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日本機械学会論文集(C 編) 原著論文 No.2011-JCR-0979 © 2012 The Japan Society of Mechanical Engineers 組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究 (基本ハルバッハ配列磁石を用いた磁気ダンパ) 木村 貴裕 *1 ,高山 佳久 *2 ,近藤 孝広 *3 ,雉本 信哉 *2 Study on Magnetic Damper Composed of Combined Magnets (Magnetic Damper Composed of Basic Halbach Magnet Arrays) Takahiro KIMURA *1 ,Yoshihisa TAKAYAMA Takahiro KONDOU and Shinya KIJIMOTO *1 Kyushu Univ. Dept. of Mechanical Engineering Motooka 744, Nishi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395 Japan The damping force of a magnetic damper is based on the Lorentz force. That is to say, the magnetic damping force is generated in the direction opposite to the relative motion of a conductor with respect to a magnet. Normally, a magnetic damper uses two conducting plates facing the opposite sides of a magnet. If only one side of the magnet is used, the magnetic damping force is less. In the present work, a new magnetic damper composed of Halbach magnet arrays arranged in three parallel lines is proposed. A basic Halbach magnet array consists of five magnet cubes that are glued in the specific directions relative to each other, and is characterized as having a strong magnetic field on one side and a weak field on the other. For this reason, it is possible to realize a high-performance magnetic damper using only one side of a magnet. The magnetic fields of the Halbach magnet arrays of the new magnetic damper we are proposing, together with other magnet arrays, were investigated analytically using Biot–Savart’s Law. Furthermore, the proposed magnetic damper was fabricated and tested. The experimental results were compared with the analytical results. As a result, the effectiveness of the new magnetic damper was confirmed. Key Words : Damping, Damper, Vibration Control Device, Magnet Damper, Eddy Current Damper, Halbach Magnet Array, Faraday’s Law, Lorentz Force, Biot-Savart’s Law 1. 磁気ダンパは,磁石と導体板で構成され,振動を減衰させる装置である.磁石に対して導体板を相対運動させ ると,導体板中の磁界が変化し誘導電流が発生する.フレミングの左手則により誘導電流にはローレンツ力が働 き,導体板は運動方向と逆向きの力を受ける.磁気ダンパはこの力を利用して機械の振動を減衰させる.磁気ダ ンパの利点として,非接触で使用可能であり,真空中でさえ減衰力を発生させることができるということがあげ られる.非接触であるので摩擦による摩耗の心配がなく,宇宙ステーションのような特殊な環境下での応用も期 待できる.一方,他のダンパに比べて減衰力が小さいという欠点がある.この減衰力が小さいという欠点を補う ため,長屋ら (1) は,相対速度を上げることによって,磁気減衰力を増加させることを試みた.また,松岡ら (2) は, 振動変位を拡大することによって磁気減衰力を増加させる研究を行っている. 著者らは,それらの研究とは異な り,磁石の形状や配置を工夫することによって,磁気ダンパの磁気減衰力を増加させる研究を行っている (3) .著 者らのこれまでの研究により,磁束密度を単に大きくするのではなく,磁気ダンパに適した磁界の分布を意識的 に作ることにより,高い減衰性能を持つ磁気ダンパが製作可能であることがわかった.すなわち,導体板中の磁 束密度の絶対値が大きくかつ導体板中の平均磁束密度が 0 になるような磁界が実現できれば磁気ダンパによる磁 気減衰比は非常に大きくなる.例えば,2 つのリング状磁石を磁極の向きが反対になるようにして同心円状に組 み合わせると,減衰比にして 0.25 以上の高い減衰性能が得られる (3) .この磁気ダンパは回転体用の磁気ダンパと して開発したが,回転体ではない様々な機械への適用も可能である.この回転体用磁気ダンパでは,磁石の両側 に導体板を配置して磁気減衰力を高めている.しかし,実際に稼動している機械に振動対策をする場合,導体板 をその機械の振動箇所に外付けし,導体板と対向した位置で磁石の片面だけを利用して磁気ダンパを構成するほ *1 学生員,九州大学大学院工学府(〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744*2 正員,九州大学大学院工学研究院(〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744*3 正員,フェロー,九州大学大学院工学研究院(〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744E-mail: [email protected] * 原稿受付 2011 10 28 改訂原稿受付日 2012 3 13 78 巻 789 号 (2012-5) 1691 ― 387 ―

