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1 November 24, 2017 BTMU Global Business Insight Asia & Oceania .インドネシア付加価値税(PPN)の還付問題 PT. JAPAN ASIA CONSULTANTS 取締役社長 吉田 .シンガポール会社法改正の外国会社(支店)への影響について Media Japan Pte.Ltd. .ベトナム:出張が多い人は要注意!ビザなし入国の落とし穴 オリザベトナム株式会社 代表取締役 中安 昭人 Ⅳ.海外拠点のローカル人材が育たないのは誰のせい? 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 シニアマネージャー 石黒 太郎 .海外勤務者にかかる税金と保険 1)居住者・非居住者の定義と課税所得の範囲 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵 .各国トピックス 【タイ】工業相、EEC の恩典申請期限の延長を検討 【インド】GST 基本税率引き下げ 200 品目以上 【インド】ムーディーズ インド格付けを「Baa2」に引き上げ 【マレーシア】2018 年平均昇給率見通し、管理職は 5.53% 非管理職は 5.42% Ⅶ.自動車業界レビュー 【インドネシア】2017 10 月の販売(出荷ベース、速報値)は前年、 前月比共プラスに転化。 【インド】2017 10 月の乗用車販売は 4 カ月ぶりの前年割れ。 2 5 7 20 16 21 11

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November 24, 2017

BTMU Global Business Insight

Asia & Oceania

Ⅰ.インドネシア付加価値税(PPN)の還付問題

PT. JAPAN ASIA CONSULTANTS 取締役社長 吉田 隆

Ⅱ.シンガポール会社法改正の外国会社(支店)への影響について

Media Japan Pte.Ltd.

Ⅲ.ベトナム:出張が多い人は要注意!ビザなし入国の落とし穴

オリザベトナム株式会社 代表取締役 中安 昭人

Ⅳ.海外拠点のローカル人材が育たないのは誰のせい? 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 シニアマネージャー 石黒 太郎

Ⅴ.海外勤務者にかかる税金と保険

(1)居住者・非居住者の定義と課税所得の範囲

三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント 藤井 恵

Ⅵ.各国トピックス

【タイ】工業相、EEC の恩典申請期限の延長を検討

【インド】GST 基本税率引き下げ 200 品目以上

【インド】ムーディーズ インド格付けを「Baa2」に引き上げ

【マレーシア】2018 年平均昇給率見通し、管理職は 5.53% 非管理職は 5.42%

Ⅶ.自動車業界レビュー

【インドネシア】2017 年 10 月の販売(出荷ベース、速報値)は前年、

前月比共プラスに転化。

【インド】2017 年 10 月の乗用車販売は 4 カ月ぶりの前年割れ。

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Ⅰ.インドネシア付加価値税(PPN)の還付問題

概要

インドネシアの税務の煩雑さがよく問題になることがありますが、所得税だけではなく付加価値税

(PPN)の管理も難しく、還付請求手続きをした時点で大きな問題を税務局から指摘されるケースも多い

ようです。

インドネシアの税務においては実務上、法人所得税も、また付加価値税でも「還付申請」をせざるを得

ない局面がしばしば発生します。また、還付請求をしても税務調査が終了しないと実際の還付が行われず、

さらには税務調査の結果が必ずしも良好とばかりは限らないため、インドネシアの税務問題の難しさを味

わうことがよくあります。

インドネシアの付加価値税(PPN)も、日本の消費税と同様に最終ユーザーが負担すべき税金です。企

業は通常、OUTPUT 金額から INPUT 金額を差し引いた金額を納付します。インドネシア国内取引のみ

であれば、「OUTPUT-INPUT」がマイナスとなるケースは少ないのですが、輸出金額が大きな会社にお

いては OUTPUT がゼロであることからマイナスとなり、還付請求をすることとなります。さらには新規

工場建設などで INPUT金額が多額となり、売上OUTPUTと相殺するまで相当の時間を要する場合にも、

還付請求が生じる可能性があります。

1.付加価値税の INPUT が発生するのは以下の取引です。

<インドネシア国内取引>

(1)インドネシア国内で、材料・消耗品・固定資産など有形な物品を購入した場合に発生する。

付加価値税の支払先はサプライヤー(購入先)となり、サプライヤーが納付。

(2)インドネシア国内で、修理・技術指導料・ロイヤリティー・コンサルタント料などが発生した際の

サービス付加価値税はサービス提供業者宛に支払い、サービスの提供業者が納付する。

<輸入など国外取引>

(1)材料・消耗品・固定資産など有形な物品を輸入した場合に発生する。輸入に伴う付加価値税の納付

先は、輸入関税(BM)、輸入に伴う前払法人所得税(PPH22)と共に税関局に対して納付。

(2)海外から、修理・技術指導料・ロイヤリティー・コンサルタント料などのサービスを購入した場合

に発生する。付加価値税の支払先は、サービス提供業者が海外に在住しインドネシアの税法には関

係しないことから、海外在住サービス提供業者に成り替わって、サービス提供を受けたインドネシ

ア法人が INPUT 付加価値税を納付する。

2.付加価値税の OUTPUT が発生するのは以下の取引です。

<インドネシア国内>

(1)物品販売(売上)。

(2)サービス販売(売上)。

(3)それ以外の収益、例えばスクラップ販売など「雑収入」も付加価値税の対象となる。

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<輸出>

(1)輸出において付加価値税は 0%(一部商品現物移動を伴うサービス取引も 0%となる)。

(2)海外に対するコンサルティングなど、諸サービス販売も OUTPUT の対象となるが、サービス費用

を海外の法人に請求した場合、海外の法人はインドネシア税法には関係しないことから、インドネ

シア付加価値税率を加えて請求すると、10%分高いサービス代金を支払うこととなってしまう。(イ

ンドネシア国内で発生したサービスに係る付加価値税は、前述の如くサービスを受けた法人が

INPUT に算入可能。)

基本的に付加価値税がゼロとなるのは輸出販売だけであり、それ以外は INPUT、OUTPUT とも付加価

値税が課されるため、輸出金額(OUTPUT)が大きくなると INPUT 分を吸収できず還付請求せざるを得

なくなります。

PDKB(保税工場)または PPGB(保税倉庫)を保有する事業所は、税関を経由する材料・副資材・商

品については、関税(BM)、前払法人所得税(PPH22)と共に付加価値税(PPN INPUT)も非課税(保

税)となります。しかしながら、税関が介入しないサービスに係る諸費用(外注加工、修理、建築、リー

ス、コンサルティング、会計監査料金など)については、付加価値税(PPN INPUT)が発生することと

なり、売上の付加価値税(PPN OUTPUT)が発生しない保税工場や保税倉庫を保有する会社(通常売上

は輸出か他の PDKB 向けが多い)は、常に還付手続きせざるを得ないこととなります。

3.INPUT 分の還付申請をしたときの問題点(認められないケース)として

(1)相手の会社(OUTPUT 発行会社)が付加価値税を支払っていない場合。

付加価値税法第 16F 条に「被課税商品を購入した者、もしくは売却した者は、税金(付加価値税)

