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平成16年7月31日発行

1)手術室の麻酔…………………………………………………… 1

●米国における小児麻酔導入のトレンド●麻酔薬による日帰り麻酔回復状態の比較●CABG後の心房細動と卵円孔開存の関連●CABG直前の抗凝固・抗血小板療法と術後出血量●アルミトリンによる一側肺換気中の低酸素血症の治療●エフェドリンの用量依存効果に関するメタ解析●全身麻酔中の音楽療法の効果●CABG後心房細動のP波からの予測●咳トリック法による静脈穿刺痛の軽減●偶発気道確保困難症例に対するアルゴリズム対応の検証●術後予後を最適化する術前評価と管理●硬膜外フェンタニルは投与方法により作用部位が変わる

3)医学一般・基礎医学……………………………………………17

●変動型人工呼吸でAAA後の肺機能が向上する●変動型人工呼吸で無気肺が改善する●イソフルランまたはセヴォフルレン麻酔で,脳波バイコーヒーレンスは侵害刺激に敏感に反応する

●気管挿管時に下顎を前に押し出すと気管挿管の成功率が向上する

●筋弛緩薬GW280430の臨床薬理●赤血球輸血は人工呼吸器関連肺炎に関連するか●悪性中皮腫の生物学と治療法●パーキンソン病の危険因子と保護因子●血管新生を自然界で理解し,工場での製造を可能にする●慢性疼痛管理と訴訟問題の検討●医療診断用X線によるがんのリスク:世界15ヵ国の推定●薬物と記憶

2)集中治療・ペインクリニック ………………………………… 7

●非外傷急性頭蓋内出血患者の航空機搬送の成績●硬膜外出血:遠方移送のための戦略●肝外胆汁閉塞の病態生理における腸管の役割●敗血症と胆汁うっ滞●黄疸と敗血症:無視されがちな関係●ラット脳ミトコンドリアでのビリルビン代謝における敗血症,エンドトキシン血症の影響

●閉塞性黄疸において胆汁酸を補充するとエンドトキシン誘導性のTNF-αの産生に対し有効である

●ラットの閉塞性黄疸モデルにおけるバクテリアル・トランスロケーションと小腸の形態学的変化

●胆道閉塞はエンドトキシンに対する肝臓微小循環の炎症反応を悪化させる

●閉塞性黄疸はヒトでバクテリアル・トランスロケーションを助長する

●インターロイキン6は重症外傷早期で重症度評価になりうるか?

●外科的外傷患者における重症黄疸の病因および予後との関連

4)特集:家庭医の腰痛治療………………………………………23

●特集にあたって●家庭医の腰痛治療を標準ガイドラインと対比する●腰痛診療ガイドラインとくに家庭医に対して●家庭医の腰痛治療:何故ガイドラインを守れないか●腰痛治療対策:積極休養治療(ASL)の意義●慢性腰痛患者のフィットネスを図る:コントロール試験 2 年の追跡

●独立健康老人の身体活動に腰痛がどう影響するか.ABC調査と将来への展望

●腰痛の注射療法:注射薬と運動のコントロール臨床試験●関節痛・アレルギー・腰痛の有無と喫煙中断が医療費に及ぼす影響

●早期腰痛:患者の日誌をデータとするパイロット研究●腰痛患者の医療費とその要因●腰痛の効用

書籍紹介 英語を子どもに教えるな……………………13

麻酔学の古典〔42〕「Whipple:Whipple手術」…………………14

エッセイ 安全を買えるか:脳ドックの違和感………16

[コピーサービスはいたしておりません]

●発行―日産化学工業株式会社エア・ウォーター株式会社

●監修―諏訪 邦夫●監修協力―福家 伸夫、片山 勝之

●発送元―日産化学工業株式会社化学品事業本部「A. ANTENNA」係〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3丁目7-1興和一橋ビルTEL 03-3296-8031 FAX 03-3296-8360

●編集制作―株式会社 協和企画

●印刷―興和印刷株式会社

�2004

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1

●手術室の麻酔

[目的]小児の麻酔導入方法に関して調査する.1995

年に行った調査を2002年にフォローアップする.

[背景]小児のおよそ60%が,術前に不安を感じてい

る.麻酔導入時の親の同席(parental presence during

induction of anesthesia:PPIA)と鎮静薬目的の前投

薬投与は,小児の術前の不安を解消するために有用な

方法とされている.しかし,1995年に著者らが米国で

行った調査では,ほとんどの小児患者にはどちらの方

法も適用されずに手術室に連れてこられていると判明

した.今回は追跡調査.

[研究の場]大学病院麻酔科.

[対象]5,000人のASAの会員.

[方法]1)無作為に抽出したASAの会員に,メール

で質問した.

2)質問は,a.現在行っている前投薬の投与頻度と種

類,b.鎮静目的の前投薬,PPIA,PACU(麻酔後ケ

ア室)での親の同席についての意見と行う場合の実際

の方法,c.アンケート回答者の人口統計,の 3 つの

分野について行った.

3)メールは無回答バイアス式で評価した.

4)全米を 6 つのエリアに分類し,地域による格差を

検討した.

[結果]1) 3 回のメール送付に対して27%(n=1362)

の回答が得られた.

2)1995年に比較して2002年には,米国で手術を受け

た小児のうち,十分な鎮静薬による前投薬を受けてい

る小児が増加している(50% vs 30%,p=0.001).

3)1995年に比較して2002年には,小児の鎮静目的の

前投薬が全米全体で広く行われている.

4)1995年に比較して2002年には,麻酔導入への親の

同席(PPIA)を許している施設が多い.

5)1995年と同様2002年の調査でも,前投薬として使

用頻度のもっとも高い薬はミダゾラムである.

[結論] 7 年を経て米国では,小児に鎮静目的の前投

薬を使用する麻酔科医が有意に増加し,麻酔導入に親

の同席を許す麻酔科医が増加した.

(片山勝之)

[目的]麻酔方法の違いで術後の回復と合併症にどの

ような差が生じるか,従来の報告で検討する.

[背景]米国では,過去10年間に日帰り手術が急速に

増加した.低侵襲手術は,日帰り手術をさらに増加さ

せる要因となっており,より重症な患者が,より大が

かりな手術を受けることが可能になってきた.外科側

の進歩に合わせて,麻酔法も超短時間作用型のプロポ

フォールや,デスフルレン,セボフルレンが導入され

ている.

[研究の場]インターネットを介したデータ検索.

[対象]1966年から2002年 6 月までのMEDLINEデー

タベース.

[方法]1)“anesthesia”をキーワードに,英語文献で

RTC調査が行われた20歳以上の日帰り手術に限定し

て検索した.

2)次に“propofol”,“isoflurane”,“sevoflurane”,

“desflurane”のうち 2 つのキーワードを組み合わせ

て検索した.

[結果]1)最終的なメタ解析には,58文献が使用され

た.

2)回復早期の状態に関して,プロポフォールとイソ

フルランに差は認められなかった.

3)プロポフォールとイソフルランに比べて,デスフ

ルレンでは早期回復の程度が大きかった.

4)イソフルランに比べて,セボフルレンでは早期回

復の程度が大きかった.

5)セボフルレンとイソフルランの比較では,帰宅準

備が整うまでの時間に若干の差( 5分間)が認められた

が,ほかの麻酔薬の間では差はなかった.

6)術後悪心嘔吐・頭痛,帰宅後の悪心嘔吐の発生率

は,イソフルランよりプロポフォールで低い.

7)プロポフォールに比べて吸入麻酔薬を用いた麻酔

後に,より多くの患者が制吐薬を必要とした.

[結論]麻酔薬の差による回復早期の状態の差は少な

く,むしろ吸入麻酔薬が好まれている.しかし,副作

用,とくに術後の悪心嘔吐の発生率はプロポフォール

で少ない.

(片山勝之)

米国における小児麻酔導入のトレンド

麻酔薬による日帰り麻酔回復状態の比較

Kain ZN,  Caldwell-Andrews AA, KrivutzaDM, Weinberg ME, Wang SM, Gaal D. Trends in thepractice of parental presence during induction of anes-thesia and the use of preoperative sedative premedica-tion in the United States, 1995 vs 2002:Results of a fol-low-up national survey.Anesth Analg, 2004;98:1252~1259.

Gupta A, Stierer T, Zuckerman R, Sakima N, ParkerSD, Fleisher LA. Comparison of recovery profile afterambulatory anesthesia with propofol, isoflurane, sevoflu-rane and desflurane:a systematic review.Anesth Analg, 2004;98:632~641.

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2

●手術室の麻酔

[目的]卵円孔開存(PFO)や心房瘤が術後心房細動の

発生危険因子となるかどうかを検討する.

[背景]冠動脈バイパス後の心房細動(AF)の発生頻度

は10~30%であり,一度発生するとICU利用率が高く

なり,病院滞在期間が長くなり,結果的にそれだけ治

療費用増加に繋がる.術後AFの発生を予測する因子

としては,高齢,男性,うっ血性心不全,AFの既往

歴,肺静脈ベント,上下大静脈脱血,長時間クロスク

ランプ時間などが指摘されてきた.しかし,人工心肺

使用の有無にかかわらず,AFの発生頻度が変わらな

いとも報告され,自律神経系不均衡,炎症反応,心膜

周囲炎,心房虚血などの影響が示唆されている.とに

かく,術後AFの発生原因は未だ明らかではない.

[研究の場]大学病院.

[対象]CABGを受けた1008名の患者のデータベース

を検討.

[方法]1)手術日から退院までに術後心房細動が発生

したかどうかを,すべての患者で検討した.

2)ASD(PFO)の有無は,術中のTEEで診断した.

[統計]two-tailed Student’s t-test, χ2検定.

[結果]1)術後心房細動は,124名(12.3%)の患者に

発生した.

2)術後心房細動を発生した患者で有意だったのは,

高齢,術前うっ血性心不全の頻度,大動脈遮断時間が

長い,入院期間が長い,の要因だった.

3)PFOは72名(7.1%)に見られ,心房瘤は23名(2.3%)

に見られた.

4)PFOをもつ患者では,術後心房細動は14名(19.4%)

に見られた.

5)心房瘤をもつ患者では,術後心房細動は18名(34.8%)

に見られた.

6)多変量回帰解析でodds比を算出すると,PFOで

1.95,年齢で1.03,うっ血性心不全の既往歴で2.55で,

以上が術後心房細動の予測因子であった.

[結論]PFOの存在はCABG後の心房細動発生に関与

する.この所見から,さらに前向き研究のアプローチ

を使った検討が必要である.

(片山勝之)

[目的]CABG手術前の抗血小板療法や抗凝固療法が,

術後出血に影響するかを検討する.

[背景]CABGでは術前の虚血性心事故を防ぐための

予防薬投与が必要とされ,時として出血の可能性を生

じる期間(術前 5~ 7日以内)までも抗血小板療法や

抗凝固療法を継続する.一般的に,アスピリンは 5日

前,血小板ADP受容体拮抗薬は 7 日前,clopidogrel

とチクロピジンは10~14日前,低分子ヘパリンは12時

間前に中止するよう勧められている.

[研究の場]大学病院麻酔科.

[統計]前向き検討,Newman-Keuls test, χ2検定,

Pearson相関分析.

[対象]CABG患者93名を無作為に抽出した.ただし

術中,術後にあまりに多量の血液製剤の補充を必要と

した患者は検討から除外した.

[方法]1)執刀前に患者から採血を行った.

2)術前治療の内容から,対象患者を次の 3 群に分類

した.(1)術前 1週間以内には何も投与がなかった群,

(2)血小板のアデノシン2リン酸(ADP)受容体拮抗薬

を投与されていた群,(3)ADP受容体拮抗薬+ヘパ

リン点滴を受けていた群.

3)低分子ヘパリンを投与されていた患者は,術前12

時間前に投与を中止した.

[結果]1)術後24時間の胸腔ドレナージ量は,ADP

拮抗剤単独投与群で他 2群より有意に多かった.

2)ADP拮抗薬とヘパリン点滴の併用は,ADP拮抗薬

単独投与による出血量増加を抑制した.

3)執刀前および術後のフィブリノーゲン濃度は,ADP

拮抗薬+ヘパリン点滴併用群でもっとも高かった.

4)すべてのグループで,術後のフィブリノーゲン濃

度は,術前のフィブリノーゲン濃度に強く依存した.

[結論]ADP拮抗薬にヘパリン点滴を加えることによ

り出血量が抑えられたのは,凝固因子が温存されたこ

とによる.このことは,併用療法でフィブリノーゲン

濃度が高く保たれたことでも証明された.

[解説者注]抗血小板薬が術前に切られていなかった

ら,かまわずヘパリン持続点滴を開始した方が出血量

が減るというのが驚きである.今回のデータと理屈か

ら支持できるが,対象症例数を増やして検証し直す必

要もあるかもしれない.

(片山勝之)

CABG後の心房細動と卵円孔開存の関連

Djaiani G, Phillips-Bute B, Podgoreanu M, Messier RH,Mathew JP, Clements F, Newman MF. The association ofpatent foramen ovale and atrial fibrillation after coronaryartery bypass graft surgery. Anesth Analg, 2004;98:585~589.

CABG直前の抗凝固・抗血小板療法と術後出血量

Pothula S, Sanchala VT, Nagappala B, Inchiosa, Jr.MA. The effect of preoperative antiplatelet/anticoagu-lant prophylaxis on postoperative blood loss in cardiacsurgery.Anesth Analg, 2004;98:4~10.

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●手術室の麻酔

[目的]一側肺換気中の低酸素に対する治療として,アルミトリンの効果を検討する.[背景]一側肺換気中の低酸素血症は,側臥位では 6~11%,仰臥位ではほぼ全症例で発生すると報告されている.これに対して,換気側肺の血管を拡張させる狙いでNO吸入やPGE1の吸入などが実験的に行われてきた.血管収縮薬のアルミトリンは低酸素性血管収縮を増強し,一側肺換気中の肺内シャントを減少させる可能性がある.[研究の場]一般病院麻酔科.[統計]前向き無作為二重盲検検討.[対象]肺切除あるいは肺葉切除予定の28名の患者.18~70歳,ASAⅠ~Ⅲ,非換気側肺血流が45~55%,肺動脈圧<40,虚血性心疾患がない,正常肝機能,術前血管作動薬未使用など.[方法]1)プロポフォール,スフェンタニル,アトラクリウムで麻酔を施行.分離肺換気はダブルルーメンチューブで行われた.2)心係数を測定するため経食道ドップラープローブを挿入した.3)一側肺換気中FiO2 0.6で,SpO2が95%以下になった場合,患者は検討対象に組み込まれた.4)SpO2が90%に達するまでプラセボあるいはアルミ

トリンを点滴投与した.アルミトリンは当初10分間12μg/kg/分負荷した後,4μg/kg/分で持続投与した.SpO2が90%以下になった場合は,本検討から除かれた.[結果]1)28名中18名を検討対象とし,うち 9名がアルミトリン投与群, 9名がプラセボ群となった.2)アルミトリン群のうち 1 名が検討から除かれ,プラセボ群のうち 6名が除かれた.3)アルミトリン群では 8 名が一側肺換気中もSpO295%以上に保たれ治療に成功した.プラセボ群で95%以上に保たれた症例は,わずか 1例であった.4)心拍数,動脈圧,心拍出量は本検討中変化がなかったが,大動脈血流が適切に得られたのは半数の症例に過ぎなかった.[結論]アルミトリンは一側肺換気中の低酸素血症の治療に有効であった.[監修者注]やり方や患者にもよるだろうが,対照群のSpO2が低すぎる印象を受ける.

(片山勝之)

[目的]帝王切開の脊椎麻酔で,低血圧を防止するた

めの静注エフェドリンの効果の容量依存性を,文献か

ら検討する.

[背景]著者らはこれまでにもメタ分析の手法を用い

て帝王切開脊椎麻酔時のエフェドリンの効果を検討し

てきた.

[研究の場]大学病院麻酔科.

[統計]dose-response meta-analysis, Mantel-exten-

sion, χ2検定.

[対象]以下のデータベースから無作為対照研究

(RCT)あるいは,コホート検討が行われた文献を調

査した(MEDLINE, EMBASE, the Cochrane Central

Register of Controlled Trials,印刷された論文の参考

文献).

[方法と結果]1)対象とした文献では,エフェドリン

投与量は 2種類以上用いられていた.

2)RTCが 4 つ,コホート検討が 1 つあって,本調査

の対象となり,合計n=390となった.

3)RTCでの低血圧患者群では,エフェドリンの治療

効果に明らかな容量依存性昇圧効果が認められた.コ

ホート検討においても,低血圧の危険性が容量依存性

に減少した.

4)RTCでは,エフェドリン投与により高血圧になっ

た場合も明らかな容量依存性が認められた.しかしコ

ホート検討では,エフェドリン投与量が増しても高血

圧の危険性は増加しなかった.

5)RTCでは,エフェドリン投与量による胎児臍帯血

pHの低下に関しても明らかな容量依存性が認められ

た.しかし,コホート検討では相関が認められなかっ

た.

6)エフェドリンの低血圧予防効果は少なかった.

7)エフェドリン14mgで,NNTT(number needed to

treat)値はわずか7.6(95%信頼限界,4.8-21.1)で,

NNTH(number needed to harm)値と同等であった.

