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2 NINS Colloquium 稿 【日程】 2013.12.16(月)~ 2013.12.18(水 【会場】ヤマハリゾート つま恋 【主催】大学共同利用機関法人自然科学研究機構

第2回 NINS Colloquium第 2回NINS Colloquium について 自然科学の様々な分野の研究者が集い、自然科学の現状と将来の発展について、様々な観点で議論し機構内外の研

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第 2 回 NINS Colloquium

予 稿 集

【日程】2013.12.16(月)~ 2013.12.18(水)

【会場】ヤマハリゾート つま恋

【主催】大学共同利用機関法人自然科学研究機構

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目次

第2回NINS Colloquiumについて ...................................................................................................... - 2 -

プログラム構成 ................................................................................................................................. - 3 -

スケジュール .................................................................................................................................... - 4 -

(セッション1)「スペースガード:天体の衝突から地球を守れるか」 ....................................................... - 7 -

(セッション1)「天文学的要因に駆動された過去の気候変動メカニズムの研究と将来予測への示唆」 ............. - 8 -

(セッション2)「データ活用型天文学にむけて」 ................................................................................. - 9 -

(セッション2)「ネットワーク科学:最近の研究動向まで」................................................................. - 10 -

(セッション3)「外的刺激により繰り返し自己増殖するベシクル型人工細胞」 ......................................... - 11 -

(セッション3)「知的金属材料の設計-形状記憶合金の開発と応用」 ..................................................... - 12 -

(セッション4)「経済・社会に関するデータ物理学のアプローチ」 ........................................................ - 13 -

(セッション4)「暗黒宇宙の揺らぎから生まれる星、銀河、ブラックホール」 ......................................... - 14 -

(セッション5)「時空の問題として考える揺らぎと構造の自己組織化」 .................................................. - 15 -

(セッション5)「ゆらぎと生命機能」 .............................................................................................. - 16 -

分科会1 地球環境の未来-人類は生き残れるか?-............................................................................. - 17 -

分科会2 ビッグデータと仮説形成:複雑系の理解に向けて.................................................................... - 18 -

分科会3 新物質と新機能-インテリジェントマテリアル-.................................................................... - 19 -

分科会4 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」.................................................................... - 20 -

分科会5 システムの維持と揺らぎ .................................................................................................... - 21 -

特別セッション「自然科学研究機構に期待するもの-社会と科学の観点から-」 ......................................... - 22 -

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第2回NINS Colloquiumについて

自然科学の様々な分野の研究者が集い、自然科学の現状と将来の発展について、様々な観点で議論し機構内外の研

究者の交流を促進するとともに、自然科学の将来に向けた方策を探り、新たな方策を提案することによって、自然科

学研究分野全体のコミュニティの発展に寄与することを目的として、NINS Colloquiumを開催します。

今回は、昨年度に引き続き、「自然科学の将来像」について、さらに深く議論します。

主催 大学共同利用機関法人自然科学研究機構

開催日時 2013年12月16日(月)~2013年12月18日(水)

開催場所 ヤマハリゾート つま恋

オーガナイザー

佐藤 勝彦(自然科学研究機構長) 岡田 清孝(自然科学研究機構 理事) 小泉 周(自然科学研究機構 特任教授) 櫻井 隆(国立天文台 教授) 成田 憲保(国立天文台 特任助教) 山田 弘司(核融合科学研究所 教授) 伊藤 篤史(核融合科学研究所 助教) 小林 悟(基礎生物学研究所 教授) 藤森 俊彦(基礎生物学研究所 教授) 柿木 隆介(生理学研究所 教授) 山本 浩史(分子科学研究所 教授) 安池 智一(放送大学 准教授)

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プログラム構成

自然科学分野の研究者を中心としたクローズドの会議として合宿スタイルで、講演、ポスターセッション、分科会、

分科会発表及び全体討論会を実施します。

1) 講演

分科会の各テーマに関連した内容の各2講演ずつを実施します。講演者の方々には、他分野の方にも分かり易

く、「自然科学の将来像」の主テーマに合わせて、広く自然科学の将来について講演していただきます。

2) ポスターセッション

若手研究者を中心に、ポスターを使用して研究内容を発表していただきます。加えて、自然科学研究機構の若

手研究者による分野間連携研究プロジェクトの研究代表者による発表を行います。

3) 分科会

分科会は、様々な分野の研究者15名程度で構成を行い、テーマに基づき、ブレインストーミングを実施しま

す。分科会では、講演者とまとめ役が中心となり、それぞれのテーマについて議論いただきます。

なお、各分科会においては、それぞれのテーマのほかに、すべての分科会に共通のテーマ「科学と社会」とし

て、信頼性の高い科学的評価が困難な状況で、科学者は「中立性」や「客観性」をどのような形で保ち、社会に

貢献すべきか、などの視点からも議論を行っていただきます。

4) 分科会発表

まとめ役が中心となり、分科会で議論された内容及び導かれた結論などを、参加者全員の前で発表いただき、

併せて、討論を行っていただきます。

5) 全体討論会

講演、ポスターセッション、分科会、分科会発表などNINS Colloquium全体を通した討論を実施します。

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スケジュール

第1日目:平成25年12月16日(月)

13:30-13:40 開会

セッション1 地球環境の未来-人類は生き残れるか?- 会場:コンベンションホールL

13:40-14:20 講演:「スペースガード:天体の衝突から地球を守れるか」 吉川 真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授)

14:20-15:00 講演:「天文学的要因に駆動された過去の気候変動メカニズムの研究と将来予測への示唆」 阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所 准教授)

セッション2 ビッグデータと仮説形成:複雑系の理解に向けて 会場:コンベンションホールL

15:00-15:40 講演:「データ活用型天文学にむけて」 大石 雅寿(国立天文台 准教授)

15:40-16:20 講演:「ネットワーク科学:最近の研究動向まで」 増田 直紀(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)

16:20-16:40 休憩

セッション3 新物質と新機能-インテリジェントマテリアル- 会場:コンベンションホールL

16:40-17:20 講演:「外的刺激により繰り返し自己増殖するベシクル型人工細胞」 菅原 正(神奈川大学理学部化学科 教授)

17:20-18:00 講演:「知的金属材料の設計-形状記憶合金の開発と応用」 細田 秀樹(東京工業大学精密工学研究所 教授)

