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江東5区⼤規模⽔害広域避難計画 平成30年8⽉ 江東5区広域避難推進協議会

江東5区⼤規模⽔害広域避難計画...江東5区 規模 害広域避難計画 平成30年8 江東5区広域避難推進協議会 まえがき 東京東部低地帯に位置する江東5区(墨

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江東5区⼤規模⽔害広域避難計画

平成30年8⽉

江東5区広域避難推進協議会

まえがき

東京東部低地帯に位置する江東5区(墨⽥区・江東区・⾜⽴区・葛飾区・江⼾川区)は、隅⽥川、荒川、江⼾川などの⼤河川やその⽀川が多く流下する地域であり、さらにその⼤部分が満潮位以下のゼロメートル地帯であるため、⽔害に対して⾮常に脆弱な地勢にある。明治43 年の洪⽔や昭和 22 年のカスリーン台⾵による洪⽔、昭和 24 年のキティ台⾵による⾼潮など、度重なる⼤きな⽔害に⾒舞われ、それらを契機として、近年では堤防などの治⽔整備や危機管理体制の強化が図られてきた。

しかし、昨今の地球温暖化の進⾏が原因とされる気候変動の影響により、台⾵の巨⼤化や豪⾬災害の激甚化など、⾼潮や洪⽔による⼤規模⽔害の発⽣が危惧されている。

荒川・江⼾川の堤防が決壊するなど⼤規模⽔害の発⽣に伴い、場所によっては2週間以上にわたり浸⽔が継続する地区もある。この⼤規模⽔害により浸⽔する可能性がある江東5区の対象⼈⼝は、⾼潮と洪⽔を合わせると 249 万⼈になると想定される。

江東5区では、平成 27 年 10 ⽉に⼤規模⽔害時の避難対応を検討することを⽬的として「江東5区⼤規模⽔害対策協議会」を設置した。同協議会には、アドバイザーとして東京⼤学⼤学院の⽚⽥敏孝特任教授(当時・群⾺⼤学⼤学院教授)に参画いただいたほか、内閣府、国⼟交通省、東京管区気象台、東京都、警視庁、東京消防庁、⾼速道路事業者、鉄道事業者など関連する 18 機関にオブザーバーとして参加いただき、平成 28 年 8 ⽉に「江東5区⼤規模⽔害避難等対応⽅針」として検討結果をとりまとめた。この対応⽅針では、早期避難の実現や広域避難の推進、住⺠が⼤規模⽔害を理解することの重要性、そして⾃治体を越えた「広域避難」の具体化に向けた課題を明らかにした。

さらに、江東5区は広域避難の具体化に向けた課題への検討が不可⽋であることから、平成 28 年 8 ⽉に「江東5区広域避難推進協議会」(以下、協議会と称する。)を発⾜させた。内閣府の中央防災会議防災対策実⾏会議における「洪⽔・⾼潮氾濫からの⼤規模・広域避難検討ワーキンググループ」とも連携して、江東5区住⺠の広域避難実現に向けた検討を進めてきた。

「江東5区⼤規模⽔害広域避難計画」は、同じく協議会で作製する「江東5区⼤規模⽔害ハザードマップ(平成 30 年 8 ⽉)」と⼀対となり、現段階で江東5区が取り得る対策をまとめたものである。

災害対応には初動・応急・復旧に⾄るフェーズがあるが、本計画では初動時に実⾏すべきことに着眼して盛り込むこととし、実⾏に向けてなお課題の残る項⽬は、その期待すべき⽅向と課題を明⽰することとした。

今後、「広域避難」という概念が、江東5区はもとより社会全体の課題として広く共有化されるとともに、その対応が具体化され、⼤規模⽔害による犠牲者がゼロになることを期待する。

平成 30 年 8 ⽉ 22 ⽇

■⽤語の定義

項番 用 語 定 義

1 自主的広域避難 個人の判断で自主的に広域避難すること。

2 自主的広域避難情報 自主的広域避難を実施するように呼びかけること。

3 広域避難勧告 江東5区の区長が、本計画書で示した発令基準に従い広域避難するよ

うに勧告すること。

4 域内垂直避難指示(緊急) 本計画書で示した発令基準に従い、「広域避難をする時間的な猶予が

ない」と江東5区の区長が判断し、緊急的な措置として垂直避難行動をと

るように指示すること。

5 広域避難 広域避難場所に避難すること。

6 広域避難場所 指定緊急避難場所、その他の避難場所のうち、他市町村からの広域避

難する者に提供する施設又は避難者自らが確保した避難場所のこと。

大規模水害が発生する際には、広域避難を行う地域において強風雨を

伴うおそれもあることから、屋内の施設を広域避難場所とすることが望まし

い。

7 垂直避難 自宅、近隣住宅施設(マンション)、公共施設、又は商業施設であって、

浸水深より高いところに一時的に避難すること。

8 指定緊急避難場所 災害対策基本法第四十九条の四に基づく避難場所のこと。

「第四十九条の四 市町村長は、防災施設の整備の状況、地形、地質

その他の状況を総合的に勘案し、必要があると認めるときは、災害が発生

し、又は発生するおそれがある場合における円滑かつ迅速な避難のため

の立退きの確保を図るため、政令で定める基準に適合する施設又は場所

を、洪水、津波その他の政令で定める異常な現象の種類ごとに、指定緊

急避難場所として指定しなければならない。」

9 その他の避難場所 災害対策基本法第六十条に基づく避難場所のこと。

「第六十条 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、

人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため

特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者

等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、

これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。

2 前項の規定により避難のための立退きを勧告し、又は指示する場合

において、必要があると認めるときは、市町村長は、その立退き先として指

定緊急避難場所その他の避難場所を指示することができる。」

項番 用 語 定 義

10 指定避難所 災害対策基本法第四十九条の七に基づく避難所のこと。

「第四十九条の七 市町村長は、想定される災害の状況、人口の状況そ

の他の状況を勘案し、災害が発生した場合における適切な避難所(避難

のための立退きを行った居住者、滞在者その他の者(以下「居住者等」と

いう。)を避難のために必要な間滞在させ、又は自ら居住の場所を確保す

ることが困難な被災した住民(以下「被災住民」という。)その他の被災者を

一時的に滞在させるための施設をいう。以下同じ。)の確保を図るため、政

令で定める基準に適合する公共施設その他の施設を指定避難所として指

定しなければならない。」

11 避難施設 避難場所としての機能を有する堅固な建築物又は工作物のこと。

発災後も救助が行われるまでの一定の期間避難生活を送ることが想定

されるため、指定避難所と兼ねて指定していることが望ましい。

12 避難確保計画 要配慮者利用施設の利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保

を図るために、要配慮者利用施設の所有者又は管理者が作成しなければ

ならない計画のこと。

13 要配慮者 高齢者、障害者、乳幼児、その他の特に配慮を要する者のこと。

14 避難行動要支援者 要配慮者のうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合

に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確

保を図るため特に支援を要する者のこと。

⽬次

I. 計画の位置づけ ................................................................................................................... 1 II. 広域避難計画 ...................................................................................................................... 2

1. 対象とする⽔害 ................................................................................................................... 2 2. 想定される事態 ................................................................................................................... 8 3. 広域避難が必要とされる地域及び対象者 ......................................................................... 10 4. 広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)等の発令 ....................................................... 13 5. 要配慮者対策 .................................................................................................................... 17 6. 避難⾏動及び避難場所 ...................................................................................................... 19 7. 避難⼿段 ........................................................................................................................... 22 8. 関係機関の役割・連携体制 ............................................................................................... 23 9. 治安対策 ........................................................................................................................... 24 10. 意識の共有・啓発 ............................................................................................................. 25 11. 防災・減災のためのハード・ソフト対策 ......................................................................... 26

III. 今後の取り組み ................................................................................................................. 27 IV. 検討体制 ........................................................................................................................... 27

1. 協議会規約 ........................................................................................................................ 27 2. 体制 .................................................................................................................................. 29 2.1.江東5区広域避難推進協議会名簿 ................................................................................... 29 2.2.江東5区広域避難推進協議会 幹事会名簿 ..................................................................... 29 2.3.アドバイザー及びオブザーバー ....................................................................................... 30

V. 巻末資料 ........................................................................................................................... 31 1. ⾼潮浸⽔想定区域(浸⽔深 50cm 以上)外の町丁⽬ ........................................................ 31 2. 洪⽔(荒川 L2・江⼾川 L2)浸⽔想定区域(浸⽔深 50cm 以上)外の町丁⽬ ................. 31