が支払われた証拠を提示することができなければ、その税金の支払いに連帯責任を負う」と規定さ

れている。

(2)当該 INPUT が、最終ユーザー・個人的費用(新聞代、ビザ費用、アパート関連 費用など)と見

なされた場合。もしくは、直接ビジネスに関連しないもの(自動車セダン、ステーションワゴンな

ど)、あるいは不当な付加価値税(親会社向けロイヤリティー費用否認などが該当)と認識された

場合。

(3)FAKTUR PAJAK(=Tax Invoice)の記載内容が間違っている場合。要件を満たした FAKTUR PAJAK

が発行されていない場合。

(4)INPUT FAKTUR PAJAK に過去 3 カ月を超えるものが含まれているとき。

(5)製造会社で操業期限が 3 年を超えた場合の土地の INPUT 付加価値税。

生産が開始しておらず、課税品の販売が開始されていない課税業者は、資本財以外の諸費用関連の

INPUT 付加価値税は INPUT 対象とはならない。

(6)PKP 番号(付加価値税番号)が発行される前の INPUT(最近、税務局は PKP 番号の発行を渋る

/遅らせるケースが多い)。

(7)FAKTUR PAJAK 作成日は、No.SERI(企業側に割り当てられる付加価値税シルアル番号)が発行

された日以降であることとされているが、発行日以前に作成された場合にはペナルティーの対象と

なる。

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(8)付加価値税法には明確に記載はされていないが、5 年を超える INPUT 分の還付請求を、税務局は拒

否するケースが多いようである。

主なものとして、以上のようなケースが考えられる。

また、還付申請すべきでないものを還付申請すると、否認されるだけではなく 100%のペナルティーが

課されたり、上記以外にも INPUT 付加価値税が否認される理由が多々発生しており、さらには還付まで

の時間も相当長い期間を要することになり、インドネシアの付加価値税行政には多くの問題を感じます。

一方で、インドネシアの付加価値税行政の良い点として、電子化が進んでいることが挙げられます。2013

年 11 月 11 日付財務大臣規則 No.151/PMK.011/2013 に、E-FAKTUR システムが規定されて以来、2014

年中頃から随時 E-FAKTUR 化が進み、現在ではほとんどの取引における付加価値税行政において、

E-FAKTUR という電子税務伝票システムが確立しています。

もともとインドネシアの付加価値税は、収益側事業所(OUTPUT)が 2 部発行し、1 部は購入側事業所

(INPUT)側で伝票方式の管理を行っていたことから税務局側も両者の照合がしやすく、漏れにくいシ

ステムとなっていました。従来からインドネシアの付加価値税の FAKTUR PAJAK 管理システムは、伝

票システムとしてはかなり完成度の高いものでしたが、E-FAKTUR 制度は税務局側が目的とする不正

FAKTUR PAJAK を撲滅するための一段高いレベルの IT システムとなる一方、一定規模の会社・事業所

においてはコンピューターがないと税務の管理ができないこととなっています。

さらには E-BILLING という各会社・個人レベルの税務口座も完備され、原則的には就労者全員が税務

番号(NPWP)の保有を義務付けられており、こうした先進的な税務 IT 業務が進んでいることにも驚か

されます。

システムが整ってきているとしても、税務局側の IT システムは徴税を強化することが目的であり「な

るべく還付させたくない」という姿勢は従来同様であることから、インドネシアにおける付加価値税に関

する業務は、法令に則った正しい運用が行われることがとても大切であり、こうした当局の運営スタンス

が求められます。

記事提供:PT. JAPAN ASIA CONSULTANTS

取締役社長 吉田 隆

(2017 年 10 月 1 日作成)

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Ⅱ.シンガポール会社法改正の外国会社(支店)への影響について

概要

2017 年シンガポール会社法改正において、日本で設立された会社の支店としてシンガポールで登記さ

れた会社が行わなければならない事柄について、Q&A 方式で説明します。

Q:当社はシンガポールで設立された現地法人ではなく、日本で設立された会社の支店として、シンガポ

ールで登記されています。最近改正されたシンガポール会社法に関し、外国会社(支店)はどのよう

な対応が必要となるのか、教えてください。

A:2017 年 3 月 31 日から外国会社(支店)は、会社の支配権者の名簿および株主名簿を作成し、シンガ

ポール国内で保管することが義務付けられました。

Q:会社の支配権者とは、どのような者を指すのでしょうか。

A:その会社に「重要な利害」があるか、または「重要な支配」を及ぼす個人、または法人を指します。

「重要な利害」とは、会社の株式または議決権の 25%超を有することです。また「重要な支配」とは、

(i)取締役会の過半数の議決権を有する取締役の任命権・解任権を有すること、(ii)株主決議事項の

25%超の議決権を有すること、または(iii)会社に対して重要な影響または支配を及ぼす権利を有す

ることをいいます。

Q:支配権者の名簿を作成するに当たり、会社はどのような手続きを行う必要がありますか。

A:会社は支配権者を特定するため、支配権者と思われる者、または支配権者を知っていると思われる者

に対して通知を送付し、その回答に基づき名簿を作成します。作成した名簿は外国会社(支店)、また

はその登記代理人の登記上の事務所で保管し、シンガポール会計・企業規制庁(ACRA)など当局か

らの要求があった場合、これを開示しなければなりません。

Q:違反した場合の罰則はありますか。

A:支配権者の特定、名簿の作成・保管、支配権者からの回答などは、それぞれ義務とされています。い

ずれの違反も発覚すれば、5,000 S ドルを超えない範囲の罰金が科せられる可能性があるので、注意が

必要です。

Q:支配権者の名簿の作成・保管が免除される場合はありますか。

A:シンガポール国外で上場している会社では、開示規制の適用があります。法令や証券取引所規則など

により、実質的な所有者についての開示義務が課されている場合などは免除されます。

Q:日本の本社で株主名簿を保管していますが、そのまま利用してもよいのでしょうか。

A:シンガポールの会社法では、株主名簿に記載すべき事項として、株主の名前・住所、株主名簿への登

録日、保有株式の内容、株主でなくなった日(過去 7 年以内に株主でなくなった者)が挙げられてい

ます。そのため、日本の株主名簿に記載がないものがあれば、追加する必要があります。また株主数

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が 50 人を超える場合には、株主名簿に加えて、検索を容易にするための株主名のインデックスも作成

し、株主名簿と同じ場所で保管する必要があります。これらはシンガポール当局の調査に備えるもの

であるため、英語で用意しておきます。

Q:株主名簿は ACRA で登記する必要がありますか。

A:ACRA での登記義務はありません。登記上の事務所など、シンガポール国内で保管するとともに、保

管場所を ACRA に通知します。

Q:当社は日本の上場会社で多数の株主がいるため、株主名簿の英訳といった対応が実務上難しいのです

が、このような場合、株主名簿の保管義務は免除されるのでしょうか。

A:現時点で特に免除規定はなく、日本の上場会社であっても対応する必要があります。もっとも、多く

の会社が対応に苦慮しているので、ACRA によるガイドラインや免除規定の整備といった現実的な措

置が望まれます。

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取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 清水 洋介

記事提供:Media Japan Pte.Ltd.

