14
第2章 バーゼル条約の概要 1.バーゼル条約の目的 (1)条約締結に至る背景 1987年6月、国連環境計画(UNEP)管理理事会が、有害廃棄物の国境を越える移動に 対する国際的な規制のための作業部会の設置を求めた。 この背景として、それまでに発生したセベソ事件 1 を受けて、経済協力開発機構(OECD) が1985年に、有害廃棄物の国境を越える移動を管理することを決定し、国際協定の準 備を始めていたことが挙げられる。 他方、1980年代に入り、先進国内では廃棄物に対する規制の強化を受けて、廃棄物 処理コストが上昇し、結果として、法的な環境が未整備で廃棄物を安価に投棄できる開発 途上国に持ち出す傾向が増していた。キアン・シー号事件 2 などを含め、欧米の先進国から の廃棄物が開発途上国に放置されたことに起因する環境汚染が生じ、健康被害や環境破壊 が進んでいたことに対して、開発途上国より、持込みを禁止する要望が出てきていたこと も挙げられる。 これらの事件が発生した過程において、輸出国・通過国・輸入国が互いに何等の事前の 連絡・協議なしに有害廃棄物が国境を越えて移動していること、かつ最終的な責任の所在 も不明確であるという問題が明らかとなった。 これに対応するため開発途上国は、有害廃棄物の国境を越える移動を前面禁止するよう に求めた 3 が、先進国側は適切な処理能力・技術のある国へのリサイクル等のための移動ま でを禁止することは環境上最善ではないと反対し調整を行っていた。 その最中の1987年6月にイタリアの企業がナイジェリアに PCB を含む有害廃棄物を 投棄したココ事件の発覚を切っ掛けに検討作業が促進され、迅速に条約を採択する方向で 調整が図られた。 OECD 及び UNEP で検討が行われた後、1989年3月、スイスのバーゼルにおいて、国 境を越える移動の全面禁止ではなく、「事前の通告と・同意」(PIC)を基本とする一定の廃 棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した「有害廃 棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が作成された。 その後 20 カ国以上の批准が進み、1992年5月5日に条約として効力が発生した。 我が国は従来から、リサイクル可能な廃棄物を資源として輸出入しており、1993年 9月17日に同条約への加入書を寄託し、同年12月16日に我が国について効力を生じ た。 1 セベソ事件: 1976 年イタリアの化学工場の爆発事故で発生したダイオキシンにより汚染された土壌 1982 年にフランスで発見された事件。 2 米国船キアン・シー号が 1986 年ダイオキシン、重金属等を含む焼却灰を科学肥料と偽りハイチに 散布した事件 3 1988 OAU閣僚理事会決議ではアフリカへの産業廃棄物および核廃棄物の投棄は犯罪であるとした。

第2章 バーゼル条約の概要 1.バーゼル条約の目的 - METI...他方、1980年代に入り、先進国内では廃棄物に対する規制の強化を受けて、廃棄物

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 第2章 バーゼル条約の概要

    1.バーゼル条約の目的

    (1)条約締結に至る背景

    1987年6月、国連環境計画(UNEP)管理理事会が、有害廃棄物の国境を越える移動に

    対する国際的な規制のための作業部会の設置を求めた。

    この背景として、それまでに発生したセベソ事件1を受けて、経済協力開発機構(OECD)

    が1985年に、有害廃棄物の国境を越える移動を管理することを決定し、国際協定の準

    備を始めていたことが挙げられる。

    他方、1980年代に入り、先進国内では廃棄物に対する規制の強化を受けて、廃棄物

    処理コストが上昇し、結果として、法的な環境が未整備で廃棄物を安価に投棄できる開発

    途上国に持ち出す傾向が増していた。キアン・シー号事件2などを含め、欧米の先進国から

    の廃棄物が開発途上国に放置されたことに起因する環境汚染が生じ、健康被害や環境破壊

    が進んでいたことに対して、開発途上国より、持込みを禁止する要望が出てきていたこと

    も挙げられる。

    これらの事件が発生した過程において、輸出国・通過国・輸入国が互いに何等の事前の

    連絡・協議なしに有害廃棄物が国境を越えて移動していること、かつ最終的な責任の所在

    も不明確であるという問題が明らかとなった。

    これに対応するため開発途上国は、有害廃棄物の国境を越える移動を前面禁止するよう

    に求めた3が、先進国側は適切な処理能力・技術のある国へのリサイクル等のための移動ま

    でを禁止することは環境上最善ではないと反対し調整を行っていた。

    その最中の1987年6月にイタリアの企業がナイジェリアに PCB を含む有害廃棄物を

    投棄したココ事件の発覚を切っ掛けに検討作業が促進され、迅速に条約を採択する方向で

    調整が図られた。

    OECD 及び UNEP で検討が行われた後、1989年3月、スイスのバーゼルにおいて、国

    境を越える移動の全面禁止ではなく、「事前の通告と・同意」(PIC)を基本とする一定の廃

    棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した「有害廃

    棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が作成された。

    その後 20 カ国以上の批准が進み、1992年5月5日に条約として効力が発生した。

    我が国は従来から、リサイクル可能な廃棄物を資源として輸出入しており、1993年

    9月17日に同条約への加入書を寄託し、同年12月16日に我が国について効力を生じ

    た。

    1 セベソ事件:1976年イタリアの化学工場の爆発事故で発生したダイオキシンにより汚染された土壌が 1982年にフランスで発見された事件。 2 米国船キアン・シー号が 1986年ダイオキシン、重金属等を含む焼却灰を科学肥料と偽りハイチに散布した事件 3 1988年OAU閣僚理事会決議ではアフリカへの産業廃棄物および核廃棄物の投棄は犯罪であるとした。

