5

民間施設について (施設の内容、各機能に対する考え方(PR)と具体

的な導入方策)

若い世代を呼び込む機能 5 10 新松戸に定住したくなる機能

5

事業費について (事業用地の面積について) 5 10

(事業用地の単価について) 5

②周辺環境に配慮する提案 5

③事業用地周辺のまちづくりに資する自由提案 10

合計 100

事業費に

ついて ・売買及び賃借する事業用地面積が 小の提案を満点とし、差に応じて

点数を算出。 5 点

・両事業用地における売買単価及び貸付単価の貸付期間の合計(割引率

4%で現在価値化したもの)との平均が も高価な提案を満点とし、

差額に応じて点数を算出。 評価の対象とする単価=(新松戸北小学校

5 点

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跡地の売買単価+新松戸北小学校跡地の貸付期間中の単価合計+新松

戸北中学校跡地の売買単価+新松戸北中学校跡地の貸付期間中の単価

合計)÷提案した単価の種類数

出典:松戸市公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 3 者から応募があった。その総合評価結果は次のとおりである。

図表 総合評価結果

シダックス大新東ヒューマンサービス 新昭和 (非公表)

410.5 336.5 312.5

優秀提案 優秀提案

出典:松戸市公表資料に基づき作成

・選定された提案については、審査講評において、次のような点が評価されている。

図表 選定された提案への評価

・新しい防災拠点、市民活動拠点を整備し、地域の魅力を大幅に向上させることを開発コンセプト

に掲げ、両事業用地において公共的施設と民間施設(戸建住宅)を開発するというバランスの良

い提案となっている。

・小学校跡地に戸建の子育て支援モデル住宅を提供し、市内外への波及を図ると共に、建物から

植栽まで街並みを維持するための景観協定を締結し、市の景観条例適用第1号を目指すという発

展性のある提案となっている。

・中学校跡地には、戸建住宅を提供し、耐震強度に配慮することや景観の美しさを共有するという

観点からまちづくりへの参加意識を高めていくことなど、定住したくなる方策が計画され、既存地域

も含めたワークショップやイベント等を通じて地域のコミュニティー形成を支援するといった意欲的

な提案となっている。

・施設整備のみならず、地域交流プログラムの実施や景観協定の締結によるまちなみを維持するた

めの取組等、ソフト面においても積極的な提案となっており高く評価された。

出典:松戸市公表資料に基づき作成

(6) モニタリング方法と実施状況

・民間施設の整備を担当した民間事業者から、適宜戸建住宅の整備状況や販売状況等の情報を

得て状況を把握している。

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3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・供用開始前の段階であり、運営は開始されていない。

イ 事業収支状況

・供用開始前の段階であり、運営は開始されていない。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・継続中の事業であり、本事業の評価は今後の課題と考えられている。

イ 課題

・継続中の事業であり、本事業の評価は今後の課題と考えられている。

(3) 事業に対する評価

・継続中の事業であり、本事業の評価は今後の課題と考えられている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・事業費の確保及び新施設の設計・施工・管理を一括にして事業者募集を行い、事業を進めてい

くことに対する、市側の対策(組織やシステム)を整えていくことが重要と考えられている。

・入札公告前より市と地域住民の意見交換を頻繁に実施しており、市も積極的に意見を吸い上げ

て実施した事業であり、民間事業者としても取り組みやすい事業であったと考えられている。

(2) その他

・学校跡地を活用する場合、補助金の返還は大きな障害になり得ると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 新松戸地域学校跡地有効活用事業

事業分野 まちづくり

発注者 松戸市

施設概要

施設内容

公共的施設(屋内施設・防災施設を備えた空地・屋外運動場・駐

車場・地域交流広場)

民間施設(戸建住宅)

施設規模 総敷地面積:約 33,192 ㎡

事業場所

千葉県松戸市新松戸七丁目 192 番地の 1、193 番地

千葉県松戸市新松戸五丁目 179 番地の 1、180 番地の 1

寄駅:つくばエクスプレス南流山駅(徒歩約 15 分)

事業概要 事業概要

廃校となった小学校と中学校の跡地に、公共施設と民間施設を

一体的に整備する事業。

民間収益施設 戸建住宅

事業

スキーム等

事業期間 約 7 年間

事業方式 -

事業類型 -

事業規模 1,384,990,000 円(設計費、解体費、建設費、工事管理費、一年

間分の管理代行料 等/事業用地売却額)

民間事業者の

業務内容

・公共的施設の整備、維持管理運営

・民間施設の建設及び必要な一切の業務

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 公募型プロポーザル方式

予定価格 -

契約金額

1,384,990,000 円

(事業用地売却額=公共施設の設計費・建設費・工事管理費、一

年間分の管理代行料、既存施設の解体費 等)

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎シダックス大新東ヒューマンサービス(株)(管理代行)、パシフィックコ

ンサルタンツ(株)(設計・工事監理)、新日本建設(株)(解体撤去・建

設)、中央住宅(株)(民間施設開発)

協力会社 (株)東海テック

スケジュール

実施方針公表 平成 24 年 9 月

入札公告 平成 24 年 10 月

提案受付 平成 25 年 1 月

落札者決定 平成 25 年 2 月

契約締結 平成 25 年 3 月

供用開始 平成 28 年度(予定)

活用した

制度等

補助金 -

その他 -

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事例 16:出石小学校跡地整備事業

事業分野:まちづくり

事例 16:出⽯⼩学校跡地整備事業

事業場所 岡山県岡山市北区幸町10-9

公共主体 岡山市 民間主体 両備ホールディングス(株)

施設概要

公共施設 コミュニティ施設、都市公園

民間施設 駐車場、分譲マンション、賃貸マンション、スポーツクラブ、介護付優良老人ホーム

事業実施段階 供用開始

事業手法 定期借地権による貸付料

公共への還元 土地等の対価(借地料・貸付料)〔約13.87 億円(約0.25 億円/年)〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 岡山市の中心市街地に位置する好条件な事業用地

・JR 岡山駅に近い中心市街地に位置し、市街地活性化に大きく寄与する可能性があり、市民や

住民からも大きな期待が寄せられている土地での事業であり、民間事業者の取組意欲も高かっ

た。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 地元の要望を反映した小学校跡地活用方針

・岡山市は、地域コミュニティの中心であった学校跡地を活用することから、事業の実施にあたっ

ては、地元の要望を踏まえた跡地の活用方針を策定したうえで、事業条件を設定している。

➤ 定期借地権の活用

・岡山市は、市中心部に立地する利用価値の高い事業用地において、定期借地権を活用するこ

とで、政策意図を反映した事業が可能となる一方、事業終了後には土地の返還を受け、その後

は社会情勢に応じた事業を実施することが可能である。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、廃校となった出石小学校の跡地において、定期借地権を設定し、公共性が高く、中心

市街地活性化・定住推進等に寄与する施設の整備を民間事業者に委ねたものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 岡山市は、民間事業者から、事業用地の貸付料として、約 13.87 億円を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・岡山市(以下「市」という。)では、中心市街地のエリア内の人口が減少し、児童数も減少している

ことや新たな学校教育を推進していくため、小学校の統廃合が行われており、これに伴い発生す

る学校跡地の活用が重要な課題となっていた。

・出石小学校は平成 14 年 3 月 31 日に閉校されたが、JR 岡山駅に近く、中心市街地に位置し、

市街地活性化に大きく寄与する可能性があり、市民や住民からも大きな期待が寄せられているこ

とから、「活用方針(案)」を作成し、公園、広場等の公共空間整備を中心とし、中心市街地活性化

や定住促進に資する住宅、高齢者や子育て支援機能を持った複合施設を中核とした施設を整

備することにした。

図表 出石小学校跡地活用方針

・下石井公園・西川緑道公園との一体的整備を行い緑の拠点防災拠点をつくる ・下石井公園・西川緑道公園・西川アイプラザとの連携をはかり、賑わいと都心回遊の拠点をつく

る。 ・恵まれた立地条件を 大限に活用し良好な住環境を創出し人口の定住をはかる ・良質な住宅供給を行う。 ・多世代が交流できる多様な環境をつくり、良好なコミュニティをつくる。 ・感性豊かな子どもが育ち、高齢者が生き生きと暮らせる「まち」をつくる。 ・多くの市民が訪れ交流できる開かれた「まち」をつくる。 ・民間開発のモデル的事例とする。

出典:岡山市公表資料に基づき作成

◇ 官民間でのコミュニケーションの特徴・工夫

➤ 民間ノウハウを 大限活用し、参画しやすい事業スキーム

・岡山市は、民間事業者が参画しやすく、さらに民間ノウハウを 大限活用できるよう、事業スキー

ムの詳細については、市との協議によって定める部分を多くしている。

● 効果

➤ 中心市街地活性化を実現

・多様な世代の住民の居住や、人の流れを生む民間施設を整備したことで、中心市街地活性化を

実現している。

➤ 市の経費支出を削減

・岡山市は、学校施設の解体費や都市公園・コミュニティハウス等の公共施設の整備費を、賃料算

定の際の土地の基礎価格から差し引くものとし、市の財政支出を抑えて事業を行うことができた。

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イ 官民連携手法導入の背景

・当該用地は市の中心部に位置する貴重な土地であり、行政が保有する必要があるものの、財政

支出を抑えながら、中心市街地活性化・定住推進等に寄与する施設を整備することが求められて

いたため、官民連携手法を導入することにした。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・事業用地は、JR 岡山駅より徒歩 10 分にある出石小学校跡地で、市内でも利便性の高い場所で

ある。

・市は、出石小学校跡地から都市公園部分の面積を除いた土地9,412.39㎡に一般定期借地権を

設定して事業者に貸し付ける。事業者は公共施設としてコミュニティ施設や都市公園、民間施設

として定期借地権分譲マンション、賃貸マンション、立体駐車場、介護付有料老人ホーム、スポー

ツクラブ(自由提案施設)を整備したうえで、公共施設部分は施設の整備後に市に引き渡す内容

となっている。

図表 位置図

図表 施設概要

出典:岡山市公表資料

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図表 施設概要

民間施設 定期借地権付き分譲集合住宅 RC 造 12 階建 66 戸

民間施設 賃貸集合住宅 RC 造 11 階建 74 戸

民間施設 屋上庭園付立体駐車場 S 造 3 階建 178 台

民間施設 介護付有料老人ホーム S 造 4 階建 54 室

民間施設 スポーツクラブ S 造 3 階建

公共施設 コミュニティ施設 S 造 2 階建

公共施設 都市公園 公園を小学校の一部として使用していた部分の整備

出典:岡山市公表資料に基づき作成

図表 外観

出典:岡山市公表資料

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イ 事業方式

・事業方式は、市が市有地に定期借地権を設定し、民間事業者に施設を整備させるものである。

・市は、当事業用地は小学校の跡地であり、市民共通の財産であるとの認識から、市が土地所有

者として事業を一定程度コントロール可能である点、事業終了後には社会情勢の変化に応じて

市が新たな施設の建設が行える点から、定期借地権の活用を前提とした事業条件とした。

・事業手法を選択する際に PFI や信託事業等も候補にあがったが、本事業は公共施設の整備を

主とする事業ではなく、小学校跡地を活用して民間収益事業を実施するものであったこと、手続

面でも も簡単であることから、定期借地権が も適当と判断された。

ウ 事業期間

・定期借地権による民間事業者への土地の賃貸借期間は事業者と市の協議によって決定すると

されており、協議の結果 54 年間となっている。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は事業用地の貸付料で、当初の賃料は

25,678,000 円/年である。貸付料は 3 年ごとに見直しを行うことになっている。

・なお、従前の建築物・工作物等の除却費用や、新設する公共施設の整備費用については、市と

事業者の協議により土地の貸付料から差し引くこととしており、25,678,000 円/年は差し引き後の

金額である。

・市は、事業の実施にあたって、「補助事業の要件に該当する場合は、その活用を十分検討すべ

き」と募集要項でも示しており、民間事業者は、暮らし・にぎわい再生事業計画を作成し、「都市機

能まちなか立地支援」および「賑わい空間施設整備」のメニューを活用することで、国土交通省お

よび市から補助金としてそれぞれ 45,300 千円を得ている。

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図表 事業スキーム図

※1 岡山市と民間事業者との間で一般定期借地権設定契約を締結(地代は 3 年ごとに見直しあり)

※2 従前の建築物・工作物等の除却費用や、新設する公共施設の整備費用については、岡山市と民

間事業者の協議により、賃料算定の際に土地の基礎価格から差し引く(当初地代の 25,678 千円/

年は差し引き後の金額)。

出典:岡山市公表資料およびヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属し、使途は特に定められていない。

岡山市

一般会計

暮らし・にぎわい再生事業

地代※1 【約 13.87 億円】 (25,678 千円/年)

民間事業者

収入

暮らし・にぎわい再生事業

市有地

補助 【約 0.45 億円】

整備費 【約36億円】

定期借地権付分譲マンション

介護付有料老人ホーム

賃貸マンション

スポーツクラブ

民間施設(定期借地権)

コミュニティ施設

公共施設

都市公園

整備費 【約 3 億円】

屋上庭園付き立体駐車場

補助 【約 0.45 億円】

施設整備段階

運営段階

公共施設整備代金 【3.3 億円】※2

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2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、政策局政策企画課が担当しているが、過去においては、他部が担当してい

る。各検討段階における庁内の事業実施体制は以下のとおりである。

図表 検討体制

構想段階~契約締結 平成 14 年~ 平成 17 年

企画局総合政策部事業政策課都心活性化対策室

着工~ 平成 17 年~ 政策局政策企画課 出典:岡山市ヒアリングに基づき作成

・構想段階から契約締結までは中心市街地活性化を担当している企画局の都心活性化支援対策

室が担当していた。着工以降は、政策局政策企画課において、土地の貸付料の入金確認や貸

付料の改定、モニタリング等を実施している。

・市は、本事業のプロポーザル実施支援業務と契約支援業務を(株)不動産経済研究所に委託し

ている。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・事業用地は学校が閉校となった段階で通常の手続に則して行政財産から普通財産へ用途変更

を実施している。

・用途変更に際して、補助金や起債の問題もなかったため制約等はなかった。

イ 規制の変更等

・本事業の実施にあたり、公園の区域を拡張しているが、都市計画の変更等は行っていない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・市は、事業化を検討するにあたって、民間事業者ヒアリングを 80 社程度実施した。平成 13 年 7

月に「出石小学校廃校後の要望書」が提出され、住宅や高齢者向け施設を含む複合施設を望む

声が提出されており、その要望は市の考えとも合致したため、当初より住宅を整備することを前提

に、デベロッパーを中心にヒアリングを実施している。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

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(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・平成 14 年 3 月に出石小学校が閉校となったことによる跡地の活用という行政課題のもと、本事業

が実施されている。

イ 施設要件及び業務内容

・公共性のある施設の整備については、地域に対する貢献・連携を前提として、公共性が高く、中

心市街地活性化・定住推進等に寄与する施設(公園・広場等と住宅、高齢者や子育て支援機能

を持った複合施設)を中核とした施設を提案することが民間事業者に求められ、それに応じた施

設要件となっている。

・公共施設の維持管理業務については、本事業の中心事業でないことや、従来も市が実施してい

たこと、公共施設と民間施設を明確に分けておくほうが、お互い管理しやすいというメリットもあるこ

とから業務範囲外とした。

・なお、公共施設の整備金額については、優先交渉権者選定後に、市民や市が望ましい施設に

すべく要望を出したうえで、それに見合った施設を整備している。

ウ 事業期間

・事業期間について、募集要項には明確に期間が示されていない。施設整備については、公共施

設の使用に空白期間が生じないよう民間事業者が適切な工期を設定するようになっている。また、

定期借地期間についても、事業運営期間に施設の建設工事期間及び除却工事期間を加えた期

間とし、事業者と市の協議によって決定するとされている。

・結果的に、土地の賃貸借期間は 54 年間となっている。事業者からの提案も 50 年であり、協議の

過程において市との要望の違い等は発生していない。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 土地の貸付料

a 設定方法

・貸付料は当初、25,678,000 円/年とし、3 年ごとに見直しを行うこととしている。貸付料の設定方法

は以下のように定められている。

図表 土地の貸付料

・相続税課税標準価格を元に事業者と岡山市の協議によって土地の貸付料を決定します〔公共施

設の整備の割合、地域への貢献を考慮し岡山市と事業者が協議して決定します。都市公園・公

共施設の整備に要した費用(既存施設の解体撤去費、現有公共施設の移転費・新設費等)は内

容に応じて、土地の貸付料から差し引くこととします(金額については岡山市と事業者が協議して

決定します。)。また、一般定期借地権の場合、1年間の土地の貸付料は土地の相続税課税標準

価格の 2%以下を予定しており、一時金(保証金・権利金等)については徴収を予定していませ

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ん。また、賃料については 3 年ごとに見直すこととします〕。 ・なお、定期借地権による賃貸借契約を行う場合、貸付料が適正価格より低いと岡山市が判断した

場合は、岡山市議会の議決を経て契約をすることとなります(参考:共同住宅の一般定期借地の

賃料率:1.92%:全国定期借地権付住宅の供給実績調査・平成 15 年 6 月・定期借地権普及促

進協議会)

出典:岡山市公表資料に基づき作成

・貸付料を協議により定めるとしたのは、市で条件を決めて提示するのではなく協議事項を増やす

方が参加者を増やすことになると考えたことや、本事業の目的が貸付料で稼ぐことではなく、地元

の要望を踏まえたまちづくりや中心市街地活性化だったことが大きい。貸付料を高く設定すると、

終的にマンションの価格や賃料に反映され、住める人が限定されてしまい、市が求める多様な

世代の定住促進につながらないことが懸念された。

・なお、貸付料を協議としたことで、民間事業者はメリットもデメリットもあるが、賃料率 2%という上限

を設けることで一定の安心感を与える仕組みとしている。

・また、市は民間事業者の初期投資コストを抑えるため、保証金納付を必須としておらず、本事業

では両備バスの親会社の保証を取得している。

b 実際の貸付料の計算方法

・選定された民間事業者と協議した上で決定した実際の貸付料の計算方法は以下のとおりであ

る。

賃料年額=[土地価格(土地単価×土地面積)-公共施設整備費等]×賃料率 1.97%

・貸料率が 1.97%になっているのは、住宅部分を 1.92%(定期借地権マンションの全国実例平均)

