42
77 B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発) の概要 1-B 事業の目的・政策的位置付け 1-1-B 事業目的 (1)背景 組込みソフトウェアは、自動車、情報家電、携帯電話等の製品機器に内蔵され、各 機器固有の機能を実現している。現在、ハイブリッド自動車のように、他社製品と差 別化を図る機能の多くは組込みシステムが寄与しており、また、組込みソフトウェア 搭載製品は我が国の輸出製品の半数を占めるまでになっている(図1-1)。組込み システムは我が国競争力の源泉と言っても過言では無く、その重要性は益々高まって いる。 その一方で、製品の多機能化に伴って、組込みソフトウェアの大規模化・複雑化は 顕著になり(図1-2)、また、上流からの発注納期の短縮化も進む中で、開発者側 の負担はますます強まり、それに伴う組込みシステム及び関連製品の信頼性・安全性 への影響が懸念されている。また、ネットワーク環境の普及により、組込みシステム は、機器単体での機能の実行から、機器がつながった状態での機能の実行へと変化し ていることから、その意味でも、更なる複雑化・高速化が進んでいると同時に、信頼 性・安全性が求められている。組込み製品の不具合のうちソフトウェア起因のものは 全体の約6割という調査結果もあり、国民の間でも組込みソフトウェアの信頼性、安 全性等の品質の確保に対するニーズは高まっている。 こうした状況は海外においても同様であったが、その解決に向け、欧州においては、 ボッシュ、BMW等のドイツの自動車関連企業を中心とするコンソーシアム、AUTOSAR車載共通基盤ソフトウェアを開発している。AUTOSARの活動には日本企業も参加する 等、国際的な広がりを見せ(図1-3)、開発成果物である共通基盤ソフトウェアは 国際標準になろうとしている。もし、我が国の意向が全く考慮されていない共通基盤 ソフトウェアが国際標準となった場合、我が国自動車産業への悪影響が大いに懸念さ れるところである。 出所:財務省貿易統計:世界年別(輸出)2009年確定値 2009年輸出製品比率(輸出総額:54.2兆円) 一般機械(ベアリン グ及び同部品を除 く) 17.4% 電気機器(電子部品、電 池を除く) 13.0% 輸送用機器 21.9% その他 12.8% 原料別製品 13.0% 化学製品 10.7% 一般機械(ベアリン グ及び同部分品) 0.5% 鉱物性燃料 1.8% 原料品 1.5% 食料品 0.7% 電気機器(電子部 品、電池) 6.9% 組込みソフトウェア 関連製品 52.2図1-1 我が国の輸出製品に占める組込みソフトウェア関連製品の割合

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77

B.産学連携ソフトウェア工学実践事業(高信頼組込みソフトウェア開発)

の概要

1-B 事業の目的・政策的位置付け

1-1-B 事業目的

(1)背景

組込みソフトウェアは、自動車、情報家電、携帯電話等の製品機器に内蔵され、各

機器固有の機能を実現している。現在、ハイブリッド自動車のように、他社製品と差

別化を図る機能の多くは組込みシステムが寄与しており、また、組込みソフトウェア

搭載製品は我が国の輸出製品の半数を占めるまでになっている(図1-1)。組込み

システムは我が国競争力の源泉と言っても過言では無く、その重要性は益々高まって

いる。

その一方で、製品の多機能化に伴って、組込みソフトウェアの大規模化・複雑化は

顕著になり(図1-2)、また、上流からの発注納期の短縮化も進む中で、開発者側

の負担はますます強まり、それに伴う組込みシステム及び関連製品の信頼性・安全性

への影響が懸念されている。また、ネットワーク環境の普及により、組込みシステム

は、機器単体での機能の実行から、機器がつながった状態での機能の実行へと変化し

ていることから、その意味でも、更なる複雑化・高速化が進んでいると同時に、信頼

性・安全性が求められている。組込み製品の不具合のうちソフトウェア起因のものは

全体の約6割という調査結果もあり、国民の間でも組込みソフトウェアの信頼性、安

全性等の品質の確保に対するニーズは高まっている。

こうした状況は海外においても同様であったが、その解決に向け、欧州においては、

ボッシュ、BMW等のドイツの自動車関連企業を中心とするコンソーシアム、AUTOSARが

車載共通基盤ソフトウェアを開発している。AUTOSARの活動には日本企業も参加する

等、国際的な広がりを見せ(図1-3)、開発成果物である共通基盤ソフトウェアは

国際標準になろうとしている。もし、我が国の意向が全く考慮されていない共通基盤

ソフトウェアが国際標準となった場合、我が国自動車産業への悪影響が大いに懸念さ

れるところである。

出所:財務省貿易統計:世界年別(輸出)2009年確定値

2009年輸出製品比率(輸出総額:54.2兆円)

一般機械(ベアリング及び同部品を除く) 17.4%

電気機器(電子部品、電池を除く) 13.0%

輸送用機器21.9%

その他12.8%

原料別製品13.0%

化学製品10.7%

一般機械(ベアリング及び同部分品)0.5%

鉱物性燃料1.8%

原料品1.5%

食料品0.7%

電気機器(電子部品、電池) 6.9%

組込みソフトウェア関連製品52.2%

図1-1 我が国の輸出製品に占める組込みソフトウェア関連製品の割合

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78

2000年

100万行

500万行~1000万行

現在

5~10倍

自動車プログラム行数

2001年

100万行

500万行

現在

5倍以上

携帯電話プログラム行数

2002年

20万行

100万行

現在

5倍以上

DVDレコーダプログラム行数

2000年

100万行

300万行~500万行

現在

3~5倍

カーナビプログラム行数

図1-2 増大する組込みソフトウェアの規模

欧州の自動車関連企業,ソフトウェア産業を中心に運営Status: October 4th, 2005

10 Core Partners

GeneralOEM

GenericTier 1

StandardSoftware

Tools and Services

Semi-conductors

24 AssociateMembers

46 Premium Members

図1-3 幅広い企業が参画するAUTOSAR

(2)目的

組込みソフトウェアの重要性が高まる一方で、組込みソフトウェアの大規模化・複

雑化に伴う信頼性・安全性への影響という社会的要因、AUTOSARの取組みと比較した

我が国の出遅れという国際的要因等によって、我が国組込みソフトウェア産業が逆風

にさらされる中、自動車の組込みソフトウェア開発を支援することにより、自動車産

業及び組込みソフトウェア産業等の国際競争力強化を図ることを本事業の目的とす

る。

特に自動車の組込みソフトウェアを対象とする理由は、主に2つある。第一に、自

動車産業は、出荷額(全製造業)の約2割を占め(図1-4)、関連産業を含めた就

業人口は、全体の約1割の雇用を生み出しており、まさしく我が国の基幹産業である

ため、本産業を支援することの意味は大きい。第二に、自動車は国民の安全・安心に

直結するため高い信頼性を要求される製品であるとともに、自動車の制御は特に技術

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79

力を要する開発分野であるため(図1-5)、自動車の組込みソフトウェア開発の高

度化は産業全体の良いモデルケースとなり、他産業にも波及することが見込まれる。

そのため、車載組込みソフトウェアの開発支援は、産業政策上、大きな意義がある。

なお、以上のような諸々の傾向は、事業開始時と比較して顕著になってきており、

本事業の必要性はますます高まっている。

本事業の目的である自動車産業及び組込みソフトウェア産業等の国際競争力強化

の実現に向けて、高信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築、ソフトウェア工学

に基づく高効率な開発環境の整備、及び中小組込みソフトウェアメーカの育成という

3つについて取り組んだ。この3つと自動車産業及び組込みソフトウェア産業等の国

際競争力強化という事業目的の関係性については、2-1で後述するが、一つ目の高

信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築だけに着目しても、社会的・経済的意義

は大きい。具体的には、車載組込みソフトウェアの共通領域を拡大させることにより

開発コストを押し下げるだけでなく、我が国の企業が他社と差別化を図るべき競争領

域である高価値なアプリケーション部分の開発に集中することを可能にするという

産業構造の変革を促し、また、開発した共通基盤ソフトウェアを国際標準に反映させ

ることによって、海外においてもこれまで培ったノウハウを生かして開発に従事する

ことができるという標準化戦略にも大きな役割を果たすことができる。

輸送用機器

637666(19%)

電気機器

518797(15%)

一般機器

402477(12%)

化学

281299(8%)

鉄鋼

243322(7%)

金属製品

151492(5%)

非鉄金属

104805(3%)

その他

1015930(30%)

輸送用機器

電気機器

一般機器

化学

鉄鋼

金属製品

非鉄金属

その他

うち、自動車は、57兆円(16.9%)

(平成20年工業統計)

(単位:億円)

図1-4 製造業に占める自動車分野の出荷額の割合

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組込みエンタープライズ

車載電子制御系 モバイル系

CP

U

使用形態

機能的特長

◆ROM,RAMを内臓し,AD,DA,D-I/O系などの機能を有する.

◆携帯電話や無線機など外部機器からのノイズによる誤動作(EMS:電磁気妨害感受)対策や,自身の動作によるノイズ発生(EMI:電磁気妨害)対策のため,極力パッケージ内で高周波動作を閉じ込めている.

◆画像系やUSBなどの機能を内蔵し,ROMやRAMは外付けするような構成である.

◆システム上必要機能でマイコンに統合することがコスト低減上有利なものが優先的にマイコン機能に組み込まれている.

◆また,ROMやRAMなどアプリケーションにより大きさが左右されるものは外付けとなり自由度が確保されている.

◆開発費や人材確保の観点から,基本はパソコンとほぼ同構成である.

◆演算能力は車載用組込みマイコンに比べて100倍程度高く,プログラム領域やRAMは無尽蔵に使用することが出来る.

◆システムとしては多くの機能を有するがバッチ処理的なものであり,マイクロオーダ等の非常に厳しいタイミング要求などない.

信頼性視点

◆複雑な多重割込み処理を行うのが一般的であり,複数発生する割込み処理を考えると,マイコンの動作信頼性の観点から処理負荷は処理能力の70%程度とすることが望ましい.

◆ROM,RAM量にも制限があるため,基本ソフトウェアの使用率は極力抑えたい.

◆信頼性が必要なシステムは,3重系等の複数のバックアップを持つ構成となっており,コストと信頼性に強い相関が見られるものが多い.

