29
1 4.半導体の発光 半導体の発光は通常、蛍光(ルミ ネッセンス:luminescence)と呼ば れている。これは励起状態から基底 状態への電子遷移によるもので、状 態間に相当するエネルギーを光子と して放出する。 半導体の発光には図示するような 幾つかの過程が存在する。励起状態 や基底状態としては、伝導帯、価電 子帯、不純物レベル(ドナ、アクセプタ)や欠陥準位がある。また、電子と正孔がクーロ ン引力でお互いに引き合った状態である励起子も発光過程に寄与する。図1に半導体にお ける種々の遷移による発光を示す。これらは以下に示すように主に5つの遷移に分類され る。 1.バンド間遷移 (band-to-band transition) 2.バンドと不純物(欠陥)レベル間遷移 (free-to-bound transition) 3.ドナ・アクセプタペア遷移 (donor-acceptor pair transition) 4.自由励起子遷移 (free exciton transition) 5.束縛励起子遷移 (bound exciton transition) また半導体の発光は、直接遷移形および間接遷移形半導体で大きく異なる。図2に両遷移 型半導体のバンド間遷移による発光を示す。光学遷移ではエネルギーおよび運動量が保存 される。直接遷移形半導体では光子の運動量がブリルアンゾーンの大きさに対して無視し うる為に空間では電子は直に伝導帯から価電子帯に遷移し、図2の例では発光はバンド ギャップエネルギーに等しい。これに対して間接遷移形半導体では、光子の運動量が小さ いために運動量保存の法則より伝導帯の底から価電子帯の頂上への直接の光学遷移はおこ らない。伝導帯の底と価電子帯の頂上の波数の差を持つフォノンを放出することにより運 動量が保存される。発光のエネルギーはバンドギャップエネルギーよりフォノンのエネル ギーだけ低くなる。このような遷移は、 伝導帯の電子がフォノンに散乱される確 率が低い為、非常におこりにくい。しか し極低温では、フォノンを放出した励起 子遷移が観測され、間接遷移形シリコン では励起子を束縛する不純物が詳細に同 定されており、高感度の不純物の検出法 として用いられることがある。 n=1 n=2 D-A pair free exciton bound exciton band to band free to bound conduction band valence band n=1 n=2 D-A pair free exciton bound exciton band to band free to bound conduction band valence band 図1 半導体の発光過程 図2 直接遷移形および間接遷移形半導体に

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4.半導体の発光

半導体の発光は通常、蛍光(ルミ

ネッセンス:luminescence)と呼ば

れている。これは励起状態から基底

状態への電子遷移によるもので、状

態間に相当するエネルギーを光子と

して放出する。

半導体の発光には図示するような

幾つかの過程が存在する。励起状態

や基底状態としては、伝導帯、価電

子帯、不純物レベル(ドナ、アクセプタ)や欠陥準位がある。また、電子と正孔がクーロ

ン引力でお互いに引き合った状態である励起子も発光過程に寄与する。図1に半導体にお

ける種々の遷移による発光を示す。これらは以下に示すように主に5つの遷移に分類され

る。

1.バンド間遷移 (band-to-band transition)

2.バンドと不純物(欠陥)レベル間遷移 (free-to-bound transition)

3.ドナ・アクセプタペア遷移 (donor-acceptor pair transition)

4.自由励起子遷移 (free exciton transition)

5.束縛励起子遷移 (bound exciton transition)

また半導体の発光は、直接遷移形および間接遷移形半導体で大きく異なる。図2に両遷移

型半導体のバンド間遷移による発光を示す。光学遷移ではエネルギーおよび運動量が保存

される。直接遷移形半導体では光子の運動量がブリルアンゾーンの大きさに対して無視し

うる為にk空間では電子は直に伝導帯から価電子帯に遷移し、図2の例では発光はバンド

ギャップエネルギーに等しい。これに対して間接遷移形半導体では、光子の運動量が小さ

いために運動量保存の法則より伝導帯の底から価電子帯の頂上への直接の光学遷移はおこ

らない。伝導帯の底と価電子帯の頂上の波数の差を持つフォノンを放出することにより運

動量が保存される。発光のエネルギーはバンドギャップエネルギーよりフォノンのエネル

ギーだけ低くなる。このような遷移は、

伝導帯の電子がフォノンに散乱される確

率が低い為、非常におこりにくい。しか

し極低温では、フォノンを放出した励起

子遷移が観測され、間接遷移形シリコン

では励起子を束縛する不純物が詳細に同

定されており、高感度の不純物の検出法

として用いられることがある。

○ ○

n=1

n=2

●●

D-Apair

free exciton bound excitonband to band free to bound

conduction band

valence band

○ ○

n=1

n=2

●●

D-Apair

free exciton bound excitonband to band free to bound

conduction band

valence band

図1 半導体の発光過程

図2 直接遷移形および間接遷移形半導体に

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4.1 バンド間遷移

伝導帯の電子が価電子帯の正孔と再結合することによる発光である。主に直接遷移形半

導体で主要な発光過程であり、発光デバイス応用としてのLEDや半導体レーザで重要な

再結合過程である。純粋で完全性の良い直接遷移の III-V 化合物半導体では、室温ではバ

ンド間遷移が支配的な発光過程である。低温で弱励起の条件では、自由キャリアは励起子

状態に緩和するか不純物に束縛される方が安定であるため、これらの遷移がバンド間遷移

に比べて優勢となる。バンド間遷移は kT>EB(EBは励起子や不純物の束縛エネルギー)の高

温領域では、これらが解離して生じる高濃度の自由キャリアの為のバンド間遷移が優勢と

なる。また、間接遷移形半導体では、運動量保存の法則より厳密な意味での(フォノンが

介在しない)バンド間遷移は観測されない。

発光エネルギーはバンドギャップエネルギーで決められる。発光スペクトルは伝導帯の

電子と価電子帯の正孔の再結合であるため、電子と正孔のエネルギー分布を反映する。ま

た発光強度は遷移確率(行列要素)に比例する。遷移には、エネルギー保存則と運動量保

存則が成り立つ。行列要素がエネルギーに依存せず、バ

ンドの有効質量が波数に位存ぜず一定であると仮定す

ると、バンド間遷移の発光スペクトルは次のように表さ

れる。

I(hν) ∝ ν2(hν-Eg)fefh

fe、と fhはそれぞれ電子と正孔の分布関数である。

電子と正孔の分布がMaxwell-Boltzmann分布で近似でき

るならば、発光スペクトルは次式で表される。

I(hν) ∝ ν2(hν-Eg) exp[ - (hν-Eg)/kT]