とし、その他の部分を 2%(募集要項で定めた上限)で設定したことによる。

・市の土地貸付料規程(住宅用及び非営利事業用途の場合、相続税課税標準価格×3%)では、

定期借地権マンションの全国実例平均 1.92%に照らして不適当だったため、規程の貸付料算定

の特例を適用して算出した。

c 貸付料の見直し

・貸付料は、市の土地貸付料規程に基づき、3 年ごとに改定する。改定の仕組みは以下のとおりで

ある。

改定基準賃料 = 従前の賃料×物価変動率(※) ※物価変動率 [賃料改定年の前年の年平均の総務省統計局発表の消費者物価指数(岡山市・総合指数)]÷[従前の賃料決定時に採用した総務省統計局発表の消費者物価指数(岡山市・総合指数)]

・改定率を地価変動率とすると、土地価格の上昇により現実離れした賃料水準になってしまう可能

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性があるため、現実的な数字に近くするため物価変動率を採用した。

・事業開始後の貸付料改定の実績は以下のとおりである。

図表 貸付料改定の実績

改訂時期 賃料年額

当初賃料 25,678,000 円

第一回改訂(平成 21 年) 26,269,000 円

第二回改訂(平成 24 年) 25,654,000 円

第三回改訂(平成 27 年) 26,295,000 円

出典:岡山市公表資料に基づき作成

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件として、設計・建設・管理・運営等の各業務について類似施設の実績を

求めた。

・本事業は、定期借地権を活用して民間収益事業を行う事業であり、参加者の間口を広げるため

にも SPC の設立を必須としていない。

・また、応募者は、事業履行の確実性を高めるため、公共施設及び保育園以外の施設について運

営主体を選定し、施設整備内容及び経済条件等について提案書の提出前に必要な協議を行い、

双方合意のうえ、本事業に参加することが求められている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 15 年 7 月 25 日 民間事業者からの意見募集終了 平成 15 年 8 月 22 日 公募審査委員募集開始 平成 15 年 9 月 1 日 公募審査員募集締切 平成 15 年 9 月 30 日 募集要項公表 平成 15 年 10 月 17 日 現場説明会開催 平成 15 年 10 月 28 日 民間事業者からの質問締切 平成 15 年 11 月 7 日 第一回審査委員会開催 平成 15 年 11 月 30 日

質疑に対する回答公表 平成 15 年 12 月 3 日

民間事業者の応募登録締切 平成 15 年 12 月 12 日

提案締切 平成 16 年 2 月 13 日

第二回審査委員会開催 平成 16 年 3 月 6 日

第二回審査委員会開催 平成 16 年 3 月 13 日

優先交渉権者決定 平成 16 年 3 月 24 日

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定期借地権設定契約の締結 平成 17 年 12 月 8 日 コミュニティ施設竣工 平成 18 年 6 月 15 日 スポーツクラブオープン 平成 19 年 2 月 5 日 賃貸集合住宅、有料老人ホーム、駐車場竣工 平成 19 年 3 月 都市公園竣工 平成 20 年 1 月 分譲集合住宅竣工、全ての施設が完成 平成 20 年 3 月

出典:岡山市資料をもとに作成

キ 官民のリスク分担

(ア) 民間施設の収入が変動した場合

・本事業は、事業者が市から土地を借り受け、民間施設の所有及び管理を行い、民間施設の収入

が変動した場合のリスクは全て事業者が負うことになっている。

(イ) 民間施設のテナントを変更したい場合

・事業者が、中核施設(分譲・賃貸マンション、駐車場、介護付有料老人ホーム)のテナントの入れ

替えを行う場合には、市の承認が必要とされている。

・仮にテナントが撤退する等により事業者の採算が悪化して事業継続が困難となった場合は、市の

承認があれば事業者が建物を第三者へ譲渡することが許可される。

(ウ) 契約上の地位の譲渡等

・構成企業は市の承諾がない限り、基本協定上の地位及び権利義務を第三者に対して譲渡して

はならないとされている。

ク 事業終了時の取扱い

・事業期間終了時は、事業者が契約期間満了日までに施設を撤去し、土地を市へ返還することに

なっている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・本事業では、土地のポテンシャルを 大限に活かし、西川緑道公園や下石井公園との連携した

空間と住宅、高齢者施設、保育施設を民間事業者のノウハウにより整備することにより、市の進め

る都心居住、子育て支援、勤労・高齢者福祉の施策を実現し、周辺地域のまちづくりへの良好な

波及効果と高いモデル性のある提案を求めた。

・評価基準の配点は示されていないが、審査にあたっては、公共性、事業性、施設自体の内容、

全体のバランスの順に重みを付けるとされている。なお、審査にあたっては、土地の貸付料を重

視した審査は行われていない。事業収支については、審査員の中に事業収支を確認する有識

者が加わっており、審査過程において確認を行っている。

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・審査は、審査員として市民 2 名を公募し、審査会を公開するなど、透明性・公平性を極めて重視

して行った。また、 終審査は 9 名の審査員による投票で行われた。

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 3 グループから提案があった。各グループのプロポーザル結果は次のとおりである。

図表 プロポーザル結果

優秀提案者 A グループ 代表企業:両備バス㈱ 構成員 :㈱大林組、㈱ベネッセスタイルケア、コナミスポーツ㈱

次点 B グループ

3 位 C グループ

出典:岡山市公表資料に基づき作成

・選定された事業者の提案は、応募のあった 3 グループの中で、 もバランスの取れた提案であっ

たことなどから 9 票中 8 票を集め、選定された。

・選定事業者の提案は、分譲マンション・賃貸マンションを整備することで多世代の定住促進に繋

げるほか、健康増進施設として多世代の市民が活用できるフィットネス施設及び要介護時の生活

をフルサポートする有料老人ホームを整備するものであった。

・また、敷地のほぼ中央に、弾状の立体駐車場を設け、この屋上を緑化した「里丘」を整備し、下石

井公園、西川緑道公園と連携した緑化空間を作り出した。「里丘」は住む人だけでなく、訪れる人

の交流の場となり、新しいコミュニケーションが生まれる場としての活用効果がある点が評価され

た。

・その他にも、施設配置について良好な景観形成と周辺への配慮を行っている点や、事業の実施

体制について 1 社による定期借地権の提案を行っており、確実な事業が期待できる点が評価さ

れた。

(6) モニタリング方法と実施状況

・市は、年に 1 回、民間収益施設の利用者数及び事業者の決算書の提出を受けている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・分譲および賃貸マンションともに満室をキープしており、幸町の人口は平成 17 年の 457 名から

平成 22 年は 720 名へ増加するなど、本事業は多様な世代の定住促進に寄与している。

・出石小学校時代は無かった敷地の中央を通り抜ける道を整備したため、周辺住民の利便性が向

上している。

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・下石井公園は従来よりも大きなスペースとなり、様々な催しものが実施されるようになった結果、催

し終了後の繁華街への人の流れも生まれており、貴重な地域活動の場となっている。

・小学校跡地一体が賑わいのある空間となったことにより、その周辺にも新たな店舗が出店し、中

心市街地活性化に寄与している。

・民間収益施設の稼働率も好調を維持している。具体的な利用者数等は以下のとおりである。

図表 民間収益施設の利用者数

施設名 運営状況

マンション(分譲・賃貸) ・ほぼ満室状態が続く ・分譲は中高年中心、賃貸は若年層中心

高齢者福祉施設 ・満室が続く

スポーツクラブ ・年間延べ利用者数 平成 19 年:90,000 人 平成 26 年:290,000 人

駐車場 ・年間利用述べ台数 平成 19 年:165,000 台 平成 26 年:210,000 台

出典:岡山市資料に基づき作成

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・官民連携手法を活用したことにより、予算上の支出が導入可能性調査、事業者選定アドバイザー

フィーの 13 百万円のみで事業が実施できたことや、公共性を担保しながらも賑わいを創出できた

こと、市民の要望に沿った施設を設置できたことなどの効果があったと考えられている。

イ 課題

・小学校の跡地活用は土地や地域事情によって様々は配慮事項(補助金や起債の有無、周辺住

民の要望や防災機能の維持等)があるため、手続が煩雑になると考えられている。

(3) 事業に対する評価

・多様な世代の住民の居住や、人の流れを生む民間施設を整備され、市の命題である中心市街

地活性化を実現していると考えられている。

・民間収益施設の稼働率は好調で、マンションも非常に人気が高く、事業者にとっても採算性に見

合う事業であるほか、土地活用モデル大賞の国土交通大臣賞を取得するなど、宣伝効果もあっ

たと考えられている。

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4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・土地のポテンシャルは大きな要素である。当該事業用地は中心市街地に立地しているため事業

として成立できたと考えられている。

・土地の貸付料の設定もポイントの一つと考えられている。市では、「岡山市普通財産(土地・建物)

貸付料算定基準」の中で、貸付料は基本的に 3 年ごとに見直しを行い、消費者物価指数に変動

させる方法が選択肢として示されている。

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(参考)基礎データ

事業名 出石小学校跡地整備事業

事業分野 まちづくり

発注者 岡山市

施設概要

施設内容

公共施設(コミュニティ施設、都市公園)

民間施設(定期借地権付分譲マンション、賃貸マンション、駐車場、

介護付き有料老人ホーム、スポーツクラブ)

施設規模 総敷地面積:13,559 ㎡

(うち、定期借地権設定区域は 9,412.39 ㎡)

事業場所 岡山県岡山市北区幸町 10 番

寄駅:JR 岡山駅(徒歩約 10 分)

事業概要

事業概要

廃校となった小学校の跡地について、民間ノウハウを活用し、中心

市街地活性化や定住推進等に寄与する施設の整備を求めた事

民間収益施設 分譲マンション、賃貸マンション、駐車場、介護付き有料老人ホー

ム、スポーツクラブ

事業

スキーム等

事業期間 54 年間

事業方式 -

事業類型 -

事業規模 -

民間事業者の

業務内容 公共施設の整備と民間施設の整備・運営を行う。

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 公募型プロポーザル方式

予定価格 -

契約金額 土地貸付料 25,678,000 円/年(3 年ごとに見直しあり)

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎両備ホールディングス(株)(施設所有、住宅・駐車場運営)、

(株)大林組(設計・建設)、(株)コナミスポーツ&ライフ(スポーツクラ

ブ管理運営)、(株)ベネッセスタイルケア(介護付有料老人ホーム

管理運営)、広成建設(株)(建設)

協力会社 -

スケジュール

実施方針公表 平成 15 年 7 月 25 日

募集要項公表 平成 15 年 10 月 17 日

提案受付 平成 16 年 2 月 13 日

優先交渉権者決定 平成 16 年 3 月 24 日

契約締結 平成 17 年 12 月 18 日

供用開始 平成 18 年 6 月~平成 20 年 3 月

活用した

制度等

補助金 暮らし・にぎわい再生事業

その他 -

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事例 17:東村山市本町地区プロジェクト

事業分野:まちづくり

事例 17:東村⼭市本町地区プロジェクト

事業場所 東京都東村山市本町三丁目1番ほか

公共主体 東京都 民間主体 (株)東京工務店

施設概要 公共施設 -

民間施設 住宅、生活利便施設(スーパー等)、高齢者福祉施設、保育園等

事業実施段階 供用開始済

事業手法 一般定期借地権方式

公共への還元 土地等の対価(借地料) 〔約105 億円(約70 年間総額)(約1.5 億円/年)〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 住民が多いエリアを事業用地に選定

・事業用地は、池袋から約 25 分、新宿から約 30 分の西武新宿線東村山駅から徒歩約 7 分に位

置し、住宅地としての利便性が高いエリアである。

・また、隣接地には都営住宅があるほか、周辺は住宅地であり、相応の商業施設の集客が見込め

る状態であった。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 低廉で良質な住宅を提供するという明確な方針

・敷地面積 50 坪程度、床面積 40 坪程度を標準とした良質な住宅を低廉な価格で提供するという

東京都の方針が明確であり、そのコンセプトのもとで事業が行われた。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、東京都が南側ゾーンに都営住宅を集約して建替えを実施した都営東村山本町団地

の北側ゾーン(面積約 100,000 ㎡)を活用して、道路、公園、住宅や生活利便施設(スーパー

等)、高齢者福祉施設、保育園等を整備し、まちづくりを行う事業である。

➤ 併せて、狭くて高い東京の戸建住宅の市場構造を変えることを目的とし、供給の中心的担い手で

ある中小工務店の生産性を向上し、価格引下げを実現することによって、市場の競争原理を働か

せ、広くて質が良く低廉な戸建住宅の供給を促進する実証実験も行った。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 東京都は、民間事業者から、事業用地に設定した定期借地権の借地料として、約 70 年間総額で

約 105 億円を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・都営東村山本町団地は、南側ゾーンに集約して建替えを進めてきており、平成 15 年度を 終年

度として建替事業が完了している。本事業対象の北側ゾーンは、平成 15 年 10 月に「先行まちづ

くりプロジェクト」の地区指定を受けており、優良な住宅市街地開発のノウハウを有する民間企業

グループを公募・選定し、戸建住宅を中心とした、多摩地域の郊外型居住モデルを提示するまち

づくり(以下「まちづくり」という。)を行うことが計画されている。

・また、狭くて高い東京の戸建住宅の市場構造を変えるため、東京都(以下「都」という。)は、供給

の中心的担い手である中小工務店の生産性を向上し、価格引下げを実現することによって、市

場の競争原理を働かせ、広くて質が良く低廉な戸建住宅の供給を促進する政策を展開してきた。

イ 官民連携手法導入の背景

・広くて質が良く低廉な戸建住宅の供給を促進する政策展開の第一ステップとして、「先行まちづく

りプロジェクト」の地区指定を受けた本事業用地の一部を使用して、先進的な取組に賛同する住

宅生産者を公募・選定し、戸建住宅の価格引下げの実証実験(以下「実証実験」という。)を行うこ

ととした(本事業「実証実験部門」の募集)。

・また、同時に、供給する住宅とともに、事業用地を有効活用した一体的なまちづくりを担う民間事

業者を募集することとした(本事業「まちづくり部門」の募集)。

ウ 民間事業者の応募の背景

・まちづくり部門に応募し、選定された(株)日本ハウスホールディングスは、元々注文住宅、住宅リ

フォーム等に強みを持つ企業であったが、自社の経験を活かして本事業のようなまちづくりプロジ

ェクトに取り組むべきであるとの判断のもと、本事業に応募した。

● 効果

➤ 低廉で良質な住宅供給が実現

・東京都が想定する敷地面積 50 坪、床面積 40 坪程度の住宅が 3,000 万円台で供給された。

・供給された住宅は即日完売となるなど、人気であった。

➤ 良好なまちづくりに寄与

・事業地全体の調和が取れたまちづくりがなされ、無電柱化など景観への配慮も行われている。

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(2) 事業概要

ア 施設概要

・事業用地は、池袋から約 25 分、新宿から約 30 分の西武新宿線東村山駅徒歩約 7 分(西武新宿

線久米川駅からも徒歩 8 分程度)の約 100,000 ㎡の敷地である。

図表 位置図

出典:東京工務店ホームページ

・約 100,000 ㎡の敷地に、幹線道路、コミュニティ道路、公園等の社会インフラとともに、戸建住宅

280 戸、集会所、保育所、高齢者福祉施設、スーパー(いなげや)等を整備している。

・戸建住宅 280 戸のうち、100 戸は本事業で募集した実証実験住宅である。

・なお、本エリアは、まち全体が無電柱化されている。

図表 位置図

公共施設 民間施設

整備施設

・都市基盤施設 (幹線道路、都市公園等)、

・地区施設 (区画道路、小公園・緑地等)

・戸建住宅 (280戸、うち実証実験住宅100戸)、

・集合住宅(51戸) ・商業施設(スーパー) ・認可保育園 ・デイサービスセンター

出典:東京都ヒアリングに基づき作成

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図表 外観

出典:東京工務店ホームページ

図表 敷地全体図

出典:東京工務店ホームページ

イ 事業方式

・事業方式は、都が事業用地に定期借地権を設定し、事業者に対して貸し出す方式である。

・事業者から住宅取得者等への宅地等の提供にあたっては、定期借地権を転貸する方式としてい

る。

・事業者は、事業期間中、定期借地権の管理(事業者が転貸した住宅取得者等からの地代徴収

及び都への定期借地権借地料の支払い等)やまちなみの維持管理等を行い、期間終了時に土

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地を都に更地で返還する。

ウ 事業期間

・事業期間は、70 年間を基本とする入居期間に加えて、宅地造成と住宅等の建設期間及び住宅

等の除却期間の約 2 年間を加えた約 72 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・都は、事業者から定期借地権の借地料を徴収する。

・基準とする賃料単価を月額 160 円/㎡とし、都は、基準賃料単価以上の事業者の提案金額×約

78,000 ㎡にあたる借地料を事業者から毎月収受している。

図表 事業スキーム図

出典:東京都公表資料及びヒアリングに基づき作成

都営住宅等事業会計

東京都

借地料 【約 105 億円】 (70 年総額)

(約160円/㎡・月)

借地保証金 【約 375 百万円】

事業者

都有地

戸建住宅 (実証実験 住宅含む)

集合住宅 商業施設 認可保育園 デイサービス センター

都市基盤 施設等

施設整備段階

運営段階

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(イ) 帰属先と使途

・都営住宅等事業会計に帰属する。帰属した資金は、都営住宅の建設(建替え)等に利用される。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・都は、現都市整備局(当時は住宅局、都市計画局)を中心に、政策企画局(旧知事本局)等も含めた

複数の部署と連携を取りながら進めた。

・プロジェクトの段階ごとに、関与する部署や専門性が異なる職員が関与しているが、事務職、建築職等

の各職種の職員が複数関与している。

・都は、事業者募集に関する支援業務については、 (株)日本総合研究所、三井安田法律事務所、りそ

な総合研究所(株)に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・特にないが、本事業は実証実験を行うことを前提としていたため、土地活用にあたって整備する