図1-5 車載電子制御系ソフトウェアの技術的特性

1-2-B 政策的位置づけ

技術戦略マップを含むあらゆる上位施策の中に、組込みソフトウェア開発の高度化

が位置付けられている。

①政府・経済産業省の成長戦略

○経済成長戦略大綱(平成18年7月6日 財政・経済一体改革会議)

我が国の強みを生かして強化を図るべき分野として、組込みソフトを挙げてい

る。

○経済成長戦略大綱 改定版(平成19年6月19日 経済産業省)

組込みソフトウェアに関連して、組込みソフトウェア産業の競争力強化の必要

性を指摘するとともに、自動車、情報家電、携帯電話等の製品の高度化が進む中

で、組込ソフトウェア基盤の重要性が増大している点にも触れ、ソフトウェア開

発に係る技術を開発すべきとしている。

②政府の科学技術政策

○第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日 閣議決定)

重点分野4分野の一つとして、情報通信分野を位置付けている。

その中で、組込みソフトウェアに関連して、組込みソフトウェアの近年の動向

として、ソフトウェアの大規模化・複雑化が著しく、特に、自動車やロボットな

どの機械制御システムの分野では、システムの誤動作により人命が危険にさらさ

れる可能性があることから信頼性・安全性の確保が極めて重要であり、設計開発

に高いコストと長い期間がかかるという現状を指摘した上で、ソフトウェアの大

規模化・複雑化は、今後も進行する傾向にあり、高信頼・高安全な組込みソフト

ウェアの設計開発技術の必要性が高いとしている。

○長期戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月1日 閣議決定)

戦略重点科学技術として「高信頼・高安全・セキュアな組込みソフトウェア設

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計開発技術」を挙げている。その上で、「現場における設計開発手法を知識化・

体系化するとともに、各種の理論・手法を実システムへ適用するための技術を開

発し、組込みソフトウェアの設計開発技術を確立」という研究目標を掲げている。

○革新的技術戦略(平成20年5月19日 総合科学技術会議)

組込みソフトウェアに関連して信頼性と生産性を飛躍的に向上させる組込みソ

フトウェア技術を世界に先駆けて育成、開発、産業化し、将来の我が国産業の持

続的発展、国際競争力の強化及び新産業の創出を目指すとしている。また、革新

的技術として「組込みソフトウェア技術・高信頼・生産性ソフトウェア開発技術」

を掲げ、規模が急速に拡大する組込みソフトウェア開発分野において、信頼性と

生産性を飛躍的に向上させるため、複数のマイコンチップや多様なアプリケーシ

ョンに対応できる国際標準となる基盤ソフトアーキテクチャを開発するとととも

に、ソフトウェアエンジニアリング手法やモデルベース開発手法等により、組込

みソフトウェアの開発効率を従来の倍程度に上げて、世界トップクラスの信頼性

を達成するとしている。その結果、ソフトウェア分野だけでなく自動車産業等で

の国際競争力をさらに強化させるとしている。

③IT戦略本部のIT戦略

○IT新改革戦略(平成18年3月28日 閣議決定)

プロジェクトマネージャー、ITアーキテクト、ITコーディネータ、組み込みソ

フトの専門家等の高度IT人材の育成を促進するとしている。

○i-Japan戦略2015(平成21年7月6日 IT戦略本部)

情報家電、自動車等の分野におけるものづくりとデジタル技術の融合、その他

組込みソフトウェアの高機能化・高信頼化等を図り、世界をリードするという目

標を設定している。同時に、その実現に向けた方策として、自動車をはじめとし

た各種製品の競争力の源泉を握るソフトウェアの共同開発、標準化及び共通化を

促進することを挙げている。

○新たな情報通信技術戦略(平成22年5月11日 IT戦略本部)

世界的な成長が期待され、我が国が強みを有する技術分野として組込みシステ

ムを挙げ、今後集中的に研究開発を行うとともに、国際的なパートナーシップの

下で国際標準(デジュール及びデファクト)の獲得を推進するとしている。

また、工程表の中でも集中的研究開発を実施すべき戦略分野として組込みシス

テムを挙げ、2012年度までに開発・評価を実施し、2013年度以降に製品

開発・市場展開を図るとしている(図1-6)。

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図1-6 新たな情報通信技術戦略 工程表

④その他(経済産業省の技術戦略マップ)

ソフトウェア分野の中で、「情報家電・車載・環境・エネルギーの共通プラット

フォームの開発」が位置付けられ、2018年まで共通プラットフォームの普及率

向上を図るべきということが明示されている(図1-7)。

図1-7 技術戦略マップ2010

1-3-B 国の関与の必要性

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成果物である開発基盤(共通基盤ソフトウェア、開発支援ツール等)は自動車業

界全体が活用可能であり、また、組込みソフトメーカはあらゆる製造業に関与して

いるため、その技術力の育成やソフトウェア工学に関する知見は製造業全体に裨益

するものであり、事業の波及性は極めて大きい。また、組込みソフトウェアが自動

車、情報家電、携帯電話等のあらゆる製品機器に内蔵され、重要な機能を実現する

役割を果たしており、その信頼性・安全性が経済社会全体の安定性を左右する存在

となっている中、本事業が目指す組込みソフトウェア開発の生産性・信頼性向上は

公益性が非常に高い。現在、各社の車種ごとにバラバラな車載基盤ソフトウェアに

ついて、共通領域を括り出し、共通基盤ソフトウェアを開発するという事業の特性

上、関係者の利害が対立しやすい中、間に立って、成果物が業界全体にとって最も

裨益するように調整する役割を担う第三者が不可欠となるため、その意味でも国の

関与は必要である。

また、本事業は、組込みソフトウェア関連製品の信頼性・安全性の向上を求める

国民のニーズ、AUTOSARが共通基盤ソフトウェアの国際標準化をうかがう中で、我が

国の意向を国際標準に反映させ、開発コストを削減させたい業界のニーズいずれと

も、合致している。

なお、官民の役割分担については、そもそも本事業の内容が、自動車の組込みソ

フトウェアの競争領域と共通領域を定めるものであるため、競争領域の開発につい

て民間企業が自主的に取り組み、共通領域の開発は国が実施するという官民の役割

分担は適切になされている。

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2-B 研究開発等の目標

2-1-B 研究開発目標

本事業の主な取組みは、車載組込みソフトウェアの共通部分を括り出した基本ソフト

ウェア(BSW:Basic Software)の開発である。

欧州では前述のようにドイツの自動車関連企業が決定権を有するAUTOSARコンソーシ

アムによって、BSWを開発し、車載電子制御システム用の組込みソフトウェアの標準化

が進められている。しかし、欧州型の考え方に基づいてコンセプトが作られているため、

AUTOSARソフトウェアを実現するには高性能マイコンを必要とし、標準化達成には大き

なコストアップが伴うことが予想され、小型車から普通車までフルラインアップで車両

を開発する日本企業にはインパクトが大きいことになる。また、開発プロセスもAUTOSAR

ではソフトウェアとハードウェアの仕様を入力とし、組込みソフトウェアを出力する領

域だけが対象となっている。このため、組込みソフトウェアを開発するためのソフトウ

ェア及びハードウェア仕様と自動車メーカからの発注情報との関係や、作成した組込み

ソフトウェアの妥当性を証明するためのテスト工程との連携が考えられていない効率

性の乏しい開発プロセスになる可能性がある。

また、従来日本国内における車載電子制御システム開発は、基本的にシステムサプラ

イヤが関連企業だけにより開発する垂直統合開発であった。これに対し、基盤ソフトウ

ェア(BSW)を中心とする水平分業開発を行うには、国内のソフトウェア及び開発ツー

ルベンダは経験及び知識が乏しい上、中小の企業であるためにこれら投資を行う体力も

乏しい。これらのことを踏まえ、BSW開発、開発環境開発、ソフトウェア及びツールベ

ンダ(中小企業)の育成について目標を立案した。

2-2-B 全体の目標設定

表2-1 全体の目標

目標・指標 設定理由・根拠等

目標1:高信頼・高効率な共通基

盤ソフトウェアの構築(産業構

造変革)

目標2:ソフトウェア工学に基づ

く高効率な開発環境の整備(開

◆組込みソフトウェアの大規模化が進む

中、各社が個別に全てを開発すると開発工

数が膨大となる 。

◆そのため、車載共通基盤ソフトウェア

(BSW)を業界横断的に開発し、共通領域を

拡大させることにより、業界全体の開発コ

ストを削減する。

◆さらに、我が国の企業が、他社と差別化

を図るべき競争領域である高価値なアプリ

ケーション領域の開発に集中することを可

能にし、我が国の開発力を強化する(図2

-1)。

◆加えて、開発したBSWを国際標準に反映さ

せることにより、海外においてもこれまで

培ったノウハウを生かして、開発に従事す

ることができる。

◆組込みソフトウェアの大規模化・複雑化

に加え、開発は未だに人為的な作業に依存

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発生産性の向上)

目標3:中小組込みソフトウェア

メーカの育成 (開発人材の育

成)