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日本機械学会論文集(C編) 原著論文 No.2011-JCR-0979

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究* (基本ハルバッハ配列磁石を用いた磁気ダンパ)

木村 貴裕*1,高山 佳久*2,近藤 孝広*3,雉本 信哉*2

Study on Magnetic Damper Composed of Combined Magnets (Magnetic Damper Composed of Basic Halbach Magnet Arrays)

Takahiro KIMURA*1,Yoshihisa TAKAYAMA Takahiro KONDOU and Shinya KIJIMOTO

*1Kyushu Univ. Dept. of Mechanical Engineering Motooka 744, Nishi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395 Japan

The damping force of a magnetic damper is based on the Lorentz force. That is to say, the magnetic damping force is generated in the direction opposite to the relative motion of a conductor with respect to a magnet. Normally, a magnetic damper uses two conducting plates facing the opposite sides of a magnet. If only one side of the magnet is used, the magnetic damping force is less. In the present work, a new magnetic damper composed of Halbach magnet arrays arranged in three parallel lines is proposed. A basic Halbach magnet array consists of five magnet cubes that are glued in the specific directions relative to each other, and is characterized as having a strong magnetic field on one side and a weak field on the other. For this reason, it is possible to realize a high-performance magnetic damper using only one side of a magnet. The magnetic fields of the Halbach magnet arrays of the new magnetic damper we are proposing, together with other magnet arrays, were investigated analytically using Biot–Savart’s Law. Furthermore, the proposed magnetic damper was fabricated and tested. The experimental results were compared with the analytical results. As a result, the effectiveness of the new magnetic damper was confirmed.

Key Words : Damping, Damper, Vibration Control Device, Magnet Damper, Eddy Current Damper, Halbach Magnet Array, Faraday’s Law, Lorentz Force, Biot-Savart’s Law

1. 緒 言

磁気ダンパは,磁石と導体板で構成され,振動を減衰させる装置である.磁石に対して導体板を相対運動させ

ると,導体板中の磁界が変化し誘導電流が発生する.フレミングの左手則により誘導電流にはローレンツ力が働

き,導体板は運動方向と逆向きの力を受ける.磁気ダンパはこの力を利用して機械の振動を減衰させる.磁気ダ

ンパの利点として,非接触で使用可能であり,真空中でさえ減衰力を発生させることができるということがあげ

られる.非接触であるので摩擦による摩耗の心配がなく,宇宙ステーションのような特殊な環境下での応用も期

待できる.一方,他のダンパに比べて減衰力が小さいという欠点がある.この減衰力が小さいという欠点を補う

ため,長屋ら(1)は,相対速度を上げることによって,磁気減衰力を増加させることを試みた.また,松岡ら(2)は,

振動変位を拡大することによって磁気減衰力を増加させる研究を行っている. 著者らは,それらの研究とは異な

り,磁石の形状や配置を工夫することによって,磁気ダンパの磁気減衰力を増加させる研究を行っている(3).著

者らのこれまでの研究により,磁束密度を単に大きくするのではなく,磁気ダンパに適した磁界の分布を意識的

に作ることにより,高い減衰性能を持つ磁気ダンパが製作可能であることがわかった.すなわち,導体板中の磁

束密度の絶対値が大きくかつ導体板中の平均磁束密度が 0 になるような磁界が実現できれば磁気ダンパによる磁

気減衰比は非常に大きくなる.例えば,2 つのリング状磁石を磁極の向きが反対になるようにして同心円状に組

み合わせると,減衰比にして 0.25 以上の高い減衰性能が得られる(3).この磁気ダンパは回転体用の磁気ダンパと

して開発したが,回転体ではない様々な機械への適用も可能である.この回転体用磁気ダンパでは,磁石の両側

に導体板を配置して磁気減衰力を高めている.しかし,実際に稼動している機械に振動対策をする場合,導体板

をその機械の振動箇所に外付けし,導体板と対向した位置で磁石の片面だけを利用して磁気ダンパを構成するほ

*1 学生員,九州大学大学院工学府(〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744) *2 正員,九州大学大学院工学研究院(〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744) *3 正員,フェロー,九州大学大学院工学研究院(〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡 744) E-mail: [email protected]