    4

  • (2)条約の目的

    上記のように、欧米先進国からの廃棄物が開発途上国に放置されて環境汚染が生じ、健

    康被害や環境の破壊が進んでいることに対し、開発途上国より出てきたこのような移動を

    禁止する意見・要望と、適切な処理能力・技術のある国へのリサイクル等のための移動ま

    でを禁止することは環境上最善ではないと先進国の意見との合意により締結された背景か

    ら、この条約は以下のような目的をもった。

    1)有害廃棄物の国境を越える移動により発生する人の健康や環境に及ぼす危険性

    を排除するため

    ・有害廃棄物の国境を越える移動により発生する人の健康や環境に及ぼす危険性

    に鑑み、その発生量の増加及び一層の複雑化による人の健康および環境に対す

    る脅威の増大を抑えるため、最も効果的な方法として発生を量及び有害性の両

    面から最小限度とすること。

    ・そのために諸国が、有害廃棄物及び他の廃棄物の処理を人の健康及び環境の保

    護に適合させ、必要な措置をとるために、運搬及び処分に関する義務を明らか

    にし、搬入又は処分をおこなうことの許可や禁止を決定する主権的な行動をと

    ること。

    ・環境上適正かつ効率的な処理と両立する限り、発生した国において処分するこ

    とを求め、発生した国から他の国への国境を越える移動は、人の健康及び環境

    を害することのない条件でのみ許可されこと。

    2)発展途上国の利益を確保するため

    ・特に有害廃棄物及び他の廃棄物を処理する開発途上国の能力に限界があること

    を考慮し、発展途上国においておこなうことを禁止するなど移動の規制を強化

    することで有害廃棄物の拡散防止と適切な処理を確保すること。

    ・人間環境の保護及び自然資源の保全に関する倫理的規範として採択された世界

    自然憲章の精神、原則、目的及び機能に留意し、廃棄物の国境を越える不法な

    取引を禁止し、重大な違反があった場合には、条約に関する関連国際法が適用

    されるなど、有害廃棄物及び他の廃棄物を厳重に規制することで可能な限りそ

    のような移動を最小限度とすること。

    3)新たな低減技術や再利用技術等の開発や実施により更に危険性を削減するため

    ・環境上適正な廃棄物低減技術、再生利用の方法並びに良好な管理及び処理の体

    制の開発及び実施を行ない、適当な情報交換及び規制を行うための措置をとり、

    開発途上国に対する技術移転を促進することで、有害廃棄物及び他の廃棄物の

    発生を最小限度とし、そのような移動を最小限度とすること。

    以上のような目標を達成するため、有害廃棄物及び他の廃棄物の発生者および発生国が

    これら廃棄物の国境を越える移動における運搬および処分に関する義務を、人の健康及び

    環境の保護に適合する方法で履行すること求めることを規定した。

    5

  • (3)条約の締約国

    現在の締約国は、167 カ国と 1 地域(EU)の 168 である。締約国の一覧を添付資料 21 に

    示す。

    国連加盟国で、バーゼル条約の非締約国は、表2-1に示す 25 カ国であり、アジア諸

    国では、北朝鮮、ラオス、ミャンマー及び太平洋諸国である。逆に、バーゼル締約国(地

    域)で国連非加盟は 1 国と、1 地域(クック諸島、EU)である。

    表 2-1 国連加盟国でバーゼル条約の非締約国 (2006年10月1日現在)

