17
55 【6】諸外国の動向 エイズ (UNAIDS) 19(2007) 3,320 し、 1 250 210 されている。 域により異 っているが、 に感 拡大を し、 み一 げてきた 多い。一 あり、他 について がつかみにくく、 データだけ てる ある。 こうした から 、他 びそれぞれ めてきた対 し、 していく がある。 に、 におけ が多い が活 する いアジア について うこ ある。 している。 諸外国のHIV感染者及びエイズ患者について(概要) 各国における主要な感染経路は、国によって異なるが、性的接触(同性間及 び異性間性的接触)、あるいは薬物使用時の注射器共用(以下「薬物静注」と いう。)等である。 英国では異性間性的接触による感染が多くを占めている。 ドイツやオーストラリアでは男性同性間性的接触による感染が増加して いる。 アメリカ合衆国ではアフリカ系アメリカ人などでの感染が拡大している。 東アジアの近隣諸国及び地域のうち、中国・台湾・香港・韓国等で近年感 染報告が急増している。 タイでは、国を挙げた感染予防及び医療提供の取組みにより、患者及び死 亡者が大きく減少している。

【6】諸外国の動向 国際連合エイズ合同計 …...55 【6】諸外国の動向 国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)の推計では、平成19(2007)年末時点で、

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55

【6】諸外国の動向 国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)の推計では、平成 19(2007)年末時点で、世界には 3,320 万人の陽性者が生存し、同年 1年間の新規感染は 250 万人、死亡者数は 210 万人と推定されている。 海外のの発生動向は国・地域により異なっているが、既に感染の拡大を経験し、対策に取り組み一定の成果を挙げてきた国も多い。一方、日本では、現在の顕著な感染経路が同性間性的接触(男性)であり、他の感染経路の動向については明確な傾向がつかみにくく、国内のデータだけでは、今後の予測を立てるのが困難な面もある。 こうした観点からも、他国の状況及びそれぞれの国が進めてきた対策を十分分析

し、我が国及び東京の将来の動向を注視していく必要がある。特に、現段階における発生動向に我が国との共通点が多い先進国、人的交流が活発化するなど我が国との関係が深いアジア諸国について分析を行うことが重要である。

※国名・地域名は通称名を使用している。

諸外国のHIV感染者及びエイズ患者について(概要)

各国における主要な感染経路は、国によって異なるが、性的接触(同性間及

び異性間性的接触)、あるいは薬物使用時の注射器共用(以下「薬物静注」と

いう。)等である。

① 英国では異性間性的接触による感染が多くを占めている。

② ドイツやオーストラリアでは男性同性間性的接触による感染が増加して

いる。

③ アメリカ合衆国ではアフリカ系アメリカ人などでの感染が拡大している。

④ 東アジアの近隣諸国及び地域のうち、中国・台湾・香港・韓国等で近年感

染報告が急増している。

⑤ タイでは、国を挙げた感染予防及び医療提供の取組みにより、患者及び死

亡者が大きく減少している。

56

図42 世界のHIV陽性者(成人・子ども)推計総数(平成 19(2007)年末現在) 出典:2007 AIDS EPIDEMIC UPDATE (UNAIDS)

世界の陽性者数は、平成 19(2007)年現在、推定 3,320万人で、その 68%がサハラ以南のアフリカが占めている。 世界の多くの地域で男性同性愛者、注射による薬物使用者、セックスワーカーとその相手等、リスクの

高い集団に流行が拡大している。一方、サハラ以南アフリカでは一般人口へ感染が拡大しており、感染者の大半は女性(61%)であることが特徴である。

57

図43 先進諸国における人口 100 万人当たりのHIV感染者及びエイズ患者報告数

0

20

40

60

80

100

120

140

160

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

英  国

ドイツ

フランス

イタリア

日  本

カナダ

オーストラリア

0

20

40

60

80

100

120

1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

英 国

ドイツ

フランス

イタリア

日 本

カナダ

オーストラリア

出典:「先進諸国におけるエイズ発生動向、調査体制、対策の分析に関する研究」

平成 19(2007)年度厚生労働科学研究(主任研究者:鎌倉光宏)

