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4. 基板洗浄 4.1 基板表面の汚染の形態とその影響 デバイス・プロセスではまず基板表面を清浄に維持せねばならない。基板洗浄はプ ロセスの出発点で行なうが途中でもしばしば行なう。基板上に粒子状物質が載ってい たり、表面の一部あるいは全体が汚染物質で被覆されると、その上に堆積する薄膜の 密着性は弱く、また所定のエッチング加工もできないからである。 汚染の種類は粒子状汚染物(パーテイクル)、無機物汚染、有機物汚染に大別できる。 パーテイクルは基板操作中に外部から紛れ込んだり、作業者が発生したり、室内に 浮遊する粉塵が基板上に堆積したりする。最小パタン寸法よりも大きなパーテイクル が基板上に載っていればそれはパタン欠陥を引起し、デバイス歩留(良品率)の低減に 繫がる。人間の目で判別可能なパーテイクルの最小限界寸法は 100~10μm であるがこ の程度のパーテイクルの除去だけでは不十分である。最近の ULSI の特性長は 65~35nm であるから論理的にはこの程度の寸法まで問題視する。大きな寸法のパーテイクルを 除去して最後に問題になるのは作業環境中の空間に浮遊する微細なパーテイクルで ある。 IC ウェーハ生産工場では作業環境中のパーテイクルを一定量以下に管理したク リーンルームを使うが、ここでは詳細には触れない。 パーテイクルとは別な無機物汚染はそれが金属性であれば電気絶縁性の低下をも たら。基板表面が金属あるいはシリコンなどの場合には空気中の酸素や水蒸気と反応 して必ず薄い自然酸化膜ができるが、これも好ましくない影響、例えば電気的接続不 良を与える場合がある。有機物汚染には付着した油性汚染物、プロセス中に使用した レジストの残渣、作業者の放出する汚染物等がある。これらはデバイス特性上電気接 触不良の原因になる可能性がある。また次のプロセスで基板上に薄膜を形成する場合 には、汚染物の被覆があると作製された薄膜の基板密着強度は充分に高くできない。 4-1 には以上の基板汚染の分類と影響をまとめて示す。 4-1 基板汚染の分類 分類区分 汚染内容 影響 粒子状汚染 (パーテイクル) ゴミ、チリ パタン欠陥 歩留低下 金属 無機物汚染 自然酸化膜 電気特性不 有機物汚染 汚れ、レジス ト残渣、吸着 電気特性不 良、薄膜密着 性不足 4-2 洗浄(クリーニング)法方の分類 分類 洗浄方法 除去対象物 化学エッチング 機械的ダメージ層 酸化・還元 有機物, Si, SiO2 溶解 有機物、金属 ウェット 洗浄 超純水 残留薬品の濯ぎ ブラシ パーテイクル 機械 洗浄 粒子噴射吹付 パーテイクル プラズマ洗浄 Si, C, 有機物 高温水素アニール SiO2 ドライ 洗浄 Ar スパッタ 酸化物等表面層 4

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4. 基板洗浄

4.1 基板表面の汚染の形態とその影響 デバイス・プロセスではまず基板表面を清浄に維持せねばならない。基板洗浄はプ

ロセスの出発点で行なうが途中でもしばしば行なう。基板上に粒子状物質が載ってい

たり、表面の一部あるいは全体が汚染物質で被覆されると、その上に堆積する薄膜の

密着性は弱く、また所定のエッチング加工もできないからである。 汚染の種類は粒子状汚染物(パーテイクル)、無機物汚染、有機物汚染に大別できる。 パーテイクルは基板操作中に外部から紛れ込んだり、作業者が発生したり、室内に

浮遊する粉塵が基板上に堆積したりする。最小パタン寸法よりも大きなパーテイクル

が基板上に載っていればそれはパタン欠陥を引起し、デバイス歩留(良品率)の低減に

繫がる。人間の目で判別可能なパーテイクルの最小限界寸法は 100~10μm であるがこ

の程度のパーテイクルの除去だけでは不十分である。最近の ULSI の特性長は 65~35nmであるから論理的にはこの程度の寸法まで問題視する。大きな寸法のパーテイクルを

除去して最後に問題になるのは作業環境中の空間に浮遊する微細なパーテイクルで

ある。IC ウェーハ生産工場では作業環境中のパーテイクルを一定量以下に管理したク

リーンルームを使うが、ここでは詳細には触れない。 パーテイクルとは別な無機物汚染はそれが金属性であれば電気絶縁性の低下をも

たら。基板表面が金属あるいはシリコンなどの場合には空気中の酸素や水蒸気と反応

して必ず薄い自然酸化膜ができるが、これも好ましくない影響、例えば電気的接続不

良を与える場合がある。有機物汚染には付着した油性汚染物、プロセス中に使用した

レジストの残渣、作業者の放出する汚染物等がある。これらはデバイス特性上電気接

触不良の原因になる可能性がある。また次のプロセスで基板上に薄膜を形成する場合

には、汚染物の被覆があると作製された薄膜の基板密着強度は充分に高くできない。 表 4-1 には以上の基板汚染の分類と影響をまとめて示す。

表 4-1 基板汚染の分類

分類区分 汚染内容 影響

粒子状汚染 (パーテイクル)

