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ALMに関する一考察 一米国の銀行並びに生保版ALMを中心として- 木村 孝之 (千代田生命ニューヨーク事務所主査) 美紀 (住友生命調査課副長) 山口 賢二 (第百生命経営数理室課長補佐) I.はじめに Ⅱ.米国の銀行版ALM Ⅲ.日本の銀行版ALM Ⅳ.米国の生保版ALM V.我国生保会社がALMを導入することの可能性 L はじめに 我国の金融・経済は、貿易・為替の自由化、資本の自由化、国際金 融取引の増大等に伴う国際化の進展および日米経済摩擦の深刻化に端 を発した円高の進行と金融規制の緩和等による金融自由化の進展、さ らには、個人金融資産の増大による金利通好意識の高まり等、急速な 変化をなしてきている。 一125-

ALMに関する一考察 · 2008-10-07 · almに関する一考察 こうした中で、生保事業は海外投融資の活発化とこれに伴う為替リ スクが増大する一方で、販売商品面では、一時払養老保険、変額保険

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ALMに関する一考察一米国の銀行並びに生保版ALMを中心として-

木村 孝之(千代田生命ニューヨーク事務所主査)

薮  美紀(住友生命調査課副長)

山口 賢二(第百生命経営数理室課長補佐)

目  次

I.はじめに

Ⅱ.米国の銀行版ALM

Ⅲ.日本の銀行版ALM

Ⅳ.米国の生保版ALM

V.我国生保会社がALMを導入することの可能性

L はじめに

我国の金融・経済は、貿易・為替の自由化、資本の自由化、国際金

融取引の増大等に伴う国際化の進展および日米経済摩擦の深刻化に端

を発した円高の進行と金融規制の緩和等による金融自由化の進展、さ

らには、個人金融資産の増大による金利通好意識の高まり等、急速な

変化をなしてきている。

一125-

ALMに関する一考察

こうした中で、生保事業は海外投融資の活発化とこれに伴う為替リ

スクが増大する一方で、販売商品面では、一時払養老保険、変額保険

等の高コスト商品が台頭してきており、資産面および負債面の両面に

おいて、今後ますます、厳しい経営管理が必要とされてきている。

そこで、本稿ではまず米国並びに日本の銀行が資産と負債の総合管

理(Asset and Liability Management)を導入した背景とその手法を

述べることと上、続いて米国の生保がALMの導入を積極的に行って

いる現状に触れ、最後に我国の生保へのALMの導入が必要となる将

来の環境と導入する場合に考慮すべき事項の一端を述べることとして

いる。

何分技術的側面が多く、米国並びに他業界における活用実態の紹介

に力点がおかれたきらいがあるが、今後、我国の生保がかかる金融情

勢の下にあって資産・負債の総合管理を更に効率的にまた実態に適っ

た形で進めていくためには、本間題は避けて通れる道ではなく、提言

というには、はなはだ遠いものではあるが敢えてレポートにまとめた

次第である。

尚、本研究は生命保険協会、海外保険事情研究会(座長岡本園衛)に

おいて研究を進めた3名が共同して執筆作成したものである。

Ⅱ.米国の銀行版ALM

米国の銀行版ALMについて「変貌する銀行経営-ALM時代を迎

えて-」(ジェイムズ・Ⅴ・ベイカー著、楠本博訳、東洋経済新報社発

行)を参考としつつその導入の背景からALMの具体的手法に至るま

で、概略を説明してみたい。

1.ALM導入の背景(米国銀行を取り巻く環境変化)

米国の銀行においてALMが導入されるようになった背景には、以

一126-

ALMに関する一考察

下に述べるような米国銀行を取り巻く環境変化があるものと考えられ

る。

(1)預金構成の変化

定期預金占率の上昇、要求払預金占率の低下により総預金コストが

上昇した。

要求払預金占車

4 9年 5 9年 6 9 年 7 9年

7 4 .8% 6 9 .2% 5 5.0% 3 1 .6%

(2)定期預金コストの増加

高インフレ、財政赤字、高金利商品の発売(MMC、NOW勘定等)、

金利上限規制(レギュレーションQ)の廃止により定期預金金利が上昇

し、定期預金コストが増加した。

定期預金と貯蓄預金の平均コスト

4 9年 5 9年 6 9 年 7 9年

0 .91% 2 .詭 % 4 .87% 6 .72%

営業費用の中に占める金利コストと人件貴の割合

4 9 年 5 9年 6 9年 7 9年

金 利 コ ス ト 1 4 .53% 2 6 .舶% 4 8 .95% 5 5 .卵%

人  件  費 4 9 .63% 4 1 .91% 2 8 .79% 1 6 .77%

(3)非金利収入を上回る非金利支出の増加(=負担の増加)

非金利収入の伸びよりも非金利支出の伸びの方が上回る銀行が増加

-127-

ALMに関する一考察

した。そのために、サービス手数料の引上げ等によって収入の増加を

図ったり、人件費の抑制や生産性の向上によって支出の削減に取り組

むなど「負担」の軽減に努めるようになった。

(4)損益分岐点利回りの上昇

損益分岐点利回りは、

(金利コスト+非金利支出一非金利収入)/収益資産×100%

によって算出されこれ以下の金利で貸出しや投資を行うことはできな

いが、預金金利コストおよび「負担」の上昇により損益分岐点の利回り

が上昇してきた。

損益分岐点利回り

4 9 年 5 9 年 6 9 年 7 9 年

1 .61% 2 .67 % 5 .01% 7 .13 %

(5)資産構成の変化

資産の収益率を高めるために、非収益資産を収益資産へ再配分、収

益資産の中で高収益資産割合を増加させる等の資産構成の組み替えを

行ってきた。

つまり、預金引出し等に対応するための一定限度の流動性を確保し

ながらその時々の状況に応じた最適な資産構成を追求していく必要が

従来以上に大きくなった。固定資産、非収益資産がほんの少し増加す

れば収益に悪影響を及ぼすわけであり、より秀れた資産管理が要請さ

れることとなった。

-128-

ALMに関する一考察

資産総額の中に占める資産項目の割合(アメリカ頭金保険

制度に加盟している全銀行、1949,59,69,79年末の数値)

資 産 項 目   1949 1959  1969 1979

現金・預け金

財務省証券

その他証券

貸 出 し

家屋・設備

その他資産

資 本 勘 定

22.7  20.2

42.4  24.0

6、4   8.3

27.4  45.5

0.7  1.2

0.4   0.8

100.0 100.0

16.8  18.1

11.8   8.1

11.8   9.2

55.9  61.6

1.5  1.4

2.2  1.6

100.0 100.0

6.5   7.7    6.9   5.8

資料出所:1949.59.69年のデータは、rFDIC年報」より、

1949-Pp.146.147.149;1959-PP.136.137.