(a)先進諸国における人口 100 万人当たりのHIV感染者報告数年次推移 (平成 5(1993)年~平成 18(2006)年)

(b)先進諸国における人口 100 万人当たりのエイズ患者報告数年次推移 (平成4(1992)年~平成 18(2006)年)

諸外国では日本と比較して、HIV感染者及びエイズ患者のいずれも、人口 100万人当たりの報告数が多い。

58

(c)西欧諸国の状況

出典:EuroHIV. HIV/AIDS Surveillance in Europe. Mid-year report 2007. Saint-Maurice: Institut de Veille Sanitaire, 2007. No. 76. 「HIV感染症の動向と影響及び政策のモニタリングに関する研究」 厚生労働科学研究(主任研究者:木原正博)

西欧諸国では、近年新規エイズ患者・エイズ関連死亡数のいずれも減少している。感染経路では

異性間性的接触が多いが、HIV流行国からの移住者が約半数を占めているという特徴がある。 ※ 西欧諸国には、イギリス、フランス、ドイツの他、オランダ、スペイン、ポルトガル、イタリ

ア等が含まれる。

59

<英国>

図44 ヨーロッパ先進国の動向(平成 15(2003)年~平成 18(2006)年)

3カ国のHIV/エイズ推定感染経路別割合 平成18(2006)年

1,578

2,795

768

776

5,064

363

219

203

7

14

120

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ドイツ

英国

日本

同性間性的接触

異性間性的接触

薬物静注

母子感染

出典:HIV/AIDS Surveillance in Europe End-year report 2006

出典:HIV/AIDS Surveillance in Europe End-Year report 2006

HIV同性間性的接触の年次推移

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

2003 2004 2005 2006 年

ドイツ

英国

日本

(a)

(b)-1 (b)-2

HIV異性間性的接触の年次推移

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

2003 2004 2005 2006年

ドイツ

英国

日本

英国の主たる感染経路は異性間性的接触であり、同性間性的接触による感染報告の絶対数もド

イツや日本と比べると多い。

60

図45 英国の動向

英国 HIV感染報告数 感染経路別年次推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

不明・その他 60 48 54 51 43 55 61 58 93 133 182 172 216 374 1,180

輸血等 18 18 22 21 30 11 24 25 23 38 38 29 25 35 13

母子感染 66 68 61 59 83 98 82 103 103 118 144 150 118 122 96

薬物静注 211 168 191 177 174 136 117 114 136 127 170 138 174 176 152

異性間性的接触 778 801 862 853 1,024 1,180 1,481 2,036 2,957 3,926 4,694 4,743 4,602 4,155 3,614

同性間性的接触 1,539 1,505 1,494 1,578 1,414 1,384 1,397 1,539 1,788 1,932 2,122 2,362 2,581 2,472 2,679

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

出典:United Kingdom HIV New Diagnoses to end of June 2008

(Health Protection Agency for infections)

英国 HIV感染報告 異性間性的接触 性別年次推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

女性 418 446 472 490 571 652 865 1,270 1,858 2,490 3,040 2,990 2,943 2,625 2,180

男性 360 355 390 363 453 527 615 766 1,099 1,436 1,654 1,753 1,659 1,530 1,434

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

出典:United Kingdom HIV New Diagnoses to end of June 2008 (Health Protection Agency for infections)

(b)

(d)(c)

(平成7(1995)年~平成 19(2007)年)

(平成7(1995)年~平成 19(2007)年)

感染報告数は 1990 年代以降年々増加傾向にあり、近年の主たる感染経路は異性間性的接

触である。同性間性的接触の報告件数も増加しているが、報告全体に占める割合は 1990 年

代に比して近年は低下している。一方、異性間性的接触は 2000 年以降大幅に増加している。

(a)

61

出典:United Kingdom HIV New Diagnoses to end of June 2008 (Health Protection Agency for infections)

英国 HIV感染報告数累計(異性間性的接触 民族別)(平成7(1995)年~平成20(2008)年)

