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Arterial Stiffness No 動脈壁硬化とアテローム硬化の関係について ロッテルダム研究 Association Between Arterial Stiffness and Atherosclerosis The Rotterdam Study Van Popele NM, Grobbee DE, Bots ML, et al. 小澤利男センター 背景と目的アテローム について する がある。 ,アテローム いくつか させて大 した。 方法: ロッテルダム して った。対 ある。大 (PWV)を して し, して した。アテローム さ, プラーク らびに した。データ 圧, し,ANCOVAにより した。 結果:に, さ, らびに大 プラーク した(す てP< )。 較した ころ, 患を する ,大 がみられた(P )が, について あった(P )。 し, 患を する した あった。 結論:する がさまざま 位におけるアテローム するこ ある。 keywords:aorta(大 ),atherosclerosis (アテローム ),blood flow velocity ),carotid arteries ),ultrasonics 学) Translated with permission in Nicole M van Popele Diederick E Grobbee Michiel L Bots Roland Asmar Jirar Topouchian Robert S Reneman Arnold PG Hoeks Deidre AM van der Kuip Albert Hofman Jacqueline CM Witteman: Association Between Arterial Stiffness and Atherosclerosis-The Rotterdam Study:Stroke Copyright © Lippincott Williams Wilkins All rights reserved この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.

Association Between Arterial Stiffness and …Association Between Arterial Stiffness and Atherosclerosis The Rotterdam Study Van Popele NM, Grobbee DE, Bots ML, et al. (訳)小澤利男(東京都老人医療センター名誉院長)

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.2 2002

動脈壁硬化とアテローム硬化の関係についてロッテルダム研究

Association Between Arterial Stiffness and AtherosclerosisThe Rotterdam Study

Van Popele NM, Grobbee DE, Bots ML, et al.

(訳)小澤利男(東京都老人医療センター名誉院長)

背景と目的:動脈壁の硬化とアテローム硬化との関連についての従来の研究結果には,相反するものがある。我々は,アテローム硬化のいくつかの指標に関連させて大動脈と総頸動脈の壁硬化を検討した。方法:本研究はロッテルダム研究の一環として行った。対象は,60~101歳の3,000人以上の高齢者である。大動脈壁の硬化は頸動脈-股動脈間の脈波速度(PWV)を測定して評価し,総頸動脈壁の硬化は壁の伸展性を測定して評価した。アテローム硬化は,総頸動脈の内中膜の厚さ,頸動脈と大動脈のプラークならびに末梢血管疾患の有無で評価した。データは年齢,性別,平均血圧,心拍数などで補正し,ANCOVAにより解析した。結果:大動脈と総頸動脈の壁硬化はともに,総頸動脈内中膜の厚さ,頸動脈ならびに大動脈のプラークの程度に強い正相関を示した(すべてP<0.01)。末梢血管疾患の有無で比較したところ,疾患を有するものはないものに比べ,大動脈壁硬化に有意の増加がみられた(P=0.001)が,総頸動脈壁の硬化については有意限界の増加であった(P=0.08)。心血管系の危険因子を段階的に補正し,心血管疾患を有するものを除外した後でも,結果は同様であった。結論:この地域在住高齢者に関する研究は,動脈壁の硬化がさまざまな血管部位におけるアテローム硬化と強く関連することを示すものである。

keywords:aorta(大動脈),atherosclerosis(アテローム硬化),blood flowvelocity(血流速度),carotid arteries(頸動脈),ultrasonics(超音波学)

Translated with permission in 2002, Nicole M van Popele, Diederick E Grobbee,Michiel L Bots, Roland Asmar, Jirar Topouchian, Robert S Reneman, Arnold PGHoeks, Deidre AM van der Kuip, Albert Hofman, Jacqueline CM Witteman:Association Between Arterial Stiffness and Atherosclerosis-The RotterdamStudy:Stroke, 2001;32:454-460.Copyright © 2002 Lippincott Williams & Wilkins. All rights reserved.

この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちらClick "Arterial Stiffness" web site for more articles.

