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第 2 章 3 次元形状計測 9 第2章 3次元形状計測 本研究においては,対象物の表面形状を非接触で計測するにあたり,当研究室で試作開発したレー ザ光を用いた3次元計測装置,デジタルカメラによる3次元写真計測システム,中長距離用レーザース キャンシステムを使用した. 本章では,まず3次元計測の基礎について概説し,つづいて使用した3次元計測器について概要を 示す. 2.1 3次元計測の基礎 1) (1)三角測量 土木工学分野のの測量でごく普通に用いられるもので,三角形の原理を使って離れた地点との距離 を計測する手法を三角測量という.具体例として,ある 2 点間の正確な距離が分かっている場合,そ の 2 点から離れた場所のある地点との距離は,その 2 点との角度が分かれば「三角形の一辺とその両 端角が分かれば三角形が確定する」という性質によって確定することができる(図 2.1) 例えば木の高さを測りたい時に(図 2.2 参照) ,木から少し離れた場所に立ち,その木との距離と, その場所から木のてっぺんを結んだ線と地表の角度が分かれば,木の高さを計算できるが,これも三 角測量の応用である(木と地表の角度は 90°とする) この三角測量の原理を利用することによって,離れた場所にある物体の三次元的な形状を測定する ことが可能になる. 図2.1 三角測量の概念図 2.2 木の高さの測量

第2章 3次元形状計測...第2章 3次元形状計測 13 (8) 三次元画像計測の手法 立体物の形状や三次元位置の計測を「画像」から行うことを総称して「三次元画像計測」と呼ぶが,その手法には様々なものがある.その手法を大きく分類すると,「受動型計測」と「能動型計測」の2

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Page 1: 第2章 3次元形状計測...第2章 3次元形状計測 13 (8) 三次元画像計測の手法 立体物の形状や三次元位置の計測を「画像」から行うことを総称して「三次元画像計測」と呼ぶが,その手法には様々なものがある.その手法を大きく分類すると,「受動型計測」と「能動型計測」の2

第 2章 3 次元形状計測

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第2章

3次元形状計測

本研究においては,対象物の表面形状を非接触で計測するにあたり,当研究室で試作開発したレー

ザ光を用いた3次元計測装置,デジタルカメラによる3次元写真計測システム,中長距離用レーザース

キャンシステムを使用した.

本章では,まず3次元計測の基礎について概説し,つづいて使用した3次元計測器について概要を

示す.

2.1 3次元計測の基礎1)

(1)三角測量

土木工学分野のの測量でごく普通に用いられるもので,三角形の原理を使って離れた地点との距離

を計測する手法を三角測量という.具体例として,ある 2 点間の正確な距離が分かっている場合,そ

の 2 点から離れた場所のある地点との距離は,その 2 点との角度が分かれば「三角形の一辺とその両

端角が分かれば三角形が確定する」という性質によって確定することができる(図 2.1).

例えば木の高さを測りたい時に(図 2.2 参照),木から少し離れた場所に立ち,その木との距離と,

その場所から木のてっぺんを結んだ線と地表の角度が分かれば,木の高さを計算できるが,これも三

角測量の応用である(木と地表の角度は 90°とする).

この三角測量の原理を利用することによって,離れた場所にある物体の三次元的な形状を測定する

ことが可能になる.

図2.1 三角測量の概念図 図2.2 木の高さの測量

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第 2章 3 次元形状計測

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(2) ピンホールカメラの原理

ピンホールカメラは,針先のような小さい穴(ピンホール)を使って光を通し,一定距離の先にあ

るフィルムや印画紙などの感光材の上に像を映し出す仕組みのカメラである.

物体に太陽光などの光が当たると,いろいろな方向に光が反射される(散乱).ここで一つの箱を用

意し,その外側にピンホールを置くと,箱の外側から入射した光はピンホールによって一つの方向の

光だけが通され,それ以外の光は箱によって妨げられる.そして箱の内側に感光材を置くと,その一

つの方向の光が感光材上に結像することになる.これがピンホールカメラによって写真が撮れる原理

である.このとき,できあがる物体の像はちょうど 180°反転した像になる.

ピンホールカメラによって結ばれる像と実際の物体の座標の関係を示すと図 2.4 のようになる.