白人, 5,833,16%

その他, 3,023,8%

カリブ海地域,1520,

4%

アフリカ系,26,756, 72%

白人

アフリカ系

カリブ海地域

その他

英国 HIV感染報告数累計(民族別)(平成7(1995)年~平成20(2008)年)

アフリカ系,

28,820, 41%

カリブ海地域, 2,294,

3%

その他,9,005, 13%

白人,29,601, 43%

(d)

推定感染地が国外である報告も多く、特に異性間性的接触ではその傾向が強いと考えられ

る。

(c)

62

<ドイツ> 図46 ドイツの動向(平成8(1996)年~平成 16(2004)年)

ドイツ HIV感染報告数 感染経路別年次推移(男女別)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

不明・その他 344 115 358 94 259 80 224 70 189 64 207 59 221 63 287 57 248 81

HIV高感染国からの移住者 102 146 158 159 146 164 135 174 120 179 111 151 128 206 121 186 113 215

輸血等 5 1 3 3 1 2 0 0 2 1 2 0 1 0 0 0 0 0

母子感染 8 7 6 1 5 2 4 5 6 12 9 3 8 13 9 6 7 6

薬物静注 122 65 173 66 139 55 136 54 127 38 78 34 73 27 88 34 81 32

異性間性的接触 106 77 123 120 135 137 132 126 132 138 129 94 124 96 126 97 164 104

同性間性的接触 722 0 762 0 760 0 647 0 648 0 530 0 654 0 785 0 982 0

男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

出典:「先進諸国におけるエイズ発生動向、調査体制、対策の分析に関する研究」

平成 17(2005)年度厚生労働科学研究(主任研究者:鎌倉光宏)

ドイツでは、感染報告数は 1990 年代は減少傾向にあったが、2000 年以降は増加傾向にあ

る。男性については同性間性的接触が主な感染経路で、近年再び増加傾向にあり、2004 年の

HIV感染報告の 50%以上を占めている。なお、女性の感染報告数は、ほぼ横ばいで推移し

ている。

●エイズ対策の取組事例 ~ドイツ~ ドイツでは、過去 20 年以上に渡り、連邦政府による予防キャンペーン 「Gib AIDS keine Chance」(エイズに隙を与えないで)を続けている。最大の特徴は、各州政府や国内の医療機関、民間団体などとの協力関係が構築されていることであり、政府予算を抑えるだけでなく、地域社会における予防教育活動の活性化をもたらしている。 特徴は、2つの手法を使い分けて予防啓発を実施していることである。一般市民に対しては、テレビやラジオ、公共の場で人々の目に触れやすいポスター等マスコミュニケーションを活用して予防が社会全体の課題であることを伝え、陽性者に対する差別や偏見をなくすことを意図した啓発を行っている。一方、特定の年齢層や感染リスクが高いと考えられるグループに対しては、そのライフスタイルやニーズに合った手法(若者向けのメッセージを映画上演前のスポットとして流す等)やメッセージを用いて情報伝達し、それぞれに合った行動変容を促すことを意図した啓発を行っている。 全市民を対象とした活動は連邦政府保健省直属の機関BzgA(英語名称:Federal Centre for Health Education)が、ハイリスクグループを対象とした活動はNGOのネットワーク団体であるDAH(英語名称:German association of Aids Self‐Help Groups)が、それぞれ役割分担の下実施している。 (参考文献):厚生労働科学研究 先進諸国におけるエイズ発生動向、調査体制、対策の分析に関する研究 平成 18 年度研究報告書(主任研究者:鎌倉光宏)

63

<オーストラリア> 図47 オーストラリアの動向 (a) HIV感染者・エイズ患者新規感染報告の推移 (昭和 56(1981)年~平成 19(2007)年)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

1981

1983

1985

1987

1989

1991

1993

1995

1997

1999

2001

2003

2005

2007

HIV感染者

エイズ患者

出典:National Centre in HIV Epidemiology and Clinical Research, 2007.