ゴミ、チリ パタン欠陥 歩留低下

金属 無機物汚染

自然酸化膜

電気特性不

有機物汚染 汚れ、レジス

ト残渣、吸着 電気特性不

良、薄膜密着

性不足

表 4-2 洗浄(クリーニング)法方の分類

分類 洗浄方法 除去対象物

化学エッチング 機械的ダメージ層

酸化・還元 有機物, Si, SiO2

溶解 有機物、金属

ウェット 洗浄

超純水 残留薬品の濯ぎ

ブラシ パーテイクル 機械 洗浄 粒子噴射吹付 パーテイクル

プラズマ洗浄 Si, C, 有機物

高温水素アニール SiO2

ドライ 洗浄

Ar スパッタ 酸化物等表面層

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図 4-1 ブラシ洗浄器 (洗浄初期段階に使用。

大量の汚染物質除去、大型パーテイク除去に使う。)

4.2 各種洗浄方法 表 4-2 には汚染除去の

ための様々な洗浄方法を

まとめて示す。これらは

プロセスの様々な段階で

幾つか組み合せて使われ

る。以下にはこれらの中

の代表的な洗浄方法につ

いて説明する。 図 4-1 はブラシ洗浄を

示す。ウェーハの両面に

ブラシを押し当てて、ウ

ェーハを回転しながらブ

ラシで擦る。落されたパ

ーテイクルは脱イオン水

(de-ionized water, DI water)の流れの中で運び去られる。 図 4-2 は超音波洗浄槽

を使う液体洗浄を示す。

槽の外壁に取り付けられ

た超音波振動子のエネル

ギーが液体中を伝播して

基板上のパーテイクルを

振動させて基板表面から

脱離するのを促進する。 図 4-3 は後述するシリ

コン・ウェーハの RCA 洗

浄 の APM(ammonium hydrogen-peroxide mixture: アンモニア・過酸化水素

水混合液 )薬品水溶液中

で油性有機物に被覆され

たパーテイクルが除去さ

れる洗浄のメカニズムを

示す。最初に有機物被覆

が薬品により溶解して除

かれ、次にパーテイクル

と基板表面の間に溶液が

図 4-2 超音波洗浄槽を使う液体洗浄

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浸透してパーテイクルが表

面から脱離する。 ブラシ洗浄後のシリコ

ン・ウェーハの化学薬品に

よる洗浄はRCA洗浄と金属

成膜後洗浄(post-metal clean)の 2 種類が工業的に標準化

されており、前者はトラン

ジスタを形成するまでの工

程で使用され、後者はトラ

ジスタ間の金属配線処理工

程以後使用される。表 2-2 に示したDRAM作製プロセスでは#1 の両ウェル形成ブロックから#4 のソース・ドレイ

ン形成ブロックまでがトラジスタ形成までの工程であり、ここまではウェーハ作製プ

ロセスのフロントエンド(ウェーハ前工程:front-end of line, FEOL)と呼び、それ以降をバ

ックエンド(ウェーハ後工程:back-end of line, BEOL)と呼んで二つに区別する。RCAの名

前はこの洗浄技術を確立した会社に因むが、洗浄能力は非常に強力でSi, SiO2, Si3N4以

外の物質は溶解して除去される。BEOLの洗浄では金属配線材料を溶解せず有機汚染

物質を除去する。表 4-3 にRCA洗浄の順序と使用薬品等をまとめて示す。

表 4-3 RCA 洗浄の順序、使用薬品、除去対象物等

順序 洗浄名称 溶液組成と混合比率 温度・時間 洗浄対象物

1 SPM H2SO4/H2O2 1:1~4:1 120~150℃,10min 有機物(フォトレジスト)・金属

2 DHF H2O/HF 10:1~50:1 RT, 1min SiO2層

3 DI water H2O RT リンス

4 APM(SC-1) NH4OH/H2O2/H2O 1:1:5~0.05:1:5 80~90℃, 10min 有機物・パーテイクル

5 DI water H2O RT リンス

6 HPM(SC-2) HCl/H2O2/H2O 1:1:6 80~90℃, 10min 金属汚染

7 DI water H2O RT リンス

SPM: sulfuric-acid and hydrogen-peroxide mixture, DHF: diluted hydrofluoric acid, DI: de-ionized, APM: ammonium hydrogen-peroxide mixture, SC: standard clean, RT: room temperature

