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香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 25 年 12 月 1 日 6 章 感染症別予防策 (ウイルス感染症) . ウイルス感染症の持込防止 1. ウイルス感染症の持込を防ぐための注意 . ウイルス感染症予防策 各論 1. 水痘・帯状疱疹 2. 麻疹 3. 風疹 4. 流行性耳下腺炎 5. 伝染性紅斑(りんご病) 6. インフルエンザ 7. ノロウイルス 8. 流行性角結膜炎

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第 6章 感染症別予防策 (ウイルス感染症)

Ⅰ. ウイルス感染症の持込防止 1. ウイルス感染症の持込を防ぐための注意

Ⅱ. ウイルス感染症予防策 各論

1. 水痘・帯状疱疹 2. 麻疹 3. 風疹 4. 流行性耳下腺炎 5. 伝染性紅斑(りんご病) 6. インフルエンザ 7. ノロウイルス 8. 流行性角結膜炎

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Ⅰ. ウイルス感染症の持込防止 1. ウイルス感染症の持込を防ぐための注意 ※感染症で緊急入院する場合は、この限りではない。

1) 入院時の問診 ① 患者入院時にウイルス感染の罹患歴、ワクチン歴、ウイルス感染症患者との

1か月以内の接触の有無、発疹の有無などの問診を行う。 インフルエンザ、ノロウイルスの流行時期には、家族の罹患歴や地域の学校

の休校状況などについても問診を行う。 ※インフルエンザ、ノロウイルス胃腸炎の流行時期(12月~3月)は、入院予定患者へ入院パンフレットと一緒に下記の用紙を渡している。

② 患者の全身状態や治療の緊急性によるが、ウイルス感染症の疑いが濃厚な場合は、入院を延期していただくことがある。

③ 小児患者の場合、原因不明の発熱、咳などを認めたとき、ウイルス感染症に罹患している可能性を念頭に置き、入院の延期あるいは個室への隔離等にて

2次伝播を予防する。

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2) ウイルス感染症疑いの患者が入院したときの注意 ① 特定のウイルス感染症が疑われる場合、患者のケアは非感受性者が優先して行う。

② 患者への面会を制限する。

3) 入院患者にウイルス感染症の疑いが生じた時の対応 ① 臨床的に診断を速やかに行い、患者を隔離する。可能であれば退院させる。 ② 疑いの患者は、診断が確定するまで隔離または退院とする。 ③ 既往歴の確認も重要である。発症当時の臨床症状を詳しく聞き、疑った疾患と矛盾しないか、その疾患が学校や家庭内で流行していたか等を確認する。

該当疾患が流行していた時の臨床診断は正しい可能性が高い。その後、該当

疾患患者と接触があったが発症しなかった場合には、該当疾患の抗体を獲得

している可能性が高い。 ④ 以下の場合は、患者の抗体検査を行う。

既往歴が明らかでない場合。(風疹の臨床診断は、流行時以外は間違っている場合が多く、流行性耳下腺炎の臨床診断は、片側性の耳下腺腫脹の場合

は間違っていることがあるので注意が必要である。) ワクチン歴がない場合。(ワクチン歴がある場合でも、ワクチン接種後長く経過していると抗体が減少して、罹患する可能性がある。)

4) 2次感染予防

① 患者と接触した患者、医療従事者などの既往歴、ワクチン歴を確認する。接触の程度(病室内、病棟内、院内学級など)感染時期を明らかにする。

② 2 次感染が予想される患者にそれぞれ予防可能な疾患であれば、適切に対応する。特に免疫不全の患者が麻疹、水痘に感染した可能性がある時は、発症

時期に入院して経過を注意深く観察しなければならない。 ③ 2 次感染者も可能であれば、発症時期から発症前のウイルス排泄時期を予測し隔離するか、可能であれば退院とし 3次感染を予防する。

④ 感染時期、発症時期、ウイルス排泄時期からそれぞれのウイルス排泄の時期を予想できるが、かなりの幅になるので、注意が必要である。

5) 医療従事者の抗体検査とワクチン接種

① 就職時に水痘・麻疹・風疹・流行性耳下腺炎の、抗体価・罹患歴・ワクチン歴を予め調査し、不明である場合は、抗体検査を行う。検査にて抗体陰性(判定保留も含む)を確認した場合は、ワクチン接種を推奨する。

② ワクチン接種には副反応もあるため、接種するか否かは自己決定とする。抗体検査、ワクチン接種の費用は、病院負担とする。

③ インフルエンザワクチン接種を毎年行い、病院内にインフルエンザを持ち込まないことが重要である。

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潜伏期とウイルス排泄期間(参考文献:最新感染症ガイド・アトラス R-Book ATLAS) 疾患 潜伏期間 感染期間(ウイルス排泄期間)

麻疹 8~12日 (7~18日)

発疹出現 3、4日前~出現後 4日

水痘 14~16日 (10~21日)

発疹出現 1、2日前~発症直後が最も感染力が強い感染力は、水疱が全て痂皮形成するまで

風疹 14~23日

通常 16~18日

発疹出現 7日前~出現後 5日 解熱すると排泄されるウイルス量は激減し、感染

力が消失

流行性耳下腺炎 16~18日

時に 12~25日

伝染力は耳下腺腫脹の 1、2日前~腫脹後 5日 ウイルスは、発症の 7日前~腫脹後 9日までは唾液より分泌される

伝染性紅斑 4~14日

長い場合 21日発症後 1週間

インフルエンザ 1~4日

(平均 2日) 発症 1日前~発症後 5日

咽頭結膜熱 5~7日 一定せず(便は長期)

RSウイルス 2~8日 通常 3~8日、幼弱乳児や免疫が抑制されている場合は 3~4週間続くことがある

百日咳 7~10日 有症状時 流行性角結膜炎 7~14日 発症後 2週間 急性出血性結膜炎 1~2日 発症後 3、4日 ロタウイルス 2~4日 下痢改善後 2~5日、免疫に障害がある場合 21日ノロウイルス 1~2日 発症後 7~28日 参考資料:学校感染症の種類(学校保健安全法施行規則第 18条)

第一種

感染症

エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘瘡、南米出血熱、ペスト、マールブル

グ熱、ラッサ熱、ポリオ、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(病原体が SARSコロナウイルスであるものに限る)、鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイル A属インフルエンザ Aウイルスであってはその血清亜型がH5N1であるものに限る)*上記の他、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症

第二種

感染症 インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1)を除く)、百日咳、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、水痘、咽頭結膜熱(プール熱)、結核、髄膜炎菌性髄膜炎