    番号 国名(和) 国名(英) 国連加盟時期

    1 アンゴラ Angola 1976 年 12 月 1 日

    2 コンゴ共和国 Congo 1960 年 9 月 20 日

    3 朝鮮民主主義人民共和国 Democratic People's Republic of Korea 1991 年 9 月 17 日

    4 フィジ- Fiji 1970 年 10 月 13 日

    5 ガボン Gabon 1960 年 9 月 20 日

    6 グレナダ Grenada 1974 年 9 月 17 日

    7 イラク Iraq 1945 年 12 月 21 日

    8 ラオス人民民主共和国 Lao People's Democratic Republic 1955 年 12 月 14 日

    9 ミャンマー Myanmar 1948 年 4 月 19 日

    10 パラオ Palau 1994 年 12 月 15 日

    11 サンマリノ San Marino 1992 年 3 月 2 日

    12 サントメ・プリンシペ Sao Tome and Principe 1975 年 9 月 16 日

    13 シエラレオネ Sierra Leone 1961 年 9 月 27 日

    14 ソロモン諸島 Solomon Islands 1978 年 9 月 19 日

    15 ソマリア Somalia 1960 年 9 月 20 日

    16 スリナム Suriname 1975 年 12 月 4 日

    17 タジキスタン Tajikistan 1992 年 3 月 2 日

    18 東ティモール The Democratic Republic of Timor-Leste 2002 年 9 月 27 日

    19 トンガ Tonga 1999 年 9 月 14 日

    20 ツバル Tuvalu 2000 年 9 月 5 日

    21 バヌアツ Vanuatu 1981 年 9 月 15 日

    22 ジンバブエ Zimbabwe 1980 年 8 月 25 日

    23 アフガニスタン Afghanistan 1946 年 11 月 19 日

    24 ハイチ Haiti 1945 年 10 月 24 日

    25 米国 United States of America 1945 年 10 月 24 日 注記:23,24,25 は条約に調印しているが国内で批准されていない。 アルファベット順

    出典:バーゼル条約事務局、国連事務局ホームページを基に神鋼リサーチ作成

    6

  • 2.バーゼル条約の内容

    (1)条約の主な規定

    条約は、前文、本文 29 カ条、末文及び9つの附属書(ただし、附属書Ⅶについては未

    発効)からなり、その主たる規定は次の通りである。

    1)有害廃棄物及びその他の廃棄物の輸出には、輸入国の書面による同意を要する(第 4

    条 2 項、第 6 条 1 項~3 項)。

    ・輸出国は、書面により、その権限のある当局を通じ、有害廃棄物及びその他の廃

    棄物の国境を越える移動の計画を輸入国および通過国の権限のある当局に対し

    通告し、これら関係国の権限のある当局は書面により当該移動につき条件付若し

    くは無条件で同意し、あるいは許可を拒否し、又は追加的な情報を要求する(第

    6 条 1 項、2 項)。

    ・有害廃棄物及びその他の廃棄物が環境上適正な方法で処理されないと信ずるに足

    りる理由のある場合には、輸入を禁止する(第 4 条 2 項(g))。

    ・輸出国は輸入国の書面による同意を得ていること、かつ廃棄物について環境上適

    正な処理がされることを明記した輸出者と処分者の間の契約につき輸入国から

    確認を得ていることを書面により確認するまでは国境を越える移動を開始する

    ことを許可してはならない(第 6 条 3 項)。

    2)有害廃棄物及びその他の廃棄物の輸出は次の要件が整うときにのみ許される(第 4 条

    9 項)。

    ・締約国は、廃棄物の国境を越える移動は輸出国が当該廃棄物を環境上適正かつ効

    率的な方法で処理するための技術上の能力および必要な施設、処分能力又は適当

    な処分場を有しない場合、

    ・当該廃棄物が輸入国において再生利用産業又は回収産業のための原材料として必

    要とされている場合、

    ・当該移動が締約国全体として決定する他の基準に従って行われる場合に限り許可

    されることを確保するための適当な措置をとる(第 4 条 9 項)。

    3)有害廃棄物及びその他の廃棄物の発生国がその責任を負う(第 4 条 2 項、10 項、第 8

    条、第 9 条 2 項)

    ・締約国は、国内における有害廃棄物及びその他の廃棄物の発生を最小限に抑え、

    これら廃棄物の環境上適正な処分のため、可能な限り国内の処分施設が利用でき

    るようにすることを確保する(第 4 条 2 項(a)及び(b))。

    ・有害廃棄物及びその他の廃棄物を発生させた国がこれら廃棄物を環境上適正な方

    法で処理をする義務を負い、如何なる状況においてもこの義務を輸入国、通過国

    に移転してはならない(第 4 条 10 項)。

    ・これら廃棄物の国境を越える移動が契約通りに完了することができない場合、輸

    出国は、当該廃棄物の引き取りを含む適当な措置をとる(第 8 条)

  • ・これら廃棄物の国境を越える移動が輸出者又は発生者の行為の結果として不法取

    引となる場合には、輸出国は、当該廃棄物の引取を含む適当な措置をとる(第 9

    条 2)