18:00-18:30 休憩

18:30- レセプション(会場:コンベンションホールM) ポスターセッション(会場:コンベンションホールL)

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第2日目:平成25年12月17日(火)

セッション4 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」 会場:コンベンションホールL

8:30- 9:10 講演:「経済・社会に関するデータ物理学のアプローチ」 高安 秀樹(ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー)

9:10- 9:50 講演:「暗黒宇宙の揺らぎから生まれる星、銀河、ブラックホール」 吉田 直紀(東京大学大学院理学系研究科 教授)

セッション5 システムの維持と「揺らぎ」 会場:コンベンションホールL

9:50-10:30 講演:「時空の問題として考える揺らぎと構造の自己組織化」 吉田 善章(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)

10:30-11:10 講演:「ゆらぎと生命機能」 上田 昌宏(大阪大学大学院理学研究科 教授)

11:20-11:50

分科会Ⅰ

① 地球環境の未来-人類は生き残れるか?- (会場:菊の間)

まとめ役 櫻井 隆(国立天文台 教授)

② ビッグデータと仮説形成:複雑系の理解に向けて (会場:ミーティングA)

まとめ役 山本 浩史(分子科学研究所 教授) 安池 智一(放送大学 准教授)

③ 新物質と新機能-インテリジェントマテリアル- (会場:ミーティングB)

まとめ役 伊藤 篤史 (核融合科学研究所 助教)

④ 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」 (会場:コンベンションホールS)

まとめ役 小泉 周(自然科学研究機構 特任教授) 成田 憲保(国立天文台 特任助教)

⑤ システムの維持と「揺らぎ」 (会場:コンベンションホールS)

まとめ役 古澤 力(理化学研究所生命システム研究センター チームリーダー) 小林 悟(基礎生物学研究所 教授) 藤森 俊彦(基礎生物学研究所 教授)

11:50-13:00 昼食(会場:ビュフェテラス)

13:00-14:40 分科会Ⅱ (テーマ/会場:分科会Ⅰと同じ)

14:40-15:00 Coffee break

15:00-16:00

特別セッション 会場:コンベンションホールL (テーマ:「自然科学研究機構に期待するもの-社会と科学の観点から-」) 横山 広美(東京大学大学院理学系研究科 准教授) 大場 恭子(東京工業大学 特任准教授) 大峯 巖(自然科学研究機構 理事) 倉田 智子(基礎生物学研究所 特任助教)

16:00-18:00 分科会Ⅲ (テーマ/会場:分科会Ⅰと同じ)

18:00- 夕食 (会場:コンベンションホールM)

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第3日目:平成25年12月18日(水)

9:00-11:55

分科会発表 会場:コンベンションホールL

9:00- 9:35 ① 地球環境の未来-人類は生き残れるか?-

9:35- 10:10 ② ビッグデータと仮説形成:複雑系の理解に向けて

10:10-10:45 ③ 新物質と新機能-インテリジェントマテリアル-

10:45-11:20 ④ 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」

11:20-11:55 ⑤ システムの維持と「揺らぎ」

11:55-13:00 昼食(会場:ビュフェテラス)

13:00-14:00 全体討論会 会場:コンベンションホールL

14:00-14:10 閉会

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(セッション1)「スペースガード:天体の衝突から地球を守れるか」 吉川 真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授)

略歴等

<職歴> 2010年~ JAXA宇宙科学研究所・准教授(所名変更) 2007~2010年 JAXA宇宙科学研究本部・准教授(職名変更) 2003~2007年 JAXA宇宙科学研究本部・助教授 1998~2003年 文部省宇宙科学研究所・助教授 1991~1998年 郵政省通信総合研究所・主任研究官 1989~1991年 日本学術振興会特別研究員

<受賞歴> はやぶさチームの一員として 2006年 Space Pioneer Award (米国 National Space Society) 2010年 第58回 菊池寛賞 2011年 朝日賞 2011年 読売テクノフォーラム ゴールド・メダル賞特別賞 2011年 Von Braun Award (米国 National Space Society) ほか多数

講演概要

天体の衝突から地球を守る活動を「スペースガード」と呼ぶ。スペースガードの活動が本格的に始まってから20年以上が過ぎた今年、国連でも天体衝突に対する対処方針が議論され今後の方針が承認されるなど、新たな展開を迎えている。特に、本年の2月15日には、ロシアのチェリャビンスクにおいて隕石衝突に伴う大きな被害が生じた。この被害をもたらした天体の大きさは約20mと推定されており、より大きな天体の衝突があれば格段に大きな被害が想定される。このような事実を知ってしまった我々としては、天体衝突による被害を回避する方策を考えなければならない。 スペースガードとしての活動は大きく2つに分けられる。まず重要なことは、地球に衝突する天体を発見してそ

の軌道を正確に決めることである。地球に接近しうる天体をNEO(Near Earth Object:地球接近天体)と呼ぶが、現時点でNEOは1万個以上発見されている。これらの天体の中には、地球に近い将来に衝突するものはないが、まだ発見されていないNEOが多い。まずは、それらを早急に見つける必要がある。発見して軌道を正確に求めれば、その天体がいつどこに衝突するかは正確に予測できるのである。次に重要なことは、実際に地球に衝突する天体が発見された場合、衝突をどのようにして回避するかである。地球衝突回避のためにいくつかの方法はすでに提案されているが、特に衝突してくる天体が大きい(大きさが100m以上)場合や衝突まで時間的猶予が短い場合については、衝突回避が難しい。衝突回避が難しい場合には、いかにして被害を最小にするかを検討する必要がある。 ここでは、スペースガードに関係したいろいろな話題について現時点での状況をまとめて報告する。約6500万

年前に恐竜を含む多くの生物種が絶滅したが、その原因は大きさが10km程度の小天体の衝突であるという説が有力である。今、同様な衝突が起これば、人類が恐竜と同じ運命をたどることになるかもしれない。スペースガードは、まさに人類としての危機管理なのである。

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(セッション1)「天文学的要因に駆動された過去の気候変動メカニズムの研究と将来予測への示唆」

阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所 准教授)

