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Agilent ネットワーク解析ソリューション タイム・ドメイン変換による 高度なフィルタ・チューニング Application Note 1287-10

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Agilentネットワーク解析ソリューションタイム・ドメイン変換による高度なフィルタ・チューニングApplication Note 1287-10

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概要

従来、結合共振子キャビティ・フィルタ、クロスカップル・フィルタ、デュプレクサの正確なチューニングには、熟練と専門知識が必要なため、大量生産が困難でした。一方、無線通信の発展がもたらすスペクトルの過密化により、これらのフィルタがますます大量に必要になっています。また、メーカでは、これらを正確にチューニングするのに時間がかかるため、増産やコスト削減が困難でした。本書では、チューニングに必要な時間と熟練・専門知識を大幅に削減できる方法を紹介します。これにより、比較的経験の浅い技術者でも、最少のトレーニングで容易にマルチポール・フィルタをチューニングすることができます。

基本的な手法は、Agilentアプリケーション・ノート1287-8で説明しています。またこのアプリケーション・ノートでは、結合共振子バンドパス・フィルタを簡単にそして確実にチューニングする方法も説明しています。適正な通過帯域応答、そして適切なリターン・ロスや通過帯域リップルを実現するには、各共振子の中心周波数を正確にチューニングし、共振子間の結合を正確に設定しなければなりません。本手法はフィルタのリターン・ロスのタイム・ドメイン応答に基づくものです。タイム・ドメイン応答は、周波数応答の特殊な離散逆フーリエ変換によって得ることができます。基本的な方法と、その結合共振子キャビティ・フィルタのチューニングへの応用については、アプリケーション・ノート1287-8を参照してください。

本書はこれらのタイム・ドメイン・チューニング手法を復習するとともに、それを拡張して、フィルタ通過帯域近くで伝送ゼロが生じるクロスカップル共振子を持ったフィルタのチューニングに、また共通(アンテナ)ポート、上側通過帯域(送信)ポート、下側通過帯域(受信)ポートを持つデュプレクサ・フィルタにも適用できるようにします。

アプリケーション・ノート1287-8では、理論、応用、セットアップ、プロセスを含め、タイム・ドメイン・フィルタ・チューニングについて総合的にまとめてあります。

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手法の定義4つの結合構造を持った5極の結合共振子フィルタを使用して、基本的なチューニング手法を説明します。図1はこのフィルタの回路図で、フィルタの分布損失がシャント抵抗で表されています。この方法を適用するために、ネットワーク・アナライザの周波数掃引の中心周波数は、バンドパス・フィルタの中心にします。周波数スパンは、フィルタ帯域幅の2~5倍に設定しています。リターン・ロスのトレースには、タイム・ドメイン変換のバンドパス・モードを適用しています。図2はフィルタの周波数応答とバンドパス・モードの時間応答、0.25dBの通過帯域リップルを持つ5次チェビシェフ応答を示しています。

各プロットには、2本のトレースがあります。明るい(赤の)トレースは、全素子が理想値を持つフィルタのリターン・ロス応答、暗い(青の)トレースは、1つの共振子要素(ここでは2番目の共振子)をミスチューニングした結果の応答を示しています。上のプロットは周波数応答、下のプロットはタイム・ドメインの応答です。タイム・レスポンスのS11における、各ディップに注意してください(1~5のラベルが付いた三角形で表示)。これらは、共振子が正確にチューニングされているときに生じる特性ヌルです。もし測定の中心周波数が少しでもずれると、これらのヌルが明確でなくなり、フィルタがチューニングされていないことを示します。各ヌル間のピークは、フィルタの結合係数に関係します。このような応答はフィルタの型にかかわらず、すべてのポール・フィルタに共通しています。

このチューニング手法の核心は、タイム・ドメイン応答の各ディップがフィルタの各共振子と正確に対応するということです。共振子が正しくチューニングされていれば、ヌルは深くなります。チューニングがずれるに従って、ヌルは消え始めます。このような関係が存在することは驚くべきことですが、さまざまな種類のフィルタを詳しくテストし、さらにシミュレーションや数式の展開を行なって、この関係性が実証されます。図2は、2番目の共振子だけがそ

の理想(導出された)値からミスチューニングされた場合の、タイム・ドメイン応答を示しています。ここではキャパシタCIIが、理想値から数%上にチューニングされています。このトレースでは、ディップがほとんど消えているのが分かります。ディップは、キャパシタがその理想値に戻ったときにのみ最大となります。1つの共振子のミスチューニングによって、その「下流」の共振子の応答が影響を受けることに注意してください。

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図1.