する割合が高く、さらに自動車開発は多様

な関係者が介在しているため、開発側の負

担は非常に大きい。

◆そのため、開発支援ツールの高度化を図

るとともに、サプライチェーンの関係者間

の連携を強化することによって、開発生産

性を向上させる。

◆組込みソフトウェアの重要性が高まる一

方で、ハード・ソフト双方に通ずる必要の

ある組込みソフトウェア人材の不足は顕著

となっている。

◆多くの中小組込みソフトウェアメーカ

に、大企業とコンソーシアムを組んで、大

規模かつソフトウェア工学を活用した開発

を行う機会を提供することにより、事業を

通じて彼らの技術力を育成する。

2-3-B 個別要素技術の目標設定

表2-2 個別要素技術の目標

要素技術 目標・指標 設定理由・根拠等

高信頼・高効率

な共通基盤ソ

フトウェアの

構築

1)車載電子制御システム

に適用できるBSWを開発

し、実システム に搭載

して、従来と同等の性能

を確認する。

2)BSWを開発してベンチマ

ーク評価を実施し、性能

がAUTOSAR版を上回るこ

とを確認する。

3)開発成果物(ソフトウ

ェア、開発プロセス)に

ついて、我が国発の国際

標準化を目指し世界基準

とする。

日本の組込みソフトウェア開

発に則していないBSWがデファク

ト標準となって国際的に普及し

た場合、我が国自動車産業は、こ

れまで培ったノウハウを生かし

て開発に従事することができず、

国際競争力に悪影響が生じる。そ

のため、本事業で開発したBSWに

ついては国際標準に反映させる

ことが望ましいが、それに向けて

は、同様に国際標準を睨んで開発

されているAUTOSAR版BSWと比較

して品質面で同等以上の評価を

得る必要がある。

具体的には、まず、実システム

に搭載して、走行テスト等を行う

ことにより、従来車と同等の性能

を確認する。さらに、システム毎

に組込みソフトウェアの構造が

大きく異なるため、BSWの性能を

一定基準に基づいて評価する必

要があり、ベンチマークを定めて

客観的評価を行い、AUTOSAR版BSW

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86

を上回るかを確認する。その上

で、国際標準を目指して、AUTOSAR

にJASPAR版BSWを提案する。

ソフトウェア

工学に基づく

高効率な開発

環境の整備

1)組込みソフトウェアの

開発プロセスの効率性向

上を図るため、欧州の先

進的取組みを調査すると

ともに、サプライチェー

ン関係者間のインターフ

ェースの共通化を図る。

2)構造設計から単体テス

トまでのプロセスについ

て、開発の負荷軽減、信

頼性向上を意識し、設計

パラメータ削減を実現す

るツールチェーンを開発

・実装評価する。

我が国における組込みソフト

ウェア開発の効率性を向上させ

るためには、BSWを構築すること

以外に、開発環境を整備する必要

がある。課題としては、日本の製

品開発(ソフトウェアも含む)は

すり合わせ型であるために受発

注関係が固定化しやすい点、開発

を支援するツールの利用が進ん

でいない点等が挙げられる(図2

-2)。

そのため、第一に、インターフ

ェースの共通化を検討し、会社毎

や車載電子制御毎に自動車メー

カとサプライヤ間のインターフ

ェースが異なり、仕様の情報流通

齟齬の発生や人材の固定化等に

より効率的な開発が行えている

とは言い難い現状の解決を図る。

また、欧州プロジェクトとして開

発されているソフトウェア仕様

記述言語であるEAST-ADLの開発

状況を調査し、今後のインターフ

ェース統一の検討に助する。

第二に、日本のすり合わせ型開

発に欧米のプラットフォームベ

ース開発に方法論を融合したツ

ールチェーンを開発するととも

に、ツール利用が進まない現状を

踏まえ、本事業で開発したBSW

の特徴を生かし、大幅な設定項目

の削減を可能にするツールとす

る。

中小組込みソ

フトウェアメ

ーカの育成

1)IPA/SECが公開している

ETSS (Embedded

Technology Skill

Standards)を土台にし

て、車載制御ソフトウェ

ア技術スキル診断手法

(自動車版ETSS)を整備

する。それによって、ス

キルの見える化、及び技

術力向上項目の特定化を

我が国組込みソフトウェア産

業の国際競争力強化に向けて、基

盤となる事業者の開発に係る技

術力及びマネージメント力を向

上させる必要がある(図2-3)。

具体的には、大手自動車メーカと

サプライヤに中小組込みソフト

メーカをマッチングさせること

により、メーカのソフトウェア開

発の技術力を高めるとともに、車

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87

図り、技術者のスキル向

上に繋げる。

2)IPA/SECで開発中のEPM

(Empirical Project

Monitor)と、品質指標

(ESQR)などを組合わせ

ることで開発進捗状況の

実情を発注側が把握でき

るようにし、受注側のマ

ネージメント力向上に繋

げる。

載電子制御ソフトウェアエンジ

ニアのスキルを見える化する手

法を整備し、定量的にその技術力

向上を確認する。更に、納期達成

に向けて必要な各会社の開発状

況把握と発注先に応じたマネー

ジメントを実現するため、EPM等

を活用したマネージメント向上

方法について検討する。

競争領域をモジュール・プラットフォーム化し、人材・資金を強みの活かせる高価値領域へシフト

高価値領域での開発力強化による競争力向上

強みを活かせる領域へのシフト高価値領域

共通領域

高価値領域高価値領域へ資源シフト

高価値領域

共通領域共通領域

競争領域競争領域

高価値領域へ資源シフト

市場・技術の進化により拡大する競争領域

サプライヤが担う競争領域

高価値領域

共通領域

高価値領域高価値領域へ資源シフト

高価値領域

共通領域共通領域

競争領域競争領域競争領域競争領域

高価値領域へ資源シフト

市場・技術の進化により拡大する競争領域

サプライヤが担う競争領域

図2-1 組込みソフトウェアのプラットフォーム(共通領域)開発の意義

海外との比較

日本 海外平均 海外に対する日本の使用比率

数値解析ツール

分析・設計ツール

静的コードチェックツール

コンパイラ/デバッガ

テストツール

検証ツール

評価ボード

インサーキットエミュレータ

アナライザ・測定機

統合開発環境

構成管理ツール

プロジェクト管理ツール

品質管理ツール

ドキュメント管理ツール

0%

20%

40%

60%

80%

100%

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4平均使用率 比率

ソースコード解析ツール

図2-2 組込みソフトウェア開発で使用するツールの日本と海外企業

の使用比率比較

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88

PMのスキル向上

PMのスキル向上

技術者の確保

技術者の確保

技術者スキル向上

技術者スキル向上

技術者スキル向上

技術者スキル向上

開発技術の向上

開発技術の向上

PMのスキル向上

PMのスキル向上

技術者の確保

PMの確保開発技術の向上

開発技術の向上

新技術開発・導入

技術者の確保

PMの確保PMの確保

PMの確保管理技術の向上

管理技術の向上

管理技術の向上

管理技術の向上

新技術開発・導入

新技術開発・導入

新技術開発・導入

委託先の確保

開発製品数最適化

開発環境の整備

開発環境の整備

開発環境の整備

開発環境の整備

委託先の確保

開発製品数最適化

経営者の理解

委託先の確保

経営者の理解

経営者の理解

2007 2008 2009 2010

出所:組込みソフトウェア産業実態調査

図2-3 組込みソフトウェア開発課題の有効手段

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89

3-B 成果、目標の達成度

3-1-B 成果

3-1-1-B 全体成果

JASPARコンセプトを組み込んだBSWと開発環境を構築し、実システムへの実装及びベ

ンチマークテストにより評価を行った結果、目標であった高信頼で高効率なBSWとソフ

トウェア工学に基づく高効率な開発環境を実現できたことが確認された。中小組込み

ソフトウェアメーカの育成については、必要な技術スキルを明確にし、技術スキルに

基づく進捗マネージメントを行うことの有効性を確認した。今後、我が国自動車産業

及び組込みソフトウェア産業等の競争力強化に寄与することが大いに見込まれる。以

下、それぞれの取り組みの概要について記す。

BSWは、AUTOSAR版BSWをベースにJASPARコンセプトを組み込んだJASPAR版BSWを試作

実装した。そして、JASPAR版BSWの各種実車載電子制御システムへの適用性判断と、ベ

ンチマークテストによるAUTOSAR版BSWの性能比較評価を行った。その結果、JASPAR版

BSWは実システムに十分適用できることを確認し、ベンチマークテストにより、処理負

荷の軽減、ROM及びRAMの消費量を削減しており目標を十分達成している。

ソフトウェア開発環境は、JASPAR版BSWを用いた電子制御システムの開発に必要なツ

ールを開発した。AUTOSARのツールと比較すると、本事業で開発したツールは778パラ

メータ中580パラメータ(75%)が自動設定でき、設計者の作業負荷を軽減することがで

きた。また、ソフトウェア単体試験ツールとの連携もできており、目標を達成してい

ることを確認した。

中小企業の育成については、国内のソフトウェアベンダの車載電子制御ソフトウェ

ア開発の技術力、及びプロジェクトマネージメント力の向上に注力して活動した。技

術力についてはIPA/SECのETSSの技術項目の大項目と中項目から、車載電子制御システ

ムに必要な項目を洗い出し、JASPAR版ETSSを作成した。さらにそれを用いて、本開発

に関わった組込みソフトウェアメーカの技術力診断を行った。ソフトウェアメーカ各

社はJASPAR版ETSSより車載電子制御システムのソフトウェア開発に必要な技術が明確

になったこともあり、毎年本領域の技術力が向上していることが測定された。また、

進捗状況を監視するEPMデータと各社のJASPAR版ETSSにより測定された技術力を関連

付けて解析すると、技術力と各プロセスにおける進捗状況との間に強い相関が見られ

た。これらより、管理上留意すべきポイントや、遂行業務として必要な技術力が事前

に把握できるなど、業務の質を高めるためのマネージメント力強化に繋がる結果を得

た。

3-1-2-B 個別要素技術成果

(1)高信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築

① 高信頼・高効率なBSWの開発及び実システムへの適用・評価

自動車メーカ、部品メーカ、組込みソフトウェアメーカ、半導体メーカ、ツールベ

ンダが、業界横断的にBSWを共同開発した。具体的には、BSWは組込みソフトメーカが

主に担当し、ハードウェア部分を接続するMCAL(Microcontroller Abstraction Layer)

は半導体メーカが担当、アプリケーション部分は自動車メーカ、部品メーカが担当し

て開発を行った。そして、この開発したJASPAR BSWを図3-1に示す3つの実システ

ムに適用・評価した。

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90

ステアバイワイヤシステム

安全制御系

ステアリング系制御ITS系制御

~前輪とハンドル間に機械的接合のないステアリング~~設定車速の範囲内で、車間距離を一定に保つ~

~周辺監視センサにより障害物を回避~

図3-1 JASPAR BSWを適用した車載電子制御システム

今回、JASPAR版BSWを図3-1に示す3つの実システムに適用・評価した。本事業で

開発した共通の制御基盤ソフトウェアは、図3-2に示すように異なる車載制御シス

テムに組み込まれても、各システムは従来と同等の機能・性能を実現できることを走

行テスト等を通じた実験により検証した。また、実システムにおいても、本事業で開

発したJASPAR版BSWは、AUTOSAR版BSWと比較して、実システムにおいても、後述するベ

ンチマークテスト同様、CPU負荷、ROM及びRAM消費量が改善することを確認した。

「安全制御系システム」における制御基盤ソフトウェア性能改善率20%(対AUTOSAR版比)

