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ALPSプログラム 第2回シンポジウム 新しい専門的大学職員に ......ALPSプログラム 第2回シンポジウム 新しい専門的大学職員に求められる

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  • ALPSプログラム 第2回シンポジウム

    新しい専門的大学職員に求められる教育・学修支援の専門職性とその養成

    ALPSブックレット シリーズVol. 2

    千葉大学アカデミック・リンク・センター

    教育関係共同利用拠点(教職員の組織的な研修等の共同利用拠点《教育・学修支援専門職養成》)

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.2

     このシンポジウムは、教育・学修支援の専門性とその養成のあり方をこれまで大学職員の能力向上について主導されてきた専門家と議論を行うために企画したものです。 千葉大学アカデミック・リンク・センターは、平成27年7月、これまでの活動をもとに、教育・学修支援の専門性を備えた人材養成に取り組むこととし、文部科学大臣により「教育関係共同利用拠点(教職員の組織的な研修等の共同利用拠点《教育・学修支援専門職養成》)」として認定を受け、その目的を達成するために、“アカデミック・リンク教育学修支援専門職養成プログラム ─ Academic Link Professional Staff Development Program for Educational and Learning Support:ALPSプログラム ─”に取り組んでいます。 このシンポジウムでは、アカデミック・リンク・センター副センター長の白川優治先生から、本センターが平成27年度に行った調査結果をもとに開発した「教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」について報告を行いました。報告では、能力項目・能力ルーブリック(試案)の開発プロセスとその内容を示すとともに、平成29年度から本格実施する予定の「履修証明プログラム」の全体構想15テーマ(案)やカリキュラムマップ等、われわれのこれまでの取り組みや考えについて紹介しました。桜美林大学大学院部長・教授の山本眞一先生からは、高等教育研究の専門家というお立場から、高等教育改革の現状とその背景についてご講演していただきました。こうした背景を受け大学職員キャリア・パスの変化が行われていること、今後ますます、職員の能力開発が必要であるとの説明がなれました。愛知みずほ大学・短期大学部事務局長である村瀬隆彦先生からは、大学における教務系職員のご経験をもとにご講演いただきました。教務業務で経験された事例や必要とされる能力に触れ、教務系職員がおかれる状況や国立大学と私立大学の違いについてもご紹介をしていただきました。 このシンポジウム終了後、本センターは教育関係共同利用拠点としての再認定を受け、平成34年3月末までその期間が延長されました。このシンポジウムを、お二人の専門家の方のご協力を得て開催できたこともその助けになったものと心から感謝するとともに、ここにその成果をブックレットとして刊行できることを喜んでいます。多くの関係者の方々の参考になれば幸いです。 本拠点の活動に引き続き皆様方のご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

      平成28年9月千葉大学アカデミック・リンク・センター長

    竹 内 比呂也

    は じ め に

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.2

    はじめに

    プログラム

    挨  拶      3 文部科学省 高等教育局大学振興課大学改革推進室学務係長 薮本 沙織氏

    趣旨説明     4 千葉大学 副学長,アカデミック・リンク・センター長,文学部教授 竹内 比呂也

    第1部:報告

    教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)     8 千葉大学 アカデミック・リンク・センター副センター長・国際教養学部准教授 白川 優治はじめに     81.大学における教育・学修の現在     92.「教育・学修支援の専門性」の必要性     103.教育・学修支援の現状     114.「教育・学修支援」の専門性の可視化     125.教育・学修支援の専門性に必要な能力項目(試案)     136.教育・学修支援の専門性に必要な能力ルーブリック(試案)     147.「能力ルーブリック」と履修証明プログラム     15

    第2部:講演

    ⃝講演1 大学職員の能力開発の重要性 ─ 大学を取り巻く環境変化への対応 ─     38 桜美林大学大学院部長・教授 山本 眞一氏はじめに     381.我々は今、どのような時代にいるのか?     392.わが国で最初の大学アドミニストレーター養成のための大学院プログラムの開始     403.拡大・大衆化する大学教育     414.進む大学改革     435.政治の枠組みの変化と18歳人口減少のインパクト     446.分野別(文系と理系と医系)の事情の違い     467.国立大学職員の典型的キャリアパス(法人化前)     478.大学職員の目指すべき方向は?     48

    目   次

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.2

    ⃝講演2 新しい専門的大学職員に求められる教育・学修支援の専門職性とその養成  ─ 教務系職員の養成の観点から─     67 愛知みずほ大学・短期大学部事務局長 村瀬 隆彦氏はじめに     671.教務のことを考えるようになったきっかけ     682.先輩から教えられたKKD     693.教務に係る業務は多様で多難     70 事例1)教員職員免許状資格認定に係る過誤     70 事例2)カルト的教団の元幹部の医学部合格への対応     70 事例3)学生の不慮の事故後の遺族への対応     71 事例4)大学入学試験時の対応     724.教務系職員の育成の課題     725.優秀な職員とは?     746.愛知みずほ大学の学修コンシェルジュ制度     757.千葉大学ALPS「ルーブリック」への意見     76

    第3部:パネルディスカッション

    パネルディスカッション     90

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.2

    シンポジウム光景

  • 新しい専門的大学職員に求められる教育・学修支援の専門職性とその養成

    2016年6月21日(火)開催シンポジウムの記録

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.22

    プログラム

    プログラム

    新しい専門的大学職員に求められる教育・学修支援の専門職性とその養成

     挨  拶 薮本 沙織氏(文部科学省 高等教育局大学振興課大学改革推進室学務係長)趣旨説明 竹内 比呂也 (千葉大学 アカデミック・リンク・センター長)

    第1部:報告

    教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)白川 優治(千葉大学 国際教養学部准教授)

    第2部:講演

    (講演1)大学職員の能力開発の重要性 ─ 大学を取り巻く環境変化への対応 ─

    山本 眞一氏(桜美林大学大学院部長・教授)

    (講演2)新しい専門的大学職員に求められる教育・学修支援の専門職性とその養成 ─ 教務系職員の養成の観点から ─

    村瀬 隆彦氏(愛知みずほ大学・短期大学部事務局長)

    パネルディスカッション 

    司会 竹内 比呂也

    日 時●2016年6月21日(火)14:00~16:30場 所●アカデミック・リンク・センター Ⅰ棟1階コンテンツスタジオ「ひかり」

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.2 3

     本日ここに教育関係共同利用拠点千葉大学アカデミック・リンク・センター主催のシンポジウム「新しい専門的大学職員に求められる教育・学修支援の専門職性とその養成」が開催されますことを、心よりお祝い申し上げます。また、本シンポジウムの開催に当たりましてご尽力されました千葉大学アカデミック・リンク・センターの皆様に、深く敬意を表します。 大学教育の一層の充実を図る観点から、各大学がみずからの強みを持つ分野へ取り組みを一層強化するとともに、他大学との連携を進めることによって、大学教育全体としてより多様で高度な教育を展開していくことの重要性が指摘されております。このため文部科学省では、他大学との連携を強化し、各大学の有する人的・物的資源の共同利用等の有効活用を推進するため、その拠点となる大学を文部科学大臣認定する教育関係共同利用拠点制度を平成21年9月より施行しており、2016年6月現在31大学による52の拠点が認定されております。 その中でもこの千葉大学のアカデミック・リンク・センターは、大学職員の組織的な研修等の拠点として平成27年度に認定され、教育・学修を支援する新たな専門職の能力ルーブリック開発を行い、全国の大学職員を対象とした実践的SD教育プログラムを実施して職員の高度化を図るとともに、教育・学修支援活動の情報拠点としてネットワークの形成に取り組んでおられ、各方面から大きな期待が寄せられています。 本日は、同センターが大学における教育・学修支援の専門性として必要とされる能力項目を明らかにするため作成に取り組んできた、能力ルーブリックの試案が提示されるとともに、教育・学修支援の専門性とその養成のあり方を、これまで大学職員の能力向上について主導されてきた専門家の方々と議論するシンポジウムが開催されます。現在、大学教育改革の担い手として、大学の教員のみならず大学職員全体の役割の重要性が指摘されております。そういった観点からも、本日は非常に楽しみにしております。 結びに、本シンポジウムのご盛会とご臨席の皆様のますますのご発展を心より祈念いたしまして、ご挨拶とさせていただきます。本日はよろしくお願いいたします。