139;1969-pp.258.259.261;1979年のデータは、

BankOperating Statistics.表Aより。

(6)変動する諸金利

下図のように、1970年代以降、頻繁にかつ大幅な金利変動が見られ

るようになった。しかも諸金利に相関開係が見られる。他方、1974年

までは銀行貸出は固定金利制であったので逆ザヤリスクを蒙るように

なってきた。こうしたことから変動金利か短期の手形貸付けかの選択

(貸出しの配分替え)を迫られることになった。

-129-

ALMに関する一考察

l    llll         l ll      l短期金利 (企業借入れ)、プライム ・レ- ト(実効変化 日)

プライム ・コマーシャル ・ベーパー(四半期平均値 )

.1■S m Il題S S に

プライム・レニト

(主要銀行)

プライム・コマーシャル・ペーパー(4 ~6 カ月)

l1930      け40     1,50     1950     1的0     1980

ー130-

ALMに関する一考察

(7)資本勘定への考慮

資本勘定の増加率よりも貸出、頭金、総資産の増加率の方が上回る

ようになり、成長可能な資本基盤が確立しないことから、資本勘定に

対する考慮が一層必要となった。

(8)業績の公表

1969年以降、銀行業績の詳細データが公表されるようになり、銀行

の経営内容が衆人の目にさらされるようになった。この結果同業内お

よび他業界との比較が容易になり、高い業績をあげている銀行という

ステイタスを得るために新しい経営管理手法の開発、導入が要請され

ていた。

(9)経営情報の改善(コンピュータの利用)

コンピュータによる経営情報提供によって複雑な環境下での瞬時の

経営政策決定が可能になってきた。と同時に、これに基づく兢争力を

維持できないということは、敗退を意味した。

(10)システム理論の発展

銀行の利益は、資金調達と資金運用との相互関連から成り立つ一つ

のシステムであるということが重要となり、また、そうした考え方が

一般に受け入れられるようになってきた。

以上の諸々の背景の中で、銀行業界では資産・負債のキャッシュフ

ローがミスマッチの状態に陥り、金利変動リスクをもろにかぶるとい

う危険な状態が続いた。こうした危機を回避するため、銀行業界は金

融革命期の金利乱高下の下で、適切なキャッシュフローの予測、金利

の予測を通じた資産・負債管理(所謂ALM手法)に注目するように

なったのである。

2.ALM手法現行システムの概要

-131-

ALMに関する一考察

銀行が開発した4つのALM手法について、以下概観してみたい。

(1)経験法

小規模銀行を中心に多数の銀行で用いられている手法でその特徴は、

資産、預金額、貸出し鶉酎こ対する資本の割合および流動性の水準を大

規模都市銀行に比べてより高目に保つようにしていることである。

経験法は、①管理会計システムが不要である。②いわゆるドンブリ

勘定方式にふさわしいという利点がある半面、資産・負債の管理を経

験と第六感に頼っているわけであり、それ自体がオリジナルな手法と

いうものでは無い。

(2)資産配分法

1973~74年の第一次石油危機を契機とする世界的な金利の乱高下は

銀行にとって資金のコスト高とともに流動性不足をもたらしたが、本

手法はこうした流動性不足を回避するために考案された。景期循環、

季節的・長期的傾向を考慮し正確な予測値を得ることによって、高利

回り運用を維持しつつ手元流動性を確保しようとするものである。

その具体的内容は

①資金の配分先を流動性の高い順に、第一線準備(現金、準備金、

コルレス預金)、第二線準備(フェデラルファンド、CD、5年以下

の政府証券、その他市場性ある短期証券)、収益勘定(貸出金)、第

三勘定(長期証券)に分類し、流動性の高い運用先から順に優先的に

配分する。

(診第二線準備、第三勘定と収益勘定との間の相互シフトにより、貸

出資金の過不足に対応する。

というものである。

資産配分法の問題点としては、連邦政府・州・政府機関の預金に対

して提供しなければならない担保差入れと収益とが無視されているこ

一132-

ALMに関する一考察

と、資金調達コストに対する考慮が払われておらず、また第二線準備

の流動化に伴って余分な損失が発生するなど、収益と適切にかかわり

合うことができないことが挙げられる。

(3)資金転換法

資金転換法は類似の変動性をもつ項目ごとに負債(預金)を分類し、

その各々に対し同様の性格をもつ資産を対応させる手法である。

例えば、安定性の高い小規模当座預金の一部分、小規模貯蓄預金の

半分近くを長期モーゲージ・ローンに割り当てる、小規模貯蓄頭金の

かなりの部分を割賦ローンに割り当てる、等である。

資金転換法には別に、負債と資本勘定を別のいくつかの銀行内銀行

に再分類し、さらに同一範ちゅうの資産に割り当てる方法がある。

(預金の性質等)(銀行内銀行)(資産)

消費者の預金→消費者銀行→消費者ローン

企業預金  →企業銀行 →企業貸付

公共機関預金→公共銀行 →投資(公共機関預金の担保に供される)

資本勘定  →資本銀行 →固定資産

いずれにしても、上記のような資金転換法を用いれば、期間構成や

金利変動が、資産・負債管理にどのような影響を及ぼすかを検討する

ことができるわけであり、こうした金利感応別区分は現行の管理会計

において大きな意義をもつと言えよう。

とりわけ本手法は、貸出需要が強い時に役立つと共に資金調達の範

囲内で資金を運用していくという健全な態度を堅持することができる

(資金の調達と運用のバランスが維持される)、という点が大きな長所

となっている。しかしながら一方で、

・負債サイドの管理に重点がおかれている。

-133-

ALMに関する一考察

・ともすると調達コストの安い時期に、拡張主義に陥りやすい。

・満期の集中や特定調達方式への過度の依存が生じやすく長期貸、短l

期借のリスクを高める。

といった欠点が指摘されている。

(4)負債管理法

主に資金のコスト高を排除すべく、資産運用を初めに決めて、それ

に必要な資金をどのように調達すればよいかを考える手法であり、

ユーロダラー、CP、フェデラルファンド、CDによる資金調達の量

と期間の管理を中心とする。

この手法が導入されるようになった背景には、1950年代後半頃から

企業が、要求払預金(無利息預金)の保有を極力圧縮し、その結果生じ

た一時的な余裕資金をCP、TB(短期物財務省証券)で運用すると

いった資金管理技術を向上させてきたことから銀行の調達資金(預金)

