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4.評価の進め方と体力測定の実際 実施担当者は事前アセスメントを行う上で、参加者の健康状態・生活習慣、体力水準などの個別 の状況を把握します。体力水準を把握するために体力測定を実施する場合は、握力・開眼片足立ち 時間・Time Up & Go Test・5m 歩行時間(通常・最大)等を測定することが望ましいです。 ただし、利用者が体力測定に不安を訴える場合は実施しません。 〇次の項目を評価します。 評価項目 〇痛みと痛みによる活動制限の評価を行います。 ○痛みのアセスメントでは、ビジュアルアナログスケール(VAS)が参考になります。(厚生労働 省ホームページに掲載の「参考資料3-3」を参照してください。) 痛みの部位 痛みのある部位を身体図に書き入れる。複数の場合は番号をつける。どんな時に痛いのか 記載する。 痛みの既往と服薬 いつから痛いのか、現在の治療内容、使用している薬等を記載する。 痛みの時間 痛みが出てから治るまでの時間などを記載する。 ④ 痛みの程度をVASをつかって主観的な指標として記載する。 〇膝痛では活動制限などを評価するために、日本版変形性膝関節症患者機能評価表(JKOM)が参考 になります。(厚生労働省ホームページ「参考資料3-4」参照) ○腰痛では疾患特定・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ)が参考になります。(厚生 労働省ホームページ「参考資料3-5」参照) ○転倒は、転倒不安に起因する活動性の低下が問題となることから、Tinetti の転倒不安感尺度 が参考になります。(厚生労働省ホームページ「参考資料3-6」参照) ① 個人情報 評価日、氏名、年齢、性別、これまでの特記すべき疾患、 体力要素 測定項目 準備すべきもの 筋 力 握力 握力計 バランス 開眼片足立ち時間 ストップウォッチ 移動能力 5m間最大歩行 ポールなどの目印になるもの 色つきテープ、ストップウォッチ Timed up & go いす、ストップウォッチ、ポールなど の目印になるもの 17

4.評価の進め方と体力測定の実際...4.評価の進め方と体力測定の実際 1)事前アセスメント 実施担当者は事前アセスメントを行う上で、参加者の健康状態・生活習慣、体力水準などの個別

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Page 1: 4.評価の進め方と体力測定の実際...4.評価の進め方と体力測定の実際 1)事前アセスメント 実施担当者は事前アセスメントを行う上で、参加者の健康状態・生活習慣、体力水準などの個別

4.評価の進め方と体力測定の実際

1)事前アセスメント

実施担当者は事前アセスメントを行う上で、参加者の健康状態・生活習慣、体力水準などの個別

の状況を把握します。体力水準を把握するために体力測定を実施する場合は、握力・開眼片足立ち

時間・Time Up & Go Test・5m歩行時間(通常・最大)等を測定することが望ましいです。

ただし、利用者が体力測定に不安を訴える場合は実施しません。

<体力の評価>

〇次の項目を評価します。

評価項目

<痛みの評価>

〇痛みと痛みによる活動制限の評価を行います。

○痛みのアセスメントでは、ビジュアルアナログスケール(VAS)が参考になります。(厚生労働

省ホームページに掲載の「参考資料3-3」を参照してください。)

① 痛みの部位

痛みのある部位を身体図に書き入れる。複数の場合は番号をつける。どんな時に痛いのか

記載する。

② 痛みの既往と服薬

いつから痛いのか、現在の治療内容、使用している薬等を記載する。

③ 痛みの時間

痛みが出てから治るまでの時間などを記載する。

④ 痛みの程度をVASをつかって主観的な指標として記載する。

<その他>

〇膝痛では活動制限などを評価するために、日本版変形性膝関節症患者機能評価表(JKOM)が参考

になります。(厚生労働省ホームページ「参考資料3-4」参照)

○腰痛では疾患特定・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ)が参考になります。(厚生

労働省ホームページ「参考資料3-5」参照)

○転倒は、転倒不安に起因する活動性の低下が問題となることから、Tinetti の転倒不安感尺度

が参考になります。(厚生労働省ホームページ「参考資料3-6」参照)

2)その他の収集すべき情報と準備すべきもの

① 個人情報

評価日、氏名、年齢、性別、これまでの特記すべき疾患、

体力要素 測定項目 準備すべきもの

筋 力 握力 握力計

バランス 開眼片足立ち時間 ストップウォッチ

移動能力

5m間最大歩行 ポールなどの目印になるもの

色つきテープ、ストップウォッチ

Timed up & go いす、ストップウォッチ、ポールなど

の目印になるもの

17

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体重、身長、BMI、血圧、脈拍、ニーズ、自覚症状、日常生活活動能力等

