5
3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速 度,Ne が 900 rpm,圧縮比,! が6.15:1の条件では LTO (Low TemperatureOxidation)の途中で反応が停止し,熱 着火には至っていない.! を保ったまま,Ne を 899 rpm まで下げると LTO が完結し,その後に熱着火が起こる. Ne を 900 rpm に保ったまま,! を 6.16:1まで上げると, LTO が完結し,熱着火も起こる. 図の条件では LTO と熱着火は膨張行程で起こっており, LTO に至る着火遅れ " ! 期間,LTO に完了後熱着火に至る 着火遅れ " " 期間では化学反応による熱発生と膨張による内 部 エ ネ ル ギ ー の 低 下 が 競 争 し て い る.Ne:900 rpm, ! :6.15:1 の条件では内部エネルギーの低下が化学反応によ る発熱を大きく上回り温度の低下量が大きくなる.温度が 下がると化学反応による発熱が低下し,温度はさらに下が り,LTO が途中で停止している.Ne を 899 rpm まで下げ ると膨張による内部エネルギーの減少速度が低下し,LTO はかろうじて持続する.その結果,温度の上昇が起こり, LTO は完結し, " " 期間の化学反応による緩慢な発熱が続き 熱着火に至る.Ne:900 rpm で ! を 6.16:1 まで上げると,化 学反応の初期温度が上がるために LTO が完結し,熱着火 が起こる.このように化学反応による熱発生と膨張による 内部エネルギーの低下の競争関係のわずかな違いが,着火 するかしないかという大きな違いを引き起こしている.こ こで,LTOに至る" ! 期間を短縮する何らかの燃焼制御手段 があると仮定すると,この手段によってその期間の熱発生 を高めることができる.その結果, " ! " " 期間が圧縮上死点 小特集 プラズマ支援燃焼の現状と展望 3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラズマサポートによる着火遅れ短縮の可能性 3. Chemical Kinetics of Plasma-Assisted Combustion Possibility of Ignition Delay Shortening by Plasma-Support 安 東 弘 光,酒 井 康 行,桑 原 一 成 1) ANDO Hiromitsu, SAKAI Yasuyuki and KUWAHARA Kazunari 福井大学工学研究科, 1) 大阪工業大学工学部 (原稿受付:2013年2月25日) 現在までに提案されている,多重放電,バリア誘導放電,プラズマ支援放電などの手法は放電によって,イ オンや原子,ラジカルなどの活性種を生成する.これらの活性種の寿命は短いが,活性種から生成された OH は比較的長い寿命を持つ.OH の添加が低温酸化反応(LTO)に与える影響を,化学反応解析の立場から検討し た.OH が LTO 終了以前に添加された場合は,非常に少量の OH の添加が LTO に至る着火誘導期の短縮を引き 起こすことがわかった. Keywords: heat engine, chemical kinetics, theory/modeling, ignition, microwave plasma author’s address: Univ. Fukui, Fukui 910-8507, Japan 1) Osaka Institute of Technology, Osaka, 535-8585, Japan corresponding author’s e-mail: [email protected] J.PlasmaFusionRes.Vol.89,No.4(2013)220‐224 図1 エンジン回転数と圧縮比が予混合圧縮着火エンジンの着火 過程に及ぼす影響.(燃料:ノルマルヘプタン,当量比: 0.5,下死点温度:300 K,下死点圧力:0.1 MPa!2013 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research 220

3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラ …...3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラ …...3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

3.1 はじめに図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃

焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

度,Ne が 900 rpm,圧縮比,�が 6.15:1の条件では LTO

(Low Temperature Oxidation)の途中で反応が停止し,熱

着火には至っていない.�を保ったまま,Ne を 899 rpm

まで下げると LTO が完結し,その後に熱着火が起こる.

Ne を 900 rpm に保ったまま,�を 6.16:1まで上げると,

LTO が完結し,熱着火も起こる.