図3-2 JASPAR BSW実システム適用結果概要

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91

② BSWのROM/RAM消費量、CPU負荷率等に関するベンチマーク評価

JASPAR版BSWの性能を客観的に評価するため、車載電子制御システムとして特徴的な

組込みソフトウェアを模擬したベンチマークテストソフトウェア及び測定方法が

JASPARで規格化(自動車用制御基盤ソフトウェア評価基準書Ver.1.0)されている。図

3-3に示すように車載電子制御システムは大きく分類して、実行処理に対して時間

制約が非常に厳しいHard-Real-Time-Systemと、時間制約は厳しくないが多くの処理が

要求されるSoft-Real-Time-System に分類される。BSWの機能を測定するという目

的から、Hard-Real-Time-Systemからベンチマークソフトウェアは選定する。

Hard-Real-Time-Systemから、時間的な割込みが最優先処理で処理能力が厳しい三相

交流モータ*と、非同期(クランク角センサ)信号に基づく処理が最優先で行われるエ

ンジン制御系を模擬したものをベンチマークソフトウェアとした。また、測定方法や

基準についても、自動車用制御基盤ソフトウェア評価基準書Ver.1.0で規定されている

方法に基づいて行った。

*三相交流モータ:高効率、高寿命なモータであり、電気自動車やハイブリッド自動車のモータに使わ

れている。この交流モータを駆動するインバータはモータのトルクや回転数を制御するためには、100

μsオーダーでの電流コントロールにより発生する三相交流の電圧および周波数を変えられる機能が

必要である。

Event処理最優先Event後の処理時間

が厳密に規定

Soft Real Time

Time Driven Event Driven

Hard Real Time

Time Driven Event Driven

Engine

AT/CVT

Distance

Lane Keep

Body Control

Battery

AFS

MotorPow

ertra

inIT

SBody

時間制約が厳密Soft Real Time時間制約が緩い

時間同期最小のサンプリングタイム

AD変換2chの同期

Hard Real Time

図3-3 車載電子制御システムの特徴

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92

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

小←

RO

M容

量→

小←

RA

M容

量→

30%

削減

RO

M容

RO

M容

35%

削減

RA

M容

RA

M容

量AUTOSAR

Rel. 3.0JASPARコンセプト

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

小←

RO

M容

量→

小←

RA

M容

量→

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

30%

削減

RO

M容

RO

M容

RA

M容

RA

M容

CAN通信を用いた場合のROM/RAM消費量比較結果

FlexRay通信を用いた場合のROM/RAM消費量比較結果

30%

削減

図3-4 ベンチマークテスト結果-1 エンジン

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

小←

RA

M容

量→

8%削

小←

RO

M容

量→

3%削

RO

M容

RO

M容

RA

M容

RA

M容

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

AUTOSARRel. 3.0

JASPARコンセプト

小←

CPU

負荷

率→

小←

CPU

負荷

率→

電流制御部(100µs処理) FlexRay通信処理

CPU

負荷

CPU

負荷

CPU

負荷

ROM/RAM消費量比較結果 CPU負荷率比較結果

25%

削減

CPU

負荷

図3-5 ベンチマークテスト結果-2 三相交流モータ

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93

項目 AUTOSAR JASPAR

機能面 機能性 ○ ○

信頼性 △◎

FlexRay通信※

に適用評価

使用性 × △

効率性 △ ◎

保守性 △ △

移植性 △ △

※次世代車載用通信ネットワークの一種

0

1

2

4機能性

効率性

保守性

移植性

使用性

信頼性

AUTOSAR

JASPAR

3

(注記)本評価結果は、国プロベンダーによる実装かつ通信スタックを中心に評価した結果である。

図3-6 品質6特性に基づくJASPAR版BSWとAUTOSAR版BSWの比較

図3-4、図3-5はエンジン及び三相交流モータのベンチマークテスト結果であ

り、BSWに対するJASPARコンセプトの目標であるROM及びRAMの消費量削減と、CPU負荷

の軽減を達成していることが分かる。特に、エンジンアプリケーションでは、ROM及び

RAMの削減効果が大きい。これは、JASPARコンセプトであるプロファイルにより余分な

機能が削減されているからだと考えられる。一方、三相交流モータでは100(μs)のサ

ブルーチンがソフトウェア全体に及ぼす影響が大きいので、プロファイルやクラスタ

コンセプトによる効果が全体から見ると相対的に小さくなってしまっているため、大

きな効果として表れていないと考えられる。そこで、JASPARコンセプトの部分である

FlexRay通信部分に着目してデータを抽出すると、CPU負荷率が大幅に減少しているこ

とが分かる。

以上の結果より、JASPARコンセプトはAUTOSAR仕様に比べて、

ⅰ ROM、RAM量の削減

ⅱ CPU負荷率の軽減

といった目標を達成することができている。これらの結果は、

Ⅰ 車載電子制御システム用マイコンはROM、RAM量におけるコスト感度が高く、ROM、

RAM削減はコスト競争力上重要である。

Ⅱ CPU負荷の軽減はマイコンのコストに与える影響ばかりではなく、多くの割込み処

理が必要な車載電子制御システムにおいては予測不可能な多重割込み発生した場合

の余裕度があることが信頼性上のポイントとなる。

という観点から意義のある結果が得られたと考える。また、FlexRay通信部分を含め、

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94

JASPAR版BSWとAUTOSAR版BSWを非機能面の品質6特性について評価した結果を図3-6

に示す。JASPAR版BSWは、効率性、使用性、信頼性において、AUTOSAR版BSWに勝ってい

る。

③ 開発成果物(ソフトウェア、開発プロセス)の国際標準化

JASPARコンセプトであるプロファイルとクラスタコンセプトについて、AUTOSARコン

ソーシアムに規格提案を2010年9月に行った。AUTOSARコンソーシアムにおける規

格提案の流れは図3-7であり、規格提案対象となるワークパッケージの承認、各ワ

ークパッケージのリーダからなるプロジェクトリーダ会議の承認、ステアリングコミ

ッティの承認を経て正式な規格となる。

図3-8はJASPARから企画提案を行った際のワーキングパッケージの様子を写した

写真であり、50社近い出席があり本件に関する関心の高さが伺える。また、JASPAR

側からの発表に対し多くの質問が寄せられ、最後には我々の活動に対し賛辞を頂き、

規格提案対象のワークパッケージメンバの承認を得た。現在は、プロジェクトリーダ

会議の結果を待っている状態である。ただし、JASPARの運営委員会メンバとAUTOSARス

テアリングコミッティメンバの打合せを2010年5月、11月と行っており、JASPAR

からの規格提案についてはAUTOSARステアリングメンバーの事前合意を得ている。この

ことから規格化されることは、ほぼ間違いないとものと考える。

Work Package(WPⅢ-1.1.1)

Project LeaderMeeting

SteeringCommittee

Approved Deliberating

図3-7 AUTOSARコンソーシアムにおける規格提案の流れ

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図3-8 JASPARコンセプト提案時のAUTOSAR WPⅢ-1.1.1.

(2)ソフトウェア工学に基づく高効率な開発環境の整備(開発生産性の向上)

① サプライチェーン関係者間のインターフェースの共通化

車載電子制御システムのソフトウェア開発が、BSWを用いたプラットフォーム開発に

なれば、現在のようなシステムで固定化された組込みソフトウェア開発人材から流動

化させることが可能となる。この人材の流動化はシステム開発の状況に応じた適正な

人材配置など効率的な開発が行うことができ、国際競争力の強化が図れるものと考え

る。つまり、マルチサプライヤによるBSWを用いたプラットフォーム開発によるプロダ

クトライン型開発が理想の姿である。しかし現実には、各電子制御システム毎、会社間

毎にインターフェースが異なり、BSWの統一だけでは人材の流動化は解決できる問題で

はない。また、日本では欧米などのトップダウン指向とは異なり、ボトムアップ指向で

あるため、自動車メーカとサプライヤの責任範囲を明確に規定したインターフェースが

必要となる。自動車メーカ各社の『システム仕様記述に対するニーズ』を明らかにし、

このニーズをもとに『システム仕様記述の要件』を抽出した結果、図3-9のような開

発スタイルが一つの解と考えた。この開発スタイルの実現に向けては、ルールの統一(項

目、表記方法)、ドメイン毎に適切なインターフェース、自動車メーカとサプライヤ間

でそれぞれ得意分野による摺り合わせの三項目が重要と考えられる。ここでまず、我々

はルールの統一について検討を行うため、欧州EAST-ADLの活動について調査を行った。

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96

◆ルール(項目、表記方法)を合わせ、内容は競争◆ドメイン(走行、ボデー、MM)に最適なI/F◆OEM/Supsの得意領域を活かした摺り合わせ

図3-9 従来の開発スタイルと提案する開発スタイルの比較

EAST-ADLを中心とした欧州の活動成果を調査した結果、図3-10の業務インターフ

ェースを明確とする階層レベルに沿ったシステム仕様を持ち、図3-11のように必要

最低限の車載電子制御システムの仕様定義が可能であることが分かった。そして、シス

テム記述を中心としたツールチェーン試作検証によりコンセプト実証がほぼ完了して

いる段階であった。ただし、図3-12に示すように車載電子制御システム開発プロセ

ス要件満足度において、自動車開発で重要となる車種展開等の差分開発へのインターフ

ェース対応は検討があまり進んでいない。したがって、プラットフォームベースのプロ

セスについては、EAST-ADLの成果を有効に活用し、性能向上や車種展開等の差分開発に

対する取り組みに特化して日本として検討を行うべきだと考える。

5つの

階層

階層構造⇒自動車メーカ~サプライヤ間のインターフェース候補

図3-10 EAST-ADL定義される5つの階層

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97

図3-11 EAST-ADLで記述できる仕様

ソフトウェア開発の入力情報は、

• 要求

• 車載機能(フィーチャ)

• システム仕様

の3つに分けられている。

EAST-ADLの車載開発プロセス要件の満足度

プラットフォームベース開発 ◯ Autosarとの接続を前提

プロダクトライン型開発 △ トップダウンのみ、ボトムアップ困難

マルチベンダ型開発 × 分業開発のための仕様定義方法はない

差分開発 × 差分のみの情報表現方法はない

ドメイン毎にインタフェースを類型化 △ システム仕様の抽象レベルが利用可能

図3-12 EAST-ADLの車載電子制御システム開発プロセス要件満足度

② 高効率なツールチェーンの開発

プラットフォームベース開発に対応するJASPAR版BSWを用いた電子制御システムの

開発に必須なツールの要件検討、仕様策定、プロトタイプ開発、評価を行う。AUTOSAR

における開発環境の対象は、システム設計から組込みソフトウェアが作成されるまで

の間であり、V字開発プロセスにおける設計プロセスの一部に留まる。本事業では図3

-13に示すようにシステム設計ツールからソフトウェア検証までの範囲とし、各プ

ロセス間のデータ受理を前提とした効率の良い開発プロセス構築を検討する。ただし、

実際開発環境として試作するのは、システム設計ツールからソフトウェアの単体テス

トまでの領域とし、AUTOSARの開発環境と比較すると図3-14の通りである。

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Cv

システム検証ツール

ソフト検証ツール

検証情報exportツール

System Design Tool

System Template Description

ECU Extract Tool

Extract ECU ofSystem

Description

ECUDescription

ECU Generation Tool

RTEC、Hコード

COMC、Hコード

OSC、Hコード

設計情報

◆シミュレータ・デバッガ・ISS

◆コードチェッカ◆モジュール単体

テストツール

◆SILS◆SPILS◆HILS

◆バスモニター◆適合ツール

JASPAR-BSW・高性能・高い実用性

- 仕様・実装の最適化- 実装ガイドライン整備

・高信頼性- JASPAR FlexRay対応

JASPAR-BSW・高性能・高い実用性

- 仕様・実装の最適化- 実装ガイドライン整備

・高信頼性- JASPAR FlexRay対応

制御システム・標準評価アプリ・実証実験アプリ

制御システム・標準評価アプリ・実証実験アプリ

制御アプリケーション

JASPAR BSW

カーネル(OS、MCAL)

ミドルウェア(システム、メモリ、通信、I/O)

アダプテーションソフト

制御アプリケーション

JASPAR BSW

カーネル(OS、MCAL)

ミドルウェア(システム、メモリ、通信、I/O)

アダプテーションソフト

標準実装TF

システム設計ツール

ソフト設計ツール

Behavior Model Tool (BMT)

MatlabZIPCUMLetc.