* 原稿受付 2011 年 10 月 28 日 改訂原稿受付日 2012 年 3 月 13 日

78 巻 789 号 (2012-5)

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

うが実用的であると思われる.そのため,通常磁石の両側で対称な磁界を,幾つかの磁石を組み合わせることに

よって磁石の片側のみに集中させ磁気ダンパに適した磁界分布を作ることが出来れば,実用的でしかも減衰性能

の高い磁気ダンパが可能になる. 磁界分布を磁石の片側に集中させる方法は,ハルバッハ配列(4)を使うと実現できることが知られている.その

うえ,ハルバッハ配列による磁界分布は,磁束密度の最も大きい山の部分と最も小さい谷の部分から構成される

ため,導体板中の平均磁束密度も小さくできる可能性がある.本報では,立方体磁石を使ってハルバッハ配列を

構成し,磁気減衰力を増加させることを検討した.また,比較のために,他の磁石配列からなる磁気ダンパの磁

気減衰力を計算し,ハルバッハ配列磁石を使った磁気ダンパの有効性を確認した.

2. 磁気減衰力とハルバッハ配列磁石

2・1 磁界分布と磁気減衰力

図 1 のように静止座標系O− xyz をとり,はりの長手方向を x軸,導体板上で x軸と直交する方向(振動方向)

を y軸,導体板に垂直な方向を z軸とする.導体板の y軸方向速度を y,導体板中の任意の点 x, y, z( )の z軸方向

磁束密度をBz x, y, z( ),導電率をσ とすると,導体板にはたらく振動方向の磁気減衰力Fyは次式で表される(5)-(7).

Fy = −

12σ y Bz x, y, z( )2 −Bz0

2⎡⎣

⎤⎦dV

V∫ = −c1y (1)

ここに,V は導体板の体積である.導体板内の平均磁束密度Bz0および磁気ダンパによる減衰係数c1は次式で表

される.

Bz0 =1V

Bz x, y, z( )dVV∫ (2)

c1 = −12σ Bz x, y, z( )2 − Bz0

2⎡⎣

⎤⎦dV

V∫ (3)

式(1)より,磁気減衰力の大きさは導体板内の磁束密度分布によって決まり,導体内の磁束密度の絶対値が大き

くかつ平均磁束密度が小さいほど磁気減衰力が大きくなることがわかる.このような条件を満たす磁束密度分布

を作ることにより大きな減衰を持つ磁気ダンパを実現することができる(3). 2・2 直方体磁石の磁束密度 図 2 のように,磁極が上向きである1つの直方体磁石を 個( )に分け,それぞれを四角形ループで近

似する.図 3 のように座標系を定義し,k番目の四角形ループを電流 Ikが反時計回りに流れているとする.この

とき,磁極の向きは z軸の向きになる.ビオ・サバールの法則を使うと,空間上の任意の点 における磁束密度

は次式で表される.式中の記号は図 3 中の記号を表す.

n n ≥ 2

P

′B P( ) =′Bx P( )′By P( )′Bz P( )

⎢⎢⎢⎢

⎥⎥⎥⎥

= μ0Ik

4π1

xp − a( )2+ zpk

2

yp + b

xp − a( )2+ yp + b( ) + zpk

2−

yp − b

xp − a( )2+ yp − b( ) + zpk

2

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

zpk

0a− xp

⎢⎢⎢⎢

⎥⎥⎥⎥

Fig. 1 Modeling of magnetic damper

1692

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

(4)

ネオジム磁石の場合,電流 は近似的に次式のように表すことができる(8).

