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22回市民公開がん講座 緩和ケアについて つらくならないようにがんと付き合っていくための方法 市立函館病院緩和ケアチーム医師 金井晶子

第22回市民公開がん講座 緩和ケアについて · 2016-05-19 · 第22回市民公開がん講座 緩和ケアについて つらくならないようにがんと付き合っていくための方法

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第22回市民公開がん講座

緩和ケアについてつらくならないようにがんと付き合っていくための方法

市立函館病院緩和ケアチーム医師 金井晶子

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あなたはあなたのままで大切です。あなたの人生の最後の瞬間まで大切な人です。ですから、私たちはあなたが安らかに死を迎えられるだけでなく、最後まで生きられるように最善を尽くします Dame Cicely Mary Saunders

(1918-2005)

~ you matter because you are you. You matter to the last moment of your life, and we will do all we can not only to helpyou die peacefully, but also to live until you die ~

現代ホスピス(緩和ケア)運動の母シシリー・ソンダース医師のメッセージ

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悪性新生物(30.0%)

心疾患(15.9%)

脳血管疾患

(11.1%)

肺炎(10.1%)

不慮の事故

(3.3%)

老衰(3.1%)

自殺(2.6%)

その他(23.8%)

①主な死因別死亡数の割合 ②がんの罹患数(2004年度)

男性36.2万人(人口10万対388.6人)女性26.1万人(人口10万対247.2人)

③生涯がん罹患リスク(2003年度)

男性54%・女性41%~男女とも2人に1人は生涯でがんになる~

④生涯がん死亡確率(2007年度)

男性27%・女性16%~男性4人に1人、女性6人に1人の割合でがんで死亡する~

2008年度悪性新生物による死亡総数342,963人(人口10万対272.3人)

最新がん統計

(2008年度)

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がん対策基本法(2006年6月実施)の基本理念◆がんに対する研究の促進◆がん医療の均てん化の促進◆がん患者の意向を十分に尊重したがん医療提供体制の整備

がん対策推進基本計画全体目標

◆がんによる死亡者の減少◆すべてのがん患者およびその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の向上

※重点的に取り組むべき課題として①専門家の育成、②治療の初期段階からの緩和ケアの実施、③がん登録の推進の3点が盛り込まれている。

がん対策基本法とがん対策基本推進計画

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• がんになったとき、からだや心の苦痛を和らげる医療技術です。

• がん治療と一緒に行うもうひとつの医療ともいえます。

• 緩和ケアについて考える時期が「早すぎる」「遅すぎる」ということはありません。

• 緩和ケアにおける主人公は患者さん本人です。家族、医療従事者が手助けをします。

緩和ケアとは

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生命を脅かす疾患に伴う問題に直面する

患者と家族に対し、疼痛や身体的、心理

社会的、スピリチュアル(霊的)な問題

を早期から正確に評価し解決することに

より、苦痛の予防と軽減を図り、生活の

質(Quality of Life;QOL)を向上させる

ためのアプローチである。

緩和ケアの定義 (WHO;2002)

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緩和ケアがんにたいする医療

従来のがん医療のモデル

がんの経過

移行

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現在のがん医療

がんにたいする医療

緩和ケア

治癒再発

治癒 再発

がんの経過

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全人的苦痛 (total pain)

がん患者さんの苦痛は多面的であり、全人的にとらえる

必要があります。

全人的苦痛(total pain)

精神的苦痛

痛み他の身体症状

日常生活動作の支障

身体的苦痛

社会的苦痛

スピリチュアルな苦痛

不安いらだちうつ状態

経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題

生きる意味への問い死への恐怖自責の念

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その苦痛は氷山にも似ています

マイケル・カーニー医師「氷山の海面に見える部分はすぐに認識され、診断され、治療を施すことが可能である。だが、痛みの根底は海底の奥深くに存在し、自分自身すらそれに気づくことができないことがしばしば認められる。この深い深い情動が認識できない時、それは身体的疼痛として表現されることがある。このようながんの痛みのコントロールは時に困難をきわめる。」

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全人的苦痛 (total pain)

がん患者さんの苦痛は多面的であり、全人的にとらえる

必要があります。

全人的苦痛(total pain)

