16
37 3.貫通部(1 時間耐火壁)に関する性能検証 3.1 検証対象の検討 3.1.1 検証対象の概要 検証対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の概要を図 3.1 に示す。本検証は、木造耐火構造(1 時間) の壁貫通部周りの簡便な不燃措置の確立を目指したものである 1 。具体的には、設備工がホールソーに よって孔あけしながら、適切な貫通部措置も行えることを目指している。 (1)貫通ニ:試験体 C-d(せっこうスリーブ筒厚 30mm+強化せっこうボード厚 21mm3.1 検討対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の概要 1 本検証の目的は、貫通部周りの木部に損傷が生じないことを確認することである。つまり、防火区画貫通部の防火措 置そのものの性能確認ではないため、貫通部の孔埋めは行っていない。

3.貫通部(1 時間耐火壁)に関する性能検証 - …...37 3.貫通部(1 時間耐火壁)に関する性能検証 3.1 検証対象の検討 3.1.1 検証対象の概要

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

37

3.貫通部(1 時間耐火壁)に関する性能検証

3.1 検証対象の検討 3.1.1 検証対象の概要

検証対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の概要を図 3.1 に示す。本検証は、木造耐火構造(1 時間)

の壁貫通部周りの簡便な不燃措置の確立を目指したものである 1。具体的には、設備工がホールソーに

よって孔あけしながら、適切な貫通部措置も行えることを目指している。

(1)貫通ニ:試験体 C-d(せっこうスリーブ筒厚 30mm+強化せっこうボード厚 21mm)

図 3.1 検討対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の概要

1 本検証の目的は、貫通部周りの木部に損傷が生じないことを確認することである。つまり、防火区画貫通部の防火措

置そのものの性能確認ではないため、貫通部の孔埋めは行っていない。

38

(2)貫通ホ:試験体 C-e(せっこうスリーブ筒厚 30mm+ロックウール厚 90mm)

(3)貫通ヘ:試験体 C-f(せっこうスリーブ筒厚 30mm+強化せっこうボード蓋厚 21mm)

図 3.1 検討対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の概要(つづき)

3.1.2 試験体の設計

貫通部(1 時間耐火壁)の措置は、次のように試験体を設計した。

①壁体の貫通孔:(共通)径 276mm(壁体とスリーブの隙間は 8mm) ②ス リ ー ブ:(貫通ニとホ)一体成形したせっこうスリーブ筒(厚30mm、内径 200mm、長さ 304mm)

39

(貫通ヘ)一体成形したせっこうスリーブ筒(厚 30mm、内径 200mm、長さ 262mm1) ③隙 間 処 理:(貫通ニ)耐火シーラント充填(バックアップ材:ロックフェルト厚10mm×幅21mm)

(貫通ホとヘ)耐火シーラント充填(バックアップ材:ロックフェルト厚 10mm×幅 15mm×2列)