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動脈壁硬化とアテローム硬化の関係について

近年,動脈壁の硬化を正確に測定する非侵襲的方

法が開発せられ,その測定も比較的容易となった1~4)。

いくつかの小規模な研究結果によれば,心臓血管疾

患を有するものは,それがないものよりも動脈壁硬

化が増加しているといわれる5~8)。動脈壁硬化はまた,

末期腎不全患者において総死亡と心血管疾患死亡の

予測因子であることが示されている9,10)。動脈壁硬化

と心血管疾患との関係は,動脈壁硬化に起因する脈

圧上昇あるいはアテローム硬化の合併などで説明が

可能と思われる。だが動脈壁硬化とアテローム硬化

の関連についての従来の研究結果には相反するもの

があった。いくつかの研究では動脈壁硬化とアテロ

ーム硬化の間に関連があると報告しているが11~13),

ほかの研究ではそのような関係を示すことができな

かった14~17)。このほとんどの研究は,対象を限定し

た小規模なものであり,ただ一つの動脈部位で壁硬

化とアテローム硬化の関連が検討されていた。

本研究の目的は,非選択的で非入院の大規模集団

を対象とし,異なった動脈部位について動脈壁硬度

とアテローム硬化の関連を検討することにある。動

脈壁硬化は,大動脈では頸動脈-股動脈間の脈波伝

播速度(PWV)の測定によって解析し,総頸動脈で

は伸展係数(DC)を測定解析した。アテローム硬化

の指標としては,総頸動脈内中膜の厚さ(IMT),頸

動脈と腹部大動脈におけるプラークの有無,末梢血

管疾患の有無を用いた。

対象集団

ロッテルダム研究は,住民に基盤をおいたコホー

ト研究で,高齢者における慢性疾患の発生率やリス

クファクターの解析調査を目的とするものである。

本研究の論理と企画に関しては他に詳説した18)。初

回基礎調査の測定は1990年~93年に施行した。第3

回目の追跡調査は1997年~99年に行われた。本研

究に関しては,エラスムス大学の医学倫理委員会の

承認を受け,すべての受診者から書式でインフォー

ムドコンセントを得ている。

心血管疾患とリスクファクター

心血管疾患に関するリスクファクターの情報は第

3回の追跡調査で収集した。現在の健康状態,病歴,

薬の服用,喫煙に関する情報は,家庭での面接の際

のコンピューター化した問診表から得られた。血圧

は受診センターで,座位,右腕でランダムゼロ血圧

計により2回測定し,2回の平均値を解析に使用した。

軽装で靴を履かないで,身長と体重を測定し,BMI

(body mass index,体重÷身長の2乗)が算出された。

血清総コレステロールとHDLコレステロールは,自

動酵素処理装置(Boehringer Mannheim Systems)で

測定された。血糖はへキソキナーゼ法(Boehringer

Mannheim Systems)で測定した。糖尿病患者は,糖

尿病歴,血糖低下薬の使用,空腹時血糖値

≥7.0mmol/Lのいずれかが該当するものとした19)。

心血管疾患の頻度は,心筋梗塞や脳卒中の既往歴と

して定義した。ロッテルダム研究の基礎調査におけ

る心血管疾患に関する情報は,家庭での面接により

解析された。心筋梗塞と脳卒中の既往は,開業医,

専門医あるいは心電図から確認された。

アテローム硬化の指標

本研究の解析に使用したアテローム硬化の指標

は,腹部大動脈における石灰化プラークの有無を除

いて,第3回の調査時に測定したものである。腹部