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Ⅲ.ベトナム:出張が多い人は要注意!ビザなし入国の落とし穴

概要

ベトナムはビザなしでの入国が可能です。しかし、条件があります。これを見落としていたために、出

発地の空港まで来たのに飛行機に搭乗できず、出張を取りやめたり、延期にしたりする人が、毎日のよう

に出ているのです。パスポートの残存有効期間が 6 カ月以上あるか、前回のベトナム出国から 30 日以上

経過しているか、まずはこの 2 点を確認しましょう。

■パスポートの残存有効期間は 6 カ月以上必要

朝 6 時過ぎ、携帯電話が鳴った。

「中安さん、ベトナムへの入国ビザがないと搭乗手続きはできないと言われているんだけど、何とかな

らないかなあ」

私は「またか!」と思った。知人の A さんが電話をしているのは、関西空港のチェックインカウンタ

ー。これからベトナムに出張で、搭乗手続きをしようとしたところ「入国ビザが必要です」と言われてし

まったのである。

日本人はベトナムへはビザなしで入国が可能だ。ただし、それには以下の条件を満たしている必要があ

る。

(1)ベトナム滞在日数が 15 日間以内であること

(2)入国目的が観光およびビジネスであること

(3)パスポートの残存有効期間が出国時に 6 カ月以上あること

(4)前回のベトナム出国日から 30 日以上経過していること

(5)往復航空券または第三国への航空券を所持していること

(1)と(2)は問題ない。トラブルが起きる可能性があるのは(3)~(5)の項目だ。これに引っかか

った出張者が、私が直接知っているだけで、ここ 1 年間で 5 人ほどいる。私に会いに来る人の場合、必ず

「ビザは大丈夫ですか」と確認するが、知人がベトナムに来る前に必ず私に連絡をくれるわけではない。

A さんも、今回の出張での商談相手はベトナム企業で、私は彼が来ることすら知らなかった。

彼が引っかかったのは(3)だった。

「パスポートの残存有効期間は、以前は 3 カ月でよかったよね」

と A さん。その通りである。しかし 2015 年 1 月に施行された出入国管理法では「6 カ月」に変更され

ている。A さんは、パスポートの有効期限が近くなっていることは承知していたが、海外出張が続いてい

たため、つい「今度の出張が終わったら」とパスポートの切り替えを延ばし延ばしにしていたという。

■30 日ルールに要注意

もう一つ、このような「被害者」の多いのが(4)である。アジアの複数都市で事業をしている知人 B

さんから電話があったのは、ホーチミンのタンソンニャット国際空港からだった。

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「今、空港に着いたんだけど、ビザなしでは入国させてくれず困っている」

彼はベトナムでの事業の立ち上げのため、最近、頻繁にベトナムを訪れている。今回は前回の出張から

4 週間しか空いておらず、それが理由で入国が認められなかったのだ。

結局、彼は一晩、タンソンニャット国際空港で過ごした後、次の目的地だったタイへ向かった。航空券

は搭乗日が変更できないタイプのものだったため、クレジットカードを使って買い直したそうだ。ベトナ

ムでの滞在中、数多くのミーティングを予定していたが、全てキャンセルである。「自分の不注意が招い

たこととはいえ、大変でしたよ」と嘆息していた。

(4)の項目は、アジアの複数都市を訪れる人も要注意だ。日本→ホーチミン→バンコク→ハノイのよ

うな経路で、出張をする人は少なくない。2015 年以前だと、この場合もビザなしでベトナムへの入国が

可能だった。しかし、ホーチミンを出てから、ハノイに入るまでの期間が 30 日未満だと、現在はビザが

必要になる。

「30 日ルール」と呼ばれるこの項目も(3)と同様、2015 年 1 月施行の出入国管理法で定められたもの

だ。ベトナムを頻繁に訪れる人にとっては不便であり評判が悪い。日本政府は、ベトナム政府に対しこの

条項の緩和を強く求めてきたが、現在も残っている。

■ビザで渡航を断念する人は毎日出ている

(3)と(4)に比べると、(5)が問題になるケースは少ない。ところが「ベトナム入国後にタイに行く

予定で、航空券はベトナム国内で購入するつもり」という知人が、これを理由に入国でもめたことがある。

以前は「ベトナム国内で航空券を買うから」と説明すれば、入国審査を通してもらえることが多かった。

しかし現在は異なる。旅行会社の人に聞くと「出国用の航空券がないと、入国は基本的に許可されないの

で、日本出国時にビザの取得をしてほしい」とのこと。

「ベトナムからの出国が陸路」という場合も同様だ。例えば「ホーチミンから、長距離バスでカンボジ

アに行ってアンコールワット遺跡観光をする」という人も、ビザを取得することが必要になる。

パッケージツアーに参加してベトナムを訪れる旅行初心者の場合、旅行会社が「パスポートの残存期間

が十分あるかどうかご確認ください」などと注意を促してくれるから、問題は起きにくい。自分で手配を

する出張慣れしたビジネスマンの方が、逆に足をすくわれるのだ。「ベトナムはビザがいらない。パスポ

ートさえあれば入国できる」という思い込みがあるので、パスポートの残存期間を確認することもないの

だろう。

航空会社の人に聞いたところ、

「ベトナムはビザなしで入国できると思って空港に来て、(3)~(5)のいずれかの条件を満たしてお

らず、搭乗できないという例は、毎日少なくとも 1 人は出ていると思いますよ」

とのこと。それくらい多いのである。

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■30 分でビザを手配する抜け道がある

ビザなし入国の条件を満たしていないのに、空港に来てしまった場合の救済措置としては「空港ビザ(ア

ライバルビザ)」を取得するという方法がある。通常、空港ビザを取得するには、ベトナム現地の業者が

発行する正式な招聘(しょうへい)状を事前に取得することが必要で、申請から受け取りまで通常は数日

かかる。しかし、実は抜け道がある。招聘状の即日発行を、オンラインで受け付けている業者があるのだ。

需要が多いのだろう。何社もの業者が同様のサービスを提供している。

私の知人 C さんは、6 カ月ルールにより搭乗手続きを断られた後、私に国際電話をくれた。私は彼に、

即日ビザ手配をしてくれる業者のウェブサイトのアドレスを伝え、その場でインターネットにアクセスし

てもらった。英語で示された案内に従ってフォームを埋める。「通常」と「至急」という二つの選択肢が

あり、後者を選ぶ。決済はクレジットカードで、これが確認されると、30 分足らずで PDF ファイルが彼

のもとにメールで送られてきた。「この人間は到着後、空港ビザを取得することを保証する」という書類

だ。彼は、これを航空会社のチェックインカウンターで提示して、無事、予定していた飛行機に搭乗する

ことができた。もちろんこれは合法的な手続きであり、空港で取得できるビザも、通常の手続きによるも

のと全く同じだ。

ただし、対応は一律ではないようだ。知り合いの航空会社や旅行会社のスタッフに話を聞いてみると「招

聘状を至急手配して、業者からもらったレターをカウンターで提示したが、搭乗手続きをしてくれなかっ

た」という話や「ビザを持っていたのに『パスポートの残存有効期間が 1 カ月未満ではダメ』と言われて、

飛行機に乗れなかった」という例もあった。

根本的な対策としては、やはり「正攻法」である以下の二つになるだろう。

一つは「パスポートは早めに切り替える」だ。残存有効期間が 1 年を切ると、新しいパスポートを申請

できる。もう一つは、複数回ベトナムを訪問する可能性がある場合、有効期間内であれば何度でも入国で

きる「マルチビザ」を取得しておくことだ。

ちなみに、隣国のカンボジアは、入国に際してはビザが必要となるが、カンボジアに到着してから空港

内にある窓口でビザを取得できる。ベトナムの空港ビザも、これくらい簡単にしてくれたらと思う。

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ホーチミンのタンソンニャット国際空港と市内中

心部を結ぶシャトルバスが運行されるようになり

便利になった。荷物が多くなければビジネスでも使

えるレベルだ。使いやすいのは 49 番と 109 番で、

写真は109番。バスの車内はエアコンが効いており、

無料で Wi-Fi も使える。

写真提供:オリザベトナム

記事提供:オリザベトナム株式会社

代表取締役 中安 昭人

(2017 年 10 月 12 日作成)