    4)廃棄物の国境を越える移動はバーゼル条約締約国間でのみ許可され、非締約国との間

    の移動を二国間・多数国間・地域協定を結んだ例外を除き禁止する(第 4 条 5 項、第

    11 条)。

    ・非締約国との廃棄物の輸出入を原則禁止とする(第 4 条 5 項)。

    ・条約の趣旨に反しない限り、非締約国との間でも、廃棄物の国境を越える移動に

    関する二国間または多数国間の取決めを結ぶことができる(第 11 条)。

    5)廃棄物の南極地域への輸出を禁止する(第 4 条 6 項)。

    6)締約国は、廃棄物の処理を環境上適正な方法で行うため、主として開発途上国に対し

    て、技術上その他の国際協力を行う(第 10 条)。

    (2)条約の規制対象となる廃棄物

    この条約では規制の対象を「有害廃棄物」と「他の廃棄物」に分け、それぞれ以下のよう

    に規定している。また、他の国際的な条約等に従うための除外事項も設けている。

    1) この条約の適用上、次の廃棄物であって国境を越える移動の対象となるものは、「有害

    廃棄物」とする。

    (A) 付属書Ⅰ(規制する廃棄物の分類)に掲げるいずれかの分類に属する廃棄物であっ

    て、附属書Ⅲ(有害な特性の表)に掲げるいずれの特性も有しないものを除くもの。

    (a) 但し、この条約の、並びに(b)、(c)及び(d)の規定に従うことを条件として、附

    属書Ⅷに掲げる廃棄物は、この条約第一条1(a)の規定に従い有害な特性を有する

    ものとし、及び附属書Ⅸに掲げる廃棄物は、この条約第一条1(a)の規定の適用を

    受けない。

    (b) 附属書Ⅷに掲げる廃棄物への指定は、特別の場合には、当該廃棄物がこの条約

    第一条1(a)の規定に従い有害でないことを証明するために附属書Ⅲを利用する

    ことを排除しない。

    (c) 附属書Ⅸに掲げる廃棄物への指定は、特別の場合において、当該廃棄物が附属書Ⅲの特性を示す程度に附属書Ⅰの物を含むときは、この条約第一条1(a)の規

    定に従い、当該廃棄物が有害な特性を有するものであるとすることを排除しな

    い。

    (d) 附属書Ⅷ及び附属書Ⅸは、廃棄物の特性を明らかにすることを目的とするこの条約第一条1(a)の規定の適用に影響を及ぼすものではない。

    (B) (A)に規定する廃棄物には該当しないが、輸出国、輸入国又は通過国である締約国の

    国内法令により有害であると定義され又は認められている廃棄物

  • 規制対象の「有害廃棄物」の範囲を図2-1に示す。

    (A)付属書Ⅰに掲げる廃棄物であって付属書Ⅲのいずれかの特性を有する物

    規制対象

    付属書Ⅲ 有害特性

    付属書Ⅰ 有害物質

    対象外 対象外

    附属書Ⅷは原則対象 付属書Ⅸは原則対象外 適用を容易にするため

    発生経路18種 含有成分27種

    爆発性、 酸化性 毒性等

    (B) 輸出国、

    輸入国又

    は通過国

    である締

    約国の国

    内法令に

    より有害

    であると

    定義され

    又は認め

    られてい

    る廃棄物

    バーゼル条約規制対象の「有害廃棄物」

    出典:神鋼リサーチ作成

    図 2-1 バーゼル規制対象「有害廃棄物」

    2) この条約の適用上、附属書Ⅱ(特別の考慮を必要とする廃棄物の分類)に掲げるいずれ

    かの分類に属する廃棄物であって国境を越える移動の対象となるものは、「他の廃棄物」

    とする。

    3) 放射能を有することにより、特に放射性物質について適用される国際文書による規制を

    含む他の国際的な規制の制度の対象となる廃棄物は、この条約の適用範囲から除外する。

    4) 船舶の通常の運航から生ずる廃棄物であってその排出について他の国際文書の適用が

    あるものは、この条約の適用範囲から除外する。

    以上のように条約の規制対象となる廃棄物を定めている。

  • (3)バーゼル条約の二国間・多数国間・地域協定

    バーゼル条約第4条5項により、非締約国との間での廃棄物の国境を越える輸送は禁止

    されているが、第 11 条において条約の趣旨に反しない限り、締約国と非締約国との間でも、

    廃棄物の国境を越える移動に関する二国間または多数国間の取決めを結ぶことができると

    されている。

    二国間協定は、これまでに 42 件がバーゼル事務局に報告されている。このうち2006

    年6月現在も存在するものは 13 件であり、2002年5月時点の 24 件からは減少してい

    る。また、現状存在する地域協定は4件(内1件は未発効)、多数国間協定は1件である。

    現在も存在している二国間協定および地域協定、多数国間協定を表2-2に示す。

    表2-2 現在存続している二国間、多数国間協定、及び地域協定 (2006/6/19 現在) 資料

    No. 形

    態 通報国 協定国 締結日 趣旨

    1 ドイツ アフガニスタン 2002/11/ 9

    ドイツへのアフガニスタンからの有害廃棄物の

    輸入

    2 ドイツ コソボ派遣隊 2000/ 2/15 コソボからの環境に問題のある廃棄物の輸出

    3 ドイツ ジンバブエ 1994/ 5/31 ドイツへのジンバブエからの廃棄物の輸入

    4 カナダ アメリカ合衆国 1986/10/28 再生および処分のための有害廃棄物の輸出入

    5 1986/11/12 有害廃棄物の輸出入

    6 メキシコ アメリカ合衆国

    2003/ 4/ 4 廃棄物のマニフェストシステム

    7 コスタリカ アメリカ合衆国 1997/ 9/30 コスタリカからアメリカへの有害廃棄物の輸出

    8 マレーシア アメリカ合衆国 1995/ 3/10 マレーシアから米国への有害廃棄物の輸出

    9 フィリピン アメリカ合衆国 2001 9/20 フィリピンから米国への有害廃棄物の輸出

    10 オーストラリア 東チモ-ル 2002/11/ 4 有害廃棄物の国境を越える移動

    11 ミクロネシア連邦 オーストラリア 2004/ 8/30 オーストラリアへのミクロネシアからの POPs の輸入

    12 オランダ 蘭領アンテレス 2005/ 8/25 有害廃棄物の国境を越える移動

    13 イタリア サンマリノ 2000/ 9/21

    イタリアへのサンマリノからの環境保全のための廃棄物の

    輸入

    14

    ウクライナ ロシア連邦 1997/ 5/28 水銀含有廃棄物に関する協力

    15 クエート協定(クエート地域) 参加 8 カ国

    1978/ 4/24原油を中心とした海洋環境汚染防止についての

    協力

    16 イズミル議定書(地中海地域) 参加 21 カ国(内 4 カ国が批准)