大動脈の石灰化プラークについては,1993年~95

年における第2回調査で測定した。

内中膜厚は,左右両頸動脈の超音波検査法による

イメージ画像を記録することによって測定した。ト

ランスジューサは,線形アレーで7.5MHzである。

プロトコールは他の論文で具体的に詳述した20,21)。

総頸動脈の内中膜厚は,左右両側で遠近両方の厚さ

の平均として求めた。

頸動脈のプラークの有無は,頸動脈の総,中,分

岐部の超音波イメージ画像を評価してアテローム性

病変の存在を定めた。プラークは,隣接する部分に

比べ局所的に拡張し,かつ内腔に突出する石灰沈着

あるいは石灰と非石灰物質の混合病変と定義した。

病変の大きさは測定しなかった。頸動脈プラークの

総計スコアは3ヵ所での左右の遠近位の血管壁にお

けるプラークの存在の合計によって決定した(最高

スコアは12とした)。程度は,プラークなし(スコア

0),軽度プラーク(スコア1~4),中等度プラーク

(スコア5~8),高度プラーク(スコア9~12)の4群

である。

腹部大動脈部のアテローム性硬化は腰椎の側方X

線撮影で測定し(T12~S1),石灰化を検索した。腰

椎(L1~L4)に平行した前方部分に綿状影が明らか

対象と方法

はじめに

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.2 2002

な場合を石灰化プラーク有りとした22)。程度は,病

変の長さに応じて,0(石灰化プラークなし)から5

(石灰化プラークで縁取られた大動脈)まででランク

づけした。したがって,対象は腹部大動脈にアテロ

ーム硬化がない(0),軽度(1),中等度(2~3),高

度(4~5)と分類された。

末梢動脈疾患の有無は足首-上腕血圧比ABIで解

析した。足首-上腕血圧指標ABIは足首の血圧の右

上腕の収縮期血圧に対する比から求めた。両足首の

左右の後脛骨動脈にドプラーの端子を当てて血圧を

測った23)。その最低値を求め,Fowkesら24)に従っ

て,左右いずれかのABIが0.9より低い場合に,末梢

動脈疾患有りとした。

動脈壁硬度

大動脈と総頸動脈壁の硬化を,第3回の測定時に,

仰臥状態の対象者で測定した。PWV測定前に,5分

間の休息をとった後で血圧を2回測定し,その平均

値をとった。平均血圧(MAP)は,拡張期血圧+1/3

(収縮期血圧-拡張期血圧)とした。

頸動脈-股動脈間PWVはComplior, Colsonで測定

した4)。これは頸動脈と股動脈で,同時に記録した

脈波の立ち上がりの時間差を測定する。頸動脈-股

動脈間の距離は,体表面上で求めた。PWVは,脈

波伝播時間差で距離を除し,m/secで表した。呼吸

サイクルの影響を考慮し,少なくとも10回の連続測

定の平均値を解析に使用した。

総頸動脈の伸展性は,右の総頸動脈の血管壁の

動きを,duplex scanner(Ultramark IV, ATL)にて測

定した。この技術に関しては他で詳述した1, 25)。5

分の休息後,頸動脈洞起始部から1.5cm中枢よりの

部位で壁運動をBモード超音波法で確認し,高周波

シグナルを処理した。拡張期内径(D)とその収縮期

変化( D),相対的径変化( D/D)を3回連続記録

して,各4回の心臓周期の平均として算出した。血

圧はDinamap自動血圧計で2回測り,その平均値を

とった。脈圧( P)は収縮期血圧と拡張期血圧の差

として計算した。動脈壁伸展率DCは次の式に応じ

た26)。

DC=(2 D/D)/ P(10-3/kPa)