第三種

感染症

コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角

結膜炎、急性出血性結膜炎その他の感染症 *この他に条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる疾患として、溶連菌

感染症、ウイルス性肝炎、手足口病、伝染性紅斑(りんご病)、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ感染症、流行性嘔吐下痢症、アタマジラミ、水いぼ(伝染性軟疣腫)、伝染性膿痂疹(とびひ)

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*出席停止の期間 ○第一種の感染症・・・完全に治癒するまで ○第二種の感染症・・・病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたとき

は、この限りでありません。 インフルエンザ ※鳥インフルエンザ(H5N1)及び新型インフルエンザ等感染症を除く

発症した後 5日を経過し、かつ、解熱した後 2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで

百日咳 特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで

麻疹 解熱後 3日を経過するまで

流行性耳下腺炎 耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後

5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで風疹 発疹が消失するまで 水痘 すべての発疹が痂皮化するまで 咽頭結膜熱(プール熱) 主要症状が消退した後 2日を経過するまで

結核 病状により学校医その他の医師において伝染

のおそれがないと認めるまで

髄膜炎菌性髄膜炎 病状により学校医その他の医師において伝染

のおそれがないと認めるまで。 ○第三種の感染症・・・病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めるまで。 ○その他の場合 ・第一種もしくは第二種の感染症患者を家族に持つ家庭、または感染の疑いが見られる者につい

ては学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めるまで。 ・第一種又は第二種の感染症が発生した地域から通学する者については、その発生状況により必

要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。 ・第一種又は第二種の感染症の流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたと

き、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。

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Ⅱ. ウイルス感染症予防策 各論 1. 水痘・帯状疱疹

1) 診断 臨床的に特徴的な水疱だけで診断可能である。急性期と回復期で血液中の IgG抗体の有意な上昇を確認するか、急性期に IgM抗体を検出することで診断されることもある。

2) 疫学

① 空気感染と飛沫感染が中心で感染力が非常に強い。水疱液の接触感染もある。 ② 約 95%が顕性感染。 ③ 潜伏期間は、感染(曝露)後 14~16日(10~21日)。 ④ 感染期間は、発疹出現 1、2 日前~水疱が全て痂皮形成するまで。感染力が強い期間は、発疹出現 1、2日前~発症直後である。

⑤ 但し、免疫グロブリン投与を行った場合、発症時期が 1週間程度遅れる場合があるため、ウイルス排泄を始める時期は、感染(曝露)後 11日目~24日目、発症の時期は 14日目~27日目となる。

3) 感染予防対策 ① 疑われた時点で感染制御部感染対策室に連絡し、小児科または皮膚科を受診させる。

② 軽症例は退院させ、重症例(肺炎、原疾患)は個室管理とし、入室者は抗体獲得者に制限する。

③ 患者は、全ての水泡が痂皮形成(発疹出現後 5~7日目頃)するまで隔離する。 ④ 標準予防策+空気感染予防策・飛沫感染予防策・接触感染予防策を実施する。

4) 2次感染予防の処置(各部署対応)

(1) 接触者リスト作成と抗体検査 ※接触者リストは、当該病棟の看護師長、病棟医長が協力し作成する。 ① リスト対象者と対象期間は、発端患者の発疹出現 1~2 日前~水疱が全て痂皮形成するまで(水疱出現後 5~7日まで)は感染性があるので、この期間に発症者と接触した入院患者と家族、退院患者と家族、医療従事者、学生、外注

職員などが対象者となる。 ② 接触者リストを作成し、氏名、属性、ID 番号、抗体価、既往歴とワクチン

★帯状疱疹★ 脊髄後根の知覚神経節に潜伏感染し、再活性化により発生するため、気道

粘膜での増殖がなく、接触感染が主体である。そのため感染力は弱いが、免

疫不全患者の多い病棟では隔離が必要である。免疫不全患者にみられる播種

性帯状疱疹に対しては水痘に準じた対応が必要である。

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接種歴を確認し、抗体価が陽性である者以外に対して、抗体検査を迅速に行

う。 ③ 抗体検査は、青スピッツに 3ml 採血し、手書きラベル(部署名、職種、名前を明記)を貼付し、感染症検査室へ提出する。接触者リストは、感染制御部感染対策室へ提出する。

(2) 接触者の発症予防策 ① 既往歴がなく抗体陰性の接触者に、接触後 3日(72時間)以内であればワクチン緊急接種を、接触後 6 日以内であれば水痘高力価免疫グロブリン投与(100mg/kg、1回)を行う。 ※妊婦(流早産)と免疫低下患者(感染・発病)はワクチン禁忌である。

② ワクチン、水痘高力価免疫グロブリン共に不可能な症例にはアシクロビル予防内服(20mg/kg×4回、接触7日目から連日 5日間)をさせる。

(3) 接触者の対応 ① ワクチン緊急接種やグロブリン投与を共に行わない場合、接触の 7日後から

22日目までは無症候性にウイルスを伝播する可能性があり、患者は個室管理とする。

② いずれかの発症予防策を行った例は、接触の 9日以後から 22日目までとする。

③ 発症した職員は、すべての発疹が痂皮形成するまで就業停止とする。 ④ 曝露した職員で抗体陰性者は、最初の曝露から 11日目、最終の曝露から 21日目まで就業しないこととする。

接触 発症 痂皮化 治癒

7~18日 -3 -2 -1 1 2 3 4 5 2~5日 潜伏期 10~21日 接触

3日 3日 接触の 7日後から 22日目まで 職員の就業停止 ((患者の個室管理)

〈水痘発症時の経過と接触者の対応〉 ウイルス排泄(感染)期間

水痘出現の 1~2日前~全水痘の痂皮

発症者

の経過

接触者

の対応

ワクチン グロブリン アシクロビン (3日以内) (9日以内) (7日目から 5日間)

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2. 麻疹 1) 診断 発熱、咳、鼻汁、など 2~3日続き、頬粘膜にコプリック斑が出現し、鮮紅色から暗赤色の紅斑が出現、融合する。発疹は消退し、色素沈着を残す。コプリック斑

の時期を見落とさない限り、一般的には臨床的に診断可能である。 最近はウイルス学的な検査診断が必要と考えられている。急性期に採血し、麻疹

に特異的な IgM抗体を証明することで診断される。急性期の血液や咽頭ぬぐい液、尿から麻疹ウイルスを分離したり、RT-PCR法で麻疹ウイルスの遺伝子(RNA)を検出することでも診断が可能である。急性期と回復期に採血して、麻疹ウイルスに対

