6
図215-1 G7と新興国における各所得層の世帯数の推移 備考:新興国27とは、BRICs、BRIICS、VISTA、NEXT11、JFIC18に含まれる国(除イラン・バングラディッシュ))。 資料:Euromonitor international 2011 26 98 116 5 110 152 4 77 220 3 56 264 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 90 年 00 年 10 年 20 年(見込) (百万世帯) <G7> 568 69 9 744 151 24 459 556 71 234 801 207 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 低所得層 ( 5,000ド ル未満) 中間層 ( 5,000 ~ 35,000ドル 未満) 富裕層 ( 35,000ド ル以上) 90 年 00 年 10 年 20 年(見込) (百万世帯) <新興国27> 図215-2 日本と中国における各所得層の世帯数の推移 資料:Euromonitor international 2011 0 15 26 0 10 36 0 11 40 0 6 46 0 200 400 90 年 00 年 10 年 20 年(見込) (百万世帯) <日本> 272 4 0 330 18 1 194 188 11 91 284 56 0 200 400 低所得層 (5,000ド ル未満) 中間層 (5,000~ 35,000ドル 未満) 富裕層 (35,000ド ル以上) 90 年 00 年 10 年 20 年(見込) (百万世帯) <中国> 5. 「誰のためのものづくりか」~マーケット サイドの構造変化を受けて~ (1)市場環境の変化 近年、世界市場における新興国市場の占める割合が急 速に増大しており、新興国市場を中心とした成長市場を 獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考 えられる。 それを物語るのが、新興国における中間層の急激な増 加である。近年、先進国である G7と比較して、新興国 の所得層の底上げが急速に進んでいる。特に、低所得層 から中間層へのシフトは顕著なものであり、今後につい ては、富裕層についても3倍近く伸びると見込まれてい る(図215-1)。 同様に、我が国と中国の所得層の変化を比較すると、 中国の低所得層の減少と、中間層の増加が際立っている。 一方で、我が国の所得層は、富裕層世帯が微増している ものの中国など新興国の伸びと比較すると僅かであり (図215-2)、国内市場に成熟感があることがうかがえる。 82

5.「誰のためのものづくりか」~マーケット サイドの構造変化を … · 獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考 えられる。

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Page 1: 5.「誰のためのものづくりか」~マーケット サイドの構造変化を … · 獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考 えられる。

図215-1 G7と新興国における各所得層の世帯数の推移

備考:新興国27とは、BRICs、BRIICS、VISTA、NEXT11、JFIC18に含まれる国(除イラン・バングラディッシュ))。資料:Euromonitor international 2011

26

98

116

5

110

152

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77

220

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264

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

90年

00年

10年

20年(見込)

(百万世帯) <G7>

568

69

9

744

151

24

459

556

71

234

801

207

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

低所得層(5,000ドル未満)

中間層(5,000 ~35,000ドル未満)

富裕層(35,000ドル以上)

90年 00年 10年 20年(見込)

(百万世帯)<新興国27>

図215-2 日本と中国における各所得層の世帯数の推移

資料:Euromonitor international 2011

0

15

26

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10

36

0

11

40

0

6

46

0 200 400

90 年

00 年

10 年

20 年(見込)

(百万世帯) <日本>

272

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330

18

1

194

188

11

91

284

56

0 200 400

低所得層(5,000ドル未満)

中間層(5,000~35,000ドル未満)

富裕層(35,000ドル以上)

90 年

00 年

10 年

20 年(見込)

(百万世帯) <中国>

5. 「誰のためのものづくりか」~マーケットサイドの構造変化を受けて~

(1)市場環境の変化近年、世界市場における新興国市場の占める割合が急

速に増大しており、新興国市場を中心とした成長市場を獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考えられる。それを物語るのが、新興国における中間層の急激な増

加である。近年、先進国であるG7と比較して、新興国

の所得層の底上げが急速に進んでいる。特に、低所得層から中間層へのシフトは顕著なものであり、今後については、富裕層についても3倍近く伸びると見込まれている(図215-1)。同様に、我が国と中国の所得層の変化を比較すると、

中国の低所得層の減少と、中間層の増加が際立っている。一方で、我が国の所得層は、富裕層世帯が微増しているものの中国など新興国の伸びと比較すると僅かであり(図215-2)、国内市場に成熟感があることがうかがえる。

82

Page 2: 5.「誰のためのものづくりか」~マーケット サイドの構造変化を … · 獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考 えられる。

〈中国〉 〈インド〉

図215-3 世界の所得分布の変化(1970年→2006年)

出所:Adapted from Pinkovskiy and Xavier Sala-i-Martin, "Parametric Estimations of the World Distribution of Income,"NBER working paper 15433, October 2009.