今回の研究では,右側に限定して測定した。前

回の研究で,左右の総頸動脈壁の特性に有意差は

みられなかった。47例の再現性検索に関して,

PWV,総頸動脈DCともに相関係数は0.80であった。

対象解析

第3回調査に参加可能な4,024例のうち,3,550例

が頸動脈-股動脈PWVを測定し,3,098例が総頸動

脈伸展性を測定した。PWV測定の3,550例のうち,

69人(1.9%)が,連続PWV測定時の変化が10%より

大きいか連続測定が10回に満たなかったため,解析

から除外され,残りの3,481例が対象となった。総

頸動脈の伸展性測定者は全例が解析の対象となっ

た。PWVを測定した全例中,47%は頸動脈厚,

87%は頸動脈プラーク,93%は大動脈局在プラーク

の測定値を有し,96%は末梢動脈疾患の有無に関す

る情報を有していた。DCの測定をうけた全例中,

53%は頸動脈内中膜厚,91%は頸動脈プラーク,

92%は大動脈局在プラークの測定値,96%は末梢動

脈疾患の有無に関する情報を有していた。

統計学的解析

年齢,性別,平均血圧,心拍数で補正した平均

PWVは,アテローム硬化の連続変数の4区分ごとに,

またはANCOVAによるアテローム硬化の分類別ごと

に算出した。同様に,年齢,性別,MAP,心拍数で

補正した平均DCを計算した。傾向解析には,多変

量線形回帰係数を用いた。解析には心血管疾患を有

するものを除外して反復し,性に関しても検討した。

いくつかの危険因子に関しても検討した。PWVと

DCの関係は,多変量線形回帰でDCを従属,PWVを

独立変数として検討した。解析にはWindows95の

SPSS8.0統計学パック(SPSS inc)を使用した。

結果

表1に研究対象の特性を示した。心血管系疾患の

諸危険因子の値は,一般老年者から予期される値か

らみて正常高値の範囲にあった。4分割したPWVあ

るいは群別化したアテローム硬化指標は年齢,性別,

平均血圧,心拍数で補正して図1に示した。PWVは総

頸動脈の内中膜厚,頸動脈のプラーク,大動脈局在

プラークなどの増加に伴って平行して増加した(3者

の関連に対する傾向はP<0.01)。末梢動脈疾患を有

するものは,それがないものと比べてPWVが有意

に大であった(PWVの平均差0.04m/s[95%CI,0.17~

0.63])。アテローム硬化のすべての指標に対して

PWVは正相関を示した。

4分割したアテローム硬化指標,または群別した

総頸動脈DC(動脈壁伸展率)の平均値を年齢,性,

平均血圧,心拍数で補正して図2に示した。内中膜

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動脈壁硬化とアテローム硬化の関係について

図2 伸展度DCの平均値とアテローム硬化指標年齢,性,MAP,心拍数で補正。バーは95%信頼限界。Pは右上を除きトレンドのProbality Value。

図1 平均PWVとアテローム硬化指標年齢,性,MAP,心拍数で補正。バーは95%信頼限界。Pは右上を除きトレンドのProbality Value。

16

15

14

13

PWV(m/s)

0

16

15

14

13

PWV(m/s)

0

p=0.04 p=0.001

1度 なし あり 4度 3度 2度

16

15

14

13

PWV(m/s)

0

p<0.001

なし 高度 中等度 軽度

総頸動脈内中膜の厚さ(重症度で4群化) 末梢動脈疾患の有無

頸動脈のプラーク

16

15

14

13PWV(m/s)

0

p<0.001

なし 高度 中等度 軽度 大動脈のプラーク

11

10

9

8

11

10

9

8

DC(10

-3/kPa)

0

p<0.001

1度 4度 3度 2度 総頸動脈内中膜の厚さ(重症度で4群化)

DC(10

-3/kPa)

0

p=0.001

なし あり 末梢動脈疾患の有無

DC(10

-3/kPa)

0

p<0.001

なし 高度 中等度 軽度 頸動脈のプラーク

11

10

9

8

11

10

9

8

DC(10

-3/kPa)

0

p=0.006

なし 高度 中等度 軽度 大動脈のプラーク

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.2 2002

表2 多重線形回帰(β)係数と95%信頼区間(カッコ内)ロッテルダム研究での高齢対象者における大動脈壁硬化(PWV),総頸動脈壁伸展性(DC),アテローム硬化のさまざまな指標の間の相関性を示す。

アテローム硬化指標 PWV, m/s DC 10-3/kPa

総頸動脈内中膜厚頸動脈のプラーク 0.96(0.01, i.91) -3.12(-4.17, -2.08)軽度(:なし) 0.20(-0.02, 0.66) -0.10(-0.40, 0.21)高度(:なし) 1,30(0.70. 1.90) -2.29(-3.15, -1.43)大動脈の石灰化性プラーク軽度(:なし) 0.39(0.17, 0.61) -0.22(-0.55, 0.11)中等度(:なし) 0.80(0.60, 1.02) -0.25(-0.56, 0.06)高度(:なし) 2.06(1.59, 2.52) -0.80(-1.49, -0.11)末梢動脈疾患の存在(:なし) 0.29(0.05, 0.52) -0.30(-0.64, 0.04)

(すべて年齢,性,平均血圧,総コレステロール値,血糖値,喫煙,BMI,糖尿病などで補正)

厚,総頸動脈と大動脈局在プラークの増加に伴って,

DCは平行して減少した(3者の関連に対する傾向は

P<0.01)。末梢動脈疾患があるものとないものとを

比べた場合,その有意差は境界域でDCが減少して

いた(DC10-3/kPaの差は平均,-0.29[95%CI, -0.62

~0.03])。DCはアテローム硬化のすべての指標に対

し負に相関した。心血管疾患を有するもの(n=503)

