80
7-1 7リカレント教育実態調査 1. 概要 1.1 目的 産業界のIT技術者に対し、情報系分野の理論的・体系的な教育機会を提供する大学 等の高等教育機関によるリカレント教育が注目されている。リカレント教育実態調査(以 下、本章において「本取組み」と略す)では、情報系分野のリカレント教育について、 企業側のニーズ・活用状況や大学等における実施状況などの実態やリカレント教育の先 進事例を把握するとともに、企業が求める教育内容に応じてリカレント教育のタイプ分 けを行い、タイプ別のリカレント教育の課題等を明らかにすることを目的とする。 1.2 実施概要 具体的には、産業界における情報系分野のリカレント教育の活用状況やニーズ等につ いて、既存の文献等を基に整理するとともに、全国での情報系分野の大学院等により提 供されているリカレント教育の概要を調査した。その上で、先進的なリカレント教育事 例を実施している教育機関やその教育を活用している企業にインタビュー調査を実施し、 教育内容や企業の活用目的、効果等について確認した。また、それらの調査結果を踏ま え、情報系のリカレント教育を企業が求める人材像別のタイプに整理し、タイプ別にリ カレント教育の課題等についてとりまとめた。 また、本取組みにあたっては、産学の関係者からなるリカレント教育部会を設置し、 調査内容や調査結果のとりまとめ方針等に関する検討を行った。なお、調査の実施に関 しては、みずほ情報総研株式会社に作業の一部を再委託した。 本取組みにおける主な検討項目は、下記のとおりである。 情報系分野におけるリカレント教育へのニーズ 情報系大学院等におけるリカレント教育の実施状況 先進的なリカレント教育事例 リカレント教育の人材像別タイプ整理およびタイプ別リカレント教育の企業ニーズ や効果、課題等

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7-1

第7章 リカレント教育実態調査

1. 概要

1.1 目的

産業界の IT 技術者に対し、情報系分野の理論的・体系的な教育機会を提供する大学

等の高等教育機関によるリカレント教育が注目されている。リカレント教育実態調査(以

下、本章において「本取組み」と略す)では、情報系分野のリカレント教育について、

企業側のニーズ・活用状況や大学等における実施状況などの実態やリカレント教育の先

進事例を把握するとともに、企業が求める教育内容に応じてリカレント教育のタイプ分

けを行い、タイプ別のリカレント教育の課題等を明らかにすることを目的とする。

1.2 実施概要

具体的には、産業界における情報系分野のリカレント教育の活用状況やニーズ等につ

いて、既存の文献等を基に整理するとともに、全国での情報系分野の大学院等により提

供されているリカレント教育の概要を調査した。その上で、先進的なリカレント教育事

例を実施している教育機関やその教育を活用している企業にインタビュー調査を実施し、

教育内容や企業の活用目的、効果等について確認した。また、それらの調査結果を踏ま

え、情報系のリカレント教育を企業が求める人材像別のタイプに整理し、タイプ別にリ

カレント教育の課題等についてとりまとめた。

また、本取組みにあたっては、産学の関係者からなるリカレント教育部会を設置し、

調査内容や調査結果のとりまとめ方針等に関する検討を行った。なお、調査の実施に関

しては、みずほ情報総研株式会社に作業の一部を再委託した。

本取組みにおける主な検討項目は、下記のとおりである。

• 情報系分野におけるリカレント教育へのニーズ

• 情報系大学院等におけるリカレント教育の実施状況

• 先進的なリカレント教育事例

• リカレント教育の人材像別タイプ整理およびタイプ別リカレント教育の企業ニーズ

や効果、課題等

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7-2

2. 体制

2.1 リカレント教育部会

本取組みでは、「リカレント教育部会」を設置し、各種検討を行った。

(1) 委員構成

委員構成は、下記のとおりである。

主査

吉岡 信和 国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 准教授

委員

田子 友延 株式会社テプコシシテムズ 取締役 電力システム第 1 本部長

野中 誠 東洋大学 経営学部 経営学科 准教授

横山 重俊 NTT データ先端技術株式会社 インテグレーション事業部 企画担当

シニアプロジェクトマネージャ

鷲崎 弘宜 早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科 准教授

(50 音順、敬称略)

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7-3

(2) 検討経緯

リカレント教育部会の検討経緯は、表 7-1 のとおりである。

表 7-1 リカレント教育部会の検討経緯

回開催日時(場所)

概要

第 1 回平成 21 年 09 月 18 日

(IPA)

1.事業概要の検討

2.調査内容に関する検討

第 2 回平成 21 年 10 月 16 日

(IPA)

1.調査実施方針の検討

・インタビュー対象候補の検討

・WEB 情報や文献による概要調査に関する検討

第 3 回平成 21 年 11 月 27 日

(IPA)

1.トップエスイー教育プログラムの紹介

2.JISA・JUAS 意見収集結果に関する検討

3.調査の進捗報告ととりまとめ方針に関する検討

・企業が社員を派遣する目的とそのパターン(リカレ

ント教育タイプ)の整理に関する検討

・今後のインタビュー調査での調査項目の検討

第 4 回平成 21 年 12 月 11 日

(IPA)

1.調査の進捗報告とそれに関する意見交換

2.情報系分野におけるリカレント教育のあり方等に関

する検討

・リカレント教育タイプごとの企業ニーズ、課題、論

点等を整理することを検討

第 5 回平成 22 年 01 月 15 日

(IPA)

1.(株)テプコシステムズにおけるリカレント教育事例

の紹介

2.調査の進捗報告とそれに関する意見交換

3.とりまとめの方向性についての検討

・インタビュー結果のまとめ方に関する検討

・それぞれのリカレント教育タイプの定義、課題など

に関する検討

第 6 回平成 22 年 02 月 19 日

(IPA)

1.リカレント教育タイプごとの検討

・3 つにわけたリカレント教育タイプそれぞれに関して

の個別検討

2.報告書構成案についての検討

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7-4

2.2 調査実施体制

本取組みは、図 7-1 に示す体制で実施した。

図 7-1 「リカレント教育実態調査」実施体制

■ 調査結果分析

独立行政法人情報処理推進機構

(IPA )独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

みずほ情報総研株式会社みずほ情報総研株式会社

産業界出身教員育成カリキュラム

検討部会IT人材育成本部

■調査実施■ 調査報告書の作成

リカレント教育部会

■ 調査結果分析

独立行政法人情報処理推進機構

(IPA )独立行政法人情報処理推進機構(IPA)

みずほ情報総研株式会社みずほ情報総研株式会社

産業界出身教員育成カリキュラム

検討部会IT人材育成本部

■調査実施■ 調査報告書の作成

リカレント教育部会

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7-5

3. 調査実施内容

リカレント教育に関する産業界のニーズや大学等におけるリカレント教育の実施状況

を確認するとともに、現在実施されているリカレント教育の先進的事例について企業・

大学双方の目的や課題等を把握することを目的として、下記の調査項目を対象として、

文献・Web 資料調査、インタビュー調査による調査を実施した(表 7-2)。

表 7-2 調査内容と調査方法

調査項目 文献・Web 資料調査 インタビュー調査

産業界ニーズの把握 ○ -

大学におけるリカレント教育実施状況 ○ -

リカレント教育の事例 ○ ○

大学でのリカレント教育実施に関する課題 - ○

企業におけるリカレント教育活用状況 ○ ○

企業のリカレント教育の効果と課題 - ○

3.1 リカレント教育の活用及びニーズに関する情報収集

(1) 企業のリカレント教育ニーズに関する調査

リカレント教育ニーズに関する情報収集・分析として、まず、既存の調査報告等から

企業におけるリカレント教育へのニーズを調査した。

(2) リカレント教育の活用に関する意見収集

IT 技術者が従事する企業の業界団体である情報サービス産業協会(JISA)や日本情報

システムユーザー協会(JUAS)加盟企業の一部に対し、リカレント教育の活用に関する

意見を収集した。

3.2 情報系リカレント教育の実施状況調査

(1) Web 情報・文献による概要調査

大学院の情報系専攻や専門職大学院等におけるリカレント教育の実施状況について、

文献・Web 資料等を対象に調査を実施した。調査対象は、「理工系情報専門学科・専攻協

議会」に加盟する大学等の 236 専攻とし、社会人大学院入学枠や社会人向けのリカレン

ト教育の実施状況(目的、対象、概要等)を把握した。

(2) リカレント教育の先進事例に対する詳細調査・インタビュー調査

情報系のリカレント教育のうち注目される事例(6 機関・8専攻)に関する詳細調査を

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7-6

実施した。また、その教育関係者を対象とするインタビュー調査を実施し、調査対象機

関におけるリカレント教育のより詳細な実態や課題及び課題解決への取組み等を把握し

た。(上記、先進事例に対するインタビューの他、第 4章にて実施した「産業界出身教員

の実態に関する調査」にて調査対象とした教育機関のうち 4 機関について、先進事例と

同様のリカレントに関するインタビューを行った。)

(3) 受講者及び企業に対するインタビュー調査

リカレント教育に参加する企業側の活用目的やメリット、課題等について、実際にリ

カレント教育に参加した企業受講者(8 件)と企業側の関係者(6 件)に対するインタビ

ュー調査によって把握した。

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7-7

4. 情報系分野におけるリカレント教育へのニーズと期待

4.1 産業界における情報系分野のリカレント教育に対する期待

(1) 企業のリカレント教育ニーズに関する調査

産学連携 IT 人材育成実行 WG リカレント TF は、平成 21 年 5 月に示した産学連携 IT

人材育成実行 WG 取りまとめ事業計画の中で、情報系分野におけるリカレント教育に対す

る問題意識を下記のようにまとめている。

“企業の第一線で働く IT 技術者の中には、大学で情報系以外の分野を学び、卒業後

に IT 技術者の職に就いている者が多く存在し、こうした IT 技術者の中には非常に優秀

な人材も数多く存在する。一方、情報分野について理論的・体系的な教育を受けていな

いため、自らの技術の理論的裏付けをもっていない。こうした人材に対し、大学等で情

報分野に関する理論的教育を受けさせ、IT 技術を体系立て身につけさせることにより、

これらの人材のハイレベル化を図ることが期待される”

上記に示した期待が持たれる IT 技術者向けのリカレント教育に関して、IT 技術者個

人1にそのニーズを尋ねた調査によれば、スキルアップのための国内大学教育の受講を支

援できる制度を望む割合は、回答者 6 割以上に上り、IT 技術者の大学等の高等教育機関

におけるリカレント教育に対する潜在ニーズは高いと考えられる(図 7-2)。

自社に「ぜひあったらよい」と思う制度・仕組み (N=300)

64.3%

45.3%

45.0%

43.7%

42.0%

41.7%

41.3%

9.7%

11.3%

20.0%

9.3%

7.7%

11.3%

9.7%

0 10 20 30 40 50 60 70

社員が、スキルアップのために国内大学の授業を受講できる制度

社員が、国内大学のリソースや知見を活用して、企業では実施が難しい研究プロジェクトを大学で実施できる制度

社員の国内大学での博士号取得を支援する制度

社員が、国内大学の講師や教員に就任し、

大学での研究・教育活動に一定の時間を割ける制度

社員の海外大学での博士号取得を支援する制度

社員の海外大学(学士・修士課程)への留学を支援する制度

社員が、国内大学の講師や教員に就任し、大学での研究・教育活動に一定の時間を割ける制度

%

自社にあったら良いと思う

現在自社で実施されている

図 7-2 自社に「ぜひあったらよい」と思う制度・仕組み

(経済産業省「IT・エレクトロニクス人材を支える人材の育成・確保に関する調査」2007 年)

1 IT・エレクトロニクス産業の社会人に聞いたアンケート調査であり、情報サービス・ソフトウェア産業に加え、

エレクトロニクス分野の技術者の調査対象となっている。

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7-8

しかしながら、図 7-2 に示したとおり、リカレント教育の活用に関する制度を持つ企

業の割合は、概ね 10%程度(例えば、社員がスキルアップのために国内大学の授業を受

講できる制度は 9.7%である)と少ない状況にある。また、IPA が 2009 年度に実施した調

査でも、IT 企業における高等教育機関の教育受講に関する支援制度を実施している企業

は少ないという結果が得られており、IT 企業におけるリカレント教育はそれほど活用が

進んでいるとは言えない状況にある(図 7-3)。

0.0%

0.0%

1.0%

1.9%

1.9%

0.0%

32.7%

62.5%

0.0%

0.6%

0.6%

0.6%

52.2%

46.0%

0.0%

0.0%

3.5%

1.3%

0.9%

46.3%

47.6%

2.6%

3.8%

1.3%

5.1%

0.0%

2.6%

48.7%

41.0%

14.7%

11.8%

2.9%

5.9%

0.0%

0.0%

26.5%

50.0%

0.6%

1.2%

1.3%

0% 25% 50% 75% 100%

学位取得が可能な全日(昼間)課程の履修を支援するための制度がある

学位取得が可能な夜間課程の履修を支援するための制度がある

学位取得が可能な通信課程の履修を支援するための制度がある

学位とは無関係な社会人向け講座の履修を支援するための制度がある

大学教員を企業に招いて研修を実施している

その他

特に上記には当てはまらない(そのような制度はない)

無回答

30名以下(N=104) 31名~100名(N=161)

101名~300名(N=231) 301名~1000名(N=78)

1,001名以上(N=34)

図 7-3 (参考)IT 企業における高等教育機関の教育受講に関する支援制度の状況

(2009 年度 IPA 調べ)

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7-9

また、リカレント教育を活用しない理由に関しては、企業側は、「まとまった時間を確保

できない」、「どのような講座があるか知らない」等の回答が上位となっている(図 7-4)。

14.3%

48.6%

54.3%

2.9%

20.0%

0.0%

5.7%

15.9%

50.0%

9.1%

10.2%

0.0%

7.2%

67.6%

0.9%

8.1%

5.4%

3.6%

12.5%

40.0%

45.0%

0.0%

10.0%

10.0%

12.5%

0.0%

22.2%

55.6%

0.0%

33.3%

33.3%

11.1%

1.1%

58.0%

42.3%

0% 25% 50% 75% 100%

企業にとって役立つ講座がない

どのような講座があるか知らない

まとまった受講時間を確保できない

講師・先生の質があまりよくない

授業料が高い

その他

無回答

30名以下(N=35) 31名~100名(N=88)

101名~300名(N=111) 301名~1000名(N=40)

1,001名以上(N=9)

図 7-4 (参考)IT 企業がリカレント教育を活用しない理由

(2009 年度 IPA 調べ)

これらの調査結果は、IT 技術者個人としては、スキルアップ等を目的とした高等教育

機関におけるリカレント教育に対し関心を持つ割合が高い一方、企業側は、まとまった

期間の確保が必要となるリカレント教育を多忙な IT 技術者の育成に活用することは難

しいと考えていることが分かる。また、どのような講座があるのか知らない企業も多く、

そのような背景から、現状においては、企業によるリカレント教育の IT 人材育成への活

用は、非常に限定的であると言わざるを得ない。

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7-10

(2) リカレント教育の活用に関する意見収集

IT 技術者が従事する企業の業界団体である情報サービス産業協会(JISA)の人材高度

化部会や日本情報システムユーザー協会(JUAS)加盟企業で人材育成研究会に参加して

いる企業に対し、リカレント教育の活用に関する意見を収集した。以下にそれぞれの結

果を示す。

① JISA 意見収集結果

表 7-3 に情報サービス産業協会(JISA)の人材高度化部会に対して、リカレント教育

の活用に関する意見を収集した結果を示す。本意見収集は、社会人向け教育プログラム

の活用状況を知るため、企業 14 社程度に対し実施したもので、7 社から回答を得た。

意見収集結果では、活用している企業が 1 社に対して、活用していない企業が 6 社と

活用の事例が少なかった(唯一教育プログラムを活用している企業は、大手ソフトウェ

アベンダーのシステム子会社のセキュリティ部門であった)。また、活用していない企業

における今後の活用意向も活用する予定はないと答えた企業が 4 社(活用したいとした

企業は 2 社)であった。

リカレント教育を活用しない理由としては、「広範囲な社員を対象とする研修にマッチ

しない」や「短期集中型の講座を望む」などが見受けられた。

表 7-3 リカレント教育に対する意見収集結果(JISA)

【現在の活用状況】

活用していない 【6社】活用している

【1社】

【現在、活用していない企業の今後の活用意向】

活用する予定はない 【4社】活用したい【2社】

② JUAS 意見収集結果

表 7-4 に社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の人材育成研究会に参加

している企業に対し、リカレント教育の活用に関する意見を収集した結果を示す。本意

見収集は、企業 50 社程度に対し実施したものであり、20 社から回答を得た。

意見収集結果では、活用している企業が 1 社に対して、活用していない企業が 19 社と

活用の事例が少なかった。また、活用していない企業における今後の活用意向も活用す

る予定はないと答えた企業が 18 社であった。

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7-11

リカレント教育を活用しない理由として、「大学・大学院等の社会人向け IT 分野教育

プログラムが知られていない」や「長期間の受講は負荷が大きい」などが見受けられた。

また、「企業内研修や教育ベンダーのプログラムで、間に合う」と考えている企業もある。

ただし、活用への期待として、企業ニーズをふまえた上で(時間やコストなどの)制約

を解消できれば、活用する可能性があるとした企業もあった。

表 7-4 リカレント教育に対する意見収集結果(JUAS)

