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■オリンピック開催に向けて加速する映像技術の進化 日本勢が史上最多の41個メダル数を獲得したリオデジャネイロオリンピック。 連日日本選手の活躍を伝える躍動感あふれる映像がテレビを賑わせました。 ここ10数年で、映像分野での技術は目覚ましく、大画面テレビの普及を背景に 「ハイビジョン」「フルHD画質」による高画質の映像を大画面テレビで楽しむと いった行為も一般家庭において日常的なものとなりました。 2020年の開催を迎える東京オリンピック・パラリンピックを背景に、総務省や NHKが中心となり、現行のハイビジョン放送を超える「超高精細な画質」によ る「次世代の放送技術」として4K・8K放送の実現に向けての取り組みがいよ いよ本格化しています。2018年の実用放送開始、そして2020年の普及を目指し、 NHKは4K・8K試験放送「NHKスーパーハイビジョン」を本年8月1日にス タートしました。 本稿では4K・8K放送の概要と実用放送までのロードマップおよびその課題、 4K・8K放送の受信システムを設計する上でのポイント等について解説します。 ■わが国の放送メディアのあゆみ まず初めに我が国の放送メディアの歴史をざっとおさらいしましょう。1953年 の白黒放送から始まったテレビ放送は高度経済成長期を背景に一般家庭にも急速 に普及し、1960年のカラー放送の開始を経て、1964年の東京オリンピックでは静 止軌道上の通信衛星を使って世界初の衛星生中継が行われました。1989年には NHKによるBSアナログ放送の本放送がスタート、そして2000年を迎え放送業界 も本格的なデジタル化時代を迎えます。一足先に92年にデジタル放送が始まって いたCSデジタル放送に続いて、BS放送と一部CS放送を含む衛星基幹放送と地上 基幹放送(いわゆる地上波)のデジタル放送化が行われ、2011年には全ての放送 がデジタル放送へ移行しました。(東日本大震災の影響により、岩手・宮城・福 島の東北3県では、2012年に移行が完了。)(図1) ここで衛星放送のBSとCSの違いですが、BSは「Broadcast Satellite」の略で「放 送衛星」、CSは「Communication Satellite」の略で、「通信衛星」のことを指します。 利用する衛星の使用目的によって区分されているだけで、機能的な違いはありませ ん。総務省は2009年に制度の整備を行い、BSデジタル放送と東経110度CSデジタ ル放送を制度上「特別衛星放送」(現在は「衛星基幹放送」)として統合、それ以 外の衛星放送を「一般衛星放送」(現在は「衛星一般放送」) ※) と位置づけること により、衛星放送の新区分制度がスタートしました。 ※) 「一般放送」は「衛星一般放送」、「有線一般放送」、「地上一般放送」の3種に分かれます。ケーブルテ レビは有線一般放送に区分されます。 『4K・8K放送における 受信システム設計のポイント』 DXアンテナ株式会社 技術コーナー -25-

『4K・8K放送における 受信システム設計のポイント』4K・8K映像の特長とメリット 4K・8Kの一番の特長は高精細で立体感、臨場感のある映像が実現できると

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  • ■オリンピック開催に向けて加速する映像技術の進化 日本勢が史上最多の41個メダル数を獲得したリオデジャネイロオリンピック。連日日本選手の活躍を伝える躍動感あふれる映像がテレビを賑わせました。 ここ10数年で、映像分野での技術は目覚ましく、大画面テレビの普及を背景に

    「ハイビジョン」「フルHD画質」による高画質の映像を大画面テレビで楽しむといった行為も一般家庭において日常的なものとなりました。 2020年の開催を迎える東京オリンピック・パラリンピックを背景に、総務省やNHKが中心となり、現行のハイビジョン放送を超える「超高精細な画質」による「次世代の放送技術」として4K・8K放送の実現に向けての取り組みがいよいよ本格化しています。2018年の実用放送開始、そして2020年の普及を目指し、NHKは4K・8K試験放送「NHKスーパーハイビジョン」を本年8月1日にスタートしました。 本稿では4K・8K放送の概要と実用放送までのロードマップおよびその課題、4K・8K放送の受信システムを設計する上でのポイント等について解説します。