④木 部 ま で の 離 隔 距 離:(貫通ニ)よこ材上まで 49mm、よこ材下まで 108mm、たて材まで 116mm(左右と

も) (貫通ホとヘ)よこ材上まで 28mm、よこ材下まで 129mm、たて材まで 116mm(左

右とも) ⑤貫 通 部 周 囲:(貫通ニ)木部に対して強化せっこうボード厚 21mm 張り

(貫通ホ)ロックウール厚 90mm充填 (貫通ヘ)処理なし

⑥隙間塞ぎの蓋:(貫通ニとホ)なし (貫通ヘ)強化せっこうボード厚 21mm張り

①から③について:建築研究コンソーシアム(以下、コンソーシアムと呼ぶ)の既往試験を参考にし

て 2、せっこうスリーブ筒 3は厚 30mm×内径 200mm と定め、加熱側は、貫通ニとホは壁面より 82mm、

貫通ヘはせっこう蓋外面から 19mm 突出させた。スリーブと壁体との隙間には耐火シーラントを充填し

た。そのバックアップ材のロックフェルトには幅 15mm または 21mm を選定し 4、強化せっこうボー

ド厚 21mm と構造用合板厚 9mm の小口へ 2 列張り付けた。ロックフェルトは 10mm の厚みを持つが

伸縮性がある。また、貫通部の実口径は穿孔に用いる刃物の厚み分だけ広がるため、貫通孔は径 276mmとした 5。

なお、せっこうスリーブ筒は一体成形し、継目が生じないようにした。つまり、今回の試験体ではコ

ンソーシアム試験で確認された熱的弱点を解消した(図 3.2)。 ④について:貫通部周りでは、スリーブの上側の温度が上昇しやすい。そのため、試験体の貫通部は

全てよこ材上に寄せて配置し、その離隔距離(スリーブ外周面から木部表面までの最短距離)を、貫通

ホとヘについては 28mm、貫通ニについては強化せっこうボードを挟んでいるので 49mm とした。 ⑤と⑥について:貫通ニ(試験体 C-d)と貫通ホ(試験体 C-e)では、せっこうスリーブ筒厚 30mm

を用いるだけなく壁内部の木部にも不燃措置を施した。つまり、貫通ニ(試験体 C-d)では貫通部周囲

の木部に対して強化せっこうボード張りを行い 6、貫通ホ(試験体 C-e)では貫通部周囲にロックウー

ルを充填した 7。一方、貫通ヘ(試験体 C-f)では壁内部の措置は行わず、壁の外側からせっこうスリー

ブ筒の隙間塞ぎ(強化せっこうボード厚 21mm)を嵌込むことによって壁内部への熱の侵入を防いだ。 1 開口ヘのみ、製作時に筒が割れてしまい、予備を使用したため。 2 建築研究コンソーシアムの既往試験は3.4に後述。 3 せっこうスリーブ筒の材料には、強化せっこうボードの心材と同じ組成の材料を用いた。具体的には不燃認定

「NM-8615」の芯材として規定される組成(比重 0.8。グラスファイバーが 0.2%でその他はせっこう)を満たすもの

を用いた。 4 ロックフェルトの幅は 6 種類ある(8mm、10mm、12.5mm、15mm、21mm、30mm)。厚みは全て 10mm である。 5 試験体はサークルカッターによって孔をあけたため、ホールソーの刃先径を考慮しなかった。しかし、実用化に当たっ

てはホールソーの刃先径を考慮して貫通孔の径から定めていく必要があると考えられる。例えば ALC 用ホールソーの

大口径としては刃先径 250mm、260mm、300mm、310mm がある。 6 この納まりでは、貫通部周囲の木部に対する強化せっこうボード張りを枠組作業と合わせて行う必要がある。つまり、

貫通部措置が設備工の作業として完結しない。 7 この納まりは、貫通部周囲のロックウール充填は設備工の作業とすることは可能と考えられる。ただし実用化のために

は作業性の検討が必要になる。

40

図 3.2 せっこうスリーブ筒の一体成形による熱的弱点の解消

表 3.1 せっこうスリーブ筒厚 30mm の設置状況

写真 3.1 耐火被覆の孔あけ 写真 3.2 せっこうスリーブ筒

写真 3.3 バックアップ材(ロックフェルト)設置 写真 3.4 耐火シーラント充填

せっこう筒

鋼製スリーブ

合板

継目 炭化

合板 せっこうスリーブ筒

(一体成形)

今回の検証対象 コンソーシアム試験対象

41

3.2 3種類の納まりに関する温度推移 3.2.1 温度測定の位置

(1)貫通ニ:試験体 C-d 温度測定位置

(2)貫通ホ:試験体 C-e 温度測定位置

図 3.3 検討対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の温度測定位置

42

(3)貫通ヘ:試験体 C-f 温度測定位置

図 3.3 検討対象とした貫通部(1 時間耐火壁)の温度測定位置(つづき)

3.2.2 温度測定の結果

図 3.4 から図 3.11 に、主要な測定点の温度推移を示す。〈 〉内の数字は温度測定位置を示す。 木部の最高温度はいずれも合板上であり、貫通ニ(試験体 C-d)で 115℃(加熱開始 116 分)、貫通ホ

