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第1章放射線の経歴害
微量な放射線について語ろうとすれば、まずわれわれを取り巻く自然界にある放射線について
話を始めなければならない。
自然界の放射線の大部分を占めるのは地殻中に存在するウラン、トリウム、それにカリウム釦
などの放射性元素だ。これらは地球誕生以前から宇宙に存在していて、宇宙のちりが集まって地
球ができたときに、地球の地殻中に存在するようになった。ウラン、トリウム、カリウム伽はみ
な放射能が半分になるのに十数億年から数十億年という長い時間(半減期)がかかる、長寿命の
放射性物質である。地球創生以来今日まで放射線を出し続け、それが自然界の放射線源になって
い
る⑥
1放射能の起源
第1章 放射線の経歴群2
ウラン、トリウムの大部分を占めているのはウラン238とトリウム232という放射性同位
元素だ。これらは、ウラン系列、トリウム系列という放射性壊変の始祖になっていて、例えば、
ウランはウラン238から出発して安定な鉛206になるまで一阿回も姿を変えていく。同じよ
うにトリウムもトリウム232を出発点として一○回放射性壊変を繰り返す。ウラン238、ト
リウム232が放射性壊変する過程で生まれる元素も放射線を出している放射性物質である。
亀
ら飛来、主に陽子)
痔琴錘
2高地
生(H-aC-14、Be-7など】
これからさらにβ線、y線などが放出されを
。。ま籍ラドン(気体〕a▲零
α、β、Y線
'言ドンの娘核種
壊変して嬢核講晶○口cc
l放射能の起源
QogbQ雛織2ウム系列カリウム40。○
図1-1●自然放射線の起源。われわれはさまざまな放射.線をあびながら暮らしている。それら放射線を自然放射.線と呼び、主なものは地殻中にあるウランとトリウムを出発点とする各種の放射性物
質、そしてカリウム40である。図巾ラドンとあるのはウラン、
トリウムが壊変してできる気体である。そしてもう一種が、宇
宙線由来の放射線だ。宇宙線そのものは強.力な放射線だが、地球の磁場と大気によって、地表にはほとんど達することはない。
ウランやトリウムと異なるのはカリ
ウムだ。カリウムは地殻中に含まれる
物質のうち八番目に多い。その○・○
一一七パーセントが放射線を出すカリ
ウム“で、これは半減期一三億年で崩
壊しカルシウム鉛あるいはアルゴン伽
になって安定する。
以上が、地殻中にある放射性元素だ
が、自然界の放射線には、さらに宇宙
線由来のものがある。宇宙線は太陽か
ら来るものと、それよりはるかに強力
な、超新星の爆発によって生み出され
たものとがある。
これらの宇宙線は地球に到達すると
大気中の原子と衝突しトリチウム、ベ
リリウム7、炭素皿などの放射性元素
愚
を作り出す。しかし宇宙線由来の放射線が自然界の放射線に占める割合は、地殻中にあるものの
それに比べればきわめてわずかである。というのも宇宙線はきわめて強力であるが、地球の自転
によって作られている磁場と、われわれの上にある厚い大気の層がバリアになって遮られ、地表
近くに届く宇宙線はわずかだからである。
る0
つまり蛍光物質と写真乾板があって、レントゲンは初めて放射線を発見することができたので
2放射線を測る道具
第1章放射線の経歴iI} 4
自然界にある微垂な放射線から宇宙の巨大な放射線源まで、われわれは放射線についてきわめ
て多くのことを知っている。こうした知識を得る過程で必要不可欠だったのが放射線を見て、そ
して測るための道具である。
放射線を初めて見たのはドイツの科学者ウィルヘルム・コンラッド・レントゲンだ。一九八五
年の暮れも押し迫ったある日、レントゲンは真空管の放電実験をしていたときに、たまたま近く
にあった蛍光物質が光ることに気がついた。またこの蛍光物質を光らせるⅡに見えない謎の光が
写真乾板を感光させることにも気づいた。レントゲンはこの謎の光をエックス(X)線と端づけ
▽
境迦 電圧計
放射線
ラ2放射線を測る道具
図1-2電離箱。放射線が入ってくると、空気分子がプラスとマイナス
のイオンに分離し、電極間に電流が流れる。
陰極
ある。蛍光物質と写真乾板は、はるかに改良されてはいる
が今日でも医療をはじめ、放射線を見るための有力な手段
の一つになっている。
レントゲンによるX線の発見は世界に衝撃を与え、翌年
にはベクレルがウランの放射能を、また一八九八年にはキ
ュリー夫妻がラジウムやポロニウムを発見し、放射線の研
究が進んで行った。(「放射能」と「放射線」についてはコ
ラムで後述する。)
キュリー夫妻は放射線を見るだけでなく、さらに進んで、
放射線の強さを正確に測定しようと電離箱を発明したのだ
った。これは放射線によって空気分子がプラスとマイナス
のイオンに分離することを利用するものだ。電極の間に電
圧をかけておくと、そこに放射線が入って空気分子を電離
すると樋流が流れる。この電流の強さを測れば放射線の強
さがわかるのである。電離箱の原理は後に開発され大活躍
するガイガーカウンターに通じるものだ。
計数器
放射線放射線(/洪誕
|醗哩’操 …
鳥い窓幽迩_、陰極/
図1-3.ガイガーカウンターの原理。放射線が入ってくると不活性ガス
が電離し陽極と陰極の間に電流が流れる。