Ⅰ. 計画の位置づけ

1

I. 計画の位置づけ

本計画は、協議会として、江東5区(墨⽥区、江東区、⾜⽴区、葛飾区及び江⼾川区)が共同して作成したものである。作成に当たっては、内閣府が設置した「洪⽔・⾼潮氾濫からの⼤規模・広域避難検討ワーキンググループ」と連携し、⼤規模・広域避難に係る課題について議論を重ねてきた(図 1)。

本計画を住⺠との共通の⽬標とするためには、江東5区が共同して意識の共有化を図るとともに各区の地域防災計画や地区防災計画に反映し、広く周知を図ることとする。

図 1 江東5区大規模水害広域避難計画の位置づけ

江東5区⼤規模⽔害対策協議会 【江東5区⼤規模⽔害避難等対応⽅針 】

江東5区広域避難推進協議会 【江東5区⼤規模⽔害ハザードマップ 】 【江東5区⼤規模⽔害広域避難計画 】

対策の具体化

中央防災会議防災対策実⾏会議 洪⽔・⾼潮氾濫からの ⼤規模・広域避難検討 ワーキンググループ

連携

1. 対象とする⽔害

2

II. 広域避難計画

1. 対象とする水害

① 本計画が対象とする⽔害は、今までに経験したことがないような巨⼤台⾵の接近、上陸に伴う⾼潮の発⽣、また、台⾵や前線の活動により荒川と利根川(江⼾川)の流域に⼤量の降⾬が続くことによる⼤規模な洪⽔の発⽣など、江東5区がこれまでに経験したことのない⼤規模な⽔害が危倶される事象とする。

② 想定する⽔害の規模は、⾼潮・洪⽔ともに想定最⼤規模とする。 【解説】

① 江東5区は多くの河川が流下し、満潮位以下のゼロメートル地帯の臨海部に位置するとともに、262 万⼈1の膨⼤な⼈⼝を擁するという特性を有しており、⾼い⽔害リスクに晒されている。

② 東京都港湾局・建設局が検討した想定最⼤規模の⾼潮氾濫計算結果と、荒川上流河川事務所、荒川下流河川事務所及び江⼾川河川事務所が検討した想定最⼤規模の洪⽔氾濫計算結果から、想定される浸⽔の深さは最⼤約 10m、浸⽔継続時間は2週間以上(⾼潮は 1 週間以上)2である(図 2~図 5)。

なお、避難⾏動の制約条件としての⾼潮氾濫、及び洪⽔氾濫の想定台⾵については、それぞれ以下のとおりとした。

(⾼潮) ⾼潮浸⽔想定の台⾵の規模は、以下のとおり。

中⼼気圧については昭和9年の室⼾台⾵を基本とし、910hPa(図 6)。 台⾵の移動速度については、伊勢湾台⾵を基本とし、73km/h(図 7)。 コースは、複数想定した。

避難⾏動の制約条件は、以下のとおり。 ⽔位・⾵・⾬量の変化については、昭和 24 年キティ台⾵の⽔害を想定する。

キティ台⾵では、通過が満潮時と重なったことから東京湾などで⾼潮となり、浸⽔被害が発⽣した。

(洪⽔) 洪⽔浸⽔想定の降⾬の規模は、以下のとおり。

想定最⼤規模降⾬による洪⽔3

避難⾏動の制約条件は、以下のとおり。 ⽔位・⾵・⾬量の変化については、既往最⼤の昭和 22 年カスリーン台⾵の⽔

害を想定する。カスリーン台⾵では、荒川・利根川の決壊により広範囲で浸⽔している(図 8)。

1 平成 30 年 1 ⽉ 1 ⽇現在の⼈⼝。 2 浸⽔継続時間の最⻑区分(洪⽔:2 週間以上、⾼潮:1 週間以上)の違いは、それぞれの計算結果の表⽰

区分の違いによるものであり、⾼潮の浸⽔継続時間が洪⽔よりも短いという意味ではない。 3 荒川下流河川事務所・江⼾川河川事務所で公表。

1. 対象とする⽔害

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図 2 江東5区大規模水害時の最大浸水深の想定(高潮氾濫)

(東京都港湾局・建設局ホームページより作成)

図 3 江東5区大規模水害時の最大浸水継続時間の想定(高潮氾濫) (東京都港湾局・建設局ホームページより作成)

1. 対象とする⽔害

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図 4 江東5区大規模水害時の最大浸水深の想定(洪水氾濫) (出典:中央防災会議防災対策実行会議洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ)

図 5 江東5区大規模水害時の最大浸水継続時間の想定(洪水氾濫) (出典:中央防災会議防災対策実行会議洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ)

荒川⽔系洪⽔浸⽔想定区域図(想定最⼤規模)(H28.5)、 利根川⽔系江⼾川浸⽔想定区域図(想定最⼤規模)(H29.7) を基に作成

荒川⽔系洪⽔浸⽔想定区域図(浸⽔継続時間)(H28.5)、 利根川⽔系江⼾川浸⽔想定区域図(浸⽔継続時間)(H29.7) を基に作成

1. 対象とする⽔害

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室⼾台⾵(昭和 9 年 9 ⽉ 21 ⽇頃上陸) 昭和 9 年 9 ⽉ 21 ⽇に 911.6hpa

という猛烈な強さの台⾵が室⼾岬付近に上陸し、淡路島を通って⼤阪に進んだ。

瞬間最⼤⾵速 60m 以上という超⼤型台⾵が⼤阪を直撃。 天保⼭潮位 4.5m。淀川河⼝部、伝法、護岸⼀部崩壊。 死者 2,702 名。全壊家屋 3 万8,771 ⼾、流⽔家屋 4,277 ⼾の⼤⾵⽔害発⽣。(国⼟交通省近畿地⽅整備局淀川河川事務所・国⼟交通省中国地⽅整備局岡⼭河川事務所ホームページより作成)

図及び写真の出典:国⼟交通省中国地⽅整備局

岡⼭河川事務所ホームページ 図 6 室戸台風の概要

2階に避難する⼈々

冠⽔した道路

1. 対象とする⽔害

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伊勢湾台⾵(昭和 34 年 9 ⽉ 26 ⽇頃上陸)

9⽉ 21 ⽇にマリアナ諸島の東海上で発⽣した台⾵第 15 号は、中⼼気圧が1⽇に 91hPa 下がるなど猛烈に発達し、⾮常に広い暴⾵域を伴った。最盛期を過ぎた後もあまり衰えることなく北上し、26 ⽇18 時頃和歌⼭県潮岬の⻄に上陸した。上陸後6時間余りで本州を縦断、富⼭市の東から⽇本海に進み、北陸、東北地⽅の⽇本海沿いを北上し、東北地⽅北部を通って太平洋側に出た。

勢⼒が強く暴⾵域も広かったため、広い範囲で強⾵が吹き、伊良湖(愛知県渥美町)で最⼤⾵速 45.4m/s(最⼤瞬間⾵速55.3m/s)、名古屋で 37.0m/s(同 45.7m/s)を観測するなど、九州から北海道にかけてのほぼ全国で 20m/s を超える最⼤⾵速と 30m/s を超える最⼤瞬間⾵速を観測した。

紀伊半島沿岸⼀帯と伊勢湾沿岸では⾼潮、強⾵、河川の氾濫により甚⼤な被害 を受け、特に愛知県では、名古屋市や弥富町、知多半島で激しい暴⾵⾬の下、⾼潮により短時間のうちに⼤規模な浸⽔が起こり、死者・⾏⽅不明者が 3,300 名以上に達する⼤きな被害となった。また、三重県では桑名市などで同様に⾼潮の被害を受け、死者・⾏⽅不明者が 1,200 名以上となった。この他、台⾵が通過した奈良県や岐⾩県でも、それぞれ 100 名前後の死者・⾏⽅不明者があった。(出典:気象庁ホームページ)

図 7 伊勢湾台風の概要

伊勢湾台⾵による湾奥部破壊箇所と浸⽔状況図 出典:国⼟交通省⽊曽川下流⼯事事務所 「⾃然と⼈とのかかわり-伊勢湾台⾵から 40 年-」

1. 対象とする⽔害

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カスリーン台⾵(昭和 22 年 9 ⽉ 7 ⽇頃発⽣)

カスリーン台⾵は、紀伊半島の南海上を北上し、9⽉ 15 ⽇に北緯 32 度を超えてから北東に進路を変え、同⽇夜房総半島南端をかすめて 16 ⽇には三陸沖へ進んだ。