要求獲得、定義

システム仕様記述

自動車用制御基盤ソフトウェア(プラットフォーム)

ジェネレータブリッジ

検証情報Exportツールブリッジ

ECU Configuration Tool

JPTC(JASPAR Tool Chain)

JASPARツール

フレームワークサポート範囲

開発ツールTF

図3-13 開発ツールタスクフォースの検討及び開発範囲

JASPARツールフレームワーク

AU

TO

SA

R

XXXXGenerator

ツール

検証ツール

Eclipse

JAS

PA

R

VerificationTool

パラメータ削減情報

パラメータ削減情報

パラメータ削減情報

検証ツールI/F

要求の追跡

XXXConfigurationEditor

ECUExtractTool

SystemConfigurationTool

仕様記述ツール

ツールチェーン

パッケージ

各社ツール

システム設計ツール ソフト設計ツール ジェネレータ

図3-14 JASPAR試作開発環境とAUTOSAR開発環境の対象範囲の比較

本事業で開発したツールはAUTOSARのツールと比較すると、778パラメータ中58

0パラメータ(75%)を自動設定され設計者の作業負荷が軽減されている。また、ソ

フトウェア単体試験ツールとの連携も可能となっており、目標を達成していることを

確認した。これは、ISO/IEC 9126-4などの評価基準を基に開発ツールの競争力向上に

寄与する評価基準を図3-15のように策定し、開発途上のJASPAR開発環境の評価、

フィードバックを行うことで完成度を高め設定パラメータの削減、使用性の向上を実

現した。また、図3-16にJASPAR策定した開発環境評価結果の一例と、図3-17

に3つの実車載電子制御システムにJASPAR開発環境を用いた開発者の開発環境に対す

るアンケート結果を示す。操作性に関しては概ね良好な結果を得られているが、開発

規模が大きいシステムについては更なる生産性の向上に対する要望が寄せられている。

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99

JASPARプロファイル、クラスタへの対応と設定値の

固定化等による入力項目の削減

ツール間の連動性と統一操作環境を実現する

上流ツール(システム仕様)情報のインポート

完成度向上のためのリリースプロセスの確立

ユーザの設計負荷の軽減とリリース時の完成度向上

●評価の目的

・本年の活動目標に対する評価を行う・使い勝手向上のためのフィードバックを得る

■評価対象・JPTC(ジェネレータブリッジ含む)・システム設計ツール・ECUコンフィグレータ(RTE/OS/MCAL)・ECUコンフィグレータ(COM)・検証情報Exportツールブリッジ

●評価項目

【基本シナリオ】・JPTCの起動からジェネレータの起動、検証情報Exportツールの起動までを1つのシナリオに沿って評価する。・08年度のシナリオと同等のシナリオで評価する。

【追加シナリオ】・09年度の活動目標に関連した開発項目を中心に評価する。

基本シナリオについては前年度の評価との比較も行う

<有効性>

▼タスク完了率・作業がどれほどの割合で完了したか

<効率性>▼試験時間

・ツールによる作業完了にかかる時間▼マニュアル参照回数

・作業におけるマニュアル参照頻度▼ミス発生回数

・作業実施にかかるミスの回数

<満足度>▼参照性の向上に関する項目

・操作が分かりやすい・表示が見やすい・マニュアル無しで操作できる

▼操作性の向上に関する項目・操作の応答性が高い・入力しやすい

▼機能性向上に関する項目・優れた機能がある・気の利いた機能がある・プロセスにマッチ

▼その他・信頼性が高い・全体に対する満足度・海外ツールとの比較

図3-15 開発環境評価基準

●効率性

60.140.145.160.1本年度COM38.823.062.0-前年度

検証情報

OS

システム設計

JPTC

本年度

前年度

本年度

前年度

本年度

本年度

62.2

44.4

72.2

53.0

基本

36.9

105.4

69.2

46.1

全体

平均試験時間(分)

38.823.0

36.110.5

41.816.0

31.716.7

マニュアル参照間隔(分/回)

ミス発生間隔(分/回)

44.9 44.9

29.5 184.5

平均試験時間、マニュアル参照間隔、ミス発生間隔のいずれも前年度から向上している。

●満足度

全体的に3以上の良い評価、前年度との比較においても概ね向上している。

COMは操作の分かりやすさ、表示の見やすさの評価が低く、改善が必要である。

JPTC、検証情報Exportツールは操作の分かりやすさに課題がある。

本年度

前年度

本年度

前年度

本年度

前年度

本年度

本年度

3,073.002.293.503.073.073.573.283.003.43

3.00 3.002.692.633.133.253.132.932.753.75

3.343.003.463.463.543.923.233.233.004.30

3.263.573.243.223.633.592.583.112.703.50COM

3.173.383.292.943.243.293.173.392.953.56JPTC

3.683.433.293.103.713.683.303.653.253.80システム設計

3.00

3.45

全体として

操作応答性

操作の分かりやすさ

入力のしやすさ

表示の見やすさ

優れた機能

気の利いた機能

マニュアルなしの操作

信頼性が高い

プロセスにマッチ

OS 3.50 3.25 3.55 3.65 3.61 3.63 3.30 3.12 3.57

検証情報 3.61 2.84 3.00 3.00 3.13 2.88 2.59 3.44 3.29

3点以下

向上

悪化

図3-16 JASPAR開発環境の評価結果の一例

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100

・パラメータの編集の可・不可について、保管を行わないと反映されない。

・OSの仕様を知らないと設定が難しい。・単位表記が統一されていない。・OSスケーラビリティクラスにJASPAR OSを対応させてほしい。(対応済)・CANのビットタイミングの設定がシステム設計ではなく、コンフィグレータでできる方が分かりやすい。・MCALコンフィグレータでFlexRay信頼性機能のパラメータ設定が面倒。・パラメータのプリセット機能もしくはインポート、エクスポート機能が欲しい。

・各種図をきれいに配置しづらい。・ウィザード等のアシスト機能。・マルチキャストゲートウェイの実現。・コミュニケーション情報の自動生成機能の強化。・設定が大変な項目がある。

・ジェネレータ起動はあまり便利だとは思えない。・起動が遅い。

・AUTOSARの知識を必要とするので、初めて設計する人には難しい。・操作すべきツール、場所が分からないことがあった。・エラー原因が判別できない。・構成が少しでも変わるとインテグレーションをやり直さなければならない。・バリデーション機能の強化。

問題点・要望ツール

OS

システム設計

JPTC

全体

COM ・パラメータの編集の可・不可について、保管を行わないと反映されない。

・OSの仕様を知らないと設定が難しい。・単位表記が統一されていない。・OSスケーラビリティクラスにJASPAR OSを対応させてほしい。(対応済)・CANのビットタイミングの設定がシステム設計ではなく、コンフィグレータでできる方が分かりやすい。・MCALコンフィグレータでFlexRay信頼性機能のパラメータ設定が面倒。・パラメータのプリセット機能もしくはインポート、エクスポート機能が欲しい。

・各種図をきれいに配置しづらい。・ウィザード等のアシスト機能。・マルチキャストゲートウェイの実現。・コミュニケーション情報の自動生成機能の強化。・設定が大変な項目がある。

・ジェネレータ起動はあまり便利だとは思えない。・起動が遅い。

・AUTOSARの知識を必要とするので、初めて設計する人には難しい。・操作すべきツール、場所が分からないことがあった。・エラー原因が判別できない。・構成が少しでも変わるとインテグレーションをやり直さなければならない。・バリデーション機能の強化。

問題点・要望ツール

OS

システム設計

JPTC

全体

COM

規模が大きくなることにより生産性を求める要望が多い。

また、評価アンケートの結果と同様に、操作等の分かりやすさに関する指摘が多い。

生産性41%

分かりやすさ32%

操作性16%

不足機能追加11%

問題点・要望の内訳

図3-17 実システム開発者からのJASPAR開発環境アンケート結果

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101

(3)中小組込みソフトウェアメーカの育成 (開発人材の育成)

① 車載制御ソフトウェア技術スキル診断手法の整備と、それを元にしたスキルの見

える化及び技術力向上項目の特定化

ETSS(Embedded Technology Skill Standards)は、スキル標準、キャリア標準、教育

の 3本柱から構成され、最大の特徴は、スキルを中核に、キャリア、教育を紐づけてい

る点にある。したがって、ETSSを適用するには、適用ドメインの特徴に応じたスキルを

定義することが最も重要になる。

ETSSスキルは、図3-18のように技術要素、開発技術、管理技術で構成される(そ

の他のカテゴリとしてヒューマンスキルもある)。各スキルカテゴリとも、組込みソフ

トウェア業界として共通のスキルフレームワークが提供されており、提供対象毎にプロ

ファイルを策定して活用することを想定している。

車載用ソフトへの適用ポイント

車載電子システム開発向けフレームワーク

プロダクトライン型開発システム領域の強化

ESPRとの整合性確認

EPMとの整合性確認

ETSSスキルカテゴリー (ETSS概説書より抜粋)ETSSスキルカテゴリー (ETSS概説書より抜粋)