(試験体 C-e)で 175℃(加熱開始 120 分)、貫通へ(試験体 C-f)で 114℃(加熱開始 116 分)と、い

ずれも概ね問題ない温度であった。

図 3.4 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (1)たて材左

1 凡例の〈 〉内の数字は温度測定位置を示す(図 3.3 参照)。

0

20

40

60

80

100

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈21〉 貫通ホ:試験体C-e〈29〉 貫通へ:試験体C-f〈37〉

43

図 3.5 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (2)たて材右

図 3.6 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (3)よこ材上

図 3.7 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (4)よこ材下

1 凡例の〈 〉内の数字は温度測定位置を示す(図 3.3 参照)。

0

20

40

60

80

100

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈22〉 貫通ホ:試験体C-e〈30〉 貫通へ:試験体C-f〈38〉

0

20

40

60

80

100

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈23〉 貫通ホ:試験体C-e〈31〉 貫通へ:試験体C-f〈39〉

0

20

40

60

80

100

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈24〉 貫通ホ:試験体C-e〈32〉 貫通へ:試験体C-f〈40〉

44

図 3.8 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (5)合板左

図 3.9 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (6)合板右

図 3.10 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (7)合板上

1 凡例の〈 〉内の数字は温度測定位置を示す(図 3.3 参照)。

020406080

100120140160180

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈25〉 貫通ホ:試験体C-e〈33〉 貫通へ:試験体C-f〈41〉

020406080

100120140160180

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈26〉 貫通ホ:試験体C-e〈34〉 貫通へ:試験体C-f〈42〉

020406080

100120140160180

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈27〉 貫通ホ:試験体C-e〈35〉 貫通へ:試験体C-f〈43〉

45

図 3.11 貫通部(1 時間耐火壁)に関する木部の温度推移 1 (8)合板下

1 凡例の〈 〉内の数字は温度測定位置を示す(図 3.3 参照)。

020406080

100120140160180

0 60 120 180 240

温度

(℃)

時間(分)

貫通ニ:試験体C-d〈28〉 貫通ホ:試験体C-e〈36〉 貫通へ:試験体C-f〈44〉

46

3.3 3種類の納まりに関する加熱試験の目視結果 試験前、加熱中、脱炉後の目視結果を表

3.3 に示す。 加熱開始約41分付近でせっこう筒のひび

が確認された。また、試験体 B(2 時間耐火

試験)の時と同様、加熱中にせっこう筒とボ

ードとの隙間を埋める耐火シーラントが盛

り上がる形状になることも確認された。加

熱開始 53 分付近で、貫通ホ(試験体 C-e)のせっこう筒と接する壁ボードにひびが発

生し、加熱開始 55 分で貫通へ(試験体 C-f)のせっこうボード蓋の浮上がりが見られた。 脱炉後、せっこう筒の状態を確認した

ところ、せっこう筒の表面、内部に無数の

ひびが確認されたが、筒としての形状は健

在であった。また、耐火シーラントは膨張

した状態で、バックアップ材のロックフェ

ルトは残った状態であった。

表 3.2 目視記録(試験体 C)

4 分:せっこう筒表面内側が黒く変色。 7 分:隙間充填材の耐火シーラントが発泡。 12 分:耐火シーラントとせっこう筒の間が黒く

変色。 17分:耐火シーラントにひびが発生。 41分:せっこう筒にひびが発生。 53 分:貫通ホのせっこう筒に接するボードにひ

びが発生。 55分:貫通へのせっこう蓋が少し浮き上がる。 58分:貫通ホのせっこう筒のひびが大きくなる。 59分:貫通ホのせっこう筒が一部割れる。 60分:加熱終了。せっこう筒周辺から炎確認。 240 分:試験終了。脱炉

貫通ニ:試験体 C-d (せっこう筒厚30mm+強化せっこうボード厚21mm)

試験前

写真 3.5 試験前の貫通ニ

加熱中

脱炉後

写真 3.9 脱炉後

47

表 3.3 貫通部(1 時間耐火壁)に関する目視結果の一覧 (1)

貫通ホ:試験体 C-e (せっこう筒厚 30mm+ロックウール厚 90mm)