発光ピークエネルギーは Eg+kt/2 であり、半値幅 FWHM

は 1.8kT である。発光スペクトルの特徴は、スペクトル

の形状はキャリア分布を反映するために次のようにな

る。

(1) バンドギャップエネルギーを低エネルギーのし

きい値とする。

(2) ピークより低エネルギーでは状態密度を反映し

て鋭く立ち上がる。

(3) ピークより高エネルギーは分布関数を反映して

指数関数的に減衰する。

(4) 発光のピークは、理論ではバンドギャップより

kT/2 高いエネルギーを持つ。

図3 InGaAsP/GaAs のバンド端

近傍の発光スペクトルとその温度

依存性(液相エピタキシャル法)。

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(5) 半値幅は温度に比例し、理論では 1.8kT である。

一般に観測される半導体のバンド間遷移による

発光は上の(2)と(3)により特徴づけられる。

しかし、(1)に関して現実には、状態のすそや

不純物の関与した遷移の影響を受けるためにバン

ドギャップよりやや低いエネルギーまで発光が存

在する。また(4)に関しては、ピークエネルギ

ーがバンドギャップエネルギー付近にあることが

多い(図2)。これらの意味で、純粋なバンド間

遷移の同定は難しく、特に浅い不純物や励起子の

関与した発光との区別が難しい。従って、これら

を Near-band-edge emission と総称することがあ

る。

フリーキャリアの再結合速度はキャリア濃度積

と行列要素に依存する因子に比例し、n2B で表され

る。定数Bは詳細平衡の原理により、逆過程であ

る光吸収に関係づけられる。キャリア寿命はτ=

1/nBで表され、キャリア濃度の増加に伴い減

少する。GaAsではB≒10-9 cm-3s-1であり、キャリア濃度を n=1016cm-3以下とすれば、バ

ンド間遷移の寿命は 10-7 s (100 ns)と見積もることができる。

図3に GaAs 基板に液相エピタキシャル法(LPE法)により成長した In0.49Ga0.51P0.99As0.01

のフォトルミネッセンススペクトルを示す。バンド端付近の発光線(74-280K)は主にバン

ド間遷移によるものであり、上の特徴(2)、(3)を持っている。また、低温では不純

物準位の関与する発光と区別がつかない。これ

らは発光ピークエネルギーとバンドギャップ

を種々の温度により比較することにより発光

起源の考察が可能である。また、半値幅は結晶

の完全性を示す指標であり、1,8kT からの広が

りが完全性からのずれである。また、発光の半

値幅が 1,8kT より小さい場合、発光に励起子が

関与する可能性がある。

図5に、基板の GaAs との室温の格子不整合

度の異なる In0.49Ga0.51P0.99As0.01 エピ層のフォ

トルミネッセンススペクトルを示す。結晶成長

図5 InGaAsP/GaAs のバンド端発光ス

ペクトルの格子不整合度依存性。

図4InGaAsP/GaAs のバンド端

近傍の発光ピークの温度依存性

Egはエレクトロリフレクタンス法で

測定したバンドギャップエネルギー。

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温度(800℃)で格子が整合するΔa/a=0.20%のものの半値幅が も小さく、良い結晶性

であることがわかる。格子不整合の大きな結晶性の低下した試料ではバンドギャップ以下

の(主にピークより低エネルギー)の発光が顕著になることがわかる。

4.2 バンドと不純物レベル間の遷移

伝導帯からアクセプタ準位、あるいはドナ準位から価電子帯への遷移である。自由なキ

ャリアの状態と不純物に束縛された状態の遷移であるので、free-to-bound transition

(F-B 遷移)と呼ばれることが多い。遷移はバンドと単一の準位の間の遷移であるので、発光

スペクトルは伝導帯あるいは価電子帯のキャリア分布を反映する。スペクトルを記述する

関数形はバンド間遷移の形状と同じであるが、不純物のイオン化エネルギー(Ea)だけ低エ

ネルギーにシフトする。)

I(hν) ∝ ν2(hν-Eg-Ea)exp[ - (hν-Eg-Ea)/kT]

図6に高純度の GaAs エピタキシャル層の発光スペクトルを示す。発光スペクトルの形状は

上式に良くフィットしており、ピークより高エネルギーの発光が発光エネルギーの増加に

伴い exp[-(hν-Eg-Ea)/kT]を反映して指数関数的に減少することがわかる。

図7に Cd をドープしたp形 GaAs のフォトルミネッセンススペクトルを示す。図では、

高エネルギーの理論式とのフィットは良いが、低エネルギーのフィットが悪い。これは不

図6 高純度の GaAs エピタキシャル層のフォトルミネッセンススペクトル

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純物ドーピングによりバンドの状態に裾が生じていることを示している。また20Kと80

Kを比較すれば20Kで低エネルギーのフィットが非常に悪く、これは低温では状態に裾の

みならず、低エネルギーに異なる発光帯が現れていることによるものと思われる。

図7 Cd をドープしたp形 GaAs のフォトルミネッセンススペクトル

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4.3 励起子発光

図8 極低温で測定したCdSの吸収端付近の発光スペクトル。自由励起

子、束縛励起子発光とフォノンレプリカが観測される。

図9 極低温(4.2K)での高純度 GaAs 結晶の高分解能フォトルミネ

ッセンススペクトル。自由励起子、束縛励起子発光が観測される。

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4.4 自由励起子発光

自由励起子は、純粋な半導体において電子・正孔が も低いエネルギーを持つことがで

きる真性励起状態である。自由励起子発光は完全性と純度の高い結晶において kT<EB(EBは

励起子の解離エネルギー)の低温で観測される。発光エネルギーは

EPL = Eg-EB/n2

となる。光吸収スペクトルと同様に、n=1 から始まる離散的な励起子の系列(n=1, 2, …)