図2.

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基本的なチューニング法簡単なポール・フィルタに対する基本的なタイム・ドメイン・チューニングは、フィルタのS11およびS22のタイム・ドメイン応答を測定することによって行います。フィルタ共振子の調整は、以下のステップで行います。

1. 始めに最初と最後の共振子に対して、S11およびS22測定の時間応答でそれぞれ深いヌルが現れるようにチューニングします(ヌルはほぼt=0に存在)。

2. 入力および出力からの次の共振子に対して、深いヌルが現れるようにチューニングします(ヌルはほぼt=1/BWに存在、BWはフィルタ帯域幅)。2番目の共振子のチューニングによって、カップリングにより1番目がやや引き込まれます。

3. 前の共振子(最初と最後)に対して、ヌルが最大になるように再調整します。

4. 同じように端から中心に向かって、全共振子が深いヌルを持つように調整します。

この最初の調整により、フィルタの正確なセンタリングと、与えられた結合係数に対する最適なチューニングが行えます。また、必要なフィルタ特性(特に帯域幅とリターン・ロス)を得るために、調整可能なカップリングを持ったフィルタも多くあります。このカップリングの調整は、以下のステップで行います。

1. 既存のチューニングされたフィルタを測定して、またはフィルタのシミュレーションからフィルタ・テンプレートを作成し、それをネットワーク・アナライザのS11およびS22メモリ・トレースにロードします。

2. 前記の最初の共振子チューニングを行なった後に、ターゲットS11およびS22フィルタ応答の最初のピーク振幅に一致するように、入力および出力カップリングを調整します。最初と最後の共振子を再調整して、最初のS11およびS22ヌルができるだけ深くなるように復元します。

3. 入力/出力からの次のカップリングを調整して、テンプレート応答内の対応するピークと一致させます。ヌルができるだけ深くなるように、そのカップリングに隣接した共振子を再調整します。

4. すべてのカップリングがフィルタ・テンプレートのピークに一致し、また全共振子について対応するヌルが最大に深くなるように、同様の調整を続けて行います。

1つのカップリングを調整すると、それに続くすべてのカップリングが影響を受けます。したがって、入力および出力位置のカップリングから開始して、中心に向かって進めることが重要です。

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クロスカップル共振子を持つフィルタのチューニング

通信アプリケーションでは、ポール・フィルタで通常得られるよりも急峻なフィルタ特性を必要とする場合が多くあります。不連続の伝送ゼロ(S21がゼロ)は、クロス・カップリング(隣接する共振子以外とのカップリング)を加えることによって、フィルタのストップバンドで得られます。伝送ゼロの特性は、カップリングを「スキップする」共振子の数によって決まります。図3のように奇数の共振子をスキップすると、一方の通過帯域のみで伝送ゼロが現れる非対称の周波数応答が得られます。2つの共振子をスキップすると、通過帯域の両側で伝送ゼロが現れます。このようなフィルタのタイム・ドメイン応答はポール・フィルタの場合と異なり、特性ヌルを最大に深くしてもフィルタの適切なチューニングとはなりません。

図4は、図3の非対称クロス・カップリングを持つ4極フィルタの周波数応答と時間応答を示しています。この場合のフィルタは、入力、出力、クロス・カップリングのみに対してカップリング調整を行なっています。共振子間のカップリングは固定されています。

フィルタは通過帯域のリターン・ロス、および上側の阻止帯域の除去比について最適化されています。時間応答では、共振子の多くに対してヌルは深くありません。簡単なポール・フィルタのデザイン手法により、この理由と、これらのフィルタのチューニング手法を示します。

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図3.

図4.