8)投与量がこのレベルを超えると,高血圧を起こす

確率が低血圧を予防する効果より高くなり,臍帯血の

pHも若干低下した.

[結論]予防的なエフェドリン投与は勧められない.

少量投与では効果が不足するが,大量投与では高血圧

の発生頻度も高く,低血圧防止の目的を逸脱する.

(片山勝之)

アルミトリンによる一側肺換気中の低酸素血症の治療

エフェドリンの用量依存効果に関するメタ解析

Dalibon N, Moutafis M, Liu N, Law-Koune JD, MonselS, Fischler M. Treatment of hypoxemia during one-lungventilation using intravenous almitrine.Anesth Analg, 2004;98:590~594.

Lee A, Kee WDN, Gin T. A dose-response meta-analy-sis of prophylactic in travenous ephedrine for the pre-vention of hypotension during spinal anesthesia for elec-tive Cesarean delivery. Anesth Analg, 2004;98:483~490.

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●手術室の麻酔

[目的]全身麻酔中に音楽を聴かせて,手術ストレス

に対する神経ホルモンへの影響を,エピネフリン,ノ

ルエピネフリン,コルチゾール,ACTHの血中濃度

を測定して評価する.

[背景]いろいろな薬物療法が,周術期のストレスホ

ルモンの放出を抑制する.音楽と治療上の助言を聞く

ことも効果があると研究されてきたが,大抵の場合は

覚醒患者を対象とした検討で,術後回復期に鎮痛薬の

必要量減量が期待できる.

[研究の場]大学病院手術室.

[対象]全身麻酔で開腹婦人科手術を受ける女性患者

30名.

[方法]1)対象患者を無作為にNM(no music)群とM

(music)群の 2 群に振り分けた.M群では麻酔導入後

から手術終了まであらかじめ患者に選ばせた音楽をヘ

ッドフォンから聴かせた.NM群もヘッドフォンをか

けたが,何も聴かせなかった.

2)ホルモンレベルを測定するために術中 3 回,回復

室で 1回採血した.

3)血行動態は持続的に測定された.

4)術後24時間以内のモルヒネ消費量も記録した.

[結果]1)術中から術後にかけて,血圧,心拍数,イ

ソフルレン呼気終末濃度,手術の行われた時間帯,

BIS値,フェンタニル投与量,術後モルヒネ消費量に

関しては両群で差はなかった.

2)ノルエピネフリン,エピネフリン,コルチゾール,

ACTHに関しても両群に差は認められなかった.

3)どちらの群でも外科侵襲により,これらのホルモ

ンレベルは著明に上昇した.

[結論]全身麻酔中の音楽聴取は術中の手術侵襲スト

レスに対する際だった効果はなかった.

[解説者注]周術期の音楽療法については,たくさん

の報告がある.Nilsson Uや土屋らは,全身麻酔中に

音楽を聴かせた方が鎮痛効果が高いと報告している

(Anaesthesia. 2003;58(7):699~703, Acta Anaes-

thesiol Scand. 2003;47(8):939~943.).この結果の

差はどこから来ているのだろう?

[監修者注]患者の種類,手術の種類と巧拙,音楽の

種類,麻酔の方法とレベル,評価に使うパラメーター

など,関与する因子がいろいろありそうだ.

(片山勝之)

[目的]p波の性状から推定される心房の電気生理現

象に外科手術が与える影響を調査し,p波の性状解析

で術後AF発生を予測できるか検討する.

[背景]CABG術後の心房細動(AF)は,死亡率を 2 倍

にし,脳梗塞や他の塞栓性疾患の原因となる.心臓血管

手術の術後に10~50%に併発し,入院期間を延長し,治

療費用を増す.CABG術後のAFの発生機序に関しては,

詳しくわかっていないが,老人の心臓ではSA nodeや

心筋の繊維化が伝導系に影響を与えてAFを誘発するこ

とが指摘されている.加えて,老人では不応期間分散

が増加し,これらがAFの原因になると考えられている.

[研究の場]大学病院.

[対象と方法]1)予定CABG手術を受ける患者を,入

院から退院までテレメーター式心電図で持続的モニター

した.

2)P波持続時間,大きさ,軸,PR間隔,分節性ST低

下,P波長分散などのP波の性質の差を,手術前後の

12誘導心電図で比較した.術後心房細動を発症した患

者と発症しなかった患者で,12誘導心電図を比較した.

3)術後AF発生に関与する因子,臨床的な発症予測因

子,P波の性質を多変量解析で検討した.

[結果]1)術後AFは,300名中81名(27%)に発生した.

2)単因子解析でAF発症に有意差のあったのは,患者

年齢で高齢(平均68±8 vs 63±10歳),体表面積が大

(2.03±0.24 vs 1.92±0.22m2),AFの既往あり(8/81 vs

1/219, p=0.003),術前抗不整脈薬の使用頻度(7/81

vs 4/219, p=0.01),再開胸の頻度(9/81 vs 9/219, p=

0.029)であった.

3)術後P波の持続時間の減少率は大きく(平均変化時

間-11.3±0.1ms vs -8.4±0.1ms, p<0.0001),P波長

分散は術後大きな範囲に広がった(3.1±15.5 vs -1.6±

14.6ms, p=0.028).

4)多変量解析では,加齢(odds ratio[OR]=1.1, 95%

信頼限界[CI]:1.06-1.15, p<0.0001),体表面積(OR

38.1, 95% CI:8.2-176, p<0.0001),術後のP波長分散

増大(OR 1.03, 95% CI:1.01-1.05, p=0.01)は,術後

AFの独立予測因子であった.AF発生に関与する外科

的因子は同定できなかった.

[結論]加齢,体表面積,術後のP波長分散の増大が

CABG後のAF発生の予測因子である.

(片山勝之)

全身麻酔中の音楽療法の効果

Migneault B, Girard F, Albert C, Chouinard P,Boudreault D, Provencher D, Todorov A, Ruel M,GirardDC. The effect of music on the neurohormonal stressresponse to surgery under general anesthesia. Anesth Analg, 2004;98:527~532.

CABG後心房細動のP波からの予測

Chandy J, Nakai T, Lee RJ, Bellows WH, Dzankic S,Leung JM. Increases in P-wave dispersion predict post-operative atrial fibrillation after coronary artery bypassgraft surgery.Anesth Analg, 2004;98:303~310.

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●手術室の麻酔

[目的]CT(咳トリック法:Cough Trick)法が静脈穿

刺時の痛みを効果的に軽減できるかを検討する.

[背景]静脈穿刺時の痛みを軽減するためにさまざま

な方法が試みられている.伝統的な中国医学では指示

に基づいた吸気時と呼気時に鍼治療の針を刺入したり

抜去することが行われてきた.呼吸法によって気を抜

いたり気をこめたりすることになるが,その際に行わ

れる針の穿刺・抜去の痛みはほとんど感じられない.

著者らはこの呼吸法の代わりに,局所麻酔薬も用いず,

咳をさせると同時に静脈穿刺をする方法を考案し,こ

の方法をCough Trick(CT「咳トリック法」)と名付け

た.

[研究の場]大学病院.

[統計]前向き,無作為,交叉ボランティア検討.

[対象]20名の健康ボランティア(20~40歳の男性).

[方法]1) 3週間の間隔をおいて同時間帯に同側の手

背静脈に 2回静脈穿刺を行った.

2)10名は 1回目はCT法を併用し, 2回目は併用せず

に施行し,残りの10名は 1回目は併用せず, 2回目に

CT法を併用した.

3)CT法は腕を動かさないように中等度の咳をさせた

直後に20Gインサイトを穿刺した.

4)Visual Analogue Scale 100 mmを用いた穿刺痛の

強さ,手の引っ込め具合,手掌の発汗状態,血圧,心

拍数,血糖値を記録した.

[結果]1)CT法を併用した場合,併用しない場合に

比べて,19名で静脈穿刺の痛みの強さが少なかった.

2)VASの平均値は, 1 群では34 vs 47,他群でも31

vs 46で,いずれもCT法併用群で小さかった.

3)手の引っ込め具合,手掌の発汗状態,血糖値は実

験中変化がなかった.血圧と心拍数に関しても有意差

はなかった.

[結論]CT法は簡単に行うことができ,静脈穿刺に利

用できる鎮痛法だが,その機序は明らかではない.

[解説者注]同様の論文がいくつか見られ,その中で

はgate control theoryを適用したり,あるいは咳によ

る高血圧が痛みを緩和するという機序で説明してい

る.

(片山勝之)

[目的]予期せずに遭遇した気道確保困難症例に対し

て,あらかじめ設定したアルゴリズムが有効に働くか

どうかを前向きに検討する.

[背景]麻酔中の患者の安全確保にとるべき管理戦略

を,あらかじめ準備しておくことはきわめてむずかし

い.

[研究の場]大学病院.

[対象]41名の麻酔科医.

[方法]1) 2 ヵ月間の気道確保トレーニングの後に,

麻酔医は予期せぬ気道確保困難症例の管理にあらかじ

め設定したアルゴリズムに沿って対処するように求め

られた.

2)「挿管不能」と「換気不能」の 2 つの異なるシナリオ

が用意された.

3)喉頭鏡補助の気管内挿管不能症例の場合,第一段

階としてガムエラスティックブジー,第二段階として

挿管用ラリンゲルマスクを用いることとした.

4)換気不能または換気困難の場合は,挿管用ラリン

ゲルマスクが推奨され,次の選択枝として経皮経気管

ジェット換気が設定された.

5)患者データの詳細,アルゴリズム固守率,気道確

保処置の有効性,合併症について記録した.

[結果]1)18ヵ月間,換気不能症例は生じなかった.

2)11,257件の挿管件数のうち,予期せぬ挿管困難症

例が100件記録された.

3) 3 症例では,アルゴリズムから離れた処置がなさ

れた.うち 2症例は,ほかの挿管手技を試行せずに覚

醒させられた.

4)ほかのすべての患者で,フェイスマスク(95例中89

例)あるいは挿管用ラリンゲルマスク(95例中6例)で,

換気することができた.

5) 6 件の換気困難症例では,挿管の第一ステップを

終える前に挿管用ラリンゲルマスクを適用した.

6)80名の患者はガムエラスティックブジーで,13名

は挿管用ラリンゲルマスクを用いて盲目的に挿管でき

たが, 2名は換気はできても挿管はできなかった.

[結論]予期せぬ挿管困難症例に対して,あらかじめ

設定したアルゴリズムに従ったガムエラスティックブ

ジーと挿管用ラリンゲルマスクの使用は有用であっ

た.

(片山勝之)

咳トリック法による静脈穿刺痛の軽減

偶発気道確保困難症例に対するアルゴリズム対応の検証

Usichenko TI, Pavlovic D, Foellner S, Wendt M.Reducing venipuncture pain by a cough trick:a ran-domized crossover volunteer study.Anesth Analg, 2004;98:343~345.

Combes X, Le Roux B, Suen P, Dumerat M, MotamedC, Sauvat S, Duvaldestin P, Dhonneur G. Unanticipateddifficult airway in anesthetized patients:prospectivevalidation of a management algorithm. Anesthesiology, 2004;100:1146~1150.

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6

●手術室の麻酔

[目的]術後に合併症が顕在化して治療が必要となり

そうなハイリスク患者の術前評価,管理方法,治療計

画の要点のレビューを行う.

[背景]CCM誌の術前管理特集号の巻頭論文レビュー.

このほかに肥満,老人,肝疾患,糖尿病,虚血性心疾

患,呼吸器疾患,Ca異常,ペースメーカー・ICD植え

込み患者,精神疾患,大血管疾患,気道管理などを取

り上げている.

[対象と方法]Index Medicusに発表された最近のレ

ビュー論文を検討.

[結果]1)術前評価とその管理は病院内から病院外へ

と大きく移行し,術前管理をコーディネートするため

の新しい流れとなっている.

2)現在,米国ではPATC(pre-admission testing cen-

ter)が注目されている.PATCのスタッフは,通常麻

酔医の指示で術前患者に対して,必要な術前評価と必

要な検査情報収集を調整して行う.

3)この評価には,患者の病歴と一般診察所見はもちろ

ん,麻酔や手術に関連する特殊問題の検討も含まれる.

4)費用の節約という点から,無駄な検査を行わず,

手術予定をキャンセルすることがなく有効である.

5)麻酔医の術前診察は,気道や呼吸循環疾患を中心

に行われる傾向にあるが,ここではほかの臓器に関し

ても十分な検討が行われる.

6)術前訪問は,スクリーニングの血液生化学検査で

はない,的を絞った検査をオーダーする機会であり,

周術期の投薬を持続するか,中止するか,開始するか

を慎重に検討する機会ともなる.これは高血圧のよう

な異常の正常化に有用で,もし必要なら,より重症な

合併症をもつ患者の術前状態の最適化を開始する.

[結論]目標は,高価な集中治療のリソースを枯渇さ

せずに安全で効果的治療を提供することである.

[解説者注]各合併症に沿った成人の推奨術前検査一

覧表や,臓器障害を起こす可能性をもつハーブ一覧表

などが示されて有用.日本では,ここで紹介されてい

るPATCのスタッフ以上の役割を果たしている麻酔医

も多いだろうが,独立施設として術前調整を行う意義

は大きい.麻酔医活躍のフィールドがさらに広がる可

能性が示されている.

(片山勝之)

[目的]硬膜外フェンタニルは,投与方法によって効

果発現部位が異なってくるとの仮説を検証する.

[背景]従来の報告から,硬膜外に投与したフェンタ

ニルはボーラス投与では脊髄で効果を発揮し,持続投

与では脊髄レベルより中枢で効果を発揮することが示

唆される.

[研究の場]大学病院.

[統計]無作為,二重盲検,交叉検討.

[対象]10名の健康ボランティア.

[方法]1)腰部硬膜外腔に日を変えて,フェンタニル

をボーラス投与または持続投与した.ボーラスでは,

フェンタニル0.03mgと生食0.67mLを投与し,210分後

にフェンタニル0.1mgと生食 2 mLを投与した.持続

投与では,0.003mg/mLのフェンタニルを10mL/hrで

開始し,210分後に0.1mg/hrに増量した.

2)熱と電気による実験的痛みモデルを用いて,耐え

うる最大の熱(℃)と電流(mA)刺激値を420分間にわ

たって繰り返し測定した.

3)痛み刺激は,腰部の皮膚分節領域(L2)と頭部の皮

膚分節領域(C2)で加えた.

4)実験中,フェンタニル血漿濃度を測定した.

5)掻痒,嘔気,鎮静などの副作用と,呼吸数,心拍

数,観血的動脈圧などのバイタルサイン,血液ガス分

析の評価を行った.

[結果]1)熱と電流による痛刺激に対する反応に差は

なかった.ボーラス投与は分節性鎮痛効果(足>頭)を

示したのに対して,持続的投与は非分節性鎮痛効果

(足=頭)を示した.同じ血漿濃度では,ボーラス投与

の下肢の鎮痛効果が高かった.

2)フェンタニル血漿濃度と鎮痛効果は,持続投与で

は直線的な関係を示したが,ボーラス投与では関連が

みられなかった.

3)副作用には差がなかった.

[考察]ボーラス投与で脊髄レベルの効果が得られた

機序として,硬膜外腔とクモ膜下腔の濃度勾配が大き

い故に,クモ膜下腔へのフェンタニル移動が持続投与

より大きかったと考えられる.

[結論]以上の結果から,当初の仮説が正しいことが

示唆された.硬膜外投与のフェンタニルの効果部位に

関する従来の論争に決着を付ける説明ができたかもし

れない.

(菊地千歌)

術後予後を最適化する術前評価と管理

Halaszynski T.M, Juda R,  Silverman DG.Optimizing postoperative outcomes with efficient preop-erative assessment and management. Crit Care Med, 2004;32[Suppl. critical surgical ill-

ness:preoperative assessment and planning.]:S76~S86.

硬膜外フェンタニルは投与方法により作用部位が変わる

Ginosar Y, Edward T. Riley, and Martin S. Angst. Thesite of action of epidural fentanyl in humans:the differ-ence between infusion and bolus administration. Anesth Analg, 2003;97:1428~1438.

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●集中治療・ペインクリニック

[目的]脳血管障害患者の航空機搬送の安全性と治療

成績を検討する.

[背景]くも膜下出血(SAH)は予後不良で初期の安静

が大切と信じられてきたが,現在ではとくに動脈瘤破

裂例では早期に手術するようになったので,航空機搬

送が重要な意味をもつようになった.

[研究の場]米国ミシガン州,ミシガン州立大学の航

空救急部門.

[対象]1986~1989年間に航空機搬送した87症例の非

外傷性頭蓋内出血患者.

[方法]診療記録の後向き研究.

[測定項目]グラスゴー・コーマ・スケール(GCS),

ICU在室日数,入院日数など.

[解析]ANOVA,χ2検定ほか.

[結果]1)年齢は 2 ~83(平均47.5)歳で,脳動脈破裂

が37例,脳実質内出血が29例,AVMが10例,出血部

位不明が11例である.

2)搬送前後でGCSが判定された69例でみると,88%

の患者は搬送中に変化がなく,改善した患者と悪化し

た患者が同程度存在する.

3)59例が手術となり,そのうち36例は到着後24時間

以内に手術が施行されている.

4)平均ICU在室は14日,平均入院日数は36日である.