(5)

ここに, , , および はそれぞれ,磁石の厚さ,磁化,残留磁束密度および真空の透磁率を表す.図 2のように,n本のループで近似する場合,1本のループを流れる電流 Ikは Ik = I / nとなる.本論文では,n =100とし,一辺が 18 mm の立方体磁石を 5 つ用いてハルバッハ配列磁石として磁界の分布を計算した. 2・3 ハルバッハ配列 ハルバッハ配列とは,5 つの立方体磁石を,図 4 のような磁極の向きで並べたものであり,上面で磁界が強く

なり,逆に下面では磁界が弱くなることが知られている(4).本節では,ハルバッハ配列磁石が発生する磁界分布

が,上面で強い磁界,下面で弱い磁界を形成することを確認する.2・2 節で述べたように,ビオ・サバールの法

則を用いると立方体磁石の磁界分布を求めることができる.図 4 に示したハルバッハ配列の左側 2 つの立方体磁

石(1 辺 18 mm)を例にとり,磁界分布の重ね合わせによる上面・下面の磁束密度の大きさの違いについて説明

する.図 5 は,立方体磁石の上面から 1 mm 離れた位置で,磁石の上面から上向きに出る磁束密度分布を表して

いる.図 5 上図は,図 4 に示した最も左側の磁石の磁界分布を表し,図 5 下図は,図 4 の左から 2 番目の磁石の

磁界分布を表す.図 5 の縦軸は, z方向磁束密度の強さと向きを表す.同様に,図 6 は,立方体磁石の下面から

1 mm 離れた位置で,磁石の下面に下から上向きに入る磁束密度の向きと強さを表している.図 5 の 2 つの磁界

分布を重ね合わせると,磁石上面の磁界が強められる.逆に,図 6 の 2 つの磁界分布を重ね合わせると,磁石下

面の磁界が弱められる.さらに,図 4 の他の立方体磁石の磁界分布に対しても同様の重ね合わせを行うことで,

図 7 のような磁界分布が実現できる.図 7 の縦軸は, z方向磁束密度の強さと向きを表す.図 7 を見ると,磁石

の上面で磁界が強く,下面で磁界が弱くなっており,上面・下面で非対称な磁界分布となっていることがわかる.

+μ0Ik

4π1

yp − b( )2+ zpk

2

xp − a

xp − a( )2+ yp − b( ) + zpk

2−

xp + a

xp + a( )2+ yp − b( ) + zpk

2

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

0−zpk

yp − b

⎢⎢⎢⎢

⎥⎥⎥⎥

+ μ0Ik

4π1

xp + a( )2+ zpk

2

yp − b

xp + a( )2+ yp − b( ) + zpk

2−

yp + a

xp + a( )2+ yp + b( ) + zpk

2

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

zpk

0a− xp

⎢⎢⎢⎢

⎥⎥⎥⎥

+ μ0Ik

4π1

yp − b( )2+ zpk

2

xp + b

xp + a( )2+ yp + b( ) + zpk

2−

xp − a

xp − a( )2+ yp + b( ) + zpk

2

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

0−zpk

yp + b

⎢⎢⎢⎢

⎥⎥⎥⎥

I

I = t M ≅ t Bres μ0( )

t M Bres μ0

Fig. 3 Coordinate system and current loop Fig. 2 Modeling of magnet cube

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

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図 7(a)のような磁束密度分布を導体板内に作ると,磁束密度の絶対値は大きくなり,磁束密度の体積平均は小

さくなる.このように,ハルバッハ配列磁石を使うと磁気ダンパの磁気減衰力が大きくなる可能性があることが

わかった.