表 4-4 三種類のフォトレジスト除去法方

適用プロセス条件 使用薬品 除去化学反応

1 下層 SiO2 無機剥離液:H2SO4(70%) + H2O2(30%), 125℃ H-C + O → CO2+1/2H2

2 下層金属薄膜 有機剥離液:フェノール系、低フェノール系、非フェノール系

3 制約無し ドライエッチング(プラズマアッシャー、灰化):O2ガスプラズマ H-C + O → CO2+1/2H2

有機物被膜

図 4-3 APM の有機物・パーテイクル洗浄機構

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表 2-3 では 66 のプロセス・ステップの中でリソグラフィーは最大の 16 回行なわれ

ている。その度にフォトレジストが塗布され写真露光技術によりマスクパタンに変換

されるが、加工終了後は常にウェーハ表面から除去して次のステップに進む。フォト

レジスト除去はストリップと呼ばれるが、表 4-4 にその三種類の方式を示す。表 4-3に示す SPM のフォトレジスト除去はその後に残留分の洗浄を意味する。 表 4-3には薬品の洗浄と洗浄の間に 3回の脱イオン水によるリンスが含まれている。

リンスは薬品水溶液のウェーハ表面残留分を洗い流すための濯ぎである。脱イオン水

を使うのは通常の水には微量のNa+等のアルカリイオンが溶融しており、これはSiの

図 4-5 スプレイ式リンスの方式(洗浄水のスプ

レーと高速排水の繰返し) 図 4-4 多段槽式リンス方式(窒素泡沫で表面

薬品除去促進、高清浄度槽にウェーハを移

動して再汚染防止・洗浄水有効利用)

図 4-7 IPA 蒸気洗浄槽

図 4-6 スピンリンサー・ドライヤー (ウェーハ高速回転で水の振切り。チャー

ジアップ防止用イオン化乾燥窒素導入。)

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半導体特性に悪影響を及ぼすのからである。特に不純物混入を抑制する重要なプロセ

スでは超純水を用いる。リンスはウェーハ表面に残留する微量の薬品を除くために行

なうが、リンスをしている際にむしろ一度表面から徐供した汚染物が再付着する危険

性もあるので注意を要する。それらの抑制対策を施したリンス方式を図 4-4, 4-5 に示

す。またリンスする脱イオン水中には不溶性物質(大部分はシリカ:SiO2の微粒子)が含

まれておりウェーハ上に残った脱イオン水を蒸発させるとそれらはウェーハ表面に

残り外観上は水滴点となる。従ってリンスに用いた水は表面に残してはならない。図

4-6, 4-7 にそのための対策に使われるスピンリンサー・ドライヤーとIPA蒸気洗浄槽

(isopropyl-alcohol vapor-dryer)を示す。

図 4-8 自動レーザ・パーテイクルカウンター (a)パーテイクル検査の原理:ウェーハ上に入射する

光のパーテイクルによる散乱反射を利用、(b)レーザビームを用いた自動欠陥検査装置ブロック・

ダイヤグラム、(c)ウェーハ上のパーテイクルマップ、(d)レーザ反射光検出光学系

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4.3 パーテイクル・カウンター 図 4-8 にウェーハ表面のパーテイクルを測定する検査装置の原理、構成ブロック・

ダイヤグラム、ウェーハ上のマップ、光学系を示す。ウェーハ表面に入射したレーザ

光がパーテイクルの無い場所では鏡面反射し、ある場所では拡散反射することを利用

して、ビームを走査することによりウェーハ上のパーテイクルの存在箇所とその大き

さを自動的に検出することができる。パーテイクル以外にウェーハ上のピット、スパ

イク、クラック、スクラッチ等々の外形的欠陥も同時に検出される。検出限界は約 0.1μm である。 4.5 基板洗浄の問題 (1) 基板洗浄は何故必要か説明せよ。 (2) 基板表面に物理吸着する汚染物の種類にはどのようなものがあり、それはどのよ

うな悪影響を及ぼすか。 (3) シリコンウェーハの洗浄はFEOL(front end of line, 前工程)とBEOL(back end of line, 後工

程)では用いる洗浄液の種類が異なる。何故そうせねばならないのか説明せよ。 (4) 2 つの標準 RCA 洗浄 SC-1, SC-2 の洗浄水溶液の成分とそれによって洗浄する対象物

を述べよ。 (5) フォトレジストの除去にはどのような方式があるか。 (6) リンスは何故必要か。リンスによる汚染防止のため配慮すべきことは何か、その

ための具体的リンス方式を 2 種類説明せよ。 (7) シリコンウェーハ洗浄工程では純水でリンスした後に、表面に残った純水を直ち

に機械的に振切り、徐々に乾燥させることを避ける理由は何か。

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