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9. 岸沖縦断形状変化-2次元地形変化モデル 9.1 次元の数値モデルで取り扱う海岸地形・・・・・バ-、バ-ム、砂丘侵食、浜崖 写真-9.1 ホノホシ海岸の礫性バ-ム 写真-9.2 2次元波動水路内のバ-ム 写真-9.3 2次元波動水路内のバ-トラフ地形 写真-9.4 現地海浜での沿岸砂州とトラフ 写真-9.5 入来浜の自然砂丘 写真-9.6 柏原海岸の人口砂丘建設状況

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9. 岸沖縦断形状変化-2次元地形変化モデル 9.1 2次元の数値モデルで取り扱う海岸地形・・・・・バ-、バ-ム、砂丘侵食、浜崖 写真-9.1 ホノホシ海岸の礫性バ-ム 写真-9.2 2次元波動水路内のバ-ム 写真-9.3 2次元波動水路内のバ-トラフ地形 写真-9.4 現地海浜での沿岸砂州とトラフ 写真-9.5 入来浜の自然砂丘 写真-9.6 柏原海岸の人口砂丘建設状況

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写真-9.7 海浜侵食による緩傾斜護岸被災 写真-9.8 砂浜侵食による臨海道路被災

写真-9.9 波による養浜海岸の侵食 写真-9.10 砂丘侵食と浜崖面 写真-9.11 吹上浜の多段沿岸砂州 写真-9.12 多段沿岸砂州とリップチャンネル 写真-9.13 沿岸砂州とリップチャンネル 写真-9.14 2次元的な砂浜(沿岸方向に一様) (非2次元地形)

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9.2 海浜変形序論

海岸構造物を外洋に面した砂質海浜の沖合いに造る場合、構造物設置による海浜の平面形状(汀

線位置)の変化に関する長期予測が1ラインセオリ-等を用いて行われることが多い。これは構

造物設置の影響による波浪場の変化と砕波角の変化に基づき、沿岸漂砂量の勾配を求めて沿岸方

向の各点で汀線変化量を求めるものである。この手法は簡単な海岸構造物(突堤、導流堤、離岸

堤、防波堤)を対象としては古くから用いられてきた実績があり、比較的現地の状況を良く予測

できると思われる。予測の時間スケ-ルは数ヶ月、数年、数十年程度と割合長期の予測を対象と

しているが、対象とする予測時間スケ-ルに応じて漂砂量係数を使い分ける必要がある。通常1

ラインセオリ-では沿岸波浪場の計算はスネルの法則に基づく屈折計算が主であるために、人工

島や、人工島前面・側面の浚渫による影響を考慮するにはあまり適切とは言えない所がある。こ

のような場合には、平面波浪場の計算がもっと適切に行なえるような波モデルを用いる必要があ

る。具体的に複雑な形状をもつ人工島、導流堤、突堤、浚渫部の海底地形による複雑な波浪場が

原因で起こる地形変化を調べるには、例えば、渡辺モデル、Wang モデルなどの三次元モデルを使って波・流れによる漂砂量を求めて、地形変化を計算することができる。しかし、実際に現地

に適用するにはモデルのキャリブレ-ションを行なうための水理実験、現地観測に加えて、境界

条件の処理などが難しく、予測できるタイムスケ-ルも数ヶ月から数年程度であるが、予算、人

員、計算機さえ自由に使用できれば、写真-9.15に示すような中期間の海浜平面形状や断面変化を追跡するのに適している。

写真 9.15 三次元海浜変形の例 一般に海浜変形は、沿岸方向の現象と岸沖方向の現象の二成分に便宜的に分けられることが多

い。そこで以下に岸沖方向と沿岸方向の漂砂の取り扱いについて個別に述べる

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9.2.1 二次元の海浜変形と岸-沖漂砂

海岸の砂丘-海浜形状を模式的に描くと図 9-2に示すようになる。

図 9-2 砂丘・海浜断面模式図

岸-沖方向の地形変化では、台風や季節風に伴う高波浪により、汀線付近が侵食され、侵食された底質が沖合いに移動し、砕波点近傍に沿岸砂州を形成する。このような砂州で特徴づけられる

断面を一般に、bar profileあるいは冬型海浜、暴浪海浜と呼ぶ。高波浪の作用で沿岸砂州がいったん形成されると、バ-付近の水深が浅くなり入射波浪の多くがバ-近傍で砕け、エネルギ-を

