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群馬大学生体調節研究所細胞構造分野原田彰宏
細胞の未知の遺伝子を発見するため
のウイルスの開発と応用
2008年11月6日新技術説明会
(これまでの歴史)培養細胞に変異を生じさせた後、異常な表現型を持つ細胞から原因遺伝子を同定するという方法によって、数々の重要な遺伝子が同定されてきた。しかしその手法は、細胞を化学物質処理して点突然変異を導入した後に、薬剤スクリーニングによって異常な形質をもつ細胞を同定し、その細胞に多種のcDNAを導入して形質を復帰させることで原因遺
伝子を同定するというのが主であった。この手法だと、原因遺伝子を同定するのは多大な労力と時間を必要とし、通常の研究室で行うには困難であった。
そこで申請者はレトロウイルスベクターを用いたgene trap法のシステムを開発し、PC12細胞においてその応用に成功した。
細胞の未知の遺伝子を発見するためウイルスの開発と応用
【目的】神経細胞内で極性の形成や維持に関与している分子では、現段階では未知のものも多く、新たにそれらの分子を同定する.
【方法】培養細胞(PC12)を用いて遺伝子トラップ法(gene trap)を行う.
PC12:1975年にclone化されたratの褐色細胞腫由来で神経の研究ではよく使用される神経伝達物質の分泌機構としては大きい膜の袋(小胞)(LDCV)と小さい小胞(SSV)よりドーパミン、アセチルコリンを各々合成・貯蔵し、カルシウム依存性に放出する
(例)神経の極性に関わる新規遺伝子の同定
方法
1.ウイルスの受容体を細胞に導入しウイルス感染が可能な細胞株を作製
2.遺伝子トラップ用DNA(gene trap vector)をレトロウイルスによって感染させ、抗生物質(neomycin)にて選別する
3.さらに他の薬剤で選別する.β-ガラクトシダーゼ染色で染色し、これらの薬剤に耐性な株を選択
4.表現型として小胞の分布異常、小胞数、突起伸長の有無、突起の形態等に変化がある細胞を選択
5.これらの細胞にCreレコンビナーゼ を添加して遺伝子トラップ用DNAを除去し、表現型が元に戻るか、確認→β-gal染色で青染しなくなり、G418感受性となる
6.これらの細胞株に対して5’RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)やinverse PCRを行い、遺伝子発現に異常を来す遺伝子を同定する
7.得られた遺伝子に対する解析を行う
PC12 107cell/dish
Neomycin → 1/10 106cell/dish
Puromycin → 1/100 104cell/dish
Aerolysin → 1/1000 10cell/dish
→目的とする変異株
スクリーニングのイメージ
SA IRES β-geopAPuro PGK pA
Exon1 Exon2 Exon3
SA IRES β-geopAPuro PGK pAExon1 Exon2 Exon3
pASA IRES PuroExon1 AAAA pAβ-geo AAAApA
Exon1 Exon2 Exon3
Exon1 Exon2 Exon3
遺伝子トラップベクター
ゲノム DNA
トラップされた遺伝子
トラップ後のmRNA→発現無し
ゲノム DNA
mRNA
イントロンへの挿入
遺伝子トラップベクターとトラップ後の遺伝子産物
遺伝子トラップ用ウイルスの作製
gag pol envgag pol env
5’LTR 導入遺伝子 3’LTR
5’LTR 導入遺伝子 3’LTR
ψ
遺伝子トラップ用ベクター
出芽
ウイルス粒子
空のウイルス粒子を産生する細胞
遺伝子導入
gag:構造タンパク質env:外被タンパク質pol:ポリメラーゼΨ:packaging signal
gag
pol
env
【スクリーニング結果】
(2)表現型が元に戻ったクローン数
20薬剤耐性のコロニー数
38薬剤感受性を調べたコロニー数
52拾った細胞のコロニー数
<X-gal染色>導入前 導入後
Creレコンビナーゼ導入前と後
青染細胞が減少し、ゲノムに挿入されたウイルスが無くなった
クロモグラニン(大きな小胞のマーカー)抗体で染色した細胞
シナプトフィシン(小さい小胞のマーカー)抗体で染色した細胞
<薬剤感受性> 0 1.0 1.2nM
ウイルスを抜いた細胞
ウイルスを導入した細胞
ウイルス導入前 導入後 ウイルス除去後 の細胞
方法
1.virus receptorをtransfectionしvirus感染が可能となる株を作製.