が伸び悩むようになったという状況があった。そこで銀行業界は旺盛

な貸出需要に応えるために新たな資金調達手段を開発し、多角化を図

ることが不可欠になりCDなど自らその量をコントロールできる市場

性の資金調達手段を次々と導入し、資金調達力を強化した。

負債管理法は

・ユーロダラー、CP等市場性資金を調達し、これらの資金をできる

だけ変動金利の長期貸出に用いる。

・金利変動を予測し、それを念頭においた資金調達を行う。

・資金調達にあたっては、資金運用の満期時期も考慮する。

といった内容の手法である。

当手法に基づき、銀行は資産運用に必要な資金のうち頭金で吸収で

きない部分については、市場性資金調達手段に依存するようになり、

1960年代から1970年代初頭にかけて負債管理法は主流を占める資金管

一184-

ALMに関する一考察

理手段となり、収益性を重視した積極的な経営が展開された。

他方、過度な市場性調達資金への依存は、資金調達コストの上昇や

不安定化、収益の不安定化を招く供れがあるという間題点があり、事

実、1974年の信用不安(フランクリン・ナショナル銀行の破綻など)を

契機に市場性資金の調達が非常に困難となり、連用利回りをはるかに

上回る高コスト資金の調達を余儀なくされる銀行が続出したため1970

年代半ばから負債管理法に対して反省の機運が生じた。

3.資産・負債総合管理

行き過ぎた負債管理を修正し、多様化、強化された資金調達力を活

用する一方で、資産と負債のバランスにも配慮し、資産・負債の両面

を総合的に管理することによって収益の最大化とリスクの最小化を図

る資産・負債総合管理が1970年代半ばから導入されるようになった。

ジェイムズ・Ⅴ・ベイカー氏は、ベイカー法として会計上、勘定体

系を確立し(資産・負債・資本勘定×収益・費用項目)、デイリーの貸

借対照表を準備し、完壁な発生主義を採用した上で、以下の点に留意

すべきであると主張している。

(1)金利マトリックスの作成による利鞘関係の分析

各種金利のマトリックス(過去25年間の月単位の金利表)を金利獲得

(収益)資産と金利支払(費用)負債について作成し、各種金利にどのよ

うな相関関係が見られ、それが利鞘変動とどのように関連しているか

を分析する。こうすることによって金利そのものを予測することは難

しいが、各種金利の相関関係を把握することにより、金利変動による

危険を回避することが可能となる。また資産と負債が適切にバランス

されているならば利益は相対的に影響を受けないことが理解される。

(2)商業貸出しの重視

あらゆる資産項目の中で、商業貸出しポートフォリオだけが急速に

-135-

ALMに関する一考察

変化する金利に立ち向かう能力を持っている。

(3)非金利収入および非金利支出項目を最小限にとどめるとともに

過去のデータを利用して金額を予測する。

(4)資金利鞘の確保

収益資産×金利一費用負債×金利=資金利斡

金利収益(受取利息)金利費用(支払利息)

資金利斡-(非金利支出一非金利収入)>0

が必要となる。

尚、資金利鞘は金額ベースであるがこれを金利表示したものが金利

利鞘である。

加重平均受取金利一加重平均支払金利=金利利鞘

(5)収益力測定尺度による利益獲得力の判定

収益力測定尺度=収益資産(EA)/費用負債(PL)

業績の良い銀行はこの尺度が160%程度であり、一方業績の悪い銀

行は、120%程度というのが一般的である。つまり収益資産の内どれ

だけ金利のかからない資金があるかが重要なポイントとなる。

(6)純金利利斡率

資金利鞘/収益資産=金利収益/収益資産一金利費用/収益資産

(収益資産当りの収益率)(収益資産当りの費用率)

高い収益力測定尺度を持った銀行は、高い純金利利鞘率を示すこと

になる。

4.ALMの具体的手法(アメリカの商業銀行を例として)

(1)ALM委員会の設置

頭取以下貸出担当、投資担当、資金担当常務等から構成されるAL

M委員会が設置され、過去および将来の経済・金融環境、金利動向な

どの分析・予測に基づき最適な銀行全体の資金調達・連用計画の大綱

-136-

ALMに関する一考察

が決定される。これに従って各地域および現業部門別の資金の調達・

運用枠が設定される。尚、実際的な運営や市場戦略は各部門の責任者

に任される。

モルガン銀行では、Sources and Uses of Funds Commiteeと称

するALM委員会が設置されているが、このS&U委員会は組織上独

立した一部門を成しており、S&U委員会委員長は、Executive

Vice Presidentの待遇を受けている。

(2)ALM運営の原則

まず銀行の資金調達・運用に伴うリスクを信用リスク、流動性リス

ク、金利リスクの3種類に区別した上、これらのリスクを銀行全体の

リスクの水準および、その中での各種のリスクが占める比率を管理す

る(ある種のリスクは他のリスクに代えうる場合がある)。そして、金

利予測、収益予測等の不確実性を考慮に入れ、いくつかのありうべき

経済・金融動向の変化を想定して資金調達・運用計画を決定する。

(3)流動性管理

いかなる状況のもとでも容認しうるコストで、顧客の預金払い戻し

や貸出しの実行などあらゆる支払契約に応じられるように短期的能力

を維持する。

(4)金利変動リスク管理

市場性資金や市場金利連動型預金など金利感応度の高い負債項目の

ウェイトがかなり大きなものとなり、金利変動による資金調達コスト

の変化に伴って収益の不安定化をもたらすというリスクが著しく増大

した。また、金利感応度の高い負債と資産のバランスや負債と資産の

満期構成のバランスいかんにより収益に大きな差が生ずるようになっ

た。こうしたことから流動性管理中心の運営から金利変動リスク管理

中心の運営が一段と重要視されるようになった。

一137-

ALMに関する一考察

金利変動リスク管理の基本的手法は、以下のとおりである。

①銀行の資産、負債の各項目を短期間にその金利が変動するような

金利感応項目とそうでない金利非感応項目に分類する。

②金利感応資産と金利感応負債の比率(あるいは差額)をとり、金利

感応資産/金利感応負債比率(あるいは差額)を銀行全体の金利感応

度を測る基準とする。一般的にはこの比率が1から離れる(差額が

大きくなる)ほど金利変動リスクも増大すると考えられている。

金利予測が正確であれば比率を変化させることによって収益の増加

を図ることも可能となるが、金利予測が外れると収益を悪化させる要

因となる。一般的には、金利感応資産と金利感応負債の比率が1を上

回っているか、あるいは両者のギャップがプラスであれば、金利上昇

局面では運用利回りの上昇が資金調達コストの上昇を上回って収益増

加要因となり、金利低下局面では運用利回りの低下が資金調達コスト

の低下を上回るため収益悪化要因となるとみられる。逆に比率が1を

下回るか、ギャップがマイナスであれば、金利上昇局面では収益悪化

要因、金利低下局面では収益増加要因となるとみられる。

現実にはさらに金利感応項目を満期に応じて細分類し、各満期階層

ごとに資産と負債の対応具合をコントロールする方法が用いられてい

る。

以上述べたようなALMの理念、あるいは具体的手法を、銀行がそ

の経営にどう反映させているかに関する具体的データは不明であるが、

例えば、

・商工業貸出における変動金利貸出の割合の増加-金利の自由

化に伴う金利ミスマッチの回避

・短期貸出の貸出期間の短縮化-ⅣOW、スーパーNOW、M

-138-

ALMに関する一考察

MDAや短期小口定期の導入に伴い、貸出債権の期間も短縮させ

といった動きの中に、ALM活用による運用調達ミスマッチ回避の努

力を読みとることが出来る。

長期商工業貸出に占める変動金利貸出の割合

(%)80

70

liO

50

77 78 79 80 81摂 8:18日年)

