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土壌中のCs-137の分布・移動性の詳細調査 武藤琴美 、安藤麻里子、小嵐淳、竹内絵里奈、西村周作、中西貴宏、松永武 原子力基礎工学研究センター 環境動態研究グループ 東京電力福島第一原発事故由来の放射性Csについて、移動メカニズム、移動量、時 間変化を明らかにするための様々な調査を行っている。調査は福島市内の森林と北茨 城市の森林で行っており、20115月から現在まで継続している。 ① 空間線量率の広範囲測定を利用し 137 Cs沈着量の空間分布を評価、山間地におけ 137 Cs蓄積量を算出 ② 土壌中深度分布を調査し、土壌の性質との関係や深度分布の経年変化を評価 ③ 土壌浸透水を調査し、水によって落葉から土壌へと移動する 137 Csの挙動を評価 今後も調査を継続し、放射性Csの挙動について長期的な評価を行う予定である。 概要 目的 放射性Csの沈着分布や移動・流出挙動などは土地の地形・植生、土壌の性質・地表の 状態、気象などの影響を受ける。 東京電力福島第一原発事故に由来する放射性Csについては、汚染地域はそのほとん どが森林である。また、日本の気候の特性として、降水量が多く、季節変化が大きい事が 挙げられる。これらのパラメータの影響を調べるために、森林集水域を対象とした調査有効である。 本研究では森林における放射性Csの分布・移動の詳細調査を行い、山間地の蓄積量 の空間分布土壌中の深度分布と移動性土壌浸透水としての移行挙動の評価を行う。 調査は2011年から継続しており、経年変化など長期的な観点から評価を行う。 調査方法 森林における放射性Csの移行挙動調査 沈着量・空間線量率分布調査 調査地:北茨城市 20138-9土壌中深度分布調査 調査地:福島市 20116月〜(調査継続中) 土壌浸透水調査 調査地:北茨城市 20115月〜(調査継続中) FDNPP Study Site Study Site ,調査地の位置 ① 森林集水域への 137 Csの沈着量分布調査 [1] 空間線量率の詳細な分布を測定し、土壌中 137 Cs蓄積量と空間線量率の 関係から集水域全体における 137 Cs蓄積量の分布を評価する a) NaIシンチレーションサーベイメータを用いた空間線量率の測定 調査地をメッシュに区切り、その交点42点で5 cm空間線量率と 100 cm空間線量率を測定する b) KURAMA-IIを用いた空間線量率の測定 集水域内全体の歩行サーベイを行い詳細な100 cm空間線量率 分布を測定 c) 土壌中 137 Cs沈着量の評価 1. 調査地をメッシュに区切り、その交点42点で採土器による 土壌試料採取を行う 2. 実験室でGe半導体検出器によりγ線を測定して土壌中 137 Cs沈着量を評価 137 Csの森林土壌中深度分布の継続調査 [2],[3] 森林土壌中の 137 Csの深度分布を調査し、気候や植生などによる挙動の 違いや経年変化を評価する a) 落葉層試料 1. 一定の面積から落葉層を採取する 2. 実験室で試料を風乾後摩砕する 3. 実験室でGe半導体検出器によりγ線を測定して土壌中 137 Cs沈着量を評価 b) 土壌試料 1. (a)と同じ場所からコアサンプラーを用いて約20 cmの土壌 コア試料を採取 2. 試料は冷凍後に実験室で深度毎に分割して風乾 3. 実験室でGe半導体検出器によりγ線を測定して土壌中 137 Cs沈着量を評価 ③ライシメータを用いた土壌浸透水の連続調査 [4],[5] 土壌浸透水に含まれる 137 Csを評価し、下層へのCsの移行挙動やその 経年変化を評価する 1. 落葉層、土壌深度5 cm, 土壌深度10 cm のライ シメータを設置 2. 試料は約1ヶ月毎に回収し、実験室でフィルター を用いて濾過後に濃縮 3. Ge半導体検出器によるγ線測定を行い 137 Cs土壌浸透水中濃度を評価 4. 試料中の溶存態有機炭素量を測定 落葉層及び土壌の 放射能測定 KURAMA-IIによる 空間線量率測定 調査①の様子 落葉層 土壌コア (0 cm – 10 cm) 調査②の様子 調査③の様子 調査地点 標高[m] 植生 土壌分類 FR-1 245 広葉樹優占 褐色森林土 FR-2 257 広葉樹優占 褐色森林土 FR-3 256 針葉樹優占 褐色森林土 FR-4 308 針葉樹優占 黒ボク土 FR-5 356 針葉樹優占 黒ボク土 調査結果 ① 森林集水域への 137 Csの沈着量分布調査 調査地の標高(m) 空間線量率とCs蓄積量の関係 KURAMA-IIで測定(N=3716100cm高さの空間線量率(µSv/h) 土壌中放射性Cs蓄積量(kBq/m 2 コアサンプラーで採取(N=42) 100cm高さの空間線量率分布(µSv/h) 134+137 Cs蓄積量分布(kBq/m 2 ) 空間線量率と放射性Cs蓄積量の 関係からKURAMA-II空間線量率 データを放射性Csの蓄積量に換算 集水域全体(0.58 km 2 )の放射性Cs蓄積量 