台⾵は⽇本に接近したときは衰弱しており、強⾵による被害は少なかった。しかし、台⾵により⽇本付近に停滞していた前線の活動が活発化し、関東地⽅と東北地⽅では⼤⾬となった。

台⾵の接近に伴い、13 ⽇より各地とも激しい降⾬となり、この⾬は台⾵が房総半島をかすめて北東へ去った 15 ⽇夜半まで降り続いた。この間、秩⽗においては 13 ⽇ 11 時20 分~15 ⽇ 20 時 40 分の間に 611mm という記録的豪⾬となり、群⾺県三ノ倉では 3 ⽇間で 415mm、万場 410mm、前橋 393mm、栃⽊県中宮祠 470mm、塩原 516mm、⾜尾385mm となった。利根川流域においても未曾有の降⾬となり、3 ⽇間の流域平均⾬量は本川⼋⽃島上流域で 318mm、渡良瀬川藤岡上流域で 318mm、⻤怒川⽯井上流域で300mm、⼩⾙川⿊⼦上流域で 182mm、本川安⾷上流域で 300mm と、⼩⾙川を除きいずれも 300mm 以上を記録し、特に⻤怒川上流域、渡良瀬川上流域及び烏・神流川流域では400mm 以上となった。

埼⽟県東村(現・加須市)新川通地先において、利根川本川右岸堤が破堤したのをはじめ、茨城県中川村(現・坂東町)、渡良瀬遊⽔池周辺等で破堤した。

その中でも、東村新川通では延⻑ 340mの破堤が⽣じ、その濁流が埼⽟県下にとどまらず東京都葛飾区・江⼾川区にまで達し、その浸⽔⾯積は約 440km2 にまで及んだ。

荒川からあふれ出した濁流は、中⼩河川を次々と破堤に追いやりながら元荒川沿いに南下し、利根川の決壊による濁流と合流してさらに被害を拡⼤させた。

この⽔害による死者は、1,077 名、⾏⽅不明者は、853 名、負傷者は、1,547 名という甚⼤な被害であった。(気象庁・内閣府・国⼟交通省関東地⽅整備局・利根川上流河川事務所・利根川下流河川事務所・荒川下流河川事務所ホームページより作成)

※右図は、「荒川放⽔路変遷誌」より作成 ※左図は、気象庁ホームページに⽰されていた図を背景に作成

図 8 カスリーン台風の概要

2. 想定される事態

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2. 想定される事態

① 堤防、放⽔路、排⽔機場、調整池及びダムの整備により、過去の⽔害経験に⽐べて浸⽔被害発⽣の確率は減少したものの、浸⽔が発⽣した場合には、最⼤浸⽔深は約 10mの地域もあり、家屋の倒壊などの危険性がある。

② 江東5区は河川に囲まれており、避難のために⼈が集中する駅や橋梁のようなところでは混雑した状況となり群集雪崩や将棋倒しが発⽣するおそれがある。

③ 巨⼤台⾵の接近に伴う⾵⾬により電⾞の運⾏予定が乱れる、⼜は運⾏停⽌となり、避難が困難となるおそれがある。

④ 垂直避難する⼈数が多いほど、その後の救出救助活動等に時間を要し、すべての⼈を救助しきれない。

【解説】 ① 堤防が決壊した場合、全居室が浸⽔し溺れてしまうおそれや、堤防沿いの家屋倒壊等

氾濫想定区域4では氾濫流による⽊造家屋の倒壊・流出、また、河岸侵⾷による⽊造・⾮⽊造の家屋の流出のおそれが考えられる。

② 江東5区は、隅⽥川、荒川及び江⼾川に囲まれているとともに、中川、旧中川、綾瀬川、北⼗間川、⼤横川等の中⼩河川が⼊り組んでおり、広域避難をするためには、電⾞、⾃動⾞、徒歩のいずれかの⽅法で川を渡る必要がある。電⾞の利⽤や徒歩による避難の場合、駅や橋詰部などに⼈が集中する可能性があり、群集雪崩や将棋倒しなどの危険性がある。また、移動が⻑時間に及ぶことにより、具合が悪くなる住⺠や傷病者が発⽣することも想定される。

③ 避難の開始が遅れるにつれ、⾵⾬や混雑の影響により、電⾞は遅延や運⾏停⽌、⾃動⾞は渋滞により動けなくなる可能性が考えられ、徒歩以外に移動⼿段がなくなる事態が考えられる。また、巨⼤台⾵の接近に伴い⾵⾬が強まり、傘を差したままでは歩⾏が困難な状況であることも想定しておく必要がある。

④ 垂直避難者については、⾏政機関がその居所を把握することが困難であり、重篤者や傷病者の救出に時間を要することが考えられる(図 9)。また、広い範囲で2週間以上の⻑期湛⽔が想定され、該当する地域での垂直避難やその後の域外への移動については、以下のようなリスクも考えられる。

下⽔が⽌まることにより、トイレが使えなくなる。また、⽔道がとまり、飲料⽔がなくなる可能性もある。停電等の⽣活環境の悪化も考えられる(図 10)。

⾼潮・洪⽔氾濫時には、⽔深が深くなくても濁⽔の中に危険物がある可能性や、マンホールの蓋が開いている可能性などがあり、ある程度⽔が引いても容易に安全な場所へ移動できない。

4 ⼀定の条件下において、家屋の倒壊・流失をもたらすような堤防決壊に伴う激しい氾濫流や河岸侵⾷が発

⽣することが想定される区域。

2. 想定される事態

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図 9 H27 常総水害の教訓 (出典:中央防災会議防災対策実行会議洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ)

図 10 自宅にとどまった場合の生活環境イメージ (出典:大規模水害対策に関する専門調査会報告参考資料 1-2 平成 22 年 4 月)

• 常総救助実態によると、次のような実態があったことが分かっている。 救助に要する時間は、天候や氾濫流、漂流物や上空・⽔上の⽀障物の状況が⼤きく影響する。 ボート・ヘリが着地・着岸する場所やその付近の状況(障害物の有無等)が救助速度に⼤き

く影響する。 救助対象者の⾝体状況により、ボート・ヘリへと移す時間が⼤きく異なる。 救助を⾏う建物の構造等にもよるが、ヘリの⾵圧があるため、ボートとヘリが同時に同じエ

リアで救助活動を実施することは困難である。 ボートは、⽔⾯から孤⽴者を捜索することとなるため、上空から捜索するヘリと⽐較すると、

捜索には不向きである。ボートでは船外機を使⽤できるとスムーズに救助ができるが、常総市の救助実績では、漂流物の絡みつきや⽔深不⾜等のため、⼿漕ぎや⼈⼿による牽引により救助を⾏った。救助が⻑時間となるならば、体⼒⾯から、多くの交代要員が必要である。

ヘリは、上空で⼀定の離隔が必要であり、常総救助実態では救助活動がピークであった決壊2⽇⽬の上空での配備密度がヘリ救助の上限だと考えられる。このように、配備密度に限界があるため、ヘリは多数の避難者の救助に不向きである。

浸⽔区域からの救助に関するH27常総⽔害の教訓

常総水害時の救助活動

3. 広域避難が必要とされる地域及び対象者

10

3. 広域避難が必要とされる地域及び対象者

⼤規模⽔害に対して犠牲者ゼロを達成するためには、江東5区外への広域避難を基本とした対応が必要である。 ① 広域避難が必要とされる地域は、⾼潮及び荒川と江⼾川の洪⽔による想定最⼤規模の

浸⽔想定区域とする。 ② 堤防の決壊前に実際に浸⽔する範囲を絞り込むことが不可能であることから、⾼潮及

び洪⽔それぞれの浸⽔想定区域内のすべての住⺠を広域避難の対象者とする。 【解説】

① ⾼潮及び荒川と江⼾川の洪⽔による想定最⼤規模の床上浸⽔想定区域(浸⽔深 50cm以上)を広域避難が必要な区域とする(図 11 及び図 12)。

また、荒川と江⼾川の流域は隣接しており(図 13)、荒川と江⼾川の⽔位は、ほぼ同時に上昇する可能性があるため(図 14)、両⽅の想定最⼤規模の氾濫計算結果を重ね合わせて、広域避難が必要な区域を設定する必要がある。

複数の浸⽔想定区域を重ね合わせて作成した浸⽔想定区域は、江東5区のほぼ全域に及ぶ。江東5区の⼈⼝ 262 万⼈5のうち床上浸⽔となる浸⽔想定区域内の⼈⼝は、⾼潮211 万⼈、洪⽔ 233 万⼈6、⾼潮と洪⽔を合わせると 249 万⼈に及び、浸⽔割合は9割を超える7。