バ-付近で消散し、汀線付近に作用する波のエネルギ-を減少させるので、その結果、波により

沖に移動する底質の量が少なくなると考えられる。そのため、海浜は安定な形状に次第に近づく。

この様なことから、バ-が海浜侵食を防ぐための一種の自己防御機能を持つ地形であることは、

Johnson(1949)以来良く知られている。逆に、波が嵐の後徐々に小さくなり穏やかな平常時の波に近づくと、step形状で特徴づけられる夏型海浜を示す。これは沿岸砂州付近に溜まった砂が、波形勾配の小さな波により徐々に岸方向に移動し、汀線付近から波の遡上限界辺りまで砂が堆積

させられた結果生じる地形である。 海浜背後にある砂丘が侵食された後の砂丘回復過程では、前浜上部への底質移動、潮位変動な

どが重要な役割を担っている。基本的に、沿岸砂州に貯えられる砂と、汀線付近のバ-ムに貯え

られる砂の量が経年的に釣り合っていれば、あるいは海域内での海浜侵食量が海浜回復能力を上

まっていなければ、対象とする海浜は動的に平衡あるいは安定状態にあるといえる。しかしなが

ら、侵食と堆積のそれぞれの現象の時間スケ-ルが異なることにも注意しておかなければならな

い。 これまでの現地観測や水理実験等により、上記の岸-沖漂砂現象は確認されており、このよ

うな現象を計算できる岸-沖漂砂量モデルの分類を表-1に示す。

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表 9-1 岸-沖表砂量モデルの分類

(1) 濃度タイプ

q = c (z )u ( z )0

h

∫ dz

Dally (1984), Stieve and Battjes (1984), Steetzel (1993), etc (2) せん断力タイプ

q= Aw

(τ − τ cr )ρ g

= f (Φ )

⎧ ⎨ ⎪

⎩ ⎪

Madsen and Grant (1976), Shibayama and Horikawa (1982) (3)エネルギ-消散タイプ q = K ( D − D eq )

Dean (1977), Moore (1982), Kriebel (1985), Larson and Kraus (1990), etc (4) 流速タイプ (エネルギ-モデル) q = M u n

Bagnold (1962), Bailard (1988), etc (5) 合成モデル

q = Aw(τ − τ cr )u

ρg+ Awb

nf D Eρg

Dibajnia and watanabe (1987), etc (6) Sheet flow, etc.

現在では表中のどれかのモデルを用いれば、何らかの形で海浜侵食プロファイルの再現や予測

が行なえる状況にあるが、設計に用いるためには、モデルのキャリブレ-ションを行い比較検討

する高精度の現地デ-タが、依然として必要である。 さて現段階では、岸沖漂砂の数値モデルは工学的な意味で使用可能になったと言える。しかし

ながら、モデルでは現象を簡単化して解いているわけであり、今後、物理的により正確で安定し

たモデルを開発する必要がある。また、数値モデルの理論・物理的基礎となったのはあくまでも

自然状態に近い海岸で得られたものであったために、本セミナ-で取り扱うようなような養浜の

ように、海浜状態を急激に非平衡状態にし、かつ局所勾配がより険しくなるので底質に作用する

重力成分が増すなどの影響があり、必ずしもこれまで得られた漂砂量式が厳密な意味で適用でき

るかには疑問の余地があるが、現時点ではこれまでの漂砂量式を適用する場合が多い。

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5.3 岸沖漂砂で取り扱う現象 表 5-1に既往の岸沖漂砂量モデルを幾つか示した。そこで本節では具体的に数値計算を行えるモデルの紹介を行う。ここで述べるモデルは底質粒度分布の効果や海浜の締まり度(固さ)の影響を考慮してないが、それらの数値計算については西等による研究例が付録 A,Bに示してある。 さて海浜(砂浜)の数値計算結果を技術者が判定するためには、侵食状況を知る必要がる。そこ

で、現地で起きている侵食例を図 9-3から 9-6に示しその参考とする。

図-9.3 鹿児島県吹上浜での海岸侵食例 図 9-4 鹿児島県志布志海岸における海岸侵食例

図-9.5 同海域における人口砂丘の侵食状況例 図--9..6 スコットランド沿岸における海岸侵食例 それぞれの写真に示す海岸侵食の直接的原因は高波浪であるが、侵食被害の増幅には、高潮や

