CREATOR'S FILE biz.toppan.co.jp/gainfo クリエーターズファイル 1 ©2011 TOPPAN/GAC vol.60 Jan.28, 2011 西澤 明洋 NISHIZAWA AKIHIRO 30 No. 第1話 「中小企業のデザイン部長になる」 ブランディングデザインを主軸に、さまざまな領域で活躍するクリエーター西澤明洋氏。文字どおりのブラ ンディングから商品開発、パッケージデザイン、プロモーション、さらには店舗開発まで手がけ、多方面か ら注目を集めている。第 1話では、その西澤氏に自らのクリエイティビティの原点にあたるデザインマネジ メントとの出会いをはじめ、ブランディングデザインに取り組む心意気などについて語っていただいた。 GA info. / CREATOR'S FILE vol.60 Jan.28, 2011 にしざわあきひろ ブランディングデザイナー 1976 年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザイン」という視点のもと、 企業のブランド開発、商品開発、店舗開発などを手掛け、幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。主な仕事にプ レミアムクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana's green tea」、信州味噌「ひかり味噌」など。グッドデザイン賞、 PENTAWARDS、THE ONE SHOWをはじめ、国内外の受賞多数。著書に『ブランドをデザインする!」』(パイ インターナショ ナル)、『ブランドのはじめかた』(日経BP社/中川淳 共著)

30 - toppan.co.jp · たいということを漠然と考えていました。そのせいか、早い段階から将来はものづくりをし育てるということはわりと身近に見ていました。も、父親が趣味で畑をやっていて、何かを作る、分で商売をやっている人もほとんどいません。でた。

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CREATOR'S FILE

b i z . t o p p a n . c o . j p / g a i n f o

クリエーターズファイル

1

ものづくりをして生きていきたい

僕は普通のサラリーマン家庭に生まれ育ちまし

た。親戚にいわゆるクリエーターはいないし、自

分で商売をやっている人もほとんどいません。で

も、父親が趣味で畑をやっていて、何かを作る、

育てるということはわりと身近に見ていました。

そのせいか、早い段階から将来はものづくりをし

たいということを漠然と考えていました。

高校生くらいの頃に、ものづくりといっても工

学系、それもどうせなら大きい方がいいというこ

とで建築をやろうと決め、京都工芸繊維大学の工

芸学部に入学し、4年間建築を学びました。

大学時代はコンペなどに応募してそれなりに賞

をいただいたりもして、このまま建築家になろう

と考えていた時期もあったのですが、学んでいく

うちに、だんだんと本当にやりたいことが見えて

きたんです。

僕が本当に興味があったのは、建築という大き

い箱をつくることではなく、そこに入れる中身を

つくることだったんですね。それはサイズの大小

じゃなくて、実は社会的影響力のより強いものに

惹かれていたということがわかってきたんです。

それに、先輩方の話を聞いてみると、建築の仕

事は大きい「入れもの」は作るけれど、作ったら

それでおしまいだと。それは僕のやりたいことと

は違うし、建築だけでは僕のやりたいことは成立

しないなと思いはじめました。そんなときに大学

に新設学科として、デザインマネジメントを専門

的に扱うデザイン経営工学科が作られたのです。

© 2 0 11 T O P PA N / G A C

vol.60 Jan.28, 2011

西澤 明洋 N I S H I Z A W A A K I H I R O30

No.

第 1 話 「中小企業のデザイン部長になる」ブランディングデザインを主軸に、さまざまな領域で活躍するクリエーター西澤明洋氏。文字どおりのブランディングから商品開発、パッケージデザイン、プロモーション、さらには店舗開発まで手がけ、多方面から注目を集めている。第1話では、その西澤氏に自らのクリエイティビティの原点にあたるデザインマネジメントとの出会いをはじめ、ブランディングデザインに取り組む心意気などについて語っていただいた。

G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 0 J a n . 2 8 , 2 0 11

にしざわあきひろブランディングデザイナー1976 年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザイン」という視点のもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発などを手掛け、幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。主な仕事にプレミアムクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana's green tea」、信州味噌「ひかり味噌」など。グッドデザイン賞、PENTAWARDS、THE ONE SHOW をはじめ、国内外の受賞多数。著書に『ブランドをデザインする!」』(パイ インターナショナル)、『ブランドのはじめかた』(日経BP社/中川淳 共著)