図の条件ではLTOと熱着火は膨張行程で起こっており,

LTO に至る着火遅れ��期間,LTO に完了後熱着火に至る

着火遅れ��期間では化学反応による熱発生と膨張による内

部エネルギーの低下が競争している.Ne:900 rpm,

�:6.15:1 の条件では内部エネルギーの低下が化学反応によ

る発熱を大きく上回り温度の低下量が大きくなる.温度が

下がると化学反応による発熱が低下し,温度はさらに下が

り,LTO が途中で停止している.Ne を 899 rpm まで下げ

ると膨張による内部エネルギーの減少速度が低下し,LTO

はかろうじて持続する.その結果,温度の上昇が起こり,

LTOは完結し,��期間の化学反応による緩慢な発熱が続き

熱着火に至る.Ne:900 rpmで�を6.16:1まで上げると,化

学反応の初期温度が上がるために LTO が完結し,熱着火

が起こる.このように化学反応による熱発生と膨張による

内部エネルギーの低下の競争関係のわずかな違いが,着火

するかしないかという大きな違いを引き起こしている.こ

こで,LTOに至る��期間を短縮する何らかの燃焼制御手段

があると仮定すると,この手段によってその期間の熱発生

を高めることができる.その結果,��,��期間が圧縮上死点

小特集 プラズマ支援燃焼の現状と展望

3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム:プラズマサポートによる着火遅れ短縮の可能性

3. Chemical Kinetics of Plasma-Assisted CombustionPossibility of Ignition Delay Shortening by Plasma-Support

安 東 弘 光,酒 井 康 行,桑 原 一 成1)

ANDO Hiromitsu, SAKAI Yasuyuki and KUWAHARA Kazunari

福井大学工学研究科,1)大阪工業大学工学部

(原稿受付:2013年2月25日)

現在までに提案されている,多重放電,バリア誘導放電,プラズマ支援放電などの手法は放電によって,イオンや原子,ラジカルなどの活性種を生成する.これらの活性種の寿命は短いが,活性種から生成された OHは比較的長い寿命を持つ.OH の添加が低温酸化反応(LTO)に与える影響を,化学反応解析の立場から検討した.OH が LTO 終了以前に添加された場合は,非常に少量の OH の添加が LTO に至る着火誘導期の短縮を引き起こすことがわかった.

Keywords:heat engine, chemical kinetics, theory/modeling, ignition, microwave plasma

author’s address: Univ. Fukui, Fukui 910-8507, Japan1)Osaka Institute of Technology, Osaka, 535-8585, Japan corresponding author’s e-mail: [email protected]

J. Plasma Fusion Res. Vol.89, No.4 (2013)220‐224

図1 エンジン回転数と圧縮比が予混合圧縮着火エンジンの着火過程に及ぼす影響.(燃料:ノルマルヘプタン,当量比:0.5,下死点温度:300 K,下死点圧力:0.1 MPa)

�2013 The Japan Society of Plasma

Science and Nuclear Fusion Research

220

Page 2: 3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラ …...3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

近傍になるため,ピストン速度が低下し,膨張によって内

部エネルギーが奪われる速度も低下するという2つ目の効

果も期待できる.

火花点火は放電によって生成したイオン・電子をアバラ

ンシェ的に増大させこれによって,総量ではわずかだが局

所的には高濃度の OH を生成,これをトリガーとして局所

的に熱着火に至るまでの燃料反応を完結させ,その後は主

に熱伝達によって高温領域を広げ,熱着火領域を広げてい

く火炎伝播燃焼のツールとして位置づけられてきた.最近

になって提案されている燃焼制御手法の中には,多重放

電,レーザー放電,プラズマ放電などに代表される一群が

あり[1‐5],これは放電によって原子,イオン,ラジカルな

どの活性種を生成することを出発点とする手法だが,これ

らの活性種は電子温度の緩和とともに直ちに消滅し,消滅

後には比較的安定な OH が残されている.したがって,こ

れらの手法を OH を生成する手法と位置づけ,その効果を

検討するは妥当であろう.これらは,濃度でみると希薄だ

が,広い領域に OH などのラジカルをシードさせる手法で

ある.この手法は現状では火炎伝播燃焼を活性化・安定化

する手法として位置づけられているようだが,雰囲気に

OH を存在させることで自着火の過程が変化するとした

ら,自着火のタイミングを制御する新しい燃焼制御手法に

なる可能性がある.