写真乾板・蛍光物質、電離箱に続いて放射線を見る道具として
登場したのが「ウィルソンの霧箱」だ。水蒸気を含んだ空気の温
度を下げていくと、塵やイオンを核にして小さな水滴、霧が発生
する。ウィルソンの霧箱もこれと同じ原理だ。水蒸気やアルコー
ルを含んだ空気を密閉し一気に放出すると気体の温度は下がる。
ガスボンベのガスを放出するとボンベが冷たくなるのと同じであ
る。温度の下がった気体の中に放射線が飛び込んでくると、その
通り道に沿って霧が発生し放射線の軌跡が見えるようになるので
ある。
「ウィルソンの霧箱」は単純なように思えるが、物理学の歴史
のうえで重要な貢献をした。アメリカの物理学者A・C.Dアン
ダーソンはウィルソンの霧箱を鉛で仕切り、放射線の速度を遅く
して正確な測定ができるようにし、さらに霧箱を磁界の中に置い
て放射線のふるまいを観察した。その結果、陽電子やミューオン
などの粒子を発見したのである。
放射線の強さを即座に測ることができる道具は一九二八年(昭
第1章 放射線の経歴書 6
2放射線を測る道具
ベ図1-4.ガイガーカウンター
和三年)にドイツのハンス・ガィガーと
イギリスのミュラーによって発明された
ガイガーカウンターだ。
ガイガーカウンターのしくみは次のよ
うなものだ。アルゴンガスなど不活性ガ
スを封入した筒の中に陽極と陰極をおい
て高い電圧をかけておく。こうした状態
のときに、筒の中に放射線が入ってくる
と不活性ガスは電離されて、陽極と陰極
の間にパルス電流が流れる。このパルス
電流の強さは、放射線によって電離され
た電子の数に比例するので、パルス電流
を測ることで、放射線の強さを計ること
ができる。ガイガーカウンターはガイガ
ーミュラー計数管、GM計数管とも呼ば
れ、発明から七○年以上もたつ今日でも
7
純水
光電子増倍管
〆
7
図1-5.カミオカンデの仕組み。純水が満たきれ、ここにニュートリノ
が入ってくるとまれに水の原子と衝突しチェレンコフ光を発す
る。それを光電子増倍管でとらえる。
広く使われている。
放射線を測る道具の開発には日本
人も大きな貢献をしている。一九五
しゅんじ
七年、大阪大学の福井崇時氏、宮本
重徳氏によってスパークチェンバー
が開発された。
スパークチェンバーは、ヘリウム
ガス(発明時はネオンガス)の中に
何屑にも電極を積み上げた榊造をし
ている。ここに放射線が入ってくる
と、ヘリウム原子の電子がはじき飛
ばされて、プラスの電圧のかかった
電極に、加速しながら引き寄せられ
ていく。このとき、電子は他のヘリ
ウム原子の電子をはじき飛ばすので、
雪崩をうったようにたくさんの電子
第1章放射線の経 歴 書 8
2放射線を測る道具
図1-6.水を抜いた内部には光電子増倍管が見える。
を作り出し、スパーク(放電)を発生する。スパ
ークは電極の間に次々と起こっていくので、その軌
跡を見ると、放射線が飛来した方向がわかるしくみ
だ。スパークチェンバーは発明後、瞬く間に世界の
研究所に広がり、改良され、また巨大なものが作ら
れて、放射線のうち電荷を持った高速の粒子の検出
に活躍したのだった。
しかし一九六八年、ジョージ・シャルパック(フ
ランス)によって多心比例計数管が発明されるとし
だいに使われなくなった。スパークチェンバーは、
今日では各地の科学博物館などに展示され、宇宙か
らやってくる放射線・宇宙線をとらえてはスパーク
を発して、来館者の感動を誘っている。
放射線を測るための道具はその後も数多く開発さ
れてきた。何か新しい研究をするために、新しい放
射線を測る道具が必要になるということもしばしば
』
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1
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句 _豊二三雲
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塞ぎ=
区
型副
10第1章 放射線の経歴書
幹▼字同守
6口図1-7.半導体検冊器
である。ニュートリノの研究でノーベル賞を受賞
した小柴昌俊・東大名誉教授が開発した「カミオ
カンデ」もその一つであろう。カミオカンデは、
岐阜県飛騨神岡の「池の山」の山体の中にあって、
直径一九メートル、高さ二二・五メートルの腕大
な茶筒のような形状をしている。茶筒の内壁には
光電子増倍管というわずかな光も感じるセンサー
が一万一二○○個取りつけられている。茶筒には
水が満たされていて、ここにニュートリノが入っ
てくると、水の原子とごくまれにではあるが衝突
し、チェレンコフ光という弱い光を発する。その
弱い光を光電子増倍管でとらえるのである。
ところで、今日最も便利に使われているのは、
半導体を用いる半導体検出器である。半導体は放
射線を受けると、中に自由電子と正孔を生じ、そ
れぞれプラスとマイナスの電極に集まるので、そ
2放射線を測る道具11
のときの電流を測れば放射線の強さを測ることができる。半導体検出器は非常に敏感で、微量な
放射線を測るのになくてはならない放射線を測る道具である。
でⅡaUr&v6色可#凸UⅡaq〃4回”lqrA町刀血G7jAT2q宮口△巳Dj-GF二言Ⅱ一眉r
