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53 研究題目 静岡県立静岡農業高等学校 教諭 櫻井 正剛 1 研究の主旨 (1) 本校食品系列におけるプロジェクト学習 (2) 本研究の目的 (3) 本研究参加者 2 研究内容の概要 (1) 松葉の成分から機能性に成りうる成分を見つけ定量分析 (2) 松葉の抗酸化力分析 (3) 松葉成分が微生物に与える影響を分析 (4) 基礎実験から得られた期待できる効能 (5) 松葉の添加法の確立 (6) 添加食品の選定・添加 (7) 三保地域住民の理解 (8) マスコットキャラクターの製作 (9) 松葉茶の製作 (10) 抗酸化作用の相乗効果実験 (11) 松葉を食用に使用する安全性 (12) 松葉茶作り (13) 松葉茶を作るにあたっての課題と解決 (14) 新産業システムを使っての松葉茶試験販売 3 具体的な指導とポイント 4 考察 5 今後の課題 学校での専門学習を活かした実践研究 ~廃棄松葉を有効利用し機能性食品を作り出す~

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研究題目

静岡県立静岡農業高等学校 教諭 櫻井 正剛

1 研究の主旨 (1) 本校食品系列におけるプロジェクト学習 (2) 本研究の目的 (3) 本研究参加者 2 研究内容の概要 (1) 松葉の成分から機能性に成りうる成分を見つけ定量分析 (2) 松葉の抗酸化力分析 (3) 松葉成分が微生物に与える影響を分析 (4) 基礎実験から得られた期待できる効能 (5) 松葉の添加法の確立 (6) 添加食品の選定・添加 (7) 三保地域住民の理解 (8) マスコットキャラクターの製作 (9) 松葉茶の製作 (10) 抗酸化作用の相乗効果実験 (11) 松葉を食用に使用する安全性 (12) 松葉茶作り (13) 松葉茶を作るにあたっての課題と解決 (14) 新産業システムを使っての松葉茶試験販売 3 具体的な指導とポイント 4 考察 5 今後の課題

目 次

学校での専門学習を活かした実践研究

~廃棄松葉を有効利用し機能性食品を作り出す~

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1 研究の主旨 (1) 本校食品系列におけるプロジェクト学習

本校は、生命を科学する生産系、生活空間を科学する環境系および食品を科学する

食品系という3つの系列でそれぞれ普通科目と専門科目を学習している。食品系は、

2年次から食品科学科と生活科学科に分かれる。

食品科学科 ···· 食品産業のスペシャリストを目指し「食品の製造」「食品の栄養・

検査」について科学的に学ぶ。

生活科学科 ···· 食品調理・サービスのスペシャリストを目指し「フードデザイン」

「調理」「食品の流通」について学ぶ。

1年次から2年次まで食を科学する基礎を学び、応用学習として3年時から課題研

究としてプロジェクト学習を行っている。ここでいうプロジェクト学習とは、Pla

n(計画)Do(実施・実行)Check(点検・評価)Action(処置・改善)