プラズマ支援燃焼を考える研究者には共通の理解と共通

の誤解があるように見受けられる.共通の理解は,1),

2)であり,

1)熱着火はラジカルの連鎖分岐反応である

2)連鎖分岐では OH が主要な役割を果たす

共通の誤解は,3)である.

3)少量の OH を添加すると,これがきっかけとなって連

鎖分岐が進行する可能性がある

典型的な条件下のアルカンの燃焼過程の OH の生成速

度,消費速度,生成速度と消費速度の差を図2に示す.図

の3つのグラフは同一のものであるが,縦軸だけが

1,100,10000倍に拡大されている.10000倍に拡大した場

合でみても,OH は厳密に定常状態にあることが示されて

いる.すなわち,OH は大量に生成されており,これが直ち

に消費されている.ここでOHを添加しても,添加したOH

が直ちに消費されるだけで,これがきっかけとなって連鎖

分岐が始まるとは考えがたい.もし連鎖分岐が起こるので

あれば,OHを添加しない条件でも,必要なOHは十分に生

成されている.すなわち,連鎖分岐を開始するのは特定の

ラジカルではなく,ラジカルが増大する条件であると考え

るべきである.OH 添加が影響を与えるかは,OH の消費反

応に続く反応群が,ラジカル濃度が増大する条件が作り出

せるかにかかっている.

筆者らはシードされたOHがLTOを開始する反応過程に

及ぼす影響という観点から,様々なタイミングで様々な量

の OH が均一にシードされた条件を取り上げ,化学反応計

算によって着火特性を調べた[6].

3.2 RO2 ケミストリー,H2O2 ケミストリーアルカン,RHの反応過程を図3に示す[7,8].RHはOH

によるH引き抜きの後,RO2,QOOH,O2QOOHを経て,ケ

トカルボキシルに変化する.この間に RO2,O2QOOH とケ

トカルボキシルの一部は安定な生成物として蓄積される.

また,この過程で安定なアルケンとシクロエーテルが生成

され蓄積される.ケトカルボキシルは�解裂し,安定なア

ルケン,アルデヒドを生成する.この間に蓄積される化学

種の濃度変化を図3に示す.LTO に至る��期間に RO2,

QOOHO2,ケトカルボキシルが蓄積されるが,LTO 反応が

進行している期間に大部分が消費される.一方アルデヒ

ド,アルケン H2O2,シクロエーテルは LTO 反応進行中に

生成されLTO終了とともに生成は止まる.それ以降,熱着

火が起こるまでの��期間に反応はほとんど進行しない.こ

れらの化学種は多量の OH が生成される H2-O2 系の反応が

進行する熱着火期間になって初めて消費される.

ケトカルボキシルの�解裂パスの中には複数のOHを生

成するパスがある.また�解裂の結果できあがった ke-

tone,aldehydo などの化学種の後続反応の中には多量の

OH を生成するパスがある.これがきっかけとなって,OH

の指数関数的な増大が起こり LTO が開始される.LTO

の反応が進行しCH2Oの濃度が高くなると,OHが燃料から

の H 引き抜きに代わって CH2O+OH→HCO+H2O で消費

されるようになるため LTO を進行させていた連鎖分岐反

応ループが止まり,LTO が完了する.

LTO 完了から熱着火に至る��期間の反応は H2O2 反応

ループが支配している.このループの総括反応は

2CH2O+O2→2H2O+2CO+470 kJと表される.LTOの役

図2 着火過程の OH生成速度,OH消費速度とこれらの差.(定容条件,燃料:ノルマルヘプタン,当量比:0.5,初期温度:759 K,初期圧力:2 MPa)

図3 ノルマルヘプタンの LTO.

Special Topic Article 3. Chemical Kinetics of Plasma‐Assisted Combustion Possibility of Ignition Delay Shortening by Plasma‐Support H. Ando et al.

221

Page 3: 3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラ …...3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

割はH2O2,CH2Oを蓄積することであり,H2O2 ループの役

割は,この H2O2 と CH2O を使って H2O2 を消費することな

く比較的大量の熱を生成し,熱着火に至る温度条件を実現

することにある.