コラム放射線の言葉
放射能・放射性物質・放射性元素・放射性同位体・放射性核種
放射線や放射能については、今もって混乱して使用される場合が少なくない。両者の違いは、放射能
とは放射線を出す能力のことで、その能力を持つ物質を「放射性物質」という。ところが最近では、放
射能を放射性物衝と同じ意味で使用する場合も見られるようになってきた。
放射線はわかりにくいという一因に、放射線の単位の問題と並んで言葉の問題があるように思われる。
その第一が放射能・放射性物質・放射性元素・放射性同位体・放射性核種といった言葉たちだ。これら
は同じ物質をさす場合もあれば、違う物質のこともある。
例えばウラン。ウランにはウラン234、ウラン235、ウラン238の三つの同位体があ愚。これ
ら三つはすべて放射線を出しているので、放射性物質であり、放射性元素であり、放射性同位体であり、
放射性核種である。さらに放射能も放射性物質と同じ意味で使われるとすれば放射能でもあることにな
る。ウランは五つの顔を持っていることになる。
一方モザナイトという鉱石がある。インドやブラジルにはモザナイトの鉱山があって、これらの地域
では自然放射線のレベルが高い。モザナイトには放射能があって放射線を出しているからだ。モザナイ
トの放射線は、それに含まれているウランやトリウムによるもので、つまりモザナィトは元素ではなく、
放射性元素・放射生同立体・放射性核種ではないが、放射性物質であり放射能ということにもなる。
あらためて盤理すると、放射性物質と放射能とは今日では同じように使われる。また放射性元素・放
射性同位体・放射性核種はほぼ同じ意味である。しかし放射性物質・放射能と放射性元素・放射性同位
-11J6”ぴPTⅡG7■174790もⅡ&r民君Ⅱ9当1760曲7A?&VdGF-■▼41℃r,▲7-■F且ロロ
2
9今1雪.1.
放射線の経歴書
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一一コラム放射線の言葉
一放射能・放射性物質・放射性元素・放射性同捨
・マ
『放射線や放射能については、今もって混乱し一
仏叩
一とは放射線を出す能力のことで、その能力を持(
』射能を放射性物一竹(と同じ意味で使用する場合も同
一放射線はわかりにくいという一因に、放射線(
帳その第一が放射能・放射性物質・放射性元素烏
今
却は同じ物質をさす場〈ロもあれば、違う物質のこし
峠例えばウラン。、ワランにはウラン234、ウー一
手
一ら一一一つはすべて放射線を出しているので、放射緋
》放射性核種である。さらに放射能も放射性物質し
』る。ウランは五つの顔を持っていることになる。
一
劃一方モザナィトという鉱石がある。インドや↓
や
一では自然放射線のレベルが高い。モザナイトに砕
李
一卜の放射線は、それに含、まれているゥランやト、
》放射性元素・放射生同立体・放射性核種ではない
》あらためて盤理すると、放射性物質と放射能し
》射性同位体・放射性核種はほぼ同じ意味である。
今つ●勺培←トー~宅畠岳全一今会=_二全ロ畠←P一 一 つ
第1章
……i
体・放射性核種とは異なっている。
ところで、この本では放射性同位体や放射性核種という言葉はできるだけ避け、放射性物質、放射性
元素という言葉を使っていくことにする。
同位体原子の中心にある原子核は陽子と中性子からなっている。原子核の陽子の数は元素ごとに決
まっているが、中性子の数は、同じ元素でも違っている場合があり、これを同位体という。例えば、
炭素は、陽子の数は六、しかし中性子の数は六と七と八の三種類があり、これらが同位体だ。
同位体の中には不安定で、放射線を出して安定な同位体に変わっていくものがあり、これを放射
性同位体という。炭素の場合は炭素⑫と、炭素週が安定な同位体で、炭素皿が放射性同位体である。
炭素型はベータ線を出して安定な窒素型に.変わっていく。
放射性核種放射性同位体と同じと考えてよい。
叩
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2放射線を測る道具
÷害鳥一袖ヨロョ】蛤=当今吟酎トク●増←鴎テロu昌合廻畠p討促己笥J首一m唱回胃皿H■再I員一一ふい
15
3姿を変える放射性物質l放射性壊変
第1章放射線の経歴群14
自然界にある放射性物質のうち、ウランやトリウムは、四六億年前、宇宙のちりが集まって地
球ができたときからすでに存在していた物質だ。しかしウランやトリウムの量は、地球創生時に
比べ、今日では大きく減っているはずである。なぜなら、ウランやトリウムのような放射性元素
は、放射線を出しながら他の元素へ変化していくからだ。このように放射線を出して他の元素へ
変わることを放射性壊変という。
多くの放射性元素は、α線やβ線を出して一回あるいは数回の放射性壊変で放射線を出さない
安定な元素になっていく。ところがウランやトリウムには、ウラン系列、トリウム系列、アクチ
ニウム系列と呼ばれる、十数億年、数十億年という長い放射性壊変の過程がある。
ウランには、ウラン238、ウラン235、ウラン234という仲間(同位体)があり、この
うち、量的に最も多いのがウラン238でウラン中の九九・二七パーセントと、ほとんどを占め