からなるPDCAサイクルの中で、生徒が主体的に研究課題を見つけ、研究を行って

いく学習である。専門学習を活かして実践的に学習していくことで、自ら考え・実行

していく態度を身に着けることができる。本研究は、授業で学んでいる基礎学習を実

践的に活かして、栄養素の定量分析・性質効果分析・活用法・地域還元まで行うプロ

ジェクト研究で、生徒たちの興味・関心を高めると同時に更なる知識の習得を目指す。

(2) 本研究の目的

三保の松原では、景観を保つため多くの松葉が定期的に伐採されるため廃棄松葉が

多く出る。松の種類は違うが、韓国では松葉を栄養剤として活用していたり、食べ物

を満足に与えられないときの栄養源として使われていたりするなどの報告をみるこ

とができる。日本においては、あまり栄養源として考えられていないが、大きな可能

性を秘めた植物であると感じ松葉の効能分析に乗り出した。松葉を有効利用すること

ができれば三保地域の活性にもつながると考えた。

(3) 本研究参加者

食品系列で学習している研究に興味がある生徒 9名

2 研究内容の概要 (1) 松葉の成分から機能性に成りうる成分を見つけ定量分析

松葉は、過去、3次機能性のため利用されていた報告がいくつかあり、その成分を

調べたところ、ケルセチンというフラボノイドが含まれていることがわかった。ケル

セチンはそばに多く含まれているルチンの仲間であり、血管を強くする効果や抗がん

作用、生活習慣病予防など様々な効能がある。その中でも、注目したい効能が抗酸化

作用とアレルギー症状緩和効果である。ストレス社会・アレルギー社会と言われてい

る現代で、抗酸化作用は、ストレスの軽減、生活習慣病予防など様々な効果を発揮す

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ることができ、薬の服用なしでアレルギー症状の緩和に効果がある栄養素があるとし

たら大変有意であると考える。そこで、ケルセチンに焦点をあて含有量を液体クロマ

トグラフィーで分析した。

実験方法

HPLC を使用したケルセチン定量法

ケルセチン標準溶液の検量線作成 試料溶液作成(松葉溶液)

ケルセチン標準品(輸入品)1mg 松葉 2mg

↓ ←80%メタノール 約 50ml ↓←80%メタノール 約 50ml

200mg/l(ppm)ケルセチン標準溶液 ↓ 浸漬 20 時間

ケルセチン標準溶液を40倍(5ppm)、80倍(2.5ppm) ろ過

160 倍(1.25ppm)、320 倍(0.625ppm)に希釈 ↓

↓ 定容(50ml メスフラスコ)

HPLC で測定(下表 1がピークの面積値) ↓

↓ ディスミックフィルター(5μm)でろ過し

標準液濃度を縦軸・面積値を横軸とし サンプルカップに入れる

検量線を作成する(次頁グラフ1) ↓

表1 試料液 1ml ↓←2N 塩酸 5ml

加水分解(100℃湯浴中 30 分)

分液ロートで分配

↓←酢酸エチル 10ml

水層を除去(下層)

<HPLC 初期条件> 水洗浄(蒸留水 10ml)・水層の除去×2

移動相 メタノール:水:ギ酸(39:60:1) ↓

送液量 1ml/分 酢酸エチル層をとる(三角フラスコ)

カラム温度 40℃ ↓

注入量 10μl 検出波長 360nm 乾固(60℃湯浴中)

5ml に定容

↓←80%メタノール

ディスミックフィルター(5μm)でろ過し

サンプルカップに入れる

面積値 標準品濃度(㎎/L)

86668 5.9

37225 2.95

15428 1.475

4675 0.7375

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松葉に含まれるケルセチンが配糖体であったためケルセチン標準液とピークが一致

しなかった。

配糖体のケルセチン標準液はあるが、松葉中のケルセチンがどのよ

うな配糖であるかが分からないため、糖を加水分解で分離させ分析

したところピークが標準液と一致し、検量線に当てはめ計算した。

グラフ1

定量分析

①試料溶液を HPLC に注入

②ケルセチン標準溶液のピークと一致する時間のピーク面積値を算出する

③検量線に当てはめ面積値から濃度(mg/l)を割り出す

④割り出された濃度と試料秤量値から松葉100g中のケルセチン量(mg)を算出(下表2)

結果 表2

試料 面積値(2 回測定の平均値) 濃度(mg/L) 試料秤量値(g) 100g 中濃度(mg)

生 12234 1.276 2 15.94

乾燥 55201.5 3.970 2 49.62

加水分解で糖を分離

配糖体であれば吸収率U

Pが期待できる

01234567

0 20000 40000 60000 80000 100000濃度

(㎎

/L)

面積値

検量線

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100g当たり約 50 ㎎のケルセチンが含まれていることが確認された。この数値は、