    挨   拶

    文部科学省 高等教育局大学振興課大学

    改革推進室学務係長薮 本 沙 織 氏

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.24

     開会に先立ち、私から本日のシンポジウムの趣旨説明をさせていただきます。先ほど薮本様のご挨拶の中にも言及がございましたけれども、私どもアカデミック・リンク・センターは、平成27年度に文部科学大臣より教育関係共同利用拠点「教職員の組織的な研修等の共同利用拠点(教育・学修支援専門職養成)」の認定を受け、活動を進めてまいりました。この拠点としての活動を進めていく中で、私どもは「ALPSプログラム」をつくりました。「千葉大学アカデミック・リンク教育・学修支援専門職養成プログラム」の略称がALPSで、このプログラムをスタートさせ、教育・学修支援専門職の確立に向けてさまざまな活動を進めてきたところです。ご参加いただいた方もいらっしゃると思いますが、昨年「教育・学修支援専門職の確立に向けて」という第1回シンポジウムをこの会場で開催し、大変活発なご議論をいただきました。 私どもの平成27年度の活動としては、大学における教育・学修支援の専門性として必要とされる能力項目を明らかにし、能力ルーブリックを作成することがございました。これについては、本日この後私どもの白川副センター長から「教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」という形でお披露目をさせていただきます。このルーブリックはまだあくまでも試案で、これから多くの方々のご意見をいただきながらさらにブラッシュアップをしていくものと考えております。既に私どものセンターの、この教育関係共同利用拠点としての活動を行っている部門の運営委員会という形で、外部の専門家の方々のご意見を受けてルーブリックの見直しをするとともに、先週大阪で開かれました大学教育学会(大会)の場においてラウンドテーブルを開催し、多くのご参加の皆様方からも、このルーブリックについてさまざまなご意見等を頂戴したところです。 本日提供させていただく案は、それらのご意見を踏まえ、一応試案という形でお見せ

    趣 旨 説 明

    千葉大学 副学長,アカデミック・リンク・センター長,

    文学部教授竹 内 比呂也(司会)

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.2 5

    趣旨説明

    できる形になっているものです。このことにつきまして後ほど山本先生、村瀬先生から、また、パネルディスカッションの場ではフロアの皆様方からのご意見も頂戴したいと考えております。 本日は2人の著名な講師の先生方に来ていただいております。桜美林大学大学院部長・教授の山本眞一先生からは「大学職員と能力開発」というタイトルでご講演をいただき、また、現在愛知みずほ大学・短期大学部の村瀬隆彦事務局長からは「教務系職員の養成の観点から」というタイトルでお話をいただくことになっています。高等教育の研究をされてきた山本先生はから研究者の立場で、また、大学において長い教務系の職員としてのご経験をお持ちの村瀬様からは職員の立場で、私どもが今回提案させていただくルーブリックについて知見を深めるための、ご講演とご意見を頂戴する形になっております。お二方の専門的なお話を伺い、またフロアの皆様方からもさまざまなご意見を頂戴したいと考えているところです。 それでは最初に私どもの副センター長であります白川から「教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」についての報告をいたします。よろしくお願いします。

  • 第 1 部

    報 告

  • ALPSブックレット シリーズ Vol.28

    ⨋⨋はじめに 千葉大学アカデミック・リンク・センターで、今年度より副センター長を仰せつかっております、国際教養学部の白川と申します。ただいまお話がありました、アカデミック・リンク・センターが教育関係共同利用拠点として1年間取り組んできた教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリックの試案について、私の方から報告させていただきます。 お手元の配付資料の中で、現在映っておりますパワーポイントの資料とともに、別にホッチキスどめになっている「教育・学修支援の専門性の能力ルーブリック(試案)について」という資料【資料①】がありますので、あわせてごらんいただければと思います。基本的にはこのパワーポイントの資料をごらんいただければ、内容をお伝えできるようにつくっています。 この「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック」について、今日報告させていただくにあたり、まずは、今回、アカデミック・リンク・センターの企画に初めていらした方もいらっしゃるかと思いますので、このような取り組みを始めるに至った背景と、教育・学修支援という観点で見たときの高等教育の現状について少し確認をさせていただきます。それらの現状の上に、我々がこの教育・学修支援の専門性を示す資料として、この能力項目をつくってきたプロセスを報告し、そして具体的な能力項目・能力ルーブリックについてご紹介したいと思います。そして、この能力ルーブリックは、つくること自体が目的ではなく、拠点事業として、履修証明プログラムの形で専門性を高める研修プログラムを構築し、それを実施ことが目的ですので、現在進めております履修証明プログラムの全体構想についてもあわせてご報告をするといった内容で用意しております【スライド①-2】。

    [報告]

    教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案) 千葉大学 アカデミック・リンク・センター副センター長・

    国際教養学部准教授白 川 優 治

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 9

    ⨋⨋1.大学における教育・学修の現在 まず、このような取り組みの背景です【スライド①-3】。大学教育の現代的特徴を簡単に確認させていただきます。日本の大学教育においては、教養教育と専門教育を学士課程教育のなかで行う形になっています。その中でも、例えば、専門教育という観点で見たときには、専門分野によってかなりの違いがあります。言うまでもないことですが、専門分野ごとに教育課程の特徴が全く違うのが大学教育の特徴です。具体的には、理工系や医療系の分野であれば基礎から積み上げていくことが大切になります。一方で人文系、社会科学系であれば幅広い内容を広く学んでいくことが教育課程の特徴になります。「大学教育」といっても、一言ではくくれない特徴あることがわかります。さらに学際領域の広がりや、近年は入学の際には専門をはっきりと決めずに学生を募集して、入学後に学生が自分自身の専門分野を決めていくといった総合化、入試の大くくり化も広がっています。 このような大学教育の全体の特徴をまず確認した上で、さらに2000年代以降、さまざまな大学改革が進む中で、それまでの専門教育の狭い枠を超えた、新しい教育が大学教育の中で必要となり、取り組まれるようになってきました。具体的に見れば、いわゆるリメディアル教育という補習教育や、初年次教育として高大接続をきちんと進めていくような教育プログラムの必要性が2000年代以降、主張され、各大学で具体的に取り組まれています。それから2008年の中央教育審議会による学士課程答申において、「学士力」といったものを育てていくことの重要性が指摘され、また、大学設置基準の改正によりキャリア教育を組織的に取り組むことが求められてきたのは、皆様方ご存じのとおりです。さらに、現在は、グローバル化への対応や地方創生や地域貢献といったテーマでの教育改革も重要になってきています。一方で教育のICT化やラーニング・コモンズといった新しい学修環境を整備していく状況も生じてきました。それにあわせた新しい大学教育のあり方が、各大学で取り組まれるようになってきています。そして、現在、アクティブラーニングの重要性が主張されてきたところです。このように、簡単に見るだけでも旧来の大学教育の枠を超えるような新しい教育のあり方や変化の必要性が、特に2000年代以降、大学教育改革の重要な課題になってきたことが確認できます。