の発光スペクトルが観測される。図10に自由励起子による光吸収と発光スペクトルの概

要を示す。光吸収では励起子吸収と半導体のバンド間励起による基礎吸収の両者が重なり

n=3 以上の励起子吸収ピークは重なり合ってバンドとなりこれがバンド間遷移の吸収帯と

重なり図110のような連続吸収帯となる。自由励起子発光は、低温ではバンド間遷移の

発光が現れないために、n=3 以上の発光バンドは図10のように高エネルギー側に裾を引く

ような形状を示す。

図10 自由励起子による光吸収と発光スペクト

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4.5 励起子ポラリトン

物質の基底状態から励起状態に光により励起された場合、励起に使われた光子は一回の

励起で消滅し、それ以降はこの消滅量が光減衰量となる立場で議論された。

しかし、光と電子の相互作用のハミルトニアンには、光子の吸収を表す消滅演算子の他

に、光子の放出を表す生成演算子が含まれている。従って、光子が吸収されて励起子がつ

くられれば、次はこの励起子が消滅して光子がつくられ、この繰り返しにより励起が物質

中を伝搬すると考える立場がある。今、エネルギー損失が無いと仮定する。入射光により

励起が生じれば、入射光は減衰せずに物質を透過し、全体として光吸収が無いことになる。

光と励起子の間に順次に変換が起きている状態、すなわち光と励起子の混合の状態を考え

ることにより物質中の励起子の正確な描像が得られる。

物質中での光の電磁場と、それがつくる分極波の波動の連成波はポラリトンとして知ら

れている。光の電磁場と励起子の分極波の混合状態とそれらの連成波を励起子ポラリトン

と呼ぶ。また、光の電磁場と横型光学フォノン(TOフォノン)のつくる分極波の連成波

はフォノンポラリトンと呼ばれ、励起子ポラリトンとは明確に区別される。

図11に光の分散関係と励起子の分散曲線を示している。この両者の交点付近では光子

と励起子が混合し両者を区別できない励起子ポラリトンが形成される。交点よりも低波数

図11 自由励起子と光子の分散

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では励起子の upper poraliton branch (UPB)が形成され、k=0 において励起子の縦波のエ

ネルギーEL を持つ。もともとの励起子の k=0 でのエネルギーは横波のエネルギーET であ

る。同時に、光子の性格を持つ lower polariton branch (LPB) が形成される。交点付近

では、光子と励起子が混合して区別が付かないポラリトン状態である。交点より高波数に

なると再び両者はそれぞれの分散関係に漸近し、光子と励起子のそれぞれの性質を示すこ

とが図1よりわかる。

実際に非常に純粋な歪の無い完全性の高い半導体結晶の低温の自由励起子発光ピークは、

二つのピークに分裂して観測されることが多い。

図12は高純度 GaAs の低温(2K)でのフォトルミネッセンススペクトルを示している。

1.515eV に自由励起子発光が、それより低エネルギーの 1.514eV に強い束縛励起子発光がみ

られる。1.515eV の自由励起子発光は約 0.3meV 異なる2つのピークに分裂しており、これ

が励起子ポラリトンの特徴である。ELより高エネルギーのピークはポラリトンの UPB からの

発光であり、ELより低エネルギーのピークはポラリトンの LPB からの発光である。

図12 高純度 GaAs の低温(2K)でのフォトルミネッセンススペ

クトル。ポラリトンによる UPB および LPB の発光が観測される。

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4.6 束縛励起子発光

束縛励起子発光は、完全性の高い半導体結晶において低温で顕著な発光である。次にの

べるが、束縛励起子発光は非常に鋭い発光線である(半値幅は 0.1meV 程度)であるため、

高分解能の測定より 0.1meV の精度で発光線のエネルギーを求めることが可能である。束縛

励起子の発光エネルギーは、不純物およびその電荷状態(中性あるいはイオン化)により

異なる。従って、束縛励起子発光の測定により半導体に含まれる不純物の種類とその荷電

状態、および濃度を非常に高い感度で検出することが可能である。現在、著名な半導体(Si,

Ge, GaAs, Ga, CdS, ZnSe など)では励起子を束縛する不純物と束縛励起子発光のエネルギ

ーが詳しく調べられており、発光エネルギーにより不純物の同定ができる。しかし、この

同定には、低温測定(10K 以下)が必要であり、試料を歪無く低温に冷却すること、および

測定に用いる分光器の分解能と波長の校正は十分に慎重に行う(0.1meV 以下にする)こと

が重要となる。束縛励起子発光の特徴を以下に述べる。

自由なキャリアが無いため、発光線幅は非常に狭い。従って、低濃度の束縛励起子であ

っても発光線強度は大きくなる。束縛励起子遷移における振動子強度は非常に大きい

(giant oscillator strength と呼ばれる)。この理由は、振動子強度は R3に比例する、R

は束縛励起子の波動関数の広がりである。一般に励起子は弱く不純物に束縛される為、R

は大きく、従って振動子強度は大きくなる。不純物による励起子の捕獲確率は大きい為、

束縛励起子を介した再結合過程は効率的な過程である。

束縛励起子局在エネルギー

束縛励起子にエネルギーを与えることにより、束縛励起子は不純物からの束縛が解かれ

て自由励起子となる。このエネルギーを励起子局在エネルギーと呼ぶ。局在エネルギーは

小さい値である(自由励起子の束縛エネ

ルギーの数分の一)ので、極低温で優勢

な発光であった束縛励起子発光が温度の

増加に伴い、発光強度が急激に減少する。

測定温度を上げると、束縛励起子の相対

発光強度が減少し、逆に自由励起子発光

の相対強度が増加する。このように、発

光の温度依存性より励起子発光の起源の

同定が行われることが多い。次に述べる

ように、束縛励起子の局在エネルギーは、

励起子を束縛する不純物のイオン化エネ

ルギーと関係があり、不純物のイオン化

エネルギーが大きいほど局在エネルギー

図13 GaP での中性ドナおよび中性アクセ

プタに束縛された励起子の局在エネルギーと

不純物のイオン化エネルギーの関係。

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は大きい。両者には直線関係があり、これを Hayns 則と呼ぶ。