ている。放射性壊変のウラン系列は、ウラン238に始まる。ウラン238の半減期は四五億年、
つまり四五億年で半分の量が次のトリウム234に変わる。このトリウム234は半減期二四日
で次のプロトアクチウムに変わっていく……。このようにしてウラン238はつぎつぎと一四回
z篭Raラジウム
ロァミ=
今岬門難ト「婆ト畷'1ト篭Uウラン
4冒緬里
甥Thトリウム
フ4口
z訓Paプロトァクチウム,号
篭Uウラン
墾元瞳
甥Thトリウム
8万鉱
z龍Raラジウム
YECC=
z弱Rrlラドン
ヨーn口
2脳PCボロニウム
3釜
z賭Pb鉛27卦
甥Biビスマス
ZO労
2蕊PCボロニウム
1E弓マイク、儲
皇>MI-LH陛卜’82.RIJ哩歩|里呈些>α
一>
翌Pb鉛22蛭
報Biビスマス
目向
z農POポロニウム
羽8回
2器Pb鉛喪沈
-9->l8z.AL'L2->|,里呈些少|堂_Ly陰,
トリウム(4,)系列
H難トド藩H秘トー剛豊嶋トr許’
2器ThトリウムL4O垂10コ毒
ウラン(4,+2)系列
2篭ACアクテニウム
5-1且跨塁
甥Thトリウム
lqlZ垂
z篭Raラジウム
356m
z器Rlnラドン
墨_G”
z開PCポロニウム
n.1邑胃”
篭Pb鉛
ヨユ0分
籍Biビスマス
EDS皇②
一望一う
ユ〉 二歩
2股Pb鉛笠滞
-> 一
2:WTIタリウム
。、呂可外
一旦ト
図1-8.ウラン系列とトリウム系列
の放射性壊変を繰り返し、鉛206に
いたって放射線を出さない安定な元素
になる。そして、ウラン238に始ま
り鉛206にいたる間に登場する一四
の放射性元素が出す放射線が、自然界
の放射線の一部を構成しているのであ
る。
トリウム系列は半減期一四○億年と
いうトリウム232を始祖として、一
○Mの放射性壊変を繰り返し安定な鉛
208となる。そしてアクチニウム系
列はウラン235を始祖とし鉛207
にいたる放射性系列である。
153姿を変える放射性物質
:鰯
PC垂州
自然界にある放射線の多くは、ウラン238系列とトリウム232系列による放射性元素に由
来する。両者の放射性壊変の系列を見ていくと、両方とも系列の中にラドンがあることに気づく。
ウラン系列ではラドン222、トリウム系列ではラドン220である。これらはラドンの放射性
同位体で、両方ともラジウムが放射性壊変して生まれる。
ラジウム、ラドンとくれば「おやつ」と思われた方も少なくないと思う。そう、両者ともラジ
ウム温泉、ラドン温泉の名称のもとになっている放射性物質である。
ラドンは何ものとも化合しない不活性の気体で、ラドン218、ラドン219、ラドン220、
ラドン222など、なんと三○種以上の同位体があり、いずれも放射能を持っているが、みな半
減期が短く、最も長いラドン222でも三・八日にすぎない。(なおラドン220は別名トロンと
ところで、ウランやトリウムは大地を構成する料石や土壌に広く薄く存在している。したがっ
て、ウランやトリウムが放射性壊変することで生まれるラドンも、地殻中に満遍なく発生し存在
していることになる。
4ラドンー近年健康への影響に注目
第1厳放射線の経歴評16
も呼ばれる。)
4ラドン7
発生した気体のラドンは、一部は地下水に溶け込んで、地下水とともに流れ出していく。また
一部は、地殻の隙間にたまり、やがては空気巾に放出され、大気中に広がっていく。
地下水に溶け込んだラドンについては、これを利用して地下水の動きを調べようという研究が
ある。地下水が地表に出て川となるが、地下水には先にも述べたようにラドンが含まれている。
ラドンの半減期はおよそ四日と非常に短いので、川の流れに沿ってラドンの濃度を測っていき、
ラドンの濃度が高くなっているところがあれば、そこには地下水が湧いていると考えられ、川の
水源を知ることができるというわけだ。
また地殻中のラドンは、地殻変動や火山活動と関係があると考えられ、ラドンの状況を調べる
ことで、地震予知ができないかという研究も進められている。
一方大気中に拡散したラドンはどうなるのだろうか。ラドンおよびラドンが放射性壊変してで
きる放射性元素(子孫核種あるいは娘核種ともいう)は、大気中の自然放射能の大部分を占めて
いる。それにより人が一年間に受ける被ばく線量は一・二ミリシーベルト程度になり、地表で生
活する人の自然放射線被ばく量のおおよそ半分を占めている。
近年、ラドンによる健康への影響が注目されている。ラジウム温泉やラドン温泉のラドンによ
る健康への影響は科学的に十分解明されていないが、密閉された温泉内では、その濃度はかなり
高くなる可能性があり、密閉した温泉内にいることは避けたほうが良いとされている。
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一一一門Q一因埠一,凸’-,凸・一.HQ-QlIOつ,..ー.‘.型烏一型や一-DUO・一・'00一全-,,,0一一一一・・口・一コh一里06一ⅢIC÷一つづつ。かつ判ID●
コラム幻のネプッニウム
自然界にはウラン系列、トリウム系列、それに錆はわずかだがアクチニウム系列と三つの放射性壊変
の系列があり、それによってできる放射性元素が自然界の放射性元素の大きな部分を占めている。とこ
ろが放射性壊変の系列には、現在では失われてしまっているがかつてはもう一系列あったことがわかっ