デザインマネジメントと

ブランディング

ひかり味噌「マル有 有機味噌」パッケージデザイン

2

それなら、そのトップのメーカーでトップの現

場を見てみようと思いました。普通に考えれば、

建築しかやってこなかった学生の就職先としては

相当に高いハードルだけど、僕には建築のスキル

はあるし、デザインマネジメントの知識もある。

どこか1社くらいは拾ってくれるんじゃないかと

楽観していました。

さらに詳しく調べると、クルマのデザインは建

築よりさらに「入れもの」のカタチにこだわる世

界だとわかったので、電機メーカーに絞り、その

中でも電球から発電所まで幅広くやっている重電

系のメーカーを中心に数社受けてみたらほとんど

の企業からいいお返事をいただけて。その中から

東芝に行くことにしました。

なぜ東芝かというと、当時の東芝のデザインセ

ンター長が河原林桂一郎さん(現

静岡文化芸術

大学副学長)で、うちの大学の非常勤講師でも

あったんです。僕は学生時代にその薫陶を受けて

いたので、半ば河原林さんを目当てに東芝に入社

することに決めました。

東芝にいた時代

東芝のデザインセンターは白物家電系、情報機

器系、インターフェイス系、社会インフラ系とラ

インが分かれているのですが、僕が最初に配属さ

れたのは社会インフラ系の部隊でした。通常は、

他の部署を経験してから配属されることが多い部

署です。

ここで求められていたのは、いわゆるプロポー

デザインマネジメントとの出会い

デザイン経営工学科を立ち上げた先生のひとり

がゼミの恩師の山内陸平先生でした。デザインマ

ネジメントなんて、言葉も概念もそのとき初めて

聞いたんだけど、考えたものをハードウェアに落

としていくのが一般的なものづくりと思われてい

たところに、カタチも伴ったソフトを作ることが

デザインマネジメントだと聞いて、これはおもし

ろそうだなと感じたんですね。大きなターニング

ポイントだったと思います。

その頃、僕は建築学科を卒業し、大学院での籍

も建築のままだったんですけど、できたばかりの

デザイン経営工学科に入り込んで、ティーチング

アシスタントとして教える側に回ったり、先生と

一緒に論文を手がけたりして、どっぷりとデザイ

ンマネジメントにのめりこみました。

大学院1年の終わりくらいに就職活動をしたの

ですが、そのときに社会に出るときのポリシーと

して、デザインマネジメントを極めるという目標

を立てました。これは一生をかけて追い続けるに

値するテーマだと思ったんです。

とりあえず、社会に出るにあたって、モノのデ

ザインをやりつつ、デザインマネジメントもやれ

そうなところを探そうと思って、そういう目線で

世の中を見ていくと、日本の企業で国際的な競争

力があって、自社で研究・技術開発から企画・デ

ザイン、営業をやり、しかもそのサイクルをぐる

ぐる回しているのって、電機かクルマのメーカー

しかないと思ったんです。

西澤 明洋 第 1 話no.30

© 2 0 11 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 6 0 J a n . 28 , 2 0 11