建物等には一定の条件を設定している。

図表 条件の例

事業の全体概要

3 事業の誘導目標

(2) 実証実験の誘導目標

ア 広くて質が良く低廉な戸建住宅の供給促進

汎用性の高い合理的な生産システムを用い、広さと質を確保しながら建物価格が市場価格より 3

割程度安い戸建住宅を供給する。 出典:東京都公表資料に基づき作成

イ 規制の変更等

(ア) 都市計画の変更

・本事業の計画に基づき、平成 16 年に、東村山市及び都として、誘導する街づくりの方向を示して

いる。

・東村山市は、平成 16 年に、本町地区地区計画(区域の整備・開発及び保全に関する方針)を決

定している。その後平成 18 年に、整備方針をベースに、事業者提案のゾーニング分け等を加味

した、地区整備計画を策定するため、本町地区地区計画を変更している。

・都は、平成 18 年に、地区整備方針にて定める予定の複合利用地区の用途地域について、第 1

種住居地域へ変更している。

・都市計画の変更に関する経緯は以下のとおりである。

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図表 都市計画の変更

地区整備方針の

策定 平成 16 年 10 月 20 日

東村山市及び都として、誘導する街づくりの方向を示す。 本町地区地区計画(区域の整備・開発及び保全に関する方

針)の決定(東村山市決定)

地区整備計画の

策定 平成 18 年 1 月 23 日

整備方針をベースに、事業者提案のゾーニング分け等を加

味し、地区整備計画を策定する。 本町地区地区計画の変更(東村山市決定)

複合利用ゾーン

の用途地域変更 平成 18 年 1 月 23 日

地区整備方針にて定める予定の複合利用地区の用途地域

について、第1種住居地域への変更(東京都決定) 出典:東京都公表資料に基づき作成

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・都はデベロッパー数社に対して、プロジェクトの方向性の実現可能性、場所に対する評価等につ

いてヒアリングを行っており、プロジェクト作成にあたっての参考としている。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案によるものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・都は、南側ゾーンに集約して建替えを実施した都営東村山本町団地の北側ゾーン(面積約

100,000 ㎡)を活用して、本事業を実施している。

イ 施設要件及び業務内容

・都は、地域(東村山市)のマスタープランや目指す将来像、課題認識に対応する内容とするため

に、東村山市との打合せを行いながら、施設要件を決定している。特に、周辺に高齢者福祉施設

及び保育園が不足しているとの認識があったため、これらを要件としている。

・都営住宅の入居者は高齢者や単身者が比較的多いことから、車ではなく徒歩圏で生活施設が

揃っていること、まちづくりの基盤となる道路、公園等の整備、住宅の供給の他、生活利便施設の

整備を必須としている。

・また、広域まちづくりの観点から、当該土地だけではなく、周辺エリアの住民にとっても利便性の

高い施設内容とすることを前提に要件としている。

ウ 事業期間の設定

・長寿命の住宅整備、長期間にわたる良好な住環境の維持保全等により、環境に優しい住まい・ま

ちづくりを可能とするため、住民の居住可能となる期間を 70 年としている。事業実施方針公表後、

方針に対し意見・質問を募集しているが、70 年以外の期間を希望する事業者はいなかった。

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・これに、宅地造成と住宅の建設期間及び住宅の除却期間の約 2 年間を加えた約 72 年間を事業

期間としている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 借地料

・基準となる月額地代 160 円/㎡は、不動産鑑定により算出した数字を、東京都公有財産規則第

48 条に基づき、東京都財産価格審議会への付議を経ることにより決定している。

・なお、財産価格審議会のメンバーは、「学識経験者 11 人以内、東京都職員 4 人以内。左記の者

につき知事が任命又は委嘱する 15 人以内」という条件があり、これに沿ったメンバーとしている。

・借地料の他に、都は事業者から借地保証金を基準月当たり地代 160 円/㎡の 30 ヶ月分となる約

375 百万円を収受している。

・借地料は、物価変動等を考慮し変動させる規定を設け、次の調整式により調整した数値とする。

図表 借地料の改定

(1) 定期借地権設定契約の当初借地料 ① 計算式 ◆当初借地料={(提案時における借地料)-(提案時みなし公租公課分)}×(物価変動率)+(定

期借地権設定時みなし公租公課分) ② 物価変動率の算定方法 ◆物価変動率=(定期借地権設定時において数値の確定している月を含めた直近の過去 12 か月

間の総務省統計局発表の消費者物価指数(東京都区部・総合指数)の平均値)÷(平成 年 月

から平成 年 月までにおける総務省統計局発表の消費者物価指数(東京都区部・総合指数)の

平均値) (2) 定期借地権設定契約締結後の改定借地料 ① 計算式 ◆改定借地料={(従前の借地料)-(従前借地料決定時のみなし公租公課分)}×(物価変動率)

+(借地料改定時のみなし公租公課分) ② 物価変動率の算定方法 ◆物価変動率=(地代改定年の前年の年平均の総務省統計局発表の消費者物価指数(東京都

区部・総合指数))÷(従前の地代決定時に採用した総務省統計局発表の消費者物価指数(東京

都区部・総合指数)) 出典:東京都公表資料に基づき作成

(イ) 住宅取得者等が事業者へ支払う転借地料等

・住宅取得者等が事業者へ支払う転借地料等については、基本的には事業者が都に支払う地代

と概ね同水準の金額になっていると思われる。

オ 参加条件の設定

・本事業では、優良な地元企業の活用と、道路・公園・利便施設・地元企業が建設した住宅等も含

めてまちづくりを行うことができる能力を持った比較的大企業のノウハウの活用という 2 つの側面

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があったため、それぞれに適した資格要件を定め、2 つに分けて募集している。

・事業の性格が異なり、求める内容も異なることから、それぞれに見合った適切な提案内容を評価

したいという考えがあった。

・ 終的には一つのまちをつくるという観点から、SPC の組成は民間事業者全員が関与する形とし

ている。ただし、実証実験に応募することが想定される地元の民間事業者では、SPC を取りまとめ

ることは企業体力・経験等の面から困難であると考えており、まちづくりに応募する企業に期待を

していた。

・なお、本事業(まちづくり)の要求水準の内容は、以下のとおりである。

図表 応募者の資格要件

(1) 基本的要件 応募者は、本事業用地において、都市基盤施設を整備し、土地を一括して借り受け、宅地造成

を行った上で、転借地権付き住宅、商業施設、福祉施設等を整備するとともに、70 年余にわたる事

業期間中安定して定期借地権の管理等を遂行できる、企画力、技術力及び経営能力を有する民

間企業グループとする。 (2) 応募者の構成等 (一部抜粋)

事業会社の資本金の額及び事業予定者間の出資比率については、事業予定者間の協議によ

るものとする。ただし、実証実験の事業予定者の出資額については、事業予定者間の協議により別

に定める場合を除き、次式によるものとする。 実証実験の事業予定者の出資額=1,000 万円×(実証実験の事業予定者が住宅建設を担当す

る宅地の転借地料/転借地料の総額) 出典:東京都公表資料に基づき作成

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

募集要項・要求水準書等の公表 平成 16 年 7 月 14 日 事業者募集要項等の説明会 平成 16 年 8 月 3 日 質疑書の受付・回答 平成 16 年 8 月 4 日

~平成 16 年 8 月 10 日 応募書類(提案書等)の受付 平成 16 年 10 月 25 日

~平成 16 年 11 月 5 日 審査委員会による応募者からのヒアリング(まちづくり) 平成 16 年 11 月 17 日 審査委員会による応募者からのヒアリング(実証実験) 平成 16 年 12 月 21 日

審査結果の公表(事業予定者の決定) 平成 17 年 1 月 28 日

基本協定の締結 平成 17 年 5 月 31 日

事業用借地権契約の締結 平成 18 年 3 月 24 日 出典:東京都公表資料に基づき作成

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キ 官民のリスク分担

(ア) 事業収支が悪化した場合

・事業者の財務状況について都は関与しない。

・事業を長期間にわたり安定的に継続させることを目的とし、事業者の収益が悪化した際は、構成

員または第三者に業務を引き継ぐことを認めることで、一定のリスク回避をすることが想定されて

いる。

(イ) 契約上の地位の譲渡等

・都並びに事業会社及び事業会社構成員は、基本協定に別段の定めのあるほか、他の全ての者

の事前の承諾がない限り、基本協定上の地位及び権利義務を第三者に対して譲渡し、又はその

他の処分をしてはならないとされている。

・都の事前の書面による承諾があった場合を除き、基本的には定期借地権の譲渡・転貸は認めら

れない規定となっている。なお、譲渡や転貸は、事業者の適正な事業遂行が危ぶまれる場合等

が想定される。

・事業用地の賃貸借は事業者と都で一括して期間にわたって行うものであり、事業用地を分離した

契約は不可とされている。

図表 定期借地権の譲渡・転貸

(1) 定期借地権の譲渡・転貸 ア 事業会社が、基本協定6の規定に基づき整備施設を譲渡する場合は、都の事前の承諾を要せ

ず、分譲住宅の 終譲受人又は生活利便施設運営事業者若しくは福祉施設運営事業者に対し

て、以下の条件に従い、定期転借権(以下「転借権」という。)を設定することができる。 (ア) 転借保証金

転借保証金は都に支払う保証金以上であることを条件として事業会社から提案された金額とす

る。 (イ) 転借料

当初の転借料は、[(都に支払う借地料に手数料を加えた額として提案された金額)]円とする。 (ウ) 転借期間

転借権の存続期間は、平成[ ]年[ ]月[ ]日から平成[ ]年[ ]月[ ]日(定期借地権の期間

満了日)とする。この転借権の存続期間は、いかなる転借人又はその承継者との関係でも延長・

更新されないものとし、いかなる転借人及びその承継人は、転借権の存続期間満了時に建物買

取請求を行わず、また、整備施設から速やかに退去すること及び整備施設を解体することにあら

かじめ合意する。 (エ) 契約条件 ・ 転借料 ・ 転借料改定方法 ・ 用途指定 ・ 新築・増改築の制限

事業期間中の建替え、増改築等については、まちなみのルール等を遵守すること。 ・ 終譲受人(生活利便施設運営事業者及び福利施設運営事業者を含む。以下本項において同

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じ。)による所有権の譲渡制限 終譲受人は、自己の持分を第三者に対し譲渡する場合にの

み、転借権を当該第三者に譲渡することができる。ただし、この場合、 終譲受人は当該第三者

に対し、基本協定 6(1)ウ及び同 6(2)イ記載の分譲住宅譲渡の際の告知事項に加えて、転借権

の期間が更新若しくは延長されないものであること、定期借地権の賃貸期間に制限されるもので

あることを告知しなければならない。 ・ 終譲受人の通知事項 ・解除事由 ・定期借地権設定期間満了時に事業会社が都に借地区域を更地返還するための退去協力義務 ・集合住宅の場合の解体準備金 ・定期借地権設定契約解除の場合の転貸借契約の扱い

① 転貸借契約における事業会社の転借権設定者としての地位を都が承継すること。 ② 転貸借契約は同一の内容により都と 終譲受人との間で引き継がれ、改めて都と 終譲受

人との間での契約締結を要しないこと。 ③ 終譲受人は、都の指定する方法で転借料を支払うこと。 ④ 終譲受人は、事業会社が 終譲受人から預託を受けた転借保証金を都が承継すること

を、あらかじめ承諾すること。 ⑤ 終譲受人が事業会社の転借権設定者の地位を都が承継した日の属する月の借地料を既

に事業会社に支払っているとき、都は 終譲受人に対して当該借地料を二重に請求しない

こと。 イ 事業会社は、上記アの場合のほかは、都の事前の書面による承諾なくして、定期借地権の譲

渡・転貸を行ってはならない。 ウ 事業会社が、都の承諾を得て定期借地権を第三者に譲渡する場合、当該時点において別段の

合意がなされない限り、基本協定、定期借地権設定契約及び転貸借契約の契約上の事業会社

の地位は当該第三者に承継されるものとし、事業会社は、当該第三者をして定期借地権設定契

約及び転貸借契約の内容を承認してこれらを承継する旨の確認書を提出せしめなければならな

い。 出典:東京都公表資料に基づき作成

ク 事業終了時の取扱い

・事業終了時は更地返還とする。

(5) 事業者の選定

ア 事業者の選定方法

・事業者の選定は、まちづくり部門の事業予定者と実証実験部門の事業予定者を別々に公募プロ

ポーザルにより選定する。

・審査は 12 名の委員により行われる体制としている。

・それぞれの事業予定者は共同で事業会社を設立する。

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図表 公募から基本協定締結までのフロー

出典:東京都公表資料に基づき作成

1.まちづくりの事業予定者の選定について

資格要件の審査、賃料等の適格審査、基本的事

項の適格審査で各条件を満たした提案について、

まちづくり計画・技術的評価、事業の運営・経営的

な評価、総合的な評価を行い、その評点の合計で

優秀提案応募者及び次点を選定する。

応募者による提案書等の提出

資格要件の審査 ・

賃料等の適格審査 ・

基本的事項の適格審査

まちづくり計画、技術的評価の審査 ・

事業の運営、経営的な評価の審査 ・

総合的な評価

優秀提案応募者と

時点の選定

事業予定者と

時点の決定

失 格

2.実証実験の事業予定者の選定について

各適格審査において適格とされたものについて、

提案事項についての評点方式による審査を行い、

優秀提案応募者(3 者程度)及び次点を選定する。

応募者による提案書等の提出

応募資格要件の適格審査

価格・住宅性能表示・防犯対策に関する

必須条件の適格審査 ・

基本的事項の適格審査

都による事業予定者

(3 者程度)と次点の決定

基本協定の締結

審査委員会による優秀応募者

(3 者程度)と次点の選定

提案事項の審査 (評点方式)

失 格

まちづくりの 公募プロポーザル

実証実験の 公募プロポーザル

事業予定者の選定 事業予定者の選定

事業予定者は、共同で事業会社を設立 東京都と基本協定を締結し事業を推進

公募から基本協定締結までのフロー

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イ 審査基準に関する内容

・まちづくり部門の審査は、資格要件の充足、賃料基準の充足、住宅の基本的条件の充足を満た

した民間事業者を適格としたうえで、100 点満点の配点により評価を行っている。

図表 まちづくり部門の審査項目と配点

審査項目 審査の視点 配点

ア まちづくり計画に関する事項

(まちづくり計画に関するハー

ドおよびソフト面でのプランニ

ングの内容等を評価する。)

(ア)本計画の基本的考え方に関する評価

50 点

(イ)全体計画に関する評価

(ウ)住宅地計画及び住宅の提案に関する評価

(エ)モデル住宅の価格と質に関する評価

(オ)生活利便施設及び福祉施設などの提案に関する

評価

(カ)市民の広場ゾーンの提案に関する評価

(キ)設計、建設、住宅販売の工程に関する評価

イ 事業の運営・経営的な事項

に関する評価

(まちづくり計画に関して、70余年の長期にわたる事業運

営計画の内容を評価する。)

(ア)施設全体の運営・管理計画に関する評価

40 点

(イ)住宅の販売計画に関する評価

(ウ)モデル住宅の維持管理等に関する評価

(エ)定期借地権、まちなみ等の管理に関する評価

(オ)施設の除去および更地返還計画に関する評価

(カ)事業収支計画及び事業安定化方策に関する評価

(キ)東京都への借地料および住宅取得者が支払うコス

ト(イニシャル・ランニングを含めて)等を総合的に

評価

ウ 総合的な評価 上記、まちづくり計画、事業・運営計画に関する評価

として掲げる項目だけでは評価が十分にできない内

容、事業全体での総合的な評価を対象とする。

10 点

合 計 100 点

出典:東京都公表資料に基づき作成

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・実証実験部門の審査は、資格要件の充足、価格・住宅性能表示・防犯対策の充足、基本的事項

の充足を満たした民間事業者を適格としたうえで、100 点満点の配点により評価を行っている。

図表 実証実験部門の審査項目と配点

審査項目 審査の視点 配点

ア 実現しようとする住宅

の内容の評価

(ア)住宅の価格 より低価格、より高品質の住

宅を目指す本実証実験の趣

旨を踏まえ、特に 70 年間に

わたり住宅の質的魅力、価値

を維持できることに留意しな

がら、住宅の価格及び質に

ついて、総合的に評価する。

40 点 (イ)住宅の仕様・設備、性能、

意匠

(ウ)間取りプランの普遍性、可

変性

イ 用いる生産システムの

提案内容の評価

(ア)提案された価格及び質を実現する上での、生産システ

ムの合理性、実効性

40 点 (イ)中小住宅生産者等における使用の容易さなど、生産シ

ステムの汎用性

(ウ)長期にわたり住宅の質的魅力、価値を維持するための

引き渡し後のアフターサービス面での措置

ウ 総合評価

(ア)全体的な整合性

20 点 (イ)きわだった創意工夫

(ウ)まちづくりの誘導目標に対する適合、貢献

合 計 100 点 出典:東京都公表資料に基づき作成

ウ 選定事業者の提案内容と評価

・敷地面積 50 坪、延べ面積 40 坪程度を標準とした住宅 280 戸、公園及び商業施設、保育園や

デイサービスセンター、コミュニティ促進が期待できる集会場の設置が行われた。また、小空間や

共有空間等も有効に活用されているほか、電線類の地中化等もされている。

・提案に対する評価として、まちづくり部門については、小公園・遊歩道等の公共空間、道路・公

園・緑地等の都市基盤が充実している点や、無電柱化など景観への配慮が優れている点、また、

建築ガイドライン等の自主管理ルールを設けるなど、まちなみの担保を図る点を評価している。

・実証実験部門の提案については、価格条件を満たしながら質の面で魅力のある提案であったこ

と、また、架構形式をはじめとする設計の標準化、部品・部材の少点数化、無駄のない工程管理

など、生産システムの面での工夫に関しても実効性と汎用性が認められ、建築後のメンテナンス

や間取りの変更にも配慮されていることが評価されている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・事業年度ごとに会計報告の機会を設けている。事業収支の他、運営状況の報告を受けている。

・民間収益施設に対するモニタリングは行っていない。

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3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・民間事業者を活用し、基本的に良好な街並みを維持できている。

・魅力的な街となったことで、住宅購入検討者からも大きな注目を浴びることができ、住宅販売も

高倍率が 50 倍を超える等好調であった。

・テナントとして入居したスーパーも、業績は好調とされている。

イ 事業収支状況

・都には、安定的に定期借地権の賃料が入ってくる状況となっている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・当初計画をした、戸建住宅の価格引下げ効果(市場価格比 3 割程度引き下げ)が実現したと考え