略歴等

<職歴> 2010年~ 東京大学大気海洋研究所・准教授(部局名変更) 2007~2010年 東京大学気候システム研究センター・准教授(職名変更) 2004~2007年 東京大学気候システム研究センター・助教授 1995~2004年 東京大学気候システム研究センター・助手 1993~1995年 日本学術振興会特別研究員 1993年 スイス連邦国立工科大学(ETH)博士課程修了、理学博士

<受賞> 2012年 第32回猿橋賞 2007年 気象学会2007年度堀内賞

講演概要

人類が進化してきた最近100万年間は,北米やヨーロッパで氷床の拡大・縮小や全球気候の変動を伴う「氷期−間氷期サイクル」が,約10万年の周期で繰り返されてきた.その一周期の時系列はいわゆる「のこぎり型」を示し,間氷期から氷期のピークまでに9割以上の時間をかけ,氷期から間氷期へは急激に戻る.海水準だけでなく,大気中二酸化炭素濃度,南極の気温,熱帯や南大洋の表面海水温,アジアの乾燥湿潤,深海の温度,海洋深層循環など,世界各地の気候指標がほぼ同期した10万年周期を示す.しかし,このような気候と氷床の大変動の周期と振幅をもたらすメカニズムは謎であった.そこで,世界ではじめて現実的な気候モデルを用いた数値実験でその謎に挑んだ. その結果,10万年周期の氷床変動や,氷床拡大期における氷床量や地理的分布を再現することに成功した。天

文学的要因が究極的要因ではあるが、地球の気候システムのいくつかの条件の組み合わせによって10万年周期での応答が生じることがわかった。要約すると、(1) 外的要因として:近日点の位置が北半球に来る2万年歳差周期の振幅が離心率(=10万年周期)に変調されることが重要。氷期終了のタイミングは離心率が極小になったすぐ後であることからもわかる。(2) 内的要因その1:氷床が10万年周期の内的要因として大きな役割を果たし、炭素循環はその増幅効果として重要である。「氷床成長後しきい値に達して後退」開始条件を決めている鍵は、北米大陸の氷床質量収支の日射に対する応答のヒステリシスを伴うプロセスにある。(3) 内的要因その2:氷期サイクル終焉プロセス:後退開始の条件が整ったあとは、大気ー氷床ー地殻マントル相互作用が氷床後退を急激に進め氷期終焉する (Abe-Ouchi et al, 20013, Nature) 化石燃料をこのまま消費し続けて枯渇して人為の二酸化炭素放出がゼロになっても、大気中二酸化炭素量は数千

年~数10万年の時間をかけないと産業革命前の元の状態には戻らず(Archer and Brovkin, 2008, Climate Change)、しばらく地球温暖な状態は続き、氷期が来るのが遅れるだろう。人類が十分長期的気候変化に賢く適応して絶滅の危機を回避するためにも、過去から将来に通用する気候変化の「自然科学的」メカニズム理解をしっかりすすめることが重要であろう。

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(セッション2)「データ活用型天文学にむけて」 大石 雅寿(国立天文台 准教授)

略歴等

<略歴> 1985年 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修了理学博士

富山大学理学部 国立天文台野辺山宇宙電波観測所 国立天文台天文データセンター長(現在)

<受賞歴> 1987年 井上研究奨励賞 2005年 日本データベース学会論文賞 2006年 日本ITU協会功績賞

<著書> 『アストロバイオロジー』(共著)、『天文学小事典』(共著)、『宇宙と生命9の論点』(共著)

講演概要

観測天文学の歴史は、より高感度に、より多くの天体を、より広い視野で観測できるようにしたいという天文学者の尽きることのない要望を満たそうとしてきた歴史とも言える。その結果、天文学では一晩にテラバイトクラスの観測データを得られる時代となった。そこで問題となるのが、いかにして大量データを処理・管理し、天文学の発展に活かすかということである。一方、半導体技術やネットワーク技術の進展は、世界に分散する大規模データを高速ネットワークにより連携させ不可視的に活用するタイプの天文学、すなわち「データ活用型天文学」という新しい研究パラダイムを生みつつある。これは、観測、理論、シミュレーションに続く第4の研究パラダイムとも呼ばれる。 「データ活用型天文学」を実現しようと世界20ヶ国ほどの関連プロジェクトが協力し合って構築を進めている

ヴァーチャル天文台は、合同で標準プロトコルを定め、高速ネットワークを介して大量のデータを相互に活用する天文学研究を実現しようとするものである。実際、ヴァーチャル天文台を活用した天文学の論文がどんどん出版されるようになり、これまでは困難であった大量データを活用した研究を加速できることが示されている。 今後の「データ活用型天文学」では、より客観的にデータから知見を引き出していくために、人手を介さない機

械学習など情報学や統計科学との連携が非常に重要になってくると考えられる。さらに言えば、米国が建設を進めている光学望遠鏡であるLSSTや欧州や豪州が建設しようとしている巨大電波干渉計であるSKAにおいては、そのデータ生産率は爆発的に増大してテラビット毎秒を越える可能性がある。このためには、ペタフロップスクラスのスーパーコンピュータや階層的ストレージによるデータ管理活用した大規模データ処理が必要となると予想されている。 本講演では、データ活用型天文学の現状と課題、そして将来を展望する。

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(セッション2)「ネットワーク科学:最近の研究動向まで」 増田 直紀(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)

略歴等

<略歴> 1998年 東京大学工学部計数工学科卒業、同大学院 2002年 博士(工学).東京大学准教授(大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻).