5)死亡率は25%である.

6)GCS 3 ~8 点の患者は入院日数も死亡率も高い

(注:GCSは, 3 ~15の分布で, 3 はまったく何の反

応も示さない最低点).

7)発症後 8 時間以内に搬送された患者は総じてGCS

が低いが,遅れて搬送された患者群と較べて成績には

有意の差はない.

[結論]頭蓋内出血患者の航空機搬送は安全かつ有効

で,確定診断と治療の早期化に貢献する.

(関口 雅)

[目的]南オーストラリア州(SA)の非都市部における

頭部外傷患者の予後の改善.

[背景]1)SA(南オーストラリア州)は98.4万km2(日

本の2.7倍)に130万人の人口だが,その69%は州都の

アデレードにおり,非都市部の人口密度はきわめて低

い.しかし全頭部外傷症例の40%は地方で発生し,そ

の死亡率も都市部より高い.

2)つい最近まで非都市部にCTを備えた病院はなく,

脳神経外科がある病院もアデレードだけである.

[対象]1979~85年の間にアデレード市内の 4 つの病

院で治療された急性硬膜外血腫(EDH)の109例.これ

は同期間にSAで発生したEDHをほぼ完全に網羅して

いる.

[方法]診療記録の後ろ向き検討.

[結果]1)非都市での発生は35例ある.患者のうち男

性が78%で,10~20代が多い.

2)アデレードから700km以上離れている場所での

EDHが 5 例,200~700kmが16例ある.

3)非都市での死亡者数は 8 名(死亡率22.9%)である.

統計的に有意差はないが,非都市での患者で明らかに

危険度が高い.

4)非都市では多発性血腫(複数のEDH,脳内,硬膜

下)が多く,非都市の高死亡率に影響した.

5) 6 例は地方で最初の手術を受けたが,手術時期や

有効性で見ると妥当なのは 2 例のみで,それ以外は死

亡したか,アデレードで再手術した.

6)急激に神経症状が悪化したためグリセオールを投

与しながら緊急搬送した症例は 4 例あるが,高齢女性

の 1 例のみが死亡した.搬送距離は75,135,350,そ

して640kmである.

7)200km圏内は自動車搬送で,それ以上は航空機を

使用し,ヘリコプターは使用していない.12例が搬送

中に集中治療を要した.

[結論]1)CTの普及は治療成績を向上しつつある.

2)電話,無線などでの専門医との交信により,地方

でも最高レベルの医療を提供できると考える.

3)アデレードまで 1 ~ 2 時間の距離なら浸透圧利尿

薬で時間稼ぎしながら,専門施設に搬送する.

4)それ以上の距離なら穿頭して血腫除去をしながら,

専門医チームの到着を待つ.

5)100~200km圏はヘリコプターが適応であろう.

(福家伸夫)

非外傷急性頭蓋内出血患者の航空機搬送の成績

硬膜外出血:遠方移送のための戦略

Siebergleit R, Burney RE, Draper J et al:Outcome ofpatients after air transport for management of acuteintracranial bleeding.

Prehospital Disaster Med, 1994;9:252~256.

Simpson DA, Heyworth JS, McLean AJ et al:Extradural haemorrhage:Strategies for management inremote places.

Injury 1988;19:307~312.

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●集中治療・ペインクリニック

[目的]胆汁閉塞および胆汁瘻がバクテリアル・トラ

ンスロケーション(BT)に及ぼす影響の研究.

[背景]1)黄疸患者の手術では,グラム陰性桿菌

(GNR)による敗血症が重要な死因である.

2)GNRは大腸内細菌叢に由来し,エンドトキキシン

(ETX)血症に関係する.

3)胆汁塩の乳状化力は,局所環境の恒常性維持に大

きな役割を持っている.

4)肝外胆汁閉塞は機械的な閉塞と,胆汁圧上昇によ

る機能的なものに分類される.

[研究の場]動物実験室.

[対象]雄性成獣のWister系ラット.

[方法]1)対照群,偽手術(Sham)群,胆道結紮

(BDL)群,総胆管膀胱瘻(CDVF)群の 4 群であるが,

Sham群とBDL群はそれぞれ 1 週間と 3 週間があるの

で,合計で 6 群構成となる.なおCDVFの期間は 1 週

間である.

2)最後に血清ETXの測定(ELISA法)と,腸管膜リン

パ節(MLNC),肝臓,肺,脾臓の各部位で細菌の検出

を試みる.

3)盲腸,結腸,回腸終末で細菌の定性,定量的検索

を行う.

[測定項目]所定の場所での細菌培養.ETX測定.

[解析]非線型解析.

[結果]1)BDL 1 群,BDL 3 群(胆道結紮の 1 週と 3

週)はともにほかのいずれの群よりも,有意にBTが増

す.菌種では大腸菌が最多.

2)BDL 1 群のBTが腸管膜リンパ節に限局するのに

対し,BDL 3 群では広範囲に拡大していた.

3)ETX高値が見られたのはBDL 3 群だけである.

4)盲腸内菌量はBDL 1 群と総胆管膀胱瘻(CDVF)群

が,sham群,BDL 3 群よりも有意に増えているが,

BDL 1 群,BDL 3 群ではともに菌種が変化している.

つまり細菌叢の質的破壊が生じている.

[結論]1)胆道閉塞はバクテリアル・トランスロケー

ション(BT)を促進するが, 1 週間と 3 週間では機序

が異なるようだ.

2) 1 週間では胆汁が管腔内に無いことでグラム陰性

好気菌群が増加し,それがBTの要因になっていると

推測される.

3) 3 週間では腸管のバリア破壊などの免疫機能の低

下がBTの原因なっていると推測される.

(福家伸夫)

[目的]敗血症に伴う胆汁うっ滞に関する総説.

[背景]1)胆汁うっ滞は肝外細菌感染症の合併症とし

てよく知られている.

2)起因菌の大部分はグラム陰性桿菌で,細胞壁のリポ多糖類であるエンドトキシン(ETX)がTNF-α,IL-1,

IL-6などの炎症性サイトカインを誘導し,それらが胆

汁うっ滞を引き起こすとされる.近年の研究でも

ETX血症と,それに伴うサイトカインの放出に焦点

がおかれている.

3)教科書的な敗血症の所見がないのに,明らかな

ETX血症が認められる報告もある.たとえば,アル

コール性肝障害患者でETX血症を認めた,完全静脈

栄養の患者の肝障害が抗菌薬の投与によって改善,ま

たは予防できたというものだ.

4)誘導されたサイトカインの放出がさまざまな肝障

害を起こす原因となっているかもしれない.

5)敗血症に伴う胆汁うっ帯の病態生理学の理解を深

めるとほかの種類の肝障害の原因を見つける手かがり

が得られるかもしれない.

[方法]これまでの研究成果から解説する.

[結果]1)ETXやそれに誘導されたサイトカインは,

肝細胞での胆汁流量の低下を起こし,細胞膜レベルで

イオン交換チャンネルを阻害し,胆汁酸輸送を妨げる.

2)また,酸素フリーラジカルを生じ肝細胞障害を起

こす.さらにETXが輸送mRNAの遺伝子表現型式に

関与しているとされ,研究が進んでいる.

3)血液培養陽性患者100名を検討した.54%で総ビリ

ルビン値(以下ビ値)の上昇を認めたが,その上昇度は

ALP,ASTの上昇度と比例しておらず,ビ値のみ上

昇している例もあった.

4)肝胆道系疾患を持つ患者のビ値は平均8.2mg/dLと

高値であった.この報告での致死率は61%で,遷延あ

るいは増悪する高ビ血症患者の致死率はほぼ100%で

あった.

5)肝疾患のない患者のみを対象にした別の報告では,

ビ値上昇を認めたのは対象の 6 %に過ぎず,さらに高

ビ血症よりもAST,ALT,ALPの上昇の頻度が高か

った.致死率もずっと低かった.この差は,患者グル

ープの選択による違いと考えられる.

(志村福子)

肝外胆汁閉塞の病態生理における腸管の役割

Clements WDB, Parks R, Erwin P et al:PRole of the gutin the pathophysiology of extrahepatic biliary obstruction.

Gut, 1996;39:587~593.

敗血症と胆汁うっ滞

Morseley RH:Sepsis and cholestasis.Clin Liver Dis, 1999;3:465~475.

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●集中治療・ペインクリニック

[目的]敗血症と黄疸の関係に注意を喚起する.

[背景]敗血症の症状を見過ごすと,診断や治療の遅

れにつながる.黄疸が敗血症の経過中に起こる場合,

全身状態が悪化して死につながることも少なくない.

しかし,敗血症に黄疸が出現するという症例報告は少

ない.黄色ブドウ球菌による菌血症の進行中に,抱合

型ビリルビン高値による黄疸が出現した症例を報告す

る.

[症例]57歳男性.12日前より黄疸と弛張熱(注:日差

が 1 ℃を超え,最低でも正常より高い)が出現.既往

歴として 7 年前に右股関節置換術を受けている.酒は

飲まず,市販薬を含め肝毒性薬物使用歴はなく,また

肝炎ウィルスも陰性である.

意識良好で,慢性肝疾患を示唆する皮膚所見はない.

体温38.1℃,脈拍数125/分,呼吸数22/分,血圧

115/80mmHg.右股関節周囲に発赤と動作時の疼痛

がある.

血液検査(基準値)では,AST 46(10~36),ALT 35

( 6 ~40),γ-GTP 409( 7 ~49),ALP 154(91~258),

T-Bil 5.8(0.3~0.8),D-Bil 3.6(0.1~0.4),白血球

13,600(内,好中球88%),血小板7.8万.凝固検査,尿

検査に異常はない.血沈110mm/時,肝炎性・代謝

性・自己免疫性の肝障害の所見はない.G6PDHに異

常はない.クームズテスト陰性.

胸部XPで右下葉に硬化像あり.心・腹部エコーは

異常なし.腹部CTは異常なし.骨盤・股関節CTで,

右股関節置換部の膿瘍を認める.

膿瘍をドレナージし抗菌薬の投与を開始すると,血

液検査の異常値は改善した.複数の検体から黄色ブド

ウ球菌が検出されたが,入院後 3 日目には細菌検査は

陰性となり,胸部XPの硬化像も消失した. 3 ヵ月後

には異常を認めず退院となった.

[考察]1)特徴的な所見なしに股関節部の膿瘍から敗

血症が進行していた例である.

2)敗血症の経過中に黄疸を併発するのは珍しくない

が,早期にかつほかの症状を伴わないで黄疸だけが出

現する例はごく稀である.

3)肝酵素・ビリルビンともに軽度の上昇であるが,

この段階で敗血症との関係に気づかないと,診断・治

療が遅れ多臓器不全になる危険性がある.

[結論]臨床医は敗血症の症状として黄疸があること

を忘れてはならない.

(長谷洋和)

[目的]敗血症ないしエンドトキシン(ETX)血症が,

脳のミトコンドリアにおけるビリルビン酸化を抑制す

るという仮説を証明する.

[背景]1)感染症があると新生児のビリルビン脳症の

危険性が高くなると,従来信じられてきた.

2)ビリルビン脳症の発生機序の詳細は不明だが,脳

内への流入の増加とクリアランスの低下が基本機序と

考えられ,以下の3)~7)の事実が検証されている.

3)アルブミンのビリルビン結合能低下と呼吸性アシ

ドーシス時の脳血流の増加で,ビリルビンの脳内への

流入が増す.

4)高浸透圧は血管脳関門の破綻を招き,ビリルビン

のクリアランスを低下させる.

5)脳内では,主にグリア細胞においてビリルビンの

酸化が行われており,クリアランスの一部を分担して

いる.

6)敗血症・ETX血症で,脳内へのビリルビン流入を

増す事実はない.

7)敗血症・ETX血症が血液脳関門に作用してクリア

ランスを遅滞させることはない.

[研究の場]動物実験室.

[対象]雄性Sprague-Dawley系ラット成獣.

[方法]1)病原体を持たないラットを 3 群に分けた.

2)敗血症群(n=20)にはListeria monocytogenesを腹

腔内に与え,ETX血症群(n=12)には20mg/kgの大腸

菌由来LPSを同様に与えた.予備実験よりこれで48時

間後の生存率は50%と予想される.対照群(n=11)に

はETXの溶媒を与えた.

3)48時間後に絶命せしめ組織を摘出し,必要な検査

を行う.ミトコンドリアは遠心分離で確保する.

4)ビリルビン酸化能は光学濃度法で測定した.

[解析]t-検定.

[結果]1)敗血症群の死亡率は55%,ETX群の死亡

率は60%であった.

2) 3 群間でビリルビン酸化の程度に差はなかった.

[結論]敗血症・ETX血症は脳のミトコンドリアにお

けるビリルビン酸化を抑制しない.仮説の証明には失

敗した.

[解説者注]「ビリルビン酸化」をまず見るべきで,死

亡率云々は早計だったと結果からいえる.

(福家伸夫)

黄疸と敗血症:無視されがちな関係

ラット脳ミトコンドリアでのビリルビン代謝における敗血症,エンドトキシン血症の影響

Famularo G, De Simone C, Nicotra GC:Jaundice andthe sepsis syndrome:a neglected link.

Eur J Intern Med, 2003;14:269~271.

Allen JW, Tommarello S, Carcillo J et al:Effects ofendotoxemia and sepsis on bilirubin oxidation by ratbrain mitochondrial membranes.

Biol Neonate, 1998;73:340~345.

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●集中治療・ペインクリニック

[目的]次の 2 つの仮説を証明する.

1)閉塞性黄疸では,エンドトキシン(ETX)によって腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の産生が増える.

2)しかし,その現象は腸管内に胆汁酸を補充してや

ることで抑制できる.

[背景]1)閉塞性黄疸では敗血症により死亡する例が

多い.

2)腸管内に胆汁がないと腸内細菌が過剰に増殖して

体内へのETX移行が促進され,肝内マクロファージ

(クッパー細胞)の機能が変化すると理解されている.3)ETXはマクロファージを刺激してTNF-αを産生さ

せる.

4)肝臓は炎症カスケードの維持に重要な位置を占め

ている.

[研究の場]動物実験室.

[対象]雄性Sprague-Dawley系ラット成獣.

[方法]1)無作為に 3 群(各12頭)を構成する.すなわ

ち胆管を結紮切離して経口で胆汁酸を補充する群

(G1),胆管を結紮切離して経口で生理食塩水を与え

る群(G2),偽手術の対照群(G3)である.

2)48時間後に大腸菌由来のETXを静注して90分間経

過を観察し,それから絶命せしめて検体を採取する.[測定項目]血清中,肝臓,肺組織のTNF-α.TNF-αの測定はELISA法を用いる.

[解析]Mann-Whitney法.

[結果]1)G2(経口で生理食塩水を与える群)はG3(偽

手術の対照群)に比較して,血清中でも肝臓・肺の組織内でも有意にTNF-αが高値である.

2)G1(胆管を結紮切離して経口で胆汁酸を補充する群)では,血清中でも肝臓・肺の組織内でもTNF-α値

は対照群と同等である.

3)したがって,胆管を結紮切離しても経口で胆汁酸を補充することによって,TNF-αの産生が抑制でき

た.[結論]1)閉塞性黄疸はETX誘発性のTNF-α産生を

増す.

2)経口的な胆汁酸補充で,この現象を抑制できる.

(福家伸夫)

[目的]ラットの閉塞性黄疸モデルを用いて,内臓へ

のバクテリアル・トランスロケーション(BT)と腸管

粘膜の形態学的変化を評価する.

[背景]閉塞性黄疸から敗血症に至る際,消化管から

のBTが関係するといわれている.

[方法]ラットを無作為に総胆管を結紮・切断したA

群と総胆管を結紮しないB群とに分けた.術後 7 日目

に腹腔内スワブ・肝臓・脾臓・膵臓・肺・腸管膜リン

パ節・盲腸・回腸末端を生検・培養した.各部位と回

腸末端とに同じ病原体が検出された場合にその部位へ

BTが生じたと判断した.アポトーシスはTUNEL法

を用いて評価した.Fisherの正確検定とStudentのt

検定を用いて解析した.

[結果]1)胆管を切断するとBTの頻度は高くなる.

2)各臓器・部位へのA群,B群のBTは,腹腔内

37.5% vs 25%,腸管膜リンパ節42.8% vs 37.5%,肝

臓71.4% vs 25%,脾臓42.8% vs 12.5%,膵臓28.6%

vs 0 %,肺14.3% vs 0 %であった(統計的有意差なし).

3)細菌叢に関して,A群の回腸においてはE. coli,Proteus mirabilis,Enterococcus fecalisが主な細菌で,

細菌数も明らかな増加がみられた(p<0.05).

4)A群の回腸末端では,上皮下浮腫,絨毛の短小化,

表皮剥離,細胞質の酸性化,核の消失,ミトコンドリ

アの腫脹といった壊死の前段階と同様の形態学的変化

が観察された.

5)A群の回腸末端以外の領域,B群では粘膜傷害等の

形態学的変化はみられなかった.

6)アポトーシスを起こしている核数は,A群の回腸

末端(10.4±2.7)がB群(3.4±1.5)より有意に多かった

(p<0.002).

[考察]1)胆道閉塞にBTの関与が示唆された.