ている。
ウラン系列、トリウム系列、アクチニウム系列の三つの系列はある規則性を持っている。それは、こ
れらの系列が放射性壊変していくとき、系列の元素の質批数はそれぞれ誉.営十函.盲圭(nは整数)で
表されるというものだ。例えばウラン238から始まるウラン系列には、ウラン238、トリウム23
4、ラドン222、鉛214などの質量数を持つ元素がある。これらはみな含‐畠になっていることが
わかる。
放射性壊変系列の質量数に、このようにみごとな規則性があると、ここにもう一つ含圭という系列
があってもよさそうである。しかし現実には存在していないので、これを失われた系列と考えたのであ
る。ところが二○枇紀に入って、ネプッニウムが人工的に作り出されて、ネプッニウム系列のあったこ
とが明らかになった。ネプッニウム系列は、ネプッニウム237に始まってビスマス209で終わる。
この系列は、半減期が一番長いネプッーーウム237でも二一四万年しかないため、地球上から失われて
しまったのである。
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雛1噸放射線の経歴TIド
一・』冊- 0 1 1 0 . - 一制字一
輯7もワム7もr4羽4℃,二もワもJら▼且UlJA7-BⅡユァユ?当》・Gr《色76ワニ9jも日昌er4UrP7-qrAy-DJ民79J47もJ長yGr▲7G▼も》6J▲頑f6万4DpjGv全T4r
q’2』・’1J■0MJ
割’1‐11111..1.’‐1・‐’1.‘1.1‐、411j■1J■14可Ⅱ..’‐..a■1口君1口01口君.‐I‐。‐a■1.qIp“q‐言1■00差rも丁皇7▲▼0造I▼47△F邑rQ7とrも一口●当17三F0画a7もr呈rも”P含亙り恥叱酢如舛弛。即息3口叩き4J尋。T尋41包寺山計dT§.40‐自凸、0通一a可、’畠』・1’一口。‘・睦岳一一。‐心唾U衝‘催一一‐且ロワロ‐伶万‐他心rr・喝一デ哩皿唾、〃・仁一
IIIEご周810一コ0つ・'10●QIIo・÷寺今O1IU・一o110つOIIU●o8160コ烏合ご呂含勺一胃←E出少。QnU与閏11,-ワIIL÷0t16÷0110己畠割増←一一lIQ-lIo争胃IIo÷●÷凶10つQ1100つ・IIB・一Qllo÷q自:=ごDii;一曲i二一
-階一一季一つ今一・÷ふざ→妄茎。--一一一一一・----つ。-。一酷島一一F=‐李一傘一一ぎぎ一一か÷・→一一一-4
194ラドン
lI
図1-9.岐阜県飛零川沿いに見られる日本最古の石の露頭
コラム日本最古の石を発見した放射性壊変による
年代測定
かふめそうれきがん
岐阜県飛騨川沿いに一』ハ億年前に誕生した「上麻生喋岩」と呼
ばれるⅡ本雌古の石の露頭がある。一九七○年にこの石が発見さ
れた頃、最古の石の年代は四億年とされていたので、この発見は
一挙に一○億年以上もさかのぼるものであった。岩石の年代は日
本列島の年代を物語るので、R本列島の歴史が一○億年さかのぼ
ったことになる。ところで石の年代はどのように測定されたかと
いうと、カリウム伽が放射性壊変してアルゴン鋤になることを利
用した「カリウム・アルゴン法」によって行われたのであった。
一般に、溶岩から岩石が形成されるとき、溶岩中のアルゴンは
揮発性が高いため大気へ放出されてしまう。したがって誕生した
ばかりの岩石には、アルゴンはなく、カリウムのみが存在するこ
とになる。そしてその時点から岩石には、カリウム伽が放射性壊
変してできるアルゴン鋤が蓄職されていく。カリウム・アルゴン
法はこの現象を利用して、岩石中に含まれるカリウム棚とアルゴ
ン如の蛾を比較解析し年代を割り出す。
放射性壊変を利用した年代測定法には、他に「炭素法」「ウラ
ン・鉛法」「ルビジウム・ストロンチウム法」などがある。
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5宇宙からの放射線
第1章放射線の経歴書2c
自然界の放射線は微量なものだが、ひとたび側を宇宙に転じれば、そこには強烈な放射線が飛
び交う世界がある。そして宇宙の放射線は絶えず地球にやってきているのだ。
宇宙の放射線の発生源で最も身近にあるのは太陽だ。太陽からは、陽子や電子、それにX線や
中性子もやって来る。
二○○二年七月三日、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とアメリカ航空宇宙局(NASA)が打
ち上げた太陽観測衛星「SOHO」が、太陽の大爆発をとらえたというニュースが大きく報じら
れた。爆発によって、大量の陽子や髄子が秒速四○○キロメートルから八○○キロメートルとい
う猛スピードの粒子群となって、宇宙空間へ広がっていった。この大並の粒子に直撃されれば、
地球は大きな被害をこうむることになる。しかし地球には自らの自転によって作り出している磁
場と大気というバリアがあり粒子に直盤されることはない。
地球にはほかにも宇宙から放射線が降り注いでいる。この宇宙線がどこからやってくるのか長
い間謎であった。近年になって超新星の爆発によって宇宙空間に放出された陽子、ヘリウム、鉄
の原子核などであることがわかってきた。この宇宙線は地球上層部で大気と衝突し、中性子、陽