を除外し,かつ性別で分けても,結果は変わらなか

った。(データは示していない)。

多変量線形回帰解析の結果を表2に示した。年齢,

性,平均血圧,心拍数と心血管系危険因子で補正し

ても,PWVとアテローム硬化のすべての指標との

間には有意な関連がみられた。同様に年齢,性,平

均血圧,心拍数,心血管系危険因子で補正後のDC

は,総頸動脈内中膜厚,頸動脈プラーク,大動脈プ

ラークとは有意に相関し,末梢動脈疾患の有無では

境界域有意(P=0.09)であった。

DCとPWVとの間には2次方程式の関係が認めら

れる。

DC=27.4-1.9×PWV+0.04(PWV)2

P(全体)≦0.001. DCとPWVとの相関は-0.41(p<

0.001)

この集団対象研究の目的は,動脈壁の硬化とアテ

ローム硬化との関係を,動脈系のさまざまな部位で

検討することにあった。その結果,動脈壁の硬化は

総頸動脈の内中膜厚,総頸動脈および大動脈のプラ

ークならびに末梢動脈疾患の存在と強い関連がある

ことが判明した。総頸動脈壁の硬化は,アテローム

硬化のすべての指標と強い相関を示したが,末梢動

脈疾患の有無に関する相関は境界域にあった。心血

管系危険因子を順次除外しても,頻度の高い心血管

疾患を有するものを除外しても,この結果は変わら

なかった。

本研究の次のような点に関しては,検討が必要

である。

①我々はいくつかの非侵襲的尺度をアテローム硬

化の指標として用いた。総頸動脈の内中膜厚や

プラークが,頸動脈のアテローム硬化の適確な

指標であることは報告されている27~29)。X線撮

影で認められる大動脈の石灰化像は,剖検でみ

考察特徴 値

年齢(歳) 72(60-101)男性 58%収縮期血圧(mmHg) 143(21)拡張期血圧(mmHg) 75(11)心拍数(/分) 70(11)総コレステロール(mmol/L) 5.8(1.0)HDLコレステロール(mmol/L) 1.4(0.4)BMI(kg/m2) 26.8(4.0)糖尿病 12%喫煙現 16%以前 50%なし 34%PWV(m/s) 13.5(0.3)DC(10-3/kPa) 13.5(3.0)内中膜厚(mm) 0.88(0.16)頸動脈プラークなし 30.8%軽度 41.8%中等度 24.9%高度 02.5%大動脈石灰化プラークなし 43.3%軽度 21.0%中等度 30.7%高度 05.0%末梢血管疾患 18.1%