注:毎年各2,5,8,11月の第1週の割合を暦年ごとに平均した値を用いた

資料:PRBりpeder8】ReSerVeBulletin,’各号

79  80  61 82  ぷ:; 勘 年1

注:データは毎年2,5,8,11月の第1週の実績値

資料:PRB‘‘pder81ReSerYeBulletin,,各号

-139-

ALMに関する一考察

Ⅲ.日本の銀行版ALM

l.背景

わが国の都市銀行にALMが導入された背景としては、概要以下の

通り述べることができる。

(1)都市銀行の経営環境の悪化

①第一次石油ショック以後のマネーフローの変化

高度成長期には企業が積極的に設備投資を行ったため企業部門は

慢性的な資金不足部門となっていたが、低成長経済への移行に伴

い減量経営が定着する中で企業の資金不足は大巾に縮小した。こ

れにより、銀行と企業との力関係が変化し、企業による銀行の選

別、あるいは銀行の貸出金利の引き下げといった状況が生じた。

(診大量の国債引受

昭和50年度に入ってからは、国の財政が逼迫し大量の国債が発行

されるようになった。例えば、昭和54年度、都銀の新発中長期国

債引受額を見ると3兆9875億円であり、これは54年度中の都銀預

金増加額の80%に達する。このように、金融機関が大量の10年も

の長期債をかかえ込むと、低金利の場合であればさして問題はな

いが、金利上昇期に於いては国債の評価損、売却損が大量にはき

出されることとなり、金融機関の収益を圧迫することとなった。

(2)企業・家計の金利選好の高まり

①現先、CD市場の急速な拡大

各企業は、厳しい経営環境下にあって余剰資金を少しでも高利で

運用すべく、銀行への預金から離れ、現先市場へ、更にはCD市

場へ参入するようになった。現先残高は昭和55年度で5兆円の規

模があり、又、CDは昭和59年度8兆円に及んでいる。このよう

に資金運用面、資金調達面いずれも銀行離れが進んでいる。

一140-

ALMに関する一考察

②郵便貯金の急増

加えて郵便貯金が益々シェアを伸ばしてきており、昭和60年度に

は資金残高が100兆円を超えている。この結果、銀行金利決定の

メカニズムに大きな影響を与えるようになってきている。

③各種金融商品の好調な売れ行き

低金利下にあって、生保の一時払養老、損保の積立型保険が金利

面で銀行商品と較べ有利になったこともあり、爆発的に売れ行き

を伸ばしている。又、証券会社による中国ファンド発売など、国

民の資金は金融戦国時代の中にあって分散と多様化を押し進めて

いる。

因みに、金融機関における銀行の資金量シェアは以下の通り大き

くダウンしている。

金融期間の資金量シェア推移

S 5 0 S 5 7 S 5 8

全 国 銀 行 (含 信 託 ) 5 2.4 4 0 .6 4 0 .5

相 互 銀 行 6.6 5 .3 5.2

信 用 金 庫 8 .1 6 .6 6.4

農   協 6 .2 5 .1 5.0

生   保 5.2 5 .5 5.7

損   保 1.3 1 .2 1.2

資 金 運 用 部

(郵 貯 十 厚 生 保 険 )

1 7.5 2 0 .5 2 0 .5

(3)金利の自由化・弾力化の進展

金融の自由化・国際化に伴い、金利の自由化・弾力化も大幅に

進展してきている。

-141-

ALMに関する一考察

わが国の金利自由化は、昭和53年のコールレートの弾力化に始

まり、昭和54年には、預金金利自由化の囁矢となったCDの導入、

昭和55年には、外貨預金や非居住者円預金の認可など、短期金融

市場を中心として進められてきた。

さらに、昭和59年5月の日米円ドル委員会報告に基づいて、C

Dの発行条件緩和、MMCの取扱い認可、大口預金金利の段階的

自由化等が既に実施され、小口預金金利についても自由化が検討

されているなど、金利の自由化は一挙に進むことになった。

これら一連の自由化措置は、銀行間のみならず隣接金融機関と

の競合をも激化させ、とりわけ体力のない銀行にとっては極めて

厳しい試麻の時を迎えることとなった。

(4)銀行の効率化行政

こうした競合場裡において、銀行の無駄を排除し体質を強化し

ていくため、効率化行政が積極的に進められている。

(5)新銀行法の制定

銀行法は昭和2年に施行されて以来、大きな改正はなかったが、

金融の自由化、国際化を乗り切る観点から、固有、付随、証券業

務等を明定する改正を昭和56年5月に行っている(昭和57年4月施

行)。これによって銀行は国債窓版業務、ディーリング業務を行

うことができるようになったわけだが、一方では証券業界は、中

国ファンドなど実質的に決済機能をもった商品を開発しており、

金融機関は業態を越えた激烈な競争を展開することになるのであ

る。

即ち、銀行をとりまく環境変化が銀行の利鞘縮小要因、収支圧迫要

因として働く一方、金利の自由化、弾力化の一層の進行が不可避と

-142-

ALMに関する一考察

部市銀行の利鞘の推移

なってきた。

t.1

l.2

1.0

0.8

0.6

0、I

p.1

0.0

ム0.2

∠ゝ0.4

\}.一{・J

L-」    ]     ]     ]    」_J L J L__」   ]    し一   ]48年ま  41  48   州   脚   引   51  53   封   待

(資料)全国銀行協会連合会:全国銀行財務諸表分折

2.日・米の銀行ALM

日本と米国の間には金利環境、及び金融市場規制に大きな相違があ

る。米国銀行においてALMが一般化し始め日本でも話題になり始め

た1980年頃までの金利動向を観ると次の様になる。

また証券会社も含めての金融機関業務分野規制には、次の様な相違

がある。

一143-

ALMに関する一考察

日本の金利推移

し… し」_」」l Ll」・Hll =ll = LHlJ」Ll

q年度 」l    班    別    51   53    引    地

(資料)日本銀行:経済統計月報

米国の金利推移

l鴫〇年Illl ■1山IlllH・ll uIIIllllI H1411叫 HlllIlP

(資料)FIR.B.:Fedef&】ReBerVeBulletin

-144-

ALMに関する一考察

金融機関の業務分野規制

○……可

△……一部可

×…不可

日            本 米       国

普    銀 長  信  銀 信   託 証     券 商 業 銀 行 証    券

1 預 金 受 入 ○ ○ C〉 △

預金類似商品

販売(中国ファ

ンド利金7 7

ンド)

○ △

預金類似商品

販売

要求払頭金

2 債 券 発 行 ×

商法上可なる

も銀行法上明文

規定なし

C )

長鞠借用銀行

法(自己資本の

…沿倍以内)

×

商法上は可 同左

○ ○

3 貸    出 ○ ○ ○ △

公共■担保金

■、信用取引貸

付金

C ) △

消■着金■、

不動産担保貸出

等を実施

商工業貸出

4.債券引受・ △ △ △ ○ △ ○

ディーリング 公共恥こ限定 同左 同左 公共債に限定

5.株 式 完 貫 × × X ○ △ ○

顧客から書面

で依頼を受けた

ブローカー業務

は法律上可

同左 同左 ディスカウン

ト・プCトーカー

業務実施

6 保    険 × × × ヽ △

サウスダコタ

州は州法で認可。

ただし、国法銀

行の進出計面は

F R B が認可保

留中。保険代理

店業務は可

7.信    託 × × ○ × ○ ×

ただし、公社

債受託、元利払

保管等の代理業

務は可。金融信

託も法律上は可

同左 一任勘定も原

則不可(理財局

長通達)。実字的

ただし、一任

勘定取引は実施

(投資串間業法

には明文勘定な

し)