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Ⅳ.海外拠点のローカル人材が育たないのは誰のせい?

概要

海外拠点においてローカル人材が育たない原因は、海外拠点そのものではなく、日本企業本社にある。

本稿では、日本企業が自前で立ち上げた海外拠点における事例(全て筆者が見聞きした具体的な内容)を

交え、日本企業本社がローカル人材育成のボトルネックになっている典型的な理由を四つ紹介する。

はじめに

日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した『2015 年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調

査』によると、日本の大企業 528 社のうち、60%の企業が「海外拠点の経営の現地化を一段と進める必要

がある」と回答している。「海外拠点の経営の現地化は十分にできており、これ以上、進める必要はない」

と回答した企業の割合が 11%であることを考えると、高い数字だ。この調査で言う経営の現地化とは、

主にローカル人材の経営幹部ポジションへの登用などを指しているが、日本企業の本社人事部門および海

外拠点の経営層から「海外拠点のローカル人材がうまく育っている」という話を聞いたことはほとんどな

い。クロスボーダーの合併・買収(M&A)などにより海外拠点を入手した場合を除くと、その傾向はさ

らに高まる。

これまで筆者は、日本企業の海外拠点の日本人駐在員とローカル人事マネジャー100 人以上にインタビ

ューする機会を得てきた。それらの結果から、海外拠点においてローカル人材が育たない原因は、海外拠

点そのものではなく、日本企業本社にあると確信している。本稿では、日本企業が自前で立ち上げた海外

拠点における事例(全て筆者が見聞きした具体的な内容)を交え、日本企業本社がローカル人材育成のボ

トルネックになっている典型的な理由を四つ紹介したい。

理由(1):日本人駐在員のスキル・経験不足により、ローカル人材を指導・育成できない

日本企業のグローバル展開が成功し、海外拠点数が増加していくと、本社から海外拠点に派遣する駐在

員ポジション数が急増する。しかし、すぐに派遣可能な即戦力となる本社人材には限りがある。その場合、

駐在員ポジション数を充足するには、派遣する人材の質を下げざるを得ない。本来、日本人駐在員は自ら

の業務遂行だけでなく、ローカル人材を指導・育成し、海外拠点を自立化させる役割を担う必要がある。

だが実際には、その役割を果たせるスキル・経験を持つ日本人駐在員が派遣されることが徐々に少なくな

っていくことが多い。

一方、ほとんどの日本人駐在員は、海外拠点では役職が 2 段階程度特進し、経営ポジションに就く。本

社では担当クラスだった社員が、海外拠点ではマネジャーになるといった具合だ。中には英語さえほとん

ど話せない状態で、拠点長や部門統括ポジションに就くケースすらある。そうなると、その部下のローカ

ル人材にとっては悲劇だ。

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情報システムマネジャー(ローカル人材):

「この会社の情報セキュリティーは非常に脆弱(ぜいじゃく)であり、強固なファイアーウォールを

設定しなければ、情報漏えいリスクがある。特別予算を申請したい」

事務統括副社長(日本人):

「そのファイアーウォールとやらは、高さ何メートル必要なんだ?」

この情報システムマネジャーは優秀な人材だったが、数カ月後には転職してしまった。日々の会話が通

じない上司の下で働くことを考えれば、当然の判断だ。しかし、この副社長は「この国のローカル人材は

すぐに辞める」とボヤき、自らが原因になっていることを自覚していなかった。彼を副社長として任命・

派遣したのは日本本社だ。残念ながら、こういった悲劇(はたから見れば喜劇)を本社が知ることは少な

い。日本人駐在員の海外拠点での働きぶりは本社からは見えづらいのだ。多くの場合、日本人駐在員を任

命するのは本社であり、海外拠点に拒否権はない。だが、その駐在員が海外拠点で十分に活躍できなかっ

たとしても、本社側で任命責任が問われることはほとんどない。

理由(2):日本本社と海外拠点のダイレクトコミュニケーションが不足している

多くの業務ノウハウ・情報が海外拠点に移管されず、日本本社に偏在している企業が多い。また、海外

拠点に権限が委譲されておらず、本社が多くの意思決定を担っている企業も多い。そうした場合、海外拠

点は常に本社に相談し、指示を仰ぐ必要がある。問題は、そのやりとりを本社と日本人駐在員の間だけで

完結させてしまうことだ。本社社員が海外拠点のローカル人材と英語でダイレクトにコミュニケーション

する能力を有していない場合、必然的に日本人駐在員にだけ日本語で連絡することになる。

生産管理担当者(ローカル人材):

「製品 A について製造部に増産指示されましたか? 先週、減産することを提案し、合意したはずです。

市場動向を考えると・・・」

生産管理マネジャー(日本人):

「それは日本の生産管理部から指示を受けて決まった話だ。君は考えなくていい」

本社が海外拠点経営を主導すること自体は、その企業の事業戦略に基づいている場合もあり、それだけ

で良しあしを判断することはできない。しかし、そのこととローカル人材とのダイレクトコミュニケーシ

ョンを推進するかどうかは話が異なる。重要な決め事を全て本社と日本人駐在員の間だけで行ってしまう

と、ローカル人材には、意思決定に参画する機会が与えられないだけでなく、なぜそうなったのか、理由

さえ伝えられないことが多い。一般的に、ビジネスパーソンの学びの 7 割は業務そのものの経験から得ら

れるといわれている。学びの質と量は、業務経験の質と量に比例するが、意思決定を伴わないような業務

経験から、ローカル人材はどれだけのことを学ぶことができるのだろうか。

一方で、中国や韓国を中心に、日本語を話せるローカル人材を採用し、日本語によって海外拠点経営を

行っている企業もある。この場合、日本本社から日本語でやりとりできるため、ダイレクトコミュニケー

ションが進む場合も多い。日本人駐在員にとっても非常に楽だ。しかし、日本語人材を採用するという経

営方針について、現地の労働市場に占める日本語人材比率を調査し、真剣に検討した結果か否かどうか、

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疑問を禁じ得ない。通常、優秀な人材の数は母集団の大きさで決まる。数の限られた日本語人材を取り合