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.210

    ⨋⨋2.「教育・学修支援の専門性」の必要性 さらに、政策的な動向も関連しております【スライド①-4】。2012年に出された中央教育審議会の「大学教育の質的転換」答申の中では、大学生の学修成果を向上させていくことが必要であり、学生の学習時間を増加させることがの具体的な必要事項として指摘されております。こういった中で、アクティブラーニングの重要性が強調されています。また、これにあわせて、アドミッション、カリキュラム、ディプロマの三つのポリシーに基づいた組織的な教育の運営が必要になってくるということで、今年の3月には三つのポリシーの設定を義務化する法令改正が行われました。このように、大学教育のあり方全体が大きく変わってきたことを確認することができます。 このような、特に近年の大学教育の質的転換といった議論を踏まえたときに、大学教育において、効果的な教育を実現するためには、教育支援が必要であると指摘することができます。また一方で、多様な学生が大学に入学してくる、いわゆるユニバーサル段階の高等教育、大学においては、個々の学生に応じた適切な学修支援が必要になります。大学における学修支援はこれまでもさまざまな大学で実践されていますが、こういった政策的な動向、社会的な要請を背景にすると、例えば具体的には、リメディアルや補修教育といった、これまでの個々の取り組みを学修支援と呼ぶのではなく、もっと大学教育全体を見据えた学修支援のあり方についての議論が必要な段階、言い換えれば、学修支援という概念の拡張や学修支援の質的な転換が必要な段階ではないでしょうか。 このような社会的な変化、高等教育の変化を背景にしたときに、一方では教育・学修支援についての専門性を考えていく必要があるだろうということになります。一方では、それを担当する者の位置づけとして高度専門職の議論につながっていったのではないでしょうか。高度専門職については、昨年来、中央教育審議会の大学教育部会でも議論されてきましたが、これらの大きな変化を前提として議論されてきたと考えております。 このような動向の中で、千葉大学のアカデミック・リンク・センターでは、特に学修支援に中心的に取り組んできたこれまでの経験を踏まえ、新しい構想として、教育関係共同利用拠点として「アカデミック・リンク教育・学修支援専門職養成プログラム:ALPSプログラム」という教育・学修支援の専門性を養成する研修プログラムを構想し、これを具体的に実施していきたいと提案しました。これが、アカデミック・リンク・センターがこのことに取り組んでいるいきさつとなります。

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 11

    ⨋⨋3.教育・学修支援の現状 次に、このような教育・学修支援の状況について現状を確認しておきたいと思います。これについては昨年、文部科学省高等教育局大学振興課が実施された、全国大学の専門的職員の配置状況の調査が参考になります【スライド①-5】。ここでは、中央教育審議会の会議資料としてウエブサイトで公表されている資料をそのまま引用させていただきました。これを見ますと、大学には、さまざまな専門的職員が配置されていること見てとれるわけですが、学修支援についても、大体4分の1の大学において専門的職員が配置されているという調査結果となっています。専門的職員の配置状況では、図書館、キャリア形成、健康管理といったテーマで多く配置されていますが、4分の1の大学において学修支援の専門的職員が配置されているという調査はこれまでなかったものです。これは、非常に新しい状況だと考えることができます。 また、こういった学修支援についてはそれぞれの大学で、大学によっては伝統的な取り組みもありますが、さまざまな新しい取り組みも行われています【スライド①-6】。実際の事例として、例えば国際基督教大学のアカデミックプランニング・センターの事例があります。これは、国際基督教大学がリベラルアーツの大学として、学修支援の専門的な役割を担う職員が配置され、学生がどのような科目を履修するのがよいかアドバイスをしていく取り組みになっております。また、関西大学は、文部科学省のAPプログラムとして、学修支援を行う「学修コンシェルジュ」の配置と育成を行うプランが採択されています。また、北海道大学は、入学した後に学生が専門学部を選ぶ総合入試という取り組みに対応して、専門選択のためのラーニングサポートを行う専門的職員が、職員と教員の中間的な役割として、複数名、採用されています。また、後ほどご紹介いただけると思いますが、愛知みずほ大学では、学修コンシェルジュという形で、教職員が学生の学修をサポートをすることに取り組まれています。また、千葉大学におきましても、今年度より、SULA(Super University Learning Administrator)と呼んでいる、これまでの一般的な事務職員とは違う役割を持った、学修支援を専門的に行う職員を、この4月に新設した国際教養学部に2名配置して、学生に対する新たな学修支援を行っています。これらの実践事例は、学修支援を専門にする職員、教員を配置する実践事例と見ることができます。 ただ、これらの実践事例は、個々の大学でそれぞれ取り組まれている状況です。大学教育全体の学修支援として共通して求められる能力や専門性、言葉をかえればスキル標

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.212

    準に基づいたものではありません。しかし、専門的職員としての役割を担っていくのであれば、共通に求められる能力や専門性を議論していく必要性があるのではないでしょうか。これらの現状を見たときの、その議論が次のステップではないかと思います。これらのことから、我々の能力項目・能力ルーブリックは、大学での学修支援のための標準的な能力、学修支援の専門性を示したいといった背景でつくったものなのです。

    ⨋⨋4.「教育・学修支援」の専門性の可視化 大学職員の専門性をどのように捉えるかについては、これまでさまざまな議論や蓄積があります。具体的に考えてみれば、大学職員の専門性は、大学のなかでのさまざまな役割という観点から見ることもできます。【スライド①-7】はそれを示したものです。左側の円グラフで示しているように、学生のキャリア形成支援といった観点で専門的能力を考える、また、海外留学や留学生支援といった観点で専門的能力を考える、学生生活・学生相談といった観点で考えるなど、そのテーマごとに議論することもできます。また、大学職員の役割については、いわゆる職務の観点から議論することもできます。右側の円グラフでは、いわゆる学務系の職員、図書館の職員、また、マネジメントとして経営を支える職員といった議論を示しています。 このように、さまざまな観点から大学職員の専門性を議論できるわけですが、教育・学修支援の観点で見たときには、もう少しトータルな役割のあり方が議論できるのではないかということが、我々の問題意識にありました。つまり、今いる部署がどこであるかといった議論や、キャリア形成や学生生活といった個別のテーマの観点ではなく、学生の学修や大学での教育をトータルに見たときにどういった能力や専門性が必要なのかという問題関心です。 このような問題関心からこのことを考えると、これまでの大学職員の専門性についてはさまざまな文献がありますが、個人の方の経験論とか理念的な議論が中心で、客観的な根拠を持った汎用的に通用するものはあまり多くなかったということが、後ほど触れます我々の調査から見えました。こういった観点から、大学教育の全体に汎用的に通用する、分野を問わず通用するような教育・学修支援の専門性とは何かということが、我々の探求したかった大きな議論のフレームです。 これらのことを議論するに当たり、アカデミック・リンク・センターでは三つの調査を行いました【スライド①-8】。一つは、先行研究の文献を丁寧に読む、量も網羅的に

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 13

    探すといった文献の調査です。それから現職の大学職員の方がそれぞれの実際の現場においてどういった能力や力が必要と考えているか、ヒアリング調査を行いました。それから、これら二つの調査をもとにしながら質問項目をつくり、大学職員の方へのアンケート調査を行いました。これらの三つの調査を、アカデミック・リンク・センターにかかわる教員・職員の教職協働の事業として、この1年間弱ぐらいの期間で取り組んできました。 具体的には、この可視化のプロセスといったところで、どのくらいの量の文献を確認したか、何人ぐらいの方に調査を行ったかを簡単にまとめています【スライド①-9】。全体として、939件の文献確認を行い、29名の職員の方へのインタビュー調査を行い、また、700名を超える方にアンケートに協力いただきました。この場を借りて、インタビュー調査にご協力いただいた方、またアンケート調査にご協力いただいた方にお礼を申し上げます。 本日は時間の関係でこれらの個々の調査の概要については配付資料を見ていただくにとどめて【スライド①-10】、【スライド①-11】、【スライド①-12】、今回の報告のメインテーマである、これらの調査の結果から、我々は、教育・学修支援の専門性として必要な能力としてどのような内容を考えたのかを中心的に報告したいと思います。

    ⨋⨋5.教育・学修支援の専門性に必要な能力項目(試案) 教育・学修支援の観点で、これらの三つの調査の結果を整理をしたところ、教育・学修支援の専門性に必要な能力は、七つの領域に整理ができるだろうという結論に達しました。このことを示したものが、「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目(試案)」です【スライド①-13】。  ここでは、大学職員として共通に必要となる能力を一番右側の縦軸に、「大学職員としての共通性」として設定しています。それから現在の職務が教育・学修支援に直接か