2)AB両群ともBTを起こしていることから,腸管膜

リンパ節がBTの中継点であろう.

3)A群回腸末端で細菌の増加がみられたことより,

回腸末端よりBTが起きると思われる.

4)回腸末端での形態学的変化は,虚血再灌流傷害に

似ており,BTへの一要因であろう.

[結論]以上に述べた形態学的変化を伴う,非特異的

な傷害によって,腸管の防衛機能が壊れ,BTを起こ

していると思われる.

(永松聡一郎)

閉塞性黄疸において胆汁酸を補充するとエンドトキシン誘導性のTNF-αの産生に対し有効である

Sheen-Chen SM, Chen HS, Ho HT et al:Effects of bileacid replacement on endotoxin-induced tumor necrosisfactor-alpha production in obstructive jaundice.

World J Surg, 2002;26:448~450.

ラットの閉塞性黄疸モデルにおけるバクテリアル・トランスロケーションと小腸の形態学的変化

Sileri P, Morini S, Sica GS et al:Bacterial translocationand intestinal morphorogical findings in jaundiced rats.

Dig Dis Sci, 2002;47:929~934.

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11

●集中治療・ペインクリニック

[目的]エンドトキシン(ETX)による肝臓微小循環の

炎症反応に対する,胆道閉塞の影響を検討する.

[背景]1)胆道閉塞は大きなリスク因子であり,その

主たる機序はグラム陰性桿菌による敗血症である.

2)敗血症は全身に炎症反応を生じ,微小循環に異常

を来たすが,肝臓も例外ではない.

3)胆道閉塞により,敗血症やETX血症で出現するの

と同様の反応が,肝臓微小循環で出現することがラッ

トで確認された.

[対象]雄性Sprague-Dawley系ラット成獣.

[方法]1)総胆管を結紮切離した実験群と,偽手術の

対照群を作成する.

2) 2 週間後に大腸菌由来のETXを1,10,100mcg/kg

の用量で静注した.対照群は同量の生理食塩水を投与

した.

3)ETX投与の 2 時間後にin vivo顕微鏡を用いて,肝

臓微小循環を観察した.

4)肝臓組織を採取しHE染色の標本を作成した.

5)全身および門脈血中のETX濃度を測定した.

[測定項目]白血球の貪食能,分布,接着数,静脈様

洞内皮細胞の腫脹,血流のある静脈様洞数など.

[解析]ANOVA,Newman-Keuls.

[結果]1)胆道閉塞は白血球の静脈様洞での接着を誘

発する.

2)胆道閉塞は静脈様洞内皮細胞を腫脹させる.

3)胆道閉塞は白血球の貪食能を亢進させる.

4)胆道閉塞は血流のある静脈様洞の数が減少させる.

5)ETXは用量依存性に,胆道閉塞で誘発される白血

球の接着数を増加させ,血流のある静脈様洞数を減少

させる.

6)対照群でもETXにより白血球の接着が起こるが,

胆道閉塞のある群の方が有意に程度が強い.

7)ETXは10mcg/kg以下なら胆道閉塞群で白血球の

貪食能を亢進させるが,100mcg/kgでは抑制する.

8)ETXは胆道閉塞群では,静脈様洞内皮細胞の腫脹

に関係しない.

[結論]胆道閉塞があると少量のETXでも肝臓の組織

学的障害は増悪する.

(福家伸夫)

[目的]閉塞性黄疸の患者におけるバクテリアル・ト

ランスロケーション(BT)の発生頻度と,その臨床的

重要性について調べる.

[背景]動物実験では,胆道を閉塞するとBTが起こる

が,閉塞性黄疸の患者の術後合併症におけるBTの役

割についてはあまり知られていない.

[研究の場]病院.

[対象]閉塞性黄疸で手術を受ける患者21人(グループ

Ⅰ)と,そのほかの定時開腹手術患者30人(対照群:グ

ループⅡ).

[使用薬物]セファゾリン,セフトリアキソン,メト

ロニダゾール.

[測定項目]腹膜,回腸腸間膜リンパ節,横行結腸腸

間膜リンパ節,生検肝組織,門脈血,末梢血の細菌培

養,術後合併症,予後など.

[方法]開腹直後に前記培養用検体を採取する.いず

れか1検体でも陽性ならBTありと判定する.

[結果]1)グループⅠの 8 人が術前に胆管炎を起こし

ており,セフトリアキソンとメトロニダゾールで治療

された.ほかは全員予防的にセファゾリンが投与され

た.

2)BTはグループⅠの 5 人に起こり,グループⅡの 1

人より有意に多かった.

3)グループⅠでは 3 人が感染性合併症を起こし,そ

のうち 2 人の起炎菌はBTと同一菌種だった.残りの

1 人は,BTを起こしていなかった.BTを起こさなか

った16人中,感染性合併症を起こしたのは 1 人だった.

4)グループⅡでは 1 人が感染性合併症を起こし,菌

種はBTと一致した.

5)グループⅠの 1 人が肝切除後肝不全で,グループ

Ⅱの 1 人が肺塞栓症で死亡した.

[結論]閉塞性黄疸はヒトでBTの発生を助長する.そ

の臨床的重要性は,さらに研究を要する.

[監修者注]「バクテリアルトランスロケーション」と

は,宿主の状態変化によって,細菌が「所在位置を変

更して」病原性を発揮する現象の総称.腸内細菌は腸

内にとどまれば本来病原性はないはずだが,腸管粘膜

の性状変化,その他によって血中に入り敗血症を起こ

すのがその例.

(宇野幸彦)

胆道閉塞はエンドトキシンに対する肝臓微小循環の炎症反応を悪化させる

閉塞性黄疸はヒトでバクテリアル・トランスロケーションを助長する

Ito Y, Machen NW, Urbaschek R et al:Biliary obstruc-tion exacerbates the hepatic microvascular inflammatoryresponse to endotoxin.

Shock, 14;2000:599~604.

Kuzu MA, Kale IT, Tekeli A et al:ObstructiveJaundice Promotes Bacterial Translocation in Humans.

Hepatogastroenterology 1999;46:2159~2164.

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12

●集中治療・ペインクリニック

[目的]重症外傷早期の患者の血中インターロイキン6

(IL-6)濃度を測定し,とくに予後評価との関係を検討

する,前向き研究.

[背景]1)IL-6は外傷,熱傷,手術などの侵襲の急性

期に最も早期に出現し,かつ重要度も高いサイトカイ

ンである.

2)定時手術での研究では,IL-6は皮切後90分以内に

血中から検出され,数時間持続する.そして手術の程

度に関係する.

3)外傷後ではIL-6の過剰は数日持続し,多臓器不全

とある程度相関する.

[研究の場]大学病院の外傷学部門.臨床研究.

[対象]18歳から70歳までの94(男67,女27)例.外傷

重症度スコア(ISS)は3~75(中央値19)で18名は最終的

に死亡した(脳外傷などで).

[方法]ISSが 9 以下(軽傷), 9 ~17(中等傷),18~30

(重傷),32以上(最重傷)に分類した.最初の採血は受

傷現場で(心肺蘇生開始前に)行い,次いで経時的ある

いは経日的に繰り返した.

[測定項目]ELISA法によるIL-6.そのほかの関連す

る指標.

[解析]2way ANOVA,Wilcoxon signed rankほか.

[結果]1)対象患者で経過中に敗血症になったり,多

臓器不全になった者はいない.

2)受傷直後よりIL-6値は上昇し,最重症群で特に顕

著である.軽傷群でも上昇するが,上昇度は小さい.

3)IL-6とISSの相関がもっともよいのは,病院到着後

6 時間以内である.

4)CRPは外傷後12時間以内に高値化し,重傷度を反

映している.

[結論]IL-6とISSは相関しており,重症度評価に使用

しうる.予後判定には現段階では勧めない.

[解説者注]IL-6は炎症が局所から全身へ転化する要

所をしめるサイトカインと考えられ,Bリンパ球の分

化・増殖や炎症反応蛋白(代表はCPR)の誘導を引き起

こす.アルブミン低下や血小板減少にも関係している.同じく早期に出現するTNF-αやIL-1βにくらべて半減

期が長く,測定しやすい.

(福家伸夫)

[目的]1)重症黄疸の進行とそのほかの肝機能の生化

学的検査が,どの程度予後を示すか検討する.

2)重症黄疸と不良な予後との関係は,これまでの動

物実験の成績と整合性があるかどうか検討する.なお,

以下でビリルビンは「ビ」と表記する.

[背景]1)受傷前・手術前に胆肝系に異常のない外傷

患者が黄疸を呈することは稀ではない.

2)黄疸の原因は大きく肝前性(「ビ」過剰),肝性(代謝

低下),肝後性(胆道閉塞)に分類できるが,大量に輸

血をしたような重症外傷では,さまざまな因子が絡み

合っている.

3)黄疸と生命予後の関係はよくわかっていないし,

研究も少ない.

[対象]1995年から2001年の間に手術を要した外傷患

者で,高度黄疸を呈した53名.うち 9 名は胆肝系の既

存病変か直接外傷のため除外した.

[方法]診療記録の後ろ向き検討.

[測定項目]外傷重症度スコア(ISS)など.

[解析]生存者と非生存者の間でt-検定.

[結果]1)受傷後30日以内の生存者は31名で,非生存

者は13名である.

2)非生存者は年齢とISSが有意に高い.

3)生存者の平均輸血量は46単位,非生存者のそれは

55単位である.有意差はない.

4)低血圧,局所感染,敗血症の発生に関しては両群

で差がない.

5)生存者の「ビ」値は受傷後11日頃にピークを迎える

が,非生存者では死ぬまで上昇し続ける.最高値も生

存者よりさらに高く,死亡直前で13.5mg/dL(中央値)

である.

6)死亡原因は敗血症と多臓器不全である.以下略.

[結論]1)重症外傷後に黄疸が発生する主因は,内出

血や大量輸血後の溶血であるが,数値として5.8mg/dL

を超えても,それだけではわるい予後を予測すること

はできない.

2)10~12日を超えても持続する進行性黄疸は,多臓

器不全への進行を示唆して,予後はわるい.

(藤田正人)

インターロイキン 6 は重症外傷早期で重症度評価になりうるか?

Gebhard F, Pfetsch H, Steinbach G et al:Is Interleukin6 an Early Marker of Injury Severity Following MajorTrauma in Humans?

Arch Surg, 2000;135:291~295.

外科的外傷患者における重症黄疸の病因および予後との関連

Labori KJ, Bjornbeth BA, Raeder MG:Aetiology andprognostic implication of severejaundice in surgical trau-ma patients.

Scand J Gastroenterol, 2003;38:102~108.

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タイトルはネガティブな用語をつかっていますが,実際には「英語を子どもに教える」意味を分析し,「行うならどうすべきか」の建設的アプローチも示した,内容豊かな本です.私自身は,自分の子どもの教育の責任は果たし終

わりましたが,現在定年後の仕事の一部として「英語教育」に参加しており,以前からのこの問題に対する関心を実行に移している気分でいました.本書には,英語教育に対して,「親がどう対応すべきか」も書いてあり,それを読むと私自身はその点に関してはごく初歩的なことも怠っていたようで,英語の問題を自分では認識はしていたのに,子どもには注意を向けなかった点を反省しました.

●「バイリンガル幻想」が「セミリンガル」に終わる危険著者は大学卒業後,アメリカで塾の教師を13年務

め,在米の日本人子女に主に国語(日本語)を教える仕事を担当し,傍らアメリカの大学で教育学博士を取得しました.専門の言語学者ではありませんが,経験も学識も豊かなものを感じます.本書には,バイリンガルと対比して「セミリンガ

ル」という用語が登場して,その危険を強調しています.たいへんに重要で,私も気になっていた点なので説明します.日本語が確立しているふつうの人には捉えにくいことですが,子どもの頃を英語環境で過ごして,途中から日本語に戻ると,英語の発音はきれいだが,英語力は「子どもの会話」能力しかなく,語彙は乏しく複雑な論理も表現できません.一方で,日本語の能力も漢字問題などを含めて,同年代の日本人より極端に低く,要するに「日本語力も英語力も子どものレベルで,高等教育を受けるに適さない」状態に陥るので,それをこう呼んでいます.海外に長期に滞在する人の子女に,高頻度に起こるそうです.

●「日常会話言語」と「教育理解言語」は違う親は子どもが英語を自分より見事に話すのを聴

き,自宅では日本語を話して,「バイリンガル」に育ちつつあると安心しますが,実は「セミリンガル」という言語障害に近い状態に陥っている点に気づかない危険があるわけです.この点を,著者は「日常会話言語」と「教育理解

言語」の差という用語で表現して,両者はレベルが違うということを強調しています.この概念や用語は,この著者の造語ではなくて,言語教育領域での標準的分類の由で,前者は幼児同士が遊んだり,日常の買い物や簡単な付き合いでの言語であり,後者

は段階的に教育を受けて最後は高等教育まで進む言語を意味します.日本語でも英語でも,この「教育理解言語」をマスターするには,語彙が豊かで複雑な言い回しも理解でき,しっかりした構文で文章を作れる必要があります.「外国で暮らせば英語は自然にマスターできる」と考えても,実は「子どもの会話=日常会話言語」の能力のマスターでしかない場合が多いのです.私自身も,「トイレの在り処が訊ける程度の英会

話力は無意味」とか「学会で議論ができるのが基本」という主張を口に出し,文章にも書きました.それを一般的で明確な概念と用語で説明しているので,我が意を得たという気持ちで読みました.

●「英語ぺらぺら」は無意味終わりのほうで,「国際感覚とは何か」の問題を

扱っています.「英語を学ぶ」,「英会話を学ぶ」ことによって「国際感覚を身につける」という言い方に対して,「国際感覚と英語学習は無関係」な点を著者は明確にしています.「国際感覚」とは言語の問題ではなくて,国際的な問題に興味を抱いて意見を述べることだと説明し,たとえば自国の問題を外国の人から指摘された時に,歴史的事情などを認識して自分の言葉で堂々と論争できなければならない,と主張しています.実例として,アメリカの人が「パールハーバー」を持ち出して「卑怯な奇襲」と呼んだ時,何故それが起こったのか,そこに至る日米交渉の経過を説明し,「奇襲」は見かけに過ぎず,当然予測された「戦端の開始」であって,証拠もいろいろ挙げられている,と述べて「対決」することによって「国際感覚」が生まれると主張しています.同様のテーマとして,広島への原爆投下を正当化するアメリカ側の主張に一方的に押し捲られるのは国際性の欠如を示すと指摘します.実際,自衛隊のイラク派遣問題での日本のやり方は,そうした「国際性の欠如」を痛感します.それと関連して,「英語ぺらぺら」は意味がない

ことで,それを目指すべきではなく,目指す必要もない,目指すのは過ちだと述べています.「内容が重要」という立場からは当然の主張です.本書の終章「親が留意すべきポイント10点」は,

特に英語学習の問題解決に対して特に優れた提案です.全部は述べませんが,「年齢にこだわるな」,「特定の学習法にこだわるな」,「生きた交流を体験させよう」,「英語力は一生かかって身につけ維持するもの」などで,詳しい解説も含めて説得力のある内容です.

(諏訪邦夫)

13

書 籍 紹 介

英語を子どもに教えるな市川 力 著

中公新書ラクレ,東京,2004年,800円

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「Whippleの手術」は,一般外科ではとびきりの大手術で,外科医も興奮して行いますが,麻酔科医の立場からは「患者の状態はよくないのに,時間は長くかかって成績のわるい手術」という印象の強いものの 1 つです.こんな点で食道がんの手術と似ていますが,体位変換のないのはありがたいというべきでしょうか.それに,いろいろと切ったりつないだりするので,術者が上手なら眺めて興味深いものではあります.各種変法もあり,最近では「幽門温存式」

の手法も開発されてはいますが,「原法」自体をよく知らないことに気づきました.「人名のついた手術」なのに,名前の由来や開発者も知りません.それで調べてみました.

●●●●●●●●●●

1935年の医学はどんな状況かこの論文の出た1935年に,臨床医学がどん

な状況だったのかを少し検討します.現在私たちの知っている一般外科手術の基本は,19世紀の後半から終わりまでに,胃がんの切除はBillrothがオーストリアで,乳がんの切除はHalstedがアメリカで開発しました.1909年には,コッヘルが甲状腺の手術でノーベル賞を受けました.20世紀前半には広範囲の外科手術が可能になっていますが,人工心肺が製作されたのは1950年以降で,1935年の時点では心臓手術はありません.体外循環をつかわない閉胸の心臓や大血管手術は少し早いのですが,それでも動脈管閉鎖が1937年,僧帽弁狭窄を閉心で指を入れて広げる手術は1940年代後半で,この手術より後です.一方,膵臓については1920年代初頭にイン

スリンが発見されて実用が始まり,1923年にはノーベル賞を受けています.ペニシリンは1920年代の終わりに物質としては発見されましたが,実用にはなっていません.しかし,抗菌薬としては,サルファ剤ができています.