大量のケルセチンが含まれていることを意味する。また、実験の中から松葉中のケル

セチンは配糖体であり、通常のケルセチンの 120%の吸収率であることがわかった。

松葉 100g 中のケルセチン量 = 49.62mg

ケルセチンが多く含まれている食品例 約 8 倍

例 りんご 100g 中のケルセチン量 = 6mg

レタス 100g 中のケルセチン量 = 4mg

松葉中のケルセチン量の定量法は確立されていないので難しかったが、ケルセチン

標準液とピークが一致しているため信用のできるデータである。

(2) 松葉の抗酸化力分析

「DPPH 法を使用した松葉が持つ抗酸化力の分析」

松葉が持つ抗酸化力を非常に強い抗酸化力を持つ茶と比較し松葉の抗酸化能の分

析を行った。

方法

(1)Trolox を抗酸化能の指標として用いる(検量線作成)ため、まず、Trolox 溶液

10 倍希釈をつくる。

(2)2ml 用のエッペンドルフチューブに900µℓの80%エタノールを2本加え①②とする。

まず①に100µℓ加えボルテックスする。次に②に①溶液を100µℓ加えボルテックスする。

(3)抗酸化の能力は、DPPH を消欠させた力によるものであるので、DPPH の吸光度から

サンプル吸光度を差し引いて求める。よって、ブランクとしてまず DPPH の吸光度を

測定する。

(4)縦に 12 列、横を 8列としてプレートをおき、それぞれのブランク、指標、サンプ

ル及びサンプルブランクが指定されている場所すべてに、80%エタノールを 100µℓ

ずつ加える。

(5)その後は、指定された場所すべてにそれぞれのサンプル、Trolox を加え、最後に

エタノール及びサンプルブランク以外の場所に DPPH を加える。1 時間置き、マイク

ロプレートリーダーにて 490nm で吸光分析を行う。

結果

抗酸化力の比較

松葉 茶

1937ABS > 1776ABS

非常に強い抗酸化力を示す茶カテキンを含む茶より、ケルセチンを含む松葉のほう

が抗酸化力が強いことが検証できた。(茶や松葉の抗酸化作用は上記に示した以外の

栄養素からも発揮される)

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(3) 松葉成分が微生物に与える影響を分析

大腸菌(グラム陰性菌)、枯草菌(グラム陽性菌)、酵母菌を検定菌とし、ブランク

と松葉抽出液で平板培養法を使用し、それぞれの菌増加を比較した。

・大腸菌(グラム陰性菌) → 減少

・枯草菌(グラム陽性菌) → 増加(ビフィズス菌や納豆菌など)

・酵母菌 → 増加

次に混釈培養法を用いて菌のコロニー数を計測比較した。(下表3)

表3

松葉0% 松葉1% 松葉2% 松葉3%

大腸菌 155個 78個 17個 7個

酵母菌 474個 162個 419個 692個

大腸菌(グラム陰性菌) → 減少

酵母菌 → 1%で減少したがあとは増加

松葉エキスが抗菌作用を示す最低濃度を調べる

「抗菌性物質の力価測定法」

松葉を0%、5%、10%、20%添加した培地にそれぞれ大腸菌を植え付け48時

間培養した。

ダーラム管内に大腸菌が出したガス(CO2)が溜まっていなければ大腸菌はいない。

実験結果から、松葉20%濃度で完全な抗菌作用を示すことを検証した。

結果から期待できる効能

①抗菌作用(風邪などの予防)

②プレバイオティクス(体内有用菌のみの増加)

③食品発酵への応用

(4) 基礎実験から得られた期待できる効能

①強力な抗酸化作用 ②生活習慣病の予防

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③アレルギー症状の緩和 ④抗がん作用

⑤抗菌作用 ⑥プレバイオティクス など

以上のことから食品に添加することにより機能性食品の効果を期待できる。

(5) 松葉の添加法の確立

松葉には、確かに 3 次機能性的な効能が期待できると確認できたので添加法を考え

た。化粧品への添加を考えたが、既に化粧品にはケルセチンが添加されていることを

知った。そこで、食品への添加を考えた。

添加法の候補

①栄養素を抽出添加

②栄養素を抽出後スプレードライ法で固形化し添加

③松葉をそのまま添加

①、②を実行した際に食物繊維が豊富にあることが認められたため食物繊維の効能

も考え、③の松葉をそのまま添加する方法に決定した。

問題点

①松葉特有の臭いがある

②食物繊維が豊富にあるため喉越しが非常に悪い

③松葉特有の苦みがある

問題点を解決するため松葉をパウダー状にすることを考えた。

様々な方法を試し、松葉を洗浄・細断し、45 度 25 分で低温乾燥、90 度 40 分で高

温乾燥させた後、製粉機で細断することで、パウダー状にすることができた。

パウダー状にしたことでのケルセチンの減少率を定量

分析し算出した。(P2の表2)

