5
4.1 はじめに 電磁界の安全性を確認するための電磁界分布の測定は広 く行われており,その結果を通して安全基準への適合性を 評価している[1‐4].電磁界分布の測定において測定位置 の同定は測定結果の表示および分析を行う上で必須であ る.空間的な分布を測定する際,従来はセンサの測定位置 を正確に記録するためにロボットアームなどの走査装置を 用いて電磁界センサを測定領域内において格子状に走査し たり,多くの時間と人手を費やして同等の走査を手動で 行ったりするのが一般的であった[5].しかし人が実際に 危険領域や波源を探索するような時は,格子状にセンサを 動かすようなことはせず,測定したい対象領域に対して, 自由にセンサを走査できる方が自然であろう.そこで座標 系の格子にこだわらず,人が自由にセンサを動かしながら 測定を行うことのできる測定方法の開発を行った.測定位 置の同定のために位置センサを新たに導入し,測定対象の 周辺に電磁界センサを自由に振りかざすことにより測定者 が自由な座標で測定できる方式を実現した.電磁界強度の 測定値はその測定位置,および測定時刻とともに取得さ れ,取得されたデータはリアルタイムに電磁界分布マップ として表示される.測定者はリアルタイムに表示される結 果を参照しながらより綿密に測定したい領域に対して測定 を継続することが可能になる.これまで筆者らは,比較的 入手しやすい機器で構成した簡便な位置センサを用いるこ とで測定したい空間に測定用ロッドを自由に走査するとい う方法により電磁界分布の可視化を行う方法を検討してき た[6‐9].本章では測定位置のトラッキング方式として磁 気式,光学式および赤外線式の3種類の位置センサを用 い,電磁界センサを測定対象の周辺を自由に走査すること で電磁界分布を可視化する手法を紹介する. 4.2 電磁界測定用プローブ 現在,ハザード測定に使われている電磁界プローブの多 くは,ダイポールおよびループ・アンテナとセンサからな る検出部,取っ手とリード線からなる伝送部,電子回路か らなる指示部により構成される.電磁界測定を伝送部のエ ネルギー形態で分類すると,電気,光,音などが考えられ るが,検出部の出口で電気に変換されているものが技術的 には最も取り扱いが容易である.実用化されているのも主 にこのタイプであり,ダイオードを用いた電界(磁界)‐電 気変換型と熱電対を用いた電界(磁界)‐熱‐電気変換型とに 分けられる.伝送部に光ファイバを用いるもの(光学的電 界プローブ)もいくつか報告されており,本質的に電磁波 をじょう乱しないことから有望視されている.一般に電界 測定には,ある周波数成分だけを取り出して測定する狭帯 域測定法と,スペクトル的に分離せずそのまま測定する広 帯域測定法とがある.実用化されている電界(磁界)プロー ブはほとんどが広帯域測定法に属する.用途で分類する と,自由空間で用いられるものと生体などの損失性不均質 誘電媒質内で用いられるものとがある.同時に測定できる 電界(磁界)成分の数で分類すると,1方向成分だけのもの (1軸型),2方向同時に測るもの(2軸型:ハザードメー タ),さ ら に3方 向 同 時 に 測 る も の(3軸 型:等 方 性 プ ローブ)がある[10]. 市販されている電磁界測定器の多くは,(1)微小アンテ ナ,(2)ダイオードや熱電対などのセンサ,(3)高抵抗リー ド線,(4)直流アンプなどを含む表示回路により構成され ており,通常電池駆動である.センサの非線形性により, 入射界強度の2乗に比例した直流信号が得られるので,3 つのアンテナを ! " # の3方向に向けて各センサの出力 を加えると,入射界のベクトル和(の2乗)が測定できる. この値は直交3軸アンテナ全体の向きに依存しないので指 向性は等方的となる[11]. 4.3 自由走査式電磁界分布測定法 自由走査式による電磁界分布測定では,電磁界強度の測 小特集 磁場閉じ込め核融合施設における電磁環境と安全指針 4.電磁界の計測とその可視化 佐藤 健,上 村 佳 嗣 宇都宮大学大学院 工学研究科 (原稿受付:2012年5月1日) 本章では電波防護指針評価を目的とした電磁界計測を対象とする.電磁界の可視化には電磁界強度の測定と 同時に測定位置の同定が重要である.測定位置を自動的に取得するために磁気式,光学式および赤外線式の位置 センサを導入し,電磁界分布をリアルタイムで生成する手法について最近の研究を紹介する. Keywords: EMF distribution, field sensor, visualization, Wii remote 4. Measurement and Visualization of EMF Distributions SATO Ken and KAMIMURA Yoshitsugu corresponding author’s e-mail: [email protected] !2012 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research J. Plasma Fusion Res. Vol.88, No.8 (2012) 432‐436 432