波のセットアップなどによる平均水位の上昇が主因になっていると考えられる。実際、沿岸方向

の漂砂のアンバランスが無く比較的幅広い前浜が存在するような海岸では、砂丘侵食にまで及ぶ

異常海象・気象条件が頻繁に起こるわけでなく、数年に一回起こる程度の大型の台風やハリケ-

ン・季節風による高波浪が侵食の直接的原因と考えられる。しかしながら、海域内に設置された

大型の人工構造物などで沿岸漂砂の不均衡が生じ、長期的な侵食傾向を持つ海岸では年々前浜幅

が減少し、しだいに砂丘前面に波が作用するような状況が現れる。

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後浜や砂丘の侵食にまで及ぶ被害が出るためには、波がその地点まで到達しなければならず、

その一番の原因は高潮等による平均水位の上昇と、高波浪によるセットアップである。高潮や波

のセットアップで上昇した平均水面の上を侵食性の高波浪が進行し、後浜や砂丘に直接作用し被

害を増大させるわけであり、平均水位のレベルが、後浜や砂丘侵食量に大きく関わる。 さて、高潮を伴う暴浪が海岸に来襲する場合海浜や砂丘がどのように侵食されるかについては、

オランダや米国で 1970年代後半から 1980年代にかけて特に研究が進展したわけである。この背景としては、例えば、オランダではその海岸線が全長数百kmのオ-ダ-であるうえに、国土の

1/4はオランダ人により造られたといわれる事からも分かるように、国土のほとんどが低平地であり、この国土を高潮や高波浪から守るために砂丘の管理や保全の研究がどうしても必要であった

事、また外国では民間に海岸の土地利用が開放されているために、汀線近くまでコミュニティ-

が発達してきており、災害復旧に加えて、このような民間の不動産を護る必要性が高かった事も

一因となっていた。 5-4 縦断形状変化の数値計算プログラム例(SBEACH モデル) 実際、高波浪による海浜侵食を計算できるモデルの説明と計算例について示すことにする。ま

たプログラムリストは付録 Cに添付してある。 Larson(199*)による2次元数値海浜変形モデル(SBEACH)は、大型造波水路試験デ-タの解析結果に基づいている。計算の手順は、通常の海浜変形モデルと同様に (1)波の変形計算,(2)岸-沖漂砂量の計算,(3)底質の連続式に基づく地形変化計算、の3つのサブモデルより構成されている。 波の変形計算については、Dally 等(1980,1985)と類似の式を用いている。岸-沖漂砂量は、波の変形計算結果に基づいて海浜断面を4つの漂砂帯に分けて、砕波帯内では波エネルギ-消散

に基づいた岸-沖漂砂量式を用い、そして、その他の3つの領域の漂砂量はこの砕波帯内の漂砂

量に関連付けられている。また、底質の連続式は∆tだけ離れた 2つの時間レベルにおける 2つの岸-沖漂砂量に基づいたものとなっている。そして、岸-沖漂砂量の勾配に基づいた地形変化の

計算後に、特に砂丘部における斜面勾配角の状況をチェックし、安息角を越えていた場合には、

斜面崩壊の計算を行い、新しい地形を各計算ステップ毎に求めている。 (1)波の変形計算

波浪変形の基礎式は、(2.1)に示す Dally型のものである。

∂θ ∂

∂θ κ

xF

yF

dF F s( c o s ) ( s in ) ( )+ = − (9.1)

ここで、計算で用いる座標系は図 9-7に示す通りであり、 F=波のエネルギ-フラックス Fs=安定波のエネルギ-フラックス(Stable wave energy flux) κ=波の減衰係数 d=全水深である。 また、安定波のエネルギ-フラックス Fsは(2.2)式により求められる。

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Fs = E sCgs =18

ρ gH s2 gh =

18

ρ g (Γ h ) 2 gh (9.2)

ここで、Γは安定状態における波高と局所水深の比である。加えて、平均水深ηは、(2.3)式より求める。

d Sd x

g d dd x

xx = − ρ η (9.3)

この平均水位ηの計算に関しては、直接解を求める方法が Dally等により示されており、ここのプログラミングでもこの方法を用いた。また、プログラミングでは、直角入射のみを対象とし、(2.1)式でθ= 0としたものを用いる。

