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る→一気に流れ出たミルクが肺に入り込むことによる誤嚥が発生する。
子牛は母牛からミルクを飲むときには、尻を母牛の頭部に向け母牛がスモールの体を支えるように寄り添う位置で、のどを伸ばして飲む。(写真7)
子牛によっては上手に飲むのもいれば、時間がかかり上手く飲めない子牛もいるが、乳首の形状と「エアー抜きの穴」をチェックすることにより、誤嚥の防止に注意したい。特に子牛が生まれてから3日間は大切な期間で、時間をかけてゆっくり焦らずに飲ますことがポイントになります。
3)代用乳について ⑴ 代用乳の基礎 ①代用乳給与の基本 初乳を十分に給与した後は基本的には代用乳と人工乳および良質の乾草で飼養管
理することになる。 子牛の場合、飼料安全法で、脱脂粉乳を主原料とし液状に溶解して給与する飼料
を代用乳、固形状で給与する代用乳以外の配合飼料を人工乳と称しているのが一般的である。いずれも概ね3ヵ月齢以内の子牛に給与する。
初乳から代用乳へ切り替わる際には子牛は下痢をしやすくなるので、一度に切り替えるのではなく、代用乳に初乳を混ぜる等して子牛の状態を確認しながら徐々に代用乳へ切り替えていくことが良い方法である。
代用乳の給与については、極力同じ人が同じ方法で、同じ時間に給与することが基本である。
②代用乳の特性とその機能 子牛が液状の飼料を摂取すると食道の出口から第四胃へ直接流入する仕組み(第
二胃溝閉塞機構)が働き、第四胃の消化酵素によって消化・吸収される。 代用乳のタンパク質は、脱脂粉乳、ホエータンパク質、大豆タンパク質などで構
成されている。脱脂粉乳中のカゼインだけは、第四胃に分泌されるレンニンの作用を受けてカード(凝乳化)を形成し消化酵素であるペプシンによって徐々に消化を受けることになる。脱脂粉乳のタンパク質の消化率は概ね85~95%程度と見積もられている。しかしながらホエータンパク質や大豆タンパク質はこのようなカードの
写真7 母牛から直接飲む子牛
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形成が行われないために小腸での消化割合が高まり、小腸の負担が増加して結果的に下痢の原因にもなりかねない。
代用乳の脂肪は、日本で初めてBSEが発見されて以後植物由来の油脂(ヤシ油やパーム油等)が用いられるようになった。植物性油脂は脂肪を作っている脂肪球が乳脂肪や動物性油脂に比べてやや大きいことで消化率が幾分低いが、最近の代用乳では添加剤が効果的に用いられるようになって消化率は遜色がなくなっている。
代用乳は、ヌレ子の機能を維持させその間に固形飼料の食い込みを促進させるための飼料とされている。固形飼料を早くから食い込ませることにより、第一胃機能を確立して反芻動物としての消化・代謝機能の基礎固めを行うことが食い込める肥育牛をつくる上でとても重要なことである。
⑵ 代用乳給与のポイント ①溶解法 代用乳を溶かすお湯の温度は、子牛が飲
む際に母乳と同じ約38~40℃になるようにすることが基本である。このためには、45~50℃のお湯で溶解するとよい。冬季および寒冷地では若干高めの48~53℃が適切である。お湯の温度が高すぎると、油脂分の分離、有効成分の効力の低下等が懸念されるし、子牛が飲むのを嫌がる原因にもなる。逆に低過ぎると代用乳が十分に溶解しない原因になる。
なお、代用乳を溶かす際には、お湯を準備し、その中に代用乳を入れ、撹拌、溶解する。逆に代用乳、お湯の順で溶解してしまうとダマ(お湯が代用乳にしみこまない状態)が起きやすくなるので避けなければならない。
最近普及の進んでいる自動ほ乳機では、代用乳をミキサーポット内で溶解後すぐに子牛が飲むことから、溶解温度は40~42℃前後が適切であり、このため比較的低温で溶解する自動ほ乳機専用の代用乳も市販されるようになった。
②希釈倍率 市販されている多くの代用乳の希釈倍率は、6~8倍量のお湯を用いることを推
奨している。この場合の実質希釈倍率は7~9倍になる。これは代用乳を溶いた時の固形分含量、脂肪分含量、タンパク質含量を牛乳とほぼ同等にするためである。濃度が濃すぎるあるいは薄すぎる場合は、代用乳の消化が適切に行われず、下痢になることがあるので注意が必要である。
写真8 ハンドミキサーによる代用乳の希釈・撹拌事例
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③給与量 代用乳の給与量は、溶解した代用乳として体重の5~10%が目安である。当然な
がらこの量は、子牛の体調に応じて加減することが必要である。また、環境温度が低い冬季、地域では、子牛の活力の維持に必要なエネルギーが増加するので、代用乳の給与量を増やすことも良い方法である。このことによって子牛の活力の維持と増体の確保が一層期待できるようになる。
表6 代用乳給与量の目安(ℓ)
体 重(kg) 5% 10%30 1.5 3.035 1.75 3.540 2.0 4.045 2.25 4.550 2.5 5.055 2.75 5.560 3.0 6.0
※乳用雄子牛では一般には早期離乳のため、2ℓを定量給与することが多い。 また導入直後や離乳前には子牛の様子を見ながら暫増減給与することが多い。
写真9 代用乳のほ乳瓶個体ごとに給与量を細かく設定している農場では、ほ乳瓶ごとに代用乳の量が異なる。
図13 異なる体重および環境温度における子牛の活力の維持のために必要な代用乳の量*NRC(2001)にて計算 *代用乳は「全農Vミルク02(ミルエース)」を用いた
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***ほ乳期の水の給与*** 清浄な水を代用乳給与時から与えることが基本である。給与量の目安は1日1~2ℓで、温湯にして給与することが望ましい。ただし、代用乳給与直後の水の給与は、代用乳のカード形成を抑制し消化不良の原因となるので避けることが基本である。 水を給与すると下痢・軟便になるので好ましくないとする考え方もある。しかし、水の役割は、栄養素の溶媒、体温調整、浸透圧調整等の点で重要である。また、人工乳の摂取量を高めるためにも水の給与が必要である。子牛の体重の70~75%は水分とされており、十分な補給がないと脱水症状を起こす原因にもなりかねない。このようにほ育期の飲水管理は重要である。
***カード形成*** 母乳や代用乳が子牛によって摂取されると、第二胃溝反射機構により第一胃には入らずに直接第四胃に流入する。ミルクの流入により第四胃の出口(幽門)は閉鎖し、ここで分泌されミルクを凝固させる酵素レンニンや酸の作用により、ミルクがやわらかな豆腐状に凝固する。このように凝固したものをカード(凝乳)という。カードは第四胃内滞留中にタンパク質消化酵素(ペプシン)の作用を受け、徐々に消化される。正常なカードを形成させることが、ミルクの消化を高めることになる。過剰加熱の脱脂粉乳や植物性のタンパク質を使用した代用乳では、カード形成が不十分で、免疫物質の消失による増体量の減少、第四胃内の塩酸、レンニン、ペプシンの分泌の低下、膵臓から十二指腸への膵液やタンパク分解酵素の供給量の減少、未消化非カードタンパク質による小腸内での大腸菌増殖、特定大腸菌症の感染による下痢症状の激化とへい死率の増大などの危険性も予測される。従って、このようなときには一般に、カード形成促進剤や抗菌剤の添加、代用乳の酸性化等が行われる。
図14 水給与の有無と子牛の増体量(全農2004)
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