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.214

    かわるか、かかわらないかはともかく、それぞれの担当部署で自分の業務を遂行していくに当たって必要になる能力があるだろうとして、これを真ん中に「担当業務の遂行」として置いています。それから教育支援、学修支援、学生支援といった観点で重要になると思われる能力を、これを左側に「学生・学修支援への関心」として置いています。 これらの分類とともに、さらに知識や内容として必要となる「理解する内容」と「対人関係」として横軸として区分しました。結果として、六つの領域に整理することにしました。そして、右側の下には、「基盤的なスキル」と書いておりますが、大学職員に限らず、どのような仕事につくにしても社会人として必要となる能力を、「基盤的スキル」という形で別に置きました。 具体的に見ると、【スライド①-13】のなかの①では中心になるものは「学生・学修・教育支援の内容」ということです。大学で行われている教育内容を把握する、具体的に教育支援・学修支援を設計したり実施できるといったことが含まれます。②の「担当業務の内容」では、担当業務を遂行していくためにさまざまな情報収集したり、業務を遂行するために必要な知識が入っています。③は、大学についての基本的な知識、また、自分の大学(所属大学)についての基本的な知識を持っているといったことです。④は、「学生への対応」です。学生に対する基本的な姿勢としてどのような姿勢で接する必要があるか、留学生に対する対応や、メンタルに課題をもつ学生への対応も含むさまざまな困難を抱えた学生に対して、どのように対応すればいいかわかっているといったことです。⑤は、「担当業務への取り組み方」として、職員同士での、また、部や課を超えた部署間で連携して担当業務を遂行していくに当たってのチームワークが含まれます。⑥は「人間関係の構築」です。これは人的ネットワーク、大学内外を問わずさまざまな人のつながりや教員との協働ができるといったことが入っています。

    ⨋⨋6.教育・学修支援の専門性に必要な能力ルーブリック(試案) これらの能力の領域について、七つの領域のなかにはその内容を具体的に示す項目が含まれており、それは全部で25の項目になっています。この七つの領域のうち、「基盤的スキル」を除いた六つの領域について、その専門的な能力の段階をS、A、B、Cという4段階で展開して示すルーブリックを作成しました【スライド①-14】。これについてはパワーポイントの資料では文字が小さいかと思いますが、別にお配りしている資料には詳細が入っているので、そちらでごらんください【資料①】。

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 15

     このルーブリックの内容は、Sは非常に高度なレベルを要求しており、その「知識やスキルを発展させ、他者を指導することができる」レベルとして設定しています。Aは「知識やスキルを実際の業務や問題解決に応用できる」レベル。Bは「身につけた知識が説明できる」レベル。Cは「知識として身に付けている」、最低限必要となるレベルになっています。それぞれ、先ほど申し上げた3つの調査をもとにしながら、調査から出てきた内容を段階的に整理する作業を通じて、このルーブリックを作成しました。 ただ、このような能力項目やルーブリックだけではわかりにくいので、特にインタビュー調査と文献調査から出てきた、教育・学修支援を担当する際にて求められる具体的な行動を、行動特性といった形で整理しました。さまざまな具体的な行動が、どの領域のどの項目に当てはまるか、180の項目で整理しています。つまり六つの領域、25の項目のさらに具体的な内容として、180の行動特性を示したということです【スライド①-15】【資料①】。 これらの能力項目やルーブリック、行動特性は、我々がこれから教育・学修支援の専門性を育てていく研修プログラムをつくっていくための、到達目標として活用することを想定して作成したものです。具体的にどういった内容が含まれているかについては、お手元のルーブリックの行動特性の試案で見ていただけます。また、これらの内容は、アカデミック・リンク・センターのALPSプログラムのウェブサイトでも公開しています。

    ⨋⨋7.「能力ルーブリック」と履修証明プログラム 非常に細かいかもしれませんが、このように教育・学修支援の専門性を示す能力項目と能力ルーブリックを作成した上で、それに基づいた履修証明プログラムの構築に、現在取り組んでいます。この能力ルーブリックはS、A、B、Cの段階があるものですが、特にA、B、Cの段階で示した水準がしっかりと身につけられるような履修証明プログラムをつくる形で、現在、準備を進めています【スライド①-16】。具体的なテーマとしては、履修証明プログラムの全体構想として15テーマを設定しています【スライド①-17】。このプログラムでは、共通に学んでいただく基盤的テーマを11コースを設定しています。それから総合的テーマとして2コース、総括的テーマとして2コースというかたちでで、これらは、それぞれの履修者が具体的な内容を積み上げてつくっていくテーマとして設定しています。 こういった15のテーマを履修証明プログラムとして体系系に作っていくにあたって、

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.216

    個々のコースがルーブリックの水準にどのように対応しているかをカリキュラムマップとして示しました【スライド①-18】。6領域の内容が、15のテーマの中でどのように身についていくのかをカリキュラムマップで示した上で、それぞれの履修者の皆さんにそれぞれのコースを履修していただく。そういった構想で、現在履修証明プログラムの構築を進めているところです。 この履修証明プログラムは、来年度、平成29年度から本格的に実施をする予定です【スライド①-19】。プログラムの履修は、2年間のプログラムとして考えています。現職の大学職員の方が受けやすい形で進めたいと考えており、2年ぐらいの時間をかけて学んでいただくのがよいのではないかというのが現在の我々の考えです。 ただ、来年度から始めるといっても試行的なことについては今年度から進める計画です。具体的には、三つのテーマについて、今年度、試行プログラムを実施する準備を進めています。特にこの夏には、「教育のICT化と教材開発の支援」といったテーマで、具体的には、授業教材の開発、著作権、教材開発の事例を内容とする試行プログラムを、8月から9月にかけて、eラーニングと対面実習を組み合わせたを形で行うことで、準備を進めているところです。これについては、また改めてご案内できるかと思います。 我々としては教育関係共同拠点として認定をいただき、こういった教育・学修支援の専門性を高めるための研修プログラムをつくっていくことで、日本の高等教育の質的な向上に貢献したいと考え、このような現在進めてきた取り組みを報告させていただきました。私の報告は以上です。後ほど、さまざまなご意見をいただければと思います。ありがとうございました。

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 17

    〔スライド①-1〕

    〔スライド①-2〕

    概要 1.背景と現状 1-1.大学における教育・学修の現在 1-2.「教育・学修支援の専門性」の必要性 1-3.「学修支援」専門的職員の配置状況 1-4.実践事例

    2.「教育・学修支援」に求められる専門性と能力項目 2-1.「教育・学修支援」の専門性の可視化 2-2. アカデミック・リンク・センターによる調査 2-3.教育・学修支援の専門性に必要な能力項目 2-4.教育・学修支援の専門性に必要な能力ルーブリック

    3.「能力ルーブリック」と履修証明プログラム 3-1.履修証明プログラムの構築と展開 3-2.履修証明プログラム 全体構想15テーマ(案) 3-3.履修証明プログラム カリキュラムマップ 3-4.履修証明プログラムの展開計画

    2

    報告 「教育・学修支援の専門性に必要な 能力項目・能力ルーブリック(試案)」

    千葉大学アカデミック・リンク・センター 第2回 ALPSシンポジウム

    2016年6月21日14:00-16:30

    スライド資料①

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.218

    〔スライド①-4〕

    〔スライド①-3〕

    1-2.「教育・学修支援の専門性」の必要性 「大学教育の質的転換」(中教審2012)の要請 大学生の学修成果の向上 学習時間の増加 3つのポリシーに基づいた組織的な教育課程

    大学教育の現代的特徴と社会的・政策的要請を背景とした 効果的な教育を実現するための教育支援の必要性 個々の学生に応じた適切な学修支援の必要性

    千葉大学アカデミック・リンク・センターの取組と提案 教育関係共同利用拠点として提案:「アカデミック・リンク教育・学修支援専門職養成プログラム:ALPSプログラム」

    教育・学修支援の専門性 高度専門職の議論

    4

    1-1.背景:大学における教育・学修の現在 大学教育の現代的特徴 大学教育の構成 幅広い教養教育 各領域の専門教育 専門教育ごとの教育課程の特徴:積み上げ型・広がり型 学際領域 入学時の大くくり化・総合化=入学後の専門選択

    2000年代以降求められてきたさまざまな新しい教育 高大接続 初年次教育 学士力等の汎用的技能(ジェネリック・スキル) キャリア教育 グローバル化へ対応した教育/地域貢献へ対応した教育 教育のICT化、ラーニング・コモンズなどの学修環境 アクティブラーニング