には投資■間会

社で一任勘定取

引を実施

経済センター会報198521

ー145-

ALMに関する一考察

金利環境の相違の結果、米国銀行におけるALM的経営管理手法は

主として銀行が金利変動によりこうむるリスクを回避することを目的

としているのに対し、日本の場合は銀行収益悪化を防ぐという意図を

持っている。

さらに金融市場規制の相違から、ALMが有効に機能し得るB/S

項目も異なる。

夢・・+有影致診

/ 篇 露 致

ン/二///ンく /

募卓草薮募_AI。M運用可

(3)日本型ALMのポイント

日本の銀行がALMを導入する場合、以下の諸点に留意することが

必要である。

・日本の銀行は他産業に比し採算意識が乏しくALM理論導入の背

景にはこの採算意識の向上がある。

・日本は米国に比し厳しい規制となっているため、銀行が独自にコ

ントロールできるのは保有債券の中味等限られている。

・その他金利予測体制の強化・収支管理システムの充実も1つの目

的として挙げられる。

-146-

ALMに関する一考察

3.ALMの運用体制

次に、我が国で実際にALMを導入している住友銀行、富士銀行に

ついて、その運用体制を見ることとする。

住友銀行では昭和54年7月の組織改革を契機にALMを導入した。

同行のALM運営組織は、金利打合会、ALM予備会議、ALM会議

の3層構造となっている。ALM会議のメンバーは、企画、調査、財

務、国際の各部門の部長により構成されており、金利打合会、ALM

予備会議での経済金融環境、金利の予測を踏まえての内外市場からの

資金の調達、運用についての計画がたてられる。ALM委員会におい

て決定した計画は、各本部長を通じ各部門に伝えられ、実際の運用・

調達に反映される。

一方、富士銀行の場合は、資金証券部を事務局とするALM委員会

が設置されている。その機能は住友銀行と同様であるが、委員会に各

関連部門を直結させることにより、委員会での決定事項のより迅速な

執行を図っている。

わが国銀行のALM組織例

一147-

住友銀行 企画部長

融資企画部長

市場金融部長

調査第一部長

調査第二部長

国際資金部長

ALMに関する一考察

業務

企画部

用開発部

国    国際   際企  証資画  券金部  部

資金

証券部

今後、ALMを導入する銀行が増えると考えられるが、ALMをよ

り実効あるものとするための課題としては、

・正確な金利、経済環境予測を行うための人材の育成

・ALM委員会の設置ならびに委員会での決定事項をより迅速に運

用、調達場面に反映できるような組織上の手当て

・期間別ミスマッチ状況の把握、金利感応分析、収益管理等を行う

ためのシステムサポート

を挙げることができる。そして、これらの課題にどう対応するかが、

前述の厳しい環境に適応する際のひとつの鍵と言えよう。

Ⅳ.米国生保会社のALM

米国では1970年代後半から80年代初頭にかけて金利が激しく変動す

るようになり、生保会社の蒙る金利変動リスクは従来に増して大きく

なった。加えて、顧客の金利選好意欲の高まりに伴い、従来の主力

商品であった終身保険からユニバーサル保険、変額保険のような投資

性の高い商品へと商品ポートフォリオが大きくシフトしたことにより

キャッシュフローにも変化が生じた。

その結果、生保各社では、金利の予測、キャッシュフローの予測を

通じ、より厳格な資産・負債管理を行う必要性が高まり、ALM導入

-148-

ALMに関する一考察

の動きにつながった。

1.セグメンテイション(一般勘定の区分経理)

(1)背景

米国生命保険会社は金融革命下において商品設計・負債管理・資産

連用の方面で様々な問題をかかえることとなった。従来これら分野は

ほぼ独立してその業務を行ってきたが

①高金利対応商品の開発に伴い効率的かつ収益性の高い運用先の確

②金利乱高下での投資リスクの回避

③商品特性に応じた資産運用

といった課題を解決する必要に迫られ、保険契約に基づく資金の流れ、

及びその特性を理解したうえでこれに応じた資産運用を考える必要が

あるとの認識を持つ会社が増えてきた。即ち、一般に生命保険会社は、

個人終身保険・定期保険・団体定期保険・団体年金保険・健康保険等

多種多様な商品を販売しているが、これら全く資金フローの性格が異

なる商品を1つの一般勘定として管理するのみではその実態を反映し

ないことが多々生じた。従って保険種類毎にその資金の流れを認識し

たうえで各々にマッチした投資政策を図り、そこからの運用収益を

各保険種類に帰属させる様な管理システムが必要であるとの認識が高

まった。

(2)従来の投資収入の割り当て法

伝統的投資収入の割り当て法としてポートフォリオメソッド

(Portfolio Method)と呼ばれるものがある。これは投資収入を一般

勘定資産中の各保険の持分即ち年央責任準備金(MeanReserve)の比

率でもって振り分ける方法であり、簡便かつ古典的なものである。

その後、1970年代に至り金利乱高下を踏まえた投資年度方式

一149-

ALMに関する一考察

(Investment Year Method)と呼ばれるものが脚光を浴びるように

なった。これは‘異なる時点での運用資産は異なる利率で投資される

はずである’’との考え方に基づくものであり高金利下での顧客獲得・

維持(特に企業年金分野において)を主たる目的として発展してきたも

のである。

(3)セグメンテイション(Segmentation)

以上の2方式に続き、1975年頃よりアメリカでは、セグメンテイ

ション方式が採用されるようになった。

セグメンテイション(一般勘定の区分経理)とは保険種類毎に資産運

用収益(損失)を割り当てる一方法である。同様な資金フローを持つと

考えられる保険種類はセグメントと呼ばれ、ネットの投資収益、キャ

ピタルゲイン・ロスを含む全投資効果はこの各セグメント毎に割り当

てられる。セグメンテイションにより保険会社は一般勘定に含まれる

各セグメントの異なる投資ニードに応じた運用を行うことが出来、資

産と負債のマッチングの機会が得られる。さらに広義には、経済環

境・市場環境に応じた商品設計・価格設定を可能にする経営形態であ

るとも言い得る。

セグメンテイションの目的は資産運用結果を割り当てることであり、

あくまで一般勘定の1つの管理形態であるという点で分離勘定的な意

味における資産の分離(Segregation ofAssetts)とは異なる。

(4)エクイタブル社のセグメンテイション

①経緯

同社は1981年よりセグメンテイション方式を導入しているが、当

方式を採用するにあたって次の観点から調査分析を行った経緯が

ある。

i)会社の保険、年金商品の保有構造並びに負債構造。

-1馳-

ALMに関する一考察

的)資金流動化の必要性

iii)資産の管理形態-投資面でのキャッシュフローと保険収支

のキャッシュフローとの適合度-

iv)異なる業務部門の管理形態(社内一括か、数社分割か、子会社

経由か)及び分離資産の活用度

∨)管理機構(資産と負債がそれぞれ互いに適切な関係をもって管

理されているかを確認しうる経営体制)