【現在の活用状況】

活用していない 【19社】活用している

【1社】

【活用の内容】企業種別:大手ベンダー企業教育機関:国立研究所,私立大学情報系学科教育対象:技術系の中核社員教育目的:ソフトウェア工学の習得等教育期間:2年間

【現在、活用していない企業の今後の活用意向】

活用する予定はない 【18社】活用したい

【1社】

企業種別:損害保険 情報システム子会社

③ 意見収集のまとめ

上記、①および②のリカレント教育の活用に関する意見例を表 7-5 に示す。本結果で

も、現状では、リカレント教育の活用事例は少なく、リカレント教育に対し長期間の受

講は負荷が大きい、企業や教育ベンダーのプログラムで間に合う、企業側が期待する実

践的教育があまりないのではないか等の意見があり、そもそもリカレント教育の内容を

知らないとする企業も多い。その一方で、どのような教育があるか知らないが、効果的

な教育があれば、積極的に活用したいという意見も複数あり、潜在的なニーズは存在す

ることが分かる。

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7-12

表 7-5 リカレント教育に対する意見例

【時間の制約について】

• 長期間を要する教育は業務遂行に支障が生じる懸念がある。

【内容の認知について】

• どんな大学が、どのようなプログラムが用意されているか知らない。判れば

積極的に活用したい。

• 大学・大学院でどのような IT 教育が行われているか分からない。特に、実践

で役に立つ分野に関して、どのような教育が行われているか分からない。

【効果について】

• 長期間専従するなら相応の成果が求められるが、適切なカリキュラムが見当

たらない。

• 企業の開催している研修のほうが、実務で即戦力となるための、効率的であ

る。

• 産学が連携し、企業のニーズに合った教育プログラムの開発に期待したい。

【活用への期待について】

• 一般研修機関に比較したコストメリット、企業側の要請や時代に合わせた柔

軟なコース設定があれば検討の余地がある。

• 大学・大学院で実践的な教育がなされているケースは稀有であるが、PBL 等、

実務型の教育プログラム等の実践的な教育事例とその効果が認められれば検

討の余地がある。

• IT 関連の社会人向け教育プログラムが少ない。目的が明確であり業務と両立

できる時間帯・負荷であれば検討の余地はある。

また、近年大学等の高等教育機関において、産業界のニーズを踏まえた分野を対象と

した教育や実践的な教育を取り込んだリカレント教育を開講するケースもあり、一部の

企業等によるリカレント教育の活用事例も報告されるなど、リカレント教育に対する産

業界のニーズの一部は、既に顕在化している。

そのため、本取組みでは、実際にリカレント教育を活用している企業及び受講した社

会人学生を中心にインタビューを実施し、リカレント教育に対するニーズや期待、リカ

レント教育の効果等を整理にした。また、併せてリカレント教育の活用や受講に関する

課題についても聴取し、情報系分野のリカレント教育のあり方の検討材料とした。

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7-13

4.2 企業等に対するインタビュー調査

企業関係者やリカレント教育の企業受講生に対するインタビューにより、企業による

リカレント教育の活用状況やリカレント教育に対するニーズ等に関する調査を行った。

表 7-6 にぞれぞれにおけるインタビュー項目を示す。

表 7-6 インタビュー項目

【企業関係者へのインタビュー項目】

(リカレント教育を活用している企業の場合)

• 企業等におけるリカレント教育活用の背景・目的・位置づけ、きっかけ

• 現在活用されているリカレント教育の内容(分野・職種、カリキュラム等)

• 現在活用されているリカレント教育の効果・要望

• リカレント教育の活用に関する課題・障害(内容、制度等)

• リカレント教育の活用に関する企業側のメリットや期待 等

(リカレント教育を活用していない企業の場合)

• リカレント教育の活用に積極的でない理由

• リカレント教育の活用に関する課題・障害(内容、制度等)

• リカレント教育の活用に関する企業側のメリットや期待 等

【リカレント教育の企業受講生へのインタビュー項目】

• リカレント教育受講の動機・きっかけ

• 受講したリカレント教育の内容

• リカレント教育の受講による成果、受講上の課題

• 大学・研究機関側への要望

• 所属企業等への要望 等

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7-14

インタビュー調査結果の概要

以下にインタビュー調査結果の概要を記載する。

① 大学等のリカレント教育の活用状況について

表 7-7 に産業界の情報系リカレント教育の活用状況に関するインタビュー結果を示

す。

インタビューの結果、企業で活用されているリカレント教育は MBA、MOT などのマネジ

メント系が主流であったが、ビジネスに直結することが想定される情報系リカレント教

育に対しては、企業側も比較的前向きに活用する傾向が見受けられた。一方、体系的な

教育など、技術者自身のキャリアアップやベースアップを目的とする教育に関しては、

企業による派遣は少なく、個人による自己啓発が主体となっている傾向が見受けられた。

リカレント教育を活用した企業からの回答として、リカレント教育により効果が得ら

れていると意見が多かった。例えばトップエスイープログラム2に関しては、ソフトウェ

ア工学等の先端的な内容を学習することによる、受講者の技術力の向上や大学の先生の

ものの考え方を得るといった効果が見受けられた。社会人ドクターコース3に関しては、

研究活動、学会活動等の対外的な活動および産学連携の活動の活発化といった効果が見

受けられた。通常のマスターコースに関しては、PBL の演習などによって失敗を恐れず

チャレンジすることができ、通常の業務では得ることができない知見を得ることができ

るなどの効果が見受けられた。それ以外の一般的な効果として、社会人同士の人的ネッ

トワークの構築や技術のレベルアップによるモチベーションの向上などが見受けられた。

また、会社の事業目的と一致し、派遣したケースには教育の内容をビジネスに活用する

ような直接的な効果が見受けられた。

表 7-7 インタビュー結果(大学等のリカレント教育の活用状況)

【産業界の情報系リカレント教育の活用状況】

• トップエスイープログラム(企業派遣が主であり、研究開発部門に所属する技術

者が多い)。

• 社会人ドクターコース(自己啓発が主だが、会社の事業目的と一致した場合は企

業派遣もありうる)。

• 通常のマスターコース(体系的な学習による必要な技術の習得)。

• 専門職大学院(組込み系、セキュリティなどの特定ニーズにおける技術者の育成)。

2 国立情報学研究所が提供する「先端的な技術を活用できない」大学と「実践の場で科学が活用できない」企業と

のギャップを埋めることを主たる目的としたプログラム。3 夜間や土日を利用して働きながら研究して博士の学位を取得するコース。

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7-15

② リカレント教育に対する産業界のニーズについて

表 7-8 にリカレント教育に対する産業界のニーズに関するインタビュー結果を示す。

育成対象としては、総じてトップレベルの IT 人材の育成を対象としており、具体的に

は、先端技術を持つ高度な人材、規模プロジェクトで中核的な存在となる人材および会

社の事業目的(金融、セキュリティ等)と一致する分野における専門家の育成が主であ

った。また、その活用の目的は社内で育成できない内容(最先端、体系的な教育、教育

体制が確立されていない特定分野)であるというのが大半であった。

リカレント教育に対する産業界側の要望としては、企業派遣の受講生の時間的制約に

対する配慮を求めるものが多く、特に、働きながら通学できる教育形態(夜間、土日講

座等)に関して強い要望があった。時間的な制約以外に関する要望としては、自社が必

要とする内容のみを受講したいというものがあった。

企業派遣のリカレント教育の目的としては、将来の幹部候補生の育成や教育成果のビ

ジネスでの活用などが大半であった。

表 7-8 インタビュー結果(リカレント教育に対する産業界のニーズ)

【育成対象】

• マネジメント層の育成。

• 先端技術を持つ高度な人材の育成。

• 大規模プロジェクトで中核的な存在となる人材の育成。

• 会社の事業目的(金融、セキュリティ等)と一致する分野における専門家の育成。

• 体系的な教育をうけることなく伸び悩む中堅技術者の育成。

【活用する目的】

• 社内で育成できない内容(最先端、体系的な教育、教育体制が確立されていない

特定分野)がある。

• 大学でしか取得できない資格の取得。

• 社内研修では得られない人材の変化(考え方、人的ネットワーク)を求める。

• リカレント教育の内容をビジネスで活用するため。

【要望する内容】

• 細切れでの受講(コース全体ではなく、特定分野に絞った限定的な内容の受講)。

• 複数年に渡る単位取得。

• 短期間での受講。

• 働きながら通学できる教育形態(時間帯や科目の組み合わせについての配慮)。

• 教育の内容の明確化。

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7-16

③ 現在のリカレント教育に対する産業界の意見について

表 7-9 に現在のリカレント教育に対する産業界の意見について、インタビュー結果を

示す。

最も多かった見解は、「リカレント教育を受講する時間の確保が難しい」ということで

あった(同様の回答をした企業は 8 社中 6 社であった)。リカレント教育のために受講者

が業務から離脱することは企業にとって負担が大きく、働きながら通学できる教育形態

が望まれている。また、上記見解以外に、転職懸念や教育後のキャリアパスの設定の必

要性など、企業内での人事制度対する課題も見受けられた。

表 7-9 インタビュー結果(現在のリカレント教育に対する産業界の意見)

• リカレント教育を受講する時間の確保が難しい。

• 受講者の転職懸念がある。

• 教育後のキャリアパスを明確にして派遣する必要がある。

• 技術系の教育に関しては社内研修が充実しておりカバーできる教育が多い(大

企業)。

• 教育は自己啓発で行うものという認識がある。

• 活用が景気に左右されてしまう。

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7-17

(2) インタビュー結果一覧

以下に企業および受講者のインタビュー結果一覧を示す。

� 企業

インタビュー先

リカレント教育の活用実態 リカレント教育に対するニーズ

リカレント教育に対する意見

リカレントの活用状況 リカレントの効果育成対象

(リカレント教育のタイプ4)

活用する目的

活用する際の要望

A 社

(SI ベンダー)

・MBA の海外留学制度(実績:長期

4 名、短期 13 名)。

・自己啓発による技術系の社会人ドク

ターコース(現在は 1 名、国立大学)。

・会社の方針として派遣したケースで

は効果があった。

・マネジメント層の育成。

・会社のビジネス方針と一致した分野

における技術者の育成(③)。

・特定の資格取得(③)。

・体系的な教育による中堅技術者の底

上げ(ITSS 2~3)(②)。

【目的】

・大学でしか取得できない資格の取

得。

【要望】

・細切れでの講義受講。

・複数年に渡る単位取得。

・大学院等の教育が ITSS の基準に取

り入れられれば教育が促進させる。

・技術系の教育は社内研修にてカバー

できる。

・教育は自己啓発であるという風土が

あるため、企業派遣でのリカレント教

育の積極的な推進はしにくい。

・リカレント教育受講者の転職懸念が

ある。

・長期間の受講は戦力ダウンである。

B 社

(SI ベンダー)

・MBA や法科大学院(MBA は年間 1名)。

・トップエスイープログラム(業務と

して派遣、年間 1~2 名、30 歳ぐらい

の基盤技術の部門)。

・社会人ドクターコース(会社の方針

と一致した場合は業務として派遣、基

盤技術部門では 6~10 名程度を派遣、

会社全体の施策として年間 1~2 名を

派遣している)。

・受講後において、受講者の社内での

評判がよくなり、受講者のモチベーシ

ョンの向上にも繋がっている。

・モデリングと形式手法について実務

で 2 件ほど活用した。 ・マネジメント層の育成。

・ソフトウェア工学(モデリング、形

式手法)の先端技術を持つトップの技

術者の育成(①)。

・金融系や公共系など事業ニーズが高

い分野の育成(③)。

・セキュリティ等の専門職が高い分野

(③)。

【目的】

・社内で教育できない、先端の基礎研

究に関する教育(特にソフトウェア工学)。

【要望】

・長期スパンでの育成効果があるとよ

い(短期効果は求めていない)。

・先端的な特定の技術を受講したい

(体系的な範囲ではない)。

・社内研修が充実しているため、リカ

レント教育を活用するニーズが少な

い。

・リカレント教育の活用が景気に左右

される。

・リカレント教育から戻ってきた社員

に対して相応しい職務を割り当てる

ことが必要である。

・プラットフォームがしっかりしてい

るため、情報系の基礎的な知識に対す

るニーズが低い。

・カスタマイズされたマネジメント層

向けの研修は、満足度が非常に高かっ

た。

・研修を受けて戻ってきた人材に対し

て、社内のニーズがある。

【目的】

・社内で教育できない内容。

【要望】

・技術以外の、金融や経営戦略等の分

野に関する内容。

・IT と戦略論(将来の CIO の育成プ

ログラムなど)。

・講義の 1 コマごとの活用。

・教育の内容がよく分からない場合、

資格取得に価値があるのが望ましい。

C 社

(SI ベンダー)

・ビジネス系の海外留学制度。

・下記の技術系の教育。

①マスターコース(年間 1~2 名、現

場の SE)②トップエスイープログラム

③ドクターコース

・ドクターコース卒業者は、視野およ

び人的交流の広がりを実感する。一

方、マスターコース卒業者の効果は人

によってばらつく。

・研究や学会活動に対しての活動が活

発になった。

・モチベーションの向上。

・人的交流により、新しい仕事の芽が

出ている。

・産学連携の活動において学んできた

ことを活用している。

・社内での技術的なリーダーシップを

取っている。

・若手社員の情報系の基礎知識の習得

(②)。

・最先端技術を持つ基盤技術者の育成

および社内教育講師の育成(①)。

・ビジネスに繋がる分野での人材の育

成(①、③)。

・中堅の社員を対象に技術力の底上げ

(②)。

【目的】

・社内研修では得られない、人材の変

化を求める。

・社内研修で得られないエリアについ

て、知識及び他社とのネットワークの

獲得を目的とする。

【要望】

・IT だけではなく、IT とその他の分

野を組み合わせた学際的な内容に関

する教育の提供。

・社員の意識が現場から離れてしま

い、退職リスクがある。

・リカレント教育の活用が景気に左右

される。

・戻ってきた社員に対してのその後の

フォローができていない。

・教育させたい内容を教えている大学

院が少ない(企業ニーズと大学シーズ

の不一致)。

4 ①:トップ IT 人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)、②:トップ IT 人材育成型(システム開発者)、③:特定分野 IT 人材育成型

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7-18

インタビュー先

リカレント教育の活用実態 リカレント教育に対するニーズ

リカレント教育に対する意見

リカレントの活用状況 リカレントの効果育成対象

(リカレント教育のタイプ4)

活用する目的

活用する際の要望

D社(SIベンダー)

・現在は新人事制度導入のため活用は

中断している。

・過去には、ビジネススクール、トッ

プエスイープログラム(現場の SEが対象、年間 2 名)、社会人ドクターコース(セキュリティなどの分野)を活

用していた。

これまでは明確な効果が見られてい

ないため、ビジネスに直結できる仕組

みを構築する必要がある(現在の新人

事制度がそれにあたる)。

・スキルレベルの高いトップの IT 人材の育成(①)。

・各部門のトップになる人材(財務な

ども含む)(③)。

・セキュリティなどの専門分野(③)。

【目的】

・社内でできない選抜教育(40~50代)。

【要望】

・短期間での受講。

・教育の内容がビジネスに反映できる

こと。

・戻ってきた社員に対してのキャリア

パスを明確にする必要がある。

・時間の確保が難しい。

・教育させたい内容を教えている大学

がない(企業ニーズと大学シーズの不

一致)。

・大学シーズと企業ニーズのマッチン

グの場があっても、教育の内容は先生

に一任されるため、不一致の解消は難

しいのではないか。

E社(コンピュータベンダー研

究機関)

【共通】

・MBAコース。・トップエスイープログラム(一昨年

度 3名、昨年度 4名)【本社】

・国内外の大学院による技術の習得。

【研究機関】

・国内大学の博士課程。

・海外大学へ客員研究員としての派

遣。

・別分野からソフトウェア工学分野に

移った研究員の教育。

・研究の視点での技術の再整理。

・業務に必要となるフォーマルメソッ

ドや形式手法の知識・技術の習得。

・技術力の底上げ。

・人的ネットワークの構築。

【本社】

・会社の事業目的に沿った社員の派

遣。(①、③)

【研究機関】

・今後社内をリードすることが期待さ

れる人材(①)。

・将来大学へのキャリアチェンジを目

指す社員(①)。

【目的】

・社内教育でカバーすることができな

い最先端やマネジメントの分野に関

する教育が目的。

・本社では、学位の取得を目的にする

ことは少ない。一方、研究機関では、

博士学位取得が目的であり、研究と通

じた人脈作りとその後の研究のコラ

ボレートも目的としている。

【要望】

・特定分野に絞った部分的な教育が受

講できるとよい。

・eラーニングシステムが充実しているため地方勤務の社員に教育の不便

はない。

・現場の SEが受講する場合は、時間の確保が難しい。

F社(ユーザー系情報システム

会社)

・MOT。・国内大学院への派遣。

・社会人、一般学生、大学の 3者のコラボレーション・相乗効果による人材

育成スキームの高度化。

・本人のモチベーションの向上。

・キャリア転換の機会。

・将来の幹部候補の育成。

・入社 10 年目ぐらいの将来を担う中核人材を育成(②)。

【目的】

・リカレント教育の成果活用。

・ITアーキテクトタイプの人材育成。・先進的なナレッジを体系的に適用し

た模擬プロジェクトの受講。

・一般の修士コースによる体系的で基

礎的な教育が目的。

・今後有用性が高い分野における教育

(例:レガシーマイグレーション)。

【要望】

・目的志向型の短期間コース。

・2年間の職場の離脱は大きな戦力ダウンである。

・研究テーマを持ち込む際の調整・交

渉(知的財産や秘密保持等)による研

究機会のロスが生じる。

・企業側のニーズと大学側の教育内容

のすり合わせができていない。

G社(SIベンダー)