Fig. 7 Magnetic flux density distribution of Halbach magnet array

(a) Upper side of magnet (b) Under side of magnet

Fig. 4 Halbach magnet array

Fig. 5 Magnetic flux density distribution of each magnet (Upper side of Halbach magnet array)

Fig. 6 Magnetic flux density distribution of each magnet (Under side of Halbach magnet array)

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

©2012 The Japan Society of Mechanical Engineers

3. 実験結果と考察

3・1 ハルバッハ配列および他の磁石列の減衰係数

2・3 節で述べたように,ハルバッハ配列磁石の磁界が強い面を磁気ダンパに用いれば,大きな減衰性能が得ら

れると考えられる.本節では,ハルバッハ配列磁石や他の配列磁石で構成された磁気ダンパによる減衰係数を計

算し,ハルバッハ配列磁石を使った磁気ダンパの有効性を確認する. 図 8,図 9 に 2 種類のハルバッハ配列磁石を示す.図 8(Type 1)は,図 4 のハルバッハ配列を,立方体磁石の

1 辺の長さの距離を空けて(図 9 から図 11 の磁石列も同じ距離空ける.),3 列並べたものである.ただし,2列目のハルバッハ配列磁石を 180 度回転させている.図 9(Type 2)は,3 列とも同じ向きにして並べたものであ

る.また比較のため,磁石の N 極と S 極を交互に並べた配列磁石(図 10;Type 3)や,すべての立方体磁石が N極を向いた配列磁石(図 11;Type 4)の減衰係数も計算する.これらの磁石列に用いている立方体磁石はすべて

一辺 18 mm である.導体板として,一辺 110 mm,厚さ 2 mm の正方形銅板を用い,2 列目の中央の磁石の中心と

正方形銅板の図心が対向した位置で正方形の辺と磁石列を平行にとって,正方形銅板の面と磁石のすきま を変

え,式(3)を用いて磁気ダンパによる減衰係数を計算した.なお,磁石の配列以外はすべて同じ条件で計算した.

それぞれの磁石列を使用した磁気ダンパの減衰係数の計算結果を図 12 に示す.図 12 の■,▲,▼,●は,それ

ぞれ図 8,9,10 および 11 に示した磁石列を使った磁気ダンパの減衰係数の計算結果を示す.図 12 を見ると,ハ

ルバッハ配列磁石を使った場合が最も大きな減衰係数となることがわかった.ハルバッハ配列を用いると(■,

▲),すべて N 極を向いた配列磁石を使った場合(●)に比べて 2 倍以上の減衰係数を実現でき,最も減衰性能

が高いことがわかる.この結果から,ハルバッハ配列磁石を使った磁気ダンパの有効性が確認できた.また,図

12 からわかるように,2 列目のハルバッハ配列を 180 度回転させた場合(■)と回転させていない場合(▲)で

減衰係数を比較するとほとんど差は見られなかった.式(1)で示したように,減衰力は導体板を貫く磁束密度 と

その平均値である平均磁束密度 によって決まる.図 13 に 2 列目を 180 度回転させた磁石列(図 8;Type 1)の磁石上面から 1 mm 離れた位置での磁束密度の分布を,図 14 に 3 列を同じ向きに並べた磁石列(図 9;Type 2)の磁石上面から 1 mm 離れた位置での磁束密度の分布を示す.2 つの分布を見ると,磁束密度の山と谷の高さと

個数が同じで, , ともほぼ同じになるので,減衰係数がほとんど等しくなることがわかる.解析上はどち

らのハルバッハ配列磁石を採用しても良いことがわかったが,3 列を同じ向きに並べた磁石列(図 9;Type 2)は,

N 極や S 極どうしの位置が近いので反発力が強く製作が難しいと思われたので,図 8(Type 1)に示したハルバ

ッハ配列磁石を使った磁気ダンパを製作して,実験を行うこととした.

d

Bz

Bz0

Bz Bz0

Fig. 8 Halbach type 1 of three lines of Halbach magnet array

Fig. 9 Halbach type 2 of three lines of Halbach magnet array

1695

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

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3・2 実験装置 図 15 に実験装置の全体図を示す.はり(Beam,材質:SUS304)の両端をねじで支柱(黄銅)に固定し,はり

の中心には,大きさが縦 110 mm,横 110 mm,厚さ 2 mm の正方形銅板をねじで固定した.この銅板と対向した

位置に,図 8(Type 1)のようなハルバッハ配列磁石を取り付けた.立方体磁石は 1 辺 18 mm で,磁石列間に縦

18 mm,横 18 mm,長さ 90 mm の直方体(材質:アクリル)をはさんで接着し,アクリルの台座に取り付けた.