② 準備すべきもの

身長計、体重計、血圧計、筆記用具、休憩用の椅子、水分補給用のドリンク、カメラ、

ビデオカメラ、ストップウォッチ、握力計、ポール、色つきテープ、距離を測るための

オドメーターやメジャー等、バインダー、評価用紙、スケジュール表

3)体力測定の進め方(体力測定を始める前に)

バイタルサインのチェック:血圧・脈拍数測定

体力測定の内容説明

全員でストレッチング(10分程度)

体力測定 理学療法士等の評価

終了

<指導者の心得> 〇参加者の緊張を和らげるような

声がけをする。 〇参加者が気持ちの準備を十分整

えられるように、参加者自身のタ

イミングで行えるように配慮す

る。

<測定結果のフィードバック> 測定結果は参加者が自分のデ

ータを見ることができるように

個人カルテにはさみましょう。コ

メントをつけて結果を説明する

ことも重要です。

<説明例> 「これから行う体力測定は、体を曲

げたり片足で立ったりなどとい

ったやさしいテストです。現時点

で、皆さんがどのくらいの体力が

あるのかを見るものです。他の人

と競い合うものではありません

ので、ご自分でできる範囲で頑張

ってください。」

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4)測定結果が意味するもの

① 握力(筋力)

握力は全身の筋力の状態を反映します。握力が弱くなっていれば、全身の筋力も弱くなっ

ていると考えても良いと思います。

② 開眼片足立ち時間(バランス能力)

片足で立った際のバランス能力の程度をあらわします。バランスが崩れた際に補正する能

力が反映されます。

③ 5m間最大歩行(歩行能力)

横断歩道などの道路上での移動など、移動の能力の程度を反映します。

④ Timed up & go (複合的動作能力)

複合的動作能力の程度をあらわします。立ちあがる、歩く、体の向きを変える、バランス

をとるなどの複合能力が必要となります。目と体や四肢の協調性が必要となります。これら

が低下すると実用的な行動に影響を及ぼすこともあります。

体力測定結果は、以下の表を参考に5段階で評価します。参加者はどの体力要素がより低下して

いるのか把握し、個別プログラムに生かしましょう。

<評価表>

※厚生労働省「介護予防マニュアル改訂版(平成24年3月)」より

5)体力測定の実際

① 握力測定

<測定方法>

〇 両足を開いて安定した基本姿勢をとる。

〇 握力計の指針を外側にして、体に触れないように肩を軽く外に開き、息を吐きながら

力いっぱい握る。

〇 左右2回ずつ行う。

<注意点>

〇 反対の手で支えたり、手を振らないようにする。

〇 握りは人差し指の近位指節間関節(第2関節)がほぼ直角になるように握り幅を調整

しておく。

レベル

握力開眼

片足立ち時間TUG

5m歩行時間(通常)

5m歩行時間(最大)

1 <=20.9 <=2.6 >=13.0 >=7.2 >=5.42 21.0-25.3 2.7-4.7 11.0-12.9 5.7-7.1 4.4-5.33 25.4-29.2 4.8-9.5 9.1-10.9 4.8-5.6 3.7-4.34 29.3-33.0 9.6-23.7 7.5-9.0 4.2-4.7 3.1-3.65 >=33.1 >=23.8 <=7.4 <=4.1 <=3.01 <=14.9 <=3.0 >=12.8 >=6.9 >=5.52 15.0-17.6 3.1-5.5 10.2-12.7 5.4-6.8 4.4-5.43 17.7-19.9 5.6-10.0 9.0-10.1 4.8-5.3 3.8-4.34 20.0-22.4 10.1-24.9 7.6-8.9 4.1-4.7 3.2-3.75 >=22.5 >=25.0 <=7.5 <=4.0 <=3.1

男性

女性

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〇 左右の最も良い値を採用する。小数点第1位まで求めることが望ましい。