する IgG抗体が陽性に転じたことで診断する場合もある。 2008年 1月 1日から麻疹は、全数報告の感染症となり、1週間以内に所轄の保健所に届け出ることが義務づけられた。 修飾麻疹:移行抗体が残っている時、潜伏期間にγ-グロブリンを投与した時、 Secondary vaccine failure(麻疹との接触がなく一度獲得した抗体がなくなった状態)の時に起こると、潜伏期が 14~21日と長く経過も短く軽症であり、コプリック斑が明らかでない場合も多く診断に苦慮することがある。 母親からの移行抗体がある場合は、生後 3~4ヶ月まで罹患せず、5~6ヶ月罹患は稀、8ヶ月まで罹患しても軽症である。

2) 疫学

① 空気感染もするが、主に飛沫感染。 ② 95%以上が顕性感染。 ③ 潜伏期間は、感染(曝露)後 8~12日(7~18日)。 ④ 感染期間は、発疹出現の 3、4日前(発症 2日前)から出現の 4日後(発疹の痂皮化と解熱)まで。

⑤ 但し、免疫グロブリン投与を行った場合、発症時期が 1週間程度遅れる場合があるためウイルス排泄を始める時期は、感染(曝露)後 7日目~16日目、発症の時期は 10日目~19日目となる。

3) 感染予防対策

① 疑われた時点で感染制御部感染対策室に連絡し、小児科または皮膚科を受診させる。

② 軽症例は退院させ、重症例(脳炎、肺炎、原疾患)は個室管理とし、入室者は抗体獲得者に制限する。

③ 発症患者は、発疹出現後 7日まで隔離する。 ④ 標準予防策+空気感染予防策・飛沫感染予防策を実施する。

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4) 2次感染予防の処置(各部署対応) (1)接触者リスト作成と抗体検査 ※接触者リストは、当該病棟の看護師長、病棟医長が協力し作成する。 ① リスト対象者と対象期間は、発疹出現 3、4日前~発疹出現後 4日目までに発症者と接触した入院患者と家族、退院患者と家族、医療従事者、学生、外

注職員などが対象者となる。 ② 接触者リストを作成し、氏名、属性、ID 番号、抗体価、既往歴とワクチン接種歴を確認し、抗体価が陽性である者以外に対して、抗体検査を迅速に行

う。 ③ 抗体検査は、青スピッツに 3ml 採血し、手書きラベル(部署名、職種、名前を明記)を貼付し、感染症検査室へ提出する。接触者リストは、感染制御部感染対策室へ提出する。

(2) 接触者の発症予防策 ① 既往歴がなく抗体陰性の接触者に、接触後 72 時間以内であればワクチン緊急接種を、接触後 6日以内であれば免疫グロブリン投与を行う。 ※妊婦(流早産)と免疫低下患者(感染・発病)はワクチン禁忌である。

② ワクチン、水痘高力価免疫グロブリン共に不可能な症例にはアシクロビル予防内服(20mg/kg×4回、接触 7日目から連日 5日間)をさせる。

(3) 接触者の対応 ① ワクチン緊急接種やグロブリン投与の有無にかかわらず、接触の 6日後~13日目までは、無症候性にウイルスを伝播する可能性があり、患者は個室管理

とする。 ② 発症した職員は、発疹が出現してから 7日間は就業停止とする。 ③ 曝露した職員で抗体陰性者は、最初の曝露から 7 日目、最終の曝露から 13日目まで就業しないこととする。

接触 発症

6~9日 -3 -2 -1 1 2 3 4 5 6 7 潜伏期 8~12日 カタル期 発疹期 回復期 接触

3日 3日 6日後から 13日目まで 職員の就業停止 (患者の個室管理)

ウイルス排泄(感染)期間 発疹出現 3~4日前~発疹出現後 4日

発症者

の経過

接触者

の対応

ワクチン グロブリン (3日以内) (6日以内)

〈麻疹発症時の経過と接触者の対応

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3. 風疹 1) 診断 斑状の紅色丘疹、リンパ節腫脹(全身特に頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とするが、発疹が特異的ではなく、非流行時の診断は難しい。疫学的な情報(地域での流行)を考慮に入れ、臨床症状および経過により診断する。 確定診断には、急性期および回復期に得られたペア血清で風疹HI抗体価の測定を行う。

2008年 1月 1日から風疹は、全数報告の感染症となり、1週間以内に所轄の保健所に届け出ることが義務づけられた。

2) 疫学

① 感染経路は、鼻咽腔分泌物の飛沫感染である。 ② 25~40%は不顕性感染である。 ③ 潜伏期間は 14~23日、通常 16~18日。 ④ 感染期間は、発疹出現の 7日前~出現の 5日後まで(12日間)である。 ⑤ 再感染率は、自然感染による風疹抗体陽性者では 3~10%、風疹ワクチンによる抗体獲得者では 14~18%であり、妊婦は注意を要する。

⑥ 先天性風疹症候群:妊娠初期(胎生 4ヶ月以内)の母親の初感染で約 20%の胎児に白内障・緑内障、心奇形、感音性難聴等が起こる。

⑦ 先天性風疹症候群と診断された児は、生後 1年以上ウイルスを排泄する。生後 3ヶ月後の鼻咽頭と尿の培養が陰性でなければ、1歳までの入院時は隔離による予防策が必要となる。

⑧ 妊婦への接触やワクチン接種は厳禁である。

3) 感染予防対策 ① 疑われた時点で感染制御部感染対策室に連絡し、小児科または皮膚科を受診させる。

② 軽症例は退院させ、重症例(脳炎、原疾患)は個室管理とし、入室者は抗体獲得者に制限する。

③ 患者は、発疹出現後 5日まで隔離する。 ④ 標準予防策+飛沫感染予防策を実施する。

4) 2次感染予防の処置(各部署対応)

(1) 接触者リスト作成と抗体検査 ※ 接触者リストは、当該病棟の看護師長、病棟医長が協力し作成する。 ① リスト対象者と対象期間は、発疹出現の7日前から発症者と密接な接触や近くで会話をした入院患者と家族、退院患者と家族、医療従事者、学生、外注

職員などが対象者となる。 ② 接触者リストを作成し、氏名、属性、ID 番号、抗体価、既往歴とワクチン

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接種歴を確認し、抗体価が陽性である者以外に対して、抗体検査を迅速に行

う。 ③ 抗体検査は、青スピッツに 3ml 採血し、手書きラベル(部署名、職種、名前を明記)を貼付し、感染症検査室へ提出する。接触者リストは、感染制御部感染対策室へ提出する。