Hayns 則

束縛励起子における局在エネルギーEloc

と不純物のイオン化エネルギーEaの間に

は関係があり同一半導体では励起子局在

エネルギーElocは

Eloc=a + b Ea

と表される。シリコンでは a=0, b=0.1

であり励起子局在エネルギーは不純物の

イオン化エネルギーに比例する。間接遷

移の GaP では aはゼロでない。

このようにして、励起子局在エネルギー

を求めることにより、励起子を束縛する

不純物のイオン化エネルギーを見積もる

ことができる。

間接遷移形半導体における束縛励起子発光の例

GaPとシリコン

図14にSやSeをドープしたGaPの、図15にLiをドープしたSiの束縛励起子発

光の例を示す。GaPやSiは間接遷移形半導体であるので、運動量保存則を満たすため

には、束縛励起子遷移にフォノンの放出が必要とされる。両物質ともに低温の発光スペク

トルでは、音響フォノン(TA、LA)と光学フォノン(TO,LO)を放出した発光線

が観測されている。LiをドープしたSiの発光では b1 から b10 までの発光線系列が観測

されるが、これはマルチエキシトンコンプレックスの発光線系列であり多数の励起子が Li

不純物に束縛されて生じる。

図13 GaP での中性ドナおよび中性アクセ

プタに束縛された励起子の局在エネルギーと

不純物のイオン化エネルギーの関係。

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図14 硫黄およびセレンをドープしたGaPでの束縛励起子発光

図15 Liをドープしたシリコンの束縛励起子発光。

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励起子の解離エネルギーと電子と正孔の有効質量比

Hopfield と Sharma and Rodriguez は独立に有効質量近似により束縛励起子に対して、励

起子の局在エネルギーを電子と正孔の有効質量比σ=me/mhに対して求めた。図16に中性お

よびイオン化したドナおよびアクセプタに束縛された励起子の解離エネルギーを示す。波

線は Hopfield の結果、実線は Sharma and Rodriguez の結果である。次の4種類の束縛励

起子の特徴を述べる。

① イオン化ドナに束縛された励起子

Hopfield は、Teller の波動関数と水素分子 H2+の有効ポテンシャルを用いた量子化学的

手法を用いた。励起子はσ=me/mh<0.71 のときイオン化ドナに束縛されると結論づけた。一

方で、Sharma and Rodriguez は詳細な変分計算を行い、(D+,X)複合体(イオン化ドナに束

縛された励起子)は 0<σ=me/mh<0.2 で安定であることを見いだした。両者における比較的

大きなσ値の矛盾は、束縛が生じる限界付近でのみ生じる。イオン化ドナに束縛された励

起子(D+,X)の局在エネルギーは、比較的小さなσ(値 0<σ=me/mh<0.15)では両者は良く一

致していることに注目したい(図16の下図の左端近傍)。Hopfield の結果では、σ

=me/mh>0.2 でも、励起子は弱くイオン化ドナに束縛される(局在エネルギーは小さいがゼロ

では無い)と考えられるが、Sharma and Rodriguez の結果では束縛は生じない。これに関

しては Sharma and Rodriguez の詳細な計算の方が信頼性は高いと考えられる。

② イオン化アクセプタに束縛された励起子

イオン化アクセプタに束縛された励起子の局在エネルギーの荒い近似値は、イオン化ド

ナ束縛励起子(D+,X)の計算において電子と正孔の有効質量を入れ替えることで得られる(分

子の電荷の符号を入れ替えることにおよそ等価である)。この方法は Hopfield により行わ

れσ=me/mh>1.4 で励起子はイオン化アクセプタに束縛される。励起子は 0.72<σ=me/mh <1.4

の範囲では励起子はイオン化ドナにもイオン化アクセプタにも束縛されない。

Sharma and Rodriguez は、正孔の動力学的な効果が Hopfield の手法では無視されている

ことを指摘し、σ=me/mh>4 と同様に 0<σ=me/mh<0.25 の範囲でも励起子はイオン化アクセ

プタに束縛されることを示した。

しかし Levy Leblond は Hopfield の手法を支持し、同一物質で励起子が同時にイオン化

ドナとイオン化アクセプタに束縛されることは無いと主張した。

③ 中性ドナに束縛された励起子

Sharma and Rodriguez は中性ドナに束縛された励起子の局在エネルギーを計算したが、

中性アクセプタについての計算は示されていない。Hopfield は中性ドナ・アクセプタに束

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縛された励起子の局在エネルギーの結果を示した。図16の上図からわかるように、中性

ドナに束縛された励起子はσ=me/mh の全ての値で安定である。Haynes は励起子局在エネル

ギーを見積もる場合、経験的な値として、励起子局在エネルギーは不純物のイオン化エネ

ルギーの約10%であることを見いだした。これは Haynes 則とよばれており、図16に示

される詳細な計算により実証された。

④ 中性アクセプタに束縛された励起子

中性アクセプタに束縛された励起子はσ=me/mh の全ての値で安定である。Hopfield の結

果は図16の上の図に示されている。(A0,X)励起子局在エネルギーEloc≅0.1ΔEA であり、こ

れは Haynes 則と良く一致している。以上から中性ドナと中性アクセプタに束縛された励起

子は全てのσ=me/mhで安定であるため、低温における半導体の発光では自由励起子発光のわ

ずか低エネルギー側に中性ドナと中性アクセプタに束縛された励起子の発光が観測される。

図16 励起子の解離エネルギーを電子と正孔の有効質量比で表した。上図は中

性不純物に束縛された励起子、下図はイオン化不純物に束縛された励起子。波線

は Hopfield の結果、実線は Sharma and Rodriguez の結果

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15

4.7 ドナ・アクセプタ対発光

ドナ準位からアクセプタ準位への電子遷移に伴う発光である。遷移前は、ドナには電子

が、アクセプタには正孔がある為、これらは中性である。遷移後、ドナは正にアクセプタ

は負に帯電する。これらのイオン化ドナとイオン化アクセプタ間にはクーロン引力が働く

為に、遷移後の状態すなわち基底状態のエネルギーはクーロンエネルギーだけ低くなる。

すなわち遷移後の基底状態では、正に帯電したドナと負に帯電したアクセプタの吸引力に

より系が安定になることにより中性状態に比べて終状態のエネルギーが低下する。発光エ

ネルギーはドナアクセプタ準位のエネルギー差より増加する。これは、自由励起子の遷移

エネルギーがクーロンエネルギーだけ低くなることと対照的であるが、始状態において電

子と正孔がクーロン引力で引き合う為、始状態のエネルギーが低くなることによる。D-

Aペアの遷移エネルギーは、

EPL=EG-(ΔED+ΔEA)+e2/4πεr

と表されるここでrはドナとアクセプタ間の距離である。

ここでrに注目する。結晶格子においてドナとアクセプタは母体の格子点に置換する。し

たがってrは離散的であることがわかる。したがって、発光のエネルギーもドナとアクセ

プタ間の距離rにしたがって離散的になる。近いペアの発光エネルギーは高く、遠いペア

図1GaP における D-A ペアスペクトル。(a)Ⅰ形(Si,S ドープ)(b)Ⅱ形(Zn,S ドープ)