れる。
子などの二次宇宙線を作り出す。年代測定で活躍する放射性炭素皿はこの二次宇宙線で作り出さ
5宇宙からの放射線21
ところで、もし私たちの眼がX線を感じることができたら、宇宙は真っ暗ではなく、明るく見
えるはずだ。宇宙はX線で満ちているからだ。
宇宙のX線源の一つは太陽である。また宇宙には太陽の数万倍も強力なX線を発している天体
がある。そのX線天体の温度は、それが発するX線の強さから、数千万度であると考えられてい
る。太陽表面の温度は六○○○度であるから、それよりもけた外れに熱い星である。
また、宇宙からやって来る放射線の中に、長い間「幽霊のような」とか「幻の」と表される放
射線があった。ニュートリノである。ニュートリノは宇宙からやってきて、地球を軽々と通り抜
けていく。私たちの身体も、毎秒一平方センチメートルあたり六六○億個ものニュートリノが通
り抜けている。ニュートリノが「幻の」と表されていたのは、他のものとほとんど反応もせず、
周囲に何の痕跡も残さず、なかなか観測できなかったからだ。
このニュートリノを、カミオカンデという巨大な観測装置を地下深くに作って観測に成功した
のが、先年ノーベル賞を受賞した小柴昌俊・東大名誉教授だ。カミオカンデによってニュートリ
ノには質量があることなど、その謎が明らかになりつつある。
宇宙からやってくる放射線Ⅱ宇宙線は、地上の放射線に比べはるかに強力で、しかも宇宙の謎
を解き明かす情報をもたらすものなのである、
6年代を教えてくれる炭素脚
第1章 放射線の経歴書 鵬2
自然界にある放射線の中で、その並はきわめてわずかだが、しばしばマスコミにも登場するの
が、年代測定に使われる放射性炭素皿である。
最近も、弥生時代初期、紀元前四~五世紀と考えられていた稲作の開始が、土器に付着してい
た〃ふきこぼれ″を炭素皿によって年代測定したところ、五○○年さかのぼる、という研究結果
が発表され、考古学会の大論争を引き起こしている。
炭素は、動物や棚物を作っている主要な元素で、Ⅲ然界には三種類の炭素の同位体がある。何
位体の九九パーセントを炭素胆が占め、残りのほとんどは炭素週で、年代測定に重要な放射性炭
素狸の量はわずかに○・○○○○○○○○○一二パーセント、一兆分の一にすぎない。
炭素皿は、宇宙線によって作られる中性子と大気中の窒素原子(噸)との核反応で生まれる。
生まれた炭素Mは規則的に放射性壊変し、また窒索Mに戻っていく。はじめにあった放射性同位
体が崩壊して半分の並になる時間を半減期と呼び、炭素Mの半減期は五七三○年である。
大気の上層でできた炭素皿は酸素と化合して、二酸化炭素の形で大気中に一様に広がっていく。
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◎炭言言14
穀苓
圏
ノ○、、
¥浄鶏
|匡豆
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ウ:⑪ 厩
CZD炭素14を含む二登化戻素(CD苫〕
6年代を教えてくれる炭素14別6
率琴
一
夢夕BEE
▼
、 、軸
効
図1-10.放射性炭素14は宇宙線によって作られ、二酸化炭素となって生物に取り込まれる。
大気中では、宇宙線によって作られる炭素
Mの鮭と放射性壊変で失われる炭素Mの堂
がちょうどつり合い、いつも一兆分の一と
いう一定の割合になっている。
植物はこの炭素皿を含む二酸化炭素を光
合成で内部に取り込み、動物はその植物を
食べて……と、生命活動を続けている限り、
生物は体内に大気と同じ割合で炭素必を持
つことになる。
ところが、植物は枯れ、動物は死ぬと、
外界から新たに炭素必を取り込むことがな
くなるので、体内の炭素凶は壊変で減り続
けるだけになってしまう。したがって遺物
に残っている炭素皿の割合を測れば、枯れ
たり死亡してからの時間がわかるのである。
もしも今、遺物に一兆分の一の半分、二兆
分の一の炭素側が残っているとすれば、その遺物は、五七三○年前に生命活動を停止したことが
わかる。四分の一なら一万一四六○年、八分の一なら一万七一九○年ということになるのである。
(実際には、年代によって炭素皿の量は多少異なっている。そこで、木の年輪などに含まれる炭
素皿の量のデータから、時代ごとの炭素理を測るなど、年代を補正している)
7人工的に作られる放射線
第1章放射線の経歴 書 24
地上には自然の放射線だけでなく、人間が作り出している放射線もある。自然界の放射線はき
わめて弱いため、人間が放射線を何かに利用しようとすると人工的に作り出す必要がある。
例えば、医療機器の滅菌や放射線治療など広く使われているコバルト印は、原子炉でコバルト
に中性子を照射して作られている。コバルト印の半減期は五・二六年と適当な長さであることも、
利用しやすい条件になっている。
医療や産業用としてしばしば利用されているのがX線だ。X線も宇宙を除けば、自然界には存
在しない。そこで電子管によって人工的に作られる。電子管は陰極と陽極を持ち、陰極で発生し
た巡子が、高畑圧をかけた陽極に引っ張られて、その陽極に衝突する。遮子は陽極の原子内で運
動に急ブレーキが掛かった形になり、その運動エネルギーの一部がX線として放出されるのであ