(むセグメンテイションの内容

エクイタプル社は一般勘定を次の5つのセグメントで構成する

方法を採用した。

i)個人保険と個人健康保険

ii)団体保険と団体健康保険

iii)個人年金およびその補完商品

iv)利率保証年金および無配当年金

∨)その他年金

なおこれ以外に会社全体の目的に従うセグメントを1つ設定し

ている。これには本社不動産投資・特定子会社への投資、ベン

チャービジネスへの投資、社会目的のための投資といったものが

含まれる。

この様に分類したポイントとしては

i)各々の商品の保険キャッシュフロー・負債構造の整合性が、と

れる。

ii)各ポートフォリオが自らの費用をまかない、ポートフォリオ

内で投資分散を行い得る。

といったことが挙げられる。

また上記に加え、将来的には更にきめ細かなセグメントが必

一151-

ALMに関する一考察

要となる可能性もある。例えばユニバーサル保険の負債構造・

投資ニードは基本的に伝統的商品のそれとは大きく異なってお

り、この資産が大きくなれば1つのセグメントとする必要性も

増す。

さらに団体保険・団体健康保険は、長期型負債と短期型負債と

いう形にも分割できよう。

③セグメンテイションの実行ステップ

セグメンテイションを採用する際の実行ステップは概略次の様

になる。

i)既存の投資対象をセグメント間に割り当てるルール作り

・直前の割り当て比をそのまま維持していく……将来法的アプ

ローチ

・セグメンテイションが以前から行われていたと仮定し、各セ

グメントにセグメントポートフォリオの初期構造を与える…

…過去法的アプローチ

ii)セグメンテイションのもとでの投資管理

・非分割……大規模・既存かつ直接配置の抵当・不動産投資

・既存割り当て率で細分……市場取引される債券・株式その他

iii)会計システムの大幅な変更

・投資結果が得られ次第、敏速な対応を行う。

iv)新規投資の割り当て、複数セグメントへの分配についてのル

ールと手続き

∨)負のキャッシュフローを調整するための手続き

・既存資産の流動化

・他のセグメントからの借り入れ

・外部からの借り入れ

-152-

ALMに関する一考察

Vi)その他実務的取り決め

④セグメンテイションに対する評価

セグメンテイションを採用することにより、得られるメリット

としては

・資産と負債のマッチング、流動性コントロールに対する情報提

・例月のキャッシュフロー分析・最新状態での予測

・投資マネージャーと商品マネージャーの関係緊密化

が挙げられる。しかしながら半面で、

・会計業務の増加

・投資意志決定の遅れ

・有利な投資機会の喪失

といった問題点も指摘されている。

2.イミュナイゼイション

(1)定義・背景

イミュナイゼイションとは、金利の上下変動にかかわらず予定した

利回りを高い確率で得られるような資産選択を考える場合の一手法で

ある。イミュナイゼイションの概念自体は古くからあったが、これが

今まで脚光をあびるに至らなかった理由として

①米国では50年代から60年代後半までは、金利が比較的安定してい

た。

(参ほとんどの保険会社組織で投資機能と負債評価機能を分離してお

り、この2つを結合する委員会組織もなく互いに他方の領域を理

解していなかった。

③イミュナイゼイションの考え方自体理解されていなかった。

④過去に提出されたイミュナイゼイション理論は制約条件が厳しく

一153-

ALMに関する一考察

現実的でないと同時に、投資活動を著しく束縛し投資担当者が政

策決定する際の選択巾も小さかった。

といった障害が考えられる。

しかし、高インフレ・高金利・不確実な経済環境の時代を迎えるに

至り、高いレベルで利率を保証する商品(利率保証年金、ユニバーサ

ルライフ等)が登場するなかで、イミュナイゼイション理論の必要性

が高まってきた。

(2)問題意識

(D資産のイミュナイゼイション

金利が激しく変動するという前提で、いかなる状態においても一定

の利回りを高い確率で得るためにはどの様な資産を選択するのが良い

か。例えば一定利率を保証するタイプの商品の資金の投資先を考える

場合、金利が上下どちらに動くか分からないという状況下で安定した

利回りを稼ぐにはどうしたら良いか。

金利がこれから上昇しそうであるという見込みであれば短期物債券

を買ってこれをころがしていく方が中・長期債券を保有しているより

有利である。逆のケースでは現時点で長期物を買っておくのが望まし

い。この背景にある特性としては、

・金利が上がれば債券価格は下落し、下がれば上昇する。

・金利が上がれば再投資対象の利回りは高いものとなり、下がれば

低い利回りのもとで投資せざるを得ない。

がある。イミュナイゼイションは金利変動の不確かな状況でこれら2

要素を考慮した解決策を与える。

②資産/負債のイミュナイゼイション

投資側のキャッシュフロー(利息・元本返済)と保険側のキャッシュ

フロー(人としての保険料収入と、出としての保険金・年金支払い・

一1弘一

ALMに関する一考察

事業費・税金等)とは、本来一致しない。この様な資産と負債のミス

マッチングについては次の危険がある。

・実際の利率が予想された利率より低い状態で資金が再投資されね

ばならない危険

・金利の高い状態でキャピタルロスを生ずる様な売却を行わねばな

らない危険

イミュナイゼイションはこれら危険を回避する一方策としても利用

され得る。

(3)絶対マッチング(Absolute Matching)

イミュナイゼイションの最も初歩的なものであり制約条件が厳しく、

概要次のとおりである。

・資産と負債の完全なマッチングを目的とする。

・投資キャッシュフローが保険キャッシュフローを上廻るという前

提である。従って流動性は問題にされない。

・再投資は特に問題とされない。

・負債にマッチするような投資対象が現実には見つかりにくく、投

資政策を非常に束縛する。

例えば5年満期養老には必ず5年もの債券を対応させるというよう

なケースが考えられる。

(4)古典的イミュナイゼイション(ConventionalImmunization)

金利の変動として現在の水準からモデル開始直後突然1回のみ変化

した場合を扱う。

Af;投資キャッシュフロー

ん;保険キャッシュフロー

協;∑吊れ(〃;現価率)

佐;∑がん

一155-

ALMに関する一考察

i;現時点での利率

ム;利率変化分

S(り;利率iの場合の剰余関数

とし、5(l)=祐一佐=0、(4)”≒0(乃≧3)の前提のもとで、

S(l+Ji)>0となる条件を解くと(*)∑〟礼_∑がん∑誠も‾∑がん

(**)鷲欝>隻語(途中計算省略)

となる。(*)は投資・保険キャッシュフローの時間に関する加重平

均が等しいことを、また(**)は時間に関する分散で投資キャッシュ

フローが保険キャッシュフローを上廻ることを意味している。即ち

様々な金利シナリオのもとで安定した剰余を計上するには、対象とな

る投資キャッシュフローと保険キャッシュフローにつき(*)、(**)

の各項を計算し条件と合うような投資政策・商品政策を図れば良い。

しかしながら前述のとおりこのモデルは1回の変動のみを対象とす

るという制約があり、またS(の=0、即ち現在の利率水準での剰余

が0という非現実的な条件がある点で実用化に限界がある。

そこでこれら条件を大幅に緩和し、現実的なモデルに近づけたもの

が次の一般イミュナイゼイションである。

(5)一般イミュナイゼイション(GeneralImmunization)

まず最初に、投資政策を場合分けすると次のものになろう。

①初期投資政策(InitialInvestmentStrategy)

投資担当者の第一の仕事は短期の投資機会を評価し投資可能資

金を様々な投資対象に割り当てることであろう。投資政策の決定

要因につき、投資担当者は短期的には比較的良くその情報を得る

ことができる。

一156-

ALMに関する一考察

②再投資政策(ReinvestmentStrategy)

再投資決定を行うに最も適した時期は、もちろんその再投資が

実際に行われ市場環境についても十分知り得る将来の時点である。

しかしここでは、不確実ながらも将来もたらされ得る金利面での

危険に対し防衛することを試みる。ただし、初期投資政策ほど詳

細な現実的モデルを作成し得ないことは明らかである。

③流動性政策(LiquidationStrategy)

全体のファンドが正のキャッシュフローの状態にある中で、投

資担当者が一部の負のキャッシュフローを持つファンドのために

資産を売却することは通常あり得ない。しかしファンド間の公平

性については考慮する必要がある。

このような点をふまえ、過去のイミュナイゼイションの理論を包括

Lより現実に即したモデルを考える。このモデルは主として次の要素

から組み立てられる。

①初期投資を含む各投資対象からの利息・元本収入

(診仮定に基づいた保険関係収入・支出

③再投資の回転率

④将来の利率

一応ここでの投資対象は確定利廻りの投資物件とする。投資活動か

らの収入は、初期投資に関するものと再投資に関するものに分離され、

1年間のキャッシュフローは一時に生ずるものとする。また初期投資

対象資産は、モデル終了時もしくはそれ以前にすべて償還されるもの

とする。

注)ただし投資物件についてより広いものを対象とすることは十分

可能である。またキャッシュフロー生起の間隔も時間の単位を変

更することでより細かな対応が可能である。

-157-

ALMに関する一考察

(6)一般イミュナイゼイション理論

C品仙f;投資以外の項目から第鳥年度に生ずる保険キャッシュフ

ロー

C昂接; 初期投資政策からのみ生ずる第鳥年度投資キャッシュフ

ロー

乃;初期投資物件数

α-ノ;第ノ番目の投資対象から第i年度に生ずる利息・元本収入(初期

投資額1に対して)