図 11 江東5区大規模水害時の最大浸水継続時間の想定(高潮氾濫) (東京都港湾局・建設局のホームページより作成)

5 平成 30 年 1 ⽉ 1 ⽇現在の⼈⼝。 6 平成 27 年度の国勢調査のデータを⽤いて解析した結果(出典:中央防災会議防災対策実⾏会議洪⽔・⾼

潮氾濫からの⼤規模・広域避難検討ワーキンググループ)。 7 ⾼潮及び洪⽔時に床上まで浸⽔しない町丁⽬を巻末資料に添付した。

3. 広域避難が必要とされる地域及び対象者

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図 12 江東5区大規模水害時の最大浸水深継続時間の想定(洪水氾濫) (出典:江東5区大規模水害ハザードマップ)

図 13 荒川流域と利根川(江戸川)流域の位置関係 (利根川水系の流域及び河川の概要(国土交通省)より作成)

3. 広域避難が必要とされる地域及び対象者

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図 14 カスリーン台風における河川水位・潮位・降雨・風速の状況

(出典:中央防災会議防災対策実行会議洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ)

② 広域避難の対象者が膨⼤になるほど避難に⾮常に⻑い時間を要することとなるが、どこの海岸堤防・河川堤防が決壊するのか予測ができないため、浸⽔する可能性のある住⺠全員を避難させる必要がある。

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19-2

0

20-2

1

21-2

2

22-2

3

23-0 0-1

1-2

2-3

3-4

4-5

5-6

6-7

7-8

8-9

9-10

10-1

1

11-1

2

12-1

3

13-1

4

14-1

5

15-1

6

16-1

7

17-1

8

18-1

9

19-2

0

20-2

1

21-2

2

22-2

3

23-0 0-1

1-2

2-3

3-4

4-5

5-6

6-7

7-8

8-9

9-10

10-1

1

11-1

2

12-1

3

13-1

4

14-1

5

15-1

6

16-1

7

17-1

8

18-1

9

19-2

0

20-2

1

21-2

2

22-2

3

累加

⾬量

(m

m)

時間

⾬量

(m

m)

降⽔量(mm)累加⾬量(mm)

0

5

10

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

河川

⽔位

(m

計画⾼⽔位松⼾(江⼾川)氾濫注意⽔位

0

5

10

15

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0平均

⾵速

(m

/s)

0

5

10

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

1:00

3:00

5:00

7:00

9:00

11:0

0

13:0

0

15:0

0

17:0

0

19:0

0

21:0

0

23:0

0

河川

⽔位

(m

計画⾼⽔位氾濫危険⽔位避難判断⽔位氾濫注意⽔位

東京

岩淵⽔⾨(上)

松⼾

■ピーク⽔位⇒9⽉16⽇4時

■ピーク⽔位⇒9⽉16⽇6時(観測:12時間間隔)

9/14 9/15 9/16 9/17

降⾬

⾵速

荒川

江⼾川

■平均⾵速10~14m/s ⇒9⽉15⽇20〜21時

■時間⾬量19~35㍉⇒9⽉15⽇18〜21時

徒歩での⻑距離移動が困難

荒川が氾濫したと想定

東京

江⼾川が氾濫したと想定洪⽔氾濫の可能性

洪⽔氾濫の可能性同時期に⽔位上昇

東京地点での⾵⾬は、岩淵ピークの10時間前に⾵が強まり、⻑距離の歩⾏が困難

2時間後

8時間前

荒川洪⽔からの避難者と江⼾川洪⽔からの避難者の避難時間が重複するおそれ

強い降⾬はない

※ 本検討では各河川の⽔位のピークで氾濫する設定としているが、ピーク前に氾濫が発⽣するおそれもあることに留意が必要

※ 荒川の⽔位上昇時に中川・綾瀬川の⽔位上昇や、⾼潮発⽣はない(中川は決壊しているが、利根川等の氾濫流の流⼊によるものであり、流域での降⾬が流⼊したことによる洪⽔発⽣ではない)

カスリーン台⾵における河川⽔位・潮位・降⾬・⾵速の状況

4. 広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)等の発令

13

4. 広域避難勧告・域内垂直避難指示(緊急)等の発令

■⾃主的広域避難情報の発信と広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)の発令基準は、表 1 のとおりとする。

表 1 広域避難勧告・域内垂直避難指示(緊急)の発令基準

発令段階 想定時間 発令基準

Ⅰ.共同検討開始 (江東5区による検討)

72 時間前を想定

①気象庁が 72 時間先の台⾵予報において、中⼼気圧 930hPa 以下の台⾵の予報円が東京地⽅を含むと予測した場合。

⼜は、 ②気象庁と荒川下流河川事務所が、洪⽔に関連する情報として、荒川流域

(岩淵地点上流域)での3⽇間積算流域平均⾬量が概ね 400 ㎜を超える可能性があると予測し、江東5区に情報提供があった場合。

⼜は、 ③江東5区の区⻑いずれかからの発議があった場合。

Ⅱ.⾃主的広域避難情報(広域避難の呼びかけ)

72〜24 時間前を想定

①気象庁が 48 時間先の台⾵予報において、中⼼気圧 930hPa 以下の台⾵の予報円が東京地⽅を含み、かつ、東京都(東京地⽅)に⾼潮警報発表の可能性が⾼いと予測した場合。

⼜は、 ②気象庁と荒川下流河川事務所が、洪⽔に関連する情報として、荒川流域

(岩淵地点上流域)での3⽇間積算流域平均⾬量(1⽇間降⾬実績と48 時間降⽔量予測の和)が概ね 500 ㎜を超える可能性があると予測し、江東5区に情報提供があった場合。

⼜は、 ③江東5区の区⻑の判断。

Ⅲ.広域避難勧告 24〜9 時間前を想定

①気象庁が、930hPa 以下の台⾵が概ね 24 時間以内に東京湾から神奈川県付近を含む地域へ到達すると予測し、⾼潮特別警報を発表する可能性に関する記者会⾒を⾏う場合、⼜は、江東5区に⾼潮注意報が発表されており、当該注意報において堤防の天端⾼を越える最⾼潮位が予測されている場合。

⼜は、 ②気象庁と荒川下流河川事務所が、洪⽔に関連する情報として、荒川流域

(岩淵地点上流域)での3⽇間積算流域平均⾬量(2⽇間降⾬実績と24 時間降⽔量予測の和)が概ね 600mm を超える可能性があると予測し、江東5区に情報提供があった場合。

⼜は、 ③江東5区の区⻑の判断。

Ⅳ.域内垂直避難指⽰(緊急)

9〜0 時間前を想定

①Ⅲの状態で⾼潮警報あるいは⾼潮特別警報が発表された場合。 ⼜は、 ②荒川下流河川事務所より、氾濫危険⽔位(A.P.+7.70m)に達し、更な

る⽔位上昇が⾒込まれる旨が通知された場合。 ⼜は、 ③江東5区の区⻑の判断。

【解説】 氾濫発⽣の 72 時間前を⽬安に、江東5区の危機管理部局の課⻑級による共同検討を開

始する。 ⾃主的広域避難情報(広域避難の呼びかけ)は、氾濫発⽣の 72 時間〜24 時間前を⽬安

に、気象庁と荒川下流河川事務所の情報提供を踏まえ江東5区で判断し共同で発信する、⼜は江東5区の区⻑の判断に基づき共同で発信する。

広域避難勧告は、氾濫発⽣の 24 時間〜9時間前を⽬安に、気象庁と荒川下流河川事務所の情報提供を踏まえ江東5区で判断し共同で発令する、⼜は江東5区の区⻑の判断に基づき共同で発令する。また、暴⾵警報等に記載されている警報級の時間帯(特に暴⾵の

4. 広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)等の発令

14

吹き始める時間帯)にも留意して、暴⾵で避難できなくなる前に広域避難勧告を発令する。

域内垂直避難指⽰(緊急)は、⾼潮を対象とした広域避難勧告が発令されている状況下で、気象庁より⾼潮警報あるいは⾼潮特別警報が発表された場合、⼜は洪⽔について荒川下流河川事務所より氾濫危険⽔位(A.P.+7.70m)に達し更なる⽔位上昇が⾒込まれる旨の通知に基づき江東5区で判断し共同で発令する。⼜は公共交通機関の途絶や⾵⾬の強まり、想定外の事故等により安全に広域避難ができないと江東5区の区⻑が判断した場合に発令する。