精神的苦痛

痛み他の身体症状

日常生活動作の支障

身体的苦痛

社会的苦痛

スピリチュアルな苦痛

不安いらだちうつ状態

経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題

生きる意味への問い死への恐怖自責の念

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62万人/年 34万人/年闘病者300万人

がんを疑う検査

難治がんの診断

がんの再発・進行

積極的抗がん治療の中止

がん医療におけるストレスの例

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不安

集中できないそわそわして気持ちが

落ち着かない

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落ち込み

だるい、疲れやすい

食欲がでない

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がんに対する心の反応

0 2週 3ヶ月

通常反応(日常生活に支障なし)

ストレス(告知、再発など)

重い落ち込み(約5%)(大うつ病ー重い抑うつ)

軽い落ち込み(約10%)(適応障害ー不安・抑うつ)

適応

衝撃、否認絶望、怒り

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落ち込み

だるい、疲れやすい

食欲がでない

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専門的治療が必要な心の状態―適応障害・うつ状態―

不安と落ち込みはごく普通の反応です。

通常は数日から2週間程度で困難を乗り越え適応しようとする力が働きだします。しかし、適応障害やうつ状態のように「気の持ちよう」だけではどうにもならないような不安や落ち込みを抱える場合があります。そんな時、ひとりでは抱えこまず、信頼できる人や医療スタッフに気持ちを打ち明けてください。誰かに話を聞いてもらい、ストレスに対して一緒にとりくむことは、つらさの軽減に大変役立つ方法です。

また、心のケアは専門家に相談しましょう。当院では、臨床心理士と精神科医師が担当しています。

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日常生活におけるストレスへの対処法

①過去に自分にとって役立った対処方法を思い出し実践する。

②身近な家族や友人に気持ちを打ち明ける。

③正しい情報を集める

④それぞれの問題に優先順位をつける。

⑤自分を責めない。

⑥断る勇気をもつ。

⑦リラックスできるように工夫する。

⑧患者会やサポートグループに参加する。

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ご家族ができる心のケア

患者さんの気持ちを理解・共有する

率直に語り合う

「がんばれ」と励ましすぎない

これまでどおりに接する

患者さんの対処法を尊重する

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全人的苦痛 (total pain)

がん患者さんの苦痛は多面的であり、全人的にとらえる

必要があります。

全人的苦痛(total pain)

精神的苦痛

痛み他の身体症状

日常生活動作の支障

身体的苦痛

社会的苦痛

スピリチュアルな苦痛

不安いらだちうつ状態

経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題

生きる意味への問い死への恐怖自責の念

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痛みの治療を受けられる方へ

市立函館病院

~がんの痛みはがまんしない~

目次第1章;痛みの原因は何ですか? ・・・・・・・・ 2

第2章;痛いときは「痛い」という。

がんの痛みはがまんしないで伝えてください。 ・・・・・・・・ 3

第3章;がんの痛み治療が始まっています。

WHO方式がん疼痛治療法 ・・・・・・・・ 4

第4章;WHO方式がん疼痛治療法の進め方 ・・・・・・・・ 5

第5章;知ってほしい。医療用麻薬のお話です。 ・・・・・・・・ 6

第6章;医療用麻薬ってどんな形なのでしょう? ・・・・・・・・ 7

第7章;医療用麻薬を使いはじめたら ・・・・・・・・ 8

第8章;治療日記のすすめ ・・・・・・・・ 9

第9章;痛みからの解放がもたらすもの ・・・・・・・・10

1

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痛みの原因はいろいろあります。

がん患者さんの痛みのおよそ70%はがん自体が原因で起こります。

痛みは病状の進み具合に関わらず現れ(必ずしも進行を示唆するもの

ではないのです)、その強さは個人差があります。また、不安や恐怖感

のために痛みをより一層強く感じることもあります。がん患者さんが経

験する痛みの多くは持続的でつらいものです。

けれど、「ほとんどの痛みは薬でやわらげることができる」と言われてい

ます。

痛みをがまんせず治療することが大切です。2

第1章痛みの原因は何ですか?