・MBA。・専門職大学院(セキュリティ等)。

本人のモチベーションの向上。・特定の分野におけるハイレベルな人

材の育成(①、③)。

【目的】

・業務で必要な専門スキルの取得。

【要望】

・短期間での受講。

・リカレント教育の活用が景気に左右

される。

・社内教育に注力しているため、活用

ニーズは少ない。

・受講者の退職リスクがある。

・受講者は時間の調整が難しい。

H社(SIベンダー)

・国内留学、海外留学の制度はあるが、あまり使われていない。

・大企業は、ハイレベルな人材の育成機能を自ら持っているため、大学教育に

対するニーズは、現状ではあまりないように思う。一方、中小企業にニーズが

あるのではないか(①~③)。

・30代半ばの中堅の技術者に対して、体系的な教育による技術者の底上げには活用できる(②)。

・時間の確保が難しい。

・学位が社内評価の対象にならない。

・若手社員の教育意欲の低下がある。

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7-19

� 受講者

インタビュー先

リカレント教育の活用実態 リカレント教育に対するニーズ リカレント教育に対する意見

リカレントの活用状況 リカレントの効果活用の動機・目的

(リカレント教育のタイプ5)

活用する際の要望 産業界に対する意見 大学に対する意見

産業技術大学院大学

受講生1

・夜間コースに通学。

・CIOコースを受講。・時間をマネジメントし、週

に 6日通学していた。・1/3は実践教育である。また、座学でもグループワークやデ

ィスカッションが多い。

・モチベーションの向上。

・失敗を恐れずチャンレジで

きる。

・社会人同士で実体験につい

て議論ができる。

・情報通信の専門教育を受け

ていない。

・情報通信分野における体系

的知識の取得(②)。

・時間帯や科目の組み合わせ

に、最大限配慮してほしい。

・基礎知識だけでなく、専門

分野に関する教育の機会があ

ってもよい。

・時間的な制約から仕事と事

業の両立は難しい。

・費用は自己負担であるが、

大きな負担ではない。

業務後に受講するため、立地

が重要である。

産業技術大学院大学

受講生2

・夜間コースに通学。

・CIOコースを受講。・会社からは学費以外の支援

はなく、自ら時間をマネジメ

ントし受講している。

・1/3は実践教育である。また、座学でもグループワークやデ

ィスカッションが多い。

・ユーザー系企業より、ベン

ダー系企業の受講者が多い。

・モチベーションの向上。

・失敗を恐れずチャンレジで

きる。

・社会人同士で実体験につい

て議論ができる。

・レベルの異なる人同士のコ

ミュニケーションによる新た

な考え方の獲得。

・知識が増えている実感があ

るが、業務に直接的なフィー

ドバックはできていない。

・自社には教育の仕組みがな

いが、会社としてリカレント

教育を活用する風土がある。

立地が本大学受講の大きなポ

イントになった(勤務先から

30分で通学)。・情報通信の専門教育を受け

ていない。

・情報通信分野における体系

的知識の取得(②)。

・会社としては、情報システ

ムにおけるリーダーの育成が

目的(②)。

・時間の縛りが大きいことを

大学側は理解してほしい(効

率的な時間割の作成などの時

間に対する配慮を要望)。

より実践的な授業内容を希望

する。

・ダウンロード可能な e ラーニングシステム(通学、通勤

途中における学習の支援)。

業務の調整がつかず、休むこ

とがある。

社会人向け情報系大学院を検

索するのは容易ではなかっ

た。

会津大学

受講生

・通常の大学院に通学し、月

に 1度報告のため出社する。・専門単位の取得に重点をお

いた学習を進めている。

・PMの授業は少ない。

・通信等の幅広い知識を身に

つけることができた。

・留学生との演習により国間

の考え方の違いを学ぶことが

できた。

・大学の先生のものの考え方

を学べる。

・失敗を恐れずチャレンジす

ることができる。

・OJTによって取得した PMは偏りがあるため、一般的な PMを学びたい(②)。

・自身の業務に活用できそう

な教育があった(レガシーマ

イグレーション)(③)。

・社内での環境の変化(キャ

リアアップ・チェンジの機会

の獲得)。

・大学院の内容は専門的であ

るため、学部の授業を受けら

れるような配慮をしてほし

い。

・PLや PBLの内容は社会人が受ける内容としては、不十分

であると感じた。

・企業の事例の提供は手続き

が煩雑であり、作業が遅延し

ている。

・現場から離れることに不安

を感じている。1年半~2年は期間が長い。

・考え方を学ぶ意義を理解す

る必要がある。

・会社側から具体的な課題が

設定されるとよい。

・レガシーマイグレーション

については、企業のニーズと

大学のシーズにズレがあり、

直接的には活用できない。

・学生と自身との経験の差に

より不満を感じる(ボトムに

あわせた教育)。

国立情報学研究所

トップエスイープログラム

受講生

・形式手法を中心に受講。

・会社からは時間を確保する

ようなバックアップがあっ

た。

・文系出身のため、当初の 3ヶ月は基礎的な教育から開始

した。

・演習によるディスカッションは大い

に勉強になった。

・情報系の体系的な知識によ

る自信の獲得。

・コンサルティング業務にお

けるソリューション提供の幅

が広がった(顧客の課題発

見・解決型のコンサルティン

グ)。

・知識・技術力向上によって、

社内の評判がよくなった。

・人的ネットワークの獲得(修

了後でも定期的に会う機会が

ある(プライベート、TopSEPBL))

・社内研修では提供できない、

最先端技術と体系的な基礎理

論に対する教育の受講(①)。

今後のキャリアを見据えた上

での技術力向上。

・社外の人とのコミュニケー

ション機会の獲得。

・文系出身であり、これまで

情報系の体系的な教育を受け

る機会が少なかった。

・様々な形式手法を学びたか

った。

・修了制作をする場合は 1.5年でも短いと感じた。

・1年半の中で受講できなかった、設計・実装など下流の分

野においても教育を受けたか

った。

・短期的スパンで費用対効果

をみるのではなく長期的スパ

ンで効果をみるべきである。

・外部のリカレント教育を自

由に受講できるチャンスがほ

しい。

・製本された教材の提供があ

るとよい。

・1年に短縮されたことによるディスカッションの時間の減少はも

ったいないと感じる。

・教員によって教育の方法が

多少異なる。

・アカデミックな分野が多い

(現場ですぐに活用できる内

容を充実してほしい)。

5 ①:トップ IT人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)、②:トップ IT人材育成型(システム開発者)、③:特定分野 IT人材育成型

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7-20

インタビュー先

リカレント教育の活用実態 リカレント教育に対するニーズ リカレント教育に対する意見

リカレントの活用状況 リカレントの効果活用の動機・目的

(リカレント教育のタイプ5)

活用する際の要望 産業界に対する意見 大学に対する意見

国立情報学研究所

トップエスイープログラム

受講生

・会社から費用についての負

担はない(自己啓発である)

が、時間に対する配慮はある。

勤務先からのミッションはな

い。

・受講できるすべての科目を

受講した。

・修了制作に取り組む時間を

確保するのが困難であった。

・形式手法の講義は、論理や

数学に近い内容であり満足度

が高い。

・テストやメトリクスなどは

業務に直に活かせる。また、

ソフトウェア開発プロセスの

改善のヒントになった。

・製品の品質保証について網

羅的に評価し適切な手段を取

れるようになった。

・総じて開発の全体像がわか

るようになった。

・様々なポジションや年代の

人とのコミュニケーションに

より知識の幅が広がった。

・勤務先には技術系の研究制

度がない。

・時間をかけて体系的に学習

したい。

・会社からの立地がよい。

・アカデミックな内容で修士

相当のソフトウェア技術につ

いて学習できる。

・受講期間を延ばし、講義時

間と修了制作期間をずらして

ほしい。

・1つの授業を複数回開講してほしい。

・情報共有の仕組みが使いづ

らかった。

・リカレント教育は会社から

の時間の配慮がないと受講は

困難である。

・形式手法は現場の技術者よ

りも、開発の全体を俯瞰でき

る責任者やリーダーが受講す

ると効果があるのではない

か。

・学位を取得できるならした

い(受講の際に学位を取得で

きないことで躊躇した経緯が

ある)。

・講義を録画する仕組みはよ

かった。

・それぞれの大学に何の強み

があるのか把握しづらい。

情報セキュリティ

大学院大学

受講生

・平日と夜間のみの受講で卒

業に必要な単位の習得が可

能。

・ただし、昼間に開講する技

術系の科目に興味があり、昼

間も受講した。

・在籍企業からの時間の配慮

はあった。ただし、研究テー

マについての指示はなかっ

た。

・メーカーの情報システムに

携わる受講者は法律を研究す

る者が多かった。

・レベルの高い輪講を含めた

研究活動に高い教育効果を感

じた。また、研究成果を挙げ

ることができた。

・情報セキュリティに関する

見識が深まった。

・他社の人々との関わりは非

常に刺激を受けた。

・社会において情報セキュリ

ティの重要性が増し始めてい

た(③)。

・知識の幅を広げる目的でリ

カレント教育を受講した。

・修士学位の取得に対しては

特に魅力を感じていなかっ

た。

・平日夜間の科目選択肢を増

やしてほしい。

・短期間での修了が望ましい

が、研究にはある程度の日数

を要すると思われる。

・リカレント教育を活用する

際に、キャリアの中での位置

づけを明確にすることが重要

である(卒業後に業務に戻っ

た際、仕事がなかった)。

・研究テーマだけでなく、研

究を進める過程で受講生と企

業が関わるようにするとよ

い。

・異なる分野に社内異動した

人に対してはリカレント教育

の意義は高い。

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7-21

4.3 情報系分野におけるリカレント教育へのニーズと期待のまとめ

4.1 および 4.2 で調査した産業界における情報系分野のリカレント教育に対する期待や

活用ニーズ等を表 7-10 にまとめる。

リカレント教育の活用に積極的でない理由およびリカレント教育に対するニーズ等から、

企業が求める教育形態や教育内容は、「働きながら通学できる教育形態」や「(企業ニーズ

を汲みこんだ)ビジネスに直結できる教育内容」であることが見受けられた。また、リカ

レント教育に期待される具体的な教育内容は、「社内で実施が困難な教育」に見受けられた。

ここで、社内で実施が困難な教育とは、具体的に「最先端や専門性が高い教育」、「高度 IT

技術に関する体系的な教育」および「近年、IT が活用され始めた分野(成長分野、新分野

および融合分野などの特定分野)に関する教育」が主である。

表 7-10 産業界における情報系分野のリカレント教育に対する期待や活用ニーズ等

【IT技術者個人】

• スキルアップのための国内大学教育の受講を支援できる制度を望む割合は 6 割

以上であり、リカレント教育に対する潜在ニーズは高い6。

【産業界のリカレント教育の活用状況】

• 現在、リカレント教育を活用している企業、今後活用を検討する企業ともに少

数となっており、企業の情報系分野におけるリカレント教育の活用は積極的と

は言えない7。

• 少数ながらも、ビジネスに直結することが想定される情報系リカレント教育(企

業ニーズを汲みこんだ教育内容)に対しては、企業側も比較的前向きに活用す

る傾向が見受けられた8。

【リカレント教育の活用に積極的でない理由】

• 「まとまった時間を確保できない」、「どのような講座があるか知らない」等の

回答が上位となっており、時間に対する制約(働きながら通学できること)と

教育内容による認知が活用に積極的でない理由である7, 8

• 一方、(ビジネスに直結できる)効果的な教育があれば、積極的に活用したいと

いう意見も複数ある9。

6 4.1 (1) 企業のリカレント教育ニーズに関する調査より(参考文献:経済産業省、「IT・エレクトロニクス人材を支え

る人材の育成・確保に関する調査」)7 4.1 (1) 2009 年度 IPA 調べより8 4.1 (2) リカレント教育の活用に関する意見収集より9 4.2 企業等に対するインタビュー調査より

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7-22

• 転職懸念や教育後のキャリアパスの設定の必要性など、企業内での人事制度対

する課題もその理由のひとつである 9。

【リカレント教育に対するニーズ等】

• 総じてトップレベルの IT人材の育成を対象としている 9。

• その活用の目的は社内で育成できない内容(最先端、体系的な教育、教育体制

が確立されていない特定分野)である 8, 9。

• 要望する内容は、時間的な制約があることに起因しており、それの緩和に対す

る要望であった 7, 8, 9。

• また、必要な内容のみを受講したいという要望があった 9。

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7-23

5. 情報系大学院等におけるリカレント教育の動向

5.1 情報系大学院等におけるリカレント教育の概況

(1) 概要

大学院の情報系専攻や専門職大学院等におけるリカレント教育の実施状況について、文

献・Web 資料等を対象に調査を実施した。調査対象は、「理工系情報専門学科・専攻協議会」

に加盟する大学等と中心とした 236 専攻(一部電気電子分野の専攻及び社会人向け教育を

実施している 5つの専門職大学院を含む)とし、各専攻について社会人大学院入学枠やリ

カレント教育の実施状況(目的、対象、概要等)を把握した。

なお、付属資料 3-1、3-2 に情報系大学院リカレント教育の概要(社会人受入制度編、

教育内容編)に関する調査結果の一覧を添付した。

(2) 社会人特別学生募集と社会人特別入試の実施状況

調査をした大学院の情報系専攻や専門職大学院 236 専攻中 153 専攻が、社会人に対する

学習機会の提供の方法として、一般の入試方法とは異なる社会人向けの特別学生募集と特

別入試を実施している(図 7-5)。その目的は、社会人教育に対する需要の高まりへの対

応、高度な専門的職業人材の育成、広く社会貢献をする一環など様々である。

社会人向けの特別学生募集

153

83

実施している 実施していない

情報系大学院等236専攻

図 7-5 情報系大学院等における社会人向けの特別学生募集の実施状況

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7-24

社会人特別学生募集の応募条件は、一定期間以上の実務経験を挙げる専攻が 109 専攻と

最も多く、そのうち 69 専攻は実務の内容を不問とするが、40 専攻は志望する専攻に関わ

りのある実務内容もしくは技術者・研究者として実務に臨んでいることを条件としている。

また、大学で情報系を学んだ経験を必須条件とする専攻と、全く問わない専攻があり、社

会人特別学生募集で前提とする情報系の知識や経験は専攻により大きく異なる。その他の

応募条件として、現在職業を持っている(72専攻)、所属組織長の推薦や承諾(44 専攻)、

入学後の勤務継続(33専攻)などがある。また、企業から派遣される場合は実務経験年数

を不問とする専攻や、大学卒業後の経過年数のみを条件に実務経験は不問とする専攻もあ

る(図 7-6)。

109

72

44

33

0 20 40 60 80 100 120

一定期間以上の実務経験

現在職業を持っている

所属組織長の推薦や承諾

入学後の継続勤務

社会人特別学生募集の応募条件(情報系大学院等236専攻中)

69

40

実務の内容は不問

実務は関わりのある内容が条件

一定期間以上の実務経験109専攻

図 7-6 情報系大学院等における社会人特別学生募集の応募条件

社会人特別学生募集を利用して入学を志望した者の選考方法は、出願書類の審査に加え、

面接または口述試験のみによるものが 67 専攻と最も多いが、面接に加え筆記試験(学力試

験)を課す専攻も 41専攻ある。その他には小論文と面接(14 専攻)、英語試験と面接また

は英語による面接(11専攻)などがある。なお、出願書類の審査では、職務経歴や所属長

の推薦書等の業務経験に関わる書類を、特に重視する専攻もある(図 7-7)。

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7-25

67

41

14

11

0 20 40 60 80

面接+口述試験

面接+筆記試験

面接+小論文

面接+英語試験(または英語面接)

社会人特別学生募集の選考方法(情報系大学院等236専攻中)

図 7-7 情報系大学院等における社会人特別学生募集の選考方法

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7-26

(3) 社会人に対する特別な配慮

大学院の情報系専攻や専門職大学院 236 専攻中、93 専攻が社会人への特段の配慮を実施

している(図 7-8)。

社会人に対する特別な配慮

93

143

実施している 実施していない

情報系大学院等236専攻

図 7-8 情報系大学院等における社会人に対する特別な配慮の実施状況

その内容は図 7-9 に示すとおりであるが、夜間・休日の開講が 61 専攻と最も多く、こ

れは企業等に在職のまま入学を希望する社会人に対して入学後も社会人が学び易いような

特例措置を実施することを定めた「学校教育法大学院設置基準第 14 条に定める教育方法の

特例」に遵うものでもある。その中には、夜間・休日のみに開講する専攻や、夜間・休日

のみの通学でも必要単位の修得が可能なプログラムを用意する専攻もある。

その他の配慮としては、職業を有している等の事情により定められた修業年限での履修

が困難であると予め申請した者は標準修業年限を超えた期間をかけ修業することを認め、

その際の学費は基本となる修業年限のまま据え置く長期履修制度(32 専攻)や、業務都合

などにより通学できない場合に、e ラーニングや講義ビデオ視聴による学修を可能とする

遠隔学修支援制度(10 専攻)、「今までの業務の体系的なまとめ直し」「業務に関連した研

究テーマの選択」など業務内容の研究テーマへの認定や、教員とのディスカッションによ

り経験してきた実務的内容に対する理解を深める科目の単位認定など、業務経験認定制度

(9 専攻)がある。また、科目等履修生として修得した単位を入学後に修得単位として認

定する、またその履修に掛かった費用を学費から差引くなど特徴ある科目等履修生制度(7

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7-27

専攻)や、情報学に関する専門的な教育を受けていない社会人に対する情報科学の基礎を

短期間で修得するための接続科目、社会人学生に不足しがちな知識や技術(数学、英語の

基礎力、プログラミング技術等)の科目のような社会人向け科目の開講(6専攻)がある。

その他にも、一定の研究業績や能力を有した就業経験のある学生は短期間で修了すること

を認める短期履修制度、一定条件を満たした雇用保険被保険者を対象とし指定講座の受講

者の学費が補助される教育訓練給付金制度の指定講座としての認定、受験料無料や授業料

の免除といった学費優遇制度などがある。

61

32

10

9

7

6

0 10 20 30 40 50 60 70

夜間・休日の開講

長期履修制度

遠隔学習支援制度

業務経験認定制度

科目等履修制度

社会人向けの科目の開講

社会人に対する特別な配慮の内容(情報系大学院等236専攻中)