137 Cs: 19 GBq, 134 Cs: 9 GBq 合計 28 GBq 20138~9月時点) 137 Csの森林土壌中深度分布の継続調査 ü 1回調査では 137 Csは落葉層に最も多く分布 ü 事故後最初の梅雨の前後(第1回 / 第2回調査)では深度分布に大きな変化はなかった ü 広葉樹優占林では針葉樹優占林よりも深い部分に 137 Csが分布する傾向 調査地点(FR-1,2,3,4,5) 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR1-1st 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR2-1st 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR3-1st 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR4-1st 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR5-1st 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR1-2nd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR2-2nd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR3-2nd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR4-2nd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR5-2nd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR1-3rd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR2-3rd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR3-3rd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR4-3rd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR5-3rd 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR1-4th 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR2-4th 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR3-4th 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR4-4th 0 2 4 6 8 10 0 50 100 FR5-4th FR-1 FR-2 FR-3 FR-4 FR-5 1(2011/06) 3(2012/03) 4(2013/08) 2(2011/07) 137 Cs分布割合 [%] 土壌深度 [cm] 梅雨 広葉樹優占 針葉樹優占 ③ ライシメータを用いた土壌浸透水の連続調査 ü 137 Csの落葉層から土壌への移動は 事故直後は雨水による浸透が原因 2年目以降は気温の変化と連動した落葉層の分解が主な要因 ü 137 Csが土壌中を移動する割合はごく僅か 温度上昇により葉の分解が促進 葉に付着したCsが土壌へ供給 20115cm0.5%/y 10cm0.2%/y 20125cm0.2%/y 10cm0.1%/y 期間あたりの放射性セシウム移動量 上層の放射性セシウム蓄積量 移動率 = × 100 [%] 参考文献 1. Atarashi-Andoh et al., J. Environ. Radioact. (2015) 2. Koarashi et al., Sci. Total Environ. (2012) 3. Matsunaga et al., Sci. Total Environ. (2013) 4. Nakanishi et al., J. Environ. Radioact. (2014) 5. JAEAプレス発表「森林土壌に沈着した放射性セシウムの動的挙動を解明」 (https://www.jaea.go.jp/02/press2013/p13102901/index.html , 2013/10/29) 謝辞:本研究を進めるにあたり、平沢政弘氏・松村和美氏・石原真樹子氏には試料処理にご協力いた だいた。福島技術本部 福島環境安全センター 環境動態研究グループの皆様にはKURAMA-IIの使用 に際してご協力いただいた。福島市、地権者の方々には調査に際してご協力いただいた。ここに感謝の 意を表します。