(2) 接触者の発症予防策 ① 既往歴がなく抗体陰性の接触者への、ワクチン緊急接種や免疫グロブリン投与による発症予防効果は確認されていない。

5) 接触者の対応

① 抗体陰性者は、最初の曝露日から 7日目~最後の曝露日から 21日目まで個室管理とする。

② 発症した職員は、発疹出現後 5日間は就業停止とする。 ③ 曝露した抗体陰性者は、最初の曝露日から 7日目~最後の曝露日から 21日目まで就業しないことが望ましい。

接触 発症 回復

7~14日 7日 3日 2日 潜伏期 14~23日 接触

7日 7日後~21日目まで

〈風疹発症時の経過と接触者の対応〉 ウイルス排泄(感染)期間

発疹出現の 7日前~出現の 5日後

発症者

の経過

接触者

の対応

発症予防策

は原則無効 職員の注意就業 (患者の個室管理)

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4. 流行性耳下腺炎 1) 診断 通常、唾液腺、主として耳下腺の有痛性腫脹をもって発症する。両側又は片側

の耳下腺が腫脹し、ものを噛むときに顎に痛みを訴えることが多い。唾液腺炎は

耳下腺両側が多いが、片側耳下腺は 25%、10~15%は顎下腺である。 一般検査では、血清、尿アミラーゼ上昇(リンパ節腫大との鑑別に有効)を認める。診断を確定する必要がある場合は採血し、血清中の抗ムンプスウイルス IgM抗体の上昇、または病初期と 2週間後とで比較した抗ムンプスウイルス IgG抗体の 4倍以上の上昇を証明する。 一側性の時は、他のウイルスによる耳下腺炎、リンパ節炎、化膿性耳下腺炎、

反復性耳下腺炎などの鑑別診断が重要である。

2) 疫学 ① 感染経路は、唾液の飛沫感染と接触感染である。 ② 潜伏期間は、16~18日、時に 12~25日。 ③ 感染期間は、通常発生 1、2日前~発生後 5日がピークで、発症(耳下腺腫脹)の約 7日前~9日後頃までウイルス排泄が認められる。

④ 合併症は、精巣-睾丸炎(成人の 20~30%例)、卵巣炎(成人の 5%例)、無菌性髄膜炎(3~10%例、予後良好)、脳炎(1/5、000例:予後不良)、難聴(1/400例:回復しない)、流産(妊娠早期感染例の 30%と多く、妊婦への接触やワクチン接種は厳禁である)。

⑤ 30~40%は不顕性感染で(2 歳未満は特に多い)、不顕性感染者からもウイルスの排泄がみられる。

⑥ 近年、流行性耳下腺炎の再感染が多いことが知られてきた。明らかな既往があるにもかかわらず、両側性の耳下腺腫脹が 5~7 日間程度持続する場合には再感染を疑う。この場合には急性期に EIA-IgM 陽性となる場合があるの

で注意が必要である。

3) 感染予防対策 ① 疑われた時点で感染制御部感染対策室に連絡し、小児科または皮膚科を受診させる。

② 軽症例は退院させ、重症例(脳炎、原疾患)は個室管理とし、入室者は抗体獲得者に制限する。

③ 患者は、発症後 9日間は隔離する。 ④ 標準予防策+飛沫感染予防策を実施する。

4) 2次感染予防の処置(各部署対応)

(1) 接触者リスト作成と抗体検査 ※ 接触者リストは、当該病棟の看護師長、病棟医長が協力し作成する。

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① リスト対象者と対象期間は、発症の 7日前から発症者と密接な接触や近くで会話をした入院患者と家族、退院患者と家族、医療従事者、学生、外注職員

などが対象者となる。 ② 接触者リストを作成し、氏名、属性、ID 番号、抗体価、既往歴とワクチン接種歴を確認し、抗体価が陽性である者以外に対して、抗体検査を迅速に行

う。 ③ 抗体検査は、青スピッツに 3ml 採血し、手書きラベル(部署名、職種、名前を明記)を貼付し、感染症検査室へ提出する。接触者リストは、感染制御部感染対策室へ提出する。

(2) 接触者の発症予防策 ① 既往歴がなく抗体陰性の接触者への、ワクチン緊急接種や免疫グロブリン投与による発症予防効果は確認されていない。

5) 接触者の対応

① 最初の曝露日か 11 日目~最後の曝露日から 21 日目までは、個室管理(または既感染者との同室)とする。

② 発症した職員は、発症後 9日間は就業停止とする。 ③ 曝露した職員で抗体陰性者は、最初の曝露日から 11 日目~最後の曝露日から 21日目まで就業制限が望ましい。

接触 発症 回復 7~18日 7日 9日 5日

潜伏期 16~18日 接触

7日 7日後~25日目まで

★ムンプスワクチン接種の有効性と副作用★ 接触後 72 時間以内の抗体陰性者で接種を希望する者には、ワクチンの接種も可能である。流行性耳下腺炎の場合、接触後のワクチン接種の効果は認め

られていない。 妊婦、免疫抑制患者は禁忌である。 女性の場合接種後 2ヶ月間は避妊を行う。 重篤な副作用として無菌性髄膜炎(1/12、000)、急性血小板減少性紫斑病(1/100万)、精巣炎(稀)などの副作用があることも充分説明する。

ウイルス排泄(感染)期間 耳下腺腫脹出現の 7日前~出現の 9日後

発症者

の経過

接触者

の対応発症予防策

は原則無効 職員の注意就業 (患者の個室管理)

〈流行性耳下腺炎発症時の経過と接触者の対応〉

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5. 伝染性紅斑(りんご病) 1) 診断 ヒトパルボウイルス B19 型の感染による急性発疹症でリンゴ病といわれる。頬部の紅斑(slapped-cheek)に始まり、ついで四肢伸側を中心に鮮紅色の紅斑が融合して網目状になる(レース状紅疹)発疹が特徴的であるので臨床症状で診断は可能である。 一般検査では、発疹の初期は末梢血で網状赤血球は減少がみられるが、その後に著

増する。 確定診断には、血清中の抗 B19抗体(IgMおよび IgG抗体)を測定する。または、血清中の B19 抗原あるいは DNA を直接または PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅して検出する。

2) 疫学

① 主に飛沫感染と推測されている。 ② 潜伏期間は、4~14日、長い場合は 21日。 ③ 顕性感染は小児では 70%以上であるが、成人では 30~40%である。 ④ 感染期間は、感染後 1週間。(紅斑の出た段階ではほとんど感染力はない)

3) 感染予防対策 標準予防策+飛沫感染予防策を取る。 発疹が出現した時はすでに感染力はほぼ消失しているので、特に隔離の必要は

ない。 4) 2次感染(感受性者に対する)予防の処置

① 溶血性貧血患者、妊婦が感染を受けたと考えられる時は、注意深い観察が必要である。

② 溶血性貧血患者への感染により感染 1 週後に造血障害発作(Aplastic crisis)を引き起こす可能性がある。Aplastic crisisではウイルス産生量が多く、病院感染の感染源となるので隔離が必要である。