う日本企業と、数多くいる英語人材から厳選採用する欧米企業とでは、どちらが人的競争力に勝っている

か、それは火を見るより明らかだ。また、それだけでなく、日本語人材ばかりが日本人駐在員から重宝さ

れ、真に能力の高い英語人材が退職してしまうケースも多い。

本社が海外拠点のローカル人材と英語でダイレクトコミュニケーションしない弊害は非常に大きいに

もかかわらず、本社側の海外拠点に対する仕事の進め方を変えようとしている企業は少ない。

理由(3):日本人拠点長が頻繁に交代するため、中長期的に人材育成できない

日本人駐在員が海外拠点長ポジションに就く場合、数年ごとに拠点長が交代することになる。拠点長交

代によって、個々のローカル人材に対する評価が一変してしまうこともまれではない。先代の拠点長に見

込まれていた優秀なローカル人材が、拠点長が代わったことによって評価がリセットされ、それが離職に

つながるケースもある。人材育成は中長期的な視野から取り組むべきものであるにもかかわらず、それを

担保する仕組みを本社が提供している日本企業は少ない。

また、日本人拠点長の交代による弊害の例は他にもある。それは Thank You Promotion だ。

人事マネジャー(ローカル人材):

「社長、今年の昇進候補者のリストをお持ちしました」

拠点長(日本人):

「私がこの拠点に着任して 5 年が経過した。私もそろそろ帰任だ。その間、皆よく頑張ってくれた。

これまでありがとう。君も含めて全員昇進だ」

人事マネジャー(ローカル人材):

「マイボス、ありがとうございます! あなたこそ素晴らしい社長でした!」

誇張しているようにみえるかもしれないが、現実としてこのような温情登用が行われている海外拠点は

少なくない。拠点設立時に採用されたローカル人材が、日本人拠点長の交代ごとに昇進し、能力に見合わ

ない経営幹部ポジションを占めているというケースには枚挙にいとまがない。能力不足の日本人駐在員は

5 年もすれば帰任するが、能力不足のローカル人材は拠点にずっと居座ることになる。一度居座られると、

ミドル層以下に優秀なローカル人材がなかなか定着しなくなる。対応策としては降職・退職させるしかな

いのだが、彼/彼女を気に入っていた元拠点長が本社役員に任命されていると、その影響力で降職・退職

させることも海外拠点独力では難しい、という笑えない事例もある。

海外拠点の経営幹部ポジションへのローカル人材の登用は、極めて重要な経営判断であり、本社がグロ

ーバルに横串を刺して人材管理すべき領域だ。その責任を本社が放棄し、数年しか在籍しない日本人拠点

長に一任してしまうと、上記のような事態の発生を招くことになる。

理由(4):優秀なローカル人材を鍛えられる人材育成施策・キャリアパスが海外拠点にない

日本ではどんな大企業でも、一つ一つの海外拠点を見れば、中小企業であることが多い。人事機能に従

事する社員の数は、従業員数にある程度比例する。日本本社であれば多くの社員が人事機能を担い、人員

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計画・採用・人材育成・評価・配置・報酬・労務など、それぞれを専任のスタッフが企画・運用すること

も可能だ。一方、海外拠点の場合、従業員数が少なく、数人で人事機能の全てを担っていることも多い。

また、人事機能に充てられる予算も限定的であり、優秀なローカル人材の成長ニーズに報いられる人材育

成施策を海外拠点で構築できることはまれだ。

拠点長(日本人):

「うちの社員のどのプレゼンテーションを見ても、基本がなっていない。どんな研修をやっているん

だ?」

人事・総務マネジャー(ローカル人材):

「そもそも研修なんて、新入社員の導入研修しかありません。人事・総務には 5 人のスタッフしかい

ないので、退職補充の採用と給与支払い手続きだけで手一杯です。ヒトと予算をつけていただけれ

ば、やりようがありますが」

経理マネジャー(日本人):

「人事・総務を増員するなんて、とんでもない。そんなことをしたら、同じように増員要請してきて

いる営業部や品質保証部に示しがつきません。予算もギリギリです。拠点経営が成り立たなくなっ

てもいいんですか!」

また、規模だけでなく、業務内容という点においても海外拠点でのローカル人材育成は困難だ。海外拠

点では、製造であれば量産、営業であればルートセールス、といったように仕事が川下の内容に限られて

おり、技術開発や商品企画といった川上の業務は日本本社・地域統括拠点にしかない場合が多い。優秀な

ローカル人材の多くは川下よりも川上の業務に魅力を感じる傾向があるため、川下の業務を一通りこなせ

るようになると、海外拠点内でのキャリアパスに限界を感じ、自らの成長を求めて転職してしまうだろう。

本社や他の海外拠点へのローテーションの機会があればさらなる人材育成につながるのだが、これを海外

拠点単体で実現するのは不可能だ。

おわりに

ここまで、海外拠点においてローカル人材が育たない理由が日本本社にあることを述べてきた。最後に、

あなたの会社の海外拠点でこれらが当てはまるのであれば、どうすべきか、対応策を紹介し、本稿の締め

くくりとしたい。その策とは「日本本社の経営役員層に対し、海外拠点から支援要請の声を強く真剣に上

げ続ける」ということだ。

日本企業の中にも本社がグローバル人事施策を主導し、ローカル人材を発掘・育成し、活躍を促してい

る好事例は存在する。しかし、あなたの会社の海外拠点が本稿の内容に当てはまるのであれば、本社人事

部門が自ら率先して、海外拠点のローカル人材育成に重い腰を上げることは、残念ながらほとんどないだ

ろう。なぜなら、彼/彼女らにとってグローバル人事は未知の領域であることが多く、目の前の国内人事

の仕事に奔走しており、かつ海外拠点のローカル人材育成は放置しておいても本社人事部門が痛みを感じ

ることはないからだ。しかし、本稿で述べた四つの状況に対処するには、以下のような施策をグローバル

視点で展開していく必要がある。そして、これらに取り組めるのは本社人事部門しかいない。

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【グローバル人事施策の例】

日本人駐在員の計画的選抜と育成:海外事業の中長期的な展開計画を見据え、海外駐在員の必要人数を想

定の上、早い段階から候補者の人選・育成・配置・評価に取り組む。その際、海外で活躍できる人材の特

徴を要件に落とし込むことが重要。英語力だけが海外駐在に必要な要件ではない。

本社の内なるグローバル化:本社の全部署に対して海外拠点との情報共有の英語化を促し、ローカル人材

とのダイレクトコミュニケーションを徹底する。また、海外拠点のローカル人材を育成するには、研修や

出向の形でローカル人材を本社で受け入れることも有効。その場合、本社において人材を多国籍に受け入

れられるよう、本社就労環境の多言語・多文化対応を進める。社内の案内表示や食堂メニューの材料表記、

勤怠システムなど、さまざまな対応が求められる。

グローバルタレントマネジメント:ローカル人材の育成を効果的に進め、経営幹部ポジションに登用して

いくには、拠点・国・地域を越えたキャリア形成が有効。その実現に向け、まずは世界の海外拠点にどの

ようなポジションがあり、どのようなローカル人材がいるのか、把握する必要がある。具体的には、世界

共通の物差しとなるグローバル職務等級と評価制度を導入し、一定層以上のポジション・人材を人事情報

システムなどで見える化し、横串管理できるようにする。その上で、経営幹部ポジションの後継候補人材

を本社だけでなく世界中から選抜・育成・登用することにより、世界最適配置を実現する。

恐らくは本社人事部門に海外拠点の声を直接訴えても「検討します」と言うばかりで、迅速に取り合っ

てはもらえない可能性が高いだろう。しかし、海外拠点のローカル人材育成は、企業の海外事業の根幹を

担う部分であり、ここがしっかりしていなければグローバルな事業展開も計画通りに進むことはない。そ

れどころか、海外事業そのものが成り立たなくなる可能性すらある。個々の海外拠点に固有の問題ではな

いのだ。そこで提案だが、次回の本社出張の際、本稿を片手に、本社の経営役員層、あるいは思い切って

社長に直談判してはどうだろうか。

記事提供:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社

シニアマネージャー 石黒 太郎

(2017 年 9 月 26 日作成)