4.電磁界の計測とその可視化...う方法により電磁界分布の可視化を行う方法を検討してき た[6‐9].本章では測定位置のトラッキング方式として磁

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Page 1: 4.電磁界の計測とその可視化...う方法により電磁界分布の可視化を行う方法を検討してき た[6‐9].本章では測定位置のトラッキング方式として磁

4.1 はじめに電磁界の安全性を確認するための電磁界分布の測定は広

く行われており,その結果を通して安全基準への適合性を

評価している[1‐4].電磁界分布の測定において測定位置

の同定は測定結果の表示および分析を行う上で必須であ

る.空間的な分布を測定する際,従来はセンサの測定位置

を正確に記録するためにロボットアームなどの走査装置を

用いて電磁界センサを測定領域内において格子状に走査し

たり,多くの時間と人手を費やして同等の走査を手動で

行ったりするのが一般的であった[5].しかし人が実際に

危険領域や波源を探索するような時は,格子状にセンサを

動かすようなことはせず,測定したい対象領域に対して,

自由にセンサを走査できる方が自然であろう.そこで座標

系の格子にこだわらず,人が自由にセンサを動かしながら

測定を行うことのできる測定方法の開発を行った.測定位

置の同定のために位置センサを新たに導入し,測定対象の

周辺に電磁界センサを自由に振りかざすことにより測定者

が自由な座標で測定できる方式を実現した.電磁界強度の

測定値はその測定位置,および測定時刻とともに取得さ

れ,取得されたデータはリアルタイムに電磁界分布マップ

として表示される.測定者はリアルタイムに表示される結

果を参照しながらより綿密に測定したい領域に対して測定

を継続することが可能になる.これまで筆者らは,比較的

入手しやすい機器で構成した簡便な位置センサを用いるこ

とで測定したい空間に測定用ロッドを自由に走査するとい

う方法により電磁界分布の可視化を行う方法を検討してき

た[6‐9].本章では測定位置のトラッキング方式として磁

気式,光学式および赤外線式の3種類の位置センサを用

い,電磁界センサを測定対象の周辺を自由に走査すること

で電磁界分布を可視化する手法を紹介する.

4.2 電磁界測定用プローブ現在,ハザード測定に使われている電磁界プローブの多

くは,ダイポールおよびループ・アンテナとセンサからな

る検出部,取っ手とリード線からなる伝送部,電子回路か

らなる指示部により構成される.電磁界測定を伝送部のエ

ネルギー形態で分類すると,電気,光,音などが考えられ

るが,検出部の出口で電気に変換されているものが技術的

には最も取り扱いが容易である.実用化されているのも主

にこのタイプであり,ダイオードを用いた電界(磁界)‐電

気変換型と熱電対を用いた電界(磁界)‐熱‐電気変換型とに

分けられる.伝送部に光ファイバを用いるもの(光学的電

界プローブ)もいくつか報告されており,本質的に電磁波

をじょう乱しないことから有望視されている.一般に電界

測定には,ある周波数成分だけを取り出して測定する狭帯

域測定法と,スペクトル的に分離せずそのまま測定する広

帯域測定法とがある.実用化されている電界(磁界)プロー

ブはほとんどが広帯域測定法に属する.用途で分類する

と,自由空間で用いられるものと生体などの損失性不均質

誘電媒質内で用いられるものとがある.同時に測定できる

電界(磁界)成分の数で分類すると,1方向成分だけのもの

(1軸型),2方向同時に測るもの(2軸型:ハザードメー

タ),さらに3方向同時に測るもの(3軸型:等方性プ

ローブ)がある[10].

市販されている電磁界測定器の多くは,(1)微小アンテ

ナ,(2)ダイオードや熱電対などのセンサ,(3)高抵抗リー

ド線,(4)直流アンプなどを含む表示回路により構成され

ており,通常電池駆動である.センサの非線形性により,

入射界強度の2乗に比例した直流信号が得られるので,3

つのアンテナを�,�,�の3方向に向けて各センサの出力

を加えると,入射界のベクトル和(の2乗)が測定できる.

この値は直交3軸アンテナ全体の向きに依存しないので指

向性は等方的となる[11].