られている。

・都には安定的に定期借地権の賃料が入る体制となっている。

・また、都は、本事業における実証実験をふまえて、戸建住宅の価格引き下げに関する各種合理

化手法や考え方などをまとめることができたと考えられている。

・民間事業者のノウハウにより、行政のスピード感ではできないことを実施してもらうことができたとと

もに、行政のみの視点ではなく、一民間企業のみの視点でもなく、幅広い視点でまちづくりを行う

ことができたと考えられている。

・民間事業者にとってみれば、通常では考えられない立地及び広さの事業用地を確保できたとさ

れている。

イ 課題

・経済状況が悪化すると、募集しても民間事業者が集まりにくくなると考えられている。

・民間事業者間での事業と比較すると、手続や事業決定のスピードが遅い面もあると考えられてい

る。

(3) 事業に対する評価

・議会等でも、多摩地区における良好な住宅が整備できたという理解をされている。また、地元企

業の育成もできているというように評価されている。

・地元の評価は非常に高いとされている。インターネット等で挙げられる意見も好意的なものが多く、

地元産業の育成にも資するという評価を受けているとされている。

・他地域の公共担当者から視察が来る等、先行事例として認知されている。

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4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・経済状況、技術の進展、事業用地の特性等を理解した上で案件化をすることが重要であると考え

られている。

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(参考)基礎データ

事業名 東村山市本町地区プロジェクト

事業分野 まちづくり

発注者 東京都

施設概要

施設内容 住宅、生活利便施設(スーパー等)、高齢者福祉施設、保育園

施設規模 約 100,000 ㎡

事業場所 東京都東村山市本町三丁目1番ほか

(西武新宿線東村山駅から徒歩約 7 分)

事業概要 事業概要

都営住宅の建替えに伴う創出用地を活用し、住宅、生活利便施

設、福祉施設等を整備する事業

民間収益施設 スーパー、高齢者福祉施設、保育園

事業

スキーム等

事業期間 約 72 年(維持管理・運営期間は 70 年)

事業方式 定期借地権方式

事業類型 -

事業規模 -

民間事業者の

業務内容 ・まちづくり業務(計画、設計、建設、維持管理、運営)

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 一般公募型プロポーザル方式

予定価格 -

契約金額 -

応募グループ まちづくり:2 グループ(選定 1 グループ)

実証実験:13 グループ(選定 4 グループ)

民間事業者

事業者構成員

◎は代表企業

◎(株)日本ハウス HD

(株)洋設計事務所、三協測量設計(株)、大末建設(株)、(株)

匠技建、(有)加賀美工務店、長崎工務店(株)、(株)リンデンバ

ウム遠野、(株)現代計画研究所、相羽建設(株)、(株)オーエ

ム研究所、(株)オーエムソーラー協会、(株)大和工務店、(株)

公住工務店、多摩消費者住宅(株)、松本建工(株)、(株)アキ

ュラホーム

協力会社

【参加事業者】

○まちづくりグループ

(株)日本ハウス HD、(株)洋設計事務所、三協測量設計(株)、大

末建設(株)

○木の香る家【実証実験】

(株)匠技建、(有)加賀美工務店、長崎工務店(株)、(株)リンデン

バウム遠野、(株)現代計画研究所

○木造ドミノ【実証実験】

相羽建設(株)、(株)オーエム研究所、(株)オーエムソーラー協会

○100年健康住宅【実証実験】

(株)大和工務店、(株)公住工務店、多摩消費者住宅(株)、松本

建工(株)

○新世代住宅【実証実験】

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事業名 東村山市本町地区プロジェクト

(株)アキュラホーム

スケジュール

募集要項公表 平成 16 年 7 月 14 日

提案受付 平成 16 年 10 月 25 日

~平成 16 年 11 月 5 日

事業予定者決定 平成 17 年 1 月 28 日

契約締結 平成 18 年 3 月 24 日

住宅販売(第 1 期~第 7 期) 平成 19 年 1 月 13 日~

平成 20 年 10 月 25 日

活用した

制度等

補助金 ―

その他 ―

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事例 18:安城市中心市街地拠点整備事業

事業分野 : まちづくり

事例 18:安城市中⼼市街地拠点整備事業

事業場所 安城南明治第二土地区画整理事業地内

公共主体 安城市 民間主体 安城情報拠点施設サービス(株) 他

施設概要

公共施設 図書情報館・多目的ホール・自由提案施設(カフェ)等(延床面積9,193,43 ㎡(うち自由提案施設70 ㎡))、駐輪場(240 台)

民間施設 提案施設(スーパーマーケット、カルチャースクール等(延床面積3,041.69 ㎡))、駐車場(延床面積6,016.08 ㎡、275 台)

事業実施段階 供用開始未済(平成29 年6 月供用開始予定)

事業手法 公共施設(情報拠点施設、広場・公園、駐輪場、自由提案施設):PFI 手法(BTO 方式) 民間施設(提案施設(スーパーマーケット、カルチャースクール等)、駐車場):事業用定期借地方式

公共への還元 貸付料(行政財産貸付料) 〔0.2 億円(1.4 百万円/年)〕 借地料(事業用定期借地) 〔3.3 億円(15.7 百万円/年)〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 民間収益事業の期間の選択が可能

・民間収益事業は事業者(SPC②)の独立採算であることから、事業者(SPC②)の収益性確保に

配慮し、民間収益事業の期間について、15 年程度または 20 年程度のいずれかの期間の選択

を可能とした。

➤ 安城市が公共施設用駐車場部分の使用料を負担

・本事業では事業者(SPC②)が民間収益事業として駐車場(273 台)を整備し運営するが、安城

市はその一部(200 台分)を公共施設用駐車場として使用し、一定の駐車場使用料を事業者

(SPC②)に支払う。そのため、事業者(SPC②)の駐車場の収入は比較的安定している。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、JR 安城駅徒歩 4 分の市有地において、公共施設(情報拠点施設、広場・公園、駐輪

場、自由提案施設)の整備等を行うPFI事業と、民間施設(提案施設、駐車場)の整備等を定期

借地方式で行う民間収益事業とを一体的に実施するものである。

➤ PFI 事業を実施する SPC①と民間収益事業を実施する SPC②の 2 つの SPC が設立される。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 安城市は、PFI 事業で整備する情報拠点施設内の自由提案施設の貸付料 0.2 億円(1.4 百万円

/年)と、定期借地方式で賃貸する民間収益事業の借地料 3.3 億円(15.7 百万円/年)を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の経緯

・JR 安城駅を中心とする中心市街地は、大規模商業施設の郊外立地、人口の減少、高齢化の進

行、商店街の衰退、更生病院(現 愛知県厚生農業協同組合連合会 安城更生病院)の郊外移

転等により、まちのにぎわい、活気が失われつつあり、活性化が課題であった。また、市民要望で

上位にあがっている「健康で安心して暮らせるまち」を実現するため、健康づくりの支援と市民の

生涯にわたる学習ニーズに応える学習環境づくりが求められていた。

・安城市(以下「市」という。)では、このような社会情勢の変化を視野に入れ、中心市街地の活性化

を実現するために、図書情報館の移転整備、民間施設の整備を実施することとした。

・具体的な事業実施までの経緯は、次のとおりである。

◇ 官民間でコミュニケーションでの特徴・工夫

➤ 事前調査段階での市場調査の実施

・本事業では、平成 21 年度に策定した基本計画において、官民の合築による定期借地での事業

化を方針としていたが、平成 23 年度に事業計画を策定する際に 3 回にわたる詳細な市場調査

(50 社以上の民間事業者への意向調査等)を行った結果、公共施設は PFI 手法で、民間施設

は定期借地方式で分割整備した方が民間事業者の意向に合致しており、複数の応募者が見込

めると判断し、事業スキームをPFIと定期借地の一体的実施に変更した。その結果、4 社から提

案書が提出され、民間事業者のノウハウが発揮された提案がなされた。

● 効果

➤ 公共では困難であった商業施設の誘致

・公募の際に、提案を期待する民間収益施設が商業施設、健康増進施設、生涯学習関連施設で

あることを記載した。その結果、事業者(SPC②)により生鮮食料品を扱うスーパーマーケットが提

案された。市がスーパーマーケットの誘致をすることは困難であり、官民連携手法の採用による効

果と考えられる。

・また、公共施設の情報拠点施設内に設置される図書情報館と民間施設のスーパーマーケットが

併設されることにより、図書情報館の利用者がスーパーマーケットを利用したり、スーパーマーケ

ットの利用者が図書情報館を利用したりする相乗効果の発揮も期待されている。

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301

図表 事業実施の経緯

年月 内容

平成 14 年 4 月 更生病院が安城市安城町へ移転

平成 15 年 3 月 旧更生病院の建物を解体撤去終了

平成 15 年 12 月 更生病院跡地(12,136.5 ㎡)を安城市土地開発公社が取得

安城市名義の土地と合せて 12,515 ㎡を広場として暫定整備

平成 16 年 1 月 中心市街地交流広場として使用開始

平成 17 年 3 月 第 7 次総合計画にて「交流拠点整備」と位置付け

平成 20 年 3 月 中心市街地拠点整備基本構想を策定

平成 21 年 3 月 中心市街地拠点整備基本計画(素案)を策定

平成 22 年 3 月 中心市街地拠点整備基本計画を策定

平成 24 年 12 月 中心市街地拠点整備事業計画を策定

平成 25 年 5 月 土地区画整理事業によって、敷地面積を 12,305 ㎡として民間事業者を募集 出典:安城市公表資料に基づき作成

イ 官民連携手法導入の経緯

・平成 22 年 3 月の基本計画の策定にあたり、民間活力導入可能性調査を行い、 終的な事業方

式とは異なるものの、公共サービスのコスト縮減及び質の向上と「土地の高度利用・有効活用の

観点から、官民連携手法導入が望ましいとされた。

ウ 民間事業者の応募の背景

・本事業に選定されたグループの代表企業である清水建設(株)は、本事業用地にかつて存在した

更生病院解体等に関与しており、事業用地に対する思い入れが強かった。そのため、本事業用

地の活用を前向きに検討し、シミュレーション等を重ねた結果、事業性があり応募が可能と判断し

たため、本事業に応募した。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業の事業用地は、JR 安城駅から徒歩 4 分の場所に位置する。市は、中心市街地の市有地

12,305 ㎡(建設用地 7,415 ㎡、広場 3,890 ㎡、公園 1,000 ㎡)に、公共施設(情報拠点施設、

広場・公園、駐輪場、自由提案施設)の整備等を行う PFI 事業と、民間施設(提案施設、駐車場)

の整備等を行う民間収益事業とを一体的に実施することにした。

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302

図表 位置図

出典:安城市公表資料に基づき作成

図表 施設概要(現時点の想定)

公共施設 収益施設 駐車場

階 数 地上5階・地下1階 地上2階 地上4階

建築面積 2,403,31㎡ 2,091.50㎡ 1,506.98㎡

延床面積 9,193.43㎡ 3,041.69㎡ 6,016.08㎡

駐輪場台数 220台 100台 -

駐車場台数 - - 273台

施設内容

図書情報館

ホール

広場・公園

駐輪場

カフェ

スーパーマーケット

カルチャースクール

駐車場

出典:安城市公表資料に基づき作成

図表 外観

出典:安城市公表資料

中心市街地拠点

施設 広場・公園 事業用地

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303

イ 事業方式

・公共施設(情報拠点施設等)の整備等は PFI 法に基づく BTO 方式であり、自由提案施設部分を

除いてサービス購入型である。

・民間施設の整備等を行う民間収益事業は事業用定期借地方式であり、事業者(SPC②)の独立

採算により行われる。

ウ 事業期間

・PFI 事業の事業期間は、平成 26 年 3 月の事業契約の締結から、平成 44 年 5 月まで(供用開始

の平成 29 年 6 月から維持管理等期間 15 年)の 18 年 2 ヶ月であり、民間収益事業の事業期間

は平成 28 年 6 月の事業用定期借地権設定契約の締結から、平成 49 年 5 月までの 21 年であ

る。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、PFI 事業で整備する情報拠点施設の中の自

由提案施設の貸付料と、定期借地方式で賃貸する民間収益事業の借地料である。

・市への還元金額は、PFI 事業で整備する情報拠点施設内の自由提案施設の貸付料(行政財産

貸付料)0.2 億円(1.4 百万円/年)と、定期借地方式で賃貸する民間収益事業の民間提案施設の

借地料(事業用定期借地)3.3 億円(15.7 百万円/年)である。

・市は、本事業ではPFI事業を実施する事業者(SPC①)の設立は必須としたが、民間収益事業を

実施する事業者(SPC②)の設立は任意とし、民間事業者の提案により、SPC②を設立することに

なっている。

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図表 事業スキーム図

出典:安城市公表資料、安城市及び民間事業者ヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・一般会計に帰属し、具体的な資金使途は決まっていない。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、南明治整備課拠点整備室 4 名で担当している。事業者募集段階、事業契約

締結後ともに人数は同じである。

・市は、基本構想の策定、基本計画の策定、民間活力導入可能性調査は八千代エンジ二ヤリング

安城市

事業者(SPC②)

一般会計

市有地

施設整備費 約 43.5 億円

事業者(SPC①)

民間施設 (スーパーマーケット、 カルチャースクール)

民間収益施設【定期借地権】

駐車場

借地料 約 3.3 億円

(約 15.7 百万円/年)

駐車場使用料 9.0 億円

(約 45 百万円/年)

貸付料 0.2 億円(約 1.4 百万円

/年)

整備・ 維持管理

整備費・ 維持管理費・

運営費

PFI 定期借地

施設整備段階

運営段階

一体的な応募

維持管理費 約 14.4 億円

情報拠点施設

公共施設【PFI 事業】

自由提案施設 (カフェ)

広場・公園

駐輪場

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(株)に委託し、事業計画の策定、事業者選定アドバイザー業務はみずほ総合研究所(株)に委託

した。PFI 事業契約締結後のモニタリング業務も継続してみずほ総合研究所(株)に委託してい

る。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続

・事業用地は普通財産である。

イ 規制の変更等

・特にない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・市は、事前調査として、基本構想、基本計画、事業計画を策定した。平成 19 年度の基本構想策

定段階から外部に調査を委託している。

中心市街地拠点整備基本構想基本構想(平成 20 年 3 月)八千代エンジニヤリング(株)に委託

中心市街地拠点整備基本計画(素案)(平成 21 年 3 月)八千代エンジニヤリング(株)に委託

中心市街地拠点整備基本計画(平成 22 年 3 月)八千代エンジニヤリング(株)に委託

中心市街地拠点整備事業計画(平成 24 年 12 月)みずほ総合研究所(株)に委託

・市は、平成 22 年 3 月の基本計画の策定にあたり、民間活力導入可能性調査を行い、民間事業

者に対する意向調査を実施している。意向調査結果等を踏まえ、本事業については官民施設の

合築方式での定期借地方式を望ましいと評価している。

図表 意向調査の概要

実施先 建設会社 8 社、不動産開発会社 4 社の合計 12 社

内容 ・事業スキーム、民間施設の複合化について調査

(この段階では、合築方式が分棟方式よりも望ましいと評価しており、意向調

査も合築方式を前提として実施した。)

出典:安城市公表資料に基づき作成

・市は、平成 24 年 12 月の事業計画の策定にあたり、次の 3 回にわたる詳細な市場調査(50 社以

上の民間事業者への意向調査等)を実施している。

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図表 市場調査の概要

第一次調査

実施先 ・基本計画で「◎積極的に誘導を図る施設」又は「○誘導を図る施設」として示

された業種を中心とした、中部圏での出店が多い企業等 49 社。

目的及び

内容

・民間事業の成立可能性を把握することを目的として実施。

・事業予定地の開発ポテンシャル、本事業への参加条件等を調査。

第二次調査

実施先 ・本事業において代表企業等としての参画が想定され、PFI 事業や定期借地

方式に関する実績を有する企業 9 社

目的及び

内容

・本事業に対する参画意欲、民間施設の出店可能性、事業スキーム等に対す

る課題認識等の意向把握を目的として実施。

・事業予定地の開発ポテンシャル、事業スキーム、民間事業者の業務範囲等

を調査。

第三次調査

実施先 ・第二次調査の対象先に、本事業に関心を示している企業 2 社を加えた企業

11 社。

目的及び

内容

・事業スキームの詳細について、民間事業者の要望や意見を把握することを

目的として実施。

・事業スキーム、PFI 事業と民間収益事業の一体的実施の可否等を調査。

出典:安城市公表資料に基づき作成

・以上の民間事業者に対する意向調査の結果、市では、公共施設の整備等を行う PFI 事業と、民

間施設の整備等を行う民間収益事業とを一体的に実施することが望ましいと判断されている。

イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・市は、平成 14 年 4 月に更生病院が中心市街地から郊外に移転したことにより、市が活用すること

となったため、当該敷地を事業用地としている。

・土地区画整理事業(平成 21 年 4 月 1 日~平成 31 年 3 月 1 日)により、敷地面積が 12,305 ㎡

に決定している。

イ 施設要件及び業務内容

・本事業は、公共施設の整備等を行う PFI 事業と、民間施設の整備等を行う民間収益事業とを一

体的に実施したものである。

・情報拠点施設、提案施設及び駐車場の 3 施設については、7,415 ㎡の施設計画エリアに、分棟

方式により配置することを条件としている。

・市は、民間施設として、商業施設、健康増進施設、生涯学習関連施設等の提案を期待している。

一方で、住宅施設、風俗営業や性風俗関連特殊営業に供する施設、公営競技関連施設(場外

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馬券売り場等)等は提案を認めない施設としている。

・情報拠点施設のうち図書情報館の運営は、図書館サービス継続性の確保及び関係機関とのスム

ーズな連携を重視するため当面直営で行うこととし、民間事業者の業務範囲には含めていない。

・また、技術革新が速い ICT 関連業務は、事業者の選定から実際の事業化までの期間が長い

PFI 事業では 新技術を取り入れたいという市の要望を十分に反映できないという判断により、

民間事業者の業務範囲外としている。

図表 各施設における具体的な施設要件

施設区分 延べ面積 備考

情報拠点施設 8,700 ㎡以上 (~+5%まで認める)