貫通ヘ:試験体 C-f (せっこう筒厚30mm+強化せっこうボード蓋厚21mm)

写真 3.6 試験前の貫通ホ 写真 3.7 試験前の貫通ヘ

写真 3.8 加熱開始 59 分時点 貫通部の状態

写真 3.10 脱炉後 写真 3.11 脱炉後

48

強化せっこうボード解体後の目視結果を

図 3.4 に示す。 合板、たて材、よこ材の状態を確認した

ところ、いずれの仕様についても炭化は見

られず、健全な状態であった。なお、写真

では、合板断面に黒く変色が見られるが、

これは試験体製作時の孔あけ加工の際、熱

による影響で変色したものである。

貫通ニ:試験体 C-d (せっこう筒厚30mm+強化せっこうボード厚21mm)

ボード解体後

写真 3.12 ボード解体後

ボード解体後(拡大)

49

表 3.4 貫通部(1 時間耐火壁)に関する目視結果の一覧 (2)

貫通ホ:試験体 C-e (せっこう筒厚 30mm+ロックウール厚 90mm)

貫通ヘ:試験体 C-f (せっこう筒厚30mm+強化せっこうボード蓋厚21mm)

写真 3.13 ボード解体後 写真 3.14 ボード解体後

写真 3.15 たて材右 写真 3.16 よこ材上

(試験体に書かれた「貫通ニ」は誤り。)

50

3.4 性能検証結果に関する考察 3.4.1 今回の試験の結果

今回の試験結果の概要を表 3.5 に示す。

表 3.5 性能検証結果の概要(貫通部(1 時間耐火壁))(表 1.9 再掲)

検証対象 貫通ニ (試験体 C-d)

貫通ホ (試験体 C-e)

貫通ヘ (試験体 C-f)

試験体の仕様

スリーブ せっこうスリーブ筒(内径 200mm、外径 260mm、厚さ 30mm)

貫通部周囲 木部に対して強化せっこうボード厚 21mm 張り ロックウールを充填

隙間塞ぎの蓋 強化せっこうボード厚21mm 張り

よこ材上

最高温度 (達した時間)

95.8℃〈23〉 (62 分)

97.0℃〈31〉 (41 分)

93.5℃〈39〉 (90 分)

燃焼痕 変色も炭化もなし 変色も炭化もなし 変色も炭化もなし

合板上

最高温度 (達した時間)

115℃〈27〉 (116 分)

175℃〈35〉 (120 分)

114℃〈43〉 (116 分)

燃焼痕 変色も炭化もなし 変色も炭化もなし 変色も炭化もなし

評価 ○ ○ ○

注)〈 〉内の数字は温度測定位置を示す(図 3.3 参照)。 3.4.2 関連する既往試験について

一体成形されたせっこうスリーブ筒を用いた壁貫通部措置の性能検証は、今回の一連の試験が初めて

と考えられる。ただし、2013 年から 2015 年にかけて建築研究コンソーシアム(以下、コンソーシアム

と呼ぶ)が実施した「木質耐火構造の区画貫通部の性能評価方法の研究開発」では、関連の深い貫通部

措置の試験が行われた。 従来から中空壁の貫通部措置には鋼製スリーブを用いた工法が存在する。コンソーシアムはこうした

既存工法の活用に向けて、鋼製スリープの周囲に設ける断熱材の仕様を検討した。その結果は表 3.6 に

示す通りであり、試験体の中空層の温度は 100℃から 130℃ほどに止まったと報告されている。 しかしコンソーシアムによる試験では、せっこう筒を用いた試験体(W-1)の構造用合板の一部が炭

化することになった。この試験体では鋼製スリーブに被せたせっこう筒が分割されていたため、その継

目から熱が侵入して炭化が生じたと考えられている。

51

表 3.6 貫通部(1 時間耐火壁)に関する既往試験の結果 1

試験体記号 W-1 W-2 W-3

スリーブの断熱材 せっこう筒厚さ 30mm けい酸カルシウム保温筒厚さ 30mm

ロックウール保温筒50mm

鋼製スリーブ 呼び寸法Φ200(内寸 207.3mm、厚さ 4.5mm) 木製下地 変色も炭化もなし 変色も炭化もなし 変色も炭化もなし 構造用合板 炭化あり 変色あり 炭化あり