ピンホールカメラでは,平面Iが感光材のある面,距離 f はカメラの箱の奥行きとなり,平面 I と平

行な面 Fにピンホールを空けて撮影を行う.

平面 I上の座標 m=(x,y)と,注目している物体の座標 M=(X,Y,Z)から,つぎの関係が成り立つ.

x= -fY/X

この関係から,焦点距離fと物体の座標 Mが分かれば,平面I上の座標mを計算することができる.

(3) レンズによる像

一般のカメラでは,ピンホールの代わりにレンズを使って像を結ばせる.図 2.5 にレンズによって

結像する模式図を示す.光はレンズを通過する際に,入射角により決まった方向に屈折して曲がるが,

このときにレンズの形状によって曲がった光がレンズの先である一点に集中して結像する.この一点

が焦点である.ピンホールカメラの場合と同じく,結像された物体像は 180°反転した像となる.

図 2.3 ピンホールカメラの模式図

図 2.4 ピンホールカメラを幾何学的に見た場合

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第 2章 3 次元形状計測

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(4) レンズの歪み

レンズを使って結像する場合,「歪み」による問題が発生する.図 2.6 は,縦横等間隔に点を描いた模

造紙をデジタルカメラで撮影したものである.図 2.6 から分かるように,レンズ自体の歪みによって

直線が歪んで投影され,図中で現れているように四角の形状が樽型に歪みを生じている.これを「放

射歪み」といい,周辺になるほどその歪みが顕著になります.後述するカメラを用いた三次元計測の

際にはこの歪みが精度に大きく影響するため,予めこの歪みを補正する必要がある.

(5) 複数のカメラの位置関係の決定

複数のカメラを使って 1 つの対象を異なる角度から撮影した場合,一定数以上の注目点がそれぞれ

にカメラに写り,その点の座標情報からカメラの位置関係を求めることができる(図 2.7)

ところで今,点が m 個,カメラが n 台(=写真n枚)の場合を考える(図 7 の場合).このとき,n

枚の写真上の m個の点について上記の式を 2mn 個たてることができる.

また,未知の情報(未知数の数)は 6n+3m 個(カメラの位置+方向が 6n,点の位置が 3m)となる.

現時点では,座標系の取り方は任意であるので,一つのカメラの位置と方向を基準座標とすることで

未知数を 6 個減らすことができる.また,幾何学的にスケールが不定となるから,未知数はさらに 1

つ減らすことができる.このため,未知数は,計 6n+3m-7 個となる.したがって,2mn 個の連立方程式

を解くためには,式の数は未知数の数より多ければよい.すなわち

2mn ≧ 6n+3m-7

を満たせばよいことになる.

図 2.5 レンズを使ったカメラの模式図

図 2.6 レンズによる歪み

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第 2章 3 次元形状計測

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例えば,写真が 2枚(n=2)の場合で考えると,上記の条件は,m≧5となって,5個以上の点が2

枚の写真に共通に写っていれば,原理的には連立方程式を解くことができ,カメラの位置関係が決定

することができる.しかし,実際には非線形性がネックとなって5点で方程式を解くことは非常に困

難です.通常の3次元計測では,8点の対応点を利用することで対応している.

(6) 2台のカメラによる物体の座標の決定

複数カメラの位置関係の決定の方法に基づいて,2台のカメラを用いて物体を撮影し,それぞれのカ

メラの位置関係が求められているとすると,物体上のある注目点とカメラに投影される画像の関係は

図 2.8 のようになる.

注目している点がカメラ 1 に写る点とそのレンズ中心を結ぶ直線と,カメラ 2 に写る点とそのレン

ズ中心を結ぶ直線が交差する点が,目的の注目している座標として得られる.ただし,ここではカメ

ラ 1,カメラ 2,注目点を結ぶ三角形の相対的な関係が求められるだけであるので,絶対スケールを求

めるためには最低 1カ所の実寸スケールが判明している必要がある.