3.3 OH添加の影響3.3.1 計算条件

ソルバーとしては CHEMKIN pro の定容燃焼モデル

を,燃料としては n‐ヘプタンを,スキームは LLNL のデー

タベースに公開された Pitz らの PRF モデル[9]を使っ

た.燃料濃度は当量比0.5相当に固定した.初期温度はLTO

が出現する 759 K と LTO が出現しない 1029 K を選ん

だ.OH は反応の過程で一瞬のうちに投入し,均一に混合

させた.投入のタイミングは LTO 出現時期前後の数点を

選んだ.投入量は OH の平衡濃度を基準にしたが,これは

平衡状態のモル分率の 0.5% 程度に相当する.この基準を

上限としてその 1/10000 まで減少させた.

3.3.2 LTO開始前/開始後にOHを添加した場合の特性

の違い

図4に初期温度 759 K で OH のシード量を平衡濃度相当

に固定した場合のシード時期の影響を示している.タイミ

ング1.8 msはOHをシードしない場合のLTO出現時期であ

る.LTO 出現より前に OH を入れるとその直後に LTO

が出現し,��はゼロになる.LTO から熱着火に至るまでの

着火遅れ��はOHをシードしない場合とほぼ同じ一定の値

を保つ.OHをLTO出現後に入れた場合は着火遅れ��が小

さくなる.シード時期が LTO から離れるにつれて効果は

減少する.このように OH シードの影響はタイミングが

LTO 前か後かによって大きく異なっている.

3.3.3 LTO開始前にOHを添加した場合

図5はシード時期を LTO 前に固定し,シード量の影響

をみたものである.シード量が減ると LTO 出現時期が遅

れるが,その後の熱着火までの遅れ期間はおおむね一定に

保たれる.シード量が OH の平衡濃度の 1/10000 というこ

とは平衡状態のモル分率で百万分の一に相当し,この濃度

の OH で熱着火時期が制御できるということは注目に値す

る.図6にLTO出現直前のRO2ケミストリーを支配する素

反応の速度を示す.なお,以降の図ではラジカル点,結合

点が違うが同じ構造をもつ化学種の反応はランピングして

表示している.OH による H 引き抜き反応,RH+OH→

R+H2O で投入された OH の全量が消費されるが,その後

RO2 ケミストリーが進行し OH の定常状態濃度を OH を

シードしない場合に比べて4桁高める.R,RO2 は定常状

態にあり,R+O2→RO2,RO2→QOOH の反応速度は RH

図6 OH添加が RO2ケミストリーに及ぼす影響.

図4 OH添加時期が着火過程に及ぼす影響.

図5 OHを LTO前に添加した場合の OH添加量が着火過程に及ぼす影響. 図7 OH添加が OH生成・消費反応に及ぼす影響.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.4 April 2013

222

Page 4: 3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラ …...3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

+OH→R+H2Oの反応速度と同一になる.これらの反応の

速度がある閾値に達した時に.LTO が起こる.この閾値は

OHをシードしない場合と同一である.図7にLTOが出現

する過程の OH の生成と消費を支配する素反応の速度を示

す.アルキルラジカルが生成され,これが RO2,QOOH,

QOOHO2 を経てケトカルボキシルに転化し,�解裂を経て

アルデヒド,ケトン,アルケン,H2O2 等に変化する.すな

わち,OH をシードしない場合と同一の RO2 ケミストリー

を経てLTOが発現している.OHの増大に関係するのは初

期ではQOOH→Ket+OH,QOOH→cyclo-etherだが,次第

にケトカルボキシルの�解裂に伴うOHの生成の寄与が大

きくなる.シードした OH の役割はこのこれらの RO2 過程

にトリガーをかけることにあり,少量の OH でも効果を発

揮する.図8はその後の熱着火準備期間で H2O2 ループを

構成する H2O2,CH2O の濃度を OH 濃度とともに示したも

のである.

LTO停止の条件はCH2Oの蓄積量で決まるためその後の

LTO 停止時期の CH2O 濃度は一定になる.H2O2 は CH2O

と同じパスで生成されるためにのH2O2濃度は一定になる.

その後の熱着火準備期間 H2O2 反応ループの進行の状況は

影響を受けない.したがって,��が受ける影響も小さい.