3.4.3 せっこうスリーブ筒厚 30mm を用いた貫通部措置(1 時間耐火壁)について

せっこうスリーブ筒厚 30mm を用いた貫通部の措置は、今回の性能検証によって次の 3 つの条件で

は耐火構造(1 時間)の壁の耐火性能を損なわないことが確認された。 ① 貫通部周囲の木部に強化せっこうボード厚 21mm 張りを併用。 ② 貫通部周囲にロックウール厚 90mm 充填を併用。 ③ 強化せっこうボード厚 21mm の隙間塞ぎを併用。 (①から③共通:スリーブ筒と壁の隙間にロックフェルトと耐火シーラントを充填)

3.4.4 せっこうスリーブ筒を用いた貫通部措置(1 時間耐火壁)の実用化に向けて

今回の一連の性能検証によれば、せっこうスリーブ筒厚 30mm を用いた貫通部措置は、耐火構造(1時間)の壁の措置として性能的な余裕があると考えられる。実際、貫通部周囲の木部に強化せっこうボ

ード厚 21mm 張りを併用した場合には耐火構造(2 時間)の壁貫通部措置として適用できることが検証

されており、こうした併用措置を省いても耐火構造(2 時間)の耐火性能を損なわない可能性も指摘さ

れている(第6章参照)。つまり、耐火構造(1 時間)の壁貫通部措置であれば 30mm より薄いせっこ

うスリーブ筒単体で成立する可能性もある。 その一方で、せっこう筒をスリーブそのものに用いることは従来にない考え方であるため、実用化に

向けた製品開発が大きな課題として残されている。具体的には次の 3 つの課題を中心に検討を進める必

要があると考えられる。 課題① 部材の堅固性の向上 課題② 部材の外れ止めの検討 課題③ 取付治具等の検討

課題①について:試験体 C の製作過程で、せっこうスリーブ筒厚 30mm にひびが入るというアクシ

1「木質耐火構造貫通部の性能評価-その1 断熱された貫通管が配された区画貫通部の加熱試験」(日本建築学会大会学

術講演梗概集、pp.91-92、2015 年 9 月)より作成。

52

デントが発生した(表 3.5)。その補修は簡便に済み、図らずも今回の試験によって、補修したせっこう

スリーブ筒による措置の性能も確認できた。今回の試験によれば、ひび割れを補修したせっこうスリー

ブ筒厚 30mm を耐火構造(1 時間)の壁貫通部措置に用いることは可能と思われるが、過度に慎重な取

扱いが求められる部材は現場の作業性を低下させる。したがって、せっこうスリーブ筒部材に一定の堅

固性を確保することが重要になる。 課題②について:今回の試験体ではアングル材を耐火被覆の上から取り付け、U ボルトを用いてせっ

こうスリーブ筒を留め付けた(表 3.7)。しかしこの固定方法を実際の建物へ適用するのは困難と考えら

れる。壁の貫通部措置であれば摩擦力で留め付けることも可能と思われるが、突発的な衝突などに備え

て外れ止めを設けた方が貫通部措置としての信頼性が高まる。今回の検証によれば、せっこうスリーブ

筒単体で性能を確保できる可能性が高いので、外れ止めは簡便な部材で済ますことが可能と思われる。 課題③について:今回の試験体製作では、せっこうスリーブ筒を留め付けるアングル材をガイドに活

用して取付作業を行った。しかしこの方法は、試験体製作上の便宜的な方法である。今後は現場作業手

順を検討すると共に、取付治具等も検討する必要がある。その際には、上記の課題②を考慮して、取付

治具を兼ねられるかどうかといった検討も行うことが重要である。

表 3.7 試験体 C の製作状況(せっこうスリーブ筒厚 30mm の取り付け)

写真 3.17 貫通部の下にアングル材を設置 写真 3.18 U ボルトとアングル材による固定

写真 3.19 補修後のせっこうスリーブ筒 (貫通ホ:試験体 C-e)(表 3.3 の一部を再掲)