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Ⅴ.海外勤務者にかかる税金と保険

(1)居住者・非居住者の定義と課税所得の範囲

海外勤務の場合、日本の非居住者に該当するケースが多いといわれていますが、そもそも日本において

「居住者」と「非居住者」はどのような基準で区分され、その課税関係はどうなっているのでしょうか。

事例を交えながら説明します。

Q. 居住者・非居住者の定義と課税所得の範囲

社員を海外に赴任させる予定です。

海外勤務の場合、日本の非居住者に該当するケースが多いと聞きました。そもそも日本において「居

住者」と「非居住者」はどのような基準で区分しているのでしょうか。

赴任時のビザの種類や会社からの内示の有無などで、居住者、非居住者の判断が異なってくるのでし

ょうか。

A.

1. 居住者・非居住者で異なる課税所得の範囲

~1 年以上の予定で日本を離れる場合は出国の翌日から非居住者~

日本の所得税法では、納税義務者を【図表 1-1】のように「個人」と「法人」に区分されます。「個人」

については国内における住所の有無、または 1 年以上の居所の有無に応じて「居住者」および「非居住者」

に区分しています。

このように居住者、非居住者の区分は、その人の「国籍」や「どのようなビザ(出張ビザ、駐在ビザ、

留学生ビザなど)を取得して海外に赴任したか」や「社内の区分上、海外出張なのか海外勤務なのか」に

は関係なく、端的に言うと「1 年以上の予定で日本を離れるか否か」により判定されます(ただし、公務

員や船舶・航空機の乗務員などには特例が適用されるため、この限りではありません)。

そのため、1 年以上の予定で海外に赴任する人については、出国の翌日から日本の「非居住者」(※)と

なります。

(※)出国日と赴任の発令日が異なっている場合も、出国日を基準にして居住者・非居住者の判断を行います。

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【図表 1-1】所得税法による居住者・非居住者の課税区分(個人の場合)

定義

国内源泉所得 国外源泉所得*

例:国内で勤務し

たことにより得

た所得

例:国外で勤務したことにより

得た所得(海外勤務中、従業員

に支払われる日本払い給与な

ど)

居住者 非永住者

以外の居

住者

国内に住所を有し、または現在ま

で引き続いて 1年以上居所を有す

る個人のうち、非永住者以外の者

課税 課税

非永住者 居住者のうち、日本国籍を有して

おらず、かつ、過去 10 年以内に

おいて国内に住所または居所を

有していた期間の合計が 5年以下

の者

課税 国内で支払われたもの、および

国内に送金されたもののみ課

非居住者 居住者以外の個人

(1 年以上の予定で日本を離れる

人は非居住者に該当)

課税 非課税

* 所得税法では「国外源泉所得」という言葉はありませんが、ここでは便宜上「国内源泉所得以外の所得」を「国外源

泉所得」といいます。

通常、1 年以上の予定で海外勤務する場合が多いことから、赴任中は日本の非居住者に該当します。非

居住者は【図表 1-1】から分かる通り、国内源泉所得しか課税の対象にはなりません。

なお、役務の提供の対価に関する国内源泉所得、国外源泉所得の区分は「当該所得がどこから(どの国

から)支払われたか」ではなく「どこ(日本または海外か)で働いたか」によって区分されることになり

ます。ですから、日本本社が 1 年以上の予定で海外勤務している人に対して支払う給与は【図表 1-2】

の通り、国外源泉所得に該当します(ただし役員報酬は例外)。

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【図表 1-2】役務の提供の対価に関する国内源泉所得・国外源泉所得の区分の仕方

2. やむを得ない事情による勤務期間の変更について

やむを得ない事情による勤務期間の変更に伴う居住者・非居住者の判定についてはおおむね【図表 1-

3】の通りとなります。

【図表 1-3】やむを得ない事情による勤務期間の変更があった場合の取り扱い

事例 取り扱い 備考

1 年以上の予定で赴任したが、やむ

を得ない事情(業務、病気、事故な

ど)により 1 年未満で帰国すること

になった場合(例:3 月末に 1 年以

上の予定で海外勤務したが、その年

の 9 月末に帰国した)。

予定が変更になった(1 年未満

になった)時点から居住者扱

い。

それまでの期間は非居住者と

して取り扱ってもよい。

1 年以上の予定で赴任しているの

で、1~3 月分については年末調整が

行われているが、帰国後、10 月から

12 月分および 1~3 月分についても

再度年末調整を行う(非居住者期間

は年末調整の対象にしない)。

1 年未満の予定で赴任したが、やむ

を得ない事情(業務、病気、事故な

ど)により赴任期間が 1 年以上にな

った場合(例:3 月末から 9 月まで

の予定で海外勤務したが、9 月末の

時点で赴任期間が 3 年に延長にな

った)。

予定が変更になった(1 年以上

になった)時点から非居住者

扱い。

それまでの期間は居住者とし

て扱ってもよい。

当初、5 カ月間の赴任予定のため、

赴任前に年末調整は行われていな

いが、9 月末の時点で 1 年以上の海

外勤務になることが決まったため、

1~9 月末の所得について年末調整

を行う。

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居住者・非居住者の定義と課税所得の範囲のポイント

・1 年以上の予定で海外赴任する場合は、赴任翌日から日本の「非居住者」に該当する。

・日本の居住者、非居住者の判定において、海外で取得するビザの種類や、社内の区分(長期出張扱

いか、駐在・出張扱いか、留学扱いか)は基本的には関係がない!