3.3.4 LTO開始後にOHを添加した場合

図9はシード時期を LTO 後に固定し,シード量を変え

た場合の結果である.平衡濃度相当を入れた場合は若干の

効果がみられるが,濃度が低いと効果は完全に消える.

LTO 完了後に OH をシードした場合の H2O2,CH2O,OH

濃度を図10に示す.OH はただちに CH2O と反応し,H2O2

反応ループによってH2O2を転化する.この場合OHを添加

することはその濃度の半分だけ H2O2 を増やしたことと等

価であり,効果は小さい.OH 添加量を減らした場合は効

果は検知できなくなる.

3.3.5 初期温度が LTO終了温度より高い場合

初期温度が LTO 終了温度より高い場合の結果を図11に

示す.この条件では低温酸化反応と H2O2 反応ループが同

時に進行する.アルキルラジカルは完全に消費されるので

Fuel High CN Low CN

Initial T Lower than LTO End THigher thanLTO End T

Timing before LTOafterLTO

Ignitiondelay

shortning

realized even whensmall amount of OH

is added

realized only when largeamount of OH is added

Process RO2 Chemistry H2O2 Chemistry

図10 OH添加量が OH,CH2O,H2O2濃度に及ぼす影響.

図8 OH添加量が OH,CH2O,H2O2濃度に及ぼす影響

図11 初期温度が LTO終了温度より高い場合のOH添加が着火過程に及ぼす影響.

表1 OH添加が着火過程に及ぼす影響のまとめ.

図9 OHを LTO後に添加した場合の OH添加量が着火過程に及ぼす影響.

Special Topic Article 3. Chemical Kinetics of Plasma‐Assisted Combustion Possibility of Ignition Delay Shortening by Plasma‐Support H. Ando et al.

223

Page 5: 3.プラズマ支援燃焼の化学反応メカニズム: プラ …...3.1 はじめに 図1にエンジン回転速度と圧縮比を変化させた場合の燃 焼の状況のシミュレーション結果を示す.エンジン回転速

はなく蓄積が続く.OHの添加の効果は添加したOHに相当

するだけアルキルラジカル濃度を増加させること OH によ

る初期反応で温度が上昇することに留まり,効果は OH

の添加量に比例する.したがって少量の添加では,その効

果をまったく期待できない.

3.4 まとめマイクロウェーブプラズマなどの手段で生成されるレベ

ルの少量の OH で着火遅れを短縮する手法の可能性を調べ

た.その結果わかったこの手法が成立する条件を表1にま

とめる.ベース燃料はセタン価が高く LTO をもつ燃料で

ある必要がある.初期温度は LTO 終了温度より低いこと

が必要である.OHをシードするタイミングはLTOが始ま

るより前である必要がある.これらの条件が成立すれば,

燃焼後の平衡組成のモル分率で百万分の一程度の低い濃度

の OH でも熱着火時期を早めることができることがわかっ

た.着火時期は OH シード量とシードタイミングでかなり

広い範囲で変化させることができる.現実のエンジンでは

これに圧縮・膨張による内部エネルギーの変化の効果が加

わる.したがって HCCI エンジンにとってはどのクランク

角で着火をさせるかが着火時期だけでなく,着火後の燃焼

速度を決定する要因となる.この意味で着火時期を制御す

る手法の効果は大きい.火炎伝播の燃焼にとっても OH

シードは短い��で多量のOHが生成される領域を広げるこ

とと等価で,この領域から多発的に火炎伝播が進行する効

果が期待される.

参 考 文 献[1]T. Shiraishi et al., SAE Paper No.2008-01-0466 (2008).[2]K. Tanoue et al., SAE Paper No.2008-01-0468 (2008).[3]T. Serizawa et al., COMODIA 2012, p.164 (2012).[4]Y. Ikeda et al., SAE Paper No. 2009-01-1050 (2009).[5]Y. Ikeda et al., SAE Paper No. 2009-01-1049 (2009).[6]安東弘光他:自動車技術会論文集, 42-2, 397 (2011).[7]H. Ando et al., SAE Paper No.2009-01-0948 (2009).[8]K. Kuwahara et al., SAE Paper No.2012-01-1113 (2012).[9]https://ww-pls.llnl.gov/?url=science_and_technology-

chemistry-combustion

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.4 April 2013

224