③ 妊婦が初感染を受けた時、経胎盤感染により感染を受けた胎児は、流・死産に終わる場合、発育遅滞、非免疫性胎児水腫として出生する場合、自然治癒

する場合と様々である。中絶は勧められていない。胎児水腫の疑いの場合、

胎児の超音波断層検査とともに、母体の α-フェトプロテインの増加が良い指標となる。わが国の妊婦の抗体保有率は 20~40%である。

④ 免疫不全状態の患者が感染を受けた時、活動性持続感染となり持続性造血障害を呈する場合がある。

5) 職員の就業 発症した医療従事者も全身状態が良いものは就業して良い。

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6. インフルエンザ

1) 診断 咽頭拭い液、あるいはうがい液を検体としてウイルス分離を行う。しかし、ウイ

ルス分離は、結果判定まで時間がかかるため、臨床上は迅速診断キットによるウイ

ルス抗原の証明が有用である。迅速診断キットは、鼻の奥やのどを綿棒で擦って、

短時間で A型と B型のインフルエンザを鑑別して診断することができる。インフルエンザ発症直後の病初期では、気道粘膜のウイルス量がまだ少なく、迅速検査陰性

となる場合もある。発熱、咳嗽、鼻閉、倦怠感、悪寒などの臨床症状と合わせて診

断することが重要である。 2) 疫学

① 発熱(通常 38℃以上の高熱)、頭痛、全身の倦怠感、筋関痛などが突然現われ、咳・鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約 1週間の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いのが

特徴である。 ② 高齢者、年齢を問わず呼吸器・循環器・腎臓に慢性疾患を有する患者、糖尿病などの代謝疾患・免疫機能が低下している患者は、インフルエンザのハイ

リスクグループであり、当院に入院中の患者はほとんどハイリスクグループ

と考えられる。 ③ 小児ではライ症候群およびインフルエンザ脳炎・脳症に厳重な注意が必要である。

④ 潜伏期間は、1~4日(平均 2日)である。 ⑤ 感染期間は、インフルエンザを発症(症状出現)する1日前から発症後 5~7日頃までで、特に発症してから最初の 3日間ほどが最も感染力が高いと考えられる。

⑥ 感染経路は、主には飛沫感染である。発症者の咳やくしゃみに含まれたウイルスによる接触感染もある。

3) 抗インフルエン薬について 内服薬のオセルタミビル(タミフル®)と吸入薬のザナミビル(リレンザ®)が 10 年ほど前から使われてきたが、2010年に点滴静注薬のペラミビル(ラピアクタ®)と、吸入薬のラニナミビル(イナビル®)が新たに承認された。 ペラミビルとラニナミビルは、単回の使用のみで治療効果を示すという特徴がある。 抗インフルエンザウイルス薬の服用を適切な時期(発症から 48 時間以内)に開始すると、発熱期間は通常 1~2日間短縮され、ウイルス排出量も減少する。なお、症状が出てから 2 日(48 時間)以降に服用を開始した場合、十分な効果は期待できない。効果的な使用のためには用法、用量、期間を守ることが重要である。

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わが国で用いられる抗インフルエンザ薬

一般名 アマンタジン

塩酸塩 オセルタミビ

ルリン酸塩 ザナミビル水

和物 ペラミビル水

和物

ラニナミビル

オクタン酸エ

ステル水和物

商品名 シンメトレル○R

など タミフル○R リレンザ○R ラピアクタ○R イナビル○R

投与法 内服 内服 吸入 点滴静注 吸入 有効なウ

イルス型 A型のみ A型&B型 A型&B型 A型&B型 A型&B型

治療投与

期間 5日間 5日間 5日間

単回投与。 重症には反復

も可。 単回投与

副作用な

ど注意事

自殺企図、てん

かん誘発、異常

行動・言動、腎

障害患者への

注意。妊婦、透

析患者への投

与禁忌。耐性ウ

イルス誘導の

頻度が高い。

因果関係は不

明であるが、

本薬剤投与に

よる小児での

異常行動・言

動発現への注

意により、

2007年3月以降 10 歳代の者への投与は

原則的に差し

控え。腎障害

患者への注

意。

小児での異常

行動・言動へ

の注意。気管

支攣縮への注

意。

小児での異常

行動・言動へ

の注意。腎障

害患者への注

意。

小児での異常

行動・言動へ

の注意。気管

支攣縮への注

意。

4) インフルエンザ持ち込み対策

(1) 入院時に患者、家族に以下の症状を確認する。患者、および家族にインフルエンザを疑う症状がある場合には、病状が許す限り入院の延期をお願いする。

発熱、咳、鼻汁、寒気、喉の痛み、関節痛、全身倦怠感 入院の延期期間の目安→解熱剤を使用せず解熱後 1週間程度

(2) 患者が外泊する前に、家族に以下の症状がないことを確認する。家族にインフルエンザを疑う症状がある場合には外泊を中止する。流行時期(3 月末頃まで)は、無用な外泊を控える。

発熱、咳、鼻汁、寒気、喉の痛み、関節痛、全身倦怠感

(3) 患者が外泊する時に、以下の症状がある場合は、帰院前に病院へ連絡するよう説明する。流行時期(12月~3月)には、下記の用紙を渡す。患者が外泊から帰院

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時には、患者、家族に以下の症状を確認する。患者にインフルエンザを疑う症

状がある場合には、病状が許す限り外泊の延長をお願いする。 発熱、咳、鼻汁、寒気、喉の痛み、関節痛、全身倦怠感

外泊の延長期間の目安→解熱剤を使用せず解熱後 2日 家族にのみインフルエンザを疑う症状がある場合は、帰院は可能である。その

場合、潜伏期間中は可能な限り隔離とし、症状の観察を行う。 (4) 患者の家族、面会者にインフルエンザを疑う症状がある場合は、患者への面会は、控えていただく。

(5) 職員がインフルエンザを疑う症状がある場合は、出勤前に所属の上司に連絡する。

(6) 職員の家族にインフルエンザを疑う症状がある場合は、手指衛生、咳エチケットを確実に行い、勤務にあたる。何らかの症状がある場合には、最寄りの医療

機関を受診する。

(7) 養護が必要な家族(小学生以下の子供、日常生活に介護が必要な家族)がインフルエンザを発症した場合は、抗インフルエンザ薬の曝露後予防内服ができるシ

ステムがある。予防内服の費用は病院負担であるが、副作用については自己責

任となる。 手続きの用紙は、院内情報 WEB→「掲示板」→「感染対策室」の投稿日2013/02/27の「養護が必要な家族がインフルエンザを発症した場合における抗

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インフルエンザ薬の曝露後予防内服について」を参照する。「家族がインフル