アクリルの台座を z軸方向に動かすことにより,磁石−導体間距離d を変えることができる.図 16(a)に正面図,

(b)に上から見た図を示す.はりと磁石の物性値を付録 A に示す.はりの中央の位置の上部に加速度ピックアップ

Fig. 13 Magnetic field distribution of Halbach type 1 (see Fig. 8)

Fig. 14 Magnetic field distribution of Halbach type 2 (see Fig. 9)

0 2 4 6 8 100

10

20

30

40

50

Distance between magnet and conductor d mm

Dam

ping

coe

ffic

ient

c1 N

s/m

Halbach type 1Halbach type 2Type 3Type 4

Fig. 12 Damping coefficients

Fig. 10 Type 3 of three lines of magnet array Fig. 11 Type 4 of three lines of magnet array

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

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が接着してあり(図 16(b)参照),はりを垂直下方に打撃し,減衰波形から減衰比ζ1を求め,式(13)から減衰係数 c1

を計算する. 3・3 減衰係数

磁石を設置しない状態で求めた減衰比は,磁気ダンパに関係がなく,機械構造のみから決定される減衰比であ

るので,構造減衰比ζ0と呼ぶことにする.また,磁石を設置した状態で測定した減衰比を総合減衰比ζと呼ぶこ

Fig. 16 Magnetic damper composed of Halbach magnet arrays (a) Front view (b) Top view

Conductor

Beam

Acceleration pickup

Magnet

Fig. 15 Magnetic damper composed of Halbach magnet arrays

xz

y

d

0 2 4 6 8 100

10

20

30

40

50

Distance between Magnet and Conductor d mm

Dam

ping

coe

ffic

ient

c1 N

m/s

ExperimentAnalysis (Fig.8;Type 1)

Fig. 18 Damping coefficients

0 0.1 0.2 0.3 0.40.2

0.1

0

0.1

0.2

Time s

Dis

plac

emen

t V

Fig. 17 Transient response ( d =1mm )

1697

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とにする.磁気ダンパによる減衰比ζ1は,ζ1 =ζ −ζ0から求められる.減衰比は,打撃によって得られた減衰波

形から対数減衰率を用いて計算した.まず,図 15 で示した実験装置において,磁石を設置しない状態で,打撃実

験により構造減衰比ζ0を測定した.構造減衰比はζ0 = 0.0053であった.次に,磁石を配置して,磁石−導体間距

離 d を 1 mm から 10 mm まで 1 mm ずつ変化させて打撃実験を行い,得られた波形(一例として d = 1 mm の場合

の波形を図 17 に示す.)から総合減衰比を求め,磁気ダンパによる減衰比を計算した.このようにして得られた

減衰比から,付録 A の式(13)を用いて磁気ダンパによる減衰係数を計算した.その結果を図 18 の◆に示す.また,

図 8 で示した 2 列目を 180 度回転させた 3 列ハルバッハ配列磁石(Type 1)の減衰係数(解析値)を■に示す.

図 18 を見ると,減衰係数の大きさは異なるものの,傾向はよく一致していることがわかる. 3・4 考察

本節では,図 18 において,解析から求めた減衰係数に比べて実験から求めた減衰係数が小さくなった理由につ

いて考察を行う.まず,解析における磁束密度の計算の確かさを確認するために,磁石列表面での磁束密度の測

定を行った.測定にはガウスメーターを用い,磁束密度の最大値の測定を行った.図 13 の分布の中で磁束密度が

最大値を示す地点のうち,2 列目の左から 2 番目の磁石の上表面で磁束密度の測定を 3 回行い,平均値を求めた.