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ポール・フィルタポール・フィルタのデザインは、プロトタイプのローパス・フィルタから開始し、それに変形を加えて「DC中心」から必要な中心周波数へと周波数をシフトさせます。設計で重要な事は、コンポーネントのみカップリング値はプロトタイプのローパス・フィルタから得られるということです。共振子の値は、ノード(入力および出力結合を含む)の共振周波数を、フィルタの中心周波数に等しくすることによって得られます。例えば図1のフィルタで、2番目のノードの共振周波数は素子CIIと並列のL2、C12およびC23(カップリング素子)によって決まり、フィルタの中心周波数と正確に一致します。これは、カップリングを1つだけ持つ最初と最後のノードを含め、すべてのノードについて当てはまります。

フィルタ・ノードのタイム・ドメイン応答は、ネットワーク・アナライザの掃引周波数の中心が正確にそのノードの共振子周波数となるとき、深いヌルを持ちます。またタイム・ドメイン応答は、時間軸でフィルタ・ノードの応答を示します。この間隔は各フィルタ・セクションにおける遅延によって生じ、フィルタ帯域幅に反比例します。タイム・ドメイン応答は、掃引周波数の帯域幅がフィルタ帯域幅の少なくとも2倍のときに十分な分解能を持ちます。

これを説明するため、図5で示すような、インパルスに対するフィルタの応答を考えます。インパルスはフィルタの各ノードを進むに従って、一部は反射されますが、大部分は伝送されます。パルスの到着までにフィルタが荷電していなければ、最初のノードからの反射は、カップリング・キャパシタンスC12が入力と反対側でグランドされているように見えるでしょう。これはタイム・ドメイン反射が、C12およびL1と並列のC1から構成され、「ノード周波数」にチューニングされた回路と同じであることを意味します。パルスはゼロ時

間の後にゼロとなるため、ノード2からの反射は、C12とC23の両方がグランドされているかのように見えます。これらのパルス間の遅延はカップリングに起因するため、カップリングが小さい(狭帯域フィルタになる)と遅延は大きくなります。これは、ポール・フィルタのデザインに使われる関係と同じです。したがって、ネットワーク・アナライザをフィルタの中心周波数にチューニングしたときに深いヌルが現れる理由は明らかです。つまり個々のノードからの応答は、同じ周波数が中心となるからです。

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複合時間反射

図5. タイム・ドメイン応答は各ノードの応答を分離

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クロス・カップリングの影響フィルタにクロス・カップリングを加えると、タイム・ドメイン応答とフィルタ・チューニングとの関係は簡単ではなくなります。また、特に非対称のトランスミッション・ゼロを伴うフィルタで、各ノード周波数をフィルタの中心周波数にチューニングすると、フィルタのチューニングは最適でなくなります。ノード周波数は、クロス・カップリングを含めすべての結合がグランドされたノードの共振周波数であることを思い出してください。共振子は、阻止帯域におけるトランスミッション・ゼロの通過帯域への影響を補うために「引き込まれる」ことが多くあり、これによって必要な通過帯域のリターン・ロスの仕様を達成します。これは図4に示すように、リターン・ロスが非対称の形状となります。深いヌルを得るためのチューニングは、リターン・ロスの仕様を満足しないフィルタとなります。しかし図5での検討は、タイム・ドメインにおいてクロス・カップリングを持つフィルタのチューニングが可能な方法が存在することを示しています。

ここでの説明は依然として、ノード周波数が正確にネットワーク・アナライザの中心周波数に等しい場合の、深いヌルを持ったノードの時間応答に当てはまります。このような複雑なフィルタでの困難な点は、ノード周波数が簡単には決定できないことです。しかしネットワーク・アナライザ自体は、正しくチューニングされた標準フィルタやシミュレートしたフィルタに対して、個々のノード周波数を見つけるために使用できます。これは、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)をデュアル・チャネル・モードで使用し、一方のチャネルを周波数ドメイン、もう一方をタイム・ドメインに設定して行います。ある共振子に対応したヌルを見ながら、VNAの中心周波数を調整します。ヌルが最大のときに、この共振子のノード周波数として、周波数を記録します。

図6は、フィルタの中心周波数にチューニングし、次に共振子2(クロス・カップリングを持った共振子の1つ)についてヌルが最大になる周波数にチューニングしたフィルタの時間応答を示します。

フィルタの共振子のそれぞれについてこのプロセスを繰り返して、それらのヌルが最深となるようにVNAの中心周波数を調整します。最大限の感度を得るには、周波数スパンは帯域幅の正確に2倍になるように狭めます。表1は、図4のフィルタについて決定した各共振子のノード周波数を示したものです。これらの値とともに、図4の測定をチューニング・テンプレートとして使用することにより、複雑なフィルタのためのチューニング・プロセスを定義できます。

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Time ( ns)