●●●●●●●●●●

著者自身の分析から論文の冒頭で,著者自身がこんなふうに分

析しています.「これまでに,膵臓の良性腫瘍の手術はできることがわかっている.悪性腫瘍も胃や小腸以下なら可能だ.しかし,十二指腸のVater部に関係するものはむずかしい.自身がVater部の腫瘍を経十二指腸的に

行おうとして失敗した」と述べて,次の問題を指摘しています.1.膵液を流す必要があると考えて,膵管を腸につなごうとする.しかし,これはむずかしい.膵液の作用でリークが起こりやすいからである.それから,ヒトとイヌは膵臓の活動に差があり,イヌの実験が役立ちにくい.とにかく,ヒトで「成功の報告はある」が,失敗率が極端に高い.2.一期的に行うことがむずかしい.黄疸が出ており,出血傾向があり,栄養不

良で肝機能が低下している.

●●●●●●●●●●

対応の論理こういう条件で,「それで下の原理に基づ

いて行う」と述べて次のように説明しています.1.十二指腸と膵臓の頭部を切除し,十二指腸自体と膵臓との連結は試みない.2.手術は二期的に行う.a.麻酔はテトラカイン脊椎麻酔

14

■シリーズ/麻酔学の古典〔42〕

「Whipple:Whipple手術」

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b.第一期手術では1)胃小腸吻合.これで栄養が摂れる.2)総胆管は閉鎖.しっかりマークをおく

必要.3)胆嚢胃吻合:幽門よりずっと上で行う.

開口部は少なくとも直径 2 cm必要.これで狭窄と胆管炎を防止する.3. 3週間後に第二期の手術.a.膵十二指腸動脈と胃十二指腸動脈を結

紮.b.膵臓の頭部を切除.十二指腸の病変部

を切除し,上端と下端は盲端にする.c.膵管切除縫合.膵液は消化管には流れ

ない.d.十二指腸切除部(後腹膜部)にはドレー

ンを置く.実際には 3例施行して,1例死亡しています.論文の768~775ページまでに, 3例の詳しい記述が載っています.最後に「考察」として次のような説明を加えています.1)腫瘍全体をブロックにして切除のこと.2)2 期的に施行して,危険を減らす.「分割して征服し,統治せよ」の原理.3)膵管を閉塞しても栄養障害はほとんどなかった.この状況で,膵臓の外分泌組織は萎縮してしまうことが判明している.論文の終わりに, 2人の外科医が詳しい討論を加えています.

●●●●●●●●●●

麻酔についてこの手術が,実は麻酔と次のように関係し

ていることが,調べてみてわかりました.まず,この手術自体での麻酔の記述ですが,二度とも「テトラカイン脊麻で施行」とはっきり書いてあります.当時すでに全身麻酔はありましたが,筋弛緩薬が臨床麻酔に持ち込まれる以前で,腹部手術には全身麻酔はあまり使われなかったのでしょうか.論文には「電気メス使用」の問題が考察してあり,エーテル深麻酔で筋弛緩を得る手法が採用できなかったのかもしれません.現在,この手術を脊椎麻酔単独で施行することは多分皆無でしょうが,当時は当たり前だったのでしょう.

●●●●●●●●●●

Apgar女史との関係論文をみて著者がコロンビア大学プレスビ

テリアン病院所属と知り,「スコア」で有名なApgar女史との関係に興味を惹かれて調べたところ,重大な事実が判明しました.女史がコロンビア大学の初代の麻酔科主任である点などANESTHESIA ANTENNAの 5 号に紹介しましたが,その関係です.女史は1933年に医科大学を卒業して,この

病院の外科研修医となりました.ところで当時は1929年に始まった大恐慌の最中で,もらえたはずの学生奨学金が途絶え,女史は医大卒業の時点で 5千ドルの借金を背負ったそうです.外科を志しましたが,外科主任のWhipple(この論文の著者)が「ちゃんとした麻酔科医」を欲しがってApgarにその道を薦めた由です.当時,アメリカの麻酔は麻酔看護師が中心

でしたが,麻酔科医でも女性がかなり多かったそうで,当時の女性医師は医師全体の 4%程度でしたが,麻酔科医では10%を大幅に超えていたとのデータもあります.経済問題とそんな背景とから,Apgar女史も麻酔を志望し,まず病院の麻酔看護師に少し技術を習った後,当時の大学麻酔学教室のメッカであったウィスコンシン大学のWatersの下で 6 ヵ月修練を受けました.さらに,Watersの弟子で当時すでにニューヨーク大学で麻酔科学教室をつくっていたRovenstine(Bellevue病院)で 6 ヵ月修練を受け,1938年に「麻酔科主任」としてプレスビテリアン病院に赴任し,1949年にPapperにこの地位を引き継ぎました.この時点では「外科部門の麻酔科主任」ですが,当時はそんな組織のところが多かったのです.有名な「Apgarスコア」の仕事は,主任を

Papperに譲って自分は産科麻酔を中心にするようなった1950年代に入ってからの業績です.Whipple氏は手術に名を残しただけでな

く,コロンビア大学の麻酔科学教室の創設に寄与し,さらに間接的にApgarスコア創始にも関与したわけで,この点は意外な発見でした.

[参考文献]Calmes SH. Virginia Apgar, M.D.:At the Forefront ofObstetric Anesthesia. ASA Newsletter, 1992;56(10):9~12.

15

Whipple AO, Parsons WB, Mullins CA. Treatment of carcinoma of the ampulla of Vater.

Ann Surg, 1935;102(4):763~779.

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抄録でも紹介した「日本では医療診断用X線使用が極端に多い」という論文に関係して,日本のある新聞が脳ドックのCTを指摘していました.脳ドック自体は現在ではMRIに移行したので,放射線の累積効果は残るとしても,現状での寄与は減りました.それとは別に,私は「脳ドック」という考え方自体に違和感を抱いてきました.それで,何故違和感があるかを述べます.脳ドックはいろいろありますが,ここでは「脳動脈瘤を発見して手術する」面だけに限定します.

●計算上は「脳ドック」有利だがまず「脳ドック」受診の効用と危険を比較計算し

てみます.効用は,それで寿命が延びる点,危険は逆に寿命が縮む点です.ある程度は信頼できるデータもありますが,「感じ」の話として適当に数を決めて計算します.今,脳ドック受診で脳動脈瘤がみつかる確率を

1000分の 1,つまり千人に 1人とします.一方クリッピング手術で重篤な合併症が起こる確率を100分の 1 とします.そうすると,「脳動脈瘤がみつかって,手術で重篤な合併症になる」危険は十万分の 1で,この値は十分に低いから割に合うと脳神経外科医は言うでしょう.「脳ドック」推進側の論理的根拠です.一方,動脈瘤がありながらそれを放置した場合に

重篤な病状になる確率を10分の 1とします.そうすると,「脳ドックを受診せずに重篤な病状になる」確率は 1万分の 1で,受診して手術を受ける場合の10倍です. 2つの数値を比較すると,患者の立場からも脳ドック受診が有利と思えます.

●有利な脳ドックを避ける気持ちは?一見有利な脳ドックに違和感を抱き,実際に受診

もしないのは何故でしょうか.自分の気持ちを分析するとこうなります.1つは,健診を受けなければ,危険は10倍高いけれど,それでも安全率は0.9999ですから十分に安全なレベルです.「この程度の危険は無視」という気持ちです.それからもう 1つ重要なのは,こんな気持ちです.

「自分の選択で病気になって死ぬのは諦めもつくが,病気を治すはずの手術でおかしくなるのはごめん」という感覚です.この「自分の選択で自分に責任を持つ」感覚は,

日常活動のいろいろな場面に当てはまります.飛行機は便利で速いから新幹線より危険と知りながら使

うし,長距離バスは安いから鉄道より危険と知りながら乗ります.長距離旅行に車を使う場合,安くて便利だからで,鉄道の安全よりそちらを優先します.知識人の喫煙も同じでしょう.「危険を承知で行うスポーツ」も同じ理屈です.

「登山」はどんな条件でも家でおとなしくしているよりは危険ですが,数多い人たちが危険を承知で出かけます.海の遊び(ヨット,サーフィン,潜り)なども同じです.実際,私自身が「死に近づいた」経験は,車の事

故とウィンドサーフィンの事故ですが,いずれも「自分の選択で行った」ことで,その後の行動を修飾しました.その時点では継続しましたが,やがて車の運転もウィンドサーフィンも止めた要因ではあります.

●症状がある場合と瘤が既知の場合「脳ドック」を受けない気持ちはこうですが,明らかな症状があれば話は違います.その時,脳動脈瘤が破裂して生命を脅かされる危険は10分の 1のレベルで,手術で重篤な合併症に陥る危険より高いから受診して手術を受けます.つらい症状に苦しみ,重大な病気を疑って毎日を不安な気持ちで過ごすより,手術を選びます.手術で植物状態になる危険と破裂して生命を脅かされる危険を比較すれば,手術を決断するでしょう.症状はないが,「まったく偶然に脳動脈瘤がみつ

かった」場合は,やや慎重に評価することになりそうです.破裂を恐れて毎日を不安な気持ちで過ごすのは,心理的につらそうですが.

●一般の人の危険「脳ドック」に違和感を感じる気持ちは以上の通りですが,それは「脳動脈瘤手術で重篤な合併症が起こりうる」との認識を私がもっているからで,それは一般の人にはありません.本で知ったり医師から説明を受けても,私ほど痛切には感じません.脳神経外科医も,この部分は小さい声でしか述べません.だからこそ「脳ドック」の考え方が成立し,ある程度は普及しているのでしょう.この問題を一般社会に知らしめるには,上に挙げ

た数値が正確な必要があり,そもそも「違和感」という感覚ではなくて,もっと常識的で説得力のある論理も必要です.とりあえずこの話は,自分自身と周囲だけに限定しておきますが,自分のそうした態度に疑問を感じます. (諏訪邦夫)

エ ッ セ イ

安全を買えるか:脳ドックの違和感

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17

●医学一般・基礎医学

[目的]変動型人工呼吸(variable ventilation:VV)を,

実際の術後患者に応用して有用性を確認する.

[背景]従来の人工呼吸(constant controlled ventila-

tion:CV)では,換気パターン(一回換気量と呼吸数

など)は固定である.一方,ヒトの自発呼吸はいろい

ろ変化に富む.最近,この「変化に富む」要素を人工

呼吸に組み込むと,人工呼吸の成績が向上するという

発表をこのグループが発表している.

[研究の場]カナダ,マニトバ州大学の研究室.

[対象]腹部大動脈瘤(AAA)手術を受ける患者41例.

CVが21例でVVが20例.

[使用薬物と機器]人工呼吸器はレスピロニクスICU

型.VVにはパソコンを使用して,一回換気量は平均

値が10mL/kgになるように,6.4~14.6mL/kgの幅に,

Mutchがイヌで観察分類した376の呼吸数ファイルを

選び,人工呼吸条件を変動させた.CV群では,

10mL/kgに固定した.Fio2は0.6に維持.

[測定項目]呼吸とガス交換のパラメーター.

[方法]当初CVで20分ほど人工呼吸して基礎データを

得てから, 2 群に乱数割り付けする.

[結果]1)年齢70歳,体重80kg,BMI27強,男女比

14/6などで両群に差はなかった.

2)喫煙に関しては,CV群に喫煙者が多かった.

3)PaO2値は,乱数化後 3 時間目からVV群が有意に

高く,A-aDo2で20~30の差であった.

4)PaCO2もVV群が有意に低かった時点が多い.

5)VDVT比(死腔換気率)も,VV群が有意に低かっ

た時点が多い.

6)分時換気量は,CVのほうがやや多く,有意レベル

に達した時点もある.

7)VV群で,Crs(呼吸コンプライアンス)はやや高値

に,PIP(peak inspiratory pressure)はやや低値に維

持できた.

[結論]AAA手術でVV人工呼吸を適用した場合,通

常型人工呼吸よりも肺機能が良好に維持できた.

[解説]“VV”を動物モデルでなくてヒトに適用した

初めての論文のようだ.一応「変動型人工呼吸」と訳

したが,この訳語は内容を示さず不満である.

(諏訪邦夫)

[目的]人工呼吸に変動成分を加えると,無気肺が改

善しやすくなることを示す.

[背景]動物の自発呼吸には変動がみられる.この変動

成分をコンピュータで採取しておいて,ARDSモデル

動物に,変動を加えた人工呼吸を行うと,固定型の通

常の人工呼吸よりもガス交換が良い.人工呼吸の変動

で,肺の容積や圧に新しい「動員成分」が加わりガス

交換が改善したと推論する.

[研究の場]動物実験室.

[対象]ブタ合計22頭.

[測定項目]ガス交換.

[方法]ブタを片肺換気で無気肺をつくり,この無気

肺を 5 時間換気して再膨張を試みる.その際のガス交

換の改善を,定常換気群(n= 7 )と変動換気群(n= 7 )

で比較する.深呼吸の効果(n= 8 )も検討した.変動

型人工呼吸は,25分間の呼吸数の例が載っていて,平

均15回/分, 4 回/分未満の深呼吸から25回/分を超え

る頻呼吸まで分散している.

[結果]1)PaO2で比較すると,無気肺の消失が定常

換気群よりも変動換気群で良好であった.

2)PaO2は定常換気群で381mmHg,変動換気群で

502mmHgであった.

3)PaCO2は,定常換気群で48mmHg,変動換気群で

35mmHgであった.

4)シャント率は,定常換気群で14.6%,変動換気群

で9.7%であった.

5)コンプライアンスは,定常換気群で0.79mL/cmH2O,

変動換気群で1.15であった.

6)ピーク気管内圧は,定常換気群で18.8cmH2O,変

動換気群で15.7であった.

7)5 時間の平均一回換気量は,定常換気群で13.2

mL/kgに対して,変動換気群で14.7であった.

8)データからプログラムしたパラメーターのうち,呼吸

数の変動はy=k×1/f(a)でa=1.6±0.3になっていた.

[結論]人工呼吸で呼吸パターンに変動成分を加える

と無気肺が改善する.人工呼吸の要素として検討に値

する.

[解説]変動型呼吸法を記述した論文としては,Lefevre,

GR et al. Am J Respir Crit Care Med. 1996;154:

1567~1572.が最初だが,こちらには具体的なパター

ンが図で示され,しかも「1/fルールにそって」との

原則が書いてあるので紹介した. (諏訪邦夫)

変動型人工呼吸でAAA後の肺機能が向上する

変動型人工呼吸で無気肺が改善する

Boker A, Haberman CJ, Girling L, Guzman RP,Louridas G, Tanner JR, Cheang M, Maycher BW, BellDDB, Doak GJ. Variable ventilation improves periopera-tive lung function in patients undergoing abdominal aor-tic aneurysmectomy.

Anesthesiology, 2004;100:608~616.

Mutch WA, Harms S, Ruth Graham M, Kowalski SE,Girling LG, Lefevre GR. Biologically variable or naturallynoisy mechanical ventilation recruits atelectatic lung.

Am J Respir Crit Care Med,2000;162(1):319~323.

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●医学一般・基礎医学

[目的]吸入麻酔で,脳波バイコーヒーレンスは侵害

刺激に敏感に反応することを示す.

[背景]同じグループが,硬膜外麻酔を組み合わせた

全身麻酔での脳波バイコーヒーレンスの反応を報告し

たが,その研究では侵害刺激に対する脳波バイコーヒ

ーレンスの反応が硬膜外麻酔で抑制されることを示し

た.侵害刺激に対する脳波バイコーヒーレンスの反応

が麻薬で抑制できると推定はできるが,証明はない.

[対象]腹部手術患者48例(年齢22~77歳,ASA分類

ⅠまたはⅡ).

[使用機器]BISモニター装置(A-1050)および著者開

発のBSA(bispectral analyzer).

[測定項目]生の脳波,BIS,SEF95.

[方法]BSAソフトウエアから脳波バイコーヒーレンスのピ

ーク高 2 つを分析した.麻酔はイソフルラン 1 %または

セヴォフルレン1.5%に維持した.フェンタニル0.3μg/kg

を皮膚切開の後に,あるいは前に投与して,皮膚切開

直後と 5 分後の脳波バイコーヒーレンスを解析した.

イソフルランとセヴォフルレン,フェンタニル投与のタイ

ミング(皮膚切開の前と後)とで,患者を 4 群に分類した.

[解析]ピーク高 2 つとは,低周波領域( 2 ~ 7 Hz)と

高周波領域( 7 ~13Hz)を示す.

[結果]1)フェンタニルを皮膚切開の後に投与すると,

皮膚切開直後にピーク高は 2 つとも減少し,フェンタ

ニル投与後にコントロール値に戻った.

2)この時にBIS値とSEF95値とはいずれも一定の変

化を示さず,患者ごとに異なる変化を呈した.

3)フェンタニルを皮膚切開の前に投与しておくと,フェン

タニル自体は脳波に影響がなかったが,皮膚切開によっ

てもバイコーヒーレンスのピーク高は不変なままであった.

[結論]侵害刺激で吸入麻酔下のバイコーヒーレンス

のピーク高が低下する.この作用は,フェンタニル投

与で防止できる.

[解説]「バイコーヒーレンス」は,バイスペクトラムを

規準化したもの.萩平先生自身開発のBSAを使用し,

これが強力な分析パラメーターであることを示してい

る.バイコーヒーレンスの意味を語義とおり解釈すると,

ピークが高いことは「脳の動きが同期している」こと

を示し,ピーク高が低くなるとは「侵害刺激のような

外乱で同期性が下がる」ということだろう.脳波への

影響は,フェンタニルと硬膜外麻酔は「侵害刺激の反

応を抑制する」点で似ている. (諏訪邦夫)

[目的]気管挿管時の下顎の押し出し操作で気管挿管

が容易になるかを検討する.

