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臨床免疫,40f3):288-293,2003 40:288
態における意義
B細胞のTLR9を介する
サイトカイン,ケモカイン
産生-
加藤 厚●■ 松本健治…
らにより明らかにきれた1).このDNA分画はMY-1
と命名され インターフェロン(IFN)誘導活性を
有し,NK活性を増強させることから抗腫瘍粟と
して国内で臨床試験も行われた2).この現象は画
期的な発見ではあったが,DNA自身に免疫活性
があるという現象を世界に受け入れられるまで
には時間がかかり,世界的に注目を浴びること
となったのは1995年にKriegらの報告がなされて
からであった.粕iegらはDNAがシトシン(C).
グアニン(G)が並ぶCpGモチーフと呼ばれる配列
を有する時にのみ免疫活性を惹起することを韓
苦したサ.またCpGモチーフのシトシン残碁をメ
チル化することにより不治化されることが明ら
かとなった.このCpGモチーフは細菌など下等
動物では高頻度に認められるが,哺乳類ではほ
とんど認められない.またわずかに存在する哺
乳類におけるCpGモチーフのほとんどはシトシ
ン残基がメチル化を受けているために,哺乳類
は自己DNAには反応せず,細菌のDNAを認識し,
病原体を排除する免疫システムを有していると
考えられている.細菌由来DNAを認識するメカ
ニズムについてはTLRの発見により明らかにされ
てきた.
TLR9は細菌由来DNAのレセプター
細菌などの感染による初期防御反応はマクロ
ファージや樹状細胞(dendriticcell:DC)の貪食
KeyWords:To]Hikereceptor,CpGODN,IL-12.1P- 10.IgEproductiom
は じめに
免疫応答は感染時に細菌などを認識し初期防
御反応として働く自然免疫と,抗原提示細胞に
よって提示された抗原特異的に働く獲得免疫(適
応免疫)の2種類に大別される.近年発見された
Toll-1ikereeeptor(TLR)を介する反応は自然
疫系のみならず,獲得免疫にも働きかけること
から注目を受けている.とくにTLR9を介する刺
激はインターフェロンなどの抗ウイルス蛋白の
産生のみならず,T細胞非依存的にB細胞を括
件化させる能力を有し,lgE産生を伴わないIgG
の転生を促進することから,そのリガンドであ
るCpGOl)Nは¶1アジエバンドとして臨床応用
が期待されている.本稿においてはTIR9を介す
る刺激によってB細胞から産生されるサイトカ
イン・ケモカインをアレルギー治療という観点
から概説する.
細菌由来DNAが抗腫瘍活性成分
BCGは結核のワクチンとして使用されている
が.1970年代に抗腫瘍活性もあることが報告さ
れた.その後1980年代に入り,BCG中の抗腫瘍
活性成分はDNA分画に存在することがTokunaga
*CpGODNinducescytokineandchemokineproductionviaTLR9inhumanBlymphocyte. 頼AtsushiKATO&KenjiMATSUMOTO,M.D..Ph.D.:国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部〔面154-
B567東京都世川谷区太子堂3-35r31];DepartmentofAllergy&lmmunology,NatlOnalResearchIns血teforChild Health&Development,Tbkyo154J567,JAPAN
Clin.Immunol.,Sept.2003
作用による分解・消化を含む自然免疫反応が担っ
ている.この貪食作用において異物の認識に関
与している分子がTLRである.細菌などの微生物
には哺乳類に存在しない分子構造(pathogenas-
sociatedmolecularpatterns:PAMPs)が認めら
れ,TLRはこのPAMPsを認識して自然免疫を活
性化していると考えられている.TLRは現在ヒト
において10種類報告されており,それぞれが特
有のPAMPsを認識する4).TLIuはグラム陽性菌
由来のリボプロテインを,TLR3はウイルス由来
の2本鎖RNAを,TLR4はグラム陰性菌由来のLPS
を,そしてTLR5は細菌の鞭毛を認識することが
報告されている.このうち,TLR9が細菌由来DNA
および非メチル化CpGモチーフを有する合成オ
リゴヌクレオチド(CpGODN)の認識レセプター
であることが明らかとなった5〉.TLR9を介した免
疫反応は自然免疫系を活性化させ細菌などに対
する防御反応を惹起するだけでなくThl反応を誘
導することから,感染症,癌,アレルギーなど
で臨床応用が期待されている.