図215-4 各国のジニ係数の変化

備考:1. ジニ計数とは、所得分配の不平等さを測る指標。数値が1に近いほど格差が大きい状態であることを意味する。

2. 一般に、「1990年代前半」は1993年、「2000年代後半」は2008年を表している。

出所:OECD-EU Database on Emerging Economies and World Bank Development Indicators Database.

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

OECD

インドネシア

インド

中国

ロシア

アルゼンチン

ブラジル

南アフリカ

1990年代前半

2000年代後半

図215-5 中国・インドの所得分布(2006年)

出所:Adapted from Pinkovskiy and Xavier Sala-i-Martin, "Parametric Estimations of the World Distribution of Income,"NBER working paper 15433, October 2009.

また、新興国の中間層が厚みを増すにつれて、企業が対応すべき顧客の所得水準の幅が拡大している。1970年当時は、中間層以上(年間所得5,000ドル以上)のセグメントにおいて、世界全体の所得層の最頻値と、先進国の所得層の最頻値の差は僅かであった。しかし、2006年になると、先進国の所得がやや増加するとともに、低所得層が大量に中間層に流入したことで、(中間層以上のセグメントにおける)世界全体の所得層の最頻値は引き続き5,000ドル地点にとどまり、先進国と世界全体の最頻値の差は拡大した(図215-3)。この結果、中間層以上のセグメントにおいて、全世界的に統一された価格帯による製品展開は難しくなり、富裕層は富裕層、中間層は中間層などと、それぞれ需要者側の要求水準に

合った製品を提供する必要が増大した。また、各国のジニ係数とその変化をみると、新興国は

先進国に比べて国内における格差が大きいことが分かる。また、特に中国とインドについては、1990年代初頭から2000年代の後半にかけて所得格差の拡大が進んでおり(図215-4)、新興国市場の中でも所得層の多層化を視野に入れる必要が生じたといえる。

さらに、同じ新興国でも、中国では都市と地方の所得格差が大きいのに対して、インドでは小さいなど、所得の地域的な偏在性にも差がある(図215-5)。したがって、当該国内における製品の価格設定のあり方だけでも、新興国ごとに異なるアプローチが必要となる。

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

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Page 3: 5.「誰のためのものづくりか」~マーケット サイドの構造変化を … · 獲得することが、更なる飛躍への原動力となるものと考 えられる。

図215-6 自動車の世界販売台数の変化(1990年→2010年)

図215-7 自動車の国・地域別販売増加台数(1990年→2000年)とグローバル自動車市場の推移

資料:FOURIN「世界自動車調査月報」他より経済産業省作成

資料:FOURIN「世界自動車調査年報」他より経済産業省作成

以下では、自動車産業を例にとって、上記のような新興国市場の特徴を具体的に確認したい。自動車産業においては、1980年代まで日米欧3極で

世界の自動車販売市場の約9割を占める時代が続いた。しかし、BRICs、ASEAN4などの伸びにより、2010年には新興国市場が世界の過半を占めるに至った(図

215-6)。この20年間の世界の自動車販売市場の伸び(約

3,000万台)の中、大部分が新興国市場の伸びであり(図215-7)、今後も中間層の伸びなどからその傾向は続くものと考えられる。

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図215-8 中国の乗用車排気量別販売構成(2007年〜2011年)

図215-9 中国の売れ筋車種の例(2011年・31行政区登録ベース)

備考:小型:A(全長:〜3.6m)、B(全長:3.7〜4.0m)中型:C(全長:4.1〜4.3m)、C-MPV(全長:4.3〜4.4m)大型:D、E2(全長4.5〜4.8m)、E1(全長:4.5〜4.8m)など

資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成

備考:Cセグメントの主力排気量は1.6L、2.0L。資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成

タ・万

1 x( 8 万

G ・C万

v万

トンメグセC:分区トンメグセC:分区

・E万

区分:Cセグメント 区分:Cセグメント 区分:Cセグメント

07 08 09 10 11 (年)

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

638万台 676万台

1,033万台

1,376万台1,447万台

中でも、国別に最も市場の拡大が見込まれるのが中国市場である。2011年の乗用車販売台数は、前年比5%

増の1,447万台であり(図215-8)、その中でも比較的安価な中型車及び小型車の普及が進んでいる(図215-9)。

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

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図215-10 インドの乗用車車種別販売構成(2005〜2010年)

図215-11 インドの売れ筋車種の例(2011年・販売ベース)

備考:小型:Mini(全長:〜3.4m)、compact(全長:3.4〜4.0m)。中型:Mid-size(全長:4.0〜4.5m)。ユーティリティ:車両総重量3.5t以下・定員13人以下。高級:Exectlve(全長:4.5〜4.7m、

Premium(全長:4.7〜5.0m)、Luxury(全長:5.0m以上)。資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成