者;第j番目の初期投資物件に対する投資割合Jl

(∑月=1)J=1

とする。このことから、第鹿年度初期投資キャッシュインフローは

第ノ番目の投資キャッシュインフローにその割合を掛けたものに等し

C晶l”=∑吼濱Jこ1

と表わされる。

注)イミュナイゼイション開始時点で既に投資されている物件から

の収入も考慮する場合には、乃

C昂乃=α如+∑仇J月J=1

とすることができる。

次に再投資について考える。

i鳥;第ゑ年度の利率

‰;再投資されてから々年間で払い戻される再投資対象の割合

とすると、第を年度1(々≧2)における再投資は年始にその時点での利

率盲点でもって行われる。この再投資された資産の償還パターンが回転

率ベクトル

γ=(γ1、γ2、γ3……γの

-158-

ALMに関する一考察

である。

注)回転率ベクトルを年度により変化させ、また再投資対象毎に異

なる利率を設定することもできるが現実問題として予想不可能

であり、モデルを一層複雑にする。例えば再投資対象毎の利率

を考えるのであれば再投資単位点がq個の再投資対象γ1、γ2…・

・…γ寸に振り分けられかつこの各々にふ1、ん2……i的の利息が

付与されることになる。

初期投資と再投資を合わせた投資キャッシュフローをC品物とする

とC杵月=C只一乃

C露1月=C紹”十C打乃γ1+C好期il

G好期=C紺乃十C紹乃γ1十C打乃γ2+Cnl乃i2(1-γ1)

十C紹搾i2

となる。さらに

吼;第々年度始に利率i農で再投資される金額

(即ちC品物-C昂㌣つ

とすると、このα鳥は、

①第カー1年度中の初期投資からの収入C品彗

②2、3、日‥…‥々-1年度に行われたすべての再投資につく利息貞一1       貞一エーl

∑わJ‘(1-∑の‘=2   ノ=1

③2、3、………ムー1年度に行われたすべての再投資からカー1年度烏-1

に生じた償遭∑加_lαll=2

④投資活動とは無関係な保険キャッシュフローから生ずる第鳥-1

年度キャッシュアウトフローCだ1

から成る。即ち烏-1   烏-l-1

仏=①+②+③一④=C紹?.-C只聖+∑抗力(1-∑乃)ヱ=2       J=1

-159-

ALMに関する一考察

鳥-1

+∑花_′仇………(*)l=2

一方、α2=C者l乃-C程如々-3

α。=C鍔”-C鍔融+α2〔‰_1+i2(1-∑苫)〕農-1

よりα;=∑β鳥£(C貯”-C秤当(鳥≧2)~=1

J=1

なる鮎を兄い出せる。これを用いて(*)を表わせば鳥-2Jトー1

α烏=(C私-C昂聖)+∑(∑〔拡_汁損1j㍍)旭椚)椚=1‘ミ1乃+l J=1

(G楊乃-ぽっ……(**)

最後にA”;仮定された投資政策期間柁年経過後の資産とすると、乃+1      乃一点十ユ

A乃=∑α農(1-∑の農=2       2=1

Jl

(**)と C搾れ=∑α妬Bを利用してJ=1

月 月+1  乃一々+l 慶一l

Aれ=∑〔∑(1-∑の∑β鳥‘仇J乃J=ll=2   l=1 ▲=1

柁+1   77+々+1 鳥一1

-∑(1-∑名)∑鮎(諾㌣農=2  l=1 i=1

即ち乃期間未の資産(剰余)A刀が

①初期投資政策者(ノ=1……乃)

②初期投資からの利息・元本収入仇J

③仮定に基づく保険キャッシュフローCf㌣

④再投資回転率告

⑤係数鮎

の組み合わせで決定される。

仮に初期投資からの利息・元本収入パターン仇入保険キャッシュ

フローC群t再投資回転率名を既知とすれば、これは利率パターン

斎1、i2……㍍に応じて初期投資政策者(ノ=1……乃)をAね≧0となるよ

うに決定する問題となる。

即ち利率京の集合をSとすると一般イミュナイゼイションは、

-160-

ALMに関する一考察

集合Sの各iにおいてA”≧0となるような初期投資政策

Pの領域虎を決定すること

となる。ただし実際には、困難さを避けるために則こ含まれる最

大内接球を考えるようである。

(7)一般イミュナイゼイションの例

一般イミュナイゼイションの簡単な例として、預託資金に一定の利

率を保証する場合の決定方式を考える。期間は3年、投資対象として

1年・2年・3年もの債券があり、各々のクーポンレートを仇、ダ2、

ダ3とする。

利息・元本の収入パターンは次の様になる

1年後    2年後   3年後

1年債券 1+仇     0     0

2年債券   ダ2    1+ダ2    0

3年債券   ダ3     g3    1+ダ3

(A)での記号を用いれば

C石川=(1+仇)者十 g2者+ ダ3者、

C紹柁=   (1十g2)者+ タ。者、

C程乃=       (1十ダ3)者

となる。

一方保険キャッシュフローとしては、解約(一部解約・全解約)、及

び保証利率わによる利息支払いがある。また解約率紺は利率に関係す

るものとする。即ち高金利になれば解約が増える。

C君融=棚.(1+i。)、

C鍔融=棚2(1一肌)(1+i。)2、

C者叫-(1-紺2)(1-祝パ)(1+i。)1

-161-

ALMに関する一考察

/t,  J。+2%

補足)この様な解約率の近似として正規分布を考え得る。即ち、

紺(1)=0.10+ご●∴′

iJi。-0.020.01 持i′

次に将来の利率変動のパターンとしては、保証利率を基準にら-

1%とら+2%の範囲を考える。これを定式化すれば

A≧0、。島≧0、者≧0;

Pl+者+f㌔=1;

Al(i。-0.01;A、A、A)≧0(downsiderisk)、

A,(i。+0.02;者、者、者)≧0(upsiderisk)

i。=7.50%としdounside riskの条件を満たす範囲を図示すると次

の様になる。

ALMに関する一考察

同じくi。=7.50%でupside riskの条件を満たす範囲は下記のとお

りである。

♪l

よって、これら両条件を満たす領域及びこれの内接球は次の様にな

(引用;JamesA.Tillyイミュナイゼイション理論)