図 7-9 情報系大学院等における社会人に対する特別な配慮の内容

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7-28

(4) 実践力の養成を企図した教育について

大学院の情報系専攻や専門職大学院 236 専攻中、61 専攻が実践力の養成を企図した教育

を特長としている(図 7-10)。

実践力の養成を企図した教育

61

175

実践力を特長としているその他を特長としている

情報系大学院等236専攻

PBLの実施

25

36

PBLを実施しているPBLを実施していない

実践力が特徴の61専攻

図 7-10 情報系大学院等における実践力の養成を企図した教育の実施状況

図 7-12 から図 7-14 に IT 人材白書 2009 において、IT 企業が挙げた「今後重要となる

スキルや強化すべきスキル(技術面および技術面以外)」をそれぞれ示す。

IT 人材白書 2009 において、IT 企業が「今後重要となるスキルや強化すべきスキル(技

術面)」として多く挙げられたスキル(図 7-12)については、セキュリティ関連が 32 専

攻、ネットワーク関連が 35 専攻、ソフトウェアエンジニアリング関連が 35専攻、データ

ベース関連が 14 専攻、また従業員数が 1,001 名以上の企業の 61.8%が挙げた「アーキテ

クチャ設計に関する技術力」に関連する教育(図 7-13)は、12 専攻で実施されている。

そして、「今後重要となるスキルや強化すべきスキル(技術面以外)」として多く挙げら

れたスキル(図 7-14)については、コミュニケーション能力の育成が 15専攻、プロジェ

クトマネジメント能力の育成が 25専攻、顧客業務や業務分析関連が 10専攻で実施されて

いる。これらの教育は、25 専攻で実施されている PBL の一部に組み込まれていることも多

い。また、産業界において人材不足が深刻な組込み分野の教育は、18 専攻で実施されてい

る(図 7-11)。

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7-29

32

35

35

14

12

15

25

10

18

0 5 10 15 20 25 30 35 40

セキュリティ関連

ネットワーク関連

ソフトウェアエンジニアリング関連

データベース関連

アーキテクチャ設計関連

コミュニケーション能力の育成

プロジェクトマネジメントの能力の育成

顧客業務や業務分析関連

組込み分野

実践力の養成を企図した教育の内容(情報系大学院等236専攻中)

図 7-11 情報系大学院等における実践力の養成を企図した教育の内容

N=621

24.8%

39.9%

47.8%

35.7%

19.8%

33.0%

25.1%

31.9%

54.6%

55.1%

25.0%

4.8%

0% 25% 50% 75% 100%

プログラミングスキル

ソフトウェアエンジニアリングに関する知識・スキル

ネットワークに関する技術力

データベースに関する技術力

システムプラットフォームに関する技術力

アプリケーション共通基盤に関する技術力

アーキテクチャ設計に関する技術力

システム管理に関する技術力

セキュリティに関する技術力

上記分野を横断する幅広い技術力

高度な技術力の基礎となる情報系の基礎理論・体系的知識

無回答

図 7-12 (参考)今後重要となるスキルや強化すべきスキル(技術面)

(IPA「IT 人材白書 2009」2009 年)

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7-30

30.8%

29.8%

55.8%

44.2%

14.4%

31.7%

19.2%

33.7%

43.3%

47.1%

22.1%

5.8%

25.5%

40.4%

23.0%

35.4%

23.0%

37.3%

60.9%

52.2%

23.6%

5.6%

25.1%

47.2%

38.1%

16.5%

33.3%

22.5%

28.1%

55.4%

54.1%

23.8%

4.3%

20.5%

41.0%

43.6%

29.5%

26.9%

34.6%

29.5%

29.5%

57.7%

65.4%

28.2%

3.8%

8.8%

47.1%

38.2%

11.8%

29.4%

26.5%

61.8%

32.4%

52.9%

70.6%

32.4%

2.9%

36.0%

49.1%

43.7%

0% 25% 50% 75% 100%

プログラミングスキル

ソフトウェアエンジニアリングに関する知識・スキル

ネットワークに関する技術力

データベースに関する技術力

システムプラットフォームに関する技術力

アプリケーション共通基盤に関する技術力

アーキテクチャ設計に関する技術力

システム管理に関する技術力

セキュリティに関する技術力

上記分野を横断する幅広い技術力

高度な技術力の基礎となる情報系の基礎理論・体系的知識

無回答

30名以下(N=104) 31名~100名(N=161)

101名~300名(N=231) 301名~1000名(N=78)

1,001名以上(N=34)

図 7-13 (参考)今後重要となるスキルや強化すべきスキル(技術面)(従業員規模別)

(IPA「IT 人材白書 2009」2009 年)

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7-31

N=621

65.5%

42.7%

71.3%

46.7%

74.7%

27.4%

34.9%

28.0%

34.9%

5.8%

10.6%

3.5%

0% 25% 50% 75% 100%

顧客業務や業務分析に関する知識・スキル

コンサルティング能力

プロジェクトマネジメント能力

リーダーシップ

コミュニケーション能力

ネゴシエーション能力

プレゼンテーション能力

営業・販売・マーケティング力

新たな製品・サービスを生み出す企画力

知的資産管理に関する知識・スキル

語学力

無回答

図 7-14 (参考)今後重要となるスキルや強化すべきスキル(技術面以外)

(IPA「IT 人材白書 2009」2009 年)

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7-32

(5) IT 人材向け短期集中型リカレント教育の実施

大学院の情報系専攻や専門職大学院 236 専攻中、国公立大学を中心とする 12専攻では、

社会人に向け、短期的に修学する機会を提供している(図 7-15)。その内容は、オブジェ

クト指向の概念を利用してソフトウェア開発における要求分析・設計・実装の一連の流れ

3 日間で学ぶ「企業情報システム講座:オブジェクト指向ソフトウェア開発技法」のよう

に、技術者やプログラミング経験者を対象とし「ソフトウェア開発技法」「情報セキュリテ

ィ」「組込みシステム」などの特定の知識や技術の教授を目的に、数日間にわたり集中的に

開講するものである。また「先端半導体デバイスプロセス特論」や「先端エレクトロニク

ス特論」、「ICT 導入技術」など特定の科目や科目群を、社会人の修学支援を目的に公開す

るものもある。

短期集中型リカレント教育

224

12

実施している 実施していない

情報系大学院等236専攻

図 7-15 情報系大学院等における短期集中型リカレント教育の実施状況

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7-33

5.2 情報系大学院等におけるリカレント教育の先進事例

情報系大学院のリカレント教育のうち注目される事例に関する詳細調査を実施した。調

査対象は、企業ニーズ10が多かった「働きながら通学できる教育形態」および「ビジネス

に直結できる教育内容」という点に着目し、「夜間講座等の就業時間外における教育」があ

り、かつ「企業ニーズを反映する形で近年設立・開講されたリカレント教育」を実施して

いる機関から選定した。なお、大学の教育は学問であり基礎理論やものの考え方を学ぶと

いう側面も重要であり、必ずしもビジネスに直結する必要はないが、ここでは調査のスコ

ープとして企業ニーズを直接的に捉えたリカレント教育を実施している機関を先進事例と

して選定している。なお、ここでの調査結果は、文献・Web 資料調査による結果に加え 5.3

で実施したインタビュー調査の結果も加味したものである。

表 7-11 に調査した先進事例の一覧を示す。

表 7-11 調査した先進事例の一覧(2009 年度現在)

• 国立情報学研究所(トップエスイー)

• 産業技術大学院大学

• 北陸先端技術大学院大学(東京サテライト)

• 会津大学

• 情報セキュリティ大学院大学

• 東海大学組込み専門職大学院

10 企業ニーズについては「4.情報系分野におけるリカレント教育へのニーズと期待」を参照

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7-34

(1) 国立情報学研究所(トップエスイー)

表 7-12 に国立情報学研究所の基本情報を示す。

表 7-12 国立情報学研究所の基本情報(2009 年度)

大学院名 国立情報学研究所

研究科・専攻

(プログラム名)

トップエスイー教育プログラム

基本情報 大学院区分 非学位

入学定員 30 名

入学金 無

指導料 年額 541,200 円

夜間授業 有

学位取得 無(連携大学の博士号取得の単位として認定可)

社会人の割合 7割程度(4期生の場合はほとんど)

社会人に対し

ての配慮

• 夜間開講

• IT スキル標準(ITSS)のレベル設定

① 設立の背景

ソフトウェア工学分野において、産業界と大学は先端的な技術の相互連携(企業側は技

術の導入、大学側は技術の活用)において大きな問題を抱えている。具体的には、大学教

育の状況として、ソフトウェアの実問題を基礎とした良い教材を持っておらず、実問題か

らは遊離した問題(トイプロブレム)で教育や研究を行っており、「実践がない」という課

題がある。一方、現在のソフトウェア産業においては、米国が圧倒的な支配力を持ってい

るのが現状の中、中国とインドが新興勢力として勢力を拡大しており、日本の国際競争力

は弱まる一方である。そのような状況の中、日本の企業の状況として、サイエンスに基づ

く先端的な技術の導入が困難な課題がある。そのような背景のもと,学のギャップを埋め、

次世代を先導するソフトウェア技術者を育成する教育プログラムとして、「トップエスイー

プログラム」が設立された(図 7-16)。このプログラムでは、国内外の大学・研究所のソ

フトウェア工学研究者と、多数の企業の協力を得て、先端的かつ実践的なソフトウェア開

発に関する講座を開講している。

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7-35

図 7-16 国立情報学研究所が考える問題と役割(トップエスイーホームページより抜粋)

② 教育内容

1) 専攻の特徴

ソフトウェア技術者に必要な次の 3 つの力を習得するために、実践的なカリキュラムを

提供している。

• 先進的な技術を自らの問題に適用できる「実践力」

• ノウハウを顕在化して開発チームに伝承できる「普及力」

• 新しい技術や問題に適切に応用できる「応用力」

2) 教育カリキュラム

IT スキル標準の 3から 4を目標到達レベルとし、特にモデリング・ツールと適用スキル

は高いレベルに目標を設定したカリキュラム構成となっている。形式手法や要求分析に関

する講座の充実しているのが特徴的で、平成 21 年度には 20 講座を開講している。(表

7-13)

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7-36

表 7-13 授業科目一覧

科目群 授 業 科 目

基礎理論

要求工学講座シリーズ

要求獲得・定義

ゴール指向要求分析

超上流要求工学

セキュリティ要求分析

モデル検査講座シリーズ

設計モデル検証(基礎編)

設計モデル検証(応用編)

並行システムの検証と実装

性能モデル検証

形式仕様記述講座シリーズ

形式仕様記述(基礎編)

形式仕様記述(応用編)

形式仕様記述(セキュリティ編)

アーキテクチャ講座シリーズ

コンポーネントベース開発

アスペクト指向開発

ソフトウェアパターン

実装技術講座シリーズ

実装モデル検証

プログラム解析

テスティング

マネジメント講座シリーズ

ソフトウェアメトリクス

その他

基礎理論

PBL 特別演習

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7-37

③ 特徴的な教育形態

1) 企業の課題への対応

個別課題や企業から持ち込まれたテーマに対しては修了制作での対応を行う。修了制作

から得られた知見を整理し、次年度の講座への反映を行っている。また,企業から持ち込

まれた課題に関して,秘密保持契約などを結んで修了制作を行うことも可能である。

2) 他大学との連携

東京大学・東工大学の先導的 ITスペシャリスト育成推進プログラム(以下、本章では「先

導 IT」と略す)や北海道大学に一部の講座を集中講義として開講している。セキュリティ

の講座に関しては、情報セキュリティ大学院大学・中央大学の先導 ITプログラムの講座と

しても受講可能である。また、多くの講座は、北陸先端科学技術大学院大学(以下、本章

では「JAIST」と略す)や総合研究大学院大学などの大学の単位としても取得可能である。

④ 社会人への配慮

1) 夜間開講

授業は月~金曜日、講義時間 2コマ連続(18:20-19:50, 20:00-21:30)の平日夜間に開

講する。1年を 4学期に分け、短期間(2か月)で 1単位の取得が可能である。さらに欠席

した講座のビデオ収録を閲覧できるサービスも行っている。

2) ITスキル標準(ITSS)のレベル設定

本学の目標到達レベルは、自ら学ぶことができる ITSS レベル 3から 4に設定している。

⑤ 社会人の募集と選考方法

1) 社会人の在籍状況

社会人学生の在籍状況は 7 割程度で、4 期生の場合はほとんどを社会人学生が占める。

社会人の勤務先はメーカー系が多いが、シンクタンク、組込み系など多彩である。自費に

よる就学生は全体の 2~3割である。

2) 社会人の募集方法

実績が少ないため、トップエスイーの認知を上げなければならない。受講者の好意的な

声をプロモーションに活用し、募集を行っている。通常の大学と同様に、ホームページや

パンフレットのほか、ポスター形式の修了発表会を開いている。また、企業からの学生送

り込みを促進するため、企業の人材育成、共同研究、社員の自己啓発に対応している。

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7-38

3) 社会人の選考方法

成績証明書を中心として書類審査および口頭試問等による選考を実施している。出願資

格として、以下の項目を重視している:

• ソフトウェア開発方法論の最先端技術の習得に並々ならぬ情熱を持った人

• ソフトウェア開発現場において技術課題を抱え、その解決を図りたい人

• 世界に通じるソフトウェア開発技術を学びたい人

上の項目に加え、会社の承諾の取得を確認している。

⑥ 修了要件

修了認定者(4 講座以上単位取得し、修了制作で一定以上の成果を挙げた者)にはトッ

プエスイー修了証を国立情報学研究所から授与する。

⑦ 特徴的な制度・取組み

1) 北陸先端科学技術大学院大学との提携

トップエスイーでの講座は、JAIST の博士号取得の単位として認める提携を実施してお

り、JAIST に研究成果と認められる成果を挙げることにより短期間(1~2年)で博士号の

取得が可能である。また、トップエスイーの講師を JAIST の副テーマ指導教員として指導

するなどの連携を行い、トップエスイーでの修了制作を JAIST の博士の研究にスムーズに

つなげられる工夫を行っている。

2) 長期履修制度の検討

受講生の仕事との両立を考慮し、履修期間の延長や修了制作の期間を延長できる制度を

導入している。

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7-39

(2) 産業技術大学院大学

表 7-14 に産業技術大学院大学の基本情報を示す。

表 7-14 産業技術大学院大学の基本情報(2009 年度)

大学院名 産業技術大学院大学

研究科・専攻

(プログラム名)

産業技術研究科

情報アーキテクチャ専攻

基本情報 大学院区分 専門職大学院

入学定員 50 名

入学金 282,000 円(東京都民は半額)

授業料 年額 520,800 円

夜間授業 有

学位取得 有

社会人の割合 9割が社会人

社会人に対し

ての配慮

• 単位バンク制度

• 長期履修制度

• 講義支援システム(e ラーニング)

• 短期集中型履修のクォータ制

① 設立の背景

21 世紀の知識社会においては大量の知識労働者が必要であり、その量と質が社会の繁栄

を決する最も重要な資源となると言われる中で、首都東京の産業をリードする高度専門職

人材の育成を目的として設立された。専門的知識と体系化された技術ノウハウを活用して、

新たな価値を創造し、産業の活性化に資する意欲と能力を持つ人材の育成を目的とする。

② 教育内容

1) 専攻の特徴

高度専門職人材に求められる知識・スキルとこれを使いこなす実務遂行能力(コンピテ

ンシー)の獲得を目的とした教育を提供している。第一線で活躍してきた実務家教員と研

究業績の高い教員との連携による高度な実践的教育を実施し、マネジメントの能力を備え

た高度な IT 技術者である「情報アーキテクト」人材を育成する。

1 年次では多様な経歴の学生にそれぞれの専門実務分野で必要とされる最新の知識・ス

キルを体系的に学修、2 年次ではプレイヤーとしての資質であるコンピテンシー群を明確

化し、Project Based Learning (以下、本章では「PBL」と略す)のチーム学修によりそ

の強化を図る。運営諮問会議を通じた産業界とのコミュニケーションの仕組みなど数々の

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7-40

新しい工夫を導入している。

2) 教育カリキュラム

教育カリキュラムは、学生が目指すキャリアを考慮し、6つのコースが想定されてお

り、これらのコースは、ほぼ IT スキル標準 Ver.3 に相当する。産業構造審議会情報経済

分科会の報告で示されている「共通キャリア・スキルフレームワーク」に則し、プロジェ

クトマネジメント、セキュリティ、ネットワーク、データベース、ソフトウェア開発、CIO/

マネジメントの各コースに受講推量科目を設定する。

1 年次のカリキュラムは情報アーキテクトに必要とされる知識の修得を目的にしている。

情報アーキテクトの基本的な考え方を学習する IT基礎科目群と基本共通科目群、それぞれ

の専門領域について深く学ぶ専門科目群(ICT 系科目群、エンタープライズ系科目群、シ

ステム開発系科目群、マネジメント系科目群)から構成されている。

2 年次のカリキュラムは PBL 型科目が中心となり、各プロジェクトに参加することによ

り、情報アーキテクトに必要なコンピテンシーを身に付ける。本学で育成を目指す情報ア

ーキテクトは非常に幅の広い概念であるが、学生は自らの専門領域に高度な知識とノウハ

ウを備えつつ、他の領域に対しても一定レベル以上の知識を備えたプロフェッショナルと

なることを期待されている。

③ 社会人への配慮

1) 教授法

社会人に向けては、社会人がそれぞれに持つ経験をうまく生かした教育を施す必要があ

り、都立大学ビジネススクールと名古屋大学高等教育センターが共同研究した社会人教育

の成果をアレンジした、本学の社会人向けの教授法を作成している。

2) 夜間・土曜日開講制

平日夜間及び土曜日に講義を実施し、社会人学生が仕事を終えてからでも受講可能な授

業時間を設定する。

3) 短期集中型履修のクォータ制

従来の大学院教育は、一定期間で広域的な学習領域をカバーするために、前後期制を採

用しているのが通例だが、産業技術大学院大学では専門的知識や技能を短期間に集中して

修得できるよう、1 年を 4 期に区分するクォータ制を採用する。各科目は週 2 回講義を行

うことで、約 2ヵ月という短期間で 1つの科目を履修することができる。

4) 講義支援システム(eラーニング)