表1 研究対象の特徴

括弧内はSD,ただし年齢は範囲を表す

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動脈壁硬化とアテローム硬化の関係について

られるアテローム硬化巣とよく相関し,ほとん

どの場合,目に見える石灰化は進行したアテロ

ーム硬化を現わすものである30)。Yaoら31)は上

腕-足首の血圧比と遠位大動脈および下肢動脈

の血管造影像を比較し,この血圧指数(ABI)が

閉塞性動脈硬化の評価法として有用であり,感

度も優れていることを示した。

②対象のなかには動脈壁硬化やアテローム硬化の

測定に用いられなかったものがある。その理由

として第3回調査の前に亡くなったり,重病で参

加できなかったり,追跡から洩れたりしたこと

などがあげられる。こうした例が利用できなか

ったことは,おそらく分布にも影響を与えるで

あろう。不幸にしてこの事態は避けられないも

のである。特に高齢者集団を対象とする研究に

はみられることである。アテローム硬化のさま

ざまな指標に関する情報が,PWVを測定した全

例に適用できたわけではない。これは主として

構成組織的な理由による。したがって,欠けた

情報は動脈壁硬化の重症度の各群に無作為に分

布するようになるから,判定に過誤をもたらす

ことはないと思われる。

③腹部大動脈のプラークの有無をみるために,

我々は第2回の検査時のX線検査結果を用いた。

これは動脈壁硬化を測定した第3回検査の平均4

年前のことであった。その理由は第3回検査時

のX線検査は,本研究の解析にはまだ大動脈プ

ラークの有無に関しての評価がされてなかった

ためである。第2回の追跡試験からのX線検査

を取り入れると,大動脈のプラークの重症度評

価に若干の分類誤差がでるかもしれないが,こ

れは動脈壁硬化に関していえば非特異的なもの

で,それがあったとすれば関連の過小評価につ

ながることもあろう。

④最後にBMIは頸動脈-股動脈間のPWVの決定に

影響を与えることがある。頸動脈-股動脈間距

離は体表面上で測定しているので,それが体型

に依存することになるからである。したがって

BMIが大きいものはPWVを過大に評価すること

があり得る。それは動脈壁硬化の評価分類に過

誤をもたらすことになる。BMIはアテローム硬

化に関係がないので,動脈壁硬化の評価分類の

間違いはアテローム硬化に関していえば非特異

的なものとなり,関連の過小評価に至ることも

あろう。

動脈壁硬化とアテローム硬化の関連についてのこ

れまでの研究報告は,その結果に一致がみられなか

った。頸動脈の伸展性を非侵襲的に測定する方法は,

剖検で確定された頸動脈のアテローム硬化と高い相

関を示すことが報告されている12)。大動脈における

アテローム硬化の存在は,さまざまな病変を有する

患者の大動脈壁伸展性の低下と強い相関があること

が知られている13)。一方,動脈壁硬化とアテローム

硬化との間には相関がないという報告もある。ある

研究では大動脈のアテローム硬化の程度は壁の伸展

性の喪失とは無関係であり,年齢に伴う伸展性の喪

失はアテローム硬化の程度とは関係なく,一定の速

さで進行することを認めた14)。Avolioら15)は生態学

的研究からアテローム硬化の頻度が異なる集団で

も,PWVはいずれも年齢に伴って同様に変化する

ことを認め,動脈の伸展性はアテローム硬化と関連

がないとの結論を下した。Megnienら17)は冠動脈疾

患のリスクがある無症候の男性190例についての断

面的研究から,PWVにより決定された大動脈壁硬

化と冠動脈ならびに冠以外の動脈でのアテローム硬

化との関係を検討し,両者間には関連がないと報告

した。しかし,この研究は対象が少数に限定されて

いる。地域アテローム硬化リスク研究Atherosclerosis

Risk in Communities(ARIC)では,総頸動脈の伸展

性と内中膜厚との関係が検討された。その結果,動

脈壁が最も厚い上位10%を除けば,動脈壁厚と動脈

壁硬化との間に関係を認めなかった16)。我々は4区

分した総頸動脈の内中膜厚のうち最も厚い群にの

み,総頸動脈壁硬化の増加を認めた(表2)。これは

ARIC研究の知見と類似しているが,我々は4区分し

た上位2群の内中膜厚において大動脈壁硬化の増加

を認めている(表1)。4区分した下位2群では動脈壁

硬化と内中膜厚との間には明らかな相関がみられな

かった点は,内中膜厚はあるレベルを超えた段階で

アテローム硬化を反映するに過ぎないことを示唆す

る最近の知見と一致している32)。

動脈壁硬化とアテローム硬化との関連について

は,次のようないくつかの可能性が仮説として考え

られる。

①アテローム硬化の存在は,動脈壁の弾性低下を

来すという考えがある。これを支持するものと

してFarrerらは,アテローム硬化促進食で飼育

したカニクイザルではPWVが増加し,その抑

制食ではPWVが減少することを示した33)。

②次の可能性としては,動脈壁硬化の増大が血管

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.2 2002

壁を傷害し,アテローム硬化を起こすという説

である。固くなった動脈壁は,心拍出に対する