記事提供:三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社

チーフコンサルタント 藤井 恵

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Ⅵ.各国トピックス

【タイ】工業相、EEC の恩典申請期限の延長を検討

タイ工業相は東部経済回廊(EEC)地域における投資優遇(恩典)の申請期限を 2017 年 12 月 29 日か

ら延長する見通し。タイ投資委員会(BOI)はタイ湾東部のチャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーンの

3 県からなる EEC 地域を投資奨励地区に指定し、同地域への投資に対する法人所得税の減免などの投資

奨励政策を公布しているが、申請期限は 12 月 29 日までとなっている。EEC 関連の法律の成立がずれ込

んでおり、申請期限も延長すべきとの声があがっているようだ。工業相は BOI 会合に早期に延長を提案

する見通し。

政府は同地域でのインフラ整備に力を入れており、2019 年に開始が予定されているインフラ整備計画

は 103 件、総事業費は 7,450 億バーツ(約 2 兆 5,500 億円)に上る。

【インド】GST 基本税率引き下げ 200 品目以上

インドの物品・サービス税(GST)の評議会は 11 月 10 日、200 品目以上の税率を引き下げることを発

表した。11 月 15 日から適用する。GST の基本税率は 5%、12%、18%、28%の 4 段階に設定されている。

最高税率の28%から18%に引き下げられた178品目には洗剤やシャンプーなどの日用品が多く含まれる。

今回の措置で、最高税率の 28%を課される品目は食洗機、洗濯機、冷蔵庫といった白物家電や健康を害

する恐れのあるタバコや炭酸飲料など 50 品目に減少した。

【インド】ムーディーズ インド格付けを「Baa2」に引き上げ

米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは 11 月 17 日、インドの外貨建ておよび自国

通貨建ての債務格付けを「Baa3」から「Baa2」に引き上げ、見通しを「ポジティブ」から「安定的」に

変更した。格付けの引き上げは 2004 年 1 月以来、14 年ぶり。ムーディーズは全国統一税制である物品・

サービス税(GST)の導入により、州を越えた取引の障壁が取り除かれ、生産性が高まるとの見方を示し

ている。

【マレーシア】2018 年平均昇給率見通し、管理職は 5.53% 非管理職は 5.42%

マレーシア経営者連盟(MEF)は 11 月 10 日、加盟企業を対象とした給与実態調査の結果を発表した。

2017 年の平均昇給率は管理職が 5.55%、非管理職が 5.44%だった。2018 年の見通しは管理職が 5.53%、

非管理職が 5.42%と 2017 年をやや下回る見込み。一方、2017 年の平均賞与額は管理職が 2.09 ヶ月分、非

管理職が 1.81 ヶ月分だった。2018 年の見通しは管理職が 2.14 ヶ月分、非管理職が 2.02 ヶ月分と 2017 年

を上回る見込み。

(各国トピックスの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道

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Ⅶ.自動車業界レビュー(インドネシア・インド)

「インドネシア」・「インド」の自動車業界の動向を記載します。

【インドネシア】

2017 年 10 月の販売(出荷ベース、速報値)は前年、前月比共プラスに転化。好調な商用車販売が寄与。

セダン以外の乗用車は 3 カ月連続の前年割れ。金融機関による自動車ローン審査厳格化などが影響。

<概況>

・インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)公表の 2017 年 10 月の新車販売台数(出荷ベース、

速報値)は前年同月比+2.4%の 9 万 4,352 台と前月(同▲5.3%、8 万 7,645 台)から一転、前年比プ

ラス、販売台数も増加に転じた。乗用車の減速をバス&トラック等、好調な商用車が補完した。

・シティーカーや小型多目的車(MPV)など、全体の 7 割強を占めるセダン以外の乗用車(同▲2%)

は 3 カ月連続の前年割れ。同協会(GAIKINDO)が原油価格上昇を根拠に販売が増加するとしてい

た「ローコスト・アンド・グリーン・カー(LCGC)」政策(注)適合車の販売等が伸び悩んでいる。

・直近、中銀による 2 度に亘る利下げや底堅さを維持する国内経済を背景に今後の自動車販売について

過度に悲観的な見方をする向きは少ないが、中銀が打ち出した金融機関における自動車ローン審査厳

格化方針の影響や政府が渋滞緩和を目的に導入を模索している「低価格車の販売規制」など、LCGC

を取り巻く環境は厳しい。

・メーカー各社は、ローン審査厳格化の影響を受けづらい高所得者が購買層である高価格帯車種の新モ

デル投入により、全体の販売底上げを図る意向。

・また、金融機関に自動車ローン審査の厳格化を促してきた中銀も、自動車購入価格に対するローン借

入額の上限比率を「地域毎」に設定し販売への影響を緩和する方針を打ち出しており、国内自動車販

売の先行きは読みづらい状況となっている。

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(注)2013 年にインドネシア政府が、自動車市場の拡大と大気汚染対策として、低燃費・低価格自動車の普及のた

め導入した政策。サイズや燃費(ガソリン 1 リットル当たり 20 キロ以上走行が可能)、価格、部品現地調達率な

ど一定基準を充足した車両に対して奢侈税(10%)免除、法人税 30%減免、製造用工作機械等の輸入関税免除な

どの優遇を付与するもの。

<規制・税制>

・産業省は、外国投資を呼び込み、比較的販売が好調な高級セダンや四輪駆動車(4WD)の国内組み

立てを促進する為、産業相令「2010 年第 59 号」を改訂した同令「2017 年第 34 号」を公布。完全組

立生産(CKD)車と不完全組立生産(IKD)車の規定をそれぞれ変更、12 月より施行する。CKD&

IKD の 1 モデル当たりの年間部品輸入量をそれぞれ 5,000 台分までに規定。生産する CKD&IKD の

小売価格はいずれも 5 億ルピア以上に限定した。また、1 台当たりの評価額を CKD:2 億ルピア以上、

IKD:1 億 5,000 万ルピア以上(いずれも輸送料&保険料を含む)にするとした。

・財務省は自動車への課税について、従来の奢侈税を廃止し、新たに物品税として「自動車製品税」を

賦課、二酸化炭素(CO2)の排出量に応じた税率を設定する意向を表明した。

<環低炭素車両(LCEV)・電気自動車(EV)>

・産業省は自動車メーカー各社に対して、新たに①水素をエンジンで燃焼させて走行する「水素自動車」、

②パーム油を利用した「バイオ燃料車」の開発を進めるよう要請した。これまでは、③電気自動車(EV)、

④水素&酸素の化学反応を利用した燃料電池で走行する自動車の二種類が開発されていたが、インド

ネシア国内には「水素ガス」や「パーム油」が豊富に存在することから、「その利点を生かしたい」

との思惑から、今回の要請に至ったもの。①~④の内、「どの自動車開発に経営資源を集中するかは

メーカーに一任する」とした上で、いずれの場合も、政府として支援していく意向を表明。EV 開発

への優遇策については 2017 年内に決定する方針を明らかにした。同省は 2025 年までに国内自動車台

数の 25%に相当する 40 万台を①~④の「低炭素車両(LCEV)」にする目標を掲げている。

・環境・林業省は、将来的な電気自動車(EV)の普及を見据え、リサイクルの促進を目的に、EV の「使

用済みバッテリー」を、廃棄物処理法「2008 年第 18 号」および B3 廃棄物処理政令「2014 年第 101

号」の有害・有毒・危険(B3)物に指定した。

・政府は「2040 年以降、化石燃料を使用する四輪&二輪車の製造を禁止する」目標を掲げており、今

回の指定はその布石となるもの。

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【インド】

2017年 10月の乗用車販売は 4カ月ぶりの前年割れ。単月で過去最高を記録した前月の反動、祭事日程、

各社の在庫圧縮などが影響との見方も。一般乗用車は不振。ユーティリティー・ビークル(UV)は堅調。

<概況>

・インド自動車工業会(SIAM)公表の 2017 年 10 月の乗用車全体(ユーティリティー・ビークル(UV)、

バンを含む)の販売台数は前年同月比▲0.3%の 27 万 9,837 台と 4 カ月ぶりの前年割れ。単月として

は過去最高を記録した前月(同+11.3%、30 万 9,955 台)から大幅な減少となった。

・内訳を見ると、一般乗用車は前年同月比▲5.3%の 18 万 4,666 台と前月(同+6.9%の 20 万 8,656 台)