    1996/10/ 1

    未発効

    地中海の汚染防止のため有害廃棄物の国境を越

    える移動の管理

    17 ワイガニ協定(南太平洋地域)

    参加 14 カ国 1995/ 9/16

    南太平洋の有害廃棄物と放射性廃棄物の輸入の

    禁止と、域内における有害廃棄物の国境を越える

    移動および処理の管理

    18

    バマコ協定(アフリカ地域)

    参加 51 カ国 1991/ 1/30

    外部からアフリカへの輸入の禁止と、

    アフリカ内における有害廃棄物の輸出入

    19 多 数

    OECD (C(2001)107/Final)

    参加 30 カ国 2001/ 6/14

    再生利用のための輸出入管理

    出典:バーゼル条約事務局ホームページを基に神鋼リサーチ作成

  • 3.協定に係る規定と視点

    本項では、条約の各条文に関して、第 11 条に基づく協定を考える上で留意すべき視点を

    条文に沿って記した。

    (1)前文

    “前文”は、条約の制定趣旨、理念、目的などを強調して述べたものであり、前文自体

    は具体的な規範を定めてはいない。しかし、前文は各条文の解釈の基準となるものであり、

    内容は締約国の認識を確認するものとなっている。

    具体的には、締約国は、有害廃棄物及び他の廃棄物(以下、廃棄物)の越境移動による

    人の健康や環境への危険性、廃棄物の発生量の増加や複雑化、発生量の最小限度の必要性、

    廃棄物発生者の義務、自国内への廃棄物の搬入や処分に対する主権的権利、自国内処理の

    原則などを認識しているものとしている。さらに締約国が、越境移動が人の健康や環境を

    害さない条件や条約の規定に従う条件で行われるものであるならば許可されるべきである

    ことを認識していること、また廃棄物の越境移動が運搬や最終的な処分(処分 disposal

    は附属書Ⅳで定義;埋立等のほかにエネルギー回収、リサイクル等の作業も含まれている)

    が環境上適正であるならば許可されるべきであることを確信していることが述べられてい

    る。

    協定においては、これらの条約の趣旨や理念を尊重し、締約国と同様の認識を示すこと

    が重要と考えられる。

    (2)条文

    本調査において重要と考えられるものに関して整理した。

    第 1 条 条約の適用範囲

    越境移動の対象廃棄物は、バーゼ

    ル条約の適用を受け、「有害廃棄物」

    と「他の廃棄物」に分けている。当

    初、有害廃棄物は附属書(ⅠとⅢ)