ネットワーク科学,さまざまな社会行動の数理,脳の理論を研究. <受賞歴>

International Neural Network Society Young Investigator Award 数理生物学会2012年度研究奨励賞 平成25年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞

<著書> 『「複雑ネットワーク」とは何か』(共著),『私たちはどうつながっているのか』,『複雑ネットワーク』,『なぜ3人いると噂が広まるのか』

講演概要

ネットワーク科学(もう少し狭い分野としては複雑ネットワークとも呼ばれる)は、様々な実現象をネットワーク(グラフ理論の指すグラフと同値)として表し、研究する分野である。ネットワークの研究は個別分野では以前から存在したが、統一的にネットワークの様々な特徴が理解され、応用されるようになってきたのは、15年程度前から統計力学の研究者を中心に研究が始まってからのことである。現在では多分野の研究者によって研究されている。本講演では、ネットワーク研究の歴史を簡単に概説するとともに、2つの話題について、応用を交えつつ概説を行う。

1つ目は、中心性である。中心性とは、与えられたネットワークの中で頂点(ノード)に優先順位をつける方法である。どの頂点をもって重要と思うかは、考えている応用、数学的なとり扱いやすさ、アルゴリズムが大きなネットワークに適用可能かどうか、を天秤にかけた上で決定されるのが適切である。本講演では、よく使われている中心性を解説するとともに、特にウェブ検索や論文誌の格付けなどに用いられているページランクについて詳しく解説する。

2つ目はテンポラル・ネットワークである。従来、たいていの場合は静的なネットワーク、すなわち時間情報を持たないネットワークが、構造解析やその上で起こるダイナミクスの解析の対象であった。しかしながら、多くの場合に枝は一時的にのみ使われる。例えば、友人関係というリンクで直接結ばれた2人を考える。このとき、そのリンクが実際に使われてコミュニケーションや感染伝搬が起こりうるのは、全体のうちのほんの僅かの時間であることが多い。近年、枝が使われるタイミングや時間の長さについての情報を備えたネットワークのデータが急速に得られるようになってきている。そのようなテンポラルなネットワークは、静的なネットワークの場合との比較において、ネットワークの構造やその上で起こるダイナミクスなどの現象をかなりの程度変更しうることが認識されている。本発表の後半ではテンポラル・ネットワークの導入を行い、データの整備や実社会への応用といった側面も含めて今後の課題について議論する。

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(セッション3)「外的刺激により繰り返し自己増殖するベシクル型人工細胞」 菅原 正(神奈川大学理学部化学科 教授)

略歴等

<略歴> 2012年4月~ 現在 神奈川大学理学部化学科 教授 2010年6月22日 東京大学 名誉教授 1996年4月~2010年3月 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻

相関基礎科学系 教授 1991年6月~1996年3月 東京大学教養学部基礎科学科 教授 1986年5月~1991年5月 東京大学教養学部基礎科学科 助教授 1978年3月~1986年4月 岡崎国立協同研究機構分子科学研究所 助手 1977年8月~1978年2月 米国メリーランド大学 博士研究員 1975年9月~1977年7月 米国ミネソタ大学 博士研究員

<受賞歴> 2008年 電子スピンサイエンス学会賞 受賞 2012年 第3回分子科学会賞 受賞

講演概要

そもそも、インテリジェントマテリアルとはどのような物質を指すのであろうか?「物質でありながら、生き物みたいに振舞う物質」といえばよいかも知れない。生命は細胞からできている。では、もし素材のよく分かった基本的な分子から細胞を作り出すことが出来れば、インテリジェントな物質を作ったことになるのではないか。という訳で、我々は13年ぐらい前から、人工細胞を創る研究に取り組んでいる。1) 水中で両親媒性分子が自己集合化して形成する袋状に閉じた自己集合体(ジャイアントベシクル)をコンパートメントとし、ベシクル内に外部から取り込んだ養分を膜分子に変換するための触媒と、情報分子(DNA)およびその自己複製に必要な反応系一式を内封したベシクル型人工細胞を化学的に組み上げた。すると、期せずして内部で情報分子(DNA)が増幅したベシクルが、外部から取り込んだ膜分子の前駆体を優先的に膜分子へと変換し、肥大・分裂して、娘ベシクルを生産することを見出した。その娘ベシクルには自己複製した情報分子が分配されている。2) なぜこのようなことが可能になったかを調べたところ、増殖したDNAがベシクル膜内のカチオン性膜分子および触媒と錯体(リポプレックス)を形成し、この錯体が酵素のように働いて、外部から溶け込む膜分子前駆体から膜分子を生産する活性点となると共に、ほぼ同じサイズのベシクルを生産し、分裂させる足場となっていることが分かった。 誕生した娘ベシクルの内部ではDNAの原料であるヌクレオチドが枯渇している。そこで、誕生したベシクルを

元の状態に回帰させる必要がある。ヌクレオチドを内封したコンベイヤーベシクルを、外水相のpH変化を誘因として娘ベシクルと融合させ、基質を送り込むことで繰り返し自己増殖が可能になった。さらに、内封する鋳型DNAの違いにより、自己複製能に差異が認められれば情報(genotype)と人工細胞として最も重要な自己生産能(phenotype)が相関した人工細胞が誕生することになる。

1) 菅原正、栗原顕輔、鈴木健太郎「人工細胞の夢ついに達成 ?!―生命の起源に迫る第一歩」pp 43-49, 化学 67巻2月号、化学同人(2012)

2) K. Kurihara, M. Tamura, K. Shohda, T. Toyota, K. Suzuki, T. Sugawara, Self-reproduction of supramolecular giant vesicles combined with the amplification of encapsulated DNA、Nature Chemistry, 3, 775-781 (2011)

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(セッション3)「知的金属材料の設計-形状記憶合金の開発と応用」 細田 秀樹(東京工業大学精密工学研究所 教授)

略歴等

<略歴> 1988年 東京工業大学工学部金属工学科卒業 1993年 同総合理工学研究科材料科学専攻博士課程修了 博士(工学)

東京工業大学工学部金属工学科助手 ワシントン大学材料科学工学科助手 (株)超高温材料研究所特別研究員 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)産業技術研究員 東北大学金属材料研究所助手 筑波大学物質工学系講師 東京工業大学精密工学研究所助教授、准教授