生松葉(水分考慮) → 53.0mg

松葉パウダー → 49.6mg

算出結果のようにケルセチンの減少はほとんど認めら

れなかった。

次に松葉特有の臭気の減少を官能試験で感じたので、

ガスクロマトグラフィー質量分析器で臭気定量分析を行った。

下ピークグラフ2は、生松葉の臭気のピークを示したものであり、αピネンやβピ

ネンなど木などの代表的な臭気が多く定量でき、その強さもほとんどがグラフを突き

抜けている。松葉の臭気の強さを窺うことができる。

下ピークグラフ3は、松葉パウダーの臭気のピークを示したものであり、臭気の大

幅な減少を認めることができる。元々森林などの心地よい臭気も存在していたので、

臭気が非常に弱くなったことで心地よい臭気となった。

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ピークグラフ2 ピークグラフ3

以上の結果から松葉パウダーにすることによって松葉特有の臭気(問題点①)を改

善することができ、食物繊維による喉越しの悪さ(問題点②)も改善することができ

た。

(6) 添加食品の選定・添加

添加食品を決める際の条件として以下の事を考えた

・毎日無理なく食べることができる(機能性食品は薬ではないので毎日摂取すること

で効果を出す)

・毎日食べることにより他の病気を引き起こさない(お菓子やケーキは毎日食べては、

糖分の取りすぎで生活習慣病になってしまう。美味しいからやみんな好きだからの

理由だけで選定することは安易である)