オーストラリア HIV感染報告の推移(感染経路別)

0

100

200

300

400

不明、その他 3 2 2 6 6 2 8 13 10

異性間性的接触 8 15 20 21 17 21 26 17 32

薬物静注 3 7 9 7 0 7 6 3 4

同性間+薬物静注 13 15 7 10 9 12 11 15 13

同性間性的接触 125 130 160 165 211 243 208 232 244

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

出典:Annual Surveillance Report 2007

Edited by National Centre in HIV epidemiology and Clinical Research

(b) HIV感染報告の推移(感染経路別) (平成 10(1998)年~平成 18(2006)年)

(件)

64

オーストラリア AIDS患者報告(年毎)感染経路別割合の年次推移(1998~2006)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

%

同性間性的接触

異性間性的接触

出典:Annual Surveillance Report 2007

Edited by National Centre in HIV epidemiology and Clinical Research

オーストラリアでは、現在まで一貫して同性間性的接触による感染が中心である。HIV

感染報告については、毎年同性間性的接触が 8割以上を占めている。一方、エイズ患者報告

については、同性間性的接触の割合が大きいが、近年異性間性的接触の割合が徐々に増加す

る傾向にある。

(c) エイズ患者報告感染経路別割合の年次推移 (平成 10(1998)年~平成 18(2006)年)

●エイズ対策の取組事例 ~オーストラリア~ オーストラリアでは、1980 年代から、薬物使用によるHIV感染を予防する方策として、地方自治体の協力を得ながら、使用済みの注射器や注射針を無料で新しい注射針に交換するプログラムを実施している。 従来から、この国の主要感染経路は同性間性的接触であり、薬物使用による感染は多くない。しかし、HIVに感染した人が他者と注射針を共用することにより、薬物使用者の間で感染が拡大するリスクが生じる。同性愛者でしかも薬物を使用する人々から、同性愛者ではない薬物使用者にも感染が広がり、さらに薬物を使用しない市民にも異性間性的接触を通して感染が広がる可能性が指摘され、「同性間性的接触を行う薬物使用者」は早くから「特に感染予防が必要なグループ」として位置付けられている。 連邦政府は、注射器交換プログラムが合法的に運営されるよう法令の改正を行い、薬物使用者が市民団体を設立して予防活動を行う際には、財政支援等も実施してきている。 (参考文献):厚生労働科学研究 先進諸国におけるエイズ発生動向、調査体制、対策の分析に関する研究 平成 18 年度研究報告書(主任研究者:鎌倉光宏)

65

<アメリカ合衆国> 図48 アメリカ合衆国の動向 (a) エイズ患者発生動向(昭和 60(1985)年~平成 18(2006)年)

(b) エイズ患者中に各エスニックグループが占める割合

(昭和 60(1985)年~平成 17(2005)年)

出典: U.S. Centers for Disease Control and Prevention, 2006 「HIV感染症の動向と影響及び政策のモニタリングに関する研究」

厚生労働科学研究(主任研究者:木原正博)

(a)

アメリカ合衆国の毎年の新規患者数は近年ほぼ横ばい状態にあるが、毎年 56000 人の新た

な感染が生じていると推定されている。また、人種別に見ると、白人は減少傾向にあるが、

アフリカ系アメリカ人及びヒスパニックは上昇傾向にある。

66

年毎の新規感染症例 男性・13歳以上・感染経路別(33州)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

その他 125 110 107 114

異性間性的接触 4,269 3,959 3,871 4,152

同性間+薬物静注 1,349 1,299 1,247 1,180

薬物静注 3,514 3,083 2,978 3,016

同性間性的接触 15,409 15,880 16,833 17,465

2003 2004 2005 2006

年毎の新規感染症例 女性・13歳以上・感染経路別

(33州)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

その他 134 107 97 109

異性間性的接触 7,731 7,182 7,216 7,432

薬物静注 2,027 1,856 1,720 1,712

2003 2004 2005 2006

感染経路別(男女計)(平成18(2006)年)件数 割合(%)

同性間性的接触 17,465 49.6%

薬物静注 4,728同性間+薬物静注 1,180

異性間性的接触 11,584 32.9%その他 223 0.6%計 35,180 100.0%

16.8%

出典:HIV/AIDS Surveillance Report Cases of HIV infection and AIDS in the United States and Dependent

Area,2006 (Department of Health and Human Service Public Health Service)