2010年 同教授 現在に至る

講演概要

強度と延性のバランスに優れる金属材料は最も壊れ難い材料であり、信頼性が高く社会基盤材料-構造用材料として多く用いられている。この理由は、金属の結晶構造が比較的シンプルな fcc, bcc, hcpを基調とするため、転位のバーガースベクトルが小さく活動可能であり、塑性変形できることによる。機能性材料としては、磁性材料として多く利用される他、超伝導なども使用されるが、機能性材料としての使用はあまり多くないように感じる。しかし、周期律表上の元素の8割弱が金属であることから、まだまだ金属元素を組み合わせることで多様な新物質を創製できる可能性がある。特に、金属材料の特徴である高信頼性と機能を活かした分野として、生体/医用利用が注目され、活発な開発が進んでいる。これら材料の中でも、近年、相安定性の制御により、外場の変化により安定構造が変わり、これに伴い機能も変化する材料が広く研究されている。このような材料では、外場をセンシングしそれに伴う反応を起こすため、知的であり、インテリジェント/スマート材料と呼ばれる。形状記憶合金はその代表的な材料であり、相変態が無拡散型であるため可逆的であり、温度のみならず応力場や磁場で相変態を起こすことができる。動作が相変態に起因するため、ある決まった外場で変態を起こすことになり、センサー・アクチュエータ機能となるわけである。講演では、これら形状記憶合金の設計方針や開発の現状、特に当研究室で進めている医療応用やエネルギー応用に向けた材料開発についてご紹介する。一例としては、生体に無害の元素のみを用いて形状記憶効果を有する合金を作製するのみならず、ステント、コイル、ガイドワイヤなどの低侵襲性血管内治療のためにレントゲン造影性の良い特性も兼ね備えた材料開発を行っている。また、金属材料の重要な特徴の一つである組織制御では、強加工によりほとんど単結晶とも言えるほどの配向性をもった強い集合組織の材料が作製できるなど、物性の組織による変化と制御、すなわち組織制御についてもご紹介したい。

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(セッション4)「経済・社会に関するデータ物理学のアプローチ」 高安 秀樹(ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー)

略歴等

<略歴> 2010-(現在に至る) 明治大学大学院先端数理科学研究科 客員教授 2008-(現在に至る) 日本学術会議 連携会員 1997-(現在に至る) ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー 1993-1997 東北大学大学院情報科学研究科 教授 1988-1993 神戸大学理学部地球科学科 助教授 1986-1988 神戸大学理学部地球科学科 助手 1985-1986 京都大学理学部物理学教室 学振特別研究員 1985 名古屋大学理学研究科物理学専攻 理学博士号取得

講演概要

大航海時代、安全な航海のために必須だった天測技術の発展とともに集められた膨大な惑星のデータから副産物として力学法則や万有引力の法則が確立され、それらが物質科学の基盤となり、さらに、あらゆる分野の科学の手本となった。21世紀に入り、高度情報化によって広範な人間の社会的な行動の足跡が残るようになり、ビッグデータとよばれる膨大で詳細なデータが蓄積されている。これらを分析することで、これまではシナリオ検証型の研究が主だった経済現象や社会現象に対し、まず、データを分析して経験的な法則を導き、次に経験則に基づいて理論を構築するという普通の自然科学の研究手法が適用できるようになってきた。 このような研究のさきがけとなったのは、20世紀の末に生まれた経済物理学という研究分野である。従来は日

次レベルのデータを研究の対象としていた外国為替や株価に関し、秒単位で一日に約1万回変動する詳細な市場データを物理学の手法で分析し、単純にランダムウォークでモデル化していた市場価格の変動の中に、様々な形でのランダムウォークからの乖離があることが経験則として明らかになった。そのような経験則を全て満たすような数理モデルを構築することでミクロな市場の変動を正確に記述できるようなり、さらに、そのモデルは、ハイパーインフレにおける急激な価格上昇のようなマクロな現象も定量的に記述できることがわかってきた。また、現実の市場では実験をすることはできないが、計算機の中で定義される仮想市場での数値実験を繰り返すことによって、単純なランダムウォークからの乖離が生じるのは、市場参加者が直近の価格のトレンドを自己の市場の予測に使っていることが原因であることも解明された。 市場の価格変動でかなりの成果が得られ、この分野の研究は急速に広範な対象に広がっている。POSデータから

見られる個人レベルの購買行動、ブログなどの書き込み行動、企業間のお金の流れのネットワーク、など、データが揃っている現象ならば、何でも科学的な研究の対象となるという期待の元に研究が進められている。徹底的に個々の現象のデータの特性を分析する中から、広く他の現象にも適用できるようなデータ解析手法や数理モデルが生まれてくるようになれば、データ物理学とでもよぶべき新しい研究分野の輪郭が見えてくるだろう。

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(セッション4)「暗黒宇宙の揺らぎから生まれる星、銀河、ブラックホール」 吉田 直紀(東京大学大学院理学系研究科 教授)

略歴等

<略歴> 2012(現在に至る) 東京大学大学院 理学系研究科 教授 2008-2012 東京大学 数物連携宇宙研究機構 特任准教授 2004-2008 名古屋大学大学院理学研究科 助教 2003-2004 国立天文台 理論天文学研究系 日本学術振興会特別研究員 2001-2003 ハーバード大学天文学科 博士研究員

<受賞歴> 2008 国際純粋応用物理連合 若手科学者賞 2006 日本天文学会研究奨励賞

講演概要

最近の宇宙の観測から、宇宙の構成要素や進化史について多くの事が分かってきました。私たちの宇宙はおよそ138億年前に量子的なゆらぎから生まれ、ビッグバンとよばれる火の玉状態を経て宇宙全体は猛烈に膨張します。そして宇宙全体が一旦は闇に閉ざされ、暗黒の時代をむかえます。やがて宇宙創生期の揺らぎを種として星や銀河などの光輝く天体が誕生し、ビッグバンから数億年という早期に宇宙は再び光に満たされるようになりました。宇宙で最初に生まれた天体は何か。巨大なブラックホールはいつから存在するのか。様々な観測装置を用いた現代宇宙論の最前線はこれら早期宇宙の進化の謎に迫りつつあります。

すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を用いることで、宇宙が生まれてから7億年ほど経った時期に存在した銀河からの光を観測し、当時の宇宙の様子をうかがい知ることができます。 最近では、およそ同じ時期に起こった、ガンマ線バーストとよばれる星の爆発現象も捉えられています。しかしそれよりも昔の宇宙、つまりもっと遠くの宇宙にある天体は、未だどのような電磁波帯でも観測されておらず、天文学のフロンティアとなっています。この、ビッグバンから数億年ほど経った時期を「宇宙の暗黒時代」と呼びます。 星や銀河などが生まれる前には、エネルギーの低い電磁波と薄く広がるガス、そして暗黒物質が漂うだけの文字どおり暗黒の宇宙だったのです。早期の宇宙で星や銀河が誕生する際には、暗黒物質とよばれる未知の物質が重要なはたらきをしたと考えられています。暗黒物質の正体や性質についてはほとんど分かっておらず、物理学の大きな謎の一つとして残っています。興味深いことに、遠くの宇宙を観測することで暗黒物質の正体に迫ることもできると期待されています。