がん自体の痛み

内臓や骨などにがんが広がると痛みます。

また、がんが周囲の神経を圧迫した場合にも痛みます。

治療にともなう痛みなど

手術した後の痛みのほか、寝たきりになった場合の関節痛、持病が影響していることもあります。

30%

70%

武田文和;がんの痛みを救おう!「WHOがん疼痛救済プログラム」とともに,pp20-21,医学書院,東京(2002)より引用

「がんの痛み治療」の効果(n=156)

第2章痛いときは「痛い」という。

がんの痛みはがまんしないで伝えてください

21世紀を迎えた現在、医療は大変な進歩を

遂げました。にも関わらず、現在でもがんが

怖い病気だと思われている理由のひとつが、

痛みです。多くの患者さんは長い間痛みを

がまんし、それが当然と思ってきました。

2006年に実施したアンケートでは多くの

患者さんが「がんの痛み」はがまんするもの

だと考えていました。

でも、実はそうではないのです。第1章でもお話しましたが、「がんの痛

みのほとんどはとることができます。」 だから、痛いときには必ず痛い

と伝えてください。

小川節郎;がん疼痛治療患者レポートVol.1,p2,日本エル・シー・エー,東京(2005)より引用

Q.基本的にがんの痛みははがまんするものだと思いますか?(n=300)

3

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1986年に発表された「WHO(世界保健機構)方式がん疼痛治療法」

は「がんの痛み治療」として世界中で実践され、多くのがん患者さんを

激痛から解放することに貢献しました。下に示す図は、過去と現在の

がん治療の考え方を示しています。がん病変の治療の上で、痛みの

治療を同時に行っていくことがとても大切なのです。

「WHO方式がん疼痛治療法」では下図に示すように段階的な達成を

目指して治療を進めていきます。

4

第3章がんの痛み治療がはじまっています。

WHO方式がん疼痛治療法

初診時

初診時

がん病変の治療

痛みの治療と緩和ケアがん病変の治療

痛みの治療と緩和ケア

過去の考え方

WHOの提唱に基づいた現在の考え方

第一目標 第二目標 第三目標

痛みで眠りをじゃまされない

安静にしていれば痛まない

体を動かしても痛みが強くならない

WHO方式がん疼痛治療は、その時の痛みの性状によって、下図のよ

うに3段階にわけて薬を使うよう提唱しています。図の中の「オピオイ

ド」という用語は医療用麻薬を示しています。

鎮痛薬を上手に使用するために以下の5原則も提唱されています。

① できる限り飲み薬で治療を行います。

② 時刻を決めて規則正しく内服します。

③ 痛みの強さと性質に応じたお薬を使います。

④ 患者さんごとに必要な薬の量を調整して処方します。

⑤ ①から④をふまえた上で細かい配慮を行っていきます。5

第4章WHO方式がん疼痛治療の進め方

非オピオイド鎮痛薬(消炎鎮痛薬)

非オピオイド鎮痛薬(消炎鎮痛薬)

非オピオイド鎮痛薬(消炎鎮痛薬)

強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)弱オピオイド鎮痛薬(コデイン)

ないしはオキシコドン

痛みの強さ

WHOの提唱~3段階式除痛ラダー~

(比較的軽度の痛み)

(中等度の痛み)

(中等度以上の痛み)

鎮痛補助薬(抗不整脈薬、抗うつ薬、ステロイドなど)、放射線治療、など

*必ずしも第1段階から順に使うのでなく、痛みの程度にあった段階の薬を選択します。*痛みの原因によっては、鎮痛補助薬が効果的な場合もあります。

ステップ1

ステップ2

ステップ3

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第5章知ってほしい。医療用麻薬のお話です。

こんな心配はありませんか?