資料:FOURIN「世界自動車統計年刊2010」等より経済産業省作成

z R

7万台

1位 z i

)8万 )

h ( 1 万台

区分:A2 Compact 区分:ユーティリティ区分:A2 Compact区分:A2 Compact区分:A2 Compact

05 06 07 08 09 10 (年)

また、インドにおいても、2010年の乗用車販売は前年比31%増の238万台を記録した。区分別では、小型乗用車が、前年比32%増の146万台を占めていた。また、所得水準の上昇により、ユーティリティ区分の車種が売れ筋に上がっていることも注目される。(図215-10・11)。

世界の自動車販売市場において新興国が中心的な位置を占めるに従って、地場メーカーを含めた各国自動車メーカーが新興国市場に続々参入した。現地仕様車や現地特有車が現地生産の主流となり、モデルチェンジを早めたり、新車種投入を間断なく続けなければ、競争に打ち勝てない状況へと変化している。

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新車種投入により、インドの所得増加に伴うニーズ多様化に対応 ……………… スズキ(株)スズキ(株)は、1983年にインド政府の国民車構想に参画するかたちで、小型乗用車の生産に乗り出した。

まず、投入したのがA1クラスの「Maruti 800」である。それまで高嶺の花であった乗用車を中間所得層でも手が届くような価格で提供し、価格、性能の両面で評価され大ヒット、インドにモータリゼーションを巻き起こし乗用車市場において圧倒的なシェアを獲得した。その後、インド政府は1991年に経済自由化政策に舵を切り、競合他社も徐々にインド自動車市場に参入す

るようになって、競争環境は激しさを増す。そうした中でインド自動車市場では、量的な面だけでなく、質的な面からも変化を遂げ、2002年以降、A2クラスの乗用車が急増し、市場でも大きな割合を占めるようになった。また、A2クラスの消費者層は、車で移動すること自体が主たる目的であるA1クラス消費者層と異なり、デザイン、性能をより追求する傾向があり、消費者ニーズの多様化が進んだ。そうした消費者の変化に合せるように、同社では、ボリュームゾーンのA2クラスに新車種を相次いで投入。これら新車投入により、多様化するニーズを的確にとらえ、急激に増加するA2クラスでの新規消費者獲得、シェア維持を実現している。

コラム

図1 インドにおける1人当たりの名目GDPの推移と乗用車の販売台数推移及び、マルチ・スズキ・インディアの新車種発売時期

表2 マルチ・スズキ・インディアの車種一覧ディアの新車種発売時期

備考:1. A1、2、3、4、5、6とは、それぞれ、車長が3,400mm以下、3,401mm以上4,000mm以下、4,001mm以上4,500mm以下、4,501mm以上4,700mm以下、4,701以上5,000mm以下、5,001mm以上をいう。

2. 「マルチスズキ」とは、スズキ(株)の連結子会社で、インド現地法人の「マルチ・スズキ・インディア」のこと。

資料:1.一人当たりの名目GDPは、IMF「World Economic Outlook Database, September 2011」2.インドにおける乗用車の販売台数は、FORIN「世界自動車統計年鑑」3. マルチ・スズキ・インディアの新車種発売時期は、(株)アイアールシー「インド自動車産業の実態2010年版」

備考:価格は、地域ごとに異なるため、最低価格を掲載。資料:1.投入時期、価格は、(株)アイアールシー「インド自動車産業の実態2010年版」

2.コンセプトは、マルチ・スズキ・インディアのSustainability Report 2011を参考に経済産業省作成

実用性、デザイン性、快適性を追求したプレミアム車流線型モノフォルムデザインが特徴的な背高ワゴン欧州はじめ各国へ輸出されるインド製の世界戦略車コンパクトながら背高ボディーのファミリーカー

取り回しが良く、経済性に優れ、一躍国民車に室内空間、使い勝手に優れた背高ワゴンの代表格実用性、経済性に優れた最もポピュラーな小型車

車種 セグメント 投入時期 価格(Rs)※ マルチ800 A1 1983年12月 192,769 ワゴンR A2 1999年12月 289,265 アルト A2 2000年9月 209,477 スイフト A2 2005年5月 409,461 エスティーロ A2 2006年12月 289,265 A-Star A2 2008年1月 318,250 リッツ A2 2009年5月 358,452

コンセプト

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

0

50

100

150

200

250

02 03 04 05 06 07 08 09 10

(インド・ルピー) (万台)

MPV ユーティリティ A6 A5 A4

A3 A2(うち、その他) A2(うち、マルチスズキ) A1 1人当たり名目GDP(右軸)

エスティーロ(A2)

06年12月

A-Star(A2)

08 年1月

リッツ(A2)

09 年5月

マルチ800(A1)

83年12月 ワゴンR(A2)

99年12月 アルト(A2)

00 年9月

スイフト(A2)

05 年5月

(年)

第1節

第2章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

我が国ものづくり産業を取り巻く構造変化と企業のビジネスモデルの変化

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