本発令基準は現時点で考えられる基準として時間軸で整理したものであり、今後実際の運⽤等を重ねて改善していく場合がある。

【今後の課題】

協議会及び関係機関は、以下の課題について積極的に取り組んでいく必要がある。 国、都は江東5区の区⻑が⾏う発令判断への助⾔について、最⼤限の努⼒をする必要が

ある。 ⾃主的広域避難情報の発信と広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)の発令が、社会

に与える影響を考慮すると、広域避難の体制については、可能な限り広く、多数の関係団体の関与のもとに検討していく必要がある。

共同検討開始や広域避難の呼びかけなど、段階的に戦略的情報発信を⾏うことについて検討する必要がある。

各避難情報の発令に係る意思決定を早めるためには、災害の発⽣時期に関する予測精度の向上が必要である。

⾼潮、洪⽔のそれぞれで浸⽔想定区域が異なるため、それぞれの発⽣予測に応じて避難対象者及び避難対象地域を定める必要がある。

江⼾川流域における避難情報の発令基準についても、別途検討する必要がある。 タイムラインによる連絡調整、連携の⼿法について検討する必要がある(表 2)。

4. 広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)等の発令

15

荒川下流タイムラインより作成

(120時間前) ・台風情報及び気象情報の発表 ・台風情報及び気象情報の収集、確認

(96時間前) ・台風情報及び気象情報の発表 ・協力機関体制確認、連絡体制の確認

(72時間前)・今後の人員配置の確認 ・広域避難の検討

・リエゾン派遣準備

・今後の人員配置の確認

・止水板、土のう等止水、防水資機材の準備

・災害対策用資機材、復旧用資機材の準備

 (48時間前)

・各機関や業者等との連絡体制確認 ・避難先への連絡、調整

・幼稚園、区立小中学校、福祉施設の休校、休園の検討

・水防警報(待機、準備)の発表、伝達 ・区内水防活動の連絡体制確認

・情報連絡体制の構築、確認

(24時間前)・気象台並び河川事務所へ助言を要請

・自治体にホットライン

・洪水予報の伝達

・避難情報等の収集、確認 ・学校、福祉施設の休校措置の決定、伝達

・地下街等への洪水予報等の伝達

・要配慮者利用施設への洪水予報等の伝達

・地下施設利用者に避難の確認

・交通規制情報の収集

(9時間前)

(3時間前) ・自衛隊等へ派遣要請検討

(0時間)

Ⅳ 概ね9~0時間前において以下のとおり Ⅳ 概ね9~0時間前において以下のとおり

①Ⅲの状態で高潮警報あるいは高潮特別

警報が発表された場合。

②氾濫危険水位(A.P.+7.70m)に達し、更な

 る水位上昇が見込まれる旨が通知された

 場合。

①気象庁が、930hPa以下の台風が概ね24時

 間以内に東京湾から神奈川県付近を含む

 地域へ到達すると予測し、高潮特別警報を

 発表する可能性に関する記者会見を行う場

 合、又は、江東5区に高潮注意報が発表さ

 れており、当該注意報において堤防の天端

 高を越える最高潮位が予測されている場

 合。

②気象庁と荒川下流河川事務所が、洪水に

 関連する情報として、荒川流域(岩淵地点

 上流域)での3日間積算流域平均雨量(2日

 間降雨実績と24時間降水量予測の和)が概

 ね600mmを超える可能性があると予測し、

 江東5区に情報提供があった場合。

域内垂直避難指示(緊急)

・水位や風雨等の気象条件による公共交通機関の運行状況の情

報収集

・岩淵水門ゲートの閉鎖操作完了の伝達

・水門、機場、災害対策車両等の

操作員確保

・岩淵水門ゲートの閉鎖操作開始の伝達・鉄道等の運行継続及び停止等に関する連携

荒川下流河川事務所(河川水位)

Ⅱ 概ね72~24時間前において以下のとおり

・台風の予想進路と影響等を踏まえた

出水状況の情報提供

気象庁 (気象情報)

Ⅲ 概ね24~9時間前において以下のとおり

①気象庁が48時間先の台風予報において、

 中心気圧930hPa以下の台風の予報円が東

 京地方を含み、かつ、東京都(東京地方)に

 高潮警報発表の可能性が高いと予測した

 場合。

②気象庁と荒川下流河川事務所が、洪水に

 関連する情報として、荒川流域(岩淵地点

 上流域)での3日間積算流域平均雨量(1日

 間降雨実績と48時間降水量予測の和)が概

 ね500㎜を超える可能性があると予測し、江

 東5区に情報提供があった場合。

①気象庁が72時間先の台風予報において、

 中心気圧930hPa以下の台風の予報円が

 東京地方を含むと予測した場合。

②気象庁と荒川下流河川事務所が、洪水に

 関連する情報として、荒川流域(岩淵地点

 上流域)での3日間積算流域平均雨量が概

 ね400㎜を超える可能性があると予測し、江

 東5区に情報提供があった場合。

Ⅰ 概ね72時間前において以下のとおり

・協力機関体制確認、連絡体制の確認

・止水板、土のう等止水、防水資

 機材の準備

江東5区による共同検討開始

自主的広域避難情報(広域避難の呼びかけ)

災害対策本部 設置

広域避難勧告

江東5区

表 2 大規模水害(広域避難)に関するタイムライン(参考)

4. 広域避難勧告・域内垂直避難指⽰(緊急)等の発令

16

・広域避難に関する検討 ・今後の人員配置の確認 ・今後の人員配置の確認

・今後の人員配置の確認 ・浸水防止資機材等の確認

・災害対策用資機材等の準備

・運行計画の調整

・情報連絡体制の確認

・避難先への連絡、調整 ・今後の人員の再確認

・関係機関からの情報収集の実施

・災害対応人員の確認、手配

・広域避難の実施

・災害体制の確認

・交通規制情報の収集 ・交通規制情報の収集

・台風情報及び気象情報の収

 集、確認

・止水板、土のう等止水、防水資

 機材の準備 ・災害対策用資機材、復旧用

 資機材の準備

・止水板、土のう等止水、防水

 資機材の準備

・各機関や業者等との連絡体

 制確認

・台風情報及び気象情報の収集、

 確認

・協力機関体制確認、連絡体制の

 確認

・台風情報及び気象情報の収

 集、確認

・協力機関体制確認、連絡体

 制の確認

・公共交通機関の水害時運行

 管理体制の準備、確認

東京都水防本部設置

・鉄道等の運行継続及び停止

 等に関する連携

住 民

・協力機関体制確認、連絡体

 制の確認

交通事業者ライフライン事業者

警察、消防東京都

・駅の混乱防止のため、必要に

 より警察への要請を検討

・重要施設、設備等の浸水防

 止対策

・台風情報及び気象情報の収

 集、確認

※荒川下流タイムラインについては、被害想定、0 時間の設定等本計画とは相違があるが、参考に掲載する。

5. 要配慮者対策

17

5. 要配慮者対策

① 要配慮者は可能な限り早く⾃主的広域避難を実施する。 ② ⼊院・⼊所者で避難そのものがリスクになる場合は屋内で安全を確保する。 ③ 在宅の避難⾏動要⽀援者は、可能な限りあらかじめ定めた近距離の避難施設への避難

や、⾃宅での屋内安全確保を検討する。 【解説】

① 以下のような課題が考えられるため、要配慮者は⾃主的広域避難を率先して実施する。 要配慮者の中には、電源の供給が途絶えることにより命にかかわる深刻な事態に

なる住⺠もいる。 避難施設の中には、要配慮者が利⽤可能なトイレや⾞椅⼦の移動に配慮した設備

が設置されていない場合も考えられるため、避難後の⽣活が困難になる場合がある。

② ⼊院・⼊所者の避難⾏動要⽀援者で、広域避難ができない場合は、施設にとどまり想定される浸⽔深よりも上階へ移動する。

③ 在宅の避難⾏動要⽀援者で、広域避難ができない場合は、氾濫発⽣後の救助活動を効率的に⾏うために付近の避難施設に避難する。ただし、外出も困難な場合は、想定される浸⽔深よりも上階で安全を確保する。

また、②及び③の垂直避難を選択せざるを得ない場合でも、救助・救出に⻑時間かかることに留意し、携⾏品や備蓄の準備を各⾃が⾏う。例えば、江東5区内の浸⽔継続時間3⽇以上の病院(99 機関(診療所を含む))及び福祉施設(445 施設)を対象に実施した郵送によるアンケート調査では、図 15 のとおり3⽇間備蓄している施設よりも、4⽇以上備蓄している施設は少なくなる。