VNA中心周波数=�フィルタ中心周波数�

VNA中心周波数を共振子2での最深ヌルにチューニング�

図6. VNAの中心周波数をチューニングしたときの時間応答の変化

表1. 各共振子のノード周波数

共振子No. ノード周波数

1 836.25MHz2 833.85MHz3 834.55MHz4 836.45MHz

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複雑なフィルタのチューニング図4のフィルタは4つの共振子、入力および出力カップリング、チューニングされていないクロス・カップリングを持っています。このフィルタを用いてチューニング・プロセスを示します。

1. 入力および出力カップリングがおよそのフィルタ形状を生成するのに十分と仮定して、ポール・フィルタと同様のチューニングを行うことからスタートします。図7は、全くチューニングを行なっていない周波数応答と、最深のヌルを得るように共振子(カップリングを除く)を調整した後を示しています。

2. カップリングを調整して、タイム・ドメイン応答のピークをターゲット・フィルタのピークと合わせます。また、最深ヌルを得るために共振子を再調整します。図8は、カップリングを調整した結果を示しています。

3. クロス・カップリングを調整して、S21周波数応答ターゲットと一致するようにゼロ周波数を設定します(図9)。

4. 最後に、共振子をその正しい最終値にチューニングするために、各共振子について表1で示した値にVNAの中心周波数を設定し、それらの共振子により最深のヌルが得られるようにします。ひと通り調整した後に再度調整を繰り返して、各共振子のチューニングにより生じる引き込み効果を補正します。図10は、このフィルタ・チューニングの最終結果を示しています。最終の応答は、明らかに理想に近い形となっています。リターン・ロスのチューニングは、全てタイム・ドメインで行なったことに注意してください。

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Time ( ns )

Freq MHz

最初のチューニング後のS21とS11

チューニング�していない�S21とS11

チューニング前のS11

S11ターゲット�最初のチューニング後のS11

Time ( ns )

Freq . MHz

S11ターゲット�

S11ターゲット�

Freq . MHz

S21ターゲット�

Time ( ns )

Freq . MHz

図7.

図9.

図8.

図10.

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デュプレックス・フィルタのチューニング

アンテナ・ポートで見られるようなデュプレックス・フィルタ(デュプレクサとも呼ばれる)は、リターン・ロス応答に寄与する2つの経路を持ち、それぞれに遅延と応答があります。これらの応答を分離して、フィルタの各側を確実にチューニングするのがフィルタ・チューニングを行う者の役目ですが、本項ではこれについて取り扱います。

デュプレックス・フィルタは主に無線通信の基地局で、送信チャネル(Tx)と受信チャネル(Rx)の分離に使用されます。TxとRxは密接しているため、各バンドで鋭いカットオフを得るために、きわめて非対称のフィルタが使われる傾向にあります。図11は、そのようなフィルタの回路図を示しています。各側で1つのクロス・カップリングを使用していますが、それらは一方が容量性、もう一方が誘導性となっています。これにより、Rxバンドに対しては低い伝送ゼロが(このケースでRxは上側)、またTxバンドでは高いトランスミッション・ゼロが生じます(図12)。

TxバンドとRxバンドとの間の分離帯域以上の帯域幅を持つデュプレクサでは、これまでに述べたクロス・カップリングを持つフィルタのチューニング法により、簡単にチューニングが可能です。これは、ネットワーク・アナライザは帯域幅の2倍以上のスパンでTxバンドに中心周波数を配置しても、入力/出力反射応答にRxバンドが干渉することはないからです。しかし多くのデュプレクサでは、TxとRxバンドのエッジ間が1帯域幅よりもかなり狭いことがあります(一般的なフィルタで、帯域幅80MHz、間隔20MHzの場合があります)。このようなデュプレクサでは、コモン・ポートでの共振子応答がTx側とRx側

から来ることが考えられ、タイム・ドメイン・チューニングが困難となります。

図11のデュプレクサは、1/4波長トランスを使用してデュプレクサの各側を分離しています(Tx側の入力インピーダンスは、Rx周波数で短絡回路)。その他のトポロジがコモン・ポートを広帯域のコモン共振子にカップリングさせ、それがさらにTxおよびRx側の最初の共振子にカップリングされます。この構成によって、コモン共振子は明らかにTxまたはRx通過帯域のどちらでもなく、その間のどこかに中心があります。

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図11.

図12.