その結果、毎日の主食になりうるパンへの添加を考えた。

松葉パンは強力粉、砂糖、バター、塩、ぬるま湯、イーストを使い、製粉した松葉

はパン生地に練りこみ焼き上げた。しかし、松葉特有の苦味を感じたため、試行錯誤

の末、小豆を使って味を調整することにした。パンは松葉添加量が強力粉に対し1.6%、

3.2%、4.8%として、官能試験を行ったところ、

1.6% ···· 抹茶のような味と小豆がマッチしていてとても美味しい

3.2% ···· 松葉の風味を感じ、苦味はなく美味しい

4.8% ···· 小豆で味をカバーしているが松葉の苦味を感じる

という結果になり、松葉独特の味を抑えることができた。

松葉パウダーをただ添加するだけでは松葉の苦味が強いため小豆を加えることで

小豆が松葉の苦みを消す役割として働き大変美味しいパンを作り出すことができた

ことで松葉特有の苦み(問題点③)を改善することができた。また、地元清水のパン

販売店との共同開発により、さらに 2種類の松葉添加パンを開発した。

松葉小倉食パン 松葉雑穀食パン 松葉大納言

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(7) 三保地域住民の理解

松葉添加パンを NPO 法人三保の松原はごろも村や地域住民を対象とした試食会で

アンケート調査を行った。

パンの味

松葉小倉食パン 松葉雑穀食パン 松葉大納言

とても美味しい 31.3% とても美味しい 47.4% とても美味しい 61.1%

美味しい 47.3% 美味しい 52.6% 美味しい 38.9%

ふつう 25.0% ふつう 0% ふつう 0%

まずい 0% まずい 0% まずい 0%

これからも松葉添加パンを買いたいと思いますか

はい 100% いいえ 0%

松葉添加パンについての意見

・効能を前面に出すのであればもっと苦くてもよい

・小豆をなくしもっと松葉を感じたほうが良い

・最後に松葉の香りが少し残るがここが良いと思った

・香りの良さはわかったが、松葉とは気が付かなかった

・松葉パンがもっと広く宣伝され多くの人に食べてもらえるようにしてほしい

・松葉を食用にするとは思わなく、良いところに着目したと思う。

・松葉大納言は絶対に売れる。後は値段が手頃なら・・

など他にも多数の意見をいただきました。

地域住人は松葉の効能や利用に大変関心を持っており、松葉利用の可能性を強く感

じると同時に三保地域の活性化の足掛かりになる期待を感じた。

(8) マスコットキャラクターの製作

松葉の機能性を注目していただき理解してもらうため、松葉製品に親しみをもって

もらう狙いでマスコットキャラクターを作成した。これを商品の中に入れていく。

(9) 松葉茶の製作

もっと松葉を効率よく摂取する方法を模索し、毎日飲む人が無理なく多く摂取でき

松葉の効能紹介

マスコットキャラクター(ケルボーとケルミー)

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る松葉茶の製作に取り掛かった。松葉だけでなく、茶葉との組み合わせにより、「静

