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低緯度太平洋 ソーラーセル帆走筏発電システムの成立性
Feasibility study on a sailing solar cell raft system in low-latitude Pacific Ocean
中央大学理工学部: 國生剛治 江本技術士事務所: 江本永二
中央大学大学院理工学研究科博士後期課程: 加藤達也
2011年11月30日
帆走しながら発電する5km四方のソーラーセル筏のイメージ
背景と狙い CO2排出量削減の手段の1つとして、CO2を排出しないエネルギー供給システムの導入、すなわち「化石燃料」から「再生可能エネルギー」への転換が試みられている。 アメリカでは、現在計画されているメガソーラープロジェクトの合計発電量は17GW*1)に上っている。 日本ではメガソーラーの設置にアメリカのように広大かつ平坦な土地を利用することは困難である。
常に低速帆走航海することにより,領海問題は生じず,海生生物などへの影響も最小化できる。 自然エネルギーの基幹利用ができれば,地球温暖化の進行抑止だけでなく、太陽エネルギーにより人類文明を支える持続可能な社会を実現できる。
*1)REUTERS, Photovoltaics Solar in U.S. as Prices Fall, http://www.reuters.com/article/2011/07/18/idUS84562757520110718 *2)「エネルギーパラダイムシフトへの挑戦-太平洋光発電構想-」、國生剛治、建設コンサルタンツ協会誌Consultant、Vol.247、pp.70-73、2010年3月 *3)「ソーラーセル筏発電船」、國生剛治、日刊工業新聞:環境ECO特集記事、日刊建設工業、2009年6月16日
太平洋低緯度帯の公海を利用した
「ソーラーセル帆走筏発電システム」 による次世代の基幹エネルギー供給システムの提案を行う
ソーラーセル帆走筏の発電量試算
• 帆走範囲内で得られる1日の太陽エネルギー:8kWh/m2/day • ソーラーセルの変換効率: 12% (現時点で控えめな値)
本構想で提案するメガソーラーセル筏の究極の面積は25km2(5km×5km)
8(kWh/m2)×0.12×25,000,000(m2) / 24(h) = 1,000,000 kW
24時間連続稼動する100万kW級の原子力発電所に匹敵する
これらの条件よりソーラーセル筏による発電量を試算すると・・・
得られた電気は電気自動車向けに開発されるエネルギー密度の 高い新型蓄電池を満載したバッテリータンカーにより日本まで 海上輸送を行う。
*1) 「エネルギーパラダイムシフトへの挑戦-太平洋光発電構想-」、國生剛治、建設コンサルタンツ協会詩Consultant、Vol.247、pp.70-73、2010年3月 *2)「ソーラーセル筏発電船」、國生剛治、日刊工業新聞:環境ECO特集記事、日刊建設工業、2009年6月16日
既往類似研究との対比
• ポルシェ計画(Plan of Ocean Raft System for Hydrogen Economy)*1)
横浜国大・太田時男教授が1978年にマイアミ国際水素エネルギー会議にて提案した計画であり「水素経済のための太陽熱システム」で海洋に浮ぶ筏に巨大なミラーを配置し、太陽集熱、タービン発電、海水淡水化、水の電気分解、水素液化というシステムの調査研究。
• Solar Direct Energy Conversion at Sea*2)
1977年にマイアミ大・Veziroglu教授が提案した海上太陽熱発電システム。 太陽熱を蓄熱槽に蓄え、その熱で蒸気タービン発電を行い海水を電気分解し、水素を液化する。 • 太陽光利用洋上水素製造・輸送計画の調査研究(第1~4報)*3、*4、*5、*6)
1980年代に船舶技術研究所(現:海上技術安全研究所)が上記2つの研究を参考にし、筏の構造と流力特性、太陽追尾技術やそれらの技術的可能性と環境問題についての調査研究。
これらと異なり,本構想では常に帆走移動する巨大なソーラーセル筏により晴天域を航海し,原発なみの出力により,自然エネルギーの基幹利用を可能とする。