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デュプレクサのタイム・ドメイン応答コモン・ポートにおいて、TxとRx両側からの反射よりタイム・ドメインでいくつかのヌルが生じるために、デュプレクサのタイム・ドメイン応答は複雑になります。図13は、実際のデュプレクサのタイム・ドメイン応答と周波数応答です。このタイム・ドメイン応答を意味のあるものにするには、ネットワーク・アナライザの中心周波数をRxおよびTx通過帯域の間に置かなくてはなりません。この場合にアナライザのスパンは、TxおよびRxバンドの全帯域幅の少なくとも2倍に設定する必要があります。次に示す実際のデュプレックス・フィルタのチューニング例では、コモン・ポートがコモン共振子にカップリングされ、それが最後の(5番目の)Tx共振子、および最後の(6番目の)Rx共振子にカップリングされたデュプレクサを使用しています。

図4の複雑なフィルタと同じく、デュプレクサのチューニング・プロセスでも、ノード周波数とターゲット・カップリングを決定するには正しくチューニングされたプロトタイプ・フィルタが必要となります。しかし、特にコモン・ポートから、ノードと各共振子とを関連させるのは困難な作業でしょう。

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図13. 画面上段: 上のトレース=アンテナ・コモン下のトレース=Rx

画面下段: 上のトレース=アンテナ・コモン下のトレース=Rx

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共振子の特定図13の上半分は、Txポートよりも、コモン・ポートからの反射によるタイム・ドメイン応答でのヌルが多いことを示しています。1番目のヌルは、コモン共振子と関係しています(図14)。2番目のヌルの関連性は、最後のTx共振子のチューニングを少し変えることで見つけられます。同様にして最後のRx共振子は、コモン・ポートからの3番目のヌルと関連付けることができます(図15)。フィルタによっては、RxまたはTxフィルタの他の共振子の識別も可能かも知れません。しかし1共振子のチューニングが2つのヌルに影響して、すぐにヌルは乱れてしまいます。

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ANT

Rx 6

図14. コモンANT共振子のチューニングによって、主に最初のヌルで応答が変化します。このようにして最初のノードの共振子が分かり、その周波数はヌルが最深となるようにVNAの周波数を調整することで得られます。

図15. Rx6共振子をチューニングすると、主に2番目のヌルに影響します。このヌルが最深となるVNAの周波数を探して、このノードの周波数を知ることができます。注記:チューニングによって、次のヌルにも影響します。

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ノード周波数の特定コモン・ポートから最後のTxおよびRx共振子に対して、ヌルと共振子との関係付けが終れば、対応するヌルが最深になるようにアナライザの中心周波数を調整して、各共振子に対する個々のノード周波数を特定します。TxおよびRxポートからの反射を測定しながら、各ヌルに対するこの周波数を記録します。またコモン・ポートから、最初のいくつかのヌルに対しても同様に測定します。このように測定した周波数(MHz)を、表2で示しています。

Tx応答とRx応答の分離これらの周波数を最終的なデュプレクサのチューニングに使用しますが、実験的な研究結果から、デュプレクサを直接これらの値にチューニングすることは適当でないことが分かっています。これは、特にコモン・ポートでTx応答へのRx側からの干渉が非常に大きいため、値がすでに正しい値に非常に近い場合を除いて、共振子を十分に分離できないからです。解決策としては、初期チューニングとして片方(例えばTx側)をミスチューニングした上で、Rx側のノード周波数についてフィルタを再評価します。図16は、Tx5(コモン・ポート共振子に最も近いノード)をミスチューニングしたデュプレクサの応答を示しています。

図16では、コモン・ポートで測定した、Rx6共振子に対応するヌルが最深になるように、VNAの中心周波数を調整しています(タイム・ドメイン、上のトレース)。この周波数を、表3でRx6周波数として記録しています。しかしアナライザの中心周波数1850MHz(タイム・ドメイン、下のトレース)で、Rxポートで測定した同じフィルタについて、各Rxノードはほとんどヌルとなっています(タイム・ドメイン、下のトレース)。

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表2. チューニングしたデュプレクサのノード周波数

コモン・ポート Txポート Rxポート

ノード 周波数 ノード 周波数 ノード 周波数

Com 1800 TX1 1747 RX1 1848

RX6 1800 TX2 1749 RX2 1848

TX5 1796 TX3 1750 RX3 1851

RX5 1805 TX4 1760 RX4 1841

TX4 1788

RX4 1810

表3. 各側を分離したデュプレクサのノード周波数

コモン・ポート Txポート* Rxポート**

ノード 周波数 ノード 周波数 ノード 周波数

Com 1803** TX1 1746 RX1 1848

1793*

RX6** 1829 TX2 1749 RX2 1848

TX5* 1762 TX3 1749 RX3 1850

RX5** 1848 TX4 1787 RX4 1850

TX4* 1738

RX4** 1860

*Rxをチューニングしない **Txをチューニングしない

図16. 上のトレースは、対応する共振子に対してヌルが最深になるようにVNAの中心周波数を調整した、Rx経路の周波数応答を示しています。Rxフィルタをチューニングし、Txの最初の共振子を低くチューニングした状態で、これらの周波数を記録します。