4.3 自由走査式電磁界分布測定法自由走査式による電磁界分布測定では,電磁界強度の測

小特集 磁場閉じ込め核融合施設における電磁環境と安全指針

4.電磁界の計測とその可視化

佐藤 健,上村佳嗣宇都宮大学大学院 工学研究科

(原稿受付:2012年5月1日)

本章では電波防護指針評価を目的とした電磁界計測を対象とする.電磁界の可視化には電磁界強度の測定と同時に測定位置の同定が重要である.測定位置を自動的に取得するために磁気式,光学式および赤外線式の位置センサを導入し,電磁界分布をリアルタイムで生成する手法について最近の研究を紹介する.

Keywords:EMF distribution, field sensor, visualization, Wii remote

4. Measurement and Visualization of EMF Distributions

SATO Ken and KAMIMURA Yoshitsugu corresponding author’s e-mail: [email protected]

�2012 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

J. Plasma Fusion Res. Vol.88, No.8 (2012) 432‐436

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Page 2: 4.電磁界の計測とその可視化...う方法により電磁界分布の可視化を行う方法を検討してき た[6‐9].本章では測定位置のトラッキング方式として磁

定値と強度を測定する測定位置情報を用いて電磁界分布図

を生成する.電磁界強度の測定は市販されている電磁界測

定器を用いる.測定位置の同定のために磁気式位置センサ

を用いた磁気式トラッキング,USBカメラと画像処理で特徴

点追跡を行う光学式トラッキング,そして赤外線マーカを

赤外線カメラで追跡する赤外線式トラッキングの3種類の

方法を検討した.表1に各方式の特徴をまとめた.以下,

電磁界測定器とそれぞれの位置センサ方式について述べる.

4.3.1 電磁界測定器

電磁界強度の取得には電磁ハザード測定用に市販されて

いる低周波および高周波電磁界測定用の測定器を用いた.

表2に使用した電磁界測定器を示す.各測定器で計測され

た電磁界強度値は,シリアルケーブルを介して制御用 PC

にリアルタイムで送られる.電磁界強度値の最小測定間隔

は機器によって異なり(40 ms~250 ms),この間隔が測定

システム全体のデータ取得間隔を決定する.電磁界分布測

定においてはこれら測定器を測定対象に応じて交換できる

ように構成し,測定器を使い分けることで低周波,高周波

での測定に対応させた.

4.3.2 磁気式位置センサ方式

図1に磁気式位置センサ(Polhemus社製PATRIOT)の

外観を示す.磁気式位置センサはトランスミッタ,位置セ

ンサおよびコントロールユニットから成っており,位置セ

ンサはトランスミッタから見た3次元座標�������と3種

類の角度(�: pitch,�: yaw,�: roll)を返す.磁気式位置セン

サを用いた測定システムの構成を図2に示す.電磁界分布

の測定はロッドを測定対象周辺に自由に振りかざすことで

行われる.電磁界測定器はロッドの先端に,位置センサは

ロッドの手元側にそれぞれ取り付ける.センサ間の相対距

離を�とすると電磁界センサの位置�������は位置センサ

の座標と相対距離�から求めることができる.トランス

ミッタは位置センサの位置特定のため独自の磁界を発生さ

せており,磁界が測定対象へ影響を及ぼす可能性があるた

め,位置センサとトランスミッタは測定対象から十分離す

必要がある.

4.3.3 光学式位置センサ方式

図3に光学式位置センサを用いた測定システムの構成を

示す.電磁界分布の測定は電磁界測定器を測定対象周辺に

自由に振りかざすことで行われる.測定中は固定したUSB

カメラを用いて測定環境を撮影し,画像処理によって電磁

界測定器のセンサ部分を特徴点として抽出し,その動きを

トラッキングすることで測定位置の座標を随時取得する.

USBカメラの電源は制御用PCから供給され別途電源を必

要としないため可搬性が確保される.特徴点のトラッキン

グには Lucas-Kanade 法(LK法)を用いた[12].LK法は

磁気式 光学式 赤外線式

位置の同定専用のトランスミッタとレシーバを使用

USBカメラによる特徴点トラッキング

赤外線マーカを赤外線カメラでトラッキング

測定エリアへの影響

あり なし なし

前提条件周辺に金属がないこと

特徴点の明るさ一定

なし

可搬性の制限あり(別途電源が必要)

なし なし

名称 EFA-200 WideRangeFieldMeter Radman

周波数レンジ

5 Hz - 32 kHz 30 Hz - 1 kHz (Low)1 kHz - 100 kHz (High)

3 MHz - 40 GHz

図1 磁気式位置センサ(Polhemus社製 PATRIOT).

表1 各位置センサの比較.

図2 磁気式位置センサ方式による電磁界分布測定.

表2 電磁界測定器.

図3 光学式位置センサ方式による電磁界分布測定.