(c)

(d)

アメリカ合衆国の毎年の新規陽性者数の年次推移(HIV 感染者とエイズ患者の両方の推計値)

を見ると、男性の同性間性的接触による感染が多くを占めるが、近年は男性及び女性ともに

異性間性的接触が増加している。薬物静注による感染の割合は年々わずかながら減少傾向に

ある。

(平成 15 (2003)年~平成 18(2006)年)

(平成 15(2003)年~平成 18(2006)年)

67

(e) アメリカ合衆国における感染報告(人種別割合)

(平成 15(2003)年~平成 18(2006)年累計)

※33 州の総計

年毎の新規報告感染例累計(2003~2006年) 人種別

白人

41,500

30.3%

先住民

698

0.5%

アフリカ系

68,371

49.9%

アジア・大洋州系

1,447

1.1%

ラテンアメリカ系

25,063

18.3%

出典:HIV/AIDS Surveillance Report Cases of HIV infection and AIDS in the United States and Dependent

Area,2006 Department of Health and Human Service Public Health Service

※ AIDS epidemic update 2007 (UNAIDS)

感染報告が最も多いのはアフリカ系アメリカ人である。アフリカ系アメリカ人は全人口の約

13%(※)であるが、感染報告は全報告数の 49.9%を占めている。

68

<東アジア近隣諸国> 図49 東アジア近隣諸国におけるHIV感染者及びエイズ患者報告数年次推移 (a) 中国(平成 3(1991)年~平成 17(2005)年)

出典:Center for Disease Control and Prevention, Beijing, China 2007年報告 (b)台湾(昭和 59(1984)年~平成 18(2006)年)

出典:Center for Disease Control, R.O.C.(Taiwan) 2007年報告

(人)

69

(c)香港(昭和 59(1984)年~平成 18(2006)年)

出典:Hong Kong STD/AIDS surveillance report Vol 13, No 3, quarter 3 2007 (d)韓国(昭和 61(1986)年~平成 18(2006)年)

出典:Center for Disease Control, Korea 2007年報告 「HIV感染症の動向と影響及び政策のモニタリングに関する研究」

厚生労働科学研究(主任研究者:木原正博)

東アジアの近隣諸国を見ると、近年中国、台湾、香港、韓国で感染報告が急増している。

台湾・香港では、平成 16(2004)年以降、薬物静注による感染が増えている。

(人)(人)

70

表11 海外から日本への入国者数及び日本から各国(地域)への訪問者数

順位 国・地域 入国者数 順位 国・地域 人数1 韓国 2,370,163 1 アメリカ(ハワイ・グアムなどを含む) 3,883,9062 台湾 1,352,493 2 中国 3,389,9763 中国 980,424 3 韓国 2,439,8094 アメリカ 845,852 4 香港 1,210,8485 香港 318,517 5 タイ 1,196,6546 英国 224,257 6 台湾 1,124,3347 オーストラリア 199,251 7 ドイツ 730,2328 フィリピン 195,113 8 オーストラリア 685,4469 カナダ 162,143 9 フランス 659,000

10 タイ 145,053 10 シンガポール 588,535

出典:法務省「出入国管理統計」(平成18年)

海外から日本への入国者数(上位10国・地域)(平成18(2006)年)

日本から各国(地域)への訪問者数(上位10国・地域)(平成17(2005)年)

出典:国際観光振興機構(JNTO)「2003年~2007年 各国・地域別    日本人訪問者数(日本から各国・地域への到着者数)

出典:法務省「出入国管理統計」(平成 18 年) 国際観光振興機構(JNTO)「2003 年~2007 年 各国・地域別日本人訪問者数(日

本から各国・地域への到着者数) <タイ> 図50 タイで報告されたエイズ患者数とエイズによる死亡者数年間推移

(昭和 59(1984)年 9 月~平成 18(2006)年 12 月)