[背景]ファイバー挿管で,下顎骨を前方にずらす力

を加えると喉頭の展開が良好になることはよく知られ

ている.マスク換気時に,同じ操作を加えると気道の

開通が容易になる.気管挿管直前のマスク換気時に使

うこの操作が,気管挿管自体を改善するかは検討され

ていない.

[研究の場]大学病院手術室.

[対象]手術患者40例.施行者は,気管挿管経験の乏

しい医師(挿管経験100例未満).

[測定項目]経験の乏しい医師の挿管をビディオ撮影

し,熟練麻酔科医が記録映像だけで判定.

[方法]操作を以下の 4 種に分けた.ふつうの挿管(C),

下顎の押し出し操作を加える(M),ふつうの挿管+

BURP(のどを押す操作:B),下顎の押し出し操作+

BURP(BM).

[結果]1)参加者は医師14名,挿管経験数は 5 ~95例

であった.挿管の特別容易な患者10例は分析から除外

した.

2)一般的に,C→M→B→BMと操作を加えると,喉

頭展開が良好になる(よく見えるようになる)傾向が強

かった.

3)BとMを比較すると,BのほうがMより有効性が高

かった.

4)BMでは展開がもっとも良好であった.

5)気管挿管施行の滑らかさの評価も,BMが断然高

かった.

[結論]気管挿管時に下顎を前に押し出すと,経験不

足の医師の気管挿管の成功率が向上する.

[解説]千葉大学のグループの研究.この操作は,補

助者が加える.BURPというのは,広く行う「補助者

がのどを押す」操作.「のどを押す」操作は日常的に

使うが,挿管時に「下顎を前に押し出す」操作は行わ

ない.「経験豊かな医師」で,気管挿管がむずかしい

場合にも有効だろうか.この論文の範囲外だが,少な

くとも「有効な場合もある」のではなかろうか.

(諏訪邦夫)

イソフルランまたはセヴォフルレン麻酔で,脳波バイコーヒーレンスは侵害刺激に敏感に反応する

Hagihira S, Takashina M, Mori T, Ueyama H, Mashimo T.Electroencephalographic bicoherence is sensitive to nox-ious stimuli during isoflurane or sevoflurane anesthesia.

Anesthesiology, 2004;100:818~8257.

気管挿管時に下顎を前に押し出すと気管挿管の成功率が向上する

Tamura M, Ishikawa T, Kato R, Isono S, Nishino T.Mandibular advancement improves the laryngeal viewduring direct laryngoscopy performed by inexperiencedphysicians.

Anesthesiology, 2004;100:598~601.

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●医学一般・基礎医学

[目的]超短時間作用性の新しい筋弛緩薬GW280430

の臨床薬理を分析する.

[背景]サクシニルコリンの欠点が認識されて以来,

超短時間作用性の新しい筋弛緩薬の探索が続いている

が,また 1 つ候補が出てきた.in vitroと動物では有

望だが,臨床条件ではどうだろうか.

[研究の場]ニューヨーク,コーネル大学.

[対象]ボランティア31人.

[測定項目]通常の筋弛緩効果評価のための分析法.

指標には,筋電図ではなくて筋力を使用.

[方法]はじめの11人で,大体の投与量を定める予備

実験を施行し,残る20人を 4 人ずつ 5 組に分けて, 5

種類の投与量と投与法(ボラス投与の量と回数)をチェ

ックした.各種の薬理作用,副作用,エドロフォニウ

ムを使用した拮抗の様などを検討した.麻酔は

N2O/O2+プロポフォルであった.

[結果]1)GW280430のED50は,0.19mg/kgであった.

2)90%ブロックに達する時間は1.3~2.1分で,投与量

増加で短縮した.

3)臨床的作用持続時間は4.7~10分で,投与量増加で

延長した.

4)5 →95%までの回復時間は 7 分,25→75%までの

回復時間は 3 分で,こちらは投与量依存ではなかった.

5)ED50の 3 倍量以上を投与すると,循環動態への影

響がみられた.症状からみて,ヒスタミン遊離作用と

判定する.

6)作用消褪が急速であるメカニズムは,システイン

抱合して活性を失うことによる.他に加水分解のルー

トもあるが,こちらは速度が遅く,臨床的な役割は大

きくはなさそうである.

[結論]GW280430は,作用開始が早く作用持続は短

い.作用の消褪は速く,予測可能で,投与量に依存し

ない.ED50の2.5倍量以内なら特別の副作用はみられ

ず,投与後60~90秒で筋弛緩効果が得られる.

[解説]同じ号の「研究室での研究」の欄に,サルとイ

ヌを用いた実験薬理研究の論文が載っている.また論説

がついている.「速い筋弛緩薬は力価が低い」原則に,

この薬物は必ずしも当てはまらない. (諏訪邦夫)

[目的]赤血球輸血が人工呼吸器関連肺炎を引き起こ

す誘引になるかを検討する.

[背景]集中治療室の場で,赤血球輸血を施行すると

人工呼吸器関連肺炎が起こりやすくなるという疑いが

提出されている.

[研究の場]全米284の集中治療室.一応前向きだが純

粋の全例観察型で,コントロール臨床試験のスタイル

は採用していない.

[対象]肺炎のない状態で集中治療室に入り,48時間

人工呼吸を受けたという条件で,各施設で対象患者を

選出.

[測定項目]人工呼吸器関連肺炎の有無.

[方法]2000年 8 月から2001年 4 月までの 9 ヵ月間の

患者全例を対象とした.人工呼吸器関連肺炎の診断基

準はあらかじめ規定し,これを研究の第一終点とした.

遅発人工呼吸器関連肺炎(人工呼吸 5 日以降)は研究の

第二終点とした.集中治療室入室の前と後での輸血を

検索した.

[解析]多変量解析.

[結果]1)初めに検討群とされた4,892例のうち,人

工呼吸期間が48時間以上に及び,入室時に人工呼吸器

関連肺炎がないという基準に合致したのは1,518例で

あった.

2)この1,518例のうち311例(20.5%)が人工呼吸器関連

肺炎と診断された.

3)多変量解析によれば,輸血が人工呼吸器関連肺炎

を引き起こすリスクであった(オッズ比1.89:信頼限

界1.33~2.68).

4)輸血以外のリスクとしては男性(オッズ比1.54),

外傷(オッズ比1.68),鎮静薬使用(オッズ比1.43),栄

養などであった.

5)輸血の効果は,遅発人工呼吸器関連肺炎に特に顕

著であり(オッズ比2.16),投与量応答反応も有意だっ

た(p=0.0223).

[結論]赤血球輸血により,人工呼吸器関連肺炎の発

生が高まる.ムダな赤血球輸血を防げば,人工呼吸器

関連肺炎の発生を減少させられるだろう.

[解説]背景がはっきりしないが,これだけの多施設

共同試験を行うからには,よほど大きな事件が背景に

あったのだろう.また,メカニズムへの追求なども期

待される.術中の赤血球輸血の効果はどうなのかも興

味の持たれるところだ. (諏訪邦夫)

筋弛緩薬GW280430の臨床薬理

赤血球輸血は人工呼吸器関連肺炎に関連するか

1)Belmont MR, Lien CA, Tjan J, Bradley E, Stein B,Patel SS, Savarese JJ. Clinical pharmacology ofGW280430 in humans.

Anesthesiology, 2004;100(4):768~773.動物の論文は,2)Savarese JJ. et al.

Anesthesiology, 2004;100(4):835~845.3)Heerdt PM. et al.

Anesthesiology, 2004;100(4):846~851.

Shorr AF, Duh MS, Kelly KM, Kollef MH;CRITStudy Group. Red blood cell transfusion and ventilator-associated pneumonia: A potential link ?

Crit Care Med, 2004;32(3):666-674.

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●医学一般・基礎医学

[目的]悪性中皮腫の生物学と治療法を検討する解説

である.

[内容]1)悪性中皮腫は侵害度の高い悪性腫瘍で,発

生要因としては遺伝・ウイルスと石綿が知られてい

る.腹膜源性よりも胸膜源性の頻度が高い.診断は,

従来はX線に依存したが,最近では分子生物学を含む

組織解析が有力になった.

2)予後予測に関しては各団体が開発したスコアが有

用である.

3)予測因子は,年齢,組織,血液学パラメーターな

どである.

4)悪性中皮腫は,外科手術や放射線治療も効きにく

く,抗がん薬が唯一の治療法であるが,それも細胞毒

性の高い系統のものだけが有効である.

5)歴史的には,どういう薬物を組み合わせても有効

率は20%を超えない.

6)最近では,ペメトレクスの臨床試験が第Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ

相まで進み反応率が14%,その群での 1 年生存率が

47.8%となかなか良好である.

7)現在では,シスプラチン単独とシスプラチンにペメトレク

スを組み合わせて比較した第Ⅲ相試験が進行中である.

8)この他に,血管内皮成長を抑制する薬物,皮膚組

織成長を抑制する薬物なども検討されている.

[結論]いろいろな研究があるが,見通しは暗い.

[解説]ほかに別の内容のものを紹介する.

[タイトルと目的]腹腔性悪性中皮腫を切除し局所化

学療法を加え,進行を抑えた条件を検索する.

[対象]悪性中皮腫患者49例(男性28例,女性21例:年

齢は16~76歳.中央値が47歳).

[方法]開腹で腫瘍切除後,シスプラチンで高温腹腔

灌流.

[結果]1)28ヵ月観察し,17ヵ月進行抑制できた.

2)進行抑制と生存率改善の要素は,既往の全摘出手

術,深部組織浸潤なし,術後残存組織が少ない,年齢

60歳未満などであった.

[結論]腹腔性悪性中皮腫も,切除+局所化学療法施行

で進行を抑え,ある程度生存が期待できる.(諏訪邦夫)

[目的]パーキンソン病の危険因子と保護因子を検討

する.ここでは,危険因子(Gorell:アメリカの研究)

と保護因子(Yan:シンガポールの研究)を解析した 2

つの研究を,解説者が組み合わせた.

[背景]パーキンソン病は原因不明だが,最近は「喫

煙に予防効果あり」との分析も現れている.

[対象]疫学調査の解析.Yanはすべて中国人系.

[方法]患者数百例ずつの背景因子を検討.Yanでは,

患者300例のうち200例について年齢と性を一致させた

対照群とのコントロール試験.

[解析]多変量解析.

[結果]1)Gorellで病因とされたのは,マンガン・

銅・鉛・鉄などの職業的暴露,家系のパーキンソン病,

除虫剤と除草剤の職業的暴露,喫煙の 4 つ.

2)ほかの要因と比較すると喫煙の寄与度は小さかっ

た.上記 4 因子をすべて加えても説明度は54%に留ま

り,ほかの要因の寄与が残っている.

3)Yanでは,パーキンソン病と関係する要因として

分析されたのは,コーヒー,紅茶,アルコール摂取,

煙草,重金属暴露であった.

4)コーヒー 3 杯/日摂取を10年間継続すると,パーキ

ンソン病発生は22%減少した.

5)紅茶を 3 杯/日摂取を10年間継続すると,パーキン

ソン病発生は28%減少した.

6)喫煙を60本×10年間継続すると,パーキンソン病

は62%減少した.

7)重金属暴露では危険が増加した.

[結論]アメリカの研究では,パーキンソン病の発生

要因として職業・環境・遺伝が重要としている.喫煙

も発生要因に含めているが,度合いは重くない.一方,

シンガポールの研究では,パーキンソン病の発生阻止

因子として,コーヒー・紅茶・喫煙を挙げ,特に喫煙

の阻止力は強いとしている.重金属の病原性を肯定し

ている.

[解説]パーキンソン病は「喫煙に防止作用がある?」

とされる数少ない疾患だが,果たしてニコチンの作用

で説明できるのかは不明である.

(諏訪邦夫)

悪性中皮腫の生物学と治療法

1)Vogelzang NJ. Emerging insights into the biology andtherapy of malignant mesothelioma.

Semin Oncol, 2002;29(6 Suppl 18):35~42.2)Feldman AL, Libutti SK, Pingpank JF, Bartlett DL,Beresnev TH, Mavroukakis SM, Steinberg SM, LiewehrDJ, Kleiner DE, Alexander HR. Analysis of factors associ-ated with outcome in patients with malignant peritonealmesothelioma undergoing surgical debulking andintraperitoneal chemotherapy.

J Clin Oncol, 2003 Dec 15;21(24):4560~4567.

パーキンソン病の危険因子と保護因子

1)Gorell JM, Peterson EL, Rybicki BA, Johnson CC.Multiple risk factors for Parkinson’s disease.

J Neurol Sci, 2004;217(2):169~174.2)Tan EK, Tan C, Fook-Chong SM, Lum SY, Chai A,Chung H, Shen H, Zhao Y, Teoh ML, Yih Y, Pavanni R,Chandran VR, Wong MC. Dose-dependent protectiveeffect of coffee, tea, and smoking in Parkinson’s dis-ease:a study in ethnic Chinese.

J Neurol Sci, 2003;216(1):163~167.

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●医学一般・基礎医学

[目的]生体内での成長段階での血管新生,がんの血

管新生などの問題と,これを利用して血管を工業的に

製造する問題を考察する.

[内容]1)一方で発生学が分子レベルまで判明し,他

方遺伝のモデルシステムの解明が進んだので,発生初

期の血管新生に必要な要素とそれに対応する遺伝子が

判明してきている.

2)遺伝子が明らかになった因子としては,水溶性の

発効因子とその受容体がある.また細胞接合部のコン

ポーネントや細胞質同士の相互作用の媒体も判明して

いる.

3)二次元や三次元のモデルで,血管構造細胞とその

先駆体で,それ自身と近傍構造体との相互作用が研究

できるようになっている.

4)さらに,遺伝子をいじって変異形をつくることで,

遺伝子が細胞に果たす役割を,細胞の遊走・増殖・分

化などの面から研究し,最終的に血管が形成される様

子が判明しはじめている.

5)同時に,遺伝子信号と環境要因との相互作用が,

時間的にも空間的にも当初考えられた以上に複雑に関

係していると判明している.

6)一方,IT技術の進歩により,血管生成の様子が実

時間で映像化できるようになり,当該領域の研究者以

外に,周辺研究者の認識も深まるだろう.

7)そこから,血管生物学者,生物工学者,数学者,

物理学者などが協力関係をつくりあげ,体内での血管

新生を理解し,体外での血管新生を可能にする方向に

進むであろう.

8)すでに,人工血管の内表面に血管内皮細胞を増殖

させて,自然の血管と類似の内皮の性質をもたせるこ

とには,研究室レベルでは成功している.

9)人体由来の内皮細胞,血管平滑筋細胞,線維芽細

胞を使って多層構造の人工血管も作られた.

10)しかし,研究室レベルでの製作に留まり,大量生

産して臨床に供給するには至っていない.

[結論]現時点で,血管新生の生物学は大きく進歩し

て理解は進んでいる.この知識を利用して優れた血管

を作ろうとする試みも研究室では成功しているが,臨

床応用のレベルには達していない.

[解説]この論文は,流れは上手に説明しているが,

時間表は述べていないので,現時点が臨床応用からど

の程度遠いのか,私には判断がつかない.

(諏訪邦夫)

[目的]麻酔科医が関与する慢性疼痛管理が,責任を追及されて訴訟の対象となる点を検討する.

[背景]近年,慢性疼痛管理は麻酔科医の関与する大きな領域となっている.

[研究の場]ASAのCCP(Closed Claims Project:Closed Claimsは患者からの苦情が生じて裁判で決着したか,法廷の外で示談で済んで,「終わった」ことを示す)のデータベース.

[対象]1970~1999年の30年間の慢性疼痛管理関係の訴え.急性疼痛管理は数が少なく(66件),分析困難なので除外した.対照として外科と産科の麻酔に関係するものを比較した.

[方法]慢性疼痛管理に関係する284件を,外科と産科の麻酔に関する5,125件と比較検討した.

[結果]1)慢性疼痛管理関係の訴えは時の経過とともに増加し,1970年代の 2 %から1990年代には10%に達している.2)慢性疼痛管理関係の支払い金額は,1989年までは外科/産科一般より少なかった( 2 万5千ドル:中央値)が,1990年以降は差がなくなった(10万ドル以上).3)慢性疼痛管理の患者は年齢がやや高く(48歳と40歳),小児例はなかった.4)訴えの97%は神経ブロックや硬膜外ブロックのよ

うな侵害処置が関係した.5)訴えの内容では,神経損傷と気胸の頻度が高く,頭痛と腰痛がこれに次ぐ.6)慢性疼痛管理関係の訴えのうち,硬膜外ステロイド投与に関係するものが40%ある.7)硬膜外ステロイドと合併する事件は,神経損傷,感染,頭痛の頻度が高い.8)硬膜外に局所麻酔薬やオピオイドを加え,さらにステロイドを持続投与した場合,脳障害や死亡を含む重度障害が高率に発生している.9)ポンプ使用の重度障害は,すべてモルフィンが関与している.

[結論]慢性疼痛管理で麻酔科医が訴えられる頻度と支払い頻度は,1990年代に増加した.硬膜外に局所麻酔薬やオピオイドにステロイドを持続投与した場合,脳障害や死亡が発生している.モルフィン注入器などを使用して慢性疼痛管理に参加する麻酔科医はこの問題に留意してほしい.