スキル定義 診断方法検討 診断実施 結果分析・FB

図3-18 ETSSスキルカテゴリの関連イメージ

このETSSを参考に、車載電子制御システム向けプロファイルとして、自動車メーカ、

サプライヤなどからヒアリングも行い、図3-19に示すような自動車プロファイルを

定義した。

次に、車載用電子システム開発のシステム領域に関する開発技術スキルを定義するに

あたり次の活動を実施し、図3-20のスキル項目を定義した。

自動車メーカへのヒアリング実施

自動車メーカへのヒアリングを実施し、各社の典型的なシステム仕様書を一般化し

たシステム仕様の項目をもとに検討した。

展開車両のシステム開発(差分開発)のプロセスとスキルの定義

開発業務従事者数が多い、展開車両開発(差分開発)に関係する開発技術に焦点を

あてて、展開車両開発のプロセスを定義し、それに合わせてスキル項目を定義した。

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102

外界 ・他社 ・道路 ・障害物 ・歩行者 乗員 ・ドライバ ・同乗者

車両ユニット対外物理作用装置

対外情報作用装置

外界状態監視装置

外界通信装置

[走、曲、止]+姿勢保持機構

体感作用装置

音声・視覚作用装置

乗員状態監視装置

走行操作装置

その他操作装置

センサ / アクチュエータ

乗員I/F装置外界I/F装置ECU ECU

車載LAN

ECU H/W

電子システム基盤

システム管理

入力系回路

・SW ・パルス ・AD

出力系回路

・ON/OFF ・パルス ・DACPU

電源 WD メモリ

通信系回路

専用IP ・MM系

外界I/F

乗員I/F

車両

駆動制御・エンジン ・トランスミッション

制動制御・ABS

操舵制御・EPS

加重制御・アクティブサス

車両状態計測

・空気圧モニタ・車輪速センサ・ヨーレイトセンサ

ECU

ネットワーク

分散機構

CPU

アプリケーション機構

走行要求認知・スタータ

・アクセルペダル

走行作用・メーター

・警告ランプ

快適要求認知・リモコンキー・タッチパネル

快適作用・電動スライドドア

・エアコン

安全要求認知・脇見センサ・乗員検知

安全作用・エアバッグ・ヘッドレスト

走行環境状態認知

・レーザセンサ

走行環境作用・ワイパ

快適環境状態認知・日照センサ

快適環境作用

・サンフール

安全環境作用

音声アラーマ

セキュリティ環境状態認知

・リモートセキュリティ

セキュリティ環境作用

・イモビライザ

開発・製造・サービス

環境作用・ダイアグ

車載ソ フ ト ウェ アの技術要素を体系化

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103

現状の問題を把握するため、07年度のスキル診断実施上の課題や、その効果に対

する期待やモチベーションなどについてのヒアリングをスキル診断実施対象企業に

行った。

スキル診断説明会実施

スキルレベル評価のバラツキの原因の一つにスキル診断に対する説明が不足してい

ることが懸念された。そのため、スキル診断実施の目的やレベル付けのポイントを実

施企業に対して説明会を実施した。

スキル診断演習問題

スキル診断実施者のスキルレベルの評価のポイントやレベル感の理解を補助するた

めに、仮想事例によるスキルレベル評価のための演習問題を検討・実施した。

08年度⇒09年度継続メンバ(JASPAR国プロ全体)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

通信

技術

情報

処理

マル

チメ

ディ

ユー

ザイ

ンタ

フェ

ース

スト

レー

計測

・制御

プラ

ット

フォ

ーム

シス

テム

要求

分析

シス

テム

設計

ソフ

トウ

ェア

要求

分析

ソフ

トウ

ェア

方式

設計

ソフ

トウ

ェア

詳細

設計

ソー

スコ

ード

作成

とテ

スト

ソフ

トウ

ェア

結合

ソフ

トウ

ェア

適合

性確

認テ

スト

シス

テム

結合

シス

テム

適合

性確

認テ

スト

統合

マネ

ジメ

ント

スコ

ープ

マネ

ジメ

ント

タイ

ムマ

ネジ

メン

コス

トマ

ネジ

メン

品質

マネ

ジメ

ント

組織

マネ

ジメ

ント

コミ

ュニ

ケー

ショ

ンマ

ネジ

メン

リス

クマ

ネジ

メン

調達

マネ

ジメ

ント

開発

プロ

セス

設定

知財

マネ

ジメ

ント

開発

環境

マネ

ジメ

ント

構成

管理

・変更

管理

コミ

ュニ

ケー

ショ

ネゴ

シエ

ーシ

ョン

リー

ダシ

ップ

問題

解決

経営

会計

マー

ケテ

ィン

HC

M

技術要素 開発技術 管理技術 パーソナル ビジネス

2009.1

2009.12

基準線(1.0)

:スキルアップが確認された領域

通信技術、プラットフォーム

ソースコード作成とテスト、システム結合

コストマネジメント、組織マネジメント

コミュニケーション、ネゴシエーション、問題解決

昨年度(08年度)からの国プロ参加メンバの経年変化では,国プロ関連領域のスキル伸展が確認できた

図3-21 本事業参加ソフトウェアベンダのスキル診断結果

図3-22 JASPAR版ETSS

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104

② 開発進捗状況の見える化手法の開発・評価

IPA/SECの資産であるEPM(Empirical Project Monitor)を実開発に適用し、プロジ

ェクトに潜むリスクを未然防止できる仕組みを構築するため、図3-23のようなシ

ステムを導入しマネージメント力向上を図った。また、来るべきマルチベンダ型開発

に向け、会社間をまたぐ大規模な開発に適合するようEPMの環境・分析要件を整理した。

EPMツールは客観的な判断に従ってプロジェクトをマネージメントできることを目指

すものであり、従来は開発者からのあいまいな報告をもとに管理者による主観的な判断

でプロジェクトをコントロールしていた。このため管理者のスキルや現場からの報告精

度によって把握できる内容に差異が生じており、プロジェクトコントロールの手法もま

ちまちであった。適切なマネージメントを実施するためには、「勘と経験」を長い時間

かけて養う必要がある上に教育では正確に伝わりにくい性質を持つ(また誰でも身につ

けられるとは限らない)。EPMツールを用いることで、進行中のプロジェクトの異変に

気づくことは「勘と経験」に頼る必要がなくなる。これは、一定のタイミングでプロジ

ェクトの成果物から機械的に観測データを抽出することで客観的な情報を収集するこ

とができ、収集した観測データを一定の尺度で整形することで変化点を容易に導き出し

客観的な判断を下す材料となるからである。

開発現場

障害管理 構成管理 メール管理

送信メール

設計書

ソースコード

障害登録

EPMリポジトリ

自動データ収集

分析の実施

ソフトウェア開発チームはEPMを意識することなく開発に専念する

分析チームは成果物の更新履歴から問題点を洗 い 出 し 、 現 場 にフィードバックする

成果物

フィードバック

図3-23 本事業におけるEPM導入概要

本事業における開発の中で、これらEPMデータをSECが提唱する品質指標(ESQR)を参

考に部品開発状況を表す定量データ(成果物ベース)として抽出した結果が図3-24

である。ESQRを参考にした成果物ベースの定量データが、自動車メーカ/サプライヤの

管理者視点での部品開発の進捗管理に活用できる可能性が高いことを検証付けるデー

タが得られた。このようにEPMツールは誰でも、どのようなプロジェクトでも一定のマ

ネージメントができ、企業の「勘と経験」を具体的な形で蓄積することができる。さら

に蓄積された具体的な「勘と経験」を再利用することで、次の世代にも効率的に伝播で

きると考える。

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105

また、本事業の各ソフトウェアベンダのスキルデータと、ソフトウェア開発における

成果物との間にどのような関係があるかを分析した。ETSSで採取したスキルレベルが高

いチームは、ソフトウェア開発における各工程の十分性が確保される可能性が高いこと

が伺える。マネージメントの観点からはプロジェクト開始時にチームの保有するスキル

を把握し、リスクレベルが低い場合はリスク発動の閾値を低く設定する工夫が有用であ

る。また、スキルデータと成果物データを蓄積することで、過去の失敗例から体制の改

善や進行中のプロジェクトの問題予測に役立てられると考える。以上のように、成果物

ベースの定量データとスキルデータ(ETSS)間にある相関関係がある可能性が高いこと

を検証した。

設計レビュー作業充当率

0

5

10

15

20

25

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

充当

率(%

)

設計レビュー作業充当率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

設計レビュー作業実施率

02468

10121416

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

実施

率(%

)

設計レビュー作業実施率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

仕様レビュー作業充当率

0

5

10

15

20

25

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

充当

率(%

)

仕様レビュー作業充当率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

設計レビュー作業充当率

0

5

10

15

20

25

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

充当

率(%

)

設計レビュー作業充当率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

コードレビュー作業充当率

0

2

4

6

8

10

12

14

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

充当

率(%

)

コードレビュー作業充当率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

仕様レビュー作業実施率

02468

10121416

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

実施

率(%

)

仕様レビュー作業実施率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

設計レビュー作業実施率

02468

10121416

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

実施

率(%

)

設計レビュー作業実施率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

コードレビュー作業実施率

012345678

Corp012 Corp008 Corp007 Corp011 Corp009 Corp010 Corp013企業名

実施

率(%

)

コードレビュー作業実施率(%) 参考値

Highly Critical

Normal

設計のレビューにどれだけ工数をかけているかをプロジェクト規模とのバランスで表す(実施率=設計レビュー工数/ソースコード全行数)

設計のレビューにどれだけ工数をかけているかをプロジェクト規模とのバランスで表す(実施率=設計レビュー工数/ソースコード全行数)

設計のレビューにどれだけ工数をかけているかを設計に費やした工数とのバランスで表す(充当率=設計レビュー工数/設計作業工数)

設計のレビューにどれだけ工数をかけているかを設計に費やした工数とのバランスで表す(充当率=設計レビュー工数/設計作業工数) 全てのチームが基準をクリアしているた

めマイルストンは達成している〇

① 設計レビューに工数を掛けすぎている

② 問題なし △

③ 問題なし 〇

④ 問題なし 〇

⑤ 問題なし 〇

⑥ 問題なし 〇

⑦ 設計レビューにやや工数を掛けすぎている

全てのチームが基準をクリアしていない。マイルストンを達成しているチームはない

×

① まったく足りていない ×

② 25%程度達成 ×

③ 50%程度達成 ×

④ まったく足りていない ×

⑤ まったく足りていない ×

⑥ 25%程度達成 ×

⑦ まったく足りていない ×

レビュー工数に関するメトリクスからマイルストンの達成度を評価する例

図3-24 メトリックス可視化データからマイルストンの達成度評価実施の例

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106

3-1-3-B 特許出願状況等

本事業に関わる規格文書の発行数、対外発表の件数等は表3-1に記す通りである。

表3-1 規格書発行、発表件数等

規格文書

JASPAR内

公開

規格文書

国際標準化

提案

論文寄稿 講演・発表 新聞記事

7件 3件 1件 6件 12件

本事業の成果はJASPAR規格文書として発行し、会員向けに公開される。表3-2に

示す7件の規格文書を、発行に向けてJASPAR内で所定の手続き中である。うち3件を

海外の標準化組織であるAUTOSARに向けて提案活動中である。

表3-2 規格文書リスト

題目 発行元 海外標

準提案

自動車用制御基盤ソフトウェア推奨要求定義書

カーネル編 Ver.1.0

国プロ

推進WG

自動車用制御基盤ソフトウェア推奨要求定義書

RTE編 Ver.1.0

国プロ

推進WG

自動車用制御基盤ソフトウェア推奨要件定義書

ソフトウェアアーキテクチャ編 Ver.1.0

国プロ

推進WG

自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール推奨要求定義書ECU

Configuration Tool編 Ver.1.0

国プロ

推進WG

自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール推奨要求定義書

System Design Tool-ECU Extract Tool間インタフェース編

Ver.1.0

国プロ

推進WG

自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール推奨要求定義書ECU

Configuration Tool-ECU Generation Ver.1.0

国プロ

推進WG

自動車用制御基盤ソフトウェア開発ツール開発ガイドライン

パラメータ設定編 Ver.1.0

国プロ

推進WG

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107

対外的な発表として、表3-3に示す通り論文1件を専門誌に投稿し、講演6件を

実施した。

表3-3 論文、発表リスト

題目・メディア等 時期

論文 SEC Journal別冊 第5巻 第2号

「JASPAR・国プロ推進WGにおけるETSSの導入」

北本 桂造、他11名

H21.4

発表 Automotive Technology Days 2007 Autumn

「JASPARにおけるエンピリカルソフトウェア工学の取り組

みに関する報告」

村上 晋一郎(キャッツ)