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の発光エネルギーは低い。クーロンエネルギーは1/rの関数で変化するため、近いペア

のrの変化に対する発光線のエネルギー間隔は大きいが、rが大きくなるにつれてエネル

ギー間隔は小さくなり、大きなrではクーロンエネルギーがゼロに収束する。したがって

非常に遠いペアの発光エネルギーはEPL=EG-(ΔED+ΔEA)であり、これを遠いペア

r∞の遷移エネルギーと呼ぶ。このため高エネルギーにはエネルギー間隔の大きな近いペア

による発光線がみられるが、rの増加につれて発光線のエネルギーは低くなると同時に

線間隔が小さくなり次第に重なり始める。この為、低エネルギーに分離できない遠いペ

アによる発光帯が観測される。フォノンの影響を無視すれば、発光体の も低エネルギー

のカットオフエネルギーを r∞のペアのエネルギーEG-(ΔED+ΔEA)とみなすことが

できる。

図(a)1にはGaPのP格子点に置換したSドナと、P格子点に置換したSiアクセ

プタによるD-A対発光スペクトルを示す。高エネルギーには離散的な発光線が低エネル

ギーには発光帯がみられる。発光線の番号は 近接を1としたペアの近接番号であり、図

より第9近接から第89近接までの発光線がアサインされている。図2(a)に示すよう

にGaPのGaの同一副格子(面心立方)にドナとアクセプタがある。これを type I のD

-A対と呼ぶ。

図1(b)には、GaPのP格子点に置換したSドナと、Ga格子点に置換したZnア

クセプタによるD-A対発光スペクトルを示す。第8近接から第32近接までのペアの発

光線がアサインされているが、rの変化は type I と大きく異なる。これはドナはP副格子

の格子点に、アクセプタはGa副格子の格子点に置換形で存在するために(図2(b)を

参照)、近接順に対するrの変化が type I と異なる。これを type II 形のD-A対発光

と呼ぶ。

一般的に浅い不純物によるD-A対発光では、格子との相互作用が小さいために、離散

図2GaP の格子におけるドナとアクセプタの置換サイト。(a)Ⅰ形(Si,S ドープ)(b)

Ⅱ形(Zn,S ドープ)

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的な線スペクトルが生じることが多い。これに対して深い不純物の波動関数は局在してい

るためには格子との相互作用が強く幅の広い発光帯が生じることが多い。近いペアが線ス

ペクトルであらわれる例は比較的は少なく、多くの場合、ブロードな発光帯として観測さ

れる。

近いペアでは、ドナの電子とアクセプタの正

孔の波動関数の重なりが大きい為、遷移確率が

高く(再結合速度が大きく)、その為に寿命が

短い。逆に遠いペアでは遷移確率が低く(再結

合速度が小さく)寿命が長い。

これらのペア間隔に依存する再結合速度の違

いは、発光スペクトルの励起光強度依存性や励

起を中断した後の時間に対する発光スペクトル

に大きく反映される。励起光強度を上げれば近

いペアの発光が増加するため発光スペクトルは

全体に高エネルギー側へシフトする。また励起

中断後は、時間と共に発光スペクトルは全体に

低ネルギー側へシフトする。励起光強度を上げ

れば遠いペアが飽和し、再結合速度の大きい近

いペアの遷移が増加する。励起光中断後は、時

間と共に再結合速度の大きい(寿命の小さい)

近いペアは早く減衰する為である。したがって、ブロードなD-A対発光帯のアサインに

は、PLスペクトルの励起光強度

依存性や時間分解PLスペクト

ルによる発光体のエネルギーシ

フトの解析が必要である。また、

D-Aペア発光の強度は、有限の

D-A対の為に励起光強度の増

加に対して強い励起に対して飽

和する傾向を示す。

図3にGaPのD-A対発光

をパルス光で励起後のPLスペ

クトルを時間とともに測定した

結果を示している。近いペアによ

る高エネルギー側の発光が時間

と共に減少し、時間がたつと遠い

ペアによる低エネルギーの発光

図3 GsPにおけるD-A対発光の

時間分解スペクトル

図4 GaAsにおける 1.49eV の D-A 対発光の励起光

強度依存性(低ドープ GaAs)。発光はカーボンによる。

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が主となることがわかる。したがって時間と共に、発光ピークのシフトだけでなく、発光

帯の形状が変化する様子がわかる。

GaAsに関してこれまでシャープな離散的なD-A対発光線は観測されていない。こ

の理由として、非常に浅いレベルによるD-A対発光はクーロンエネルギーにより発光エ

ネルギーがバンドギャップ以上になるため発光が母体で吸収されて観測されないと考えら

れている。GaAsは直接遷移形で半導体あるので、基礎吸収端の吸収係数が大きい。I

nPなどの直接遷移形半導体で離散的なD-A対発光の報告は無い。ところで、GaAs

ではブロードなD-A対発光帯が観測される。これは比較的深いドナ・アクセプタレベル

によるものと考えられる。不純物レベルが深くなると、不純物に束縛された電子や正孔の

波動関数は局在する傾向にある。波動関数が局在すれば、格子との相互作用が強くなりそ

の結果ゼロフォノン線はみられなくなりベル形のブロードなフォノンサイドバンドが観測

される傾向が強くなる。格子との相互作用がそれほど強くない場合、ゼロフォノン線の線

幅が増加し、離散的なゼロフォノン線が重なりD-A対バンドを形成することが考えられ

る。

GaAsにおけるD-A対発光で有名なものが1.48eV付近に現れる発光帯である。

発光にはカーボン不純物が関与していると

図5 GaAsにおける1.49eVの D-A対発光

の時間分解スペクトル(低ドープ GaAs)。

図6 n 形 GaAs の D-A 対発光のキャリア濃度

依存性

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考えられている。カーボンは両性不純物であり、Gaサイト置換でドナにAsサイト置換