*1)太田時男;エネルギー、Vol.11、No.1、1978 *2)T.N.Veziroglu et al;Solar Direct Energy Conversion at Sea、University of Miami and Escher Technology Associate、1977 *3)遠藤久芳他;太陽光利用洋上水素製造・輸送計画の調査研究(第1報:筏の構造と流力特性)、第4号、第19巻、船舶技術研究所報告、1982年7月 *4)浜島金司他;太陽光利用洋上水素製造・輸送計画の調査研究(第2報:太陽追尾と光学系)、第4号、第19巻、船舶技術研究所報告、1982年7月 *5)山川賢次他;太陽光利用洋上水素製造・輸送計画の調査研究(第3報:筏の位置と方向の保持)、第2号、第20巻、船舶技術研究所報告、1983年3月 *6)渡辺健次他;太陽光利用洋上水素製造・輸送計画の調査研究(第4報:技術的可能性)、第2号、第20巻、船舶技術研究所報告、1982年3月
実現に必要な主要技術開発課題
このシステムの実現には以下に示す、 3つの技術開発課題を解決することが不可欠である。
変換効率 12%の場合
1.薄膜型撓み性ソーラーセル
太陽電池① 現状 2017年 2025年 2050年
モジュール(%) セル⑤(%) モジュール(%) セル⑤(%) モジュール(%) セル⑤(%) モジュール(%)
結晶Si② ~16 25 20 25 25 (30)
40%の超高効率 太陽電池
(追加開発)
薄膜Si ~11 15 14 28 18 20
CIGS系 ~11 20 18 25 25 30
化合物系③ ~25 41 35 45 40 50
色素増感 - 11 10 15 15 18
有機系④ - 5 10 12 15 15
①セルは技術の到達水準を示す指標で、研究室での小面積セル。モジュールは実用化技術段階 ②結晶シリコンは単結晶、多結晶などを区別せず、シリコン基板を用いた太陽電池として設定 ③集光時の変換効率 ④新しい太陽電池として有機系太陽電池にも開発目標を設定 ⑤モジュール目標を達成するために最低限必要なセルの変換効率
現在普及している太陽電池の変換効率は11~16%であり、本構想では筏に搭載する太陽電池の変換効率は12%と想定している。 今後の技術開発により高効率な太陽電池の開発・量産化・低下価格化が行われることで、筏を小型化し建設コストの低減が可能。
8(kWh/m2)×0.12×25,000,000(m2)/24(h) = 1,000,000kW
8(kWh/m2)×0.20×15,000,000(m2)/24(h) = 1,000,000kW
筏面積が40%減少 変換効率 20%の場合
※「NEDO 太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」より作成
帆布と一体化した薄膜型撓み性ソーラーセルの利用を前提
2. 高エネルギー密度蓄電池
• 電費0.1kWh/kmの電気自動車が500kmの連続走行を行うときに必要な電力は50 kWh。 エネルギー密度の向上したバッテリーを使用すれば、バッテリー1個あたりの重量は70 kgf/個 (≒50kWh÷0.7kWh/kg)
• 本研究でのソーラーセル巨大筏船団による1日の発電量は24,000,000 kWh/day (=8kWh/m2×0.12×25,000,000m2)
リチウムイオン電池 革新的二次電池
現状 2015年頃 2020年頃 2030年頃 2030年以降 エネルギー 密度指向型
タイプ①① ・エネルギー密度向上
・出力密度向上 ・寿命向上 ・コスト削減
二次電池の分類
(エネルギー密度) (出力密度)
(カレンダー寿命) (コスト)
100Wh/kg 1,000W/kg
5~8年 100~200円/Wh
250Wh/kg 1,500W/kg 10~15年 20円/Wh
700Wh/kg 1,000W/kg 10~15年 5円/Wh
革新的二次電池
①EVなどを主用途としたグループ。①~⑦のタイプがあり、その中で最もエネルギー密度の向上が求められている。 ※「NEDO 二次電池技術ロードマップ2010」より作成
エネルギー密度が7倍向上
全個体電池 金属-空気電池 多価カチオン電池等
1日の発電量(kWh/day)を50kWh/個で割ると…
1日あたりのバッテリーの必要個数は4.8×105個/day (=24,000,000kWh/day÷50kWh/個)
1日あたりのバッテリー重量は34,000 tf/day (=70kgf/個× 4.8×105個/day)
現在運航している石油タンカーは最大級30~50万トンの積載重量があるため、同じ積載重量のバッテリータンカーを建造すれば、1隻でソーラーセル巨大筏船団10日~2週間分の発電電力を運ぶことができる。
3.軽量折り畳み可能な革新的筏浮体の開発