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7人工的に作られる放射線
高電圧
/7ララこX線
図1-11.X線は地球上では人工的に作られる。その原理図、陰極A
で発生した電子は陽極Bに引っ張られBに激しく衝突する。そのときBからX線が発生する。
る。こうした仕組みのX線発生装置は一九一三年に、
W・D・クーリッジにより発明された。
X線発生装置は任意にX線の強さをコントロール
でき、健康診断などでもよく使われる。そのエネル
ギーはキロ電子ボルト単位だ。
しかし産業用やがんの治療用にはさらに高いエネ
ルギーをもつ、メガ電子ボルト単位のX線が必要に
なる。メガ電子ボルト単位とは診断用X線の一○○
○倍の強さだ。
強力なX線は、陽極であるターゲットにぶつける
電子の速度を高速にすることで得られる。電子を高
速にする装置の一つが線形加速器でその名「線形」
から「リニァック」と呼ばれている。放射線治療装
置「リニァック」のX線はこのようにして作り出さ
れている。また物理実験に使われるリニアックには、
長さ六○○メートルを超えるような長いものもある。
閏'1 -12.電子を筒速に加速するリニアック。
リニァックは直線上で電子を引っ張り加速するの
で、直線の長さによってX線の強さは制約を受けて
しまう。そこで電子を円周上にぐるぐる周回させな
がら加速させる方法もある。これがサイクロトロン
とかシンクロトロンと呼ばれる装置だ。加速する粒
子も、電子、陽子、イオンと蛎広い。
円周状に加速する装置の、大型のものの一つが、
財団法人高輝度光科学研究センターが運営するスプ
リング8だ。円形の加速器は直径五○○メートル、
そこには電子を円周状に回転させるための電磁糊が
びっしりと並んでいる。
スプリング8からは、赤外線、可視光線、紫外線
のほか強力なX線が発生する。これらは光速に近く
なった電子が曲げられるときに発生するもので、放
射光と呼ばれる。放射光に含まれるX線は物質のミ
クロの状態を観察するためや、医学利用にかかわる
第1章放射線の経歴書 26
図1-13.兵庫県にあるスプリング8のシンクロトロン。直径500メートル。
独立行政法人放射線医学総合研究所にも、かなり
大型のリニアックとシンクロトロンが活躍している。
それはがんなどの治療に使う重粒子線という放射線
を作り出すためである。装置は炭素イオンを作る重
イオン源、その炭素イオンを光速の一一パーセント
にまで加速するための二つのリニアック、そして炭
素イオンを光速の八四パーセントまで加速するシン
クロトロンからなる。シンクロトロンのリングの直
径は四二メートル、全周一三○メートルである。
研究にも利用されている。
8放射線医学総合研究所の重粒子
線治療装置
2 78放射線医学総合研究所の重粒子線治療装置
図1-14.重粒子線がん治療装置HIMAC
図'1-15.リニアック
図1-16.シンクロトロン
第1章放射線の経歴書28
コラムボンブピークを利用した科学者の知恵
トリチウムは水素の放射性同位体で、弱いベータ線を出して崩壊しヘリウムに変わる。半減期は約一
二・四年と比較的短い。
トリチウムは大気圏の上層で、宇宙線が大気窒素や酸素の原子核に衝突して作られる。作られたトリ
チウムは水素の同位体なので、酸素と化合し水となって自然界に存在することになる。雨が降れば、そ
こには酸素と化合し水となったトリチウムが含まれている。
トリチウムは宇宙線によって作り続けられるが、トリチウムの半減期は一二・四年と短く、作られる
一方で減っていくので、自然界にあるトリチウムの量はきわめて低い値で一定に保たれている。(ちな
みに、千葉県の降水中の濃度は、放射線医学総合研究所の調査によれば、○.五ベクレル/リットル程
度である。)
しかしこの自然界のバランスを大きく崩す出来事が過去に起こった。一九五○年代から六○年代にか
けてしばしば繰り返された核実験である。この時期に間然界のトリチウムは平常の一○○○~一万倍に
も達し、特に一九六三年には、雨中のトリチウム最はピークになり、ボンブピークと呼ばれている。た
だその後核実験が停止され、トリチウムの量も年ごとに減り続けて、現在は通常の二~三倍の水準にな
っている。
ボンブピークは地球上の生命にとっては迷惑な話だが、これを利用して水の循環について調べる研究
が各所で行われた。たとえて言えば、ボンブピークの雨水にはトリチウムという印がついているような
ものなので、それを計測すれば雨水がどのように地下に没透していくかを推定できるというわけだ。
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298放射線医学総合研究所の重粒子線治療装佃
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1960197019801990年
降水と井戸水のトリチウム淡度変化。縦軸の単位
はTU=トリチウム単位。lTU=0.l2Bq/4。(棒グラフが降水、●印と曲線が井戸水。)
1[8,3
1個18
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も
195C
図1-17.