エンザを発症した場合の曝露後予防内服」を印刷し、必要事項を記載のうえ、

薬剤部(時間内:3064、時間外:5888)に電話連絡し、自己で薬剤部まで取りに行く。

5) 感染予防対策

① 標準予防策+飛沫感染予防策を実施する。 ② 疑われた時点で迅速診断キットを使用する。迅速診断で陰性の場合は、臨床症状から総合的に判断する。

③ 入院患者の場合は、疑い例も含めて感染制御部感染対策室に連絡する。 ④ 軽症例は外泊、あるいは一時退院させる。治療の都合上、あるいは重症例で継続入院が必要な場合は、個室管理とする。個室管理が困難な場合は、複数

患者を一室にまとめて収容(コホーティング)し、ケアの担当職員も限定しておく。 コホーティングの場合は、清潔衛生行動がとれる患者はサージカルマスクを

着用して共有のトイレを使用することは可能である。 ⑤ 患者は、解熱後 3日間は隔離する。隔離中の検査などへの移動は、やむを得ない場合のみとする。 ※小児の隔離期間は、学校保健安全法に基づく。「発症した後 5日を経過し、かつ、解熱した後 2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」とする。

⑥ 発症者と同室患者の病室移動や転棟は、潜伏期間中(最低 3 日間)は、禁止とする。

6) 2次感染予防の処置(各部署対応)

(1) 接触者リスト作成と予防内服について ※ 接触者リストは、当該病棟の看護師長、病棟医長が協力し作成する。 ① リスト対象者と対象期間は、症状出現の 1日前から発症者とサージカルマスクの着用なしで密接な接触や近くで会話をした入院患者(発症者との同室者を含む)と家族、退院患者と家族、医療従事者、学生、外注職員などが対象者となる。 発症者の症状出現の 1日前からの他科受診や検査出棟などの歴を確認し、関連部署に情報提供と注意喚起を行う。濃厚接触者をリストアップする。

② 同室患者など濃厚に接触した患者へは、患者のリスクなどを考慮し、患者の同意を得て、主治医の判断で予防内服を行う。患者カルテで処方し、病棟ク

ラークにインフルエンザ予防内服の旨を伝える。(インフルエンザの予防内服の費用は、病院負担となる。)

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③ 患者家族は、病院側が付き添いをお願いした場合にのみ、予防内服の対象となる。インフルエンザ予防内服の費用は病院負担であるが、副作用について

は自己責任となる旨を説明し、家族の同意が得られた場合に予防内服を開始

する。 時間内→感染制御部感染対策室に連絡する。 時間外→薬剤部に連絡し、感染対策室保管用の予防薬を受け取る。

翌日の時間内に感染制御部感染対策室に連絡する。 ④ 医療従事者、学生、外注職員の濃厚接触者に関しては、予防内服の有無については自己決定する。インフルエンザ予防内服の費用は病院負担であるが、

副作用については自己責任となる。 時間内→感染制御部感染対策室に連絡する。 時間外→薬剤部に連絡し、感染対策室保管用の予防薬を受け取る。

翌日の時間内に感染制御部感染対策室に連絡する。 ⑤ 同一病棟で、初発患者発症から 3日以内に 3名以上の発症があり、院内での伝播が疑われる場合は、積極的予防内服、入院制限などの措置を検討する。

7) 職員の就業制限 インフルエンザに罹患した職員は、解熱剤を使用せずに解熱後 2日間は就業停止とする。

★予防内服について★ 第一選択は、タミフル○Rカプセル 75(成人:1日 1回 7日間) 状況に応じてリレンザ○R(成人:1日 1回吸入 7~10日間)

※小児の場合は、タミフル○Rカプセル 75、リレンザ○Rの添付資料を参照。 体重 37.5kg以上の小児→タミフル○Rカプセル 75を 1日 1回、10日間幼小児でタミフル○Rドライシロップ 3%使用の場合→1 回 2mg/kg(ドライシロップ剤として 66.7mg/kg)を 1日 1回 10日間、ただし、1回最高用量はオセルタミビルとして 75 mg リレンザ○Rに関しては、小児の場合は、本剤を適切に吸入投与できると

判断された場合にのみ投与すること。低出生体重児、新生児、乳児又は

4歳以下の幼児に対する安全性は確立していない。

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7. ノロウイルス

1) 診断 ノロウイルスは培養が困難である。従来は電子顕微鏡下で糞便中のウイルス粒子を

直接検出していたが、現在では RT-PCR法、リアルタイム PCR法などのウイルス遺伝子検査や EIA法やイムノクロマト法のウイルス抗原検査が用いられている。 遺伝子検査は高感度で特異性が高く、糞便、嘔嘔吐物、食品中のノロウイルス検出

に用いられている。一方、抗原検査は遺伝子検査に比べて約 70%の感度であるが、擬陽性が少なく、体外診断薬としてノロウイルスによる感染性胃腸炎の診断の補助に

用いられる。当院では、ノロウイルスの簡易検査(イムノクロマト法のウイルス抗原検査)を用いている。

2) 疫学

① 潜伏期間は、1~2日で、感染経路は食中毒に加えて接触感染、糞口感染である。このため手指衛生が基本となるが、嘔吐物や糞便からの感染性粒子のエ

アゾル(バイオエアゾル)を介して伝播するという報告もある。 ② 原因は、ノロウイルス(小型球形ウイルス:SRSV)の感染で、ノロウイルスがヒトの小腸で増殖して引き起こされる急性胃腸炎である。感染力が強く、

100個以下という少量で感染し、腸管内でウイルスが増える。糞便や嘔嘔吐物には 1グラムあたり 100万から 10億個もの大量のウイルスが含まれている。

③ ノロウイルスは、アルコールに抵抗性を示すため、感染対策には注意が必要である。ノロウイルスは、症状が消失した後も 7 日間~28 日間ほど便中に排出されるため、2次感染に注意が必要である。

④ 乳児から成人まで感染するが、一般に症状は軽症であり、治療を必要とせずに軽快する。まれに重症化する例もあり、老人や免疫力の低下した乳児では

死亡例も報告されている。 ⑤ 嘔気、嘔吐、下痢が主症状であるが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛などを伴うこともある。

