7
1 5 地球ニュートリノ 5.1 地熱発生機構解明の重要性 あるが、 にちり して し、そ ニッケル モルテン ( ) み、 に堆 して った。こ ある。 ( する ) 、マント *1) こし、 する。また 、核 により じる えられているが、太 する 割を つ。 つかある。 5.1: による から り、 モデルを れるが ( 5.1)いて い。 あるが、 しか い。 する される を大 に拡大し する。 44 ± 1TW われてきたが *2) じデータを して 31 ± 1TW いう たこ あり *3) まだまだ ある。 について (コンドライト; 5.2) して、BSE (bulk silicate Earth) モデルが られ、コアを した。 パラダイム ある * 1) にある 30km から 2900km 囲を す。 マントル カンラン する あるが、一 えて け、液体に った がマグマ ある。( キペディアより) * 2) H.N.Pollack,S.J.Hurter,J.R.Jphnson; Heat flow from the Earth’s interior:analysis of the global data set, ReV. Geophys. 31 (1993) 267-280 * 3) A.M.Hofmeistar, R.E. Criss, Earth’s heat flux revised and linked to chemistry, Techtonophysics 395 (2005) 159-177

5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

1

第5講 地球ニュートリノ

5.1 地熱発生機構解明の重要性

地球の誕生は太陽系の誕生と同時であるが、原始地球にちりや隕石が付着して成長し、その過程で鉄やニッケルなどはモルテン (溶融金属)の底に沈み、珪素などは表面に堆積して現在の地球となった。この構造形成解明には、熱の分配の理解が必要である。現時点での地熱 (地球内部で発生する熱)は、マントル*1) の対流を起こし、長期的には大陸移動、短期的には地震などを誘起する。また地磁気は、核内の電磁流体の回転により生じると考えられているが、太陽風を遮り地球上の生命を保護するなど、重要な役割を持つ。地球内部の構造を調べる方法は幾つかある。

図 5.1:地震波解析による地球の構造図。

地震波解析を行えば、速度分布から内部物質の密度と粘度が判り、地球構造モデルを作れるが (図 5.1)、化学的組成に付いて何も言えない。火山噴火の解析で磁気測定が可能であるが、局所的な情報しか得られない。地球内部で発生する総熱量は、地表の各地点で観測される熱流の局所熱勾配を大局的に拡大して評価する。伝統的に 44±1TWが使われてきたが*2) 、同じデータを再評価して 31±1TWという値が最近出たこともあり*3) 、完全理解はまだまだである。

地球の化学組成については、隕石粒 (コンドライト;図 5.2)の化学成分を分析して、BSE (bulk silicate

Earth)モデルが作られ、コアを除く固体地球の平均組成を構築した。地球化学の基本パラダイムである

* 1) 地球型惑星内部や衛星の地殻と核との間にある層の呼称。地球の場合は、地表約 30kmから約 2900kmの範囲を指す。地球のマントルはカンラン岩を主成分とする固体であるが、一部が融点を超えて融け、液体になったものがマグマである。(ウィキペディアより)* 2) H.N.Pollack,S.J.Hurter,J.R.Jphnson; Heat flow from the Earth’s interior:analysis of the global data set, ReV. Geophys.31 (1993)267-280* 3) A.M.Hofmeistar, R.E. Criss, Earth’s heat flux revised and linked to chemistry, Techtonophysics395(2005) 159-177

Page 2: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

第 5講 地球ニュートリノ 2

図 5.2: コンドライト:大きさ 1ミリ前後の多数のコンドリュールから構成される隕石。コンドリュールは、一度融けた岩石や金属の液滴が急速に冷えて固化したときにできたものであり、太陽を取り巻く高温のガスから水素やヘリウム等の揮発性の元素を除いたものの化学組成によく似ている。また約 46億年の生成年代を示すものが珍しくないことから、始源的な未分化の隕石で、原始太陽系星雲の中で惑星が形成されていく初期の段階の情報を保持していると考えられている。(南極隕石センタ-