〇 立位が不安定な方は、椅子に座って計測してもよい。そのときは備考に測定姿位を記

入しておく。

② 開眼片足立ち時間

<測定方法>

〇 両手を腰にあてる。

〇 重心を支持足に乗せておき、上げる足をゆっくりとあげる。被験者のタイミングでス

タートして、足が床から離れたときから計測する。

〇 上げる足は前方後方どちらでもよい。ただし上げた足を支持足につけないようにする。

〇 練習してから、左右2回ずつ行う。

<注意点>

〇 次の状態になるまでの時間を測定する。

・支持足の位置がずれたとき。

・腰にあてた手が離れたとき。

・支持足以外の体の一部が床に触れたとき。

〇 被験者のタイミングで行ってもらうよう、験者は被験者の動きに合わせ計測する。

「ご自分の準備ができたらはじめてください。足が離れたときから計測します。」と伝

える。

〇「目を開けたまま、この状態をなるべく長く保ってください」実演し教示をする。

〇 2回測定し、ベストをとる。秒未満は切り捨てる。

〇 測定時間の上限は60秒。1回目に60秒できた場合でも2回目の測定は行う。

〇 転倒の危険があるので、必ず被験者の後ろに補助者をつけること。

〇 もちろん被験者は一人ずつを計測する。

③ 5m間最大歩行

<測定路の準備>

〇 直線で11mをとれるスペースを準備する。部屋で無理な場合は廊下を利用する。

〇 11mのはじとはじに目印となるポールをおく。

〇 測定区間の始まり地点(歩行開始地点から3m)と区間終了地点(歩行開始地点から

8m)にあたる床にテープを貼る。

<測定方法>

〇 予備路(前後3mずつ)と区間5mの合計11mの歩行を行う。

〇 走らないように、2回歩く。

〇 所要時間を計測する。

(目印ポール)

予備路3m

測定路5m

予備路3m

(目印ポール) (テープ)

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<注意点>

〇 測定は、測定区間始まりと区間終了地点のテープを足で踏むか、足が超えた時点の所

要時間を小数点第1位まで(第2位以下は四捨五入)求め、2回のうちベストをとる。

〇 杖や歩行器を使っている人の場合は、使用した場合と、可能であれば使用しない場合

の両方を測定するとよい(杖や歩行器を使う場合は、記録紙に明記する)。

〇「できるだけ早く歩いてください」と伝え、走らせないようにする。

④ Timed up & go

<測定方法>

〇 背中を垂直にしてイスに座る。手はふとももに置く。

〇 験者の声かけに従い、イスに座った姿勢から立ちあがり、3m先の目印まで歩いて折

り返し、再び、イスに座る。

〇 回り方は左右どちらからでもよい。

〇 1回練習し、2回行う。

<注意点>

〇 イスは肘掛のついていない安定したものにする。

〇 験者は被験者の体の一部(頭)が動き出す時からスタート地点のイスにお尻が触れ

た時までを計測する。

〇 2回のうちベストをとる。少数点第1位まで(第2位以下を四捨五入)求める。

〇 教示は「できるだけ早くまわってください」に統一する。

〇 2回目は「もう少し頑張ってみましょう」と教示する。

〇 転倒の危険性(回るとき、イスに座ろうとするときに転倒しやすい。カーペット敷き

の時には歩行時つまずきやすい)があるので、補助者が必ずつくこと。また、補助者が

歩行の邪魔をすることがないように留意する。

6)事後アセスメント

プログラム開始から3か月後、目標の達成状況や日常生活活動能力の改善状況等を含めた評価を

行います。運動器の機能向上プログラム報告書(例)(次頁参照)を参考に、目標が達成されたか、

個別の体力要素が改善したか、主観的健康感の改善が認められたかを総合的に評価し、地域包括支

援センターに報告します。

3m

イス

目印のテープ

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7)運動器の機能向上プログラム報告書(例)

 氏名           年  月  日生 (     歳)

 要介護度 【 要支援1 ・ 要支援2 】

達成状況

1ヶ月目

2ヶ月目

3ヶ月目

改善・維持

右・左

右・左

 コメント:

 TUG  1.(    秒) 2.(   秒)

 開始前 1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 6

 5m通常歩行時間

主観的健康観

 1.(     秒) 【補助具使用(有 ・ 無)】

 1.(     秒) 【補助具使用(有 ・ 無)】

 1.(      kg) 2.(      kg)

 1.(      kg) 2.(      kg)

右・左

 1.(      秒) 2.(      秒)

 1.(      秒) 2.(      秒)

1:最高によい、2:とても良い、3:良い、4:あまり良くない、5:良くない、6:全然良くない

 5m最大歩行時間 1.(     秒) 【補助具使用(有 ・ 無)】

 開始後 1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 6

 握力

 1.(     秒) 【補助具使用(有 ・ 無)】

開始前 平成 年 月 日

 1.(    秒) 2.(    秒)

右・左

体力測定

     mm         点   mm         点

転倒不安感尺度

JLEQVAS        30項目 VAS        30項目

     mm         点   mm         点

コメント

VAS        25項目 VAS        25項目

 開眼片足立ち

 JKOM 

 項目

               点                 点

運動器の機能向上プログラム報告書(例)

 介護予防ケアプランの目標(ニーズ) 

  達成状況 

運動器疾患対策のための評価

 評価者名

 

終了後 平成 年 月 日

 プログラムの目標 

  達成状況 

到達目標

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