3) 外来で下痢・嘔吐の症状のある患者への対応 対応の基本は、接触感染予防策である。 《予防策》 ① 問診上、ノロウイルス胃腸炎の可能性が高い場合は、患者を一般患者から離れた場所で待機させ優先診療を行う。

② 患者に接触する場合は、手袋、エプロン、サージカルマスクを着用する。 ③ 診療の前後には必ず石けんと流水で手指衛生を行う。 ④ 患者から離れる場合は防護具を外し、感性性医療廃棄物として処理する。 ⑤ 患者に石けんと流水での手指衛生について指導し、できることを確認する。

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《トイレの使用》 ① 患者が使用したトイレの便座やドアノブは、使用毎に 0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭し、10分後水拭きする。

② 患者に、排泄後の石けんと流水での手指衛生の徹底を指導する。

《嘔吐物や排泄物による汚染の処理》 ① 嘔吐物や排泄物の処理をする場合は、サージカルマスク(状況に応じて N95微粒子マスク)、手袋、長袖のエプロンを着用する。

② 嘔吐物や排泄物は、0.1%次亜塩素酸ナトリウムに浸したペーパータオルで拭き取る。拭き取るときは、外側から中心に向かって拭き取る。

③ 除去後、広範囲(汚染部を中心に半径 2メートル程度)に、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒する。10分後水拭きする。

④ 嘔吐物や排泄物の拭き取りに使用した物品は、ビニール袋に密閉して感染性医療廃棄物として処理する。

⑤ 喚起を行う。 ⑥ 嘔吐物や排泄物による汚染の処理後は、石けんと流水で手指衛生を行う。

《診察終了後》

① 診察台のディスポシーツを交換する。 ② 環境消毒には、0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒し、10分後水拭きする。

③ ノロウイルスの潜伏期間は 24~48 時間であるので、接触者の症状出現に注意する。

4) ノロウイルス持ち込み対策

(1) 入院時に患者、家族に以下の症状を確認する。患者、および家族に感染性胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合には、病状が許す限り入院の延期をお願いする。

下痢、嘔吐、腹痛、発熱(微熱) 入院の延期期間の目安→発症後 1週間程度

(2) 患者が外泊する前に、家族に以下の症状がないことを確認する。家族に感染性胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合には、病状が許す限り外泊を中止する。流行時期(2月末頃まで)は、無用な外泊を控える。

下痢、嘔吐、腹痛、発熱(微熱)

(3) 患者が外泊する時に、以下の症状がある場合は、帰院前に病院へ連絡するよう説明する。患者が外泊から帰院時には、以下の症状を確認する。患者に感染性

胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合には、外泊の延長をお願いする。 下痢、嘔吐、腹痛、発熱(微熱)

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外泊の延長期間の目安→下痢、嘔吐が改善するまで

家族にのみ感染性胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合は、帰院は可能である。その場合、潜伏期間中は可能な限り隔離とし、症状の観察を行う。

(4) 患者の家族、面会者に感染性胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合は、患者への面会は、控えていただく。

(5) 職員が感染性胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合は、出勤前に所属の上司に連絡する。

(6) 職員の家族に感染性胃腸炎(ノロウイルス)を疑う症状がある場合は、手指衛生を確実に行い、勤務にあたる。何らかの症状がある場合には、最寄りの医療機

関を受診する。

5) 入院患者で下痢・嘔吐のある患者への対応 対応の基本は、接触感染予防策である。

《病室管理》

① 軽症例は退院、あるいは症状が消失するまで外泊させる。重症例は、個室に隔離する。

② トイレ付きが望ましいが、無理な場合はポータブルトイレを使用し、他の患者とトイレで交差のないようにする。

《予防策》

① 患者に接触する場合は、手袋、エプロン、サージカルマスクを着用する。 ② 診療の前後には必ず石けんと流水で手指衛生を行う。 ③ 患者から離れる場合は防護具を外し、感性性医療廃棄物として処理する。 ④ 経口感染するので、食事前には必ず石けんと流水で手指衛生を行う。 ⑤ 食事や経管栄養を扱う場合にも石けんと流水で手指衛生を行う。 ⑥ 患者に石けんと流水での手指衛生について指導し、できることを確認する。

《トイレの使用》 ① 共用トイレを使用した場合は、トイレの便座や蓋、水洗レバー、ドアノブを

0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。 ② 患者に、排泄後の石けんと流水での手指衛生の徹底を指導する。 ③ ポータブルトイレを使用した場合、ポータブルトイレのバケツは、使用毎にベッドパンウオッシャで処理する。ポータブルトイレ本体は、0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒を行う。

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香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 25 年 12 月 1 日

《嘔吐物や排泄物による汚染の処理》 ① 嘔吐物や排泄物の処理をする場合は、サージカルマスク(状況に応じて N95微粒子マスク)、手袋、長袖のエプロンを着用する。

② 嘔吐物や排泄物は、0.1%次亜塩素酸ナトリウムに浸したペーパータオルで拭き取る。拭き取るときは、外側から中心に向かって拭き取る。

③ 除去後、広範囲(汚染部を中心に半径 2メートル程度)に、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒する。10分後水拭きする。

④ 嘔吐物や排泄物の拭き取りに使用した物品は、ビニール袋に密閉して感染性医療廃棄物として処理する。

⑤ 喚起を行う。 ⑥ 嘔吐物や排泄物による汚染の処理後は、石けんと流水で手指衛生を行う。

《患者周囲環境》

① 環境整備には、0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムにて清拭消毒を行う。患者の手指が高頻度に接触する箇所やトイレ・洗面所の環境整備を入念に行

う。 《リネン類》

① 感染性リネンとして扱う。 《器材類、食器類》

① 通常と同様に扱う。 《退院時》

① 0.02%~0.05%次亜塩素酸ナトリウムにて高頻度接触表面の清拭消毒を行う。金属の物は腐食するため、後の水拭きが必要である。

② カーテンを交換する。 ③ 退院時の環境清掃が終了した病室は、十分に換気を行った後に使用する。

★嘔吐物や排泄物の拭き取り方★

汚染を広げないよう外側か

ら中心(嘔吐物に向かって)に向かって拭き取る。

汚染部を中心に半径2メートル程度を0.1%次亜塩素酸ナトリウムに浸したペーパーな

どで湿布する。

シューズの裏も、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで消

毒する。(シューズカバーを使用していない場合)

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6) 2次感染予防、接触者の対応(各部署対応) ① 入院患者に排泄後、食事の前の石けんと流水での手指衛生について指導する。 ② 発症前日から発症者または発症者の触れた物品に触れた者に対して、症状の観察を行い、有症状者の早期発見に努める。疑う場合には、ノロウイルスの