全ての講義はビデオ録画され、e ラーニングシステムを利用して遠隔から視聴すること

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7-41

を可能にする。本システムは講義に関する質問の受付、演習課題の提出等にも利用される。

(単位取得・修了には正規授業への出席が必要である。)

5) AIIT単位バンク制度

科目等履修生として修得した単位を蓄積し、正規学生として入学した際に活用する制度

で、AIIT 単位バンク11に蓄積した単位は、正規学生として入学すると、正規学生の単位と

して認定を受けることができる。また、正規学生として入学した際には、科目等履修生と

して支払った授業料に相当する額を、正規入学後の授業料から減免することができる。(定

員の上限がある。また、履修申請が集中した科目は、受講できない場合がある。単位修得

後 5 年以内に受験して正規入学した場合のみ、正規学生の単位として認定される。授業料

の改定があった場合は、改定後の授業料が適用される。)

6) 長期履修制度

仕事の都合等により、標準修業年限(2 年)で修了することが困難で、かつ 3 年間での

履修を計画している者を対象として、許可を受けた学生に対して 3 年間の修業年限を認め

る制度で、2 年分の授業料で利用することができる。

7) 自治体による修学補助金制度

本学の所在する東京都品川区は、産業振興課工業係を窓口とし、区内の中小企業に就業

しており本学卒業後も引き続き 2 年間区内の中小企業で働く意思を有する者を対象に、年

額 25万円の修学補助を実施する(就業中の中小企業を保証人とし、自己都合により本学を

退学した場合や、区内中小企業を退職した場合には違約金を含め補助金を返還しなければ

ならない)。

11 AIIT は産業技術大学院大学の略称

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7-42

(3) 北陸先端技術大学院大学(東京サテライト)

表 7-15 に北陸先端技術大学院大学の基本情報を示す。

表 7-15 北陸先端技術大学院大学の基本情報(2009 年度)

大学院名 北陸先端技術大学院大学

研究科・専攻

(プログラム名)

情報科学研究科

(社会人向開講コース)

基本情報 大学院区分 大学院大学

入学定員 特に規則上の制限はないが、各コース 15 名ほどを想

定している

入学金 282,000 円

授業料 年額 535,800 円

夜間授業 有(金曜日夕方、土曜日、日曜日)

講座毎の受講 有

学位取得 有(修士・博士)

社会人の割合 社会人のみ

社会人に対し

ての配慮

<長期履修制度(博士前期・後期課程)>

• 前期課程(2年 � 最大 4年)

• 後期課程(3年 � 最大 6年)

<短期修了トラック(博士後期課程)>

1年修了トラック、2年修了トラックを設けている。

① 設立の背景

大学(大学院)における情報科学の基礎教育は、情報科学的思考力を養成し、先端技術

の基礎となる諸概念を獲得するのに必要不可欠であるが、産業界各分野における R&D に

必ずしも直結するものではない。社会人向けコースは、その間のギャップを埋める教育シ

ステムを設けることが肝要であるという認識のもとに開設されたものである。

情報科学における先端技術は日進月歩であるため、コース制を設け、時代の要請にあう

人材を育成することを目標にする。

② 教育内容

1) 専攻の特徴

講義内容を、導入・基幹・専門・先端の 4つに分類した体系的教育カリキュラム、様々

な分野の基礎修得と総合力の育成をはかるため、基礎・理論、パターン・知覚情報処理、

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7-43

知能情報処理、コンピュータシステム、ソフトウェアサイエンスと情報環境の 5分野の中

から、修士課程においては、4 分野、博士課程においては 2 分野を修得することによる多

眼的人材の育成、シラバス整備や全講義ビデオ録画などの学生中心の教育、修了生の品質

保証を特徴とした、教育システムを実践している。

研究は修士研究・課題研究・博士研究の種別があるが、研究課題は受講生の派遣企業が

抱える課題等をテーマとして選択することも可能である。

• 組込みシステムコース:

組込みソフトウェアの開発・検証技術に関する先端技術とその応用力を獲得する

ことを目標とする。

• 先端 IT 基礎コース:

理論情報学、人間情報処理、人工知能(AI 等)を基本として、コンピュータシス

テム&ネットワークとソフトウェア工学の教育を行う。

• 先端ソフトウェア工学コース:

開発技術、プロジェクト管理、形式手法の講義に国立情報学研究所と連携した PBL

を加えることで、理論と OJT という広範囲をカバーする。

③ 社会人への配慮

1) 授業開講時間

金曜日の夜間(18:30~21:40)及び土曜日、日曜日の終日に開講され、1 講義科目が 1

ヶ月の週末、または 2ヶ月の隔週の週末で完結するよう実施している。

2) 長期履修学生制度

入学から修了までの標準修業年限は、博士前期課程は 2 年、博士後期課程は 3 年である

が、職業を有する等の理由で、学習時間が十分確保できない事情がある場合は、博士前期

課程は 4年、博士後期課程は 6年を最長期間として履修する長期履修学生に申請すること

ができる。

長期履修学生の授業料は、在学期間に係わらず、標準修業年限分の額である。認められ

た期間が満了する前であっても、修了要件を満たした場合は、その時点で修了することも

可能としている。長期履修学生として履修では、教育訓練給付制度の申請はできない。

3) 短期修了トラック(博士後期課程)

優れた研究業績を上げた場合、または優れた技術開発による社会的貢献がある場合には、

それぞれ 1年修了トラックまたは 2年修了トラックの資格が与えられる。

• 1 年修了トラック:

入学前に、博士研究内容と関係のある優れた研究業績をあげ、その結果があるレ

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7-44

ベル以上の論文で公開されていること。

• 2 年修了トラック:

実務として有形化されかつ有用性が客観的に評価できる業績(例えば、システム

開発等)があること。システム開発の場合、そのシステムを特定でき、そのシス

テムの社会的意義が認定され、かつその主たる設計者・開発者であるという証明

が得られること。

4) 教育訓練給付制度

博士前期課程は教育訓練給付制度の指定を受けており、雇用保険に一定期間加入して

いる受講生でも授業料の一定割合の還元給付を受けることができる。

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7-45

(4) 会津大学

表 7-16 に会津大学の基本情報を示す。

表 7-16 会津大学の基本情報(2009 年度)

大学院名 会津大学

研究科・専攻

(プログラム名)

コンピュータ理工学研究科

(IT Specialists プログラム)

基本情報 大学院区分 大学院

入学定員 コンピュータ・情報学システム専攻 100 名

情報技術・プロジェクトマネジメン専攻(IT

Specialists プログラム) 20 名

入学金 282,000 円

授業料 年額 520,800 円

夜間授業 無

学位取得 有

社会人の割合 1名のみ

社会人に対し

ての配慮

• タームフリー制度

• e ラーニングシステム

① 設立の背景

学術と産業の連携による地域・産業の振興発展に寄与すること及び生涯教育に関する多

様な要請に応えることを目的とし、併せて科学技術の研究ネットワーク形成の新たな拠点

かつコンピュータ理工学分野において、国際的に貢献できる先駆的な学術教育研究の場と

して、平成 9年 4月に設置された。設立準備から多くの産業界人物が関わっており、産業

界で活躍する人材の育成および研究分野の双方でトップレベルを目指している。

② 教育内容

1) 専攻の特徴

• コンピュータ・情報学システム専攻:

学部のコンピュータソフトウェア及びハードウェア両学科に基礎を置き、その間

の壁を取り払うことによって実現されるコンピュータシステムを用いて、現実の

問題を解決することにより、その処理対象である“情報”の構造と機能について

研究することを目的としている。

• 情報技術・プロジェクトマネジメン専攻:

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7-46

IT 産業に関わる問題を実際に解決することを通した教育を行い、様々な機会とチ

ームで取り組む環境を整えることで、他者との協働、個人としての取り組みの両

方で自主性を発揮できるようなリーダーシップを育成すると同時に、国際的教育

を受けた最先端の情報技術専門家の育成を目指す。具体的な研究開発領域は、組

み込みシステムや web 指向のコンピューティング、拡張可能な情報インフラのた

めの基礎知識及び応用技術に重点を置いたものである。

2) 教育カリキュラム

コンピュータ理工学の発展の多様性に鑑み、従来のソフトウェア分野とハードウェア分

野という分類を超えた社会的要請が生じている。本研究科のカリキュラムは、この要請に

応じた新しい考え方に立っている。

博士前期課程においては、以下の 5つの授業科目区分を設けている。

• コンバージョン科目:

コンピュータ理工学関連学科の基幹的な分野に相当する。コンピュータ理工学以

外の分野からの入学者など、本研究科入学前にコンバージョン科目に相当する科

目が未履修の場合は、1 年次中に未履修科目の科目に相当するコンバージョン科

目を全て履修することを推奨している。履修したコンバージョン科目のうち、本

研究科入学前にこれに相当する科目が未履修の場合に限り、 4単位までを専門科

目の単位に含めることができる。

• 専門科目:

各教育研究領域の目標に基づき、より高度でかつ最先端の内容を含む。

コンピュータ・情報システム学専攻所属の学生は課程修了までに 16 単位以上を修

得しなければならないが、原則として 8単位以上を所属する教育研究領域の科目

を選択することを必須としている。情報技術・プロジェクトマネジメント専攻所

属の学生は 22単位以上の修得を必須とする。

• セミナー科目:

主体的かつ能動的な学習を通して、より高度な知識と創造力、優れた問題発見・

解決の能力を養うことが求められる。各自の自主的な学習をより複眼的に検証し、

専門分野を超えた広い視野に立った学習の場としてセミナー科目が配置されてい

る。

• 研究科目:

コンピュータ・情報システム学専攻所属の学生の必須科目であり、研究指導教員

による学位論文の作成等に対する指導を受けて修得する。

• ソフトウェア開発アリーナ:

情報技術・プロジェクトマネジメント専攻所属の学生の必須科目である。

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7-47

博士後期課程においては、授業科目は置かず、各年次を通じて学位論文の作成等の指導

を行っている。

③ 社会人への配慮

1) タームフリー

博士前期は学期の区切りを設けない(タームフリー)2 年課程だが、情報通信分野にお

ける就業経験のある学生は、1.5 年の期間で修了でき、各個人の必要性に応じて学習の密

度を調整することが可能となっている。タームフリー制度を実行するために、アリーナで

の作業は会津キャンパスでも遠隔地でも行えるとともに、各講義の期間や講義間隔を受講

者の都合に合わせて柔軟に設定できる仕組みを導入し、仕事と履修の両立をサポートする。

2) e ラーニングシステム

一部の授業では完全遠隔で行われている。東京で会津大学の授業を受けることが可能と

なっている。

3) コンバージョン科目

情報科学以外の専攻で卒業した社会人学生が学部レベルの基礎科目を履修できるコンバ

ージョン科目を設置している。大学院レベルの講義受講に不安のある学生や自分の知識を

確認したい学生が活用でき、その一部を修了単位に組み入れることができる。

4) アリーナへのテーマ持ち込み

ソフトウェア開発アリーナには学生がテーマを持ち込むことができる。学生が企業内で

担当している技術やシステムに関するテーマを提案し、その内容に合わせて指導教員が学

内の他教員および会津大学の国内外のネットワークを通じて専門家を探しコーチとして招

聘することができる。この仕組みを利用することで、学生の教育と同時に共同研究も兼ね

ることを可能としている。

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(5) 情報セキュリティ大学院大学

表 7-17 に情報セキュリティ大学院大学の基本情報を示す。

表 7-17 情報セキュリティ大学院大学の基本情報(2009 年度)

大学院名 情報セキュリティ大学院大学

研究科・専攻

(プログラム名)

情報セキュリティ研究科

基本情報 大学院区分 大学院大学

入学定員 49 名

入学金 300,000 円

授業料 年額 1,200,000 円

夜間授業 有

学位取得 有

社会人の割合 8.5 割程度

社会人に対し

ての配慮

• 1 年制プログラムも有り

• 科目等履修生制度

① 設立の背景

既存の大学で情報セキュリティと法や経営を同時に学ぶ教育機関はほとんどなかったこ

とから、企業でのの実務家育成を行う機関として設立され、その後、研究者育成としての

博士課程も追加された。

広い視野に立って現実の情報セキュリティの問題解決を担う高度な専門技術者、実務家、

および将来方向先導する創造性豊かな研究者の育成を目的とする。

② 教育内容

1) 専攻の特徴

情報セキュリティ研究科は、情報社会の健全で力強い発展に不可欠な情報セキュリティ

技術と管理手法、それを支える社会システムとしての法制、そして情報に対する諸脅威の

現状などを、総合的に学ぶ所に特徴がある。また、様々な組織のセキュリティ管理リーダ

ー、セキュリティ技術の研究開発者、情報社会をリードする技術・ビジネスなどの創造に

携わる人々を養成している。

教育は、情報科学・法制の基礎、暗号、情報セキュリティ専門技術とマネージメント、

セキュリティ脅威の実例、社会制度の現状と課題等の講義、新技術やセキュリティ問題の

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調査とそれに関する議論を中心とした輪講、実習などを組み合わせて行われ、深い専門知

識の獲得と、現場知識の涵養を目指している。

2) 教育カリキュラム

博士前期課程では、4 つのモデル履修コースから選択し、深い専門知識の習得を図る。

これらのコースは指導教員の指導の下に他のコースの科目も自由に履修することが可能で

ある。

博士後期課程では、研究テーマを踏まえ、必要に応じて前期課程の科目聴講や必要な知

識の補強を支援している。前期課程からの一貫的教育により、中核的人材として活躍する

研究者、研究指導者の育成を目指している。また、学外からの入学者にも広く後期課程の

門戸を開いており、多角的な視点から総合科学としての情報セキュリティの体系化に努め

ている。

• 暗号テクノロジコース (Cryptographic Technology):

情報デバイス、アルゴリズムおよび数論といった IT 技術の基盤を学び、その上で

暗号理論や暗号技術を習得することによって、セキュアな IT技術を実現するため

の高度な専門知識・技術を身につけることを目的とする。

• システムデザインコース (Software & System Design):

企業・研究機関等の研究開発者やソフトウェア・システム・製品の開発などを対

象に、OS、ソフトウェア、ネットワーク、システム設計・運用管理などの IT シス

テム技術、およびそれらのセキュアな構成技術とマルウエア対策に関する広範な

知識・技術を習得することを目的とする。

• 法とガバナンスコース (Law & Corporate Governance):

企業・組織における実効性ある情報セキュリティガバナンスの構築や社会全体の

セキュリティレベルを向上させる政策提言を行うことのできる人材の育成を行っ

ている。具体的には、企業・組織等で情報システム、経営企画、法務、総務、監

査、IR、CSR、広報等の業務従事者を主な対象として、情報セキュリティ関連法制

や知的財産制度、国際標準動向、内部統制等についての知識の習得と研究活動を

通じて、課題発見能力と問題解決能力、幅広い視野を養うことを目的とする。

• セキュリティ/リスクマネジメントコース (Security & Risk Management):

適正なリスク分析による最適な情報セキュリティレベルの実現や組織・コミュニ

ティの特性を踏まえた人的情報セキュリティ対策を牽引することのできる人材の

育成を行っている。具体的には、企業・組織等で情報システム、ネットワーク、

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事業企画、マーケティング、人材マネジメント、教育研修等の業務従事者を主な

対象として、セキュリティマネジメント、リスクアセスメント、組織行動等につ

いての知識の習得と研究活動を通じて、現場における問題解決能力と分析能力、

幅広い視野を養うことを目的とする。

③ 社会人への配慮

1) 授業時間帯

平日は夜間(18時 20 分~21 時半)に講義を実施し、必修科目は一般に会社の残業の少

ない水曜日の開講を実施している。平日昼間の講義と同内容の講義を平日夜間・土曜日に

開講しているため、平日夜間・土曜日の授業のみで必要単位をすべて習得することができ

る。

2) 科目等履修生制度

入学前に取得した単位を正規課程に入学した場合に単位として認定する「科目等履修生

制度」を設置しており、特に自己資金で入学する社会人の利便性を図っている。

3) アーカイブ視聴

遠隔配信講義を行っている科目のアーカイブを視聴することができる。

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(6) 東海大学組込み専門職大学院

表 7-18 に東海大学組込み専門職大学院の基本情報を示す。

表 7-18 東海大学組込み専門職大学院の基本情報(2009 年度)