    3

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 19

    〔スライド①-6〕

    〔スライド①-5〕

    1-4.実践事例

    学修支援・学習支援は大学個々の取組みとして実施

    されている現状 共通する能力・専門性は? 「スキル標準の必要性」

    6

    1-3.現状:「学修支援」専門的職員の配置状況 (文部科学省調査)

    文部科学省高等教育局大学振興課 「大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査結果(概要)」

    (中央教育審議会大学分科会 大学教育部会(第41回)H28.1.18 資料1-1) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2016/01/25/1366190_01.pdf

    学修支援 全体25.5% 国立30.2% 公立15.4% 私立27.4%

    5

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.220

    〔スライド①-8〕

    〔スライド①-7〕

    2-2.アカデミック・リンク・センターによる調査

    3つの調査による可視化 文献調査 ACPA & NASPA(2015)やCAS(2015)を参照

    先行研究での大学職員の能力、 学修支援の要素の抽出

    大学職員へのインタビュー調査 教育・学修支援のために必要と 思う能力

    大学職員へのアンケート調査 妥当性の検証、ニーズ調査 ※これらの3つの調査を

    教員)白川・岡田・御手洗 図書系職員)米田・谷 学務系職員)奥田・多田 を中心に教職協働で実査・分析を実施。

    1)文献調査 ・構成概念の検討 先行研究でどのような資質・能力が重要と言及されているか

    2)インタビュー調査 ・実践知の言語化 ・能力項目プールの作成

    3)アンケート調査 ・構成概念の検討・修正 ・構成概念妥当性の確認

    8

    2-1.「教育・学修支援」の専門性の可視化 7

    キャリア形成支援

    海外留学・ 留学生支援

    学修支援・学習相談、 アカデミック・アドバイス

    学生生活支援 学生相談

    障害学生支援

    教務・カリキュラム 授業運営支援

    大学職員 (マネジメント)

    学務系職員

    一般的基礎能力

    図書館職員

    大学職員の専門性を捉える枠組み

    これまでの大学職員の専門性論の課題 ・個人の経験論や理念論が中心 ・客観的根拠を持った汎用性・通用性が乏しい

    汎用性・通用性をもった 教育・学修支援を主題にした能力 の可視化の必要性

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 21

    〔スライド①-10〕

    〔スライド①-9〕

    検索語による文献抽出 1,148件 ・CiNii Articles:767件 ・国会図書館サーチ:157件 ・JAIRO:224件

    第一次文献リスト:939件

    第二次文献リスト:292件

    最終文献リスト:298件 精読による資質・能力の抽出

    重複およびタイトルから無関係な文献の除外:157件

    文献のタイトルから調査者3名が、教育・学修支援の資質・能力への関連性を4段階で評価。 平均値が3以上の文献を残し、関連性の低い文献を除外。 ex: 研究支援、財務・会計、組織改革等

    検索結果から漏れた単行本の章や頻出する被引用文献を追加。6件。

    文献の系統抽出 関連性の評価 (内容妥当性の確認方法に準拠)

    • 4: 内容を必ず確認する必要がある。 • 3: 内容を確認することが望ましい。 • 2: 内容を確認する必要が低い。 • 1: 内容を確認する必要はない。

    1)文献調査の概略 10

    「教育・学修支援」の専門性の可視化プロセス 1)文献調査 939 件の文献を分析 先行研究から35 項目の能力項目(中項目)を整理し、8 項目のドメイン項目(領域)を設定

    2)大学職員へのインタビュー調査 29名の大学職員へのインタビュー調査 インタビュー記録から60 件の能力項目(中項目)を抽出し、19 項目のドメイン項目(領域)を設定

    3)大学職員へのアンケート調査 これらの能力項目の妥当性を検証 国公私立大学10大学の協力:712人の回答 文献調査・インタビュー調査の調査結果を統合し、「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目」を設定し、アンケート調査で検証

    9

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.222

    〔スライド①-12〕

    〔スライド①-11〕

    3)アンケート調査の概略

    目的:教育・学修支援に求められる大学職員の資質・能力を明らかにする。

    対象:国公私立10大学

    (調査協力に基づく)

    調査時期:2016年3月

    方法:匿名Web調査方式

    回収数:712件

    12

    教育・学修支援に関連する資質・ 能力を測定する47項目 2つの反転項目を含む。 文献調査、インタビュー調査 の結果から項目を選択。

    47項目

    ※3つの調査の詳細は、第38回大学教育学会大会(2016.6.12)の報告資料を参照ください ALPSプログラムウェブサイトに掲載 http://alc.chiba-u.jp/ALPS/publication.html

    2)インタビュー調査の概略 対象者の選定 現職大学職員で、原則として10年以上の職務経験 大学で教育支援、学修支援、学生支援に直接・間接にかかわる部署として学務系職員(本部・学部)、図書系職員のなかから、 ①他者推薦として高い職能を有していると評価されている ②他機関の主催セミナーに参加する積極性を有する ③スノーボールサンプリングとして被調査者からの推薦

    選定にあたり、管理職(課長級)、初級管理職(課長補佐、係長級)、一般職員の職位の多様性にも配慮

    対象者 国私立大学(6大学)の29名 ※Grounded Theory Approachを準用して、知見が飽和するまでを対象者数とした

    11

    学務系職員 図書系職員

    合計 管理職 初級 管理職 一般 職員 その他※ 管理職

    初級 管理職

    一般 職員

    国立大学 4 6 11 2 1 1 0 25 私立大学 1 0 1 0 1 0 1 4

    ※その他は、再雇用職員・特定専門職員

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 23

    〔スライド①-14〕

    〔スライド①-13〕

    2-4.教育・学修支援の専門性に必要な能力ルーブリック (試案) 領域

    項目 (各領域で含む要素を具体的に

    示したもの)

    S (知識やスキルを発展させ、 指導することができる)

    A (知識やスキルを実践の場の問題解決に応用できる)

    B (身に付けた知識を 説明できる)

    C (知識として

    身に付けている)

    ①学生・学修・ 教育支援の内容

    ・教育内容の把握 ・学生・学修・教育支援の内容の設計と実施 ・学生・学修・教育支援活動のプログラム改善 ・学生・学生支援の現状理解

    学生の支援ニーズを調査し、学習者のニーズにあわせた学修支援を開発し、効果的に実施することができる。さまざまな教育領域の教育上の最新の改善課題、論点、教育方法を把握し、個別の授業ニーズにあわせた教育支援に活用することができる。そして、学修支援・教育支援の結果を検証し、評価、改善することができる。

    個々の学生に応じた支援内容・方法を選定し、必要な支援を設計、提案することができる。また、所属大学全体の教育課程の概要を理解した上で、学内外の先進的な取組事例を参考に、個別の授業に対して教育支援を具体的に提案することができる。

    学修支援に必要な教育領域における最新の改善課題、論点、教育方法を説明することができる。また、学生の多様性を理解し、個々人の学習上の課題を踏まえた支援を説明することができる。

    教育支援や学修支援の担当者に必要な法令遵守の意識、倫理観を身に付けている。また、学修支援に必要な教育課程の基本的枠組みと個々の授業が扱っている教育内容の概要を理解している。

    ②担当業務の内容 ・課題の設定と問題解決 ・情報収集・整理・分析・発信 ・業務に関する知識 ・様々な経験とその活用

    所属箇所における課題を発見し、改善することを目的に、課題設定、データ収集・分析、対応策の立案、実施を自律的に実現することができる。担当業務に関連する新たな取組を企画立案し、周囲の協力を得て、実行することができる。

    学内外の先進的な取組事例を参考にし、自分の担当業務に応用することができる。また、自分の業務に関連する情報、データを収集し、整理、分析した上で、業務上の課題について解決策や改善策を提案することができる。

    学内外の最新動向・情報を収集し、担当業務との関連性を説明することができる。また、自分の業務について予算的裏付けや会計上の位置づけを説明することができる。これまでの業務内外の経験を現在の担当業務に活かしており、その関連性を説明することができる。