Special Topic Article 4. Measurement and Visualization of EMF Distributions K. Sato and Y. Kamimura

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動画内の運動物体のオプティカルフローを局所勾配法に

よって推定する手法である.測定結果をリアルタイムに表

示するため,特徴点の座標取得には高速な画像処理を行う

ことが可能なOpenCVライブラリを用いている[13].得

られた座標を電磁界強度測定の位置座標とし,電磁界セン

サで取得される強度値とともに制御用 PCに記録する.記

録されたデータを用いて電磁界分布をリアルタイムに生成

する.この光学式位置センサ方式はUSBカメラと制御用

PCとで構成されるため,非常にシンプルな構成で実現で

きるというメリットの一方で,蛍光灯のように測定対象周

辺の明るさが測定中に変化するような環境下では,特徴点

を正確にトラッキングできなくなるという問題点も確認さ

れたため測定対象によっては注意が必要である.

4.3.4 赤外線位置センサ方式

最後に紹介する赤外線位置センサ方式は現在我々の主流

の位置座標取得方式である.赤外線位置センサ方式では赤

外線LEDをマーカとし,その動きを赤外線カメラでトラッ

キングすることで位置センサを構成する.赤外線カメラと

して使用しているのは家庭用ゲーム機として普及している

任天堂Wii�のリモートコントローラ(以下,Wii Remote)

である.Wii Remote はセンサバーと呼ばれる赤外線 LED

の位置をとらえるための赤外線カメラ機能を内蔵してお

り,Wii Remoteから見たLEDの座標を随時取得している.

Wii Remote の赤外線カメラ機能を利用してトラッキング

する手法については J. C. Leeらの報告をはじめ様々な応用

例が報告されている[14‐18].この機能を応用して赤外線

LEDをトラッキングする位置センサを構成する.具体的に

は電磁界測定器の電磁界センサ部分に LEDマーカを取り

付け,その動きをトラッキングすることで測定位置の座標

を随時取得する.図4に赤外線カメラの外観を,図5に今

回利用した赤外線マーカの構成を示す.測定エリアを映像

でモニタリングするために赤外線カメラの上部にはUSB

カメラを設置する.図6に高周波電磁界測定器を用いた測

定システムの構成を示す.電磁界分布の測定は光学式セン

サ同様,電磁界測定器を測定対象周辺にて自由に振りかざ

すことで行われる.電磁界測定器で計測された電磁界強度

値はシリアルケーブルを介して制御用 PCに伝送され,そ

の測定位置はWiiRemote経由でBluetooth通信を介して同

時に制御用 PCに取り込まれる.図7は低周波対応の電磁

界測定器を用いた測定用ロッドの外観を示す.ロッドは塩

化ビニールのパイプと木製の板とで構成され,周辺の電磁

界へ影響を与えないようにした.図8に低周波電磁界測定

器を用いた測定システムの構成を示す.制御用 PCには電

磁界測定器からの電磁界強度値および赤外線カメラからの

測定位置情報をもとに電磁界分布をリアルタイムで生成す

る.USBカメラで撮影した映像上に電磁界分布を重ねて表

示することで電磁界強度を可視化することができる.

4.3.5 電磁界分布表示方法

電磁界測定位置は電磁界強度値とともに PCに逐次記録

される.自由座標で測定した電磁界分布をリアルタイムで

表示するために測定結果は2次元配列に格納される.連続

した電磁界分布を生成するために未測定点は測定値を用い

Ω

図5 赤外線マーカの構成.

図6 赤外線式位置センサ方式による電磁界分布測定(高周波).

図4 Wiiリモコンを利用した赤外線カメラ. 図7 低周波電磁界センサを用いた測定用ロッド.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.88, No.8 August 2012

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て線形補間を行う.�-�平面を例にすると,補間処理はまず

�方向に対して行い,補間した結果を使いながら同様の処

理を �方向に対して行う.測定データと補間データは配列

内で区別され,新しい測定データが得られたときは補間し

た値は測定値に置き換えられる.今回使用した配列の大き

さは4 cmで,線形補間処理は5マス(4×5=20 cm)間隔で

行った.測定エリアに定在波が発生する状況では,線形補

間は測定間隔が観測波長に対して十分小さい(���以下)と

きに有効である.したがって測定周波数 �は 375 MHz

(�������������������)以下である必要がある.し

たがって線形補間が有効なのは,電磁界分布が任意の

20 cm×20 cmの領域でなだらかに変化していることが条

件となる.補間を行うことで少ない測定点数でも大まかな

電磁界分布の様子を可視化することができ,より綿密に測

定が必要な箇所を視覚的にとらえることが可能になる.