岡のお茶と三保松原の松葉」と話題性のある商品となることを考えた。

<官能試験>

茶葉に対して 松葉 10%添加 → ほとんど松葉の味を感じない

松葉 20%添加 → ほとんど松葉の味は感じない

松葉 30%添加 → 松葉の味がかすかにする

松葉 40%添加 → 後味に松葉の苦みを感じる

松葉 50%添加 → 松葉の味やにおいを感じるがお茶のほうが勝って

いて美味しい

松葉が多すぎると松葉独特の味が出てきてしまうため好みが分かれてしまう。誰で

も美味しく、なるべく多くの松葉を摂取できるようにするために茶葉と松葉パウダー

の割合を1:1にすることが妥当であると考えた。

また、茶葉中の栄養素との相乗効果も考えた。

(10) 抗酸化作用の相乗効果実験

茶葉に含まれる茶カテキンとケルセチンが抗酸化作用の相乗効果を発揮するので

はないかという仮説を立てお茶の中に松葉を添加し DPPH 法での抗酸化作用比較実験

を行った。

茶葉のみで煮だす 茶葉で煮だした後、松葉をエタノールで抽出しながらお茶に添加

(%は、茶葉に対しての割合) 抗酸化比較グラフ4

結果

お茶+松葉は茶葉に対して松葉を 60%にしたものは、茶のみの抗酸化力と比較する

と 3.97 倍の抗酸化力を示した。このことから、茶と松葉の抗酸化力相乗効果を検証

することができた。

茶 ······ 1717ABS

松葉茶(松葉60%) ······ 6820ABS 3.97 倍

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また、松葉の抗酸化作用におもしろい結果がでた。

直後 20 分後 40 分後 60 分後

時間経過による抗酸化力の効果グラフ5

茶葉液と松葉液の抗酸化作用の時間経過による抗酸化力の効果を分析したところ、

グラフ5の茶葉は、すぐに抗酸化力の効果を示すが、松葉は、時間と共に効果が高ま

る。これは、運動直前に飲めば、運動量が高まり活性酸素が増えたときに最大効果を

示すことが出来るのではないかと仮説を立てることができる。

(11) 松葉を食用に使用する安全性

松葉は、食用として使われていないため安全性を疑問視する声があった。その為、

①残留農薬の検証②洗浄方法の工夫を行った。

①残留農薬0の証明書 ②東海大学海洋水族館の海洋深層水で洗浄

(12) 松葉茶作り

選定された松葉を①洗浄 ②松葉の分散 ③乾燥 ④粉末化 ⑤粉末松葉と粉末

茶の混合 により松葉茶の製作に成功した。

②松葉の分散 ③乾燥 ④粉末化 ⑤松葉と茶の混合

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(13) 松葉茶を作るにあたっての課題と解決

松葉茶の製造・販売に対して次の課題が生じた。

①松葉の回収方法 ②松葉の洗浄方法 ③松葉の大量粉末化

④松葉茶の大量製造 ⑤松葉茶の販売方法 ⑥松葉茶売り上げの用途方法 等

この課題の解決のため静岡農業高校生が三保地域向上協議会を立ち上げ、三保地域

に新たな産業システムを作り出すことを考えた。この協議会のため、三保地区自治会

長、三保地区生涯学習会館長、NPO法人代表、大学関係者、食品開発会社社長に呼

びかけ次の協議・提案した。

三保地域向上協議会の結果産業システム作成のため、次のことが明確化された。

①松葉の回収方法 → 地元NPO法人で回収

②松葉の洗浄方法 → 地元大学の所有する海洋水族館で使用している海洋深

層水で洗浄する

③松葉の大量粉末化 → 地元の授産所で大量生産

④松葉茶製造 → 食品開発会社で生産

⑤松葉茶販売方法 → 販売元をNPO法人とし、販路拡大を静岡農業高校生が

行う

⑥売り上げの用途 → 売り上げの15%をNPO法人が管理し

「三保松原の環境保全」「三保地域の活性化」に役立てる。

⑦松葉研究・パッケージデザインは静岡農業高校生が行う

(14) 新産業システムを使っての松葉茶試験販売

三保の松原の一角で松葉茶の試飲・試験販売を行った。115袋売ることができた。

パッケージデザインを静岡農業高校生が担当した。また、当日は、観光客に向けて松

葉の有用性がわかる広告をつくり説明も行った。

パッケージデザイン1 広告 表面 広告 裏面

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パッケージデザイン1では、三保の松原の松が使われていることが一目でわかるよ

うに「天女」と「羽衣の松」を入れた。また、インパクトを強くするため「血管力」

の文字を分かるようにいれ、血管を強くし、生活習慣病や認知症、美容に効果がある

ことを訴えた。

広告は、一般の方々が見てもわかりやすいように、興味がわくことだけを大きく分

かりやすく作った。

3 具体的な指導とポイント 授業での栄養素の学習は、各栄養素の構造、性質、定量、体への効果、他の栄養素と

の相乗効果を定性実験、定量実験を交えながら学んでいる。そして、食品製造では、性

質を理解したうえで食品加工を行っている。これらすべての要素を入れ、課題の発見→

予測→計画→実行→結果の考察→改善、再び計画を繰り返し正確な実験データが出るま

で行った。そのことにより、結果に対する考察や改善を考えることが出来るようになっ

た。また、研究の最大目的は、地域還元であることを教え、地域へどのように還元する

べきか考え、応用研究を行った。このことにより、基礎研究で検証したことをどのよう

に活かしていくべきか考える力がついた。また、地域住民の笑顔を見ることができ、学

習・研究の意義を学んだ。産業教育は、実践的に活躍できる人材を作り出す教育をする

必要がある。今回の実践的な活動を通して基礎教育の必要性と、それを実践的に活用す

る面白さを生徒たちは感じていた。

4 考察 機能性食品が注目され、今まで知られていなかった栄養素が注目されるようになった。

松葉は、三保の景観を考える上で必要不可欠なものであるが、その効能については知ら

れていなかった。今回、松葉に着目し、効能調査・分析により新たに発見することがで

き、松葉の持つ力を大いに感じた。我々は、基礎実験で検証した効果を有効利用し機能

性食品を作り出し、売り出すことで、廃棄松葉を有効利用し、富士山構成資産として世

界文化遺産に登録された三保の松原・三保地域の活性化につなげられるのではないかと

考えている。だが、食用として考えてこなかった植物を食用として扱う難しさがあり、

本当の流通には課題が多く残っている。この課題の解決には、生徒たちの努力が必要で

ある。しかし、課題の解決に向かって考え学習していくことで生徒たちは、研究を通し

て成長していくことができると考えている。

5 今後の課題 1 お茶との相乗効果を検証したので松葉茶の作成・商品化を進めていく。

2 松葉特有の抗酸化能の時間による効果の向上を発見したのでこの性質の活用方法

を考えていく。

3 枯葉松葉の活用法を検証する。

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4 抗菌作用の相乗効果を検証する。

5 アレルギー症状緩和を検証する。

6 地域名産物を開発する。

7 新産業システムの強化を目指す。