Rx周波数の測定が終ったら、Rx6共振子を強くチューニングし、同じようにしてTx共振子の周波数を測定します。各ノードの正確な周波数を、表3に記録しています。

TxおよびRxポートからは、ノード周波数はほとんど変化していないことに注意してください。これは、チューニングされたデュプレクサでも、それらのノードが他の側から各々良く分離されていることを示しています。

Rx 6

Rx 1

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フィルタのチューニング以下のようにして、デュプレクサのチューニング・プロセスを続けます。

1. 共振子Rx6の周波数を高くチューニングします。Tx側のフィルタとコモン・ポートを、表3の(*)の付いた周波数にチューニングします。結合およびクロス・カップリングを、アプリケーション・ノート1287-8の説明に従ってチューニングします。

2. 共振子Tx5を、可能な限り低くチューニングします。Rx側のフィルタを、表3の(**)の付いた周波数にチューニングします。図17は、Rx1とコモンのチューニングを開始したところです。全Rx共振子のチューニングが終った状態が、図18です。Rxのヌルが深く現われないように、VNAはコモン共振子の周波数(約1800MHz)に設定しています。ここでは、Tx5共振子はまだチューニングしていません。

3. 最後に、Tx5とTx6を表2の値にチューニングします。最後に、すべての共振子を表2の値にチューニングします。その結果を図19で示しています。

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図17. フィルタのRx側をここでチューニング。上のプロットは、フィルタのS11およびS22を示しています。それぞれ、最初と最後の共振子に適切な異なる中心周波数に設定。最下のプロットは、各共振子からのヌルを示しています。

図18.

図19.

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より複雑なフィルタのチューニング

複数の/強いクロス・カップリングへの対処図3で示したフィルタの例では、クロス・カップリングのカップリング値はメイン・カップリングよりもきわめて低いものでした。このようなケースでは、クロス・カップリングはタイム・ドメイン応答に強く影響はしません。しかし非常に強い(メイン結合と同等の)クロス・カップリングを持つフィルタや、複数のクロス・カップリングを持つフィルタもあります。このようなフィルタでは、フィルタのチューニングも異なる方法が必要となるでしょう。

効果的な方法の1つに、クロス・カップリングの除去があります(非常に弱くチューニングしたり、調整できない場合には短絡して除く)。これにより必要な形状でないフィルタとなりますが、共振子とメイン結合については正しい設定となります。

これは、Rx側からデュプレクサのTx側を分離する方法に似ています。この結果、フィルタはカップリングに対し1つの経路しか持たず、ポール・フィルタとしての特性評価が可能になります。クロス・カップリングを持たない、このフィルタの「理想」トレースを得ることができます。

チューニングしていないフィルタをチューニングする場合に、クロス・カップリングを取り除いて、標準フィルタと同じ応答を持つように設定できます。その後に必要なのは、クロス・カップリングを戻して、最終的なフィルタ応答を検証することです。

また、調整できるクロス・カップリングを持ったフィルタの場合、残りの部分をチューニングする前に、最初にクロス・カップリングを設定する方法もあります。この方法は、ク

ロス・カップリングが通過帯域の応答に強い影響を与えるときに有効となる場合があります。このためには、共振子を短絡してクロス・カップリングの向こう側に取り除き、クロス・カップリングがメイン経路となる、新たなフィルタを作ります。これによって、この変形フィルタの標準トレースが得られ、クロス・カップリングのタイム・ドメインでの値を記録できる場合があります。チューニングしていないフィルタをチューニングする場合は、プロセスは逆です。クロス・カップリングの向こう側の共振子を短絡し、クロス・カップリングをタイム・ドメインで設定します。短絡した共振子を元に戻して、フィルタを前述のようにチューニングします。これは、フィルタの群遅延をリニアライズするためのクロス・カップリングに対し、有効な場合があります。