従来の鋼鉄やコンクリートからなる剛性浮体ではなく、
新材料を活用した軽量で折り畳み可能な革新的浮体構造の開発
ソーラーセル筏
• 最大の太陽エネルギーを求め,常に低速帆走するための最適構造の追及。
• 2500ユニットで構成され、たとえば1ユニットは100m×100m。
• 各ユニットは撓み性ソーラーセルで覆われた帆・帆柱とそれを支えるフロートから構成され、帆は受光効率と帆走効率を考えて最適な角度制御が行われる。
• 波浪による浮動を軽減するべく、フロートは半潜水式浮体が採用され、フロートの浮力や帆布の角度は圧縮空気により制御される。
• 母港から操業海域の往復航海では膨大な数の筏ユニットはコンパクトに折り畳まれた状態で曳航され、発電海域到着後に展開できる構造とする。
機能低下につながる海生生物の付着防止や劣化防止策などの
ソーラーセル筏のメンテナンス技術開発
これらの実現には、革新的なアイデアが必要
1ユニットのイメージ例
130 140 150 160 170-30
-20
-10
0
10
20
30130 140 150 160 170
北緯
(°
)
(kWh/m2/day)
南緯
(°
)
180 170 160 150 140 130 120 110 100 90
180 170 160 150 140 130 120 110 100 90
-30
-20
-10
0
10
20
30
3.03.54.04.55.05.56.06.57.0
6.0-6.55.5-6.0
5.0-5.5
4.5-5.0
5.0-5.5
6.5-7.0
6.0-6.5
5.5-6.04.5-5.0
東経(°) 西経(°)
発電海域の日射エネルギー
赤道
Google map
*1)Surface meteorology and Solar Energy:Release 6.0 Data Set, NASA, Jan 2008
この海域で得られる太陽エネルギー: 年平均5~7.0 kWh/m2/day
気象衛星による長期気象予報技術を活用し、 晴天域を回遊することで、8kWh/m2/day以上の 発電効率を実現する。
6.5~7.0
6.0~6.5
6.0~6.5
EEZ
発電海域の風速・風向
風向・風速(北半球)
低緯度太平洋風速(海面上10m:NASAデータによる)
January July
帆走省エネ航海に適した穏やかな海上風
130 140 150 160 170-30
-20
-10
0
10
20
30130 140 150 160 170
南緯(°)
西経(°)(m/s)
東経(°)
北緯(°)
180 170 160 150 140 130 120 110 100 90
180 170 160 150 140 130 120 110 100 90
-30
-20
-10
0
10
20
30
1.02.03.04.05.06.07.08.09.0
6~7
5~6
4~5 3~4
6~7
5~6
発電海域の波高
February
September
低緯度海域は年間を通して波高1m程度と穏やかで、台風も来ない。
発電海域の海流
北赤道海流・南赤道海流・赤道反流を使って省エネ航海が可能
*1)北太平洋気あ洋気候図,気象庁(2003) *2)National Geospatial Intelligence Agency (2002)
•太平洋低緯度海域は地球屈指の豊富な太陽 エネルギーに恵まれている. •1日8kwh以上の日射エネルギーが得られる. •海上風・波浪もおだやかで海流条件も好条件. •海上風や海流を利用することで筏の移動に必要な エネルギー消費を抑えた省エネ航海が可能.
•3つの主要技術課題を解決し,20~30年で 実現めざす.
まとめ
2012年度:-本エネルギーシステムの成立性検討基本条件の設定 -気象・海象データの分析 -薄膜撓み性ソーラーセル,高密度エネルギー蓄電池 技術の将来動向調査 2013年度:-筏ユニット試設計・概略構造計算 2014年度:-筏船団ならびに各構成部分の基本概念検討と絞込み -本エネルギーシステムの技術的成立性ならびに その全体・主要部の目標上限コストの明示
今後の研究計画
低緯度太平洋�ソーラーセル帆走筏発電システムの成立性スライド番号 2背景と狙いソーラーセル帆走筏の発電量試算既往類似研究との対比実現に必要な主要技術開発課題1.薄膜型撓み性ソーラーセル2. 高エネルギー密度蓄電池3.軽量折り畳み可能な革新的筏浮体の開発発電海域の日射エネルギー発電海域の風速・風向スライド番号 12発電海域の海流スライド番号 14スライド番号 15