これらは全て誤解であり、根拠のないことがらです。適切に使用すれば医療用麻薬は安全で効果的です。

麻薬中毒になる。気が狂う。

麻薬を使ったら寿命が縮む

麻薬を使うのは「末期」の

がん患者だけだ

いつか効かなくなる

一度使ったらやめられなくなってしまう

麻薬を使うともう「さいご」だ

Q1;医療用麻薬を使うと麻薬中毒にならないのですか?医療用麻薬は、痛みのある患者さんに適正に投与した場合、麻薬中毒になる可能性は皆無に等しいと言われています。これは動物実験でも証明されていますし、国立がんセンター中央病院などでは、術後の鎮痛目的にモルヒネを1万人以上の患者さんに使用しており、それによって中毒を起こした患者さんはゼロだったということです。

Q2;一度麻薬を使用したら2度と止められなくなるのですか?痛みが緩和してくると、薬の量を減らすことができますし、医療用麻薬を止めることもできます。麻薬の使用を止める際には、主治医の助言に従って徐々に量を減らしていきます。

Q3;医療用麻薬を使うと寿命が縮んでしまうのですか?そのようなことは決してありません。痛みに対して医療用麻薬を使った多くの患者さんの調査では、麻薬の使用量が大量であった人とそうではなかった人との間に寿命の差がなかったことがわかっています。

Q4;医療用麻薬の量がどんどん増えてくるのですが、どこまで増やせるのですか?医療用麻薬の効き具合は大きな個人差があり、1人1人の痛みにあわせて薬の量を増減します。モルヒネによる副作用が調整できる限り、痛みがなくなるまで量を増やしても安全に使用できます。

Q5;強い薬に体が慣れてしまうのでしょうか?体が慣れて薬が効かなくなるということはありません。痛みが強くなっても痛みにあわせて薬の量を増やすことで同じように痛みをやわらげることができます。

医療用麻薬には、飲み薬、座薬、貼り薬、注射薬の4タイプがあります。

ここでは当院で扱っている飲み薬、座薬、貼り薬をご紹介します。

痛み止めのお薬を決められた時間に使っていても、ときおり急激に痛

みが出てくる場合があります。

「そんな時、あせらないでください。」

そのときには、一時的に痛みをやわらげるお薬を追加します。これをレ

スキュードーズ(臨時の追加投与)といいます。

7

第6章医療用麻薬ってどんな形なのでしょう?

オキシコンチン錠(錠剤)

内服後血中濃度が上昇しはじめるまでに約1時間要します。その後2~3時間で最高血中濃度になり、内服後12時間効果が持続します。1日2回定期的に内服することにより、安定した効果が得られます。

MSツワイスロン(カプセル)

内服後血中濃度が上昇しはじめるまでに約70~90分要します。その後2~4時間で最高血中濃度になり、内服後8~12時間効果が持続します。1日2回(ないしは3回)定期的に内服することにより安定した効果

が得られます。

アンペック座薬(座薬)

肛門から挿入後血中濃度が上昇しはじめるまでに約20分要します。その後1~2時間で最高血中濃度になり、内服後6~10時間効果が持続します。1日3回定期的に使うことができます。

デュロテップパッチ(貼り薬)

皮膚に貼付後血中濃度が上昇しはじめるまでに約2時間要します。その後24~48時間で最高血中濃度になり、貼付後72時間効果が持続します。3日に1回定期的に交換することにより安定した効果が得られます。

時間を決めて定期的に使っていただくお薬

突発的な痛みが出たとき使用するお薬

内服後血中濃度が上昇しはじめるまでに約12分要します。その後100~120分で最高血中濃度になり、内服後4~6時間効果が持続します。

オキノーム(粉薬)

内服後血中濃度が上昇しはじめるまでに約10~15分要します。その後30~60分で最高血中濃度になり、内服後3~5時間効果が持続します。

オプソ(シロップ)

(レスキュードーズ)

尚、アンペック座薬も突発的な痛みに使用することができます。

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第7章医療用麻薬を使いはじめたら

医療用麻薬を使用すると次のような症状を経験することがありますが、お薬に身体が慣れたり、適切な治療を行うことで

ほとんどの場合よくなってしまいます。

便 秘;ほとんどの患者さんに起こるため、便をやわらかくするお薬 (「カマ」、「マグミット」等)が処方されます。効果が不十分な時は大腸を刺激するタイプのお薬(「プルセニド」、「アローゼン」、「ラキソベロン」等)をうまく組み合わせて調節をします。

吐き気;飲み始めやお薬の量が増えたとき1週間程吐き気が起こることがあります。ほとんどの場合自然におさまってきます。吐き気が出やすい期間だけ吐き気止めを一緒に使うことで吐き気を抑えることができます。