    大学における担当業務を行うために必要な知識を有している。また、学生や教育に関する情報の収集、整理、保管に関する法令や規則、倫理を理解している。

    ③大学についての 知識

    ・高等教育・社会・教育に関する知識 ・所属大学についての理解

    高等教育の現状について批判的に分析・検討し、所属大学における教育のあり方について具体的な改善案を策定し、実践の場で提案することができる。

    高等教育を取り巻く社会・経済情勢や政策動向などから、所属大学の教育の現状について批判的に分析・検討し、組織上の構造的な問題を特定し、解決策や改善策を提示することができる。

    大学で教育研究されている学問領域全体の体系性や内容、構造についての理解に基づき、所属大学の教育の特徴や個々の施策・規則の意義や課題について説明することができる。

    国内外の大学に関する歴史や制度、法規、政策、取り巻く環境などについて基本的な理解を示すとともに、その中で所属大学の理念や特色、位置づけを把握している。また、カリキュラム論や発達理論などの教育や学生に関わる一般的な知識を有している。

    ④学生への対応 ・学生対応への基本的姿勢・態度 ・留学生への対応 ・困難を抱えた学生への対応

    学生の対応に関わる学内外の利用可能な資源の現状について批判的に分析・検討を行い、より効果的な支援の体制・あり方を、実現可能性を含めて、企画・設計し、構築するなど、学生の対応について指導的役割を果たすことができる。

    学生への対応に関して、国内外の様々な事例を参照・理解し、それらの事例を批判的に検討したうえで、個別の事例に適用して実践に利用することができる。問題解決のために、学内外の利用可能な資源を活用し、効果的に対応することができる。

    アドバイジングやカウンセリング、コーチングに関する技術を応用し、留学生を含む多様な学生への効果的なコミュニケーションのあり方について説明することができる。また、所属大学における保護者との関わり方や医療機関等の学内外の利用可能な資源の現状について説明することができる。

    現代の学生・若者をめぐる状況や課題を理解し、キャリアやハラスメントなど、学生が入学してから卒業するまでにどのような困難や課題を抱えるかについて理解している。また、問題行動を起こした学生への対応について把握している。発達障害やメンタルヘルスなどに関する困難を抱えた学生の対応や支援についての知識を有している。

    ⑤担当業務への 取り組み方

    ・担当業務の遂行 ・チームワーク

    学内外の組織横断的な、あるいは困難な担当業務について先を見通した計画を立て、主導的に実行することができる。さらに、協働して業務を行うことの強みを活かして、高い成果を生み出すことができる。

    担当業務を遂行するに当たり、率先して取り組むとともに、協働する他者の強みや弱みなどの特性を理解し、業務への自他のモチベーションを高めるなど、チームを活性化し、業務の効率と効果を高めることができる。

    担当業務の意義や大学全体から見た役割を理解しており、職務に対して意欲的に取り組むことができる。チームで業務を進めるにあたり、自分の考えを伝えつつ、他者との合意形成を図り、協調的に業務を推進することができる。

    所属大学の方針や業務の流れを把握し、正確に業務を行うため、自分で調べたり、必要に応じて関係者に確認することの重要性を理解している。また業務で困難が生じた場合は、周りに助けを求めることができるなど、チームワークを意識して業務を遂行することができる。

    ⑥人間関係の構築 ・人的ネットワーク ・教員との連携・協働

    勉強会・シンポジウム等の参加や情報交換の機会を利用し、学内外に幅広い人的ネットワークを形成している。また、学内外の人的ネットワークを活用し、様々な情報を収集し、所属大学の業務改善・開発に生かすことができる。

    学内に人的ネットワークを形成し、必要に応じて、関係する教員や他箇所の職員等と連携を図り、調整しながら職務をやり遂げることができる。また、どのような関係者と協働すれば効果的に業務が遂行できるか把握している。

    大学教員の仕事や役割についての理解に基づき、業務で関わる教員の特性を把握し、他箇所の職員等との連携を含めて、協働する体制を構築するための働き掛けを行うことができる。

    担当業務以外の業務や学内の取り組みについて関心を持ち、所属大学内の他箇所の職員と関わる機会に積極的に参加するなど、開かれた態度や行動を示す。

    14

    ・困難を抱えた学生への対応

    2-3.教育・学修支援の専門性に必要な能力項目(試案)学生・学修支援への関心 担当業務の遂行 大学職員としての共通性

    ①学生・学修・教育支援の内容

    ②担当業務の内容 ③大学についての知識

    ⑥人間関係の構築⑤担当業務への取り組み方④学生への対応

    基盤的スキル

    ・学生対応への基本的姿勢・態度

    ・高等教育・社会・教育に関する知識・所属大学についての理解

    ・人的ネットワーク・チームワーク

    ・ICTスキル・語学

    ・キャリアアップ・スキルアップの取組

    ・メタ的な能力(社会人としてのコンピテンシー)

    ・クリティカルシンキング・説明できる力

    ・物事を広くみる力

    ・文章作成能力

    ・担当業務の遂行・教員との連携・協働

    ・教育内容の把握

    ・学生・学生支援の現状理解

    ・学生・学修・教育支援の設計と実施

    ・学生・学修・教育支援活動のプログラム改善

    ・課題の設定と問題解決・情報収集・整理・分析・発信・業務に関する知識・様々な経験とその活用

    ・留学生への対応

    13

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.224

    〔スライド①-16〕

    〔スライド①-15〕

    3-1. 履修証明プログラムの構築と展開 「能力項目・能力ルーブリック」と履修証明プログラムの対応イメージ

    S A B C 領域① 領域② 領域③

    履修証明プログラム(一部)

    テーマ(1) 教材開発支援 (具体的内容:①授業教材開発について、②著作権の理解、③教材開発の事例)

    テーマ(2) 学生・学修に関する理解 テーマ(3) 教育方法・教育評価 ・・・・

    能力項目・ルーブリックの A・B・C段階を中心に構築

    個々のプログラムの 教育目標水準として利用

    履修証明プログラムは、 15テーマ×8時間 として120時間以上の 体系的な教育プログラム を構築

    「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目」は、 7領域について、25項目と180行動特性を提示して 具体化。 「能力ルーブリック」は、6領域に対し 4段階で記述

    16

    2-5.教育・学修支援の専門性に必要な能力ルーブリック 行動特性まとめ(領域・項目・行動特性)

    領域 項目 整理番号 行動特性 ①学生・学修・教育支援の内容 ・教育内容の把握 1 ・教育・学習の内容を把握している。 2 ・様々な教育方法に関心がある。 3 ・各専門分野の教育の動向を関心がある。 4 ・カリキュラムマネジメントについて関心がある。 5 ・学修に必要なアカデミックスキルについて理解している。 6 ・学生が参加できる学内外の学習機会を把握している。 ・学生・学修・教育支援の設計と実施 7 ・学内の教育環境・設備を把握している。

    8 ・ひとりひとりの学生が大学で学ぶ目的を自覚するのを助け、それぞれの学びの目的に合った専攻分野の選択や科目の選択を支援する。

    9 ・学生・学修・教育支援の方法を選定する。 10 ・学生を観察して、マーケティングできる。 11 ・学生・学修・教育支援の内容を選別し、選定する。 12 ・学生の諸活動を調整し、全体としてまとめる。 13 ・効果的な教材の利用、開発に関心がある。 14 ・教職員の学生支援に対する理解を促進する。

    ・学生・学修・教育支援活動のプログラム改善 15 ・学生・学修・教育支援の活動・プログラムの満足度などを測定する。

    16 ・学生・学修・教育支援の活動・プログラムを評価し、検証する。 17 ・学生・学修・教育支援の活動・プログラムを改善につなげる。 ・学生・学生支援の現状理解 18 ・学生や学生支援の現状を把握している。 19 ・学生の特徴・性格に関する知識をもっている。

    「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目」を具体的に示すために、各領域が含む要素として「項目」を示し、各項目が含む要素として「行動特性」を示した。