3-(7) 土壌中のCs-137の分布・移動性の詳細調査 r - JAEA...m 土壌中のCs-137の分布・移動性の詳細調査 武藤琴美、安藤麻里子、小嵐淳、竹内絵里奈、西村周作、中西貴宏、松永武

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Page 1: 3-(7) 土壌中のCs-137の分布・移動性の詳細調査 r - JAEA...m 土壌中のCs-137の分布・移動性の詳細調査 武藤琴美、安藤麻里子、小嵐淳、竹内絵里奈、西村周作、中西貴宏、松永武

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土壌中のCs-137の分布・移動性の詳細調査武藤琴美、安藤麻里子、小嵐淳、竹内絵里奈、西村周作、中西貴宏、松永武

原子力基礎工学研究センター 環境動態研究グループ

 東京電力福島第一原発事故由来の放射性Csについて、移動メカニズム、移動量、時間変化を明らかにするための様々な調査を行っている。調査は福島市内の森林と北茨城市の森林で行っており、2011年5月から現在まで継続している。

①  空間線量率の広範囲測定を利用し137Cs沈着量の空間分布を評価、山間地における137Cs蓄積量を算出

②  土壌中深度分布を調査し、土壌の性質との関係や深度分布の経年変化を評価 ③  土壌浸透水を調査し、水によって落葉から土壌へと移動する137Csの挙動を評価

今後も調査を継続し、放射性Csの挙動について長期的な評価を行う予定である。

概要

目的  放射性Csの沈着分布や移動・流出挙動などは土地の地形・植生、土壌の性質・地表の状態、気象などの影響を受ける。  東京電力福島第一原発事故に由来する放射性Csについては、汚染地域はそのほとんどが森林である。また、日本の気候の特性として、降水量が多く、季節変化が大きい事が挙げられる。これらのパラメータの影響を調べるために、森林集水域を対象とした調査が有効である。  本研究では森林における放射性Csの分布・移動の詳細調査を行い、山間地の蓄積量の空間分布、土壌中の深度分布と移動性や土壌浸透水としての移行挙動の評価を行う。 調査は2011年から継続しており、経年変化など長期的な観点から評価を行う。

調査方法 森林における放射性Csの移行挙動調査

①  沈着量・空間線量率分布調査 調査地:北茨城市 2013年8-9月

②  土壌中深度分布調査 調査地:福島市 2011年6月〜(調査継続中)

③  土壌浸透水調査 調査地:北茨城市 2011年5月〜(調査継続中)

② ③

FDNPP

Study Site ②

Study Site ①,③ ★

▲ 調査地の位置

①  森林集水域への137Csの沈着量分布調査[1]

空間線量率の詳細な分布を測定し、土壌中137Cs蓄積量と空間線量率の 関係から集水域全体における137Cs蓄積量の分布を評価する

a)  NaIシンチレーションサーベイメータを用いた空間線量率の測定 調査地をメッシュに区切り、その交点42点で5 cm空間線量率と 100 cm空間線量率を測定する

b)  KURAMA-IIを用いた空間線量率の測定 集水域内全体の歩行サーベイを行い詳細な100 cm空間線量率 分布を測定

c)  土壌中137Cs沈着量の評価 1.  調査地をメッシュに区切り、その交点42点で採土器による

土壌試料採取を行う 2.  実験室でGe半導体検出器によりγ線を測定して土壌中137Cs沈着量を評価

②  137Csの森林土壌中深度分布の継続調査[2],[3]

森林土壌中の137Csの深度分布を調査し、気候や植生などによる挙動の 違いや経年変化を評価する

a)  落葉層試料 1.  一定の面積から落葉層を採取する 2.  実験室で試料を風乾後摩砕する 3.  実験室でGe半導体検出器によりγ線を測定して土壌中

137Cs沈着量を評価 b)  土壌試料

1.  (a)と同じ場所からコアサンプラーを用いて約20 cmの土壌 コア試料を採取

2.  試料は冷凍後に実験室で深度毎に分割して風乾 3.  実験室でGe半導体検出器によりγ線を測定して土壌中

137Cs沈着量を評価

③ ライシメータを用いた土壌浸透水の連続調査[4],[5]