から前年割れに転じ、販売台数も大きく減少、全体を押し下げた。一方、UV は同+12.4%の 7 万 9,323

台と前月(同+26.2%、8 万 4,374 台)から減速、販売台数も減少に転じたが、依然、高水準を維持し

全体を下支え。バンは同+5.0%の 1 万 5,848 台と前月(同+3.7%、1 万 6,925 台)から伸び率は拡大し

たものの、販売台数は減少した。

・7 月 1 日からの全国統一物品・サービス税(GST)の正式導入を前に、実効税率の下落を見越した消

費者の買い控えが強まり一時的に失速した乗用車販売だが、3 カ月連続の二桁成長を示し、9 月には

単月で過去最高を記録するなど回復傾向が鮮明になっていた。しかし、業界では「9 月は新税導入を

控え各社が車両の出荷を抑えていた反動増や祭事(ディワリ)商戦を見越した各社の在庫積み増しが

回復の大きな要因。本格的な回復の確認には今暫く、販売推移を見ていく必要がある」と慎重な意見

も出ていた。

・一方で、販売台数の減少は、2017 年はヒンズー教最大の祝祭「ディワリ」が 10 月 19 日となり、同

10 月末日だった 2016 年に比べ「祭事商戦」が短期間だったことや 2017 年 11 月の新モデル投入を前

にメーカー各社が在庫調整に動いたことが影響したもので、減少は一時的」と今後の販売について楽

観視する向きも多く、今後の動向を読みづらい状況にある。

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<規制・税制>

・政府は、2020 年 4 月 1 日以降、新たな自動車排ガス基準「バーラト・ステージ 6(BS6)」モデルの

みの販売を容認、旧排ガス基準「バーラト・ステージ 4(BS4)」に準拠した車両の販売&登記を禁止

するとした環境汚染防止規制局(EPCA)の方針を否定した。

・同日以降、「BS4 モデルの生産は禁止するものの、販売&登記は可能である」との立場を明確にした

上で、先に EPCA が最高裁に行った販売&登記を禁止する内容の申出を却下するよう、同裁判所に

対し主張した。

・政府としては、2017 年 4 月 1 日の旧排ガス基準「バーラト・ステージ 3(BS3)」→BS4 への移行の際、

最高裁が直前の同年 3 月 29 日に BS3 モデルの生産に加え、販売&登記も禁止する決定を行い、メー

カー各社が多大な在庫(BS3 モデル)を抱えることになった経緯を踏まえ、新排ガス基準導入に伴う

混乱を回避し、国内経済への影響を軽微に抑えたいとの思惑がある。

・石油・天然ガス省は 2020 年 4 月 1 日に導入される新たな自動車排ガス基準 BS6 モデル向けの「燃料」

について、首都ニューデリーでの導入を 2018 年 4 月(当初の予定より 2 年前倒し)、近隣州を含むデ

リー首都圏(NCR)での導入を 2019 年 4 月(1 年前倒し)とする方針を明らかにした。先に国連で

採択された「国連気候変動枠組み条約第 21 回締約国会議(COP21)」での合意を遵守することが目

的。

・これに対し、インド自動車工業会(SIAM)は「BS6 向け『燃料』の前倒し導入により、同モデルの

試験走行や実証試験の実施が容易になる」と、当該「燃料」の前倒し導入を歓迎する姿勢を示してい

る。

・道路交通・高速道路省は、2017 年 12 月 1 日以降に国内で販売する全自動車(除く二輪・三輪)に対

し、高速道路等対応の自動料金収受システム(ETC)の装備を義務付けた。

<電気自動車(EV)>

・2017 年 11 月 17 日、トヨタ自動車とスズキはインド市場への電気自動車(EV)投入に向けた連携を

検討することで合意、協力関係を構築する覚書を締結した。今後、EV の開発・生産体制を整え、2020

年を目処にインド市場への本格的な電気自動車(EV)投入を目指す。両社は 2017 年 2 月、業務提携

に向けた覚書を締結。環境・安全・情報の各技術や製品補完などで協働する方針を打ち出し、具体策

について検討を進めていた。

・今回の枠組みでは、スズキがインド市場向けに生産する EV に対してトヨタ自動車が「コネクテッド

カー(つながる車)」などの分野で技術支援を行う。一方、スズキが生産した車両はトヨタ自動車側

にも供給される。同時に「充電ステーション」の整備や販売店の技術者育成、EV 普及策の立案&実

行なども含め、総合的に連携するという。

・業界内では今回の提携について、「スズキはトヨタ自動車側からの技術支援によって『開発資金』を

抑制できる。一方、トヨタ自動車はインド国内で圧倒的なシェアを握るスズキから『販売ノウハウ』

を得ることができる、正に『ウィン・ウィン』の提携といえる」と評価している。

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・インド市場における EV 普及を阻む最大の壁、「充電ステーション」の整備が進み始めた。

・政府が 2030 年までに、販売される大半の自動車を EV にする目標を掲げたことを受け、国内最大の

財閥グループ傘下の電力大手が、首都ニューデリーで EV 向け充電ステーションの展開に乗り乗り出

す意向を表明。現在、5 カ所に止まる直営ステーションを向こう 5 年間で 1,000 カ所弱まで増やす計

画を打ち出した。また、今般、親会社直営のステーション 1 カ所をムンバイに新設した。

・インド石油公社(IOC)もインド西部、西マハラシュトラ州ナグプールにおいて、初の EV 用充電ス

テーションを開設した。

・EV 業界団体によれば、2015 年度(2015 年 4 月~2016 年 3 月)の EV 販売台数は約 2 万 2、000 台、

国内の EV 台数は約 4 万台と、乗用車約 300 万台に比べ僅少。しかし、向こう 5 年で EV 台数は 600

~700 万台へ増加するとの予測もある。

・自動車メーカーは「充電ステーションが無いから EV は売れない」と言い、インフラ側は「EV が普

及していないため充電ステーションを作れない」と言う。半官半民の当該電力大手は、このジレンマ

を打ち破ることができるだろうか。インドの EV 関係者が注目している。

(自動車業界レビューの出所)各国政府・業界団体発表、各種報道

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~アンケート実施中~

(回答時間:10 秒。回答期限:2017 年 12 月 7 日)

https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=M6Aj3s

(ご参考)最近発行した臨時増刊号

「TPP11 大筋合意」2017 年 11 月 13 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20171113.pdf

「インドネシア:海外への支払に租税条約を適用する際の居住者証明新フォーム」2017 年 9 月 14 日 http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170914.pdf

(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部

(照会先)松山 昭浩 小澤 文月 福住 知子

(e-mail): [email protected]

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