でアクセプタになる。図4に軽くドープしたp形GaAsのD-A対バンドの励起光強度

依存性を示す。励起光強度の増加に伴う発光帯の高エネルギー(短波長)へのシフトがみ

られる。図5には無添加のn形GaAsでみられる1.49eVの発光帯の時間分解PL

スペクトルを示す。時間経過に伴い発光帯の低エネルギーシフトがみられ、これがD-A

対バンドの典型的な特徴である。

バンド間遷移、F-B遷移は指数関数的な減衰曲線を示し、数 ns から数十 ns オーダー

の発光寿命を持つ。励起子発光は 100ps 以下の短い寿命を持つ。これに対してD-A対発

光ではペアの距離に依存して発光寿命が異なり、先にあげた発光に比べてμs から ms の非

常に長い寿命おもつことが特徴的であり、減衰曲線は指数関数であらわされない。

D-Aペアバンドのエネルギーはドーピングレベルにも依存する。高不純物濃度のD-

A対バンドは近いペアが多い為に低濃度のものより高エネルギーにピークを持つ。図6に、

異なる不純物濃度のGaAsのPLスペクトルを示す。ND=1017cm-3 に比べて ND=10

18cm-3 の

835nm の発光帯は約 5nm 短波長にあり、高エネルギーシフトを示している。また、ND=7 x

1014cm-3低濃度 GaAs では遠いペア r∞による発光ピーク Eg-(ED+EA)を同定することができる。

ブロードなD-A対発光帯に対して、励起光強度依存性よりドナおよびアクセプタのイ

オン化エネルギーを解析的に求める方法が提案されており、いくつかの半導体において解

析例がある。

励起光強度と発光ピークエネルギーの関係は次のように与えられている 10)。

J=D{(hνm-hν∞)3/(hνB+hν∞-2hνm)}exp{-2(hνB-hν∞)/(hνm-hν∞)}

(2)

図7 CuAlSe2:ZnのPLスペクトルの励起光強度依存性。

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ここでhνmはPLピークエネルギー、hν∞は遠いペアの遷移エネルギー(レベル間エネ

ルギー)、hνBはペア距離r=RB(RBは浅い方の準位のボーア半径)の遷移エネルギー

である。

(2)式を実験データにフィットさせることによりドナとアクセプタのイオン化エネルギ

ーの和が次式で求められる

ΔED+ΔEA=Eg-hν∞ (3)

浅い方のレベルのイオン化エネルギーE1は

E1=EB/2=EB=e2/8πεRB=(hνB-hν∞)/2 (4)

で表される。(4)式より、ドナかアクセプタの浅いレベルのイオン化エネルギーが求ま

れば(3)式を用いて、もう一方のイオン化エネルギーが求められる。カルコパイライト

系ではZnドープMOVPE成長CuAlSe2のD-Aペア発光に対して、励起光強度依

存性を図7に示す。

よりCuAlSe2:ZnのD-A対発光帯ピークエネルギーの励起光強度依存性を解析し

た。(3)式ΔED+ΔEA=Eg-hν∞ よりΔED+ΔEA=0.34 eV, (4)式より浅い方の

レベルは E1=0.11 eV と得られる。時間分解スペクトルを図8に示す。

図8 CuAlSe2:Znの時間分解PLスペクトル。

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ピークエネルギーと時間との関係

を用いて hν∞ = 2.404 eV, W = 2 x 10

8 s-1 とすれば、図2の挿入図に示した時間とピ

ークエネルギーの関係より E1=0.10 eV となる。

従って D-A ペア発光に含まれる浅いレベルは 0.10 eV と求められる。これは励起光強度依

存性により得られた E1=0.11 eV と良く一致している。

E1=0.11 eV とすれば、ΔED+ΔEA=0.34 eV より、もう一つのレベルは 0.23eV と求め

られる。これらのうちの一方がドナレベルであり、他方がアクセプタレベルである。

Cu サイトを置換した Zn ドナによるドナレベルが 0.11 eV、アクセプタは Al サイトを置換

した Zn あるいは ZnCu-VAlペアと考えられ、そのレベルは 0.23 eV である。

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4.8 アイソエレクトロニックトラップ

結晶の構成原子と同族の不純物のドーピングにより、電気陰性度の違いにより、励起子

が不純物に強く束縛されることがある。これをアイソエレクトロニックトラップと呼ぶ。

アイソエレクトロニックトラップにより間接遷移型半導体であっても輻射再結合確率を増

大させ、発光デバイスに利用できる場合がある。

不純物原子の価電子配置が母体原子のものと同じであれば、不純物は過剰キャリアを生

成しないので電気的に中性である。しかし電子は電気陰性度の大きい不純物原子には捕ら

えられて束縛される。GaP 結晶中の N原子は良く知られたアイソエレクトロニックトラップ

である。P原子と価電子配置が同じ N原子を P原子位置に置換することによってアイソエレ

クトロニックトラップが形成される。N原子の電気陰性度 3.00 と P 原子の 1.64 に比べて非

常に大きいことがわかる。結合に寄与する 外殻電子エネルギーが低いために大きな電気

陰性度により引きつけられた電子は N 原子周辺に強く束縛される(局在する)。電子を束

縛するポテンシャルは長距離クーロンポテンシャルではなく,不純物原子の近傍に働く短

距離ポテンシャルである。周期律

表の第2周期の原子が大きな電

気陰性度と低い 外殻電子エネ

ルギーを有し、アイソエレクトロ

ニックトラップとしての可能性

を持つ。

GaPはブリルアン帯の端のX点

に伝導帯が底となる間接遷移型

半導体である。その為に無添加の

GaP の発光効率は極めて低い。し

かし、アイソエレクトロニックト

ラップとしてN不純物をPサイト

に添加することにより、発光効率

は飛躍的に向上し、GaP:N は緑色

(やや黄色よりの)の発光ダイオ

ード材料として用いられてきた。

GaP:N ではNの大きな電気陰

性度により N 原子に束縛された

電子がクーロン引力により正孔

を捕らえ、その結果、励起子が N

原子に束縛された束縛励起子を

形成する。不確定原理により、N

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原子に強く局在する電子の波動関数は波数空間においてブリルアン帯全域に広がる。図1

に示すように、電子の波動関数はΓ点でも大きな存在確率を示している。したがってΓの

電子は価電子帯の正孔と運動量保存則を満足した遷移により輻射再結合することが可能と

なる。 GaP における Nアイソエレクトロニックトラップに束縛された励起子再結合の発光

波長は 565 nm(黄色がかった緑)である。

GaAs1-xPx:N では混晶組成 xの制御により,緑色から赤色に至る発光が得られる。また、

アイソエレクトロニックトラップの例として、GaP 中の Zn-O 対,Cd-O 対,Mg-O 対,S-Ge

や,GaAs,AlGaAs,AlAs,GaxIn1-xP 結晶中の Nなどがある。

元素の電気陰性度

Li Be B C N O F

1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00

Na Mg Al Si P S Cl

0.72 0.95 1.18 1.41 1.64 1.87 2.10

Cu Zn Ga Ge As Se Br

0.79 0.91 1.13 1.35 1.57 1.79 2.01

■参考文献

1) J. C. Phillips (小松原毅一訳), “半導体結合論,” 吉岡書店.