大学院名 東海大学組込み専門職大学院

研究科・専攻

(プログラム名)

組込み技術研究科

基本情報 大学院区分 専門職大学院

入学定員 30 名

入学金 300,000 円

授業料 年額 1,316,000 円

夜間授業 有

学位取得 有(組込み技術修士)

社会人の割合 7割

社会人に対し

ての配慮

• 立地、交通アクセス

• 夜間開講

① 設立の背景

「組込み技術」および「組込みソフトウェア開発」は、産業競争力を高める基盤技術で

あると産官学で共通に認識されるようになった。一方で、企業での教育環境の未整備およ

び中小企業の人材育成能力の欠如を考慮し、組込み技術者の人材育成機能が必要と考えた。

さらに、組込み技術という高度 ICT 分野の人材育成、高品質化、研究開発力の向上など、

我が国の産業界が直面している課題を解決するために、専門職大学院組込み技術研究科組

込み技術専攻が設置された。

② 教育内容

1) 専攻の特徴

IPA ソフトウェアエンジニアリングセンターが組込み技術者に求められる素養を整理し

た「組込みスキル標準(ETSS)」に準拠したプログラムで系統的に知識や技術を理解するこ

とができる。系統的な知識を学ぶための講義の他に演習を設けており、実際の製品開発の

流れに即して組込みソフトウェアの開発を学ぶことができる。実際の開発現場ではチーム

メンバーとコミュニケーションを取り、課題を素早く解決できる人材を求められているこ

とから、実際の組込み開発に近い課題を設定し、チームで取り組む「演習」を繰り返し行

う。

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③ 教育カリキュラム

カリキュラムは「座学」で基本的な考え方を学び、「演習」でその活用経験を積む構成。

「座学」として、「現代文明論特論」、「組込みシステム構造特論」、「ユーザビリティ特論」、

「技術戦略特論」、「製品戦略特論」などについて統合的に学習する。

「演習」では、実際の開発と同様にチームで課題に取り組み、問題発生時の対応、全体

コスト管理、コミュニケーション力など、開発プロジェクトリーダとしての能力を育てる。

各開発の段階においてトラブルや、問題回避や問題解決のために有効な手法について、体

験的に学習する事ができる。また、実際の開発プロジェクトと同様に、「要求定義」、「仕様

設計」、「実装」、「テスト」の一連の流れに加え、「プレゼンテーション」、「仕様書の作成」、

「プロジェクトのコスト管理」、「人的リソースの管理」などについても体験的に学習する

ことができ、現実同様のシビアさで取り組む(図 7-17)。

カリキュラムは ETSS に準拠して設計されており、このカリキュラムに沿って学習するこ

とにより、系統的に知識や技術を理解することができるように構成されている。

図 7-17 演習で養う実践力のイメージ(東海大学院大学パンフレットより抜粋)

④ 社会人への配慮

1) 立地・交通アクセス

組込み技術研究科のある高輪キャンパスは、東京南部から神奈川一帯に属しており、国

内有数の ICT 企業が多数存在するエリアとなっている。このような好立地のため、周辺企

業に勤める社会人学生が多数在籍している。また、新幹線のある JR 品川駅や羽田空港に近

いことから、遠距離通学の学生も在籍している。

2) 授業時間

平日の夜間(18:20~21:30)および土曜日(9:20~16:30)に授業時間を設定することに

より、一般企業に勤務しながら通学できるよう便宜を図っている。

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7-53

3) 遠隔通学者への対応

遠隔地からの通学をする学生のために、平日 1日と土曜日の授業のみでも卒業に必要な

最低限の単位を獲得できるようにカリキュラムを構成している。

4) 欠席者へのサポート

業務の都合で欠席をする社会人学生のために、授業において使われた資料の後日入手、

授業内容の撮影もおこなっているため、欠席した授業についても後追ができる。

5) ファシリティの 24時間使用

建物だけでなく全てのファシリティを 24 時間使えるようにしている。

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7-54

5.3 先進事例等におけるインタビュー調査

先進事例の関係者に対するインタビューにより、大学・研究機関等のリカレント教育の

実態やその目的等に関する調査を行った。また、「産業界出身教員の実態に関する調査」に

てリカレント教育に関する内容を上記同様にインタビューした。表 7-19 にインタビュー

項目を示す。

表 7-19 インタビュー項目

【大学・研究機関等の関係者へのインタビュー項目】

• リカレント教育を実施した背景・目的・きっかけ

• 現在実施されているリカレント教育の内容

・ 分野、職種、カリキュラム構成、実践的な演習の内容 等

・ 修了要件・基準 等

• 社会人に対して特に配慮している事項

・ 教育制度、学習環境、その他

• 社会人学生の募集方法、社会人の応募・入学の状況

• リカレント教育の実施に関する成功要因、課題・障害

(制度的課題から学内の意識面での課題まで)

• リカレント教育の実施に関する大学・研究機関側のメリット

• リカレント教育の実施に関する今後の意向 等

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7-55

(1) インタビュー調査結果の概要

① 大学のリカレント教育の実態について

表 7-20 に大学のリカレント教育の実態に関するインタビュー結果を示す。

受講生のほとんどは個人による自己啓発を目的としたものであり、企業派遣の受講生は

少なかった。ただし、トップエスイープログラムや情報セキュリティ大学院大学には企業

派遣の受講者が多く見られた。教育の具体的な内容については様々であるが、何らかの形

で企業ニーズに対応した教育を実施しているケースが多い。例えば、国立情報学研究所で

は、産学連合の体制による教育を実施している。産業技術大学院大学では、産学連携によ

る運営諮問会議を設置し、企業ニーズを定期的に汲み取っている。また、教育を受ける受

講生に関しては、ドクターコースは大企業の研究所出身者が多く、マスターコースは 30

歳前後が主であり大企業以外の出身者が多いという傾向が見受けられた。

表 7-20 インタビュー結果(大学のリカレント教育の実態)

【リカレント教育の特徴】

• 受講生個人の自己啓発が主(企業派遣が多いのはトップエスイープログラムや

情報セキュリティ大学院大学などごく一部)。

• 企業ニーズに対応した教育を実施している。

• ドクターコースの受講者は大企業の研究所出身者が多い。

• マスターコースでは、30歳前後が主であり、大企業以外の出身者が多い。

② 大学側が提供するリカレント教育

表 7-21 にリカレント教育に対する大学側のシーズに関するインタビュー結果を示す。

大学側が想定している育成対象は、総じて高度な IT人材を対象にしている(ソフトウェ

ア工学におけるトップ IT人材、マネジメント能力を備えた情報系分野の高度な技術者の育

成など)。また、組込み系や情報セキュリティなどでは、企業内で育成困難な専門家育成を

対象としていた。

大学側が想定している育成対象のレベル(年齢、企業内での役割)は、ドクターコース

は企業の技術を支える人材が対象(年齢は 40過ぎ、部長、課長クラス)なのに対し、マス

ターコースは社会人経験が 3年以上の現場に精通した技術者となっており、専門性に応じ

て想定する育成対象のレベルにも違いが見られた。

大学側の教育の主な目的は、上記の高度な IT 人材の育成による産業の活性化が主な目的

であったが、地域に位置する大学はそれに加えて、地域社会の貢献を目的としているもの

もあった。

社会人受講生に対して配慮している内容としては、受講生の時間的制約に対する配慮が

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7-56

多く見られた。

表 7-21 インタビュー結果(大学側が提供するリカレント教育)

【育成対象】

• ソフトウェア工学におけるトップ人材の育成

• マネジメント能力を備えた情報系分野の高度な技術者の育成

• 組込み系や情報セキュリティに関する専門家の育成

• ドクターコースは企業の技術を支える人材が対象(年齢は 40 過ぎ、部長、課長

クラス)

• マスターコースは社会人経験が 3年以上の現場に精通した技術者が対象

【教育の目的】

• IT エンジニアの育成による産業の活性化

• (ソフトウェア開発現場に最新の研究成果を導入、技術イノベーションに対応

できる基礎力の習得、情報セキュリティや組込み系などの専門分野の習得)

• 地域社会への貢献

【配慮している内容】

• 長期履修制度

• 科目等履修生

• 短期的に修了できる制度

• 夜間、土日講座

• 建物のファシリティの利用(例えば、24 時間でも利用可のケースがある)

• e ラーニングコンテンツによる教育支援

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7-57

③ 現在のリカレント教育に対する大学側の意見について

表 7-22 に現在のリカレント教育に対する大学側の見解に関するインタビュー結果を示

す。

リカレント教育の認知度向上と企業ニーズの把握ができていないという意見が多かった

(同様の回答をした先進事例の機関は 10機関中 4機関であった)。そして、上記に起因し

「リカレント教育の人材育成の効果が把握できていない。」や「受講生の確保が課題であ

る。」という意見もあった。

また、それ以外の見解として、リカレント教育の育成対象が高度な IT人材を対象にして

いるため、教育する内容が高度であるがゆえ、教育できる教員の数が少ないという意見も

見受けられた。

表 7-22 インタビュー結果(現在のリカレント教育に対する大学側の意見について)

【大学へのリカレント教育に対する意見について】

• リカレント教育の産業界への認知度向上が課題である。

• 企業ニーズが把握できていない。

• リカレント教育の人材育成の効果が把握できていない。

• 受講生の確保が課題である。

• 先端的な内容であるがゆえ、教育できる教員の数が少ない。

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7-58

(2) インタビュー結果の一覧

先進事例におけるインタビュー調査結果の一覧を以下に示す。

インタビュー先

リカレント教育の実態 大学側が提供するリカレント教育

リカレント教育に対する意見

リカレント教育の特徴 分野夜

社会人

社会人の数

社会人割合

育成対象

(リカレント教育のタイプ12)

教育の目的

教育する際の主な配慮

国立情報学研究所

(TopSE プログラム)

・修了生の 70%が社会人。

・産学連合による実践教育。

・企業のニーズに対応(個別

の受入方法の実施、博士コー

スへのパスの設定、課目ごと

の受講が可能などの配慮)。

ソフトウェア工学

○ 55 約 7 割・ソフトウェア工学におけるトッ

プ人材の育成(①)。

【目的】

・ソフトウェア開発現場に最新の研究成

果を導入。

・大学の教育の現場に実践を導入。

【配慮】

・実践につながりやすいカリキュラムを

設定(問題解決型講義、議論中心のグル

ープ演習を実施、修了制作で問題持込指

導)。

・プログラムの認知度向上が必要である。

学位を認定できないため、それに対する

学生のモチベーション低下が課題であ

る。

・先端的な内容であるがゆえ、教育でき

る教員の数が少ない。

産業技術大学院大学

・受講生の 9 割は社会人。30代が最も多い。

・社会人の 9 割は自費受講。

・カリキュラムは ITSSを意識。

・社会人向けの各種支援制度

を整備。

・産学連携による運営諮問会

議を設置。

エンタープライズ

(+ものづくり)

○ ○ 約 45 約 9 割

・マネジメント能力を備えた情報

分野のスーパープレイヤー「情報

アーキテクト」の育成(②)。

【目的】

・エンジニアの育成による産業の活性化。

情報系学科で学ぶ機会がないマネジメン

ト能力を教育。

【配慮】

・単位バンク制度の採用。

・長期履修制度の採用。

・e ラーニングコンテンツによる教育支

援。

・企業の経営層への PR と認知度向上が課

題である(企業の経営層が参画する運営

諮問会議には、企業側への認知度向上の

目的もある)。

・多様な学生のニーズに応える必要があ

る。

北陸先端科学技術大学院大

(組込みシステムコース

[前期/後期])

・組込みソフトウェアの開発

技術、検査・検証技術に特化

した教育を行う。あわせて、

LSI 設計、リアルタイムオペレ

ーティングシステム、プロジ

ェクト管理技術も講義する。

組込み

○ ○ ○

20/

1310 割

・マスターコースは社会人経験が

3 年以上の現場に精通した技術者

の育成(年齢は 20 代後半)(①、

②)。

・ドクターコースは企業の技術を

支える人材(年齢は 40 過ぎ、部

長、課長クラス)(①、②)。

【目的(共通)】

・技術イノベーションに対応できる基礎

力の習得。

・石川キャンパスの周辺のみでは社会人

学生の確保が困難であったため、東京に

サテライトを設けた。

【目的(組込み、先端 IT)】・先端技術と応用力の獲得

【目的(先端ソフト)】

①.現在の技術を使いこなし、

②技術革新に対応し、

③自ら技術革新を促す技術者の育成

・情報科学に対する基礎理論の理解は、

技術イノベーションの必要条件である。

・新しい理論や技術を生産現場に移転す

るためには PBL が必要である。

・PBL による教育効果の評価は今後の課

題である。

北陸先端科学技術大学院大

(先端 IT 基礎コース[前期/後期])

・理論情報学、人間情報処理、

人工知能を基本としてコンピ

ュータシステム&ネットワー

クとソフトウェア工学の一部

を取り込んだ教育を行う。

情報科学

○ ○ ○

11/

910 割 【教育する際の配慮(共通)】

・長期履修制度

修士課程(最大 4 年)

博士課程(最大 6 年)

・短期修了トラック(博士課程、1 年修

12 ①:トップ IT 人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)、②:トップ IT 人材育成型(システム開発者)、③:特定分野 IT 人材育成型

のみ

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7-59

インタビュー先

リカレント教育の実態 大学側が提供するリカレント教育

リカレント教育に対する意見

リカレント教育の特徴 分野夜

社会人

社会人の数

社会人割合

育成対象

(リカレント教育のタイプ12)

教育の目的

教育する際の主な配慮

北陸先端科学技術大学院大

(先端ソフトウェア工学コ

ース)

・国立情報学研究所と連携し

て、基礎理論から PBLまでのすべてをカバーする。博士課

程のみ。

ソフトウェア工学

○ ○ ○ 9 10割

・世界レベルのソフトウェア技術

者の育成(①)。

・主任クラスの人材(40 歳ぐらい)。

・トラック、2 年修了トラックを設けている)。

・東京のサテライトキャンパスに通学し、

学位を取得できる。

・講義は、金、土、日曜日のみ。

・石川と同じネットワーク環境を提供。

・アーカイブした講義を、後に閲覧可能。

・情報科学に対する基礎理論の理解は、

技術イノベーションの必要条件である。

・新しい理論や技術を生産現場に移転す

るためには PBLが必要である。・PBL による教育効果の評価は今後の課題である。

会津大学

・教員の 40%が外国人、大学院学生の 34%は外国人留学生が占める国際キャンパス。

・国際チームによる PBL(アリーナ)。・集中講義や PBLには地域の社会人が参加し、ベンチャー

企業の創出にも力を入れてい

る。

コンピュータサイエ

ンス

○若干

名―

・コンピュータサイエンスの専門

教育(③)。

・体系的な教育(②)。

・国際的 IT人材の育成

【目的】

・地域には長年大学がなく、地域の悲願

を適える形で大学を設立。

・コンピューター分野の先端研究者を全

世界から公募。

・ITベンチャーの育成も推進。【配慮】

タームフリーシステム。

eラーニングシステム。

・地方であるため、ロケーションの問題

から企業からの派遣学生集めが課題であ

る。

情報セキュリティ

大学院大学

・受講生の 85%は社会人。うち 8割は企業派遣。・平均年齢は 30代前半。・1年制コースや社会人向けの各種支援制度を整備。

・セキュリティに関する理

論・技術に加え、法制度・経

営などを総合的に学ぶことが

可能。博士課程も設置されて

いる。

情報セキュリティ

○ ○ 30 約 8.5割・情報セキュリティに関する総合

的な専門家の育成(③)。

【目的】

・情報セキュリティ技術は、ITシステムの中核になるものでありながら、総合的

な教育をしているところがほぼない。

・企業での即戦力育成。

・博士教育の重要性を発信。

【配慮】

・科目履修制度。1年制も併設。・アーカイブ視聴。

・セキュリティに関する重要性と人材育

成の認知向上が課題である。

東海大学組込み専門職大学

・18名中 10名が社会人。平均は 30代。文系出身者はいない。・3・4 社の企業が受講生を派遣。自費受講の受講者が多い。

・基礎から学び直したいとい

う動機が多い。

・企業側への研修提供も実施。

組込み

○ ○ 13 約 7割・組込み技術者のレベルアップ

(企業ニーズに応える教育の提

供)(③)。

【目的】

・製品の機能や信頼性を確保するための、

ソフトウェア開発に絞った専門教育の実

施。

・製品マネジメントができる人材の育成。

【配慮】

・建物のファシリティを 24時間使用できる。

・産業界におけるリカレント教育の内容

の認知度向上が必要である。

のみ

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7-60

「産業界出身教員の実態に関する調査」にて行ったリカレント教育に関するインタビュー結果を以下に示す。

インタビュー先

リカレント教育の実態 リカレント教育に対するシーズ

リカレント教育に対する意見

リカレント教育の特徴 分野夜

社会人

社会人の数

社会人割合

育成対象

(リカレント教育のタイプ)