講演では、最近の深宇宙観測の結果をもとに得られた宇宙像を紹介し、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションで明らかになった 「揺らぎから生まれる天体」の様子を解説します。

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(セッション5)「時空の問題として考える揺らぎと構造の自己組織化」 吉田 善章(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)

略歴等

<略歴> 1985年 東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻 修了 工学博士 1985年 東京大学工学部 専任講師 1986年 同 助教授 1999年 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授

<著書> 『集団現象の数理』 (岩波書店,1995),『非線形科学入門』 (岩波書店1998), 『新版 応用のための関数解析-その考え方と技法』(サイエンス社, 2006). 『非線形とは何か ---複雑系への挑戦』(岩波書店.2008), 『Nonlinear Science---The Challenge of Complex Systems』(Springer-Verlag, 2010) .

講演概要

「揺らぎと構造の形成・維持」というテーマについて,揺らぎと構造が棲む「時空」の側に焦点をあてて考えてみたい。

contingencyを根本的な特性とする「揺らぎ」だが,これを記述と分析に堪えるものにするために,揺らぎは一定の identityをもつ「要素」たちの合成物だと考える(要素還元)。こうすることで,揺らぎの複雑な側面は各要素のミクロな運動に帰着され,確率論の対象になる。また,秩序的な側面は要素の集団的な運動に帰着され,マクロな階層に構造を出現させる。では,揺らぎを構成する「要素」とは何か? 要素に identityを与えるのは,要素自身ではなく,実は空間である(時間の軸を意識するときのみ時空といい,

一般的には空間ということにする)。数学や理論物理では,空間とは環(ring)によって表わされるものであり,要素はスペクトル(環のイデアルたち)で表現される。環を変形すると点=要素の定義が変わる。空間と要素の間のこのような相対的な関係こそ,揺らぎと構造の「多様性」を読み解く鍵なのである。 揺らぎを要素に分解するお馴染みの方法はFourier変換である。揺らぎを時空上の三角関数たちに分解して考え

るわけだ。三角関数はLaplacianが計量する空間のスペクトルであって,いわば平坦な時空に棲む要素である。したがって,たとえば一様等方乱流をFourier変換して波数スペクトルをみること(Kolmogorov以来の伝統)は理にかなっているわけである。しかし歪んだ空間では違った要素が現れると考えなくてはならない。 たとえばLaplacianを自由粒子のエネルギーだと考え,これにポテンシャルエネルギーを加えたHamiltonianを

用いると,量子論のスペクトルが得られる。分子や金属中の電子の振る舞いを記述するには,この要素分解を用いるのが適当である。しかし,私がここで問題にしているのは物質=エネルギーではなく「空間」の方だ。空間(環)の変形を「階層」を表現するための道具として使おう。 マクロ階層とはミクロな位相空間のなかに埋め込まれた「葉(leaf)」であると考える。葉の上の歪んだ空間で

は,ミクロな世界とは異なる「マクロな要素」たちが揺らぎを担い構造を生みだす。私たちがマクロな構造として見るのは葉層の襞なのである。具体的な例として,天体磁気圏で起こるプラズマの自己組織化を葉層化した空間上の統計分布として説明する。

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(セッション5)「ゆらぎと生命機能」 上田 昌宏(大阪大学大学院理学研究科 教授)

略歴等

<略歴> 2012 (現在に至る) 大阪大学大学院 理学研究科 教授 2011 (現在に至る) 理化学研究所 生命システム研究センター GD 2006-2012 大阪大学大学院 生命機能研究科 特任教授 2003-2006 リーディングプロジェクト・バイオナノプロセス 産官学連携研究員 2000-2003 科学技術振興事業団 さきがけ研究21研究員 「認識と形成」領域 1999-2000 大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター・研究機関研究員 1996-1998 ドイツ・ミュンヘン大学 日本学術振興会 海外特別研究員PD

講演概要

細胞スケールの小さな空間では、分子反応や分子運動の確率性に起因する「分子数ゆらぎ(分子数ノイズ、molecular noise)」がしばしば無視できない大きさとなり、細胞内情報処理や遺伝子発現、細胞運動などの機能に影響することが知られている。細胞の複雑な動態の理解と操作を実現するには、分子レベルの変化が細胞レベルの動態に影響する仕組みを多階層にわたって明らかにし、確率論的ダイナミクスをも含めてその複雑な動態を予測する方法論の構築が必要となる。このためには、細胞動態を定量的に捉えるライブイメージング解析は今後ますます重要な基盤技術となる。本発表では、細胞の走化性という現象に着目し、走化性を担うシグナル伝達系を例にして、分子の確率性・少数性に着目した1分子レベルから細胞レベルに至る多階層イメージング解析について紹介する。この解析により、確率的にはたらく分子から構成されたシグナル伝達系が、情報処理機能や運動調節機能を発現する際の機能発現ダイナミクスを1分子・分子ネットワーク・細胞の各階層において時間的・空間的に追跡・解析することが可能になってきた。走化性細胞においては、分子運動や分子反応の確率性を起源として細胞の自発的なダイナミクスが生み出され、自発性が利用されて柔軟な環境適応が実現されている。分子レベルから細胞レベルへと階層を登りながら、各階層にみられる生物らしい機能発現とゆらぎの関係について議論する。ゆらぎは細胞の安定性を乱す邪魔者ではなく、むしろ細胞の環境適応性を高めるのに役立っているようだ。

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分科会1 地球環境の未来-人類は生き残れるか?- まとめ役

桜井 隆(国立天文台 教授) 話題提供講演者

渡辺登喜子(東京大学医科学研究所 グループリーダー) 齋藤 正樹(東京工業大学原子炉工学研究所 教授) 大舘 暁(核融合科学研究所 准教授)