2) D. G. Thomas and J. J. Hopfield, Phys. Rev. no.150, p.680, 1966.

3) N. Holonyak, Jr., J. C. Campbell, and M. H. Lee, J. T. Verdeyen and W. L. Johnson,

M. G. Craford and D. Finn, J. Appl. Phys. vol.44, p.5517, 1973.

4) J. Endicott, A. Patanè , J. Ibáñez, L. Eaves, M. Bissiri, M. Hopkinson, R. Airey,

and G. Hill, Phys. Rev. Lett., vol.91, p.126802, 2003.

5) M. Ikezawa, Y. Sakuma, and Y. Masumoto, Jpn. J. Appl. Phys. vol.46, p.L871, 2007.

図 1・27 GaP 結晶中の N等電子トラップのエネルギー準位 3)

4.9 ゼロフォノン線とフォノンレプリカ

一般的にレベル間遷移は、ローレンツ関数形の鋭い発光線となりその線幅は寿命できま

る(ライフタイムブルードニング)ことが知られている。一方で、実際観測される発光ス

ペクトルは鋭い発光線から非常に幅の広いブロードな発光帯までさまざまであり、温度に

より発光スペクトルは変化する。この理由として、発光過程にフォノンが関連しているこ

とがあげられる。電子系とフォノンすなわち格子との結合の強度によりスペクトルが変化

する。 も結合が弱い場合、遷移はローレンツ関数形の鋭い発光線を示しこれをゼロフォ

ノン線とよぶ。電子系と格子系の結合が弱い場合、ゼロフォノン線の低エネルギーにフォ

ノンを放出した電子遷移による発光線がみられ、これをフォノンレプリカとよぶ。電子系

と格子系の相互作用には、フォノンがつくる歪場が電子系の変形電位を変調するデフォメ

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ーションポテンシャル相互作用がある。これに関与するフォノンは音響フォノンおよび光

学フォノンの両方である。一方で、縦型光学フォノン(LOフォノン)は進行方向にマク

ロススコピックな電界を伴っており、その電界により電気光学効果をとおして相互作用を

おこなうフレーリッヒ相互作用がある。これに関与するフォノンは極性のLOフォノンの

みである。

Γ点の光学フォノンのエネルギーは一次ラマン効果および極性フォノンにおいては遠赤

外反射により求められる。音響フォノンはΓ点でエネルギーがゼロであり、波数増加とと

もにエネルギーが増加する。したがって一次の光学過程で音響フォノンの分散を求めるこ

とは難しく、中性子散乱測定で求められている。中性子散乱測定には実験用原子炉が必要

であるため一般的でない。二次の光学過程では、ブリルアンゾーン内の広い範囲でのフォ

ノンが介在するため、フォノンの性質の概要を知ることができる。二次のラマン効果では

運動量保存則により波数が等しく波数の符号の異なる2つのフォノンにより光散乱光が生

じる。倍音の二次ラマンスペクトルはフォノンの分散を反映してブロードであるがフォノ

ンの状態密度を反映している。したがって音響フォノンのブリルアンゾーン端の状態密度

の高い部分がラマンスペクトルの低エネルギー領域に観測される。光学フォノンにおいて

も倍音の二次ラマン散乱光が高エネルギー領域に観測され、これもフォノンの状態密度を

反映している。また2次ラマンスペクトルには2つのフォノンの和および差のエネルギー

を持つものも現れるため、解析は難しい。そのためには群論による選択則にもとづいて偏

光測定を行う必要がある。二つのフォノンの既約表現の直積を求め、これを簡約して直和

にする。結果を指標表と照らし合わせてどの偏光で該当するフォノンが活性か調べる。

フォノンとの相互作用が強い場合、一般的に発光はブロードなバンドとなる。相互作用

の大きさの指標としてホアン・リー因子 S が用いられる。電子の基底状態から励起状態へ

遷移した後、電子励起状態における断熱ポテンシャル曲線の底の状態に移るために何個の

フォノンを放出する必要があるかを示す。

f = e-S(Sm/m!)

S = WLR/ħωp

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4.10 深い準位の発光

これまではハンド端付近にみられる浅いレベルの発光を紹介した。これとは対照的に禁

制帯の中央付近の深い準位による発光を紹介する。重金属不純物や欠陥準位やこれらの複

合体が深い準位をつくることが知られている。一般的に深い準位はエネルギー帯と殆ど独

立に取り扱う。これを一般的には有効質量近似で取り扱えない準位であると表現する。深

い準位の波動関数はきわめて局在している。従って、深い準位は格子との結合が非常に強

く、深い準位の発光スペクトルにはフォノンレプリカが観測される。一般的に極低温では、

フォノンとの相互作用の無い発光線(ゼロフォノン線と言う)が現れ、その低エネルギー

にフォノンを放出した鋭い発光線(フォノンレプリカと言う)のシリーズおよびこれらが

重なり合った発光帯が現れる。しかしこれは、格子との結合が比較的弱い場合であり、格

子との結合が強くなるに従ってこれらの鋭い発光線は弱くブロードになり、格子との結合

がきわめて強くなると一つのブロードな発光帯になる。実際、多くの深い準位の発光は構

造の無いブロードなバンドである。

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4.11 発光の温度依存性

熱消光

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4.12 輻射遷移と非輻射遷移

非輻射遷移

半導体からの発光は励起されたキャリアの輻射再結合によるが,一方で光の放出を伴わ

ない非輻射再結合がある.非輻射遷移の過程は不明瞭であり,光子の放出を行わない全て

の過程を総称している。輻射遷移と非輻射遷移は競合過程であるため,発光効率ηは輻射

遷移の寿命τRと非輻射遷移の寿命τNR を用いてη=(1/τR)/( 1/τR+1/τNR) と表

される.発光効率ηは輻射遷移の速度 1/τRに比べて非輻射遷移の速度 1/τNRが大きく

なれば低下する.