    ■わが国の放送メディアのあゆみ まず初めに我が国の放送メディアの歴史をざっとおさらいしましょう。1953年の白黒放送から始まったテレビ放送は高度経済成長期を背景に一般家庭にも急速に普及し、1960年のカラー放送の開始を経て、1964年の東京オリンピックでは静止軌道上の通信衛星を使って世界初の衛星生中継が行われました。1989年にはNHKによるBSアナログ放送の本放送がスタート、そして2000年を迎え放送業界も本格的なデジタル化時代を迎えます。一足先に92年にデジタル放送が始まっていたCSデジタル放送に続いて、BS放送と一部CS放送を含む衛星基幹放送と地上基幹放送(いわゆる地上波)のデジタル放送化が行われ、2011年には全ての放送がデジタル放送へ移行しました。(東日本大震災の影響により、岩手・宮城・福島の東北3県では、2012年に移行が完了。)(図1) ここで衛星放送のBSとCSの違いですが、BSは「Broadcast Satellite」の略で「放送衛星」、CSは「Communication Satellite」の略で、「通信衛星」のことを指します。利用する衛星の使用目的によって区分されているだけで、機能的な違いはありません。総務省は2009年に制度の整備を行い、BSデジタル放送と東経110度CSデジタル放送を制度上「特別衛星放送」(現在は「衛星基幹放送」)として統合、それ以外の衛星放送を「一般衛星放送」(現在は「衛星一般放送」)※)と位置づけることにより、衛星放送の新区分制度がスタートしました。※) 「一般放送」は「衛星一般放送」、「有線一般放送」、「地上一般放送」の3種に分かれます。ケーブルテ

    レビは有線一般放送に区分されます。

    『4K・8K放送における�受信システム設計のポイント』DXアンテナ株式会社

    技 術 コ ー ナ ー

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  • ■4K・8Kとは何か? 4K・8KのKとは1000をあらわす用語です。現在の大型液晶テレビのスペックでは2KにあたるフルHDの解像度1920×1080ピクセルが主流になっていますが、4Kはその4倍(縦横2倍)の3840×2160ピクセル、8KになるとフルHDの16倍

    (縦横4倍)の7680×4320ピクセルになります。フルHDはフルハイビジョン、4K、8Kはスーパーハイビジョンとも呼ばれます。(図2)

    図1  我が国の放送メディアの進展 総務省資料「衛星放送の現状」   平成28年度第2四半期版より

    図2

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  • ■4K・8K映像の特長とメリット      4K・8Kの一番の特長は高精細で立体感、臨場感のある映像が実現できるということです。フルHDの画像を60インチ等の大画面で近くで見た場合、映像の粗さに気がついてしまう場合がありますが、4Kの場合はフルHDの4倍の解像度があるため、よりきめが細かく美しい映像を実現することができるということになります。 ここで気をつけなければいけないのは、4Kに対応したテレビでも、放映をする素材映像がスーパーハイビジョンに対応した解像度のものでなければ、そのメリットを十分に活かすことができないということです。ただし、これも解像度の低い映像を解像度の高い映像にアップコンバートする技術、「超解像技術」を使うことによって、ある程度は解決することが可能です。もとの素材がフルHD画質のものであっても、超解像処理が介在することによって、4Kテレビで十分にその違いを体感することができます。こういった背景もあり、4K放送実用運用の見込みと相まって、4Kテレビの需要が高まってきています。 また4K・8Kへの対応が急がれている背景として、公共・地域情報等と連携した「放送・情報連携サービス」の必要性が見込まれることがあります。インターネット経由のアプリやコンテンツが放送番組と連動してわかりやすく表示可能な「スマートテレビ」が注目されていますが、災害時や地域医療情報の提供、教育分野での活用など、テレビ放送とインターネットとの情報連携の可能性はますます大きくなりつつあります。画面上で、「本体映像」と「関連情報」を一画面で見るためには、大型画面でも高精細な映像を得ることができる4K・8Kが非常に適した視聴形態であるといえます。