ライフラインの⽔害対策※1 備蓄

病 院(51機関)

⾮常⽤発電機の設置︓41機関(約80%)

⾮常⽤電源の運転継続時間︓未設置もしくは1⽇未満→34機関※2(約67%)

︓3⽇以上→7機関(約14%) ⾮常⽤電源の設置階

︓4階以上→23機関(約45%) 上⽔道、ガス、通信への防⽔対策

︓通信の防⽔対策を施している病院は約29%上⽔道の防⽔対策を施している病院は約22%ガスの防⽔対策を施している病院は約6%

⽔、⾷料品の備蓄︓2⽇以下→5機関(約10%)︓3⽇間→41機関(約80%)︓4⽇以上→5機関(約10%)

医薬品の備蓄︓2⽇以下→7機関(約14%)︓3⽇間→29機関(約57%)︓4⽇以上→15機関(約29%)

福祉施設(192施設)

⾮常⽤発電機の設置︓82施設(約42.7%)

⾮常⽤電源の運転継続時間︓未設置もしくは1⽇未満→163施設※3(約85%)

︓3⽇以上→4施設(約2%) ⾮常⽤電源の設置階

︓4階以上→51施設(約27%) 上⽔道、ガス、通信への防⽔対策

︓上⽔道・ガス・通信の防⽔対策を施している病院はともに7%未満

⽔、⾷料品の備蓄︓2⽇以下→35施設(約18%)︓3⽇間→112施設(約58%)︓4⽇以上→43施設(約22%)

介護⽤品の備蓄︓2⽇以下→55施設(約29%)︓3⽇間→75施設(約39%)︓4⽇以上→60施設(約31%)

20

3日分は概ね確保されている

⇒3日以上は少数

※未回答2施設

※未回答2施設

⇒3日以上は少数

3日分は概ね確保されている⇒1日未満が8割以上

⇒1日未満が7割程度

病院・福祉施設調査

※1 対策を施していても、⼤規模⽔害時に使⽤可能かどうかは留意が必要※2 備蓄燃料24時間未満の24機関に、⾮常⽤発電機を設置していない10機関を加えた数※3 備蓄燃料24時間未満の53施設に、⾮常⽤発電機を設置していない110施設を加えた数

江東5区、内閣府等が、江東5区内の浸⽔継続時間3⽇以上の病院(99機関(診療所を含む))及び福祉施設(445施設)を対象に実施した郵送によるアンケート調査。

図 15 病院・福祉施設の備蓄状況例

(出典:中央防災会議防災対策実行会議洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ)

5. 要配慮者対策

18

【今後の課題】 ① 協議会は、要配慮者の⾃主的広域避難に関する啓発について取り組む必要がある。 ② 移動が困難な避難⾏動要⽀援者のため、施設管理者は以下について取り組む必要が

ある。 避難確保計画について

平成 29 年 6 ⽉に⽔防法と⼟砂災害防⽌法が改正され、⾼潮・洪⽔の浸⽔想定区域や⼟砂災害警戒区域内に⽴地し、かつ市町村地域防災計画に定められている要配慮者利⽤施設の所有者⼜は管理者には、避難確保計画の作成と訓練の実施を義務化している。

要配慮者が利⽤する施設の管理者は、移動に必要な⾃動⾞の確保や、広域避難場所の確保⼿順などをあらかじめ検討し、準備する必要がある。

協議会は、避難確保計画の作成が推進されるよう、必要な⽀援を⾏う必要がある。

避難確保計画の実効性を⾼めるための取り組みについて 要配慮者が利⽤する施設の管理者は、訓練により実効性を⾼める必要がある。 要配慮者が利⽤する施設の管理者は、やむを得ず施設にとどまらざるを得な

い状況があることを踏まえ、ライフライン(電気、通信及び下⽔道)が利⽤できないことも想定し、備蓄を確保しておく必要がある。

協議会は関係機関と協議し、区域内にとどまる要配慮者の早期の救助について検討する必要がある。

③ 協議会は、移動が困難な在宅の避難⾏動要⽀援者及びその付添者を、避難施設に受⼊れるための施策を検討する必要がある。

協議会は、屋内安全確保した在宅の避難⾏動要⽀援者について、捜索に費やす時間を短縮するため、在宅避難を伝える連絡⽅法と居所の確認⽅法を検討する必要がある。

6. 避難⾏動及び避難場所

19

6. 避難行動及び避難場所

① 浸⽔想定区域内の住⺠には、⾃主的広域避難を推奨する。 ② ⾃主的広域避難をする住⺠は、⾃ら情報を収集、判断し、各⾃が確保した親戚、知⼈宅

や宿泊施設等に早めに避難する。 ③ 広域避難勧告の対象者(床上浸⽔想定区域内の住⺠)は、広域避難場所へ避難する。 ④ 広域避難は⼀時的な避難とする。 ⑤ 域内垂直避難指⽰(緊急)が発令された場合は、広域避難を中⽌し、想定される浸⽔深

よりも⾼い⾃宅の居室や施設へ垂直避難する。 【解説】

① ⼤規模・広域避難においては、広域避難の対象者が数⼗万〜百万⼈以上にも及ぶ膨⼤な数になる。このような膨⼤な⼈数の広域避難場所を確保しようとすると、周辺⾃治体との調整が難航することに加え、隣接する⾃治体よりもさらに遠くの⾃治体へ避難することとなる。避難距離が⻑くなることにより、住⺠の広域避難に対する抵抗感を⾼めてしまうおそれがある。

また、交通規制等が⾏われる前に⾃動⾞による避難であれば、ある程度の財産についても持ち運ぶことができる。

そのため協議会は、住⺠が⽇頃から広域避難場所を検討しておき、今までに経験したことがないような巨⼤台⾵が発⽣した際には、⾃ら情報を収集、判断し、⾃主的広域避難情報が発信された時点で、率先して広域避難することを推奨する。

② ⾃主的広域避難をする住⺠は、どの地域、どのような施設に避難するかの選択を、⾃らの判断で⾏う。

③ 床上浸⽔想定区域内の住⺠に対して広域避難勧告を発令する(図 16)。また、浸⽔する想定ではないが、周りが浸⽔することにより孤⽴する地域の住⺠も広域避難勧告の対象とし、住⺠は広域避難場所に避難する。ただし、現段階では公的な広域避難場所は確保できていない。

6. 避難⾏動及び避難場所

20

図 16 広域避難勧告の対象者

④ 浸⽔のおそれがなくなった段階で、浸⽔していない地区の住⺠は、経路の安全確認

を⾏った後、速やかに帰宅する。 協議会は、浸⽔により⾃宅に戻ることが困難な住⺠に対しては、江東5区の避難施

設への移動を検討する。ただし、避難者の⼈数によっては、江東5区以外の指定避難所への移動を指⽰する場合がある。

⑤ 域内垂直避難指⽰(緊急)が発令された場合は、広域避難を中⽌し、想定される浸⽔深よりも⾼い近くの施設へ垂直避難を⾏う。

【今後の課題】 ① 協議会は、⾃主的広域避難の啓発に取り組む必要がある。 ② 住⺠は、⾃主的広域避難を実施する際の広域避難場所をあらかじめ検討しておく必

要がある。 ③ 協議会は、従業員の⾃主的広域避難への事業者の協⼒について、働きかけを⾏って

いかなければならない。 国、都及び協議会は、円滑に広域避難が⾏われるよう、以下について取り組む必要

がある。 都及び協議会は、公共施設だけではなく、⺠間の施設など広域避難場所の確保に

努める必要がある。 広域避難場所や移動に係る関係機関との調整を⾏う必要がある。 関係機関は、広域避難の実現に向けて具体的な体制及び実⾏計画を定める必要が

ある。 協議会は、本計画やハザードマップに⽰した避難⽅法及び浸⽔のおそれがない地

域の周知に取り組む必要がある。 協議会は、様々な広域避難場所に関する情報提供について検討していく必要があ

る(例えば、ホームページの活⽤⽅法や電光掲⽰板(デジタルサイネージ)の活⽤や情報の伝え⽅について検討する必要がある。)。

都及び協議会は、広域避難勧告時に、広域避難場所を住⺠に指⽰できるよう、事前に広域避難場所のある市区町村と調整を図っていく必要がある。

床上浸水想定区域内の住民は、 広域避難勧告の対象者である。

6. 避難⾏動及び避難場所

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④ 災害発⽣後に、広域避難場所から戻ってくる住⺠に対する連絡⽅法(ホームページや放送事業者への協⼒要請等)について検討する必要がある。