分科会概要

太陽系が誕生してから現在までの46億年、地球上に生命が発生してからの35億年に比べると、人類(新人)がアフリカに誕生して世界各地に散ってからの20万年は短い時間であり、さらに人類の文明が発達し、化石燃料の急激な消費で地球環境を変えるほどになったのは、瞬時といってもよいわずか百年間のできごとである。文明の発展はまた、人口の集中した都市、高度に発達した情報化社会をもたらし、新たな脆弱性が生まれているともいえる。人類はこのまま発展を続けていけるのか、あるいは何か危機が訪れるのか、を自然科学の立場から考えようというのがこの分科会である。 昨年のNINSコロキウムでも同じテーマの分科会を開催し、 1.太陽活動(巨大フレアの危機)、 2.太陽の長期変動と地球環境、 3.温室効果ガスによる地球温暖化と環境破壊の危機、 4.エネルギー危機、

について議論した。今回は、セッション講演で 5.地球に彗星や小惑星が衝突し大量絶滅が起こる可能性

について吉川真氏、 6.地球の古気候に見る自律系としての地球の変動

について阿部彩子氏のお話を聞いた後、分科会において話題提供講演者より、疫病による危機、放射性廃棄物の処理問題、核融合炉プラズマに内在する制御困難性、などについて発表いただいた後、議論を行う。近未来の仮想的危機のうち、核戦争が起こって人類が滅びるといった、自然科学だけでは制御しがたい状況は考えないことにするが、テロリストが核爆弾を作る、あるいは致死性病原菌を合成するといった危機については、その技術的可能性について話題提供者よりコメントをいただく予定である。

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分科会2 ビッグデータと仮説形成:複雑系の理解に向けて まとめ役

山本 浩史(分子科学研究所 教授) 安池 智一(放送大学 准教授) 講演者

大石 雅寿(国立天文台 准教授) 「データ活用型天文学にむけて」 増田 直紀(東京大学 准教授) 「ネットワーク科学:最近の研究動向まで」

分科会概要

自然科学の多くの研究分野において,日常的に扱われるデータ量は増大の一途を辿っている。これに伴い,従来は情報学者や統計学者の専門領域と考えられてきた大規模データの統計解析−−−いわゆるビッグデータの取り扱いは,近い将来,多くの研究者にとって必須の技術になると考えられる。本分科会ではとくに,大規模データからいかに隠れた規則性を抽出し知識化すべきかという側面に注目し,ビッグデータ解析が自然科学の発展に与えるインパクトについて意見交換を行う。 与えられたデータから隠れた規則性を導きだすための方法論については,これまでに多くの蓄積がある。それら

の応用によって,何が実現しているのか,そして何が実現し得るのかについて,見極めることから始める。一方で,見つかった規則性の背後にあるシステムをいかなる仮説でモデリングしていくべきかという問題は,科学研究の各分野でその対象が複雑化する今,従来に比べより本質的な問いになるであろう。基礎法則からのボトムアップ戦略が通用しないような複雑なシステムの理解には,現象論モデルを立てることが重要である。この際に「ネットワーク的なものの見方」が本質的だとの考え方がある。ネットワーク解析で得られるシステム的な描像は,還元主義に基づいたシンプルな部分系の集合という素朴な描像とは相容れない面もある。何をもって理解したというべきか,現象記述の方法そのものに変革が必要とされるかもしれない。また,複雑なシステムのモデリングにおいては,恣意性や冗長性が入り込みやすい。適切なモデリングとその自動化については,機械学習の観点が重要となるであろう。簡単な系については,観測データから不変量に基づいてハミルトニアンや運動方程式を自動的に導きだすことさえ可能になってきている。実測データに基づくモデリングの先には,科学の営み全体の自動化さえ視野に入ってくる。これらの話題を議論のきっかけとして,第4の科学の手法と目される「データドリブン的な手法」が自然科学に与えるインパクトについて,参加者一同による忌憚のない意見交換を行いたい。

分科会話題提供者: 徳澤季彦(核融合研) 核融合プラズマ研究におけるデータマイニング 岩崎 渉(東大海洋研) バイオインフォマティクスにおけるネットワーク解析 澤 博(名古屋大) マテリアルサイエンスにおけるビッグデータ 佐藤佳州(筑波大) 将棋ソフトウェアにおける棋譜データの利用と機械学習 鹿野 豊(分子研) データドリブン型科学研究の将来像

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分科会3 新物質と新機能-インテリジェントマテリアル- まとめ役

伊藤 篤史(核融合科学研究所 助教) 講演者

萩田 克美(防衛大学校 講師) 時谷 政行(核融合科学研究所 助教)

アドバイザー

菅原 正(神奈川大学理学部化学科 教授) 細田 秀樹(東京工業大学精密工学研究所 教授)

分科会概要

科学技術の進化において、物を作る素材となる物質材料の開発はどの時代においても重要な要素である。そして物質材料の進化は常に新機能の獲得と共にあり、この流れは将来においても続くであろう。本分科会「新機能と新物質」では前回(第一回)のNINS Colloquiumから引き続き、新物質の開発と新機能の発現に関しての討論を行う。特に今回は、「インテリジェントマテリアル」をキーワードに議論を行う。 インテリジェントマテリアル(知能材料)は、ファンクショナルマテリアル(機能性材料)を超えた物質材料の

一つの枠組みとして提唱されている。言葉の定義は完全に定まっているわけではないが、インテリジェントマテリアルの持つ特徴としておおよそ次のものが挙げられることが多い:(1)環境順応/環境応答機能、(2)自己修復/状態記憶機能、(3)自己増殖機能、(4)自己判断機能。これらを持つ物質としてすぐに思い浮かぶのは、細胞やタンパク質といった生体物質である。すなわち、インテリジェントマテリアルの開発とは、生体物質に匹敵する物質、もしくは、それを超える機能を持つ物質を、人類が人工的に作りだすことが可能かどうかということである。この様な観点から、生物の持つ生体システムと有機・無機・金属材料といった人工的物質材料の比較や応用可能性の検討が一つの鍵となる。 また、物質材料が上記の様な機能を持つには、複数の機能が組み合わさって動作する「システム」としての仕組

みが期待される。これを達成するために、物質の複合化(ハイブリッド化)は重要課題であるが、自動車の様な複合機械ではなく、あくまで物質材料としてあるためには自然とミクロスケールのシステムが要請される。この点から近年盛んなナノ物質研究の関連も議論の対象となる。 もっと抽象化した見方をすれば、インテリジェントマテリアルに要請される機能は、非平衡環境下における非線