TLR9の発現糸田胞
ヒトと他の動物におけるTLRの発現の分布は異
なっていることが知られている.ヒトにおける
TLR9の発現細胞はB細胞とDCであると報告さ
れている.マウスではマクロファージにTLR9が
発現しているため,マクロファージを用いたTLR9
の研究が多く行われている.しかしヒトにおい
てマクロファージにはTLR9を発現していないの
で注意が必要である.また,DCは大きくmyeloid
DC(MDC)とplasmacytoidDC(PDC)の2種類に
分類されるが,ヒトにおいてTLR9を発現してい
るのはPDCのみである6-.すなわちヒトにおいて
はCpGODNはB細胞かPDCを介してアジエバン
ド作用を示すと考えられる.
TLR9のシグナル
TLR9を介したシグナルは他のTLRを介したシ
グナルと同様にMyD88,IRAK,TRAF6を介して
NF-KBやAP-1といった転写因子を活性化すること
が知られている.しかしながら,他のTLRが細胞
表面に発現しているのに対し,TLR9は細胞内に
発現している.細菌を細胞内に取り込み破壊さ
40:289
れて出てきた細菌由来DNAと反応するために細
胞内に発現しているのではないかと考えられて
いる.一方,細胞外に存在するDNAはDNAレセ
プターを介してCpGモチーフと無関係に取り込
まれることがわかってきた7.そして取り込まれ
たDNAはCpGモチーフを有するもののみTLR9と
会合し,シグナルを伝えていくと考えられてい
る.したがって,TLR9を介する反応は細胞内へ
の取込みにかかる分だけ他のTLRリガンドに比べ
反応が遅いようにみえる.
CpGODNの種類と反応性
DNAは投与されると生体内のDNaseによって
すみやかに分解されてしまう.そこで安定化の
ため研究に用いるCpGODNにはphosphorothioate
化したODN(通称Sオリゴ)が使用されている.
Sオリゴは核酸のリン酸基部位にある酸素元素を
硫黄元素に置換することによりDNase活性を受
けにくくなっており,生体内での安定性が高い
ことからアンチセンス製斉【Jにも利用されている.
すべての塩基がSオリゴ化されているCpGODN
はB/K-brpeCpGODN(CpGLB/K)と呼ばれてい
る畠)9〉.CpG-B/KはB細胞に作用し,増殖能を向
上させること,抗体産生を促進することが知ら
れている,また,CD40,CD80およびCD86など
の共刺激分子や主要組織適合性抗原複合体(MHC)
のタイプⅢなどの発現も誘導することが知られて
いる.CpG-B/KはPDCにも作用しCD40,CD80
およぴCD86などの共刺激分子ヤCCR7などケモ
カインレセプターの発現も誘導するが,TypeIIFN
(IFN-α/β)の誘導は非常に弱い10).一方,CpGモ
チーフを有する塩基を通常のホスホジュステラー
ゼで結合し,その5′,3′側にSオリゴ化したグア
ノシン(G)を複数結合させたCpGODNはA/D-type
CpGODN(CpG-A/D)と呼ばれている8)9).cpG-
A/DはPDCに作用し強力にTypeIIFNを誘導する
がB細胞にはほとんど作用しない.最近になっ
てB細胞にもPDCにも強力に作用し,両CpG
ODNの特徴を有するC-typeCpGODNが合成さ
れたことも報告された川.以上のことから,CpG
ODNと反応する異なったレセプターの存在が示
唆されるが,TLR9KOマウスやTLRのアソシエー
ション分子であるMyD88KOマウスにおいては
臨味免疫 第40巻 節3号 40:290
lgM・MemoryB Naive B Swit¢h-MemoけB
ぎぎ合さ■・㌣ ご ご・丁・ き葺 CellNo.
Tl_Rl
TLR2
Tm
TLR4
TLR5
TLR6
TLR7
TU18
TLR9
mlO
β・儀式11r
図1ヒトB細胞サブセットにおけるTLRの発現 ヒト末梢血からCD191B細胞を単離後,ソーティングによりナイーブB細胞(CD27),TgMメモ リーB細胞(CD27+,IgG,IgA).スイッチメモリーB細胞(CD27+,lgM,IgD)を分離し, 各細胞数あたりのTLRの発現をm-PCRによって確認を行った. (文献】4)より改変)
両CpGODNの反応性がなくなることから,どち
らのCpGODNもTLR9を介して反応が伝わって
いると考えられている,現時点ではCpG-A/D,
CpG-B/Kによる作用の遠いが生じる機序は不明
である.次項からはB細胞に対する現象につい
て述べるため,CpG-B/Kを使用した研究につい
て紹介する.