(7) エピポーラ線(補助線)

カメラ 1 と注目している点を結ぶ直線は,カメラ 2 に直線として投影される.この直線をエピポー

ラ線と呼ぶ.カメラ 2 と注目している点を結ぶ直線も,同様にカメラ 1 に投影される.注目している

点の座標が分かっていない場合,カメラ 1 に写っている点はカメラ 2 ではこの直線(エピポーラ線)

上にあることが分かる.このエピポーラ線の性質を利用して,エピポーラ線を「補助線」として表示

し,座標を求める補助手段として利用される

図 2.7 カメラ位置の特定模式図

図 2.8 カメラを使った 3次元座標特定模式図

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第 2章 3 次元形状計測

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(8) 三次元画像計測の手法

立体物の形状や三次元位置の計測を「画像」から行うことを総称して「三次元画像計測」と呼ぶが,

その手法には様々なものがある.その手法を大きく分類すると,「受動型計測」と「能動型計測」の 2

つに分かれる.受動型計測は,対象となる物体に対して,計測の補助となる特定の光や電波等を照射

することなく行う計測である.それに対して能動型計測では,三次元計測をするために光,電波,音

波などを対象の物体に照射し,その情報を利用して計測を行う方法である.表 2.1 にいくつかの計測

手法を示す.

レンズ焦点法 一眼レフのカメラでフォーカスリングを操作して焦点を合わせるのと同様の原理で,物体の座

標とカメラとの距離を計測する方法.ある地点でピントを合わせ,合ったところのダイアル目

盛りで距離が求まる.焦点深度の非常に浅いレンズが必要となるので,距離のある測定にはあ

まり向いていない.

受動型計測

ステレオ法 カメラ等を左右に 2 台並べて,三角測量の原理で計測を行う方法.カメラの配置方法によって

「両眼視」「三眼視」「カメラ移動型」などの方法がある.本研究で用いた「Kuraves-K」では

この「カメラ移動型」を応用している.

能動型計測 光レーザー法 物体に光を当て,その光が戻ってくるまでの時間によって距離画像を得る方法.

アクティブ

ステレオ法

アクティブステレオ法ではカメラを 2台使う代わりに,1 台を光を発する装置に置換して計測

を行う.投影光の種類によりスリット光投影法*など様々な手法に分類される.

*スリット光投影法:スリット光を物体に投影した状態で撮影を行い,その光の変化の度合い

を取り出して計測を行う方法.

照度差

ステレオ法

対象の物体に対して複数の光源を使って,光源を切り替えながら写した複数の画像から面の方

向を求める方法.光源に近い物体の面の面素が明るく写ることで光源方向に傾きを計測できる

ので,これを複数得ることで立体の計測を行うことができる.

図 2.9 エピポーラ線

表 2.1 3次元画像計測手法

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図 2.10 スポットレーザ投光法 図 2.11 スリットレーザ投光法

2.2 試作した3次元画像計測装置

2.2.1 能動的ステレオ法

ステレオ画像は,左右二つのカメラから得られる画像の間で対応点を見つけて,三角測量法を適用

するものであるが,この方法では二つの画像間の対応付けに問題点がある.このため,一方のカメラ

を光に置き換えた能動的ステレオ法の研究が活発に行われ,現在種々のタイプのレンジファインダ(カ

メラなどに用いられる光学式距離計を表す言葉)が用いられている.能動的ステレオ法は,投影される

光のパターンの形で分類されるが,ここではスポットレーザ投光法とスリットレーザ投影法について

概要を示す.

(1) スポットレーザ投光法

レーザビームを対象に投影してできる輝いたスポットを異なった角度からカメラでとらえ,スポッ

トの3次元位置を求めるもので,レーザ光源とカメラとスポット位置を直線で結んで三角形をつくると

いう,三角測量の原理に最も忠実なアクティブファインダである(図2.10).

受動的計測法であるステレオ画像法では特別なスポット像は得られない.しかし,能動的スポット

投光法ではスポット像の輝度がレーザ光源のため十分に高く,簡単なピーク検出で得られるので曖昧

さは伴わない.したがって,計測法としては,信頼性の高いものということができるが,実用上の問

題は処理時間である.しかし,スポットレーザ投光法では,計測時間を短縮するために,PSD (Position

Sensitive Detector),イメージディセクタ,CCDリニアセンサなどの利用の工夫がなされている.

(2) スリットレーザ投影法

別名,光切断法とも呼ばれる最も知られた三次元画像撮影法である.スポット画像法では1枚の画像

からただ1点しか3次元位置が求まらないため,データ入力に長時間を要する.それに対してこのスリ

ット画像法 (図2.11参照)では,1回の撮像で1本のスリット光,換言すれば1枚の光シートが物体を切

断する時の切断線像が得られる.そこでスリットプロジェクタの投影方法を少しずつ変化させつつ,

観測対象を走査すれば3次元形状データが得られる.今回の計測にはこのスリットレーザ法を用いた.