図 9-7 波浪変形計算に用いる座標系 (2)岸-沖漂砂量の計算

岸-沖漂砂量の計算を行う前に、計算領域を図 9-8 に示すように 4 つの漂砂帯域 (I)前砕波帯(Prebreaking zone), (II)砕波遷移帯 (Breaker transition zone), (III)砕波帯 (Broken wave zone), (IV)遡上帯(swash zone)に分ける。砕波遷移帯の長さは、経験的に砕波波高の 3倍が用いられ、そして、遡上限界については、Surf similarity parameterの関数である(2.4)式が採用される。

Z r

H 0

= 1 . 47 [tan βH 0

L 0

]0 . 79 (9.4)

ここで、 Zr=遡上高さ

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tanβ=砕波点の沖側の海底勾配 H0/L0=深海波の波形勾配である。 領域 (I)での岸-沖漂砂量は、(2.5)式で求められる。 q = q b e − λ ( x − x b ) (9.5) ここで、 qb=砕波点での漂砂量 λ=漂砂量の空間減衰係数 xb=砕波点位置である。 領域(II)の岸-沖漂砂量は、(2.6)式を用いて計算する。

q = q p e − λ 2 ( x − x p ) (9.6)

ただし、添字 p は波の突込み点(Plunging point)での諸量を表し、漂砂量の空間減衰係数λ2の値は、領域(I)で用いた漂砂量の減衰係数λのほぼ 0.2∼0.5倍の値を用いる。 領域(III)の岸-沖漂砂量は、Deanにより提唱されたエネルギ-フラックス型の漂砂量式と類似した(2.7)式を用いて計算される。

qK D D

Khx

fo rD DK

hx

fo rD DK

hx

eq eq

eq

= − + > −

= ≤ −

⎨⎪⎪

⎩⎪⎪

[ ] [ ]

[ ]

ε ∂∂

ε ∂∂

ε ∂∂

0 (9.7)

ここで、 K=漂砂量係数 ε=局所海底勾配に依存する漂砂量係数である。 加えて、D,DeqはMoore(1982)に従い、それぞれ(2.8),(2.9)式で定義される。

Dh

Fx

=1 ∂

∂ (9.8)

D eq =5

24ρg 3 / 2γ 2 A 3 / 2 (9.9)

ここで、 γは砕波指標(Hb/hb)である。 領域(IV)の岸-沖漂砂量は、遡上域での地形変化が、一様に生じると仮定し、(2.10)式により求めている。

q = q z [x − x r

x z − x r

] (9.10)

ここで、添字 rは遡上点を,zは遡上開始点を表わす。

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図 9-8 漂砂量の計算に用いる領域分割図 上述した各漂砂量式で、正味の岸-沖漂砂量の絶対値しか求まらず、その漂砂の方向について

考慮しなければならない。この漂砂の向きは、大型水路試験結果に基づいた(2.11)式で決定する。

H 0

L 0

= M [H 0

ω T] 3 (9.11)

ここで、 M=0.00070 ω=底質粒子の沈降速度 T=波の周期である。 (2.11)式の左辺が右辺より小さい場合には、海浜断面が侵食型になり、その逆は堆積型となる。 (3)底質の連続式の計算

地形変化を求めるには、岸-沖漂砂量の勾配を計算すればよく、その際に用いる底質の連続式

は、(2.12)式で示される。

∂∂

∂∂

ht

qx

= (9.12)

プログラムの中では、地形変化の計算を連続式を用いて行なう場合に、∆tだけ離れた 2つの時間レベルにおける岸-沖漂砂量を用いて、(2.13)式に示すような形で、∆hを求めている。

h ik + 1 − h k

i

∆ t=

12

[q i + 1

k + 1 − qik + 1

∆ x+

q i + 1k − q i

k

∆ x] (9.13)

ここで、添字 kは時間レベルを,iは格子番号を表す。

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5.5 数値計算プログラムの使用法

添付した数値計算プログラムは FORTRAN でコ-ディングされており、使用者の利用に応じて修

正や改良が容易になっている。図 9-9 に、そのメインプログラムを示す。

図 9-9 メインプログラム

上図に示すプログラムは、完全に自動化されたシミュレ-ションプログラムではないために、

シミュレ-ションに際しユ-ザ-自身が、入力条件として初期海浜断面形状、底質粒径、入射波

高、周期、高潮水位、時間ステップ、格子間隔等を設定しておく必要がある。これらの計算で用

いる入力パラメ-タ-は、サブル-チン CONST で、図 9-10 に示す様に設定する。

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図 9-10 サブル-チン CONST の入力パラメ-タ