図書情報館 7,000 ㎡

交流・多目的スペース 1,500 ㎡

旅券・各種証明対応窓口等 200 ㎡

その他 適宜 駐車場(荷捌き用)、駐輪場(公共施設利用

者用の駐輪場(200 台)、職員用の駐輪場

(20 台))、自由提案施設

民間施設

提案施設 1,500 ㎡以上 提案を期待する施設(商業施設、健康増進

施設、生涯学習関連施施設

駐車場 公共施設用として必要な駐車場台数(200台)を確保した上で、提案施設に関して法令

や条例等で必要となる台数以上

出典:安城市公表資料に基づき作成

・なお、提案施設の延床面積は 1,500 ㎡以上とすることを条件とし、民間活用用地(提案施設用地

及び駐車場用地)の規模は事業者(SPC②)の提案によることとしている。

・また、市は公共用として 200 台分の駐車場設置を求めており、事業者は、200 台に加えて事業に

必要と考えられる駐車場台数(本事業では 275 台の提案)を民間収益事業として整備・運営する

こととなっている。

・市は、200 台分の公共施設用駐車場使用料を事業者に支払う。そのため、公共施設用駐車場部

分の地代負担は、市が事業者に支払う駐車場使用料に転化されている。

ウ 事業期間

・PFI 事業の維持管理等期間は、平成 29 年 6 月 1 日から平成 44 年 5 月 31 日までの 15 年間

である。

・民間収益事業は、事業用定期借地権設定契約の締結日から平成 44 年 5 月 31 日まで(15 年程

度)または平成 49 年 5 月 31 日まで(20 年程度)のいずれかの期間を事業者が選択する方式と

している。これは、民間事業者に対する意向調査において、民間収益施設の望ましい事業期間

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は 15~20 年に分かれていたことから、事業条件ではなく提案に任せることとしたためである。

・結果的に、応募 4 グループ中、2 グループが 15 年、2 グループが 20 年を提案し、20 年を提案し

た民間事業者が選定されている。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 借地料

・市は、事業者(SPC②)から、民間収益施設部分について、定期借地の借地料を受け取る。

・定期借地の借地料は、募集要項で規定した基準単価(下限価格)の月額 295 円/㎡に対し、提案

借地料の単価は月額 300 円/㎡となっている。

・基準単価は、不動産鑑定評価に基づき決定している。

(イ) 自由提案施設の貸付料

・市は、事業者から、情報拠点施設内の自由提案施設部分の貸付料を受け取る。

・安城市公有財産規則に基づき、市が規定した月額 1,700 円/㎡としている。

オ 参加条件

・図書情報館の整備等を行う PFI 事業では、設計、建設、工事監理企業の参加資格要件として、

図書館等の実績を求めている。

・民間収益事業の参加資格要件は、他の PFI の民間収益事業の参加資格要件を参考として、提

案する民間収益事業と同種事業の実施実績を有していること、民間収益事業の実施にあたり必

要な資格(許可、登録、認定等)を有していることとしている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは次のとおりである。

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図表 実施スケジュール

実施方針、業務要求水準書(案)の公表 平成 24 年 12 月 25 日 実施方針等説明会の開催 平成 25 年 1 月 9 日 実施方針等に関する質問及び意見の受付 平成 25 年 1 月 9 日~同年 1 月 18 日 実施方針等に関する質問への回答の公表 平成 25 年 2 月 15 日 特定事業の選定及び公表 平成 25 年 2 月 28 日 募集の公告(募集要項等の公表) 平成 25 年 5 月 9 日 自由提案事業に関する照会(第1回)の受付 平成 25 年 5 月 9 日 募集要項等に関する質問(第1回)への回答(先行分) 平成 25 年 6 月 4 日 募集要項等に関する質問(第1回)への回答 平成 25 年 6 月 20 日 自由提案事業に関する照会(第2回)の受付 平成 25 年 6 月 20 日~7月 24 日 個別対話の実施 平成 25 年 7 月 24 日 個別対話の実施結果公表 平成 25 年 7 月 30 日 募集要項等に関する質問(第2回)の受付 平成 25 年 7 月 26 日~8 月 1 日 募集要項等に関する質問(第2回)への回答 平成 25 年 8 月 22 日

提案書類の提出締切 平成 25 年 9 月 25 日 提案書類に関するヒアリングの実施 平成 25 年 11 月 7 日

優秀提案者等の選定、優先交渉権者等の決定及

び公表 平成 25 年 12 月 11 日

審査講評の公表 平成 26 年 1 月 17 日

事業者選定における客観的な評価の結果の公表 平成 26 年 1 月 17 日 基本協定書(PFI事業、民間収益事業)の締結 平成 26 年 1 月 28 日 仮契約書(PFI事業)の締結 平成 26 年 2 月 19 日 事業契約書(PFI事業)の締結 平成 26 年 3 月 24 日

出典:安城市公表資料に基づき作成

・市の意図と応募者の提案内容との間に齟齬が生じないようにすることを目的として、個別対話を

実施している。個別対話は、個別対面方式による質疑回答の形式で、募集要項の第 1 回目の質

問に対する回答から第 2 回目質問受付までの間に実施している。

・個別対話の実施結果については、公平性の観点から、応募者の権利、競争上の地位その他正

当な利益を害するおそれがあると考えられるものを除き、対話結果を公表している。

キ 官民のリスク分担

(ア) 需要が変動した場合

・民間収益事業は、事業者(SPC②)の独立採算としており、需要が変動した場合のリスクは事業

者(SPC②)が負担している。

(イ) 事業収支が悪化した場合

・事業者(SPC②)の事業収支が悪化し、債務不履行があった場合には市は定期借地の契約を解

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除できることとなっている。なお、解除事由によって事業者(SPC②)は借地料の 12 ヶ月分に相当

する金額の違約金を市に支払うことになる。また、事業者(SPC②)は、民間収益事業を実施する

代替事業者を確保するよう努める必要がある。また、事業者(SPC①)も、民間収益事業を実施す

る代替事業者を確保するよう努める必要がある。

(ウ) 契約上の地位の譲渡等

・市は、民間収益事業では、基本協定書(民間収益事業)上の地位及び権利義務については、別

段の定めのある場合、又はやむをえない事情があり市の事前の書面による承諾がある場合には

認めることとしている。また、市は事業用定期借地権設定契約書に基づく定期借地権の転貸、民

間施設及び定期借地権の譲渡は原則禁止しているが、本事業の目的、業務要求水準書及び民

間事業者の提案内容から逸脱しないことを条件として、事前に市と十分な協議を行った上で、市

の書面による承諾を得た場合に限り認めることとしている。

・なお、民間施設及び定期借地権を第三者に譲渡した場合には、市に対する保証金返還債務も

第三者に承継することを義務付けている。

ク 事業終了時の取扱い

・本契約が借地期間満了により終了する場合、提案施設用地については、提案施設を解体・撤去

し提案施設用地を原状回復し、借地期間満了日に市に返還することとなっており、駐車場用地に

ついては、駐車場運営者との間の委託契約を終了させ、借地期間満了日に市に駐車場を無償

で譲渡し駐車場用地を返還することとなっている。なお、駐車場を市に無償譲渡する際には、駐

車場の所有権について担保権、用益権その他所有権に対する制約が一切ない完全な所有権の

移転が必要である。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・全体の評価における内容:価格の割合は 7:3 で、内容に占める民間収益事業の評価割合は 1/7、

価格に占める民間収益事業の評価割合は 4/30 となっている。

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図表 評価項目

審査項目 配点

1 事業の全体方針に関する事項 10 点

(1)事業に対する取組方針及び基本コンセプト 5 点

(2)事業実施体制 2 点

(3)地域の活性化、地域経済への貢献 3 点

2 設計・建設に関する事項 35 点

(1)拠点施設全体の計画 10 点

①施設計画の基本方針 3 点

②建物配置、動線、意匠計画 7 点

(2)各機能の計画 16 点

①情報拠点施設全体の空間構成 3 点

②図書情報館機能 7 点

③交流・多目的スペース機能、その他機能 4 点

④広場・公園機能 2 点

(3)施設や設備の性能 7 点

①施設・設備の環境性能及び基本的な品質・性能 5 点

②防災性、安全性 2 点

(4)品質確保 2 点

①工程計画 1 点

②品質の確保 1 点

3 維持管理に関する事項 5 点

(1)維持管理業務の取組方針 2 点

(2)保守管理業務計画 2 点

(3)修繕業務計画 1 点

4 総合連携支援に関する事項 2 点

(1)総合連携支援業務の取組方針 2 点

5 民間収益事業に関する事項 10 点

(1)施設計画 4 点

(2)維持管理・運営計画 6 点

①提案施設・駐車場 5 点

②活性化事業 1 点

6 事業計画に関する事項 6 点

(1)リスク管理 3 点

(2)収支計画 3 点

7 その他優れた提案に関する事項 2 点

(1)その他優れた提案の評価 2 点

合計 70 点

出典:安城市公表資料に基づき作成

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イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 5 者から参加表明があり、4 者が提案書類を提出した(1 者は応募を辞退)。各者の総

合評価結果は次のとおりである。

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図表 総合評価結果 (小数点第3位以下を四捨五入)

項 目 配点 K グループ

得点

Yグループ

得点

Oグループ

得点

Tグループ

得点

事業の全

体方針に関

する事項

(1)事業に対する取組方針及び基本コンセプト 5 2.500 4.500 5.000 5.000

(2)事業実施体制 2 1.100 1.500 2.000 1.900

(3)地域の活性化、地域経済への貢献 3 1.800 2.400 2.400 3.000

小計 10 5.400 8.400 9.400 9.900

設計・建設に関する事項

(1)拠点

施設全

体の計

①施設計画の基本方針 3 1.500 2.400 2.700 2.700

②建物配置、動線、意匠計画 7 3.150 5.250 7.000 6.650

10 4.650 7.650 9.700 9.350

(2)各機能の計画

①情報拠点施設全体の空間構成 3 1.350 2.100 3.000 3.000

②図書情報館機能 7 3.500 4.900 5.950 7.000

③交流・多目的スペース機能、その

他機能 4 2.200 3.200 3.800 3.600

④広場・公園機能 2 1.000 1.600 1.900 1.700

16 8.050 11.800 14.650 15.300

(3)施設や

設備の性能

①施設・設備の環境性能及び基本

的な品質・性能 5 3.250 4.750 5.000 4.000

②防災性、安全性 2 1.300 1.500 2.000 1.600

7 4.550 6.250 7.000 5.600

(4)品質

確保

①工程計画 1 0.700 0.900 0.900 0.850

②品質の確保 1 0.700 0.900 0.950 0.850

2 1.400 1.800 1.850 1.650

小計 35 18.650 27.500 33.200 31.900

維持管理

に関する事

(1)維持管理業務の取組方針 2 1.500 1.500 1.800 1.700

(2)保守管理業務計画 2 1.600 1.700 1.400 1.500

(3)修繕業務計画 1 0.700 0.600 0.750 0.750

小計 5 3.800 3.800 3.950 3.950

統合連携

支援に関す

る事項

(1)総合連携支援業務の取組方針 2 1.200 1.200 1.400 1.500

小計 2 1.200 1.200 1.400 1.500

5 民間収益事業

に関する事項

(1)施設計画 4 2.800 3.200 3.400 3.600

(2)維持

管理・

運営計

①提案施設・駐車場 5 2.500 2.500 3.750 5.000

②活性化事業 1 0.650 0.700 0.600 0.750

6 3.150 3.200 4.350 5.750

小計 10 5.950 6.400 7.750 9.350

事業

計画に

関する

事項

(1)リスク管理 3 2.700 2.700 2.700 2.700

(2)収支計画 3 2.550 2.550 2.550 2.550

小計 6 5.250 5.250 5.250 5.250

その他優

れた提案に

関する事項

(1)その他優れた提案の評価 2 1.300 1.500 1.700 1.700

小計 2 1.300 1.500 1.700 1.700

提案内容の評価点 70 41.550 54.050 62.650 63.550

(2)提案価格の評価点

PFI 事業に関する提案価格 26 5,662,051,000円 5,598,241,545円 5,786,715,915円 5,790,000,000円

PFI提案価格の評価点 26 25.710 26.000 25.150 25.140

得点化対象価格 43,114,966 円 43,688,369 円 31,952,129 円 29,254,500 円

民間収益事業提案価格の評価点 4 2.710 2.680 3.660 4.000

提案価格の評価点 30 28.420 28.680 28.810 29.140

(3)総合評価値

総合評価値=提案内容の評価点+提案価格の評価点 100 69.970 82.730 91.460 92.690

出典:安城市公表資料に基づき作成

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・選定された提案内容のうち、公共施設と民間施設の一体化については、次の内容が提案されて

いる。

図表 選定事業者の提案内容

公 共 施 設 と 民

間施設の一体

・情報拠点施設は北側に、提案施設を南側に配置しました。駐車場はふたつの

建物の間に設け、どちらの施設へもアクセスし易い構成。

・情報拠点施設、駐車場、提案施設は 2 階レベルをペデストリアンデッキでつな

ぎ、駐車場からそれぞれの施設への安全な動線として計画。

・提案施設 1 階にはスーパーマーケット、自由提案施設として情報拠点施設の 1

階にはカフェを設け、旅券窓口や多目的ホールを利用する市民の日常的な買

い物等の利便性に配慮。

・情報拠点施設、駐車場、提案施設の建物高さやボリューム、さらに広場・公園

と建物との色彩や素材の統一を図り、一体感のある建物群としての景観を創

出。

出典:民間事業者のホームページに基づき作成

・上記提案に対しては、次のように評価されている。

図表 総合評価結果

・民間収益事業に関する事項について、施設計画では、提案施設を南側に配置することによって、

近隣住宅地へ配慮がなされている点が高く評価された。また、維持管理・運営計画において、要

求水準を大きく上回る規模の食料品等を扱う物販施設の導入や市場動向調査を踏まえた誘致確

実性や継続可能性が見込まれるテナント計画、具体的なサービス陳腐化の抑制方策、適切な駐

車場の運営・維持管理計画が提案されている点が特に高く評価された。

・事業計画に関する事項については、具体的なリスク管理方策が示されており、確実性のある資金

調達計画や妥当な収支計画である点が評価された。

・その他優れた提案に関する事項については、ハード・ソフトの両面において地域の特性が生かさ

れている点、自由提案事業として、飲食事業、イベント等の具体的なソフト事業が提案されており、

にぎわい創出等が期待できる点が高く評価された。

出典:安城市公表資料に基づき作成

(6) モニタリング実施状況

・事業者(SPC②)は、業務計画書に係る四半期ごとの業務報告書を作成して市に提出し、市はそ

の内容を確認することになっている。

・市は、必要と認める場合、上記のモニタリングとは別に、随時、必要に応じて施設巡回、民間収益

事業者に対する説明要求等を行い、民間施設の運営・維持管理状況、駐車場の利用状況、民間

収益事業者の駐車場運営・維持管理業務の実施状況を確認することになっている。

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・市は必要に応じて改善勧告を行うほうが、改善措置が取られるまで駐車場使用料の支払いを停

止することなどが想定されている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況(事業全体及び民間収益事業の財務状況、収益の実績、還元資金の使途)

ア 運営状況等

・まだ運営は開始されていない。

イ 事業収支状況等

・まだ実運営は開始されていない。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・本事業では事業者(SPC②)の提案により生鮮食料品を扱うスーパーマーケットが誘致された。公

共がスーパーマーケットを誘致することは困難であったが官民連携手法により、誘致することが可

能となったと考えられている。

・また、図書情報館とスーパーマーケットが併設されたことで、図書情報館の利用者がスーパーマ

ーケットを利用したり、スーパーマーケットの利用者が図書情報館を利用したりする相乗効果が発

揮される可能性があると考えられている。

・特に地元企業にとっては、本事業に関与することにより、企業ブランドの向上に資すると考えられ

ている。

・官民連携手法であることで、行政支援を、補助金等目に見える形の他に、公共による PR や広報

等の無形の形でも得ることができると考えられている。

イ 課題

・民間事業者の提案がベースとなっているため、公共側が後から何かを追加しようとすると、民間事

業者との協議が必要となるため、事業実施後に公共側の意向を反映しづらい面もあると考えられ

ている。

・官民連携手法を採用すると、意思決定に時間が掛かる傾向にあると考えられている。

(3) 事業に対する評価

・本事業を期待しているという市民等の声があるとされている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・本事業では、平成 21 年度策定した基本計画において、官民の合築による定期借地での事業化

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を方針としていた。しかし、その後に契約をした外部委託先から、民間事業者に再度意向調査を

行い事業計画を策定した方がよいという提案がなされ、市場調査や民間事業者への意向調査を

綿密に行った結果、PFI 事業と定期借地事業に分割することが望ましいとされて、事業スキーム

を変更している。

・民間収益事業については、市場調査や民間事業者への意向調査を綿密に行うことが鍵であり、

本事業は市場調査や民間事業者への意向調査をもとに事業スキームを変更したことが、事業化

が進んだポイントであったと考えられている。

・民間収益事業を併設した PFI 事業の駐車場は、条件の設定が非常に難しいとされている。これ

は、駐車場の利用者が公共施設利用者か民間収益施設の利用者かの区別が難しいこと、民間

収益施設の駐車場台数は提案される民間収益施設の内容や規模によって変わることなどによる

とされている。

・これらを踏まえると、早期の段階で民間事業者に対して情報開示や対話を行うことが望ましいと考

えられている。

・官民間の責任分担の明確化が必要であると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 安城市中心市街地拠点整備事業

事業分野 都市/まちづくり・図書館等

発注者 安城市

施設概要

施設内容

公共施設:情報拠点施設(図書情報館・多目的ホール・自由提案

施設(カフェ)等)、広場・公園、駐輪場

提案施設:スーパーマーケット、カルチャースクール

駐車場

施設規模

公共施設:鉄骨造+鉄筋コンクリート造 延床面積 9,193.43 ㎡

提案施設:鉄骨造 延床面積 3,04169 ㎡

駐車場:鉄骨造 延床面積 6,016.08 ㎡

事業場所 安城南明治第二土地区画整理事業地内用地

寄駅:JR 安城駅(徒歩約 4 分)