2.2.2 ハードウェア構成

3次元計測装置としては,針を落として計測する方法やシールを貼ってその点を計測する方法など

が用いられているが,非接触型計測を目的としてレーザ光線を用いる方法を採用した.また,ステレ

オ画像法では,左右の2台カメラを用いて対応点が抽出されるが,この作業がかなり面倒である.レー

ザを用いれば,簡単な画像処理(輝点検出)で対応点を抽出することができる.さらに,スリット状の

レーザ光線を用いることで,計測時間の迅速化が図れる.

計測装置の概要を図2.12に示す.計測システムは,スポットレーザ投光器,CCDカメラ,スリットレ

ーザ用制御装置,キャリブレーション用ボード,システムコントローラ(PC)から構成されている.ス

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第 2章 3 次元形状計測

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ポットレーザ投光器(図2.13)は,12ビット分解能のスキャナーを2軸に装着し,その先端部でアルミ製

の鏡を回転させることによって,半導体レーザを対象目標点に照査することができる.CCDカメラは,

通常市販されているもの(Panasonic製WV-PB510,有効画素数:771$¥times$492)を用いた.また,計測性

能の向上のためにバリフォーカルレンズ(WV-LZ62-8)を装着している.キャリブレーション用ボード

(図2.14)は,カメラパラメータを求めるための基準座標を指定するものである.直角に配置された3枚

の板に5cm間隔で線を引き,その交点を基準点としている.スリットレーザ制御装置(図2.15)は,2.4576

Hzのパルス信号を250KHzのパルス信号に変換し,内蔵DA変換器によってアナログ信号に変換すること

でスリットとして出力している.パソコンは,CPUはPentium II 300 MHz,メモリ 256 MB,ハードディ

スク4GBの機能をもつ.また,鏡の角度を制御するモータコントロールユニット,画像処理ボード,お

よびDA変換ボードを取り付けている.DA変換ボードは,レーザ光を出力するにはアナログ信号を送ら

なければならないので,コンピュータから出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換するための

ものである.

この計測システムを用いることによって,三次元計測が可能となる.本計測システムではステレオ

画像法,スポットレーザ投光法,スリットレーザ投影法の3つの計測が可能である.

図 2.12 三次元計測装置

図 2.15 スリットレーザ制御装置 図 2.14 キャリブレーション用ボード

図 2.13 スポットレーザ投光器

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第 2章 3 次元形状計測

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2.2.3 ソフトウェア構成

計測作業を円滑かつ簡単に行うため,計測操作プログラムを開発した.

OSは Windows NT,プログラム開発言語はC++を使用し,データベースソフトはACCESSを使用した.

計測用プログラムとして,以下のものを作成した.

① 計測前処理プログラム:レンズによるラスタ座標の歪み補正プログラム

② キャリブレーション操作プログラム:既知点(C.B.上の9点)の画像からラスタ座標取得機能,レー

ザ光照射角取得機能により,カメラ・レーザ位置関係パラメータ算出するプログラム

③ 自動計測操作プログラム:計測操作プログラムで,差画像抽出しきい値,スポットレーザ光移動

ピッチ,照射範囲を設定し,レーザ光の画像座標値抽出から三次元座標算出までを自動的に行うもの.

④ 計測データ表示プログラム:計測データ3次元DXF変換,サーフェイス表示,表示画面からの指定

2点間距離算出,計測データのデータベース格納を行うもの.

2.2.4 触針式三次元スキャナを用いた三次元計測装置の概要

本計測装置と比較するために,図2.16に示す触針式三次元スキャナを用いた3次元計測装置を使用

した.触針式3次元スキャナを用いた3次元計測装置の仕様を表2.2に示す.

2.2.5 計測環境および計測時間

本計測システムの性能評価を比較するため,触針式三次元スキャナを用いた三次元計測装置を使

用している.触針式三次元スキャナを用いた三次元計測装置は,計測対象物に直接接触し計測を行う

ため,高精度な三次元座標を取得できるのが特徴であるが,4万点の計測に10~12時間かかり,計測対

象物を持ち込み計測を行うので,対象物の大きさ・重量に制限がある.それに対し本計測システムは,

計測器を移動して計測を行うので,対象物のサイズ・重量に制限がなく,4万点の計測も80秒程度で行

える.以上のことから,本計測システムの実用性に関して十分有効であると言える.