    15

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 25

    〔スライド①-18〕

    〔スライド①-17〕

    3-3.履修証明プログラム カリキュラムマップ

    各コースが、ルーブリックの各領域のS・A・B・Cの段階のどこに対応するかを示したもの

    プログラム15テーマ1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

    ①学生・学修・教育支援の内容・教育内容の把握・学生・学修・教育支援の内容の設計と実施・学生・学修・教育支援活動のプログラム改善・学生・学生支援の現状理解

    C B C C C B B B B B B C B A A

    ②担当業務の内容・課題の設定と問題解決・情報収集・整理・分析・発信・業務に関する知識・様々な経験とその活用

    - - C - - B C - - C - C B A A

    ③大学についての知識・高等教育・社会・教育に関する知識・所属大学についての理解

    C B - - C C B C B C - C B A A

    ④学生への対応・学生対応への基本的姿勢・態度・留学生への対応・困難を抱えた学生への対応

    - C B B B - - B - B B C B A A

    ⑤担当業務への取り組み方・担当業務の遂行・チームワーク

    - - C B - - - C - C C C B A A

    ⑥人間関係の構築・人的ネットワーク・教員との連携・協働

    C - C B - - C C C C B C B A A

    18

    3-2.履修証明プログラム 全体構想15テーマ(案)

    基盤的テーマ

    高等教育政策と自校理解 カリキュラム理解 学生の抱える困難の理解と支援 コミュニケーションと カウンセリングの基本 高等教育の国際化対応

    教育IR入門:教育データの分析と活用

    教育のICT化と教材開発 支援

    学修支援とアカデミック・ アドバイジング 教育方法・教育評価

    学生・学修に対する理解 ラーニングコモンズ の運営

    総合的テーマ 教育・学修支援マネジメント(1) 教育・学修支援マネジメント(2)

    総括的テーマ プロジェクト研究 プロジェクト実習

    教育・学修支援の専門性を高めるために共通に習得する内容(11テーマ)

    教育・学修支援を実践するための手法・を修得する内容(2テーマ)

    教育・学修支援を推進するための具体的課題解決を企画・実践する内容(2テーマ)

    ※追加的内容として、ALPSセミナー・ALPSシンポジウム等への参加

    17

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.226

    〔スライド①-19〕

    3-4.履修証明プログラムの展開計画 平成29年度から本格実施(予定) 2年間の履修証明プログラムとして計画 15テーマの各内容を開発中

    平成28年度の一部試行実施 3つのテーマを試行的実施(試行プログラム) 【7.教育のICT化と教材開発支援】 具体的内容:①授業教材開発・②著作権・③教材開発の事例 平成28年8~9月に開講・7月末頃から募集予定