上図に示すパラメ-タ-を、それぞれユ-ザ-自身の目的に応じて変更した後で、コンパイル

を行なえばよい。ただし、プログラムをコンパイルした後に RUN させると、プログラムは次に、

初期プロファイルデ-タの入力を要求する。

図 9-11 初期地形の入力ル-チン

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計算が進行している間、ある計算ステップ回毎に、地形、波高、漂砂量の岸-沖分布の計算値

が画面に出力される。そして計算は予め設定しておいた計算回数ITE(計算時間は∆t*ITE)

繰り返されると、地形変化の計算を終了して、断面形状、波高分布、岸-沖漂砂量分布を外部あ

るいは内部ディスクの指定したディレクトリに書き込んで終了する。計算結果の出力ル-チンは、

図 9-12 に示す通りである。ユ-ザ-自身の目的に応じてグラフィックソフトを使用し易いように、

計算結果の出力形式は(x、y)フォ-マットになっている。

図 9-12 計算結果の出力ル-チン

9.6 数値計算結果

巻末に添付したプログラムを用いて、海浜勾配の影響,高潮による短期的な水位上昇の影響,

養浜の効果等に関する数値計算を行い、その結果について示す。数値計算においては、格子サイ

ズや時間ステップに関しては、トライアンドエラ-で決めなければならない場合もあるが、一般

にプログラムの使用に際し、ほぼ1分から数分、格子サイズは小さい間隔から数mオ-ダ-の間

隔で用いればよい。以下に示す数値計算では、時間ステップ 60秒、格子間隔は1mから5mに渡るものを用いた。 9.6.1 一様勾配海浜における地形変化

図 9-13 砂丘前面の緩やかな海浜

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図 9-14 砂丘前面の斜面勾配の険しい海浜

砂丘前面に幅広い海浜があれば、波は砂丘まで到達しないか、あるいは到達してもそのエネル

ギ-が低減されているために、砂丘の侵食量は少なくなるはずである。砂丘前面の海浜は、砂丘

自体の斜面勾配と異なる場合が多く、斜面勾配により、海浜幅も異なってくる。例えば、写真*,

*に示すような海浜勾配の大小により、高潮下での高波浪による侵食状況が異なると考えられる。

写真*では、砂丘前面の海浜勾配が緩く、写真に示す高波浪作用後でも汀線付近の侵食量はかな

り少ない事が分かる。これに対し、図 9-14では、この後台風による高波浪等で砂丘まで達する海浜侵食で浜崖をともなう地形が生じた。 このような現地の状況を考慮して、侵食に対する砂丘前面の海浜勾配の効果を調べるために、

1/20,1/15,1/10の勾配の一様海浜に波高 2.3m,周期 6.0秒の波を、20時間作用させた場合の計算結果を図 9-15にそれぞれ示す。ただし、各海浜はそれぞれ 0.2mmの底質粒径の砂で構成されているものと仮定した。 1/20勾配の海浜モデルでは、波を作用して 1時間後には沖方向 165m付近に沿岸砂州が形成され始めている。そして、同時に汀線付近が少し侵食され始めている事が分かる。波入射の初期段

階で 165m 付近に形成されていた沿岸砂州は、時間が経つにつれ徐々に沖方向へ移動し比高が大きくなっている。この沿岸砂州の成長に伴い、汀線付近の侵食が増大し、波作用 6 時間後では、汀線付近に浜崖に近い侵食地形が形成され、10時間後までには斜面の安息角に等しい勾配の浜崖面が形成されている。そして、20時間後には高さ 1.4m程の浜崖が遡上域先端に形成されている事が分かる。10時間,15時間,20時間の浜崖面の形状を見ると、同じ斜面勾配の断面が単に岸側に平行移動しているように見えるが、実際はその間の計算ステップにおいて、6 時間から 10時間の断面変化にみられるように、計算中のある時間で、瞬間的に浜崖斜面の斜面角が斜面の限