眠 気;飲み始めや薬の量が増えたとき眠気が起こることがあります。体が慣れると眠気はなくなります。医療用麻薬を使う前まで痛みのため眠れていなかったり、体が疲れていることがあります。医療用麻薬を使ったことで体が楽になり、余計に眠気を感じるのかもしれません。

上記以外にも何か気になることがあればどんなことでもご相談ください。

医療用麻薬は、少ない量から使いはじめます。でも、お酒と同じように医療用麻薬の効き具合は大きな個人差があり、少量のお薬でも十分に効果が得られる方と、そうでない方がいます。このため、体質的に少量の麻薬では効果が出づらい方は、薬の量の調整に3~5日程度要する場合があります。

まず最初にお薬の量のさじ加減が必要です。 痛みの治療について、治療日記をつけることをお勧めします。

日記をつけることによって客観的にご自分の状況を判断することがで

きますし、治療にあたる医療者にとってもとても重要な情報になります。

日記には痛みの程度も記載しましょう。程度を示す尺度として、下図の

5段階評価か、10段階評価のいずれか表現しやすい方を用いてくださ

い。

治療日記;例

9

第8章治療日記のすすめ

5段階評価(フェイススケール)

0;全く痛まない 1;ほとんど痛まない 2;軽い痛み 3;中等度の痛み 4;高度の痛み 5;耐えられない痛み

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

10段階評価(NRS;numeric rating score)

0;全く痛まない 10;耐えられないもっとも強い痛みとし、10段階評価

日付 時刻 飲んだ薬 痛み メモ

9/3 AM 8:00 オキシコンチン、カマ、ロキソプロフェン、タケプロン

2

AM11:00 トポテシン

PM 0:30 ロキソプロフェン、カマ

PM 1:00 オキノーム2.5mg 7 放射線治療

PM 2:00 37℃,130/74

PM 5:00 プリンペラン 吐き気

PM 7:00 排便

PM 8:00 オキシコンチン、カマ、ロキソプロフェン

1

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がんの痛みをとることで最も大切なのは

「患者さんが痛みを忘れて安心して過ごせる」

ということなのです。

がんの痛みのほとんどはとることができます。

がんの痛みは医師や看護師、薬剤師に伝えてください。

10

第9章痛みからの解放がもたらすもの

たとえ治療中でも旅行や外出など今までどおりの生活を送る。

前向きに「がんそのものの治療」に取り組み、見事に病気を克服。

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医療用麻薬の持続注射

医療用麻薬には注射製剤もあります。病院でもご自宅でも、自分でお薬の量を調整できるシステム(PCAポンプ:patient controlled analgesia)を当院では採用しています。

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全人的苦痛 (total pain)

がん患者さんの苦痛は多面的であり、全人的にとらえる

必要があります。

全人的苦痛(total pain)

精神的苦痛

痛み他の身体症状

日常生活動作の支障

身体的苦痛

社会的苦痛

スピリチュアルな苦痛

不安いらだちうつ状態

経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題

生きる意味への問い死への恐怖自責の念

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社会的苦痛の緩和―生活の支援が必要なとき―

第一号被保険者(65歳以上)第二号被保険者(40-64歳)

脳卒中、初老期痴呆、「がん」に罹患しているものは65歳に満たなくとも介護給付の対象となる。市町村に申請。要介護状態の区分によって1割の自己負担で介護サービス(ヘルパー、訪問介護、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリなど)が受けられる。

介護保険

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社会的苦痛の緩和―治療にかかる費用とその支援―

①高額療養費助成;医療費の自己負担が一定の金額(被保険者の収入により決定)を超えた場合、超えた額の払い戻しが受けられる制度

②高額医療費貸付;高額医療費助成は申請から支給まで2~3カ月かかるため、それまでの医療費の貸付制度

③医療費控除;確定申告の医療費控除の対象となる費用④生命保険/がん保険⑤休業保障、傷病手当等⑥生活保護⑦介護休業給付金;雇用保険法で制定

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社会的苦痛の緩和―解決策がみつかるかもしれません―

医療ソーシャルワーカーにご相談ください。

医療ソーシャルワーカーは、①経済的問題の解決、調整援助②療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助③受診、受療援助④退院(社会復帰援助)⑤地域活動等を行っています。専門的な知識を持って相談にのってくれます。