4.4 電磁界分布測定例測定例として赤外線位置センサ方式で測定した電磁界分

布を示す.高周波対応の電磁界センサを用いた例では,電

球式蛍光灯周辺の漏えい電界分布を測定した.測定の様子

を図9に示す.測定用ロッドで測定対象の周辺を走査する

ことで周辺の電界強度がカラーマップとして自動生成されて

いる様子がわかる.低周波対応の電磁界センサを用いた例

では,IH調理器および交流式電気シェーバ周辺の漏えい磁

界分布を測定した.結果を図10および図11に示す.電磁界

強度が高い領域を電磁界マップ上に確認することができる.

4.5 電磁界分布の3次元表示空間的な電磁界分布を測定するためには,測定位置を3

次元で同定する必要がある.今回紹介した赤外線式位置セ

ンサを応用し2台の赤外線カメラを用いることで測定位置

の3次元座標を取得することができる.図12に示すように

距離を離して固定した2台のWii Remote を用いて位置セ

ンサを構成し,それぞれの赤外線カメラから計測したLED

マーカの2次元座標をもとにステレオマッチング法を用い

ることにより測定位置の3次元座標が得られる.得られた

3次元座標を利用して空間的な電磁界分布を可視化するこ

とができる.空間的な分布をリアルタイムに得ることがで

きれば,より直感的に電磁界強度分布を把握することが可

能になる.

4.6 まとめ本章では自由走査式による電磁界分布測定法について述

べた.USBカメラや家庭用ゲーム機のコントローラといっ

た簡便な装置を用いて測定位置の同定を行うことで電磁界

強度の分布をリアルタイムに可視化する手法について紹介

した.今後は空間的な電磁界分布を表示する方法の改良

や,測定を広範囲に広げた場合の手法およびその問題点に

ついての検討を行う予定である.

謝 辞本研究の一部は,科研費20360132および23560319の助成

を受けて行われた.

参 考 文 献[1]R. Matthes et al., Guidelines on Limiting Exposure to Non-

Ionizing Radiation (ICNIRP, 1999).[2]ICNIRP, "Guidelines for Limiting Exposure to Time-

Varying Electric, Magnetic, and Electromagnetic Fields(up to 300 GHz)", Health Phys. 74, 494 (1998).

[3]電気通信技術審議会答申諮問第38号,電波利用における人体の防護指針(総務省,1990).

[4]田中賢治 他:電気学会論文誌 A129, 9, 627 (2009).[5]西澤振一郎 他:電子情報通信学会論文誌(B)J86-B, 7,

1251 (2003).[6]K. Sato et al., IEICE Trans. E93.B (7), 1865 (2010).[7]K. Sato et al., "AMeasurementMethod for 2-D EMFDis-

tributions Using Optical Tracker", 4th Pan-Pacic EMCJoint Meeting (2010).

[8]K. Sato et al., "AMeasurementMethod for 2-D EMFDis-tributions Using Infrared Tracker", APEMC 2011, T-We2-3 (2011).

[9]佐藤 健 他:電子情報通信学会論文誌(B)J95-B2, 293(2012).

[10]上村佳嗣:近傍電界測定用プローブの概観,電子通信学会生体電磁環境研究会資料,86, 47 (1986).

[11]上村佳嗣:電子情報通信学会論文誌(B)J73-B2, 309

(1990).[12]B. Lucas and T. Kanade, Proc. Imaging Understanding

Workshop, pp.121-130, Apr. 1981.[13]J. Bouguet, "Pyramidal implementation of the Lucas-

Kanade feature tracker: description of the algorithm",Technical report,OpenCVDocument, IntelMicroproces-sor Research Labs (2000).

[14]任天堂Wii (http://www.nintendo.co.jp/wii/ 参照, May7, 2011).

[15]伊藤邦朗,福田隆宏:日本機械学会誌 110, 908 (2007).[16]J.C. Lee, "Wii RemoteProject" (http://johnnylee.net/pro-

jects/wii/ 参照, May 7 2011).[17]J.C. Lee, Pervasive Computing, 7, 39 (2008).[18]CodePlex, "Managed Library for Nintendo's Wiimote"

(http://wiimotelib.codeplex.com/, accessedMay 7 2011).

図8 赤外線式位置センサ方式による電磁界分布測定(低周波).

Special Topic Article 4. Measurement and Visualization of EMF Distributions K. Sato and Y. Kamimura

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図9 電球式蛍光灯周辺の電磁界分布測定.

図10 交流式電気シェーバ周辺の漏えい磁界分布. 図12 2台の赤外線カメラ.

図11 IH調理器周辺の漏えい磁界分布. 図13 電磁界分布の3次元表示例.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.88, No.8 August 2012

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