    にて、他の廃棄物は附属書Ⅱにて定

    めていたが、1998年の第 4 回締

    約国会議では、附属書Ⅰに附属書を

    追加する形をとり、新たに附属書Ⅷ

    にて有害廃棄物を原則規制対象とし

    て追加するとともに、附属書Ⅸでは

    原則非対象としている。附属書Ⅷと

    Ⅸは附属書Ⅰの中に含まれる形にな

    っている。

    協定においても、対象とする廃棄

    物を附属書の形とすることができ

    る。

  • 第 2 条 定義

    21 項目が定義されている。その中で協定に関わる主なものを次に挙げた。協定にお

    いては、定義は基本的にバーゼル条約と同様なものが必要と考えられる。

    -廃棄物 wastes:処分がされ、処分が意図され又は国内法の規定により処分が義務

    付けられている物質又は物体(同条 1)。

    -処理 management:廃棄物の収集 collection、運搬 transport 及び処分 disposal

    をいい、処分場所の事後の管理を含む(同条 2)。

    -処分 disposal:附属書Ⅳに掲げる作業(同条 4)。

    附属書Ⅳ処分作業は、A表とB表からなる。

    A表:埋立や海上投棄などが含まれている、B表:エネルギー回収、リサイクル作業

    -環境上適正な処理 environmentally sound management:廃棄物から生ずる悪影響

    から人の健康や環境を保護するような方法でこれらの廃棄物が処理されることを

    確保するために実行可能なあらゆる措置をとること(同条 8)。

    実行可能な措置が取れないならば環境上適正な処理とはいえない。しかし、“実行可

    能な practicable”には、技術的側面だけでなく経済的な側面も考慮すべきであり、

    同時に作業環境の面についても配慮することが必要と考えられる。

    “環境上適正な処理”の技術上の具体的な指針は、第 1 回締約国会合において決定

    すると規定され(第 4 条 8)、第1回締約国会合の決定(DecisionⅠ/19)にて暫定的技術

    ガイドラインが定められ、以後 20 以上のガイドラインが検討されている。

    一方で、“環境上適正な処理”の規準内容は曖昧であるとの指摘がある。実行可能な

    措置の内容は、各当事国の判断により多様である(臼杵知史「有害廃棄物の越境移動とその

    処分の規制に関する条約(1989 年バーゼル条約)について」国際法外交雑誌 91 巻 3 号 79 頁)との指

    摘もある。なお、バーゼル条約では、実際の処理がこの要件を満たしているか否かを

    判断するための最終的なルールを規定していない。

    協定においては、少なくとも我が国で有害廃棄物を処理する場合は、OECD 理事会決

    定と同じように環境上適正な処理が担保されるものであり、我が国のこれまで培われ

    てきた環境技術・再生技術を活用することが、環境上適正な処理を担保するうえで不

    可欠であると考えられる。

    第 4 条 一般的義務

    (輸入禁止の行使)

    輸入を禁止したい締約国は、第 13 条(情報の送付)の規定に従って、他の締約国に通

    報する(同条 1)ことになっており、輸入を禁止する権利が締約国に認められている。

    通報を受けた他の締約国は、輸入禁止国への廃棄物の輸出を禁止する義務がある(同条

    1(b))。従って、二国間等の協定は、この権利を行使していない場合にのみ可能となる

    が、我が国が有害廃棄物を受け入れる場合ではこの点については配慮する必要がない。

    輸入する国が輸入を禁止していないものの、輸入を書面により同意しないときは、

    締約国は輸出を許可しないか禁止する(同条 1(c))。対象廃棄物の輸出には、輸入国の

  • 書面による同意が必要となる(第 6 条 1~3)。

    (締約国の義務(同条 2))

    締約国の次の義務が掲げられており、協定においても当事国はこの義務を遵守する

    必要がある。

    -国内における廃棄物の発生を最小限度とすることを確保する(同条 2(a))。

    -環境上適正な処理のため、可能な限り国内にある適当な処分施設が利用できるよ

    うにすることを確保する(同条 2(b))。国内の処理者が、廃棄物による汚染を防止

    するために、必要な措置をとることを確保する(同条 2(c))。

    -越境移動が環境上適正かつ効率的な処理に適合するような方法で最小限度とされ、

    かつ環境を保護する方法で行われることを確保する(同条 2(d))。

    -開発途上国への輸出は、開発途上国が輸入を禁止した場合、また環境上適正な方

    法で処理されない(第 1 回締約国会合で決定される基準に合わない)と信ずるに

    足りる理由がある場合には許可しない(同条 2(e))。

    -移動に関する情報を附属書ⅤA に従って関係国に提供(同条 2(f))。

    -環境上適正に処理されない理由がある場合に輸入を禁止する(同条 2(g))。

    (非締約国との輸出入の禁止)

    条約は、締約国と非締約国間の輸出入を禁止している(同条 5)が、締約国間の輸出

    入を禁止してはいない。

    (移動の形態)

    -許可業者による運搬・処分(同条 7(a))。

    -こん包、表示、運搬の国際基準適合性(同条 7(b))。

    -移動開始地点から処分地点までの移動書類の添付(同条 7(b))。

    (環境上適正な処理の義務)

    締約国は、廃棄物が輸入国又は他の場所で環境上適正な方法で処理されることを義

    務付ける。処理技術上の指針は、締約国第1回会合で決定する(同条 8)。

    (移動が許可される場合)

    締約国は、次のいずれかの場合に限って移動が許可されるように措置をとること

    が求められている。すなわち、移動が許可される要件がある。たとえ、我が国が廃棄

    物を発生国から受け入れる場合であっても、移動が許可される要件を満たすことが求

    められる。

    -輸出国の処分能力の欠如(同条 9(a))

    -輸入国が再生用原材料として必要としている場合(同条 9(b))

    -移動が締約国全体として決定する他の基準による場合(同条 9(c))

    第 6 条 締約国間の国境を越える移動

    (一般的な移動)