事業概要

事業概要 公共施設の整備等を行うPFI事業と、民間施設の整備等を行う民間

収益事業とを一体的に実施するもの

民間収益施設

民間収益事業(提案施設、駐車場)は定期借地権による独立採算

事業、PFI事業における自由提案事業は賃貸借契約による独立採

算事業

事業

スキーム等

事業期間 PFI 事業:18 年 2 ヶ月(維持管理等期間は約 15 年)

民間収益事業:20 年 8 ヶ月

事業方式 PFI 事業:BTO 方式

民間収益事業:事業用定期借地方式

事業類型 PFI 事業:サービス購入型(自由提案施設は独立採算型)

民間収益事業:独立採算型

事業規模 PFI 事業:5,790,000,000 円(サービス購入料、税別)

民間事業者の

業務内容

PFI 事業:施設整備、維持管理、総合連携支援、自由提案事業

民間収益事業

VFM

特定事業選定時 7.4%

事業者提案 9.5%

割引率 2.0%

審査結果

選定方式 公募型プロポーザル方式

予定価格 PFI 事業:5,867,632,000 円(上限価格、税別)

契約金額 5,790,000,000 円(サービス購入料、税別)

応募グループ 参加表明書提出:5 グループ

提案書類提出:4 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎清水建設(株)(設計・建設)、(株)三上建築事務所(設計)、スタ

ーツCAM(株)(建設)、スターツアメニティー(株)(民間収益事業)

協力会社 (株)丸山組(建設)、(株)シミズ・ビルライフケア(維持管理)、スター

ツファシリティーサービス(株)(維持管理)

スケジュール

実施方針公表 平成 24 年 12 月 25 日

特定事業選定 平成 25 年 2 月 28 日

募集要項公表 平成 25 年 5 月 9 日

提案書類受付 平成 25 年 9 月 25 日

優秀提案者選定 平成 25 年 12 月 11 日

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事業名 安城市中心市街地拠点整備事業

契約締結(PFI 事業) 平成 26 年 3 月 24 日

供用開始 平成 29 年 6 月 1 日(予定)

活用した

制度等

補助金 社会資本整備総合交付金

その他 ―

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事例 19:流山おおたかの森駅前市有地活用事業

事業分野:まちづくり

事例 19:流⼭おおたかの森駅前市有地活⽤事業

事業場所 千葉県流山市東初石5丁目181-29

公共主体 千葉県流山市 民間主体 スターツコーポレーション(株)

施設概要 公共施設 多目的ホール、(仮称)市民窓口センター

民間施設 ホテル、商業施設、集合住宅

事業実施段階 優先交渉権者選定段階(供用開始未済)

事業手法 等価交換方式+定期借地権方式

公共への還元 等価交換/土地等の対価(借地料)〔7.32 億円(14,640 千円/年)※〕

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、つくばエクスプレス流山おおたかの森駅北口にある流山市の市有地約 1ha において、

多目的ホールや市民窓口センターといった公共施設と、バンケット機能を有するホテル、商業・業

務施設、集合住宅からなる民間収益施設からなる複合施設の整備を、一括して民間事業者に委

ねたものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 流山市は、民間事業者から、民間収益施設(集合住宅)を整備する市有地の等価交換で公共施

設(多目的ホール、市民窓口センター)を取得するほか、民間収益施設(ホテル、商業・業務施設)

用の事業用地の地代約 7.32 億円(※)を受け取る。

※議会の議決を経たうえで、ホテル部分の地代は 10 年間減免される。

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 市場性の高い公有地の活用を検討

・本事業の事業用地は、つくばエクスプレスで秋葉原駅まで約 30 分の流山おおたかの森駅前に

位置しており、マンション需要が高く、民間事業者の関心が高かった。

➤ ホテル部分の事業性向上(地代減免)

・シティホテルについては民間意向調査により事業採算性が合わないという意見が多く寄せられ

た。そのため、流山市は、ホテル部分の地代については、バンケット付きのシティホテルの場合は

地代の 100%、ビジネスホテルの場合は地代の 50%を議会の議決を経て 10 年間減免すること

にしている。これによりホテル部分の事業採算性が向上するとともに、民間事業者に対してホテ

ルを重視するという流山市の姿勢を強く示すことができた。

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◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 流山市のシティホテル誘致意欲

・流山市は、事業用地の土地利用コンセプトを「新拠点にふさわしい交流空間の形成」とし、産業

や観光の振興に寄与するバンケット機能を有するシティホテルの誘致を重視していた。

➤ 民間の自由度を高めるための条件緩和

・流山市は、当初は定期借地権方式の活用を検討していたが、民間事業者への意向調査の結果

に基づき、定期借地権方式+等価交換方式を選択できるようにした。また、事業期間についても、

上限を設定したうえで民間事業者の提案に委ねるなど、多くの民間事業者の要望を満たすスキ

ームとした。

・また、民間収益施設については証券化したいとの民間事業者の要望を受け、第三者への譲渡の

条件を緩和した。

◇ 官民間でのコミュニケーションの特徴・工夫

➤ 積極的な官民対話を通じたニーズ把握

・流山市は、民間事業者が取組みやすい事業となるよう、事業実施段階ごとに民間事業者へのア

ンケートや官民対話を複数回実施し、きめ細やかに民間事業者の意向を把握した。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 「市有地活用検討会議・部会」の設置による庁内組織を横断した検討

・流山市は、本事業では公共施設の整備に複数の部署が関わることになるため、基本方針策定段

階から庁内組織を横断し、副市長を座長とする「市有地活用検討会議」を立ち上げた。その会議

において、ホテル部分の地代の減免措置等の重要事項を議論し方針決定することで、円滑に検

討を進めることができた。

● 効果

➤ 流山市が長年構想していたシティホテルの誘致が実現

・積極的に官民間のコミュニケーションを図り、民間事業者の意向を反映した事業スキームとした結

果、流山市が長年構想していたシティホテルの誘致が実現した。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・つくばエクスプレス流山おおたかの森駅周辺では、平成 11 年より約 286ha の土地区画整理事業

が行われており、平成 28 年度末に換地処分が行われる予定となっている。流山市(以下「市」と

いう。)では、このうち、流山おおたかの森駅北口に有する約1ha の市有地について、平成 23 年

11 月に、市が目指す新拠点の姿を踏まえ、当該市有地の有効活用を図るための「流山おおたか

の森駅前市有地活用基本方針」(以下「基本方針」という。)を策定した。

・市は、その中で「新拠点にふさわしい交流空間の形成」を土地利用のコンセプトとし、このコンセ

プトを具現化するため、音響に配慮した多目的ホールを始め、現在のおおたかの森出張所の機

能を充実した(仮称)市民窓口センターといった公共施設や、東葛飾北部地域の産業や観光の

振興に寄与するバンケット機能を有するホテル、ホールやホテルに付随する商業、業務施設、人

口増加に資する集合住宅からなる民間収益施設を一体的な複合施設として整備することにした。

イ 官民連携手法導入の背景

・市は、事業方式を定めるにあたっては、市の財政負担なく公共施設の整備を含む一体的なまち

づくりを行うことを大前提としていた。

・市は、当該用地は区画整理事業の中で市が先行投資を行って取得した用地であり、等価交換に

より面積を減らしたくないという思いがあったため、定期借地権方式が望ましいと考えていた。しか

し平成 23 年の基本方針の策定段階に実施した事業者への意向調査において、住宅やホテルを

整備するにあたって、定期借地権方式は難しいとの意見が多くよせられたため、等価交換方式+

定期借地権方式も認めることとし、2 つの方式の選択は事業者の提案に委ねることにした。

(2) 事業概要

ア 施設概要

・本事業の事業用地は、流山おおたかの森駅周辺で実施している土地区画整理事業の区画の一

部に位置する約1ha の市有地である。

・導入施設は、音響に配慮した多目的ホールを始め、現在のおおたかの森出張所の機能を充実し

た(仮称)市民窓口センター、東葛飾北部地域の産業や観光の振興に寄与するバンケット機能を

有するホテル、ホールやホテルに付随する商業・業務施設、人口増加に資する集合住宅である。

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図表 位置図

出典:流山市公表資料

図表 施設概要

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図表 提案内容

出典:スターツコーポレーション(株)公表資料に基づき作成

イ 事業方式

・本事業は、財政負担に配慮した土地活用の推進、実現性の高い土地活用の推進という観点から、

定期借地権方式または等価交換方式+定期借地権方式での事業実施を予定し、各方式の選択

は事業者の提案に委ね、等価交換方式+定期借地権方式の提案が選定された。

・「定期借地権方式」は、市有地全体に定期借地権を設定し、事業者が本施設を設計、建設し、維

持管理、運営を行い、市は事業者と公共施設の賃貸借契約を締結し、公共施設の維持管理費に

相当する対価を公共施設の賃料として支払う仕組みである。

・また、等価交換方式+定期借地権方式は、事業者が公共施設を建設し、当該施設と等価となる

市有地を交換するほか、等価交換を行う敷地以外の市有地(公共施設用地を含む) に定期借地

権を設定し、事業者が民間施設を設計、建設するものである。 なお、この場合、市有地との交換

集合住宅棟 [民間収益施設]

ホテル・商業棟 [民間収益施設]

ホール・市民窓口 [公共施設]

建築面積(㎡) 1,993 ㎡ 1,141 ㎡ 2,487 ㎡

外構面積(㎡) 2,207 ㎡ 859 ㎡ 1,637 ㎡

建ぺい率(%) 47.5% 57.1% 63.0%

容積対象

床面積(㎡) 16,800 ㎡ 8,000 ㎡ 3,754 ㎡

容積率(%) 400.0% 400.0% 400.0%

構造 RC 造 基礎免震 RC 造+鉄骨造 RC 造+鉄骨造

階数(階) 地上 13 階 地上 11 階、PH1 階 地上 2 階、PH1 階

高高さ(m) 41.8m 45.1m 13.9m

規模・特徴 ・分譲 176 戸 ・賃貸 75 戸 ・タウンマネジメント協議会の設立

・客室 168 室 (全室平均 20 ㎡、スイートルーム有)

・バンケット、大浴場、ビジネスコーナー設置

・カフェ、音楽教室、コンビニ誘致予定

・観覧席 515 席 ・前後移動可能な観覧席 ・ホワイエと一体化して利用可能

・利用者に優しい市民窓口

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によって市が取得した公共施設は、市が維持管理、運営を行うとしている。

図表 事業方式概要

出典:流山市公表資料

ウ 事業期間

・市は、定期借地権については、借地期間の上限を建設期間を除き 70 年(集合住宅とそれ以外の

施設が別棟になる場合、集合住宅以外の施設用敷地の借地期間上限は、建設期間を除き 50 年)

として民間事業者の提案を求めた。その結果、ホテル・商業棟の敷地を 50 年の定期借地とする

提案が選定された。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元方法は、市有地との等価交換による公共施設(多目的

ホール、市民窓口センター)の取得と、民間収益施設(ホテル、商業・業務施設)の事業用地の地

代である。

・なお、ホテル部分の地代については、議会の議決を経て 10 年間減免されることになっている。

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図表 地代の内容

内容

【当初の地代】14,640,000 円/年 ※上記地代からホテル部分の地代を議会の議決を経たうえで 10 年間減免する。 ※地代は 3 年毎に見直すこととする。

出典:流山市公表資料およびヒアリングに基づき作成

図表 事業スキーム図

※実際は総額約7.32億円(約14,640千円/年)のうち、ホテル部分の地代については、議会の議決を経て10年間減免されることとなっている。

出典:流山市公表資料およびヒアリングに基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・市が事業者から収受する地代は市の一般会計に帰属し、使途は特に定まっていない。

流山市

収入

一般財源

市有地

整備費 【約 34 億円】

地代※ 【約 7.32 億円】

(約14,640千円/年) 3 年毎に見直しあり

商業・業務施設

民間施設(定期借地権)

ホテル※

活用用地(等価交換)

定期借地権付 分譲マンション

賃貸マンション

民間施設

多目的ホール

市民窓口センター

公共施設

整備費 【約 65 億円】

公共施設の設計・建設業務に係

る業務費と民間施設の事業用地

を等価交換

整備費 【約 21 億円】

収入

事業者

施設整備段階

運営段階

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2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、総合政策部誘致推進課が担当している。

・本事業については、基本構想策定段階から、3 名が担当している。公共施設の要求水準は、管

轄する事業部と連携して作成している。

・本事業には様々な機能の公共施設が含まれ、内部の関係者が多くなることから、基本方針や実

施方針、募集要項の策定にあたっては、「市有地活用検討会議」(座長:副市長)という副市長と 5

つの部(総務部、産業振興部、都市計画部、都市整備部、総合政策部)の部長からなる庁内検討

会議を立ち上げ、意思決定を行った。なお、この検討会議は平成 23 年の基本方針策定段階から

開催し、平成 26 年度は 5 回、平成 27 年度は 5 回の会議を開催している。

・市は、流山おおたかの森駅前市有地活用支援業務、流山おおたかの森駅前市有地活用事業公

募支援・設計モニタリング業務を八千代エンジニアリング(株)に委託している。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産活用の手続

・普通財産であり公有財産活用の制限はない。

イ 規制等の変更

・従前は市街化調整区域だった土地を商業地域に変更しているが、区画整理事業を行う過程で実

施しており、本事業のために変更を行ったわけではない。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の実施内容

・市は、事業化の検討にあたり、計 4 回の民間事業者の意向調査を実施している。

・1 回目は基本方針の策定段階において、アンケートを実施した。アンケートには、計画地や宿泊

施設等の整備を検討している旨を示し、民間事業者の意見を求めた。

・2 回目は実施方針策定段階において、民間事業者ににアンケートを実施した。

・3 回目は実施方針の公表後に直接対話を実施し、4 回目は募集要項の公表後に再度直接対話

を実施している。

・市は、基本方針策定段階でのアンケートにおいて、定期借地権方式に対する民間事業者の反応

がよくなかったため、等価交換方式を含めて検討することにした。また、この段階では、ホテルを

整備することについて、需要が見込めず事業採算性が合わないといったネガティブな意見が寄

せられた。

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イ 民間発案の有無

・本事業は民間発案に基づいて実施されたものではない。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・事業用地は、つくばエクスプレス流山おおたかの森駅周辺の土地区画整理事業の中で市が仮換

地を受ける約 1ha の土地である。

イ 施設要件及び業務内容

・市は本事業の基本方針として以下のような土地活用の方針を定めている。

図表 土地活用の方針

①土地活用の方針 <地域間交流と市民間交流の拠点> ・流山新拠点における新たな顔として、ホテルや商業・業務機能等を通じて集客効果を高め、地域

住民や来街者の出会いや交流を創出する。

・「流山らしさ」を生み出す拠点として、定住人口の増加に資するとともに、ホール機能等を通じて文

化的・芸術的活動を通じた幅広い交流を創出する。

・現在、駅南口流山おおたかの森ショッピングセンター3階に位置するおおたかの森出張所を本事

業用地に移転し、拠点性を高める。 出典:流山市公表資料に基づき作成

・市は、事業者に対して、公共施設 として音響に配慮した多目的ホール 、(仮称)市民窓口セン

ター 、防災備蓄倉庫の整備、民間施設としてホテル、集合住宅、商業・業務施設等、その他施

設として駐車場施設等の整備を求めた。

・なお、公共施設と民間収益施設は合築・分棟のどちらでも可能とした。民間施設については、ホ

テルおよび集合住宅、商業・業務施設等の整備は必須となっているが、当該施設以外の整備も

可能とされている。

・ホテルの整備については、つくばエクスプレス開業前より議会から要請されており、また平成 21

年 7 月の「流山市産業振興審議会」の答申の中にも記載されているほか、市長マニフェストにお

いて誘致実現が掲げられている。市がホテルの整備を求めた理由は、当時の市の都市機能の中

で唯一保有していない施設であったためである。また、ホテルを整備することで周辺に飲食店出

店が促進されるなど、さまざまな相乗効果が期待されていた。

・事業者にとっても、ホテルを誘致できるかという点がポイントになったが、インバウンド増加の影響

で一定程度需要が見込まれたことから、提案が可能となった。

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ウ 事業期間

・事業期間は、定期借地権について、建設期間を除き70年を上限(集合住宅とそれ以外の施設が

別棟になる場合、集合住宅以外の施設用敷地の借地期間上限は、建設期間を除き 50 年)とし、

事業者からの提案とした。

・事業期間を事業者からの提案としたのは、直接対話の中で事業者から様々な意見が寄せられた

ことから、それらの意見にすべて対応できるような条件としたためである。

・事業期間の上限は、事業者が民間事業として一般的に行っている事業期間にあわせて設定し

た。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 地代の設定

①定期借地権方式

・定期借地権方式の場合の借地条件は以下のとおりである。

図表 借地条件(定期借地権方式)

土地賃料:次に示す基準地代以上であることを条件に、事業者が提案する額とする。 【基準地代単価:606 円/㎡・月】

※なお、公共施設の引渡し前の期間における土地賃料は無償とする。

出典:流山市公表資料に基づき作成

・基準地代単価 606 円/㎡・月は、市の普通財産の貸付基準に則り、土地評価額×4%としている。

②等価交換方式+定期借地権方式

・等価交換方式+定期借地権方式の場合の等価交換および借地条件は以下のとおりである。

図表 土地活用の方針(等価交換方式+定期借地方式)

ア 対象:公共施設の設計、建設に関する業務費と等価となる事業用敷地(面積)。ただし、公共施

設と等価にて交換する事業用敷地は、4,200 ㎡を上限とする。 イ 土地評価額:公共施設の設計、建設業務に関する業務費と等価となる事業用敷地は、次に示

す土地評価額によって、その範囲を確定させる。 【事業用敷地評価額(単価):511,000 円/㎡】

※なお、等価交換は次の全ての事項が実施されていることが条件となっている。 ①地方自治法第 96 条第 1 項第 6 号の議会の議決を得られていること。 ②集合住宅以外のすべての施設が、建築基準法第 7 条第 5 項に定める検査済証の交付を受けて

いること。 ③公共施設の所有権保存登記がされていること。 ④公共施設の長期修繕計画書を作成し、市の承諾を得ていること。

出典:流山市公表資料に基づき作成

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・事業用敷地評価額(単価):511,000 円/㎡は、不動産鑑定評価の結果を採用している。面積の上