出典:タイ公衆衛生省資料

日本への入国者数、外国への訪問者数ともにアジア近隣諸国が上位を占めている。我が国

の対策を進めるにあたり、こうしたアジアの国の現状と日本とアジア地域との人的交流が頻

繁になっていることを十分に考慮する必要がある。

タイでは、1990年代以降、患者が増加し死亡者も増えたが、平成 15(2003)年に抗 HIV薬の無料配布を実施して以降、患者数・死亡数とも減少している。 なお、感染拡大の防止や医療体制の整備に向けた多様な取組により、HIV の流行を食い止めることに成功したが、薬物静注の感染は従前から多く、近年では男性同性愛者の

感染も増加していることがわかっている。

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●エイズ対策の取組事例~タイ~ タイのエイズ対策は、国を挙げた取組みにより、アジアの中では最も早い時期に感染拡大を抑えることに成功した事例として有名である。 ○ 国を挙げた取組み(感染予防・医療提供) タイの取組みの特徴は、エイズを単なる医療問題ではなく人権擁護等も含めた社会問題として捉え、各省庁の横断的な連携により対策に取り組んでいる点である。5年間の国家計画を策定し、計画中に各省庁や地方自治体の役割を明示して、エイズ対策に取り組んでいる(現計画の期間は平成 19(2007)年~平成 23(2011)年)。

1980 年代に性産業従事者の間に感染が急増したことを受けて、平成 2(1990)年、政府は首相が委員長を努める「国家エイズ対策委員会」を設立し、エイズ対策を国家の優先課題として位置づけた。平成 3(1991)年から同 4(1992)年にかけて、性産業におけるコンドームの使用を促進する目的で「100%コンドームプログラム」を全国展開し、安全なセックスとコンドームの使用を奨励する政策をとった。保健当局と、性産業施設のオーナー、当地の警察及び性産業従事者間の協力・協調により進められ、性産業従事者に対する性感染症検査・治療と HIV検査、保健教育、コンドームの配布は無料で行われた。また、大規模なエイズキャンペーン、職場や学校におけるエイズ教育も行われた。こうしたプログラムにより、平成 5(1993)年から平成 12(2000)年の間に、介入がなければ HIVに感染していたと予測される約 20万人が感染せずにすんだという効果の推定がなされている。

1990年代半ばには一般人口へ感染が拡大し女性、子どもへと感染が広がった。既感染者の発症・死亡も増加し、陽性者への支援の重要性が増した。平成 15(2003)年、政府は、すべての陽性者へ無料で抗HIV薬を提供することとした。無料で提供できるようになった要因には、平成 14(2002)年 3月に、タイ政府製薬機構で安価な抗 HIV薬の製造が始まったことや、世界エイズ・結核・マラリア基金の支援を受けたことなどもあげられる。 ○ バンコク都のエイズ対策計画 首都バンコクでは、タイの国家的取組みの一環として 5 ヵ年のエイズ対策計画を策定している。計画中、例えば感染予防に向けた取組では、青少年・同性愛者・セックスワーカー・薬物使用者・パートナー間等、対象層ごとに戦略を定めて施策を行い、効果を数量的指標で評価することとしている。 ○ 地域レベルでの感染予防と陽性者支援 国が策定する 5 ヵ年計画には、県・郡の地方自治体が取り組むべき活動が明記され、県に

よる郡の取組みのモニタリングを行うことが定められている等、地域で責任を持ってエイズ対策に取り組む体制が確立されている。また、自治体レベルで、行政、医療従事者、NGO、陽性者などのメンバーで構成するエイズ委員会が設置され、エイズ政策の立案への NGO や患者組織の参画が進められている。また、病院と連携した陽性者グループの自助活動や住民のエイズに関する自主活動が促進されており、地域コミュニティ全体で感染予防・陽性者支援に取り組む体制がつくられてきている。なお、国のエイズ対策費のうち、NGO、CBO(Community Based Organization)の活動資金に配分される予算も確保されている。 (参考・引用) 山本正・伊藤聡子 「迫り来る東アジアのエイズ危機」(連合出版) 成田弘成 「アイズ・オン・エイズ 開発援助における感染症対策」(春風社) 安田直史・宮本英樹 「成功したタイのエイズ予防対策」(医学書院) バンコク都 エイズ対策計画(2007~2011年) 認定 NPO法人シェア=(国際保健協力市民の会)提供資料