当院では地域医療連携室に常在しています。

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全人的苦痛 (total pain)

がん患者さんの苦痛は多面的であり、全人的にとらえる

必要があります。

全人的苦痛(total pain)

精神的苦痛

痛み他の身体症状

日常生活動作の支障

身体的苦痛

社会的苦痛

スピリチュアルな苦痛

不安いらだちうつ状態

経済的な問題仕事上の問題家庭内の問題

生きる意味への問い死への恐怖自責の念

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霊(spirit)・霊性(spirituality)を理解することは困難(不可能?)

Cicely Saunders医師「霊(spirit)とは個人に生命を吹き込む不可欠な根源」

WHO(世界保健機関)「霊的な因子とは生きている意味や目的についての懸念や関心とかかわり深い、人間の“生”を構成する一部分。特に人生の終末に近づいた人にとっては自らを許すこと、他の人々との和解、価値の確認などに関連していることが多い。」

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スピリチュアルペインとは人が自分の「存在の意味」を問われる痛みであり、それまで築いてきた人生が根幹から揺さぶられることによる苦脳である。

また、死の恐怖・死生観に対する悩みもこれに含まれる

スピリチュアルな苦痛

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全人的ケアのためのチームアプローチ

緩和ケアに限らずすべての場面において医療現場での主役は病気と闘っているご本人です。全人的ケアを行うためにご本人を中心としたチーム医療が必要です。

主治医、緩和ケア医師、看護師、薬剤師、MSW、福祉

ご家族

ご本人にとってより快適な療養生活を目指します。

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療養の場の選択

もしご自分が、療養生活を行うとしたら、どこを希望しますか?ホスピス・緩和ケア病棟?

今まで治療を行ってきた病院?自宅?

病状やその時の環境によって希望する療養の場は変化します。いつでもどこでも切れ目のない緩和ケアができる体制が徐々に整備されつつあります。ご自分にとって、ご家族にとって、よりしっくりする場所を一緒に考えましょう。

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ホスピス・緩和ケア病棟

体と心の苦痛緩和に力をそそぐ。

苦痛をともなう検査や処置をなるべく少なくする

ご家族も一緒にくつろげるデイルームや庭がある

面会時間の制限がない。

ご家族がすごしやすい

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緩和ケアチーム

チームメンバー医師・看護師・臨床心理師・薬剤師・MSW

身体の症状(痛み、息苦しさ、だるさなど)心の問題(不安、落ち着かない、不眠など)がんの療養全般の問題

緩和ケアチーム看護師・医師がご本人のもとに出向き面談・治療・援助をします。

活動内容

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在宅療養支援診療所

ご自宅で療養することもできます。

在宅療養支援診療所の医師が、担当します。

往診と訪問診療があります。

病院のベッドではなくて家のベッドで寝るということです。

在宅療養支援診療所の医師、訪問看護師、ホームヘルパー、理学・作業療法士、ケアマネージャー、薬剤師、栄養士などが診療にあたり、病院でできることに近い医療を提供することが可能です。

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もっと詳しく知りたい方へ

http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html国立がんセンターがん対策情報センター

http://www.kanwacare.net/緩和ケア.net

塩野義製薬;がんの痛みはがまんしないhttp://www.shionogi.co.jp/itami/index.html

アストラゼネカ オンコロジー;―がんになっても希望とあたりまえの生活を。―

http://www.az-oncology.jp/index.html

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あなたはあなたのままで大切です。あなたの人生の最後の瞬間まで大切な人です。ですから、私たちはあなたが安らかに死を迎えられるだけでなく、最後まで生きられるように最善を尽くします Dame Cicely Mary Saunders

(1918-2005)

~ you matter because you are you. You matter to the last moment of your life, and we will do all we can not only to helpyou die peacefully, but also to live until you die ~

現代ホスピス(緩和ケア)運動の母シシリー・ソンダース医師のメッセージ