形応答とも解釈できる。これを人工的に制御し、物質の機能として付与することができか否かという点は、今後の物質開発の論点となろう。 この様に、インテリジェントマテリアルを題材にすることで、人工物質から生体物質・生命システムまで分野を

超えた活発な議論を期待する。もちろん、宇宙起源の物質など、ここに挙げなかった話題の提供も大歓迎である。多様な研究者の意見を交え、物質研究の将来像の模索を楽しみたい。

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分科会4 時間の流れに沿ったエポックの発生と「揺らぎ」 まとめ役

小泉 周(自然科学研究機構 特任教授) 成田 憲保(国立天文台 特任助教) 講演者

高安 秀樹(ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー) 吉田 直紀(東京大学大学院理学系研究科 教授) 分科会概要

本分科会においては、様々な系において、時間経過にそって変化する「揺らぎ」の中から特異的な「エポック」が生まれる現象について、揺らぎの役割とその意義を議論する。 たとえば、宇宙の創成において、「無」の状態である量子揺らぎから突如としてインフレーションがおこりビッ

グバンが引き起こされ、宇宙が作られていった過程は、まさに特異的な「エポック」を生み出す「ゆらぎ」の役割として典型的な例であるといえる。 また、こうした「揺らぎからのエポックの発生」現象を理解するためには、従来の観測学的手法だけでは全体像

の把握は難しく、大量で複雑なビッグデータの解析はもとより、大規模シミュレーションや数理モデルの構築といった手法との密接な関連が必要である。本分科会では、こうした手法との関連についても議論する。 扱うテーマは、分子からシステム、宇宙と生命、核融合科学、人や社会の営み、経済活動など、幅広い範囲を想

定している。たとえば、為替や株価の変動と金融危機の発生、個々の分子レベルでの揺らぎと生命誕生などの生命現象の萌芽、1000億を超える神経細胞の活動と意識の創成など、が話題として想定されている。 本分科会では、まず、さまざまな系における事例を集めることからスタートし、共通する問題意識の探索や、異

分野連携による新しい解析手法の提案にまで結びつけることを(欲張った)目標とする。

分科会講演(話題提供者): 伊藤 公孝(核融合科学研究所 教授) 吉田 正俊(生理学研究所 助教)

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分科会5 システムの維持と揺らぎ まとめ役

古澤 力(理化学研究所生命システム研究センター多階層生命動態研究チーム チームリーダー) 藤森 俊彦(基礎生物学研究所 教授) 小林 悟(基礎生物学研究所 教授) 講演者

高安美佐子(東京工業大学大学院総合理工学研究科 准教授) 居田 克巳(核融合科学研究所 教授) 渡辺 英治(基礎生物学研究所 准教授) 古澤 力(理化学研究所生命システム研究センター多階層生命動態研究チーム チームリーダー) 分科会概要

システムの状態に多様性をもたらす「揺らぎ」は、生物・経済・気象・天体などさまざまなシステムにおいて存在し、その秩序の生成と維持に本質的な役割を果たしている。ミクロレベルでの状態の揺らぎが、マクロレベルでの構造を生み出し、それが再びミクロレベルの状態を支配する。こうしたミクロとマクロの循環的な関係によって、多くのシステムの性質が規定されるが、そうした階層を跨るダイナミクスを記述し理解することは、多くの分野においてチャレンジングな問題として残されている。そこで本分科会では、この揺らぎによる秩序の生成と維持に焦点を当て、様々な分野の研究者によって以下の点について議論する。 1)揺らぎを生み出すメカニズムには、熱揺らぎや要素の小数性に起因する揺らぎ、あるいはカオスのような決

定論的なダイナミクスなど、さまざまな種類のものが考えられる。そこで、生物・経済・天体などさまざまなシステムにおいて、その揺らぎの起源はどの階層のどのようなメカニズムであるかを整理・分類することにより、揺らぎの多様性と共通性を明らかにする。 2)揺らぎを通じた秩序形成とその維持は、多くの非平衡システムにおいて見出される現象として捉えることが

出来る。では、こうした揺らぎによる秩序形成は、システムの性質や機能にどのように寄与しているのであろうか?例えば生物システムでは、揺らぎによる秩序形成を積極的に利用することにより、細胞状態を柔軟かつ安定に変化させることが知られている。こうしたミクロレベルの揺らぎとマクロレベルのシステムの性質や機能の関係を整理し、その分野横断的な理解を目指す。 3)揺らぎによって駆動されるシステムは、その振る舞いを完全に予測し、外部から厳密なコントロールを行う

ことが難しい場合が多い。では、そのようなシステムをコントロールするためには、どのような方法を用いれば良いであろうか?揺らぎを通じた秩序形成を行うさまざまなシステムについて、それらをコントロールする試みについて議論し、揺らいだシステムに対する新たな制御理論の可能性を議論する。

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特別セッション「自然科学研究機構に期待するもの-社会と科学の観点から-」 まとめ役

小泉 周(自然科学研究機構 特任教授) パネリスト

横山 広美(東京大学大学院理学系研究科 准教授) 大場 恭子(東京工業大学 特任准教授) 大峯 巖(自然科学研究機構 理事/分子科学研究所 所長) 倉田 智子(基礎生物学研究所 特任助教) 概要

3.11の東日本大震災以降、科学者への「信頼の危機」がふたたび起きている。科学者個人個人の社会への情報発信・「国民との対話」は第4期科学技術基本計画など政府方針をうけて進んできているが、その一方で、多様な知識体系と意見構造をもつ科学者集団からの情報発信や社会とのかかわりはどのようにあるべきかについては、明確な答えはない。 また、科学者集団からの情報発信という観点では、3.11のようなクライシスの場面や、原発事故のようなリ

スク評価の場面はもとより、平時における科学コミュニケーションも重要であろう。 本セッションにおいては、自然科学研究機構という多様な研究者集団が、「平時」において、どのように社会と

かかわっていくべきか、研究者個人としての情報発信の在り方や、研究者集団としての情報発信の在り方について、大学・研究機関において第一線で活躍されているパネリストをお迎えし、広報や男女共同参画などの視点から議論する。 本セッションを通じて、自然科学研究機構が一体となって行うべき、社会とのかかわり、広報アウトリーチの在

り方についての提案に結びつけることを目標とする。

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