[解説]慢性疼痛管理は,日本でも医療訴訟の大きな領域である.ポンプ使用が大きな原因なのは予想通りだが,ステロイドの重大性は予測しなかった.検討が必要かもしれない. (諏訪邦夫)

血管新生を自然界で理解し,工場での製造を可能にする

慢性疼痛管理と訴訟問題の検討

Hirschi KK, Skalak TC, Peirce SM, Little CD. Vascularassembly in natural and engineered tissues.

Ann N Y Acad Sci, 2002;961:223~242.

Fitzgibbon DR, Posner KL, Domino KB, Caplan RA,Lee LA, Cheney FW:American Society of Anesthe-siologists. Chronic pain management:American Societyof Anesthesiologists Closed Claims Project.

Anesthesiology, 2004;100(1):98~105.

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22

●医学一般・基礎医学

[目的]医療診断用X線の使用頻度によるがんのリス

クをイギリスとアメリカを中心に世界15ヵ国で推定す

る.

[背景]一般社会に対する放射線としては,医療診断

用X線は最大の範疇で,全放射線の14%と推定されて

いる.その有用性は否定しないが,がんのリスク因子

であることも否定しようのない事実である.

[方法]X線の使用量と個々の臓器への放射線量を推

定し,一方で生命表におけるがん発生率と比較した.

リスクモデルには,日本の原爆生存者のデータも使用

した.

[結果]1)イギリスでは,75歳の人のがんのうち,医

療診断用X線によるものが0.6%と算定された.

2)この数値は,年間700例のがん発生に等しい.

3)この率はアメリカでは少し高く,症例数は5,600

例である.

4)ほかの国では,イギリスと同率から最高で1.8%で

あった.

5)日本だけは例外で,この数値は 3 %に達した.

[結論]がん発生の種々の原因のうちで,医療診断用

X線に基づくものの率を算出した.この計算は各種の

不定な要因や条件に基づいており,かなりの誤差も否

定しない.しかし,極端に大きな推定の誤りはないだ

ろう.

[解説]Lancetのこの論文と,これに関係して記者が

紹介記事をNatureに書いたものが,日本の新聞でも

大きく喧伝された.「日本はX線の使用率が高い」と

いうのは多分事実だろうが,この点のデータは必ずし

も確実でない.「リスクモデルには,日本の原爆生存

者のデータも使用した」とは,原爆後に各種のがんが

多発していて,そのデータをつかったわけである.し

かし,著者も断っている通り原爆の場合はたいへんな

量の放射線であり,そのデータを医療診断用X線のよ

うに低レベルに当てはめて計算根拠にするのは問題だ

ろう.さいわい,日本の健診も最近はX線を使用しな

い方法,具体的には内視鏡・超音波・MRIなどに移行

している.

(諏訪邦夫)

[目的]「記憶」に対する薬物の作用を解説する.主にヒトを対象としている.

[内容]1)冒頭に「記憶」の意味を簡単に考察し,研究対象としての意義,麻酔学の役割を述べる.2)学理的な記憶研究以前にDavyやSnowが麻酔薬の

「記憶喪失作用」(amnesia)を記述している.3)学理的には1880年のEbbinghausに始まる.無意味な単語を覚えさせ,想起テストで記憶を定量化した.資料提出+記憶時間+想起テストという 3 つの要素を明快にした点でも意義が大きい.4)19世紀末,パヴロフの条件反射の研究登場.5)同じ頃,短期記憶(「電話番号をみて,ダイヤルする」)と長期記憶(日常活動につかう記憶や一生忘れない記憶)の区別が証明された.6)この 2 種の記憶は,1960年代に図式が確立した.短期記憶と長期記憶の関係(記憶の確立・保持・想起)などの証明である.7)「記憶」には,エピソード記憶(episodic:場所と時間と結ぶ.「昨夜は○○を食べた」)と意味記憶

(semantic:「○○は何度食べてもうまい」)に分かれる.8)「記憶」に対する薬物の作用研究では亜酸化窒素など吸入麻酔薬が広く使われてきた.9)バルビチュレート・ベンゾディアゼピンを研究に

導入したのも,Dundee・Hardyなど麻酔学者だ.10)1970年代に著者(Ghoneim)がこれを大幅に広げた.スコポラミン,オピオイド,プロプラノロル,ケタミン,カフェイン,マリファナ,その他である.11)薬物の「記憶」に対する研究の目的を述べる.12)1 つは薬物の臨床的有用性の尺度となる.たとえば,記憶喪失能は麻酔薬の重要な要素だ.13)もう 1 つは,病態モデルの意義で,スコポラミン投与はアルツハイマーのモデルに,ケタミン投与はコルサコフ症候群のモデルになっている.14)記憶の精神神経作用の研究にも使われる.ボランティアに薬物を投与する研究が典型である.15)次に「記憶とは何か」を概観する.まず脳の構造との関係を示し,ついで「脳の中の現象」および「記憶と学習」を解説する.16)研究方法を 6 ページも説明して第一部を終える.

[解説]ここに示したのは第一部である.長文だが,しっかり目次がついて構造がわかり,文章も明快で読みやすい.著者はこの領域を長く研究している麻酔科医.読んでから気づいたが,記憶研究は「憶えたい,学習したい」という欲望と結びついている.記憶による細胞や分子の変化の記述を期待したが,それは第二部にもない.

(諏訪邦夫)

医療診断用X線によるがんのリスク:世界15ヵ国の推定

Berrington de Gonzalez A, Darby S. Risk of cancerfrom diagnostic X-rays:estimates for the UK and 14other countries.

Lancet, 2004;363(9406):345~351.

薬物と記憶

Ghoneim MM. Drugs and human memory(1&2):clini-cal, theoretical, and methodologic issues.

Anesthesiology, 2004;100:987~1002 & 1277~1297.

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●特集:家庭医の腰痛治療

今回は,そもそも「腰痛」を調べようとしてスター

トしたが,テーマが広すぎることがわかって,いろい

ろと制限をつけてみているうちに,「家庭医の腰痛治

療」というテーマに限定することになった.

ここでは「腰痛治療ガイドライン」というのが問題

になっている.これはいくつかあるようだが,基本は

「活動を維持する」こと,鎮痛薬はNSAID,理学治療

として腰痛体操など主に筋力を鍛える,という組み合

わせのようである.一部に局所注射が入っているが,

硬膜外ブロックが家庭医の治療にないのは当然だろう.

論文としては,最初の 3 つが特にガイドラインを扱

っているが,「ガイドラインが患者要因を考慮に入れ

ていない」という指摘は,おそらく正しいだろう.

「家庭医が治療する腰痛」は,「腰痛という病態」でな

くて「腰痛をもった患者」だから,ガイドラインから

外れる場合が多々あって当然である.

たとえば,「独立健康老人の身体活動と腰痛」を横

断的に(経過を追わずに)検討した論文(Weinerらのも

の)で,「腰痛が身体障害を招き,独立生活をむずかし

くする問題は横断的研究では追跡できない」と研究者

自身が反省して指摘していたのが印象的であった.ま

た,ガイドラインが守られない問題を検討した研究

(Schersら)でも「高齢者や症状の長引いた場合は,活

動維持の助言が減る」という記述も,第一線の医療の

むずかしさを示している.ガイドライン作成が,そう

いう事情を知らずに行われているわけでもないだろう

が,「ガイドライン」とは所詮「大多数には当てはま

るが,例外はできる」のが当然だから無理もない.せ

っかく作ったガイドラインを守りたい,守るべきは一

方で当然だが,「規則は破られるためにある」も一面

の真理だ.

個々の論文で面白く感じたものを列記しておく.痛

いところに注射する場合,局所麻酔薬を使うのが常識

だが,生理食塩水でも効果は同じという論文(Yelland)

が面白い.「慢性疾患と喫煙」,「腰痛と喫煙」という

見事な着眼の研究(Musich)では,興味深い結果も得

られている.「腰痛の効用:The benefits of back

pain」という論文(Chew)は,タイトルにも仰天した

が,内容も面白かった.もっとも[解説]でも指摘し

た通り,「腰痛に特異的ではなくて,痛み患者に時に

みられる」現象ではないだろうか.意味は非常によく

わかるが,通例は医療関係者間の逸話的な話となるの

がふつうで,それが論文となって詳しく論じられてい

る点が興味深い.内容は,「多数の症例報告」的でや

や雑駁である.

(諏訪邦夫)

[目的]GP(一般家庭医)の腰痛診療を,EBMに基づ

くガイドライン治療と比較する.

[背景]イギリスの医療統計で腰痛の占める度合いは,

診療回数が年間 1 千 2 百万件,労働できなかった日数

が 5 千万日,費用は 1 千億円という.

[手法]匿名のアンケートとその回答による.

[研究の場]イギリス南西部の一区域.

[対象]家庭医236人を対象に匿名のアンケートを送

り,166人(70%)が回答した.

[方法]「通常の治療法」,「明らかに危険な症状のある

場合の対応」,「助言の仕方」,「治療の満足度」などを

幅広く検討した.

[結果]1)家庭医によっては反射機能の検査を施行し

ない人が27%程度いた(95%信頼限界は20%~34%.

この書き方は以下同じ).

2)知覚機能と筋力の検査は,家庭医で施行しない人

が多かった.

3)腰痛体操を教えないのが42%(34%~49%),身体

訓練を教えないのが34%(26%~41%),日常活動を教

えないなど,も少なくなかった.

4)明確な危険な症状があっても専門医受診を勧めな

い例も少数あった.実例は,肛門周囲の知覚鈍麻が

6 %( 3 %~11%),足底伸展反応異常が45%(37%~

53%),多数部位の神経症状が15%(10%~21%)など

である.

5)手を使う処置や鍼治療を試みる人もいた.

6)腰痛治療に満足していないと答えた家庭医がほぼ

3 分の 1 いた.

[結論]家庭医の腰痛治療は,ガイドラインに沿って

いない.家庭医は,危険な症状への認識が甘い.また,

症状が持続した場合の処置への認識も不足している.

ガイドライン側は,家庭医環境での証拠を整えること,

個々の処置の意義を積極的に説明する点などの検討が

必要である.

[解説]「ガイドラインが家庭医の診療状況に基づいて

いない」というのは納得がいく.こういう状況で証拠

を整えるのはたいへんだろうが.

(諏訪邦夫)

特集にあたって

家庭医の腰痛治療を標準ガイドラインと対比する

Little P, Smith L, Cantrell T, Chapman J, Langridge J,Pickering R. General practitioners’management of acuteback pain:a survey of reported practice compared withclinical guidelines.

BMJ, 1996;312(7029):485~488.

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●特集:家庭医の腰痛治療

[目的]家庭医の腰痛診療の変化,特に専門家に紹介

するまでの期間と時点の変化を,過去 5 年間にわたっ

て検討する.

[背景]診療ガイドラインは,不適切な診療を防止し

同時に能率を上げることを狙いとしている.しかし,

ガイドラインは数多いものの,その有効性は確認され

ていないものも多い.本研究では,家庭医の腰痛治療

と最新のガイドラインの関係を検討する.これは

“Waddell G et al. Low Back Pain Evidence Review.

London:Royal College of Gen. Prac, 1996.”としてパ

ンフレットで出版されたものである.

[研究の場]北ヨークシャー地域(イギリス)で1992年

1 月から1997年 3 月までの約 5 年間.

[対象]腰痛で家庭医を受診した574例の症例.

[測定項目]初診日,患者自身の治療行為,家庭医の

治療行為,事件の期間,診療までの期間.ほかに,年

齢と性.腰痛に関係した事件.「新しい腰痛」は受診

まで 1 ヵ月以内と定義した.

[方法]この研究は,大きな乱数化コントロール試験

の付属的な解析である.さらに,同じ区域で26の家庭

医から713回の照会・問い合わせも検討した.

[解析]双方とも,時間経過での傾向を解析し,基本

的には対数化線形回帰で分析した.

[結果]1)患者に活発な活動や運動を薦める傾向は,

年月の経過とともに強くなっていた.

2)これに対して安静を薦める傾向は,年月の経過と

ともに弱くなっていた.

3)活発な活動を薦める傾向は,若年患者を対象にし

て特に顕著であった.

4)患者側が,家庭医を訪れて診療を受ける頻度が高

くなっている.

5)発症から受診までの期間も短縮している.

6)治療内容は,活発な活動と運動,安静,物理治療,

NSAID,ほかの鎮痛薬などである.

[結論]家庭医の診療内容と新しいガイドラインのギ

ャップは小さくなった.しかし,診療内容には個人差

(医師と患者)が大きい.発症から受診までの期間が短

縮している点,患者の自己治療レベルも低下している.

ガイドラインの効用は大きいが,腰痛診療が最適レベ

ルに達するには時間がかかる.

[解説]詳しいデータが載っている.

(諏訪邦夫)

[目的]オランダで,腰痛を家庭医がどう治療してい

るかを記述し,この治療のうちで患者要因と医師要因

の関係を分析し,さらにガイドラインを守れない理由

を検索する.

[背景]腰痛治療のガイドラインが発表されているが,

どれだけ守られているかは疑問で,まだまだ改善の余

地があるというのが一般的な意見である.

[方法]前向き検討.30のクリニックで,57名の家庭

医を対象にコンピュータ使用のアンケートにより, 4

ヵ月間のデータを収集した.

[結果]1)腰痛患者は1,640例,そのうち1,180例が非

特異的腰痛と診察された.

2)診断的検査をオーダーしたのは,初診時には 2 %,

そのエピソード中の再診時全体で 7 %であった.

3)全体の70%に対し,非特異的腰痛では76%に対し

て,「活動を維持するように」という助言がされてい

た.

4)全体の41%に対し,非特異的腰痛では53%に対し

て鎮痛薬が処方され,その80%でNSAIDを使ってい

た.

5)理学療法士受診を勧められたのは,初診時で22%,

再診時を含めると50%に達した.

6)高齢者は,身体所見のチェックが少なく,鎮痛薬

処方が多く,「活動維持」の助言が少なかった.

7)症状が長引くと,「活動維持」の助言が減る傾向が

あった.

8)患者の性格や家庭医の要因による差はごく小さか

った.

[結論]腰痛治療のガイドラインは基本的に守られて

いる.守られない場合,ガイドライン側が明確な鑑別

法を示していない点が理由のことも多い.もう一つは,

患者の好みの要因である.これ以上ガイドラインを実

行するには,医師や患者の考え方をさらに調査して,

それをガイドラインの改訂版として組み込む必要があ

る.

[解説]得られているデータ自体にも,分析から引き

出している結論にもなかなか説得力がある.

(諏訪邦夫)

腰痛診療ガイドラインとくに家庭医に対して

Frankel BS, Moffett JK, Keen S, Jackson D. Guidelinesfor low back pain:changes in GP management.

Fam Pract, 1999;16(3):216~222.

家庭医の腰痛治療:何故ガイドラインを守れないか

Schers H, Braspenning J, Drijver R, Wensing M, Grol R.Low back pain in general practice:reported managementand reasons for not adhering to the guidelines in TheNetherlands.

Br J Gen Pract 2000;50(457):640~644.

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●特集:家庭医の腰痛治療

[目的]腰痛における積極休養治療(active sick leave:

ASL)の意義を 2 つのアプローチで,乱数コントロー

ル試験によって比較する.

[背景]ASLは,勤労者が病気で働けない場合に「し

っかり休んで仕事への早期復帰を図る」考え方である

が,そうした考え方の理解や使用は不十分である.

[対象]ノルウェーの 3 つの郡の65の地方自治体での

層別乱数コントロール試験による比較.

[方法]65の地方自治体を,消極介入,積極介入,コ

ントロールの 3 群に分ける.患者としては,腰痛で16

日以上仕事を休んでいる患者6,176人と,その雇用者,

家庭医,地区医療保険管理担当者など.消極介入群で

は,患者を診療した家庭医がASLのフォームを記し,

ガイドラインを教え,特に活動を続ける必要性を強調

する.積極介入群では,上記の各項目に加えて,

ASLに役立つリハビリテーション技術者の紹介と,

家庭医自身が勉強を続けるワークショップ参加を義務

付ける.コントロール群は,特に何もしない.

[結果]1)有効度の尺度として,患者がASLを使用

した頻度を測定した.

2)ASLを使用した頻度は,積極介入群で17.7%であ

り,消極介入群とコントロール群の11.5%よりも有意

に高かった.

3)積極介入で効果のあった手法は,直接詳しく話す

か電話による説得であった.

4)患者がASLを採用するのは,家庭医経由の場合と

家庭医をバイパスして直接採用する場合との両方がみ

られた.

5)成果は,家庭医の態度に大きく依存した.

[結論]ASLの使用頻度は,消極介入ではコントロー

ル以上には高まらなかった.これに対して,積極介入

によってある程度の改善がみられた.

[解説]ある程度は予想できる結果だが,それを実測

したことはそれなりに意義があるだろう.ASLは,

病気の時に「しっかり休んで仕事への早期復帰を図る」

ということで,言うのはたやすいが実行はむずかしい.

それをシステムとして強調する点が先進福祉国家たる

条件なのだろう.