簡易検査を依頼する。 ③ 発症者の発症前日からの他科受診や検査出棟などの歴を確認し、関連部署に情報提供と注意喚起を行う。

④ 同一病棟で、初発患者発症から 3日以内に 3名以上の発症があり、院内での接触感染が疑われる場合は、入院制限などの措置を検討する。

7) 職員の就業制限 ノロウイルスに罹患した職員は、嘔吐、下痢症状が改善するまで就業停止とする。

発症後 1週間~4週間はウイルスが継続的に排出されるので、この期間は石けんと流水による手指衛生を厳重に行う。

8) 院内で複数患者に下痢症状が発生した場合 下痢を呈する患者が集団発生した場合、病院感染なのか食中毒なのかを判断する

必要がある。感染制御部感染対策室にコンサルトする。

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8. 流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis :EKC) 1) 診断 2008年まで、アデノウイルスには 51種類の血清型があり、これらは A~Fの 6種に分類されていた.その後、52~56 型が新たに報告されて血清型は 56 種類となり、52型が G種とされたため種も A~Gの7種となった。 流行性角結膜炎は、主にアデノウイルス D群 8・19・37型による疾患である。アデノウイルスは種々の物理学的条件に抵抗性が強いため、その感染力は強い。 適切な治療がなされない場合、数か月以上にわたり角膜上皮下混濁がおこり著し

く QOLを低下させる恐れがある。適切な診断ができれば、ステロイド点眼液でこのような事態を回避できるとされる。 診断には、免疫クロマトキットによる迅速診断方法が用いられ、陽性率は約 70%である。

2) 疫学 ① 潜伏期間は、7~14日である。 ② 感染期間は、発症の 3日前から治癒までの約 2週間で、感染力が非常に強い。 ③ 感染経路は、涙液・眼脂で汚染された手指、タオル類や器具(眼圧計等)を介する接触感染である。

④ 症状は、眼の異物感、流涙・眼脂で急に発症する。数日後に眼瞼結膜が腫脹・充血し、重症化し他眼にも波及する。7 日目頃から(抗体ができ)改善傾向を示す。10 日目頃に眼の強い異物感が加わり、約 2 週間で治癒する。耳前部リンパ節の腫脹・疼痛を高頻度に伴う。重症例では、増加した眼脂で眼瞼と

角膜が癒着し、角膜上皮が剥離し激痛を示す。 ④ 治療は、抗菌薬点眼(細菌感染予防)、非ステロイド系消炎薬点眼、ステロイド点眼(重症例)。

⑤ 夏期に多発する傾向があるが、発症は一年を通してみられる。

3) 感染予防対策 (1) 外来でのトリアージ(優先的診察)体制 ① 外来問診で眼瞼浮腫、充血や眼脂が強い場合、まず眼科医が診察し、視力測定・眼圧測定等がある場合は、後に回す。

② 診察後は、診察に使用した器材を 80%エタノールあるいは、消毒用アルコールで二度拭きする。診察室、待合室の環境整備を 80%エタノールで行う。

その他のウイルス性結膜炎 アデノウイルスのほかに、エンテロウイルス 70やコクサキーA24変異株による急性出血性結膜炎がある。アデノウイルスと比べ潜伏期が 12~24時間と短く、結膜の出血が特徴的であるが、結膜炎症状の持続期間は 3~5日間と短い。

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香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 25 年 12 月 1 日

(2) 入院患者が流行性角結膜炎を発症(疑いも含む)した場合の対応 ① 発症が疑われた時点で眼科を受診させ、感染制御部感染対策室に連絡する。 ② 診断例は、一時退院、あるいは外泊とする。原疾患重症例では、個室管理し接触感染予防対策を行う。

③ 眼科医の治癒診断後に個室管理を解除する。

(3) 接触感染予防対策 発症者対策 ① 可能であれば外泊あるいは一時的な退院を勧告する。無理な場合は、個室管理とする。

② 眼分泌物(涙液・眼脂・余分な点眼液)は直接手で触らず、ティッシュペーパー等で除去してすぐに廃棄させる。

③ 眼分泌物に触れた後や眼に触れる前の手指衛生を徹底させる。 ④ 洗面器・タオル・点眼薬等を共有せず、入浴も最後にする。

入室者対策 ① 入室前後の手指衛生を励行する。 ② 発症者の処置時は手袋を着用し、患者毎に交換する。手袋交換前後も手指衛生を行う。

③ 環境整備で手がよく触れるドアノブ等の表面は 80%エタノールで清拭消毒する。

EKC感染予防策における環境整備 対象 消毒液と消毒方法

環境 消毒用エタノールによる清拭消毒 0.1%次亜塩素酸ナトリウムによる清拭消毒

鋼製小物 (開瞼器など)

予備洗浄→酵素剤への浸漬→中央洗浄滅菌室での洗浄・滅菌 ウォッシャーディスインフェクターによる 80℃~93℃・3~10分間の熱水消毒

接眼レンズ(ミラー類)、圧平眼圧計(アプラネーショントノメ

ーター)のチップ

0.05%次亜塩素酸ナトリウムによる 5~10分間浸漬 3w/v%過酸化水素水(オキシドール®)による 10分間浸漬

手指 流水と石けんによる手洗いとアルコールベースの速乾性擦式

手指消毒薬の併用が望ましい ※高水準消毒薬は消毒後圧平眼圧計(アプラネーショントノメーターのチップ)の表面に残留した場合、角膜傷害性が懸念されるためたとえ製造元のあるいは販売元の資料に消毒方法として記載されていたとしてもその使用は勧められない。 ※使い捨てのアプラネーショントノメーターのチップは耐用性の観点から再生処理による使用は勧められない。 ※参考資料:ゴールドマンアプラネーショントノメーター用メジャリングプリズムの取扱いについて

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4) 2次感染予防、接触者の対応(各部署対応) ① 発症の 3日前から発症者または発症者の触れた物品に触れた者に対して、症状の観察を行い、疑う場合には、眼科を受診する。

② 潜伏期間に 7~14日と幅があり、発症の 3日前から無症候性にウイルスを伝播する可能性があり、接触後 14 日間は、顔面、特に眼を触らないように注意し、手指衛生を徹底させる。

③ 発症者の発症 3日前からの他科受診や検査出棟などの歴を確認し、関連部署に情報提供と注意喚起を行う。

④ 同一病棟で、初発患者発症から 3日以内に 3名以上の発症があり、院内での接触感染が疑われる場合は、入院制限などの処置を検討する。

5) 職員の就業 発症した医療従事者は、発症後 2週間は就業停止期間である。就業停止期間に関しては、眼科医師の診断により 10日前後から 2週間の幅がある。