限を 4,200 ㎡としたのは、民間事業者へのアンケートにおいて民間住宅の整備に 4,000~5,000

㎡は必要という意見が多かったことや、市有地を極力売却したくないという市の意向があったため

である。また、公共施設の整備費をある程度示すことで、ホール等の公共施設のグレードを誘導

する意味もあった。

(イ) 地代の減免

・市は、ホテル部分の地代については議会の議決を得たうえで下表のとおり減免することにしてい

る。これは、まちの核をつくり、賑わいを生むために、どうしてもバンケット機能付きのシティホテル

を整備したいという市の強い思いを示している。

図表 土地賃料の減免内容

※また、公共施設の引渡し日からの土地賃料については、下記のとおり減免を予定しています。

表Ⅱ-1 土地賃料の減免内容 減免対象施設 減免額 減免期間

ホテル バンケット機能を含むホテル 提案地代の 100%

10 年間 宿泊機能のみのホテル 提案地代の 50%

※上記の減免については、地方自治法第 96 条第1項第 6 号による議会の議決を得られることが条

件となります。 ※減免対象となる敷地は、ホテル又はホテルを含む施設が立地する定期借地権設定敷地となり、

ホテルが合築施設の場合には、当該施設におけるホテルの専有床面積の割合分に対して、上

記の減免が適用されます。 ※なお、地代の改定による提案地代との差額については、減免を行なわない予定です。

出典:流山市公表資料に基づき作成

・民間事業者への意向調査の中では、ホテルの事業採算性が厳しいという意見が相次いだことを

受け、市有地活用検討会議において、地代を減免してでも整備する方針が決まった。減免期間

を 10 年間としたのは、10 年後にはまちの賑わいが生まれ、ホテル事業も軌道にのるとの考えによ

る。

(ウ) 地代の改定

・市の普通財産貸付料の算定基準で定められているとおり、土地評価額に基づき 3 年毎に地代が

改定される仕組みとなっている。

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図表 地代の改定

③ 定期借地権設定契約における地代の改定方法 固定資産税の基準年度毎に、当該年度の4月1日以降の地代を、次の方法により改定します。算

出された額に1円未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てることとします。 また、定期借地権における地代の改定は、平成31年4月を第1回とし、その後3年度毎(固定資

産税の基準年の翌年度ごと)に改定することとします。

表 VI-3 土地の評価額に基づく改定方法

使用する指標 算定式

土地評価額

(固定資産評価額)

(1)定期借地権設定契約日から平成31年4月までの地代額 ■算定式:Pi=p×定期借地権設定敷地面積 p:提案地代単価(㎡・年)。 (2)平成31年4月以降における改定 ■算定式:Pt=Pr×(Wt/Wr) ・ (31≦t≦賃貸借期限、t ≧31、以降3年ごと) (改定率:Wt/Wr) Pr(=Pt-3):前回改定時の地代額 Pt:土地の評価額に基づく改定後の平成[t]年4月から翌年3月の地

代額 Wt:左記に示す指標の平成[t]年1月の評価額 Wr(=Wt-3):左記に示す指標の前回改定時の評価額

出典:流山市公表資料に基づき作成

オ 参加条件の設定

・応募者の資格要件として、事業敷地の借地、提案施設の設計・建設を行い、契約期間中継続し

て施設を維持管理・運営できる資金と企画力を有する者であることや、公共施設の設計・建設・維

持管理(定期借地権方式の場合のみ)においては、同規模以上の実績があることが求められてい

る。

・また、等価交換方式+定期借地権方式の場合、応募企業又は応募グループの代表企業が、等価

交換者および借地権者となり、事業契約等の事業推進等に必要な契約を締結する。ホテル、商

業・業務施設等については構成企業が借地権者となることも認めるが、その場合は、定期借地権

設定契約以外の事業契約、土地使用賃借契約、等価交換契約については代表企業と締結する

こととされている。

・補助金申請の問題や対外的な説明の点から SPC が事業実施主体となることは認めていない。

カ 事業実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

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図表 実施スケジュール

実施方針等の公表 平成 27 円 3 月 31 日 直接対話の実施 平成 27 年 4 月 9 日~10 日 実施方針等に対する意見・質問の受付 平成 27 年 4 月 15 日締切 実施方針等に対する質問への回答 平成 27 年 4 月 28 日 募集要項の公表 平成 27 年 7 月 8 日 直接対話参加申込の締切 平成 27 年 7 月 14 日 直接対話の実施 平成 27 年 7 月 23 日 募集要項に対する質問の締切 平成 27 年 7 月 28 日 募集要項に対する質問への回答

事業契約書(案)の配布受付の締切

平成 27 年 8 月 7 日 平成 27 年 8 月 17 日

提案書の受付日 平成 27 年 10 月 5 日 提案書に関するヒアリングの実施 平成 27 年 11 月 1 日

優先交渉権者の決定 平成 27 年 11 月 5 日

審査結果および講評の公表 平成 27 年 11 月 30 日

基本協定の締結 平成 27 年 12 月 14 日

事業契約の締結 ―

出典:流山市公表資料に基づき作成

・実施方針公表後に直接対話の機会を設け、16 社と対話を行った。また、募集要項の公表後に再

度直接対話の機会を設け、13 社と対話を実施している。

・実施方針後の直接対話では、ホテル事業の事業採算性が合わない等の意見が出たため、ホテ

ル部分の地代の減免を行うことにした。

キ 官民のリスク分担

(ア) 収入が変動した場合

・民間施設の所有及び管理は民間事業者が実施し、市に地代を支払う事業スキームであり、収入

変動リスク及びテナントリスク等は全て民間事業者が負うものとなっている。

(イ) 事業収支が悪化した場合

・収益悪化時の市の対応については特に定められていない。ただし、契約保証金として以下を市

に納付することになっている。

図表 契約保証金の概要

(1) 事業契約締結時から公共施設の引渡し日まで ・事業者は、公共施設の建設費の 10%に相当する額を、事業契約締結時に市に納付する。 ・市は、公共施設の引渡後速やかに利息を付与せず保証金を事業者に返還する。 (2) 公共施設の引渡し日から事業契約終了時まで ・事業者は、定期借地権設定契約に定める月額地代の12か月分を公共施設引渡予定日の前日ま

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でに市に納付する。 ・市は、事業契約終了後、速やかに利息を付与せず保証金を事業者に返還する。

出典:流山市公表資料に基づき作成

(ウ) 契約上の地位の譲渡等

・第三者への権利義務の譲渡等については、市による事前の承諾があれば、可能となっており、市

の承諾は、提案内容および従前の契約内容が維持されることを総合的に判断するとしている。当

初は、譲渡等を認めないこととしていたが、直接対話の中で、ホテル部分については運営者が途

中で変わる可能性があることや、ホテルや商業施設については証券化したいとの民間事業者の

意見が多くよせられたことから、譲渡等を認めることにした。

ク 事業終了時の取扱い

・事業終了時の取扱いは次のようになっている。

図表 定期借地期間終了時の取扱い

(6) 定期借地期間終了時の本施設の取扱い ・事業者は、借地期間終了時までに、定期借地権設定敷地上の施設その他の工作物を自らの費

用負担で撤去し、当該敷地を更地にして市へ返還する。 ・市及び事業者は、定期借地権設定契約の延長や終了に際して必要な事項を決定するために、定

期借地権設定契約期間終了日の 3 年前から協議を行う。

出典:流山市公表資料に基づき作成

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・審査項目の配点割合は、提案内容が 150 点に対して提案価格が 10 点の合計 160 点と、提案内

容重視の審査となっている。

・また、市のメッセージを強く出すため、ホテルの整備に重点をおいた配点とするなど民間収益施

設の施設毎に点数を変えている。

図表 評価項目

ア 内容審査【150 点】 ①事業の総合計画【30 点】 事業コンセプト 10 点 事業実施体制 〈抜粋〉設計・建設・什器調達・維持管理等に

おいて、市内事業者への配慮がされている。

10 点

事業リスク及び事業収支計画 10 点 ②施設の設計・建設計画等【110 点】 事業用地全体 25 点 多目的ホール 30 点

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(仮称)市民窓口センター 15 点 民間施設 40 点[ホテル:20 点、集合住宅 5 点、商業・業

務施設等:15 点] ③その他【10 点】 イ 価格審査【10 点】

審査項目(評価の視点) 配点 評価方法 定期借地権設定敷地における年

間地代総額(円/年) 10 点 も高い応募者が 10 点とし、他の応募者につ

いては次の式にて算定 10 点×(提案地代年額/ 高提案地代年額)

出典:流山市公表資料に基づき作成

イ 選定事業者の提案内容と評価

(ア) 提案内容

・本事業には 3 グループが応募した。3 グループとも等価交換方式+定期借地権方式の提案であ

った。各グループの総合評価結果は次のとおりである。

図表 総合評価結果

配点

モリューズ流山

共同事業体

住友不動産と

「企業グループ・

おおたかの森」

スターツコーポ

レーショングル

ープ

①事業の総合計画

事業コンセプト 10 点 6.4 点 6.4 点 8.4 点

事業実施体制 10 点 6.4 点 5.2 点 8.8 点

事業リスク及び事業収支計画 10 点 4.4 点 4.8 点 7.6 点

②施設の設計・建設計画等

事業用地全体 25 点 16.0 点 17.8 点 21.4 点

多目的ホール 30 点 14.4 点 21.6 点 24.0 点

(仮称)市民窓口センター 15 点 7.6 点 8.8 点 11.2 点

民間施設 40 点 28.2 点 20.4 点 30.4 点

③その他

その他 10 点 5.2 点 4.4 点 8.0 点

合計 150 点 88.6 点 89.4 点 119.8 点

出典:流山市公表資料に基づき作成

・スターツコーポレーション(株)を代表企業とするグループの提案が 優秀提案に選ばれた。

・同グループの提案は、スターツコーポレーション(株)が商業施設、ホテル、集合住宅を建設し、大

成建設(株)がホールなどの公共施設を設計・建設、ホテルの運営はスターツホテル開発㈱が担

当する。市は事業者が建設した公共施設と等価となる集合住宅用地(敷地面積は約 4,200 ㎡)を

交換することにより、公共施設を取得する。また、ホテルと商業施設の敷地は 50 年間の定期借地

により事業者に賃貸する。

・ホテルの客室はバリエーションに富んでおり、また、市や市内経済界から要望のあるバンケットを

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有するシティホテルタイプとなっている。

・集合住宅の 3 分の 2 はファミリー向けの分譲タイプ、残りは単身者向けの賃貸住宅(1DK、1LDK)

を導入することで、多様な世代、多様なライフスタイルの入居が期待できるものとなっている。

・商業施設については、賑わいが期待できるテナントからの「出店関心表明書」が添付された実現

性の高い提案となっている。

・ホテル利用者の駐車場を集合住宅地内に確保するなど、事業用地の一体的利用の工夫が含ま

れた提案であった。

・特に、提案内容に対する考え方や実現するための方法が、詳細に検討・工夫されており、提案事

業者として将来にわたっての果たす役割を理解した提案であったことが高く評価された。

(6) モニタリング方法と実施状況

・民間収益施設部分のモニタリング方法は特に定めていない。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・当施設は、平成 31 年春の完成に向けて現在事業契約締結に向けた協議を実施している。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・官民連携手法を用いることで公共事業とまちづくりを一体的に実施できる。人が集まる施設を公

共が整備することで、まちが活性化すると考えられている。

・官民の意思疎通をしっかり行い、広く民間事業者の声を吸い上げることでカフェやバンケット付き

のホテルを整備や要求水準書に含まれていないデッキの整備が可能になるなど、民間事業者の

ノウハウを 大限活用した提案を採用することが可能となったと考えられている。また、事業期間

が 50 年と長期のため、公共施設についても品質のよい施設内容の提案がなされたと考えられて

いる。

イ 課題

・市において官民連携に携わる人材は限定されるため、ノウハウが特定の部署や人材のみに偏っ

てしまう傾向があると考えられている。

・様々な機能を持った施設を整備する事業となると、市の関係者も多く、折衝が難しくなると考えら

れている。

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4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・本事業は市として実現したい内容が明確に決まっていたため、市として初の事業であったが、

様々な事例を参考にしながら、本事業に 適な事業スキームを独自に考えることができたとされ

ている。

・官民対話を通じて双方の考えを摺り合わせした部分も多く、官民対話は非常に有効であると考え

られている。

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(参考)基礎データ

事業名 流山おおたかの森駅前市有地活用事業

事業分野 都市/まちづくり(官民複合施設)

発注者 千葉県流山市

施設概要

施設内容 公共施設(多目的ホール、市民窓口センター)

民間施設(ホテル、集合住宅、商業・業務施設等)

施設規模 総敷地面積:10,145 ㎡

事業場所 千葉県流山市東初石 5 丁目 181-29

寄駅:つくばエクスプレス「流山おおたかの森駅」前

事業概要 事業概要

流山おおたかの森駅北口に市が保有する約 1ha の活用事業。公

共施設の整備のほか、民間施設としてホテル、集合住宅、商業施

設を整備

民間収益施設 有り(ホテル、集合住宅、商業・業務施設等)

事業

スキーム等

事業期間 50 年間

事業方式 等価交換方式+定期借地権方式

事業類型 -

事業規模 -

民間事業者の

業務内容

公共施設の設計・建設業務

民間施設の設計・建設・維持管理・運営業務

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 公募型プロポーザル方式

予定価格 -

契約金額 当初土地賃料 14,640,000 円/年

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎スターツコーポレーション(株)(民間施設整備・運営)、大成建

設(株)千葉支店(公共施設整備)

協力会社 -

スケジュール

実施方針公表 平成 27 年 3 月 31 日

募集要項公表 平成 27 年 7 月 8 日

提案受付 平成 27 年 10 月 5 日

優先交渉権者決定 平成 27 年 11 月 5 日

供用開始 平成 31 年春

活用した

制度等

補助金 -

その他 -

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事例 20:(仮称)国立女性教育会館公共施設等運営事業

事業分野:その他

事例 20:(仮称)国⽴⼥性教育会館公共施設等運営事業

事業場所 埼玉県比企郡嵐山町菅谷728 番地

公共主体 (独)国立女性教育会館 民間主体 (株)ヌエックベストサポート

施設概要 公共施設 教育文化施設

民間施設 -

事業実施段階 供用開始

事業手法 公共施設等運営権制度

公共への還元 運営権対価〔4.09 億円〕

● 事業実施のポイント

◇ 民間収益施設に対する需要面での特徴・工夫

➤ 利用者数増加の余地がある施設での事業化

・本施設はこれまで職員の人数的な要因から、有効な利用者増加策をとることができなかったた

め、施設の設置目的に沿った目的利用者だけでなく一般利用客も含めて利用者数増加の余地

があった。また、目的利用者の利用が優先されるものの、一般利用者の集客に関する裁量は民

間事業者に委ねられているため、民間ノウハウを活用した自由な運営が可能となっている。

・既存施設であることから、民間事業者も需要を予想しやすかった。

◇ 官民の事業への取組方針での特徴・工夫

➤ 事業スキームを工夫することで事業継続性を担保

・独立行政法人国立女性教育会館は一括で業務を実施するのではなく、維持管理業務について

は適切な対価を支払うことで民間事業者の参画を促した。

・光熱水費は独立行政法人国立女性教育会館が負担することで、民間事業者の事業採算性を確

保する仕組みとしている。

● 概要

◇ 全体

➤ 本事業は、独立行政法人国立女性教育会館の宿泊施設や研修施設の運営・管理に公共施設等

運営権を設定して独立採算事業とするとともに、施設・設備に係る長期維持管理業務も一体的な

業務として民間事業者に委ねたものである。

◇ 公共への還元の仕組み

➤ 独立行政法人国立女性教育会館は運営権対価として 4.09 億円を受け取るほか、プロフィットシェ

アリングの仕組みにより、事業者の利益が一定以上となった場合には、その一部を受け取る。

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1 事業の概要

(1) 事業実施の経緯

ア 事業実施の背景

・独立行政法人国立女性教育会館(以下「ヌエック」という。)は、女性教育指導者やその他の女性

教育関係者に対する研修、女性教育に関する専門的な調査及び研究等を行うことにより、女性

教育の振興を図り、もって男女共同参画社会の形成に資することを目的としており、昭和 52 年に

設置された。現在、年間延 15 万人程度の利用者が、ヌエックの宿泊・研修施設を利用しているほ

か、国際化にともない、年間延 1,000 人程度の外国人利用者がある。

・平成 24 年 8 月に文部科学省の「国立女性教育会館の在り方に関する検討会」(以下「在り方検

討会」という。)において、宿泊施設等のハードの管理運営を全面的に民間に分離・委託し、効率

的運営とサービス向上を図りつつ、経営資源を「ソフト」に集中できる構造に転換すべきという方

針が出されたため、維持管理運営手法の検討が行われた。

・その結果、資産の有効活用と利用者の立場から見たサービス水準の向上を民間活力の導入によ

り実現すべく、宿泊・研修施設等の管理運営を分離し、独立採算事業としての PFI 手法を活用し

た運営事業及び施設・設備に係る長期維持管理業務を一体的に行う民間事業者を選定すること

とした。

イ 官民連携手法導入の背景

・本施設では従前より多くの業務が包括的管理委託の対象となっていた。しかし、在り方検討会に

◇ 官民間でのコミュニケーションの特徴・工夫

➤ 民間事業者の意向を反映した事業スキーム

・独立行政法人国立女性教育会館は、民間事業者ヒアリングで明らかになった民間事業者の意向

を事業スキームに反映しているほか、選定プロセスの中で対面式対話を行い、民間事業者との

認識齟齬を減らすよう努めた。

◇ 人材面での特徴・工夫

➤ 民間団体からの提案の活用

・本事業の実施にあたっては、特定非営利活動法人日本 PFI・PPP 協会からの民間提案書を受

け、事業スキーム等の検討を行った。

● 効果

➤ 民間ノウハウ活用によるサービス水準向上および収益性向上

・民間ノウハウを 大限活用できる事業スキームとすることで、施設のサービス水準や収益性の向

上が期待される。

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おいて、宿泊施設等のハードの管理運営を全面的に民間事業者に分離・委託し、効率的運営と