⑤ 協議会は、やむを得ず垂直避難せざるを得ない状況があることも踏まえ、浸⽔想定区域内にある公共施設だけではなく、⺠間事業者の施設も対象に垂直避難が可能な施設の確保に努める必要がある。

住⺠は、垂直避難せざるを得ないときに備え、⾷料・⽔・簡易トイレほかの備蓄を⾏う必要がある。なお、その際には地震対策よりも⻑期間の備蓄が必要である。

江⼾川区松江⼩学校では、避難場所になる体育館(2 階)や校舎から校庭に出られる

階段を設けており、救助のボートが施設に着岸しやすい。 また、20kw の発電量の太陽光発電と 3.2kw の蓄電池を備えており、停電時には商⽤電

源から太陽光へ切り替えることができる。

体育館と校舎に接続している階段 テラスと繋がっている階段

図 17 逃げ遅れた人の救助に要する時間を可能な限り減らすための対策 (中央防災会議防災対策実行会議洪水・高潮氾濫からの大規模・広域避難検討ワーキンググループ資料より作成)

7. 避難⼿段

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7. 避難手段

① 広域避難勧告後は、電⾞⼜は徒歩による広域避難を推奨する。 ② 電⾞⼜は徒歩による移動が困難な避難⾏動要⽀援者及びその付添者が広域避難を⾏う

場合は、⾃動⾞による移動も可能とする。 【解説】

① 広域避難勧告の発令後は、以下の理由から電⾞⼜は徒歩による広域避難を推奨する。 ⾃動⾞による避難が⼀時に集中すると渋滞が発⽣し、避難が間に合わないおそれ

があるため、住⺠は⾃動⾞による避難を避けなければならない。 ⽔防活動や広域避難の誘導を⾏う関係機関の⾞両については、遅滞することなく

現場に到着する必要があり、その為には、渋滞が発⽣するような事態を避けなければならない。

② 移動が困難な避難⾏動要⽀援者とは、以下のような⽅が考えられる。 ⻑距離の徒歩移動ができない。 混雑する電⾞の利⽤が困難。(例:⾞椅⼦、パニック障害等)

【今後の課題】 ① 電⾞⼜は徒歩による広域避難を確実に実施するため、以下について取り組む必要が

ある。 協議会は、⾃動⾞による⼀⻫避難を⾏わないよう住⺠に啓発していく必要がある。 協議会と鉄道事業者間で、広域避難ができるよう対応等を検討、調整していく必要

がある。 徒歩避難について、橋梁等が混雑により利⽤できなくならないよう、交通規制等の

対策について取り組む必要がある。 住⺠に対して広域避難場所を伝達する⽅法について検討する必要がある。 関係機関は、江東5区による広域避難に関する発令が⾏われた時は、それぞれその

実⾏に向けた役割を果たすため、各関係機関の役割分担、実施体制について継続的に検討する。

国、都及び協議会は、鉄道や橋梁が事故や混雑等により、利⽤できない事態を避けるための対策に取り組む必要がある。

避難路の確保のため、例えば、⾼架形式の⾼速道路を⾮常時の避難路として活⽤できないかなど、施設管理者及び交通管理者と検討していく必要がある。

② 移動が困難な避難⾏動要⽀援者が利⽤する施設の管理者は、⾃動⾞の確保について検討する必要がある。また、在宅の移動が困難な避難⾏動要⽀援者についても同様に、⾃動⾞の確保について検討する必要がある。

8. 関係機関の役割・連携体制

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8. 関係機関の役割・連携体制

① 広域避難の課題を解決し、実効性を確保するために、国・都が設置した「⾸都圏における⼤規模⽔害広域避難検討会」と連携し、江東5区として取り組みを継続する。関係機関は、広域避難の実効性を確保するために協⼒する。

② 関係機関は、⾃主的広域避難情報、広域避難勧告及び域内垂直避難指⽰(緊急)の判断に関して、気象予報、河川情報、交通情報等について積極的に提供する。

③ 関係機関は、広域避難が実施できるよう社会的合意と実施に向けての啓発について協議会とともに検討する。

④ 協議会は、やむを得ず垂直避難を選択した住⺠を可能な限り短期間で救助するため、救助を担う関係機関と連携する。

【解説】 ① 前章までに⽰したとおり、本計画を実施するためには多くの課題を解決しなければ

ならない。この課題を⼀つひとつ解決し実効性を⾼めていくためには、協議会と関係機関が協⼒して取り組まなければならない。そのため、国・都が設置した「⾸都圏における⼤規模⽔害広域避難検討会」と連携し、江東5区としての取り組みを継続する。

② 広域避難を実現するためには、⽔害に関する専⾨的な知⾒や、避難⾏動にかかわる情報の共有が必要である。さらに、早い段階で⾃主的広域避難情報や広域避難勧告を出すために、気象台や河川管理者が能動的に協議会に対して情報提供する必要がある。また、交通機関からの情報を、住⺠の避難⾏動に役⽴てるための情報共有⼿法についても取り組む必要がある。

③ 広域避難は、命を守る⾏動として社会全体が取り組まなければならないという気運の醸成がないと実現することは困難である。

④ やむを得ず垂直避難した要配慮者等の救助計画が必要である。 【今後の課題】

① 関係機関は主体的かつ、連携する各関係機関と検討状況を共有することに留意しながら、広域避難を実現するための課題解決に向けて取り組む必要がある。また、各関係機関による訓練を実施し、体制の強化について取り組む必要がある。

② 関係機関は、災害の発⽣時期に関する予測精度を向上し、広域避難にかかわる迅速な意思決定に役⽴てることや、鉄道の運⾏状況や徒歩・⾃動⾞避難の混雑に関する情報を住⺠に発信する⼿段について検討する必要がある。

③ 各関係機関が連携して広域避難に関する気運の醸成に資する情報発信に取り組む必要がある。

④ 協議会は、やむを得ず垂直避難した要配慮者等の救助計画について、消防、警察等関係機関と連携して検討する必要がある。

9. 治安対策

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9. 治安対策

避難により留守となった住居・施設への侵⼊窃盗防⽌対策のため、鍵かけなどの啓発を⾏うほか、パトロールの徹底等について検討する(警察、⾃警団の編成)。

【解説】 治安維持への住⺠の不安(窃盗など)は、広域避難の妨げとなる。

【今後の課題】 協議会は、警察及び⾃警団が安全にパトロールできる体制を確保したうえで、パトロ

ールの実施や警備会社の利⽤について検討する。

10. 意識の共有・啓発

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10. 意識の共有・啓発

浸⽔想定区域の住⺠及び社会全体が、⼤規模⽔害への理解を深め、⾃主的な避難⾏動を⾏う社会の実現を⽬指す。

【解説】 協議会は、国や都と連携を図りながら、⼤規模⽔害は国の経済社会活動に⼤きく影響

する国難であることについて、社会的認知を得られるよう努める必要がある。また、広域避難の必要性やその課題に対する住⺠の認識の向上に努めていく必要がある。

【今後の課題】 広域避難の実現を⽬指し、情報提供、啓発活動及び防災教育を推進する必要がある。 ⾃主的広域避難情報が出た時点で、休校や催し物を中⽌する社会的な同意が得られる

気運を醸成するように取り組む必要がある。 協議会は、広域避難を⾏う住⺠の負担軽減策について検討する必要がある。 江東5区⼤規模⽔害ハザードマップや各区ハザードマップ及び⼤規模⽔害リーフレ

ットを配布し、⾃主的な避難⾏動の必要性と⼤規模⽔害のリスクを広く住⺠に周知する必要がある。

江東5区ではシンポジウム等を開催し、住⺠への意識啓発を⾏う必要がある。 インターネットを利⽤した広報やマスコミによる啓発に取り組む必要がある。

11. 防災・減災のためのハード・ソフト対策

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11. 防災・減災のためのハード・ソフト対策

① 各関係機関は、⾼規格堤防や調整池などの防災・減災のためのハード対策について取り組む。

② 各関係機関は、広域避難が必要となる住⺠を減少させるために、浸⽔継続時間の短縮を図るためのハード・ソフト対策について取り組む。

【解説】 ① 浸⽔エリアを低減することにより、広域避難の対象となる住⺠の数を低減する。 ② 浸⽔継続時間の短縮やライフラインが利⽤できる環境を確保することにより、やむ