また,式(4)を使って磁束密度の計算を行った.両者を比較したところ,測定結果は 0.677 T となり,解析結果の

0.674 T に非常に良く一致していた. 次に,実験値と解析値の誤差の原因として磁石の接着誤差について検討した.解析の場合,図 8 のように各磁

石は隙間なく磁石列を構成し,同じ平面上に並べられている理想的な状態に対して計算した.しかし,実際に使

用したネオジム磁石は磁石の反発力が強いため,専用の治具を作ったにもかかわらず,図 8 のような理想的な配

置で接着することができなかった.そこで,定規を使って実際の磁石の接着誤差を測定した.その結果を図 19に示す.図 19 中に示した x, y, zの記号と数字は,各磁石間の相対的なずれの向きとおよそのずれ量(0.5 mm 単位)

を示す.例えば,y : + 1 mm および y : - 1 mm は,それぞれ理想的な平面(図 8;Type 1)からの y 軸正の向きの 1 mm の出張りおよび y 軸負の向きの 1 mm のへこみを表す.この測定結果を考慮し,磁気ダンパによる減衰係数

を計算した.その結果を図 20 の▲に示す.また,図 20 には,減衰係数の実験値および理想的な接着状態(図 8;Type 1)での解析値も,それぞれ◆および■で示す.図 20 から,接着誤差を考慮に入れると解析値が実験値に近

づくことがわかる.このことから,図 18 における実験値と解析値の誤差は,主に磁石の接着誤差がもたらしたも

のであると考えられる.解析通りの性能を得るためには,磁石列の製作精度が重要であり,今後精度の高い接着

を行う必要がある.

4. 結 言

5 個の立方体磁石の磁極の向きを変えて接着した基本ハルバッハ配列磁石を使って,磁石の片面でも大きな減

衰性能が得られる磁気ダンパについて検討した.著者らがこれまでに導出したモデル式を使ってハルバッハ配列

0 2 4 6 8 100

10

20

30

40

50

Distance between Magnet and Conductor d mm

Dam

ping

coe

ffic

ient

c1 N

m/s

ExperimentAnalysis (Fig.8;Type 1)Analysis (Real Type 1)

Fig. 20 Damping coefficients Fig. 19 Type 1 with assembly error

1698

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

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Fig. 21 Definition of coordinate for calculation of bending vibration

磁石や他の磁石配列を使った磁気ダンパの磁気減衰力の比較を行い,ハルバッハ配列を使った磁気ダンパの減衰

性能が高いことを解析的に確認した.また,実際にハルバッハ配列磁石を使った磁気ダンパを製作して打撃実験

を行い,ハルバッハ配列を使った磁気ダンパの減衰性能が高いことを確認した.実験結果と解析結果の減衰係数

を比較したところ,大きさの変化の傾向はよく一致したが,実験値の方が解析値よりも小さくなった.この主な

原因は磁石列の接着精度であり,接着による磁石位置の誤差を考慮に入れて解析を行ったところ,実験値が解析

値に近づいた.

付録 A はりの運動方程式(9) 図 21 のようにはりの左端を原点としてはりの長手方向に X軸をとり,はりの振動方向にY 軸をとる.両端の

境界条件は完全固定とする.また,導体板は長さ lの両持ちばりの中心 x = l 2の位置に取り付けられており,質

量mの質点とみなす.また,はりの断面は,高さ ,幅 の長方形断面である.このときはりの横振動の運動方

程式は次のようになる.

ρA ∂2y

∂t2 + c0∂y∂t

+EI ∂4y∂x4 = − m∂2y

∂t2 + c1∂y∂t

⎝⎜

⎠⎟δ x − l

2⎛⎝⎜

⎞⎠⎟ (6)

ここにρ, A, E, I, m, c0, c1は,それぞれ,はり材料の密度,はり断面積,はり材料のヤング率,はりの断面二次モ

ーメント,導体板の質量,構造減衰係数,磁気ダンパによる減衰係数(式(3))を表す.構造減衰係数は,機械的

構造のみから決定される減衰係数を意味する. 1 次のモードのみが起こっていると仮定し,モード座標をφ1とすると式(6)は次のようになる.