-163-

ALMに関する一考察

Ⅴ.わが国の生保会社でALMを導入する場合に考慮すべ

き事項

1.日本と米国の生保経営環境の違い

まず最初に米国の経済金融環境をみると、モノ不足に伴う高インフ

レの進行から企業や個人の金利選好意識が高まり、1970年代の後半に

金利の急激な上昇の中で、個人の金融資産は、自由金利の高利回り商

品へとシフトし、特に生保は契約者貸付・解約の増大、保険料収入の

減少、貸付金の返済遅延等のいわゆるデイスインターミディエイショ

ンが起きた。逆に、1982年から’83年にかけての急速な金利の低下に

伴い、生保に急激な資金流入現象のいわゆるインターミディエイショ

ンが到来した。このような急激な金利の上下変動により、低利で固定

化されている商品を販売していた生保は多大な損失危険にみまわれた。

そして、その後の生保商品に対するニーズは低利回りである養老・終

身保険から低廉である保障重視の定期保険に移行し、また貯蓄保障は

短期の高利回り商品に移行することとなり、生保の商品政策は、多様

化した顧客ニーズに対応する商品として、ユニバーサル保険、アジャ

スタブル保険、変額保険等の商品を積極的に開発、販売することとなっ

た。これらの商品の特長は、市場金利に連動し、インフレにも強くま

た保険料の払込期間、払込金額が自由であることにある。したがって、

従来の商品と比較すると商品の負債面においては流動性の高い商品で

あることから、金利変動に伴うリスクの回避を行うためには、投資運

用において、市場金利の変化に敏感に対応し、かつ、保険契約の収支

に連動した運用システムの構築が必要となった。

一方、我が国の金利水準は下降傾向で低位に安定しており、また物

価も比較的安定している。従来からの顧客の生保商品に対するニーズ

は死亡保障と貯蓄保障の両保障を組み合わせた定期付養老保険や終身

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ALMに関する一考察

保険が主流をなして、安定的に推移してきている。従って、従来の生

保経営の環境下にあっては、商品内容は比較的単純でかつ長期間契約

で、保有の伸びも順調に推移してきていることから保険契約上の収支

は計画的に予測することが可能であり、金利変動等による影響を考慮

した負債からみた資産の流動性の確保という面からの資産管理はあま

り必要とされることはなかった。また、ほとんどの生保会社において

の利差配当水準は、保険商品間での差異はなく、かつ比較的安定的な

配当水準を維持してきており、資産は合同運用によっていること等か

ら、保険商品の特性を重視した資産運用の管理は要求されていなかっ

た。従って資産運用部門においては、保有資産の順調な増加の中にあっ

て、主に資産面を中心に運用管理することに重点をおいていた。

2.生保の経営環境の変化に伴って検討、実施すべき事項

(1)資産運用の多様化への対応

低経済成長の長期化によって、企業の投資意欲が減退し、さらに投

資資金の借入も内部または証券市場から調達するなど多様化してきて

いることから、生保の財務貸付は大企業への貸付が減少し、かわって

中小企業貸付の増加、消費者金融市場への参入がみられる。

また、景気テコ入れのための公共投資の増加や50年代に発行された

期近債の増加および借換債の発行等による国債の大量発行は今後とも

持続し、債券市場はさらに拡大していくことが予測されることから、

生保の有価証券投資は国債を中心とした公社債投資への積極的な対応

が見込まれ、債券投資会社の設立および特定金銭信託の活用も顕在化

してきている。

さらに、民間活力の導入の面から民間資金を主体とした公共投資の

増加に伴って、生保の不動産投資は市街地再開発事業への参画に加え

て不動産投資会社および不動産リース会社の設立も相次いでいる。

-165-

ALMに関する一考察

このような資産運用の多様化への対応として、次の事項について考

慮していくことが必要である。

①生保資金の公共性の観点から、投資基本原則である収益性、安全

性、流動性および多様性等を保持したうえでの多様化に対応した

資金配分施策を行う。

②資金需要の増減、金利変動等の影響、保険契約の収支動向および

自振、契貸利率等保険契約上の諸利率と市場金利との差の影響等

による生保資金の流出入の管理と長期予測を行う。

(2)金融自由化と国際化の進展に伴う対応

金融規制の緩和に伴って市場金利連動の新型大口預金の導入、CD

発行の弾力化および円建BA市場の創設等自由金利商品が台頭してき

ている。また、円の国際化に伴って、海外金利の変動の影響を受ける

ことによって我国の諸金利の変動は激化し、資金移動も活発化してき

ている。国際化の進展に伴って、営業活動の国際化、国際金融取引の

増大、ユーロー円市場の拡大による企業の資金調達の拡大、さらには

収益獲得の機会の増大の半面、為替リスク、流動性リスクおよびカン

トリーリスクの増大も起り、金融の自由化は自己責任の増大も意味す

ることとなりつつある。また、金融機関の業務の多角化による他業種

への進出、同質化がおこり、業際競争の激化は、自由金利商品の拡大

と合わせて収益の圧迫と経営リスクの発生につながるといえる。この

ような経済、金融環境の急速な変化に対応すべく、生保の資産運用は

金融の自由化による諸規制の緩和が図られることによって、抵当証券

会社、投資顧問会社等子会社、関連会社の設立が増大してきている。

また業際競争および業務提携においては、総合金融サービス分野への

進出、他業界との提携商品による高利回り商品の開発が活発化してき

ている。国際化への対応としては、外国株式・公社債、外貨預金投資

一166-

ALMに関する一考察

の増加および海外不動産の所有が増加し海外投資会社の設立も相次い

できており、今後はさらに海外投融資運用体制の整備、充実が図られ

ることが喫緊でありかつ、為替リスク等への対応として、外貨建債務

の取り入れや為替先物予約の取り入れも検討段階から一歩前進してき

ている。

このような海外投融資等の活発化への対応として次の事項について

配慮する必要がある。

①高収益化施策に伴うハイリスク対応の観点から長期的に安定した

収益を確保するための計画、立案書の作成。

(診利差配当財源を長期に安定的に確保するための配当計画書の作成

と資産運用計画書の作成。

③高利回り商品の開発、発売については、他の商品との公平性を保

持しつつ、競争力強化のための諸施策の調査、研究を行う。

(3)保険商品の多様化に伴う対応

個人金融資産の増大に伴って、消費者の金利選好意識は高まってき

ており、高齢化社会への急速な移行と相まって、今後はますます生存

保障に対するニーズは強くなってくるものと思われる。このような

ニーズに対応するために、生保は短満期の高利回り商品の販売、変額

保険の開発、ユニバーサル保険の検討および年金ニーズに対応するた

めの新商品の開発等にみられるように今後は、多様性・自在性ニーズ

に対応するための商品が開発されていくこととなる。

このような保険商品の多様化への対応として次の事項について配慮

する必要がある。

(D商品構成の変化への対策として、高利回り商品、年金保険の負債

占率の増加が保険収支に与える影響について、中・長期間の予測

を行う。

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ALMに関する一考察

②短満期・長満期、生存保障、死亡保障、医療保障等の商品特性に

適合した効率的な資金運用コントロールの企画・立案書の作成を

行う。

③高利回り商品、終身保険、年金保険、変額保険等の占率増加に伴

う中・長期間の収支予測および金利変動の影響による収支動向お

よび収益動向の予測を行う。

④運用環境の変化に即応した高収益化、効率化の面から、資産と負

債のバランスを計るためのシステムの企画書・立案書および運営

方法を作成する。

⑤コンピュータ技術の活用による効率化施策を行う。

以上述べた諸点に関する分析、検討を踏まえた上で、米国のALM

理論の導入可否、あるいは日本型ALMの導入の可能性についての検

証を行うことが必要となっていると言えよう。

「参考文献」

O「変貌する銀行経営-ALM時代を迎えて-」

(ジェイムズ・Ⅴ・ベイカー著、楠本博訳、東洋経済新報社)

O「ALM-総合的資産・負債管理の手法-」

(金融財政事情研究会編)

O「欧米各国の生保金融業務-財務委員会金融調査団報告書-」

(生命保険協会)

O「わが国都市銀行ALMの現状と課題」

(証券経済)

O「収益極大化・安定化を図るALM」

(金融財政事情61.5.5)

○米国生保会社の資産・負債管理

(保険学雑誌 505号)

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