教育の目的

教育する際の配慮

A 大学

・地域人材育成事業の一環と

して、社会人向け短期合宿組

込みプログラムを実施。

○ 多数 -

・組込み技術者のレベルアップ

(企業ニーズに応える教育の提

供)(③)。

・地域産業の振興。

・直接的な生涯学習への寄与。

・地域・社会への貢献。

・リカレント教育実施のための仕組み作

りが必要である。現在は学外組織が運営

を担当している。

・教育内容は一般の修士コー

スと同じ。

情報システム学

コンピュータ

サイエンス

○ ○ 1~5 -・情報系にかかわる高度な教育

(①、②)。

・受講生集めに苦労している。受講生を

確保するためには、リカレント教育の目

標の明確化と受講によるメリット作りの

確立が必要である。

B 大学

・企業講師が学生向け PBL を

担当する産学連携の一環とし

て、大学教員を企業研修に派

遣。企業内で理論的な組込み

基礎教育を実施。

組込み

○ ○ - -

・組込み技術者のレベルアップ

(企業ニーズに応える教育の提

供)(③)。

・地域産業の振興。

・新入社員への基礎教育。

・中堅社員(5~6 年目)への専門教育。

・企業ニーズを把握し、企業ニーズを汲

みこんだ教育が必要である。

C 大学

・博士課程の在籍者は 57%が

社会人。大手企業の研究所出

身者が多い。

・修士課程では 10 名が社会人。

30 歳前後が中心であり、大企

業以外の出身が多い。

・修士課程の入試制度として

社会人選抜制度がある。

・社会人学生に対しても就職

サポートを行う。

情報システム学

○ ○

約 22/

10-

・情報システム学にかかわる高度

な教育(①、②)。

・社会システム構築者への学位を認定。

・中堅研究者の研究部門としての活躍を

期待。

・学位論文だけではなく、英語およびマ

ネジメント教育を施す。

・社会人への配慮として、夜間講義の充

実が必要である。

D 大学

・企業を退職し入学する学生

が、毎年、一人か二人いる。

・受講者は、研究よりも体系

的な勉強に興味が強い。

コンピュータサ

イエンス ○

若干

名-

・最新技術(①)。

・情報系の体系的な教育(②)。

・産業界は、最新技術を有する若手研究

者のアイデアを謙虚に受け止める必要が

ある。また、生産性の高い他の方法にも

注目することが必要である。

・企業の研究者も、必要な最新技術が事

業部門に受け入れられるための努力をす

べきである。

のみ

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7-61

6. 教育タイプ別に見たリカレント教育(これまでの調査結果から)

6.1 リカレント教育タイプの分類

これまでの調査(「4.情報系分野におけるリカレント教育へのニーズと期待」)により、

リカレント教育に対する産業界のニーズは「社内で実施が困難な教育」に見受けられた。

社内で実施が困難な教育とは、具体的に「最先端や専門性が高い教育」、「高度 IT技術に関

する体系的な教育」および「近年、IT が活用され始めた分野(成長分野、新分野および融

合分野などの特定分野)に関する教育」が主である。

「最先端や専門性が高い教育」に関しては、企業の技術力の向上・保持や事業ニーズか

ら必要であるが、育成すべき人材の数は少なく、教育整備の費用対効果が出にくい。これ

らは、企業内での研究開発や基盤技術の展開を担う高度な技術者の育成を目的としている。

また、「高度 IT 技術に関する体系的な教育」については、技術イノベーションへの対応

や情報系分野の高い業務遂行能力が求められる業務においては必要であるが、企業独自で

体系的な教育を実施することは、コスト(費用・時間)面の問題から実施できていない。

これらは、大規模システムの設計、開発およびマネジメントを担う技術者の育成を目的と

している。

また、「近年、IT が活用され始めた分野(成長分野、新分野および融合分野などの特定

分野)に関する教育」については、企業内で教育体制が確立されていないため、その分野

における教育は充分に実施できていない。これらは、特定分野(成長分野、新分野、融合

分野)に従事する技術者の育成を目的としている。

上記で示した社内で実施が困難な教育について、企業が求める人材像に応じてタイプ分

けを行うと以下のように大別される。

• 最先端や専門性が高い教育 = 「トップ IT 人材育成型(研究開発、基盤技術展開

者)」

• IT 分野の体系的な教育 = 「トップ IT 人材育成型(システム開発者)」

• 近年、ITが活用され始めた分野に関する教育 = 「特定分野 IT 人材育成型」

以下にぞれぞれのリカレント教育タイプの概要を示す。

1) トップ IT人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)

企業が求める人材像:企業内で研究開発や基盤技術の展開を担う高度な技術者

教育する内容 :最先端のソフトウェア工学など

2) トップ IT人材育成型(システム開発者)

企業が求める人材像:大規模システムの設計、開発およびマネジメントを担う技術者

教育する内容 :情報系の体系的な知識・技術やプロジェクトマネジメント

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7-62

3) 特定分野 IT人材育成型

企業が求める人材像:特定分野(成長分野、新分野、融合分野)に従事する技術者

教育する内容 :セキュリティ、組込み、金融、バイオインフォマーテクスなどの特定分野(成

長分野、新分野、融合分野)を対象とした情報系の教育

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7-63

6.2 リカレント教育タイプ一覧

以下にぞれぞれのリカレント教育タイプのまとめを示す。各タイプの詳細については次項以降にて記載する。

産業界 大学

①.トップIT人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)

・研究開発や基盤技術の展開を担う高度な技術者(主に大企業)

「最先端や専門性が高い領域」に関しては、企業の技術力の向上・保持や事業ニーズから必要であるが、育成すべき人材の数は少なく、教育整備の費用対効果が出にくい。

・社内で育成が困難な最先端の技術者の育成へ期待・最先端技術の教育および基礎理論・技術の体系的な教育に対するニーズ

・将来的な技術であるがゆえに短期的な効果が見えにくい。・リカレント教育によって習得する技術はその必要性を感じながらも、企業内で円滑に展開できていない。

・先端的な内容であるがゆえ、教育できる教員の数が少ない。(若手教員の育成)。・(大学単独での周知は実現困難であるため)教育の効果を周知させる手段がない。(教育の効果を確認する手段の開発)。

②.トップIT人材育成型(システム開発者)

・大規模システムの設計、開発およびマネジメントを担う技術者(中小企業から大企業まで)

「体系的な教育を必要とする領域」に関しては、技術イノベーションへの対応や情報系分野の高い業務遂行能力が求められる業務においては必要であるが、企業独自で体系的な教育を実施することは、コスト(費用・時間)面の問題から実施できていない。

・大規模システムのマネージャー等には情報系の体系的な教育がベースとなる。・文系出身で体系的な教育を受ける機会がない人にもニーズが存在する。・学位(修士号)取得にも一定のニーズ

・現場の第一線で活躍する人材をリカレント教育に派遣するのは企業側の負担感が大きい。

・現場の技術者の忙しさを鑑みると、短期化・集中化や柔軟なカリキュラムなどの効率的な学習の提供が重要である。・教育の効果を周知させる手段がない(大学単独での周知は実現困難)。

③.特定分野IT人材育成型

・特定分野(成長分野、新分野、融合分野)に従事する技術者・近年は金融工学やバイオインフォマテクスなどの新しい教育ニーズも生まれている。(中小から大手ITベンダー、ユーザー系IT企業および官公庁まで様々)

金融工学・バイオインフォマティクス等の新たな融合分野等については社内教育体制が整備されていない。

・社内で育成が困難な特定分野の技術者の育成への期待・専門分野に特化した教育に対するニーズ・特定分野の体系的な教育に対するニーズ・企業ニーズが明確なため企業派遣ニーズが存在する。

・ 産業界に存在する重要度の高い特定分野のニーズを迅速に大学側に伝えることが重要である。

・広範囲な教育が必要であるため、教えられる教員の確保が困難・特に新しい分野は教育プログラムが完成するまで時間がかかるため人的・金銭的な負担が大きい。・セミナーや資格試験の専門学校とのすみわけの明確化が重要

共通事項(分野横断的なニーズや課題)

・社内で育成が困難な教育へに対するニーズ・体系的な教育に対するニーズ

・リカレント教育(学位等)のキャリア上の評価やキャリアパスの設定が重要である。・長期にわたる学習や研究に対して時間を確保しにくい。・企業側のニーズを大学側へ発信できていない。

・企業内教育・民間教育事業者との差別化が重要・企業ニーズを汲みこんだカリキュラムの設定・時間的制約の中での効果的教育方法(eラーニング、科目等履修制度など)・企業の実プロジェクト等と連動した教育における秘密保持等の取り扱い。・企業側のニーズを受信できていない。

リカレント教育の課題リカレント教育のタイプ

ニーズの背景 リカレント教育の期待・ニーズ企業が求める人材像

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7-64

6.3 トップ IT人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)

(1) 企業が求める人材像

トップ IT 人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)のリカレント教育における企業が

求める人材像は、企業内で研究開発や基盤技術の展開を担う高度な技術者である。また、

最先端の技術は会社全体の技術を統括している部門に集約し、活用していくことが企業

にとっては効率的であることから、トップ IT 人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)

のリカレント教育の教育対象は、会社全体の技術を統括している研究開発部門や基盤技

術部門に所属する研究人材や中核人材が想定される。

(2) 企業におけるリカレント教育のニーズ

① 社内で育成が困難な最先端の技術者の育成へのニーズ

企業独自で大学等で行われている先端的な研究開発を行う部門を抱えることは、ビジ

ネスに直接的に繋がるものでないことが多いため、一般的に少ない。そのため、育成の

対象となる技術者の数は限られ、企業によっては人材育成方法が確立されていない場合

がある。また、そのような技術者は最先端の研究開発等から育成されるため、社内だけ

では育成が困難である場合が多い。一方、最先端の技術者は将来的に企業の技術力強化

に貢献するため、必要な人材であるといえる。

そのため、最先端の教育機関に対し、トップ IT 人材の育成を行う教育機能としての役

割が期待されている。

② 最先端技術の教育および基礎的な知識・技術の体系的な教育に対するニーズ

トップ IT 人材は、現在の最先端の技術を実問題に適用するだけではなく、将来の技術

イノベーションに対しても対応していくことが求められ、そのようなトップ IT 人材を育

成するためには、最先端の技術だけではなく、最先端の技術の根っこにある基礎理論お

よび技術を体系的に学ぶ必要がある。そのため、大学等のリカレント教育では、最先端

の技術教育および基礎的な理論・技術の体系的な教育に対するニーズが高い。

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7-65

(3) リカレント教育の課題

① 産業界の課題

1) 長期にわたるリカレント教育に対する企業側の理解

長期にわたる学習や研究に対して時間を確保しにくいと予想される。このとき対象の

教育(学習)効果が、漠然とした(長期的には有用であるが短期的には効果の見えにく

い)「問題発見・解決能力の習得」のみでは、所属先の理解も得にくいと予想される。

上記の理解は、リカレント教育にて業務で扱う題材と密接に関係する学習・研究テー

マを扱うことで学習あるいは学位取得に至る研究成果を業務へと直接に活用しやすくす

ること等によって得られる可能性がある。

2) その他の課題

• リカレント教育の効果を高めるためには、その教育を受けたものから企業内での展

開策について事例を含め用意することが必要。

• 博士課程に対する支援を行う企業も存在するが、博士課程に到る前の事前学習の機

会を用意しないと活用者は限定的にならざるを得ない。

• 現場の人材の受講のためには、そのインセンティブを高めるためにも、社内研修・

社内キャリアパスとの連携が必要。

② 大学の課題

1) 最先端の技術教育に対応する教員の確保

教育内容が先端的であるがゆえに教育できる教員の数が少なく、教員の確保(および

若手教員の育成)が課題。特に、通常の大学研究・教育業務とは別に追加的にトップ IT

人材育成に従事することは、短期的には可能としても長期的に継続ならびに発展させに

くいものであり、専門の教育担当者を雇用し配置することが望ましい。

2) 柔軟な教育プログラムの提供と教育の質の確保

時間的制約が多い社会人受講生への配慮として、教育プログラムの内容を受講者のニ

ーズに合わせて絞り、短期間での受講を可能にすることも考えられる。ただし、トップ

IT 人材として備えるべき知識・技術の体系性、ならびに、履修終了時における品質につ

いては一定の水準を保持すべきであり、履修修了判定の厳格化といった工夫が必要であ

る。

3) 産業界への PR

企業ニーズに沿った効果的なリカレント教育を実施している場合であっても、産業界

への PR が不十分だと実際の受講には繋がりにくい。産業界側にも「どのような講座があ

るのか知らない」との声が多く、産業界に対する効果的な PR 手段の確保(教育の内容を

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7-66

確認する手段の開発)が課題となる。

(4) リカレント教育の事例

トップ IT 人材育成型(研究開発、基盤技術展開者)におけるリカレント教育の事例と

活用する目的およびその効果は下記の通り。

① 国立情報学研究所:トップエスイー教育プログラム

1) 教育概要

「先端的な技術を活用できない」大学と「実践の場で科学が活用できない」企業との

ギャップを埋めることを主たる目的としたプログラムであり、受講生のほとんどは社会

人(IT エンジニア)。具体的な教育内容は、演習を中心に先端的なツールや手法を教え、

モデリング能力やツール・手法の適用能力の向上を図り、モデリング・ツール適用によ

る問題発見・解決能力を習得する。

2) 企業の活用目的

• 社内で教育できない、先端のソフトウェア工学に関する教育

ソフトウェア開発には、モデリング能力やツール・手法の活用が必要不可欠で

あり、社内ではその最先端な教育を行うことができない。そのため、本プログ

ラムによる最先端のモデリング能力やツール・手法の活用の習得を目的として

いる。

• 別分野からソフトウェア工学分野に移った研究員の教育

別分野からソフトウェア工学分野に移った研究員に、最先端のソフトウェア工

学をしっかり学ばせる目的で活用する。

• 研究の視点での技術の再整理

SE のバックグラウンドをもつ研究員に対し、本人の培った技術を研究の視点で

再整理してもらうため本プログラムを活用する。

• 業務に必要となる知識・技術の習得

一般の修士・博士コースと異なり、本プログラムで習得するモデリングや形式

手法は業務に直接的につながってくる可能性があり、その知識・技術の習得を

目的としている。

3) 受講の効果

• 難易度の高い問題領域に対する高品質なソフトウェアの開発

これまでの知識・技術では困難であった複雑、大規模、曖昧な難易度が高い問

題領域に対して、習得した最先端の技術・知識を活用することにより高品質な

ソフトウェア開発ができる。

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7-67

• 受講した技術者のモチベーションの向上

本プログラムを受講した技術者は、企業では学ぶことが少ない最先端の技術・

知識を学ぶことにより、学ぶ楽しさや成長を実感することができるため、本人

のモチベーションの向上につながる。

• 人材ネットワークの構築

様々な企業に所属する社会人が本プログラムに参加するため、受講者同士の人

材ネットワークが構築される。

• 技術力の全体の底上げ

トップ SE で学んだ内容が業務に直接的に繋がるものでない場合でも、技術力の

全体の底上げがなされる。

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7-68

② 北陸先端科学技術大学院大学:先端ソフトウェア工学コース

1) 教育概要

ソフトウェア開発現場とつながった新しい技術の提供や理論の展開を行う能力を有し、

開発現場において率先して最先端の研究成果を導入し、技術イノベーションを実現する

ことのできる人材の輩出を目的として、国立情報学研究所と連携しつつ、博士相当レベ

ルの人材育成を実施。国立情報学研究所トップエスイー教育プログラムと連携した社会

人向けコースであり、東京のサテライトキャンパスにて教育を実施。

2) 企業の活用目的

• トップエスイー教育プログラムと連携したさらなる研究

トップエスイー教育プログラムの受講者については、これまで学んできた内容

を土台にさらなる研究を行うことを目的とする。

3) 受講の効果

• 問題発見・解決能力の習得

ソフトウェア工学に関する研究を行い論文にまとめるプロセスを通じて、研究

者やエンジニアとして必要な問題発見・解決能力を訓練できる。

• 学位の取得

本コースによってその研究業績を上げることにより、学位(博士号)が認定さ

れる。

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7-69

6.4 トップ IT人材育成型(システム開発者)