本システムの計測速度は,5000点の座標値の計測時間は,自動スポット計測で40分以内,自動スリ

ット計測で10秒以内であった.なお,スリットライン移動ピッチは0.25mmである.

最大スキャン領域 X軸方向304.8mm,Y軸方向203.2mm,Z軸方向60.5mm

テーブル積載最大荷重 5 kg

センサー ローランドアクティブピエゾセンサー(R.A.P.S.)

プローブ長さ64 mm,先端球形半径 0.08mm

スキャン方式 接触型,メッシュポイント高さ検出方式

スキャンピッチ X/Y軸方向0.05~5.00mm(0.05mm刻みで設定),Z軸方向0.025mm

動作速度 XY軸は30mm/sec,Z軸は9mm/sec

書き出しファイル形式 DXF,VRML,STL,3DMF,グレースケール,BMP,点群.

外形寸法 478 mm (W) $¥times$ 465 mm (D) $¥times$ 341 mm (H)

重量(本体のみ) 11 kg

表 2.2 触針式3次元スキャナの仕様

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第 2章 3 次元形状計測

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2.3 3次元写真計測システム

3次元計測の現場計測の適用性を追及するため,デジタルカメラを用いた3次元写真計測システム

を導入した.これはデジタルカメラから取り入れた2枚以上の画像データ(写真)をもとに,様々な

対象物を3次元デジタルデータ化できるソフトウェアである.近年,特に高解像度デジタルカメラの

普及とパーソナルコンピュータの高速化により,写真計測が身近なものになってきた.計測結果は3

次元データとして作成されるため,物体の長さや面積,体積,断面図など様々な目的用途で活用する

ことができる.

2.3.1 3次元写真計測システムの特長

• 計測専用カメラ不要

高価な計測専用カメラは必要なく,市販デジタルカメラが使用できる.レンズ歪み補正ツールを

標準装備しているため,どの機種でも計測可能.

• 計測点不要

撮影画像にスケールが写っていれば(写っていなくても撮影間距離や対象物までの距離でも可能),

スケール付きの3次元データが生成される. 撮影位置などの面倒な事前計測はまったく不要.

• ユーザーフレンドリー

カメラ撮影やパソコンなど一般的な操作ができれば誰でも簡単に取り扱える.特殊な技術を必要

としない.

• ビジュアル化

撮影画像をもとにした測定結果や,三次元シミュレーション機能の充実により,ビジュアル化が

可能.

2.3.2 3次元写真計測システムの機能

• カメラレンズ歪み補正機能

市販デジタルカメラの場合,個々に持っているレンズ歪みを補正する必要がある.簡単に補正値

を求められる専用漂定用紙とカメラレンズ歪み補正ツールを付属してある.

• 自動対応点処理

必要なライン上や格子状に切った面を自動対応付けできる機能が充実. パターンパッチング手法

図 2.16 触針式 3D 計測器

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第 2章 3 次元形状計測

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①写真を撮る

を用いて自動的に対応点が生成されるため,数千点の三次元計測が瞬時に実施可能. 本システム

の最も自動化された機能の一つで,各種補助処理機能も充実している.

• 測量点登録機能

公共座標系に変換したり,変位計測の目的で定点を固定したりと,測量器など別装置で計測した

測量点を入力し,活用することができるように設計されている.

• オルソ画像三次元表示機能

求積機能で三角網を生成した対象物は,三次元表示機能で回転,縮小,視点等を変更しながら自

由に観察することができる. 対象物の形状確認や対応点入力の間違い検出,GIS 等へのオルソ画

像出力,また,等高線等(DXF)の外部のデータをインポートし,写真との同時表示・出力も可能.

• 等高線・縦横断作図機能

等高線の高さや出力範囲設定をすれば,その場でコンタ図を作成することができる.また,そこ

に線を入れれば簡単に縦横断図が生成される.

• 体積計算機能

土砂量や,穴の容積など切り取る場所を指定すれば体積計算することが可能. また,計画図や前

況を入力すれば,現況と比較し,その盛り量や切り量を現地の切盛シミュレーションとともに確

認し,把握することもできる.