H19.11

発表 AT International 2008

「JasParの活動状況 AUTOSARとの協調について」

安達 和孝(日産自動車)

H20.7

発表 AT International 2009

「産学連携ソフトウェア工学実践事業

(高信頼性組込みソフトウェア開発)

標準実装TF活動紹介」

岩井 明史(デンソー)

H21.7

発表 AT International 2009

「産学連携ソフトウェア工学実践事業

(高信頼性組込みソフトウェア開発)

プロセス関連活動紹介」

佐藤 浩司(トヨタ自動車)

H21.7

発表 国際カーエレクトロニクス技術展

「JasParにおけるAUTOSARベーシックソフトウェア関連の

開発状況について」

安達 和孝(日産自動車)

H22.1

発表 AUTOSAR Open Conference

"JASPAR NATIONAL PROJECT

Implementation and Evaluation of AUTOSAR Software"

安達 和孝(日産自動車)

H22.5

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108

3-2-B 目標の達成度

環境、安全などの社会的要求から自動車は電動化、高機能化が行われており、電子制

御システムが国際競争力の大きな影響を与えるようになっている。このような状況の中

で、車載電子制御ソフトウェアの開発は増加、複雑化の一途をたどっておりプラットフ

ォームベースによる高信頼、高効率な開発が求められている。本事業では、高信頼・高

効率な共通基盤ソフトウェアの構築と、ソフトウェア工学に基づく高効率な開発環境の

整備、中小組込みソフトウェアメーカの育成 (開発人材の育成)といったことを目標

とし開発を行った。全体目標に対する成果、達成度は、表3-4のように全ての項目を

達成しており、一部の項目では目標を上回る結果も得た。

表3-4 全体成果まとめ

◎:目標を上回る成果、○:目標達成、×:目標未達

Ⅰ.高信頼・高効率な共通基盤ソフトウェアの構築

1) 車載電子制御システムに適用できるBSWを開発し,実システムに搭載して、従来と同等の性能を確認する.

自動車メーカ、部品メーカ、組込みソフトメーカ、半導体メーカ、ツールメーカが、業界横断的にBSWを共同開発。さらに、開発したBSWを実システムに適用・評価した結果、従来と同等の性能を確認できた。

2) BSWを開発してベンチマーク評価を実施し、性能がAUTOSAR版を上回ることを確認する.

ベンチマーク評価を実施し、ROM/RAM消費量、CPU負荷率等の観点でAUTOSAR版BSWに対する優位性を確認した. ○

3) 開発成果物(ソフトウェア,開発プロセス)について,我が国発の国際標準化を目指し世界基準とする.

本開発成果の国際標準化に向けて,2010年にAUTOSARコンソーシアムにJASPAR版BSWの主要技術である「プロファイル」,「クラスタ」コンセプトについて提案を行った.AUTOSARから高い評価を受け、規格化する方向で現在調整中である.

Ⅱ.ソフトウェア工学に基づく高効率な開発環境の整備

 

1) 組込みソフトウェアの開発プロセスの効率性向上を図るため、欧州の先進的取組みを調査するとともに、サプライチェーン関係者間のインターフェースの共通化を図る.

車載ソフトウェア開発の生産性・信頼性を向上させるため、サプライチェーン関係者間のインターフェースの共通化(受発注情報の統一)を図った.

2) 構造設計から単体テストまでのプロセスについて,開発の負荷軽減,信頼性向上を意識し,設計パラメータ削減を実現するツールチェーンを開発・実装評価する.

高品質な製品を生み出す日本の開発プロセス(すり合わせ型)に,欧米流のプラットフォームベース開発(組合せ型)の方法論を融合した、ツールチェーンを開発.大幅なパラメータ設定項目の削減(AUTOSARに対して75%削減)が可能となり、開発生産性・信頼性を向上させた.

Ⅲ.中小の組込みソフトウェアメーカの育成

1) IPA/SECが公開しているETSSを土台にして,車載制御ソフトウェア技術スキル診断手法(自動車版ETSS)を整備する。それによって、スキルの見える化、及び技術力向上項目の特定化を図り、技術者のスキル向上に繋げる.

車載組込みソフトウェア開発に対応した独自のスキル診断システムを開発.また、中小組込みソフトウェアメーカを大手自動車メーカと共同で開発作業に従事させ、スキル診断システムを用いて組込みソフトエンジニアのスキル向上を定量的に確認できた.

2) IPA/SECで開発中のEPMと,品質指標(ESQR)などを組合わせることで開発進捗状況の実情を発注側が把握できるようにし,受注側のマネージメント力向上に繋げる.

プロジェクト管理指標と品質指標を組み合わせて開発進捗状況の見える化手法を開発して、本事業に適用した.開発者のスキルと開発進捗に強い相関が確認でき、マネージメントツールとしての有効性を確認できた.

目標項目と概要 成果と目標の達成度

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109

4-B 事業化、波及効果について

4-1-B 事業化の見通し

(1)本事業の製品化

本事業の成果を用いた製品適用の例として、イーソル(株)及び(株)チェンジビジ

ョンの二社が図4-1に示すようにソフトウェア自動生成ツールの製品化を発表して

いる。

図4-1 本事業の製品化適用例

(2)JASPAR版ETSSの活用

本事業の成果であるJASPAR版ETSSはJASPAR会員であるシステムサプライヤ及び自動

車メーカにて、自社の人材のソフトウェア技術力把握、向上のための診断に用いられて

いる。また、車載電子制御システムの開発委託を実施しようとする際の請負先の企業に

対して、JASPAR版ETSSを用いた診断により、発注しようとする業務が行えるレベルにあ

るのか、また実施中の業務の改善点の抽出などに利用されるなど、広く普及、活用が始

まっている。

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110

4-2-B 波及効果

(1)本事業の報告会の実施

本事業の成果を広くアピールすることを目的として、平成22年2月4日に東京お台

場の日本科学未来館並びに隣接する駐車場に於いて報告会を実施した。本報告会は

・プレス向け事業成果発表会

・実車によるデモンストレーション

・専門家向け技術セミナー

の3部構成にて開催した。図4-2はプレス向けに配布した開催案内のレターである。

当日は新聞・TV局等計20社より取材を受け、計11のメディアにより報道された。

表4-1にその詳細な内訳を示す。また翌日に各新聞に掲載された記事の内容を図4-

3に示す。

図4-2 成果発表会のプレス向け案内レター

表4-1 マスコミ取材及び報道の状況

取材数 報道数

TV 5 2 NHK、TV東京(昼のNews、WBS)

新聞 7 5 日経、日経産業、中部経済、中日、産経ビジネス

アイ

業界紙 3 2 日刊工業、電波新聞

専門雑誌 5 2 EDN JAPAN、日経BP Tech ON(WEB記事)

合計 20 11

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111

中日 中経 日経産業

日経 フジサンケイ

ビジネスアイ

日刊工業

図4-3 成果発表会に関する新聞報道記事(平成22年2月5日付)

図4-4 マスコミ向け発表の会場スナップ写真

実車によるデモンストレーションでは、JASPAR版BSWを組み込んだ車載制御システム

を搭載した3台の試作車を会場に展示し、実際に来場者の試乗も含めた走行デモを実

施した。図4-5に実車デモの様子を示す。また表4-2に主な参加者を記す。

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112

図4-5 実車によるデモンストレーション実施の様子

表4-2 成果発表会の主な参加者

(所属・役職は当時のもの。敬称略。)

組織名 所属・役職等 氏 名

JASPAR

(各社役員)

日産自動車㈱ 副社長 山下 光彦

本田技研工業㈱ 会長 青木 哲

㈱デンソー 副社長 徳田 寛

豊田通商㈱ 専務 髙梨 建司

JASPAR

理事/幹事

トヨタ自動車㈱ 常務役員 宮田 博司

㈱本田技術研究所 常務取締役 川口 祐治

㈱豊通エレクトロニクス 代表取締役社長 岡本 康

㈱デンソー 常務役員 村山 浩之

JASPAR

国プロ関係者

イーソル㈱ 専務取締役 長谷川 勝敏

㈱チェンジビジョン 代表取締役社長 平鍋 健児

㈱サニー技研 代表取締役社長 上月 富夫

専門家向けセミナーは、JASPAR会員以外の業界関係者等を招き、ワーキンググループ

主査並びに各タスクフォースリーダより本事業の成果及び試作車・展示品の説明を実施

した。来場者は107名であった。図4-6に技術セミナーのプログラムを示す。また

図4-7は会場内の様子を撮影したものである。

(2)その他

平成22年度から、経済産業省において、車載組込みソフトウェア開発について、ISO

で平成23年度に規格化が予定される機能安全の対応を図るための事業が実施されて

いる。当該事業では、ソフトウェア開発に関する機能安全対応ガイドラインを策定する

とともに、機能安全対応の共通基盤ソフトウェアとツールを開発するが、後者について

は本事業で開発したBSWとツールがベースとなる予定である。

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113

図4-6 技術セミナープログラム

図4-7 技術セミナー会場スナップ

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114

5-B 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等

5-1-B 研究開発計画

本研究開発は、平成19年度を初年度とする三ヵ年計画にて実施し、平成19年度を

環境整備フェーズ、平成20年度を開発フェーズ、平成21年度を検証フェーズとそれ

ぞれ位置づけた。

図5-1 研究開発計画

研究開発の実施は、自動車用制御基盤ソフトウェアの仕様策定と実装評価を行う標準

実装タスクフォース、ソフトウェア開発環境及びツールの仕様策定と実装評価を行う開

発ツールタスクフォース、車載電子制御システム開発プロセスの実証を行うプロセスタ

スクフォースの三つを組織して遂行した。

(1)自動車用制御基盤ソフトウェアの仕様策定と実装評価

標準実装タスクフォースは1年目にAUTOSAR版BSW仕様分析とプロトタイプ実装によ

る評価及びこれに基づくJASPAR版BSW要件定義を行うと共に開発体制並びに環境構築を

進め、2年目にはJASPAR版BSW仕様策定とその実装・評価を行い、3年目にはJASPAR版

BSWの検証・評価を行いその結果を前年に策定した

JASPAR版BSW仕様へフィードバックする計画とした。

(2)開発環境・ツールの仕様策定と実装評価

開発ツールタスクフォースは1年目にAUTOSAR仕様の分析、既存ツールの評価及びツ

ール仕様の策定を行い、2年目に1年目に策定したツール仕様に基づくプロトタイプツ

ールの開発を行い、3年目にはプロトタイプツールを用いたソフトウェア開発の実証を

行う計画とした。

(3)プロセス実証

プロセスタスクフォースでは1年目に車載電子制御システム開発プロセスの要件定

義を行い、2年目は1年目の課題を受けて日本におけるマルチサプライヤ型開発を実現

するために最優先で共有化すべき自動車メーカとサプライヤ間のインターフェースの

定義、体系化を行い、3年目には2年目までの成果に基づくプロセスの実証・標準化を

行う計画とした。

担当 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4

全体日程

マイルストーン

標準実装タスクフォース

岩井(デンソー)