サービス向上を図るべきという方針が出されたことを受け、ヌエックは公共施設等運営権(以下

「運営権」という。)導入の検討を行った。

・PFI 手法の混合型等ではなく、運営権を導入したのは、通常の PFI 事業は施設の新設が中心で

あるが、本事業では既存の施設であり、維持管理運営業務のみが対象だったためである。

・また、維持管理運営業務は、民間事業者の創意工夫が働く部分と、一定のコストがかかる部分に

分かれるため、民間事業者の意向もふまえ、前者については運営権事業とし、後者については

業務委託としてヌエックが費用を負担することにした。

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(2) 事業概要

ア 施設概要

・ヌエックの施設は埼玉県比企郡嵐山町にあり、宿泊棟、研修棟、実技研修棟、体育施設等からな

る。

図表 位置図

図表 施設概要

名称 構造・階級 延床面積

本館(うち女性教育情報センター) RC 造 3 階・地下 1 階 8,509 ㎡(1,085 ㎡)

宿泊棟 A 棟 SRC 造 8 階・地下 1 階 4,609 ㎡

宿泊棟 B 棟 RC 造 4 階 2,504 ㎡

宿泊棟 C 棟 RC 造 3 階 1,548 ㎡

実技研修棟 RC 造 1 階 322 ㎡

研修棟 SRC 造 3 階 7,470 ㎡

体育館 SRC 造平屋 1,206 ㎡

響書院 木造平屋 198 ㎡

和庵(なごみあん、茶室) 木造平屋 18 ㎡

テニスコート 全天候型スパックサンドコート 2 面

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図表 外観

図表 利用区分

利用区分 対象

目的利用 利用区分 A 女性・家庭・家族、または男性共同参画に関する研修・教育・学

習・調査研究・情報収取及び交流を重内目的とした利用を行う方

利用区分 B ① 研修施設及び体育研修施設を伴う宿泊

② 学校や専修学校または各種学校の在学者

一般利用 一般利用 上記以外(宿泊のみの利用) 出典:ヌエック公表資料に基づき作成

イ 事業方式

・本施設の運営事業を PFI 法に基づく公共施設等運営事業方式で行う。また、同一の事業者に維

持管理業務を委託する。

ウ 事業期間

・運営権の期間は、事業契約締結日から平成 37 年 3 月 31 日までの期間とし、運営期間は運営を

開始した日から 10 年間である。

エ 民間収益の還元の概要

(ア) 還元の方法と金額

・本事業における民間収益の公共への還元の方法は、運営権対価およびプロフィットシェアであ

る。

・運営権対価は 4.09 億円であり、年度毎の分割払いとなっている。

・利用料金は民間事業者の収入となるが、民間事業者の提案により、経常利益の一部をヌエックに

還元するプロフィットシェアリングが導入されている。

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図表 事業スキーム図

出典:ヌエック公表資料に基づき作成

(イ) 帰属先と使途

・ヌエックが民間事業者から収受する運営権対価およびプロフィットシェアはヌエックの一般会計に

帰属する。

・実態的には本施設の維持管理費に充当されるイメージであるが、会計上優先的に維持管理費に

充てられているわけではない。

2 事業実施段階別の実務上の検討課題・留意点

(1) 発注者の検討体制

・本事業については、総務課が担当している。

・ヌエックは、PFI 導入可能性調査および事業者選定アドバイザー業務は、(財)日本総合研究所

に委託している。さらに、(特非)日本 PFI・PPP 協会、(株)スターツ総合研究所、東京丸の内法

国立女性教育会館

一般会計

維持管理費 【6.44 億円】

運営権対価 【4.09 億円】

○警備業務 ○構内庭園維持管理業務 ○清掃業務 ○年間保守点検業務 ○建築設備運転保守点検管理業務

施設・設備長期維持管理業務

プロフィットシェアリング 【経常収益の一部を還元】

○運営業務統括管理業務 ○全体統括管理業務 ○受付・案内業務 ○経理業務 ○企画・広報・営業業務 ○給食・売店業務 ○アメニティ業務 ○宿泊準備等整理業務 ○リネンサプライ・洗濯業務

公共施設等運営権事業

収入

公共施設

事業者

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律事務所が(財)日本総合研究所の協力企業になっている。

(2) 事業実施にあたっての条件整理

ア 公有財産の活用の手続き

・特になし。

イ 規制の変更等

・特になし。

(3) 事前の市場調査等

ア 事前の市場調査等の内容

・ヌエックは、在り方検討会の後に、本事業の民間委託の可能性について民間事業者数社にヒアリ

ングを実施したが、採算性、施設的な魅力度から難しいという反応であった。

・その後、(特非)日本 PFI・PPP 協会に相談し、同協会は約 10 カ月かけて民間事業者ヒアリング

等を行い、運営権と業務委託の 2 本立ての契約とするスキームであれば民間事業者の参入可能

性があるとの民間提案書を作成して、ヌエックに提出した。

・民間提案書の提出を受けて、PFI 導入可能性調査を実施し、その中でアドバイザーが民間事業

者ヒアリングを行った。

・ヌエックは、民間事業者へのヒアリング結果を踏まえて、契約を 2 本立てとすること、水道光熱費を

一定額まではヌエック負担とすることといった事業スキームを採用した。

・民間事業者が本施設を運営した場合の需要予測については、民間提案書の中で算定されてい

る。

イ 民間発案の有無

・本事業は、(特非)日本 PFI・PPP 協会からの民間提案書をもとに検討が進められた。

(4) 事業条件設定の考え方

ア 事業用地の場所及び規模

・事業用地は、埼玉県比企郡嵐山町にある国立女性教育会館である。そのうち、公共施設等運営

事業の設定範囲は以下のとおりである。

図表 公共施設等運営事業設定範囲

① 本館および宿泊棟(A 棟・B 棟・C 棟)

② 研修棟(講堂・会議室・研修室・マルチメディア研修室・控室)

③ 実技研修棟(音楽質・美術工芸室・調理室・試食室・幼児室)

④ 日本家屋・茶室(響書院・和庵)

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⑤ 体育施設(テニスコート・体育館) 出典:ヌエック公表資料に基づき作成

イ 施設要件及び業務内容

(ア) 業務内容

・業務要求水準では、これまでの包括的管理委託の業務に加え、運営業務統括管理業務、全

体統括管理業務、経理業務、企画・広報・営業業務、アメニティ業務のほか、エレベーター

の点検、講堂の照明・暗幕、排水処理施設等、これまで個別に契約を行っていた業務が含められ

た。

図表 業務内容

【公共施設等運営事業 業務内容】

ア 全体統括管理業務

イ 運営業務統括管理業務

ウ 受付・案内業務

エ 経理業務

オ 企画・広報・営業業務

カ 給食・売店業務

キ アメニティ業務

ク 宿泊準備等整理業務

ケ リネンサプライ・洗濯業務

コ 利用者サービスの向上に資する業務

【維持管理業務 業務内容】

ア 建築設備運転保守点検管理業務

イ 年間保守点検業務

ウ 清掃業務

エ 構内庭園維持管理業務

オ 警備業務 出典:ヌエック公表資料に基づき作成

・また、ヌエックと事業者の間で協議を行い、事業者がヌエックの許可を得た場合には、事業者が

施設運営のために必要な増改築が可能とされている。その場合、増改築部分はヌエックの所有と

なり、本施設を構成するものとして運営権の対象となる。ただし、現段階では、そのような計画はな

い。

(イ) 水道光熱費の負担

・本事業における水道光熱費は、給食・売店業務以外はヌエック負担とし、一定水準(金額)を超過

した場合には事業者負担となっている。

・水道光熱費をヌエック負担としたのは、市場の変動があること、施設ごとのメーターがないことを踏

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まえて、民間事業者の参入を促すためである。

ウ 事業期間

・運営権を導入しても、期間 5 年では民間事業者の採算性が見込めないこと、本施設は開館から

38 年が経過しているため、期間 15 年とすると修繕のために長期休館する可能性もあることから、

期間を 10 年とした。

・民間事業者からも、事業期間 20 年となると人件費や社会保険料の高騰を見通すことが難しく、リ

スクが大きくなるため、参画が難しいとの意見があった。

エ 民間収益の還元の内容

(ア) 運営権対価

・ヌエックは事業者から運営権対価を受け取る。運営権対価は、民間事業者が事業期間中の各年

度において得られると見込む事業収入から、事業実施に要する支出等を控除した金額の事業期

間(10 年間)の合計額とした。また、運営権対価は年度毎の分割払いとなっている。

・なお、運営権対価の予定価格については、民間事業者のノウハウを活用することで、本施設の宿

泊者数が伸び、収入も増えると想定したうえで算出している。

(イ) プロフィットシェアリング

・ヌエックは事業者から、あらかじめ設定された条件に基づき利用料金の一部を受け取るプロフィッ

トシェアリングが導入されている。

・プロフィットシェアリングの設定内容は入札参加者の提案となっている。なお、プロフィットシェアリ

ングが設定されていることで民間事業者としても収益を上げようとするモチベーションは高まって

いる。

オ 参加条件

・民間事業者の参加条件として、代表企業及び運営事業担当企業は宿泊・研修施設が一体となっ

た施設の運営あるいは維持管理実績があることが求められている。

・また、落札した民間事業者には特別目的会社(以下「SPC」という。) を設立することが求められ

ている。

カ 実施スケジュール

・事業実施スケジュールは以下のとおりである。

図表 実施スケジュール

実施方針の公表 平成 26 年 2 月 14 日 実施方針の説明会 平成 26 年 2 月 19 日 実施方針に関する質問・意見締切 平成 26 年 2 月 28 日 実施方針に関する質問・意見への回答 平成 26 年 3 月 10 日

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特定事業の選定 平成 26 年 3 月 31 日 入札公告 平成 26 年 8 月 29 日 入札説明書類に関する質問の受付 平成 26 年 8 月 29 日~

平成 26 年 9 月 16 日 入札説明会・現地見学会の開催 平成 26 年 9 月 10 日 入札説明書類等に関する質問の回答 平成 26 年 9 月 19 日 参加表明書、資格確認申請の受付 平成 26 年 9 月 22 日~

平成 26 年 10 月 1 日 資格確認通知の発送 平成 26 年 10 月 6 日 対面式対話の実施 平成 26 年 10 月 14 日~21 日 入札(提案書の提出) 平成 26 年 11 月 14 日 提案内容に関するヒアリング 平成 26 年 12 月 8 日

優秀提案書の選定 平成 26 年 12 月 8 日

SPC の設立 平成 27 年 2 月 6 日

基本協定の締結 平成 27 年 4 月 1 日

公共施設等運営権の設定 平成 27 年 7 月 1 日

公共施設等運営権実施契約の締結 平成 27 年 7 月 1 日

施設・設備長期維持管理業務委託契約締結 平成 27 年 7 月 1 日

運営開始 平成 27 年 7 月 1 日 出典:ヌエック公表資料に基づき作成

キ 官民のリスク分担

(ア) 運営状況が変動した場合

・運営業務に関するリスクは、基本的には事業者が負担する。ただし、不可抗力に起因する増加費

用および損害の負担については、契約期間中に累計で運営権対価に相当する金額の 100 分の

1 に至るまでは事業者が負担し、これを超える額はヌエックが負担するとしている。

・運営権の移転については、ヌエックから書面による事前の許可を得た場合に限り、可能とされて

いる。その場合、事業者は移転の 1 か月前までにヌエックに対して許可申請を行い。ヌエックは、

PFI 法第 26 条第 3 項の基準、本事業の参加資格基準及び次に定める要件に適合する場合、運

営権の移転を許可することとしている。

・また、民間事業者の収益悪化時にそなえ、ヌエックはモニタリング、改善勧告、計画書の出し直し、

指導等を行うほか、協議のうえ、受託者の変更もできるようになっている。

(イ) 施設利用料金を変更する場合

・民間事業者は施設利用料金についても提案することになっている。宿泊利用料金の設定につい

ては、一般利用以外は加算額の上限を 400 円とすることが定められている。

・上限 400 円については、アメニティ代 200 円、リネンサプライと宿泊準備業務の値上げ分 200 円

をもとに設定されている。これは、従来のアメニティの販売金額等が 200 円だったことと、新規追

加業務であるリネンサプライ、宿泊準備業務にかかる費用を 200 円程度と判断したためである。

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・ヌエックは事業者から届出を受けた利用料金等の金額が合理的で適正な水準から逸脱している

と認められるときは、民間事業者に対して、合理的で適正な水準となるよう是正を求めることがで

き、利用者の公平性や施設の公共性が担保されている。また、急激なインフレ等が発生した場合

等は、事業者は 400 円を超える加算についてヌエックとの協議できるとされている。

(ウ) 契約上の地位の譲渡等

・事業者は、ヌエックの事前の承諾を得ずに、本契約上の地位及び本件運営権又は本件業務に

ついてヌエックとの間で締結した契約に基づく契約上の地位について、譲渡、担保設定その他の

処分を行うことはできないとされている。

ク 事業終了時の取扱い

・事業終了時には、民間事業者は、本施設を要求水準書に示す良好な状態で、ヌエックに引き渡

すことになっている。

(5) 事業者の選定

ア 審査基準に関する内容

・事業者選定に際しては、運営事業に関する提案内容と併せて、維持管理業務に関する提案内

容も総合評価の対象となっている。

・事業計画提案書における提案書別の得点配分は以下のとおりとなっている。

図表 評価項目

性能評価点 価格点 合計

公共施設等運営事業提案書 100 点 40 点 140 点

施設・設備長期維持管理業務委託提案書 60 点 60 点 120 点

出典:ヌエック公表資料に基づき作成

・ヌエックが価格よりも技術提案書を評価したいと考えたことから、性能評価点が 100 点となってい

る。

・また、性能評価点の中でも、利用者サービスの水準向上を重視し、施設提供条件(休館日、施設

の利用方法など)は、現状の男女共同参画に沿ったサービスの提供が重視されている。

イ 選定事業者の提案内容と評価

・本事業には 3 者から入札書類の提出があった。そのうち 2 者は提案運営権対価は予定価格の範

囲内であったが、施設・設備長期維持管理業務委託提案価格が予定価格を超過したため、失格

となった。

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・総合評価結果は次のとおりである。

図表 審査結果

入札参加

グループ

提案運営権対価(円) 性能

評価点 価格点

総合

評価点 順位

提案価格(円)

E グループ 409,000,000 26.40 40.00

140.85 1 643,576,000 14.45 60.00

J グループ 135,000,000 42.90 -

- 失格 852,880,000 23.45 -

O グループ 320,000,000 37.85 -

- 失格 850,000,000 28.25 -

出典:ヌエック公表資料に基づき作成

・ヌエックは、選定審査委員会からの答申に基づき、E グループの(有)戸口工業を落札者として決

定した。

・(有)戸口工業の提案は、ビアガーデンや文化イベントの開催、クリスマスイルミネーション、石釜ピ

ザ教室等、近隣住民を対象とした様々な内容が盛り込まれている。

(6) モニタリング方法と実施状況

・ヌエックと民間事業者は、民間事業者が遂行する業務に対し、①日常モニタリング、②定期モニタ

リング、③随時モニタリング、④利用者アンケート調査等、⑤財務モニタリングの 5 種類のモニタリ

ングを実施しているほか、月 1 回は担当者レベルでの確認を行っている。

3 事業実施による効果

(1) 実際の運営状況

ア 運営状況等

・平成 27 年 7 月の運営開始以後、宿泊客・食堂利用客ともに増加しており、利用者アンケートにお

いても良好な結果が出ているとされている。

・民間事業者は、子供連れのイベント(例.ピザ窯教室、大型絵本の会等)を多数企画する等、本

施設の認知度を上げる取り組みを始めている。また、県外の高校や大学に対して積極的な営業

を行い、閑散期の集客を強化している。

・今後、インターネットでの予約システムを導入することで、更なる集客が期待されている。

(2) 官民連携手法を活用した効果・メリット、課題

ア 効果・メリット

・運営開始から半年程度であるが、ヌエックではできなかったような一般向けのイベン ト(例.健康

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体操)が始まったことで、一般の方もヌエックのことを知る機会が増え、より近隣住民の本施設の認

知度が高まっているなど、様々な効果が出ていると考えられている。

イ 課題

・官民連携手法の手続きは従来手法と比べて公表すべき事項が多く、煩雑な点が課題であると考

えられている。

4 その他(同様の事業実施に当たってのアドバイス等)

(1) 事業実施にあたってのポイント・留意点

・提案内容を詳細に検討する期間を設けることが望ましいと考えられている。また、提案書だけでは

分からないことも多く、提案後の対話に時間をかけ、入札参加者の本気度を確認することが必要

であると考えられている。

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(参考)基礎データ

事業名 (仮称)国立女性教育会館公共施設等運営事業

事業分野 その他

発注者 独立行政法人国立女性教育会館

施設概要

施設内容 宿泊・研修施設

施設規模

総敷地面積:102,252 ㎡

建築総面積:11,857 ㎡

延床総面積:26,975 ㎡

事業場所 埼玉県比企郡嵐山町菅谷 728 番地

寄駅:東武東上線武蔵嵐山駅(車で約 5 分)

事業概要 事業概要

国立女性教育会館の施設等に関し、宿泊・研修施設等の管理運

営を分離し、PFI 法に基づく公共施設等運営権制度を活用して行

う。また、施設・設備長期維持管理業務についても同一の事業者

の委託するもの。

民間収益施設 ―

事業

スキーム等

事業期間 10 年間

事業方式 公共施設等運営権/施設・設備長期維持管理業務委託

事業類型 -

事業規模 公共施設等運営権対価:409,000,000 円

施設維持管理業務委託提案価格:643,576,000 円(10 年間)

民間事業者の

業務内容 宿泊・研修施設の維持管理・運営業務

VFM

特定事業選定時 -

事業者提案 -

割引率 -

審査結果

選定方式 総合評価一般競争入札

予定価格 不明

契約金額 公共施設等運営権対価:409,000,000 円

施設維持管理業務委託提案価格:643,576,0006 円[10 年間]

応募グループ 3 グループ

民間事業者

構成員

◎は代表企業

()内は担当業務

◎(有)戸口工業

協力会社 -

スケジュール

実施方針公表 平成 26 年 2 月 14 日

募集要項公表 平成 26 年 8 月 29 日

提案受付 平成 26 年 11 月 14 日

落札者決定 平成 26 年 12 月 8 日

契約締結 平成 27 年 7 月 1 日

供用開始 平成 27 年 7 月 1 日

活用した

制度等

補助金 -

その他 -