• 複数画像接続機能

作成されたデータ間を関連付け,複数の写真を接合するツールが準備されている.広域計測,立

体計測ほか室内計測などにも便利なツール.

2.3.3 基本操作のフロー

3次元写真計測システムの基本操作のフローは以下の通りである.

① 写真を撮る(2枚以上)

② 写真をパソコンにセットする

③ 対応点を取る

④ スケール等の入力

⑤ 自動対応点処理

⑥ 結果データ出力

画面上で3D表示機能による確認作業を行い,位置座標データ(X,Y,Z)を CAD 出力する.

対応点を多数作成することでより細かな表面形状を表現できる.

図 2.17 3次元写真計測システムの基本操作のフロー

③対応点を取る ⑤自動対応点処理

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第 2章 3 次元形状計測

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用 途 必要項目

長さ,表面積,体積計算 縦断図,等高線,鳥瞰図 公共座標系

点間距離*1) ○ ○ -

垂直水準*2) - ○ -

測量点 - - ○

*1) 2 枚以上の写真に長さが特定できるものが写っていること.撮影間距離,対象物間距離でもよい.

*2) 2 枚以上の写真に垂直水準が写っていること.三脚でも良い.

2.3.4 動作環境 表 2.4 に 3 次元写真計測システムの動作環境を示す.

2.4 3Dレーザースキャン 2.4.1 3Dレーザースキャナの概要

3Dレーザースキャナは,レーザーによる計測対象物とセンサーの間をレーザパルスが往復する時

間を計測することで距離を計測し,同時にレーザービームを発射した方向を計測することで,計測対

象点の3次元座標を取得するものである.

測定原理は,レーザーが測定対象物で反射して帰ってくるまでの時間から距離を算出し,またレー

ザーの移動方向角度から角度を算出し,この距離・角度情報から3次元位置情報を求めている(図2.18).

3Dレーザスキャナの性能を表2.5に示す.また,3Dレーザスキャナで長崎市平和祈念像の計測風景

の写真を図2.19に示す.

現在,3Dレーザスキャナは,金型など工業製品の規格検査用には極めて精密な計測が可能な超短

項目 動作環境

デジタルカメラ 200 万画素以上

OS Windows*1) ME/XP/2000

CPU Pentium 300MHz以上

メモリ 128MB 以上

画像解像度 800×600 以上

表示色 1670 万色

CD-ROM ドライブ 必須(インストール時)

プロテクトタイプ USB キー

表 2.3 3 次元写真計測システムの用途

表 2.4 3 次元写真計測システムの動作環境

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第 2章 3 次元形状計測

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図 2.19 3Dレーザースキャナによる平和祈念像の形状測定

距離計測用から,やや精度の劣る長距離計測用など様々な機器が存在する.これらのうち,文化財計

測に有効と考えられる近・中~長距離計測が可能なタイプの代表的な機器について,その諸元を表 2.6

に示す.現在,一般的に入手可能なこれらの3Dレーザスキャナの代表的な相違点は,①計測距離(数

m~1000m 程度まで) ②計測精度(数 mm~数 cm) ③スキャン範囲などである.3Dレーザスキャナ

を使用して計測を行う際には,対象までの距離,対象の規模・大きさ,必要な位置精度などを考慮し,

適切な機器を選択する事が必要である.

2.4.2 3Dレーザ計測のフロー

本研究で使用した3Dレーザースキャナーによる計測のフロー図を図 2.20 に示す.本計測器を用い

ると,極めて短時間に大型建造物の3次元デジタル座標情報を取得することができる.

図 2.18 3Dレーザースキャナの測定原理

Page 13: 第2章 3次元形状計測...第2章 3次元形状計測 13 (8) 三次元画像計測の手法 立体物の形状や三次元位置の計測を「画像」から行うことを総称して「三次元画像計測」と呼ぶが,その手法には様々なものがある.その手法を大きく分類すると,「受動型計測」と「能動型計測」の2

第 2章 3 次元形状計測

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表 2.5 3Dレーザースキャナの性能

表 2.6 中長距離計測が可能な代表的な 3次元計測器の種類と緒元

機 種 名 ILRIS-3D Cyrex 2500 LMS-Z210 iQsun880 メーカー optech 社(カナダ) サイラ社 リーグル社(ライカ) iQvolution イメージ

測定範囲 3~350m(反射率 4%) ~800m(反射率 20%)