を得ず垂直避難を選択した住⺠のリスクを低減し、広域避難が必要となる住⺠の数を抑制することが可能となる。

【今後の課題】 ① 各関係機関は、氾濫が発⽣した際の被害を軽減するために、⾼規格堤防、調整池の

取り組み、及び局所的に低くなっている橋梁部付近の堤防改修について連携し、推進していく必要がある。

② 各関係機関は、広域避難者の削減や垂直避難者の安全確保のため、排⽔にかかわる施設の耐⽔対策、排⽔能⼒の強化、及びライフラインの耐⽔化対策について検討する必要がある。

Ⅲ. 今後の取り組み Ⅳ. 検討体制

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III. 今後の取り組み

協議会は、⼤規模⽔害による犠牲者をゼロにするため、広域避難の実施における課題について対策を検討し、各関係機関と連携しながら実効性を確保するための取り組みを継続していく。

また、広域避難場所の確保や住⺠の避難誘導、避難⼿段等の各関係機関の連携が必要な事項については、国及び都が設置した「⾸都圏における⼤規模⽔害広域避難検討会」に参画して検討していく。

そして、江東5区すべての住⺠に⼤規模⽔害のリスクが理解され、命を守るためには早期の広域避難が最良の⾏動であると認識されるように、今後も意識啓発に取り組んでいく。

IV. 検討体制

1. 協議会規約

協議会規約は、次⾴のとおりとする。

Ⅳ. 検討体制

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江東5区広域避難推進協議会規約 (⽬ 的) 第1条 「江東5区⼤規模⽔害対策協議会」の検討において、避難の判断や避難先の

確保、避難⾏動⽀援などの課題が明らかになった。また、広域避難の促進に向けては、国や都等の関係機関との連携によって初めて対応が可能となる課題が数多く存在する。 そこで関係機関を交えた本協議会を⽴ち上げ、広域避難の具体化に向けた検討を加速させる。

(名 称) 第2条 本協議会は、江東5区広域避難推進協議会(以下「協議会」という)と称する。 (協議会) 第3条 協議会の委員は墨⽥区⻑、江東区⻑、⾜⽴区⻑、葛飾区⻑、江⼾川区⻑とする。 2 座⻑は委員の互選によって選出する。 3 協議会はアドバイザーを会議に出席させることができる。 4 協議会はオブザーバーを会議に出席させることができる。 5 協議会の運営に関して必要な事項は座⻑が定める。 (議 事) 第4条 協議会の議事は委員の総意によって決する。 2 議事の進⾏は座⻑が務める。 (幹事会) 第5条 協議会の円滑な運営を補助し、実務的な課題を検討するため、協議会に幹事

会を置く。 2 幹事会の構成員は、各区の防災担当部⻑、関係部⻑及び各関係機関が選任する職

員をもって組織する。 3 幹事会はアドバイザー及びオブザーバーを会議に出席させることができる。 4 幹事⻑は事務局の該当区より選任する。 5 幹事会の運営に関して必要な事項は幹事⻑が定める。 (事務局) 第6条 事務局は5区にて持ちまわる。 (雑 則) 第7条 この規約に定めるもののほか、必要な事項は、座⻑が協議会に諮って定める。 (附 則) この規約は平成28年9⽉7⽇から施⾏する。

Ⅳ. 検討体制

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2. 体制

協議会の体制は、以下のとおりとする。(いずれも平成 30 年 8 ⽉ 22 ⽇現在) 2.1. 江東5区広域避難推進協議会名簿

区名 氏名

墨⽥区 墨⽥区⻑ ⼭ 本 亨 江東区 江東区⻑ ⼭ 﨑 孝 明 ⾜⽴区 ⾜⽴区⻑ 近 藤 やよい 葛飾区 葛飾区⻑ ⻘ ⽊ 克 德

江⼾川区 江⼾川区⻑ 多 ⽥ 正 ⾒ 2.2. 江東5区広域避難推進協議会 幹事会名簿

機関名 役職

墨⽥区 都市計画部危機管理担当部⻑

都市整備部⻑

江東区 総務部⻑(危機管理室⻑兼務)

⼟⽊部⻑

⾜⽴区 危機管理部⻑

都市建設部⻑

葛飾区 危機管理・防災担当部⻑

都市施設担当部⻑

江⼾川区 危機管理室⻑

⼟⽊部⻑

内閣府 政策統括官(防災担当)付 企画官(調査・企画担当)

東京都総務局 総合防災部計画調整担当課⻑

総合防災部防災対策課⻑

Ⅳ. 検討体制

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2.3. アドバイザー及びオブザーバー

【アドバイザー】

東京⼤学⼤学院 情報学環 特任教授 ⽚⽥ 敏孝 【オブザーバー】

機関名 役職

国⼟交通省関東地⽅整備局 荒川下流河川事務所⻑ 東京国道事務所⻑

国⼟交通省関東運輸局 総務部安全防災・危機管理課⻑

気象庁東京管区気象台 気象防災部気象防災情報調整官

東京都建設局 河川部防災課⻑

東京都港湾局 港湾整備部⽔防対策担当課⻑

東京都交通局(都営地下鉄) 総務部安全対策推進課⻑

東京都下⽔道局 計画調整部 緊急重点⾬⽔対策事業担当課⻑

警視庁 警備部災害対策課 災害警備担当管理官 交通部交通規制課 災害交通対策担当管理官

東京消防庁 防災部震災対策課⻑

⾸都⾼速道路株式会社 保全・交通部防災対策課⻑

東京地下鉄株式会社(東京メトロ) 鉄道本部安全・技術部防災担当課⻑

東武鉄道株式会社 鉄道事業本部営業部 スカイツリーライン営業⽀社⻑

京成電鉄株式会社 計画管理部安全推進担当課⻑

⾸都圏新都市鉄道株式会社 鉄道事業本部安全総括部 企画調整課⻑補佐

北総鉄道株式会社 安全推進担当課⻑

東⽇本旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部安全企画部 安全基準・防災グループ課⻑

Ⅴ. 巻末資料

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V. 巻末資料

1. 高潮浸水想定区域(浸水深 50cm 以上)外の町丁目

高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

区 高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

足立区

伊興1丁目~5丁目、伊興本町1丁目~2丁目加賀1丁目~2丁目、興野2丁目、栗原4丁目古千谷1丁目~2丁目、古千谷本町1丁目~2丁目江北5丁目~7丁目、皿沼1丁目~3丁目鹿浜1丁目~8丁目舎人1丁目~2丁目、4丁目~6丁目舎人公園、舎人町、西伊興町西伊興1丁目~4丁目、西新井1丁目~7丁目西新井本町2丁目~4丁目西竹の塚1丁目~2丁目、西保木間1丁目~2丁目千住1丁目~5丁目、千住河原町、千住関屋町千住宮元町、千住橋戸町、千住寿町、千住中居町千住仲町、千住東1丁目、千住柳町、千住龍田町千住緑町1丁目~3丁目、扇3丁目谷在家1丁目~3丁目、椿1丁目~2丁目竹の塚1丁目~7丁目、東伊興1丁目、4丁目日ノ出町、入谷1丁目~9丁目、入谷町平野1丁目~2丁目、六月1丁目~3丁目

葛飾区 (なし)

江戸川区 臨海町4丁目

墨田区 (なし)

江東区豊洲6丁目、有明1丁目~4丁目、青海1丁目~4丁目

高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上) 高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

※上表緑字・左図緑丸:高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上)に含まれないが、周囲を高潮浸水想定区域(浸水深50cm以上)に囲まれる。

浸水深0.5~3.0m未満3.0~5.0m未満5.0m~10.0m未満10.0m~

2. 洪水(荒川 L2・江戸川 L2)浸水想定区域(浸水深 50cm 以上)外の町丁目

洪水(荒川L2・江戸川L2)浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

区 洪水浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

足立区 (なし)

葛飾区

高砂1丁目※

※浸水想定区域(浸水深50cm以上)に含まれないが、周囲を浸水想定区域(浸水深50cm以上)に囲まれる。

江戸川区 臨海町4丁目~6丁目

墨田区 (なし)

江東区

豊洲1丁目~6丁目塩浜1丁目~2丁目枝川1丁目~3丁目潮見1丁目~2丁目有明1丁目~4丁目青海1丁目~4丁目東雲1丁目~2丁目辰巳1丁目~3丁目夢の島新木場1丁目~4丁目若洲1丁目~3丁目

洪水浸水想定区域(浸水深50cm以上) 洪水浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

洪水浸水想定区域(浸水深50cm以上)外の町丁目

浸水深0.5~3.0m未満3.0~5.0m未満5.0m~10.0m未満10.0m~