:http://yamato.nipr.ac.jp/AMRC/meteorite/index2.html)

図 5.3:左図:地磁気は、太陽風を遮断して地上の生命を保護する。右図:地表における熱流分布観測図。

Page 3: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

第 5講 地球ニュートリノ 3

が、U/Th量に 15∼ 20%の不定性がある。熱源の内 20TW(ウラニウム 8TW、トリウム 8TW、ポタシウム 4TW)は地球のアイソトープが起因とする。全熱量との差の原因は不明であり*4) 、通常、5-10TW

が核内で発生すると見なされている。しかし、直接のテストは存在しない。地球深部の化学組成に関する直接の情報は、ボーリングによるサンプル採取は 12km程度まで、地上噴出岩石 (捕獲岩)の最大生成震度は 200km程度までと限られ、深部組成推定は隕石解析と高圧実験による。しかし、物質の高温高圧実験の相解析は実験室に限定される。地球ニュートリノを観測すればアイソトープの熱寄与についての直接の情報が得られると期待される。

図 5.4: U,Th,Kアイソトープの崩壊チェイン。

5.2 地球ニュートリノフラックスの計算:

ウラニウムUやトリウム Thの崩壊連鎖 (図 5.4)はよく判っており、その時に発生する熱量とニュートリノの量も判る。

238U →206 Pb+84He+6e− +6ν̄e+51.7MeV (5.1a)235U →207 Pb+74He+4e− +4ν̄e+46.0MeV (5.1b)

232Th→208 Pb+64He+4e− +4ν̄e+42.7MeV (5.1c)40K →40 Ca+e− + ν̄e+1.31MeV (5.1d)

40K +e→40 Ar +νe+1.51MeV (5.1e)

Uと Thは、核 (主として鉄とニッケル)には存在せず、地殻とマントルに存在すると考えられている。特に大陸の地殻や堆積物に集中している。KAMLAND の使った地球モデル (以下参照モデルと言う)を表 5.5

* 4) 液体核の固化熱、マントル中の重量物浮遊、冷却熱などの原因が考えられる。

Page 4: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

第 5講 地球ニュートリノ 4

に示す。なお、U,Th総生成量の不定性は大きいが、コンドライトの分析から得られる Th/U = 3.9±0.2

は比較的信頼できると考えられる。アイソトープは地殻と堆積物、マントルにあり、核には配分していない。

図 5.5: KAMLAND の用いた地球参照モデル (hep-ph/0508049)

地球モデルが与えられると、ニュートリノフラックスは次式により計算できる。

dφ(Eν, r)dEν

= Adn(Eν)

dEν

Z

V⊕d3r ′

a(r ′)ρ(r ′)P(Eν, |r − r ′|)4π|r − r ′|2

(5.2)

ここに積分は地球体積全体に付いて行い、各項の意味は次の通りである。

A: 単位質量あたりの崩壊率dn(Eν)

dEν: 単位エネルギーあたりのニュートリノ崩壊数

a(r ′): 岩石単位質量あたりのアイソトープ質量ρ(r ′): 岩石密度P(Eν, |r − r ′|): 距離 |r − r ′|を通過後のニュートリノ生き残り確率

P(Eν, r) = 1−sin22θ12sin2(

1.27∆m212[eV2]L[m]

Eν[MeV]

)L = |r − r ′|

∆m212 = 7.9;0.6

−0.5×10−5eV2, sin22θ12 = 0.82±0.07

地球ニュートリノの場合P(Eν, |L|) = 1−0.5sin22θ12≃ 0.59と置いて良い。ニュートリノ生成地点が地球にあまねく分布しているため、物質効果の誤差は 1%以下となるので無視できる。

図 5.6(左)に KAMKLAND で検出されるニュートリノの生成点分布を示す。参照モデルでは、全フラックスの 25%が半径 50km以内から、50%が半径 500km以内から来ていることを示す (図 5.6右)。