半導体の発光は主に,(i)電子・正孔の再結合、(ii) 局在発光中心における電子遷移、

で生じるものに分類される。非輻射遷移は両者で異なるとらえ方がされる.

非輻射遷移には、エネルギーを結晶の格子振動に与える再結合過程(格子への熱的緩和),

再結合の際にエネルギーを他の電子を励起することにより失うオージェ効果や表面再結合

があげられる,不純物・格子欠陥や,これらの複合体が非発光再結合中心を形成することが

ある.これらは、深い準位を形成し,波動関数が局在している為に格子相互作用が強く,

キャリアの捕獲・放出過程は、エネルギーがフォノンの放出で消費されるため、非発光過程

である.

また半導体中の遷移金属や希土類不純物の発光では,バンド間励起で生成されたキャリア

は,エネルギー伝達過程を経て発光中心の励起準位に輸送され,光学遷移により発光が生

じる.母体の電子準位は1電子描像であるが,発光中心は原子の多電子系の多重項に由来

する準位である.エネルギー伝達および緩和過程には非輻射遷移が関与している.

オージェ再結合

キャリアの再結合によって放出されたエネルギーがフォトン

を放出することなく直接他のキャリアの励起により消費され

る非輻射過程はオージェ再結合とよばれている.オージェ再

結合には遷移の種類とキャリア濃度により多くの再結合過程

が存在する。代表的な過程であるバンド間オージェ過程を図

17 •1に示す。同図(ⅰ)に示すように伝導帯の電子Aが

価電子帯の正孔 A’と再結合するときに放出されるエネルギー

が光子の放出を伴わずに直接に伝導帯の他の電子 B に与えら

れ,電子Bが伝導帯の高い準位 B’に励起される.この為、電

子と正孔の再結合に際してフォトンの放出は無い.また、同

図(ⅱ)に示すように価電子帯の正孔が高い準位に励起され

ることもある。不純物を含む半導体では、不純物準位のキャ

リアの再結合により、他の不純物準位のキャリアやバンド中

○ ○

伝導帯

価電子帯

A‘

B‘

(ⅰ) (ⅱ)

図17 •1 バンド間オージェ

再結合過程

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のキャリアの励起が生じるオージェ過程が多数存在する.

キャリア間の相互作用に強く依存した過程は、キャリア密度に強く依存する.ここで、オ

ージェ再結合の寿命は,キャリア濃度の関数として求められており 1) ,キャリア濃度の大

きい半導体や高注入のデバイスでオージェ過程の影響が大きい.真性キャリア濃度の大き

い InAs 等のナローギャップ半導体ではオージェ再結合が顕著である.また温度上昇に伴い

キャリア濃度が増加するため InSb のようなナローギャップ半導体ではオージェ過程に強い

温度依存性が認められる.これに対しワイドギャップ半導体では,オージェ過程は不純物

添加によるキャリア濃度に依存し,特に縮退半導体では重要な過程である。半導体レーザ

では,オージェ効果はしきい値電流密度上昇の原因となる.集光型太陽電池のように過剰

キャリア濃度が大きいデバイスでは,オージェ過程による再結合寿命が過剰キャリア濃度

の逆数の2乗に比例して小さくなるため,オージェ効果が動作に影響を与える.

多重フォノン過程

非輻射遷移で余るエネルギーをフォノン放出により補償する過程を多重フォノン過程と呼

ばれている.この過程には多くの種類がある.ルミネッセンスの強度が温度上昇に伴い減

少する現象が発光の温度消光として知られているが,原因が温度上昇に伴う励起電子の格

子への緩和(フォノン放出)による非輻射過程の増大によると考えられている.深い局在

準位をつくる非輻射再結合中心への電子捕獲過程や、複数の近接した準位間のエネルギー

緩和過程においても多重フォノンの放出により非輻射遷移が生じる.

フォノン放出による発光の温度消光を説明するために、局在した発光中心を考える.この

場合,非輻射過程では多数のフォノンを放出してエネルギーが消費される.この説明には

配位座標モデル(configurational coordinate model)が用いられる.2) 結晶中の電子と発

光中心の原子核の運動を比べると電子の運動は非常に早い.原子核のそれぞれの位置に電

子の定常軌道が存在し,原子核はその電子状態のエネルギーによるポテンシャルの中で振

動している.配位座標は、電子状態についてこのポテンシャル(断熱ポテンシャル)を発

光中心の原子位置に対して示したものである.図17

•2にその一例を示す。発光中心の基底状態は配位座標

rAで極小値を、励起状態はrBで極小値を持ち、断熱ポ

テンシャルは点 C で交差するものと仮定する.A 点か

ら A’の上向きの矢印は発光中心の光励起を示す.励

起状態の A’の電子はフォノンを放出して励起状態の

もエネルギーの低い B’点に状態を変える。輻射遷

移は B点から B’点への遷移で生じる(下向き矢印).

ここで遷移確率は Einstein の自然放出確率A

(Einstein のA係数)である。ここで B’点と断熱ポ

テンシャルの交点 C のエネルギー差をΔE とする.温 図17 •2 発光中心の配位座標モデル

Page 29: 4.半導体の発光 conduction band - Ehime Universityakitsu.ee.ehime-u.ac.jp/lect/m/optlect14_04.pdf · 導体で主要な発光過程であり、発光デバイス応用としてのLEDや半導体レーザで重要な

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度 T が上昇すれば,発光中心の熱振動により,B’点の電子が C点へ状態を変える頻度が確

率 s・exp(-ΔE/kT)で増加する.ここで sは頻度係数(frequency factor) と呼ばれ、温度に

依存しない.C点の状態まで達した電子は基底状態の断熱ポテンシャルに沿って,フォノン

を放出しながら(非輻射)A点に到達する。従って発光効率ηは,発光強度は輻射遷移確率

Aと非輻射遷移確率 s・exp(-ΔE/kT)を用いて、

η= 1/(1+ s/A・exp(-ΔE/kT))

と表される。高温では分母の1が無視できるため温度上昇に伴い発光強度は急激に減少す

る.

この配位座標モデルでは,A’→B’, C→B,および B→A はフォノンの放出過程に B’ →C

はフォノンの吸収過程に対応する.

■参考文献

1) J. S. Barkemore: ”Semiconductor Statistics” (Dover Publications, inc, New York,

1962 and 1987) Chap. 6.

2) 前田敬二著 ”ルミネッセンス”(槇書店, 1963)p. 6.