土壌浸透水に含まれる137Csを評価し、下層へのCsの移行挙動やその 経年変化を評価する

1.  落葉層、土壌深度5 cm, 土壌深度10 cm のライ シメータを設置

2.  試料は約1ヶ月毎に回収し、実験室でフィルター を用いて濾過後に濃縮

3.  Ge半導体検出器によるγ線測定を行い137Csの 土壌浸透水中濃度を評価

4.  試料中の溶存態有機炭素量を測定

落葉層及び土壌の 放射能測定

KURAMA-IIによる 空間線量率測定 ▲ 調査①の様子

落葉層

土壌コア (0 cm – 10 cm)

▲ 調査②の様子

▲ 調査③の様子

調査地点 標高[m] 植生 土壌分類

FR-1 245 広葉樹優占 褐色森林土

FR-2 257 広葉樹優占 褐色森林土

FR-3 256 針葉樹優占 褐色森林土

FR-4 308 針葉樹優占 黒ボク土

FR-5 356 針葉樹優占 黒ボク土

調査結果 ①  森林集水域への137Csの沈着量分布調査

調査地の標高(m)

空間線量率とCs蓄積量の関係

KURAMA-IIで測定(N=3716)

100cm高さの空間線量率(µSv/h)

土壌中放射性Cs蓄積量(kBq/m2)

コアサンプラーで採取(N=42)

100cm高さの空間線量率分布(µSv/h)

134+137Cs蓄積量分布(kBq/m2)

空間線量率と放射性Cs蓄積量の 関係からKURAMA-IIの空間線量率 データを放射性Csの蓄積量に換算 集水域全体(0.58 km2)の放射性Cs蓄積量

137Cs: 19 GBq, 134Cs: 9 GBq 合計 28 GBq (2013年8~9月時点)

②  137Csの森林土壌中深度分布の継続調査

ü  第1回調査では137Csは落葉層に最も多く分布 ü  事故後最初の梅雨の前後(第1回 / 第2回調査)では深度分布に大きな変化はなかった

ü  広葉樹優占林では針葉樹優占林よりも深い部分に137Csが分布する傾向

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第1回 (2011/06)

第3回 (2012/03)

第4回 (2013/08)

第2回 (2011/07)

137Cs分布割合 [%]

土壌

深度

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広葉樹優占 針葉樹優占

③  ライシメータを用いた土壌浸透水の連続調査

ü  137Csの落葉層から土壌への移動は •  事故直後は雨水による浸透が原因 •  2年目以降は気温の変化と連動した落葉層の分解が主な要因

ü  137Csが土壌中を移動する割合はごく僅か 戻る

温度上昇により葉の分解が促進 →葉に付着したCsが土壌へ供給

2011年 5cm:0.5%/y

10cm:0.2%/y 2012年 5cm:0.2%/y

10cm:0.1%/y

期間あたりの放射性セシウム移動量 上層の放射性セシウム蓄積量 移動率 =                     × 100 [%]

参考文献 1. Atarashi-Andoh et al., J. Environ. Radioact. (2015) 2. Koarashi et al., Sci. Total Environ. (2012) 3. Matsunaga et al., Sci. Total Environ. (2013) 4. Nakanishi et al., J. Environ. Radioact. (2014) 5. JAEAプレス発表「森林土壌に沈着した放射性セシウムの動的挙動を解明」

(https://www.jaea.go.jp/02/press2013/p13102901/index.html, 2013/10/29)

謝辞:本研究を進めるにあたり、平沢政弘氏・松村和美氏・石原真樹子氏には試料処理にご協力いただいた。福島技術本部 福島環境安全センター 環境動態研究グループの皆様にはKURAMA-IIの使用に際してご協力いただいた。福島市、地権者の方々には調査に際してご協力いただいた。ここに感謝の意を表します。