    移動には、次のように書面による事前通告、書面による輸入国・通過国の同意が必

    要となる。バーゼル条約では輸入国の回答には期限が設けられていないが、通過国の

    回答には 60 日以内にすることが定められている。

    協定においても、書面による事前通告・同意が求められるが、一方で輸入国の回答

  • に期限を設けることも必要であろう。

    輸出国:書面により、移動の計画を関係国に通告する。通告は、権限のある当局

    の経路か、又は発生者か輸出者に通告させる。通告の内容は、附属書Ⅴ

    Aに掲げられた申告・情報を含む(同条 1)。

    輸入国:通告者に対し、書面により条件付若しくは無条件で同意し、移動に関す

    る許可を拒否し又は追加的な情報を要求する旨の回答をする。最終的な

    回答の写しは、締約国である関係国の権限ある当局に送付する(同条 2)。

    通告した者への回答の期限は、限定されていない。

    輸出国:次の事項を書面により、確認するまでは、移動の開始を許可してはなら

    ない(同条 3)。

    -通告者が輸入国の書面により同意を得ている(同条 3(a))。

    -通告者が環境上適正な処理がなされることを明記する輸出者と処分者

    との間の契約の存在につき、輸入国から確認を得ている(同条 3(b))。

    当該通過国の書面による同意を得るまでは、移動の開始を許可しない(同

    条 4)。

    通過国:通告者に対し通告の受領を確認する。通告者に対し、60 日以内に、条件

    付若しくは無条件で同意し、移動に関する許可を拒否し又は追加的な情

    報を要求する旨を書面により、回答する。(同条 4)ただし、締約国が通

    過に対し、書面による事前の同意を一般的に若しくは特定の条件の下に

    おいて義務付けないことを決定し、又は事前の同意に係る要件を変更す

    る場合には、当該締約国は、第 13 条(情報の送付)の規定に従い、他の

    締約国に直ちにその旨を通報する。(同条 4)事前の同意を義務付けない

    場合において、通過国が通告を受領した日から 60 日以内に輸出国が通過

    国の回答を受領しないときは、輸出国は、輸出を許可できる(同条 4)。

    輸出国と輸入国間の二国間協定では、通過国の手続きを規定することができな

    い。通過国がある場合の通過国の手続きはバーゼル条約に従うことになるが、こ

    の手続きを回避する方法としては、通過国がない越境移動に限る協定にすること

    である。

    (包括的な通告及び同意)

    同一出国税関、同一輸入税関を経由して、並びに通過時には通過国の同一の入国税

    関・出国税関を経由して、同一の処分者に定期的に運搬される場合には、関係国の書

    面による同意を条件として、輸出国は発生者又は輸出者が包括的な通告を許可できる

    (同条 6)。関係国は、廃棄物に関する一定の情報が提供されることを条件として、包

    括的な通告を行うことにつき書面により同意することができる(同条 7)。包括的な通

    告及び書面による同意は、最長 12 ヶ月の期間における 2 回以上の運搬に適用すること

    ができる(同条 8)。

    協定においても、包括的な通告・同意が行えるような仕組みが可能である。

    (移動における署名、廃棄物受領・処分完了の通報)

    締約国は、移動の責任者が廃棄物の引渡し又は受領の際に移動書類に署名すること

    を義務付ける(同条 9)。処分者が輸出者及び輸出国の当局の双方に対し、廃棄物を受

  • 領したことを通報し及び処分が完了したことを相当な期間内に通報することを義務付

    ける(同条 9)。これらの通報が輸出国で受領されない場合には、輸出国の当局又は輸

    出者は、その旨を輸入国に通報する(同条 9)。

    協定においても、通報の仕組みを設けることは、管理上でも必要と考えられる。

    (通告・回答の非締約国への送付)

    第 9 条(不法取引)の通告・回答は、関係締約国の当局又は非締約国の適当と認める政

    府当局に送付する(同条 10)。

    (移動の担保)

    輸入国又は通過国が義務づけることできる保険、供託金その他の保証によって担保

    する(同条 11)。

    第 8 条 再輸入の義務

    移動が契約に従って完了できない場合、廃棄物が環境上適正な方法で処分されるた

    めの代替措置をとることができないときは、輸出国は輸出者が廃棄物を引き取ること

    を確保する規定であり、協定においても、再輸入の義務に関する規定は必要である。

    第 9 条 不法取引

    協定において、その取り決めに従わない取引は、バーゼル条約に違反することにな

    ると考えられるが、責任を明確にする上でも、不法取引に関する項目が必要であろう。

    (不法取引の認定)

    通告が関係国に行われていない移動(同条 1(a))、関係国から同意が得られていない

    移動(同条 1(b))、関係国の同意が偽造、虚偽の表示又は詐欺による移動(同条 1(c))、

    書類と重要な事項が一致していない移動(同条 1(d))、廃棄物を故意に処分することと

    なる移動(同条 1(e))は、不法取引とする(同条 1)。

    (輸出側の責任)

    輸出者又は発生者の行為の結果として不法取引となる場合、輸出国は輸出国に通報

    された時から 30 日以内又は関係国が合意する他の期間内に、当該有害廃棄物又は他の

    廃棄物に関し、自国に引き取るか、引き取りが実際的でなければの条約の規定に従っ

    て処分されることを確保する(同条 2)。

    (輸入側の責任) 輸入者又は処分者の行為と結果として不法取引となる場合、輸入国は不法取引を知

    るに至った時から 30 日以内又は関係国が合意する他の期間内に、輸入者若しくは処分者又は輸入国が環境上適正な方法で処分することを確保する(同条 3)。このため、関係締約国は協力する(同条 3)。

    (責任者不明)

    関係締約国又は適当なときは他の締約国は、輸出国もしくは輸入国又は適当な他の

    場所において、環境上適正な方法で処分することを確保する(同条 4)。

    (国内法の制定)