それによると、雨水はまず地表近くにたまり、次
の雨が降ると、それに押し下げられ-段深く降りて
いく。この繰り返しで地下深く浸透していくことが
わかった。その速さは、おおよそ一年に一・四メー
トル、台地では一年に一~三メートルということま
で洲くられた。また、雨となって降った水がどの程
肱の期間で地下に浸透していくのか、東京都下で行
われた洲査では、井戸水のトリチウムのピークが一
九八七年に現れた。大気中では一九六三年にピーク
となり、井戸水では一九八七年にピークとなったと
いうことは、雨水が井戸水になるまでに二四年を要
したことになる。ボンブピークという災いを転じて
福となしたというわけではないが、科学者というの
は砿んでもただでは起きない淵神の持ち主なのであ
ろう。
司テロW萄テロ済←Cl】0つ、l勝UHqII0・=,:96=』lトニ_当9,- 借。割0南か割Oご烏企む階越烏←011烏←'410や再腕司F0IIい今0111.一時I・詞9尾⑩畠今0鵬今011当杢41ゥ雨←0110.つ寺
第1iif放射線の経歴書30
増←福富企
9放射線をあびると物質は放射能をもつのだろうか?
l誘導放射能と残留放射能
9放射線をあびると物質は放射能をもつのだろうか?31
放射線をあびると放射能を持つようになる、多くの方がそんな恐れを抱いているようだ。しか
し健康診断でX線撮影をしても自分の身体が放射能を持つようななるとは誰も思わない。いった
い、放射線をあびて物質が放射線を持つようになるのはどのような場合であろうか。
まず医療で診断や治療に最も使われているX線やガンマ線の場合について考えてみよう。X線
やガンマ線は、照射された物質の中で電子と衝突して、電子に運動エネルギーを与える。運動エ
ネルギーをもらった電子は、さらに他の電子と衝突して簡単に運動エネルギーを失い、熱エネル
ギーに変わってしまう。ごくまれに、原子核と衝突して、その物質が放射能を持つようになる場
合もあるが、その確率はきわめて小さく、まして診断や治療に使われるような低いエネルギーの
場合には無視して構わない。したがって、X線やガンマ線は放射能を作らないと考えてよい。
一方、アルファ線やベータ線の場合は、物質中で電子をはじきとばし電子に運動エネルギーを
与え、その結果アルファ線やベータ線は徐々にエネルギーを失っていく。これだけであればX線
やガンマ線と同じで放射能は作らない。だが、その過程で原子核と衝突し原子核が壊れて「ター
ことになる。
ゲット核破砕反応」を起こす場合がある。その場合にはいろいろな原子核ができて放射能を持つ
縮1章放射線の経歴柵: 32
特にベータ線の場合は、原子核と衝突すると、相手の原子核を壊すだけでなく、自分自身も壊
れ、壊れてできた粒子も当初のベータ線と同じくらいのスピードを持って放射線となる。このよ
うにアルファ線、ベータ線によって物質が持つ放射能を「誘導放射能」という。アルファ線やベ
ータ線は自然界にいくらでもあり、放射能を作り出しているが、自然界にあるアルファ線やベー
タ線はきわめて弱く、それによって作られる放射能もわずかである。
誘導放射能を考えるとき、忘れてはならないのが中性子線である。中性子線はわれわれの身近
にはないが、原子力発電所の原子炉の中では中性子が飛び交っている。中性子は電気的に中性で
あるため物質中を簡単に通り抜けてしまう。通り抜けるだけなら何事も起こらないのだが、物質
を構成する原子の原子核との間に核力が働き衝突することがある。そのとき、相手の原子核にく
っついたり、壊したりすると新しい原子核が作られる。この場合、一部は放射線を出す不安定な
原子核になり、誘導放射能を持つようになる。できた放射能の半減期が短いと、あびている放射
線がなくなれば、放射能もただちになくなってしまうが、半減期の長いものは、放射線がなくな
っても残り、残留放射能と呼ばれる。