TLR9とB細胞
ヒトB細胞に発現しているTLRはTLRl,6,7,
9,10であることが知られている12,.B細胞には
TLR9が発現しているため,CpGODNに対し反応
することは当然であるが,B細胞サブセット間
の反応性の差については不明であった.最近,
ナイーブB細胞はメモリーB細胞に比べCpG
ODNに対する反応性が著しく低いことが報告さ
れ,TLRの発現がB細胞のサブセット間で大き
く異なっていることが明らかとなった】3■.その後,
ナイーブB細胞はTLR9を含むすべてのTLRの発
現が非常に低いため,CpGODNに対する反応性
がほとんど認められないことが報告された(図1),
しかしナイーブB細胞はB細胞受容体(BCR)を
介した刺激を受けるとTLR9の発現が急速に誘導
され,CpGODNに対する応答性を有するように
なることも明らかとなった川.またB細胞特異
的と考えられているTIノRlOについても同様の現象
が見出された.一方,メモリーB細胞は恒常的
にTLR9を発現しているためにCpGODNに対し
て反応性が高いことが明らかとなった(図1).
RestingB細胞においてもBCRおよびCD40を介し
た刺激でTLR9および10の誘導が認められる15).
よってBCRを介したTLR9の誘導機構は獲得免疫
と自然免疫との架け席となっていることが示唆
された.
CpGODNによりB細胞が産生する
サイトカイン・ケモカイン
IgMからIgEへのクラススイッチにはIL・4と
CD40の共刺激が必要である.CpGODNはIgE産
生を抑制することが報告されている岬】7■,アレル
ギ】においてIgE産生を抑制することは重要であ
ることからCpGODNはアレルギ←治療薬として
有望であるといえよう.しかし,CpGODNはど
のようにしてIgE産生を抑制しているのであろう
か?本項ではCpGODNによりB細胞から産生
されるサイトカイン・ケモカインという観点か
Clin.Immunol.,Sept.2003 40:291
図2 CpGODNによるB細胞からのIgE産生抑制機構
らこの現象を考察したい.
CpGODNによりB細胞から産生されるサイト
カインでもっとも強く誘導を受けるものはIL6で
ある3).Ⅰし6はB細胞の活性化と増殖を促し,抗
体産生の増強に関与していることが報告されて
いる.このことから,CpGODNによるIgM,IgG
の産生促進作用にはB細胞からのⅠし6のautocrine
が関与していると考えられる.またB細胞はCpG
ODNの作用によりル12が誘導されると報告され
ている18ノ.1L12はナイーブT細胞から1も1細胞へ
の分化を促進する作用を有し,IFN-γの産生に関
与している.誘導を受けたThl細胞はB細胞に作
用してIgE産生を抑制する可能性が考えられる.
しかし,B細胞から分泌するIL12のみではとく
にongoingのIgE産生の抑制作用は説明しにくい.
そこで筆者らはB細胞から産生されるケモカイ
ンについて検討を行った.
Thl細胞には細胞表面にCXCR3を発現してい
る.よってCXCR3ケモカインであるIFN-γinduc-
ibleproteinlO(IP-10)はThl細胞を特異的に遁走
させると考えられている.CpG-A/Dによる1PrlO
の誘導機構はPDCから分泌されたTyT)eIIFNに
より単球が分泌すると報告されているが,CpG-
B/KによるIP-10の誘導機構は不明であった19).
そこで筆者らほB細胞がCpG-B/Kの刺激により
IP-10を分泌し,Thl細胞をB細胞に遁走させる
可能性を考え,ヒトB細胞celllineであるRPMI
822(ラ細胞とヒト末梢血B細胞を用いて検討を行っ
た.その結果,RPMI8226細胞とヒトB細胞は
CpG-B/Kの刺激により1P-10の産生を誘導するこ
とが明らかとなった(投稿中データ).CpGODN
の投与はB細胞やPDCからのII:12の産生を誘導
し,分化したml細胞をIP-10によってB細胞に
遮走させることにより,IgE産生を抑制する可能
性が示唆される(図2).