近畿日本鉄道「上本町YUFURA」ブランディング

3

ザルといわれる提案型の開発でした。提案書を書

いてクライアントにシステム提案をしたりと、新

人にはなかなかハードな仕事内容でした。

そこではいろんなことをやらせてもらいました

ね。ちょうど、今、僕らがやっているデザイン

ディレクションと実際のデザインの両方をやるよ

うなイメージですね。パンフレットのグラフィッ

クなんかもやったことなかったけど、プロジェク

トのすべてのデザインに携わったのでとても勉強

になりました。

僕が興味があったのは単純にモノを作るという

ことより、あるコンテンツに対して、いかにデザ

インで付加価値を与えていくかということだった

ので、仕事は本当におもしろかったですね。

デザインマネジメントを極めるために独立

一方で、僕の生涯のテーマであるデザインマネ

ジメントを極めるという観点からすると、物足り

ない部分もありました。

僕の理解では、デザインマネジメントとはデザ

インをいかに経営資源に還元していくのかという、

デザインの能力を組織に活かしていく方法論です。

その意味で東芝は、いわゆる商品ブランドレベ

ルはともかく、デザインを会社に還元するという

ところまでは一社員では触りようがないくらい大

きな企業で、そこにストレスを感じてもいました。

そんなこともあり、5〜6年はお世話になるつ

もりだった東芝を2年で離れることにしました。

東芝時代はデザインマネジメントをしっかりや

れていたかというと決してそうではありませんで

したが、基礎の部分は学べたかなと思っています。

デザインを企画コンテンツとして考え、提案書を

作ってお客様に提案して、実施までもっていくと

いうフレームワークやスキル、方法論は学んだの

であとは自分でやるしかないということで独立し

たのです。

COEDOとの邂逅

独立してからは、小さくてもいいから、一回きち

んとブランドというものをトータルで手がけてみ

たいという思いが強くありました。プロダクト単

位ではなく、会社の枠組みやブランドそのものを

作る、それを自分がコントロールできるくらいの

スケールでやれたらおもしろいな、と。そんな風に

思っていたところに、拓殖大学の竹末俊昭先生か

ら、協同商事という会社をご紹介いただきました。

協同商事さんは川越で地ビールを作っている会

社です。当時の副社長(現社長)の朝霧重治さん

とお会いして話を聞いてみると、地ビールでずっ

とやって来たが、変えたいということでした。

いろいろ話しているうちに、これはただデザイ

ンを変えたいわけじゃないということがだんだ

ん見えてきました。朝霧さんは「今のやり方は

ちょっと違う、デザインを一新してプレミアム

ビールメーカーとしてのブランディングという観

点に変えていきたい」と考えておられたんです。

僕は僕で、この仕事で当時僕なりに確立しつつ

あったブランディングの方法論を総出しで試して

第 1 話西澤 明洋no.30

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COEDOビール 販促ツールパターン化されたロゴにより様々なツールに展開しても統一感がある

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みたいという気持ちがわき上がって来たんです。

そこで、僕のポリシーやデザインマネジメントの

話などを聞いていただいたところ、とても共感し

てくださって、じゃあやりましょうということに

なったんです。お互いにとって絶妙なタイミング

だったなと今でも思いますね。

やるからにはきっちり時間かけてやりましょう

ということで、最初は調査から入っていきました。

 

我々独自の方法で「デザインリサーチ」と言い

ますが、消費者に向けたものではなく、クリエー

ターとしての目線でモノを見て、それが何をコン

セプトにしているのかを見極めていくという調査

です。

この時は主要ビールメーカーを1社ずつ調査し

たのですが、各社ごとの力の入れどころ、要はコ

ンセプトを徹底的に分析して掘り下げていくんで

すね。A社は市場のここを獲りにいっている、B

社はこちらを獲りにいっている、だったらこの

ビールが狙うべきなのはここではないかという感

じで、ビール市場全体の中での最適なポジション

を確認するためのデータを集めたんです。

中小企業のデザイン部長になる

この仕事をはじめた2005年というのは、発

泡酒から第三のビールが出始めた一方、それま

でヱビスビールが独占していたプレミアム市場

に、サントリーがプレミアムモルツでモンドセレ

クションを受賞するなど、ビール市場が二極化し

はじめた頃です。調査の結果、改めてプレミアム

第 1 話西澤 明洋no.30

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interview: 2010.11

C R E ATO R ' S F I L E vol.602011年1月28日発行

発行・企画・編集

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部

グラフィック・アーツ・センター

〒112-8531東京都文京区水道1-3-3TEL.03-5840-4058http://biz.toppan.co.jp/gainfo

取材:原 葉子 及川悠太 菊池 巨 野崎優彦 

撮影:西村 広

文:野崎優彦

編集:原 葉子 野崎優彦 

5

市場のほうに伸びしろがあるという手応えをもっ

て、改めてこの会社を見てみると、いい素材を使

い、ビールの本場ドイツからブラウマイスターを

招聘して職人を育ててきたくらい、ビール作りと

真摯に向き合ってきた会社です。

この会社にはプレミアム市場で十分に戦える商

品がある。あとは、そのことをいかに伝えるかと

いうことで、川越の地ビールがCOEDOビール

として生まれ変わったのです。テーマは、脱・地

ビールです。

僕らにご依頼くださる中小企業には、いいモノ

を作っているのだから絶対に売れるはずだと思っ

ていらっしゃるケースが多いんです。でも、それ

はモノ屋さんの視点なんですね。本当はそこで問

題になるのは売り方、伝え方なんです。

だから僕らとしては、製造部門が圧倒的に強い

中小企業の、デザイン部になってあげたいんです。

小さな会社では専門家の立場からデザインについ

てのアドバイスができる人がいない場合が多いで

すから。

つまり、僕の立場はその企業のデザイン部長。

最近はそれに企画部長も兼任して、デザインと企

画をまとめて見ますというスタンスで仕事をして

いるんです。

デザインをきっちりとコントロールすることで

経営リソース化し、企業価値の向上に還元すると

いうデザインマネジメントの考え方を、ブラン

ディングという領域で実践し、極めてみようとい

う独立当初のコンセプトを追求していったら、今

のようなスタイルになっていたわけです。

COEDOビールパッケージデザイン

第 1 話西澤 明洋no.30

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