    締約国は、適当な国内法令を制定する(同条 5)。

  • 第 11 条 二国間の、多数国間の及び地域的な協定

    条約は、締約国と非締約国間の輸出入を許可していないが、協定を締結することに

    より輸出入が可能となる。協定を締結した場合、バーゼル条約が義務付ける廃棄物の

    “環境上適正な処理(environmentally sound management)”と両立する限り、移動は

    バーゼル条約の対象とはならない。

    事務局に協定の認定権があるのか明瞭ではないとの指摘がある(臼杵知史「有害廃棄物

    の越境移動とその処分の規制に関する条約(1989 年バーゼル条約)について」国際法外交雑誌 91 巻 3 号

    75(329)頁)が、この点については、第3章で詳述する。他方、事務局に通知された協定

    は、OEAHC(Open-Ended Ad Hoc 委員会)が第 11 条適合性を審査し、審査結果は締約国

    会合に報告される(第 1 回締約国会合決定(Decision I/9))。

    なお、第 11 条 2 により、非締約国を含めて協定を結ぶことによってバーゼル条約の

    適用を除外する形となるため、第 4 条 5 に例外規定が設けられたとの解釈も可能であ

    る。それゆえに、同条の挿入には起草過程で大きな反対があった。

    規定の趣旨としては、第一に OECD 理事会決定を念頭に置いた規定であり、先進国間

    ではより簡易な手続きで有害廃棄物の取引が行える余地を確保したものであるとの指

    摘がある(松隈潤「環境関係条約としてのバーゼル条約について」法学論集(西南学院大学)27 巻 2

    号 86~87 頁(1994 年)、松隈潤「有害廃棄物の越境移動問題に対する国際協力-バーゼル条約第 5 回締約

    国会議の課題と展望-」法学論集(西南学院大学)32 巻 2・3 合併号 136 頁(2000 年))。

    第二に、必要な場合には、バーゼル条約より、さらに厳しい条約が認められる。従

    って、全面的な輸入禁止もバーゼル条約の枠内で可能である(C.Russell H. Shearer,

    Comparative Analysis of The Basel and Bamako Conventions on Hazardous Waste, 23 EnVtl. L.

    141(1993))。バマコ条約(アフリカへの有害廃棄物の輸入禁止及びアフリカ内の有害廃

    棄物の越境移動・管理の規制を目的とする)は、有害廃棄物の輸入禁止(第 4 条 1)

    を規定している。

    第 12 条 損害賠償責任に関する協議

    協定においても、損害賠償に関する規定は必要と考えられる。

    第 15 条 締約国会議

    協定に関するものとして、“この条約の実施並びに第 11 条に規定する協定及び取決

    めの実施から得られる経験に照らして、この条約の目的の達成のために必要な追加的

    行動を検討し及びとること”(同条 5(c))と規定されており、締約国会議の動向に留

    意する必要がある。

    第 16 条 事務局

    本条は、本調査の調査項目(2)バーゼル条約事務局の条約第11条についての考

    え方・運用方針に関する項目を検討する上で重要な条文である。

    条文では事務局の任務が次のように規定されている。会議の準備や調整、情報提供、

    報告書作成、連絡、伝達、情報収集等であり、事務局が協定についてなんらかの判断

  • をする規定は明記されていない。ただし、締約国会議の決定があれば、条約の目的に

    関係する他の任務を遂行することができると定められている。

    ・締約国会議、条約改正の会議の準備、会合のための役務提供(同条 1(a))

    ・第 3 条、第 4 条、第 6 条、第 11 条、第 13 条により受領した情報、締約国会

    議からの情報、関連政府間機関・非政府機関からの情報に基づく報告書作成・

    送付(同条 1(b))

    ・条約に基づく任務遂行活動報告書の作成と締約国への提供(同条 1(c))

    ・他の関係国際団体との必要な調整、特に任務遂行を効果的にするために必要

    な事務的な及び契約上の取決め(同条 1(d))

    ・中央連絡先及び権限のある当局との間の連絡(同条 1(e))

    ・処分場所/施設に関する情報収集とその情報の締約国への送付(同条 1(f))

    ・要請に応じ、締約国を援助するため、次の情報を締約国から受領し、締約国

    に伝達すること(同条 1(g))

    -技術援助及び訓練の提供元

    -利用可能な技術上及び科学上のノウハウ

    -助言及び専門的知識の提供元

    -資源の利用可能性

    援助の対象は

    -条約の通告制度の運用

    -廃棄物の処理

    -廃棄物に関する環境上適正な技術

    -処分能力及び処分場所の評価

    -廃棄物の監視

    -緊急事態の対応

    ・締約国からの要請に関し、通告や運搬、処分施設の審査における締約国への

    援助及びコンサルタントに関する情報提供(同条 1(h))

    ・不法取引確認のための締約国への援助、不法取引に関する情報の入手、締約

    国への提供(同条 1(i))

    ・緊急事態に対する援助と専門家・機材の提供について関係機関との協力(同

    条 1(j))

    ・締約国会議の決定に従い、他の任務を遂行すること(同条 1(k))

    第 19 条 検証

    締約国は、他の締約国の違反を事務局に通報できる。すなわち、協定であっても条

    約に違反するものであれば、他の締約国が事務局に通報できることになっている。

    第 20 条 紛争の解決

    協定においても、紛争の解決に関する規定は必要であろう。

    第2章 バーゼル条約の概要1.バーゼル条約の目的 (2)条約の目的 (3)条約の締約国

    2.バーゼル条約の内容(1)条約の主な規定(2)条約の規制対象となる廃棄物 (3)バーゼル条約の二国間・多数国間・地域協定

    3.協定に係る規定と視点(1)前文(2)条文