衝撃緩衝能を失い,脈圧増加という血管内スト

レス増加に曝されることになろう34)。

③第3の可能性は以上の両機序の関与を考えるも

のである。つまりアテローム硬化は動脈壁硬化

の結果であるばかりでなく,それ自体の進行が

動脈壁の硬化をもたらすとの考えである。これ

は結果としてひとつの持続する強化過程を形成

することになろう。

④最後の可能性は,動脈壁の硬化とアテローム硬

化とはそれぞれ独立した過程で,それらは因果

関係なしに動脈内の同じような部位で頻繁に生

起しているというものである。

動脈壁硬化とアテローム硬化の時間的関係を解明す

るには,今後長期にわたる縦断的研究が必要で,で

きれば対象は若年から始めるのがよい。

動脈系のさまざまな部位でみられる動脈壁硬化と

アテローム硬化との強い相関は,大動脈壁硬化を全

身的アテローム硬化を代表するひとつの指標とみな

し得ることを示唆する。総頸動脈に関してもそれが

当てはまるかは,明らかとはいえない。総頸動脈壁

の硬化は頸動脈と大動脈のアテローム硬化とは相関

するが,末梢動脈疾患の有無との関連は明らかでは

ないからである。腹部大動脈でアテローム硬化を評

価することは,その他の末梢動脈でのアテローム硬

化評価よりも正確であるように思われる。

動脈系の硬化は収縮期血圧を上昇し,同時に拡張

期血圧を下げるから,結果として脈圧を大きくする35)。収縮期血圧の上昇は心臓には負荷の増加となり,

拡張期血圧の低下は冠血流量を抑制することになろ

う。このような効果は断面的研究でみられたような

動脈壁硬化と心筋梗塞の関係を説明することになろ

う36,37)。最近の知見によれば脈圧の増大も脳卒中の

強い危険因子となり38,39),断面的研究では動脈壁の

硬化と脳卒中との相関が明らかにされた7)。

以上の研究結果は,動脈壁の硬化が脳卒中,心筋

梗塞のような心血管疾患の危険因子となることを示

唆するが,それは今後前向き研究による確認を必要

とする。本研究で示された動脈壁の硬化とアテロー

ム硬化の間の強い相関は,動脈壁の硬化と心血管疾

患の間の相関をさらに支持するものと思われる。動

脈壁硬化と心血管疾患の関連に関する今後の縦断的

研究は,動脈壁硬化がそのアテローム硬化との関係

とは独立して,心血管疾患発症の危険因子となり得

るかを明らかにするに違いない。

結論:この地域住民に基づく高齢者研究の結果は,

動脈系のさまざまな部位において動脈壁硬化arterial

stiffnessがアテローム硬化atherosclerosisと関連して

いることを示唆するものである。

本研究はオランダ・ハーグ市,健康研究開発協議

会(Witteman博士;研究費交付番号2827210)および

オランダ心臓基金(Grobbee博士;交付番号96.141)

からのgrantにより支援された。Rotterdam研究は一

部(保健省,教育省の)老年医学研究のためのプログ

ラムNESTORとオランダ心臓財団,オランダ科学研

究機構,ロッテルダム当局からの支援を受けて実施

された。

注釈:動脈壁の硬化arterial stiffnessは脈波速度や血

管壁伸展性の測定で評価できるが,それがアテロー

ム硬化atherosclerosisに対してどのような関係にあ

るかは,検査結果の解釈と絡む大きな問題点である。

心筋梗塞でも脳梗塞でも,病変はアテローム硬化で

あり,粥状硬化である。だがアテローム硬化を代表

するような実用的な指標は無きに等しい。動脈壁の

硬化は,血管壁の物理的性状を表す指標であるが,

それがアテローム硬化と関連するプラークの重症度

や内中膜の厚さと強い相関があることが,高齢者を

対象とした大規模なロッテルダム研究で明らかにさ

れた。今後は,縦断的研究によってそのアテローム

硬化性疾患との関係がさらに解明されるであろう。

最近の知見では,PWVは内膜機能の障害にも関係

があり,それに先行する傾向もあるとのことから,

壁硬化とアテローム硬化との関係はかなり緊密であ

るように思われる。わが国においても実験的あるい

は疫学的研究で,その意義が明らかにされることが

期待される。 (小澤利男)

謝 辞

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動脈壁硬化とアテローム硬化の関係について

注:Lippincott Williams & Wilkins社およびAmerican Stroke Associatinより本記事は,Van Popele NM, Grobbee DE, Bots ML, et al. Association Between Arterial Stiffness and

Atherosclerosis―The Rotterdam Study. Stroke 2001;32:454-460. Lippincott Williams & Wilkins. の翻訳です。翻訳に関する責任は,American Stroke Associatinおよび Lippincott Williams & Wilkinsにはありません。また,American Stroke Associatinは商品,商業サービス,器具等は一切推奨していません。

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