界安定角を越えた場合、浜崖面で斜面崩壊が起きある安定な斜面へ落ちつくシュミレーションが

行われている。この時に、遡上域上部にある浜崖面から大量の土砂が遡上域内に供給される事に

なる。さらに波の作用が続くと、引き続き浜崖の発達が生じ、次の斜面崩壊を引き起こすわけで

ある。このような侵食機構は、大型造波水理実験で得られた知見とも一致するものであり、数値

実験・水理実験で生じる地形変化に基づいて岸-沖漂砂量を計算した場合には、斜面崩壊が生じ

た時間ステップで、遡上域に大きな漂砂量のピ-クが現れる。 さて、1/15の勾配を持つ海浜に同じ波が入射した場合も同様に、沿岸砂州の形成と平行して汀

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線付近が侵食されている事が分かる。そして、波作用 20時間後においては、より汀線近傍の侵食が進み、海浜には 2.3m 程度の段差を持つ浜崖も形成されている。より海浜勾配の大きい、1/10勾配の海浜断面では、波作用 1 時間後において、前者の計算例よりも更に侵食が進んでおり、波作用 20時間後においては、高さ 4.5m程の浜崖も形成されている。

図 9-15 勾配の異なる海浜の侵食状況 上記の計算例より、海浜勾配が険しいほど、同じ入射波条件に対しても、その侵食量が大きく、

そして、汀線の後退速度も速くなることが分かる。また、当然の事であるが、沿岸砂州の発生位

置がより沖側になることが分かる。言い換えれば、海浜勾配が険しいほど、汀線より上部の前浜

から、より多量の底質が砕波帯内に供給されやすいとも言えるわけであり、養浜時の設計では勾

配を十分チェックする必要がある。 次いで図 9-16に汀線付近の地形変化を見るために、横軸に時間,縦軸に浜崖の高さをそれぞれ各勾配毎にプロットしたものを示す。図より、1/20,1/15勾配の海浜と比較すると、1/10勾配の海浜では時間とともに少しずつ浜崖の高さの増加率が減少する傾向にある事が分かる。この原因は、

浜崖面が崩壊するときに浜崖の高さが高いほど多量の底質を浜崖基部から前浜にかけて供給する

ので、結果として堆積した土砂により侵食速度が遅れる事と、入射波浪に対する平衡断面形状に

砕波帯の地形が近づいているために、砕波帯内で要求される漂砂量が減少し、その結果と、浜崖

付近の侵食量が減少するためと考えられる。汀線後退速度と類似した挙動を示すと考えられる浜

崖頂部の後退速度も、図 9-17に示すように、波作用初期の方が速く、作用時間の経過とともに徐々に遅くなっている事が分かる。

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図 9-16 侵食時に生じる汀線近傍の浜崖高さの時間変動

図 9-17 侵食時に生じる浜崖頂部の後退状況

Page 17: 9. 岸沖縦断形状変化-2次元地形変化モデルcoastalresearch.sakura.ne.jp/nishi24/yohinsiryo/chap9.pdf9.2.1 二次元の海浜変形と岸-沖漂砂 海岸の砂丘-海浜形状を模式的に描くと図9-2

付録 9-C 漂砂の方向 海浜変形の計算では漂砂の向きを判定する必要がある。ここで、数値計算プログラムで用い

ている海浜変形指標について述べる。 深海波波形勾配

S HL0

0

0

=

深海波沈降速度パラメ-タ-

N Hw T0

0=

上記のパラメ-タ-を用い S MN0 0= で定義される直線の左側の領域と右側の領域のどちらに入射波条件があてはまるかにより、全体

的な漂砂の向きを判定する。左辺側が大きいときに沖向き漂砂となる。ただし、定数Mは以下の値をとる。 M=0.00070 (規則波と平均波条件) M=0.00027 (有義波条件) また、ここで用いる沈降速度については表と図に示す通りである。これ以外にルベイの式、

Vellingaによる式などを用いる事が出来る。

w gdd d

s=−

+ +( )23

36 62

2

ρ ρρ

ν ν

log(1/w) = 0.476(logD)2 + 2.18logD +3.19

表 沈降速度の分布 沈降速度(m/s;石英砂) 底質粒径(mm) 水温(度) 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 10 0.016 0.023 0.029 0.035 0.042 0.048 15 0.017 0.024 0.030 0.037 0.043 0.050 20 0.018 0.025 0.032 0.039 0.046 0.053 25 0.019 0.026 0.034 0.041 0.049 0.055 異なる底質粒径に対し、水温20度の場合の漂砂の向きを計算した結果を図に示す。ただし、用

いた波浪条件は、付録に添付した波浪デ-タである。