最大 100m(最適距離 1.5m~50m)

2~350m (反射率 50%)

50cm? 76m

スキャニング角 /速度

垂直±20° ×水平±20° 2000 ポイント/秒

垂直 40°×水平 40°最大

1000 ポイント/秒 [ラインスキャン方向]

80°1~36 スキャン/

秒:20000Hz

垂直 320°×水平 360° 120,000/秒

レーザー波長 1540nm(遠赤外) 532nm(青色) 905nm(近赤外) 785nm(近赤外) 測定精度 標準±3mm

(100m の時) 空間単独点6㎜ (50m 以内)

標準±2.5 ㎝ 最悪±10 ㎝

3mm/10m

測定温度条件 0~40° 0~40° 0~40° 0~50° レーザー強度 クラス 1 クラス 2 クラス 1 クラス 3R/3A 本体重量 ・サイズ

12kg 312×312X205 ㎜

20.5kg L15.8×W13.25×H16.9

13kg 435×210 ㎜

13kg w400×d160×h280mm

備 考 3D距離画像のほかに

受光強度画像得ること

ができる。 GIS プログ

ラ ム ( 例 え ば

PolyWorks、3D スタジ

オ MAX、Terramodel、AutoCAD、Isogen)と互

換性。 多角形の出力

(.dxf、.iv、.obj、VRMLフォーマット)が可能で

ある

スキャニング密度を垂直

及び水平方向それぞれに

独自に設定可能。CGP

ソフトウェアが内蔵さ

れ、3Dモデル、点群、

ワイヤメッシュ、シュリ

ンクラップ面のズームや

パンも自在で、自由回

転・移動が操作中も可能。

広角度で対象物をスキャ

ニングし、距離や角度位

置(鉛直・水平の両軸)

を計測。3D距離画像の

ほかに受光強度画像、及

び RGB も得ることがで

きる。受光強度画像から

地形の起伏や対象物の材

質差などを読み取ること

が可能。

近距離、特に建築物の内

部を高速で計測。パルス

方式でなく、1 パルス 3サイン波フェイスシフト

方式を採用し、1周4分

という速さ、かつ±3mm(10m)という誤差内で

計測。陳腐化しないよう

に 4 つのパーツで拡張性

用途 文化財/土木一般/橋梁な

どの維持管理 プラント、文化財他 土木一般(のり面他やや

精度が問題か?) プラント、建物の中のよ

うなクローズドの空間を

計測

ILRIS-3D(オプテック社)

測定範囲 10~350m(350mの反射率4%)

~800m(800mの反射率20%)

スキャンニング角 垂直±20°×水平±20°

スキャンニング速度 2000 ポイント/秒

レーザー波長 1540nm(近赤外)

レーザー強度 クラス1

レーザー間隔 0.025°(最高0.0014°)

スポットサイズ 13mm(5m の時)

測定精度 標準±3mm(100m の時)

Page 14: 第2章 3次元形状計測...第2章 3次元形状計測 13 (8) 三次元画像計測の手法 立体物の形状や三次元位置の計測を「画像」から行うことを総称して「三次元画像計測」と呼ぶが,その手法には様々なものがある.その手法を大きく分類すると,「受動型計測」と「能動型計測」の2

第 2章 3 次元形状計測

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現場作業

室内作業

(基準点の設置)

長崎平和記念像

3D レーザ計測(ILRIS-3D) デジタル写真測量

オルソ画像の作成 取得データの解析・処理

点群データ

面データ

(コンター図)

任意断面図

トレース図化

3DCG モデルの作成

CAD 図

構成部材の形状・数量 損傷状況 その他痕跡など

現地調査

調査結果のまとめ

「補強工事」に向けた事前情報

補強工法検討その他

3Dデジタル情報の活

側面図、断面図等の作製 写真合成図の作製

①側面図の作製 (高所の寸法形状抽出) ②平面図の作製 ③破損図の作製 (亀裂他の抽出) ④全体平面図の作製 (周辺敷地形状の取得) 各項目毎に抽出が可能であったものを整理しまとめる.

参考文献

1) 三次元計測の話,http://www.kurabo.co.jp/el/room/3d

2) 井口征士,佐藤宏介:三次元画像計測,昭晃堂,1990

図 2.20 3D形状計測とその計測データ活用のフロー図