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おわりに

本書では、タイム・ドメイン・チューニング法を、複雑なフィルタ用に拡張する方法を説明しました。これらのフィルタはクロス・カップリングを持ち、複雑な伝送応答を伴う場合があります。またデュプレクサや、さらにはマルチプレクサなど、複数の経路を含む場合もあります。この方法は有効に拡張されてきましたが、まだまだ発展の余地は残っており、さらに研究が必要な、多くのフィルタ・タイプもあります。Ag i l e n tTechnologiesはフィルタ・チューニングの分野で研究を継続中ですが、今後もカップル共振子フィルタ・デザインの革新をサポートするために、最先端のチューニング手法とアプリケーションを提供し続けます。

関連資料

カップル共振子キャビティ・フィルタのチューニング1. Joel Dunsmore, "Simplify FilterTuning Using Time DomainTransforms", Microwaves &RF,

March 19992. Joel Dunsmore, "Tuning Band PassFilters in the Time Domain, Digest of

1999 IEEE MTTS Int. Microwave

Sym., p.1351~13543. タイム・ドメインを使ったフィルタ調整の簡略化Application note1287-8, カタログ番号5968-5328J

クロスカップル共振子フィルタのチューニング4. Joel Dunsmore, "Advanced FilterTuning in the Time Domain",Conference Proceedings of the 29th

European Microwave Coference,

Vol.2, p.72~75

デュプレクサ・フィルタのチューニング5. Joel Dunsmore, "Duplex Filter TuningUsing Time Domain Transformers",Conference Proceedings of the 29th

European Microwave Coference,

Vol.2, p.158~161

フィルタ・デザイン6. Zverev, "Handbook of FilterSynthesis", John Wiley and Sons,1967

7. Williams and Taylor, "ElectronicFilter Design Handbook,2nd Edition",McGraw Hill Publishers, Chapter 5,1988

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Page 16: Application Note 1287-10 - Keysightliterature.cdn.keysight.com/litweb/pdf/5980-2785JA.pdfション・ノート1287-8で説明してい ます。またこのアプリケーション・

サポート、サービス、およびアシスタンス

アジレント・テクノロジーが、サービスおよびサポートにおいてお約束できることは明確です。リスクを最小限に抑え、さまざまな問題の解決を図りながら、お客様の利益を最大限に高めることにあります。アジレント・テクノロジーは、お客様が納得できる計測機能の提供、お客様のニーズに応じたサポート体制の確立に努めています。アジレント・テクノロジーの多種多様なサポート・リソースとサービスを利用すれば、用途に合ったアジレント・テクノロジーの製品を選択し、製品を十分に活用することができます。アジレント・テクノロジーのすべての測定器およびシステムには、グローバル保証が付いています。製品の製造終了後、最低5年間はサポートを提供します。アジレント・テクノロジーのサポート政策全体を貫く2つの理念が、「アジレント・テクノロジーのプロミス」と「お客様のアドバンテージ」です。

アジレント・テクノロジーのプロミス

お客様が新たに製品の購入をお考えの時、アジレント・テクノロジーの経験豊富なテスト・エンジニアが現実的な性能や実用的な製品の推奨を含む製品情報をお届けします。お客様がアジレント・テクノロジーの製品をお使いになる時、アジレント・テクノロジーは製品が約束どおりの性能を発揮することを保証します。それらは以下のようなことです。● 機器が正しく動作するか動作確認を行います。● 機器操作のサポートを行います。● データシートに載っている基本的な測定に係わるアシストを提供します。

● セルフヘルプ・ツールの提供。● 世界中のアジレント・テクノロジー・サービス・センタでサービスが受けられるグローバル保証。

お客様のアドバンテージ

お客様は、アジレント・テクノロジーが提供する多様な専門的テストおよび測定サービスを利用することができます。こうしたサービスは、お客様それぞれの技術的ニーズおよびビジネス・ニーズに応じて購入することが可能です。お客様は、設計、システム統合、プロジェクト管理、その他の専門的なサービスのほか、校正、追加料金によるアップグレード、保証期間終了後の修理、オンサイトの教育およびトレーニングなどのサービスを購入することにより、問題を効率良く解決して、市場のきびしい競争に勝ち抜くことができます。世界各地の経験豊富なアジレント・テクノロジーのエンジニアが、お客様の生産性の向上、設備投資の回収率の最大化、製品の測定確度の維持をお手伝いします。

August 10, 20015980-2785JA 0000-00DEP/H

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