    図3 4K(対応)テレビ/2Kテレビ需要予測(国内)   総務省資料「4K・8Kの取り組みについて」(2016年3月22日)より

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  • ■4K・8K推進のためのロードマップ 次に4・8Kの実用放送に向けたロードマップを説明します。総務省では、2014年2月から「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合」を開催し、同年9月に中間報告を公表、2015年7月には「第二次中間報告」において、ロードマップの改訂を行いました。ロードマップでは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年に「4K・8K放送が普及し、多くの視聴者が市販のテレビで4K・8K番組を楽しんでいる」ことなどを目標としています。2016年8月には既にBS放送による4K・8K試験放送が開始されており、2018年には「BS右旋及び110度CS左旋において4K実用放送開始」と「BS左旋において4K及び8Kの実用放送開始」が予定されています。(図4) アナログ放送からデジタル放送への切り替えと異なり、現行の地上デジタル放送等による2K(フルHD)については引き続き継続されます。(地上デジタルによる4K・8K放送の具体的な計画は現在のところありません。)

    ■4K・8K受信システム設計のポイント ここからは4K・8Kの実用放送を見据えて、受信機側に必要となる機材やシステム設計のポイントについて説明します。

    1.テレビ側の要件 2018年に始まる4K・8K実用放送は、現行の衛星放送とは異なった仕組みで放送されます。そのため現在販売されている4Kテレビ※)は、2018年に実用放送として予定されているBS・110度CS衛星による4K・ 8K放送サービスを受信するためのチューナーは内蔵されていないため、そのままでは視聴できません。BS・110度CS衛星による4K・8K放送サービスを受信するためには、専用チューナーが別途必要になります。(現段階では市販されていません。)

    図4 4K・8K推進のためのロードマップ   総務省資料「4K・8Kロードマップに関するフォローアップ会合第二次中間報告」より

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  • ※) 総務省によれば、水平3,840画素以上かつ垂直2,160画素以上を有する表示デバイスを搭載し、4K映像信号を表示できるものを「4K対応テレビ」と呼び、この表示機能に加え、何らかの4K放送をテレビ本体で受信可能な機能を有するものを「4Kテレビ」と呼んでいます。4Kテレビ/4K対応テレビの説明など、より詳しい情報については一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)のホームページ

    (http://home.jeita.or.jp/ce/)をご参照ください。

    2.その他受信機器側の要件 全ての4K・8K衛星放送を受信するためには、アンテナからテレビ端子、テレビに接続する全ての受信機器の交換が必要になります。① アンテナ

    新たな周波数、偏波(左旋円偏波)で送信されるため、BS・110度CS右左旋共用衛星アンテナへの交換が必要です。(図5-1、5-2)

    図5-1

    図5-2

    -29-

  • ②  混合器、分配器・分岐器、ブースター、直列ユニット(テレビ端子)3224MHzまで伝送できる機器への交換が必要です。

    ③ 同軸ケーブル5C-2Vや4C以下のケーブルは、ケーブル損失(減衰量)が多いため、4K・8Kに対応した同軸ケーブルへの交換が必要です。尚、ケーブルについては対象となる設備におけるケーブル損失の測定等、事前の検証が必要とされ、S5CFBへの交換を推奨しています。

    ④ テレビ裏配線機器テレビ裏の配線で使用する分波器、ケーブル付2分配器、加工ケーブルなども交換が必要になります。

    3.システム設計におけるポイント BS・110度CS衛星による4K・8K放送は「3224MHz」と大変高い周波数帯域を使用します。同軸伝送は、周波数が高くなればなるほど機器や同軸ケーブルの減衰量が大きくなる特性を持っているため、新たにブースターを増設する等、受信システムを新しく設計する必要があります。(図6、7)

    ■4K. 8Kの本格普及に向けて 来るべき4K・8K時代の到来に向けて、4K・8K放送への関心が急速に高まって来ています。大型テレビの需要が4K対応にシフトしつつある状況は先に述べたとおりです。各家庭への普及状況によっては、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機にして、4K・8Kの方向へ需要動向がダイナミックにシフトしていく可能性があり、業界全体での緊密な連携による普及促進に期待が寄せられています。

    図6 機器の減衰特性イメージ 図7 4K・8K受信システム例

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