ごく最近になってCpGODNがB細胞に作用し
て転写因子であるT-betを直接誘導し,ILAとCD40
によるIgGl,IgE産生作用を抑制することが報告
された20).またCpGODNによるTbetの誘導は
IFN-†,STHrl非依存的であるが,B細胞からCpG
ODNの刺激により分泌されるⅠし12によって相乗
的に作用することも報告された(図2).以上のこ
とから,B細胞から分泌するサイトカイン・ケ
モカインがIgE産生抑制作用に重要な役割を担っ
ているといえよう.
CpGODNとアレルギー
CpGODNはThlアジエバンドとして抗体製剤
との併用療法や単独でアレルギー治療薬として
の研究が動物試験や吉光〃f如試験を中心に数多く
40:292
行われている1617.マウス0VA吸入アレルギーモ
デルの試験においては,CpGODN投与により抗
原吸入後の気道過敏性の売進ならびにBAL中への
好酸球浸潤反応が強力に抑制することが報告さ
れている.またこのモデルでは,CpGODNによ
り1gE産生が抑制されIgG2a産生が上昇すること
も認められている.サイトカイン産生について
も,CpGODNほOVAによるIL-5.II;13などのTh2
サイトカイン産生作用を抑制し,ル12,IFN-†な
mlサイトカインの産生を増強することが報告
されている.また,抗原とCpGODNの結合体は
よl)強力な抗原特異白ml反応をひき起こすこと
が明らかにされている2))22).CpGODNはこのよ
うに強力な活性を有することから副作用の危険
性が危倶されていた.筆者らはCpGODNの薬効
と副作用を検討することを目的とし,ヒト末梢
血単核球(PBMC)を用いてCpGODNによって誘
導される遺伝子群をLPSと比較して網羅的な遺伝
子発現解析を行った.その結果,CpGODNによ
りOASl,MXlなど,抗ウイルス活性を示す遺伝
子やIP-10などのTも1連走性ケモカインの強力な上
昇を確認したが,mF(X,Ⅰし1β,COX-2など炎症
性遺伝子の誘導はLPSと比べると非常に弱いこと
が明らかとなった23).よってCpGODNはヒトに
おいて炎症を惹起しないという点で安全に投与
できる製剤になると期待される.
CpGODNの臨床試験
CpGODNは現在欧米においてColeyPharma-
CeuticalGroup(Coley社)とDynavax社によりそ
れぞれ臨床試験が開始されている.Coley社は痛
や感染症の抗体製剤とCpGODNの併用療法を中
心に,また7レルギ一分野についてはAventis
Pharma社と協同でCpGODNそのものの製剤化
を目指して臨床試験が行われている.一方,
Dynavax社は抗原CpGODN複合体の製剤化を
目指して臨床試験が行われている.とくにAmb
al-immunostimulatoryoligonucleotideconJu-
gate(AIC)はブタクサアレルゲンにCpGODNを
結合させてある製剤でブタクサ花粉症に有望で
あると期待されている.いずれの早期臨床試験
の結果でも重篤な副作用が報告されていないこ
とから,今後行われる臨床試験の結果が気にな
臨床免疫第40巻第3号
るところである24).
おわ り に
CpGODNはモデル動物研究において優れた効
果を示すことが多数報告されてきている.また
今まで不明であったCpGODNによるIgE産生抑
制作用についても明らかになりつつある.近年
になってと卜臨床試験の結果も報告され始め,
短期的には安全性に問題はないとの結果が示さ れ始めている.本年度の米国喘息・アレルギー・
免疫学会においても,〟Cの臨床試験の結果が注
目されており,創Cの投与によりブタクサ花粉シー
ズンにおけるQOLが著しく上昇することが報告
されていた.驚くべきことに,AICを投与した翌
年の花粉シーズンに新たな〟Cの投与がなかった
のにもかかわらずQOLが非常によかったことが
報告されており,CpGODNによるアレルギー疾
患の治療効果は長期間持続する可能性が示唆さ れた.わが国では春になるとスギ花粉を防ぐた
めにマスクをつけて歩いている姿が走者してき ている,CpGODNの臨床研究が進むことにより,
花粉シーズンにおいてもマスクをつけている光 景がみあたらなくなる状況が近い将来訪れるか もしれない.
文 献
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