2.loxP-SA-IRES-Puro-polyA-PGK-βgeo-polyA-loxP配列をretrovirusによって感染させ、neomycinにて選別する.virus感染細胞は生存.
3.さらに2種類の薬剤(AL・ConA)にて選別する.β-galacsitodase染色で青染し、ALやConAに耐性な株を選択.
4.また表現型としてtransporterやvesicleの分布異常・有無、突起伸長の有無・突起の形態等に変化がある細胞を選択.
5.これらの細胞にcre recombinase を添加してrevertant(復帰細胞)となるか確認.→β-gal染色で青染しなくなり、G418感受性となる.
6.これまでにscreeningされた株に対して5’RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)やinverse PCRを行いtrapされた遺伝子をcloningする
7.得られた遺伝子に対する解析
5’RACE法の原理
AAAA5’
AAAA5’
3’CCCC
3’CCCCGGGG
CCCCGGGG
mRNAの配列の一部がわかっている時に、5’上流の未知領域をcloning
するための方法.
未知領域 既知配列
GSP1
未知の5’上流を含む産物が増幅される
dGポリマーのついたアダプタープライマーとGSP2でPCRを行う
GSP2
cDNAの3’末端にアンカー配列(dCポリマー)を付加する(TdT)
RNA分解
逆転写反応
遺伝子特異的配列をmRNAにアニーリング
CCCCGGGG
nested GSP アンカープライマーとnested GSPでPCRを行う
5’RACEにより未知配列が得られ始めた.
Inverse PCR法にても同様に未知領域の確認を進める.
【現在の状況】
適当な制限酵素でgenome DNAを処理し、self ligationして環状化する.
既知配列両端に逆向きにデザインしたprimerでPCRを行い未知領域を増幅する.
増幅した配列をcloning vectorにligationして、塩基配列を得る.
今後の予定
取得したクローンがCre recombinase でrevertant(復帰細胞)となるか確認すると共に、5’RACEを行いtrapされた遺伝子を
cloningする.また、inverse PCR法でも未知領域をcloningする
得られた遺伝子に対しては
・組織分布をnorthern blotで調べる・抗体を作製しwestern blot、immunofluorescenceで組織や細胞内分布を調べる
・発現量に関して、変異株で低下し、revertantで親株レベルに戻るか調べる(northern, westhern)
・最終的には、線虫やマウスで欠失個体を作製して個体での機能を観察する
応用の可能性
・他のどのような細胞にも応用可能である。
・ウイルスの挿入による表現型か否か、すぐに確認できる
・遺伝子を同定する時間とコストを節約できる
GPI anchor:
Glycosylphosphatidylinositol anchorはフォスファチジルイノシトールにグルコサミン,マンノース,エタノールアミンリン酸が結合した糖脂質の一種である.細胞表面に発現されるタンパク質の修飾に用いられる.GPI anchor型蛋白は真核生物に広く存在、基本構造も保存されている.GPI anchorの特性としてmicrodomainあるいはraftに集積し、特有のタンパク質輸送やシグナル伝達に関係している.
Raft
リン脂質
スフィンゴミエリン
コレステロール
スフィンゴ糖脂質
GPIアンカー蛋白
脂質修飾蛋白
膜貫通蛋白
GPIアンカー生合成経路
GPIアンカー型タンパク質には生体防御や細胞間の情報伝達に重要な役割を果たしているものが含まれる.またウィルスや毒素の受容体として機能しているものも知られている.GPIアンカーは,小胞体において約10段階の酵素反応を経て合成され、完成したGPIアンカー型タンパク質は,小胞体からゴルジ体を経由して細胞表面へ運ばれる.
GPIアンカー型タンパク質の輸送経路
raftは細胞表面において特有のシグナル伝達の場として、また固有のタンパク質輸送の場としてとして近年注目されている.GPIによる修飾はタンパク質の局在・ソーティングシグナルとしての機能を持つと考えられる.本来apicalへの輸送を担っており、basilateralへ輸送されるべきタンパク質を結合させるとこのタンパク質はapicalへ輸送される.
本技術に関する知的財産権
<特許の取り扱い等>群馬大学 研究・知的財産戦略本部 群馬大学TLO
TLO長 大澤 隆男
TEL 0277-30 -1171
FAX 0277-30 -1178E-mail rip-admin@eng.gunma-u.ac.jp
お問い合わせ先
•発明の名称:レトロウイルス産生用ベクター
•出願番号 :特願2007-075377
•出願人 :群馬大学
•発明者 :原田彰宏、佐藤隆史、村松一洋、
橋本由紀子、植村武文