ρAX1 +mΨ1

2( )φ1 + c0X1 + c1Ψ12( )φ1 +EI λ1 l( )4 X1φ1 = 0 (7)

ここに,

Ψ1 =Y1l2⎛⎝⎜

⎞⎠⎟ = sin λ1

2+α1 cos λ1

2− sinh λ1

2−α1 cosh λ1

2 (8)

α1 =cosλ1 − coshλ1

sinhλ1 + sinλ1

(9)

X1 = Y12 dx

0

l∫ (10)

ただし, λr

4 = ρAl4ωr4 / EI (11)

であり,ωr は r次の固有角振動数,Yr (x)は r次の固有モードである. 式(7)より,固有振動数 f1および磁気ダンパによる減衰係数 c1は次式で表される.

f1 =1

2πEI(λ1 / l)4 X1

ρAX1 +mΨ12 (12)

c1 =2ζ1 ρAX1 +mΨ1

2( ) EI(λ1 / l)4 X1( )Ψ1

2 (13)

h b

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組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究

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また,表 1,表 2 および表 3 に数値計算に用いた実験装置の物性値およびパラメータを示す.

文 献

(1) Nagaya,K., Kobayashi,J., and Imai,K., “Vibration Control of Milling Machine by Using Auto-Tuning Magnetic Damper and

Auto-Tuning Vibration Absorber”, International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics, Vol. 16, No. 1-2 (2002),

pp. 111-123.

(2) Matsuoka,T., and Ohmata,K., “A Study of a Magnetic Damper Using Rare-Earth Magnets and a Pinned Displacement

Magnifying Mechanism”, International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics, Vol. 13, No. 1-4 (2001/2002),

pp. 263-270.

(3) 高山佳久,近藤孝広,木村貴裕,雉本信哉,里見健一郎,“組み合わせ磁石を用いた磁気ダンパの研究”,日本機

械学会 Dynamics and Design Conference 2010 CD-ROM 論文集, No. 443, 2011.

(4) K.Halbach, “Design of permanent multipole magnets with oriented rare earth cobalt material”, Nuclear Instruments and

Methods, Vol. 169(1), pp. 1-10.

(5) 高山佳久,末岡淳男,近藤孝広,長井直之,“磁気ダンピング力に起因した回転体の不安定振動”,日本機械学会

論文集 C 編,Vol. 68, No. 665 (2002), pp. 16-23.

(6) 高山佳久,末岡淳男,近藤孝広,“円形磁石回転型磁気ダンパによる回転体の制振効果(磁気ダンピング力に起因

した不安定振動の不発生)”,日本機械学会論文集 C 編,Vol. 70, No. 696 (2004), pp. 2195-2202.

(7) Takayama, Y.,Sueoka, A., and Kondou, T., “Modeling of Moving-Conductor Type Eddy Current Damper,”, Journal of System

Design and Dynamics, series C, Vol. 2, No. 5 (2008), pp. 1148-1159.

(8) Purcell, E. M., Electricity and Magnetism (Berkeley Physics Course, Volume 2) 2nd Edition, (1985), p.423, McGraw-Hill.

(9) 高山佳久,末岡淳男,近藤孝広,中村研介,“円形コイルと円柱磁石で構成された磁気ダンパ”,日本機械学会論

文集 C 編,Vol. 76, No. 771 (2010), pp. 209-215.

Table 2 Dimensions of beam

Material SUS304 Young’s modulus E 197×109[Pa]

Density ρ 8030[kg/m3]

Dimensions

Length l 450×10−3[m]

Height h 16×10−3[m] Width b 8×10−3[m]

Cross section area A 128×10−3[m2 ]

Moment of inertia I 6.83×10−10[m4 ]

Table 3 Dimensions and physical property of one magnetic cube

Kind of magnet Neodymium magnet

DimentionsLength 18×10−3[m]

Height 18×10−3[m]

Width 18×10−3[m]

Residual magnetic flux density 1.26[T]

Table 1 Parameters of vibration mode

λ1 (See Eq. (11)) 4.73 Ψ1 (See Eq. (8)) 1.62

X1 (See Eq. (10)) 0.435[m]

Natural frequency f 260[Hz]

1700

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