    【9.教育方法・教育評価】 【10.学生・学修に対する理解】 平成28年度内に開講予定

    19

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 27

    1

    2016 年 6 月 14 日

    「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」について

    千葉大学 アカデミック・リンク・センター

    「教育・学修支援の専門性」の必要性

    現在、日本の大学教育は、学生の能動的学習の推進、学習時間の増加などを通じた「大

    学教育の質的転換」の必要性が指摘されており(中央教育審議会「新たな未来を築くため

    の大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答

    申)』(平成 24年 8月))、各大学には、その具体的な取り組みが求められている。各大学は、

    グローバル化する社会の中で活躍することができる卒業生を送り出す責任を果たし、自ら

    の大学の社会的信頼を維持向上させるために、学生の学修成果を高めることに取り組んで

    いる。

    このような大学政策や大学教育改革の実践の現場において求められている質的向上を実

    現するためには、教育と学修の両側面から、それを支援する者が必要である。しかし、こ

    れまでの日本の大学教育では、教育を担当する教員と組織運営を担当する職員の役割が区

    分され、教育・学修を支援する役割は必ずしも重要視されてこなかった。つまり、現在、

    日本の大学教育では、これまで日本の大学教育のなかで等閑視されてきた、教育・学修支

    援をどのように組織的に構築するかが課題となっているのである。

    幅広い教養教育と高度な専門教育を扱う大学において、このような観点から、教育・学

    修を支援することは、大学教育全般についての理解、学生の学修や成長についての理解な

    どの専門的知識を持たなければ担うことはできない。しかし、大学教育における教育・学

    修支援の専門性として必要な資質・能力は、必ずしも具体的に明らかではない。このこと

    から千葉大学アカデミック・リンク・センターは、文部科学大臣に認定を受けた教育関係

    共同利用拠点として、その専門性の内容と到達目標を具体的に示すために、2015 年 10 月か

    ら 2016 年 5 月にかけて、「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック

    (第一次案)」の作成に取り組んだ。そして、第一次案に対する外部有識者等の意見を踏ま

    え、「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」を作成した。

    「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック」の目的

    この「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック」は、大学におい

    て教育・学修を支援するために必要となる能力項目とその到達目標を示したものである。

    大学での教育・学修支援を進めるために必要となる、①高等教育についての全般的理解、

    ②各専門領域の特性を含めた大学教育の構造的理解、③学生・学修の理解・実践的方法論、

    ④学生・学修支援の各領域の専門的知識・技能を体系的に示したものである。そして、大

    資料①

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2282

    学で教育研究されている各学問領域の全体の体系・内容・構造を理解したうえで、教育課

    程運営・開発などの教育プログラム改善、新しい教育方法の導入・教材開発などの教育支

    援、学生の学修への助言や履修指導を含むキャリア形成の支援を行うとともに、教職協働

    のもとで担当業務を遂行し、学修・学生支援を効果的に実施するための能力を示している。

    「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック」の作成プロセス

    この「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目」・「教育・学修支援の専門性に必要な

    能力ルーブリック」は、次のような 3 つの調査・分析を踏まえた作成プロセスを経て策定

    した。3つの調査とは、(1)文献の系統的抽出・分析、(2)現職大学職員を対象とするイ

    ンタビュー調査、(3)現職大学職員を対象とするアンケート調査、である。

    (1)文献の系統的抽出・分析では、「CiNii Articles」「国会図書館サーチ」「JAIRO」

    の 3 つのデータベースを使用し、14 の検索ワードから検出された書籍・論文の文献を抽出

    した。その結果、939件の文献による第一次文献リストを作成し、4名の分析者による重要

    度の精査を行い、292件の文献による第二次文献リストを作成した。この上で一部重要文献

    の追加を行い、最終的には298件の文献を対象に分析作業を行い、384件の能力を抽出した。

    これら能力を 3名の分析者で KJ法を用い分類を行い 35項目の中項目を整理し、8項目のド

    メイン項目(領域)を設定した。

    (2)現職大学職員を対象とするインタビュー調査では、6名の分析者が 2015 年 11 月か

    ら 2016年 2月にかけて、国私立大学の現職職員 29名を対象に、1件 1時間程度を目安とす

    る半構造化インタビューを行った。調査は対象者の同意を得たうえで録音し、逐語録を作

    成したうえで、各記録内容から具体的な能力項目を抽出した。能力項目の抽出は 1 記録に

    対し、調査者のうち 2 名が分析者として独立して抽出作業を行い、質的分析としての妥当

    性を確保したうえで分析を行った。29 名のインタビューデータは、発言の意味のかたまり

    ごとに、総数 7710件のパラグラフに区分され、そのうちコード化可能な能力項目の言及が

    みられたパラグラフは 863 件であった。能力項目の抽出は、対象パラグラフから 1 次ラベ

    ルを付与し、その結果をもとに全体調整のうえで抽象化した 2 次ラベルを付与する 2 段階

    で行い、2次ラベルをもとに統一カテゴリを整理する 3段階の分析方法を採用した。2次ラ

    ベルから抽出された能力項目の総数は、1236件であった。この 1236件の能力項目を整理し、

    60件の能力項目(中項目)を抽出し、更に整理を行い、19項目のドメイン項目(領域)を

    設定した。

    (3)現職大学職員を対象とするアンケート調査では、文献の系統的抽出・分析で抽出

    された 8項目のドメイン項目と 35項目の中項目、現職大学職員を対象とするインタビュー

    調査により抽出された 18 項目のドメイン項目と 58 項目の中項目に基づいて、両者の重複

    等を整理し、47 項目を設定したうえで、それを大学職員としての仕事に対する行動特性を

    尋ねる設問とした。アンケート調査は、国公私立 10 大学の研究協力のもと、各大学の事務

    局に調査対象者への案内を依頼する形式で匿名 Web 調査方式、2016 年 3 月に実施し、712

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 293

    件の回答が得られた。調査結果について、分析対象として設定可能と判定した 43項目につ

    いて探索的因子分析を行い、最終的に 5因子 30項目を採用することとした。

    (4)これらの 3 つの調査結果を整理することを通じて、7 つの領域、25 の項目からな

    る「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(第一次案)」を策定し

    た。7 領域 25 項目の設定は、アンケート調査から示された 5 因子 30 項目を基本としつつ、

    文献調査とインタビュー調査の結果を勘案し、領域として包括的すぎることから内容を区

    分することが妥当と判断した 2 因子を整理することで設定した。これらを「教育・学修支

    援の専門性に必要な能力項目(第一次案)」として設定し、7 つの領域のうち、基盤的スキ

    ルを除く、6つの内容について、その能力の内容を具体的に 4 段階で記述することで「教育・

    学修支援の専門性に必要な能力ルーブリック(第一次案)」を作成した。さらに、「教育・

    学修支援の専門性に必要な能力項目」の具体性を示すために、各項目が含む要素として「行

    動特性」を 177の内容として示した。

    (5)「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(第一次案)」に対

    して、次のような意見聴取、改善の取組を行った。まず、5 月 13 日に開催された、教育関

    係共同利用拠点の運営と教育・学修支援専門職養成部門の活動に関する重要事項を審議す

    るアカデミック・リンク・センター教育・学修支援専門職養成部門運営委員会において、

    高等教育論や大学職員論、教育行政などに高い学識を有する外部有識者からの意見聴取を

    行った。それによって、ルーブリックの基準の示し方、記述の仕方など改善箇所の指摘を

    得た。さらに、6月 11日に行われた大学教育学会第 38回大会における「これからの大学に

    おける教育・学修支援の専門性」のラウンドテーブルのなかで、この「教育・学修支援の

    専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(第一次案)」を研究成果として紹介するとと

    もに、学会参加者が教育・学修支援に必要と考える資質・能力を検討する機会を得た。53

    名の大学教職員から、186 項目の資質・能力の提案があった。これらの提案内容を精査し、

    必要事情を付け加えることとした(その結果、「行動特性」が 180 の内容となった)。この

    ような幅広い意見聴取をもとに、「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブ

    リック(試案)」として公開版を作成した。

    「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」の位置づけ

    この「教育・学修支援の専門性に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)」は、今後、

    履修証明プログラムの作成を進めていくための目標を示したものである。適宜見直しを含

    め、改善を図ることを予定しており、内容の在り方等、お気づきのところがあれば、下記

    にご連絡いただけると幸いである。 連絡先

    千葉大学 アカデミック・リンク・センター

    E-mail [email protected] Tel&Fax:043-290-3601(担当:白川)

  • 第 1 部

    ALPSブックレット シリーズ Vol.230

    教育・学修支援の専門性に必要な能力項目(試案)

    学生・学修支援への関心

    担当業務の遂行

    大学職員としての共通性

    理 解 す る 内 容 対 人 関 係 基 盤 的 ス キ ル

    ①学生・学修・教育支援の

    内容

    担当業務の内容

    ③大学についての知識

    ⑥人間関係の構築

    ⑤担当業務への取り組み方

    ④学生への対応

    基盤的スキル

    ・学生対応への基本的姿勢・態度

    ・困難を抱えた学生への対応

    ・高等教育・社会・教育に関する知識

    ・所属大学についての理解

    ・人的ネットワーク

    ・チームワーク

    ・ICTスキル

    ・語学

    ・キャリアアップ・スキルアップの取組

    ・メタ的な能力(社会人としてのコンピテンシー)

    ・クリティカルシンキング

    ・説明できる力

    ・物事を広くみる力

    ・文章作成能力

    ・担当業務の遂行

    ・教員との連携・協働

    ・教育内容の把握

    ・学生・学生支援の現状理解

    ・学生・学修・教育支援の設計と実施

    ・学生・学修・教育支援活動の

    プログラム改善

    ・課題の設定と問題解決

    ・情報収集・整理・分析・発信

    ・業務に関する知識

    ・様々な経験とその活用

    2016年

    6月14日

    ・留学生への対応

    千葉大学

    アカデミック・リンク・センター

  • 教育・学修支援に必要な能力項目・能力ルーブリック(試案)

    ALPSブックレット シリーズ Vol.2 31

    教育

    ・学

    修支

    援の

    専門

    性に

    必要

    な能

    力ル

    ーブ

    リッ

    ク 

    (試案

    )千

    葉大

    学 ア

    カデ

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    ク・リ

    ンク

    ・セ

    ンタ

    ー2016年

    6月

    14日

    領域

    項目

    (各

    領域

    で含

    む要

    素を

    具体

    的に

    示し

    たも

    の)

    S(知

    識や

    スキ

    ルを

    発展

    させ

    、指

    導す

    るこ

    とが

    でき

    る)

    A(知

    識や

    スキ

    ルを

    実践

    の場

    の問

    題解

    決に

    応用

    でき

    る)

    B(身

    に付

    けた

    知識

    を説

    明で

    きる

    ①学

    生・学

    修・教

    育支

    援の

    内容

    ・教

    育内

    容の

    把握

    ・学

    生・学

    修・教

    育支

    援の

    内容

    の設

    計と

    実施

    ・学

    生・学

    修・教

    育支

    援活

    動の

    プロ

    グラ

    ム改

    善・学

    生・学

    生支

    援の

    現状

    理解

    学生

    の支

    援ニ

    ーズ

    を調

    査し

    、学

    習者

    のニ

    ーズ

    にあ

    わせ

    た学

    修支

    援を

    開発

    し、

    効果

    的に

    実施

    する

    こと

    がで

    きる

    。さ

    まざ

    まな

    教育

    領域

    の教

    育上

    の最

    新の

    改善

    課題

    、論

    点、

    教育

    方法

    を把

    握し

    、個

    別の

    授業

    ニー

    ズに

    あわ

    せた

    教育

    支援

    に活

    用す

    るこ

    とが

    でき

    る。

    そし

    て、

    学修

    支援

    ・教

    育支

    援の

    結果

    を検

    証し

    、評

    価、

    改善

    する

    こと

    がで

    きる

    個々

    の学

    生に

    応じ

    た支

    援内

    容・方

    法を

    選定

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    援を

    設計

    、提

    案す

    るこ

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    る。

    また

    、所

    属大

    学全

    体の

    教育

    課程

    の概

    要を

    理解

    した

    上で

    、学

    内外

    の先

    進的

    な取

    組事

    例を

    参考

    に、

    個別

    の授

    業に

    対し

    て教

    育支

    援を

    具体

    的に

    提案

    する

    こと

    がで

    きる

    学修

    支援

    に必

    要な

    教育

    領域

    にお

    ける

    最新

    の改

    善課

    題、

    論点

    、教

    育方

    法を

    説明

    する

    こと

    がで

    きる

    。ま

    た、

    学生

    の多

    様性

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    解し

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    々人

    の学

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    の課

    題を

    踏ま

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    支援

    を説

    明す

    るこ

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    でき

    る。

    ②担

    当業

    務の

    内容

    ・課

    題の

    設定

    と問

    題解

    決・情

    報収

    集・整

    理・分

    析・発

    信・業

    務に

    関す

    る知

    識・様

    々な

    経験

    とそ

    の活

    所属

    箇所

    にお

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    課題

    を発

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    、改

    善す

    るこ

    とを

    目的

    に、

    課題

    設定

    、デ

    ータ

    収集

    ・分

    析、

    対応

    策の

    立案

    、実

    施を

    自律

    的に

    実現

    する

    こと

    がで

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    当業

    務に

    関連

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    企画

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    周囲

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    力を

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    、実

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    学内

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    先進

    的な

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    事例

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    自分

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    応用

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    、デ

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    分析

    した

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    題に

    つい

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