(1) 企業が求める人材像

トップ IT 人材育成型(システム開発者)における企業が求める人材像は、大規模シス

テムの設計、開発およびマネジメントを担う技術者である。このような技術者の育成は、

情報系の体系的な知識・技術やプロジェクトマネジメントに関する教育が必要となるこ

とから、企業の規模に係わらず、コスト(費用・時間)面からその提供は困難である。

そのため、中小企業から大企業まで幅広くシステム開発に携わる現場の人材がその対象

となる。

(2) 企業におけるリカレント教育のニーズ

1) 情報系の体系的な教育に対するニーズ

現場の技術者は、実務を通じて業務遂行能力を向上しているものの、トップの IT 人材

(大規模システムのマネジャー等)には、部下やプロジェクトメンバーを指導するバッ

クボーンとして情報系の体系的な知識・技術が求められる。一方、企業単独でこうした

体系的な教育体制を整備することは、コスト(費用・時間)面から困難なケースが多く、

大学等のリカレント教育に対する一定のニーズが存在。

(3) リカレント教育の課題

① 産業界の課題

1) 現場の人材を派遣することに対する企業の負担

本タイプの主な育成対象はシステム開発に携わる現場の人材であるため、現在の業務

を離してリカレント教育へ派遣するのは、要員確保という側面から企業側の負担が大き

く、リカレント教育を活用する際の最大の課題となっている。

2) 教育効果に対する企業の理解

体系的な教育はその教育効果が漠然としていると感じる企業も多く、受講者派遣を躊

躇する要因の一つとなっている。

3) 社内キャリアパスにおける位置づけ

企業から派遣する人材に対し、社内キャリアパス上の位置づけを示しておかないと、

本人のモチベーションに影響を及ぼすことがあり、リカレント教育が社内キャリアパス

の上でどのように位置づけられるのか明確に示していくことが求められる。

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7-70

② 大学の課題と解決

1) 教育機関の短期化・柔軟なカリキュラムの検討

リカレント教育の主な対象となる現場の人材を派遣することに対する企業の負担が大

きいことから、大学側には、教育の短期化・集中化などの時間的制約に対する緩和、柔

軟なカリキュラム構成などの効率的な学習の提供等が求められる。

2) 産業界への PR

企業ニーズに沿った効果的なリカレント教育を実施している場合であっても、産業界

への PR が不十分だと実際の受講には繋がりにくい。産業界側にも「どのような講座があ

るのか知らない」との声が多く、産業界に対する効果的な PR 手段の確保が課題となる。

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7-71

(4) リカレント教育の事例

トップ IT 人材育成型(システム開発者)におけるリカレント教育の事例と活用する目

的およびその効果は下記の通り。

① 産業技術大学院大学 情報アーキテクチャ専攻

1) 教育概要

実務を現場で実践する高度専門職人材に求められる知識・スキルとこれを使いこなす

実務遂行能力(コンピテンシー)の獲得を目的とした教育を提供している。第一線で活

躍してきた実務家教員と研究業績の高い教員との連携による高度な実践的教育を実施し、

マネジメントの能力を備えた高度な IT 技術者である「情報アーキテクト」人材を育成す

る。

1 年次では多様な経歴の学生にそれぞれの専門実務分野で必要とされる最新の知識・

スキルを体系的に学修して、2 年次ではプレイヤーとしての資質であるコンピテンシー

群を明確化し、PBL のチーム学習によりその強化を図る。運営諮問会議を通じた産業界

とのコミュニケーションの仕組みなど数々の新しい工夫を導入している。

2) 企業の活用目的

• 情報系分野の基礎から応用までの体系的な知識・技術の教育

一般の民間教育ベンダー等では情報系分野の基礎から応用までの体系的な知

識・技術の教育を提供することが難しいことから、大学等のリカレント教育を

活用。

3) 受講の効果

• 体系的な知識・技術の習得による受講者の自信・モチベーションの向上

情報系の体系的な知識・技術を身につけることにより、自信が生まれ、その知

識・技術を活用した業務に対するモチベーションが向上する。

• チャレンジな授業を通じた知識・技術の向上

リカレント教育の PBL では、実際の業務とは異なり、失敗を恐れず様々なこと

がチャレンジできるため、企業内では得られない経験を積むことができる。

• 人材ネットワークの構築

受講生の 9 割が社会人であるため、様々な企業に所属する受講生同士の人材ネ

ットワークが構築されると予想される。

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7-72

② 会津大学 コンピュータ理工学研究科

1) 教育概要

世界的視野を持つ IT 人材の育成を目的とし、コンピュータ理工学部・研究科に特化し

た大学・大学院として平成 5 年に創立。多数の外国人講師を起用し、講義を英語で行う

など高度な IT 教育を実施している。また、産学連携による実践教育も積極的に実施。

本大学では、リカレント教育の意味を、企業からの派遣による人材の教育に留まらず、

海外人材を含めた社会人の教育と、広義に捕らえている。また一般学生に対して IT 人材

の育成を目的とした実践教育を実施しており、この実践教育はリカレント教育にも適し

た内容となっている。

2) 企業の活用目的

• 特定の課題の解決

先進的なナレッジおよび理論体系をリカレント教育によって吸収し、その成果

を現在の業務へ適用することによって、企業が持つ特定の課題の解決を図る。

• IT アーキテクトタイプの人材育成

体系的な教育を通じた業務遂行能力のベースアップと研究指導による先端的な

技術力の習得によって、IT アーキテクトとして必要な知識・技術を習得する。

3) 受講の効果

• 体系的な教育および研究活動を通じた利益の享受

企業は、企業側から実践経験に基づく研究目的、知識、問題意識・課題の提供

すること(研究テーマの持込み)により、リカレント教育の研究成果を活用す

ることができる。また、受講者は体系的な教育を通じ、理論的な考え方を学ぶ

ことができる。

• 国際的 IT 人材の基礎作り

PBL は外国人教員、外国人留学生とプロジェクトチームを組み課題に取り組む

内容であり、トップ IT 人材に必要となるグローバルプロジェクト遂行の経験を

得られる。

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7-73

6.5 特定分野 IT人材育成型

(1) 企業が求める人材像

特定分野 IT 人材育成型のリカレント教育における企業が求める人材像は、セキュリテ

ィや組込みなどの特定分野(成長分野、新分野、融合分野)に従事する専門的知識・ス

キルを持った技術者である。特定分野を扱う機関は、中小から大手 IT ベンダー、ユーザ

ー系 IT 企業および官公庁まで様々である。例えば、セキュリティはネットワークに接続

するリスクの大きな製品に関係する企業等を含めネットワーク接続可能な組み込み製品

を扱う企業全般に関連することが予想される。また、近年は情報セキュリティ対策の高

まりを背景に、官公庁やユーザー企業も対象となる。

近年は金融工学やバイオインフォマテクス、創薬などの分野にも IT を活用する分野が

広がってきており、そのような分野に対する新しい教育ニーズも生まれつつある。

(2) 企業におけるリカレント教育のニーズ

① 社内で育成が困難な専門分野の技術者育成に対するニーズ

組込み技術やセキュリティ等の特定分野の専門的知識・スキルを持つ技術者に対する

企業ニーズは一定数存在するが、企業独自で特定分野における教育部門を抱えることは、

専門性が高く、必要とされる人員も相対的に少数であるため、教育体制整備の費用対効

果が出にくい。また、企業によっては人材育成方法が確立されていない場合もある。

そのため、大学等の教育機関に対し、特定分野 IT 人材の育成を行う教育機能としての

役割が期待されている。

② 特定分野の体系的な教育に対するニーズ

特定課題を解決する技術分野は非常に広範囲になることがある。例えば、セキュリテ

ィ等の特定分野によっては、技術だけではなくマネジメントや法体制までの複合分野の

教育が必要となる。そして、そのような分野は企業独自で教育部門を抱えることは難し

い。そのため、体系的な教育が必要な特定分野には、そのような教育ニーズが存在する。

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(3) リカレント教育の課題

① 産業界の課題

1) 重要度の高い特定分野のニーズの発信

IT は様々な分野に活用されてきておりその分野は日々広がってきている。そして、広

がってきている分野に対する技術者を育成するためには、事業を実施している産業界か

ら存在する重要度の高い特定分野のニーズを迅速に大学側に伝えることが重要である。

2) 新しい技術に対して評価できる場

特定分野において新しい技術を実践し、評価できる場が重要である。特にセキュリテ

ィのような広範囲の利害関係者(ステークホルダ)が関係する場合、それぞれの分野の

ステークホルダが参加した仮想的なチームを組み演習を行うことが有効であるため、会

社を超えたチームを組んで実践的な演習を行うための障壁(秘密保持等)をなくすこと

が必要である。

② 大学の課題

1) 特定分野に対応する教員の確保

近年、IT が活用され始めた分野であることおよび広範囲の教育が必要になることが想

定されるため、教えられる教員の確保が困難である。

2) 柔軟なカリキュラムコースの構築

企業側から発信された企業ニーズに併せた柔軟なカリキュラムコースの構築が必要と

なる。その際には、実践的な実習中心の教育を施すことで効率的に問題解決能力を養う

ことができるため、本事項も勘案する必要がある。

3) プロジェクトや研究会などのコミュニティの形成

企業側の重要な特定分野のニーズに合わせた研究・教育が促進されるように、プロジ

ェクトや研究会などのコミュニティが形成しやすくすることが望まれる。ここでの課題

としては、新しい分野であるがゆえに、教育プログラムが完成するまでの人的・金銭的

負担が大きいことが挙げられる。

4) セミナーや資格試験の専門学校とのすみわけ

企業ニーズに基づき教育内容や教育の提供方法等に配慮を行うことは非常に重要であ

るが、その結果、大学が提供する教育が民間教育機関や専門学校と同様のものにならな

いようすみわけを明確にすることも重要である。大学には、その特徴である体系的教育

や将来を見据えた最先端の技術教育など、他では提供できない教育の実施が望まれる。

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(4) リカレント教育の事例

特定分野人材育成型におけるリカレント教育の事例と活用する目的およびその効果は

下記の通り。

① 情報セキュリティ大学院大学 情報セキュリティ研究科 情報セキュリティ専攻

1) 教育概要

本専攻は、情報科学技術、中でも情報セキュリティ技術、それを使いこなすための管

理手法、それらを支える社会システムとしての法制、そして情報に対する諸脅威の現状

などを、総合的に学ぶ所に特徴がある。従って、様々な組織のセキュリティ管理リーダ、

セキュリティ技術の研究開発者、情報社会をリードする技術・ビジネスなどの創造に携

わる人々の育成を目指す。また、様々な先端的な研究テーマを選択して、指導教員の下、

新しい技術や考え方を創造する経験を積み、修了後社会へ出たとき遭遇する新たな問題

に力強く対処できる人材の養成を目指す。

本専攻には中央省庁や地方自治体に加え、IT ベンダー企業、ユーザー企業などから派

遣された学生が在籍している。

2) 企業の活用目的

• 情報セキュリティに関する専門家の育成

中央省庁、地方自治体、ユーザー企業の場合は、情報システム系業務に従事、

または今後の配属が検討されている者で、その運用や情報セキュリティの組織

作りを確立する目的で派遣されている。一方、IT ベンダー企業は、社内やユー

ザのセキュリティ管理手法や開発用の技術を学ばせるために派遣している。

3) 受講の効果

• 情報セキュリティに関する総合的な専門家の輩出

情報セキュリティに必要な「技術」、「管理運営」、「法制度」「情報倫理」を総合

的に学ぶことができ、体系的な知識・技術を身につけることができ、情報セキ

ュリティに関する総合的な専門家が輩出される。

• モチベーションの向上

情報セキュリティに関する知識・技術を活用した業務に対して、自信が生まれ、

本人のモチベーションの向上につながる。

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② 東海大学専門職大学院 組込み技術研究科 組込み技術専攻

1) 教育概要

IPA ソフトウェアエンジニアリングセンターが組込み技術者に求められる素養を整理

した「組込みスキル標準(ETSS)」に準拠したプログラムで系統的に知識や技術を理解す

ることができる。系統的な知識を学ぶための講義の他に演習を設けており、実際の製品

開発の流れに即して組込みソフトウェアの開発を学ぶことができる。実際の開発現場で

はチームメンバーとコミュニケーションを取り、課題を素早く解決できる人材を求めら

れていることから、実際の組込み開発に近い課題を設定し、チームで取り組む「演習」

を繰り返し行う。

2) 企業の活用目的

• 基礎から応用までの組込み技術の学習

プログラミングだけや、勘と経験だけで製品開発を進めていくのではなく、基

礎的な知識・技術がありしっかりとした製品開発をしていかなければならない

という問題意識から、本専攻を活用する。

• キャリアアップの手段

組込み技術について専門性を高め、キャリアアップの手段として活用している。

また技術者以外に技術系の営業担当などで、組込み技術を業務知識として習得

する目的がある。

3) 受講の効果

• 製品マネジメントができる人材の育成

本専攻では、企業では全体プロセスを学ぶ機会は少ない製品開発における全体

プロセス(マーケットリサーチから設計、テスト、商品のセールスまで)を学

習することができる。それにより、製品のマネジメント能力が養われる。

• ソフトウェアによる製品の機能や品質の向上

組込みソフトウェアが高機能化することにより、製品の機能の向上や品質が向

上する。特に自動車のような、本質安全よりも機能安全の確保が極めて重用な

製品では、組込みソフトウェアによる機能安全の確保が重要となる。

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7. 情報系リカレント教育における共通課題と課題への取組み

上記 6.に示した各リカレント教育タイプの全てを通じて共通の課題と思われる事項

を以下のとおり抽出した。また、その課題に対しての具体的な取組みの事例を紹介する。

(1) リカレント教育の内容および効果に対する認知度向上

効果的なリカレント教育を提供することができたとしても、その内容や教育によって

得られる具体的な効果を産業界へ周知させることができないと、リカレント教育の活用

は限定的とならざるを得ない。実際に、企業に対するインタビュー結果等では「どのよ

うな講座があるか知らない」という声が多く、企業側はリカレント教育に関する情報を

充分に入手出来ていない。このため、リカレント教育の内容および効果を産業界に周知

させ、認知度向上を図ることが大きな課題と言える。

こうした課題に対する具体的な取組みとしては、以下の事例が挙げられる。

① 国立情報学研究所

1) 修了制作の公開

トップエスイープログラムの受講者の修了制作をシンポジウムという形で公開するこ

とにより、トップエスイープログラムの教育内容からその効果まで広く周知している。

また、シンポジウムの中では修了生とその関係者とのあいだでのパネルディスカッショ

ンがあり、受講生の生の声を聞くことができる。

(2) ビジネスと直結したリカレント教育の提供

産業界側がリカレント教育を活用する目的は、将来の人材に対する投資であるため、

派遣する企業のビジネスに直結した内容のリカレント教育を提供する必要がある。その

ためには、大学側が企業で必要としている具体的な教育内容(企業ニーズ)を汲み取り、

それに則した教育プログラムを設計および提供する必要がある。

こうした課題に対する具体的な取組みとしては、以下の事例が挙げられる。

① 国立情報学研究所

1) 産学連合による実践教育

協賛企業として、SI ベンダー、コンピュータベンダー、ユーザー系情報システム企業

など数多くの企業が参加しており。その教育内容からカリキュラム設計まで、協賛企業

のニーズが反映された形になっている。また、講座の教材は、国立情報学研究所のメン

バー、大学の教員および協賛企業のエンジニアから構成されるワーキンググループによ

り作成されている。さらに、協賛企業から「高信頼な病院システムの設計/実装」とい

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った実際のシステム開発にて用いられた「実問題」を提供されている。

② 産業技術大学院大学

1) 運営諮問会議の設置

産業界のニーズを把握し、教育内容に反映させるとともに、産業界と連携し効果的な

教育研究を実践するため、産業技術大学院大学が人材育成を行う産業分野の専門家、企

業の経営者等の学外委員を中心メンバーとする運営諮問会議を設置。教育カリキュラム

の妥当性、卒業生のキャリアパス、教員の研修、PBL テーマの共同開発など教育運営体

制に関する広範な課題について産業界の視点から提言を受けている。

(3) 時間的制約に対する配慮

リカレント教育を受講するのは業務を抱える社会人であるため、一般の学生に比して

時間的制約が非常に大きく、多くの受講者は平日昼間の受講は困難であるとともに、教

育のために費やせる時間は限定的にならざるを得ない。そのため、リカレント教育の活

用を促すためには、そうした社会人受講生の時間的制約に対する十分な配慮が必要であ

る。

こうした課題に対する具体的な取組みとしては、以下の事例が挙げられる。

① 国立情報学研究所、産業技術大学院大学など

1) 夜間・土曜日開講制

平日夜間及び土曜日に講義を実施し、社会人学生が仕事を終えてからでも受講可能な

授業時間を設定する。

② 産業技術大学院大学

1) 短期集中型履修のクォータ制

従来の大学院教育は、一定期間で広域的な学習領域をカバーするために、前後期制を

採用しているのが通例だが、専門的知識や技能を短期間に集中して修得できるよう、1

年を 4期に区分するのがクォータ制である。各科目は週 2 回講義を行うことで、約 2 ヵ

月という短期間で 1 つの科目を履修することができる。

③ 北陸先端技術大学院大学

1) 短期修了トラック(博士後期課程)

優れた研究業績を上げた場合、または優れた技術開発による社会的貢献がある場合に

は、それぞれ 1 年修了トラックまたは 2 年修了トラックの資格が与えられる。

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④ 産業技術大学院大学、北陸先端技術大学院大学など

1) eラーニング

講義をビデオ録画し、e ラーニングシステムを利用して遠隔から視聴することを可能

にする。欠席した授業の補完等に利用される。

2) 長期履修制度

仕事の都合等により、標準修業年限(修士の場合 2年、博士の場合 3 年)で修了する

ことが困難である場合に、標準修業年限以上の修業年限を認める制度である。

⑤ 産業技術大学院大学、情報セキュリティ大学院大学など

1) 科目等履修生制度

入学前に取得した単位を正規課程に入学した場合に単位として認定する「科目等履修

生制度」を設置しており、特に自己資金で入学する社会人の利便性を図っている。

⑥ 東海大学組込み専門職大学院

1) ファシリティの 24時間使用

建物だけでなく全てのファシリティを 24 時間使えるようにしている。

(4) 企業内キャリアパスとの連携

リカレント教育で得た知識や技術を企業内で円滑に展開し、費用対効果を大きなもの

にするためには、リカレント教育を企業内キャリアパスの中で明確に位置づけるととも

に、その位置づけ受講者本人に明示することが必要である。これにより、受講者の目的

意識が明確化されるとともにモチベーション向上が図られ、企業側が懸念するリカレン

ト教育終了後の転職に対しても一定の抑止効果を期待することができる。

企業側の具体的な取組みとしては以下のような事例が挙げられる。

• 研修を受けて戻ってきた人に対して、それを活用できる職務を割り当てるようにし

ている。

• 先端的な技術を習得し、その技術を社内で展開するために、戻ってきてから企業内

の講師としての職務を割り当てた。

• 自社の強くない分野(例えばソフトウェア工学など)を把握し、それをリカレント

教育で補間するようにしている。

• 別分野からソフトウェア工学分野の研究に移った研究員に、最先端のソフトウェア

工学を学ばせる目的で派遣した(キャリア転換したものに対するベースアップとし

て活用)。また、

• SE のバックグランドをもつ研究員の場合は、自身の培った技術を研究の視点で再整

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理することを目的とした(研究という視点での再整理)。

以上