(諏訪邦夫)

[目的]慢性腰痛患者に正しいフィットネスプログラ

ムを教え,さらに管理を続ける場合の効果をコントロ

ール試験で 2 年間追跡して検討する.

[背景]各種疾患に対して,フィットネスプログラム

で解決しようとするアプローチはいろいろあるが,ド

グマティックな言い方が多くて,実証は乏しい.腰痛

は,常識的にはフィットネスプログラムが有効と推測

される疾患カテゴリーである.

[研究の場]フィールド.

[測定項目]Oswestryの腰痛指標で,日常活動がどの

程度阻害されるかをみる.

[対象]国の健康保険で整形外科病院の理学療法科に

推薦された慢性腰痛患者81例を対象に,正しいフィッ

トネスプログラムを教えて管理する群と,特に教育し

ないコントロール群とに分けた.

[方法]管理群もコントロール群も腰痛体操を教わり,

ときどき登校してチェックを受けた.管理群では,特

に正しいフィットネスプログラムを教わる教室に 8 時

間出席した.

[手法]患者に治療を加え, 2 年間追跡調査する.

[結果]1)Oswestryの腰痛アンケートに答えた人は

62人(76%)で,平均年齢が37歳であった.

2)管理群もコントロール群もほぼ同数であった.

3)腰痛スコアの低下率は,管理群では7.7%(95%信

頼限界で 4 ~12)で,コントロール群の2.4%(-2 ~ 7 )

に比較すると,改善率は有意に良好であった.

4)腰痛持続率も,両群で 6 %あり(0.3~11.4)差はな

かった.

5) 2 年間の評価はできた.

6)この研究ではプラセボを含めていないから,正確

な 2 重盲検にはなっていない.また,例数も十分では

ない.

[結論]慢性腰痛に対しては,積極的にフィットネス

プログラムを教えて管理することが有効なようであ

る.さらに,プラセボを使った 2 重盲検試験で例数も

増した検討が望ましい.

[解説]最後の「プラセボを使った 2 重盲検試験」は

ほんとうに必要だろうか.こういうものは「有効に決

まっている」ように思えるが.もっとも,そんな考え

方は,著者のいう「ドグマティックな言い方が多くて,

実証は乏しい」面かもしれない. (諏訪邦夫)

腰痛治療対策:積極休養治療(ASL)の意義

慢性腰痛患者のフィットネスを図る:コントロール試験 2年の追跡

Scheel IB, Hagen KB, Herrin J, Oxman AD. A random-ized controlled trial of two strategies to implementactive sick leave for patients with low back pain.

Spine, 2002;27(6):561~566.

Frost H, Lamb SE, Klaber Moffett JA, Fairbank JC,Moser JS. A fitness programme for patients with chroniclow back pain:2-year follow-up of a randomised con-trolled trial.

Pain, 1998;75(2~3):273~279.

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●特集:家庭医の腰痛治療

[目的]大きなグループの独立健康老人を対象に,腰

痛の頻度と強度の関係を定め,さらにそれが身体活動

と日常生活に及ぼす影響を調査する.

[研究の場]地域の健康ABC(aging, body composi-

tion)調査.

[対象]年齢70~79歳の地区居住成人住民2,766例.

42%がアフリカ系アメリカ人,男子が52%.

[測定項目]1)腰痛の場所,頻度,強度.2)股関節

と膝関節の痛み,3)BMI,4)身体活動の困難な事柄

と程度(これは自己記述),5)下肢機能の評価.特定

検査法(Established Populations for Epidemiologic

Studies in the Elderly:EPESE)で評価,6)自分の健

康の自己評価,7)併存疾患,8)うつ状態:特定検査

法(Center for Epidemiological Studies-Depression:

CES-D),で評価.

[方法]上記項目を 1 時点で横断的に調査し,ほかの

各種身体試験のデータを組み合わせている.しかし,

時間を追った追跡はしていない.

[結果]1)腰痛は36%と頻度が高く,ほかの疼痛およ

び併在疾患と組み合わされることが多かった.

2)腰痛の頻度と強度は,EPESE採点と無関係であっ

た.

3)しかし,腰痛の頻度と強度は,自己申告による身

体障害や活動障害と関連が深かった.

4)本研究は横断研究で,追跡調査をしていない.腰

痛が身体障害を招き,独立生活をむずかしくする問題,

それに対処する問題などは別の研究が必要である.

[結論]腰痛は,独立健康老人の身体活動にあまり影

響していないが,身体活動を損なっているとは自覚し

ている.老人は,腰痛の頻度と強度で,自己の身体活

動が損なわれていると感じて,これが家庭医の治療法

に影響を与える可能性はある.

[解説]最後に,「腰痛が身体障害を招き,独立生活を

むずかしくする問題」を指摘しているのが重大だろう.

慢性疾患の場合, 1 時点の調査でなく「経過を追う」

アプローチが必須ということか.

(諏訪邦夫)

[目的]慢性腰痛患者に対して局所麻酔薬を含む溶液

を注入することの効果と,運動プログラムの効果を検

討する.

[研究の場]家庭医.

[対象]慢性腰痛患者110例.明確な原因のあるものは

除外.腰痛持続期間は平均で14年.薬物と運動とで

2 × 2 で乱数化.一重盲検法.

[使用薬物と機器]局所麻酔薬/ブドウ糖混合液か生理

食塩水.

[測定項目]痛みはVASで評価,活動障害度はRoland-

Morrisの障害スコアで評価.

[方法]上記110人を 3 群に分け,部位は圧痛のある腰

椎/骨盤靱帯付近に,局所麻酔薬+ブドウ糖混合液か

生理食塩水を局所注入した.コントロール群では注射

しなかった. 6 ヵ月にわたって,屈曲/伸展運動を行

うか,何もしないでふつうに生活するかも乱数化した.

VASとRoland-Morris障害スコアとでいずれも 2 ヵ月

半, 4 ヵ月, 6 ヵ月,12ヵ月,24ヵ月の時点で評価し

た.

[結果]1)追跡できたのは,12ヵ月までは96%,24ヵ

月までは80%であった.

2)靱帯注入で,腰痛も障害も軽減した.液体による

差はなく,コントロール群とは有意差があった.

3)局所麻酔薬+ブドウ糖液の効果は,生理食塩水と

同等であった.屈曲/伸展運動が,何もせずふつうに

生活するより特に優れた効果もなかった.

4)12ヵ月の時点で,疼痛値が50%以上低下していた

のは,局所麻酔薬/ブドウ糖液群で46%,生理食塩水

群で36%だった.

5)同じ12ヵ月の時点で,疼痛値が50%以上低下した

のは,運動群で41%,正常活動群で39%であった.

6)12ヵ月の時点で,活動障害が50%以上低下してい

たのは,局所麻酔薬/ブドウ糖液群で42%,生理食塩

水群で36%だった.

7)結局,群間の差はなかった.

[結論]慢性腰痛の場合,靱帯内注射によって有意で

持続的鎮痛効果が得られる.効果は,注入液の種類や

併用する運動の種類には依存しない.

[解説]タイトルを見たときはバカバカしいと思った

が,「局所麻酔薬でも生理食塩水でも効果は同じ」と

いう結果がすごい!

(諏訪邦夫)

独立健康老人の身体活動に腰痛がどう影響するか.ABC調査と将来への展望

Weiner DK, Haggerty CL, Kritchevsky SB, Harris T,Simonsick EM, Nevitt M, Newman A;Health, Aging,and Body Composition Research Group. How does lowback pain impact physical function in independent, well-functioning older adults? Evidence from the Health ABCCohort and implications for the future.

Pain Med, 2003;4(4):311~320.

腰痛の注射療法:注射薬と運動のコントロール臨床試験

Yelland MJ, Glasziou PP, Bogduk N, Schluter PJ,McKernon M. Prolotherapy injections, saline injections, andexercises for chronic low-back pain:a randomized trial.

Spine, 2004;29(1):9~16.

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27

●特集:家庭医の腰痛治療

[目的]喫煙中断が医療費に及ぼす影響を関節痛・ア

レルギー・腰痛など慢性障害のある群と,こういう慢

性障害のない群とで検討する.

[研究の場]GMの会社の勤労者.1996年の時点での

喫煙中断が医療費に及ぼす影響を1999年までの 4 年間

で検討した.

[対象] 2 万人余りの勤労者とその配偶者で1996年に

健診を受けた人とその喫煙状況を,その後 4 年間の健

康保険との関係で評価した.

[方法]1996年の時点での喫煙自己報告によって 6 群

に分類した.喫煙者,喫煙中止者( 4 年未満, 5 ~ 9

年,10~14年,15年以上の 4 群),非喫煙者の 6 群で

ある.さらに,関節痛・アレルギー・腰痛の有無が医

療費に及ぼす影響を検討した.また,非喫煙者をほか

の喫煙者,喫煙中止者と比較した.

[結果]1)慢性疾患のない群で,喫煙者と喫煙中止 4

年以内の者は,非喫煙者よりも医療費が高かった.

2)金額は喫煙者で3,613ドル,喫煙中止 4 年以内の者

で3,356ドル,非喫煙者で2,203ドルであった.

3)慢性疾患のある群でも,喫煙者と喫煙中止 4 年以

内の者と喫煙中止 5 ~ 9 年の者とは,非喫煙者よりも

医療費が高かった.

4)金額は喫煙者で4,200ドル,喫煙中止 4 年以内の者

と喫煙中止 5 ~ 9 年の者で4,000ドル,非喫煙者で

3,100ドルであった.

[結論]喫煙中止が医療費を下げる効果は,慢性疾患

のない患者で 5 年,慢性疾患のある患者では10年経過

して,ようやく非喫煙者のレベルに近づく.医療関係

者が,勤労者に禁煙プログラムを勧める場合,こうし

た費用を検討するように説得する資料に使えそうだ.

[解説]喫煙だけを取り上げた研究は多いが,このよ

うに「慢性疾患と喫煙」,「腰痛と喫煙」という着眼の

研究は少ない.しかも,たいへんに具体的で興味深い

結果が出ている.喫煙を中止しても,はじめから喫煙

しないのと同等レベルの健康に戻るには 5 年も10年も

要するという結論も説得力がある.

(諏訪邦夫)

[目的]早期腰痛の検討に必要なデータとして,患者

の日誌を使うパイロット研究である.

[背景]腰痛患者は家庭医にとって重要なグループで

あるが,ケアはけっこう困難で患者も医療担当側も不

満が多い.最近では,説明の仕方の改善と早期に理学

治療を開始することが勧められている.

[研究の場]イギリス北チェスシャー地方.

[対象]家庭医は17人で, 3 万 2 千人の患者を対象と

している.18歳~65歳までの腰痛新患.「新患」の定

義は,それからさかのぼる 6 ヵ月間に診療の記録がな

いことである.

[方法]この研究は,腰痛と理学療法の関係を解析す

る大掛かりな研究の一部である.家庭医と理学療法士

が腰痛を治療する際に,疾患状態を患者に記録しても

らってこれを一次データとし,さらに定量分析可能な

データに変換した.まず,インタビューして日誌を書

くことを了承した患者を対象とした.日誌は 3 人の研

究者が独立に読んで,必要なデータを抽出した.

[結果]1)患者615名が日誌を提供した.患者グルー

プは多彩であったが,日誌を書くことの受否は,グル

ープでの差はなかった.

2)匿名を希望したのは 1 例だけだった.

3)日誌の内容は,活動不能・痛み・情動反応など多

岐にわたった.

4)日誌の解析により,腰痛のケアにおいて心理面の

支持が重要と判明した.

5)日誌をつけた患者は,理学治療開始が早い傾向が

あった.

6)日誌を読む時間は 1 例あたり平均 2 分強であった

が,時間が長いほどデータが正確になる傾向があった.

7)日誌を読んだ 3 人の時間は,データごとに相関が

高かった.

[結論]新しく発生した腰痛においては,患者自身が

日誌をつけることが実用的で価値も高い.しかも,こ

の日誌は医師にとっても重要な情報となり,患者の診

療に直接役に立ちそうである.

[解説]論文本体には,データ処理の問題が詳しく説

明されている.

(諏訪邦夫)

関節痛・アレルギー・腰痛の有無と喫煙中断が医療費に及ぼす影響

早期腰痛:患者の日誌をデータとするパイロット研究

Musich S, Faruzzi SD, Lu C, McDonald T, HirschlandD, Edington DW. Pattern of medical charges after quit-ting smoking among those with and without arthritis,allergies, or back pain.

Am J Health Promot, 2003;18(2):133~142.

Miller JS, Pinnington MA, Stanley IM. The earlystages of low back pain:a pilot study of patient diariesas a source of data.

Fam Pract, 1999;16(4):395~401.

Page 30: 42 4C - Fuji Pharma Co Ltd › column › anesthsia › pdf › 42.pdf“desflurane”のうち2つのキーワードを組み合わせ て検索した. [結果]1)最終的なメタ解析には,58文献が使用され

28

●特集:家庭医の腰痛治療

[目的]アメリカ合衆国で,腰痛患者が消費する医療

費,そのうちで腰痛自体に基づく部分,それに働く要

因などを分析する.

[背景]アメリカ合衆国で,腰痛患者が消費する医療

費,そのほかのデータ調査は最近行われていない.

[方法]1998年度の医療費調査データに基づいている.

金額は,腰痛患者全体と患者一人あたりとを検討した.

消費パターンの調査にあたっては,患者をいくつかの

パラメーターで層別した.具体的には,社会階層・診

断・個々の層での個人消費などである.

[結果]1)1998年に腰痛患者が消費した医療費の増額

は900億ドル( 1 兆円)である.このうち,腰痛自体に

消費したのが30%弱である.

2)腰痛のない一般患者と比較すると,患者に腰痛が

加わると,医療費を60%余分に(3,500ドルと2,200ドル)

消費している.

3)腰痛患者では,出費の75%が上位25%の出費とな

っている.

4)患者個人の要因分析では,出費を多くする要因は,

老人・女性・白人・医療保険の存在・椎間板障害の存

在などが検出された.

[結論]1998年度,アメリカ合衆国での腰痛への出費

は巨額である.個々の患者で,出費の度合いは異なり,

臨床状況・社会条件・デモグラフィなどに依存する.

[解説]こういう調査は,元のデータがあれば実に容

易で,たとえばエクセルに流し込めば「何かもっとも

らしい結果」はすぐに出てくる.本研究者自身が何か

を行ったのか,何もしていないのかはわからない.も

し,すでにあるデータを解析しただけなら,あまりに

も「記述だけ」に限定されている.そうしたデータを

示して「何かを導き出そう」「何かものを言おう」と

いう積極的な意欲がほとんど感じられない.その点が,

残念である.

(諏訪邦夫)

[目的]慢性腰痛患者が痛みをどう描写し,それが生活にどう影響するかを検討し,さらに家庭医の診察でそれがどう処理できるかを詳しく探索する.

[背景]慢性腰痛は原因が不明で,家庭医が診る機会の多い疾患である.頻度が高いので,家庭医の仕事としてはかなり大きな部分を占めるといえよう.また,仕事を欠勤する原因ともなるので,社会経済への影響も大きい.

[方法]一般診療所に設けた腰痛クリニックを訪れる患者を対象に,インタビューした.インタビューの内容は,ある程度はあらかじめ構成している.解釈と分析は理論アプローチを利用した.

[結果]1)慢性腰痛患者は,勤務を含めて正常社会義務から「退散する」と述べている.2)患者によれば,医師は助けてくれない,医師の助けが得られないのだから,社会的経済的な活動不能は

「合法として許される」べきだと主張する根拠に医師がなっているようだ.3)この態度は,慢性腰痛患者以外にも,たとえば遺伝性疾患でもみられる場合があり,また患者によっては,慢性腰痛自体が遺伝だと主張する.4)とにかく,患者は自らを社会から隔離し,日常生

活の責任と義務を放棄する.5)患者によっては,心理状況が腰痛に影響していることを自ら認識している場合もある.6)腰痛患者と医師とは,矛盾した,あるいは相反した役割に立って「交渉している」場合さえある.腰痛患者は専門家の診療を避ける傾向があり,一方で家庭医のところはよく訪れる例が多い.7)社会学の領域で知られている状況を当てはめれば,

「専門家の診療を受けると痛みを止められてしまう」ので,後は苦情の持って行きようがなくなるが,「家庭医なら痛みを止められないので,自分の味方にしておける」ということだ.

[結論]慢性腰痛の患者は,「家庭医に対して力を持っている」関係にある.家庭医側からみると,患者のこの力に正面から挑戦すれば,医師と患者の関係を必ず損なうことになる.妥協して損なうまいとすれば,

「病気だと主張する患者の定義に家庭医も共謀」することになり,これは患者自身のためにもならず,もちろん社会からみても不利益が大きい.

[解説]タイトルを読んでギョッとなった.解釈はたいへんに面白いが,この問題は慢性腰痛に限らない.いろいろなタイプの疼痛患者でみられる現象と思う.症例を挙げて説明している. (諏訪邦夫)

腰痛患者の医療費とその要因

Luo X, Pietrobon R, Sun SX, Liu GG, Hey L. Estimatesand patterns of direct health care expenditures among indi-viduals with back pain in the United States.

Spine, 2004;29(1):79~86.

腰痛の効用

Chew CA, May CR. The benefits of back pain.Fam Pract, 1997;14(6):461~465.