ツール開発タスクフォース

橋本(本田技研)

プロセスタスクフォース

石井(トヨタ)

環境整備フェーズ 開発フェーズ 検証フェーズ

評価レポート★ 評価レポート★ 評価レポート★

ツールの要件策定ソフト設計ツール評価基準の策定

システム設計ツールツールフレームワーク

評価によるフィードバック

検証ツールとの連携評価によるフィードバック

JASPAR BSWの要件定義AUTOSAR BSWプロトタイプ実装

AUTOSAR BSW評価

JASPAR BSW仕様策定JASPAR BSW開発

JASPAR BSW評価(単体)

JASPAR BSW仕様検証JASPAR BSW評価

JASPAR BSW評価(総合)

プロセス試行プロセス評価:BSW/ツール開発適用プロジェクト管理計画・進捗管理試行

要件に基づくプロセス定義プロセス評価:システム開発試行プロジェクト管理ツール検証環境

実証・標準提案プロセス評価:システム開発適用評価

プロジェクト管理まとめ

平成19年度 平成20年度 平成21年度

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115

5-2-B 研究開発実施者の実施体制・運営

本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、一般社団法人JASPARが経済産業省

からの委託を受けて実施した。また、再委託先としてJASPAR会員企業である中小の組込

みソフトウェアメーカ及びツールメーカ計15社が参加した。更に、再委託先以外の大

手自動車メーカ、サプライヤ、半導体メーカ13社がワーキンググループメンバーとし

て参加した。図5-2に本研究開発のスキームを示す。

図5-2 研究開発スキーム

研究開発の実施に当たっては、研究開発を統括するためのプロジェクトリーダー(日

産自動車 安達和孝)を主査とする新しいワーキングループ「国プロ推進ワーキンググ

ループ」をJASPAR内に発足させ、研究開発テーマ推進のため国プロ推進ワーキンググル

ープの配下に三つのタスクフォースを設置した。

また、「実機適用に向けた実証」の活動を実施するため、国プロ推進ワーキンググル

ープ配下に三つのチームを2年目より発足させた。国プロ推進ワーキンググループ(WG)

とその配下に設置された三つのタスクフォース(TF)および三つのチームの体制を、図

5-3に示す。

自動車メーカトヨタ自動車(株)日産自動車(株)(株)本田技術研究所マツダ(株)

サプライヤ(株)デンソー日立オートモティブシステムズ(株)(株)ホンダエレシス(株)ケーヒンカルソニックカンセイ(株)日本精機(株)

半導体メーカNECエレクトロニクス(株)(株)ルネサステクノロジ富士通マイクロエレクトロニクス

大手企業

組込みソフトウェアメーカ/ツールメーカ(株)アドバンスド・データ・コントロールズ

(株)アックス イーソル(株) (株)ヴィッツ (株)永和システムマネジメント (株)OTSL (株)ガイア・システム・ソリューションガイオ・テクノロジー(株)キャッツ(株)(株)サニー技研 (株)チェンジビジョン(株)日立情報制御ソリューションズ富士ソフト(株)(株)未来技術研究所 横河ディジタルコンピュータ(株)

中小企業

人件費等の支援を受けた企業

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図5-3 研究開発実施体制

図5-4に研究開発の計画と実行のサイクルを示す。研究開発を推進するに際しては

経済産業省情報処理振興課ならびにアドバイザーである独立行政法人情報処理推進機

構ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA/SEC)とJASPARが緊密に連携し、

年間計画策定時におけるフィードバック及び計画実行時における各週ヒアリングの実

施により、着実なPDCAサイクルの実行が行える体制を構築した。

図5-4 開発計画と実行サイクル

図5-5は年度計画の実行時における具体的な開発進捗報告の実施要領を示す。三つ

開発項目・成果内容予算費目・額など

経済産業省情報処理振興課IPA/SEC

JASPAR国プロ・ワーキング

年度計画のフィードバック

各週ヒアリング

開発進捗の確認開発内容のフィードバック

評価項目の追加・変更予算執行の修正

フィードバック事項の実行

(前年度振り返り基づく)開発項目予算申請

年度計画の策定

年度計画の実行(計画に基づく)各TFでの開発

予算執行

計画への反映

Plan

Do

Action

Check

Plan

開発項目・成果内容予算費目・額など

経済産業省情報処理振興課IPA/SEC

JASPAR国プロ・ワーキング

年度計画のフィードバック

各週ヒアリング

開発進捗の確認開発内容のフィードバック

評価項目の追加・変更予算執行の修正

フィードバック事項の実行

(前年度振り返り基づく)開発項目予算申請

年度計画の策定

年度計画の実行(計画に基づく)各TFでの開発

予算執行

計画への反映

Plan

Do

Action

Check

Plan

標準実装TF標準実装TF

アーキテクチャチーム

仕様グループ仕様グループ

ミドルウェアチーム

カーネルチーム

実装グループ実装グループ

評価グループ評価グループ

国プロ推進WG国プロ推進WG

JASPAR運営委員会

開発ツールTF開発ツールTF

JASPAR BSW仕様の策定

リーダ: 岩井(デンソー)サブリーダ: 井野(日産)

アーキテクチャチーム

仕様グループ仕様グループ

システム設計ツールチーム

ソフトウェア設計ツールチーム

JASPARツール仕様の策定

JASPAR BSWの実装

(ジェネレータ含む)

JASPAR BSWの評価

リーダ: 橋本(ホンダ)サブリーダ: 佐藤(トヨタ)

実装グループ実装グループ

評価グループ評価グループ JASPARツールの評価

プロセスTFプロセスTF リーダ: 石井(トヨタ)リーダ代行: 佐藤(トヨタ)サブリーダ: 菅沼(デンソー)

システム仕様記述小委員会システム仕様記述小委員会

ETSS小委員会ETSS小委員会

システム仕様記述方法の定義、およびツール要件の定義

JASPARツールの実装

ETSSプロファイルの策定と評価

①自動車用制御基盤ソフトウェア開発エンジニア向けプロファイル

②ツール開発エンジニア向けプロファイル

主査: 安達(日産)副主査: 佐藤(トヨタ)

EPM小委員会EPM小委員会

管理グループ管理グループ 豊通エレ、ガイア

EPM仕様の策定、および

ツール要件の定義ESPR/ESMRの適用と評価

ブリッジSE ガイア※技術管理・技術事務

評価用ソフトチーム安全制御系

評価用ソフトチーム安全制御系

リーダ: 城戸(トヨタ) リーダ: 加藤(日産) リーダ: 橋本(ホンダ)

評価用ソフトチームステアリング系制御

評価用ソフトチームステアリング系制御

評価用ソフトチームITS系制御

評価用ソフトチームITS系制御

ソフトウェア検証ツールチーム

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のタスクフォースによる毎月各1回の定例報告会を開催し、開発の進捗状況やトピック

ス報告を行い、経済産業省からのフィードバックを得る。更に全体の進捗概要報告は毎

月開催される国プロ推進ワーキンググループの会議の場において実施する。

図5-5 開発進捗報告

毎月第1週 第2週 第3週

国プロ推進ワーキング

標準実装タスクフォース

開発ツールタスクフォース

プロセスタスクフォース

評価用ソフトチーム

進捗状況・トピックス報告/フィードバック

毎月第4週

全体進捗概要報告

情報処理振興課((独)情報処理振興機構)

JASPAR

経済産業省

毎月第1週 第2週 第3週

国プロ推進ワーキング

標準実装タスクフォース

開発ツールタスクフォース

プロセスタスクフォース

評価用ソフトチーム

進捗状況・トピックス報告/フィードバック

毎月第4週

全体進捗概要報告

情報処理振興課((独)情報処理振興機構)

JASPAR

経済産業省

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5-3-B 資金配分

資金配分は三年間で総額3,039百万円を表5-1に示す通りの配分を行った。

表5-1 資金度配分 (単位:百万円)(税抜)

年度 平成 19 20 21 合計

標準実装タスクフォース 355 403 350 1、107

ツール開発タスクフォース 159 218 255 632

プロセスタスクフォース 126 204 187 516

評価用アプリ開発チーム 0 170 207 377

サーバー、プロジェクト室管理費用 136 139 131 406

合計 776 1,134 1,130 3,039

5-4-B 費用対効果

1-3-Bでも述べたように、本事業は、開発成果物が自動車産業以外にも裨益す

るために波及性が高く、また、組込みソフトウェア開発の信頼性・安全性の向上に資

するために公益性も非常に高い。以上のような効果全体は、その金額的価値を試算す

ることが極めて困難であるが、自動車産業における車載組込みソフトウェア開発のコ

スト削減という観点に絞って費用対効果を試算しても、投入資源に十分見合った効果

が期待できる。

具体的には、製品開発費の約10%の削減効果が期待できる。なぜなら、企業ヒア

リングの結果から、製品開発費のうち組込みソフトウェア開発は約50%、組込みソ

フトウェア全体に占める共通領域は約20%であると仮定すると、製品開発費は約1

0%削減(=50%×20%)となるからである。これは、組込みソフトウェア産業

実態調査によると我が国の組込み製品開発費は約7.4兆円であるため、我が国全体

で7,400億円(=7.4兆円×10%)のコスト削減に相当することになり、本事

業の予算額が約30億円であることを踏まえれば、費用対効果は極めて大きいと言え

る。

5-5-B 変化への対応

組込みソフトウェアの産業戦略上の重要性、組込みソフトウェアの品質に対する国

民のニーズの高さ、AUTOSARの共通基盤ソフトウェアに関する取組み状況等は、基本的

に事業開始時から大きな変化はなく、むしろ我が国組込みソフトウェア産業にとって

リスクが高くなる方向に各傾向が強まっているため、本事業の迅速な遂行が「変化へ

の対応」に他ならない。

代替手段の検討については、本事業の目的の一つとして、AUTOSARの進める共通基盤

ソフトウェアの国際標準化への対応が挙げられるため、日本発の車載共通基盤ソフト

ウェアを構築しない限り、十分な対応とは言えず、他の手法をとることは考えにくい。