Page 5: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

第 5講 地球ニュートリノ 5

図 5.6:左図:KAMLAND で検出される地球ニュートリノの発生点分布。右図:KAMLAND に飛来するニュートリノフラックス積分値をKAMLAND までの距離の関数として描く。ダッシュ線が地殻から、赤ドットダッシュ線がマントルから、緑ドットが堆積物からの寄与。

KamLAND地点に飛来する地球ニュートリノのスペクトルを図 5.7に示す。KAMLAND のニュートリノエネルギー敷居値は 1.8MeVであるので、K起源のニュートリノは観測できない。検出できるのは

238U 起源:  2.34×106cm−2s−1 または 30.5 events/1032protons/year232Th起源:  1.98×106cm−2s−1 または 8.0 events/1032protons/year

となる。スペクトルを図 5.7に示す。

Energy [MeV]

Sp

ectr

um

[1/

MeV

/dec

ay]

1 2 3 410-2

10-1

100

101U-SeriesTh-Series40K

Energy [MeV]

Sp

ectr

um

[1/

MeV

/dec

ay]

1 2 3 410-2

10-1

100

101

図 5.7:左:KAMLAND 参照モデルによる地球ニュートリノスペクトル。右:左図による地球ニュートリノの寄与と原子炉ニュートリノ寄与の検出器に即した計測率。原子炉ニュートリノが大きな雑音となる。カリウムチェインのニュートリノはKAMLAND のエネルギー敷居値 (1.8MeV)以下なので検出されない。

5.3 KAMLAND の結果

こうして、KAMLAND が観測した地球ニュートリノのデータを図 5.8に示す。全事象数 152のうち、予想背景雑音数 127± 13

地球ニュートリノ数  25+19−18 → 5.1+3.9

−3.6×10−31ν̄e/(target proton·year) (5.4)

Page 6: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

第 5講 地球ニュートリノ 6

と見積もられた。これは、アイソトープ起源の総熱量が 19TW、上限値が 60TWに相当し、ほぼ参照モデルと一致する。

図 5.8: KAMLAND が 750日間観測して得た地球ニュートリノデータ。(7.09±0.35events)×1031/p·years

= 5.1+3.9−3.6×10−31ν̄e/p·yr。

図 5.9に KAMLAND データと地球モデルの不定性の比較図を掲げる。横 (x)軸は、地球内のU+Th総量(kg)、上方に対応する総発生熱を示す。縦 (y)軸は、KAMLAND におけるニュートリノ捕獲率 (events/cm2/s)

である。横帯は KAMLAND データの与えるフラックス許容範囲 (0.65±0.35/cm2/s)を示し、横軸 x∼ 4

の縦帯は地球モデルの与えるU,Th総重量数を示す。参照モデルの与えるフラックス (図中 Totalで示す)

は、U,Thの総量を地殻 (茶丸点∼ 1.8kg)とマントル (オレンジ丸点∼ 2.3kg)へ分配する割合に依存する。アイソトープが全て地殻にあると仮定すればフラックスはほぼ∼ 0.75、またアイソトープが全てマントルにあるとすれば∼ 0.2を与える。データは地殻とマントルにおける相対存在比を決められるほど精密ではない。ただ、信号対雑音比が悪いのは、液体シンチレータに含まれるアイソトープ不純物、ポロニウムから放出されるα線の作る雑音が大きいからで、現在これを減らす努力をしており、統計量の向上と合わせてさらなる改良が期待される。また将来的には、付近に大陸地殻の存在しない海洋諸島 (例えばハワイ)に観測器を設置すれば、マントルからの寄与をはるかに精度良く決められると期待される。

Page 7: 5講 地球ニュートリノ - 大阪大学osksn2.hep.sci.osaka-u.ac.jp/~naga/kogi/kanazawa-class06/ch5-geo.pdf · 地球の化学組成については、隕石粒(コンドライト;図5.2)

第 5講 地球ニュートリノ 7

図 5.9: (左)KAMLAND データの与える地球化学モデルへの制限。(右)大陸部地殻に比べ、海洋地殻にはアイソトープが少ないので、ハワイなどの海洋諸島に観測所を設ければ、マントルからの寄与を分離できると考えられる。